JP2021084154A - 被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐久性に優れる被覆切削工具を提供する。【解決手段】基材の表面に、金属(半金属を含む)元素の総量でアルミニウム(Al)の含有比率が50原子%以上、クロム(Cr)の含有比率が20原子%以上、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)の合計の含有比率が85原子%以上、ケイ素(Si)の含有比率が4原子%以上15原子%以下の窒化物又は炭窒化物である面心立方格子構造のA層と、前記A層の上に設けられるB層と、を有する被覆切削工具。B層は、金属(半金属を含む)元素の総量でTi(チタン)の含有比率が70原子%以上90原子%以下、シリコン(Si)の含有比率が5原子%以上20原子%以下、クロム(Cr)の含有比率が1原子%以上10原子%以下の窒化物又は炭窒化物であり、面心立方格子構造である。【選択図】なし

Description

本発明は、エンドミル等の被覆切削工具に関する。
AlCrSiの窒化物又は炭窒化物は、耐熱性と耐摩耗性に優れる膜種であり、被覆切削工具に適用されている。本願出願人は、特許文献1〜3において、Siの含有比率を高めて皮膜組織を微細化したAlCrSiの窒化物又は炭窒化物を提案している。特許文献1〜3に開示されている被覆切削工具の中でも、上層にTiSiの窒化物又は炭窒化物を設けた被覆切削工具は、耐摩耗性が非常に優れており、高硬度鋼の切削加工において優れた耐久性を有する。
国際公開第2015/141743号 国際公開第2014/156699号 特開2016−078131号公報
本発明者は、Si含有比率が高く皮膜組織を微細化したAlCrSiの窒化物又は炭窒化物の上にTiSiの窒化物又は炭窒化物を設けた被覆切削工具は、高硬度鋼の切削加工においてcBN工具と比べても同等以上の耐摩耗性を示す傾向にあることを確認した。但し、工具径が1mm未満、更には工具径が0.5mm未満の小径工具に適用した場合、耐久性に改善の余地があることを本発明者は確認した。
本発明の1つの態様は、基材の表面に、金属(半金属を含む)元素の総量でアルミニウム(Al)の含有比率が50原子%以上、クロム(Cr)の含有比率が20原子%以上、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)の合計の含有比率が85原子%以上、ケイ素(Si)の含有比率が4原子%以上15原子%以下の窒化物又は炭窒化物である面心立方格子構造のA層と、前記A層の上に設けられるB層と、を有する被覆切削工具である。
前記B層は、金属(半金属を含む)元素の総量でTi(チタン)の含有比率が70原子%以上90原子%以下、シリコン(Si)の含有比率が5原子%以上20原子%以下、クロム(Cr)の含有比率が1原子%以上10原子%以下の窒化物又は炭窒化物であり、面心立方格子構造である。
A層の膜厚が1.0μmよりも大きく、B層の膜厚が0.5μmよりも大きいことが好ましい。
本発明の1つの態様によれば、耐久性に優れる被覆切削工具が提供される。
上記態様では、被覆切削工具の耐久性を改善することが可能となる。よって、例えば高硬度なプリハードン鋼の加工においても、金型製作のリードタイム短縮、金型の高精度化、調質による変寸の低減効果が期待され、産業上極めて有効である。
本発明者は、皮膜組織を微細化したAlCrSiの窒化物又は炭窒化物をベースとした被覆切削工具について、上層に設けるTiSiの窒化物又は炭窒化物にCrを微量添加することで耐久性が一層向上することを見出し、発明に到達した。以下、本発明の詳細について説明する。
本発明の実施形態に係る被覆切削工具は、基材と、基材の表面に配置されたA層と、A層の上に設けられるB層とを有する。本実施形態の被覆切削工具には、必要に応じて、基材と硬質皮膜との間に配置される中間皮膜、A層とB層の間に配置される中間皮膜、B層の上層に配置される保護皮膜等の他の膜が付与されていてもよい。
A層は、AlとCrを主体とする窒化物又は炭窒化物である。AlとCrを主体とする窒化物又は炭窒化物は優れた耐摩耗性と耐熱性を有する膜種であり、被覆切削工具に適用することで耐久性を高めることができる。A層の構成材料は、より好ましくは耐熱性に優れる窒化物である。
Alは耐熱性を付与する元素である。硬質皮膜に対して、より優れた耐熱性を付与するために、A層は、金属(半金属を含む、以下同様。)元素の含有比率(原子%、以下同様。)でAlを50%以上にする。更には、A層のAlの含有比率を55%以上とすることが好ましい。一方、A層のAlの含有比率が大きくなり過ぎると、六方最密充填構造(hcp構造、以下同様。)が主体となり、被覆切削工具の耐久性が低下する傾向にある。そのため、A層のAlの含有比率を70%以下とすることが好ましい。
CrはA層の結晶構造を面心立方格子構造(fcc構造、以下同様。)とし、被覆切削工具としての耐摩耗性と耐熱性を向上させる元素である。A層のCrの含有比率が少なくなり過ぎると、耐摩耗性と耐熱性が低下するとともに、hcp構造が主体となり、被覆切削工具の耐久性が低下する傾向にある。そのため、A層のCrの含有比率は20%以上にする。更には、A層のCrの含有比率は30%以上であることが好ましい。一方、A層のCrの含有比率が大きくなり過ぎると、耐熱性が低下する傾向になる。そのため、A層のCrの含有比率を45%以下とすることが好ましい。
A層は、耐熱性および耐摩耗性を高いレベルで両立させるため、AlとCrの合計の含有比率を85%以上とする。更には、A層のAlとCrの合計の含有比率を90%以上とすることが好ましい。A層のAlとCrの合計の含有比率は、96%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましい。
Siは、AlとCrを主体とする窒化物又は炭窒化物の組織を微細化するために重要な元素である。Siを含有していないAlCrNおよびSi含有比率が小さいAlCrSiNは柱状粒子が粗大となる。このような組織形態の硬質皮膜は皮膜破壊の起点となる結晶粒界が多くなるため、被覆切削工具の逃げ面摩耗が増大する傾向にある。一方、一定量のSiを含有したAlCrSiNは組織が微細化し、例えば、電子顕微鏡による断面観察(20,000倍)において明確な柱状粒子が観察され難くなる。このような組織形態の硬質皮膜は、破壊の起点となる柱状粒界が少なくなり、被覆切削工具の逃げ面摩耗を抑制することができる。但し、A層のSiの含有比率が大きくなると非晶質およびhcp構造が主体となり易くなり、被覆切削工具の耐久性が低下する。被覆切削工具の耐久性を低下させずに皮膜組織を十分に微細化するには、A層は、Siの含有比率を4%以上15%以下とすることが重要である。更には、A層のSiの含有比率は5%以上であることが好ましい。更には、A層のSiの含有比率は10%以下であることが好ましい。
A層は、Al、Cr、Si以外の他の金属元素を含有してもよい。例えば、A層は、周期律表の4a族、5a族、6a族の元素およびB、Cu、Y、Ybから選択される1種又は2種以上の元素を含有することができる。これらの元素は、硬質皮膜の特性を改善するために、AlTiN系やAlCrN系の硬質皮膜に添加されている元素であり、含有比率が過多にならなければ被覆切削工具の耐久性を著しく低下させることはない。
但し、A層がAlとCrとSi以外の金属元素を多く含有すると、AlとCrを主体とする窒化物又は炭窒化物の基礎特性が損なわれ被覆切削工具の耐久性が低下する恐れがある。そのため、A層はAlとCrとSi以外の金属元素を含有する場合でも、それらの合計の含有比率を10%以下とすることが好ましい。更には、A層はAlとCrとSi以外の金属元素を含有する場合でも、それらの合計の含有比率を5%以下とすることが好ましい。
本実施形態の被覆切削工具は、基材とA層との間に、金属、窒化物、炭窒化物、炭化物等の中間皮膜を設けてもよい。中間皮膜を設けることで、基材と硬質皮膜との間の密着性がより改善される場合がある。また、基材の表面をメタルボンバード処理してナノレベルの改質相を形成してもよい。中間皮膜は単層でもよいし、多層であってもよい。メタルボンバード処理した後に中間皮膜を設けてもよい。
本実施形態におけるA層は、fcc構造であることが重要である。本実施形態において、fcc構造であるとは、X線回折パターン又は透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルにおいて、fcc構造に起因するピーク強度が最大強度を示すものである。hcp構造に起因する回折強度が最大強度を示す硬質皮膜は脆弱であるため、被覆切削工具として耐久性が乏しくなる。特に、湿式加工においては、耐久性が低下する傾向にある。A層は、X線回折パターンにおいて、hcp構造に起因する回折強度を有しないことが好ましい。A層は、fcc構造の中でも(200)面又は(111)面のピーク強度が最大になる皮膜組織を有することで優れた耐久性を示す傾向にあり好ましい。
A層の内部には、Siの含有比率が高く、hcp構造のAlNがミクロ組織に存在し得る。硬質皮膜のミクロ組織に存在するhcp構造のAlN量の定量化には、硬質皮膜の加工断面を観察した際、透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルを用いることができる。具体的には、透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンの強度プロファイルにおいて、Ih×100/Isの関係を評価する。
Ih=hcp構造のAlNの(010)面に起因するピーク強度
Is=fcc構造の、AlNの(111)面、CrNの(111)面、AlNの(2
00)面、CrNの(200)面、AlNの(220)面、およびCrNの(220)面
に起因するピーク強度と、hcp構造の、AlNの(010)面、AlNの(011)面
、およびAlNの(110)面に起因するピーク強度と、の合計
上記の関係を評価することで、X線回折によりhcp構造のAlNに起因するピーク強
度が確認されない硬質皮膜において、ミクロレベルで含まれるhcp構造のAlNを定量
的に評価することができる。
A層は、ミクロ組織に存在するhcp構造のAlNをより少なくして、Ih×100/Is≦25の関係を満たしていることが好ましい。Ih×100/Is≦25の関係を満たすことで、被覆切削工具の耐久性がより優れたものとなる。更には、A層は、Ih×100/Is≦20の関係を満たしていることが好ましい。
続いてB層について説明する。
B層はA層の上に配置される硬質皮膜である。B層は、耐摩耗性と耐熱性に優れる膜種であるTiSiの窒化物又は炭窒化物をベースとする。B層には、更に微量のCrが添加されている。本発明者はTiSiNの耐摩耗性を更に高めるために、第三元素の添加を検討した。そして、Si含有比率を抑制したTiSiNに対して、微量のCrを添加することで硬度が高まり、被覆切削工具の耐摩耗性が向上することを確認した。耐摩耗性が向上したメカニズムの詳細は不明であるが、CrがTiNのTiの一部に置換することで、TiとCrの原子半径差により格子に歪が生じて硬化したためと推察される。
B層のTiの含有比率が少なすぎたり多すぎたりすると耐摩耗性と耐熱性が低下する。そのため、B層は金属(半金属を含む)元素の総量でTi(チタン)の含有比率が60%以上90%以下とする。
B層のSiの含有比率が少なすぎると、皮膜組織の微細化が不十分となり硬質皮膜の耐摩耗性が低下する。また、B層のSiの含有比率が多すぎると、皮膜組織が微細になり過ぎて非晶質に近くなるために、硬質皮膜の耐摩耗性が低下する。そのため、B層は金属(半金属を含む)元素の総量でSi(シリコン)の含有比率が5%以上20%以下とする。
B層のCrの含有比率が少なすぎると硬質皮膜の耐摩耗性の改善効果が十分でない。一方、B層のCrの含有比率が多すぎると脆弱なCrの濃化相が多く析出して硬質皮膜の耐摩耗性が低下する。そのため、B層は金属(半金属を含む)元素の総量でCr(クロム)の含有比率が1%以上10%以下とする。更には、B層のCrの含有比率は2%以上であることが好ましい。更には、B層のCrの含有比率は8%以下であることが好ましい。B層のCrの含有比率は6%以下であることがより好ましい。
本発明におけるB層は、fcc構造であることが重要である。本発明において、fcc構造であるとは、X線回折パターン又は透過型電子顕微鏡の制限視野回折パターンから求められる強度プロファイルにおいて、fcc構造に起因するピーク強度が最大強度を示すものである。hcp構造に起因する回折強度が最大強度を示す硬質皮膜は脆弱であるため、被覆切削工具として耐久性が乏しくなる。特に、湿式加工においては、耐久性が低下する傾向にある。B層は、X線回折パターンにおいて、hcp構造に起因する回折強度を有しないことが好ましい。B層は、fcc構造の中でも(200)面のピーク強度が最大になる皮膜組織を有することで優れた耐久性を示す傾向にあり好ましい。
B層は、B層を構成する硬質皮膜の平均結晶粒径が5nm以上50nm以下であることが好ましい。硬質皮膜のミクロ組織が微細になり過ぎると、硬質皮膜の組織が非晶質に近くなるため、硬質皮膜の靭性及び硬度が低下する。硬質皮膜の結晶性を高めて脆弱な非晶質相を低減するには、硬質皮膜の平均結晶粒径を5nm以上とする。また、硬質皮膜のミクロ組織が粗大になり過ぎると、硬質皮膜の硬度が低下して被覆切削工具の耐久性が低下する傾向にある。硬質皮膜に高い硬度を付与して被覆切削工具の耐久性を高めるためには、硬質皮膜の平均結晶粒径を50nm以下とする。更には、硬質皮膜の平均結晶粒径は30nm以下であることが好ましい。
硬質皮膜の平均結晶粒径は、X線回折の半価幅から測定することができる。
B層はA層の直上に設けても良い。密着性をより高めるために、A層とB層の間には、A層とB層の組成を含有する積層皮膜を設けても良い。また、A層とB層の組成以外の硬質皮膜をA層とB層の間に設けても良い。B層の上には他の硬質皮膜を設けても良い。
本発明の実施形態に係る被覆切削工具は、特に、工具径が2mm以下である小径エンドミルに適用されることで、耐久性の向上効果がより一層効果的に発揮される点で好ましい。更には、工具径が1mm以下の小径エンドミルに本実施形態の被覆切削工具の構成を適用することが好ましい。
本発明の実施形態に係る被覆切削工具では、A層がB層よりも厚い膜であることが好ましい。基材側に設けられるA層をB層よりも厚い膜とすることで被覆切削工具の耐久性が高まる。また、A層の膜厚は1.0μmよりも大きく、B層の膜厚は0.5μmよりも大きいことが好ましい。
A層およびB層のいずれについても、膜厚を大きくしすぎると剥離が生じやすくなり、被覆切削工具の耐久性が低下する。A層およびB層の膜厚の上限は、中間層および表面層を含む硬質皮膜の構成によって異なる。一例を挙げるならば、A層の膜厚の上限は4μm未満、B層の膜厚の上限は3.5μm未満、A層とB層の合計膜厚の上限は5μm以下とすることが好ましい。
(実施例1)
<成膜装置>
硬質皮膜の成膜には、アークイオンプレーティング方式の成膜装置を用いた。本装置は、複数のカソード(アーク蒸発源)、真空容器および基材回転機構を含む。
本装置は、3基のカソードC1、C2、C3を備える。C1は、ターゲット外周にコイル磁石を配備したカソードである。C2およびC3は、ターゲット背面および外周に永久磁石を配備したカソードである。C2およびC3は、ターゲットの垂直方向の磁束密度がターゲット中央付近で14mT以上である。C2とC3に装着されるターゲットは、試料によって組成を変化させた。
真空容器内は、内部を真空ポンプにより排気される。成膜ガスは供給ポートより真空容器内に導入される。真空容器内に設置した各基材にはバイアス電源が接続される。バイアス電源は、各基材に負圧のDCバイアス電圧を印加する。
基材回転機構は、プラネタリーとプラネタリー上のプレート状治具、プレート状治具上のパイプ状治具を有する。プラネタリーは毎分3回転の速さで回転する。プレート状治具、パイプ状治具は夫々自公転する。
<基材>
物性評価および切削試験用の基材として、組成がWC(bal.)−Co(8質量%)−Cr(0.5質量%)−VC(0.3質量%)、WC平均粒度0.6μm、硬度93.9HRA、からなる超硬合金製の2枚刃ボールエンドミルを準備した。なお、WCは炭化タングステンを、Coはコバルトを、Crはクロムを、VCは炭化バナジウムを、それぞれ表す。
<加熱および真空排気工程>
各基材をそれぞれ真空容器内のパイプ状冶具に固定し、成膜前プロセスを以下のように実施した。まず、真空容器内を8×10−3Pa以下に真空排気した。その後、真空容器内に設置したヒーターにより、基材温度が500℃になるまで加熱し、真空排気を行った。これにより、基材温度を500℃、真空容器内の圧力を8×10−3Pa以下とした。
<Arボンバード工程>
その後、真空容器内にArガスを導入し、容器内圧を0.67Paとした。その後、フィラメント電極に35Aの電流を供給し、基材に−200Vの負圧のバイアス電圧を印加し、Arボンバードを4分間実施した。
<Tiボンバード工程>
その後、真空容器内の圧力が8×10−3Pa以下になるように真空排気した。続いて、基材にバイアス電圧を印加して、Tiターゲットが装着されたC1に150Aのアーク電流を供給してTiボンバード処理を実施した。Tiボンバード処理により、基材の表面に、WとTiを含有する炭化物を1nm以上10nm以下で形成した。Tiボンバード処理により形成される炭化物の組成は、金属元素の含有比率でWが60原子%以上90原子%以下、Tiが10原子%以上40原子%以下であった。
<成膜工程>
Tiボンバード後、直ちにC1への電力供給を中断した。そして、真空容器内のガスを窒素に置き換え、真空容器内の圧力を5Pa、基材設定温度を520℃とした。AlCrSiターゲットが装着されたC2に150Aの電力を供給し、基材に印加する負圧のバイアス電圧を120V、カソード電圧を30VとしてA層を被覆した。
A層の被覆後、B層を被覆した。B層の被覆では、C3のターゲットして、TiSiCrターゲット、TiSiWターゲット、TiSiTaターゲット、またはTiSiターゲットを試料に応じて用いた。上記ターゲットが装着されたC3に150Aの電力を供給し、基材に印加する負圧のバイアス電圧を50V、カソード電圧を25VとしてB層を被覆した。その後、略250℃以下に基材を冷却して真空容器から取り出した。そして、被覆後の各試料はブラスト処理による刃先の研磨処理を行った。
硬質皮膜の組成は、波長分散型電子線プローブ微小分析(WDS−EPMA)により測定した。測定条件は、加速電圧10kV、試料電流5×10−8A、取り込み時間10秒、分析領域直径1μm、分析深さが略1μmで5点測定してその平均値から求めた。
X線回折装置(スペクトリス株式会社製 EMPYREAN 垂直型ゴニオメーター)を用いて結晶構造を確認した。測定条件は、管電圧45kV、管電流40mA、X線源Cukα(λ=0.15418nm)、X線入射角3度、発散スリット1/2°、コリメーター0.27mm、2θ=20〜70度とした。
作製した各試料の被覆切削工具を用いて切削加工を行い、切削加工後の母材露出面積から被覆切削工具の耐久性を評価した。切削条件を以下に示す。
(条件)
・工具:2枚刃超硬ボールエンドミル
・型番:EPDBEH2003−0.5−TH3 ボール半径0.15mm
・切削方法:ポケット加工(1mm×3mm×深さ0.4mm)
・被削材:ASP23(64HRC)
・切り込み:軸方向、0.013mm、径方向、0.013mm
・切削速度:37.7m/min
・一刃送り量:0.0045mm/刃
・切削油:ミストブロー(油性)
・加工個数:7ポケット
・評価方法:母材露出面積は、切削加工後、走査型電子顕微鏡を用いて倍率600倍で観察し、工具の超硬基材が露出した面積を算出した。母材露出面積の算出には市販の画像解析ソフトを用いた。評価結果を表1に纏める。
Figure 2021084154
本発明例および比較例の何れもA層とB層はXRD回折においてfcc構造の単相であった。また、A層は、特許第6410797号と同様の方法で、A層の制限視野回折パターンの強度プロファイルを評価した場合、A層のIh×100/Isの値は20以下であった。また、B層はfcc(200)面のピーク強度が最大であり、平均結晶粒径は5nm以上50nm以下であった。
Siを一定量含有して皮膜組織を微細化したA層の上層にB層に微量のCrを添加した本発明例1〜3はいずれも母材の露出面積が小さく優れた耐久性を示した。特に、A層とB層の総膜厚が厚い本発明例3は母材露出面積が小さくなり、より優れた耐久性を示した。
一方、比較例1のB層は微量のCrを添加しているがSiの含有量が多いため、本発明例に比べて母材露出面積が大きくなった。
比較例2、3はCrに変えてW(タングステン)とTa(タンタル)を微量添加したが、B層の硬化が十分でなく、本発明例に比べて母材露出面積が大きくなった。
比較例4は、B層にCrを微量添加していないため、本発明例に比べて母材露出面積が大きくなった。
比較例5は、A層のSi含有比率が小さいため皮膜組織の柱状粒子が大きく、本発明例1と同じB層を設けても母材露出面積が大きくなった。
比較例6は、B層のCrの含有比率が大きいためCrの濃化相が粗大となり、母材露出面積が大きくなった。

Claims (2)

  1. 基材の表面に、金属(半金属を含む)元素の総量でアルミニウム(Al)の含有比率が50原子%以上、クロム(Cr)の含有比率が20原子%以上、アルミニウム(Al)とクロム(Cr)の合計の含有比率が85原子%以上、ケイ素(Si)の含有比率が4原子%以上15原子%以下の窒化物又は炭窒化物である面心立方格子構造のA層と、前記A層の上に設けられるB層と、を有する被覆切削工具において、
    前記B層は、金属(半金属を含む)元素の総量でTi(チタン)の含有比率が70原子%以上90原子%以下、シリコン(Si)の含有比率が5原子%以上20原子%以下、クロム(Cr)の含有比率が1原子%以上10原子%以下の窒化物又は炭窒化物であり面心立方格子構造であることを特徴とする被覆切削工具。
  2. 前記A層の膜厚は1.0μmよりも大きく、前記B層の膜厚は0.5μmよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の被覆切削工具。
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