JP2021079309A - 金(Au(III))の抽出剤、及び金(Au(III))の抽出方法 - Google Patents

金(Au(III))の抽出剤、及び金(Au(III))の抽出方法 Download PDF

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Abstract

【課題】水に対する溶解度が低く、低粘度であり、優れた抽出性能を有する金(Au(III))の抽出剤を提供する。【解決手段】式1:H3C(CH2)aCO(CH2)bCH3(aおよびbは、互いに独立して0以上の整数であり、関係:5≦(a+b)≦9を満たす)で表される化合物を、金(Au(III))の抽出剤として用いる。【選択図】図1

Description

本発明は、金(Au(III))の抽出剤、及び金(Au(III))の抽出方法に関する。
鉱山資源に含まれる有価金属の湿式精錬工程や、廃棄物からの有価金属回収プロセスにおいて、水溶液中の目的金属イオンを油の相(有機相)に抽出することによって他の金属と分離する「液液抽出(溶媒抽出)」が、広く用いられている。
近年の携帯電話やモバイル情報機器の爆発的な普及に伴い、廃棄される各種電子機器類の素子に含まれる貴金属、特に金(Au(III))の量は無視できない量に膨張しており、その一方で需要供給の関係から貴金属の価格は高騰している。このため、貴金属の採掘から精錬までを高収率・低コストのプロセスで行う重要性が再認識されている。その一方で、廃棄された各種電子機器は第二の貴金属類の供給源として「都市鉱山」と呼ばれて注目されている。このように、現在のITに支えられた社会では、需要が急騰している金(Au(III))をはじめとする貴金属の精錬や分離回収技術の改良が強く求められている。
金(Au(III))の液液抽出(溶媒抽出)では、塩酸水溶液に浸出した金(Au(III))を有機物(抽出剤)中に移行して分離するという、いわゆるイオン溶媒和形式の抽出分離を行うのが一般的である。この際に用いられる有機物(抽出剤)には、(1)抽出剤の単位量当たりに移行する金(Au(III))の量が多い、(2)抽出剤に移行した金(Au(III))を例えばシュウ酸のような還元剤を用いて固体として回収することができる、(3)引火点が高く工業的に安全性が高い、(4)水への溶解度が低く、抽出操作を繰り返す過程で損失量が少ない、(5)比較的粘性が低く水溶液との混和や抽出操作が容易である、などの性質が求められる。
従来、このような金(Au(III))の抽出剤としては、ジブチルカルビトール(DBC)やメチルイソブチルケトン(MIBK)が広く用いられている。塩酸系に含まれる貴金属の高選択的かつ高容量の抽出剤としてのDBCの使用は1970年前後に提案され、その後カナダのInco社(現Vale Inco社)の金精錬業で実用化されて以来、世界的に普及した。特許文献1及び特許文献2に記載されているように、DBCまたはMIBKを用いた貴金属の液液抽出はさらに改良が試みられている。
DBCは、上述の抽出剤に求められる性質(1)、(2)、(3)を備える点で優れている。しかしながら、DBCはわずかに水に溶けるため(溶解度:3g/L)、上記性質(4)の観点からは理想的とは言えず、また、粘性がやや高い(粘度:2.4mPa・s)ため、上記性質(5)の観点では問題がある。一方、MIBKはDBCに比べて粘性は低いが(粘度:0.60mPa・s)、水への溶解度が高く(溶解度:19g/L)、上記性質(1)〜(5)を総合的に評価した場合には問題がある。
そこで、特許文献3〜6や非特許文献1〜3に記載されているように、本発明者らによってDBCとMIBKに代わる抽出剤が探索され、様々な化合物が提案されている。
特開平2−310326号公報 特開2014−84495号公報 特表2013−534969号公報 特開2015−7293号公報 特表2017−524808号公報 特開2018−15736号公報
"Effect of structure of aromatic ethers on their extraction of Au(III) from acidic chloride media", Tatsuya Oshima, Takashi Horiuchi, Kiyoharu Matsuzaki, Kaoru Ohe, Hydrometallurgy 183(2019)207−212 "Separation of Au(III) from other precious and base metals using 1−methoxy−2−octoxybenzene in acidic chloride media", Takashi Horiuchi, Tatsuya Oshima, Yoshinari Baba, Hydrometallurgy 178(2018)176−180 "Extraction of Gold(III) Using Cyclopentyl Methyl Ether in Hydrochloric Acid Media", Tatsuya OSHIMA, Naoki OHKUBO, Iori FUJIWARA, Takashi HORIUCHI, Takao KOYAMA, Kaoru OHE and Yoshinari BABA, Solvent Extraction Research and Development, Japan, Vol.24, No 2, 89−96(2017)
しかしながら、DBC及びMIBKを代替できる程度に上記性質(4)及び(5)が改良された、優れた金(Au(III))の抽出剤は、いまだ見出されていない。そこで本発明は、水に対する溶解度が低く、低粘度であり、優れた抽出性能を有する金(Au(III))の抽出剤を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その過程で、金(Au(III))の液液抽出に用いられる抽出剤として有効な化合物をさらに探索した結果、特定の含酸素化合物が有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明によれば、以下のものが提供される:
(1)式1:HC(CHCO(CHCH(aおよびbは、互いに独立して0以上の整数であり、関係:5≦(a+b)≦9を満たす)で表される化合物の少なくとも1つを含む、金(Au(III))の抽出剤;
(2)式1中のaまたはbのいずれかが0である、上記(1)に記載の金(Au(III))の抽出剤;
(3)前記化合物が、2−オクタノン、2−ノナノンおよび/または2−ウンデカノンを含む、上記(1)または(2)に記載の金(Au(III))の抽出剤;
(4)以下の工程1および工程2を含む、金(Au(III))の抽出方法:
(工程1)金(Au(III))を含有する酸性の水溶液と、上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金(Au(III))の抽出剤とを混合する工程;
(工程2)前記工程1で得られた混合物を攪拌することにより、金(Au(III))を前記抽出剤に移行させて、金(Au(III))が前記抽出剤を含む相に移行した溶液を得る工程。
本発明に係る金(Au(III))の抽出剤は、(1)抽出剤の単位量当たりに移行する金(Au(III))の量が多い、(2)抽出剤に移行した金(Au(III))を例えばシュウ酸のような還元剤を用いて固体として回収することができる、(3)引火点が高く工業的に安全性が高い、(4)水への溶解度が低く、抽出操作を繰り返す過程で損失量が少ない、(5)比較的粘性が低く水溶液との混和や抽出操作が容易である、などの性質をバランスよく備える点で、従来の抽出剤よりも優れる。したがって本発明によれば、工業的に改良された金(Au(III))の抽出剤、及び金(Au(III))の抽出方法が提供されうる。
後述する実施例1において、本発明に係る金抽出剤のいくつかを用いて、金(Au(III))含有酸性水溶液の塩酸濃度と金の抽出率との関係を調べた結果を示すグラフである。 後述する実施例2において、金の抽出剤として各種ノナノンを用いて、金(Au(III))含有酸性水溶液の塩酸濃度と金の抽出率との関係を調べた結果を示すグラフである。 後述する実施例3において、金の抽出剤として2−ノナノンを用いて、各種の金属を含有する酸性水溶液からの金の抽出率を調べた結果を示すグラフである。 後述する実施例4において、本発明に係る金抽出剤のいくつかについて、金(Au(III))含有酸性水溶液における抽出前の金濃度と抽出後の油相(抽出剤)における金濃度との関係を、従来公知の抽出剤(DBC及びMIBK)と比較して調べた結果を示すグラフである。 後述する実施例5において、本発明に係る金(Au(III))の抽出方法によって抽出された金属を還元回収して得られた粉末のX線回折ピークを示すグラフである。
本発明の一形態によれば、式1:HC(CHCO(CHCH(aおよびbは、互いに独立して0以上の整数であり、関係:5≦(a+b)≦9を満たす)で表される化合物の少なくとも1つを含む、金(Au(III))の抽出剤が提供される。
また、本発明の他の形態によれば、以下の工程1および工程2を含む、金(Au(III))の抽出方法が提供される:
(工程1)金(Au(III))を含有する酸性の溶液と、上記上述した本発明の一形態に係る金(Au(III))の抽出剤とを混合する工程;
(工程2)前記工程1で得られた混合物を攪拌することにより、金(Au(III))を前記抽出剤に移行させて、金(Au(III))が前記抽出剤を含む相に移行した溶液を得る工程。
[1.抽出対象]
本発明に係る金(Au(III))の抽出剤が適用されて金の抽出方法が実施される対象は、金(Au(III))を含有する酸性の水溶液(金(Au(III))含有酸性水溶液)である。言い換えれば、本発明に係る金の抽出方法において、抽出前の金(Au(III))は、酸性の水溶液中に存在する。本発明において、金(Au(III))含有酸性水溶液としては通常は金(Au(III))が溶解した塩酸水溶液を用いる。本発明において用いられる金(Au(III))含有酸性水溶液における金(Au(III))濃度は特に制限されないが、一般的には0.01×10−3mol/dm以上1000×10−3mol/dm以下であり、好ましくは0.01×10−3mol/dm以上500×10−3mol/dm以下であり、より好ましくは0.1×10−3mol/dm以上200×10−3mol/dm以下に設定される。本発明において用いられる金(Au(III))含有酸性水溶液の酸性度にも特に制限はないが、一般的には塩酸濃度として0.01mol/dm以上12mol/dm以下であり、好ましくは0.1mol/dm以上10mol/dm以下に設定される。ただし、金(Au(III))含有酸性水溶液を酸性とするための酸は塩酸(塩化水素)に限られず、金(Au(III))の抽出に悪影響を及ぼさない限り、塩化物イオンを十分に含む他の酸性水溶液も同様に用いられうる。
[2.抽出剤]
本発明によれば、金(Au(III))は酸性水溶液から抽出剤に移行することができる。このような本発明の抽出剤は、式1:HC(CHCO(CHCH((aおよびbは、互いに独立して0以上の整数であり、関係:5≦(a+b)≦9を満たす)で表される化合物である。本発明において用いられる抽出剤としては、上記式1で表される化合物を単独で使用してもよく、上記式1で表される化合物の2つ以上を併用してもよい。
上記式1で表される化合物のなかでも、金(Au(III))の抽出性能が優れるという観点からは、2−オクタノン(HC(CHCOCH)、2−ノナノン(HC(CHCOCH)、3−ノナノン(HC(CHCOCHCH)、2−デカノン(HC(CHCOCH)、2−ウンデカノン(HC(CHCOCH)が好ましく、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ノナノン、2−ウンデカノンがより好ましく、2−オクタノン、2−ノナノン、3−ノナノンがさらに好ましい。また、上記式1で表される化合物のなかでも、価格が安価であるという観点からは、2−オクタノン、2−ノナノン、2−デカノン、2−ウンデカノン、3−オクタノン(HC(CHCOCHCH)、5−ノナノン(HC(CHCO(CHCH)が有利である。
続いて、本発明に係る抽出剤である2−オクタノン、2−ノナノン及び2−ウンデカノンのモル質量および20℃の水に対する溶解度を、DBC及びMIBKと比較して下記の表1に示す。
Figure 2021079309
表1に示すように、2−オクタノン、2−ノナノン及び2−ウンデカノンは、水への溶解度が低い点で、液液抽出法において従来広く用いられてきた抽出剤であるDBCやMIBKよりも好ましいことがわかる。
また、本発明に係る抽出剤である2−オクタノン、2−ノナノン及び2−ウンデカノンの引火点を、MIBKと比較して下記の表2に示す。
Figure 2021079309
表2に示すように、2−オクタノン、2−ノナノン及び2−ウンデカノンは、引火点が比較的高いという点でMIBKよりも好ましい抽出剤といえ、さらには引火点が70℃以上である2−ノナノンまたは2−ウンデカノンはより好ましい抽出剤であるといえる。
さらに、本発明に係る抽出剤である2−オクタノン、2−ノナノン及び2−ウンデカノンの粘度を、DBCと比較して下記の表3に示す。
Figure 2021079309
表3に示すように、粘度が低い点で2−オクタノン、2−ノナノン及び2−ウンデカノンはDBCよりも好ましいといえる。
以上の通り、本発明に係る抽出剤を構成する化合物としては、総合的に評価すれば、式1で表される2−ケトン化合物(式1において、aまたはbのいずれかが0である化合物)が好ましく、2−オクタノン、2−ノナノン、2−デカノン、2−ウンデカノンがより好ましく、2−ノナノン、2−デカノン、2−ウンデカノンが特に好ましい。
[3.金(Au(III))の抽出方法]
本発明に係る金(Au(III))の抽出方法は、以下の工程1および工程2を含む点に特徴がある。
(工程1)金(Au(III))を含有する酸性の水溶液と、上述した本発明の一形態に係る金(Au(III))の抽出剤とを混合する工程;
(工程2)前記工程1で得られた混合物を攪拌することにより、金(Au(III))を前記抽出剤に移行させて、金(Au(III))が前記抽出剤を含む相に移行した溶液を得る工程。
以下、当該抽出方法について、工程順に説明する。
[3−1.工程1]
工程1においては、金(Au(III))を含有する酸性の水溶液と、本発明に係る金(Au(III))の抽出剤とを混合する。これにより、金(Au(III))抽出用組成物が得られる。
ここで、工程1において用いられる金(Au(III))含有酸性溶液及び金(Au(III))の抽出剤については、上述の通りである。また、工程1において得られる金(Au(III))抽出用組成物に含まれる上記金(Au(III))含有酸性水溶液と上記抽出剤との割合は制限されないが、一般的には体積比(上記金(Au(III))含有酸性水溶液:上記抽出剤)が1000:1〜1:100、好ましくは100:1〜1:10、より好ましくは50:1〜1:2となるように両者を混合する。
[3−2.工程2]
工程2においては、上記工程1で得られた混合物を攪拌する。これにより、水相(金(Au(III))含有酸性水溶液)と油相(抽出剤)とが接触・混和する。その結果、この工程2では、金(Au(III))が上記水相から上記抽出剤に選択的に移行する。その結果、金(Au(III))が前記抽出剤を含む相に移行した溶液が得られる。なお、当該溶液において、金(Au(III))は、金(Au(III))−抽出剤複合体の形態で存在するものと考えられる。すなわち工程2は、金(Au(III))を他の金属イオンなどの水相溶解物から分離して抽出剤に選択的に蓄積する工程であるといえる。
工程2において採用される、攪拌翼や振盪装置などの攪拌手段、攪拌強度(エネルギー、消費電力)は、上記水相と上記油相とを十分混和するように抽出規模に応じて適宜選択される。工程2を行う温度も特に制限されないが、一般的には上記抽出剤の引火点または沸点よりも十分に低いが過剰な冷却コストを必要としない温度下で、好ましくは10℃以上40℃以下の温度下で、より好ましくは20℃以上35℃以下の温度下で行う。攪拌時間は、抽出剤に応じた最大濃度となるように金(Au(III))が上記抽出剤に移行するために十分な長さであれば制限されないが、一般的には10分間以上76時間以下、好ましくは10分間以上48時間以下、より好ましくは1時間以上30時間以下かけて攪拌する。
[3−3.還元・金(Au)の回収]
工程1及び工程2を経て、抽出剤に応じた最大濃度となるように金(Au(III))が上記抽出剤に移行し、金(Au(III))が前記抽出剤を含む相に移行した溶液が得られる。その後、この溶液を還元条件とすることで、当該溶液から金(Au(III))を析出することができる。具体的には、上記溶液を水相から常法により分離し、分離された溶液と還元剤とを接触させることによって、上記析出を進行させる。上記還元剤としては貴金属の溶液抽出において従来使用されてきた化合物が特に制限なく使用されうる。このような還元剤としては、シュウ酸水溶液、シュウ酸ナトリウムなどのシュウ酸塩の水溶液が一般的である。
上記溶液から析出した金(Au(III))は回収され、適宜洗浄される。こうして粉末として回収された金(Au)は各種製品に加工される。金(Au)が回収された後の溶液は、上記工程1にリサイクルされることで、抽出剤として再利用されうる。本発明において用いられる抽出剤は水への溶解度が低いことから、抽出剤を再利用して上記工程1及び工程2を繰り返す過程での抽出剤の損失が少ない。したがって、本発明に係る金(Au(III))の抽出剤及び抽出方法を用いた金(Au)の回収は工業的に有利である。
以下、本発明に係る金(Au(III))の抽出剤、及び金(Au(III))の抽出方法の利用の例について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の例に制限されない。
[実施例1:本発明に係る抽出剤の種類と塩酸濃度との関係]
水相に1.0×10−3mol/dmのAu(III)を含む0.1〜8.0mol/dm塩酸溶液をそれぞれ5.0cmずつ調製し、水相(金(Au(III))含有酸性水溶液)とした。ここでは、2−オクタノン(HC(CHCOCH)、2−ノナノン(HC(CHCOCH)、及び2−ウンデカノン(HC(CHCOCH)の各1.0cmを抽出剤(有機相)として用いた。両相(体積比5:1)を30cm三スクリューキャップ付きサンプル管に加えて混合し(工程1)、30℃の恒温槽中で24時間かけて振盪した(工程2)。振盪後、水相を分取し、振盪前後の水相中のAu(III)濃度を原子吸光光度計で測定した。水相中のAu(III)濃度の減少から、有機相へのAu(III)の抽出率を算出した。
図1に結果を示す(横軸:塩酸濃度の対数、縦軸:抽出率)。塩酸濃度の増加とともに、各ケトン化合物によるAu(III)の抽出率は増加した。抽出率の序列は2−オクタノン>2−ノナノン>2−ウンデカノンの序列となり、炭素数の少ない化合物を用いるほどAu(III)の抽出率が大きくなることが示された。
[実施例2:抽出剤として各種ノナノンを用いた金(Au(III))の抽出]
水相に1.0×10−3mol/dmのAu(III)を含む0.1〜8.0mol/dm塩酸溶液を5.0cmずつ調製し、水相(金(Au(III)含有酸性水溶液)とした。ここでは、2−ノナノン(HC(CHCOCH)、3−ノナノン(HC(CHCO(CHCH)、4−ノナノン(HC(CHCO(CHCH)、5−ノナノン(HC(CHCO(CHCH)のそれぞれを抽出剤として用いた。それぞれの抽出剤(有機相・油相)1.0cmと水相とを、体積比(水相:油相)が5:1となるように30cm三スクリューキャップ付きサンプル管に加えて混合し(工程1)、30℃の恒温槽中で24時間かけて振盪した(工程2)。振盪後、水相を分取し、振盪前後の水相中のAu(III)濃度を原子吸光光度計で測定した。水相中のAu(III)濃度の減少から、有機相(抽出剤・油相)へのAu(III)の抽出率を算出した。
図2に結果を示す(横軸:塩酸濃度の対数、縦軸:抽出率)。2−ノナノンおよび3−ノナノンについては、塩酸濃度の増加とともにAu(III)の抽出率は増加した。4−ノナノン、5−ノナノンについては水相中のAu(III)濃度は広い範囲で減少し、抽出されたものと算出された。これらの結果より2−ノナノン、3−ノナノン、4−ノナノン、5−ノナノンのいずれもがAu(III)の抽出剤として機能することが確認された。
また、2−ノナノンまたは3−ノナノンを用いた場合には抽出液の変色が観察されなかったため、抽出の過程(工程1、工程2)で金(Au(III))の化学種が変化しなかったと推測できる。したがって、特に2−ノナノンと3−ノナノンは抽出剤として有利であると考えられる。
[実施例3:2−ノナノンを抽出剤として用いた各種金属の抽出]
水相に1.0×10−3mol/dmのAu(III)、Pd(II)、Pt(IV)、Fe(III)、Ga(III)、In(III)、Ni(II)、Cu(II)、またはZn(II)を含み、濃度の異なる3種の塩酸水溶液(濃度はそれぞれ0.1mol/dm、1.0mol/dm、または5.0mol/dm)を5.0cmずつ調製し、水相とした。ここでは、2−ノナノン(HC(CHCOCH)の1.0cmを有機相とした。両相(体積比5:1)を30cm三スクリューキャップ付きサンプル管に加えて混合し、30℃の恒温槽中で24時間かけて振盪した。振盪後、水相を分取し、振盪前後の水相中の金属濃度を原子吸光光度計で測定した。水相中の金属濃度の減少から、有機相への各金属の抽出率を算出した。
図3に結果を示す(縦軸:抽出率)。塩酸の濃度に関わらず金Au(III)に対して工業的に有利な抽出率が達成された。その一方で、Fe(III)及びGa(III)は高濃度塩酸溶液(濃度:5.0 mol/dm)では抽出が可能であったものの、その他の塩酸水溶液(濃度:0.1 mol/dm、濃度:1.0mol/dm)では有用な抽出率が達成されなかった。また、Pd(II)、Pt(IV)、In(III)、Ni(II)、Cu(II)、Zn(II)では工業的に意義のある抽出を行うことができなかった。この結果から、本発明に係る抽出剤は、金(Au(III))に対する特異性が高い抽出剤として機能することが理解できる。
[実施例4:本発明に係る金(Au(III))の抽出方法と従来法との比較]
水相に1.0×10−3〜50×10−3mol/dmのAu(III)を含む5.0mol/dm塩酸水溶液10cmを調製し、水相(金(Au(III)含有酸性水溶液)とした。ここでは、従来の抽出剤として1.0cmのジブチルカルビトール(DBC)及び1.0cmのメチルイソブチルケトン(MIBK)を用いた。また、本発明に係る抽出剤としては、1.0cmの2−オクタノン(HC(CHCOCH)、2−ノナノン(HC(CHCOCH)、及び2−ウンデカノン(HC(CHCOCH)を用いた。上記水相と上記抽出剤のそれぞれとを、体積比(水相:油相)が10:1となるように30cmスクリューキャップ付きサンプル管に加えて混合し(工程1)、30℃の恒温槽中で24時間かけて振盪した(工程2)。振盪後、水相を分取し、振盪前後の水相中のAu(III)濃度を原子吸光光度計で測定した。水相中のAu(III)濃度の減少から、有機相へのAu(III)の抽出率を算出した。
図4に結果を示す(横軸:抽出前の水溶液における金濃度、縦軸:抽出後の油相における金濃度)。工業的には金(Au(III))が抽出剤に30g/dm以上の濃度となるように移行することが求められることから、2−オクタノン、2−ノナノン、及び2−ウンデカノンのいずれもが工業的要件を満たす金(Au(III))抽出剤として機能することがわかる。さらに、2−オクタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノンのいずれもが、従来の抽出剤であるDBCとMIBKとほぼ同等の金(Au(III))抽出能力を発揮していることも確認できる。
[実施例5:本発明に係る金(Au(III))の抽出方法に基づく金(Au(III)の還元回収]
15×10−2mol/dmのAu(III)を含む5.0mol/dm塩酸水溶液50cmを調製し、水相(金(Au(III))含有酸性水溶液)とした。ここでは、2−ノナノン(HC(CHCOCH)の50cmを抽出剤(有機相)とした。上記水相と上記抽出剤とを体積比(水相:油相)が1:1となるように200cm共栓付き三角フラスコに加えて混合し(工程1)、30℃の恒温槽中で24時間かけて振盪した。振盪後、水相と有機相を分取した。
分取した有機相40cmを、0.10mol/dmのシュウ酸を含む塩酸0.01mol/dmの水溶液40cmと一緒に200cm共栓付き三角フラスコに加えて混合し、30℃の恒温槽中でさらに24時間かけて振盪した。シュウ酸水溶液との接触により析出した固体を回収し、X線回折装置で分析した。還元操作後の有機相30cmを、0.10mol/dmのチオ尿素を含む塩酸0.1mol/dmの水溶液30cmと一緒に200cm共栓付き三角フラスコに加えて混合し、30℃の恒温槽中でさらに24時間かけて振盪した。各振盪操作前後の水相中のAu(III)濃度を原子吸光光度計で測定した。なお、チオ尿素水溶液との接触により、2−ノナノンに抽出されたAu(III)は定量的に逆抽出できることを予め確認しておいた。このことに基づき、振盪後の水相中のAu(III)濃度から、シュウ酸水溶液による還元で回収された金の回収率を算出した。
シュウ酸水溶液による還元で、光沢性の金属粉末の析出が確認された。その後のチオ尿素による逆抽出で金が検出されなかったことから、2−ノナノンに抽出されていたAu(III)はシュウ酸水溶液による還元で100%回収されていることが示された。図5にシュウ酸還元により析出した金属粉末のX線回折の結果を示す。38.25°、44.44°、64.65°、及び77.61°に回折ピークが確認され、これらは金の結晶のミラー指数:(111)、(200)、(220)、(311)に対応し、回折ピークの値は金結晶のデータベースの値(JCPDS File No.4−0784)と一致することから、Au(III)が還元され金の結晶(Au(0))が得られていることが確認された。
本発明に係る金(Au(III))の抽出剤及び金(Au(III))の抽出方法は、従来の抽出剤よりも優れた物性と金(Au(III))の抽出性能を有する。したがって、本発明に係る金(Au(III))の抽出剤及び金(Au(III))の抽出方法は、DBCまたはMIBKを抽出剤として用いる従来の金(Au(III))回収方法を代替する手段として有望である。

Claims (4)

  1. 式1:HC(CHCO(CHCH(aおよびbは、互いに独立して0以上の整数であり、関係:5≦(a+b)≦9を満たす)で表される化合物の少なくとも1つを含む、金(Au(III))の抽出剤。
  2. 式1中のaまたはbのいずれかが0である、請求項1に記載の金(Au(III))の抽出剤。
  3. 前記化合物が、2−オクタノン、2−ノナノンおよび/または2−ウンデカノンを含む、請求項1または2に記載の金(Au(III))の抽出剤。
  4. 以下の工程1および工程2を含む、金(Au(III))の抽出方法:
    (工程1)金(Au(III))を含有する酸性の水溶液と、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金(Au(III))の抽出剤とを混合する工程;
    (工程2)前記工程1で得られた混合物を攪拌することにより、金(Au(III))を前記抽出剤に移行させて、金(Au(III))が前記抽出剤を含む相に移行した溶液を得る工程。
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