以下、回転機制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。各実施形態の回転機制御装置は、車両の電動パワーステアリングシステム(以下「EPSシステム」)又はステアバイワイヤシステム(以下「SBWシステム」)に適用され、EPS−ECU又はSBW-ECUとして機能する。以下の実施形態では、EPS−ECU又はSBW−ECUをまとめて「ECU」と表す。また、第1〜第12実施形態を包括して「本実施形態」という。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
[システム構成]
最初に図1〜図3を参照し、本実施形態において「回転機制御装置」としてのECUが適用されるシステム構成について説明する。図1には、操舵機構と転舵機構とが機械的に接続されたEPSシステム901を示す。図2には、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離したSBWシステム902を示す。図1、2においてタイヤ99は片側のみを図示し、反対側のタイヤの図示を省略する。
図1に示すように、EPSシステム901は、ステアリングホイール91、ステアリングシャフト92、インターミディエイトシャフト95、ラック97等を含む。ステアリングシャフト92は、ステアリングコラム93に内包されており、一端にステアリングホイール91が接続され、他端にインターミディエイトシャフト95が接続されている。
インターミディエイトシャフト95のステアリングホイール91と反対側の端部には、ラックアンドピニオン機構により回転を往復運動に変換して伝達するラック97が設けられている。ラック97が往復すると、タイロッド98及びナックルアーム985を介してタイヤ99が転舵される。また、インターミディエイトシャフト95の途中にはユニバーサルジョイント961、962が設けられている。これにより、ステアリングコラム93のチルト動作、テレスコピック動作による変位が吸収される。
トルクセンサ94は、ステアリングシャフト92の途中に設けられ、トーションバーの捩れ変位に基づき、ドライバの操舵トルクTsを検出する。EPSシステムでは、ECU10は、トルクセンサ94が検出した操舵トルクTsや車速センサ14が検出した車速Vに基づいて三相モータ800の駆動を制御し、所望の操舵アシストトルクを出力させる。このようにEPSシステム901では、操舵アシストトルク出力用の回転機が「多相回転機」として用いられる。なお、ECU10への各信号はCANやシリアル通信等を用いて通信されるか、アナログ電圧信号で送られる。
第2、第12実施形態では、「直流回転機」としての四台の直流モータ710〜740が設けられ、第1、第3〜第11実施形態では、「直流回転機」としての二台の直流モータ710、720が設けられる。ここでは、四台の直流モータ710〜740が設けられる構成について説明する。チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720は、ステアリング位置を可変させる「ステアリング位置系アクチュエータ」に含まれ、ステアリングコラム93に設けられている。
ドライバがチルトスイッチ12を操作することにより、「上がる/下がる」の指示がECU10に入力されると、ECU10はチルトアクチュエータ710にチルト動作を指示する。すると、図3(a)に示すように、チルトアクチュエータ710はチルト角度を調整し、ステアリングホイール91を上下に移動させる。そして、車両スイッチ11がオンされて車両が起動するとき、あらかじめ記憶してある運転位置まで動き、車両スイッチ11がオフされて車両が停止するとき、ドライバの空間が広くなる側に移動する。なお、車両スイッチ11は、エンジン車、ハイブリッド車、電気自動車のイグニッションスイッチやプッシュスイッチに相当する。
ドライバがテレスコピックスイッチ13を操作することにより、「伸びる/縮む」の指示がECU10に入力されると、ECU10はテレスコピックアクチュエータ720にテレスコピック動作を指示する。すると、図3(b)に示すように、テレスコピックアクチュエータ720はテレスコピック長を調整し、ステアリングホイール91を前後に移動させる。そして、車両スイッチ11がオンされて車両が起動するとき、あらかじめ記憶してある運転位置まで動き、車両スイッチ11がオフされて車両が停止するとき、ドライバの空間が広くなる側に移動する。
また、シート17の各部を動かすシート系アクチュエータとして、第1シートモータ730及び第2シートモータ740が設けられている。図3(c)に示すように、シート系アクチュエータには、クッション171を前後又は高さ方向にスライドさせたり、背もたれ172をリクライニングさせたりするものが含まれる。本明細書では、どのシートモータがどの部分をどの方向に動かすものであるかは特定しない。シート各部のモータのうち任意の二種類の直流モータが第1シートモータ730及び第2シートモータ740として選択されればよい。
続いて図2に示すように、操舵機構と転舵機構とが機械的に分離されたSBWシステム902では、EPSシステム901に対し、インターミディエイトシャフト95が存在しない。ドライバの操舵トルクTsは、ECU10を経由して電気的に転舵モータ890に伝達される。転舵モータ890の回転は、ラック97の往復運動に変換され、タイロッド98及びナックルアーム985を介してタイヤ99が転舵される。なお、図2には図示を省略するが、ドライバのステアリングホイール入力に対して転舵モータ890を駆動する転舵モータECUが存在する。
また、SBWシステム902では、ドライバは操舵に対する反力を直接感知することができない。そこで、ECU10は、三相モータ800の駆動を制御し、操舵に対する反力を付与するようにステアリングホイール91を回転させ、ドライバに適切な操舵フィーリングを与える。このようにSBWシステム902では、反力トルク出力用の回転機が「多相回転機」として用いられる。
図2のSBWシステム902において、「直流回転機」としての四台の直流モータ710〜740は、図1のEPSシステム901と同様に用いられる。以下、ECU10による三相モータ800及び直流モータ710〜740の制御の説明において、EPSシステム901とSBWシステム902との違いは無い。
なお、本実施形態で用いられる直流モータ式のアクチュエータは、チルト、テレスコピックアクチュエータやシート系アクチュエータの他、ハンドル格納アクチュエータ、ステアリングロックアクチュエータ、ステアリング振動アクチュエータ等でもよい。ステアリングロックアクチュエータは、ステアリングホイール91の近傍に設けられ、駐車時等にステアリングホイール91が回転しないようにロックする。ECU10は、車両スイッチ11のON/OFF信号がECU10に基づき、ステアリングロックアクチュエータに、ステアリングロックの解除又は再ロックを指示する。
また、レーンキープ判定回路15を備える車両では、車両がレーンを逸脱したか、逸脱するおそれがあるとレーンキープ判定回路15が判定すると、レーンキープフラグFが生成される。ECU10は、レーンキープフラグFが入力されると、ドライバに注意を促すためにステアリング振動アクチュエータによりステアリングホイール91を振動させる。なお、ステアリングロックアクチュエータがステアリング振動アクチュエータの機能を兼ねてもよい。
三相モータ800の構成に関し、三相巻線組801、802と当該巻線組に対応するインバータ等の構成とを含む単位を「系統」という。第1〜第10実施形態は一系統構成であり、第11、第12実施形態は、各構成要素が冗長的に設けられた二系統構成である。一系統のモータ構造は一般的な周知技術であるため説明を省略し、二系統のモータ構造については後述する。二系統構成の符号や記号の末尾等に、第1系統の構成には「1」を付し、第2系統の構成には「2」を付す。一系統構成では、二系統構成における第1系統の符号や記号を流用する。なお、[符号の説明]の欄には、一系統構成の第1〜第10実施形態に対応する代表的な符号のみを記載する。
次に図4を参照し、機器の接続構成について説明する。本実施形態の三相モータ800は、軸方向の一方側にECU10が一体に構成された「機電一体式モータ」として構成されている。一方、四台の直流モータ710〜740は、それぞれコネクタを介してECU10と接続されている。つまり、三相モータ800とECU10との接続は不動の前提であるのに対し、各直流モータ710〜740とECU10とは、ニーズに応じたオプションとして接続可能に構成されており、ECU10側のコネクタもオプションに応じて未実装で回路基板は共通としてもよい。
図4に、コネクタ接続構成の一例を示す。この構成例では、パワー系コネクタ591、信号系コネクタ592及びトルクセンサ用コネクタ593が分かれて設けられている。パワー系コネクタ591には、直流電源からの電源線(PIG)及びグランド線が接続される。信号系コネクタ592には制御用電源線(IG)、CAN通信線の他、各直流モータ710〜740の配線が接続される。トルクセンサ用コネクタ593には、トルクセンサ94の電源線、信号線、グランド線がまとめて接続される。
チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720には、モータ線(M+、M−)、位置センサ電源線、位置センサ信号線、グランド線が接続される。所定の位置に達したことをトルクもしくは電流と時間で判定することや、チルトスイッチ12、テレスコピックスイッチ13のオンオフに応じて一定の電流を流すか電圧を印加することで、位置センサを使わない構成とすることもできる。図4には、チルトスイッチ12、テレスコピックスイッチ13からCAN通信により信号を受信する例を記載したが、アナログ電圧信号を受け取る場合、信号系コネクタ592に含めて接続可能である。シートモータ730、740の配線も同様であるため、各線の図示を省略する。なお、位置センサが不要のモータの場合、モータ線(M+、M−)のみが接続される。
なお、各直流モータ710〜740のモータ線(M+、M−)はパワー系であるが、三相モータ800に比べてモータ電流が小さいため、信号系コネクタ592に含めて接続可能である。直流モータ710〜740の電流が大きい場合は別のコネクタとするか、直流電源からの電源線(PIG)及びグランド線のパワー系コネクタ591と共通のコネクタとしてもよい。また、直流モータ710〜740毎にコネクタを分けてもよい。
[一系統三相モータを駆動対象とする回路構成]
次に図5〜図14の回路構成図を参照し、一系統三相モータ800を駆動対象とするECU10の構成例を第1〜第10実施形態として説明する。ECUの符号は、構成の違いにかかわらず、全ての実施形態において「10」を用いる。各図に示される要素のうち、三相モータ800の三相巻線組801及び直流モータ710〜740以外の部分がECU10である。
第1実施形態は本発明の基本構成であり、一台の三相モータ800、及び、三相巻線組801の同一の一相に接続された二台の直流モータ710、720を駆動対象とする最小限の構成である。第2実施形態は、計四台の直流モータ710〜740が三相巻線組801の二相に二台ずつ接続されており、図1〜図3のシステム構成と対応する。第3実施形態以下では、第1実施形態の構成を基本として応用的な構成が付加される。
(第1実施形態)
図5に第1実施形態のECU10の全体構成を示す。三相モータ800の三相巻線組801は、U1相、V1相、W1相の巻線811、812、813が中性点N1で接続されて構成されている。中性点N1の電圧を中性点電圧Vn1とする。なお、三相モータの符号「800」、及び、三相巻線の符号「811、812、813」は図5にのみ記載し、図6〜図14には記載を省略する。後述する二系統構成の説明に係る図46に示されるように、三相モータ800の各相には、回転数と位相のsin値との積に比例した逆起電圧が発生する。三相モータ800の電気角θは回転角センサにより検出される。
ECU10は、「多相電力変換器」としての一つのインバータ601、「直流回転機用スイッチ」としての四つの直流モータ用スイッチMU1H、MU1L、MU2H、MU2L及び制御部30を備える。インバータ601は、高電位線BH1を介して電源Bt1の正極と接続され、低電位線BL1を介して電源Bt1の負極と接続されている。電源Bt1は、例えば基準電圧12[V]のバッテリである。また、電源Bt1からインバータ601に入力される直流電圧を「入力電圧Vr1」と記す。インバータ601の電源Bt1側には高電位線BH1と低電位線BL1との間にコンデンサC1が設けられている。
インバータ601は、ブリッジ接続された高電位側及び低電位側の複数のインバータスイッチング素子IU1H、IU1L、IV1H、IV1L、IW1H、IW1Lの動作により電源Bt1の直流電力を三相交流電力に変換する。そしてインバータ601は、三相巻線組801の各相巻線811、812、813に電圧を印加する。
詳しくは、インバータスイッチング素子IU1H、IV1H、IW1Hは、それぞれU1相、V1相、W1相の高電位側に設けられる上アーム素子であり、インバータスイッチング素子IU1L、IV1L、IW1Lは、それぞれU1相、V1相、W1相の低電位側に設けられる下アーム素子である。以下、同相の上アーム素子と下アーム素子とをまとめて、符号を「IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L」と記す。インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lをはじめ、本実施形態で使用される各スイッチは、例えばMOSFETである。なお、各スイッチは、MOSFET以外の電界効果トランジスタやIGBT等であってもよい。
インバータ601の各相の下アーム素子IU1L、IV1L、IW1Lと低電位線BL1との間には、各相を流れる相電流Iu1、Iv1、Iw1を検出する電流センサSAU1、SAV1、SAW1が設置されている。電流センサSAU1、SAV1、SAW1は、例えばシャント抵抗で構成される。インバータ601に流れる相電流Iu1、Iv1、Iw1に対し、三相巻線組801に通電される相電流をIu1#、Iv1#、Iw1#と記す。両者の相電流の関係については後述する。
直流モータ710に対応する「直流回転機用スイッチ」としての直流モータ用スイッチは、直流モータ端子M1を介して直列接続された高電位側のスイッチMU1H、及び、低電位側のスイッチMU1Lにより構成される。インバータスイッチング素子と同様に、高電位側及び低電位側のスイッチをまとめて、直流モータ用スイッチの符号を「MU1H/L」と記す。直流モータ720に対応する直流モータ用スイッチは、直流モータ端子M2を介して直列接続された高電位側及び低電位側のスイッチMU2H/Lにより構成される。第5実施形態以外の直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lは、インバータ601と共通の電源Bt1に対しインバータ601と並列に、高電位線BH1と低電位線BL1との間に設けられている。
三相巻線組801のU1相電流経路の分岐点Juには、直流モータ710、720の一端である第1端子T1が接続されている。直流モータ710、720の第1端子T1とは反対側の端部である第2端子T2は、それぞれ、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lの直流モータ端子M1、M2に接続されている。したがって、直流モータ用スイッチMU1H/Lは直流モータ710を介し、直流モータ用スイッチMU2H/Lは直流モータ720を介して、三相巻線組801のU1相に接続されている。直流モータ用スイッチの符号「MU1H/L」、「MU2H/L」の「U」はU1相を意味し、「1」は1台目の直流モータ710、「2」は2台目の直流モータ720を意味する。
直流モータ710、720において、第1端子T1から第2端子T2に向かう電流の方向を正方向とし、第2端子T2から第1端子T1に向かう電流の方向を負方向とする。また、直流モータ710の第1端子T1と第2端子T2との間には電圧Vx1が印加され、直流モータ720の第1端子T1と第2端子T2との間には電圧Vx2が印加される。直流モータ710、720は、正方向に通電されたとき正転し、負方向に通電されたとき逆転する。例えば直流モータ710への通電時、回転数ω1に比例した逆起電圧E1が発生する。つまり、比例定数をEとすると、逆起電圧E1は、式「E1=−Eω1」で表される。なお、第1端子及び第2端子の符号「T1、T2」は図5にのみ記載し、図6以下では記載を省略する。
直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lは、デューティ制御等によるスイッチングにより、それぞれ直流モータ端子M1の電圧Vm1及び直流モータ端子M2の電圧Vm2を可変とする。ここで、直流モータ710、720に通電される電流は三相モータ800に流れる相電流よりも小さいため、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lは、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lよりも電流容量が小さいスイッチが使用される。
本実施形態の回路構成について補足すると、複数のインバータ及び複数の三相巻線組を備える構成において、直流モータの第2端子は直流モータ用スイッチのみに接続され、第1端子が接続された三相巻線組とは別の三相巻線組には直接接続されない。つまり、直流モータが接続されるインバータとは別のインバータのインバータスイッチング素子が、その直流モータに対する直流モータ用スイッチを兼ねることはない。要するに、直流モータ用スイッチはインバータスイッチング素子とは独立して設けられている。このように構成すれば、直流モータ用スイッチをオフとすることで、インバータスイッチング素子がオンである場合にも直流モータへの通電だけを停止することができる。
制御部30は、三相モータ800の電気角θ、三相電流Iu1、Iv1、Iw1を取得する。制御部30は、三相モータ800に対するdq軸電流指令値Id*、Iq*、及び、直流モータ710、720に対する直流電流指令値I1*、I2*に基づき、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lの動作を操作する。制御部30の制御構成の詳細は、図15、図16を参照して後述する。また、図6以後の回路構成図では、制御部30及び入力信号の図示を省略する。
(第2実施形態)
図6に示す第2実施形態では、三相巻線組801のU1相及びV1相に計四台の直流モータ710〜740が接続される。ここでは、各直流モータの名称を図1〜図3のシステム構成に即して記載する。チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720の第1端子は、三相巻線組801のU1相電流経路の分岐点Juに接続されている。第1シートモータ730及び第2シートモータ740の第1端子は、三相巻線組801のV1相電流経路の分岐点Jvに接続されている。
第2実施形態では、四台の直流モータ710〜740に対応し、四組の直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/L、MV3H/L、MV4H/Lが設けられている。第1実施形態の構成に加え、第1シートモータ730の第2端子は直流モータ用スイッチMV3H/Lの直流モータ端子M3に接続されている。第2シートモータ740の第2端子は直流モータ用スイッチMV4H/Lの直流モータ端子M4に接続されている。以下の図で、直流モータリレー710、720の印加電圧Vx1、Vx2をまとめて示す。また、図6では、直流モータリレー730、740の印加電圧Vx3、Vx4をまとめて示す。
直流モータ用スイッチの符号「MV3H/L」、「MV4H/L」の「V」はV1相を意味し、「3」は3台目の直流モータ730、「4」は4台目の直流モータ740を意味する。直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/L、MV3H/L、MV4H/Lは、デューティ制御等によるスイッチングにより、直流モータ端子M1、M2、M3、M4の電圧Vm1、Vm2、Vm3、Vm4をそれぞれ可変とする。
以下、複数の直流モータのうち通電対象として選択された一台、又は、同一の一相に接続された二台以上の直流モータを「特定直流モータ」という。ECU10は、三相モータ800に通電すると同時に「特定直流モータ」に通電可能である。特定直流モータに選択された直流モータ710、720、730、740に通電される直流電流をI1、I2、I3、I4と記す。直流電流I1、I2、I3、I4の正負により、直流モータ710、720、730、740は正転又は逆転する。また、特定直流モータへの通電時、回転数に比例した逆起電圧が発生する。各直流モータ710、720、730、740に発生する逆起電圧をE1、E2、E3、E4と記す。
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態は、三相巻線組801のU1相に二台の直流モータ710、720が接続された第1実施形態に対し、さらに3台目、4台目の直流モータ730、740がV1相に接続された形態である。変形例では、3台目の直流モータ730がV1相に接続され、4台目の直流モータ740がW1相に接続されてもよい。或いは、3台目の直流モータ730がさらにU1相に接続されてもよく、その場合、4台目の直流モータ740は、U1相、V1相、W1相のいずれに接続されてもよい。また、3台目以降の直流モータが第2系統の三相巻線組802に接続される形態については、第11実施形態の変形例、又は第12実施形態として後述する。
(第3実施形態)
図7に示す第3実施形態では、第1実施形態に対し、三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1、及び、直流モータリレーMU1r、MU1R、MU2r、MU2Rをさらに含む。各モータリレーは、半導体スイッチング素子もしくは機械式リレー等により構成される。図7以下に示す各実施形態では、各モータリレーは、寄生ダイオードを有するMOSFETにより構成される。
三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1は、インバータ601と三相巻線組801との間の各相電流経路に設けられている。詳しくは、直流モータ710、720が接続されるU1相では、相電流経路における直流モータ710、720への分岐点Juよりも三相モータ800側に三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1が設けられている。
例えば三相モータ800に通電するとき、制御部30は、三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1をオンする。一方、三相モータ800に通電しないとき、制御部30は、三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1をオフする。三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1は、オフ時に三相モータ800からインバータ601への電流、すなわち逆起電力による電流を遮断可能である。また、例えばインバータスイッチング素子IU1Hがショート故障した場合であっても、逆起電圧により三相モータ800からインバータ601に流れる電流を遮断することができる。
直流モータリレーMU1r、MU1R、MU2r、MU2Rは、U1相電流経路の分岐点Juよりも直流モータ710、720側に設けられている。ここで、オフ時に正方向の電流を遮断する直流モータリレーMU1r、MU2rを「正方向の直流モータリレー」といい、オフ時に負方向の電流を遮断する直流モータリレーMU1R、MU2Rを「負方向の直流モータリレー」という。
図7の例では、MOSFETのソース端子同士が隣接するように、正方向直流モータリレーMU1r、MU2rが分岐点Ju側、負方向直流モータリレーMU1R、MU2Rが直流モータ710、720側に直列接続される。直流モータ710に直列接続された正方向モータリレーMU1r及び負方向モータリレーMU1Rをまとめて、符号を「MU1r/R」と記す。同様に、直流モータ720に直列接続された正負両方向のモータリレーの符号を「MU2r/R」と記す。
第3実施形態では、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに加え、直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rを用いて直流モータ710、720への通電及び遮断を切り替え可能である。例えば、直流モータ710について、高電位側の直流モータ用スイッチMU1Hがショート故障した場合であっても、直流モータリレーMU1r/Rをオフすることで、直流モータ710を安全に停止させることができる。
(電源リレー及び雑防素子)
以下の第4〜第10実施形態のECU10は、電源リレー及び雑防素子をさらに含む。電源リレーは、半導体スイッチング素子もしくは機械式リレー等により構成され、オフ時に電源Bt1から負荷への通電を遮断可能である。例えば電源リレーがMOSFETにより構成される場合、寄生ダイオードの向きによりオフ時にも一方向に電流が流れるため、どの方向の電流を遮断可能であるか区別する必要がある。
本明細書では、電源Bt1の電極が正規の向きに接続されたとき電流が流れる方向を正方向といい、オフ時に正方向の電流を遮断する電源リレーを「正方向の電源リレー」という。また、電源Bt1の電極が正規の向きとは逆向きに接続されたとき電流が流れる方向を負方向といい、オフ時に負方向の電流を遮断する電源リレーを「負方向の電源リレー」という。負方向の電源リレーは、一般に「逆接防止リレー」又は「逆接保護リレー」と呼ばれるものであるが、本明細書では正負方向の直流モータリレーとの用語の統一のため、「負方向の電源リレー」という。
電源Bt1からインバータ601への電流経路に設けられる正方向電源リレーの符号を「P1r」、負方向電源リレーの符号を「P1R」と記す。一般に、正方向電源リレーP1rが電源Bt1側、負方向電源リレーP1Rがインバータ601側に直列接続される。直列接続された正方向電源リレーP1r及び負方向電源リレーP1Rをまとめて、符号を「P1r/R」と記す。また、電源Bt1から直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lへの電流経路に別の電源リレーが設けられる構成において、別の正方向電源リレー及び負方向電源リレーの符号をそれぞれ「Pdr」、「PdR」と記し、まとめて「Pdr/R」と記す。
雑防素子は、ノイズフィルタとして機能するコイル及びコンデンサである。インバータ601の入力部に設けられる雑防素子の符号を「L1」及び「C1」と記す。また、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lの入力部に別の雑防素子が設けられる構成において、別の雑防素子の符号を「Ld」及び「Cd」と記す。
(第4実施形態)
図8に示す第4実施形態では、インバータ601及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに対し、正負両方向の電源リレー、並びに、雑防素子としてのコイル及びコンデンサが個別に設けられている。すなわち、電源Bt1とインバータ601との間には、電源リレーP1r/R、コイルL1及びコンデンサC1が設けられている。電源Bt1と直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lとの間には、電源リレーPdr/R、コイルLd及びコンデンサCdが設けられている。
直流モータ用スイッチ側の電源リレーPdr/Rは、電源Bt1から直流モータ710、720への通電を遮断し、インバータ側の電源リレーP1r/Rは、電源Bt1から三相モータ800への通電を遮断する。ここで、直流モータ710、720に通電される電流は三相モータ800に流れる相電流よりも小さいため、直流モータ用スイッチ側の電源リレーPdr/Rは、インバータ側の電源リレーP1r/Rよりも電流容量が小さいスイッチが使用される。
(第5実施形態)
図9に示す第5実施形態では、第4実施形態に対し電源の接続構成が異なる。第5実施形態では、インバータ601及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lは、個別の電源Bt1、Btdに接続されている。電源Btdから直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに入力される直流電圧を「入力電圧Vrd」と記す。なお、個別の電源Bt1、Btdは、大元の共通電源から別の配線やヒューズを経由して分岐されたものであってもよい。図9に(*)印で示す、電源Bt1の正極と電源Btdの正極との間の破線は、二つの電源Bt1、Btdが大元の共通電源に接続されていることを表す。この構成により、電源ノイズや電源電圧変動等の影響を互いに抑制したり、隔離したりすることができる。
(第6、第7実施形態)
図10、図11に示す第6、第7実施形態では、正方向電源リレー及び雑防素子については第4実施形態と同様に、インバータ601及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに対して個別に設けられている。ただし、負方向電源リレーPR1については、インバータ601及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに対して共通に設けられている。共通の負方向電源リレーP1Rは、第6実施形態では電源Bt1の負極側に設けられており、第7実施形態では電源Bt1の正極側に設けられている。このように、正方向電源リレーP1r、Pdrと負方向電源リレーP1Rとの配置構成が異なってもよい。
(第8実施形態)
図12に示す第8実施形態では、第4実施形態に対し、正負両方向の電源リレーP1r/R、並びに、雑防素子としてのコイルL1及びコンデンサC1がインバータ601及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに対して共通に設けられている。この構成により、各素子の数を減らすことができる。
(第9実施形態)
図13に示す第9実施形態では、第8実施形態に対し、負方向の直流モータリレーMU1R、MU2Rを無くす代わりに、共通の負方向リレーMcomRが高電位線BH1に設けられている。共通の負方向リレーMcomRは、オフ時に直流モータ710、720の負方向に流れる電流を遮断可能である。この構成により、負方向リレーの数を減らすことができる。
(第10実施形態)
図14に示す第10実施形態では、第9実施形態に対し、正方向の直流モータリレーMU1r、MU2rを無くす代わりに、共通の正方向リレーMcomrが低電位線BL1に設けられている。共通の正方向リレーMcomrは、オフ時に直流モータ710、720の正方向に流れる電流を遮断可能である。この構成により、正方向リレーの数を減らすことができる。
[ECUの制御構成]
次に、ECU10の制御構成について説明する。この部分の説明では、上記実施形態のうち、同一の一相としてU1相に接続された二台の直流モータ710、720を駆動し、且つ、三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1及び直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rを備える第3〜第8実施形態を想定する。接続される相がV1相又はW1相の場合にも、適宜、記号を読み替えて解釈可能である。
図15、図16を参照し、制御部30の詳細構成について説明する。制御部30は、マイコン、駆動回路等で構成され、図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。制御部30は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
制御部30は、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lの動作や、直流モータリレーMU1r/R、MU2r/R及び三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1の開閉を操作する。
制御部30は、三相制御部301及び直流制御部40を含む。図15に示すように、三相制御部301は、電流制限値演算部311、温度推定演算部321、相電流演算部331、三相二相変換部341、電流偏差算出器351、制御器361、二相三相変換部371、相電圧、直流モータ端子電圧演算部381を有する。
三相制御部301には、トルクセンサ94が検出した操舵トルクTsに基づいて演算されたdq軸電流指令値Id*、Iq*が入力される。電流制限値演算部311は、dq軸電流指令値Id*、Iq*及び推定温度H_est1に基づき、電流制限後のdq軸電流指令値Id1**、Iq1**を演算する。インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/L等の温度上昇により耐熱温度を超えることを防止するため、推定温度H_est1が高いほど電流制限値が低く設定される。
温度推定演算部321は、相電流Iu1、Iv1、Iw1に基づき、電流二乗値と抵抗との積(I2R)から通電による上昇温度を算出し、インバータ601の基板温度を推定する。一般に三相モータ制御では座標変換後のdq軸電流に基づいて上昇温度を算出するが、本実施形態では特定直流モータへも通電されるため、温度推定部位に応じた電流に基づき上昇温度を算出する。例えば電気回路は相電流Iu1、Iv1、Iw1に基づき推定し、コイルは相電流Iu1、Iv1、Iw1に基づき算出した電源電流に基づいて推定する。モータの温度は通電される電流が差し引かれる前の相電流を用いる必要があるため、一般の三相モータ制御とは異なる構成を採用する。
相電流演算部331は、インバータ601を流れる相電流Iu1、Iv1、Iw1に基づき、三相巻線組801に通電されるモータ相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#、及び、特定直流モータに通電される直流電流I1、I2を演算する。モータ相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#は三相二相変換部341に出力される。相電流演算部331が演算した直流電流I1もしくはI2は直流制御部40に出力される。相電流演算の詳細は、図18等を参照して後述する。
三相二相変換部341は、電気角θを用いてモータ相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#を座標変換し、dq軸電流Id1、Iq1を電流偏差算出器351にフィードバックする。電流偏差算出器351は、dq軸電流指令値Id1**、Iq1**からdq軸電流Id1、Iq1を減算し、電流偏差ΔId1、ΔIq1を算出する。制御器361は、電流偏差ΔId1、ΔIq1を0に近づけるように、PI制御等によりdq軸電圧指令Vd1、Vq1を演算する。二相三相変換部371は、電気角θを用いてdq軸電圧指令Vd1、Vq1を座標変換して三相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を演算する。
相電圧、直流モータ端子電圧演算部381は、例えば三相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1、及び直流制御部40から入力される直流モータ印加電圧Vx1、Vx2に基づき、操作後相電圧Vu1#、Vv1#、Vw1#及び直流モータ端子電圧Vm1、Vm2を演算する。ただし、実施例によっては別の方法での演算も可能である。相電圧、直流モータ端子電圧演算の詳細は、図19〜図26等を参照して後述する。
図16(a)に示すように、直流制御部40は電流偏差算出器45及び制御器46を有する。電流偏差算出器45は、特定直流モータに対する直流電流指令値I1*、I2*から、相電流演算部331により演算された直流電流I1、I2を減算し、電流偏差ΔI1、ΔI2を算出する。制御器46は、電流偏差ΔI1、ΔI2を0に近づけるように、PI制御等により直流モータ710、720への印加電圧Vx1、Vx2を演算し、三相制御部301の相電圧、直流モータ端子電圧演算部381に出力する。また、図16(b)に示すように、電流偏差を算出せずに、直流電流指令値I1*、I2*からマップ演算などで直流モータ710、720への印加電圧Vx1、Vx2を演算してもよい。
次に図17のフローチャートを参照し、ECU10の全体的な動作について説明する。以下のフローチャートの説明で、記号「S」はステップを示す。前出のフローチャートと実質的に同一のステップには同一のステップ番号を付して説明を省略する。図17のルーチンは、車両スイッチ11のオンによりスタートする。S01については、二巡目以降のルーチンで説明する。スタート後の一巡目、すなわち初回ルーチンでは、S01でNOと判断され、S11に移行する。
初回ルーチンでは、S11でYESと判断され、S12に移行する。制御部30は、S12でチルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720を駆動し、チルト及びテレスコピックを記憶位置に移動させる。また制御部30は、S13でステアリングロックを解除する。二巡目以降のルーチンでは、S11でNOと判断され、S12、S13がスキップされる。
制御部30は、S14で三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1及び直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rをオンし、トルク要求に応じて三相モータ800又は直流モータ710、720が駆動可能な状態とする。
S15〜S22では、二台の直流モータ710、720のうち特定直流モータが選択される。S15で制御部30は、操舵トルクの絶対値|Ts|がトルク閾値Ts_th(例えば5[Nm])未満であるか判断する。ここで、操舵トルクTsは、ステアリングホイール91に付与されるトルクの方向に応じて、例えば左回転方向が正、右回転方向が負と定義される。基本的に回転方向による特性の違いはないため、両方向の操舵トルクTsを包括して、操舵トルクの絶対値|Ts|がトルク閾値Ts_thと比較される。
操舵トルクの絶対値|Ts|がトルク閾値Ts_th以上の場合、つまり、ドライバによる操舵中は、S15でNOと判断される。操舵中にはチルトやテレスコピックを移動させないことが好ましいため、各直流モータ710、720への通電は行われず、S01の前に戻る。一方、操舵トルクの絶対値|Ts|がトルク閾値Ts_th未満の場合、つまり、ドライバが実質的に操舵中でないとき、S15でYESと判断され、S17に移行する。
S17では、車速Vが車速閾値V_th未満(例えば30[km/h])であるか判断される。車速Vが車速閾値V_th以上でありS17でNOと判断される高速走行時には、チルトやテレスコピックを移動させないことが好ましい。したがって、チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720へは通電されず、S01の前に戻る。一方、車速Vが車速閾値V_th未満でありS17でYESと判断される低速走行時には、チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720への通電が許容される。
チルトスイッチ12からのチルト入力がある場合、S18でYESと判断され、S22で制御部30は、チルトアクチュエータ710を駆動する。また、S18でNOであり、テレスコピックスイッチ13からテレスコピック入力がある場合、S19でYESと判断され、S23で制御部30は、テレスコピックアクチュエータ720を駆動する。
S22、S23で各直流モータ710、720が駆動した後、或いはS15又はS17でNOと判断されると、S01の前に戻り、車両スイッチ11がオフされたか否か判断される。車両スイッチ11がオンのままであり、S01でNOと判断されると、S11以後のルーチンが繰り返される。車両スイッチ11がオフされ、S01でYESと判断されると、S02で制御部30は、三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1及び直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rをオフする。その後、S03で制御部30は、ステアリングをロックし、処理を終了する。
次に図18のフローチャート及び図27、図28の電流波形図を参照し、相電流演算部331による相電流演算処理について説明する。ここでは、直流モータ710、720のいずれか一方が「特定直流モータ」として通電されるものとする。制御部30は、インバータ601から三相巻線組801に流れ込む電流についてキルヒホッフの法則を適用し、三相モータ800に通電されるモータ相電流Iu1#、及び、特定直流モータ710に通電される電流I1もしくは特定直流モータ720に通電される電流I2を算出する。
ここで、特定直流モータが接続される相を「特定相」と定義し、特定相以外の相を「非特定相」と定義する。この例ではU1相が特定相であり、V1相及びW1相が非特定相である。なお、以下の式において末番「a」は欠番とする。
特定直流モータとしてチルトアクチュエータ710が駆動される場合、S32でYESと判断され、S35Bに移行する。S35Bでは、三相巻線組801に通電されるモータ相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#、及び、チルトアクチュエータ710に通電される電流I1が式(1.1b)〜(1.4b)により演算される。なお、テレスコピックアクチュエータ720に通電される電流I2は、式(1.5b)の通り0である。
Iu1#=−Iv1−Iw1 ・・・(1.1b)
Iv1#=Iv1 ・・・(1.2b)
Iw1#=Iw1 ・・・(1.3b)
I1=Iu1−Iu1# ・・・(1.4b)
I2=0 ・・・(1.5b)
式(1.1b)では、非特定相であるV1相、W1相の電流センサSAV1、SAW1で検出される電流値Iv1、Iw1から、キルヒホッフの法則により、特定相であるU1相に流れる電流値Iu1#が推定電流値として算出される。式(1.4b)では、推定電流値Iu1#と、特定相であるU1相の電流センサSAUで検出される電流値Iu1とから、特定直流モータ710に流れる電流I1が算出される。
特定直流モータとしてテレスコピックアクチュエータ720が駆動される場合、S32でNO、S33でYESと判断され、S35Cに移行する。S35Cの式(1.1c)〜(1.3c)は、S35Bの式(1.1b)〜(1.3b)と同じであり、S35Bの式(1.4b)、(1.5b)が式(1.4c)、(1.5c)に置き換わる。
Iu1#=−Iv1−Iw1 ・・・(1.1c)
Iv1#=Iv1 ・・・(1.2c)
Iw1#=Iw1 ・・・(1.3c)
I1=0 ・・・(1.4c)
I2=Iu1−Iu1# ・・・(1.5c)
図27に、インバータ601に流れるインバータ相電流Iu1、Iv1、Iw1の波形を示す。また、図28に、S35B、S35Cで三相巻線組801に通電されるモータ相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#の波形を示す。インバータ相電流Iu1は、二点鎖線で示すモータ相電流Iu1#に対してオフセットしており、このオフセット分が直流電流I1もしくはI2に相当する。なお、直流モータ710、720に同時に通電する場合、このオフセット分は直流電流I1とI2との和に相当する。直流モータ710、720のうちの少なくとも一方の電流を検出し、検出した電流と直流電流I1とI2との和から直流電流I1、I2を算出してもよい。また、同じ電流が流れている前提で、和を半分にした値を直流電流I1、I2として算出してもよい。
S33でNOと判断された場合、いずれの直流モータ710、720も駆動されず、S35Dに移行する。S35Dでは、三相巻線組801に通電されるモータ相電流Iu1#、Iv1#、Iw1#が式(1.1d)〜(1.3d)により演算される。また、直流モータ710、720に通電される電流I1、I2は、式(1.4d)、(1.5d)の通り0である。
Iu1#=Iu1 ・・・(1.1d)
Iv1#=Iv1 ・・・(1.2d)
Iw1#=Iw1 ・・・(1.3d)
I1=0 ・・・(1.4d)
I2=0 ・・・(1.5d)
他の実施形態で、V1相に接続された直流モータに通電される場合、V1相が特定相となり、U1相及びW1相が非特定相となる。この場合、キルヒホッフの法則により、特定相の推定電流値Iv1#が算出され、推定電流値Iv1#と特定相の検出電流値Iv1とから、特定直流モータに流れる電流が算出される。
また、W1相に接続された直流モータに通電される場合、W1相が特定相となり、U1相及びV1相が非特定相となる。この場合、キルヒホッフの法則により、特定相の推定電流値Iw1#が算出され、推定電流値Iw1#と特定相の検出電流値Iw1とから、特定直流モータに流れる電流が算出される。
次に図19〜図26、図29〜図36のフローチャート、模式図、電圧波形図等を参照し、相電圧、直流モータ端子電圧演算部381による複数パターンの演算処理について説明する。各パターンの枝番1は、駆動対象のアクチュエータを選択する処理である。枝番2は、チルトアクチュエータ710又はテレスコピックアクチュエータ720の片方駆動時の電圧演算処理であり、枝番3は、チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720の同時駆動時の電圧演算処理である。枝番1の図と枝番2、3の図とは、連結記号J1〜J5を介して連結される。J1は第1パターンのものであり、以下「J」の後ろの数字が第何番目のパターンであるかを示す。
各パターンのフローチャートについて、枝番1〜3毎に処理が共通する場合、前出パターンの図を援用する。また、フローチャート中の一部で「アクチュエータ」を「Act」と記す。フローチャート以外で、図26(a)もしくは(b)と図30とは第1〜第4パターンで参照され、図26(c)と図36とは第5パターンで参照される。図26では、直流モータ710、720に対応する直流モータ端子電圧Vm1、Vm2をまとめて「Vm」と記し、印加電圧Vx1、Vx2をまとめて「Vx」と記す。
また、枝番2、3の処理では、例えば直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lもしくはインバータ601の、入力電圧Vr1もしくは制御上の基準電圧Vrefが12[V]の場合、VH=10[V]、VM=6[V]、VL=2[V]のように、VH、VM、VLが既定値として設定されている。さらに第3、第4パターンに用いられる最高電圧VHHは12[V]、又は12[V]よりわずかに低い電圧(例えば11.76[V])であり、最低電圧VLLは0[V]、又は0[V]よりわずかに高い電圧(例えば0.24[V])である。DUTY比で表せば、最高電圧VHHは98〜100%、最低電圧VLLは0〜2%に相当する。
通常、初期には全ての直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lがオフしている。以下、「スイッチをオフする」には、オン状態からオフ状態にターンオフする場合に限らず、初期のオフ状態を維持する場合を含むものとする。本実施形態では、以下の第1〜第5パターンの演算により、三相モータ800及び直流モータ710、720を同時に通電することができるとともに、電源電圧の制約内で三相モータ800及び直流モータ710、720の出力範囲を大きくすることができる。
<第1パターン>
第1パターンの処理を図19、図20に示す。まず図19を参照し、枝番1の駆動アクチュエータ選択処理について説明する。第1パターンは、チルトアクチュエータ710又はテレスコピックアクチュエータ720の片方を駆動する場合、又はいずれも駆動しない場合を想定した基本形である。図19のS31では、三相モータ800の出力電圧が所定値未満であるか否か判断され、YESの場合、S32に移行する。三相モータ800の出力電圧が所定値以上であり、S31でNOと判断された場合、制御部30は、三相モータ800の出力電圧の確保を優先し、直流モータ710、720への通電を行わない。
チルトアクチュエータ710が駆動される場合、S32でYESと判断され、S36B、S37Bに移行する。S36Bでは、直流モータリレーMU1r/Rがオン、MU2r/Rがオフされ、S37Bでは、チルトアクチュエータ710が片方駆動される。
テレスコピックアクチュエータ720が駆動される場合、S32でNO、S33でYESと判断され、S36C、S37Cに移行する。S36Cでは、直流モータリレーMU1r/Rがオフ、MU2r/Rがオンされ、S37Cでは、テレスコピックアクチュエータ720が片方駆動される。
S31またはS33でNOと判断された場合、いずれの直流モータ710、720も駆動されず、S36D、S37Dに移行する。S36Dでは、直流モータリレーMU1r/Rがオフ、MU2r/Rがオフされ、S37Dでは通常の制御、すなわち三相モータ800のみへの通電が行われる。
続いて図20を参照し、枝番2の片方駆動処理について説明する。図26(a)に示すように、第1、第2、第5パターンでは、制御部30は、操作後電圧Vu1#及び印加電圧Vxを決めてから、直流モータ端子電圧Vmを決める。
正方向に通電する場合、S41でYESと判断され、S51Fに移行する。S51Fでは、式(2.1)により中性点電圧Vn1が演算される。こうして制御部30は、中性点電圧Vn1を高くするように調整する。
Vn1=−Vu1+VH ・・・(2.1)
負方向に通電する場合、S41でNO、S42でYESと判断され、S51Rに移行する。S51Rでは、式(2.2)により中性点電圧Vn1が演算される。こうして制御部30は、中性点電圧Vn1を低くするように調整する。
Vn1=−Vu1+VL ・・・(2.2)
第1パターンでは、式の番号(2.3)は欠番とする。正方向にも負方向にも通電しない場合、S41でNO、S42でNOと判断され、S51Nに移行する。S51Nでは、式(2.4)により、中性点電圧Vn1が演算される。
Vn1=VM ・・・(2.4)
S51F、S51R、S51Nの後、共通にS54に移行する。S54で制御部30は、式(3.1)〜(3.3)により各相の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1に中性点電圧Vn1を加算し、操作後電圧Vu1#、Vv1#、Vw1#を演算する。ここで、図15に示す制御ブロック図の相電圧、直流モータ端子電圧演算部381は、相電圧振幅にかかわらずVH、VLを固定値として相電圧を演算する。以下、相電圧演算に関する説明では、「相電圧、直流モータ端子電圧演算部381」を「相電圧演算部381」と省略する。
図29(a)に示すように、二相三相変換部371が出力する相電圧演算処理前の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1は、0[V]を中心とする正弦波状である。直流モータ710、720の停止時、図29(b)に示すように、相電圧演算部381は、VM(6[V])中心の操作後電圧指令を出力する。
直流モータ710、720の駆動時、相電圧演算部381は三相モータ800の中性点電圧Vn1をシフトする。図30(a)に示すように、U1相の正方向に通電する場合、通電相の操作後電圧Vu1#となるVHは10[V]で一定である。図30(b)に示すように、U1相の負方向に通電する場合、通電相の操作後電圧Vu1#となるVLは2[V]で一定である。
Vu1#=Vu1+Vn1 ・・・(3.1)
Vv1#=Vv1+Vn1 ・・・(3.2)
Vw1#=Vw1+Vn1 ・・・(3.3)
なお、図30では波形の相電圧振幅が12[V]となる例を記載したが、電流検出のための下アーム素子のオン時間を考慮して相電圧振幅の最大値が11[V]程度となるように、直流モータ端子電圧演算におけるVHや、図19のS31における三相モータへの出力電圧の上限を決めてもよい。
また、図30では波形の相電圧振幅の上限が12[V]、下限が0[V]となる例を記載したが、下アーム素子もしくは上アーム素子のオン時間を考慮して相電圧振幅の上限が11.76[V]、下限が0.24[V]程度となるように、直流モータ端子電圧演算におけるVHや、図19のS31における三相モータへの出力電圧の上限を決めてもよい。
さらに、制御部30が三相モータ800への印加電圧に応じて中性点電圧Vn1を調整する構成について、図31〜図33を参照して説明する。図31の制御ブロック図には、図15に対し振幅演算部373が追加されている。振幅演算部373は、dq軸電圧指令Vd1、Vq1に基づいて、下式により相電圧振幅を演算する。なお、二点鎖線で示すように、振幅演算部373は、dq軸電流指令値Id1**、Iq1**に基づいて相電圧振幅を演算してもよく、電流検出値や回転数に基づいて相電圧振幅を演算してもよい。
相電圧振幅=√(2/3)×√(Vd12+Vq12)
相電圧演算部381は下式によりVH、VLを演算する。Vmaxは、入力電圧Vr1もしくは制御上の基準電圧Vrefである12[V]、或いは、低電位側の電流センサSAU1、SAV1、SAW1による電流検出を考慮した電圧(例えば、12[V]の93%=11.16[V])である。Vminは、0[V]、或いは、プリドライバ出力を考慮した電圧(例えば、12[V]の4%=0.48[V])である。
VH=Vmax−(√3)×相電圧振幅
VL=Vmin+(√3)×相電圧振幅
図32、図33に、相電圧振幅が電気角3周期(1080[deg])にわたって一定勾配で増加する例を示す。図32(a)に示すように、二相三相変換部371が出力する相電圧演算処理前の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1は、0[V]を中心とし、振幅が漸増する正弦波状である。直流モータ710、720の停止時、図32(b)に示すように、相電圧演算部381は、VM(6[V])中心の操作後電圧指令を出力する。
直流モータ710、720の駆動時、相電圧演算部381は三相モータ800の中性点電圧Vn1をシフトする。図33(a)に示すように、U1相の正方向に通電する場合、通電相の操作後電圧Vu1#となるVHは、相電圧振幅の増加に伴って、12[V]から約10[V]まで漸減する。V1相及びW1相の電圧Vv1#、Vw1#の最大値は12[V]となる。図33(b)に示すように、U1相の負方向に通電する場合、通電相の操作後電圧Vu1#となるVHは、相電圧振幅の増加に伴って、0[V]から約2[V]まで漸増する。V1相及びW1相の電圧Vv1#、Vw1#の最小値は0[V]となる。
図20に戻り、S55で制御部30は、操作後電圧Vu1#、Vv1#、Vw1#を出力するように、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lをスイッチング動作させる。
S61で制御部30は、チルトアクチュエータ710を片方駆動する場合、式(4.1)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、テレスコピックアクチュエータ720を片方駆動する場合、式(4.2)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=Vu1#−Vx1 ・・・(4.1)
Vm2=Vv1#−Vx2 ・・・(4.2)
S65で制御部30は、直流モータ端子電圧Vm1又はVm2を出力するように、直流モータ用スイッチMU1H/L又はMU2H/Lをスイッチング動作させる。
なお、S54の後、制御部30は、操作後相電圧Vu1#、Vv1#、Vw1#に対し、さらに上べた変調処理又は下べた変調処理を行い、S55で、変調処理後の相電圧を出力するように、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lをスイッチング動作させてもよい。
<第2パターン>
第2パターンの処理を図20〜図22に示す。第2パターンは、第1パターンに対し、チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720の両方を同時駆動する場合を加えたものである。枝番1の駆動アクチュエータ選択処理を示す図21には、図19に対し、S32でYES、且つS33でYESの場合に移行するS36A、S37Aが追加されている。S36Aでは、直流モータリレーMU1r/Rがオン、MU2r/Rがオンされ、S37Aでは、チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720が同時駆動される。
片方駆動処理は、第1パターンの図20が援用される。続いて図22を参照し、枝番3の同時駆動処理について説明する。同時駆動に関するステップには、ステップ番号の末尾に「T」を付す。
両方正方向に通電する場合、S41TでYESと判断され、S51Fに移行する。S51Fでは、片方駆動と同じ式(2.1)により中性点電圧Vn1が演算される。両方負方向に通電する場合、S41TでNO、S42TでYESと判断され、S51Rに移行する。S51Rでは、片方駆動と同じ式(2.2)により中性点電圧Vn1が演算される。
一方は正方向、他方は負方向に通電する場合、S41TでNO、S42TでNO、S43TでYESと判断され、S51Xに移行する。S51Xでは、式(2.3)により、中性点電圧Vn1が演算される。
Vn1=−Vu1+VM ・・・(2.3)
正方向にも負方向にも通電しない場合、S43TでNOと判断され、S51Nに移行する。S51Nでは、片方駆動と同じ式(2.4)により中性点電圧Vn1が演算される。その後のS54、S55は片方駆動と同じである。S61Tでは、式(4.1)、(4.2)を両方用いて、直流モータ端子電圧Vm1、Vm2が演算される。S65Tで制御部30は、直流モータ端子電圧Vm1及びVm2を出力するように、直流モータ用スイッチMU1H/L及びMU2H/Lをスイッチング動作させる。
<第3パターン>
第3パターンの処理を図19、図23に示す。図26(b)に示すように、第3パターンでは、制御部30は、直流モータ端子電圧Vm及び印加電圧Vxを決めてから、操作後電圧Vu1#を決める。枝番1の処理は、第1パターンの図19が援用される。
図23にて正方向に通電する場合、S41でYESと判断され、S44Fに移行する。S44Fで制御部30は、チルトアクチュエータ710を片方駆動する場合、式(5.1f)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、テレスコピックアクチュエータ720を片方駆動する場合、式(5.2f)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VLL ・・・(5.1f)
Vm2=VLL ・・・(5.2f)
負方向に通電する場合、S41でNO、S42でYESと判断され、S44Rに移行する。S44Rで制御部30は、チルトアクチュエータ710を片方駆動する場合、式(5.1r)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、テレスコピックアクチュエータ720を片方駆動する場合、式(5.2r)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VHH ・・・(5.1r)
Vm2=VHH ・・・(5.2r)
正方向にも負方向にも通電しない場合、S41でNO、S42でNOと判断され、S44Nに移行する。S44Nで制御部30は、チルトアクチュエータ710を片方駆動する場合、式(5.1n)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、テレスコピックアクチュエータ720を片方駆動する場合、式(5.2n)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VM ・・・(5.1n)
Vm2=VM ・・・(5.2n)
S46で制御部30は、直流モータ端子電圧Vm1又はVm2を出力するように、直流モータ用スイッチMU1H/L又はMU2H/Lをスイッチング動作させるか、又はオン/オフする。S44F、S44R、S44Nの括弧内に具体的な直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lのオン/オフを記す。
つまり、最高電圧VHHを出力するDUTY比100%のスイッチング動作は、「高電位側スイッチの常時オン」且つ「低電位側スイッチの常時オフ」に相当する。最低電圧VLLを出力するDUTY比0%のスイッチング動作は「高電位側スイッチの常時オフ」且つ「低電位側スイッチの常時オン」に相当する。また、中間電圧VMを出力するDUTY比50%のスイッチング動作は、「高電位側スイッチの常時オフ」且つ「低電位側スイッチの常時オフ」に相当する。
直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lをスイッチング動作させず、オン/オフの切替のみを行うことで、スイッチが遅いトランジスタや機械式リレーを使用することができ、安価な構成とすることができる。
次に、S52で制御部30は、チルトアクチュエータ710を片方駆動する場合、式(6.1)により中性点電圧Vn1を演算し、テレスコピックアクチュエータ720を片方駆動する場合、式(6.2)により中性点電圧Vn1を演算する。
Vn1=Vm1+Vx1−Vu1 ・・・(6.1)
Vn1=Vm2+Vx2−Vv1 ・・・(6.2)
S52の後、制御部30は、第1、第2パターンと同様のS54で、各相の電圧指令Vu1、Vv1、Vw1に中性点電圧Vn1を加算し、操作後電圧Vu1#、Vv1#、Vw1#を演算する。操作後電圧Vu1#は、「Vm1+Vx1」又は「Vm2+Vx2」となる。なお、第3パターンには上べた変調処理又は下べた変調処理は適用されない。そして、第1、第2パターンと同様のS55で制御部30は、操作後電圧Vu1#、Vv1#、Vw1#を出力するように、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lをスイッチング動作させる。
以上のように、制御部30は、例えば特定直流モータ710の正方向に通電するとき、第2端子に接続される低電位側の直流モータ用スイッチMU1Lをオンするか、第2端子T2に接続される低電位側及び高電位側の直流モータ用スイッチMU1H/Lを第2端子T2の電圧が第1端子T1の電圧より低くなるようにスイッチング動作させ、且つ三相巻線組801の中性点電圧Vn1を高くするように操作する。第2パターンでは、制御部30は、三相巻線組801の同一の一相(この例ではU1相)に接続された複数の特定直流モータ710、720に同時に通電する際に、正方向に通電する直流モータに対して、上記の正方向通電時と同様にスイッチング動作させる。
また、制御部30は、例えば特定直流モータ710の負方向に通電するとき、第2端子に接続される高電位側の直流モータ用スイッチMU1Hをオンするか、第2端子T2に接続される低電位側及び高電位側の直流モータ用スイッチMU1H/Lを第2端子T2の電圧が第1端子T1の電圧より高くなるようにスイッチング動作させ、且つ三相巻線組801の中性点電圧Vn1を低くするように操作する。第2パターンでは、制御部30は、三相巻線組801の同一の一相(この例ではU1相)に接続された複数の特定直流モータ710、720に同時に通電する際に、負方向に通電する直流モータに対して、上記の負方向通電時と同様にスイッチング動作させる。
<第4パターン>
第4パターンの処理を図21、図24、図25に示す。図26(c)に示すように、第4パターンでは、制御部30は、印加電圧Vxを直接用いず、通電方向の正負に応じて直流モータ端子電圧Vm及び操作後電圧Vu1#を決める。なお、通電方向の正負は、印加電圧Vx1、Vx2や電流指令I1*、I2*に基づく。第4パターンでは、印加電圧Vx1、Vx2を用いないため、制御部30の演算量を低減することができる。また、直流モータ用スイッチMU1H/L又はMU2H/Lをオン/オフするだけにすれば動作が単純化するため異常を見つけやすくなる。
枝番1の処理は、第2パターンの図21が援用される。図24に示す枝番2の片方駆動処理で、S41、S42、S51F、S51R、S51N、S54、S55は、第1、第2パターンの図20と同じである。S55の後、正方向に通電する場合、S64Fに移行し、負方向に通電する場合、S64Rに移行し、正方向にも負方向にも通電しない場合、S64Nに移行する。
S64F、S64R、S64Nで制御部30は、第3パターンのS44F、S44R、S44Nと同様に直流モータ端子電圧Vm1、Vm2を演算する。さらにS66で制御部30は、第3パターンのS46と同様に、直流モータ端子電圧Vm1又はVm2を出力するように、直流モータ用スイッチMU1H/L又はMU2H/Lをスイッチング動作させるか、又はオン/オフする。
図25に示す枝番3の同時駆動処理で、S41T、S42T、S43T、S51F、S51R、S51X、S51N、S54、S55は、第2パターンの図22と同じである。S55の後、両方正方向に通電する場合、S64FFに移行し、両方負方向に通電する場合、S64RRに移行する。
一方は正方向、他方は負方向に通電する場合であって、チルトアクチュエータ710が正方向の場合、S63でYESと判断され、S64FRに移行する。一方は正方向、他方は負方向に通電する場合であって、テレスコピックアクチュエータ720が正方向の場合、S63でNOと判断され、S64RFに移行する。正方向にも負方向にも通電しない場合、S64NNに移行する。
S64FFで制御部30は、式(7.1f)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、式(7.2f)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VLL ・・・(7.1f)
Vm2=VLL ・・・(7.2f)
S64RRで制御部30は、式(7.1r)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、式(7.2r)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VHH ・・・(7.1r)
Vm2=VHH ・・・(7.2r)
S64FRで制御部30は、式(7.1f)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、式(7.2r)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VLL ・・・(7.1f)
Vm2=VHH ・・・(7.2r)
S64RFで制御部30は、式(7.1r)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、式(7.2f)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VHH ・・・(7.1r)
Vm2=VLL ・・・(7.2f)
S64NNで制御部30は、式(7.1n)により直流モータ端子電圧Vm1を演算し、式(7.2n)により直流モータ端子電圧Vm2を演算する。
Vm1=VM ・・・(7.1n)
Vm2=VM ・・・(7.2n)
S66Tで制御部30は、直流モータ端子電圧Vm1及びVm2を出力するように、直流モータ用スイッチMU1H/L及びMU2H/Lをスイッチング動作させるか、又はオン/オフする。スイッチオン/オフの考え方は第3パターンのS46と同様である。
<第5パターン>
第5パターンの処理を図21、図34、図35に示す。また、図36の電圧波形を参照する。図36に示すように、第5パターンでは、U1相の操作後電圧Vu1#を一定電圧にするのでなく、電圧指令Vu1に対して一定のVH、VL又はVMだけシフトさせる。つまり、制御部30は、操作後電圧Vu1#と直流モータ端子電圧Vm1との差が印加電圧Vx1となるように、直流モータ端子電圧Vm1を決める。
枝番1の処理は、第2パターンの図21が援用される。図34に示す枝番2の片方駆動処理で、正方向に通電する場合、S53Fでは、式(8.1)により中性点電圧Vn1が演算される。負方向に通電する場合、S53Rでは、式(8.2)により中性点電圧Vn1が演算される。
Vn1=VH ・・・(8.1)
Vn1=VL ・・・(8.2)
正方向にも負方向にも通電しない場合のS51Nは、第1、第2パターンの図20と同じである。また、S53F、S53R、S51Nの後、S54、S55、S61、S65は、第1、第2パターンの図20と同じである。S54の後、制御部30は、さらに上べた変調処理又は下べた変調処理を行ってからS55に移行してもよい。
図35に示す枝番3の同時駆動処理で、両方正方向に通電する場合、S41TでYESと判断され、S53Fに移行する。S53Fでは、片方駆動と同じ式(8.1)により中性点電圧Vn1が演算される。両方負方向に通電する場合、S41TでNO、S42TでYESと判断され、S51Rに移行する。S53Rでは、片方駆動と同じ式(8.2)により中性点電圧Vn1が演算される。
一方は正方向、他方は負方向に通電する場合、S41TでNO、S42TでNO、S43TでYESと判断され、S53Xに移行する。S53Xでは、式(8.3)により、中性点電圧Vn1が演算される。
Vn1=VM ・・・(8.3)
正方向にも負方向にも通電しない場合のS51Nは、第2パターンの図22と同じである。また、S53F、S53R、S53X、S51Nの後、S54、S55、S61T、S65Tは、第2パターンの図22と同じである。
以上の各パターンの演算処理は、中性点電圧Vn1をシフトする電圧の余裕があるときに直流モータ710、720に電圧を印加する構成であるため、直流モータ710、720は三相モータ800に対して出力が小さい方が好ましい。また直流モータ710、720は、三相モータ800よりも通電される電流が小さいものであること、抵抗が大きいものや時定数が大きいものであることが好ましい。
次に図37のフローチャート及び図38の回路構成図を参照し、車両スイッチをオンした直後の動作について説明する。図38は、第2実施形態の図6の構成において、チルトアクチュエータ710及びテレスコピックアクチュエータ720に通電する状態を示す。ここでは、直流モータリレーMU1r/R、MU2r/R、MV3r/R、MV4r/Rが無いものとして説明する。直流モータリレーMU1r/R、MU2r/R、MV3r/R、MV4r/Rが有る構成では、少なくとも対応する直流モータの通電時に直流モータリレーMU1r/R、MU2r/R、MV3r/R、MV4r/Rがオンされるものとする。
本実施形態では、図17のS01に示される車両スイッチのオン直後、シートの位置、チルト及びテレスコピックの位置をできるだけ早く記憶位置に移動させたいという要求がある。そこで、操舵トルクの絶対値|Ts|が低く車速Vが低い場合、三相モータ800に通電せず、複数の直流モータ710〜740に同時に通電する。以下の明細書中、「シートモータ730、740によるシートの動作位置が記憶位置にある」ことを省略して、「シートモータ730、740が記憶位置にある」と記す。
図37の完了フラグ1は、第1シートモータ730が記憶位置以外にあるときオフであり、第1シートモータ730が記憶位置に到達したときオンとなる。完了フラグ2は、第2シートモータ740が記憶位置以外にあるときオフであり、第2シートモータ740が記憶位置に到達したときオンとなる。完了フラグ3は、チルトが記憶位置以外にあるときオフであり、チルトが記憶位置に到達したときオンとなる。完了フラグ4は、テレスコピックが記憶位置以外にあるときオフであり、テレスコピックが記憶位置に到達したときオンとなる。車両スイッチがオンされた直後のS71には、完了フラグ1〜4は、初期値としていずれもオフに設定される。
S72で制御部30は、全ての高電位側の直流モータ用スイッチMU1H、MU2H、MV3H、MV4Hをオフ、低電位側の直流モータ用スイッチMU1L、MU2L、MV3L、MV4Lをオンし、且つ、直流モータ710〜740が接続された相の高電位側のインバータスイッチング素子IU1H、IV1Hをオン、低電位側のインバータスイッチング素子IU1L、IV1Lをオフする。S73以下は、この初期状態を前提として記載する。こうして、三相モータ800には通電されず、各直流モータ710〜740に同時に通電可能な状態となる。
別の方法として制御部30は、全ての高電位側の直流モータ用スイッチMU1H、MU2H、MV3H、MV4Hをオン、低電位側の直流モータ用スイッチMU1L、MU2L、MV3L、MV4Lをオフし、且つ、直流モータ710〜740が接続された相の高電位側のインバータスイッチング素子IU1H、IV1Hをオフ、低電位側のインバータスイッチング素子IU1L、IV1Lをオンしてもよい。
また、シート位置やチルトもしくはテレスコピックの位置などの条件により、各直流モータ710〜740の通電方向を変えたい場合は、次のようにしてもよい。まず、高電位側のインバータスイッチング素子IU1H、IV1Hと低電位側のインバータスイッチング素子IU1L、IV1Lとを例えば50%など同じDUTY比でスイッチング動作させる。そして、各直流モータの通電したい向きに応じて高電位側の直流モータ用スイッチMU1H、MU2H、MV3H、MV4Hをオフし、低電位側の直流モータ用スイッチMU1L、MU2L、MV3L、MV4Lをオンするか、高電位側のインバータスイッチング素子IU1H、IV1Hをオンし、低電位側のインバータスイッチング素子IU1L、IV1Lをオフする。
各相のインバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/Lを同じDUTY比でスイッチング動作させるか、高電位側及び低電位側のインバータスイッチング素子をオフとすることで三相モータ800への通電を停止し、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/L、MV3H/L、MV4H/Lのスイッチングもしくはスイッチング動作により直流モータ端子電圧Vm1、Vm2、Vm3、Vm4を変えることで、三相モータ800には通電せずに各直流モータ710〜740に同時に通電できる。
S73では、第1シートモータ730が記憶位置に到達したか、又は完了フラグ1がオンであるか判断される。S73でYESの場合、S741にて直流モータ用スイッチMV3Lがオフされる。このとき、完了フラグ1はオンになっている。S73でNOの場合、S742にてMV3Lはオン状態が維持され、第1シートモータ730への通電が継続される。
S75では、第2シートモータ740が記憶位置に到達したか、又は完了フラグ2がオンであるか判断される。S75でYESの場合、S761にて直流モータ用スイッチMV4Lがオフされる。このとき、完了フラグ2はオンになっている。図38には、この時点での電流経路を示す。S75でNOの場合、S762にてMV4Lはオン状態が維持され、第2シートモータ740への通電が継続される。
S77では、チルトが記憶位置に到達したか、又は完了フラグ3がオンであるか判断される。S77でYESの場合、S781にて直流モータ用スイッチMU1Lがオフされる。このとき、完了フラグ3はオンになっている。S77でNOの場合、S782にてMU1Lはオン状態が維持され、チルトアクチュエータ710への通電が継続される。
S79では、テレスコピックが記憶位置に到達したか、又は完了フラグ4がオンであるか判断される。S79でYESの場合、S801にて直流モータ用スイッチMU2Lがオフされる。このとき、完了フラグ4はオンになっている。S79でNOの場合、S802にてMU2Lはオン状態が維持され、テレスコピックアクチュエータ720への通電が継続される。
S81では、完了フラグ1〜4が全てオンであるか判断される。全ての完了フラグ1〜4がオンでありS81でYESの場合、処理は終了する。一方、完了フラグ1〜4のいずれかがオフの場合、S81でNOと判断され、S73の前に戻り、S73、S75、S77、S79の判断ステップが繰り返される。なお、図示を省略するが、完了フラグ1及び2がオンになった後、インバータスイッチング素子IV1Hがオフされ、完了フラグ3及び4がオンになった後、インバータスイッチング素子IU1Hがオフされる。
次に、図39〜図43を参照し、三相モータ駆動中の直流モータの駆動と停止に関する制御について説明する。この部分の説明では、直流モータの符号として「710」のみを記す。なお、同一相に接続された二台の特定直流モータ710、720に同時に通電される場合、各直流モータ710、720に流れる合計の電流を直流電流として解釈する。また、上述の説明では言及されていないが、制御部30は、インバータ601もしくは三相モータ800について過電流異常等の異常検出を行うものとする。
図39に、三相モータ800の駆動中に直流モータ710の駆動又は停止を切り替えるフローチャートを示す。制御部30は、以下に説明する所定の条件に基づき、中性点電圧Vn1の操作による直流モータ710の駆動又は停止を切り替える。S91では車両スイッチ11がオフ、すなわち車両停止時であるか判断され、YESの場合、制御部30は処理を終了する。車両スイッチ11がオンでありS91でNOの場合、S92に移行する。
S92では「オン判定」として、直流モータ710への通電開始が次の各項目のAND条件により判定される。全項目の条件を満たす場合、S92でYESと判断され、S93〜S95の「オン処理」に進む。一項目でも条件を満たさない場合、S91の前に戻る。
[1]駆動信号=オン。
[2]相電圧振幅が閾値Vth1より小さく、且つ、相電流振幅が閾値Ith1より小さい。
[3]インバータ601もしくは三相モータ800の異常が検出されていない、すなわち正常。
[1]の駆動信号は、車両起動時の初期の駆動時、ドライバ操作によりチルトスイッチ12の入力があったときや、他のECUから直流モータ710を駆動する指令信号が通知されたときなどにオンされる。なお、直流モータ720の場合、テレスコピックスイッチ13の入力があったときに駆動信号がオンされる。
[2]は、インバータ601の出力に余裕が有ることを示す。相電圧振幅が閾値Vth1より小さく、且つ、相電流振幅が閾値Ith1より小さいとき、三相モータ800への電力供給が小さいため直流モータ710へ電力を分配する余裕が有ると判断される。相電圧振幅は相電圧指令の振幅に相関のある値であればよく、相電流振幅は実相電流の振幅に相関のある値であればよい。例えば相電圧振幅や相電流振幅に相関のある値として三相モータ800の回転数を用いてもよい。相電流振幅には電流指令値を用いてもよい。[1]、[2]、[3]のうちの全部の判定をしてもよく、一部の判定だけとしてもよい。また、図17で説明した操舵トルクの絶対値|Ts|や車速Vに基づき判定してもよい。
オン処理のS93では、インバータ601もしくは三相モータ800の異常検出におけるフェイルセーフ閾値についてのフェイルセーフ閾値切替フラグがオンされる。これにより制御部30は、直流モータ710に流れることが想定される電流分、三相電流について過電流を判定する閾値を大きくする。なお、三相モータ800用の異常検出におけるフェイルセーフ閾値の他に、回路や直流モータ710の異常検出におけるフェイルセーフ閾値が設定されてもよい。S94では電流検出切替フラグがオンされる。S95では、図42、図43の時刻t1〜t3の期間に対応する「直流モータへの通電開始処理」が実行され、直流モータ710が駆動される。
このように制御部30は、直流回転機直流モータ710の駆動時と非駆動時とで、異常検出におけるフェイルセーフ閾値を切り替える。図40、図41にフェイルセーフ閾値切替のフローチャ−ト例1、2を示す。図40に示す例1では、S930でフェイルセーフ閾値切替フラグがオフの場合、S931でフェイルセーフ閾値がAに設定され、フェイルセーフ閾値切替フラグがオンの場合、S932でフェイルセーフ閾値がB(>A)に設定される。
図41に示す例2では、S930でフェイルセーフ閾値切替フラグがオフの場合、S933で三相電流和の絶対値(|Iu1+Iv1+Iw1|)がCより大きいか判断される。また、フェイルセーフ閾値切替フラグがオンの場合、S934で三相電流和の絶対値(|Iu1+Iv1+Iw1|)が(C+D)より大きいか判断される。S933でYESの場合、S935で制御部30は異常時カウンタをインクリメントする。S934でYESの場合、S936で制御部30は異常時カウンタをインクリメントする。
電流検出切替フラグがオンされたときの処理は、図18の相電流演算のフローチャートが参照される。すなわち、電流検出切替フラグがオンのとき、S35B、S35Cの式によりモータ相電流Iu#、Iv#、Iw#及び直流電流I1、I2が算出される。一方、電流検出切替フラグがオフのとき、S35Dの式によりモータ相電流Iu#、Iv#、Iw#が算出される。
図39に戻り、S96では「オフ判定」として、直流モータ710への通電終了が次の各項目のOR条件により判定される。一項目でも条件を満たす場合、S96でYESと判断され、S97〜S99の「オフ処理」に進む。いずれの項目の条件も満たさない場合、S96の前に戻る。
[1]駆動信号=オフ。
[2]相電圧振幅が閾値Vth2より大きいか、又は、相電流振幅が閾値Ith2より大きい。
[3]インバータ601もしくは三相モータ800の異常が検出された。
[1]の駆動信号は、ドライバ操作によりチルトスイッチ12がオフされたときや、他のECUから直流モータ710を停止する指令信号が通知されたときなどにオフされる。なお、直流モータ720の場合、テレスコピックスイッチ13がオフされたときに駆動信号がオフされる。
[2]は、インバータ601の出力に余裕が無いことを示す。相電圧振幅が閾値Vth2より大きいか、又は、相電流振幅が閾値Ith2より大きいとき、三相モータ800への電力供給が大きいため直流モータ710へ分配する出力の余裕が無いと判断される。オン判定及びオフ判定の閾値について、Vth1<Vth2、Ith1<Ith2とすることで、オン/オフのヒステリシスを設けてもよい。[1]、[2]、[3]のうちの全部の判定をしてもよく、一部の判定だけとしてもよい。また、図17で説明した操舵トルクの絶対値|Ts|や車速Vに基づき判定してもよい。
オフ処理では、オン処理と逆の順序の処理が行われる。S97では、図42、図43の時刻t4〜t6の期間に対応する「直流モータへの通電終了処理」が実行され、直流モータ710が停止する。S98では電流検出切替フラグがオフされる。S99ではフェイルセーフ閾値切替フラグがオフされる。これにより、直流モータ710への通電中に変更された閾値が元の値に戻される。その後、S91の前に戻り、ルーチンが繰り返される。
図39のフローチャートでは、オン処理の完了後にオフ判定が実行されるシーケンスを記載したが、直流モータ710への通電開始処理中にオフ判定の条件を満たした場合、オフ処理に進むようにしてもよい。逆に直流モータへの通電終了処理中にオン判定を満たした場合、オン処理に進むようにしてもよい。また、オンとオフとを行ったり来たりすることを避けるために、オフ処理後は所定期間(例えば数100ms程度)、再度のオン判定を受け付けないようにしてもよい。
図42、図43に、三相モータ800の駆動中の直流モータ710の駆動時及び停止時における制御例1、2として、インバータ601の各相電圧の変化、低電位側直流モータ用スイッチのオン/オフ、及び、直流モータ710に流れる直流電流I1の変化を示す。各相電圧の縦軸に示すように、各相電圧は12[V]を100%としてDUTY比に換算されてもよい。また、低電位側直流モータ用スイッチを「下スイッチ」と省略して記し、符号は「MU1L」のみを記載する。
まず、制御例1、2の細かな違いは無視し、全体的な動作を説明する。主な狙いとして、制御部30は、直流モータ710の駆動を停止するとき、インバータ601側で電流を絞ってから下スイッチMU1Lをオフする。そのために、図39を参照して説明したように、例えばオン判定時に相電圧振幅が閾値Vth1以上のとき、制御部30は直流モータ710に通電しない。また、直流モータ710への通電中に相電圧振幅が閾値Vth2を上回ったら、制御部30は直流モータ710への通電を終了する。なお、閾値Vth1、Vth2は、始動と停止にかかる時間を考慮して余裕のある電圧値に設定されることが好ましい。
三相モータ800における各相電圧の平均値、又は平均相当値は、時刻t1に6[V]から0[V]近く(例えば約1[V])のVLxまで低下した後、時刻t2に下スイッチMU1LがオンされるとVLxから上昇し、時刻t3に12[V]近く(例えば約11[V])のVHxまで到達する。このとき直流電流は、各相電圧の変化に連れて0から最大値I100まで増加した後、その状態で維持される。
直流モータ710の通電終了が判定されると、制御部30は、時刻t4にインバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lを操作して各相電圧を低下させる。そして、各相電圧の平均値、又は平均相当値がVLxまで低下した時刻t5後の時刻t6に、制御部30は下スイッチMU1Lをオフする。平易に言えば、制御部30は、インバータ601側の電流が徐々に低下するように電流を絞ってから下スイッチMU1Lを切る。
このように制御部30は、直流モータ710を停止するとき、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lを操作して直流モータ710の第1端子T1側の電圧を低下させた後、下スイッチMU1Lをオフして直流モータ710への通電を終了する。これにより、電流容量が比較的小さいスイッチを直流モータ用スイッチMU1H/Lに用いた場合でも、通電停止時に下スイッチMU1Lが過負荷になることを避けることができる。また、高速スイッチング動作をしない前提で、スイッチング動作が遅いトランジスタや機械リレーを使うことができる。
次に制御例1と制御例2とでは、下スイッチMU1Lのオン直前の期間及びオフ前後の期間、すなわち時刻t1〜t2、時刻t5〜t7の期間における通電相U1相の相電圧演算が異なる。制御例1では、通電相であるU1相の相電圧Vu1#を一定とするように中性点電圧Vn1がシフトされる。この場合、下スイッチMU1Lをオン又はオフする時刻t2、t6において、U1相電圧Vu1#は完全に0[V]にはならない。下スイッチMU1Lのオフ前の時刻t5〜t6の期間、一定の相電圧Vu1#に対応した直流電流I1が流れる。
一方の制御例2では、時刻t1〜t2、時刻t5〜t7の期間、三相電圧を正弦波としたまま中性点電圧Vn1がシフトされる。そして、下部拡大図に示すように、U1相電圧Vu1#がちょうど0[V](或いはU1相のDUTY比がちょうど0[%])となるタイミング、あるいは検出電流が0となるか通電経路の時定数の遅れを考慮して電流が0となるタイミングで、制御部30は下スイッチMU1Lをオン又はオフする。そして制御部30は、時刻t2から微小時間δT経過後に、各相電圧の上昇を開始する。また、下スイッチMU1Lのオフ前の時刻t5〜t6の期間、正弦波の相電圧Vu1#に対応した直流電流I1が流れる。制御例2では、下スイッチMU1Lのオン時又はオフ時にインバータ601から印加される電圧を理想的に0とすることができる。
[二系統三相モータを駆動対象とする回路構成]
次に、二系統構成の三相モータ800を駆動対象とする実施形態について説明する。まず三相モータ800の構造について、図44、図45を参照し、軸方向の一方側にECU10が一体に構成された「機電一体式モータ」の構成例について説明する。図44に示す形態では、ECU10は、三相モータ800の出力側とは反対側において、シャフト87の軸Axに対して同軸に配置されている。なお、他の実施形態では、ECU10は、三相モータ800の出力側において、三相モータ800と一体に構成されてもよい。三相モータ800はブラシレスモータであり、ステータ840、ロータ860、及び、それらを収容するハウジング830を備えている。
ステータ840は、ハウジング830に固定されているステータコア844と、ステータコア844に組み付けられている二組の三相巻線組801、802とを有している。第1系統の三相巻線組(以下「第1三相巻線組」)801を構成する各相巻線からは、リード線851、853、855が延び出している。第2系統の三相巻線組(以下「第2三相巻線組」)802を構成する各相巻線からは、リード線852、854、856が延び出している。各相巻線は、ステータコア844の各スロット848に巻回される。
ロータ860は、リア軸受835及びフロント軸受836により支持されているシャフト87と、シャフト87が嵌入されたロータコア864とを有している。ロータ860は、ステータ840の内側に設けられており、ステータ840に対して相対回転可能である。シャフト87の一端には、回転角検出用の永久磁石88が設けられている。
ハウジング830は、リアフレームエンド837を含む有底筒状のケース834と、ケース834の一端に設けられているフロントフレームエンド838とを有している。ケース834及びフロントフレームエンド838は、ボルト等により互いに締結されている。各三相巻線組801、802のリード線851、852等は、リアフレームエンド837のリード線挿通孔839を挿通してECU10側に延び、基板230に接続されている。
ECU10は、カバー21と、カバー21に固定されているヒートシンク22と、ヒートシンク22に固定されている基板230と、基板230に実装されている各種の電子部品とを備えている。カバー21は、外部の衝撃から電子部品を保護したり、ECU10内への埃や水等の浸入を防止したりする。カバー21は、外部からの給電ケーブルや信号ケーブルが外部接続用コネクタ部214と、カバー部213とを有している。外部接続用コネクタ部214の給電用端子215、216は、図示しない経路を経由して基板230に接続されている。なお、コネクタについて図4とは別の符号を付す。
基板230は、例えばプリント基板であり、リアフレームエンド837と対向する位置に設けられ、ヒートシンク22に固定されている。基板230には、二系統分の各電子部品が系統毎に独立して設けられている。基板230は一枚に限らず、二枚以上で構成されてもよい。基板230の二つの主面のうち、リアフレームエンド837に対向している面をモータ面237とし、その反対側の面、すなわちヒートシンク22に対向している面をカバー面238とする。
モータ面237には、複数のスイッチング素子241、242、回転角センサ251、252、カスタムIC261、262等が実装されている。複数のスイッチング素子241、242は、ECU各構成図のIU1H/L等に相当し、各系統の三相上下アームを構成する。回転角センサ251、252は、シャフト87の先端に設けられた永久磁石88と対向するように配置される。カスタムIC261、262及びマイコン291、292は、ECU10の制御回路を有する。回転角センサ251、252やマイコン291、292等は、系統毎に各二つ設けられるのでなく、二系統共通に各一つ設けられてもよい。
カバー面238には、マイコン291、292、コンデンサ281、282、及び、インダクタ271、272等が実装されている。特に、第1マイコン291及び第2マイコン292は、同一の基板230の同一側の面であるカバー面238に、所定間隔を空けて配置されている。コンデンサ281、282は、電源から入力された電力を平滑化し、また、スイッチング素子241、242のスイッチング動作等に起因するノイズの流出を防止する。インダクタ271、272及びコンデンサ281、282は、ECU各構成図のL1、C1等に相当し、ノイズフィルタとして機能する「雑防素子」を構成する。
図46に示すように、三相モータ800は、二組の三相巻線組801、802が同軸に設けられた三相二重巻線回転機である。第1三相巻線組801のU1相、V1相、W1相の巻線811、812、813には、第1系統のインバータ(以下「第1インバータ」)601から電圧が印加される。第2三相巻線組802のU2相、V2相、W2相の巻線821、822、823には、第2系統のインバータ(以下「第2インバータ」)602から電圧が印加される。
第1三相巻線組801と第2三相巻線組802とは電気的特性が同等であり、例えば共通のステータ840に互いに電気角30[deg]ずらして配置されている。その場合、第1系統及び第2系統の各相に発生する逆起電圧は、電圧振幅A、回転数ω、位相θに基づき、例えば式(9.1)〜(9.3)、(9.4a)〜(9.6a)により表される。
Eu1=−Aωsinθ ・・・(9.1)
Ev1=−Aωsin(θ−120) ・・・(9.2)
Ew1=−Aωsin(θ+120) ・・・(9.3)
Eu2=−Aωsin(θ+30) ・・・(9.4a)
Ev2=−Aωsin(θ−90) ・・・(9.5a)
Ew2=−Aωsin(θ+150) ・・・(9.6a)
なお、二系統の位相関係を逆にした場合、例えばU2相の位相(θ+30)は(θ−30)となる。さらに、30[deg]と等価な位相差は、一般化して(30±60×k)[deg](kは整数)と表される。或いは、第2系統が第1系統と同位相に配置されてもよい。その場合、第2系統の各相に発生する逆起電圧は、式(9.4a)〜(9.6a)に代えて式(9.4b)〜(9.6b)で表される。
Eu2=−Aωsin(θ−30) ・・・(9.4b)
Ev2=−Aωsin(θ+90) ・・・(9.5b)
Ew2=−Aωsin(θ−150) ・・・(9.6b)
次に図47、図48を参照し、二系統三相モータ800を駆動対象とするECU10の構成例を第11、第12実施形態として説明する。第1三相巻線組801と第2三相巻線組802とを合わせた部分が三相モータ800である。第2三相巻線組802の中性点の操作電圧の記号をVn2とする。三相モータの符号「800」、及び、第2三相巻線組802の三相巻線の符号「821、822、823」は図47にのみ記載し、図48には記載を省略する。
第11、第12実施形態のECU10は二台のインバータ601、602を備える。第2系統のインバータスイッチング素子、電流センサ、モータリレー等の符号は、第1系統の記号の「1」を「2」に置き換えて表される。電源の構成にかかわらず、第2インバータ601に入力される直流電圧を「入力電圧Vr2」と記す。
二系統構成における制御部30は、図15に準ずる第1系統及び第2系統の各三相制御部、及び、図16に準ずる直流制御部を含む。二系統の構成では、第1系統及び第2系統の各相に接続される直流モータの総数や分配がニーズに応じて決定される。直流モータの分配は、系統間の電力バランス、発熱バランス、使用頻度や使用タイミングのバランス等を考慮して決定される。
(第11実施形態)
図47に示す第11実施形態では、第1インバータ601及び第2インバータ602は共通の電源Bt1に接続されており、第1三相巻線組801のU1相に二台の直流モータ710、720が接続されている。U1相の電流経路の分岐点Juと各直流モータ710、720の第1端子との間には直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rが設けられている。一方、第2三相巻線組802には直流モータは接続されていない。第11実施形態では、複数系統のうち一部の系統のみに直流モータが接続されるため、各系統の役割が分担される。
(第11実施形態の変形例)
図47に対し、第2系統のいずれかの相に一台以上の直流モータが接続されてもよい。例えば第1系統と同様に、第2系統のU2相に二台の直流モータが接続される構成では、系統間のバランスが良くなる。
また、第1系統のU1相に二台以上の直流モータが接続され、第2系統のU2相に一台の直流モータが接続される構成のように、第1系統に接続される直流モータの台数を第2系統に接続される直流モータの台数より多くしてもよい。例えば、ステアリング位置系等の比較的電力の小さいアクチュエータの直流モータを第1系統に多く配置し、シート系等の比較的電力の大きいアクチュエータの直流モータを第2系統に少なく配置することで、各系統の電力バランスを合わせることができる。ただし、ステアリング位置系アクチュエータとシート系アクチュエータとは同時に使用されることが少ないため、同系統にまとめて配置してもよい。また、同時に動く直流モータを同じ相に配置するとともに、同時に動くときに通電方向が同じになるように配置もしくは配線しておくとなお良い。
(第12実施形態)
図48に示す第12実施形態では、第1インバータ601及び第2インバータ602は個別の第1電源Bt1及び第2電源Bt2に接続されている。第2インバータ602は、高電位線BH2を介して第2電源Bt2の正極と接続され、低電位線BL2を介して第2電源Bt2の負極と接続されている。また、各インバータ601、602の入力部には、電源リレーP1r/R、P2r/R及びコンデンサC1、C2が個別に設けられている。このように第12実施形態は、いわゆる「完全二系統」の冗長構成である。第12実施形態は、例えば一方の電源が失陥した場合、他方の正常な電源のみを用いた片系統駆動モードにより三相モータ800を駆動可能である。
第1系統のU1相には二台の直流モータ710、720が接続されており、第2系統のU2相には二台の直流モータ750、760が接続されている。また、第1系統U1相の直流モータ710、720には正負両方向の直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rが接続されており、第2系統U2相の直流モータ750、760には正負両方向の直流モータリレーMU5r/R、MU6r/Rが接続されている。第1系統U1相に接続される直流モータ710、720と同様に、第2系統U2相に接続される各直流モータ750、760に発生する逆起電圧をE5、E6と記す。
各直流モータ750、760の用途は適宜選択されてよい。例えば直流モータ750、760はシート系アクチュエータでもよく、ハンドル格納アクチュエータやステアリングロックアクチュエータでもよい。或いは、チルト、テレスコピックアクチュエータ等のステアリング位置系アクチュエータが第2系統側の直流モータ750、760として設けられてもよい。
[効果]
(1)本実施形態(ここでは第1実施形態等の符号を用いる)のECU10は、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lの動作を操作して三相モータ800を駆動しながら、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lの動作を操作し、三相巻線組801の同一の一相に接続された複数の直流モータ710、720を同時に駆動することができる。
また、第1実施形態のように一組の三相巻線組801の同一の一相の相電流経路に二台の直流モータ710、720が接続された構成では、最小限四個の直流モータ用スイッチMU1H、MU1L、MU2H、MU2Lがあればよい。したがって、特許文献1の従来技術に対しスイッチの数を少なくすることができる。
(2)制御部30は、直流モータの通電方向に応じて、高電位側及び低電位側の直流モータ用スイッチのオン、オフを切り替え、且つ三相モータ800の中性点電圧Vn1を高く又は低くするように操作する。これにより制御部30は、特定直流モータの通電を適切に制御することができる。
(3)第2実施形態では一組の三相巻線組801の二相に各二台の直流モータが接続され、計四台の直流モータが接続されている。第12実施形態では二組の三相巻線組801、802の各一相に各二台の直流モータが接続され、計四台の直流モータが接続されている。つまり、いずれも計三台以上の直流モータが接続されている。
その他、一組の三相巻線組の一相に三台以上の直流モータが接続される構成や、一組の三相巻線組の一相に二台以上の直流モータが接続され、且つ他の一相に一台の直流モータが接続される構成等でも計三台以上の直流モータの接続が実現可能である。また同じ相に複数台の直流モータを接続した場合、複数台の直流モータに同時に通電できる。このように、計三台以上の直流モータが三相巻線組の相電流経路に接続されることとで、複数アクチュエータ同時駆動における適用の幅が一層広がる。
(4)本実施形態のECU10は、インバータ601の各相に流れる電流を検出する複数の電流センサSAU1、SAV1、SAW1を有する。制御部30は、非特定相及び特定相の電流センサの検出値と、キルヒホッフの法則に基づく特定相の推定電流値とから、特定直流モータに流れる電流を算出する。これにより制御部30は、特定直流モータの通電を適切に制御することができる。
(5)本実施形態のECU10は、三相モータ800として、EPSシステム901の操舵アシストモータ、又は、SBWシステム902の反力モータの駆動を制御する装置として好適に適用される。その場合、直流モータとして、ステアリング位置を可変させるステアリング位置系アクチュエータ、具体的にはチルトアクチュエータ710やテレスコピックアクチュエータ720が用いられると有効である。
(その他の実施形態)
(a)相電圧、直流モータ端子電圧演算処理の第3、第4パターンのように、直流モータ端子電圧Vm1、Vm2は、直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lのオン/オフの切替のみで操作され、電圧値が可変となればよい。そして、高速スイッチング動作をしない前提で、スイッチが遅いトランジスタや機械式リレーを使ってもよい。また、直流モータに接続されるインバータスイッチング素子は他のインバータスイッチング素子よりも大きな電流が流れる可能性が有るため、他のスイッチと比べて容量が同等以上のものとするか、他のスイッチング素子よりも発熱が集中しない箇所や放熱の良い場所に配置してもよい。
(b)直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lは、インバータスイッチング素子IU1H/L、IV1H/L、IW1H/Lに対し電流容量が同等以上のスイッチが使用されてもよい。また、直流モータ用スイッチ側の電源リレーPdr/Rは、インバータ側の電源リレーP1r/Rに対し電流容量が同等以上のスイッチが使用されてもよい。また、各上下スイッチの同時オンを防止するためのデッドタイムは各スイッチや流れる電流の大きさに応じて個別に設定されてもよく、デッドタイム分の補償をするための電圧は設定したデッドタイムや流れる電流に応じて各上下スイッチで個別に設定されてもよい。デッドタイム分の補償電圧の極性判別は、それぞれの上下スイッチに流れる電流の符号により決定される。
(c)第3実施形態等の直流モータ710、720について、端子地絡を想定し、負方向直流モータリレーMU1R、MU2Rを設けず、正方向直流モータリレーMU1r、MU2rのみを設けてもよい。また、正方向直流モータリレーMU1r、MU2rと負方向直流モータリレーMU1R、MU2Rとの直列接続の向きは、図7等とは逆に、MOSFETのドレイン端子同士が隣接する向きでもよい。
(d)三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1又は直流モータリレーMU1r/R、MU2r/Rは、機械式リレーもしくは双方向リレーでもよい。三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1が機械式リレーもしくは双方向リレーの場合、二相に設けられればよい。図7では三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1のソース端子がインバータ側の向きであるが、三相モータリレーMmU1、MmV1、MmW1のドレイン端子がインバータ側の向きでもよい。
(e)電流センサは、インバータの下アーム素子と低電位線BL1との間に流れる電流を検出するものに限らず、相電流を直接検出してもよい。
(f)第11、第12実施形態では、第1系統のインバータ601及び直流モータ用スイッチMU1H/L、MU2H/Lに対応する正方向電源リレー、負方向電源リレー及び雑防素子を第3実施形態に準ずる構成としている。これに対し、各系統の構成を第4〜第8実施形態に準ずる構成としてもよい。二系統は同じ構成としてもよく、異なる構成としてもよい。
(g)図49に示すように、直流モータ用スイッチは、双投スイッチMU1DT、MU2DTにより構成されてもよい。双投スイッチMU1DT、MU2DTは、直流モータ端子M1、M2と高電位側接点及び低電位側接点との接続を切り替え可能である。
(h)二つの直流モータは、各々が独立した形態のものに限らず、二相の巻線を有するステッピングモータにより構成されてもよい。
(i)多相回転機の相の数は三相に限らず、二相、又は四相以上、すなわち一般化されたN相(Nは2以上の整数)であってよい。また、多相回転機は、三組以上の多相巻線組を含んでもよい。
(j)本発明の回転機制御装置は、車両のステアリングシステムにおける操舵アシストモータ又は反力モータ、及び、ステアリング位置系アクチュエータ、シート系アクチュエータ用等の直流モータに限らず、多相交流モータ及び直流モータを併用する種々の回転機制御装置として適用可能である。また、操舵アシストモータ又は反力モータは機電一体式でなく、モータ本体とECUとがハーネスで接続された機電別体式の構成としてもよい。
本発明の構成は、種々のモータが近接配置される車両用のモータにおいてより効果が高く、例えばブレーキの油圧ポンプ用のモータとパーキングブレーキ用のモータ、複数のシートモータ、スライドドア用のモータもしくはワイパー用のモータとウインドウ用のモータ及びサイドミラー用のモータ、電動ウォーターポンプのモータと電動ファンのモータなどの組み合わせに適用可能である。
本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。