JP2021076220A - 変速装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】変速制御性を損なうことなく小型化を可能にする変速装置を提供する。【解決手段】入力部材3と出力部材4との回転数比を、入力部材3と出力部材4との間に設けられている回転部材Rを他の構成部材5に対して係合機構Bによって連結し、また係合機構Bを解放することによって切り替える変速装置1において、係合機構Bは、回転部材Rに取り付けられた第1摩擦板6と他の構成部材5に設けられた第2摩擦板7とを接触させ、またその接触を解除する摩擦式係合要素Kと、回転部材Rに設けられた第1係合歯23と他の構成部材5に回転方向で一体化されている第2係合歯24とを直接もしくは間接的に噛み合わせる噛み合い式係合要素B1とによって構成されている。【選択図】図3
Description
この発明は、クラッチやブレーキなどの係合機構を有し、その係合機構の係合および解放の状態に応じて入力部材から出力部材に到るトルクの伝達経路が変化する変速装置に関するものである。
この種の変速装置の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載されている変速装置は、ハイブリッド車における変速装置であり、エンジンが出力したトルクを駆動輪側と発電機側とに分割する動力分割機構と、その動力分割機構から駆動輪側に出力されたトルクを大小に変化させ、また駆動輪に向けたトルクの出力を止める変速歯車機構とを有している。その変速歯車機構は、遊星歯車機構によって構成され、キャリヤに動力分割機構の出力要素が連結され、サンギヤとリングギヤとのいずれか一方がケーシングに連結されて固定要素となり、さらにサンギヤとリングギヤとのいずれか他方が駆動輪に向けてトルクを出力する出力要素となっている。駆動輪に連結されている出力部材と出力要素との間に第1クラッチが設けられ、またその出力部材とキャリヤとの間に第2クラッチが設けられている。さらに、キャリヤをケーシングに選択的に連結して変速歯車機構の全体を固定するブレーキが設けられている。これら第1および第2のクラッチは油圧湿式多板クラッチであり、ブレーキはケーシングに形成されたスプライン歯に係合しているスリーブをキャリヤ側に移動させてキャリヤに形成されているスプライン歯に係合させることによりキャリヤをケーシングに連結する噛み合い式の係合機構によって構成されている。
また、特許文献2には、低速段を設定するために係合する低速側クラッチと、高速側の変速段を設定するために係合する高速側クラッチとを有する有段自動変速機が記載されている。その低速側クラッチはドグクラッチによって構成され、高速側クラッチは摩擦式クラッチによって構成されている。
特許文献1や特許文献2に記載されているように、車両用の変速装置においては、摩擦式の係合機構と噛み合い式の係合機構とが、それぞれの特性に応じた箇所に設けられている。摩擦式の係合機構(以下、仮に摩擦クラッチと記す)は、摩擦板同士を接触させる押圧力(係合力)に応じて伝達トルク容量が変化するから、伝達トルク容量を連続的に変化させることができ、また摩擦板が回転している状態あるいはトルクが掛かっている状態で係合させ、また解放させることができるなど、変速を実行するための制御性が良好である。その半面、係合力を解除した状態であっても、摩擦板同士の間に介在する潤滑油(フルード)などによってトルクの伝達が生じ、これがいわゆる引き摺り損失を生じさせる。これに対して、噛み合い式の係合機構(以下、仮にドグクラッチと記す)は、伝達トルク容量が「0%」と「100%」との二つにしか切り替わらず、また係合させる場合には回転数を同期させる必要があり、解放させる場合にはトルクを抜く必要があるなど係合および解放の制約が大きく、その点で変速制御性に劣る。しかしながら、互いに噛み合う歯によってトルクを伝達するから伝達トルク容量が大きい。
したがって特許文献1に記載された変速装置では、大きいトルクが掛かるブレーキをドグクラッチによって構成し、第1および第2のクラッチを摩擦クラッチによって構成している。同様に、特許文献2に記載されている装置では、大きいトルクが掛かり、また変速の頻度が低い低速側クラッチをドグクラッチによって形成し、作用するトルクが比較的小さく、また変速の頻度が高い高速側クラッチを摩擦クラッチによって構成している。
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されている変速装置において、摩擦クラッチによって構成されているクラッチであっても車両の加速もしくは減速の際に大きいトルクが掛かることがあるので、想定される最大トルクに応じた伝達トルク容量の摩擦クラッチを採用することになる。このクラッチをドグクラッチによって構成すれば、小型化を図ることができるが、変速ショックが悪化したり、これを避けるとすれば、変速制御が複雑化したり、変速の遅れが顕著になったりする。反対に、ドグクラッチによって構成されているクラッチあるいはブレーキの制御性を向上させるために、ドグクラッチから摩擦クラッチに変更するとすれば、必要とする伝達トルク容量を確保するために摩擦板の半径を大きくしたり、摩擦板の枚数を多くしたりするので、大型化が避けられない。このように従来では、変速制御性や小型軽量化などを両立させることが達成されておらず、この点に改良の余地があった。
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、係合機構の係合および解放によって変速を実行する変速装置の変速制御性と小型軽量化などとを両立させることを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、この発明は、入力部材と出力部材との回転数比を、前記入力部材と前記出力部材との間に設けられている回転部材を他の構成部材に対して係合機構によって連結し、また前記係合機構を解放することによって切り替える変速装置において、前記係合機構は、前記回転部材に取り付けられた第1摩擦板と前記他の構成部材に設けられた第2摩擦板とを接触させ、またその接触を解除する摩擦式係合要素と、前記回転部材に設けられた第1係合歯と前記他の構成部材に回転方向で一体化されている第2係合歯とを直接もしくは間接的に噛み合わせる噛み合い式係合要素とによって構成されていることを特徴としている。
この発明における変速装置は、所定の回転部材とその回転部材が選択的に連結される他の構成部材との間に、互いに並列に配置された摩擦式係合要素と噛み合い式係合要素とを有している。摩擦式係合要素は、第1摩擦板と第2摩擦板とを摩擦接触させてトルクを伝達する係合要素であり、伝達トルク容量を連続的に変化させることができる。噛み合い式係合要素は、第1係合歯と第2係合歯とを直接もしくは間接的に噛み合わせてトルクを伝達する係合要素であり、伝達トルク容量は摩擦式係合要素より大きい。したがって、この発明では、入力部材と出力部材との間で大きいトルクを伝達する場合には、少なくとも噛み合い式係合要素を係合させ、定常的にトルクを伝達していることにより変速装置に掛かるトルクが小さい場合には、摩擦式係合要素を係合させることができる。そのため、摩擦式係合要素に掛かるトルクが小さくなるので、摩擦式係合要素の外径を小さくし、あるいは摩擦板の数を少なくするなど、摩擦式係合要素を小型化し、ひいては変速装置の全体としての構成を小型化することができる。
また、係合機構を係合もしくは解放する変速は、トルクが伝達されている状態で実行されることが多く、その場合に係合機構に掛かるトルクは比較的小さいので、摩擦式係合要素を係合させてトルクを伝達することができ、したがって変速は摩擦式係合要素を係合もしくは解放させることにより実行できる。摩擦式係合要素は伝達トルク容量を連続的に変化させることができるから、トルクの急変などによる大きいショックを生じさせることなく変速を実行でき、変速制御性が良好になる。
なお、各摩擦板を接触させる第1ピストンと、各係合歯を噛み合わせる第2ピストンとを、両者の間に圧力室を設けた状態で互いに保持させ、かつそれらのピストンを一括して復帰移動させるリターンスプリングを設けた場合には、スペースの有効利用や部品の共用化によって、変速装置の全体としての構成を更に小型化できる。
また、摩擦式係合要素を噛み合い式係合要素より外周側に配置した構成では、各摩擦板の外径の制約を少なくしてその外径を大きくできるから、摩擦板の必要枚数が少なくなるなどのことによって、変速装置の全体としての構成を小型化できる。
この発明の実施形態における変速装置1の一例を図1にスケルトン図で示してあり、ここに示す変速装置1は遊星歯車機構2を主体にして構成されている。遊星歯車機構2は、図1に示す例では、シングルピニオン型の遊星歯車機構であり、サンギヤSと、リングギヤRと、サンギヤSおよびリングギヤRに噛み合っているピニオンギヤPを自転および公転可能に保持しているキャリヤCとを回転要素として備えている。そのサンギヤSに入力部材である入力軸3が連結され、またキャリヤCに出力部材である出力軸4が連結されている。
遊星歯車機構2の全体を一体化して回転させるためのクラッチKと、遊星歯車機構2を減速機として機能させるためのブレーキBとが設けられている。クラッチKは、一例として、湿式の多板クラッチ(摩擦式クラッチ)であって、サンギヤSとリングギヤRとの間に設けられていて、これらを選択的に連結するように構成されている。また、ブレーキBは、リングギヤRを選択的に固定する係合機構であって、遊星歯車機構2を収容しているケース5とリングギヤRとの間に設けられている。このブレーキBは、摩擦式係合要素である湿式摩擦ブレーキ(以下、単に摩擦ブレーキと記すことがある。)B1と、噛み合い式係合要素であるドグブレーキDとによって構成され、これら摩擦ブレーキB1とドグブレーキDとは、リングギヤRとケース5との間に互いに並列に配置されている。すなわち、摩擦ブレーキB1とドグブレーキDとは、それぞれ単独でリングギヤRの回転を止めることができるように構成されている。なお、これらクラッチKやブレーキBによって互いに連結され、またその連結が解かれる部材がこの発明の実施形態における回転部材や構成部材であり、したがって上記のサンギヤSやリングギヤRあるいはケース5などがこの発明の実施形態における回転部材や構成部材に相当する。
図2は、変速作用を説明するための図であって、遊星歯車機構2についての共線図である。共線図は、遊星歯車機構2における回転要素であるサンギヤSと、キャリヤCと、リングギヤRとを、ここに挙げた順序に並べた互いに平行な縦線で示し、サンギヤSを示す線とキャリヤCを示す線との間隔を「1」とし、キャリヤCを示す線とリングギヤRを示す線との間隔を遊星歯車機構2のギヤ比(リングギヤRの歯数に対するサンギヤSの歯数の比)に設定し、これらの3本の縦線に直交する横線を基線とし、各縦線上の基線からの寸法をそれぞれの回転要素の回転数として示す図である。
クラッチKを係合させると、遊星歯車機構2の全体が一体となって回転するので、遊星歯車機構2の動作状態は基線と平行な直線で表される。したがって、サンギヤSに連結されている入力軸3の回転数と、キャリヤCに連結されている出力軸4との回転数とが同じになって、変速比(回転数比)は「1」になる。変速装置1における変速段はいわゆる高速段Hiになる。これに対してブレーキBを係合させると、遊星歯車機構2の動作状態は、サンギヤSを示す縦線上の所定の回転数の点と、リングギヤRを示す縦線と基線との交点(回転数が「0」の点)とを結んだ直線(図2の右下がりの斜線)によって示される。したがって、キャリヤCおよびこれに連結されている出力軸4の回転数は、入力軸3の回転数より低回転数になる。したがって、変速装置1における変速段はいわゆる低速段Loになる。
変速装置1を車両の変速機として使用する場合、低速段Loは発進時に設定され、あるいは車両の走行中に次第に減速した場合に発進に備えるために設定される。発進時には大きい駆動力が要求されるので、ブレーキBに大きいトルクが掛かる。これに対して減速時などでは、ブレーキBに掛かるトルクが発進時よりも小さく、またブレーキBは高速段Hiから低速段Loに変速することにより係合させられる。このようにブレーキBに掛かるトルクや係合・解放の切替の状況が、車両の走行状態に応じて異なるので、ブレーキBを係合状態にするために、摩擦ブレーキB1とドグブレーキDとが使い分けられる。
その摩擦ブレーキB1とドグブレーキDとの具体的な一例を図3に示してある。図3に示す例では、遊星歯車機構2における固定要素(もしくは反力要素)であるリングギヤRは、摩擦ブレーキB1のブレーキハブを兼ねており、その外周部にはこの発明の実施形態における第1摩擦板に相当する複数枚のブレーキディスク6がスプラインによって取り付けられている。また、リングギヤRの外周側にはケース5の内面の一部がリングギヤRに対向して位置しており、そのケース5の内面の一部に、この発明の実施形態における第2摩擦板に相当する複数枚のブレーキプレート7がスプラインによって取り付けられている。したがって、ケース5がこの発明の実施形態における「他の構成部材」に相当している。なお、ブレーキディスク6およびブレーキプレート7は、ブレーキプレート7の間にブレーキディスク6が位置するように軸線方向に交互に並べて配置されている。また、ブレーキプレート7は、その配列方向での一端側(図3では左側)に配置したスナップリング8によって、軸線方向での移動が規制されている。
ブレーキディスク6およびブレーキプレート7を軸線方向に押圧して摩擦接触させるアクチュエータの一例であるピストン9が、ブレーキディスク6およびブレーキプレート7を挟んで前記スナップリング8とは反対側に配置されている。ピストン9は、この発明の実施形態における第1ピストンに相当し、円板状の側板部10と、その側板部10の外周部に軸線方向に延びて形成された円筒部11と、円筒部11の先端部における円周方向の複数箇所から摩擦ブレーキB1に向けて突出したプッシャー部12とを有している。このピストン9は、ブレーキプレート7に対して軸線方向に前後動するように、ケース5に保持されている。すなわち、ケース5には遊星歯車機構2や摩擦ブレーキB1と同一軸線上で、かつ遊星歯車機構2や摩擦ブレーキB1に向けて開口している円筒部13が形成されており、その円筒部13の中心部(遊星歯車機構2や摩擦ブレーキB1と同一軸線上の部分)には、遊星歯車機構2側に突出したボス部14が形成されている。
このボス部14の外周面と円筒部13の内周面との間の部分が環状の凹部になっていて、この凹部にピストン9が液密状態で前後動できるように嵌合させられている。すなわち、その環状の凹部がシリンダ15となっている。ピストン9の外周部と内周部とにシールリング16,17が嵌合していて、これらのシールリング16,17によってピストン9とシリンダ15との間の液密性が担保されている。そして、ピストン9における側板部10とケース5との間に圧力室18が形成され、ケース5の肉部の中に形成された油路19が圧力室18に開口している。
さらに、プッシャー部12の外周部にスプライン歯20が形成され、そのスプライン歯20がケース5の内周面に形成されたスプライン歯21に係合している。ピストン9はこれらのスプライン歯20,21によってケース5に対して回転しないように、かつ軸線方向に移動可能に連結されている。
リングギヤRのうち、前記ブレーキディスク6をスプライン嵌合させている外周部より内周側でかつ前記ピストン9側の側面に円筒部22が形成され、その円筒部22の先端外周部に、この発明の実施形態における第1係合歯に相当するドグ歯23が形成されている。このドグ歯23に係合する、この発明の実施形態における第2係合歯に相当するドグ歯24が、前記ピストン9に保持されている他のピストン25に形成されている。
ピストン25は、前記ピストン9とほぼ相似形状の部材であり、ピストン9における円筒部11の内径とほぼ等しい外径でかつピストン9における側板部10の内径と等しい内径の側板部26と、その側板部26の外周部に軸線方向に延びて形成された円筒部27とを有している。その円筒部27は、ピストン9におけるプッシャー部12の内周側にまで延びている。そして、円筒部27の外周部とピストン9の円筒部11の内周部もしくはプッシャー部12の内周部にスプライン歯28,29が形成され、各ピストン9,25はこのスプライン歯28,29によって一体になって回転し、かつ軸線方向には相対的に移動可能に組み付けられている。
ピストン25の外周部には、ピストン9の円筒部11の内周面に液密状態に摺接するシールリング30が嵌合しており、またピストン25の内周部には前述したボス部14の外周面に液密状態に摺接するシールリング31が嵌合している。したがって、各ピストン9,25の側板部10,26同士の間の部分は液密状態に封止され、ここにこの発明の実施形態における圧力室に相当する油圧室32が形成されている。この油圧室32にフルードを供給し、また排出する油路33が、ボス部14を貫通して形成されている。
ピストン25の側板部26における遊星歯車機構2側の側面のうち前述したドグ歯23とほぼ等しい半径の位置にドグ歯23側に突出した円筒部34が形成されており、その円筒部34の先端内周部に、前記ドグ歯23に噛み合うドグ歯24が形成されている。したがってピストン25が遊星歯車機構2側に移動することにより各ドグ歯23,24が噛み合ってリングギヤRがピストン25に連結される。そのピストン25がスプライン歯28,29によってピストン9に連結され、ピストン9がスプライン歯20,21によってケースに連結されているから、結局、リングギヤRは各ピストン9,25を介してケース5に連結されてその回転が止められる。言い換えれば、ドグ歯24は、各ピストン9,25を介してケース5に回転方向で一体化されている。
ピストン25の前面側(図3での左側)にリテーナ35が配置されている。リテーナ35は、ピストン9におけるプッシャー部12の外径より大きい外径の環状の板状部材であり、ケース5の内周面にスプラインやスナップリングなどによって固定されている。なお、前記プッシャー部12はこのリテーナ35を貫通してブレーキプレート7側に延びている。このリテーナ35とピストン25との間にリターンスプリング36が配置されている。このリターンスプリング36は圧縮状態で組み付けられており、したがって各ピストン9,25はリターンスプリング36によって一括して圧力室18側に押圧されている。すなわち、ピストン9を復帰移動させるための手段とピストン25を復帰移動させるための手段とが共用化されている。
なお、各ピストン9,25がリターンスプリング36によって最も押し戻された状態における各ドグ歯23,24の間隔が、プッシャー部12の先端からブレーキプレート7までの間隔より大きくなっている。これは、ピストン9が圧力室18内の油圧で押された場合に、ピストン9と共にピストン25が前進移動しても、ドグブレーキDを係合させることなく摩擦ブレーキB1を係合させるためである。
リングギヤRにおける前記円筒部22とは反対側にクラッチK用の円筒部37が軸線方向に突出して形成されている。この円筒部37の外周側に円筒部37と同心円上にクラッチドラム38が配置されている。そして、円筒部37の外周部にスプライン嵌合させた複数のクラッチディスク39とクラッチドラム38の内周部にスプライン嵌合させた複数のクラッチプレート40とが軸線方向に互いに対向して交互に配列されている。これらのクラッチディスク39とクラッチプレート40とを軸線方向に押圧して摩擦接触させるためのピストンなどのアクチュエータは従来知られている構成のものであってよく、図3では省略してある。
つぎに上述した変速装置1の動作について説明する。圧力室18および油圧室32から油圧を抜いた状態では、各ピストン9,25はリターンスプリング36によって、遊星歯車機構2から離れる方向に押し戻されている。したがって摩擦ブレーキB1およびドグブレーキDは解放状態になり、トルクを伝達しない。
車両が発進するなどのために低速段Loを設定する場合、油圧室32に油路33を介して油圧を供給する。その油圧は、各ピストン9,25の側板部10,26同士の間隔を広げるように作用するから、ピストン9は摩擦ブレーキB1から最も後退した位置にとどまり、ピストン25がリターンスプリング36の押圧力に抗して遊星歯車機構2側(リングギヤR側)に前進する。すなわちピストン25に設けられているドグ歯24がリングギヤRに設けられているドグ歯23に次第に接近し、ついにはそれらのドグ歯23,24が噛み合って、ドグブレーキDが係合状態になる。
なお、その場合、各ドグ歯23,24の回転方向での位置(位相)が一致していると、ドグ歯23,24同士の端部同士が突き当たってしまって噛み合わない。しかしながら、その時点では摩擦ブレーキB1が解放状態になっていてリングギヤR(ドグ歯23)を回転させることができるので、入力軸3を回転させるなどのことによってリングギヤRを回転させて各ドグ歯23,24の位相をずらすことにより、ドグ歯23,24を噛み合わせることができる。
ドグブレーキDは、互いに噛み合っているドグ歯23,24によってトルクを伝達するから、それらのドグ歯23,24の外径が摩擦ブレーキB1に比較して小さいとしても、ドグ歯23,24の強度を限界として、大きいトルクを伝達することができる。したがって車両の発進などのために大きいトルクがリングギヤRあるいはドグブレーキDに掛かっても、耐久性を損なうことなくリングギヤRを固定することができる。なお、発進時などにドグブレーキDを係合させる場合、摩擦ブレーキB1を併せて係合させてもよい。具体的には、圧力室18に油路19を介して油圧を供給することによりピストン9を前進させ、そのプッシャー部12でブレーキプレート7およびブレーキディスク6を軸線方向に押圧して互いに摩擦接触させる。こうすればリングギヤRに掛かるトルクをドグブレーキDと摩擦ブレーキB1との両方で受けることになるので、ブレーキBの伝達トルク容量が更に大きくなる。言い換えれば、ドグブレーキDの伝達トルク容量と摩擦ブレーキB1の伝達トルク容量との合計がブレーキBの伝達トルク容量となるから、ドグブレーキDおよび摩擦ブレーキB1のそれぞれ単独での伝達トルク容量を小さくすることができ、ひいてはこれらのドグブレーキDおよび摩擦ブレーキB1を小型化できる。
車両が発進した後、リングギヤRに掛かるトルクが低下した場合や低速段Loから高速段Hiへの変速が予想される場合、摩擦ブレーキB1を係合させ、かつドグブレーキDを解放させる。すなわち、圧力室18の内部の油圧を維持しつつ、油圧室32の油圧を低下させる。こうすることによりピストン9を前進位置に維持した状態でピストン25をリターンスプリング36によって後退させることができ、ドグ歯24がリングギヤR側のドグ歯23から外れる。この状態で入力軸3の回転数が増大するなどのことによってアップシフトが判断されると、クラッチKを係合させ、かつ摩擦ブレーキB1を解放させる。その場合、圧力室18の油圧を徐々に低下させることにより、摩擦ブレーキB1の伝達トルク容量が次第に低下し、摩擦ブレーキB1はスリップ回転数を次第に増大させつつ解放する。その結果、入力軸3の回転数や入力軸3から出力軸4に伝達されるトルクの変化が滑らかになるので、ショックなどの違和感を回避もしくは抑制できる。すなわち、変速制御性が良好になる。
高速段Hiを設定した状態ではドグブレーキDおよび摩擦ブレーキB1の両方が解放し、その状態でリングギヤRが回転する。したがって摩擦ブレーキB1においては、固定しているブレーキプレート7に対してリングギヤRに取り付けられているブレーキディスク6が回転する。摩擦ブレーキB1は、潤滑油(フルード)によって潤滑および冷却を行うように構成されているので、解放状態であってもブレーキプレート7とブレーキディスク6との間に潤滑油が介在する。解放状態でブレーキプレート7とブレーキディスク6との間で相対回転が生じると、潤滑油の剪断力によって両者の間でトルクの伝達が生じる。これがいわゆる引き摺り損失になる。しかしながら、上述した変速装置1では、ドグブレーキDを設けたことによって摩擦ブレーキB1が伝達トルク容量の小さいものとされるから、潤滑油の剪断に伴う引き摺りトルクが小さくなり、その結果、引き摺り損失を減少させてエネルギ効率(車両では燃費あるいは電費)を向上させることができる。
なおここで、上述した実施形態のうち、特許請求の範囲に記載した特徴的構成以外の特徴的構成を挙げると、以下の通りである。この発明の実施形態における変速装置は、特許請求の範囲に記載された変速装置であって、複数の前記第1摩擦板と複数の前記第2摩擦板とが互いに対向して交互に配列されるとともに、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板との配列方向に前後動する第1ピストンが設けられ、前記第1係合歯と前記第2係合歯とを係合させるように前後動する第2ピストンが第1ピストンに保持されるとともに前記第1ピストンと前記第2ピスントとの間に前記第2ピストンを前記第1ピストンに対して移動させる圧力室が形成され、前記第1ピストンと前記第2ピストンとを、前記第1摩擦板と前記第2摩擦板との接触を解除し、かつ前記第1係合歯と前記第2係合歯との噛み合いを外す方向に復帰移動させるリターンスプリングが設けられていることを特徴としている。
また、この発明の実施形態における変速装置は、特許請求範囲に記載された変速装置あるいは上記の変速装置であって、前記第1摩擦板および前記第2摩擦板と、前記第1係合歯および前記第2係合歯とが同一軸線上に配置されるとともに、前記第1摩擦板および前記第2摩擦板は前記第1係合歯および前記第2係合歯よりも外周側に配置されていることを特徴としている。
さらに、この発明は上述した実施形態として説明した構成に限られないのであって、摩擦式係合要素のピストンと噛み合い式係合要素のピストンとを、一方が他方を保持した構成とせずに、それぞれのピストンを単独で前後動するように分離して設けた構成としてもよい。また、噛み合い式係合要素は、各係合歯を直接係合させる構成のものに限らず、係合歯を有するスリーブなどのいわゆる中間部材を介在させて間接的に各係合歯を噛み合わせる構成のものであってもよい。
1…変速装置、 2…遊星歯車機構、 3…入力軸、 4…出力軸、 5…ケース、 6…ブレーキディスク、 7…ブレーキプレート、 9,25…ピストン、 B…ブレーキ、 B1…摩擦ブレーキ、 D…ドグブレーキ、 R…リングギヤ、 S…サンギヤ。
Claims (1)
- 入力部材と出力部材との回転数比を、前記入力部材と前記出力部材との間に設けられている回転部材を他の構成部材に対して係合機構によって連結し、また前記係合機構を解放することによって切り替える変速装置において、
前記係合機構は、前記回転部材に取り付けられた第1摩擦板と前記他の構成部材に設けられた第2摩擦板とを接触させ、またその接触を解除する摩擦式係合要素と、前記回転部材に設けられた第1係合歯と前記他の構成部材と回転方向で一体化されている第2係合歯とを直接もしくは間接的に噛み合わせる噛み合い式係合要素とによって構成されている
ことを特徴とする変速装置。
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