以下、本開示の希土類磁石の製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本開示の希土類磁石の製造方法を限定するものではない。
従来の希土類磁石の製造方法において、磁性粉末が改質材粉末で充分に改質されない原因について、図面を用いて説明する。
図9は、磁性粉末と改質材粉末を混合した状態を示す模式図である。図10は、従来の希土類磁石の製造方法で、磁性粉末の粒子表面に改質被膜を形成した状態を示す模式図である。
磁性粉末10と改質材粉末20を混合しても、図9に示すように、それぞれの粉末の粒子は、完全には均一に混合されない。また、磁性粉末10と比べて、改質材粉末20は軟質であるため、混合中に、改質材粉末20の粒子が磁性粉末10の粒子で挟まれ、改質材粉末20の粒子が変形することがある。そのとき、磁性粉末10の粒子の表面に、変形した改質材が付着する。しかし、その場合、磁性粉末10の各粒子に改質材が付着するわけではない。また、混合中に、改質材粉末20の粒子同士が凝集することもある。
従来の希土類磁石の製造方法においては、上述のような状態で、磁性粉末10と改質材粉末20を加熱(焼結)する。そのため、図10に示したように、表面に改質被膜22が形成されている磁性粉末10の粒子がある一方で、表面に改質被膜22が形成されていない磁性粉末10の粒子が存在する。また、表面に改質被膜22が形成されている磁性粉末10の粒子においても、表面の一部にだけ改質被膜22が形成されている粒子(図示しない)も多く存在する。また、混合中に凝集した改質材粉末20は、図3に示したように、塊状物24となる。塊状物24は、磁性粉末10の改質にはほとんど寄与しない。
磁性粉末中のαFe相を改質し、磁性粉末中の酸素を吸収して保磁力を向上させるには、磁性粉末10の各粒子に、できるだけ均一に改質被膜22が形成されることが望まれる。しかし、従来の希土類磁石の製造方法においては、図10に示したように改質被膜22が形成されているため、所望の保磁力が得られていなかった。
改質被膜22の形成について、本発明者らは、次のことを知見した。
磁性粉末10と改質材粉末20を格納した容器の内部を、減圧しつつ加熱して亜鉛蒸気を発生させた後、容器に不活性ガスを注入するか、減圧容器の内部を冷却すると、磁性粉末10の粒子表面に亜鉛成分が堆積して、均一な改質被膜22を形成できる。ここで、「均一」とは、図10に示したように、表面に改質被膜22が形成されている粒子と、表面に改質被膜22が形成されていない粒子が存在するのではなく、図11に示したように、実質的に各粒子の表面に改質被膜22が形成されていることを意味する。また、各粒子においても、粒子表面の一部にだけ改質被膜22が形成されているのではなく、実質的に粒子の表面全部に改質被膜22が形成されていることを意味する。
理論に拘束されないが、磁性粉末10と改質材粉末20の混合が均一でなくても、その混合粉末を減圧容器中で加熱して、改質材粉末20から亜鉛蒸気を発生させると、磁性粉末10の粒子間の間隙を通じて、亜鉛蒸気が磁性粉末10全体に、均一に行き渡る。この状態で、容器の内部に不活性ガスを注入するか、容器の内部を冷却するかの少なくともいずれかを行うと、磁性粉末10全体に均一に行き渡った亜鉛蒸気が凝縮して、磁性粉末10の各粒子の表面に、亜鉛成分が均一に堆積されて、改質被膜22が形成される。その結果、図11に示したような、均一な改質被膜22を有する被覆磁性粉末28が得られる。そして、図11に示したような被覆磁性粉末28を得るには、所定の密度を有する、磁性粉末10と改質材粉末20の混合粉末の焼結体を予め準備し、焼結体を容器に格納し、容器の内部を減圧しつつ、焼結体を加熱してもよいことを、本発明者らは知見した。なお、以下の説明では、「焼結体を容器に格納し、容器の内部を減圧しつつ、焼結体を加熱する」ことを、「減圧容器中で焼結体を加熱する」ということがある。
理論に拘束されないが、所定の密度を有する焼結体を用いると、焼結体中で均一な被覆磁性粉末が得られる理由について、図面を用いて説明する。図5は、所定の密度を有する焼結体を減圧容器中で加熱したときの状態を模式的に示す説明図である。図6は、所定値未満の密度を有する焼結体を減圧容器中で加熱したときの状態を模式的に示す説明図である。図7は、所定値を超える密度を有する焼結体を減圧容器中で加熱したときの状態を模式的に示す説明図である。
焼結体30が所定の密度を有していると、焼結体30は所定の通気性を有する。所定の通気性を有する焼結体30を減圧容器中で加熱すると、焼結体30の内部と外部で差圧が生じる。そして、この差圧により、図5の矢印で示したように、焼結体30中の改質材粉末20から発生した亜鉛蒸気が、焼結体の磁性粉末10の粒子間を移動して、焼結体30の内部全体に行き渡るが、焼結体30の外部に排出される亜鉛蒸気は非常に少ない。そのため、減圧容器の内部に不活性ガスを注入するか、容器の内部を冷却することによって、焼結体30の内部に停留する亜鉛蒸気が凝縮すると、図11に示したような、均一な改質被膜22を有する被覆磁性粉末28が得られる。
焼結体30が所定値未満の密度を有していると、焼結体30は過剰な通気性を有する。過剰な通気性を有する焼結体30を減圧容器中で加熱すると、図6の矢印で示したように、改質材粉末20から発生した亜鉛蒸気のほとんどが焼結体30の外部に排出される。その結果、磁性粉末10の表面に改質被膜22がほとんど形成されず、磁性粉末の改質が進まない。
焼結体30が所定値を超える密度を有していると、磁性粉末10の粒子間隔が非常に狭いため、図7の矢印で示したように、改質材粉末20から発生した亜鉛蒸気の移動範囲が限られ、亜鉛蒸気が焼結体30の内部全体に行き渡らない。また、焼結体30の通気性も非常に低いため、焼結体30の内部にまで減圧が作用しないため、亜鉛蒸気が焼結体30の内部で移動し難い。そのため、焼結体30の内部で、部位によって亜鉛蒸気の濃度の差異が大きい。その結果、減圧容器の内部に不活性ガスを注入するか、容器の内部を冷却することによって、焼結体30の内部の亜鉛蒸気が凝縮しても、均一な改質被膜22を有する被覆磁性粉末28が得られない。
これまで述べてきた知見等によって完成された、本開示の希土類磁石の製造方法の構成要件を、次に説明する。
《希土類磁石の製造方法》
本開示の希土類磁石の製造方法は、焼結体形成工程、亜鉛蒸気発生工程、及び亜鉛成分堆積工程を含む。以下、各工程について説明する。
〈焼結体形成工程〉
金属亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくともいずれかを含有する改質材粉末と、サマリウム−鉄−窒素系磁性粉末とを混合して、混合粉末を得る。この混合粉末を焼結して、密度が5.0〜7.2g/cm3の焼結体を得る。そして、焼結体を容器の内部に格納する。「金属亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくともいずれかを含有する改質材粉末」及び「サマリウム−鉄−窒素系磁性粉末」を、それぞれ、「改質材粉末」及び「磁性粉末」ということがあることは、前述したとおりである。
後述する亜鉛蒸気発生工程で、所望の亜鉛蒸気圧が得られれば、焼結体を格納する容器に、特に制限はない。例えば、焼結体を形成するのに用いる焼結用金型のキャビティを容器として用いてもよい。
図1は、磁性粉末と改質材粉末の混合粉末を焼結用金型のキャビティ内に格納した状態を示す模式図である。焼結用金型40は、パンチ50とダイス60を有する。ダイス60はキャビティ65を有し、パンチ50はキャビティ65の内部を摺動する。キャビティ65には、真空ポンプ(図示しない)が連結されており、キャビティ65内を減圧することができる。キャビティ65内の減圧については、「亜鉛蒸気発生工程」で説明する。
図1に示したように、磁性粉末10と改質材粉末20の混合粉末を、焼結用金型40のキャビティ65内に格納する。混合粉末を焼結用金型40のキャビティ65内に格納する際には、焼結用金型40とは異なる金型を準備し、その金型を用いて、磁性粉末10と改質材粉末20の混合粉末を予め圧縮成形して、圧粉体を得ておき、その圧粉体をキャビティ65内に格納してもよい。あるいは、焼結用金型40を用いて混合粉末を圧縮成形して圧粉体を得てもよい。焼結用金型40を用いて圧粉体を得る場合には、図1の白矢印に示した方向にパンチ50を移動させることによって、混合粉末を圧縮成形する。
混合粉末を圧縮成形して圧粉体を得るときの圧力は、磁性粉末10及び改質材粉末20の粒度、並びに圧粉体の密度等を考慮して適宜決定すればよい。圧粉体を得るときの圧力としては、例えば、20MPa以上、50MPa以上、100MPa以上、又は150MPa以上であってよく、400MPa以下、350MPa以下、300MPa以下、250MPa以下、又は200MPa以下であってよい。
混合粉末の圧縮成形を磁場中で行い、混合粉末の磁場成形体を得てもよい。これにより、本開示の希土類磁石の製造方法で得られた希土類磁石(以下、「成果物」ということがある。)に異方性を付与して残留磁化を向上させることができる。
磁場中で圧縮成形する方法は、周囲に磁場発生装置を設置した成形型を用いて、混合粉末を圧縮成形する方法等、常法でよい。印加する磁場の大きさは、300kA/m以上、500kA/m以上、1000kA/m、又は1500km/A以上であってよく、4000kA/m以下、3000kA/m以下、2500kA/m、又は2000kA/m以下であってよい。磁場の印加方法としては、電磁石を用いた静磁場を印加する方法、及び交流を用いたパルス磁場を印加する方法等が挙げられる。
混合粉末の圧縮成形(磁場中での圧縮成形を含む)に用いる金型を、例えば、図1に示した焼結用金型40と共用してもよい。磁場中での圧縮成形を、焼結用金型40と共用する場合には、パンチ50及びダイス60は、キャビティ65内に磁場を適用し易く、かつ焼結時の高温及び高圧に耐え得る材質で造られていることが好ましい。パンチ50及びダイス60材質としては、例えば、タングステンカーバイド系超硬合金及び/又はインコネル等が挙げられる。また、これらの組合せであってもよい。
磁性粉末と改質材粉末については、それぞれを混合してから圧粉に用いる金型の内部に格納してもよいし、それぞれを混合せずに圧粉に用いる金型の内部に格納してもよい。磁性粉末と改質材粉末を、それぞれ混合せずに圧粉に用いる金型の内部に格納する場合には、その格納動作によって、磁性粉末と改質材粉末を混合する。
磁性粉末と改質材粉末を、それぞれを混合してから圧粉に用いる金型の内部に格納する場合、混合方法に、特に制限はない。混合方法としては、乳鉢、ノビルタ(登録商標)、マラーホイール式ミキサー、アジテータ式ミキサー、メカノフュージョン、V型混合器、及びボールミル等を用いて混合する方法が挙げられる。これらの方法を組み合わせてもよい。なお、V型混合器は、2つの筒型容器をV型に連結した容器を備え、その容器を回転することにより、容器中の粉末が、重力と遠心力で集合と分離が繰り返され、混合される装置である。
次に圧粉体の焼結について説明する。焼結は、図1に示したように、磁性粉末10と改質材粉末20の混合粉末を、そのまま、焼結用金型40のキャビティ65内に格納して行ってもよいし、予め、混合粉末を圧縮成形して、その圧粉体を、キャビティ65内に格納して焼結してもよい。上述したように、混合粉末の圧縮成形は磁場中で行ってもよい。
焼結方法の一例について、図1を用いて説明する。キャビティ65を有するダイス60と、キャビティ65の内部を摺動可能なパンチ50を準備する。そして、キャビティ65内に圧粉体を格納し、パンチ50で圧粉体に圧力を付加しつつ、圧粉体を焼結する。
図1に示したパンチ50は円柱型であり、ダイス60のキャビティ65は円筒型であるが、これに限られず、成果物の形状によって、パンチ50及びキャビティ65の形状を種々変更できる。
パンチ50には加圧装置(図示しない)が連結され、パンチ50をキャビティ65の内部で軸方向(図1の白矢印の方向)に移動させることにより、圧粉体に圧力を付与する。図1に示した態様においては、二つのパンチ50を備えているが、両方を移動させてもよいし、いずれか一方を移動させてもよい。加圧装置としては、例えば、油圧シリンダ、空圧シリンダ、又は電動サーボシリンダ並びにこれらの組合せ等が挙げられる。また、パンチ50及びダイス60の少なくともいずれかに、その内部又は外周にヒータ(図示しない)が設置されるか、あるいは、パンチ50及びダイス60の少なくともいずれかを、加熱炉に挿入できるようにする。典型的には、例えば、ダイス60の外周にヒータ又は加熱炉を設置することが挙げられる。
パンチ50及びダイス60の態様は、図1に示した態様に限られない。図1に示した態様では、ダイス60に貫通孔を設け、貫通孔をキャビティ65としているが、これに限られない。例えば、ダイス60に、底部が閉塞されたキャビティ65を設け、底部と反対側にパンチ50を設けてもよい。
焼結条件については、焼結体の密度が5.0〜7.2g/cm3になるように適宜決定すればよい。焼結方法としては、磁性粉末と改質材粉末とが相互に固相で拡散する固相拡散と、固相の磁性粉末と液相の改質材粉末とが拡散する液相焼結のいずれも採用することができる。均一な改質被膜を形成するためには、後述する亜鉛発生工程及び亜鉛成分堆積工程によって、できるだけ多くの亜鉛成分を磁性粉末の粒子表面に堆積せせることが好ましい。このことから、混合粉末の圧粉体の焼結時には、改質が進行しない方が好ましいため、固相拡散が好ましい。改質材粉末の融点がT℃であるとき、焼結温度は、例えば、(T−50)℃以上、(T−45)℃以上、又は(T−40)℃以上であってよく、T℃以下、(T−5)℃以下、(T−10)℃以下、(T−15)℃以下、(T−20)℃以下、又は(T−30)℃以下であってよい。
改質材粉末が、主として金属亜鉛粉末を含有する場合には、金属亜鉛の融点は420℃であるため、焼結温度は、例えば、370℃以上、375℃以上、又は380℃以上であってよく、420℃以下、415℃以下、410℃以下、405℃以下、400℃以下、又は390℃以下であってよい。改質材粉末が、主としてZn0.95Al0.05合金(Zn:95原子%、Al:5原子%)粉末を含有する場合には、Zn0.95Al0.05合金の融点は400℃であるため、焼結温度は、例えば、350℃以上、355℃以上、又は360℃以上であってよく、400℃以下、395℃以下、390℃以下、385℃以下、380℃以下、又は370℃以下であってよい。なお、「主として」とは、該当する粉末の含有量が改質材粉末20全体に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。
焼結温度に関し、改質材粉末が、金属亜鉛粉末と亜鉛合金粉末の両方を主として含有する場合には、上述のTとして、金属亜鉛粉末の融点と亜鉛合金粉末の融点の低い方を適用する。例えば、改質材粉末が金属亜鉛粉末とZn0.95Al0.05合金粉末の両方を湯として含有する場合には、Tとして、Zn0.95Al0.05合金の融点、すなわち、400℃を適用する。亜鉛合金粉末が複数種類ある場合には、金属亜鉛合金粉末と複数種類の亜鉛合金粉末の融点のうち、最も低い融点をTとして適用する。このようにすることで、焼結中に改質材粉末の一部が溶融しつつも、固相焼結の様相を残存することができる。なお、「金属亜鉛粉末と亜鉛合金粉末の両方を主として」とは、金属亜鉛粉末と亜鉛合金粉末の合計含有量が、改質材粉末全体に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。亜鉛合金粉末が複数種類ある場合には、金属亜鉛合金粉末と複数種類の亜鉛合金粉末の合計含有量が、改質材粉末全体に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。
焼結圧力及び焼結時間は、磁性粉末及び改質材粉末それぞれの粒径及び配合量等を考慮して、焼結体の密度が5.0〜7.2g/cm3になるように適宜決定すればよい。焼結圧力としては、例えば、500MPa以上、700MPa以上、900MPa以上、1100MPa以上、1300MPa以上、又は1500MPa以上であってよく、5000MPa以下、4000MPa以下、3500MPa以下、3000MPa以下、2500MPa以下、2300MPa以下、2100MPa以下、1900MPa以下、又は1700MPa以下であってよい。焼結時間としては、例えば、10秒以上、100秒以上、500秒以上、1000秒以上、1500秒以上、1800秒以上、2000秒以上、2500秒以上であってよく、3600秒以下、3200秒以下、3000秒以下、2800秒以下、又は2700秒以下であってよい。
上述の焼結条件で圧粉体を焼結すると、密度が5.0〜7.2g/cm3の焼結体が得られる。上述したように、密度が5.0g/cm3以上であれば、亜鉛蒸気が焼結体の内部から外部へ排出されることを防止するのに有利である。この観点からは、密度は、5.5g/cm3以上が好ましく、6.0g/cm3以上がより好ましく、6.5g/cm3以上がより一層好ましい。一方、密度が7.2g/cm3で以下であれば、亜鉛蒸気が焼結体の内部に行き渡るのに有利である。この観点からは、密度は、7.0g/cm3以下が好ましく、6.8g/cm3以下がより好ましい。
圧粉体及び焼結体の酸化を防止する観点から、焼結は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガス雰囲気には窒素ガス雰囲気も含まれる。
上述のようにして得られた焼結体を、容器の内部に格納する。容器としては、後述する亜鉛蒸気発生工程及び亜鉛成分堆積工程に支障がなければ、特に制限はなく、図1に示した焼結用金型40のキャビティ65を容器として用いてもよい。焼結用金型40全体を別途準備した容器に格納してもよい。あるいは、焼結体を焼結用金型から取り出し、別途準備した容器に格納してもよい。
次に、磁性粉末及び改質材粉末それぞれについて説明する。
〈磁性粉末〉
本開示の希土類磁石の製造方法に用いる磁性粉末は、Sm、Fe、及びNを含有すればよい。このような磁性粉末は、典型的には、少なくとも一部にTh2Zn17型及びTh2Ni17型のいずれかの結晶構造を有する磁性相を含有する。磁性相の結晶構造としては、前述の構造のほかに、TbCu7型の結晶構造を有する相等が挙げられる。なお、Smはサマリウム、Feは鉄、そして、Nは窒素である。また、Thはトリウム、Znは亜鉛、Niはニッケル、Tbはテルビウム、そして、Cuは銅である。
磁性粉末中には、例えば、組成式(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhで表される磁性相を含有してもよい。本開示の製造方法で得られる希土類磁石(以下、「成果物」ということがある。)は、磁性粉末中の磁性相に由来して、磁気特性を発現する。なお、i、j、及びhは、モル比である。
磁性粉末中の磁性相には、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を阻害しない範囲で、Rを含有していてもよい。このような範囲は、上記組成式のiで表される。iは、例えば、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。Rは、Sm以外の希土類元素並びにY及びZrから選ばれる1種以上である。本明細書で、希土類元素とは、Sc、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、及びLuである。なお、Yはイットリウム、Zrはジルコニウム、Scはスカンジウム、Laはランタン、Ceはセリウム、Prはプラセオジム、Ndはネオジム、Pmはプロメチウム、Smはサマリウム、Euはユウロビウム、Gdはガドリニウム、Tbはテルビウム、Dyはジスプロシウム、Hoはホルミウム、Erはエルビウム、Tmはツリウム、Ybはイッテルビウム、そして、Luはルテニウムである。
(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhについては、典型的には、Sm2(Fe(1−j)Coj)17NhのSmの位置にRが置換しているが、これに限られない。例えば、Sm2(Fe(1−j)Coj)17Nhに、侵入型でRの一部が配置されていてもよい。
磁性粉末中の磁性相には、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を阻害しない範囲で、Coを含有してもよい。このような範囲は、上記組成式で、jで表される。jは、0以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.52以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhについては、典型的には、(Sm(1−i)Ri)2Fe17NhのFeの位置にCoが置換しているが、これに限られない。例えば、(Sm(1−i)Ri)2Fe17Nhに、侵入型でCoの一部が配置されていてもよい。
磁性粉末中の磁性相は、(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17で表される結晶粒に、Nが侵入型で存在することによって、磁気特性の発現及び向上に寄与する。
(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhについては、hは1.5〜4.5をとり得るが、典型的には、(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17N3である。hは、1.8以上、2.0以上、又は2.5以上であってもよく、4.2以下、4.0以下、又は3.5以下であってもよい。(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nh全体に対する(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17N3の含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%がより一層好ましい。一方、(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhのすべてが(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17N3でなくてもよい。(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nh全体に対する(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17N3の含有量は、99質量%以下、98質量%以下、又は97質量%以下であってよい。
磁性粉末は、(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhで表される磁性相の他に、本開示の製造方法の効果及び成果物の磁気特性を実質的に阻害しない範囲で、酸素及びM1並びに不可避的不純物元素を含有してもよい。成果物の磁気特性を確保する観点からは、磁性粉末全体に対する、(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhで表される磁性相の含有量は、80質量%以上、85質量%以上、又は90質量%以上であってよい。一方、磁性粉末全体に対して、(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhで表される磁性相の含有量を過度に高くしなくとも、実用上問題はない。したがって、その含有量は、99質量%以下、98質量%以下、又は97質量%以下であってよい。(Sm(1−i)Ri)2(Fe(1−j)Coj)17Nhで表される磁性相の残部が、酸素及びM1の含有量となる。また、M1の一部は、侵入型及び/又は置換型で、磁性相に存在していてもよい。
上述のM1としては、Ga、Ti、Cr、Zn、Mn、V、Mo、W、Si、Re、Cu、Al、Ca、B、Ni、及びCから選ばれる一種以上が挙げられる。不可避的不純物元素とは、原材料及び/又は磁性粉末を製造等するに際し、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。これらの元素は、置換型及び/又は侵入型で上述した磁性相に存在していてもよいし、上述した磁性相以外の相に存在していてもよい。あるいは、これらの相の粒界に存在していてもよい。なお、Gaはガリウム、Tiはチタン、Crはクロム、Znは亜鉛、Mnはマンガン、Vはバナジウム、Moはモリブデン、Wはタングステン、Siはシリコン、Reはレニウム、Cuは銅、Alはアルミニウム、Caはカルシウム、Bはホウ素、Niはニッケル、そして、Cは炭素である。
磁性粉末の粒径は、成果物が所望の磁気特性を有し、かつ、亜鉛蒸気の移動等、本開示希土類磁石の製造方法の効果に支障を及ぼさない限り、特に制限はない。磁性粉末の粒径としては、D50で、例えば、1μm超、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、又は9μm以上であってよく、20μm以下、19μm以下、18μm以下、17μm以下、16μm以下、15μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、11μm以下、又は10μm以下であってよい。なお、D50は、メジアン径を意味する。また、磁性粉末のD50は、例えば、乾式レーザ回折・散乱法等によって測定される。
本開示の希土類磁石の製造方法では、改質材粉末で磁性粉末を改質する。磁性粉末中の酸素は、改質材粉末中の金属亜鉛又は亜鉛合金粉末に吸収されることで、成果物の磁気特性、特に保磁力を向上させることができる。磁性粉末中の酸素の含有量は、製造工程中で、改質材粉末が、磁性粉末中の酸素を吸収する量を考慮して決定すればよい。磁性粉末の酸素含有量は、磁性粉末全体に対して、低い方が好ましい。磁性粉末の酸素含有量は、磁性粉末全体に対して、2.00質量%以下が好ましく、1.34質量%以下がより好ましく、1.05質量%以下がより一層好ましい。一方、磁性粉末中の酸素の含有量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、磁性粉末の酸素の含有量は、磁性粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
磁性粉末は、これまで説明してきたことを満足すれば、その製造方法に特に制限はなく、市販品を用いてもよい。磁性粉末の製造方法として、例えば、サマリウム酸化物及び鉄粉から還元拡散法でSm−Fe合金粉末を製造し、窒素と水素の混合ガス、窒素ガス、及びアンモニアガス等の雰囲気中で600℃以下の加熱処理をして、Sm−Fe−N粉末を得る方法等が挙げられる。あるいは、例えば、溶解法でSm−Fe合金を製造し、その合金を粗粉砕して得た粗粉砕粒を窒化し、それを所望の粒径になるまで、さらに粉砕する方法等が挙げられる。粉砕には、例えば、乾式ジェットミル、乾式ボールミル、湿式ボールミル、又は湿式ビーズミル等を用いることができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。
〈改質材粉末〉
本開示の希土類磁石の製造方法で用いる改質材粉末は、金属亜鉛及び亜鉛合金の少なくともいずれかを含有する。
金属亜鉛とは、合金化されていない亜鉛のことを意味する。金属亜鉛の純度は、95.0質量%以上、98.0質量%以上、99.0質量%以上、又は99.9質量%以上であってよい。金属面鉛粉末は、水素プラズマ反応法(HRMR法)で製造したものを用いてもよい。
亜鉛合金をZn−M2で表すと、M2は、Zn(亜鉛)と合金化して、亜鉛合金の溶融開始温度を、Znの融点よりも降下させる元素及び不可避的不純物元素であることが好ましい。亜鉛合金の溶融開始温度を、Znの融点よりも降下させるM2としては、ZnとM2とで共晶合金を形成する元素が挙げられる。このようなM2としては、典型的には、Sn、Mg、及びAl並びにこれらの組み合せ等が挙げられる。Snはスズ、Mgはマグネシウム、そして、Alはアルミニウムである。これらの元素による融点降下作用、及び、成果物の特性を阻害しない元素についても、M2として選択することができる。また、不可避的不純物元素とは、改質材粉末の原材料に含まれる不純物等、その含有を回避することが避けられない、あるいは、回避するためには著しい製造コストの上昇を招くような不純物元素のことをいう。
Zn−M2で表される亜鉛合金において、Zn及びM2の割合(モル比)は、焼結温度及び焼結体の加熱温度が適正になるように適宜決定すればよい。亜鉛合金全体に対するM2の割合(モル比)は、例えば、0.02以上、0.05以上、0.10以上、又は0.20以上であってよく、0.90以下、0.80以下、0.70以下、0.60以下、0.50以下、0.40以下、又は0.30以下であってよい。
改質材粉末の粒径は、特に制限はないが、磁性粉末の粒径よりも細かい方が好ましい。改質材粉末の粒径は、D50(メジアン径)で、例えば、0.1μm超、0.5μm以上、1μm以上、又は2μm以上であってよく、12μm以下、11μm以下、10μm以下、9μm以下、8μm以下、7μm以下、6μm以下、5μm以下、又は4μm以下であってよい。また、改質材粉末の粒径は、例えば、乾式レーザ回折・散乱法等によって測定される。
改質材粉末の酸素含有量が少ないと、磁性粉末中の酸素を多く吸収できて好ましい。この観点からは、改質材粉末の酸素含有量は、改質材粉末全体に対し、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%がより好ましく、1.0質量%以下がより一層好ましい。一方、改質材粉末の酸素の含有量を極度に低減することは、製造コストの増大を招く。このことから、改質材粉末の酸素の含有量は、改質材粉末全体に対して、0.1質量%以上、0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってよい。
上述したように、改質材粉末は、バインダと改質材の両方の機能を有する。しかし、改質材粉末は、成果物の磁化に寄与しないため、改質材粉末の混合量が過剰であると、成果物の磁化が低下する。バインダ及び改質材としての機能を確保する観点から、改質材粉末は、磁性粉末と改質材粉末の合計に対して、亜鉛成分が、1質量%以上、3質量%以上、6質量%以上、又は9質量%以上になるように、改質材粉末を混合してよい。成果物の磁化の低下を抑制する観点から、混合粉末全体に対して、亜鉛成分が、20質量%以下、18質量%以下、又は16質量%以下になるように、改質材粉末を混合してよい。なお、亜鉛成分とは、改質材粉末中の亜鉛の量を意味し、例えば、改質材粉末が金属亜鉛と亜鉛合金の両方を含有する場合には、金属亜鉛中の亜鉛の量と亜鉛合金中の亜鉛の量の合計である。
〈亜鉛蒸気発生工程〉
容器の内部を減圧しつつ、焼結体を加熱して、焼結体中の金属亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくともいずれかから、亜鉛蒸気を発生させる。
亜鉛蒸気発生工程について、図面を用いて説明する。図2は、焼結体を焼結用金型のキャビティ内に格納した状態を示す模式図である。図3は、焼結用金型のキャビティの内部を減圧しつつ、焼結体を加熱している状態を示す模式図である。ここでは、例えば、図2及び図3で示したように、焼結用金型40のキャビティ65を容器として用いた場合の亜鉛蒸気発生について説明するが、これに限られない。上述したように、焼結用金型40全体を別途準備した容器に格納してもよい。あるいは、焼結体30を焼結用金型40から取り出し、別途準備した容器に焼結体30を格納してもよい。
亜鉛蒸気発生工程で焼結用金型40を用いる場合には、キャビティ65に真空ポンプ(図示しない)等を連結して、キャビティ65の内部を減圧する。焼結体30の加熱には焼結用金型40が備えるヒータ等を用いることができる。
亜鉛蒸気発生工程で焼結用金型40を用いない場合には、別途準備した容器等に、例えば、真空ポンプ等を連結して容器内を減圧する。そして、例えば、容器が備えるヒータ等で、容器内の焼結体30を加熱する。このような容器としては、例えば、真空加熱炉等が挙げられる。
亜鉛蒸気発生工程で焼結用金型40を用いる場合には、図2に示したように、焼結用金型40のキャビティ65内に、焼結体30を格納する。キャビティ65の内部を容器として使用するため、パンチ50の摺動方向に圧力を負荷することはない。焼結体30は、混合粉末の粒子、すなわち、磁性粉末10及び改質材粉末20の粒子を含有する。そして、図2の状態で、磁性粉末10が溶融せず、改質材粉末20から亜鉛蒸気が発生するように、キャビティ65内を減圧しつつ、焼結体30を加熱する。このとき、図3に示したように、焼結体30の内部では、磁性粉末10の粒子間は、亜鉛蒸気26で満たされる。そのため、仮に、図2の状態(容器の内部を減圧しつつ、焼結体30を加熱する前の状態)で、焼結体30の内部において改質材粉末20の粒子が均一に分布していなくても、亜鉛蒸気26が発生すれば、その亜鉛蒸気26が磁性粉末10の粒子間に均一に行き渡る。その結果、後述する亜鉛堆積工程で、磁性粉末10の粒子表面に均一に改質被膜22が堆積される。
磁性粉末10の粒子間に亜鉛蒸気26が均一に行き渡るようにするという観点からは、改質材粉末20の金属亜鉛及び/又は亜鉛合金は、昇華することが好ましい。昇華とは、固体(固相)が液体(液相)を経ずに気体(気相)になることを意味する。亜鉛の融液(液体)と比べて、亜鉛蒸気26(気体)の方が、磁性粉末10の粒子間を自由に移動できる。そのため、理論に拘束されないが、亜鉛の融液(液体)を経ずに亜鉛蒸気26となった方が、磁性粉末10の粒子間に亜鉛蒸気26が行き渡り易くなると考えられる。
図8は、亜鉛の蒸気圧曲線である。図8において、実線の曲線は亜鉛の蒸気圧曲線を示す。蒸気圧曲線の下側は亜鉛が気体であるか、あるいは、気体と液体であることを示す。蒸気圧曲線の上側は亜鉛が固体又は液体であることを示す。蒸気圧曲線の上側については、亜鉛の融点(420℃)を境に、低温側は亜鉛が固体であることを示し、高温側は亜鉛が液体であることを示す。亜鉛蒸気26を発生させる際には、蒸気圧曲線に基づいて、亜鉛が昇華するような減圧雰囲気で焼結体30を加熱することが好ましい。亜鉛が昇華しない場合でも、亜鉛の融液が速やかに気化する減圧雰囲気で焼結体30を加熱することが好ましい。焼結体30中の改質材粉末20が亜鉛合金を含有する場合には、亜鉛合金の蒸気圧曲線に基づくか、亜鉛の蒸気圧曲線に準じて、減圧度及び加熱温度を適宜決定すればよい。
改質材粉末20の融点がT℃であるとき、焼結体30の加熱温度は、例えば、(T−40)℃以上、(T−30)℃以上、(T−20)℃以上、(T−10)℃以上、T℃以上、(T+10)℃以上、(T+20)℃以上、又は(T+30)℃以上であってよく、(T+80)℃以下、(T+70)℃以下、(T+60)℃以下、(T+50)℃以下、又は(T+40)℃以下であってよい。このような温度で、焼結体30を加熱するときの容器内の圧力(亜鉛蒸気及び亜鉛と合金化している元素の蒸気の分圧を除く)は、例えば、1×10−6MPa以上、1×10−5MPa以上、1×10−4MPa以上、1×10−3MPa以上、1×10−2MPa以上、1×10−1MPa以上、又は1×100MPa以上であってよく、1×103MPa以下、1×102MPa以下、又は1×10Pa以下であってよい。
焼結体30中の改質材粉末20が、主として金属亜鉛粉末を含有する場合には、焼結体30の加熱温度は、例えば、380℃以上、390℃以上、400℃以上、410℃以上、420℃以上、430℃以上、440℃以上、又は450℃以上であってよく、500℃以下、490℃以下、480℃以下、470℃以下、又は460℃以下であってもよい。また、このような温度で、焼結体30を加熱するときの容器内の圧力(亜鉛蒸気の分圧を除く)は、例えば、1×10−6MPa以上、1×10−5MPa以上、1×10−4MPa以上、1×10−3MPa以上、1×10−2MPa以上、1×10−1MPa以上、又は1×100MPa以上であってよく、1×103MPa以下、1×102MPa以下、又は1×10Pa以下であってよい。なお、改質材粉末20が「主として」金属亜鉛粉末を含有するとは、金属亜鉛粉末の含有量が、改質材粉末20全体に対して、例えば、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。
焼結体30中の改質材粉末20が、主としてZn0.95Al0.05合金粉末を含有する場合には、焼結体30の加熱温度は、例えば、360℃以上、370℃以上、380℃以上、390℃以上、400℃以上、410℃以上、420℃以上、又は430℃以上であってよく、480℃以下、470℃以下、460℃以下、450℃以下、又は440℃以下であってよい。また、このような温度で、焼結体30を加熱するときの容器内の圧力(亜鉛蒸気及びアルミニウム蒸気の分圧を除く)は、例えば、1×10−6MPa以上、1×10−5MPa以上、1×10−4MPa以上、1×10−3MPa以上、1×10−2MPa以上、1×10−1MPa以上、又は1×100MPa以上であってよく、1×103MPa以下、1×102MPa以下、又は1×10Pa以下であってよい。なお、改質材粉末20が「主として」Zn0.95Al0.05合金粉末を含有するとは、Zn0.95Al0.05合金粉末の含有量が、改質材粉末20全体に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。
焼結体の加熱温度に関し、改質材粉末が、金属亜鉛粉末と亜鉛合金粉末の両方を主として含有する場合には、上述のTとして、金属亜鉛粉末の融点と亜鉛合金粉末の融点の低い方を採用する。例えば、改質材粉末が金属亜鉛粉末とZn0.95Al0.05合金粉末の両方を主として含有する場合には、Tとして、Zn0.95Al0.05合金の融点、すなわち、400℃を適用する。亜鉛合金粉末が複数種類ある場合には、金属亜鉛合金粉末と複数種類の亜鉛合金粉末の融点のうち、最も低い融点をTとして適用する。このようにすることで、焼結体の加熱中に、焼結体中の金属亜鉛及び/又は亜鉛合金が昇華するか、溶融後に直ちに気化する。なお、「金属亜鉛粉末と亜鉛合金粉末の両方を主として」とは、金属亜鉛粉末と亜鉛合金粉末の合計含有量が、改質材粉末全体に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。亜鉛合金粉末が複数種類ある場合には、金属亜鉛合金粉末と複数種類の亜鉛合金粉末の合計含有量が、改質材粉末全体に対して、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上であり、100質量%以下、99質量%以下、98質量%以下、97質量%以下、96質量%、又は95質量%以下であることを意味する。
焼結体30の加熱時間は、焼結体30の質量、並びに、焼結体30中の磁性粉末10及び改質材粉末20の粒度等を考慮して、適宜決定すればよい。焼結体30の加熱時間としては、例えば、10分以上、50分以上、100分以上、200分以上、又は300分以上であってよく、1000分以下、800分以下、600分以下、又は400分以下であってよい。
〈亜鉛成分堆積工程〉
亜鉛蒸気26を発生させた容器の内部に不活性ガスを注入して、焼結体30中の磁性粉末10の粒子表面に亜鉛成分を堆積する。あるいは、亜鉛蒸気26を発生させた容器の内部を冷却して、焼結体30中の磁性粉末10の粒子表面に亜鉛成分を堆積する。容器の内部への不活性ガスの注入、あるいは、容器の内部の冷却については、これらの少なくともいずれかを行えばよい。なお、不活性ガスには、窒素ガスを含むものとする。
亜鉛成分堆積工程について、図面を用いて、さらに説明する。ここでは、図3及び図4に示すように、容器として焼結用金型40を用いる場合について説明するが、これに限られない。すなわち、容器は、前述の亜鉛蒸気発生工程で亜鉛蒸気の発生させることができ、かつ、亜鉛成分堆積工程で亜鉛蒸気を凝縮することができれば、特に制限はない。焼結用金型40のキャビティ65の内部を容器として使用するため、パンチ50の摺動方向に圧力を負荷することはない。
図3に示したように、焼結用金型40のキャビティ65内に格納した焼結体30は、キャビティ65内を減圧しつつ、焼結体30を加熱することによって、磁性粉末10の粒子間は、亜鉛蒸気26で満たされる。
図4は、図3の状態から、磁性粉末の粒子表面に亜鉛成分が堆積した状態を示す模式図である。図3に示したように、周囲を亜鉛蒸気26で満たされた磁性粉末10の粒子の表面には、亜鉛蒸気26に由来して、亜鉛成分が堆積され、改質被膜22が形成される。その結果、図4に示したように、焼結体30の内部に、均一な被覆磁性粉末28を得ることができる。
亜鉛成分の堆積は、容器の内部に不活性ガスを注入するか、容器の内部を冷却することによって、行うことができる。これを図8に示した亜鉛の蒸気圧曲線を用いて説明する。図3に示した状態が図8のA点であるとすると、亜鉛成分を堆積するには、例えば、図8のB点まで加圧(復圧)するか、図8のC点まで冷却すればよい。加圧(復圧)と冷却を組み合わせてもよい。
磁性粉末10と亜鉛蒸気26が入っている容器を加圧(復圧)する方法としては、例えば、図3で示した態様では、容器の内部、すなわち、焼結用金型40のキャビティ65内に不活性ガスを注入する方法等が挙げられる。加圧媒体として、不活性ガスを用いるのは、焼結体30及び被覆磁性粉末28の酸化を防止するためである。
容器内に不活性ガスを注入して、亜鉛成分を堆積させる場合、不活性ガスを注入した後の容器内の圧力、及びこのような圧力になるまでの速度については、亜鉛蒸気が液相を経ずに堆積するように、これらの圧力及び速度を決定することがより好ましい。これにより、磁性粉末10の粒子表面に形成される改質被膜22が、より均一になる。亜鉛蒸気が液相を経て堆積する場合でも、液相から直ちに改質被膜22を形成するように、圧力及び速度を決定することが好ましい。
不活性ガスを注入した後の容器内の圧力(図8のB点の圧力)は、例えば、1×104Pa以上又は1×105Pa以上であってもよい。あるいは、容器内に不活性ガスを注入して、容器内の圧力を、例えば、大気圧と同等にしてもよい。また、このような圧力になるまでの速度は、速い方が好ましく、例えば、1000Pa/秒以上、10000Pa/秒以上、又は100000Pa/秒以上であってよい。
磁性粉末10と亜鉛蒸気が入っている容器の内部を急冷する方法としては、例えば、図3で示した態様では、容器の内部、すなわち、焼結用金型40のキャビティ65内を冷却する方法等が挙げられる。キャビティ65内を冷却する方法としては、パンチ50及びダイスの少なくともいずれかを冷却して、キャビティ65内を冷却する方法が挙げられる。あるいは、キャビティ65内に冷却パイプ等を配置して、冷却パイプに冷却媒体を導入すること等が挙げられる。
容器内を冷却して、亜鉛成分を堆積させる場合、亜鉛蒸気が液相を経ずに堆積するように、容器内を冷却することがより好ましい。これにより、磁性粉末10の粒子表面に形成される改質被膜22が、より均一になる。亜鉛蒸気が液相を経て堆積する場合でも、容器内をできるだけ高速で冷却することにより、改質被膜の均一化に寄与する。
亜鉛蒸気が容器内に存在しているときの容器内の温度をTr℃とすると、容器内の温度を、例えば、(Tr−30)℃以下、(Tr−50)℃以下、(Tr−80)℃以下、(tR−100)℃以下、(Tr−150)℃以下、(Tr−200)℃以下、(Tr−230)℃以下、又は(Tr−250)℃以下に冷却してもよい。
冷却速度は、速い方が好ましく、冷却速度は、例えば、1℃/秒以上、10℃/秒以上、又は100℃/秒以上であってよい。
改質被膜22の堆積と同時に、改質が進み、保磁力向上に寄与する。このようにして改質の進んだ焼結体30は、希土類磁石として使用できる。
〈変形〉
本開示の希土類磁石の製造方法は、特許請求の範囲に記載されている範囲内であれば、種々の変形を加えることができる。例えば、焼結体30内の磁性粉末10の粒子の表面に改質被膜22を堆積した後、さらに、その焼結体30を固相焼結及び/又は液体焼結してもよい。これにより、焼結体30の密度が向上し、飽和磁化の向上に寄与するとともに、改質もさらに進み、保磁力向上に寄与する。
以下、本開示の希土類磁石の製造方法を実施例及び比較例により、さらに具体的に説明する。なお、本開示の希土類磁石の製造方法は、以下の実施例で用いた条件に限定されるものではない。
《試料の準備》
希土類磁石の試料を次の要領で準備した。
〈実施例1〜5及び比較例1〜2〉
磁性粉末として、サマリウム−鉄−窒素系磁性粉末を準備した。磁性粉末は、93.0質量%のSm2Fe17N3を含有していた。磁性粉末の粒度は表1に示すとおりであった。
改質材粉末として、金属亜鉛粉末及びZn0.95Al0.05合金粉末を準備した。金属亜鉛粉末の粒度はD50で0.5μmであり、金属亜鉛粉末の純度は99.4質量%であった。Zn0.95Al0.05合金粉末の粒度はD50で0.4μmであり、Zn0.95Al0.05合金粉末の純度は98.5質量%であった。
V型混合器を用いて磁性粉末と改質材粉末を混合して、混合粉末を得た。磁性粉末と改質材粉末の合計に対する金属亜鉛の量は、表1に示すとおりであった。
図1に示した焼結用金型40と同様の構造を備える磁場中成形金型を用いて、混合粉末を磁場中で圧縮成形し圧粉体を得た。圧縮成形の圧力は50MPaであった。印加した磁場は1600kA/mであった。圧粉体を図1に示した焼結用金型40に装入し、圧粉体を焼結した。焼結温度、焼結圧力、及び焼結時間は、表1に示すとおりであり、焼結時間を変化させることによって焼結体30の密度を調整した。焼結はアルゴンガス雰囲気で行い、その雰囲気圧力(アルゴンガス分圧)は97000Paであった。
図2〜図4に示した焼結用金型40に、焼結体30を格納して、亜鉛蒸気を発生させ、焼結体30中の磁性粉末10の粒子表面に亜鉛成分を堆積させ、希土類磁石を得た。諸条件は表1に示すとおりであった。
《評価》
実施例1〜5及び比較例1〜2の試料について、密度と磁気特性を測定した。測定は室温で行った。密度はアルキメデス法で改質被膜22の堆積前後に測定した。磁気特性は振動試料型磁力計(VSM)を用いて測定した。
結果を表1に示す。
表1から、焼結体30の密度が所定の範囲内である実施例1〜5の試料については、保磁力が向上していることを確認できた。
これらの結果から、本開示の希土類磁石の製造方法の効果を確認できた。