以下、図面を参照して、水平面内で互いに直行する2方向をX軸方向及びY軸方向、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直方向をZ軸方向とし、また、被処理基板を矩形の輪郭を持つガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swがその一方の面を開放した状態で保持するキャリアCaにセットされて移送され、その途中でZ軸方向にて上下反転させる場合を例に本発明の真空処理装置VMの実施形態を説明する。なお、キャリアCaの形態やキャリアCaに対する基板Swのセット方法としては、クランプを利用したもの等、公知のものが利用できるため、以下ではその説明を省略する。
図1〜図3を参照して、本実施形態の真空処理装置VMは、X軸方向に互いに連設される上流側チャンバUcと中間チャンバMcと下流側チャンバDcとを備え、上流側チャンバUcと下流側チャンバDcとにおいて、キャリアCaで支持された基板Swの一方の面に対して所定の真空処理が実施されるようになっている。上流側チャンバUcと下流側チャンバDcとは、同等の構成を有し、真空ポンプVc1からの排気管Vp1が接続されて、それらの内部を所定圧力の真空雰囲気に維持できるようにしている。真空処理としては、例えば真空蒸着法、スパッタリング法やCVD法による成膜処理、熱処理、エッチング処理といった各種の真空処理が挙げられ、図1,2中には特に図示して説明しないが、基板Swに対して実施しようとする真空処理に応じて公知の構造を持つ必要な機器が上流側チャンバUcと下流側チャンバDcとに夫々設けられている。
上流側チャンバUcと中間チャンバMcと下流側チャンバDcとには、基板SwがセットされたキャリアCaを移送する移送手段が設けられている。移送手段は、上流側チャンバUc及び下流側チャンバDc内に夫々設けられる第1のローラユニット1a,1bと、中間チャンバMc内に設けられる第2のローラユニット2とを備える。例えば、上流側チャンバUcに設けられる第1のローラユニット1aを例に説明すると、第1のローラユニット1aは、上流側チャンバUcの互いに対向するY軸方向の側壁UwにX軸方向に所定間隔で夫々列設された複数の移送ローラ11で構成され、各移送ローラ11が、基板Swの外周よりY軸方向に突出したキャリアCaの部分を支持するようになっている。
側壁Uw,Uwから上流側チャンバUc外に突出した各移送ローラ11の駆動軸12の部分には、特に図示して説明しないが、プーリが設けられ、これらのプーリとの間にはベルトが掛け回されている。そして、図外のモータによりいずれかのプーリを回転駆動すると、ベルトを介して各移送ローラ11が同方向に同期して回転し、キャリアCaがX軸方向一方からその他方に向けて(図1中、左から右に)移送されるようになっている。なお、上流側チャンバUc及び下流側チャンバDc内に夫々設けられる移送手段の構成要素は、キャリアCaをX軸方向に移送できるものであれば、上記第1のローラユニット1a,1bによるものに限定されるものではなく、単軸ロボットによるもの等、公知のものが利用できる。
中間チャンバMcには、上流側チャンバUc及び下流側チャンバDcと同様に、真空ポンプVc2からの排気管Vp2が接続されて、それらの内部を所定圧力の真空雰囲気に維持できるようにしている。その内部に設けられる第2のローラユニット2は、中間チャンバMc内で互いに対峙させて設けられるZ軸方向上下一対のもので構成されている(以下では、図1中、Z軸方向上側のものを「上ローラユニット2u」、Z軸方向下側のものを「下ローラユニット2d」とする)。各ローラユニット2u,2dは、同一の構成を有し、中間チャンバMcの互いに対向するY軸方向の側壁MwにX軸方向に所定間隔で夫々列設された複数の移送ローラ21a,21bを備え、後述する中間チャンバMcの姿勢に応じて、下ローラユニット2d(または上ローラユニット2u)の各移送ローラ21b(または21a)が、基板Swの外周よりY軸方向に突出したキャリアCaの部分を支持するようになっている。
図2を参照して、図1に示すZ軸方向下側に位置するローラユニット2dを例に説明すると、中間チャンバMcの側壁Mwには、Z軸方向に長手のスリット孔MsがX軸方向に列設され、スリット孔Msを夫々挿通して中間チャンバMc外にY軸方向に夫々突出した各移送ローラ21bの駆動軸22の部分にはプーリ23が設けられ、これらのプーリ23の間にはベルト24が掛け回されている。そして、モータ25によりいずれかのプーリ23を回転駆動すると、ベルト24を介して各移送ローラ21bが同方向に同期して回転し、キャリアCaがX軸方向一方からその他方に向けて(図1中、左から右に)移送されるようになっている。
また、駆動軸22の部分、プーリ23やベルト24といったキャリアCaを移送するための部品は、ボックス26内に一体に組み付けられ、ボックス26が、中間チャンバMcの側壁Mw外側に夫々取り付けた真空雰囲気の形成が可能な拡張チャンバEc,Ec内に格納されている。拡張チャンバEc,Ec内には、移動手段としての直動モータ27が設けられ、直動モータ27の駆動軸27aがボックス26の所定位置に接続され、上ローラユニット2uと下ローラユニット2dとを(即ち、各ローラユニット2u,2dの各移送ローラ21a,21bを)互いに近接または離間するようにZ軸方向に夫々移動できるようになっている。なお、拡張チャンバEc,Ec自体は、中間チャンバMcにスリット孔Msを介して連通しているが、その内部を独立して真空排気する真空ポンプを設けていてもよい。各拡張チャンバEc,EcのY軸方向の外側壁の所定位置には、Y軸方向で同軸上に位置させて回転軸3a,3bが夫々突設され、回転軸3a,3bは、例えば真空処理装置VMが設置される床面にY軸方向に間隔を存して配置される支持ブロック4a,4bに軸支されている。これにより、回転手段としての回転モータ5により回転軸3a,3bを回転させると、その回転方向及び回転角に応じて中間チャンバMcが回転してその姿勢を変更するようになる。なお、中間チャンバMcの回転を阻害しないように、真空ポンプVc2からの排気管Vp2の中間チャンバMcへの接続位置や、その長さなどが適宜設定されている。
図1に示す真空処理装置VMの姿勢を例に説明すると、中間チャンバMcに対峙する上流側チャンバUcの壁面には開閉バルブとしての第1のゲートバルブ61が設けられると共に、上流側チャンバUcに対峙する中間チャンバMcの壁面には開閉バルブとしての第2のゲートバルブ62が設けられ、また、下流側チャンバUcに対峙する中間チャンバMcの壁面には開閉バルブとしての第3のゲートバルブ63が設けられると共に、中間チャンバMcに対峙する下流側チャンバDcの壁面には開閉バルブとしての第4のゲートバルブ64が設けられている。そして、第1〜第4のゲートバルブ61〜64を閉じると、上流側チャンバUcと中間チャンバMcと下流側チャンバDcとをその内部の真空雰囲気を維持したまま互いに隔絶できるようになっている。なお、開閉バルブとして、第1〜第4のゲートバルブ61〜64を例に説明しているが、チャンバ内からのキャリアCaの移動を許容できるものであれば、例えばバタフライ式のものなど他の公知のものを利用でき。
第1の開閉バルブ61及び第4の開閉バルブ64には、X軸方向に長手の第1及び第2の各連結部材71,72が夫々取り付けられている。各連結部材71,72は、基板Swの通過を許容する内径を持つベローズ管で構成されている。各連結部材71,72の中間チャンバMc側の端面にはフランジ部71a,72aが形成され、フランジ部71a,72aにOリング等の真空シール71b,72bが設けられている。また、第1及び第2の各連結部材71,72には、駆動手段としてのエアシリンダ73の駆動軸73aが連結され、エアシリンダ73によりX軸方向に伸縮自在、即ち、回転される中間チャンバMcに干渉しない縮位置と、フランジ部71a,72aの真空シール71b,72bが、中間チャンバMcの第2及び第3の各ゲートバルブ62,63の対峙面に当接して、その内部を気密保持した状態とする伸位置との間で第1及び第2の各連結部材71,72が伸縮自在となる。
第1及び第2の各連結部材71,72には、真空ポンプVc3からの排気管Vp3と、ベントガス導入用バルブVgからのベントガス導入管(ベントライン)Vlとが接続され、その内部を真空雰囲気と大気雰囲気とに適宜切り換えることができるようにしている。真空ポンプVc3としては、上流側チャンバUcと中間チャンバMcとを及び中間チャンバMcと下流側チャンバDcとを再度連通するときに、上流側チャンバUcと下流側チャンバDcとに求められる圧力(真空度)に応じて、公知のものから適宜選択されるが、その圧力やベローズ管71,72の容積によっては、真空ポンプVc3を省略することができる。また、ベントガスとしては、例えば、窒素ガスなどの不活性ガスが用いられる。以下に、図面も参照して、真空処理装置VMによる基板Swの移送を具体的に説明する。
図1に示す真空処理装置VMでは、第1〜第4の各ゲートバルブ61〜64が開状態で、且つ、上流側チャンバUcと中間チャンバMcとを及び中間チャンバMcと下流側チャンバDcとを連通する伸位置に第1及び第2の連結部材71,72がある。また、上流側チャンバUc、中間チャンバMc及び下流側チャンバDcは、真空ポンプVc1,Vc2により所定圧力まで真空排気され、更に、真空雰囲気の上流側チャンバUc内では、第1のローラユニット1aの各移送ローラ11で、上面に基板SwがセットされたキャリアCaが支持されている(つまり、基板Swの処理面がZ軸方向上方を向く姿勢となっている)。上流側チャンバUcから中間チャンバMcを経て下流側チャンバDcに基板Swをその姿勢をかえて移送する場合、先ず、第1のローラユニット1aと、第2のローラユニット2の下ローラユニット2dとを夫々稼働し、上流側チャンバUcから第1の連結部材71を通して中間チャンバMc内へと移送し、下ローラユニット2dでキャリアCaが支持される状態とする。
次に、第1〜第4の各ゲートバルブ61〜64を閉状態とし、上流側チャンバUc、中間チャンバMc及び下流側チャンバDcをその内部を真空雰囲気とした状態で互いに隔絶する。この状態で、ベントガス導入管Vlを介してベントガスを第1及び第2の連結部材71,72に夫々導入してその内部を大気雰囲気とする。そして、エアシリンダ73により第1及び第2の連結部材71,72を縮位置に夫々移動する。これに併せて、中間チャンバMcにおいて、直動モータ27を稼働させて、上ローラユニット2uと下ローラユニット2dとをZ軸方向で互いに近接するように移動させることで、一対のローラユニット2u,2dでキャリアCaを挟持することで保持する。
次に、キャリアCaを保持(つまり、その移動を規制)した状態で、回転モータ5により回転軸3a,3bを180度回転させる。すると、中間チャンバMcの回転に伴ってキャリアCaが上下反転する。これにより、基板Swの処理面がZ軸方向下方を向く姿勢に変更される。この状態で、直動モータ27を稼働させて、上ローラユニット2uと下ローラユニット2dとをZ軸方向で互いに離間するように移動させると、キャリアCaが、Z軸方向下側に位置するようになった第2のローラユニット2の上ローラユニット2uで支持されるようになる。
次に、第2の連結部材72が伸位置に移動され(必要に応じて、第1の連結部材71も伸位置に移動され)、真空シール72bが第3のゲートバルブ63の対峙面に当接し、この状態で真空ポンプVc3により第2の連結部材72内が真空排気される。第2の連結部材72内が所定圧力まで真空排気されると、第3のゲートバルブ63が開状態とされ、第1のローラユニット1bと上ローラユニット2uとを夫々稼働し、中間チャンバMcから第2の連結部材72を通して下流側チャンバDc内へと移送する。
以上の実施形態によれば、中間チャンバMc自体を回転させてその内部で保持されるキャリアCa、ひいては、基板Swの姿勢を変更する構成を採用したため、中間チャンバMc自体は、基板SwがセットされたキャリアCaと第2のローラユニット2とを格納する空間だけあれば済み、基板Swの回転を許容できる空間を確保する必要がある上記従来例のものと比較して、中間チャンバMcのサイズを大幅に小さくすることができる。その結果、その内部を真空排気するために多数の真空ポンプが必要になったり、また、真空チャンバの材料費が大幅に増加したりするといった問題を解消することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、真空処理装置VMとして、上流側チャンバUc、中間チャンバMc及び下流側チャンバDcを持つものを例に説明したが、チャンバの数はこれに限定されるものではなく、各種の真空処理を行う複数個の処理チャンバの間で基板Swを移送する際に、この基板Swを姿勢変更する必要があるものに広く適用することができる。
また、上記実施形態では、中間チャンバMcにて基板Swを上下反転させるものを例に説明したが、これに限定されるものではない。特に図示して説明しないが、例えば、上流側チャンバUcで基板Swの処理面が鉛直方向上方を向く姿勢(水平姿勢)で処理を行い、中間チャンバMcにて基板Swの処理面が水平方向を向く姿勢(垂直姿勢)に姿勢変更し、この姿勢で下流側チャンバDcに基板Swを移送することもできる。このような場合、中間チャンバMcに、垂直姿勢にされた基板Swを移送する移送手段を適宜設けておけばよい。更に、上記実施形態では、上ローラユニット2uと下ローラユニット2dとをZ軸方向で互いに近接または離間するように移動できる構成を採用し、一対のローラユニット2u,2dでキャリアCaを挟持することで保持するものを例に説明したが、中間チャンバMc自体を回転させるときにキャリアCaまたは基板Swを保持できるものであれば、これに限定されるものではなく、保持するための機構は、キャリアCaまたは基板Swを移送するものと別体で構成するようにしてもよい。
また、上記実施形態では、第1及び第2の各連結部材71,72がベローズ管で構成され、ベローズ管を駆動手段73で伸縮させてX軸方向に進退させるものを例に説明したが、上流側チャンバUcと中間チャンバMcとを及び中間チャンバMcと下流側チャンバDcとを連通またはその解除ができて中間チャンバMcの回転を阻害しないものであれば、特に制限はない。例えば、図4に示すように、ゲートバルブ61に金属製の枠体81を設け、枠体81で支持されるようにゴム製のシール体82を装着し、枠体81内に流体を導入することで、シール体82を膨張させて、中間チャンバMcのゲートバルブ62の対峙面に当接させて真空シールする一方で、枠体81内の流体を排出することで、中間チャンバMcの回転を許容する隙間が形成されるようにしたものを用いることができる。