JP2021024903A - 耐火性樹脂成形体 - Google Patents

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Abstract

【課題】火災による炎に曝されても穴あきやクラックを生じにくく、また形成される炭化層の厚みの変動が小さく、さらに耐火性と断熱性に優れ、耐衝撃特性にも優れた、電線・ケーブルを収納するトラフ構造体などの保護部材として好適な耐火性樹脂成形体を提供する。【解決手段】ポリ塩化ビニル化合物と、該ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、熱膨張性黒鉛3〜15質量部と、酸化チタン1〜10質量部と、安定化剤1〜6質量部と、耐衝撃改良剤1〜20質量部とを含有する、耐火性樹脂成形体、並びに、これを用いたトラフ構造体などの電線・ケーブル用の保護部材の提供。【選択図】図1

Description

本発明は、熱膨張黒鉛を含む耐火性樹脂成形体に関する。
近年、火災などで電線・ケーブルが断線する事故が増えており、ケーブルを火災から、より確実に保護する技術が求められている。このような技術として例えば、電線・ケーブルをコンクリート製のトラフに収納することが知られている。しかし、コンクリートトラフは耐火性に優れる一方、重量が重く、また、現場における切断・孔開けなどの加工性にも劣る。
また、例えば、内側に断熱材層を設け、外側には耐火塗料層を設けた板金製のケーシングの中にケーブルを収納する技術も知られている(特許文献1)。このケーシングはコンクリートトラフよりも軽量で、かつ耐火断熱性能にも優れる。しかし、断熱材層や耐火塗料層を設ける必要があり、長いケーブルをすべて収納して保護するケーシングの提供には、量産性やコストの面で課題がある。
一般的な建築用配管材において、膨張性黒鉛を用いて耐火性能を高める技術が知られている。例えば特許文献2、3及び6には、ポリ塩化ビニル系樹脂に膨張性黒鉛を混合した建築用配管材が記載されている。特許文献2、3及び6記載の配管材では、火災時に炎や煙が管を通って延焼しないように、加熱された際に管を内側に膨張させて管の断面積を小さくする。
また、難燃性の樹脂組成物ないし成形体として、特許文献4には、塩化ビニル系樹脂、発泡剤、分解促進剤、ラジカル発生剤、架橋剤等を含有する難燃性の樹脂成形体が記載され、チタン化合物を配合し得ることが記載されている。また特許文献5には、塩素化ポリ塩化ビニル、熱膨張性黒鉛、無機充填剤及び可塑剤を含有する耐火性に優れた樹脂組成物が記載されている。また特許文献7には、塩化ビニル、熱膨張性黒鉛、ポリリン酸塩、アルカリ土類金属及び可塑剤を多量に含有する耐火性に優れた軟質塩化ビニル樹脂組成物が記載されている。
特開2015−33172号公報 特開2008−179758号公報 特開2008−180068号公報 特開2001−192520号公報 国際公開第2013/080563号 国際公開第2009/028057号 国際公開第2016/182059号
上記各特許文献には、難燃性・耐火性を有する樹脂ないし成形体に係る技術が記載されている。
しかし、特許文献1記載の技術は上記のように、生産性の観点で問題がある。
また、特許文献2、3及び6記載の配管材は、住宅用の排水や通気管を伝わる延焼防止用としては有効である。しかし、この配管材を電線・ケーブルの保護に適用した場合、火災等により加熱されて配管材が内側に膨張するため、配管材と電線・ケーブルとの接触面積が大きくなる。また、膨張性黒鉛が不均一に内側へと膨張した配管材は、電線・ケーブルの周囲を包み込むように配置することになり、接触面積はより大きくなる。この接触面積の増大により、電線・ケーブルはより高温へと曝されることになり、結果、電線・ケーブルの絶縁材がダメージを受け、絶縁抵抗の低下を生じ、さらには断線を生じることもある。つまり、特許文献2、3及び6記載の技術では、電線・ケーブルの機能保持の観点で十分な保護効果を実現することが難しい。
また、特許文献4に記載の技術は、半導体製造装置用の難燃性樹脂成形体に関するもので、腐食性ガスの発生を抑えた成形体を提供するものである。この難燃性樹脂成形体は難燃性を有するが、熱膨張性黒煙を使用しておらず、火炎による熱の遮蔽性が十分でない。それゆえ、電線・ケーブの機能を保持した状態で保護する耐火材料としては必ずしも十分なものではない。
また、特許文献5及び7記載の樹脂組成物は、組成物自体の耐火性には優れる。しかし、この樹脂組成物は可塑剤を高配合した軟質塩化ビニル樹脂を基材樹脂とし、これを用いた成形体の機械強度を十分に高めることができない。また、火炎による熱の遮蔽性の観点で、電線・ケーブルの保護に適用するには必ずしも十分ではなかった。また、特許文献5及び7の技術では、上述したように膨張性黒鉛が不均一に膨張し、これが電線・ケーブルの温度上昇を促進し、電線・ケーブルの機能保護の観点でも問題がある。
このように、特許文献2〜7記載の技術では、電線・ケーブルの収納(保護)用途に適用した場合に、電線・ケーブルを火災から効果的に保護して断線をより確実に防ぐ目的を達成するのは困難である。
また、特許文献2〜7記載の技術は、火災による炎に曝されると成形体に穴が開いたりクラックが生じたりしやすいという根本的な問題を抱えている。穴あきやクラックが生じると、断熱性を十分に確保できず、内部の電線・ケーブルの外周を構成する絶縁被覆が損傷して絶縁抵抗が低下したり、最悪の場合には断線したりすることがある。
また、耐火性樹脂成形体を電線・ケーブルの収納用途に用いる場合、すなわち、トラフ本体と蓋からなるトラフ構造体として耐火性樹脂成形体を用いる場合には、屋外使用を前提とし、トラフ蓋上を作業者が歩行したり、布設作業時に工具をぶつけたり、飛来物の落下のリスクなどがあるため、電線・ケーブルを収納する保護部材用には機械的強度が要求される。しかし、樹脂材料では剛性と衝撃強度が相反する場合が多い。例えば、耐火性能付与のため硬質ポリ塩化ビニル樹脂に熱膨張性黒鉛を配合すると、衝撃強度が低下する。
そこで本発明は、火災による炎に曝されても穴あきやクラックを生じにくく、また形成される炭化層の厚みの変動が小さく、さらに耐火性と断熱性に優れ、耐衝撃特性にも優れた、電線・ケーブルを収納するトラフ構造体などの保護部材として好適な耐火性樹脂成形体を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、ベース樹脂としてポリ塩化ビニル化合物を用い、このベース樹脂と、熱膨張性黒鉛と、酸化チタンと、安定化剤と、耐衝撃改良剤とを特定量で組み合わせて有する組成の樹脂成形体(硬質ポリ塩化ビニル樹脂成形体)が、酸化チタンの高い輻射反射作用により樹脂成形体の受熱エネルギーを低減して温度上昇を抑制でき、また高い熱伝導率による熱拡散作用により、成形体の面方向への熱伝導を均一化でき、結果、熱膨張性黒鉛が膨張することで形成される炭化断熱層の穴あきやクラックの発生を抑制できること、また成形体全体が膨張し過ぎずに非炭化層を一定量残存させることも可能となること、さらに成形体の膨張をより均一化でき、崩れのない強固な層形成により火炎や熱流の侵入を効果的に防止できると同時に、樹脂成形体使用時の耐衝撃性を改善させることを見出した。また、これに、三酸化アンチモンやガラスフリットを加えることで、さらに耐火断熱性が高められることを見出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成させるに至ったものである。
すなわち上記課題は以下の発明により解決された。
〔1〕
ポリ塩化ビニル化合物と、該ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、熱膨張性黒鉛3〜15質量部と、酸化チタンを1〜10質量部と、安定化剤1〜6質量部と、耐衝撃改良剤1〜20質量部とを含有する、耐火性樹脂成形体。
〔2〕
前記耐火性樹脂成形体が三酸化アンチモンを含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記三酸化アンチモンの含有量が1〜10質量部である、〔1〕記載の耐火性樹脂成形体。
〔3〕
前記耐火性樹脂成形体が炭酸カルシウムを含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記炭酸カルシウムの含有量が1〜10質量部である、〔1〕又は〔2〕記載の耐火性樹脂成形体。
〔4〕
前記安定剤が鉛化合物を含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔5〕
前記鉛化合物が、三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、シリカゲル共沈ケイ酸鉛、及び塩基性亜硫酸鉛の少なくとも1種を含む、〔4〕記載の耐火性樹脂成形体。
〔6〕
前記耐衝撃改良剤が、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーである、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の耐火性樹脂成形体。
〔7〕
前記耐火性樹脂成形体がガラスフリットを含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記ガラスフリットの含有量が3〜20質量部である、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔8〕
前記耐火性樹脂成形体が非熱膨張性黒鉛を含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記非熱膨張性黒鉛の含有量が1〜10質量部である、〔1〕〜〔7〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔9〕
前記耐火性樹脂成形体がフタル酸エステル、脂肪酸エステル、エポキシ化エステル、ポリエステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、塩素化脂肪酸エステル、及び塩素化パラフィンの少なくとも1種の可塑剤を含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記可塑剤の含有量が合計で0.1〜10質量部である、〔1〕〜〔8〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔10〕
JIS K 7111に準拠のシャルピー衝撃強度が4〜12kJ/mである、〔1〕〜〔9〕いずれか1項に記載の耐火性樹脂成形体。
〔11〕
前記耐火性樹脂成形体が押出成形体である、〔1〕〜〔10〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔12〕
保護対象物を収納する保護部材である、〔1〕〜〔11〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔13〕
電線・ケーブルを収納する保護部材である、〔1〕〜〔12〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔14〕
電線・ケーブルを収納するトラフ構造体である、〔1〕〜〔13〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
〔15〕
耐火・断熱試験において、前記耐火性樹脂成形体が燃焼して熱膨張性黒鉛の膨張した際に、前記耐火性樹脂成形体に、貫通する穴あき及び貫通するクラックが発生しない、〔1〕〜〔14〕のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
本発明の樹脂成形体は、火災による炎に曝されても穴あきやクラックを生じにくく、また形成される炭化層の厚みの変動が小さく、さらに耐火性と断熱性に優れ、機械強度にも優れる。そのため、所定強度を必要とする電線・ケーブルを収納するトラフ構造体などの保護部材として好適である。
耐火・断熱試験の説明図である。
本発明の耐火性樹脂成形体は、ポリ塩化ビニル化合物と、熱膨張性黒鉛と、酸化チタンと、安定剤と、耐衝撃改良剤とを特定量含有する。本発明の耐火性樹脂成形体は、ポリ塩化ビニル化合物と、熱膨張性黒鉛と、酸化チタンと、安定化剤と、耐衝撃改良剤とを特定量含有する樹脂組成物を調製し、この樹脂組成物を所望の形状に成形して得ることができる。本発明の耐火性樹脂成形体は、特定の形状に成形された形態の他、成形材料としてのペレットの形態を含む意味である。
[ポリ塩化ビニル化合物]
本発明に用いるポリ塩化ビニル化合物は、ポリ塩化ビニルの他、ポリ塩化ビニル骨格を有する誘導体を含む意味である。ポリ塩化ビニル化合物としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)、及び、塩化ビニルとポリエチレンとの共重合体等を挙げることができ、ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化ポリ塩化ビニルがより好ましい。成形性の観点から、塩素化ポリ塩化ビニルを用いる場合、ポリ塩化ビニルとブレンドして用いることが好ましい。
本発明の加工性、耐火性能を考慮すると、本発明に用いるポリ塩化ビニル化合物はポリ塩化ビニルを含むことが好ましく、本発明の成形体を構成するポリ塩化ビニル化合物に占めるポリ塩化ビニルの割合は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上が特に好ましい。本発明の成形体を構成するポリ塩化ビニル化合物がポリ塩化ビニルを含み、かつポリ塩化ビニル以外の樹脂を含む場合、ポリ塩化ビニル以外の残部は、塩素化ポリ塩化ビニル、及び/又は、塩化ビニルとポリエチレンとの共重合体が好ましい。例えば、ポリ塩化ビニルに塩素化ポリ塩化ビニルをブレンドする場合には、モノマー中の塩素量がポリ塩化ビニルより多いことで、難燃性は向上するが、成形性の点では、塩素化ポリ塩化ビニルよりポリ塩化ビニルが多い方が好ましい。
ポリ塩化ビニル化合物の重合度は特に制限されない。例えば、平均重合度として450〜1200のものを用いることができる。
ポリ塩化ビニル化合物は、耐火性樹脂として用いられる通常のものを用いることができる。また、ポリ塩化ビニル化合物を常法により合成し、用いることができる。
[熱膨張性黒鉛]
本発明に用いる熱膨張性黒鉛は、二次元的に広がる六員環構造の網平面の層と層とがC軸方向に積層している六方晶結晶の前記各層間に、熱分解性の物質を挿入した層間化合物である。例えば発煙硫酸や硫酸と濃硝酸、各種の硝酸塩、過塩素酸、各種の過塩素酸塩、クロム酸、各種のクロム酸塩、重クロム酸などを含む酸化性溶液に黒鉛を浸漬した後、水洗、乾燥して製造される。
上述のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更に水酸化ナトリウム、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することにより、中和処理された熱膨張性黒鉛を得ることができ、この熱膨張性黒鉛も本発明に用いることができる。
熱膨張性黒鉛は、急激に加熱されると、層間に挿入されている化合物や結晶粒界に挿入された化合物が熱分解し、そのときに発生する分解ガスの圧力で各層の間が押し広げられ、膨張する。本発明に用いる熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は180℃以上が好ましい。ポリ塩化ビニル等のベース樹脂の加工温度が180℃程度であり、加工中に熱膨張が生じることを防ぐためである。なお、熱膨張性黒鉛の膨張開始温度は、酸処理の種類、中和剤の種類や処理方法を変えることにより適宜変更することができる。例えば、熱膨張開始温度は、180℃から260℃の範囲で調整可能である。
ここで、成形体中の熱膨張性黒鉛のポリ塩化ビニル化合物100質量部に対して15質量部を超えると、熱膨張性黒鉛の膨張量が過多になり、成形体にクラックが生じやすく、また成形体製造時の成形性も低下する傾向にある。また、熱膨張性黒鉛の塩化ビニル化合物に対する配合量が3質量部より少ないと、熱膨張性黒鉛の膨張量が不足して十分な耐火断熱層の形成が難しくなる。熱膨張性黒鉛の熱膨張性を効果的に発現させる観点から、本発明の耐火性樹脂成形体中、熱膨張性黒鉛の含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、3〜15質量部であり、5〜15質量部とすることがより好ましい。また、耐火性と成形性のバランスを考慮した場合は、熱膨張性黒鉛の含有量はポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、5〜12質量部であることが好ましく、8〜12質量部がより好ましい。
熱膨張性黒鉛は粉末状のものを使用することが好ましい。成形体中の熱膨張性黒鉛の形状は、鱗片状、平板状などが好ましい。熱膨張性黒鉛の寸法は、熱膨張性黒鉛を噴霧してレーザ回折法により平均粒径を測定して決定することができる。レーザ回折法により測定した平均粒径が数百μmの熱膨張性黒鉛を用いて成形体を作製する場合、溶融混練して押出成形したり、その後プレス成形したりすると、抗折、破断などにより、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、例えば100μm以下にまで小さくなる。また、ロール成形を行なった場合にも、平均粒径は成形前に比べて小さくなる(例えば100μm以下)。
[酸化チタン]
本発明に用いる酸化チタンは、安定な結晶構造として知られるルチル型であることが好ましい。また、酸化チタンには表面処理が付されていてもよい。この表面処理により、樹脂中への分散性や樹脂との密着性を高めることができる。表面処理剤としては、例えば、脂肪酸処理剤、シランカップリング剤、アルミナ、シリカが挙げられる。
本発明の成形体は、熱膨張性黒鉛と酸化チタンとを組合せて含有することにより、火災の炎に曝されても穴あきやクラックの発生を効果的に防ぐことが可能になる。酸化チタンは高温でも安定な化合物であり、炎に曝されても分解することがない。熱膨張性黒鉛と酸化チタンとを組合せによる上記作用は、酸化チタンの高い輻射反射作用による受熱量の減少によって、成形体の加熱時の昇温が比較的緩やかに進むこと、酸化チタン自体が優れた熱伝導体として作用し、成形体の面方向に熱が一様に伝わることなどに起因するものと考えられる。その結果樹脂成形体の厚さ方向の断熱性が向上することになる。つまり、成形体全体が、比較的穏やかに、かつ、より均一に加熱されることにより、強固で、凹凸も抑えられ、より平坦で均一な炭化断熱層の形成が可能になる。また、酸化チタンを含有することにより、熱膨張性黒鉛と耐衝撃改良剤を含有する系において耐衝撃性をさらに改善する。
本発明の耐火性樹脂成形体中、酸化チタンの含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、1〜10質量部である。酸化チタンが1質量部未満では、酸化チタンの高い輻射反射作用や酸化チタンの優れた熱伝導性が得られずに、均一で強固な炭化層を得るという十分な耐火効果を得ることができず、穴あきやクラックの発生を十分に防止することが難しい。また、酸化チタンが1質量部未満では、樹脂成形体使用時の耐衝撃性を改善させる効果も小さくなる。この点から酸化チタンの含有量は、好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上である。また、酸化チタンの含有量が10質量部を超えると、酸化チタンの分散性が悪化する傾向にあり、また酸化チタンの作用が飽和するので材料コストがかさむ。この点から酸化チタンの含有量は、好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは6質量部以下である。本発明の耐火性樹脂成形体中の酸化チタンの含有量は、酸化チタンの耐火効果をより高め、かつ材料コストも考慮すると、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し1.5〜8質量部とすることも好ましく、1.5〜6質量部とすることも好ましい。
上記の酸化チタンの作用は、後述するブンゼンバーナーによる耐火・断熱試験後の耐火断熱試験片において、接炎面とその裏面を観察すると歴然としている。接炎面は、熱膨張性黒鉛が膨張するとともに、樹脂成形体が炭化するのに対して、その裏面は炭化も、膨張もせずに表面が僅かに変色するだけで未膨張の非炭化層(未膨張層)が存在する。このように、酸化チタンを添加することにより、接炎面の裏面の健全性を保つことで、裏面の未膨張層を穴あきやクラックも存在しない健全な状態に保つことが可能になり、耐火断熱性を確保することができると考えられる。
酸化チタンは、粒径が0.1μmから0.8μmのものを用いることが好ましい。このように、酸化チタンの結晶粒径を所定範囲に制御することにより、熱膨張性黒鉛の分散状態をより均一化することができる。
[難燃剤]
本発明の耐火性樹脂成形体は、難燃剤を含有することも好ましい。難燃剤としては、アンチモン系難燃剤、リン系難燃剤、水酸化物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、クレイ系難燃剤、メラミン系難燃剤が挙げられる。本発明においては、後述する理由により、アンチモン系難燃剤を用いることが好ましい。
[アンチモン系難燃剤]
アンチモン系難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウムが挙げられる。アンチモンは塩素(ハロゲン)と反応し、発生したガスが酸素を遮断するため炭化層の生成を促進し、かつフリーラジカルをトラップ(熱分解連鎖反応停止作用)すると考えられている。なかでもより安定した炭化層を形成する観点から、本発明においては、三酸化アンチモンを含有させることが好ましい。また、本発明の耐火性樹脂成形体が三酸化アンチモンを含有することで、酸化チタンとの共存下において焼失がより遅効化し、難燃剤としての効果を、より持続的に発現することが可能になる。
本発明の耐火性樹脂成形体が難燃剤として三酸化アンチモンを含む場合、当該成形体中、三酸化アンチモンの含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、1〜10質量部であることが好ましい。また、三酸化アンチモンによる安定した炭化層を形成(耐火効果の向上)作用をより高めるためには、三酸化アンチモンの含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し3質量部以上が好ましい。またコスト面も含めて考えると、三酸化アンチモンの含有量はポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、8質量部以下とすることが好ましい。すなわち、本発明の耐火性樹脂成形体が三酸化アンチモンを含有する場合、その含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し3〜8質量部とすることがより好ましい。
[その他の難燃剤]
水酸化物系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムが挙げられる。なお、水酸化物系難燃剤の添加は、成形体の熱膨張後の穴あきやクラックの防止に対してはあまり影響せず、この観点では積極的に添加する必要はない。
本発明の耐火性樹脂成形体は、亜鉛を含む難燃剤(例えばホウ酸亜鉛)を含有しないことが好ましい。成形体が亜鉛を含有すると、ポリ塩化ビニル化合物の分解が促進され、火災の炎に曝された際に穴やクラックが生じやすくなる傾向がある。これは、ジンクバーニングが影響しているものと推定される。すなわち、亜鉛そのものは、ポリ塩化ビニル化合物の分解により生じる塩素をトラップし、塩酸(ポリ塩化ビニル化合物の分解作用を有する)によるポリ塩化ビニル化合物の分解を抑制するが、上記トラップ後に生成する塩化亜鉛が、触媒的に、ポリ塩化ビニル化合物の分解を促進するものと推定される。
[炭酸カルシウム]
本発明の耐火性樹脂成形体に炭酸カルシウムが含まれていることが好ましい。炭酸カルシウムは、燃焼中に分解し塩化ビニル化合物と反応して、塩化カルシウムと炭酸ガスや水を生成する。そのため、安定化作用は存在するものの、発泡により耐火性樹脂成形体の組織を不安定化する作用も有する。そのため、塩化ビニル化合物100質量部に対する炭酸カルシウムの含有量の上限は、最大でも10質量部以下に抑えることが好ましい。このように、炭酸カルシウムを所定量範囲で添加した場合には、後述する鉛系化合物の安定化作用を補完し、より高い安定性を実現できる。
本発明の耐火性樹脂成形体が炭酸カルシウムを含む場合、当該成形体中、炭酸カルシウムの含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、1〜10質量部が好ましく、1〜8質量部がより好ましく、3〜8質量部がさらに好ましい。
[無機充填剤]
本発明の耐火性樹脂成形体は、成形性と耐衝撃性、耐火性(炭化層の厚みの均一性)を阻害させない点から、無機充填剤を含まない形態が好ましい。本発明の耐火性樹脂成形体は、酸化チタンと三酸化アンチモンと炭酸カルシウム以外の無機充填剤を、成形性と耐衝撃性、耐火性(炭化層の厚みの均一性)を損害しない範囲で含むことができる。この場合の無機充填剤としては、例えば、ケイ酸カルシウム、ゼオライト、タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、珪藻土、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化スズ、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、モンモリロナイト、カーボンブラックを挙げることができる。無機充填剤の含有量はポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、特に、成形性の観点から10質量部以下なら許容される。さらに炭酸カルシウムと合算で10質量部以下が好ましい。なお、炭酸カルシウムと無機充填剤の両者を含む場合には、両者の含有量の合計値の50質量%以上が炭酸カルシウムであることが望ましい。
[安定化剤]
本発明の耐火性樹脂成形体は、ポリ塩化ビニル化合物の安定化剤を含有する。この安定化剤を成形体に含有させることにより、ポリ塩化ビニル化合物の分解を、より効果的に防ぐことができる。
上記安定化剤の種類に特に制限はなく、例えば、鉛系安定化剤(鉛化合物)、金属石鹸、Cd/Ba系複合安定化剤、有機スズ系安定化剤、有機安定化剤、エポキシ系安定化剤を挙げることができる。なかでも鉛系安定化剤が好ましい。
鉛系安定化剤としては、例えば、三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、ケイ酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、シリカゲル共沈ケイ酸鉛、及び塩基性亜硫酸鉛を挙げることができる。ここで、鉛系安定剤はPb含有量が多いほうが、持続的な還元力が高いため好ましい。なかでも三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛などが好ましい。安定化効果の他に滑剤としての効果を考慮すると、ステアリン酸鉛などを添加してもよい。また、複数の種類の鉛系安定化剤を併用してもよい。
ポリ塩化ビニル化合物は熱や光に曝されると、脱塩酸反応を生じて分解劣化する。鉛系安定化剤はこの塩酸と反応して鉛塩化物を生じ、この鉛塩化物が、ポリ塩化ビニル化合物のそれ以上の分解の促進を抑える。また、鉛系安定化剤はポリ塩化ビニル化合物中に存在する化学的に不安定な塩素との間で交換反応を生じ、ポリ塩化ビニル化合物を安定化することができる。
本発明の耐火性樹脂成形体は、Cs/Zn系、Ba/Zn系といった亜鉛化合物を用いるのは好ましくない。その理由は上記の難燃剤において説明した通りである。
本発明の耐火性樹脂成形体が安定化剤を含む場合、当該成形体中、安定化剤の含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、1〜6質量部が好ましく、2〜6質量部がより好ましく、2〜5質量部がさらに好ましい。
[可塑剤]
本発明の耐火性樹脂成形体は、加工性や機械強度の調整(耐衝撃性)の観点で、可塑剤を含有してもよい。可塑剤は、フタル酸エステル(フタル酸ビス(2−エチルヘキシル)等)、脂肪酸エステル、脂肪酸エステル、エポキシ化エステル、ポリエステル、トリメット酸エステル、リン酸エステル、塩素化脂肪酸エステル、及び塩素化パラフィン等を挙げることができる。
可塑剤それ自体は難燃性が低いために、耐火性樹脂成形体には、可塑剤はあまり多く入れないことが好ましい。また耐火性樹脂成形体が、電線・ケーブルなどの保護部材に用いる場合には、所定レベルの剛性が必要とされるため、耐火性樹脂成形体中の可塑剤の含有量は低い方が望ましい。具体的には、本発明の耐火性樹脂成形体中の可塑剤の含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、0.1〜10質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
[耐衝撃改良剤]
本発明の耐火性樹脂成形体は、耐衝撃改良剤を含有する。耐衝撃改良剤としては、ゴム及び熱可塑性エラストマーが挙げられる。
上記ゴムは、シリコーンゴム、アクリルゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、エチレン・プロピレンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム等を挙げることができる。
また、熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑エラストマー、オレフィン系熱可塑エラストマー、ウレタン系熱可塑エラストマー、エステル系熱可塑エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー熱可塑エラストマー、水素化熱可塑エラストマー等を挙げることができる。
本発明の耐火性樹脂成形体中の耐衝撃改良剤の含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、1〜20質量部が好ましく、3〜10質量部がより好ましい。
[その他の成分]
本発明の耐火性樹脂成形体は、上記各成分に加え、必要に応じて他の成分を含有してもよい。他の成分としては、酸化防止剤(フェノール系酸化防止剤等)、光安定剤(HALS系光安定化剤等)、加工助剤(アクリル系加工助剤等)、滑剤、着色剤、ガラスフリット(低融点粉末ガラス)、非熱膨張性黒鉛等を含有してもよい。なかでも、強固な炭化層を形成する観点から、ガラスフリットを含有することが好ましい。
ここで、耐火性樹脂成形体に含まれるポリ塩化ビニル化合物が火災などで高温下に曝された場合、ガラスフリットはその軟化温度に達すると、流動性が増し、熱膨張性黒鉛同士の結着性や、熱膨張性黒鉛とポリ塩化ビニル化合物が脱塩して炭化した炭化物との結着性を高めることができ、強固な耐火断熱層の形成が可能となる。結果、例えば、耐火断熱層の裏面側(接炎側とは反対側)の未膨張層に対して酸素と熱を遮断するなどして、より優れた耐火断熱性が実現される。
ガラスフリットは通常、350℃から700℃の範囲に軟化点を有し、この軟化点は熱膨張性黒鉛の膨張開始温度180〜260℃よりも高い。したがって、ガラスフリットは熱膨張性黒鉛の膨張を妨げない。それゆえ、本発明の耐火性樹脂成形体にガラスフリットを添加すれば、熱膨張後も孔あきやクラックを生じず、形状保持性ないし耐火断熱性をより高めることができる。
本発明の耐火性樹脂成形体がガラスフリットを含有する場合、本発明の耐火性樹脂成形体中のガラスフリットの含有量は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、3〜20質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましく、5〜10質量部がさらに好ましい。
強固な炭化層を形成する観点から、本発明の耐火性樹脂成形体は、非熱膨張性黒鉛を含有することも好ましい。ここで、非熱膨張性黒鉛とは、層間への化合物処理が行われておらず、熱膨張性を積極的に付与していない鱗片状黒鉛をいう。したがって非熱膨張性黒鉛は、加熱により見かけ体積が、熱膨張性黒鉛のように顕著に増大するものではない。
非熱膨張性黒鉛には、樹脂材が過熱されたきに生ずる炭化断熱層を、型崩れのない強固で緻密なものとする作用がある。
本発明の耐火性樹脂成形体が非熱膨張性黒鉛を含有する場合、耐火性樹脂成形体中の非熱膨張性黒鉛の含有量は、過熱されたときに生ずる熱膨張時の変形や応力を緩和して、炭化断熱層の型崩れを防いで強固で緻密な炭化断熱層とする観点から、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、1質量部以上が好ましく、より好ましくは5質量部以上である。
一方、非熱膨張性黒鉛の含有量が15質量部を超えると成形体成形時の成形性が低下する。生産性を考慮すると、非熱膨張性黒鉛の含有量はポリ塩化ビニル化合物100質量部に対して10質量部以下が好ましく、さらに好ましくは8質量部以下である。
他方、耐火性樹脂成形体中の熱膨張性黒鉛と非熱膨張性黒鉛の各含有量の合計は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、20質量部を超えると成形体成形時の成形性に劣る傾向がある。この点から、耐火性樹脂成形体中の熱膨張性黒鉛と非熱膨張性黒鉛の各含有量の合計は、ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、20質量部以下が好ましく、さらに好ましくは15質量部以下である。
本発明の耐火性樹脂成形体は、後述する耐火・断熱試験において、耐火性樹脂成形体が燃焼して熱膨張性黒鉛の膨張した際に、前記耐火性樹脂成形体に穴あきやクラックが発生しないことが好ましい。特に、貫通する穴あきや貫通するクラックが発生しないことが好ましい。この耐火・断熱試験の条件は、より詳細には、ブンゼンバーナーを用いて、燃焼ガスをプロパンガスとし、炎全体の高さが80mm、還元炎の高さが40mmの炎を形成し、バーナーと成形体との距離を25mmとして当該成形体を20分間炎に曝す条件である。
[耐火性樹脂成形体の製造]
本発明の耐火性樹脂成形体は、当該成形体を構成する材料を混練し、成形することにより得ることができる。混練温度は熱膨張性黒鉛の膨張を生じにくい温度で行うことが好ましく、通常は200℃以下である。
また、成形方法に特に制限はなく、プレス成形、押出成形、射出成形等の通常の方法を採用することができる。成形体の成形性の観点からは、本発明の耐火性樹脂成形体は押出成形体、プレス成形体、射出成形体、又はブロー成形体であることが好ましい。
[耐火性樹脂成形体の用途]
本発明の耐火性樹脂成形体の用途に特に制限はなく、耐火性ないし断熱性が要求される成形体に適宜に適用することができる。なかでも、本発明の耐火性樹脂成形体は、耐火性に加え、断熱性にも優れる。したがって、電線やケーブルを収納し、火災から電線やケーブルの断線を防ぐための用途、すなわち電線管等の保護部材として適用することが好ましい。
[耐火性樹脂成形体の製造]
<材料>
下記の材料を使用した。
・PVC(商品名:TH−1000、大洋塩ビ社製)
・安定化剤1:ステアリン酸鉛と三塩基性硫酸鉛の混合物(商品名:SR−700、日東化成工業社製)
・安定化剤2:三塩基性硫酸鉛(商品名:シナカレッドTS−102、サンエース社製)
・加工助剤(商品名:メタブレンP551A、アクリル系加工助剤、三菱ケミカル社製)
・耐衝撃改良剤1:シリコーン/アクリル系複合ゴム(商品名:メタブレンS−2000、三菱ケミカル社製)
・耐衝撃改良剤2:アクリル系ゴム(商品名:カネエースFM−50、カネカ社製)
・可塑剤:アジピン酸ジイソノニル(商品名:W−242、DIC社製)
・熱膨張性黒鉛(商品名:9550250、伊藤黒鉛社製)
・酸化チタン(商品名:Ti−Pure R−103、Chemours社製)
・炭酸カルシウム(商品名:ソフトン1500、備北粉化工業社製)
・酸化亜鉛(商品名:酸化亜鉛2種、堺化学工業社製)
・酸化アルミニウム(商品名:ALH35−125、新日鉄マテリアル社製)
・三酸化アンチモン(商品名:PATOX−M、日本精鉱株式会社製)
・非熱膨張性黒鉛 鱗片状(商品名:SGP)
・ガラスフリット(商品名:VY0144、日本フリット社製)
<耐火性樹脂成形体の製造>
上記材料を、下表の通り配合し、195℃に温調した6インチオープンロールにて混練した。混練した材料を175℃に温調した金型で10分間予熱したのち、荷重200kgfで5分間プレスすることにより縦300mm×横200mm×厚さ5mmのサンプルシートを成形した。
[試験例] 耐火・断熱試験
図1に示す耐火・断熱試験機1を用いて耐火・断熱性の評価を実施した。縦150mm×横150mmに切り出したサンプルシート4を、床面からサンプルシート4底面の高さが180mmとなるように耐火・断熱試験機1に設置した。火源としてブンゼンバーナー2を使用し、ブンゼンバーナー2の口からサンプルシート4底面までの距離が25mmとなるように設置した。
燃焼ガスとしてプロパンガスを使用し、炎全体の高さが80mm、還元炎の高さが40mmとなるようにブンゼンバーナー2のガス弁と空気弁を調整し、炎の大きさが一定になるようにした。断熱性評価のため、設置されたサンプルシート4の上面から高さ60mmの位置にシース先端が来るように熱電対3を設置し、温度を測定した。熱電対3はシース径φ4.8mmのK型熱電対を使用した。加熱時間は20分間とした。ただし、サンプルシート4に穴があき、炎がサンプルシート4を貫通した場合は20分経過していなくても、その時点で試験を中断した。
耐火性評価方法としてサンプルシート4の接炎部を目視にて観察した。炭化層に穴あき及び/又はクラック(ひび割れ)が発生し、当該穴あき及びクラックの少なくとも一部がサンプルシート4を貫通している場合(貫通する穴あき、及び/又は、貫通するクラックが生じた場合)を×、サンプルシート4を貫通する穴あきが発生せず、かつクラックについてはシート厚さ方向の途中までしか入っておらず、当該クラックが当該厚さ方向に貫通していない場合(貫通する穴あきが発生せず、かつ貫通するクラックも生じていない場合)は○、○のうち、クラックがより微小で、厚みの均一性が高く凹凸のより少ない炭化層が形成された場合を◎とした。また、形成された炭化層の厚さの変動に着目した評価を行った。微少クラックの有無にかかわらず、形成された炭化層の厚さの変動が、相対的に、大きいものを×、小さいものを〇、特に小さいものを◎とした。
断熱性評価として、設置した熱電対3をデータロガーに接続し、温度の経時変化を測定した。20分経過後の温度が100℃以上の場合は×、100℃未満の場合〇とした。また、〇のうち、80℃以下に温度上昇が抑えられた場合は◎とした。
また、耐衝撃性の評価は、JIS K 7111に準拠し、シャルピー衝撃強度(kJ/m)を測定した。(エッジワイズ ノッチ2mm)。その結果、シャルピー衝撃強度が4kJ/m以上を〇、4kJ/m未満×とした。
表1及び表2に、実施例及び比較例について、耐火性、厚さ変動、断熱性及び衝撃強度を評価した結果を示す。
〔実施例〕
熱膨張性黒鉛と酸化チタンと安定剤と耐衝撃改良剤とを本発明で規定する特定量含有する場合、すなわちポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、熱膨張性黒鉛を1〜10質量部、酸化チタンを1〜10質量部、安定化剤を1〜6質量部、衝撃改良剤を1〜20質量部の範囲で組み合わせて含有する実施例1〜4の成形体はいずれも、強固で貫通するクラックないし穴あきが生じず、凹凸も抑えられた均一な炭化断熱層を形成した。すなわち、炎が成形体を貫通することを効果的に防ぎ、また、成形体の厚み方向への断熱性にも優れており、内部に電線・ケーブル等を布設する保護部材として好適な特性を示した。これらが実現できた理由は定かではないが、酸化チタンの高い輻射反射作用によって成形体の加熱が比較的緩やかに進むこと、酸化チタン自体が優れた熱伝導体として作用し、加熱時の成形体の温度上昇が緩やかになると同時に成形体の面方向に熱が一様に伝わることなどにより、成形体のサンプルシートの上面から所定距離に配置した熱電対による測定温度を低く抑えることが可能になったものと考えられる。また、実施例1〜4の成形体は衝撃強度も高いことがわかる。
また、熱膨張性黒鉛と酸化チタンと安定化剤と耐衝撃改良剤との組合せに加え、さらに炭酸カルシウムを含有させた場合も耐火性、断熱性に優れるものであった(実施例5)。
また、熱膨張性黒鉛と酸化チタンと安定化剤と耐衝撃改良剤との組合せに加え、三酸化アンチモンを含有させることにより、耐火・断熱性が高められることもわかった(実施例6、7、8)。これは、アンチモンが塩素(ハロゲン)と反応して発生したガスが酸素を遮断し、炭化層の生成を促進したためと考えられる。また発生ガスはフリーラジカルをトラップ(熱分解連鎖反応停止作用)する効果もある。また、酸化チタンにより三酸化アンチモンの焼失が抑えられたこと(酸化チタンと三酸化アンチモンとの相互作用)も一因と推定される。
また、耐衝撃改良剤の種類を変えたり、可塑剤を含有させたりしても十分な耐火・断熱性を実現できること、可塑剤は、耐衝撃性の向上にも寄与することもわかった(実施例9、10)。
さらに、ガラスフリットを含有させることで、耐火・断熱性を向上させることができる。そのため、ガラスフリットにより炭化層を適宜に強化することも可能である(実施例11、12)。
また、熱膨張性黒鉛の含有量を変化させても、当該含有量が一定の範囲内にあれば、目的の耐火・断熱性能を実現できることもわかる(実施例13〜15)。
また、熱膨張性黒鉛と酸化チタンと安定化剤と耐衝撃改良剤に加え三酸化アンチモンを含有する場合に、各含有量が本発明の規定の含有量であれば、耐火・断熱性が特に優れるものであることがわかる(実施例16〜22、24〜28)。
上記の実施例1〜実施例28に記載の耐火性と断熱性に優れる材料のシャルピー衝撃強度は、4.0〜9.8(kJ/m)であり、ばらつきはあるものの、いずれも十分に高い衝撃強度を示した。上記で調製した各成形体中に含まれる熱膨張性黒鉛は、その平均粒径をレーザ回折法により測定すると、いずれも平均粒径100μm以下であった。
耐火性の評価で、形成された炭化層の厚みの変動(均一性)については、熱膨張性黒鉛、安定化剤、耐衝撃改良剤に加え、酸化チタンを好ましい量である1.5〜8質量部含有しかつ三酸化アンチモンを含有する実施例6〜12、16〜19、21、22、24〜28の成形体が特に厚みの変動が小さく、表面の凹凸が小さく、厚みの均一性が高いものであった。厚みの変動が小さく、均一性の高いものは、電線・ケーブルの保護として適用した場合に、電線・ケーブルを包みこむような膨張変形が防がれ、電線・ケーブルの温度上昇が低減されるので、このような用途の耐火樹脂成形体として特に優れるものである。さらに、非熱膨張性黒鉛を含有する実施例26〜28の成形体は、表中には示されていないが、これらの中でも、形成された炭化層の表面の凹凸が小さく、炭化層の厚みの均一性に特に優れていた。
〔比較例〕
上記表に示されるように、成形体が熱膨張性黒鉛を含まない場合、耐火・断熱試験において成形体(サンプルシート)に炎が貫通する穴が開く結果となった(比較例1)。
また、成形体が熱膨張性黒鉛を含有しても、酸化チタンを含有しない場合には、耐火・断熱試験において成形体にクラックが発生した(比較例2)。これは、熱膨張性黒鉛が不均一に膨張し、炭化層に応力がかかったことが一因と考えられる。
また、熱膨張性黒鉛とともに無機充填剤を含有しても、無機充填剤が酸化チタンでない場合には、やはりクラックないし穴あきが生じる結果となった(比較例3、4、5)。これらの無機充填剤は、いずれも白色顔料として使用されるものであり、酸化チタンと同様に光反射効果が高いものである。それでもクラックの発生を抑えることはできなかった。
実施例3と比較例3〜5とを比較すると、いずれも無機充填剤を同量含むもので、無機充填剤以外の配合は同じであり、無機充填剤の種類のみが異なるが、酸化チタンを含有する実施例3が、耐火性、断熱性に優れ、さらに炭化層の厚さ変動も小さく、また衝撃強度も優れていた。
また、酸化チタンを含有しないと、難燃剤の三酸化アンチモンを含有させてもクラックが生じる結果となった(比較例6)。
また、熱膨張性黒鉛と酸化チタンを組合せて含有する場合であっても、熱膨張性黒鉛の含有量が少なすぎると炎が貫通する穴あきを生じた(比較例7)。
さらに、熱膨張性黒鉛を25質量部と多量に含むと、断熱性は向上するものの、熱膨張過多となり、クラックが多数発生し、衝撃値も低下した(比較例8)。
また、安定化剤を含まず、それ以外は実施例16と同様の組成(熱膨張性黒鉛3質量部、酸化チタン2質量部、三酸化アンチモン5質量部)の成形体は、塩化ビニル樹脂の脱塩素反応である熱分解がしやすく、穴あきが発生した(比較例9)
比較例10、11は、熱膨張性黒鉛を含まないため、熱膨張性黒鉛による断熱層が形成されず断熱性が不足し、塩化ビニル樹脂が溶融するとともに、穴開きが発生した。
上記はロールで混練後、プレス成形を行って得たサンプルシートを用いた試験結果を示したが、これらと同様の材料を用いて、押出成形によりサンプルシートを製造し、上記と同様にして耐火性を評価した。その結果、上記表に示された試験結果とほぼ同様の結果が得られた。
本発明は、ベース樹脂としてポリ塩化ビニル化合物を用い、ベース樹脂に熱膨張性黒鉛と酸化チタンと安定化剤と耐衝撃改良剤とを特定量で組み合わせて有する耐火性樹脂成形体に係る発明である。本発明の構成により、熱膨張性黒鉛による耐火断熱層の形成と、酸化チタンの高い輻射反射作用、高い熱伝導性や耐火安定性とが相俟って、成形体が炎に曝されても穴あきやクラックの発生が効果的に抑えられ、また穴あきやクラックの伝播を効果的に防止することが可能で、さらに形成される炭化層の厚みの変動が小さく、熱膨張時の変形が均一になることで、応力集中による変形やクラックの発生を抑制することが可能となる耐火性樹脂成形体が実現される。また、本発明では、熱膨張性黒鉛による樹脂成形体の衝撃値の低下を、酸化チタンの添加により抑制させ、向上させることができる。さらに、酸化チタンは高い輻射反射作用により成形体の断熱性を向上させることができ、その結果、耐火性が向上する。
本発明の耐火性樹脂成形体は、形成される炭化層の厚みの変動が小さく、炭化層の厚みの均一性が高いものである。したがって、電線・ケーブルの保護等の、保護対象物の収納や耐火遮蔽用途として適用した場合に、保護対象物を包みこむような膨張変形が防がれ、対象物の温度上昇を抑制できる。それゆえ、電線・ケーブル等の、火災時においても機能を保持することが要求される保護対象物の耐火性保護部材として、本発明の耐火性樹脂成形体は特に好適である。また、本発明の耐火性樹脂成形体が三酸化アンチモンを含有することで、酸化チタンとの共存下において焼失がより遅効化し、難燃剤としての効果を、より持続的に発現することができる。また、これに、三酸化アンチモンの他、ガラスフリットを加えることで、さらに耐火断熱性を向上させた耐火性樹脂成形体を得ることができ、これを押出成形体やプレス成形体として、保護部材に用いることができる。本発明の耐火性樹脂成形体は、室外で使用する電線・ケーブルを収納する電線・ケーブルの保護部材、特にトラフ構造体などとして好適に用いることができる。
以上、本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は、本発明で規定すること以外は前述した実施の形態に限定されない。すなわち、ポリ塩化ビニル化合物をベース樹脂とし、これに熱膨張性黒鉛と酸化チタンと安定化剤と耐衝撃改良剤とを特定量組み合わせてなる耐火性樹脂成形体であれば、この成形体は、本発明の効果を損なわない範囲で他材料や不純物を含有していてもよく、このような形態の成形体も本発明の技術的範囲に属するものである。
1 耐火・断熱試験機
2 ブンゼンバーナー
3 熱電対
4 サンプルシート


Claims (15)

  1. ポリ塩化ビニル化合物と、該ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、熱膨張性黒鉛3〜15質量部と、酸化チタン1〜10質量部と、安定化剤1〜6質量部と、耐衝撃改良剤1〜20質量部とを含有する、耐火性樹脂成形体。
  2. 前記耐火性樹脂成形体が三酸化アンチモンを含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記三酸化アンチモンの含有量が1〜10質量部である、請求項1記載の耐火性樹脂成形体。
  3. 前記耐火性樹脂成形体が炭酸カルシウムを含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記炭酸カルシウムの含有量が1〜10質量部である、請求項1又は2記載の耐火性樹脂成形体。
  4. 前記安定剤が鉛化合物を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  5. 前記鉛化合物が、三塩基性硫酸鉛、三塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、ステアリン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、シリカゲル共沈ケイ酸鉛、及び塩基性亜硫酸鉛の少なくとも1種を含む、請求項4記載の耐火性樹脂成形体。
  6. 前記耐衝撃改良剤が、ゴム及び/又は熱可塑性エラストマーである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐火性樹脂成形体。
  7. 前記耐火性樹脂成形体がガラスフリットを含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記ガラスフリットの含有量が3〜20質量部である、請求項1〜6のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  8. 前記耐火性樹脂成形体が非熱膨張性黒鉛を含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記非熱膨張性黒鉛の含有量が1〜10質量部である、請求項1〜7のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  9. 前記耐火性樹脂成形体がフタル酸エステル、脂肪酸エステル、エポキシ化エステル、ポリエステル、トリメリット酸エステル、リン酸エステル、塩素化脂肪酸エステル、及び塩素化パラフィンの少なくとも1種の可塑剤を含有し、前記ポリ塩化ビニル化合物100質量部に対し、前記可塑剤の含有量が合計で0.1〜10質量部である、請求項1〜8のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  10. JIS K 7111に準拠のシャルピー衝撃強度が4〜12kJ/mである、請求項1〜9いずれか1項に記載の耐火性樹脂成形体。
  11. 前記耐火性樹脂成形体が押出成形体である、請求項1〜10のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  12. 保護対象物を収納する保護部材である、請求項1〜11のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  13. 電線・ケーブルを収納する保護部材である、請求項1〜12のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  14. 電線・ケーブルを収納するトラフ構造体である、請求項1〜13のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
  15. 耐火・断熱試験において、前記耐火性樹脂成形体が燃焼して熱膨張性黒鉛の膨張した際に、前記耐火性樹脂成形体に、貫通する穴あき及び貫通するクラックが発生しない、請求項1〜14のいずれか1項記載の耐火性樹脂成形体。
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