JP2021003547A - 針密度が不均一なマイクロニードルアレイ - Google Patents

針密度が不均一なマイクロニードルアレイ Download PDF

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Abstract

【課題】マイクロニードルアレイの中央部に位置する微細針でも皮膚に挿入し易いマイクロニードルアレーを提供する。【解決手段】マイクロニードルアレイは基板と、基板の1つの面に縦横に配置された複数のマイクロニードルとを備え、基板の周辺部と中央部とでマイクロニードルの針間隔及び針密度が異なる。マイクロニードルの針密度は、前記基板の周辺部に比べて中央部において疎であることが好ましく、マイクロニードルの針間隔は、基板の周辺部に比べて中央部において広い。【選択図】図4

Description

本発明は、針密度が不均一であるマイクロニードルアレイの技術に関する。
薬物を人の体内に投与する手法として、経口的投与と経皮的投与がよく用いられている。注射は代表的な経皮的投与法である。しかし、注射は医師・看護師のような専門家の手を煩わせねばならず、苦痛を伴い、多くの人にとって歓迎すべからざる手法である。これに対し、最近マイクロニードルアレイを利用した、苦痛を伴わない経皮的投与法が注目されてきた(非特許文献1)。
薬物の経皮的投与の際、皮膚角質層は薬物透過のバリアとして働き、単に皮膚表面に薬物を塗布するだけでは透過性は必ずしも十分ではない。これに対し、微小な針、すなわちマイクロニードルを用いて角質層を穿孔することにより、塗布法より薬物透過効率を格段に向上させることができる。このマイクロニードルを基板上に多数集積したものがマイクロニードルアレイである。また、マイクロニードルアレイに、マイクロニードルアレイを皮膚に付着させるための粘着シートや粘着面を保護する離型シートなどを付加して使用しやすい製品としたものをマイクロニードルパッチという。
マイクロニードルの素材としては、当初、金属やシリコンが用いられていたが、その後、各種高分子素材が加工性の点から注目されてきた。特に、素材として糖質などの体内で代謝により消失する物質を用いてマイクロニードルを作製すれば、仮にニードルが折れ皮膚内に残存したとしても事故とはならない。
特許文献および学術文献等で知られているマイクロニードルパッチは、マイクロニードルアレイ基板は平面であり、その上に長さが均一な微細針が均一な密度で垂直に立っているものである。本発明者らが現在まで作製し特許出願に至っているマイクロニードルパッチも、その範疇であった(特許文献1、2)。特許文献1及び2に開示されているマイクロニードルは、(円)錐型、(円)錐台型又はコニーデ型であり、マイクロニードルとマイクロニードルのピッチは、0.4〜1.0mmが好ましいと記載されている。また、近年特許出願されているマイクロニードル製剤及びその製造方法に関しても、マイクロニードルの皮膚への穿刺を確実にする目的(特許文献3、4)、マイクロニードルへの薬剤の担持を均一にする目的(特許文献5、6)等で、様々な改良がなされている。
特許文献3では、針状体デバイス(マイクロニードルアレイ)は、突起部が角錐形状であり、角錐形状の2つの側面で形成される刃が基板表面上の所定の位置を中心点とする円の接線方向となるように配置されることが記載されている。
特許文献4では、ヒアルロン酸等を含有する溶解型マイクロニードル製剤は、隣り合う針部の距離は実質的に等しく、1mm当たり約1〜10本の針が並んでおり、針部の密度は、1cm当たり、100〜10000本が好ましいことが記載されている。
特許文献5のマイクロニードルアレイの製造方法により製造されるマイクロニードルアレイは、痛みを伴うことなく所定の薬剤を投与し得る見地から、針の密度は1〜200本/cmが好ましいことが記載されている。
特許文献6のマイクロニードルデバイスの製造方法により製造されるマイクロニードルデバイスは、針の横列について1mm当たり約1〜10本の密度となるように間隔を空けて設けられ、横列内の針の空間に対して等しい距離だけ互いに離れており、1cm当たり、100〜10000本の針密度を有することが記載されている。
このように、特許文献1、2、4〜6のマイクロニードルは基板上に等間隔に設けられ、単位面積当たりの針密度も一定である。一方、特許文献3では、針状体デバイス(マイクロニードルアレイ)の基板は平面であり、針状体の刃は円の接線方向に配置され、その配置パターンは、円中心から外周に向かって放射線状(図3)、円中心から外周に向かって広がる渦巻線状(図4)、中心軸から偏心した線状(図5(a))、非線対称な複数の線状(図5(b))等が開示されているが、接線方向に隣り合う刃は等間隔であり、針状体の基板全体にバランスよくほぼ均等に配置されている。
マイクロニードルの針密度と針の皮膚透過性に関しては、900本/cmのニードルを有するマイクロニードルアレイは、400本/cmのニードルを有するマイクロニードルアレイに比べて皮膚透過性が悪いとの記述がある(非特許文献2)。
特開2009−273872号公報 特開2010−029634号公報 特開2017−074196号公報 特開2016−175853号公報 特開2015−109963号公報 特開2017−047075号公報
権英淑、神山文男「マイクロニードル製品化への道程」、薬剤学、社団法人日本薬剤学会、平成21年9月、第69巻、第4号、p.272−276. G.Ya, et al., Evaluation needle length and density of microneedle arrays in the pretreatment of skin for transdermal drug delivery, International Journal of Pharmaceutics 391 (2010) 7-12
これまでのマイクロニードルパッチをテストのために動物皮膚へ投与するに当たっては、アプリケータによりマイクロニードルパッチの背後から高速で打ち付け、その衝撃によるエネルギーをマイクロニードルパッチに与え、皮膚への微細針挿入を実現する。現在までに知られているアプリケータのマイクロニードルパッチを衝撃する面は平面である。このようなシステムを用いて動物あるいは人へ投与する過程において、本発明者らは以下の現象に気づいた。
1.針の密度が高すぎると、動物及び人皮膚への挿入が困難になる(現象1)。
本発明者らの知見によれは、針密度が1500本/cmより大きくなると、針の皮膚透過が困難になりがちであった。もとより、この数字は皮膚の硬さ、針の細さ及び強度、アプリケータの衝撃強度など多くのファクターに左右される数字であるので、あくまで目安ではある。より大量の有価物をマイクロニードルに含浸(溶解型マイクロニードルの場合)もしくは塗布(塗布型マイクロニードルの場合)して、単位面積あたりの薬物含量をより大きくすることが重要であるマイクロニードルシステムにおいて、安定的に挿入可能な針密度は、極めて重要なマイクロニードルアレイの構造的ファクターである。
本発明者らに先立ち、非特許文献2に、900本/cmのニードルを有するマイクロニードルアレイは、400本/cmのニードルを有するマイクロニードルアレイに比べて皮膚透過性が悪いとの記述がある。
2.上記現象1を詳細に解析すると、マイクロニードルアレイの中央部は、周辺部と比較して、より皮膚挿入が困難である(現象2)。
現象2に関して文献を調査したが、このような現象を指摘した文献は見当たらなかった。
本発明の目的は、マイクロニードルアレイの中央部に位置する微細針が皮膚に挿入し難い問題点を解決することにある。
上記課題を解決するため、本発明者らは、現象2(中央部において微細針が皮膚挿入し難い)に関するモデル実験を、皮膚の代わりにパラフィルムを用いて実施した。パラフィルム(厚さ140μm)を8枚重ね、その上から針密度の異なった微細針を有するマイクロニードルパッチ(面積=0.8cm)を置き、アプリケータ(国際公開第2018/124290号、又は特開2017-185162号公報)により衝撃し、パラフィルムへの挿入挙動を詳細に調べた。パラフィルムを皮膚代替物としてマイクロニードルの挿入挙動を解析することは,既に文献(Int. J. Pharmaceutics 480(2015)152-157)により知られており、皮膚挿入挙動との信頼すべき相関がある。
その結果、針密度が中央部において周辺部よりも小さいように微細針が配置されたマイクロニードルアレイを用いることにより、針密度が全面において同一のマイクロニードルアレイよりも総針本数を増大させて、しかも全針を皮膚に安定挿入可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕 基板と、基板の1つの面に縦横に配置された複数のマイクロニードルとを備えるマイクロニードルアレイにおいて、該基板の周辺部と中央部とで該マイクロニードルの針間隔及び針密度が異なることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
〔2〕 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部に比べて中央部において疎である、〔1〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔3〕 前記マイクロニードルの針間隔が、前記基板の周辺部に比べて中央部において広い、〔1〕又は〔2〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔4〕 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部では600〜1500本/cmであり、前記基板の中央部では100〜800本/cmであり、基板の中央部での針密度は基板の周辺部での針密度より小さい、〔2〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔5〕 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部では400〜2000本/cmであり、前記基板の中央部では0〜99本/cmである、〔2〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔6〕 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部では400〜2000本/cmであり、該周辺部におけるマイクロニードル配置が少なくとも2列であり、前記基板の中央部では0本/cmである、〔2〕に記載のマイクロニードルアレイ。
〔7〕 前記基板の面が円若しくは楕円であり、該基板の中央部が該円若しくは該楕円の中心から半径の9/10又はそれ以下の円周の内部であり、該基板の周辺部が該中央部の外側である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ。
〔8〕 前記基板の面が四角であり、該基板の中央部が該四角の中心から対角線の9/10又はそれ以下の地点の4点を結ぶ四辺の内部であり、該基板の周辺部が該中央部の外側である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイ。
〔9〕〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のマイクロニードルアレイにさらに粘着シートを有するマイクロニードルパッチ。
〔10〕 前記粘着シートの粘着面に付着している離型シートをさらに有する、〔9〕に記載のマイクロニードルパッチ。
本発明のマイクロニードルアレイは、マイクロニードルの針密度に密度差を設定することにより、針密度が均一のマイクロニードルアレイに比べて、より数多くの針を確実に皮膚に穿刺することができ、それにより、単位面積あたりの薬物含量をより大きくし、かつ、薬物を確実に経皮送達することができる。
段差を有するマイクロニードルの模式図 離型シートを有するマイクロニードルパッチの一態様を示す図 実施例1で製造したマイクロニードルアレイの写真 実施例1で製造したマイクロニードルアレイの拡大写真 実施例1で製造したマイクロニードルアレイの針の形状を示す顕微鏡写真 実施例1で製造したマイクロニードルアレイの針を貫通させた後のパラフィルムの顕微鏡写真 比較例3で製造したマイクロニードルアレイの拡大写真 実施例2で製造したマイクロニードルアレイの拡大写真
マイクロニードルアレイの基板
マイクロニードルアレイの基板の材料、形状及び大きさは、特に限定されず、従来用いられてきたものを使用することができる。
基板とマイクロニードルの基剤は同一であることを基本とするが、異なる基剤であってもよい。
前記基剤としては、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、ガラス、金属(ステンレス、チタン、ニッケル、モリブテン、クロム、コバルト等)及び合成又は天然の樹脂素材等が挙げられる。合成又は天然の樹脂素材としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)共重合体、カプロノラクトン、ポリウレタン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性もしくは生体分解性ポリマー、又はナイロン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン、ポリエチレンテレフタレート、COP(サイクリックオレフィンポリマー)等の生体非分解性ポリマーが挙げられる。ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸誘導体、プルラン、デキストラン、デキストリン、コンドロイチン硫酸等の多糖類であってもよい。基剤は、これらの中から1種又は2種以上を混合して使用することができる。
基板の形状は、任意の形状とすることができる。一例として、円形、楕円形、三角形、四角形、多角形等を基本とし、適用部位(皮膚)に合わせてさらに変形したものであってもよい。基板の大きさは、直径(長径)又は一辺(長辺)の長さで代表して表すと、通常0.2〜10cmであり、0.5〜5cmが好ましい。
基板の面積は、通常0.05〜100cmであり、取扱い易さの観点から、0.1〜10cm程度が好ましく、0.5〜5cm程度がより好ましい。
基板の厚さは、基剤の材質にもよるが、通常、50〜2000μmであり、100〜1000μmが好ましい。
マイクロニードルの形状
マイクロニードルアレイを構成するマイクロニードルは、薬物の経皮吸収を確実にするため、針長さが100μm以上2,000μm以下であり、好ましくは200〜1,000μmである。
針の先端部頂点の大きさを直径として表すと、皮膚への刺し入れの容易性と皮膚への薬物残りを低減させるため、80μm以下であり、30μm以下が好ましい。
個々のマイクロニードルとしては、底面が円である円柱状もしくは円錐状、底面が楕円である楕円柱状もしくは楕円錐状、底面が三角形である三角柱もしくは三角錐、底面が四角形である四角柱状もしくは四角錐状、又は底面が多角形である多角柱もしくは多角錐が挙げられる。底面の大きさは、楕円の場合、長径を直径として表し、短径は楕円を形成できる限りにおいて長径より短い。三角形ないし多角形の場合、一辺を代表として表してもよく、対角線を代表として表してもよい。マイクロニードルが円錐状である場合には、その底面における直径は、100〜400μm程度であり、150〜300μm程度が好ましい。
本発明におけるマイクロニードルは、段差を有していてもよい。ここに段差とは、マイクロニードルのある点から先端方向に向かって、マイクロニードルの断面積が不連続的に縮小し、断面が図1に示すような階段状を呈しているものをいう。段差を有するマイクロニードルの形状を図1を参照しながら説明する。段差付マイクロニードルにおいて、先端部1の長さを50〜500μmとし、残りを底部3とすることが好ましい。先端部と底部との段差の縁2の大きさは10μmより大きく100μmより小さくすることが好ましい。14〜50μmとするのがより好ましい。4はマイクロニードルアレイの基板を示す。
なお、段差の縁2は工作精度の範囲でマイクロニードルの軸に対し直交する面(基板に平行な面)である。また段差の縁2の大きさとは、段差の部分における先端部と底部の半径の差をいう。先端部及び底部は、マイクロニードルの形状に応じて異なる。
好ましい態様として、本発明のマイクロニードルの形状は円錐形である。マイクロニードルの全長(針長さ)は70〜1000μm程度が好ましい。段差付マイクロニードルにおいて、先端部1の長さを50〜500μmとし、残りを底部とすることが好ましい(2段針)、あるいは、3段針においては残りを中間部および底部とする。先端部と中間部および中間部と底部との段差の縁2の大きさは、10μmより大きく100μmより小さくすることが好ましい。14〜50μmとするのがより好ましい。
基板上のマイクロニードルの配置
本発明のマイクロニードルアレイは、基板の1つの面に縦横に配置された複数のマイクロニードルを備え、基板の周辺部と中央部とでマイクロニードルの針間隔及び針密度が異なる。
マイクロニードルの針密度は、針の確実な皮膚穿刺性の観点から、基板の周辺部に比べて中央部において疎であることが好ましい。また、マイクロニードルの針間隔も、基板の周辺部に比べて中央部において広いことが好ましい。
好適な例として、マイクロニードルの針密度は、基板の周辺部では600〜1500本/cmであり、基板の中央部では100〜800本/cmである。より好ましくは、基板の周辺部では700〜1000本/cmであり、基板の中央部では300〜800本/cmである。ここで、基板の中央部での針密度は、基板の周辺部での針密度より小さい数値が選ばれる。
好適な別の例として、基板の中央部の針密度は100本/cm未満、具体的には0〜99本/cmであってもよい。この場合、基板の周辺部では400〜2000本/cmであり、より好ましくは600〜1500本/cmである。
マイクロニードルの針間隔は、基板の中央部の面積と周辺部の面積との割合、並びにマイクロニードルの針密度から適切な間隔を設定することができる。
基板の面が円若しくは楕円の場合、マイクロニードルアレイの皮膚挿入が困難な領域を観察した結果に基づけば、基板の中央部は円若しくは楕円の中心から半径の9/10あるいは2/3又はそれ以下の円周の内部であり、基板の周辺部は該中央部の外側であることが好ましい。
基板の面が四角の場合、基板の中央部は四角の中心から対角線の9/10あるいは2/3又はそれ以下の地点の4点を結ぶ四辺の内部であり、基板の周辺部は該中央部の外側であることが好ましい。
また、基板の周辺部のマイクロニードルの配置は、少なくとも2列あることが好ましい。
マイクロニードルパッチ
本発明のマイクロニードルパッチは、前記マイクロニードルアレイにさらに粘着シートを有する。粘着シートは、典型的には、フィルムの基材としてポリウレタン、ポリエチレン、ポリエステル、紙等を使用し、厚さ5〜50μm程度に成形したフィルム上に、アクリル系ないしはゴム系粘着剤を5〜50μm程度塗布したものである。粘着シートの形状は特に制限はないが、マイクロニードルアレイの形状に類似させて円形、楕円形、勾玉形等が好ましい。
本発明のマイクロニードルパッチは、粘着シートの粘着面を保護し、柔軟なマイクロニードルアレイを保持して取扱いが容易なように、粘着シートの粘着面に付着している離型シートをさらに有するものであってもよい。
離型シートについては、特開2014−028108号公報に開示されている保護離型シートを使用することができる。離型シートを有するマイクロニードルパッチの一具体例を、図2に示す。
マイクロニードルに保持される薬物
本発明のマイクロニードルアレイは、マイクロニードルの基剤が水溶性高分である場合、基剤中に薬物を含有するものであってもよい。あるいは、本発明のマイクロニードルアレイは、マイクロニードルの先端部に薬物塗布層を有するものであってもよい。
ここに薬物とは、皮膚に働きかけ、あるいは皮膚を透過し、何らかの有益な作用を生じる化合物を全て含む。本発明の目的に適した薬物の例としては、例えば、生理活性ペプチド類とその誘導体、核酸、オリゴヌクレオチド、各種の抗原蛋白質、バクテリア、ウイルスの断片等が挙げられる。上記生理活性ペプチド類とその誘導体としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、hPTH(1→34)、インスリン、エキセンディン、セクレチン、オキシトシン、アンギオテンシン、β−エンドルフィン、グルカゴン、バソプレッシン、ソマトスタチン、ガストリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エンケファリン、ニューロテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ブラジキニン、サブスタンスP、ダイノルフィン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、G−CSF、グルタチオンパーオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、デスモプレシン、ソマトメジン、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。抗原蛋白質としては、インフルエンザ抗原、HBs表面抗原、HBe抗原等が挙げられる。
薬物とは、化粧品であってもよい。
マイクロニードルの先端部に薬物塗布層を有するマイクロニードルアレイの場合、薬物塗布層の下端は、針の根元から50μm以上であり、上端は薬物の塗布量に応じて任意の高さであってもよい。好ましくは、上端は、マイクロニードルの先端であるが、必ずしも先端の際まで塗布されなければならないものではない。薬物塗布層の長さは、典型的には50μm以上800μm以下であり、150μm以上600μm以下が好ましい。
薬物塗布層の下端と上端は、薬物が塗布されたマイクロニードルの下端と上端とをマイクロニードルアレイの基板から垂直方向にそれぞれ測定して求めた値である。薬物塗布層の長さは、薬物が塗布されたマイクロニードルの下端と上端との差で表す。
他方、薬物塗布層は、薬物塗布液及び塗布回数に応じて、厚みは異なる。
マイクロニードルの先端を薬物水溶液に浸漬してマイクロニードル先端に薬物を塗布するに際しては、薬物水溶液中に基材物質を溶解させておき、塗布後乾燥時に薬物が基材物質とともにマイクロニードルに保持されていることが望ましい。基材物質としては、薬物の安定性を損なわない物質であることが必要であり、例えば、ヒアルロン酸、デキストリン、デキストラン、コンドロイチン硫酸Na、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースNa塩、などの高分子多糖類、コラーゲンなどのタンパク質、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、などの水溶性合成高分子、などの高分子物質、グルコース、蔗糖、マルトース、トレハロース、などの低分子糖類、若しくはそれらの混合物が挙げられる。前記基材物質、及び水溶性塩を添加した薬物水溶液が適当である。
ここで、水溶性塩とは、塩化ナトリウム、塩化亜鉛、などの水溶性塩が好適である。
基材物質の薬物水溶液中の濃度は、2質量%から60質量%が望ましい。2質量%より低い濃度では、薬物水溶液の粘度が小さく浸漬時の塗布付着量が少ない。また60質量%以上では、薬物水溶液の濃度が大きすぎて薬物塗布が安定しない。基材中の高分子と低分子糖類の割合は、薬物の性質に応じて変えうる。薬物が高分子医薬の場合、基剤はすべて低分子糖類であってもよい。
薬物水溶液には必要に応じ、酸化防止剤や界面活性剤等を加えてもよい。また、グリセリン、エチレングリコール及びその低分子重合体を加えて薬物の皮膚内溶解をさらに高めてもよい。
マイクロニードルアレイの製造方法
(1)金型の加工
本発明のマイクロニードルアレイの製造に用いる金型は、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工、金属若しくは樹脂を用いた精密機械加工(放電加工、レーザー加工、ホットエンボス加工、射出成型加工等)、機械切削加工等により製造することができる。
(2)マイクロニードルアレイの成形工程
水溶性高分子を素材とするマイクロニードルアレイは、鋳型(金型)を用いて大量生産することができる。例えば、水溶性高分子、必要に応じて薬物及びその他の成分を含む水溶液を流延し、乾燥した後剥離する方法が挙げられる(特開2009−273872号公報[0031]−[0033])。
射出成形可能な高分子を素材とするマイクロニードルは、素材を金型を用いて射出成形し製造すればよい(特開2003−238347号公報[0017]、[0018])。射出成形用金型は、スレンレス鋼、耐熱鋼、超合金等を用いることができる。金型にはマイクロニードルの形状を作るため1平方cm当たり100個〜1500個のマイクロニードルに対応する凹部を有する。凹部を作るには、レーザー、放電加工等の微細加工手段を使用できる。
射出成形可能な高分子(例えば、熱可塑性樹脂)を素材とするマイクロニードルアレイの製造方法の一態様として、熱可塑性樹脂材料からなるペレットを、マイクロニードル射出成形用金型を装着した射出成形機に供給し、シリンダー温度230〜280℃、金型温度60〜130℃、射出圧1000〜1500KPaで射出成形する方法が挙げられる。
熱可塑性樹脂材料として、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、若しくはこれらの共重合体を単独あるいは混合物として使用できる。さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内において、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、などを配合した組成物を使用できる。
好適な一具体例として、ポリグリコール酸100質量部に対して、0〜20質量部の無機フィラー、0〜30質量部の他の熱可塑性樹脂、などを配合した組成物(コンパウンド)を用いることができる。無機フィラーまたは他の熱可塑性樹脂が20質量部を超過すると、得られる射出成形物の耐衝撃強度、強靭性が不足し、また、溶融加工性が低下するおそれがある。
無機フィラーとしては、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。
他の熱可塑性樹脂としては、ε−カプロラクトンの単独重合体及び共重合体、TPX、等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。他の熱可塑性樹脂は、例えば、ポリグリコール酸100質量部に対して、通常0〜30質量部の割合で使用される。
射出成型により得られたマイクロニードルアレイは、冷却後に金型から取り出される。
本発明の実施例を以下に示すが、本発明は実施例に限定されるわけではない。
実施例1
金型を射出成形機(ファナック(株))に取付け、ポリグリコール酸を溶融して射出成形を行なった。シリンダー温度235℃、射出圧力1350kPa、金型温度120℃で射出成形し、乳白色の直径10mmのマイクロニードルアレイを取り出した(図3)。拡大図を図4に示す。
基板の中心部と周辺部とでは針密度が異なっていた。中心部の直径約5mmの円形部は針密度が750本/cmであり、総計169本の2段マイクロニードルを有していた。周辺部(中心から5mm〜外径(10mm)の部分)は針密度が960本/cmであり、総計576本の2段マイクロニードルを有していた。針の形状を示す顕微鏡写真を図5に示す。先端部の長さが30μmの2段針であった。
本マイクロニードルアレイをバネ式アプリケータに取り付けた。アプリケータのバネ定数は0.516N/mmであった。パラフィルム(LMS社製、厚さ:170μm)を厚さ1cmのシリコン板上に5枚重ねて皮膚モデルとし、その上からアプリケータによりマイクロニードルアレイを衝撃投与した。マイクロニードルアレイをパラフィルムからはがし、表面から2枚目の針の貫通状況を顕微鏡で観察した。2枚目を貫通していることは、皮膚から概略350μm深さまで針が到達することを予測させるものである。結果を図6に示す。図6より、すべての針が貫通していることがわかった。
比較例1、2
実施例1において、実施例1とは異なる金型(比較例1の場合は針密度が750本/cmで均一、比較例2の場合は針密度が960本/cmで均一)を用いること以外は実施例1と同様にして、マイクロニードルアレイを製造した。得られたマイクロニードルアレイを用いて、実施例1と同様にパラフィルム貫通試験を行った。実施例1並びに比較例1及び2の結果を表1に示す。
〇:すべての針がパラフィルム2枚を貫通した。
×:一部の針がパラフィルム2枚を貫通しなかった。
比較例1及び2は密度差を持たないマイクロニードルアレイである。アレイの直径はいずれも10mmであった。実施例1のように、マイクロニードルの針密度に密度差を設定することにより、より数多くの針が確実に皮膚穿刺されることを予測させる結果が得られた。
実施例2、3、4、比較例3、4
金型を射出成形機(ファナック(株))に取付け、ポリグリコール酸を溶融して射出成形を行なった。シリンダー温度235℃、射出圧力1350kPa、金型温度120℃で射出成形し、乳白色の直径10mmのマイクロニードルアレイを4種製造した。針の全長は、全て600μmであった。拡大顕微鏡写真を図7A及び図7Bに示す。
No.1は針間隔が650μmで針配置が全体に均一のマイクロニードルアレイである(比較例3、図7A)。No.2は針間隔が400μmで針配置が外周に集中しているマイクロニードルアレイである(実施例2、図7B)。No.1とNo.2の針の本数は193本に統一した。
No.3は針間隔が400μmで針配置が全体に均一のマイクロニードルアレイである(比較例4)。No.4は針間隔が350μmで針配置が外周に集中しているマイクロニードルアレイである(実施例3)。No.3とNo.4の針の本数は489本に統一した。
No.5は針間隔が400μmで針配置が外周の2列に集中しているマイクロニードルアレイである(実施例4)。針本数は110本であり、用途によって針本数が少ないマイクロニードルアレイの必要性を考慮して製作、評価した。
本マイクロニードルアレイをバネ式アプリケータに取り付けた。アプリケータのバネ定数は0.516N/mmであった。パラフィルム(LMS社製、厚さ:130μm)を厚さ1cmのシリコン板上に5枚重ねて皮膚モデルとし、その上からアプリケータによりマイクロニードルアレイを衝撃投与した。マイクロニードルアレイをパラフィルムからはがし、表面から1〜4枚目の針の貫通状況を顕微鏡で観察した。3枚目を貫通していることは、皮膚から概略390μm深さまで針が到達することを予測させるものである。結果を表2に示す。
実施例2及び比較例3はマイクロニードルアレイの針本数が同一である。針配置が均一の比較例3は3枚目のパラフィルムまで全ての針が貫通したが、針配置を外周に集中させた実施例2は、4枚目のパラフィルムまで全ての針が貫通しており、中央部の針密度を0にすることにより確実に皮膚穿刺されることを予測させる結果が得られた。
同様に、実施例3及び比較例4もマイクロニードルアレイの針本数が同一であるが、実施例2及び比較例3に比べて針密度が高い。針配置が均一の比較例4は、3枚目のパラフィルムを貫通した針の数は全体の1/4にまで減少したが、針配置を外周に集中させた実施例3は、3枚目のパラフィルムを貫通した針の数は全体の約3/4であった。針密度の高いマイクロニードルアレイであっても、針配置を外周に集中させることにより、より多くの針が確実に皮膚穿刺されることを予測させる結果が得られた。
実施例4は、実施例2と針間隔及び針密度が同一であるが、針本数を少なく設定して外周2列に集中させた。実施例2と同様に、4枚目のパラフィルムまで全ての針が貫通しており、中央部の針密度を0にすることにより確実に皮膚穿刺されることを予測させる結果が得られた。
1 先端部
2 段差の縁
3 底部
4 マイクロニードルアレイの基板
11 マイクロニードルアレイ
12 離型シート
13 粘着シート
14 穴
15 切断線
16 隙間

Claims (10)

  1. 基板と、基板の1つの面に縦横に配置された複数のマイクロニードルとを備えるマイクロニードルアレイにおいて、該基板の周辺部と中央部とで該マイクロニードルの針間隔及び針密度が異なることを特徴とするマイクロニードルアレイ。
  2. 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部に比べて中央部において疎である、請求項1に記載のマイクロニードルアレイ。
  3. 前記マイクロニードルの針間隔が、前記基板の周辺部に比べて中央部において広い、請求項1又は2に記載のマイクロニードルアレイ。
  4. 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部では600〜1500本/cmであり、前記基板の中央部では100〜800本/cmであり、基板の中央部での針密度は基板の周辺部での針密度より小さい、請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
  5. 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部では400〜2000本/cmであり、前記基板の中央部では0〜99本/cmである、請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
  6. 前記マイクロニードルの針密度が、前記基板の周辺部では400〜2000本/cmであり、該周辺部におけるマイクロニードル配置が少なくとも2列であり、前記基板の中央部では0本/cmである、請求項2に記載のマイクロニードルアレイ。
  7. 前記基板の面が円若しくは楕円であり、該基板の中央部が該円若しくは該楕円の中心から半径の9/10又はそれ以下の円周の内部であり、該基板の周辺部が該中央部の外側である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
  8. 前記基板の面が四角であり、該基板の中央部が該四角の中心から対角線の9/10又はそれ以下の地点の4点を結ぶ四辺の内部であり、該基板の周辺部が該中央部の外側である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイ。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のマイクロニードルアレイにさらに粘着シートを有するマイクロニードルパッチ。
  10. 前記粘着シートの粘着面に付着している離型シートをさらに有する、請求項9に記載のマイクロニードルパッチ。

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