JP2020525040A - カイコから改質シルクを生産する方法及びその生産のための飼料組成物 - Google Patents

カイコから改質シルクを生産する方法及びその生産のための飼料組成物 Download PDF

Info

Publication number
JP2020525040A
JP2020525040A JP2020500197A JP2020500197A JP2020525040A JP 2020525040 A JP2020525040 A JP 2020525040A JP 2020500197 A JP2020500197 A JP 2020500197A JP 2020500197 A JP2020500197 A JP 2020500197A JP 2020525040 A JP2020525040 A JP 2020525040A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
silk
acid
organic compound
feed composition
protic organic
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2020500197A
Other languages
English (en)
Inventor
ドゥエイ コー、レン
ドゥエイ コー、レン
イン ティー、シー
イン ティー、シー
ペン テン、チュン
ペン テン、チュン
デラ クルス レグラシオ、ミシェル
デラ クルス レグラシオ、ミシェル
ウィン キン、イン
ウィン キン、イン
ジュン ロー、シエン
ジュン ロー、シエン
チェン、ユアン
ウェイ チャン、ヨン
ウェイ チャン、ヨン
ハン、ミン−ヨン
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Agency for Science Technology and Research Singapore
Original Assignee
Agency for Science Technology and Research Singapore
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Agency for Science Technology and Research Singapore filed Critical Agency for Science Technology and Research Singapore
Publication of JP2020525040A publication Critical patent/JP2020525040A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • AHUMAN NECESSITIES
    • A23FOODS OR FOODSTUFFS; TREATMENT THEREOF, NOT COVERED BY OTHER CLASSES
    • A23KFODDER
    • A23K10/00Animal feeding-stuffs
    • A23K10/30Animal feeding-stuffs from material of plant origin, e.g. roots, seeds or hay; from material of fungal origin, e.g. mushrooms
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A01AGRICULTURE; FORESTRY; ANIMAL HUSBANDRY; HUNTING; TRAPPING; FISHING
    • A01KANIMAL HUSBANDRY; AVICULTURE; APICULTURE; PISCICULTURE; FISHING; REARING OR BREEDING ANIMALS, NOT OTHERWISE PROVIDED FOR; NEW BREEDS OF ANIMALS
    • A01K67/00Rearing or breeding animals, not otherwise provided for; New or modified breeds of animals
    • A01K67/033Rearing or breeding invertebrates; New breeds of invertebrates
    • A01K67/04Silkworms
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A23FOODS OR FOODSTUFFS; TREATMENT THEREOF, NOT COVERED BY OTHER CLASSES
    • A23KFODDER
    • A23K20/00Accessory food factors for animal feeding-stuffs
    • A23K20/10Organic substances
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A23FOODS OR FOODSTUFFS; TREATMENT THEREOF, NOT COVERED BY OTHER CLASSES
    • A23KFODDER
    • A23K20/00Accessory food factors for animal feeding-stuffs
    • A23K20/10Organic substances
    • A23K20/105Aliphatic or alicyclic compounds
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A23FOODS OR FOODSTUFFS; TREATMENT THEREOF, NOT COVERED BY OTHER CLASSES
    • A23KFODDER
    • A23K40/00Shaping or working-up of animal feeding-stuffs
    • A23K40/10Shaping or working-up of animal feeding-stuffs by agglomeration; by granulation, e.g. making powders
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A23FOODS OR FOODSTUFFS; TREATMENT THEREOF, NOT COVERED BY OTHER CLASSES
    • A23KFODDER
    • A23K50/00Feeding-stuffs specially adapted for particular animals
    • A23K50/90Feeding-stuffs specially adapted for particular animals for insects, e.g. bees or silkworms

Landscapes

  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Polymers & Plastics (AREA)
  • Zoology (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Food Science & Technology (AREA)
  • Animal Husbandry (AREA)
  • Environmental Sciences (AREA)
  • Biotechnology (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Birds (AREA)
  • Botany (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Mycology (AREA)
  • Physiology (AREA)
  • Animal Behavior & Ethology (AREA)
  • Biodiversity & Conservation Biology (AREA)
  • Insects & Arthropods (AREA)
  • Fodder In General (AREA)
  • Feed For Specific Animals (AREA)

Abstract

本開示によれば、カイコから改質シルクを生産する方法が提供される。この方法は、クワ葉粉末及び水を含む混合物を加熱する工程、その混合物を加熱した後、その混合物をプロトン性有機化合物と混合してプロトン性有機化合物を含む飼料組成物を形成する工程、カイコにその飼料組成物を供給して改質シルクを生成する工程、及びカイコから改質シルクを抽出する工程を含む。上記の方法により生産された改質シルクも本開示で提供される。本開示では、カイコから改質シルクを生産するための飼料組成物がさらに提供される。改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下の長さを有する。飼料組成物中のプロトン性有機化合物は、飼料組成物中のクワ葉粉末の1重量%未満である。

Description

本開示は、カイコから改質シルクを生産する方法、及びそのような方法によって生産された改質シルクに関する。本開示はまた、カイコから改質シルクを生産するための飼料組成物に関する。
カイコ(Bombyx mori(B.mori))のシルクは、世界中でカイコによって非常に大規模(年間120,000トン)に生産される天然の繊維材料である。現在、B.moriのシルクは、様々な産業(例えば、ファッション繊維、生物医学/ヘルスケア、コンシューマーケアエレクトロニクス、スポーツ用品、自動車、及び食品産業)に及ぶ広範囲かつ拡大し続ける用途で最も広く使用されているタイプのシルクといえる。これは、シルクのコアフィラメントタンパク質であるフィブロインが、光沢/つや、優れた強度/靭性、生体適合性、熱安定性、長期生分解性などを含む多くの魅力的な特徴を示すためである。
フィブロインの構造は、アモルファス鎖のマトリックスに埋め込まれた離散的なβシート結晶子(以下、結晶子と呼ぶ)によって表され得る。カイコのシルクは、長さが約10nm以上の結晶子を含んでおり、そのような結晶は通常、クモのシルク(6〜6.5nm)よりも長い。
シルクの機械的特性を変えるために、シルクの構造を調整又は変更するための様々なアプローチが検討されてきた。例えば、シルクの人工紡糸(つまり、制御された引出し速度で昆虫の吐糸口からシルクを引っ張ること)は、結晶子の長さを大きく変えることはなかった(すなわち、対照として使用したシルクが11.65nmであったのに対し、人工紡糸したシルクでは11.49nmであった)。別の例では、シルクの調整された紡糸(つまり、昆虫が電界で紡糸されるようにすること)も、結晶子の長さを変えることはなかった(すなわち、調整されたシルクでは20.2nm、対照として使用したシルクでは20.4nm)。さらに、以前の分子モデリング及びシミュレーション研究では、1〜2nmを超える結晶子の長さ(つまり、鎖軸に沿ったもの)は、シルクの機械的特性に影響を与えない傾向にあることが報告された。
したがって、上記の制限の1つ又は複数を少なくとも改善するシルクの生産方法を提供する必要性が存在する。そのような方法で生産されたシルクは、結晶子の長さが短く、機械的特性が向上しているべきである。
第1の態様では、カイコから改質シルクを生産する方法が提供され、その方法は:
クワ葉粉末及び水を含む混合物を加熱する工程;
前記混合物を加熱した後、前記混合物をプロトン性有機化合物と混合してプロトン性有機化合物を含む飼料組成物を形成する工程であって、前記プロトン性有機化合物はクワ葉粉末の1重量%未満である工程;
カイコに前記飼料組成物を供給して改質シルクを生成する工程;及び
カイコから前記改質シルクを抽出する工程であって、前記改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下の長さを有する工程
を含む。
第2の態様では、第1の態様による方法により生産された改質シルクが提供される。
第3の態様では、カイコから改質シルクを生産するための飼料組成物が提供され、前記改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下の長さを有し、前記試料組成物は:
クワ葉粉末;
水;及び
改質シルクの各結晶子の長さを7nm以下にするような変化を誘導するプロトン性有機化合物
を含み、前記プロトン性有機化合物はクワ葉粉末の1重量%未満である。
図面は必ずしも縮尺通りではなく、代わりに概して本発明の原理を示すことに重点が置かれている。以下の説明において、本開示の様々な実施形態は、以下の図面を参照して説明される。
対照シルクに対するCAシルクの機械的特性を示す。CAシルクは、クエン酸(CA)を含むように改変した飼料を与えたカイコから得られるシルクを表す。この例の改変飼料は、クワ葉粉末の0.05重量%のCAを含む。対照シルクは、CAを含まないクワ葉粉末を与えたカイコから得られるシルクを表す。具体的には、図1aは、CAシルク及び対照シルクの応力−ひずみ曲線を示している。 対照シルクに対するCAシルクの機械的特性を示す。この例でCAシルクを得るための改変飼料には、クワ葉粉末の0.05重量%のCAが含まれている。具体的には、図1bは、対照シルクに対するCAシルクの引張機械特性を示す。データは平均±標準偏差として表示されている。統計的有意性は、一元配置分散分析(ANOVA)を用いて実行した。「*」はp<0.01を表し、N=5である。 対照シルクのX線回折(XRD)(左の画像)及び経線軸に沿ったそれぞれの回折スペクトル(右の画像)を示し、結晶子とアモルファス成分のピークに、それぞれ、実線と点線でカーブフィッティングしている。経線スペクトルの緑色(002)ピーク(右の画像の影付き領域で表される)は、β鎖軸に沿った結晶子の長さに関する情報を提供する。XRD曲線は、簡単に比較できるように、カーブフィッティング後に強度を250だけオフセットしている。 CAシルクのX線回折(XRD)(左の画像)及び経線軸に沿ったそれぞれの回折スペクトル(右の画像)を示し、結晶子とアモルファス成分のピークに、それぞれ、実線と点線でカーブフィッティングしている。経線スペクトルの緑色(002)ピーク(右の画像の影付き領域で表される)は、β鎖軸に沿った結晶子の長さに関する情報を提供する。XRD曲線は、簡単に比較できるように、カーブフィッティング後に強度を250だけオフセットしている。この例のCAシルクは、クワ葉粉末の0.05重量%のCAを含む改変飼料を使用して得られる。 βシート結晶子の概略図であり、aはβシートの積層方向(すなわち、結晶子の厚さ)、bはβ鎖軸に垂直なβシートの方向(すなわち、結晶子の幅)、そしてcはβ鎖軸に沿った方向(すなわち、結晶子の長さ)である。 対照シルク及びCAシルクの、a、b、c方向の関連成分回折ピークの結晶子寸法の表である。この例のCAシルクは、クワ葉粉末の0.05重量%のCAを含む改変飼料を使用して得られる。 対照シルク及びCAシルクの、a、b、c方向の関連成分回折ピークの半値全幅から計算された結晶子寸法の表である。この例のCAシルクは、クワ葉粉末の0.05重量%のCAを含む改変飼料を使用して得られる。 CA分子の非存在下及び/又は存在下でのシルクフィブロインの相互作用の分子動態シミュレーションに関する。具体的には、図3aは本明細書に開示される実施形態によるシミュレーションに使用される代表的なシルクフィブロイン分子を示す。影のない領域(つまり、白い色)はグリシンを表し、影のある領域はアラニン、セリン、又はチロシン(つまり、それぞれ青、黄、及び緑色)を表す。 CA分子の非存在下でのシルクフィブロインの相互作用の分子動態シミュレーションに関する。具体的には、図3bは、CAが存在しない明示的な水シェルでの200nsのシミュレーションで平衡状態にある4鎖フィブロインのスナップショットを示す。 CA分子の存在下でのシルクフィブロインの相互作用の分子動態シミュレーションに関する。具体的には、図3cは、CAの存在下での明示的な水シェルでの200nsのシミュレーションで平衡状態にある4鎖フィブロインのスナップショットを示す。 CA分子の非存在下でのシルクフィブロインの相互作用の分子動態シミュレーションに関する。具体的には、図3dは、図3bでシミュレートされたシルクフィブロインの経時的な二次構造の発達を示す(時間−発達プロットにおける異なるタイプの二次構造の表現は、凡例に示されている)。 CA分子の存在下でのシルクフィブロインの相互作用の分子動態シミュレーションに関する。具体的には、図3eは、図3cでシミュレートされたシルクフィブロインの経時的な二次構造の発達を示す(時間−発達プロットにおける異なるタイプの二次構造の表現は、凡例に示されている)。 CA分子の存在下及び非存在下でのシルクフィブロインの相互作用の分子動態シミュレーションに関する。具体的には、図3fは、CA分子の存在下及び非存在下での分子動態シミュレーションの後半100nsの間に収集された結晶構造及びアモルファス構造の割合の表である。「4鎖CA」は、CAの存在下で実行されたシミュレーションを表す。 本方法の要約フロー図を示す。
以下の詳細な説明は、本発明を実施することができる特定の詳細及び実施形態を例示として示す添付の図面を参照する。
実施形態の文脈で説明される特徴は、他の実施形態の同じ又は類似の特徴に対応して適用可能であり得る。実施形態の文脈で説明される特徴は、これらの他の実施形態で明示的に説明されていなくても、他の実施形態に対応して適用可能であり得る。さらに、実施形態の文脈において特徴について説明する追加及び/又は組み合わせ及び/又は代替は、他の実施形態の同じ又は類似の特徴に対応して適用可能であり得る。
様々な実施形態は、第1の態様において、カイコから改質シルクを生産する方法に関する。この方法は、クワ葉粉末及び水を含む混合物を加熱する工程、前記混合物を加熱した後に前記混合物をプロトン性有機化合物と混合して、プロトン性有機化合物を含む飼料組成物を形成する工程であって、プロトン性有機化合物はクワ葉粉末の1重量%未満である工程、カイコに前記飼料組成物を与えて改質シルクを生成する工程、及び改質シルクをカイコから抽出する工程を含み、ここで、改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下の長さを有する。
有利なことに、本方法は、従来のシルクと比較して、より規則的かつ/又はより密に詰まった、より短い結晶子を有する改質シルクを生産する。例えば、カイコによって生産されたシルクは、約10nm以上の長さの結晶子を持つ傾向がある。別の例では、クモによって生産されるシルクの結晶子は6〜6.5nmである傾向がある。さらに有利なことに、上記改質シルクは、従来のシルクよりも優れた機械的特性を有する。改善された機械的特性には、靭性、引張強度、延性などが含まれる。例証すると、本方法により生産される改質シルクは225±14MJ/mの靭性を有し、これはカイコからの従来のシルクの靭性(121±13MJ/m)の2倍である。利点を説明するために、シルクの背景について以下に説明する。
シルクは、典型的にはフィブロインとセリシンから形成されている。セリシンは、フィブロインを覆う接着性ガムであり、それによってフィブロインを共に保持している。フィブロインは、シルクフィブロインとも呼ばれ、シルクの主要構造として機能し、既に上記で説明したように、アモルファス鎖のマトリックスに埋め込まれた個別のβシート結晶子によって表される。これらのβシート結晶子は、本願では結晶子と呼ばれ、その構成要素の知覚可能な組織、規則性、又は配向を有する配置を示すシルク内の領域であり、フィブロインのその部分では、構造に秩序がある。一方、アモルファス鎖は、その構成要素の容易に知覚できる組織、規則性、及び配向を示さない領域である。
結晶子は、アラニン、グリシン、セリンやチロシンなどのアミノ酸残基から自然に形成され、このうち、チロシンは他の3つのアミノ酸と比較して嵩高いアミノ酸残基である。アミノ酸残基が結晶子に組み込まれるためには、チロシンの官能基、例えば、水素結合を形成できる官能基は、隣接するペプチド鎖と結合するために1つ以上の水素結合を形成するようにアクセス可能である必要がある。しかしながら、本方法により、嵩高いチロシンが結晶子に組み込まれることが防止され、これにより、結晶子から嵩高いチロシンアミノ酸が除去される。プロトン性有機化合物が存在すると、これはチロシンと相互作用して、結晶子に組み込まれることが立体的に妨げられる複合体を形成するため、チロシンは、結晶子の形成に関与することを妨げられる。簡潔に説明すると、プロトン性有機化合物としてクエン酸(CA)が飼料組成物に添加され、その飼料組成物がカイコによって消費されると、生成される改質シルクの結晶子にはチロシンが実質的に又は全く含まれない。クエン酸はチロシンと相互作用して複合体を、この例ではCA−チロシン複合体を形成する。チロシンとCAとの間の強い相互作用により、上記のように官能基のアクセシビリティが制限され、チロシンが隣接するペプチド鎖と水素結合を形成するのを防ぐ。嵩高いチロシン残基は、他の3つのより小さいアミノ酸残基(グリシン:−7.06±1.65kJ/mol、アラニン:−11.31±3.55kJ/mol、セリン:−31.06±3.66kJ/mol)よりも遥かに強い結合エネルギー(−36.18±2.61kJ/mol)でCAに強く結合する。この強い結合エネルギーは、プロトン性有機化合物、例えばクエン酸が、他の3つのアミノ酸よりもチロシンと複合体を形成することを可能にする。したがって、チロシンは、結晶子に組み込まれることから実質的又は完全に除外される。この複合体はまた、チロシンが結晶子に組み込まれるのを立体的に妨げる。
様々な実施形態において、本方法の飼料組成物は、クワ葉粉末の1重量%未満の量のプロトン性有機化合物を含むことができる。クワ葉粉末に対して1重量%以上の量でプロトン性有機化合物を飼料組成物に含めると、シルクの機械的特性に悪影響を及ぼす可能性がある。例えば、本方法の飼料組成物が、クワ葉粉末に基づき1重量%以上のクエン酸を含む場合、シルクは機械的に弱くなる。これは、大量(すなわち1重量%以上)のクエン酸などのプロトン性有機化合物がカイコの血リンパ(すなわち血液)のpHに望ましくない影響を及ぼし、それがチロシンのシルクへの取り込みを妨げる複合体を形成するためのプロトン性有機化合物の移動に影響するためである。換言すれば、クワ葉粉末に基づく飼料組成物中のプロトン性有機化合物の量が1重量%以上である場合、in vivoで複合体を形成するために利用可能なプロトン性有機化合物は、少なくなる可能性がある。
本願で使用する「プロトン性有機化合物」という表現は、プロトン(H)を容易に供与する有機化合物を指す。この点で、「プロトン性有機酸」という表現には、ブレンステッド・ローリーの酸、すなわち、水素イオンを容易に放出する有機酸が含まれる。プロトン性有機化合物は、アラニン、グリシン、及びセリンよりも強い結合エネルギーを有するチロシンとの相互作用を形成するための1つ又は複数の水素結合を形成することもできる。このようにして、プロトン性有機化合物は、アラニン、グリシン、セリンよりもチロシンに結合し、結晶子へのチロシンの取り込みを防ぐことができる。様々な例において、プロトン性有機化合物は、そのような能力の一方又は両方を有し得る。プロトン性有機化合物は、部分的な解離を受ける傾向があるため、弱有機酸を含む場合がある。言い換えると、弱有機酸は両方の能力を有し得る。
結晶子から実質的に又は完全にチロシンが除去されると、結晶子はさらにコンパクトになり、改質シルクの機械的特性は従来のシルクよりも著しく優れたものになる。例えば、本方法により生産される改質シルクは、クモの牽引糸シルクの靭性(すなわち、160〜200MJ/m)を超える靭性を有する。
様々な実施形態は、第2の態様において、第1の態様に従って記載された方法により生産された改質シルクに関する。様々な実施形態は、第3の態様において、カイコから改質シルクを生産するための飼料組成物に関する。
様々な実施形態の詳細に入る前に、特定の用語の定義を最初に論じる。
「実質的に」という語は「完全に」を除外しない。例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要な場合、「実質的に」という言葉は、発明の定義から省略され得る。
様々な実施形態の文脈において、特徴又は要素に関して使用される冠詞「1つの」、「その」及び「前記」は、1つ又は複数の特徴又は要素への参照を含む。
様々な実施形態の文脈において、数値に適用される「約」又は「およそ」という用語は、正確な値と合理的な変動を包含する。
本願で使用する「及び/又は」という用語は、関連する列挙された項目の1つ又は複数のありとあらゆる組合せを含む。
特に明記しない限り、用語「含む」及びその文法上の変形は、記載された要素を含むが、記載されていない追加の要素の包含も許容するような「オープン」又は「包括的」な言葉を表すことを意図している。
上記を念頭に置いて、様々な実施形態の詳細を以下に説明する。
本開示では、カイコから改質シルクを生産する方法が提供される。この方法は、クワ葉粉末及び水を含む混合物を加熱する工程、前記混合物を加熱した後に前記混合物をプロトン性有機化合物と混合して、プロトン性有機化合物を含む飼料組成物を形成する工程であって、プロトン性有機化合物はクワ葉粉末の1重量%未満である工程、カイコに前記飼料組成物を与えて改質シルクを生成する工程、及び改質シルクをカイコから抽出する工程を含み、ここで、改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下、1nm以下などの長さを有する。
本方法によれば、クワ葉粉末及び水を最初に混合してから、クワ葉粉末及び水の混合物を加熱してもよい。クワ葉粉末及び水の混合は、加熱と同時に行ってもよい。クワ葉粉末及び水の加熱は、給餌、保管、及び保存に便利な葉のペースト又はチャウを形成するために行われる。
クワ葉粉末及び水は、1:1〜1:10、1:3〜1:10、1:5〜1:10、又は1:8〜1:10の重量対体積比で混合することができる。例えば、クワ葉粉末100gと水300mLを混合することができる。様々な実施形態において、この方法は、混合物を加熱する前に、クワ葉粉末及び水を1:1〜1:10、1:3〜1:10、1:5〜1:10、又は1:8〜1:10の重量対体積比で混合することをさらに含み得る。特定の実施形態では、本明細書に開示の方法は、クワ葉粉末及び水を1:3の重量対体積比で混合することをさらに含み得る。
クワ葉粉末及び水を混合後又は混合中に、混合物を加熱してもよい。加熱は、例えば、ホットプレートの使用、ストーブ加熱、温水又は沸騰水との混合などの任意の適切な方法によって実施してもよい。クワ葉粉末は、通常、水と混合するだけで溶解する。加熱は、有利には、給餌の持続期間全体にわたって飼料が新鮮なままであるように実施され得る(例えば、飼料は、加熱後冷蔵庫で1ヵ月間新鮮なままである)。様々な実施形態において、加熱は、マイクロ波加熱の形態であってもよい。様々な実施形態において、加熱は、混合物をマイクロ波にさらすことを含んでもよい。マイクロ波は、1m〜1mmの範囲の波長を持つ電磁放射の一種である。
混合物を加熱した後、混合物をプロトン性有機化合物と混合して、飼料組成物を形成することができる。加熱後にプロトン性有機化合物、例えばクエン酸を混合又は添加することは、プロトン性有機化合物の熱分解を防ぐ。例えば、混合物を175℃以上に加熱すると、クエン酸が二酸化炭素と水に分解する場合がある。そのため、様々な場合において、クエン酸を加える前に、混合物を例えば150℃の温度に達するようにわずかに冷ます場合がある。この温度は、使用するプロトン性有機化合物によって異なり得る。
プロトン性有機化合物及び混合物の混合は、プロトン性有機化合物を混合物に添加することを含み得る。様々な実施形態において、混合物とプロトン性有機化合物との混合は、1重量%未満、例えば0.001〜0.9重量%、0.01〜0.9重量%、0.001〜0.8重量%、0.01〜0.8重量%、0.05〜0.9重量%、0.05〜0.8重量%、0.5〜0.9重量%、0.5〜0.8重量%、0.05〜0.5重量%、0.5重量%、又は0.05重量%のプロトン性有機化合物を混合物に添加することを含んでもよく、ここで、重量%はクワ葉粉末に基づいていてもよい。特定の実施形態において、混合物とプロトン性有機化合物との混合は、0.05又は0.5重量%のプロトン性有機化合物を混合物に添加することを含んでもよく、ここで、重量%はクワ葉粉末に基づく。飼料を改変するために過剰なプロトン性有機化合物を加えると、飼料がカイコの消費に適さなくなり、改質シルクが生産されない可能性がある。したがって、混合物と混合されるプロトン性有機化合物は、クワ葉粉末の1重量%未満、例えば0.001〜0.9重量%、0.01〜0.9重量%、0.001〜0.8重量%、0.01〜0.8重量%、0.05〜0.9重量%、0.05〜0.8重量%、0.5〜0.9重量%、0.5〜0.8重量%、0.05〜0.5重量%、0.5重量%、又は0.05重量%などであり得る。既に上述したように、飼料組成物中のクワ葉粉末に基づくプロトン性有機化合物の量が1重量%以上であると、クエン酸などのプロトン性有機化合物がカイコの血液のpHに望ましくない影響を及ぼし、シルクへのチロシンの取り込みを妨げる複合体を形成するためのプロトン性有機化合物の移動が悪影響を受けるため、シルクの機械的脆弱化が生じる。この場合、in vivoで複合体を形成するために利用可能なプロトン性有機化合物は、少なくなる可能性がある。
プロトン性有機化合物を含む飼料組成物を調製したら、それをカイコに給餌してもよい。カイコは、B.moriカイコであってもよい。その後、カイコは改質シルクを生成する。上記で説明したように、本発明の方法に従ってプロトン性有機化合物を含むように改変された飼料組成物で飼育されたカイコから生成される改質シルクは、クモの牽引糸シルクなどの従来のシルクを上回る改善された機械的特性を有する。既に上記で説明したように、プロトン性有機化合物の存在は、プロトン性有機化合物及びチロシンから形成される複合体の形成をもたらす。複合体は、プロトン性有機化合物がチロシンと相互作用したとき、例えば、プロトン性有機化合物とチロシンの様々な官能基の1つ以上との間に1つ以上の水素結合が形成されたときに、形成される。プロトン性有機化合物とチロシンとの相互作用による複合体の形成には、ファンデルワールス相互作用が含まれ得る。例えば、クエン酸とチロシンの各官能基との結合エネルギーを計算して、水素結合及びファンデルワールス相互作用を伴う相互作用によって複合体が形成されることを示すことができる(−OH:−12.90±3.53kJ/mol;ベンゼン環:−10.52±3.12kJ/mol;−COOH:−2.08±3.54kJ/mol)。複合体の形成は、改質シルクが生成する際にチロシンが結晶子に組み込まれるのを立体的に防ぐことができる。複合体もまた、結晶子に組み込まれることが立体的に妨げられる。チロシンなしでは、改質シルクの結晶子は長さが短くなり、より規則的かつ/又は密に詰まり、改質シルクは従来のシルクと比較して改善された機械的特性を達成する。したがって、様々な実施形態において、改質シルクを生成することは、チロシンが改質シルクの結晶子に組み込まれるのを防ぐ複合体を、チロシン及びプロトン性有機化合物から形成することを含み得る。いくつかの実施形態では、改質シルクを生成することは、すべてのチロシンが改質シルクの結晶子に組み込まれるのを完全に防ぐ複合体を、チロシン及びプロトン性有機化合物から形成することを含み得る。いくつかの他の実施形態において、改質シルクを生成することは、チロシンが改質シルクの結晶子に組み込まれるのを実質的に防ぐ複合体を、チロシン及びプロトン性有機化合物から形成することを含み得る。本文脈で使用する「実質的に」という用語は、シルク中のチロシンの少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、又はさらには100%が結晶子に組み込まれないことを意味する。
様々な態様において、プロトン性有機化合物は、単プロトン性又は多プロトン性有機化合物であってもよい。単プロトン性有機化合物とは、単一のプロトンを供与し、かつ/又は1つの水素結合を形成する能力を有するプロトン性有機化合物を指し、多プロトン性有機化合物は、複数のプロトンを供与し、かつ/又は複数の水素結合を形成する能力を有する。
様々な実施形態において、プロトン性有機化合物は、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOOH)、ヒドロキシル基(−OH)、チオール基(−SH)、及びそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含み得る。特定の実施形態では、プロトン性有機化合物は有機酸であってもよい。有機酸は、部分的な解離を受ける弱有機酸であってもよい。弱有機酸を含む有機酸は、1つ以上のプロトンを供与する能力及び/又は1つ以上の水素結合を形成する能力を有し得る。無機酸は、カイコが摂取すると死につながる可能性のある有害な酸であるため、避ける。有機酸は、上記の官能基の1つ又は複数を含んでもよい。様々な実施形態において、有機酸は、クエン酸(HOC(COOH)(CHCOOH))、酢酸(CHCOOH)、ギ酸(HCOOH)、安息香酸(CCOOH)、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、及びそれらの組合せからなる群から選択されてもよい。特定の実施形態では、有機酸はクエン酸であり得る。
第2の態様における様々な実施形態は、上述の第1の態様による方法によって製造された改質シルクに関する。改質シルクは結晶子を含み、各結晶子の長さは7nm以下である。言い換えれば、改質シルクは、従来のシルクの結晶子と比較して長さが短い結晶子を含む。改質シルクの様々な特徴は既に上記で説明されている。上述の本方法の様々な実施形態、及び本方法の様々な実施形態に関連する利点は、改質シルクに適用可能であり、逆もまた同様である。
カイコに与えられる飼料組成物中に存在するプロトン性有機化合物(例えばクエン酸)がチロシンと相互作用して、改質シルクの形成中にチロシンが結晶子に取り込まれるのを防ぐ複合体を形成することで、改質シルクの結晶子はチロシンを実質的に又は完全に排除する。様々な実施形態において、チロシンは、改質シルクの結晶子に実質的に又は全く存在しない。既に上記で説明したように、チロシンなしでは、結晶子はよりコンパクトになり、改質シルクの機械的特性が改善される。プロトン性有機化合物は、クワ葉粉末に基づいた量で飼料組成物中に存在してもよく、これは、第1の態様を参照した様々な実施形態で既に上述されている。
したがって、本明細書に開示されるすべての態様の様々な実施形態において、改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は、7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下、1nm以下などの長さを有する。本明細書に開示されるすべての態様のいくつかの実施形態では、改質シルクの各結晶子は、3nm〜5nm、4nm〜5nmなどの長さを有し得る。本明細書に開示されるすべての態様のいくつかの実施形態において、改質シルクの各結晶子は、4.69nmの長さを有し得る。長さは、本明細書で開示されるすべての態様の様々な実施形態における平均長さであり得る。
第3の態様における様々な実施形態は、カイコから改質シルクを生産するための飼料組成物に関し、改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下、2nm以下、1nm以下などの長さを有する。飼料組成物の特徴、例えばプロトン性有機化合物は、既に上述されている。
飼料組成物は、クワ葉粉末、水、及びプロトン性有機化合物を含む。プロトン性有機化合物は、クワ葉粉末の1重量%未満であり得る。本方法及び改質シルクの様々な実施形態、ならびに本方法及び改質シルクの様々な実施形態に関連する利点は、上述のように飼料組成物に適用可能であり、逆もまた同様である。
飼料組成物は、カイコから改質シルクを生産するのに有利である。様々な実施形態において、飼料組成物は、改質シルクにおいて7nm以下の長さを有するように各結晶子の変化を誘発するプロトン性有機化合物を含む。つまり、プロトン性有機化合物は、改質シルクにおける各結晶子が7nm以下、5nm以下、4nm以下、3nm以下などの長さを有するように、各結晶子の変化を誘発する。そのような飼料組成物から生産された結晶子は、従来のシルクの結晶子と比較すると、有利には長さが短く、より規則的かつ/又は密に詰まっている。したがって、プロトン性有機化合物は、結晶子の長さの変化(減少)及び結晶子の配列の変化を誘発する。改質シルクは、改善された機械的特性も有する。
飼料組成物のプロトン性有機化合物はチロシンと複合体を形成し、これはカイコによって生成される改質シルクの結晶子への組み込みを立体的に妨げる。複合体はまた、チロシンが改質シルクの結晶子に組み込まれるのを立体的に防ぐことができる。したがって、プロトン性有機化合物は、様々な実施形態において、チロシンと相互作用して、チロシンが改質シルクの結晶子に組み込まれるのを防ぐ複合体を形成する。チロシンがないと、改質シルクの結晶子の長さが短くなり、より規則的かつ/又は密に詰まり、改質シルクに向上した機械的特性を与える。複合体に関する実施形態は、以前の態様で既に上述されている。
種々の実施形態において、プロトン性有機化合物は、単プロトン性又は多プロトン性有機化合物であり得る。プロトン性有機化合物は、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOOH)、ヒドロキシル基(−OH)、チオール基(−SH)、及びそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含んでもよい。プロトン性有機化合物は有機酸であり得る。有機酸は、上記の官能基の1つ又は複数を含んでもよい。様々な実施形態では、有機酸は、クエン酸(HOC(COOH)(CHCOOH))、酢酸(CHCOOH)、ギ酸(HCOOH)、安息香酸(CCOOH)、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、及びそれらの組合せからなる群から選択することができる。有機酸は、既に上述したように、弱有機酸であってもよい。弱有機酸を含む有機酸は、既に上述したように、1つ以上のプロトンを供与する能力、及び/又は1つ以上の水素結合を形成する能力を有し得る。特定の実施形態では、有機酸はクエン酸であり得る。
種々の実施形態において、飼料組成物中のプロトン性有機化合物は、クワ葉粉末の1重量%未満、例えば0.001〜0.9重量%、0.01〜0.9重量%、0.001〜0.8重量%、0.01〜0.8重量%、0.05〜0.9重量%、0.05〜0.8重量%、0.5〜0.9重量%、0.5〜0.8重量%、0.05〜0.5重量%、0.5重量%、又は0.05重量%などであり得る。既に上述したように、飼料組成物中のクワ葉粉末に基づくプロトン性有機化合物の量が1重量%以上であると、クエン酸などのプロトン性有機化合物がカイコの血液のpHに望ましくない影響を及ぼし、シルクへのチロシンの取り込みを妨げる複合体を形成するためのプロトン性有機化合物の移動が悪影響を受けるため、シルクの機械的脆弱化が生じる。この場合、in vivoで複合体を形成するために利用可能なプロトン性有機化合物は、少なくなる可能性がある。
様々な実施形態において、クワ葉粉末及び水は、1:1〜1:10、1:3〜1:10、1:5〜1:10、又は1:8〜1:10の重量対体積比で存在してもよい。例えば、クワ葉粉末100gは水300mLと共に存在し得る。
上記の方法は一連のステップ又はイベントとして図示及び説明されているが、そのようなステップ又はイベントの順序は限定的な意味で解釈されるものではないことが理解されよう。例えば、いくつかのステップは、異なる順序で、及び/又は、本明細書で例示及び/又は説明したものとは別の他のステップ又はイベントと同時に行われてもよい。また、本明細書で説明される1つ又は複数の態様又は実施形態を実施するために、例示されているすべてのステップが必要とされるわけではない。また、本明細書に示されるステップのうちの1つ以上は、1つ以上の別個の行為及び/又は段階で実行されてもよい。
実施例
本開示は、カイコから改質シルクを生産する方法に関する。本明細書に開示される方法は、プロトン性有機化合物を含むように改変された飼料組成物、及び改質シルクを生成するためにその飼料組成物をカイコに供給することを含む。生成された改質シルクは、よりコンパクトな結晶子を持ち、改質シルクの機械的特性が大幅に向上する。本開示はまた、飼料組成物及びそのような方法から得られた改質シルクに関する。
一般に、クエン酸がプロトン性有機化合物として使用される。それは、クエン酸はチロシンとの相互作用が強く、チロシンが結晶子に取り込まれるのを防ぐ複合体を形成し、結果として、改質シルクにおいてよりコンパクトな結晶子が得られるためである。シルクの結晶子の長さを大幅に短縮するため、クエン酸に加えて、小分子化合物を含む他のプロトン性有機添加剤を使用することができる。改質シルクを形成する際に、嵩高いアミノ酸残基と強く相互作用して複合体を形成して嵩高い残基が結晶子にパッキングされるのを妨ぐことができる限り、単プロトン性又は多プロトン性有機酸を含む任意の有機酸を使用することができる。このような有機酸は、カイコを殺すことなく給餌することができる。
有機酸は、酸性度を付与することができる官能基を含む有機化合物であってもよく、そのような基には、限定するものではないが、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOOH)、ヒドロキシル基(−OH)、チオール基(−SH)などが含まれる。有機酸の典型的な例には、限定するものではないが、クエン酸(HOC(COOH)(CHCOOH))、酢酸(CHCOOH)、ギ酸(HCOOH)、安息香酸(CCOOH)、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸などが含まれる。
飼料組成物を形成するために使用されるプロトン性有機添加剤/化合物の濃度は、クワ葉粉末の1重量%未満、例えば約0.001〜約0.9重量%、約0.01〜約0.9重量%、約0.001〜約0.8重量%、約0.01〜約0.8重量%、約0.05〜約0.9重量%、約0.05〜約0.8重量%、約0.5〜約0.9重量%、約0.5〜約0.8重量%、約0.05〜約0.5重量%、約0.01〜約0.1重量%、約0.5重量%、又は約0.05重量%などであり得る。
本方法、改質シルク及び飼料組成物を、以下に示すように、非限定的な例としてより詳細に記載する。
実施例1:カイコの飼育及び飼料の調製
クワ葉粉末(100g、Recorp Inc.、カナダ)を水(300mL)と混合し、電子レンジにかけることにより、通常の飼料を調製した。改変飼料は、クワ葉粉末(100g)を水(300mL)と混合して電子レンジにかけ、その後、葉粉末の0.05重量%のクエン酸(CA)(50mg、Fisher)と混合することにより調製した。
家畜化されたカイコ(Bombyx mori、Carolina Biological Supply Company、米国)を、5齢2日目まで通常の飼料を用いて飼育した。次に、カイコを改変飼料に移行させ、カイコが紡糸を開始して改質シルクを生産するまで、改変飼料を使用して連続的に給餌した。改質シルクは、本開示ではCA改質シルク又はCAシルクと称される場合がある。
これに対し、対照シルクは、幼虫期を通して通常の餌(すなわちCAなし)をカイコに連続的に供給することにより得られた。
CAの供給濃度を変えることで、所望の機械的特性を達成することができる。飼料に添加するCAの濃度を変えることにより、シルク中の結晶子の長さを4.69nm(βシートのβ鎖に沿って約13アミノ酸残基に相当)の長さまで調整することができ、これは対照シルクで観察された結晶子の長さ(8.84nm、βシートのβ鎖に沿った約25残基に相当)のたった半分程度である。
実施例2a:機械的特性のための改質シルクの特性評価
シルクの機械的特性を決定するために、引張試験のためにシルク繊維をそれぞれ20×5mmの窓を有するペーパーフレームに取り付けた。5Nロードセル(精度:±0.5%;ひずみ速度:2mm/分)を装備したユニバーサルテスター(Instron Double Column Universal Tester 5569)の2つのグリップに固定した後、試験中にシルク繊維に直接荷重が加えられるようにペーパーフレームを切断した。試験は、室温(24℃)で湿度60%の大気下で実施した。引張試験の各サンプルについて、テスターに接続されたコンピューターでBluehillソフトウェアを使用して、開始位置の2つのグリップ間の距離からゲージ長を個別に決定した。また、得られた応力−ひずみ曲線の「つま先」領域を削除するために、ソフトウェアでスラック補正を行った。応力−ひずみ曲線のつま先領域は、曲線の開始部分に存在する(この例ではつま先領域がすでに除去(すなわち先端補正)されているため、図1には存在しない)。試験前又は試験後に先端補正する方法は2つある(すなわち、それぞれプリロード又はスラック補正計算)。本願の研究では、すべての応力−ひずみ曲線を補正するアプローチとして後者を用いた。先端補正を実行する(すなわち、つま先領域を削除する)ことは、標準的な手順である。
引張応力計算のためのシルク繊維の断面積を決定するために、シルクの断片を試料ホルダーにカーボンテープで取り付け、真空下で金でスパッタコーティングし、走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL LV 6360LA)で画像化した。各繊維に沿った最小直径を使用して、シルクフィブロイン繊維の断面積を導き出した。機械的データは、平均±標準偏差として提示された。統計的有意性は、一元配置分散分析を使用して実行された(p<0.01、N=5)。
CAを給餌したカイコから得られたシルクの極限引張強度(UTS)、破断ひずみ、靭性などを含む機械的特性を試験し、その結果を図1a及び図1bに示す。図1a及び図1bのCAシルクの結果は、クワ葉粉末の0.05重量%のCAを有する改変飼料を用いて得られ、そのようなCAシルクは、本願では0.05CAシルクと表示される。一般的な給餌シナリオでは、カイコへのCAの給餌(例えば、クワ葉粉末の0.05重量%)は強くて丈夫なシルクをもたらし、0.5CAシルク(クワ葉粉末の0.5重量%のCAをカイコに給餌することにより得られた)でも有意な強化及び靭性向上効果が観察された。0.05CAシルクは、対照シルクの572±71.1MPaと比較して、840±38.7MPa(p<0.01)の高いUTSを示した。0.05CAシルクは、対照シルク(p<0.01)の121±13MJ/mと比較して、225±14MJ/mの高い靭性も示した。機械的特性のこれらの強化には、結晶子サイズの大幅な減少が伴うため(つまり、0.05CAシルクの4.69nmの長さ対対照シルクの8.84nmの長さ)、この強化は、CAの給餌に起因する短い結晶子に起因する。
実施例2b:構造特性のための改質シルクの特性評価
結晶子の寸法を決定するために、脱ガム繊維の束を厚紙フレームに取り付け、X線回折(XRD)パターンを、100μmのビームサイズ及び1.5418Åの放射波長を使用してBruker AXS X8 Proteum回折装置で収集した(CuKα)。サンプルから検出器までの距離は6cmで、露光時間は60秒であった。次に、赤道(5〜40°)軸又は経線(5〜37.5°)軸に沿って、得られたXRDパターンに対して放射積分を実行した。得られたスペクトルを、シルクフィブロインの特徴的な成分ピークにフィッティングさせた。a、b及びc方向に沿った結晶子サイズを、赤道スペクトルの(200)ピーク及び(120)ピークと経線スペクトルの(002)ピークのFWHM(半値全幅)から決定した。計算は、シェラー方程式、L=0.9λ/(FWHM×cosθ)を使用して実行し、ここで、L=a、b又はc方向に沿った結晶子サイズ、0.9=シェラー定数、λ=入射X線の波長(CuKα放射では1.5418Å)、θ=ピーク位置、及びFWHM=半値全幅である。具体的には、aはβシートの積み重ねに沿った方向(結晶子の厚さ)、bはβシートの鎖軸に垂直な方向(結晶子の幅)、cはβ鎖軸に沿った方向(結晶子の長さ)である。
図2a及び図2bは、それぞれ対照シルク及びCAシルクのXRDパターンを示している。この例では、CAシルクは0.05CAシルクである。βシート結晶子は、結晶子の厚さ、幅、及び長さにそれぞれ対応する、シート間(a)、鎖間(b)、及びβ鎖軸(c)の方向を示すために模式的に描かれている(図2c)。対照シルク及びCAシルクのβシート結晶子の3次元(図2dで集計)は、赤道(すなわち(200)及び(120))及び経線(すなわち(002))方向の関連回折ピークの半値全幅(FWHM)(図2eで集計)からも測定された。XRDの結果は、両方のシルクの結晶子は厚さと幅の点で類似しているが、長さが著しく異なることを示した。CAシルクの結晶子の長さは4.69nm(βシートのβ鎖に沿った約13アミノ酸残基に相当)であり、これは対照シルクで観察された長さ(8.84nm、βシートのβ鎖に沿った約25残基に相当)のわずか半分程度であった。このような非常に短い結晶子の長さは、天然に生産されたカイコのシルクでは前例のないものであり、CAシルクの結晶子の短縮された長さは、クモの牽引糸シルクで観察されたもの(すなわち6〜6.5nm)よりもさらに短かった。対照シルクでは、結晶子の寸法は、B.moriシルクについて報告された値と同等であった(例えば、長さ8.8nm、厚さ3.4nm、幅3.8nm)。
実施例3:シルクドープ及び血リンパの抽出、及びクエン酸の定量化
5齢目の終わりに、128mM NaCl、1.8mM CaCl・2HO、1.3mM KCl及び50mM Tris(トリスアミノメタン)を含む昆虫リンガー溶液中でカイコを解剖した。次に、解剖したカイコから絹糸腺を取り出し、蒸留水で洗浄し、それらの腺上皮層を剥離してシルクドープを得た。乾燥後、シルクドープ中のセリシンを除去するために、シルクドープを、1gL−1NaHCO溶液中サビナーゼ酵素(5mg)及びTriton(登録商標)−X(5mg)からなる脱ガム溶液(5mL)に加え、その後、55℃で1時間加熱した。各シルクドープから得られたフィブロインを乾燥させ、CAの含有量を定量化するために使用した。乾燥させたシルクフィブロイン(3mg)を、9.3M LiBr溶液100μL中、70℃で3時間加熱して溶解させた。シルクフィブロインが溶解したら、得られた溶液を、分光光度法を使用してCAの量を定量化するために分析した。シルクフィブロイン(N=3)中のCAの量を決定するために、溶液サンプル(100μL)を4mLのFe(NO溶液及び1mLのHNOの混合物に個別に添加し、ガラスバイアル中で25mLまで蒸留水を追加した。1000W/mのソーラーシミュレータ(Newport Corporation USA、モデル66901)で10分間照光すると、クエン酸第二鉄錯体のフォトクロミズムにより、溶液は紫色になった。発色は、4℃の日陰で30分間安定した。溶液の520nmでのピーク吸光度を、UV−Vis(紫外可視)分光光度計(島津UV−3150)を使用して測定した。次に、一連の異なる濃度のCAを用いて同じ手順を使用して作成した検量線を参照して、CAの実際の量を計算した。データは、平均±標準偏差として提示された。一方、針注射器を使用して、解剖前にカイコから血リンパ(すなわち、血液)も抽出した。同じ方法を使用して、血リンパ中のCAの量を決定した(N=3)。
実施例4:クエン酸及びフィブロイン分子の相互作用の分子動態(MD)シミュレーション
MDシミュレーションを実行して、シルクの構造に対するCAの影響を評価した。エネルギー分析により、CA分子のシルクへの結合が確認され、これによりチロシンの取り込みも防止され、シミュレーション結果は、CA分子が構造変化を誘発し、シルクの構造内容を変更できることを示した。CAの存在下で分子をフォールディングさせると、βシートの含有量が低下した(図3f)。つまり、チロシン−CA複合体の立体障害により、βシートの広範な形成が妨げられた。シミュレーションの結果は、シルクの構造内容に関する実験結果と一致していた。モデリング及びシミュレーションの詳細な方法を以下に詳しく説明する。
最初に、代表的なフィブロイン分子を、ソフトウェアパッケージSYBYL8.0(Tripos Associates,Inc.)を使用して、典型的な結晶配列(GXリピート、GAGAGSGAGAGAGSGAGAGSGAGAGSGAGAGSGAGSGAGAGSGAGAGSGAGAGYGAGAGSGAAS)及び結晶配列の両端の2つの同一のアモルファス配列(GAGAGAGAGAGTGSSGFGPYVANGGYS GYEYAWSSESDFGTGS)から構築した。完全な配列は、GAGAGAGAGAGTGSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGTGS−GAGAGSGAGAGAGSGAGAGSGAGAGSGAGAGSGAGSGAGAGSGAGAGSGAGAGYGAGAGSGAAS−GAGAGAGAGAGTGSSGFGPYVANGGYSGYEYAWSSESDFGTGSである。これらの配列は、それぞれB.moriシルクフィブロインのGX6.5及びリンカー6から採用された。Gromacs5.0.6を使用したCAとフィブロインの相互作用に関するMDシミュレーションでは、フォールディングされていない鎖構成の4つのフィブロイン分子を、2つの隣接する分子間の開始距離5Åで最初に反対方向に配置した。次に、Assisted Model Building with Energy Refinement(Amber03)力場を使用して、シルクフィブロインをパラメータ化した。シルクフィブロインの構造をシミュレートしてシルクフィブロインの自然なフォールディングプロセスを模倣するために、明示的な水シェルがさらに実装された。系内の水分含有量は約80重量%(合計1,527個の水分子)であり、水分含有量が70%を超えるシルクで機能する実験データと同様である。
このシミュレーションでは、3ポイントで移動可能な分子間ポテンシャル(transferable intermolecular potential with 3 points:TIP3P)水モデルを採用した。追加されたCA分子は86個であった(絹糸腺のCAの測定量に基づいて計算)。系内のフィブロインを中和するために、24のカウンターイオン(Na)を加えた。CAの分子構造は、Materials Studio 7.0を使用して構築した。CAのパラメータは、AmberGAFF(一般的なAMBER力場)力場に基づいて、Amber11ソフトウェアのAntechamberモジュールを使用して計算された。CAの分子構造は、1,000ステップの最急降下法と、それに続くGromacsを使用した1,000ステップの共役勾配最小化法を使用したエネルギー最小化によって平衡化された。
温度300KでNVTアンサンブルを使用して、20nm×20nm×53nmのシミュレーションボックスサイズを採用した。この系でCA及びフィブロインの相互作用をシミュレートするために、最初に、1,000ステップの最急降下法と、それに続くGromacsを使用した1,000ステップの共役勾配最小化法を使用したエネルギー最小化を実行した。その後、Gromacsを使用して2つの平衡化を実行した:最初に1,000kJ・(mol・nm)−1の拘束スプリング力での1nsシミュレーション、続いて500kJ・(mol・nm)−1でもう1nsである。拘束により、アミノ酸側鎖と水の原子が平衡化された。その後、すべての拘束を取り除き、系をデータの生成と分析のために200nsのMDシミュレーションに供した。長距離静電相互作用を、粒子メッシュEwald(PME)法により計算した。1.2nmの非結合相互作用距離カットオフを適用した。すべてのMDシミュレーションで0.002psのタイムステップを採用した。シルクフィブロインの構造の発達を分析するために、視覚的分子動態(VMD)ソフトウェアの組み込みモジュールであるSTRIDEアルゴリズムを使用して、タンパク質の二次構造を計算した。同じシミュレーションを、対照系としてCAなしのシルクフィブロインに対して実行した。MDシミュレーション結果に基づくスナップショットを、VMDソフトウェアを使用して生成した。
CAと代表的なフィブロイン分子のアミノ酸との相互作用のエネルギー分析も、Gromacsを使用して実行した。結合エネルギーは、シミュレーション時間の後半100nsの間の上記のMDシミュレーションの軌跡に基づいて計算した。結合エネルギーの計算に使用されるアミノ酸は、SER91、ALA95、GLY96、TYR97である(すなわち、選択された結晶ドメイン上の4つの代表的なタイプのアミノ酸であり、数字はフィブロインの完全配列における残基の位置を示す)。各例で(後半の100nsのシミュレーション時間の間に)収集されたエネルギーデータは、シミュレーションで使用されたシルクフィブロインの4鎖構造からの各タイプの4つのアミノ酸残基の平均値を表す。
実施例5:考察及び結果
上記で実証されたように、本明細書に開示される方法は、シルク結晶子中の嵩高い残基を除去することにより、カイコシルクの結晶子を大幅に短縮し、本質的に最も強靭なシルクを生産するアプローチを提供する。
本方法では、非限定的な例としてCAを用いて、CAをクワ葉粉末と混合することによりカイコ用の改変飼料を調製する。カイコの餌(クワ葉粉末餌など)にクエン酸(CA)を添加し、その後、例えばB.moriカイコに改変飼料を与えることにより、シルク中の結晶子のサイズを大幅に減少させる(例えば、元の長さのほぼ半分までの長さに短縮させる)ことができ、本質的に最も強靭なカイコシルクを得ることができる。給餌したCAの量は、飼料組成物中のクワ葉粉末の1重量%未満、例えば0.05重量%及び0.5重量%であった。
得られた本質的に最も強靭なカイコシルク(すなわち、CAシルク)は、引張試験で決定されたように、従来のカイコシルク(例えば、トランスジェニックカイコからの組換えシルクは167.2MJ/mの靭性を達成した)よりも優れている。注目すべきは、このCAシルクの靭性が、クモ種Araneus diadematus及びNephila clavipesからのものを含む、自然に生産されるクモの牽引糸シルク(160〜200MJ/m)の靭性をも上回ることである。引張試験で実験的に決定されたように、CAシルクは、対照シルク(すなわち、改変飼料を与えていないカイコからのシルク)と比較して大幅に高い負荷に耐えることができ、対照シルクの572±71.1MPaと比較して840±38.7MPaの極限引張強度(UTS)をもたらす。また、CAシルクは塑性変形し、より伸長して、対照シルクの31.8±1.88%と比較して38.4±1.89%の有意に大きい破断ひずみを与える。付随する強度及び延性の改善に加えて、CAシルクは225±14MJ/mの靭性値を有し、これは対照シルクのほぼ2倍(121±13MJ/m)である。
X線回折(XRD)の結果は、機械的特性の大幅な向上が、シルクにおける非常に短く、より密に詰まった結晶子の形成に依存することを示した。CAシルクには、より短い結晶子(4.69nm)及びβシートの減少した含有量(19.9%、ピーク分析から、すなわち成分ピーク下面積に基づいて計算される)が含まれ、どちらも対照シルク(すなわち、未改質シルク)の約半分である(8.99nm及び38.9%)。結晶子の形成のために、存在する嵩高い残基を除去することにより、はるかに短く、より緊密な結晶子が実現する。グリシン(G)、アラニン(A)、セリン(S)及びチロシン(Y)のアミノ酸残基は、カイコシルクのβシート結晶子の形成に関与することが知られている。このうちチロシンは、グリシン、アラニン及びセリンと比べて最も豊富な嵩高い残基である。嵩高いチロシンを排除すると、残基のより規則的なパッキングが可能になり、それにより結晶子が短くなる。これにより、シルクの機械的特性が改善され、強度、破断ひずみ/弾性、及び靭性が向上する。
本方法を実証する目的で、結晶子に一般に存在する小さいアミノ酸残基(グリシン、アラニン及びセリン)よりも嵩高いチロシン残基との強い選択的相互作用を示すモデル化合物として、CAを選択した。カイコの解剖及び腺の内容物の分析による実験結果から、飼料に導入されたCAが血リンパ(すなわち血液)に取り込まれ、絹糸腺に移行したことが明らかになった。腺におけるCA濃度は、絹糸腺中の乾燥シルクフィブロイン物質1mgあたり約260μgのCAに達した(つまり、固形物の約26重量%がCAであり、水の存在下では7.8重量%)。シルク中の結晶子の長さは、フィブロインドープのCA濃度とほぼ線形の相関があることがわかった。結果として生じる短くコンパクトな結晶子は、改質シルクの機械的特性の大幅な向上に貢献した。
実験による調査及び理論的分析の両方により、長い結晶子を含むシルクは、結晶子の緊密な構造を不利に破壊する嵩高い残基を取り込む傾向があるため、強度及び靭性が劣るという証拠が得られた。このMDシミュレーションは、嵩高いチロシンが結晶子中のβ鎖の緊密なパッキングを破壊し、嵩高い残基の除去が緊密な結晶子の形成をもたらすことを実証した。エネルギー分析により、CAはより小さいアミノ酸残基(G、A、S)(グリシン:−7.06±1.65kJ/mol、アラニン:−11.31±3.55kJ/mol、セリン:−31.06±3.66kJ/mol)よりも、嵩高いチロシン(Y)(−36.18±2.61kJ/mol)と強く相互作用することが示される。強力なCA−チロシン相互作用により、嵩高いCA−チロシン複合体が形成され、チロシンがβシートの形成に関与することを立体的に防ぐことができる。
本方法は、シルク中の結晶子のサイズを大幅に短縮し、カイコシルクの強度及び靭性を有利に向上させ、既存のすべての合成繊維よりも靭性が優れた最も強靭なカイコシルクをもたらす。結晶子はシルクの主成分であるため、結晶子のサイズを大幅に短縮する能力は、シルクの機能特性(例えば、薬物の充填効率、放出プロファイルなど)、及び光学特性や熱特性などの他の材料特性をより適切に制御できる。これにより、シルク素材の用途に幅広い、より大きな汎用性がもたらされる。
実施例6:商業的及び潜在的用途
本明細書に開示される方法は、クモの牽引糸シルクよりも強力な、本質的に最も強靭なカイコシルクを生産するための、単純で環境的に持続可能かつスケーラブルな戦略に関する。カイコシルクを本質的に強化する方法は、シルクの構造及び機能を強化するために、シルクフィブロイン中に緊密な結晶子を形成することを伴う。具体的には、シルク中の結晶子は主成分としてシルクフィブロインを構成し、結晶子はシルクフィブロイン材料の強化された特性/機能性を達成するために調整することができる。
CAは自然に発生し、市販されており、環境に優しく、人体での使用に安全であるため、CAの使用を含む本方法は、繊維、生物医学、及び他の多くの分野での実用化を促進する。単純であり、環境的に持続可能であり、多用途であり、かつスケーラブルであるという利点により、本方法は、標準的な養蚕の慣行をほとんど変更せずに、機械的に強靭で機能的なシルクを最小コストで生産するための持続可能なプラットフォームとしてカイコシルク加工技術を大幅に進歩させる。
特定の実施形態を参照して本発明を具体的に示し説明したが、当業者は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態及び詳細の様々な変更を行うことができることを理解すべきである。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と同等の意味及び範囲内にあるすべての変更が含まれることが意図されている。

Claims (20)

  1. カイコから改質シルクを生産する方法であって、
    クワ葉粉末及び水を含む混合物を加熱する工程;
    前記混合物を加熱した後、前記混合物をプロトン性有機化合物と混合してプロトン性有機化合物を含む飼料組成物を形成する工程であって、前記プロトン性有機化合物はクワ葉粉末の1重量%未満である工程;
    カイコに前記飼料組成物を供給して改質シルクを生成する工程;及び
    カイコから前記改質シルクを抽出する工程であって、前記改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下の長さを有する工程
    を含む方法。
  2. 前記混合物を加熱する前に、クワ葉粉末及び水を、1:1〜1:10の重量対体積比で混合することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 加熱は、前記混合物をマイクロ波にさらすことを含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記混合物に混合されるプロトン性有機化合物は、クワ葉粉末の0.001〜0.9重量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 改質シルクを生成することは、チロシンが改質シルクの結晶子に組み込まれるのを防ぐ複合体を、チロシン及び前記プロトン性有機化合物から形成することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記プロトン性有機化合物は、単プロトン性又は多プロトン性有機化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記プロトン性有機化合物は、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOOH)、ヒドロキシル基(−OH)、チオール基(−SH)、及びそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記プロトン性有機化合物は有機酸である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 前記有機酸は、クエン酸(HOC(COOH)(CHCOOH))、酢酸(CHCOOH)、ギ酸(HCOOH)、安息香酸(CCOOH)、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
  10. 前記有機酸はクエン酸である、請求項8又は9に記載の方法。
  11. 請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法によって生産された改質シルク。
  12. カイコから改質シルクを生産するための飼料組成物であって、前記改質シルクは結晶子を含み、各結晶子は7nm以下の長さを有し、前記試料組成物は、
    クワ葉粉末;
    水;及び
    改質シルクの各結晶子の長さを7nm以下にするような変化を誘導するプロトン性有機化合物
    を含み、前記プロトン性有機化合物はクワ葉粉末の1重量%未満である飼料組成物。
  13. 前記プロトン性有機化合物は、クワ葉粉末の0.001〜0.9重量%である、請求項12に記載の飼料組成物。
  14. クワ葉粉末及び水は、1:1〜1:10の重量対体積比で存在する、請求項12又は13に記載の飼料組成物。
  15. 前記プロトン性有機化合物がチロシンと相互作用して、チロシンが改質シルクの結晶子に取り込まれるのを防ぐ複合体を形成する、請求項12〜14のいずれか一項に記載の食物組成物。
  16. 前記プロトン性有機化合物は、単プロトン性又は多プロトン性有機化合物である、請求項12〜15のいずれか一項に記載の飼料組成物。
  17. 前記プロトン性有機化合物は、カルボン酸基(−COOH)、スルホン酸基(−SOOH)、ヒドロキシル基(−OH)、チオール基(−SH)、及びそれらの組合せからなる群から選択される官能基を含む、請求項12〜16のいずれか一項に記載の飼料組成物。
  18. 前記プロトン性有機化合物は有機酸である、請求項12〜17のいずれか一項に記載の飼料組成物。
  19. 前記有機酸は、クエン酸(HOC(COOH)(CHCOOH))、酢酸(CHCOOH)、ギ酸(HCOOH)、安息香酸(CCOOH)、グリコール酸、シュウ酸、コハク酸、リンゴ酸、マロン酸、ニトリロ三酢酸、及びそれらの組合せからなる群から選択される、請求項18に記載の飼料組成物。
  20. 前記有機酸はクエン酸である、請求項18又は19に記載の飼料組成物。
JP2020500197A 2017-06-29 2018-06-28 カイコから改質シルクを生産する方法及びその生産のための飼料組成物 Pending JP2020525040A (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
SG10201705349U 2017-06-29
SG10201705349U 2017-06-29
PCT/SG2018/050316 WO2019004941A1 (en) 2017-06-29 2018-06-28 PROCESS FOR PRODUCING MODIFIED SILK FROM SILKWORM AND FOOD COMPOSITION FOR PRODUCING THE SAME

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2020525040A true JP2020525040A (ja) 2020-08-27

Family

ID=64741771

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2020500197A Pending JP2020525040A (ja) 2017-06-29 2018-06-28 カイコから改質シルクを生産する方法及びその生産のための飼料組成物

Country Status (3)

Country Link
JP (1) JP2020525040A (ja)
SG (1) SG11201913550QA (ja)
WO (1) WO2019004941A1 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN112273339B (zh) * 2020-10-30 2022-03-25 来宾市农业科学院 一种用于家蚕人工饲料育的简易收蚁方法

Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS589660A (ja) * 1981-07-08 1983-01-20 Yakult Honsha Co Ltd 蚕用人工飼料の調製方法

Family Cites Families (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN104719680B (zh) * 2015-04-13 2018-01-12 山东省蚕业研究所 一种家蚕人工饲料及其制备方法
CN104886008B (zh) * 2015-04-29 2018-05-25 东华大学 一种制备高强度蚕丝的氧化石墨烯添食育蚕法及其制品

Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS589660A (ja) * 1981-07-08 1983-01-20 Yakult Honsha Co Ltd 蚕用人工飼料の調製方法

Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
KOH LENG DUEI, BOMBYX MORI SILK:FROM MECHANIKAL PROPERTIES TO FUNCTIONALITIES, JPN6022000150, 31 July 2015 (2015-07-31), pages 1 - 127, ISSN: 0004680153 *

Also Published As

Publication number Publication date
SG11201913550QA (en) 2020-01-30
WO2019004941A1 (en) 2019-01-03

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Roy et al. An Amino‐Acid‐Based Self‐Healing Hydrogel: Modulation of the Self‐Healing Properties by Incorporating Carbon‐Based Nanomaterials
Perween et al. Single amino acid based self-assembled structure
EP2588563B1 (de) Singulett-harvesting mit organischen molekülen für opto-elektronische vorrichtungen
EP2795691B1 (de) Organische moleküle für oleds und andere opto-elektronische vorrichtungen
EP2739702A1 (de) Singulett-harvesting mit zweikernigen kupfer(i)-komplexen für opto-elektronische vorrichtungen
JP2020525040A (ja) カイコから改質シルクを生産する方法及びその生産のための飼料組成物
Sagnella et al. Bio-doping of regenerated silk fibroin solution and films: a green route for biomanufacturing
Yan et al. Biofabrication strategy for functional fabrics
Matsuzawa et al. Assembly and Photoinduced Organization of Mono‐and Oligopeptide Molecules Containing an Azobenzene Moiety
Schiattarella et al. Solid-state optical properties of self-assembling amyloid-like peptides with different charged states at the terminal ends
Zhang et al. Silkworms with spider silklike fibers using synthetic silkworm chow containing calcium lignosulfonate, carbon nanotubes, and graphene
Guo et al. Improved strength of silk fibers in Bombyx mori trimolters induced by an anti-juvenile hormone compound
DE69818471T2 (de) Photochromatische verbindungen, verfahren zu ihrer herstellung und ihre verwendung in polymere zusammensetzungen
Qi et al. Spider silk protein forms amyloid‐like nanofibrils through a non‐nucleation‐dependent polymerization mechanism
CN114108112A (zh) 一种聚乙烯片材
CN104134731B (zh) 量子棒及其制造方法
DE102013106426A1 (de) Erweitertes Singulett-Harvesting für OLEDs und andere optoelektronische Vorrichtungen
Kuwahara et al. Chemical redox-induced chiroptical switching of supramolecular assemblies of viologens
WO2014108430A1 (de) Thermisch aktivierte fluoreszenz und singulett-harvesting mit rigiden metall-komplexen für opto-elektronische vorrichtungen
DE2451802A1 (de) Flammfest ausgeruestete regenerierte cellulose
Wu et al. Green Fluorescent Carbon Dots with Critically Controlled Surface States: Make Silk Shine via Feeding Silkworms
EP3071019A1 (de) Verfahren zur herstellung von nanopartikel-dotierten pflanzenfasern
DE102016115633A1 (de) Silberkomplexe mit nido-Carboran-Liganden mit thermisch-aktivierter verzögerter Fluoreszenz für opto-elektronische Vorrichtungen
DE10114696A1 (de) Verfahren zur Herstellung von optisch aufgehelltem Polyester
Kalniņš et al. Organized by Institute of Polymer Materials Faculty of Materials Science and Applied Chemistry, Riga Technical University

Legal Events

Date Code Title Description
A529 Written submission of copy of amendment under article 34 pct

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A529

Effective date: 20200129

A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20210317

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20211228

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20220111

A521 Request for written amendment filed

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20220408

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20220705