本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
[システムの構成]
図1は、実施形態に係るマニピュレ−ションシステムの構成を模式的に示す図である。マニピュレーションシステム10は、顕微鏡観察下で微小対象物である試料を操作するためのシステムである。図1において、マニピュレーションシステム10は、撮像部としての顕微鏡ユニット12と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、マニピュレーションシステム10を制御するコントローラ(制御装置)43とを備えている。顕微鏡ユニット12の両側に第1マニピュレータ14と第2マニピュレータ16とが分かれて配置されている。
吸引ポンプ装置50Aは、第1マニピュレータ14に対応して配置される。吸引ポンプ装置50Aは、第1マニピュレータ14に取り付けられた第1ピペット25の内部圧力を調整し、微小対象物である試料を第1ピペット25に固定する操作を行うための装置である。また、注入ポンプ装置50Bは、第2マニピュレータ16に対応して配置される。注入ポンプ装置50Bは、第2マニピュレータ16に取り付けられた第2ピペット35の内部圧力を調整し、微小対象物である試料に対するインジェクション操作を行うための装置である。
顕微鏡ユニット12は、撮像素子を含むカメラ18と、顕微鏡20と、試料ステージ22とを備えている。試料ステージ22は、シャーレなどの試料保持部材11を支持可能であり、試料保持部材11の直上に顕微鏡20が配置される。顕微鏡ユニット12は、顕微鏡20とカメラ18とが一体構造となっており、試料保持部材11に向けて光を照射する光源(図示は省略している)を備えている。なお、カメラ18は、顕微鏡20と別体に設けてもよい。図1では、顕微鏡20及びカメラ18は、試料保持部材11の上方に配置されているが、試料保持部材11の下方に配置してもよい。
試料保持部材11には、試料を含む溶液が収容される。溶液は、例えば、パラフィンオイル等である。溶液は、本実施形態において、図4に後述する培養液73である。試料保持部材11の試料に光が照射され、試料保持部材11の試料で反射した光が顕微鏡20に入射すると、試料に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後、カメラ18で撮像される。カメラ18で撮像された画像を基に試料の観察が可能となっている。
図1に示す第1マニピュレータ14は、第1ピペット保持部材24と、X−Y軸テーブル26と、Z軸テーブル28と、X−Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30と、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32と、を備える。第1マニピュレータ14は、X軸−Y軸−Z軸の3軸構成のマニピュレータである。なお、本実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。
X−Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル28は、X−Y軸テーブル26上に上下移動可能に配置され、駆動装置32の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置30、32は、コントローラ43に接続されている。
第1ピペット保持部材24は、Z軸テーブル28に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット25が取り付けられている。第1ピペット保持部材24は、X−Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材11に収容された試料を、第1ピペット25の端部に固定することができる。第1ピペット25の内部圧力は、吸引ポンプ装置50Aから供給される圧力の制御値Pにより制御され、第1ピペット25の吸引により試料が固定される。すなわち、第1マニピュレータ14は、微小対象物の固定に用いられる固定用マニピュレータであり、第1ピペット25は、微小対象物の固定操作手段として用いられるホールディングピペットである。なお、これに限られず、第1マニピュレータ14は、微小対象物の採取に用いられる採取用マニピュレータであってもよく、第1ピペット25は、微小対象物の採取手段として用いられてもよい。
図1に示す第2マニピュレータ16は、第2ピペット保持部材34と、X−Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X−Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42と、を備える。第2マニピュレータ16は、X軸−Y軸−Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
X−Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル38は、X−Y軸テーブル36上に上下移動可能に配置され、駆動装置42の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。
第2ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、先端にガラス製の第2ピペット35が取り付けられている。第2ピペット保持部材34は、X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動に従って3次元空間を移動領域として移動し、試料保持部材11に収容された試料を人工操作することが可能である。第2ピペット35の内部圧力は、注入ポンプ装置50Bから供給される圧力の制御値Pにより制御され、第2ピペット35により試料に対する溶液等の注入が行われる。すなわち、第2マニピュレータ16は、微小対象物の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作など)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット35は、微小対象物のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペットである。
X−Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、第2ピペット保持部材34を、試料保持部材11に収容された試料などの操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル38と第2ピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして微動機構44が備えられている。微動機構44は、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
図2は、微動機構の一例を示す断面図である。図2に示すように微動機構44は、第2ピペット保持部材34を駆動対象とする圧電アクチュエータ44aを備える。圧電アクチュエータ44aは、筒状のハウジング87と、ハウジング87の内部に設けられた転がり軸受80、82と、圧電素子92とを含む。ハウジング87の軸方向に第2ピペット保持部材34が挿通される。転がり軸受80、82は、第2ピペット保持部材34を回転可能に支持する。圧電素子92は、印加される電圧に応じて第2ピペット保持部材34の長手方向に沿って伸縮する。第2ピペット保持部材34の先端側(図2左側)には第2ピペット35(図1参照)が取り付けられ固定される。
第2ピペット保持部材34は、転がり軸受80、82を介してハウジング87に支持される。転がり軸受80は、内輪80aと、外輪80bと、内輪80aと外輪80bとの間に設けられたボール80cとを備える。転がり軸受82は、内輪82aと、外輪82bと、内輪82aと外輪82bとの間に設けられたボール82cとを備える。各外輪80b、82bがハウジング87の内周面に固定され、各内輪80a、82aが中空部材84を介して第2ピペット保持部材34の外周面に固定される。このように、転がり軸受80、82は、第2ピペット保持部材34を回転自在に支持するようになっている。
中空部材84の軸方向の略中央部には、径方向外方に突出するフランジ部84aが設けられている。転がり軸受80は、フランジ部84aに対して第2ピペット保持部材34の軸方向の先端側に配置され、転がり軸受82はフランジ部84aに対して後端側に配置される。内輪間座としてのフランジ部84aを挟んで転がり軸受80の内輪80aと、転がり軸受82の内輪82aとが配置される。第2ピペット保持部材34の外周面にねじ加工が施されており、内輪80aの先端側及び内輪82aの後端側からロックナット86及びロックナット86が第2ピペット保持部材34に螺合されて、転がり軸受80、82の軸方向の位置が固定される。
円環状のスペーサ90は、転がり軸受80、82と同軸に外輪82bの軸方向後端側に配置される。スペーサ90の軸方向後端側には、円環状の圧電素子92がスペーサ90と略同軸に配置され、さらにその軸方向後端側にはハウジング87の蓋88が配置される。蓋88は、圧電素子92を軸方向に固定するためのもので、第2ピペット保持部材34が挿通する孔部を有する。蓋88は、例えば、ハウジング87の側面に不図示のボルトにより締結されていてもよい。なお、圧電素子92は、棒状又は角柱状としてスペーサ90の周方向に略等配となるように並べても良く、第2ピペット保持部材34を挿通する孔部を有した角筒としても良い。
圧電素子92はスペーサ90を介して転がり軸受82と接している。圧電素子92は、リード線(図示せず)を介して制御回路としてのコントローラ43に接続されている。圧電素子92は、コントローラ43からの印加電圧に応答して第2ピペット保持部材34の軸方向に沿って伸縮し、第2ピペット保持部材34をその軸方向に沿って微動させるようになっている。第2ピペット保持部材34が軸方向に沿って微動すると、この微動が第2ピペット35(図1参照)に伝達され、第2ピペット35の位置が微調整されることになる。また、圧電素子92により第2ピペット保持部材34が軸方向に振動すると、第2ピペット35も軸方向に振動する。このように微動機構44により、微小対象物への操作(DNA溶液や細胞の注入操作や穿孔操作など)の際には、より正確な操作が可能となり、圧電素子92による穿孔作用の向上を実現できる。
なお、上述の微動機構44は、微小対象物の操作用の第2マニピュレータ16に設けられるとしているが、図1に示すように微小対象物の固定用の第1マニピュレータ14に微動機構44と同様の微動機構44を設けてもよく、省略することも可能である。
[システムの制御構成]
次に、コントローラ43によるマニピュレーションシステム10の制御について図3を参照して説明する。図3は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
コントローラ43は、演算手段としてのCPU(中央演算処理装置)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のハードウェア資源を備える。コントローラ43は、記憶部46Bに格納された所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って制御部46Aが各種の制御を行うように駆動信号を出力する。
制御部46Aは、顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81、第1マニピュレータ14の駆動装置30、駆動装置32、第2マニピュレータ16の駆動装置40、駆動装置42、圧電素子92を制御し、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介してそれぞれに駆動信号を出力する。制御部46Aは、駆動装置30、32、40、42にそれぞれ駆動信号Vxy、Vz(図1参照)を供給する。駆動装置30、32、40、42は、駆動信号Vxy、Vzに基づいてX−Y−Z軸方向に駆動する。制御部46Aは、微動機構44にナノポジショナ制御信号VN(図1参照)を供給して、微動機構44の制御を行ってもよい。制御部46Aは、吸引ポンプ装置50A及び注入ポンプ装置50Bを制御してもよい。
コントローラ43は、情報入力手段としてジョイスティック47と、キーボード、マウス又はタッチパネル等の入力部49とが接続されている。ジョイスティック47は公知のものを用いることができる。ジョイスティック47は、基台と、基台から直立するハンドル部とを備えており、ハンドル部を傾斜させるように操作することで駆動装置30、40のX−Y駆動を行うことができ、ハンドル部をねじることで駆動装置32、42のZ駆動を行うことができる。また、コントローラ43は、液晶パネル等の表示部45が接続される。表示部45にはカメラ18で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。なお、入力部49としてタッチパネルが用いられる場合には、表示部45の表示画面にタッチパネルを重ねて用い、操作者が表示部45の表示画像を確認しつつ入力操作を行うようにしてもよい。
図3に示すように、コントローラ43は、さらに画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dを備えている。顕微鏡20を通してカメラ18で撮像した画像信号Vpix(図1参照)が画像入力部43Aに入力される。画像処理部43Bは、画像入力部43Aから画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像出力部43Cは、画像処理部43Bで画像処理された画像情報を表示部45へ出力する。位置検出部43Dは、カメラ18で撮像された微小対象物である細胞等の位置や、第2ピペット35によるインジェクション操作を行う操作対象である細胞の核等の位置を、画像処理後の画像情報に基づいて検出することができる。位置検出部43Dは、画像情報に基づいてカメラ18の撮像領域内における細胞等の有無及び位置を検出することができる。また、位置検出部43Dは、画像情報に基づいてカメラ18の撮像領域内における第1ピペット25及び第2ピペット35の先端の位置を検出することができる。画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dは、制御部46Aにより制御される。
画像処理部43Bは、例えば、細胞及び核の位置及び形状、第1ピペット25、第2ピペット35等を検出するために、画像入力部43Aから受け取った画像信号について二値化処理とフィルタ処理を実行する。画像処理部43Bは、画像信号をグレースケール化して、あらかじめ設定された所定の閾値に基づいて、このグレースケール画像をモノクロ画像に変換する。そして、画像処理部43Bは、二値化処理とフィルタ処理により得られたモノクロ画像に基づいてエッジ抽出処理やパターンマッチングを行う。その処理結果に基づいて位置検出部43Dは、細胞及び核の位置及び形状、第1ピペット25、第2ピペット35等を検出することができる。
制御部46Aは、位置検出部43Dからの位置情報、及び細胞等の有無の情報に基づいて、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を制御する。本実施形態において、制御部46Aは、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を所定のシーケンスで自動的に駆動する。かかるシーケンス駆動は、記憶部46Bにあらかじめ保存された所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて、制御部46Aが順次それぞれに駆動信号を出力することで行われる。
[吸引ポンプ装置及び注入ポンプ装置の構成]
次に吸引ポンプ装置50A及び注入ポンプ装置50Bの構成について説明する。図4は、実施形態に係る吸引ポンプ装置を説明するための模式図である。図5は、吸引ポンプ装置の構成の一例を示すブロック図である。なお、以下の例では、第1マニピュレータ14に対応して設けられた吸引ポンプ装置50Aについて説明するが、第2マニピュレータ16に対応して設けられた注入ポンプ装置50Bについても同様の構成とすることができる。図4及び図5に示すように、吸引ポンプ装置50Aは、電動ポンプ29と、操作端末51と、コントローラ53と、ドライバ54(図4では省略して示す)と、を含む。
図4に示すように、電動ポンプ29には、配管52を介して第1マニピュレータ14の第1ピペット保持部材24が接続されている。試料保持部材11の内部に培養液73及び細胞100が収容されている。電動ポンプ29は、回転型のモータ61により駆動するシリンジ型ポンプである。電動ポンプ29により生じた圧力の変化が、配管52を介して第1ピペット保持部材24及び第1ピペット25に伝達される。これにより、第1ピペット25の内部圧力を調整して、例えば細胞100の採取等、細胞100に対する各種操作を行うことができる。図4に示す例では、第1ピペット25の先端が培養液73に漬けられて、採取対象の細胞100の近傍に配置された状態で、電動ポンプ29が矢印Daに示す方向に吸引を行う。電動ポンプ29の吸引により第1ピペット25の内部圧力が小さくなり、試料保持部材11に保持された細胞100は培養液73とともに矢印Dbに示す方向に移動し、第1ピペット25の先端に採取される。なお、細胞100は、顕微鏡観察下でDNA溶液の注入操作や穿孔操作等の操作が行われる微小対象物であり、例えば受精卵、卵細胞、又はその他の細胞であってもよい。また、試料保持部材11の内部に保持された培養液73は、例えば、生理食塩水等が用いられる。電動ポンプ29は、モータ61と、移動機構62と、シリンジ機構65と、を含む。
モータ61は、操作端末51に入力された操作情報に応じて回転する駆動機構である。モータ61は、操作情報に応じて回転数及び回転方向を変更することができる。モータ61の出力軸は移動機構62と連結されており、モータ61の回転力が移動機構62に伝達される。モータ61としてステッピングモータ、サーボモータ、超音波モータ等を用いることができる。
移動機構62は、ボールねじ63と、移動部64とを含むボールねじ機構である。移動機構62は、モータ61から伝達された回転駆動力を、シリンジ部66の軸方向に沿った方向の運動に変換してシリンジ部66に伝達する駆動伝達部である。
シリンジ機構65は、シリンジ部66とピストン67とを有する。シリンジ部66は内部空間68を有し、内部空間68にミネラルオイル等の液体72が充填されている。内部空間68内の液体72を電動ポンプ29が吸引することにより、試料保持部材11内の培養液73は、第1ピペット25内へ吸引される。内部空間68内の液体72を電動ポンプ29が排出することにより、第1ピペット25内の培養液73は、試料保持部材11内へ吐出される。ピストン67は内部空間68に配置され、シリンジ部66の軸方向に移動可能となっている。ピストン67が軸方向に移動することで、液体72も軸方向に移動する。これにより、内部空間68における液体72の体積が変化する。シリンジ機構65の端部には、コネクタ70を介して配管52が接続される。シリンジ部66の内部空間68は、コネクタ70の孔部70Aを介して配管52とつながっており、シリンジ部66の内部空間68における液体72の体積の変化が配管52を介して第1ピペット25に伝達される。
例えば、第1ピペット25により細胞100の採取操作や固定操作を行う場合には、内部空間68の液体72の体積が大きくなるようにピストン67及び液体72が図4に図示される右方に移動する。これにより、内部空間68が陰圧になり、電動ポンプ29により細胞100の吸引を行うことができる。また、上述した第2ピペット35によりインジェクション操作を行う際には、内部空間68の液体72の体積が小さくなるようにピストン67及び液体72が移動する。これにより、内部空間68が陽圧になり、電動ポンプ29により注入を行うことができる。なお、本実施形態において、内部空間68は、液体72で満たされているが、これに限定されず、空気等であってもよい。
電動ポンプ29において、モータ61の回転駆動がボールねじ63に伝達されると、ボールねじ63の回転とともに移動部64が軸方向に移動し、移動部64に連結されたピストン67も軸方向に移動する。このように、モータ61の回転駆動が、移動機構62によりシリンジ部66の軸方向に沿った方向の直線運動に変換されシリンジ部66に伝達される。ピストン67の移動により、シリンジ部66の内部空間68における培養液73の体積が変化し、電動ポンプ29の吸引動作又は注入動作を実現できる。
なお、シリンジ機構65及び移動機構62の構成は、あくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、移動機構62において、ボールねじ63に換えてすべりねじを用いることもできる。ボールねじ63を用いた場合、ボールねじ63のねじ溝は、ボールを介して移動部64のねじ溝と噛み合うのに対し、すべりねじを用いた場合、ボールねじ63のねじ溝は、ボールを介さず移動部64のねじ溝と接触して噛み合う。よって、すべりねじを用いる場合、電動ポンプ29の製造コストを低減できる可能性がある。
図4に示すように、操作端末51は、操作者が電動ポンプ29に対する操作情報を入力するための操作情報入力部である。操作端末51は、エンコーダ51Aと、信号変換部51Bと、操作ノブ51Cと、第1表示部51Dと、第2表示部51Eと、ゲイン調整部51Fと、を含む。エンコーダ51Aは、操作端末51の筐体の内部に設けられる。エンコーダ51Aは、操作ノブ51Cの位置の変化を検出する検出器である。エンコーダ51Aは、操作ノブ51Cの位置に関する情報として回転変位量、回転速度等を検出することができる。エンコーダ51Aは、操作ノブ51Cの操作量に応じた検出信号を信号変換部51Bに出力する。信号変換部51Bは、操作端末51の筐体の内部に設けられる。信号変換部51Bは、エンコーダ51Aから供給された検出信号を、例えば、USB(Universal Serial Bus)信号に変換し、USB信号をコントローラ53に出力する。操作ノブ51Cは、操作端末51の筐体に対して回転可能に取り付けられている。操作ノブ51Cは、エンコーダ51Aと対向する位置に設けられる。エンコーダ51Aは、操作ノブ51Cの操作量を検出する。ここで、操作ノブ51Cの操作量とは、操作ノブ51Cの位置情報であり、操作開始時の操作ノブ51Cの位置を基準位置としたときの、回転変位量を示す。
コントローラ53は、信号線57Aを介して操作端末51と接続されている。コントローラ53は、制御部53Aと、記憶部53Bとを含む。制御部53Aは、操作端末51から信号線57Aを介して供給された検出信号に基づいて、電動ポンプ29の制御を行う。制御部53Aは、信号変換部51Bにより変換された、操作ノブ51Cの操作量に対応する検出信号を受け取る。制御部53Aは、エンコーダ51Aの、単位時間当たりの位置情報の変化、すなわち、速度情報を算出し、この速度情報に基づいて電動ポンプ29のモータ61に対する速度指令を制御信号として生成する。あるいは、制御部53Aは、エンコーダ51Aの検出信号に基づいて、操作ノブ51Cの操作量を算出し、この操作量に基づいてモータ61に対する駆動量の制御信号を生成する。記憶部53Bは、電動ポンプ29の駆動に関する情報や、操作端末51の操作量に関する情報を記憶する。
ドライバ54は、制御部53Aから供給された制御信号に基づいて、電動ポンプ29を駆動させる駆動信号を生成し、信号線57Bを介して電動ポンプ29に駆動信号を供給する駆動回路である。ドライバ54は、速度指令に基づいた駆動信号を電動ポンプ29のモータ61に出力する。これにより、モータ61は、操作ノブ51Cの操作速度に対応する駆動速度で回転駆動する。あるいは、ドライバ54は、駆動量の制御信号に基づいた駆動信号を電動ポンプ29のモータ61に出力する。これにより、モータ61は、操作ノブ51Cの操作量に対応する駆動量で回転駆動する。これに限定されず、制御部53Aは、PID制御(Proportional-Integral-Differential Control)により、モータ61に対する駆動量の制御信号を生成してもよい。
操作ノブ51Cの速度情報又は操作量に対応してモータ61が駆動され、シリンジ部66における培養液73の体積が変更される。このようにして、操作ノブ51Cの操作により電動ポンプ29の動作を制御することができる。本実施形態によれば、モータ61の駆動量は、操作ノブ51Cの速度情報又は操作量に対応して決定されるので、電動ポンプ29の駆動条件の定量化が容易である。コントローラ53及びドライバ54は、操作端末51に内蔵された構成としてもよい。また、コントローラ53及びドライバ54は、マニピュレーションシステム10のコントローラ43(図1参照)に含まれていてもよい。
[吸引ポンプ装置の基準制御値の設定方法]
次に、図6及び図7を参照して、微小対象物である試料の検出方法と、試料の保持及び保持解除の判断方法と、吸引ポンプ装置50Aの内部圧力を調整するための基準制御値の設定方法と、について説明する。本実施形態において、試料は、細胞100である。図6及び図7は、撮像画像の一例を示す模式図である。
細胞100は、透明体102と、細胞膜104と、核110と、を含む。透明体102は、細胞膜104を取り囲む糖タンパク質の層である。細胞膜104は、細胞100の内外を隔てる生体膜である。透明体102及び細胞膜104は、流動性を有する高弾性の物質である。高弾性とは、弾性限界が大きいことである。核110は、細胞膜104に覆われた細胞100の内部に存在する。核110は、核膜112と核小体114とを有する。核膜112は、流動性を有する高弾性の物質である。核小体114は、核膜112に覆われた核110の内部に存在する。
上述のとおり、第1ピペット25及び細胞100の撮像画像は、図3に示す画像処理部43Bによって二値化処理される。第1ピペット25及び細胞100の位置は、二値化処理された画像データに基づいて、位置検出部43Dによって検出される。位置検出部43Dは、本実施形態において、第1ピペット25の先端中央25T、及び細胞100の面積重心Cの座標を検出する。細胞100の面積重心Cは、二値化処理された画像データに基づいて算出された面積重心である。
なお、第2ピペット35(図1参照)及び核小体114の位置は、第1ピペット25及び細胞100と同様の方法で検出される。本実施形態において、細胞100は、第1ピペット25に保持された状態で、第2ピペット35によってインジェクション操作される。DNA溶液等のインジェクションにおいては、DNA溶液等を、核膜112の内部に注入する必要がある。核膜112は、低コントラストかつ形状が不定であるため、エッジ抽出処理等の一般的な画像処理手段による検出が困難である。そこで、核膜112より高コントラストの核小体114を検出し、核小体114の位置に基づいて、インジェクション位置を決定する。
コントローラ43は、検出結果に基づいて、第1ピペット25及び第2ピペット35を所定の初期位置に移動させる。所定の初期位置は、撮像画像の中心Oに基づいて予め定められた位置である。コントローラ43は、第1ピペット25が初期位置にある状態において、撮像画像の所定領域Aに細胞100があるかないかを判断する。所定領域Aは、撮像画像の中心Oに基づいて予め定められた領域である。コントローラ43は、所定領域Aに細胞100を検出した場合、細胞100が保持されていると判断する。コントローラ43は、所定領域Aに細胞100を検出しない場合、細胞100が保持されてない又は保持を解除されたと判断する。
コントローラ43は、例えば、第1ピペット25が初期位置にある状態において、細胞100の面積重心Cと撮像画像の中心Oとの間の距離Lに基づいて、細胞100が第1ピペット25に保持されているか否かを判断してもよい。より具体的には、コントローラ43は、距離Lが予め定められた所定の閾値Ltよりも小さい場合(L<Lt)、細胞100が保持されていると判断する。コントローラ43は、距離Lが予め定められた所定の閾値Lt以上である場合(L≧Lt)、細胞100が保持されてない又は保持を解除されたと判断する。
吸引ポンプ装置50Aは、制御部53A(図5参照)が第1ピペット25の内部圧力を制御する(図12参照)。制御部53Aは、電動ポンプ29の制御値Pを高圧側へ駆動することによって、第1ピペット25の先端内部25A(図6参照)の圧力を上げる。制御部53Aは、電動ポンプ29の制御値Pを低圧側へ駆動することによって、第1ピペット25の先端内部25Aの圧力を下げる。制御部53Aは、基準制御値PSに基づいて、第1ピペット25の先端内部25Aの圧力を制御する。基準制御値PSは、第1ピペット25の先端内部25Aの圧力と先端外部付近25B(図6参照)の圧力とが平衡状態となる基準圧力に対応する制御値Pである。吸引ポンプ装置50Aの動作を安定して実行するために、制御部53Aは、基準制御値PSを随時更新する。基準制御値PSが、更新前の基準制御値PSに対して高圧側に所定値オフセットした場合、制御値Pは、更新前の制御値Pよりも高圧側に所定値オフセットする。基準制御値PSが、更新前の基準制御値PSに対して低圧側に所定値オフセットした場合、制御値Pは、更新前の制御値Pよりも低圧側に所定値オフセットする。なお、本実施形態において、第1ピペット25の先端内部25Aの圧力と先端外部付近25Bの圧力とは、第1ピペット25の先端内部25Aの圧力を制御する電動ポンプ29に備わるモータ61のステップ数で管理している。
コントローラ43は、第1ピペット25が細胞100を保持している状態から保持を解除し、第1ピペット25から細胞100の保持が解除された瞬間を検出する。制御部53Aは、第1ピペット25から細胞100の保持が解除された瞬間の制御値Pを、基準制御値PSとして設定する。
制御部53Aは、基準制御値PSに基づいて、保持値PH、保持解除値PR及び姿勢変更値PCを算出する(図12参照)。保持値PHは、インジェクション操作のために細胞100を保持する際に、初動で設定する第1ピペット25の内部圧力の制御値Pである。保持値PHは、基準制御値PSから予め定められた変位値PHdを減算した値である。保持解除値PRは、細胞100の保持を解除する際に、初動で設定する第1ピペット25の内部圧力の制御値Pである。保持解除値PRは、基準制御値PSから予め定められた変位値PRdを減算した値である。姿勢変更値PCは、細胞100を保持している状態から、細胞100を回転可能に保持するために第1ピペット25の吸引力を弱めた際の第1ピペット25の内部圧力の制御値Pである。姿勢変更値PCは、基準制御値PSから予め定められた変位値PCdを減算した値である。保持値PH、保持解除値PR及び姿勢変更値PCは、PH<PC<PRである。
マニピュレーションシステム10は、基準制御値設定モードと、操作実行モードと、を含む。操作実行モードは、インジェクションモードを含む。基準制御値設定モードは、操作実行モードを実施するにあたり、電動ポンプ29の圧力の基準値を設定するためのモードである(後述する図9のステップST30参照)。より具体的には、基準制御値設定モードは、制御部53Aが基準制御値PSを初期設定する処理を行う。操作実行モードは、基準制御値PSの初期設定に基づいて、実際にインジェクション操作を行うためのモードである(後述する図10のステップST32参照)。より具体的には、操作実行モードは、細胞100へのインジェクション操作するためのモードであるインジェクションモード(後述の図11のステップST80)と、制御部53Aが基準制御値PSを更新設定する処理とを行う。
[システムの動作]
次にマニピュレーションシステム10の駆動方法について説明する。マニピュレーションシステム10の動作を開始する前に、操作者は、まず、図1に示すカメラ18の視野内に、第1ピペット25及び第2ピペット35を配置する。ここで、第1ピペット25の先端の高さは試料保持部材11の底面よりわずかに上の位置とする。操作者は、次に、顕微鏡20の焦点合わせ機構81(図3参照)を用いて、焦点を第1ピペット25に合わせる。操作者は、焦点を第1ピペット25に合わせた状態で、焦点が合うように第2ピペット35の高さを調整する。操作者は、次に、試料保持部材11内の細胞100の周辺を、カメラ18の視野と重なるように試料ステージ22を移動させる。操作者は、さらに、細胞100に第1ピペット25の先端を近付けても細胞100が動かないことを確認する。これは、図4に示す吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29が平衡状態であることを確認するためである。以上の準備により、細胞100は、第1ピペット25及び第2ピペット35の近傍に配置される。
図8は、実施形態のマニピュレーションシステムの動作の一例を示すフローチャート図である。図9は、基準制御値設定モードの動作の一例を示すフローチャート図である。図10は、操作実行モードの動作の一例を示すフローチャート図である。図11は、インジェクションモードの動作の一例を示すフローチャート図である。図12は、第1ピペットの内部圧力の推移の一例を示すグラフである。マニピュレーションシステム10は、試料保持部材11に載置された複数の細胞100に対し、1つの細胞100ごとに操作を行い、複数の細胞100について操作を繰り返し実行する。コントローラ43は、複数の細胞100に対する操作を自動で実行する。マニピュレーションシステム10による自動操作は、例えば、PCソフト上の開始ボタンを押すことでスタートする。
まず、図8に示すステップST10において、操作者は、マニピュレーションシステム10が複数回の操作を実行した後、操作を終了する回数である操作終了回数Neを、図3に示す入力部49を介してコントローラ43の制御部46Aに設定する。制御部46Aは、設定された操作終了回数Neをコントローラ43の記憶部46Bに記憶させる。1つの細胞100ごとに操作を行うので、操作終了回数Neは、操作を行う細胞100の個数である。制御部46Aに操作終了回数Neが入力されると、ステップST12において、制御部46Aは、実行した操作回数のカウンタ値である操作実行回数NをN=0として記憶部46Bに記憶させる。
次に、ステップST14において、操作者は、マニピュレーションシステム10が操作実行モードを連続で実行する連続操作終了回数Meを、図3に示す入力部49を介してコントローラ43の制御部46Aに設定する。制御部46Aは、設定された連続操作終了回数Meをコントローラ43の記憶部46Bに記憶させる。連続操作終了回数Meは、操作終了回数Ne以下の値である。制御部46Aに連続操作終了回数Meが入力されると、ステップST16において、制御部46Aは、実行した連続操作回数のカウンタ値である連続操作実行回数MをM=0として記憶部46Bに記憶させる。
ステップST18において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。コントローラ43の画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST20において、コントローラ43の画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。コントローラ43の位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における第1ピペット25の先端中央25Tの位置座標を検出する。ステップST22において、制御部46Aは、第1マニピュレータ14を駆動して、第1ピペット25の先端中央25Tの位置座標に基づいて、第1ピペット25を所定の初期位置へ移動させる。所定の初期位置は、カメラ18が撮像した撮像画像の中心Oに基づいて予め定められた位置である。
ステップST24において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST26において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における第2ピペット35の先端中央の位置座標を検出する。ステップST28において、制御部46Aは、第2マニピュレータ16を駆動して、第2ピペット35の先端中央の位置座標に基づいて、第2ピペット35を所定の初期位置へ移動させる。所定の初期位置は、カメラ18が撮像した撮像画像の中心Oに基づいて予め定められた位置である。
次に、ステップST30において、マニピュレーションシステム10は、基準制御値設定モードを実行する。ステップST30の詳細については、後述にて説明する。基準制御値設定モードの処理が終了すると、ステップST32において、マニピュレーションシステム10は、操作実行モードを実行する。ステップST32の詳細については、後述にて説明する。操作実行モードの処理が終了すると、ステップST34において、制御部46Aは、第2ピペット35を所定の初期位置へ移動させる。
ステップST36において、制御部46Aは、操作実行回数Nのカウンタ値を1つ増やして、N=N+1として記憶部46Bに記憶させる。制御部46Aは、連続操作実行回数Mのカウンタ値を1つ増やして、M=M+1として記憶部46Bに記憶させる。ステップST38において、制御部46Aは、操作実行回数Nが操作終了回数Neに達したか否かを判断する。ステップST38において、操作実行回数Nが操作終了回数Neよりも小さいと判断された場合(ステップST38;No)、ステップST40において、制御部46Aは、連続操作実行回数Mが連続操作終了回数Meに達したか否かを判断する。ステップST40において、連続操作実行回数Mが連続操作終了回数Meよりも小さいと判断された場合(ステップST40;No)、マニピュレーションシステム10は、ステップST32に戻って、別の細胞100に対し、操作実行モードを実行する。ステップST40において、連続操作実行回数Mが連続操作終了回数Me以上と判断された場合(ステップST40;Yes)、ステップST42において、制御部46Aは、実行した連続操作回数のカウンタ値である連続操作実行回数MをM=0として記憶部46Bに記憶させる。ステップST42を終了すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST30に戻って、別の細胞100に対し、基準制御値設定モードを実行する。ステップST38において、操作実行回数Nが操作終了回数Ne以上と判断された場合(ステップST38;Yes)、マニピュレーションシステム10は、予め設定された個数の細胞100に対する操作を終了し、一連の操作を終了する。
次に、ステップST30に示す基準制御値設定モードについて、詳細に説明する。図9に示すステップST50において、コントローラ53の制御部53Aは、第1ピペット25の内部圧力が下がるように、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを低圧側へ微動駆動させる。この時、制御部53Aは、制御値Pを予め定められた変位値Pd分下げるように制御する。電動ポンプ29が低圧側に駆動すると、第1ピペット25の内部は陰圧となり、第1ピペット25の開口に向かって試料保持部材11の培養液73の流れが発生する。
ステップST52において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST54において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における細胞100の位置及び形状を検出する。位置検出部43Dは、例えば、細胞100の面積重心Cの位置座標を検出する。
ステップST56において、制御部46Aは、細胞100が所定領域Aにあるか否かを判断する。制御部46Aは、例えば、細胞100の面積重心Cと撮像画像の中心Oとの間の距離Lが、予め定められた所定の閾値Ltよりも小さいか否かを判断することによって、細胞100が所定領域Aにあるか否かを判断してもよい。制御部46Aは、ステップST56において細胞100が所定領域Aにないと判断した場合(ステップST56;No)、細胞100が第1ピペット25に保持されていないと判断する。マニピュレーションシステム10は、ステップST50に戻り、ステップST56において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにあると判断するまで(ステップST56;Yes)、ステップST50からステップST56までの処理を繰り返し実行する。制御部46Aは、ステップST56において細胞100が所定領域Aにあると判断した場合、細胞100が第1ピペット25に保持されたと判断する。細胞100は、培養液73とともに吸引されて、第1ピペット25の先端に吸着し、保持される。ステップST56において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにあると判断すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST58を実行する。
ステップST58において、制御部53Aは、第1ピペット25の内部圧力が上がるように、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを高圧側へ微動駆動させる。この時、制御部53Aは、制御値Pを予め定められた変位値Pd分上げるように制御する。
ステップST60において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST62において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における細胞100の位置及び形状を検出する。
ステップST64において、制御部46Aは、細胞100が所定領域Aにあるか否かを判断する。制御部46Aは、ステップST64において細胞100が所定領域Aにあると判断した場合(ステップST36;Yes)、細胞100が第1ピペット25に保持されたままであると判断する。マニピュレーションシステム10は、ステップST58に戻り、ステップST64において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにないと判断するまで(ステップST64;No)、ステップST58からステップST64までの処理を繰り返し実行する。制御部46Aは、ステップST64において細胞100が所定領域Aにないと判断した場合、細胞100が第1ピペット25から保持が解除されたと判断する。第1ピペット25の内部が陽圧となると、細胞100は、培養液73とともに吐出されて、第1ピペット25の先端から保持が解除される。ステップST64において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにないと判断すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST66を実行する。
ステップST66において、制御部53Aは、ステップST64において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにないと判断した時の吸引ポンプ装置50Aの制御値Pを基準圧力PSとして設定する。制御部53Aは、基準圧力PSを記憶部53Bに記憶させる。マニピュレーションシステム10は、ステップST66の処理が終了すると、ステップST30の処理を終了し、図8に示すステップST32の処理を実行する。
次に、ステップST32に示す操作実行モードについて、詳細に説明する。図10に示すステップST70において、コントローラ53の制御部53Aは、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを保持値PHへ駆動する。保持値PHは、基準制御値PSから予め定められた変位値PHdを減算した値である(図12参照)。
ステップST72において、コントローラ53の制御部53Aは、第1ピペット25の内部圧力が下がるように、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを低圧側へ微動駆動させる。この時、制御部53Aは、制御値Pを予め定められた変位値Pd分下げるように制御する。電動ポンプ29が低圧側に駆動すると、第1ピペット25の内部は陰圧となり、第1ピペット25の開口に向かって試料保持部材11の培養液73の流れが発生する。
ステップST74において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST76において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における細胞100の位置及び形状を検出する。
ステップST78において、制御部46Aは、細胞100が所定領域Aにあるか否かを判断する。制御部46Aは、ステップST78において細胞100が所定領域Aにないと判断した場合(ステップST78;No)、細胞100が第1ピペット25に保持されていないと判断する。マニピュレーションシステム10は、ステップST72に戻り、ステップST78において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにあると判断するまで(ステップST78;Yes)、ステップST72からステップST78までの処理を繰り返し実行する。制御部46Aは、ステップST78において細胞100が所定領域Aにあると判断した場合、細胞100が第1ピペット25に保持されたと判断する。細胞100は、培養液73とともに吸引されて、第1ピペット25の先端に吸着し、保持される。ステップST78において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにあると判断すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST80を実行する。
次に、ステップST80において、マニピュレーションシステム10は、インジェクションモードを実行する。ステップST80の詳細については、後述にて説明する。インジェクションモードの処理が終了すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST82の処理を実行する。
ステップST82において、コントローラ53の制御部53Aは、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを保持解除値PRへ駆動する。保持解除値PRは、基準制御値PSから予め定められた変位値PRdを減算した値である(図12参照)。
ステップST84において、制御部53Aは、第1ピペット25の内部圧力が上がるように、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを高圧側へ微動駆動させる。この時、制御部53Aは、制御値Pを予め定められた変位値Pd分上げるように制御する(図12参照)。
ステップST86において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST88において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における細胞100の位置及び形状を検出する。
ステップST90において、制御部46Aは、細胞100が所定領域Aにあるか否かを判断する。制御部46Aは、ステップST90において細胞100が所定領域Aにあると判断した場合(ステップST90;Yes)、細胞100が第1ピペット25に保持されたままであると判断する。マニピュレーションシステム10は、ステップST84に戻り、ステップST90において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにないと判断するまで(ステップST90;No)、ステップST84からステップST90までの処理を繰り返し実行する。制御部46Aは、ステップST90において細胞100が所定領域Aにないと判断した場合、細胞100が第1ピペット25から保持が解除されたと判断する。第1ピペット25の内部が陽圧となると、細胞100は、培養液73とともに吐出されて、第1ピペット25の先端から保持が解除される。ステップST90において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにないと判断すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST92を実行する。
ステップST92において、制御部53Aは、ステップST90において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにないと判断した時の吸引ポンプ装置50Aの制御値Pを基準圧力PSとして設定する(図12参照)。制御部53Aは、基準圧力PSを記憶部53Bに記憶させる。マニピュレーションシステム10は、ステップST92の処理が終了すると、ステップST32の処理を終了し、図8に示すステップST34の処理を実行する。
次に、ステップST80に示すインジェクションモードについて、詳細に説明する。図11に示すステップST100において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST102において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における細胞100の核110の位置及び形状を検出する。より具体的には、本実施形態において、位置検出部43Dは、細胞100の核小体114の中心の位置座標を検出する。
ステップST104において、位置検出部43Dは、核小体114が検出されたか否かを判断する。ステップST104において、核小体114が検出されたと判断された場合(ステップST104;Yes)、マニピュレーションシステム10は、ステップST120を実行する。ステップST104において、核小体114が検出されないと判断された場合(ステップST104;No)、マニピュレーションシステム10は、本実施形態において、ステップST106からステップST118の処理を実行して、細胞100の姿勢を変更する。
ステップST106において、制御部53Aは、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを姿勢変更値PCへ駆動する。姿勢変更値PCは、基準制御値PSから予め定められた変位値PCdを減算した値である。これにより、第1ピペット25による吸引力が弱まるので、細胞100は、第1ピペット25の開口近傍で回転可能になる。
ステップST108において、マニピュレーションシステム10は、細胞100を回転させる。マニピュレーションシステム10は、例えば、細胞100の中心よりY軸方向にオフセットした位置において、第2ピペット35をZ軸方向に動かして細胞100に接触させることによって、細胞100を回転させる。細胞100を回転させる方法は、上述の方法に限定されない。
ステップST110において、制御部53Aは、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを保持値PHへ駆動する。
ステップST112において、コントローラ53の制御部53Aは、第1ピペット25の内部圧力が下がるように、吸引ポンプ装置50Aの電動ポンプ29の制御値Pを低圧側へ微動駆動させる。この時、制御部53Aは、制御値Pを予め定められた変位値Pd分下げるように制御する。電動ポンプ29が低圧側に駆動すると、第1ピペット25の内部は陰圧となり、第1ピペット25の開口に向かって試料保持部材11の培養液73の流れが発生する。
ステップST114において、制御部46Aは、カメラ18に撮像させる。画像入力部43Aは、顕微鏡20を通してカメラ18が撮像した画像データを取得する。ステップST116において、画像処理部43Bは、画像入力部43Aが取得した画像データの画像処理を行う。位置検出部43Dは、画像処理シーケンスによって撮像画像上における細胞100の位置及び形状を検出する。
ステップST118において、制御部46Aは、細胞100が所定領域Aにあるか否かを判断する。制御部46Aは、ステップST118において細胞100が所定領域Aにないと判断した場合(ステップST118;No)、細胞100が第1ピペット25に保持されていないと判断する。マニピュレーションシステム10は、ステップST112に戻り、ステップST118において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにあると判断するまで(ステップST118;Yes)、ステップST112からステップST118までの処理を繰り返し実行する。制御部46Aは、ステップST118において細胞100が所定領域Aにあると判断した場合、細胞100が第1ピペット25に保持されたと判断する。細胞100は、培養液73とともに吸引されて、第1ピペット25の先端に吸着し、保持される。
ステップST18において制御部46Aが細胞100は所定領域Aにあると判断すると、マニピュレーションシステム10は、ステップST100に戻り、ステップST104において位置検出部43Dが核小体114を検出するまで、ステップST100からステップST118を繰り返し実行する。なお、核小体114を再検出する方法は、上述の方法に限らない。
ステップST120において、制御部46Aは、核小体114の位置座標に基づいて、第2ピペット35によるインジェクション位置、及び第2ピペット35の移動経路を算出する。第2ピペット35は、例えば、核小体114の近傍であるインジェクション位置に対して第2ピペット35の先端が対向するよう、Y方向に移動する。その後、第2ピペット35の先端は、X方向にインジェクション位置へ移動して、核膜112内に差し込まれる。ステップST122において、制御部46Aは、注入ポンプ装置50Bを駆動させ、細胞100に対するDNA溶液等のインジェクション操作を実行させる。制御部46Aは、例えば、予め設定された時間、注入ポンプ装置50Bの電動ポンプ29を駆動させてインジェクション操作を実行させてもよい。画像処理部43Bは、インジェクション操作中に画像処理を実行し、核膜112の膨らみを検出して、DNA溶液等のインジェクションが完了したか判断してもよい。マニピュレーションシステム10は、ステップST122の処理が終了すると、ステップST80の処理を終了し、図10に示すステップST82の処理を実行する。
以上説明したように、本実施形態のマニピュレーションシステム10は、細胞100(微小対象物)が載置される試料ステージ22と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、顕微鏡ユニット12(撮像部)と、吸引ポンプ装置50Aと、コントローラ43、53と、を備える。第1マニピュレータ14は、内部圧力により細胞100を保持するための第1ピペット25を備える。第2マニピュレータ16は、第1ピペット25に保持された細胞100を操作するための第2ピペット35を備える。顕微鏡ユニット12は、試料ステージ22の所定領域Aを含む撮像画像を撮像する。吸引ポンプ装置50Aは、第1ピペット25の内部圧力を調整する。コントローラ43、53は、試料ステージ22、第1ピペット25、第2ピペット35、顕微鏡ユニット12及び吸引ポンプ装置50Aを制御する。コントローラ43、53は、基準制御値設定モード及び操作実行モードを含む。基準制御値設定モードは、吸引ポンプ装置50Aを低圧側へ微動駆動し、所定領域Aに細胞100を検出した場合、吸引ポンプ装置50Aを高圧側へ微動駆動を開始し、所定領域Aから細胞100を検出しなくなった時の制御値Pを基準制御値PSとして設定する。操作実行モードは、基準制御値PSに基づいて設定された制御値Pによって、第1ピペット25に細胞100を保持させる。
これによれば、操作される細胞100(微小対象物)を第1ピペット25で保持する際の圧力制御を、自動で行うことができる。また、第1ピペット25の内部圧力に対応する吸引ポンプ装置50Aの制御値Pを、基準制御値PSに基づいて設定するので、第1ピペット25の内部の状態が変化しても、安定的に操作することができる。したがって、操作者の熟練度及び技術によらず、効率よくかつ好適に細胞100の保持操作及び解除操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、操作実行モードは、第2ピペット35による細胞100(微小対象物)への操作が終了した後、細胞100の保持を解除するために吸引ポンプ装置50Aを高圧側へ微動駆動し、所定領域Aから細胞100を検出しなくなった時の制御値Pを基準制御値PSとして再設定する。このようなマニピュレーションシステム10によれば、複数の細胞100を操作する場合であっても、基準制御値PSを都度設定するので、安定的に操作することができる。したがって、操作者の熟練度及び技術によらず、効率よくかつ好適に細胞100の保持操作及び保持解除操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、操作実行モードは、基準制御値PSに基づいて設定された制御値Pによって、第1ピペット25による細胞100(微小対象物)の一時的な保持解除操作と、保持位置を変更させた再保持操作と、を実行させる。このようなマニピュレーションシステム10によれば、細胞100の保持を一時的に解除する際の圧力制御を、自動で行うことができる。また、第1ピペット25の内部圧力に対応する吸引ポンプ装置50Aの制御値Pを、基準制御値PSに基づいて設定するので、第1ピペット25の内部の状態が変化しても、安定的に操作することができる。したがって、操作者の熟練度及び技術によらず、効率よくかつ好適に細胞100の保持操作及び保持解除操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、コントローラ43、53は、撮像画像に基づいて、所定領域Aに細胞100(微小対象物)がいるか否かを判断する。このようなマニピュレーションシステム10によれば、操作者の熟練度及び技術によらず、細胞100を検出することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10の駆動方法において、マニピュレーションシステム10は、細胞100(微小対象物)が載置される試料ステージ22と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、顕微鏡ユニット12(撮像部)と、吸引ポンプ装置50Aと、を備える。第1マニピュレータ14は、内部圧力により細胞100を保持するための第1ピペット25を備える。第2マニピュレータ16は、第1ピペット25に保持された細胞100を操作するための第2ピペット35を備える。顕微鏡ユニット12は、試料ステージ22の所定領域Aを含む撮像画像を撮像する。吸引ポンプ装置50Aは、第1ピペット25の内部圧力を調整する。マニピュレーションシステム10の駆動方法は、吸引ポンプ装置50Aを低圧側へ微動駆動するステップST50と、所定領域Aに細胞100を検出した場合、吸引ポンプ装置50Aを高圧側へ微動駆動を開始するステップST58と、所定領域Aから細胞100を検出しなくなった時の制御値Pを基準制御値PSとして設定するステップST66と、基準制御値PSに基づいて設定された制御値Pによって、第1ピペット25に細胞100を保持させるステップST70と、を含む。
これによれば、操作される細胞100(微小対象物)を第1ピペット25で保持する際の圧力制御を、自動で行うことができる。また、第1ピペット25の内部圧力に対応する吸引ポンプ装置50Aの制御値Pを、基準制御値PSに基づいて設定するので、第1ピペット25の内部の状態が変化しても、安定的に操作することができる。したがって、操作者の熟練度及び技術によらず、効率よくかつ好適に細胞100の保持操作及び保持解除操作することができる。
本実施形態のマニピュレーションシステム10及びマニピュレーションシステム10の駆動方法は適宜変更してもよい。例えば、第1ピペット25、第2ピペット35等の形状等は、微小対象物の種類や、微小対象物に対する操作に応じて適宜変更することが好ましい。微小対象物の保持操作、所定の操作対象位置の検出操作、インジェクション操作、微小対象物の載置操作の各操作において、適宜手順の一部を省略してもよく、また、手順を置換して実行してもよい。例えば、ステップST18及びステップST24と、ステップST20及びステップST26とは、それぞれ同時に処理されてもよい。