JP2020199589A - 被覆切削工具 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長い被覆切削工具を提供する。【解決手段】基材と、基材の上に形成された被覆層と、を含む被覆切削工具であって、被覆層は、特定の組成を有する化合物を含有する第1化合物層と第2化合物層とを交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有し、第1化合物層及び第2化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1と基材に最も近い第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1であり、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1が1.0μm以下であり、基材から最も離れた第1化合物層の厚さt1と基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2であり、基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2が1.0μm以下である、被覆切削工具。【選択図】図1

Description

本発明は、被覆切削工具に関するものである。
従来、鋼などの切削加工には超硬合金や立方晶窒化硼素(cBN)焼結体からなる切削工具が広く用いられている。中でも超硬合金基材の表面にTiN層、TiAlN層、AlCrN層などの硬質被覆膜を1又は2以上含む表面被覆切削工具は汎用性の高さから様々な加工に使用されている。
その中でも、AlCrN中のAlの原子比が80%以上である表面被覆切削工具は、六方晶を含むことにより硬さが低下するので、耐摩耗性が低下している。
このような問題点を改善するため、例えば、特許文献1では、立方晶を含むAl1-xCrxN(0.05≦x≦0.25:xはCrの原子比率を示す。)からなる硬質皮膜が提案されている。
また、特許文献2では、炭化タングステン基超硬合金又は炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に総層厚0.5〜10μmの硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、(a)硬質被覆層は、A層とB層の交互積層構造からなり、(b)A層は、組成式:(AlaCr1-a)N(ただし、aは原子比)で表した場合に、0.50≦a≦0.70を満足し、(c)B層は、組成式:(AlbCr1-b)N(ただし、bは原子比)で表した場合に、0.75≦b≦0.99を満足し、(d)A層の一層当たりの層厚をx(nm)、B層の一層当たりの層厚をy(nm)としたとき、5y≧x≧3y、かつ、250(nm)≧x+y≧100(nm)を満足することを特徴とする表面被覆切削工具が提案されている。
特開2018−003046号公報 特開2016−165788号公報
近年の切削加工では、加工能率を上げるために従来よりも切削条件が厳しくなる傾向にある。その中で、これまでより工具寿命を延長することが求められている。特に、高速加工や負荷の大きい加工といった切削温度が高い加工においては、被削材と被覆層とが反応することによる摩耗が生じやすくなる。
一方で、上記特許文献1に記載の硬質皮膜を形成する方法は、負のバイアス電圧が−100V〜−170Vと高くなる結果、硬質皮膜の圧縮応力が高くなり、被覆層と基材との密着性が不十分となる。また、圧縮応力が高いため、高い負荷がかかるような加工(特に、転削加工)においては、硬質皮膜の強度が不十分である結果、工具に亀裂が進展しやすくなる。また、この結果、得られる工具は、耐欠損性が不十分であることにより、工具寿命を長くし難い。
また、上記特許文献2に記載の被覆切削工具は、A層の一層当たりの層厚がB層の一層当たりの層厚よりも3倍以上厚いため、被覆層全体におけるAl含有量が少なくなり、耐熱性が不十分である。この結果、上記特許文献2に記載の被覆切削工具は、反応摩耗の進行による耐摩耗性が不十分であることにより、工具寿命を長くし難い。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長い被覆切削工具を提供することを目的とする。
本発明者は被覆切削工具の工具寿命の延長について研究を重ねたところ、被覆切削工具を特定の構成にすると、その耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、被覆切削工具の工具寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]
基材と、前記基材の上に形成された被覆層と、を含む被覆切削工具であって、
前記被覆層は、下記式(1)で表される組成を有する化合物を含有する第1化合物層と、下記式(2)で表される組成を有する化合物を含有する第2化合物層と、を交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有し、
(AlxCr1-x)N (1)
(式(1)中、xはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.50≦x≦0.70を満足する。)
(AlyCr1-y)N (2)
(式(2)中、yはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.75≦y≦0.90を満足する。)
前記第1化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、
前記第2化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、
前記交互積層構造において、前記第1化合物層の厚さをt1、前記第2化合物層の厚さをt2としたとき、
前記基材に最も近い前記第1化合物層の厚さt1と前記基材に最も近い前記第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1であり、前記基材に最も近い前記第1化合物層の厚さt1が1.0μm以下であり、
前記基材から最も離れた前記第1化合物層の厚さt1と前記基材から最も離れた前記第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2であり、前記基材から最も離れた前記第2化合物層の厚さt2が1.0μm以下である、被覆切削工具。
[2]
前記第2化合物層は、立方晶の結晶系を有し、
前記第2化合物層において、立方晶(200)面の回折ピーク強度をIc(200)とし、六方晶(100)面の回折ピーク強度をIh(100)としたとき、Ih(100)/Ic(200)が、0.05以下である、[1]に記載の被覆切削工具。
[3]
前記被覆層の全体の平均厚さが、1.0μm以上10.0μm以下である、[1]又は[2]に記載の被覆切削工具。
[4]
前記被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、前記t2<t1の関係を満たす交互積層構造が、前記基材に最も近い側から5%以上50%以下占める、[3]に記載の被覆切削工具。
[5]
前記被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、前記t1<t2の関係を満たす交互積層構造が、前記基材から最も離れた側から5%以上50%以下占める、[3]又は[4]に記載の被覆切削工具。
[6]
前記第2化合物層の残留応力が、−10.0GPa以上−2.0GPa以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の被覆切削工具。
[7]
前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、[1]〜[6]のいずれかに記載の被覆切削工具。
本発明によると、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長い被覆切削工具を提供することができる。
本発明の被覆切削工具の一例を示す模式図である。
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
本実施形態の被覆切削工具は、基材と、基材の上に形成された被覆層と、を含む被覆切削工具であって、被覆層は、下記式(1)で表される組成を有する化合物を含有する第1化合物層と、下記式(2)で表される組成を有する化合物を含有する第2化合物層と、を交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有し、
(AlxCr1-x)N (1)
(式(1)中、xはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.50≦x≦0.70を満足する。)
(AlyCr1-y)N (2)
(式(2)中、yはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.75≦y≦0.90を満足する。)
第1化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、第2化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、交互積層構造において、第1化合物層の厚さをt1、第2化合物層の厚さをt2としたとき、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1と基材に最も近い第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1であり、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1が1.0μm以下であり、基材から最も離れた第1化合物層の厚さt1と基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2であり、基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2が1.0μm以下である。
このような被覆切削工具が、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長いものとなる要因は、詳細には明らかではないが、本発明者はその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。すなわち、被覆層を形成する第1化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlxCr1-x)N中のxが0.50以上0.70以下であると、低圧縮応力である立方晶を容易に成膜でき、基材との密着性が優れるため、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。また、第1化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlxCr1-x)N中のxが0.50以上であると、Al含有量が多くなることにより、硬さの低下を抑制することができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。第1化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlxCr1-x)N中のxが0.70以下であると、交互積層構造を構成する第2化合物層において、六方晶構造が形成されるのを防ぐことができるため、硬さが向上し、その結果、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、第1化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上であると、第2化合物層において、立方晶が形成されやすくなり、この結果、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。一方、第1化合物層は、1層当たりの平均厚さが1.0μm以下であると、Al含有量が少ない領域を減らすことにより、被覆切削工具の耐熱性が向上する。また、被覆層を形成する第2化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlyCr1-y)N中のyが0.75以上であると、耐熱性が向上する。その結果、高速加工や負荷の大きい加工といった切削温度が高い加工においても反応摩耗を抑制することができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。一方、第2化合物層に含まれる化合物の組成(AlyCr1-y)N中のyが0.90以下であると、Crを含有することによる第2化合物層の高温強度の向上や六方晶形成の抑制に起因して、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、第2化合物層は、1層当たりの平均厚さが0.1μm以上であると、耐熱性が向上するため、反応摩耗を抑制し、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、第2化合物層は、1層当たりの平均厚さが0.1μm以上であると、残留応力が小さくなるのを抑制する(例えば、−10.0GPaよりも引張側に抑える)ことができるため、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。一方、第2化合物層は、1層当たりの平均厚さが1.0μm以下であると、六方晶構造が形成されるのを防ぐことができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、第1化合物層と第2化合物層とを交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有すると、第2化合物層において、六方晶が形成するのを防ぐことができるので、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、このような交互積層構造は、低い負のバイアス電圧で形成することができるので、圧縮応力が高くなるのを抑制することができ、その結果、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。また、このような交互積層構造を有すると、被覆層全体を厚くすることができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。交互積層構造において、第1化合物層の厚さをt1、第2化合物層の厚さをt2としたとき、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1と基材に最も近い第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1であり、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1が1.0μm以下であり、基材から最も離れた第1化合物層の厚さt1と基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2であり、基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2が1.0μm以下である。このように特定の範囲の第1化合物層及び第2化合物層の1層当たりの厚さを調整することで、被覆切削工具の耐摩耗性と、被覆切削工具における被覆層と基材との密着性と、を両立することができる。これらの効果が相俟って、本実施形態の被覆切削工具は、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させた工具寿命の長いものとなる。
本実施形態の被覆切削工具は、基材とその基材の表面に形成された被覆層とを含む。本実施形態に用いる基材は、被覆切削工具の基材として用いられ得るものであれば、特に限定はされない。基材の例として、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、及び高速度鋼を挙げることができる。それらの中でも、基材が、超硬合金、サーメット、セラミックス及び立方晶窒化硼素焼結体からなる群より選ばれる1種以上であると、被覆切削工具の耐欠損性が一層優れるので、さらに好ましい。
本実施形態の被覆切削工具において、被覆層の全体の平均厚さは、1.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。本実施形態の被覆切削工具において、被覆層全体の平均厚さが1.0μm以上であると、耐摩耗性が更に向上する傾向にある。一方、本実施形態の被覆切削工具において、被覆層全体の平均厚さが10.0μm以下であると、耐欠損性が一層向上する傾向にある。そのため、被覆層全体の平均厚さは、1.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。その中でも、上記と同様の観点から、被覆層全体の平均厚さは3.0μm以上10.0μm以下であるとより好ましく、4.0μm以上10.0μm以下であるとさらに好ましい。
〔第1化合物層〕
本実施形態の被覆切削工具は、被覆層が、下記式(1)で表される組成を有する化合物を含有する第1化合物層を有する。
(AlxCr1-x)N (1)
(式(1)中、xはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.50≦x≦0.70を満足する。)
被覆層を形成する第1化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlxCr1-x)N中のxが0.50以上0.70以下であると、低圧縮応力である立方晶を容易に成膜でき、基材との密着性が優れるため、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。また、第1化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlxCr1-x)N中のxが0.50以上であると、Al含有量が多くなることにより、硬さの低下を抑制することができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。第1化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlxCr1-x)N中のxが0.70以下であると、交互積層構造を構成する第2化合物層において、六方晶構造が形成されるのを防ぐことができるため、硬さが向上し、その結果、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。
また、本実施形態において、各化合物層の組成を(Al0.80Cr0.20)Nと表記する場合は、Al元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比が0.80、Al元素とCr元素との合計に対するCr元素の原子比が0.20であることを意味する。すなわち、Al元素とCr元素との合計に対するAl元素の量が80原子%、Al元素とCr元素との合計に対するCr元素の量が20原子%であることを意味する。
さらに、本実施形態の被覆切削工具は、第1化合物層の1層当たりの平均厚さが、0.1μm以上1.0μm以下である。第1化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上であると、第2化合物層において、立方晶が形成されやすくなり、この結果、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。一方、第1化合物層は、1層当たりの平均厚さが1.0μm以下であると、Al含有量が少ない領域を減らすことにより、被覆切削工具の耐熱性が向上する。同様の観点から、第1化合物層の1層当たりの平均厚さは、0.2μm以上0.8μm以下であるとより好ましく、0.25μm以上0.7μm以下であるとさらに好ましい。
〔第2化合物層〕
本実施形態の被覆切削工具は、被覆層が、下記式(2)で表される組成を有する化合物を含有する第2化合物層を有する。
(AlyCr1-y)N (2)
(式(2)中、yはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.75≦y≦0.90を満足する。)
被覆層を形成する第2化合物層は、そこに含まれる化合物の組成(AlyCr1-y)N中のyが0.75以上であると、耐熱性が向上する。その結果、高速加工や負荷の大きい加工といった切削温度が高い加工においても反応摩耗を抑制することができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。一方、第2化合物層に含まれる化合物の組成(AlyCr1-y)N中のyが0.90以下であると、Crを含有することによる第2化合物層の高温強度の向上や六方晶形成の抑制に起因して、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。
また、本実施形態の被覆切削工具は、第2化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下である。また、第2化合物層は、1層当たりの平均厚さが0.1μm以上であると、耐熱性が向上するため、反応摩耗を抑制し、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。第2化合物層は、1層当たりの平均厚さが0.1μm以上であると、残留応力が小さくなるのを抑制する(例えば、−10.0GPaよりも引張側に抑える)ことができるため、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。一方、第2化合物層は、1層当たりの平均厚さが1.0μm以下であると、六方晶構造が形成されるのを防ぐことができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。同様の観点から、第2化合物層の1層当たりの平均厚さは、0.2μm以上0.8μm以下であるとより好ましく、0.25μm以上0.7μm以下であるとさらに好ましい。
また、本実施形態の被覆切削工具は、第2化合物層が立方晶の結晶系を有することが好ましい。また、本実施形態の被覆切削工具は、第2化合物層において、立方晶(200)面の回折ピーク強度をIc(200)とし、六方晶(100)面の回折ピーク強度をIh(100)としたとき、Ih(100)/Ic(200)が、0.05以下であると好ましい。第2化合物層において、Ih(100)/Ic(200)が、0.05以下であると、立方晶の結晶粒の割合が非常に高いことを示し、この結果、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する傾向にある。同様の観点から、第2化合物層において、Ih(100)/Ic(200)は、0以上0.04以下であるとより好ましく、0以上0.03以下であるとさらに好ましい。
第2化合物層の各結晶面のピーク強度は、市販のX線回折装置を用いることにより、測定することができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置である型式:RINT TTRIIIを用い、Cu−Kα線による2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット:2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/分、2θ測定範囲:20〜50°という条件にて行うと、各結晶面のピーク強度を測定することができる。X線回折図形から各結晶面のピーク強度を求めるときに、X線回折装置に付属した解析ソフトウェアを用いてもよい。解析ソフトウェアでは、三次式近似を用いてバックグラウンド処理及びKα2ピーク除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行うことによって、各ピーク強度を求めることができる。なお、第2化合物層と基材との間に各種の層が形成されている場合、その層の影響を受けないように、薄膜X線回折法により、各ピーク強度を測定することができる。また、第2化合物層の基材側とは反対側に各種の層が形成されている場合、バフ研磨により、各種の層を除去し、その後、X線回折測定を行うとよい。また、本実施形態において、第2化合物層の結晶系はX線回折測定で確認することができる。なお、第1化合物層と第2化合物層とは組成が近いため、X線回折測定において、両ピークが近い位置に存在する。この場合、第2化合物層は、Al含有量が高いため、第1化合物層よりも高角度側にピークが存在する。
また、本実施形態の被覆切削工具は、第2化合物層の残留応力が、−10.0GPa以上−2.0GPa以下であることが好ましい。第2化合物層の残留応力が−10.0GPa以上であると、被覆層を形成した後に亀裂が生じるのを抑制することができるので、被覆切削工具の耐欠損性が向上する傾向にある。一方、第2化合物層の残留応力が−2.0GPa以下であると、圧縮応力を有する効果により、亀裂の進展を抑制することができるので、被覆切削工具の耐欠損性が向上する傾向にある。同様の観点から、第2化合物層の残留応力は、−8.0GPa以上−3.0GPa以下であるとより好ましく、−7.0GPa以上−4.0GPa以下であるとさらに好ましい。
上記残留応力とは、被覆層中に残留する内部応力(固有ひずみ)であって、一般に「−」(マイナス)の数値で表される応力を圧縮応力といい、「+」(プラス)の数値で表される応力を引張応力という。本実施形態においては、残留応力の大小を表現する場合、「+」(プラス)の数値が大きくなる程、残留応力が大きいと表現し、また「−」(マイナス)の数値が大きくなる程、残留応力が小さいと表現するものとする。
なお、上記残留応力は、X線回折装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そして、このような残留応力は、切削に関与する部位に含まれる任意の3点(これらの各点は、当該部位の応力を代表できるように、互いに0.5mm以上の距離を離して選択することが好ましい。)の応力を上記sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
〔交互積層構造〕
本実施形態の被覆切削工具は、被覆層が、第1化合物層と第2化合物層とを交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有する。本実施形態の被覆切削工具は、被覆層が、第1化合物層と第2化合物層とを交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有すると、第2化合物層において、六方晶が形成するのを防ぐことができるので、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。また、このような交互積層構造は、低い負のバイアス電圧で形成することができるので、圧縮応力が高くなるのを抑制することができ、その結果、被覆切削工具の耐欠損性が向上する。また、このような交互積層構造を有すると、被覆層全体を厚くすることができるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する。
本実施形態の被覆切削工具は、交互積層構造において、第1化合物層と第2化合物層との繰り返し数が、2回以上であり、2回以上10回以下が好ましく、3回以上10回以下がより好ましい。
なお、本実施形態において、第1化合物層と、第2化合物層とを1層ずつ形成した場合、「繰り返し数」は1回である。
また、本実施形態の被覆切削工具は、交互積層構造において、第1化合物層の厚さをt1、第2化合物層の厚さをt2としたとき、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1と基材に最も近い第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1であり、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1が1.0μm以下であり、基材から最も離れた第1化合物層の厚さt1と基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2であり、基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2が1.0μm以下である。このように特定の範囲の第1化合物層及び第2化合物層の1層当たりの厚さを調整することで被覆切削工具の耐摩耗性と、被覆切削工具における被覆層と基材との密着性と、を両立することができる。同様の観点から、基材に最も近い第1化合物層の厚さt1は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であるとより好ましく、0.4μm以上1.0μm以下であるとさらに好ましい。基材から最も離れた第2化合物層の厚さt2は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上1.0μm以下であるとより好ましく、0.4μm以上1.0μm以下であるとさらに好ましい。基材に最も近い第2化合物層の厚さt2は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.6μm以下であるとより好ましく、0.1μm以上0.4μm以下であるとさらに好ましい。基材から最も離れた第1化合物層の厚さt1は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上0.6μm以下であるとより好ましく、0.1μm以上0.4μm以下であるとさらに好ましい。
また、本実施形態の被覆切削工具は、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t2<t1の関係を満たす交互積層構造が、基材に最も近い側から5%以上50%以下占めることが好ましい。t2<t1の関係を満たす割合交互積層構造が、基材に最も近い側から5%以上占めると、被覆層と基材との密着性が向上するため、剥離を起因とした被覆切削工具の耐欠損性が向上する傾向にある。一方、t2<t1の関係を満たす割合交互積層構造が、基材に最も近い側から50%以下占めると、相対的にAl含有量の高い第2化合物層の占める割合が高くなるため、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する傾向にある。同様の観点から、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t2<t1の関係を満たす交互積層構造が、基材に最も近い側から10%以上50%以下占めることがより好ましく、20%以上50%以下占めることがさらに好ましい。
また、本実施形態の被覆切削工具は、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t1<t2の関係を満たす交互積層構造が、基材から最も離れた側から5%以上50%以下占めることが好ましい。t1<t2の関係を満たす交互積層構造が、基材から最も離れた側から5%以上占めると、被覆切削工具の耐摩耗性が向上する傾向にある。一方、t1<t2の関係を満たす交互積層構造が、基材から最も離れた側から50%以下占めると、被覆層の圧縮応力を低く抑えることができるため、加工時に亀裂が発生するのを抑制することができる。この結果、被覆切削工具の耐欠損性が向上する傾向にある。同様の観点から、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t1<t2の関係を満たす交互積層構造が、基材から最も離れた側から10%以上50%以下占めることがより好ましく、24%以上50%以下占めることがさらに好ましい。
図1は、本実施形態の被覆切削工具の一例を示す模式断面図である。被覆切削工具5は、基材1と、その基材1の表面上に形成された被覆層4とを備える。被覆層4は、第1化合物層と第2化合物層とが交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を備え、基材1に最も近い側に第1化合物層Iaと第2化合物層IIaとの積層構造を備え、基材1から最も離れた側に第1化合物層Ibと第2化合物層IIbとの積層構造を備える。交互積層構造において、第1化合物層の厚さをt1、第2化合物層の厚さをt2としたとき、基材に最も近い第1化合物層Iaの厚さt1と基材に最も近い第2化合物層IIaの厚さt2との関係が、t2<t1であり、基材から最も離れた第1化合物層Ibの厚さt1と基材から最も離れた第2化合物層IIbの厚さt2との関係が、t1<t2である。また、基材1に近い側の交互積層構造2において、第1化合物層の厚さt1と第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1を満たす。すなわち、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t2<t1の関係を満たす交互積層構造2が、基材に最も近い側から50%以下占める。また、基材1から離れた側の交互積層構造3において、第1化合物層の厚さt1と第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2を満たす。すなわち、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t1<t2の関係を満たす交互積層構造3が、基材から最も離れた側から50%以下占める。
〔下部層〕
本実施形態に用いる被覆層は、各化合物層だけで構成されてもよいが、基材と化合物層との間(例えば、基材に最も近い第1化合物層の下層)に下部層を有すると好ましい。これにより、基材と化合物層との密着性が更に向上する。その中でも、下部層は、上記と同様の観点から、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むと好ましく、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むとより好ましく、Ti、Ta、Cr、W、Al、Si、及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Nとからなる化合物を含むとさらに好ましい。また、下部層は単層であってもよく2層以上の多層であってもよい。
本実施形態において、下部層の平均厚さが0.1μm以上3.5μm以下であると、基材と被覆層との密着性が更に向上する傾向を示すため、好ましい。同様の観点から、下部層の平均厚さは、0.2μm以上3.0μm以下であるとより好ましく、0.3μm以上2.5μm以下であるとさらに好ましい。
〔上部層〕
本実施形態に用いる被覆層は、化合物層の基材とは反対側(例えば、基材から最も離れた第2化合物層の上層)に上部層を有してもよい。上部層は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むと、耐摩耗性に一層優れるので、さらに好ましい。また、上記と同様の観点から、上部層は、Ti、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物を含むとより好ましく、Ti、Nb、Ta、Cr、W、Al、Si、及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Nとからなる化合物を含むとさらに好ましい。また、上部層は単層であってもよく2層以上の多層であってもよい。
本実施形態において、上部層の平均厚さが0.1μm以上3.5μm以下であると、耐摩耗性により優れる傾向を示すため好ましい。同様の観点から、上部層の平均厚さは、0.2μm以上3.0μm以下であるとより好ましく、0.3μm以上2.5μm以下であるとさらに好ましい。
〔被覆層の製造方法〕
本実施形態の被覆切削工具における被覆層の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法、及びイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。物理蒸着法を使用して、被覆層を形成すると、シャープエッジを形成することができるので好ましい。その中でも、アークイオンプレーティング法は、被覆層と基材との密着性に一層優れるので、より好ましい。
〔被覆切削工具の製造方法〕
本実施形態の被覆切削工具の製造方法について、以下に具体例を用いて説明する。なお、本実施形態の被覆切削工具の製造方法は、当該被覆切削工具の構成を達成し得る限り、特に制限されるものではない。
まず、工具形状に加工した基材を物理蒸着装置の反応容器内に収容し、金属蒸発源を反応容器内に設置する。その後、反応容器内をその圧力が1.0×10-2Pa以下の真空になるまで真空引きし、反応容器内のヒーターにより基材をその温度が200℃〜700℃になるまで加熱する。加熱後、反応容器内にArガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa〜5.0Paとする。圧力0.5Pa〜5.0PaのArガス雰囲気にて、基材に−500V〜−350Vのバイアス電圧を印加し、反応容器内のタングステンフィラメントに40A〜50Aの電流を流して、基材の表面にArガスによるイオンボンバードメント処理を施す。基材の表面にイオンボンバードメント処理を施した後、反応容器内をその圧力が1.0×10-2Pa以下の真空になるまで真空引きする。
本実施形態に用いる下部層を形成する場合、基材をその温度が400℃〜600℃になるまで加熱する。加熱後、反応容器内にガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa〜5.0Paとする。ガスとしては、例えば、下部層がTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Nとからなる化合物で構成される場合、N2ガスが挙げられ、下部層がTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、N及びCとからなる化合物で構成される場合、N2ガスとC22ガスとの混合ガスが挙げられる。混合ガスの体積比率としては、特に限定されないが、例えば、N2ガス:C22ガス=95:5〜85:15であってもよい。次いで、基材に−80V〜−40Vのバイアス電圧を印加してアーク電流100A〜200Aのアーク放電により各層の金属成分に応じた金属蒸発源を蒸発させて下部層を形成するとよい。
本実施形態に用いる第1化合物層を形成する場合、基材をその温度が200℃〜400℃になるように制御し、窒素ガス(N2)を反応容器内に導入し、反応容器内の圧力を0.5Pa〜4.0Paにする。その後、基材に−80V〜−30Vのバイアス電圧を印加し、第1化合物層の金属成分に応じた金属蒸発源を80A〜150Aとするアーク放電により蒸発させて、第1化合物層を形成するとよい。
本実施形態に用いる第2化合物層を形成する場合、基材をその温度が200℃〜400℃になるように制御する。なお、その基材の温度を、第1化合物層を形成する際の基材の温度と同じにすると、第1化合物層と第2化合物層とを連続して形成することができるので好ましい。温度を制御した後、反応容器内にN2ガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa〜4.0Paとする。次いで、基材に−100V〜−70Vのバイアス電圧を印加し、アーク電流80A〜150Aのアーク放電により第2化合物層の金属成分に応じた金属蒸発源を蒸発させて、第2化合物層を形成するとよい。
第1化合物層と第2化合物層との交互積層構造を形成するには、2種類以上の金属蒸発源を上述した条件にて、交互にアーク放電により蒸発させることによって、各化合物層を交互に形成するとよい。金属蒸発源のアーク放電時間をそれぞれ調整することによって、交互積層構造を構成する各化合物層の厚さを制御することができる。
本実施形態に用いる第2化合物層におけるX線回折強度比Ih(100)/Ic(200)を所定の値にするには、上述の第2化合物層を形成する過程において、基材の温度を調整したり、バイアス電圧を調整するとよく、また、上述の第1化合物層及び/又は第2化合物層を形成する過程において、第1化合物層及び/又は第2化合物層の厚さを制御するとよい。より具体的には、第2化合物層を形成する過程において、基材の温度を高くしたり、負のバイアス電圧を小さく(ゼロに近い側)すると、Ih(100)/Ic(200)が大きくなる傾向がある。また、第1化合物層を形成する過程において、第1化合物層の厚さを薄くすると、Ih(100)/Ic(200)が大きくなる傾向があり、また、第2化合物層を形成する過程において、第2化合物層の厚さを厚くすると、Ih(100)/Ic(200)が大きくなる傾向がある。
本実施形態に用いる第2化合物層における残留応力を所定の値にするには、上述の第2化合物層を形成する過程において、バイアス電圧を調整するとよい。より具体的には、第2化合物層を形成する過程において、負のバイアス電圧を小さく(ゼロに近い側)すると、第2化合物層における残留応力が大きくなる傾向がある。
本実施形態に用いる上部層を形成する場合、上述した下部層と同様の製造条件により形成するとよい。すなわち、まず、基材をその温度が400℃〜600℃になるまで加熱する。加熱後、反応容器内にガスを導入して、反応容器内の圧力を0.5Pa〜5.0Paとする。ガスとしては、例えば、上部層がTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、Nとからなる化合物で構成される場合、N2ガスが挙げられ、上部層がTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al、Si及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、N及びCとからなる化合物で構成される場合、N2ガスとC22ガスとの混合ガスが挙げられる。混合ガスの体積比率としては、特に限定されないが、例えば、N2ガス:C22ガス=95:5〜85:15であってもよい。次いで、基材に−80V〜−40Vのバイアス電圧を印加してアーク電流100A〜200Aのアーク放電により各層の金属成分に応じた金属蒸発源を蒸発させて、上部層を形成するとよい。
本実施形態の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の厚さは、被覆切削工具の断面組織から、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、本実施形態の被覆切削工具における各層の平均厚さは、金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から、当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍における3箇所以上の断面から各層の厚さを測定して、その平均値(相加平均値)を計算することで求めることができる。
また、本実施形態の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の組成は、本実施形態の被覆切削工具の断面組織から、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)や波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
本実施形態の被覆切削工具は、少なくとも耐摩耗性及び耐欠損性に優れていることに起因して、従来よりも工具寿命を延長できるという効果を奏すると考えられる(ただし、工具寿命を延長できる要因は上記に限定されない)。本実施形態の被覆切削工具の種類として具体的には、フライス加工用又は旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル、及びエンドミルなどを挙げることができる。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
基材として、LNMU0303ZER−MJのインサート(株式会社タンガロイ製、89.8%WC−9.8%Co−0.3%Cr32(質量%)の組成を有する超硬合金)を用意した。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表1及び表2に示す各層の組成になるよう金属蒸発源を配置した。用意した基材を、反応容器内の回転テーブルの固定金具に固定した。
その後、反応容器内をその圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。真空引き後、反応容器内のヒーターにより、基材をその温度が450℃になるまで加熱した。加熱後、反応容器内にその圧力が2.7PaになるようにArガスを導入した。
圧力2.7PaのArガス雰囲気にて、基材に−400Vのバイアス電圧を印加して、反応容器内のタングステンフィラメントに40Aの電流を流して、基材の表面にArガスによるイオンボンバードメント処理を30分間施した。イオンボンバードメント処理終了後、反応容器内をその圧力が5.0×10-3Pa以下の真空になるまで真空引きした。
発明品1〜12については、真空引き後、基材をその温度が表3に示す温度(成膜開始時の温度)になるように制御し、窒素ガス(N2)を反応容器内に導入し、反応容器内を表3に示す圧力に調整した。その後、基材に表3に示すバイアス電圧を印加して、表1に示す組成の第1化合物層と第2化合物層との金属蒸発源をこの順で交互に、表3に示すアーク電流のアーク放電により蒸発させて、基材の表面に第1化合物層と第2化合物層とをこの順で交互に形成した。このとき表3に示す反応容器内の圧力になるよう制御した。また、第1化合物層の厚さ及び第2化合物層の厚さは、表1及び表5に示す厚さとなるように、それぞれのアーク放電時間を調整して制御した。
比較品1〜14については、真空引き後、基材をその温度が表4に示す温度(成膜開始時の温度)になるように制御し、窒素ガス(N2)を反応容器内に導入し、反応容器内を表4に示す圧力に調整した。その後、基材に表4に示すバイアス電圧を印加して、表2に示す組成のA層とB層との金属蒸発源をこの順で交互に、表4に示すアーク電流のアーク放電により蒸発させて、基材の表面にA層とB層とをこの順で交互に形成した。このとき表4に示す反応容器内の圧力になるよう制御した。また、A層の厚さ及びB層の厚さは、表2及び表6に示す厚さとなるように、それぞれのアーク放電時間を調整して制御した。
基材の表面に表1、表2、表5及び表6に示す所定の平均厚さまで各層を形成した後に、ヒーターの電源を切り、試料温度が100℃以下になった後で、反応容器内から試料を取り出した。
Figure 2020199589
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得られた試料の各層の平均厚さは、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所の断面をTEM観察し、各層の厚さを測定し、その平均値(相加平均値)を計算することで求めた。第1化合物層の1層当たりの平均厚さは、各々の第1化合物層の厚さt1を合計した総厚さを第1化合物層の数(繰り返し数)で除した値として算出した。第2化合物層の1層当たりの平均厚さも同様に、各々の第2化合物層の厚さt2を合計した総厚さを第2化合物層の数(繰り返し数)で除した値として算出した。また、被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、t2<t1の関係を満たす交互積層構造が基材に最も近い側から占める割合、並びに、t1<t2の関係を満たす交互積層構造が基材から最も離れた側から占める割合を算出した。それらの結果を、表1、表2、表5及び表6に併せて示す。
得られた試料の各層の組成は、被覆切削工具の金属蒸発源に対向する面の刃先稜線部から中心部に向かって50μmまでの位置の近傍の断面において、TEMに付属するEDSを用いて測定した。それらの結果も、表1及び表2に併せて示す。なお、表1及び表2の各層の金属元素の組成比は、各層を構成する金属化合物における金属元素全体に対する各金属元素の原子比を示す。
Figure 2020199589
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〔Ih(100)/Ic(200)〕
得られた試料の第2化合物層及びB層における比Ih(100)/Ic(200)については、株式会社リガク製のX線回折装置である型式:RINT TTRIIIを用いて測定した。具体的には、Cu−Kα線による2θ/θ集中法光学系のX線回折測定を、出力:50kV、250mA、入射側ソーラースリット:5°、発散縦スリット:2/3°、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット:2/3°、受光側ソーラースリット:5°、受光スリット:0.3mm、BENTモノクロメータ、受光モノクロスリット:0.8mm、サンプリング幅:0.01°、スキャンスピード:4°/分、2θ測定範囲:20〜50°という条件にて、第2化合物層及びB層の(200)面のピーク強度Ic(200)、並びに第2化合物層及びB層の(100)面のピーク強度Ih(100)を測定することにより、比Ih(100)/Ic(200)を算出した。その結果を、表7及び表8に示す。
〔残留応力〕
得られた試料について、X線回折装置を用いたsin2ψ法により、第2化合物層及びB層の残留応力を測定した。残留応力は切削に関与する部位に含まれる任意の点3点の応力を測定し、その平均値(相加平均値)を第2化合物層又はB層の残留応力とした。その結果を、表7及び表8に示す。
Figure 2020199589
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得られた試料を用いて、以下の切削試験を行い、評価した。
[切削試験]
被削材:S55C、
被削材形状:200mm×150mm×70mmの板、
切削速度:200m/分、
1刃当たりの送り量:1.0mm/tooth、
切り込み深さ:0.6mm、
切削幅:15mm
クーラント:使用、
評価項目:試料が欠損(試料の切れ刃部に欠けが生じる)したとき、又は逃げ面摩耗幅が0.20mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命に至るまでの加工時間を測定した。また、加工時間が10分のときの損傷形態をSEMで観察した。なお、加工時間が10分であるときの損傷形態が「チッピング」であるのは、加工を継続できる程度の欠けであったことを意味する。また、加工時間が長いことは、耐欠損性及び耐摩耗性に優れていることを意味する。得られた評価の結果を表9及び表10に示す。
Figure 2020199589
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表9及び表10に示す結果より、発明品の加工時間は90分以上であり、全ての比較品の加工時間よりも長かった。
以上の結果より、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させたことにより、発明品の工具寿命が長くなっていることが分かった。
本発明の被覆切削工具は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れることにより、従来よりも工具寿命を延長できるので、その点で産業上の利用可能性が高い。
1…基材、2…基材に近い側において、t2<t1の関係を満たす交互積層構造、3…基材から離れた側において、t1<t2の関係を満たす交互積層構造、4…被覆層、5…被覆切削工具、Ia…基材に最も近い側の第1化合物層、Ib…基材から最も離れた側の第1化合物層、IIa…基材に最も近い側の第2化合物層、IIb…基材から最も離れた側の第2化合物層。

Claims (7)

  1. 基材と、前記基材の上に形成された被覆層と、を含む被覆切削工具であって、
    前記被覆層は、下記式(1)で表される組成を有する化合物を含有する第1化合物層と、下記式(2)で表される組成を有する化合物を含有する第2化合物層と、を交互に2回以上繰り返し形成した交互積層構造を有し、
    (AlxCr1-x)N (1)
    (式(1)中、xはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.50≦x≦0.70を満足する。)
    (AlyCr1-y)N (2)
    (式(2)中、yはAl元素とCr元素との合計に対するAl元素の原子比を示し、0.75≦y≦0.90を満足する。)
    前記第1化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、
    前記第2化合物層の1層当たりの平均厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、
    前記交互積層構造において、前記第1化合物層の厚さをt1、前記第2化合物層の厚さをt2としたとき、
    前記基材に最も近い前記第1化合物層の厚さt1と前記基材に最も近い前記第2化合物層の厚さt2との関係が、t2<t1であり、前記基材に最も近い前記第1化合物層の厚さt1が1.0μm以下であり、
    前記基材から最も離れた前記第1化合物層の厚さt1と前記基材から最も離れた前記第2化合物層の厚さt2との関係が、t1<t2であり、前記基材から最も離れた前記第2化合物層の厚さt2が1.0μm以下である、被覆切削工具。
  2. 前記第2化合物層は、立方晶の結晶系を有し、
    前記第2化合物層において、立方晶(200)面の回折ピーク強度をIc(200)とし、六方晶(100)面の回折ピーク強度をIh(100)としたとき、Ih(100)/Ic(200)が、0.05以下である、請求項1に記載の被覆切削工具。
  3. 前記被覆層の全体の平均厚さが、1.0μm以上10.0μm以下である、請求項1又は2に記載の被覆切削工具。
  4. 前記被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、前記t2<t1の関係を満たす交互積層構造が、前記基材に最も近い側から5%以上50%以下占める、請求項3に記載の被覆切削工具。
  5. 前記被覆層の全体の平均厚さを100%とした場合、前記t1<t2の関係を満たす交互積層構造が、前記基材から最も離れた側から5%以上50%以下占める、請求項3又は4に記載の被覆切削工具。
  6. 前記第2化合物層の残留応力が、−10.0GPa以上−2.0GPa以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
  7. 前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックス又は立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
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