JP7305054B2 - 切削工具 - Google Patents

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    • C23CCOATING METALLIC MATERIAL; COATING MATERIAL WITH METALLIC MATERIAL; SURFACE TREATMENT OF METALLIC MATERIAL BY DIFFUSION INTO THE SURFACE, BY CHEMICAL CONVERSION OR SUBSTITUTION; COATING BY VACUUM EVAPORATION, BY SPUTTERING, BY ION IMPLANTATION OR BY CHEMICAL VAPOUR DEPOSITION, IN GENERAL
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Description

本開示は、切削工具に関する。本出願は、2021年5月20日に出願した国際出願であるPCT/JP2021/019172及び2021年5月20日に出願した国際出願であるPCT/JP2021/019173に基づく優先権を主張する。当該国際出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
従来より、切削工具の長寿命化を目的として、種々の検討がなされている。例えば、特許文献1には、基材上に、WC1-x層を含む被膜が配置された切削工具が開示されている。
国際公開第2019/181742号
本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第一層を含み、
前記第一層は、MoC1-xで示される化合物からなるMoC1-x層、又は、TaC1-yで示される化合物からなるTaC1-y層からなり、
前記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなり、
前記xは、0.40以上0.60以下であり、
前記TaC1-yで示される化合物は、六方晶型の結晶構造を95質量%以上含み、
前記yは、0.40以上0.60以下である、切削工具である。
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。 図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。 図3は、本実施形態の他の態様における切削工具の模式断面図である。 図4は、本実施形態の別の他の態様における切削工具の模式断面図である。
[本開示が解決しようとする課題]
近年、負荷の高い高速、高能率加工の要求がますます高まっており、高速高能率可能においても長い工具寿命を有することのできる切削工具が求められている。
[本開示の効果]
本開示によれば、高速高能率加工においても長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第一層を含み、
前記第一層は、MoC1-xで示される化合物からなるMoC1-x層、又は、TaC1-yで示される化合物からなるTaC1-y層からなり、
前記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなり、
前記xは、0.40以上0.60以下であり、
前記TaC1-yで示される化合物は、六方晶型の結晶構造を95質量%以上含み、
前記yは、0.40以上0.60以下である、切削工具である。
本開示によれば、高速高能率加工においても長い工具寿命を有する切削工具を提供することができる。
(2)前記第一層は、遊離炭素を含まないことが好ましい。これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(3)前記第一層の膜硬度は、2700mgf/μm以上4200mgf/μm以下であることが好ましい。これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(4)前記第一層は、前記基材に接していることが好ましい。これによると、切削工具は優れた耐欠損性及び耐摩耗性を有することができる。
(5)前記被膜は、前記基材と前記第一層との間に配置された硬質被膜層を更に含み、
前記硬質被膜層は、第一単位層を含み、
前記第一単位層の組成は、前記第一層の組成と異なり、
前記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、又は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。
これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(6)前記硬質被膜層は、前記第一単位層からなり、
前記第一単位層の厚さは、0.1μm以上15μm以下であることが好ましい。
これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(7)前記硬質被膜層は、更に第二単位層を含み、
前記第二単位層の組成は、前記第一層の組成及び前記第一単位層の組成と異なり、
前記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、又は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなり、
前記第一単位層及び前記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していることが好ましい。
これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(8)前記第一単位層の厚さは、1nm以上100nm以下であり、
前記第二単位層の厚さは、1nm以上100nm以下であることが好ましい。これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(9)前記第一層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、
前記硬質被膜層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(10)前記被膜の厚さは、0.2μm以上20μm以下であることが好ましい。これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
(11)前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これによると、切削工具は高温においても優れた硬度及び強度を有することができる。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiAlN」と記載されている場合、TiAlNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
[実施形態1:切削工具]
本開示に係る切削工具(以下、実施形態1又は本実施形態とも記す)は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、第一層を含み、
前記第一層は、MoC1-xで示される化合物からなるMoC1-x層、又は、TaC1-yで示される化合物からなるTaC1-y層からなり、
前記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなり、
前記xは、0.40以上0.60以下であり、
前記TaC1-yで示される化合物は、六方晶型の結晶構造を95質量%以上含み、
前記yは、0.40以上0.60以下である、切削工具である。
本実施形態の切削工具(以下、単に「切削工具」という場合がある。)は、基材と、該基材上に配置された被膜と、を備える。上記切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。このような形状の切削工具は、例えば、刃先交換型切削チップとして用いられる。上記切削工具10は、すくい面1と、逃げ面2と、すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、切削工具10の切刃先端部を構成する。このような切削工具10の形状は、上記切削工具の基材の形状と把握することもできる。すなわち、上記基材は、すくい面と、逃げ面と、すくい面及び逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WC-Co系超硬合金、WC-TaC-Co系超硬合金、更にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
なお、基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
切削工具が、刃先交換型切削チップ(フライス加工用刃先交換型切削チップ等)である場合、基材は、チップブレーカーを有するものも、有さないものも含まれる。刃先の稜線部分の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
<被膜>
本実施形態に係る「被膜」は、上記基材の表面の少なくとも一部を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。ここで、「基材の表面の少なくとも一部」には、切削加工時に被削材と接する部分が含まれる。該被削材と接する部分とは、例えば、基材の表面において、刃先稜線からの距離が2mm以内の領域とすることができる。なお、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
図2に示されるように、被膜4は、第一層12からなることができる。図3及び図4に示されるように、被膜4は、第一層12及び該第一層12と基材11との間に配置された硬質被膜層13とを含むことができる。被膜4は、第一層12に加えて、他の層を含むことができる。他の層としては、例えば、硬質被膜層と基材との間に配置された下地層(図示せず)、第一層と硬質被膜層との間に配置された中間層(図示せず)、第一層の上に配置された表面層(図示せず)等が挙げられる。
上記被膜の厚さは0.1μm以上20μm以下が好ましく、0.1μm以上10μm以下が好ましく、0.2μm以上20μm以下が好ましく、0.2μm以上10μm以下が好ましく、0.3μm以上10μm以下がより好ましく、0.5μm以上10μm以下が更に好ましく、1μm以上6μm以下が更により好ましく、1.5μm以上4μm以下が特に好ましい。上記厚さが0.1μm以上である場合、切削工具の耐摩耗性が向上する。上記厚さが0.2μm以上である場合、切削工具の耐摩耗性が更に向上する。上記厚さが20μm以下であると、断続加工において被膜と基材との間に大きな応力が加わった際の被膜の剥離又は破壊を抑制しやすい。ここで、被膜の厚さとは、MoC1-x層、TaC1-y層、硬質被膜層及び下地層等の被膜を構成する層それぞれの厚さの総和を意味する。上記被膜の厚さは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の3点を測定し、測定された3点の厚さの平均値をとることで求める。後述するMoC1-x層、TaC1-y層、硬質被膜層(第一単位層、第二単位層)及び下地層それぞれの厚さを測定する場合も同様である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製の球面収差補正装置、JEM-2100F(商標)が挙げられる。
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
<第一層>
本実施形態において、被膜は、第一層を含み、該第一層は、MoC1-xで示される化合物からなるMoC1-x層、又は、TaC1-yで示される化合物からなるTaC1-y層からなる。
<MoC1-x層>
本実施形態において、MoC1-x層は、MoC1-xで示される化合物からなる。「MoC1-xで示される化合物」(以下、「MoC1-x」と表記する場合がある。)とは、モリブデン元素(Mo)の元素比を1とした場合、炭素元素(C)の元素比が1-xである炭化モリブデンを意味する。上記MoC1-x層は、本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物を含んでいてもよい。該不可避不純物としては、例えば、水素、酸素、窒素、アルゴンが挙げられる。該不可避不純物の含有割合は、MoC1-x層の全質量に対して0質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。後述する「硬質被膜層」及び「他の層」の表記についても同様に、本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。
上記xは、0.40以上0.60以下であり、0.45以上0.55以下であることが好ましく、0.50以上0.55以下であることがより好ましい。上記xが0.40未満であると、MoC1-xの結晶粒界に遊離炭素が析出し強度が低下する傾向がある。また上記xが0.60を超えると、当該結晶粒界の強度が低下する傾向がある。そのため、xが0.40以上0.60以下の範囲外であると亀裂進展を抑制できず靱性が低くなる傾向がある。このような傾向は、結晶の均質性と歪みのバランスが適切ではないために起こると本発明者らは推測している。
上記xは、MoC1-x層において基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルを得て、この断面サンプルに現われた結晶粒に対して走査型電子顕微鏡(SEM)又はTEMに付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。具体的には、上記断面サンプルのMoC1-x層における任意の3点それぞれを測定して上記xの値を求め、求められた3点の値の平均値を上記断面サンプルのMoC1-x層におけるxとする。ここで当該「任意の3点」は、MoC1-x層中の任意の30nm×30nmの領域を3か所選択するものとする。上記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のシリコンドリフト検出器、JED-2200(商標)が挙げられる。測定条件は以下の通りである。
EDX法の測定条件
加速電圧:200kV
プローブ電流:0.29nA
プローブサイズ:0.2nm
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
上記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなる。ここで、上記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなるとは、上記MoC1-xで示される化合物における六方晶型の結晶構造の百分率が100質量%であり、他の結晶型の結晶構造を含まないことを意味する。上記MoC1-xで示される化合物が六方晶型の結晶構造からなることは、例えば、上述のMoC1-x層における任意の3点に対してX線回折測定(XRD測定)を行い分析することで確認される。上記MoC1-xで示される化合物が六方晶型の結晶構造からなる場合、XRD測定において、3点の測定点全てにおいて、(100)面、(002)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面、(112)面、(201)面等の六方晶型の結晶面に由来するピークが観測され、六方晶以外の結晶系の結晶面に由来するピークは観察されない。上記X線回折測定に用いる装置としては、たとえば、株式会社リガク製の「SmartLab」(商品名)、パナリティカル製の「X’pert」(商品名)等が挙げられる。測定条件は以下の通りである。
XRD法の測定条件
走査軸:2θ-θ
X線源:Cu-Kα線(1.541862Å)
検出器:0次元検出器(シンチレーションカウンタ)
管電圧:45kV
管電流:40mA
入射光学系:ミラーの利用
受光光学系:アナライザ結晶(PW3098/27)の利用
ステップ:0.03°
積算時間:2秒
スキャン範囲(2θ):10°~120°
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定点の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定点を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
<TaC1-y層>
本実施形態において、TaC1-y層は、TaC1-yで示される化合物からなる。「TaC1-yで示される化合物」(以下、「TaC1-y」と表記する場合がある。)とは、タンタル元素(Ta)の元素比を1とした場合、炭素元素(C)の元素比が1-yである炭化タンタルを意味する。上記TaC1-y層は、本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。該不可避不純物としては、例えば、水素、酸素、窒素、アルゴンが挙げられる。該不可避不純物の含有割合は、TaC1-y層の全質量に対して0質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。
上記yは、0.40以上0.60以下であり、0.45以上0.55以下であることが好ましく、0.50以上0.55以下であることがより好ましい。上記yが0.40未満であると、TaC1-xの結晶粒界に遊離炭素が析出し強度が低下する傾向がある。また上記yが0.6を超えると、当該結晶粒界の強度が低下する傾向がある。そのため、yが上述の範囲外であると亀裂進展を抑制できず靱性が低くなる傾向がある。このような傾向は、結晶の均質性と歪みのバランスが適切ではないために起こると本発明者らは推測している。
上記yは、上記MoC1-x層におけるxの測定方法と同様に、SEM又はTME付帯のEDXにより測定される。具体的な測定方法及び測定条件は、上記MoC1-x層におけるxの測定方法及び測定条件と同一とする。
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定領域の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
上記TaC1-yで示される化合物は、六方晶型の結晶構造を95質量%以上含む。TaC1-yで示される化合物中の、六方晶型の結晶構造の含有率は、96質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましく、100質量%が更に好ましい。上記TaC1-yで示される化合物が六方晶型の結晶構造を95質量%以上含むことは、以下の方法で確認される。TaC1-y層の任意の1点に対してXRD測定を行い、六方晶型の結晶面(代表的には(100)面、(002)面、(101)面、(110)面、(102)面、(110)面、(103)面、(112)面、(201)面など)に由来するピークがn個確認された場合、それぞれのピークに対してピーク強度Ii(i=1、2、・・・、n)と半価幅Wi(i=1、2、・・・、n)を求め、それらのピーク面積ΣSi(Ii×Wi)(i=1、2、・・・、n)を求める。該ピーク面積ΣSiを、TaC1-yで示される化合物中の六方晶型の結晶構造量(質量%)と定義する。
上記と同一の測定点において、立方晶型の結晶面(代表的には(100)面、(111)面、(200)面、(220)面、(311)面など)に由来するピークが観測された場合、上記と同様に、ピーク面積ΣS’i(I’i×W’i)(i=1、2、・・・、n)を求める。該ピーク面積ΣS’iを、TaC1-yで示される化合物中の立方晶型の結晶構造量(質量%)と定義する。
六方晶型の結晶構造量ΣSi及び立方晶型の結晶構造量ΣS’iの合計に対する六方晶型の結晶構造量ΣSiの百分率(ΣSi/(ΣSi+ΣS’i)×100)を算出する。上記のXRD測定をTaC1-y層の任意の3点に対して行い、3点の(ΣSi/(ΣSi+ΣS’i)×100)の平均値を算出する。該平均値が、TaC1-yで示される化合物中の六方晶型の結晶構造の含有率(質量%)と定義される。
なお、上記TaC1-yで示される化合物が六方晶型の結晶構造のみからなる場合、XRD測定において、3点の測定点全てにおいて、(100)面、(002)面、(101)面、(110)面、(102)面、(110)面、(103)面、(112)面、(201)面等の六方晶型の結晶面に由来するピークが観測され、六方晶以外の結晶系の結晶面に由来するピークは観察されない。上記X線回折測定に用いる装置及び測定条件は、上述のMoC1-xで示される化合物の結晶構造の確認方法と同一とする。
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定点の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定点を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。図2に示されるように、上記第一層12は、上記基材11に接していることが好ましい。言い換えると、上記第一層12は、上記基材11の直上に設けられていることが好ましい。
本実施形態の超硬合金において、第一層は、遊離炭素を含まないことが好ましい。ここで「第一層は遊離炭素を含まない」とは、第一層が遊離炭素を一切含まないこと、及び、第一層における遊離炭素の量が検出限界未満であること、の両方の意味を含む。「遊離炭素」とは、第一層の構成元素にならずに単体として存在する炭素を意味する。遊離炭素としては、例えば、グラファイト、煤等の炭素-炭素二重結合を含む炭素の単体が挙げられる。遊離炭素の有無は、X線光電子分光法(XPS法)を用いて第一層の表面の任意の3点における炭素-炭素二重結合の有無(XPS C1sにおけるC=Cピークの有無)を調べることで確認される。上記任意の3点のうち、1点以上で炭素-炭素二重結合が存在する場合、第一層は遊離炭素を含むと判定される。上記任意の3点の全てにおいて炭素-炭素二重結合が存在しない場合、第一層は遊離炭素を含まないと判定される。ここで、第一層が被膜の最表面に設けられている場合、自然酸化層をArスパッタ等で除去してから、上記遊離炭素の有無の測定を行うものとする。上記第一層が最表面でない場合は、Arスパッタ等で上記第一層を露出させてから、上記遊離炭素の有無の測定を行うものとする。XPS法に用いられる装置としては、例えば、アルバック・ファイ株式会社製のVersa Probe III(商品名)が挙げられる。測定条件は以下の通りである。
XPS法の測定条件
使用X線源:mono-AlKα線 (hν=1486.6eV)
検出深さ:1nm~10nm
X線ビーム径:約100μmφ
中和銃:デュアルタイプ使用
Ar:加速電圧 4kV
ラスターサイズ:1×1mm
スパッタ速度(Ar):SiOスパッタ換算値 28.3nm/min
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定点の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定点を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
上記第一層の膜硬度は2700mgf/μm以上4200mgf/μm以下であることが好ましく、2700mgf/μm以上4100mgf/μm以下であることがより好ましく、2800mgf/μm以上4000mgf/μm以下であることがより好ましい。上記膜硬度は、ナノインデンターで測定される。具体的には、まず上記第一層の表面における任意の10点それぞれを測定して上記膜硬度を求める。その後、求められた10点の膜硬度の平均値を上記断面サンプルの第一層における膜硬度とする。ここで、上記第一層が最表面でない場合は、機械研磨等で上記第一層を露出させてからナノインデンターで測定を行うものとする。ナノインデンターとしては、例えば、株式会社エリオニクス製のENT1100(商品名)が挙げられる。測定条件は以下の通りである。
ナノインデンターの測定条件
圧子: バーコビッチ
荷重: 1gf
負荷時間: 10sec
保持時間: 2sec
除荷時間: 10sec
なお、同一の試料において測定する限りにおいては、測定点の選択個所を変更して複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定点を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
上記第一層の厚さは0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.1μm以上7μm以下であることが好ましく、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。
<硬質被膜層>
上記被膜は、上記基材と上記第一層との間に配置された硬質被膜層を更に含むことが好ましい。該硬質被膜層は、第一単位層を含むことが好ましい。該第一単位層の組成は、第一層の組成と異なることが好ましい。ここで「基材と第一層との間に配置された」とは、基材と第一層との間に硬質被膜層が配置されていればよく、硬質被膜層が、基材及び第一層に接触していることを要しない。基材と硬質被膜層との間に他の層が配置されていてもよいし、硬質被膜層と第一層との間に他の層が配置されていてもよい。
<第一単位層>
第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、又は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。第一単位層は、クロム、アルミニウム、チタン及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は、クロム、アルミニウム、チタン及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることがより好ましい。周期表4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。周期表6族元素としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。
第一単位層に含まれる化合物としては、例えば、TiAlN、TiAlSiCN、TiAlSiON、TiAlBCN、TiAlSiN、TiCrSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrO、AlCrSiN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、TiSiN、AlCrTaN、AlTiVN、TiB、TiCrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、CrAlBN、TiAlWN、AlCrMoCN、TiAlBN、TiAlCrSiBCNO、ZrN、ZrB、ZrCN、CrSiBN、AlCrBN、AlCrBON等が挙げられる。
硬質被膜層が上記第一単位層のみからなる場合(例えば、図3の場合)、上記第一単位層(すなわち、上記硬質被膜層)の厚さは0.1μm以上15μm以下であることが好ましく、0.1μm以上10μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上7μm以下であることが更に好ましい。
<第二単位層>
硬質被膜層は、更に第二単位層を含むことが好ましい。第二単位層の組成は、第一層の組成及び第一単位層の組成と異なることが好ましい。第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、又は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることが好ましい。第二単位層は、クロム、アルミニウム、チタン及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素、又は、クロム、アルミニウム、チタン及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることがより好ましい。周期表4族元素、5族元素及び6族元素それぞれの具体例としては、上述した各元素が挙げられる。
第二単位層に含まれる化合物としては、例えば、第一単位層に含まれる化合物として例示した上記化合物等が挙げられる。
第一単位層及び第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していることが好ましい。すなわち、図4に示されるように、硬質被膜層13は、第一単位層131及び第二単位層132からなる多層構造を含むことが好ましい。ここで該多層構造は、第一単位層又は第二単位層のいずれの層から積層を開始してもよい。すなわち、多層構造における第一層側の界面は、第一単位層又は第二単位層のどちらで構成されていてもよい。また、多層構造における第一層側と反対側の界面は、第一単位層又は第二単位層のどちらで構成されていてもよい。
硬質被膜層が多層構造を含む場合、硬質被膜層の厚さは0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上7μm以下であることがより好ましい。硬質被膜層が多層構造を含む場合、上記第一層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、硬質被膜層の厚さは0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。これによると、切削工具の耐欠損性及び耐摩耗性が向上する。
硬質被膜層が多層構造を含む場合、第一単位層の厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上50nm以下であることが好ましく、2nm以上25nm以下であることがより好ましい。さらに第二単位層の厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましく、1nm以上60nm以下であることが好ましく、2nm以上25nm以下であることがより好ましい。本実施形態の一態様において、硬質被膜層が多層構造を含む場合、第一単位層の厚さは1nm以上100nm以下であり、且つ第二単位層の厚さは1nm以上100nm以下であることが好ましい。ここで、「第一単位層の厚さ」とは、上記第一単位層の1層あたりの厚さを意味する。「第二単位層の厚さ」とは、上記第二単位層の1層あたりの厚さを意味する。
多層構造の積層数は、硬質被膜層全体の厚さが上記範囲内となる限り、第一単位層及び第二単位層をそれぞれ1層ずつ積層させる態様が含まれるとともに、好ましくは両層をそれぞれ20~2500層ずつ積層させたものとすることができる。
<他の層>
本実施形態の効果を損なわない範囲において、上記被膜は、第一層及び硬質被膜層に加えて、他の層を更に含んでいてもよい。上記他の層は、上記第一層及び上記硬質被膜層とは組成が異なっていてもよいし、同じであってもよい。被膜における他の層の位置も特に限定されない。例えば、他の層としては、上記基材と上記第一層との間に設けられている下地層、上記第一層と上記硬質被膜層との間に設けられている中間層、上記第一層の上に設けられている表面層等が挙げられる。他の層としては、例えば、TiN層、TiWCN層、TiCN層、ZrB層、TiSiN相、AlCrN層等を挙げることができる。
他の層の厚さは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はない。例えば、0.002μm以上10μm以下が挙げられる。他の層の厚さは、0.003μm以上1μm以下、0.003μm以上0.01μm以下、0.5μm以上10μm以下、0.5μm以上5μm以下とすることができる。
[実施形態2:切削工具の製造方法]
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、基材準備工程と、第一層被覆工程とを含む。以下、各工程について説明する。
<基材準備工程>
基材準備工程では、上記基材を準備する。上記基材としては、上述したようにこの種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材が超硬合金からなる場合、まず所定の配合組成(質量%)からなる原料粉末を市販のアトライターを用いて均一に混合する。続いてこの混合粉末を所定の形状(例えば、SEET13T3AGSN、CNMG120408N-EG等)に加圧成形する。その後、所定の焼結炉において1300~1500℃以下で、上述の加圧成形した混合粉末を1~2時間焼結することにより、超硬合金からなる上記基材を得ることができる。また、基材は、市販品をそのまま用いてもよい。市販品としては、例えば、住友電工ハードメタル株式会社製のEH520(商標)が挙げられる。
<第一層被覆工程>
第一層被覆工程では、上記基材の表面の少なくとも一部を第一層で被覆して切削工具を得る。ここで、「基材の表面の少なくとも一部」には、切削加工時に被削材と接する部分が含まれる。該被削材と接する部分とは、例えば、基材の表面において、刃先稜線からの距離が2mm以内の領域とすることができる。
上記基材の少なくとも一部を第一層で被覆する方法としては、特に制限されない。例えば、物理蒸着法(PVD法)によって第一層を形成することが挙げられる。
上記物理蒸着法としては、従来公知の物理蒸着法を特に限定することなく用いることができる。このような物理蒸着法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、電子イオンビーム蒸着法等を挙げることができる。特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法又はスパッタリング法を用いると、被膜を形成する前に基材表面に対してメタルボンバードメント処理及び/又はガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜と基材との密着性が格段に向上するので好ましい。
≪MoC1-x層の形成≫
Moは融点が高く、溶かしにくい。よって、物理的蒸着法において安定した放電を維持できず、六方晶型のMoCからなり、良好な膜質を有するMoC層を形成することができなかった。本発明者らは鋭意検討の結果、六方晶型のMoC1-xからなる良好な膜質を有するMoC1-x層を安定して作製できる方法を見出した。その方法の一例として、アークイオンプレーティング法により六方晶型の結晶構造からなるMoC1-x層(0.40≦x≦0.60)を形成する場合について以下に説明する。
まずMoCターゲットを装置内のアーク式蒸発源にセットし、基板(基材)温度を450~600℃に設定し、真空排気を行う。続いて、例えばアルゴンガス及びクリプトンガスの一方又は両方を導入し該装置内のガス圧を1.0~3.0Paに設定する。そして、DC電源を介し基板に負のバイアス電圧を200~1000V印加して基材の表面を40分間クリーニングする。その後、カソード電極に80~200Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより六方晶型のMoC1-x層(0.40≦x≦0.60)を形成することができる。このとき、MoC1-x層の形成初期(膜厚が0.1μm以下の範囲)では基材温度を400~450℃とし、基板バイアスを-50Vとし、形成終了に向けて徐々に温度を450℃~550℃、基板バイアスを-60~-75Vまで上昇させる。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、例えば、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)が挙げられる。
≪TaC1-y層の形成≫
Taは融点が高く、溶かしにくい。よって、物理的蒸着法において安定した放電を維持できず、立方晶型のTaCを含み、良好な膜質を有するTaC層を形成することができなかった。本発明者らは鋭意検討の結果、六方晶型のTaC1-yを含む良好な膜質を有するTaC1-y層を安定して作製できる方法を見出した。その方法の一例として、アークイオンプレーティング法により六方晶型の結晶構造を95質量%以上含むTaC1-y層(0.40≦y≦0.60)を形成する場合について以下に説明する。
まずTaCターゲットを装置内のアーク式蒸発源にセットし、基板(基材)温度を450~600℃に設定し、真空排気を行う。続いて、例えばアルゴンガス及びクリプトンガスの一方又は両方を導入し該装置内のガス圧を1.0~3.0Paに設定する。そして、DC電源を介し基板に負のバイアス電圧を200~1000V印加して基材の表面を40分間クリーニングする。その後、カソード電極に80~200Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより六方晶型の結晶構造を95質量%以上含むTaC1-y層(0.40≦y≦0.60)を形成することができる。このとき、TaC1-y層の形成初期(膜厚が0.1μm以下の範囲)に基材温度を400~450℃とし、基板バイアスを-50Vとし、形成終了に向けて徐々に温度を450℃~550℃、基板バイアスを-60~-75Vまで上昇させる。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、例えば、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)が挙げられる。
<硬質被膜層被覆工程>
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、上記第一層被覆工程の前に硬質被膜層被覆工程を更に含むことが好ましい。硬質被膜層の形成方法は、特に制限なく、従来の方法を用いることが可能である。具体的には、例えば、上述したPVD法によって硬質被膜層を形成することが挙げられる。
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法は、上述した工程の他にも、基材と上記第一層との間に下地層を形成する下地層被覆工程、上記第一層と上記硬質被膜層との間に中間層を形成する中間層被覆工程及び上記第一層の上に表面層を形成する表面層被覆工程を含むことができる。上述の下地層、中間層及び表面層等の他の層を形成する場合、従来の方法によって他の層を形成してもよい。具体的には、例えば、上述したPVD法によって上記他の層を形成することが挙げられる。
更に、本実施形態に係る製造方法は、メタルボンバード処理、ピーニング処理、及び、表面処理を行う工程等を適宜含むことができる。メタルボンバード処理としては、例えば、アルゴンガス雰囲気中でTiカソード蒸発させ、基材表面をミキシングしてミキシング層を形成する方法が挙げられる。表面処理としては、砥粒による研磨やブラシ磨きなどが挙げられる。より具体的には、弾性材にダイヤモンド粉末を担持させたメディアを用いる方法が挙げられる。上記表面処理を行う装置としては、例えば、株式会社不二製作所製のシリウスZ等が挙げられる。
[付記1]
本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、MoC1-xで示される化合物からなるMoC1-x層を含み、
前記xは、0.40以上0.60以下であり、
前記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなる、切削工具である。
[付記2]
前記MoC1-x層は、遊離炭素を含まないことが好ましい。
[付記3]
前記MoC1-x層の膜硬度は、2700mgf/μm以上4200mgf/μm以下であることが好ましい。
[付記4]
前記MoC1-x層は、前記基材に接していることが好ましい。
[付記5]
本開示の切削工具は、基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、TaC1-yで示される化合物からなるTaC1-y層を含み、
前記yは、0.40以上0.60以下であり、
前記TaC1-yで示される化合物は、六方晶型の結晶構造を95質量%以上含む、切削工具である。
[付記6]
前記TaC1-y層は、遊離炭素を含まないことが好ましい。
[付記7]
前記TaC1-y層の膜硬度は、2700mgf/μm以上4200mgf/μm以下であることが好ましい。
[付記8]
前記TaC1-y層は、前記基材に接していることが好ましい。
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
実施例1
≪切削工具の作製≫
[試料1~試料26]
<基材準備工程>
基材として、JIS規格K10超硬(形状:JIS規格SEET13T3AGSN-L、CNMG120408N-EG)を準備した。次に、上記基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットする。
<第一層(MoC1-x層)被覆工程>
アークイオンプレーティング法により上記基材の上にMoC1-x層を形成した。具体的には以下の方法で行う。まずMoCターゲットを装置内のアーク式蒸発源にセットし、基板(基材)温度を450~600℃に設定し、真空排気を行う。続いて、例えばアルゴンガス及びクリプトンガスの一方又は両方を導入し該装置内のガス圧を1.0~3.0Paに設定する。そして、DC電源を介し基板に負のバイアス電圧を200~1000V印加して基材の表面を40分間クリーニングする。その後、カソード電極に80~200Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによりMoC1-x層(0.40≦x≦0.60)を形成する。このとき、MoC1-x層の形成初期(膜厚が0.1μm以下の範囲)では基材温度を400~450℃とし、基板バイアスを-50Vとし、形成終了に向けて徐々に温度を450℃~550℃、基板バイアスを-60~-75Vまで上昇させる。上記の方法で、表1及び表2の「MoC1-x層」の「厚さ」欄に記載の厚さまでMoC1-x層を形成した。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)を用いた。
<下地層被覆工程>
基材とMoC1-x層との間に下地層を形成した試料(試料5、試料6)については、MoC1-x層被覆工程を行う前に以下の手順にて、基材の上に下地層を形成した。まず表1に記載の下地層の組成の欄における金属組成を含むターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を600℃及び該装置内のガス圧を1Paに設定した。窒化物の下地層(試料5)の場合は、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。炭窒化物の下地層(試料6)の場合は、反応ガスとしては窒素ガスとメタンガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1の「下地層」の括弧内に記載の厚さまで下地層を形成した。
<硬質被膜層被覆工程>
基材とMoC1-x層との間に硬質被膜層を設けた試料(試料7~試料13、試料16~試料22、試料25、試料26)については、MoC1-x層被覆工程を行う前に以下の手順にて、基材の上に硬質被膜層を形成した。まず表1及び表2に記載の硬質被膜層の組成の欄における金属組成を含むターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を550℃及び該装置内のガス圧を4.0Paに設定した。反応ガスとしては、窒化物の硬質被膜層の場合は窒素ガスを導入した。炭窒化物の硬質被膜層の場合は、反応ガスとしては窒素ガスとメタンガスとの混合ガスを導入した。酸窒化物の硬質被膜層の場合は、反応ガスとしては酸素ガスと窒素ガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1及び表2の「硬質被膜層」の括弧内に記載の厚さまで硬質被膜層を形成した。
なお、多層構造の硬質被膜層を形成する場合は、表1及び表2において左側に記載されているものから順に第一単位層、第二単位層として目的の厚さになるまで繰り返して積層して多層構造を形成した。例えば、試料11では、TiAlBNからなる厚さ5nmの第一単位層と、TiSiNからなる厚さ5nmの第二単位層とを交互に繰り返して積層して、厚さ1.0μmの多層構造を形成した。
<表面層被覆工程>
MoC1-x層上に表面層を設けた試料(試料5、試料7、試料8、試料11、試料12)については、MoC1-x層被覆工程後に以下の手順にて、MoC1-x層の上に表面層を形成した。まず表1に記載の表面層の組成の欄における金属組成を含むターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を550℃及び該装置内のガス圧を4.0Paに設定した。反応ガスとしては、窒化物の表面層の場合は窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1の「表面層」の括弧内に記載の厚さまで表面層を形成した。
[試料1-1]
基材として、試料1と同一の基材を準備した。該基材上に、アークイオンプレーティング法により上記基材の上にMoC1-x層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずMoCターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を390℃及び該装置内のガス圧を2Paに設定した。上記ガスとしては、アルゴンガスを導入した。そして、基板バイアス電圧を-50Vに維持したまま、カソード電極に120Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、MoC1-x層を形成して切削工具を得た。
[試料1-2]
基材として、試料1と同一の基材を準備した。該基材上に、アークイオンプレーティング法により上記基材の上にMoC1-x層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずMoCターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を620℃及び該装置内のガス圧を0.5Paに設定した。上記ガスとしては、アルゴンガスを導入した。そして、基板バイアス電圧を-40Vに維持したまま、カソード電極に130Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、MoC1-x層を形成して切削工具を得た。
[試料1-3]
基材として、試料1と同一の基材を準備した。該基材上に、特許文献1に記載の方法でWC0.56層を形成して切削工具を得た。
[試料1-4]
基材として、試料1と同一の基材を準備した。該基材上に、TiN層(下地層)及びAlTiN層を前記の順で形成した。TiN層は試料5と同一の方法で形成した。AlTiN層は試料12の第一単位層と同一の方法で形成した。
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した各試料のMoC1-x層について、組成x、結晶構造及び該結晶構造の含有率、遊離炭素の有無、及び、硬度を測定した。硬度に関して、試料1-3及び試料1-4では、硬質被膜層の硬度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1及び表2の「MoC1-x層」の「組成x」、「結晶構造」、「含有率(質量%)」、「遊離炭素」及び「硬度(mgf/μm)」欄に示す。表1及び表2中、「遊離炭素」の欄における「無」との表記は、MoC1-x層中に遊離炭素が含まれていないことを示し、「有」との表記は、MoC1-x層中に遊離炭素が含まれていること示す。試料1~試料24、試料1-1及び試料1-2では、MoC1-x層は100質量%の六方晶型の結晶構造からなることが確認された。
MoC1-x層、下地層、硬質被膜層(第一単位層、第二単位層)及び被膜の厚さを測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2中、「下地層」及び「硬質被膜層」における「-」との表記は、該当する層が被膜中に存在しないことを示す。また、「硬質被膜層」における「TiAlBN(5nm)/TiSiN(5nm)多層構造(1.0μm)」等の表記は、硬質被膜層が、厚さ5nmのTiAlBN層(第一単位層)と厚さ5nmのTiSiN層(第二単位層)とを交互に積層した多層構造(合計厚み1.0μm)により形成されていることを示している。
Figure 0007305054000001
Figure 0007305054000002
≪切削試験1≫
上述のようにして作製した各試料の切削工具を用いて、以下の切削条件により切削工具が欠損するまでの切削時間を測定し、当該切削工具の耐欠損性を評価した。以下の切削条件は、負荷の高い、高速高能率加工に該当する。結果を表1及び表2に示す。切削時間が長いほど耐欠損性が優れていることを示す。
(耐欠損性試験(正面フライス加工試験)の切削条件)
インサート:SEET13T3AGSN-L
被削材(材質):Ti-6Al-4V
速度 :70m/min
送り :0.1mm/刃
切り込み :切込み深さ:5mm、径方向切込み:10mm
≪切削試験2≫
上述のようにして作製した各試料の切削工具を用いて、以下の切削条件により切削試験を行い、当該切削工具の耐摩耗性を評価した。以下の切削条件は、負荷の高い、高速高能率加工に該当する。結果を表1及び表2に示す。切削時間が長いほど耐摩耗性が優れていることを示す。
(耐摩耗性試験(外径旋削試験)の切削条件)
インサート:CNMG120408N-EG
被削材(材質):Ti-6Al-4V
速度 :140m/min
送り :0.15mm/刃
切り込み :切込み深さ:0.8mm
寿命判定基準:逃げ面摩耗が0.2mmを超える時間
上記切削試験の結果から、実施例に該当する試料1~試料26の切削工具は、比較例に該当する試料1-1~試料1-4の切削工具に比べて、負荷の高い、高速高能率加工においても、耐欠損性及び耐摩耗性に優れており、工具寿命も長いことが確認された。このことから、実施例に該当する試料1~試料24の切削工具は、負荷の高い高速、高能率加工の用途、特に耐欠損性及び耐摩耗性が必要とされる用途に向いていることが示唆された。
実施例2
≪切削工具の作製≫
[試料1A~試料25A]
<基材準備工程>
基材として、JIS規格K10超硬(形状:JIS規格SEET13T3AGSN-L、CNMG120408N-EG)を準備した。次に、上記基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
<第一層(TaC1-y層)被覆工程>
アークイオンプレーティング法により上記基材の上にTaC1-y層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずTaCターゲットを装置内のアーク式蒸発源にセットし、基板(基材)温度を450~600℃に設定し、真空排気を行う。続いて、例えばアルゴンガス及びクリプトンガスの一方又は両方を導入し該装置内のガス圧を1.0~3.0Paに設定する。そして、DC電源を介し基板に負のバイアス電圧を200~1000V印加して基材の表面を40分間クリーニングする。その後、カソード電極に80~200Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより六方晶型の結晶構造を95質量%以上含むTaC1-y層(0.40≦y≦0.60)を形成する。このとき、TaC1-y層の形成初期(膜厚が0.1μm以下の範囲)に基材温度を400~450℃とし、基板バイアスを-50Vとし、形成終了に向けて徐々に温度を450℃~550℃、基板バイアスを-60~-75Vまで上昇させる。上記の方法で、表3及び表4の「TaC1-y層」の「厚さ」欄に記載の厚さまでTaC1-y層を形成した。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)を用いた。
<下地層被覆工程>
基材とTaC1-y層との間に下地層を形成した試料(試料5A、試料6A)については、TaC1-y層被覆工程を行う前に以下の手順にて、基材の上に下地層を形成した。まず表3に記載の下地層の組成の欄における金属組成を含むターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を600℃及び該装置内のガス圧を1Paに設定した。窒化物の下地層(試料5A)の場合は、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。炭窒化物の下地層(試料6A)の場合は、反応ガスとしては窒素ガスとメタンガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表3の「下地層」の括弧内に記載の厚さまで下地層を形成した。
<硬質被膜層被覆工程>
基材とTaC1-y層との間に硬質被膜層を設けた試料(試料7A~試料13A、試料17A~試料25A)については、TaC1-y層被覆工程を行う前に以下の手順にて、基材の上に硬質被膜層を形成した。まず表3及び表4に記載の硬質被膜層の組成の欄における金属組成を含むターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を550℃及び該装置内のガス圧を4.0Paに設定した。反応ガスとしては、窒化物の硬質被膜層の場合は窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。炭窒化物の硬質被膜層の場合は、反応ガスとしては窒素ガスとメタンガスとの混合ガスを導入した。酸窒化物の硬質被膜層の場合は、反応ガスとしては酸素ガスと窒素ガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表3及び表4の「硬質被膜層」の括弧内に記載の厚さまで硬質被膜層を形成した。
なお、多層構造の硬質被膜層を形成する場合は、表3及び表4において左側に記載されているものから順に第一単位層、第二単位層として目的の厚さになるまで繰り返して積層して多層構造を形成した。例えば、試料11Aでは、TiAlBNからなる厚さ6nmの第一単位層と、TiSiNからなる厚さ6nmの第二単位層とを交互に繰り返して積層して、厚さ1.0μmの多層構造を形成した。
<表面層被覆工程>
TaC1-y層上に表面層を設けた試料(試料5A、試料7A、試料8A、試料11A、試料12A)については、TaC1-y層被覆工程後に以下の手順にて、TaC1-y層の上に表面層を形成した。まず表3に記載の表面層の組成の欄における金属組成を含むターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を550℃及び該装置内のガス圧を4.0Paに設定した。反応ガスとしては、窒化物の表面層の場合は窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表3の「表面層」の括弧内に記載の厚さまで表面層を形成した。
[試料1-1A]
基材として、試料1Aと同一の基材を準備した。該基材上に、アークイオンプレーティング法により上記基材の上にTaC1-y層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずTaCターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を380℃及び該装置内のガス圧を1.5Paに設定した。上記ガスとしては、アルゴンガスを導入した。そして、基板バイアス電圧を-55Vに維持したまま、カソード電極に120Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、TaC1-y層を形成して切削工具を得た。
[試料1-2A]
基材として、試料1Aと同一の基材を準備した。該基材上に、アークイオンプレーティング法により上記基材の上にTaC1-y層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずTaCターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を610℃及び該装置内のガス圧を0.8Paに設定した。上記ガスとしては、アルゴンガスを導入した。そして、基板バイアス電圧を-43Vに維持したまま、カソード電極に120Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、TaC1-y層を形成して切削工具を得た。
[試料1-3A]
基材として、試料1Aと同一の基材を準備した。該基材上に、特許文献1に記載の方法でWC0.56層を形成して切削工具を得た。
[試料1-4A]
基材として、試料1Aと同一の基材を準備した。該基材上に、TiN層(下地層)及びAlTiN層を前記の順で形成した。TiN層は試料5と同一の方法で形成した。AlTiN層は試料12Aの第一単位層と同一の方法で形成した。
[試料1-5A]
基材として、試料1と同一の基材を準備した。該基材上に、アークイオンプレーティング法により上記基材の上にTaC1-y層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずTaCターゲットをアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を420℃及び該装置内のガス圧を1Paに設定した。上記ガスとしては、アルゴンガスを導入した。そして、基板バイアス電圧を-69Vに維持したまま、カソード電極に120Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、TaC1-y層を形成して切削工具を得た。
≪切削工具の特性評価≫
上述のようにして作製した各試料のTaC1-y層について、組成y、結晶構造、六方晶のTaC1-yの含有率、遊離炭素の有無、及び、硬度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表3及び表4の「TaC1-y層」の「組成y」、「結晶構造」、「立方晶含有率(質量%)」「遊離炭素」及び「硬度(mgf/μm)」欄に示す。表3及び表4の「結晶構造」欄の「六方晶+立方晶」という表記は、TaC1-y層中に六方晶のTaC1-yと立方晶のTaC1-yとが混在していたことを示す。例えば、試料16Aでは、六方晶のTaC1-yが95質量%存在し、残り(5質量%)が立方晶のTaC1-yであることを示す。表3及び表4の「遊離炭素」の欄における「無」との表記は、TaC1-y層中に遊離炭素が含まれていないことを示し、「有」との表記は、TaC1-y層中に遊離炭素が含まれていること示す。
TaC1-y層、下地層、硬質被膜層(第一単位層、第二単位層)及び被膜の厚さを測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表3及び表4に示す。表3及び表4中、「下地層」及び「硬質被膜層」における「-」との表記は、該当する層が被膜中に存在しないことを示す。また、「硬質被膜層」における「TiAlBN(6nm)/TiSiN(6nm)多層構造(1.0μm)」等の表記は、硬質被膜層が、厚さ6nmのTiAlBN層(第一単位層)と厚さ6nmのTiSiN層(第二単位層)とを交互に積層した多層構造(合計厚み1.0μm)により形成されていることを示している。
Figure 0007305054000003
Figure 0007305054000004
≪切削試験1≫
上述のようにして作製した各試料の切削工具を用いて、実施例1の切削試験1と同一の切削条件により切削工具が欠損するまでの切削時間を測定し、当該切削工具の耐欠損性を評価した。該切削条件は、高速高能率加工に該当する。結果を表3及び表4に示す。切削時間が長いほど耐欠損性が優れていることを示す。
≪切削試験2≫
上述のようにして作製した各試料の切削工具を用いて、実施例1の切削試験2と同一の切削条件により切削試験を行い、当該切削工具の耐摩耗性を評価した。該切削条件は、高速高能率加工に該当する。結果を表3及び表4に示す。切削時間が長いほど耐摩耗性が優れていることを示す。
上記切削試験の結果から、実施例に該当する試料1A~試料25Aの切削工具は、比較例に該当する試料1-1A~試料1-5Aの切削工具に比べて、高速高能率加工においても、耐欠損性及び耐摩耗性に優れており、工具寿命も長いことが確認された。このことから、実施例に該当する試料1A~試料25Aの切削工具は、負荷の高い高速、高能率加工の用途、特に耐欠損性及び耐摩耗性が必要とされる用途に向いていることが示唆された。
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 すくい面、2 逃げ面、3 刃先稜線部、4 被膜、10 切削工具、11 基材、12 第一層、13 硬質被膜層、131 第一単位層、132 第二単位層

Claims (10)

  1. 基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
    前記被膜は、
    第一層からなる、
    前記基材上に配置された前記第一層と、前記第一層の上に配置された表面層と、からなる、又は、
    前記第一層と、前記基材と前記第一層との間に配置された下地層及び硬質被膜層の一方又は両方と、を含み、
    前記第一層は、MoC1-xで示される化合物からなるMoC1-x層からなり、
    前記MoC1-xで示される化合物は、六方晶型の結晶構造からなり、
    前記xは、0.40以上0.60以下であり、
    前記第一層の膜硬度は、2700mgf/μm 以上4200mgf/μm 以下であり、
    前記表面層は、TiN層、TiCN層、ZrB層、TiSiN層及びArCrN層からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、切削工具。
  2. 前記第一層は、遊離炭素を含まない、請求項1に記載の切削工具。
  3. 前記被膜は前記硬質被膜層を含み、
    前記硬質被膜層は、第一単位層を含み、
    前記第一単位層の組成は、前記第一層の組成と異なり、
    前記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、又は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  4. 前記硬質被膜層は、前記第一単位層からなり、
    前記第一単位層の厚さは、0.1μm以上15μm以下である、請求項に記載の切削工具。
  5. 前記硬質被膜層は、更に第二単位層を含み、
    前記第二単位層の組成は、前記第一層の組成及び前記第一単位層の組成と異なり、
    前記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素からなる、又は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素及びホウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなり、
    前記第一単位層及び前記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成している、請求項に記載の切削工具。
  6. 前記第一単位層の厚さは、1nm以上100nm以下であり、
    前記第二単位層の厚さは、1nm以上100nm以下である、請求項に記載の切削工具。
  7. 前記被膜は前記硬質被膜層を含み、
    前記第一層の厚さは、0.1μm以上10μm以下であり、
    前記硬質被膜層の厚さは、0.1μm以上10μm以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の切削工具。
  8. 前記被膜は、
    前記第一層からなる、又は、
    前記基材上に配置された前記第一層と、前記第一層の上に配置された前記表面層と、からなり、
    前記第一層は、前記基材に接している、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
  9. 前記被膜の厚さは、0.2μm以上20μm以下である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の切削工具。
  10. 前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の切削工具。
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