JP2024022661A - 切削工具 - Google Patents

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さち子 小池
Sachiko Koike
圭一 津田
Keiichi Tsuda
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Abstract

【課題】耐摩耗性、耐欠損性及び耐凝着性に優れる切削工具を提供すること。【解決手段】基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、上記被覆層は、構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなり、上記被覆層における上記アルミニウム、上記チタン及び上記タングステンの全体を基準とした場合、上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cそれぞれは、以下の式1~式5、1/3<(b+2c)/a<1 式10.05<b<0.2 式20.1<c≦0.29 式3a+b+c=1 式4b<c 式5を満たし、上記被覆層は、構成元素としてケイ素を含まない、切削工具。【選択図】図2

Description

本開示は、切削工具に関する。
従来から、切削工具の長寿命化を目的として、種々の検討がなされている。例えば、国際公開第2017/061328号(特許文献1)には、基材と前記基材の表面に形成された被覆層とを含む被覆切削工具であって、前記被覆層は、少なくとも1層の所定の層を含み、前記所定の層は、下記式:
(AlTi1-x-y)N
[式中、MはZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表し、xはAl元素とTi元素とMで表される元素との合計に対するAl元素の原子比を表し、yはAl元素とTi元素とMで表される元素との合計に対するTi元素の原子比を表し、0.60≦x≦0.85、0≦y≦0.40、0.60≦x+y≦1.00を満足する。]
で表される組成を有する化合物を含有する層であり、前記所定の層の平均厚さは、1.4μm以上15μm以下であり、前記所定の層は、所定の条件(1)、(2)および(3)を満たす上部領域と下部領域とを有する、被覆切削工具が開示されている。
国際公開第2014/142190号(特許文献2)には、(AlTi1-a(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有し、アークイオンプレーティング法により形成された硬質皮膜であって、前記硬質皮膜のX線回折パターンがウルツ鉱型の単一構造を示し、前記ウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークが最大ピークであることを特徴とする硬質皮膜が開示されている。
国際公開第2017/061328号 国際公開第2014/142190号
近年はより高効率な(例えば、送り速度が大きい)切削加工が求められており、更なる性能の向上(例えば、刃先の欠け及び摩耗の抑制等)が期待されている。また、被削材の材料によって適した切削工具の開発が求められている。
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐摩耗性、耐欠損性及び耐凝着性に優れる切削工具を提供することを目的とする。
本開示に係る切削工具は、基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
上記被覆層は、構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなり、
上記被覆層における上記アルミニウム、上記チタン及び上記タングステンの全体を基準とした場合、上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cそれぞれは、以下の式1~式5、
1/3<(b+2c)/a<1 式1
0.05<b<0.2 式2
0.1<c≦0.29 式3
a+b+c=1 式4
b<c 式5
を満たし、
上記被覆層は、構成元素としてケイ素を含まない。
上記によれば、耐摩耗性、耐欠損性及び耐凝着性に優れる切削工具を提供することが可能になる。
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。 図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。 図3は、本実施形態の他の態様における切削工具の模式断面図である。 図4は、本実施形態の別の他の態様における切削工具の模式断面図である。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示に係る切削工具は、基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
上記被覆層は、構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなり、
上記被覆層における上記アルミニウム、上記チタン及び上記タングステンの全体を基準とした場合、上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cそれぞれは、以下の式1~式5、
1/3<(b+2c)/a<1 式1
0.05<b<0.2 式2
0.1<c≦0.29 式3
a+b+c=1 式4
b<c 式5
を満たし、
上記被覆層は、構成元素としてケイ素を含まない。
上記切削工具は、上述のような構成を備えることによって、耐摩耗性、耐欠損性及び耐凝着性に優れると考えられる。とりわけ、上記切削工具は、Ni基合金の高能率加工に適していると考えられる。ここで、「耐摩耗性」とは、切削加工に用いた場合被覆層を含む被膜が摩耗することに対する耐性を意味する。「耐欠損性」とは、切削加工に用いた場合被覆層を含む被膜に発生する欠けに対する耐性を意味する。「耐凝着性」とは、切削加工に用いた場合被覆層を含む被膜が被削材又は切り屑と凝着することに対する耐性を意味する。
[2]上記被覆層の任意の断面において上記被覆層の積層方向に沿って線分析を行った場合、上記アルミニウムの原子比の最大値と上記アルミニウムの原子比の最小値との差が0.03以下であることが好ましい。これにより、切削加工に用いた場合被覆層の摩耗が均一となり、安定性に優れた切削工具となる。
[3]上記タングステンの原子比cは、0.2を超えて0.25以下であることが好ましい。これにより、更に優れた耐摩耗性及び耐凝着性を有する切削工具となる。
[4]上記被覆層の厚みは、0.5μm以上5μm以下であることが好ましい。これにより、更に優れた耐摩耗性、耐欠損性及び耐凝着性を有する切削工具となる。
[5]上記基材と上記被覆層との間に配置されている少なくとも1層の下地層を更に備え、
上記下地層は、上記被覆層とは組成が異なる第一単位層を少なくとも含み、
上記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。これにより、耐摩耗性に更に優れ、かつ基材との密着性に優れた切削工具となる。
[6]上記第一単位層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。これにより、耐摩耗性に更に優れた切削工具となる。
[7]上記下地層は、上記被覆層及び上記第一単位層とは組成が異なる第二単位層を更に含み、
上記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。これにより、耐摩耗性に更に優れ、かつ基材との密着性に優れた切削工具となる。
[8]上記第二単位層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。これにより、耐摩耗性に更に優れた切削工具となる。
[9]上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していることが好ましい。これにより、耐欠損性に更に優れた切削工具となる。
[10]上記第一単位層の厚みと上記第二単位層の厚みとの合計は、1nm以上100nm以下であることが好ましい。これにより、耐欠損性に更に優れた切削工具となる。
[11]上記被覆層上に配置されている表面層を更に備え、
上記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなり、
上記表面層は、上記被覆層とは組成が異なることが好ましい。これにより、耐摩耗性に更に優れ、かつ摺動性に優れた切削工具となる。
[12]上記表面層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。これにより、耐摩耗性に更に優れた切削工具となる。
[13]上記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、高温における硬度と強度とに優れる切削工具となる。
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味する。Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「TiN」等のように、構成元素の比が限定されていない化学式によって化合物が表された場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「TiN」の化学式には、化学量論組成「Ti」のみならず、例えば「Ti0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「TiN」以外の化合物の記載、例えば「ZrN」についても同様である。
≪切削工具≫
本開示に係る切削工具は、
基材と上記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
上記被覆層は、構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなり、
上記被覆層における上記アルミニウム、上記チタン及び上記タングステンの全体を基準とした場合、上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cそれぞれは、以下の式1~式5、
1/3<(b+2c)/a<1 式1
0.05<b<0.2 式2
0.1<c≦0.29 式3
a+b+c=1 式4
b<c 式5
を満たし、
上記被覆層は、構成元素としてケイ素を含まない。
本実施形態の切削工具50は、基材10と、上記基材10上に配置されている被覆層11とを備える(以下、単に「切削工具」という場合がある。)(図2)。上記切削工具50は、上記被覆層11の他にも、上記被覆層11上に配置されている表面層12を更に備えていてもよい(図3)。また、上記切削工具50は、上記基材10と上記被覆層11との間に配置されている下地層13を更に備えていてもよい(図3)。表面層12及び下地層13については、後述する。
なお、上記基材10上に配置されている上述の各層をまとめて「被膜」と呼ぶ場合がある。すなわち、上記切削工具50は上記基材10上に配置されている被膜40を備え、上記被膜40は上記被覆層11を含む。また、上記被膜40は、上記表面層12を更に含んでいてもよい。上記被膜40は、上記下地層13を更に含んでいてもよい。本実施形態の一側面において、上記被膜は、上記基材におけるすくい面を被覆していてもよいし、すくい面以外の部分(例えば、逃げ面)を被覆していてもよい。
上記切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれの基材も使用することができる。例えば、上記基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。上記基材は、超硬合金、サーメット及びcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
これらの各種基材の中でも、特にWC基超硬合金又はcBN焼結体を選択することが好ましい。その理由は、これらの基材が特に高温における硬度と強度とのバランスに優れ、上記用途の切削工具の基材として優れた特性を有するためである。
基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素又はη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、cBN焼結体の場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
図1は、切削工具の基材の一態様を例示する斜視図である。このような形状の基材は、例えば、旋削加工用刃先交換型切削チップの基材として用いられる。上記基材10は、すくい面1と、逃げ面2と、上記すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、基材10の切刃先端部を構成する。このような基材10の形状は、上記切削工具の形状と把握することもできる。
上記切削工具が刃先交換型切削チップである場合、上記基材10は、チップブレーカーを有する形状も、有さない形状も含まれる。刃先稜線部3の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
以上、基材10の形状及び各部の名称を、図1を用いて説明したが、本実施形態に係る切削工具50において、上記基材10に対応する形状及び各部の名称については、上記と同様の用語を用いることとする。すなわち、上記切削工具は、すくい面と、逃げ面と、上記すくい面及び上記逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
<被膜>
本実施形態に係る被膜40は、上記基材10上に配置されている被覆層11を含む(図2参照)。「被膜」は、上記基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接するすくい面等)を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性、耐凝着性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。上記被膜は、上記基材の一部に限らず上記基材の全面を被覆することが好ましい。しかしながら、上記基材の一部が上記被膜で被覆されていなかったり被膜の構成が部分的に異なっていたりしていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
上記被膜の厚みは、0.5μm以上14μm以下であることが好ましく、1.2μm以上7μm以下であることがより好ましく、1.4μm以上4.1μm以下であることが更に好ましい。上記厚みが0.5μm未満である場合、耐摩耗性が低下する傾向がある。上記厚みが14μmを超えると、断続加工において被膜と基材との間に大きな応力が加わった際に被膜の剥離又は破壊の頻度が上昇する傾向がある。ここで、被膜の厚みとは、後述する被覆層、下地層及び表面層等の被膜を構成する層それぞれの厚みの総和を意味する。
上記被膜の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の3点を測定し、測定された3点の厚みの平均値をとることで求めることが可能である。被覆層、下地層(第一単位層、第二単位層)及び表面層それぞれの厚みを測定する場合も同様である。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製の球面収差補正装置、JEM-2100F(商品名)が挙げられる。
(被覆層)
上記被覆層は、構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなる。ここで、「構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなる」とは、上記被覆層が当該窒化物のみからなる態様に限られず、当該窒化物と不可避不純物とから構成される態様も含むことを意味する。上記窒化物としては、例えば、AlTiWNで表される化合物が挙げられる。上記不可避不純物としては、例えば、鉄(Fe)、クロム(Cr)が挙げられる。上記不可避不純物の含有割合は、被覆層の全質量に対して0質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。
上記被覆層は、上記基材上に配置されている。ここで「基材上に配置されている」とは、基材の直上に配置されている態様(図2参照)に限られず、他の層を介して基材の上に配置されている態様(図3参照)も含まれる。すなわち、上記被覆層は、本開示の効果が奏する限りにおいて、上記基材の直上に配置されていてもよいし、後述する下地層等の他の層を介して上記基材の上に配置されていてもよい。また、上記被覆層は、上記被膜の最表面であってもよい。
本実施形態において、上記被覆層における上記アルミニウム、上記チタン及び上記タングステンの全体を基準とした場合、上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cそれぞれは、以下の式1~式5、
1/3<(b+2c)/a<1 式1
0.05<b<0.2 式2
0.1<c≦0.29 式3
a+b+c=1 式4
b<c 式5
を満たす。
上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cそれぞれは、上記被覆層において基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルを得て、この断面サンプルに現われた結晶粒に対して走査型電子顕微鏡(SEM)又はTEMに付帯のエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)装置を用いて分析することにより、求めることが可能である。例えば上記アルミニウムの原子比aを求める場合、具体的には、上記断面サンプルの被覆層における任意の3点それぞれを測定して上記aの値を求め、求められた3点の値の平均値を上記断面サンプルの被覆層におけるアルミニウムの原子比aとする。上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比c、並びに、後述する下地層及び表面層の組成を求める場合も同様の方法で求めるものとする。ここで当該「任意の3点」は、各層中の任意の30nm×30nmの領域を3か所選択するものとする。なお、測定対象の層の厚みが50nm未満である場合は、1辺の長さが測定対象の層の厚みの60%である正方形となるように当該領域を設定するものとする。上記EDX装置としては、例えば、日本電子株式会社製のシリコンドリフト検出器、JED-2200(商品名)が挙げられる。
上記式1において、(b+2c)/aの値は、1/3を超えて1未満であり、0.59以上0.95以下であることが好ましく、0.7以上0.83以下であることがより好ましい。(b+2c)/aの値が上述の範囲の値をとることで、耐欠損性及び耐凝着性に優れる切削工具とすることができる。
上記式2において、上記チタンの原子比bは、0.05を超えて0.2未満であり、0.07以上0.17以下であることが好ましく、0.08以上0.13以下であることがより好ましい。チタンの原子比bが上述の範囲の値をとることで、耐欠損性及び耐摩耗性に優れる切削工具とすることができる。
上記式3において、上記タングステンの原子比cは、0.1を超えて0.29以下であり、0.15以上0.27以下であることが好ましく、0.2を超えて0.25以下であることがより好ましい。タングステンの原子比cが上述の範囲の値をとることで、耐凝着性及び耐摩耗性に優れる切削工具とすることができる。
従来、AlTiWNにおけるタングステンの原子比が大きいと、AlTiWNの結晶格子が崩れて硬度が低下すると考えられていた。しかし、本発明者らは後述する製造方法によって被覆層を形成することで、硬度を大きく低下させることなくタングステンの原子比を大きくすることに成功し、もって耐凝着性に優れる被覆層とすることができた。
本実施形態において、上記アルミニウムの原子比a、上記チタンの原子比b及び上記タングステンの原子比cの合計は1である(式4)。また、上記タングステンの原子比cは、上記チタンの原子比bより大きい(式5)。
上記被覆層は、構成元素としてケイ素を含まない。このようにすることで、耐凝着性に優れる切削工具にすることができる。上記被覆層がケイ素を含まないことによって、微少な非晶質相の生成が抑制され、その結果耐凝着性が向上していると本発明者らは考えている。
上記被覆層の任意の断面において上記被覆層の積層方向に沿って線分析を行った場合、上記アルミニウムの原子比の最大値と上記アルミニウムの原子比の最小値との差が0.03以下であることが好ましい。これにより、上記被覆層内にアルミニウムが均一に分布することになる。その結果、切削加工に用いた場合被覆層の摩耗が均一となり、安定性に優れた切削工具となる。ここで、上記被覆層の任意の断面は、上記基材の表面の法線方向に平行な断面である。上記線分析は、上述のEDXを用いて行うことが可能である。このとき、少なくとも3視野において、上述の最大値と最小値との差を求め、求められた値の平均値を当該被覆層における上記アルミニウムの原子比の最大値と上記アルミニウムの原子比の最小値との差(Δa)とする。なお、Δaの下限値は、特に制限されないが、例えば0以上であってもよい。
上記被覆層の厚みは、0.5μm以上5μm以下であることが好ましく、1μm以上4.5μm以下であることがより好ましく、2μm以上4μm以下であることが更に好ましい。上記被覆層の厚みが上述の範囲の値をとることで耐凝着性及び耐摩耗性に優れる切削工具とすることができる。上記被覆層の厚みは、上述の断面サンプルをTEMで分析することで求めることができる。
(下地層)
上記切削工具は、上記基材10と上記被覆層11との間に配置されている少なくとも1層の下地層13を更に備えることが好ましい(図3参照)。例えば、下地層は、1層であってもよいし、2層であってもよいし、3層以上であってもよい。上記下地層は、上記被覆層とは組成が異なる第一単位層を少なくとも含むことが好ましく、上記被覆層及び上記第一単位層とは組成が異なる第二単位層を更に含むことがより好ましい。ここで「上記基材と上記被覆層との間に配置されている」とは、上記被覆層の下側(基材側)に下地層が配置されていればよく、上記下地層と上記被覆層とは必ずしも接触していることを要しない。言い換えると、上記下地層と被覆層との間に他の層が配置されていてもよい。上記下地層は、被覆層の直下に配置されていることが好ましい。また、下地層は基材と必ずしも接触していることを要しない。言い換えると、上記下地層と基材との間に他の層が配置されていてもよい。
(第一単位層)
上記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム(Al)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。上記第一単位層は、チタン(Ti)、クロム(Cr)、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることがより好ましい。周期表4族元素としては、チタン、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。周期表6族元素としては、クロム、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。
上記第一単位層を構成する化合物としては、例えば、TiWN、TiN、ZrC、TiCNO、TiAlSiN、TiSiN、TiAlN、AlCrN、TiCrSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrO、AlCrSiN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、AlCrTaN、AlTiVN、TiB、TiCrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、TiAlWN、AlCrMoCN、TiAlBN、TiAlCrSiBCNO、ZrN及びZrCN等が挙げられる。
上記下地層が上記第一単位層のみからなる場合、上記第一単位層(すなわち、上記下地層)の厚みは、0.002μm以上10μm以下であることが好ましく、0.005μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。上記第一単位層の厚みは、上述の断面サンプルをTEMで分析することで求めることができる。
(第二単位層)
上記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。上記第二単位層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素又は、上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることがより好ましい。上記第二単位層は、上記被覆層及び上記第一単位層とは組成が異なる。
上記第二単位層を構成する化合物としては、上記第一単位層を構成する化合物と同様の化合物を使用できる。
さらに、上記第一単位層及び上記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成していることが好ましい。すなわち、図4に示すように、下地層13は、第一単位層131及び第二単位層132からなる多層構造を含むことが好ましい。ここで上記多層構造は、上記第一単位層又は上記第二単位層のいずれの層から積層を開始してもよい。すなわち、上記多層構造における基材側の界面は、上記第一単位層又は上記第二単位層のどちらで構成されていてもよい。また、上記多層構造における上記被覆層側の界面についても、上記第一単位層又は上記第二単位層のどちらで構成されていてもよい。多層構造を形成することにより、亀裂進展を抑制できるという効果がある。
上記下地層が上記多層構造を含む場合、上記下地層の厚みは、0.002μm以上10μm以下であることが好ましく、0.005μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。上記下地層の厚みは、上述の断面サンプルをTEMで分析することで求めることができる。
第一単位層及び第二単位層が上記多層構造を形成する場合、上記第一単位層の厚みと上記第二単位層の厚みとの合計(積層周期)は、1nm以上100nm以下であることが好ましい。ここで、「上記第一単位層の厚みと上記第二単位層の厚みとの合計」とは、1層の第一単位層の厚みと1層の第二単位層の厚みとの合計を意味する。積層周期が上述の範囲の値をとることで、亀裂進展の抑制効果が向上した切削工具とすることができる。
また、当該多層構造の積層数は、上記下地層全体の厚みが上記範囲内となる限り、上記第一単位層、上記第二単位層をそれぞれ一層ずつ積層させる態様が含まれるとともに、両層をそれぞれ2層以上、具体的には20~2500層ずつ交互積層させたものとすることができる。
(表面層)
上記切削工具は、上記被覆層上に配置されている表面層12を更に備えることが好ましい(図3参照)。上記表面層は、上記被覆層とは組成が異なることが好ましい。ここで「上記被覆層上に配置されている」とは、上記被覆層の上側(基材とは反対側)に表面層が配置されていればよく、上記被覆層と上記表面層とは必ずしも接触していることを要しない。言い換えると、上記被覆層と上記表面層との間に他の層が配置されていてもよい。上記表面層は、被覆層の直上に配置されていることが好ましい。本実施形態の一側面において、上記表面層は、上記第一単位層とは、組成が同一であってもよいし、異なっていてもよい。上記表面層は、上記第二単位層とは、組成が同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることが好ましい。上記表面層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素又は、上記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなることがより好ましい。
上記表面層を構成する化合物としては、上記第一単位層を構成する化合物と同様の化合物を使用できる。
上記表面層の厚みは、0.002μm以上10μm以下であることが好ましく、0.005μm以上1.5μm以下であることがより好ましい。上記表面層の厚みは、上述の断面サンプルをTEMで分析することで求めることができる。
≪切削工具の製造方法≫
本実施形態に係る切削工具の製造方法は、
基材を準備する工程と、
上記基材上に被覆層を形成する工程と、
を含む。本実施形態に係る切削工具の製造方法はこれらの工程を含む限り、その他の工程を含んでもよい。以下、各工程について説明する。
<基材を準備する工程>
本工程では、上記基材を準備する。上記基材としては、上述したようにこの種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。基材は、製造してもよいし、市販品を購入してもよい。基材を製造する場合、従来公知の方法を用いて製造してもよい。例えば、上記基材が超硬合金からなる場合、まず所定の配合組成(質量%)からなる原料粉末を市販のアトライターを用いて均一に混合して、続いてこの混合粉末を所定の形状(例えば、SEET13T3AGSN、CNMG120408、AXMT170512等)に加圧成形する。その後上述の成形体を、所定の焼結炉において1300~1500℃以下で、1~2時間焼結することにより、超硬合金からなる上記基材を得ることができる。市販品を購入する場合、市販品としては、例えば、住友電工ハードメタル株式会社製のEH520(商品名)が挙げられる。
<基材上に被覆層を形成する工程>
本工程では、上記基材上に被覆層を形成する。
上記被覆層を形成する方法としては、特に制限されないが、例えば、物理蒸着法(PVD法)によって、上記基材上に被覆層を形成することが挙げられる。
上記物理蒸着法としては、従来公知の物理蒸着法を特に限定することなく用いることができる。このような物理蒸着法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、電子イオンビーム蒸着法等を挙げることができる。特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法又はスパッタリング法を用いると、被膜を形成する前に基材表面に対して金属又はガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜と基材との密着性が格段に向上するので好ましい。
アークイオンプレーティング法により被覆層を形成する場合、例えば以下のような条件を挙げることができる。すなわち、まずWターゲットとAlTiターゲットとを、装置内において隣接するアーク式蒸発源にそれぞれセットし、基板(基材)温度を400~650℃及び該装置内のガス圧を0.5~5Paに設定する。上記ガスとしては、例えば、窒素ガスを導入する。そして、基板側(負)のバイアス電圧を20~100V且つパルスDC(周波数10~300kHz)に維持したまま、カソード電極に80~150Aのアーク電流を定電流で供給し、アーク式蒸発源からターゲット由来の金属イオン等を発生させることにより被覆層を形成することができる。アーク電流を定電流とすることによって、積層方向に沿ってアルミニウムが均一に分布する被覆層を形成することができると本発明者らは考えている。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、例えば、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)が挙げられる。
<その他の工程>
本実施形態に係る製造方法では、上述した工程の他にも、上記基材と上記被覆層との間に下地層を形成する工程、上記被覆層上に表面層を形成する工程等を適宜行ってもよい。上述の下地層及び表面層は、従来の方法によって形成されてもよい。具体的には、例えば、上述したPVD法によって下地層、表面層を形成することが挙げられる。
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
<切削工具の製造>
(基材を準備する工程)
まず、基材を準備する工程として、JIS規格K20超硬合金(形状:JIS規格AXMT170512)を基材として準備した。次に、上記各基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
(被覆層を形成する工程)
次に、被覆層を形成する工程として、アークイオンプレーティング法により上記基材の上に被覆層を形成した。具体的には以下の方法で行った。まずAlTiターゲット(組成がAlTiであって、各金属元素の原子比が表1又は表2に記載の原子比に対応するターゲット)及びWターゲットをアークイオンプレーティング装置の隣接するアーク式蒸発源にそれぞれセットした。次に、基材温度を520℃及び該装置内のガス圧を2.6Paに設定した。上記ガスとしては、窒素ガスを導入した。そして、基材側(負)のバイアス電圧を30V、且つパルスDC(周波数30kHz)に維持したまま、AlTiターゲットのカソード電極及びWターゲットのカソード電極にそれぞれ150A及び100Aのアーク電流を定電流で供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源からターゲットに由来する金属イオン等を発生させることにより被覆層を形成した。なお、試料105については、ターゲットとして、AlTiの代わりに、AlTiSiを用いた。
(下地層の形成)
試料29、31及び32については、被覆層を形成する工程の前に、基材上に下地層を形成した。なお、試料32については、まず、第一下地層を基材上に形成した後に、上記第一下地層の上に第二下地層を形成した。このときのターゲットは、それぞれWCr(試料29)、AlTiB(試料31)、並びに、WTi(試料32の第一下地層)、AlTi及びAlTiB(試料32の第二下地層)を用いた。まず、基材温度を450℃及び該装置内のガス圧を1.0Paに設定した。上記ガスとしては、NとCHとの混合ガス(試料29)、Nガス(試料31)又はNとCHとの混合ガス(試料32)を導入した。そして、基材側(負)のバイアス電圧を60V且つDCに維持したまま、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源からターゲットに由来する金属イオン等を発生させることにより基材上に下地層を形成した。
(表面層の形成)
試料30及び31については、被覆層を形成する工程の後に、上記被覆層上に表面層を形成した。このときのターゲットは、それぞれZr(試料30)及びTi(試料31)を用いた。まず、基材温度を450℃及び該装置内のガス圧を1.0Paに設定した。上記ガスとしては、窒素ガス(試料30及び31)を導入した。そして、基材側(負)のバイアス電圧を30V(試料30)又は50V(試料31)、且つDCに維持したまま、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源からターゲットに由来する金属イオン等を発生させることにより被覆層上に表面層を形成した。
以上の手順により、試料1~32及び試料101~105の切削工具を作製した。ここで、試料1~32は実施例に相当し、試料101~105は比較例に相当する。
<切削工具の評価>
(各層の厚みの測定)
被覆層、下地層及び表面層それぞれの厚みは、以下のようにして求めた。まず透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM-2100F)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルの各層における任意の3点を測定した。その後、測定された3点の厚みの平均値をとることで求めた。結果を表1及び表2に示す。表中、「-」との表記は、該当する層が被膜中に存在しないことを示す。また、試料32における「[(Al0.64Ti0.36N)7nm/(Al0.56Ti0.410.03N)8nm]x100」の表記は、下地層が、厚み7nmのAl0.64Ti0.36Nからなる層(第一単位層)と厚み8nmのAl0.56Ti0.410.03Nからなる層(第二単位層)とを交互に100回積層した多層構造(合計厚み1.5μm)により形成されていることを示している。
(各層の組成)
被覆層、下地層及び表面層それぞれの組成をTEMに付帯のEDX(日本電子株式会社製、商品名:JED-2200)によって測定した。具体的には、上記断面サンプルの各層における任意の3点それぞれを測定して、各構成元素の原子比の値を求め、求められた3点の値の平均値を上記断面サンプルの各層における原子比とした。ここで当該「任意の3点」は、各層中の任意の30nm×30nmの領域を3か所選択した。なお、測定対象の層の厚みが50nm未満である場合は、1辺の長さが測定対象の層の厚みの60%である正方形となるように当該領域を設定した。結果を表1及び表2に示す。
(積層方向における被覆層中のアルミニウムの分布)
積層方向における被覆層中のアルミニウムの分布を、上述のEDXを用いて求めた。具体的には、上記断面サンプルの被覆層において、上記被覆層の積層方向に沿って線分析を行った。次に線分析の結果に基づいて、上記アルミニウムの原子比の最大値と上記アルミニウムの原子比の最小値とを求め、これらの差を求めた。この測定を少なくとも3視野において行った。最後に求められた差の平均値を、当該被覆層における上記アルミニウムの原子比の最大値と上記アルミニウムの原子比の最小値との差(Δa)とした。結果を表1及び表2に示す。表1及び表2の結果から試料1~32の切削工具では、上記差Δaが0.03以下であり、上記被覆層内にアルミニウムが均一に分布していることが分かった。
Figure 2024022661000002
Figure 2024022661000003
<切削試験>
上述のようにして作製した試料1~32及び試料101~105の切削工具を用いて、正面フライス加工試験を実施した。切削試験の切削条件を以下に示す。ここで、被削材として用いているInconel718は、難削材として知られているNi基合金である。上記切削試験は、切削時間が長いほど耐摩耗性、耐欠損性及び耐凝着性に優れる切削工具として評価することができる。結果を表3及び表4に示す。
(正面フライス加工試験の切削条件)
被削材(材質):Inconel718
速度 :30m/分
送り :0.03mm/刃
切り込み :ap0.8mm、ae30mm
切削環境 :wet
評価法 :切削工具が欠損するまでの切削時間
Figure 2024022661000004
Figure 2024022661000005
表3及び表4より、試料1~32の切削工具は、切削時間が39分以上であり良好な結果が得られた。一方、試料101~105の切削工具は、切削時間が35分以下であった。以上の結果から、試料1~32の切削工具は、試料101~105の切削工具に比べて、耐欠損性、耐反応性、及び耐摩耗性に優れていることが分かった。試料1~32の切削工具は、特にInconel718等のNi基合金の切削加工に適していることが示唆された。
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態及び各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 すくい面
2 逃げ面
3 刃先稜線部
10 基材
11 被覆層
12 表面層
13 下地層
40 被膜
50 切削工具
131 第一単位層
132 第二単位層

Claims (13)

  1. 基材と前記基材上に配置されている被覆層とを備える切削工具であって、
    前記被覆層は、構成元素としてアルミニウム、チタン及びタングステンを含む窒化物からなり、
    前記被覆層における前記アルミニウム、前記チタン及び前記タングステンの全体を基準とした場合、前記アルミニウムの原子比a、前記チタンの原子比b及び前記タングステンの原子比cそれぞれは、以下の式1~式5、
    1/3<(b+2c)/a<1 式1
    0.05<b<0.2 式2
    0.1<c≦0.29 式3
    a+b+c=1 式4
    b<c 式5
    を満たし、
    前記被覆層は、構成元素としてケイ素を含まない、切削工具。
  2. 前記被覆層の任意の断面において前記被覆層の積層方向に沿って線分析を行った場合、前記アルミニウムの原子比の最大値と前記アルミニウムの原子比の最小値との差が0.03以下である、請求項1に記載の切削工具。
  3. 前記タングステンの原子比cは、0.2を超えて0.25以下である、請求項1又は請求項2に記載の切削工具。
  4. 前記被覆層の厚みは、0.5μm以上5μm以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の切削工具。
  5. 前記基材と前記被覆層との間に配置されている少なくとも1層の下地層を更に備え、
    前記下地層は、前記被覆層とは組成が異なる第一単位層を少なくとも含み、
    前記第一単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は前記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなる、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の切削工具。
  6. 前記第一単位層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は前記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなる、請求項5に記載の切削工具。
  7. 前記下地層は、前記被覆層及び前記第一単位層とは組成が異なる第二単位層を更に含み、
    前記第二単位層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は前記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなる、請求項5又は請求項6に記載の切削工具。
  8. 前記第二単位層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は前記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなる、請求項7に記載の切削工具。
  9. 前記第一単位層及び前記第二単位層は、それぞれが交互に1層以上積層された多層構造を形成している、請求項7又は請求項8に記載の切削工具。
  10. 前記第一単位層の厚みと前記第二単位層の厚みとの合計は、1nm以上100nm以下である、請求項9に記載の切削工具。
  11. 前記被覆層上に配置されている表面層を更に備え、
    前記表面層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は前記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなり、
    前記表面層は、前記被覆層とは組成が異なる、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の切削工具。
  12. 前記表面層は、チタン、クロム、アルミニウム及びケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素、又は前記金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の非金属元素とからなる化合物からなる、請求項11に記載の切削工具。
  13. 前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、及びダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の切削工具。
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