JP2020196045A - 鋼矢板の圧延方法及び圧延設備 - Google Patents

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Abstract

【課題】上下ロールのトルクのアンバランスを解消させることができる、鋼矢板の圧延方法及び圧延設備を提供すること。【解決手段】ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板、またはウェブとフランジと継手部とを有するU形鋼矢板を、上下方向に対向して設けられ、孔型が刻設された上ロール(例えば、上ロール61)と下ロール(例えば、下ロール62)とで圧延する、鋼矢板1の圧延方法であって、上ロール及び下ロールの孔型で素材を圧延する際に、上ロール及び下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測し、次以降に圧延される素材について、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、孔型の圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する。【選択図】図6

Description

本発明は、鋼矢板の圧延方法及び圧延設備に関する。
土木工事の土留め部材として用いられる鋼矢板1には、図1(A)に断面形状を示すハット形鋼矢板1Aや、図1(B)に断面形状を示すU形鋼矢板1B等がある。
これらのハット形鋼矢板1AやU形鋼矢板1Bは、図2に設備配列の模式例を示す圧延設備2で製造される。すなわち、スラブやブルームを素材として、この素材を加熱炉3で所定の温度(たとえば1300℃)まで加熱した後、粗圧延機4、中間圧延機5及び仕上圧延機6の順に搬送され、各圧延機で所定の断面、形状にまで圧延され、製品形状となる。なお、各圧延機での圧延について、粗圧延機4での圧延を粗圧延、中間圧延機5での圧延を中間圧延、及び仕上圧延機6での圧延を仕上圧延ともいう。
これらの圧延機には、カリバと呼ばれる孔型が、上ロールと下ロールとに刻設されている。なお、以下では、上ロールと下ロールとをまとめて、上下ロールまたはロール組ともいう。
図3(A)は、ハット形鋼矢板1Aの粗圧延に用いられる粗圧延機4の孔型の例であり、上ロール41と下ロール42とに対し、Box孔型71、K8孔型72及びK7孔型73という3つの孔型が刻設されている。
図3(A)に示す粗圧延機4での粗圧延では、スラブを素材として、まず、Box孔型71で、スラブの幅圧下が行われる。次いで、K8孔型72で、スラブのハット形への曲げ変形及び厚み圧下が行われる。さらに、K7孔型73で、さらに厚み圧下が行われ、製品断面形状に近い形に造形される。粗圧延のK8孔型72及びK7孔型73では、それぞれ複数パスの圧延が行われている。
中間圧延機5についても同様に、2〜4つ程度の孔型が上下で一つのロール組に刻設されており、これらの孔型での圧延が順次行われる。
仕上圧延機6についても同様に、1〜3つ程度の孔型が上下で一つのロール組に刻設されており、これらの孔型での圧延が順次行われる。図3(B)は、ハット形鋼矢板1A用の仕上圧延機6の孔型の例であり、上下で一つのロール組である上ロール61と下ロール62とに対し、K2孔型74及びK1孔型75の2つの孔型が刻設されている。図3(B)の例では、中間圧延された素材に対して、K2孔型74で最終的な厚み圧下が行われ、K1孔型75で継手部14の曲げ成形が行われ製品断面形状となる。
なお、中間圧延及び仕上圧延では、各孔型での圧延パス数は1パスが基本であり、同一孔型での圧延パス数は、多い場合でも2、3パス程度である。
また、U形鋼矢板1Bについても、ハット形鋼矢板1Aと同様に、孔型が刻設された複数の圧延機によって、徐々に製品断面形状となるように圧延が行われる。
このようにして圧延される鋼矢板1は、近年の鋼材の断面性能向上の要求とともに、大型化が進んでいる。例えば、ハット形鋼矢板1Aにおいては、図1に示した有効幅Wが900mm(従来は最大600mm)で、全高さHが370mmとなる(従来は最大225mm)、大型のものが開発されている。
このように、鋼矢板1の大型化が進むと、圧延機にかかる圧延負荷(圧延荷重や圧延トルク、主機電流)が非常に大きくなる傾向となる。
図4には、鋼矢板用の一般的な圧延機の駆動系の模式として、仕上圧延機6における構成を示す。一般的に、圧延機では、主機モータ63で回転の駆動力を発生させ、この駆動力はモータカップリング64を介してピニオンスタンド65に伝えられる。ピニオンスタンド65では、ピニオンギア651a,651bにより駆動力が上下ロールに振り分けられる。振り分けられた駆動力は、スピンドル66a,66b及び、スピンドル66a,66bのスピンドルカップリング661a,661bに接続されたカップリングフォーク67a,67bを介して、上ロール61及び下ロール62にそれぞれ伝えられる。なお、図4は主機モータ63が1台の例であるが、主機モータ63を2台直列に配置した圧延機もある。また、ピニオンスタンド65なしで、上下それぞれのロールの駆動力を上下別々の主機モータ63で与える、ツインドライブ式の圧延機もある。
圧延のトルク(以下、「圧延トルク」ともいう。)が大きいと、スピンドル66a,66bやピニオンギア651a,651bにかかる駆動力によって、ねじりトルクが大きくなる。特に、圧延トルクが大きすぎる場合は、これらの設備を破損させる危険性がある。
したがって、上述の大型の鋼矢板1を圧延する際には、圧延トルクが圧延機の各部位の許容トルクを超えないように、ロールのカリバ形状・配列や、厚み圧下スケジュール等を工夫して設計、設定する必要がある。
形鋼の圧延における圧延操業条件の設計方法としては、例えば、特許文献1が挙げられる。特許文献1では、
(1)孔型ロール形状を設計
(2)ロールの仮有効径を設定
(3)機械的性質を担保するパススケジュールを設計
(4)温度評価ステップ
(5)圧延荷重ないし圧延トルクの負荷評価
という、5つのステップで圧延操業条件の設計を行う。圧延トルクの評価については、矩形換算法(非特許文献1)を活用できる、とされている。
また、形鋼の圧延におけるパススケジュールの決定方法としては、例えば、特許文献2がある。特許文献2では、H形鋼のユニバーサル圧延において、トルクアーム係数を用いて圧延トルクを予測している。
また、特許文献3では、H形鋼のユニバーサル圧延での圧延速度の設定方法として、H形鋼について、各部の断面積、変形抵抗、圧下率からトルクを算出し速度設定を行う技術が開示されている。
特開2015−123477号公報 特開平8−252613号公報 特開2002−1409号公報
日本塑性加工学会編、「棒線・形・管圧延 世界をリードする圧延技術(塑性加工技術シリーズ8)」、コロナ社、1991年8月20日
ところで、特許文献2,3に記載されたトルクの予測技術は、H形鋼を対象としており、鋼矢板に対してそのまま適用できる技術ではない。
また、特許文献1〜3及び非特許文献1に記載された圧延トルクの予測方法は、上下ロールのトルクを合わせた和トルクについて予測するものであり、上下それぞれの個別のトルクについては何ら記載がなされていない。ところが、断面形状が上下で非対称となる鋼矢板では、上下ロールのトルクがアンバランスになることが非常に多く、場合によっては、例えば上ロールのトルクのみが過大となり、上ロールのカップリングフォークやスピンドルを破損させる、という問題点・危険性を有していた。
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、上下ロールのトルクのアンバランスを解消させることができる、鋼矢板の圧延方法及び圧延設備を提供することを目的としている。
本発明者らは、図1(A)に示したハット形鋼矢板1Aの圧延にあたり、試験的に、スピンドルにかかるトルクの実測を行った。トルクの実測では、仕上圧延機6の上下のスピンドル66a,66bにひずみゲージを貼付し、圧延中のひずみ値を送信機で無線送信し、これを受信機で受け取り、ひずみ値から換算することで、トルクを実測した。
この結果、圧延トルクのチャートの模式を図5に示すように、上ロール61のトルクと下ロール62のトルクとの和トルクが同程度である場合において、上ロール61のトルクと下ロール62のトルクとのアンバランスが小さい場合(図5(A))と、大きい場合(図5(B))とがあることが確認できた。また、このトルクのアンバランス状態の変化は、圧延条件の小さな変化に影響されることが分かった。
このような現象について、発明者らはさらに調査を続け、鋼矢板1をハット姿勢(ウェブがフランジや継手部より上となる姿勢)で圧延している場合、ウェブの厚み圧下率が腕部や継手部の圧下率に対して大きいと、下ロールのトルクが上ロールのトルクよりも相対的に大きくなり、逆に、ウェブの厚み圧下率が腕部や継手部の圧下率に対し小さいと、上ロールのトルクが下ロールのトルクよりも相対的に大きくなることが判明した。
なお、図5で模式的に示した噛み込み端と尻抜け(噛み放し)端のトルクのピーク部(ピークトルク)は、非定常部となる材料先尾端部の温度が低いことが主原因で発生するものであるが、上下それぞれのピークトルクも材料先尾端部を除く定常部の平均トルクに比例する形で大きくなる。したがって、定常部の上下ロールのトルクアンバランスを解消させることで、先尾端のピークトルクも軽減することができる。
本発明は、このような知見に基づきなされたものであり、本発明の一態様によれば、ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板、またはウェブとフランジと継手部とを有するU形鋼矢板を、上下方向に対向して設けられ、孔型が刻設された上ロールと下ロールとで圧延する、鋼矢板の圧延方法であって、上記上ロール及び上記下ロールの上記孔型で素材を圧延する際に、上記上ロール及び上記下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測し、次以降に圧延される素材について、上記上ロールの圧延トルクと上記下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、上記孔型の上記圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する、鋼矢板の圧延方法。
また、本発明の一態様によれば、ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板、またはウェブとフランジと継手部とを有するU形鋼矢板を圧延する、鋼矢板の圧延設備であって、上下方向に対向して設けられ、少なくとも一つの孔型が刻設される上ロールと下ロールとをそれぞれ有する、複数の圧延機と、上記孔型で素材を圧延する際に、上記上ロールの圧延トルク及び上記下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測する、トルク計測部と、次以降に圧延される素材について、上記上ロールの圧延トルクと上記下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、上記孔型の上記圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する演算装置と、を備える、鋼矢板の圧延設備。
本発明の一態様によれば、上下ロールのトルクのアンバランスを解消させることができる、鋼矢板の圧延方法及び圧延設備が提供される。
鋼矢板の断面形状を示す模式図であり、(A)はハット形鋼矢板を示し、(B)はU形鋼矢板を示す。 鋼矢板の圧延設備を示す模式図である。 圧延機の孔型の一例を示す断面図であり、(A)は粗圧延機の孔型を示し、(B)は仕上圧延機の孔型を示す。 仕上圧延機の設備構成を示す模式図である。 仕上圧延における圧延トルクの計測結果を示すグラフであり、(A)は上下のトルクのアンバランスが小さい場合を示し、(B)は上下のトルクのアンバランスが大きい場合を示す。 本発明の一実施形態の係る圧延設備における、仕上圧延機の構成を示す模式図である。 ウェブ厚みの圧下量と上下ロールの圧延トルクのトルク比率との関係を示すグラフである。 K2孔型のロール隙を示す拡大断面図である。 実施例における圧延トルクの計測結果を示すグラフである。 比較例における圧延トルクの計測結果を示すグラフである。
以下の詳細な説明では、本発明の完全な理解を提供するように、本発明の実施形態を例示して多くの特定の細部について説明する。しかしながら、かかる特定の細部の説明がなくても1つ以上の実施態様が実施できることは明らかである。また、図面は、簡潔にするために、周知の構造及び装置が略図で示されている。
<圧延設備>
図面を参照して、本発明の一実施形態に係る鋼矢板1の圧延設備について説明する。本実施形態では、鋼矢板1は図1(A)に示すハット形鋼矢板1Aであり、スラブを素材として図2と同様な圧延設備2にて、圧延を行うことで断面がハット形状の鋼矢板1が製造される。つまり、本実施形態に係る圧延設備2は、図2に示すように、加熱炉3と、粗圧延機4と、中間圧延機5と、仕上圧延機6とを備える。
さらに、本実施形態では、圧延設備2は、図6に示すように、トルク計測部8と、演算装置9とを備える。また、仕上圧延機6には、上ロール61の上下方向の位置を変えることで、仕上圧延機6での圧下条件を変える調整機構68を備える。調整機構68は、上ロール61の長手方向の両端を支持する部位に設けられ、シリンダー等の機構を用いて上ロール61の上下方向の位置を調整する。また、圧下条件とは、圧延機での圧延時の上ロールと下ロールとの間の距離であるロール隙であり、これにより圧下される素材の圧下量が調整される。
トルク計測部8は、仕上圧延機6にて素材を圧延する際に、上ロール61及び下ロール62の圧延トルクを計測する、計測装置である。なお、上ロール61の圧延トルクを第1圧延トルクといい、下ロール62の圧延トルクを第2トルクという。本実施形態では、トルク計測部8は、スピンドル66a,66bのひずみを計測し、計測したひずみをトルク値に換算することでトルクを計測する。トルク計測部8は、図6に示すように、第1計測部81と、第2計測部82と、受信部83とを有する。
第1計測部81は、上ロール61に接続されるスピンドル66aに取り付けられ、スピンドル66aのひずみを連続的に測定するひずみゲージである。また、第1計測部81は、測定されるひずみの測定値であるひずみデータを、受信部83に無線で送信する。
第2計測部82は、下ロール62に接続されるスピンドル66bに取り付けられ、スピンドル66bのひずみを連続的に測定するひずみゲージである。また、第2計測部82は、測定されるひずみの測定値であるひずみデータを、受信部83に無線で送信する。
受信部83は、第1計測部81及び第2計測部82から無線送信されるひずみデータを受信し、受信したひずみデータを圧延トルクの値である圧延トルクデータに変換する。また、受信部83は、変換した圧延トルクデータを演算装置9に伝達する。
演算装置9は、取得した圧延トルクデータに応じて、上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じているか否かを判断し、判断の結果に応じて、仕上圧延機6での圧下条件を変更する。圧下条件の変更は、演算装置9によって、調整機構68が駆動して、目標となる圧下条件となるように上ロール61の上下方向の位置が調整されることで行われる。なお、演算装置9による圧下条件の調整については、後述する。
(鋼矢板の圧延方法)
次に、本実施形態に係る鋼矢板1の圧延方法について説明する。本実施形態では、加熱炉3で所定の温度まで加熱された矩形スラブを、粗圧延機4、中間圧延機5及び仕上圧延機6で順に圧延することで、図1(A)に示す断面形状のハット形鋼矢板1Aを製造する。また、圧延設備2では、複数本の素材が順次圧延されることで、同一サイズとなる製品(ハット形鋼矢板1A)が連続して製造される。
圧延設備2での圧延では、まず、粗圧延機4の各孔型にて、素材の圧延が複数回行われることで、素材であるスラブの幅圧下、ハット形への曲げ変形及び厚み圧下が行われる(粗圧延)。
次いで、中間圧延機5の各孔型にて、粗圧延された素材が圧延されることで、素材の厚み圧下が行われる(中間圧延)。中間圧延では、中間圧延機5として2つのロール組が設けられ、各ロール組に2つの孔型がそれぞれ刻設される。そして、2つのロール組の長手方向に並んだ2つの孔型で、タンデム圧延されることで素材が圧延される。
さらに、仕上圧延機6の各孔型にて、中間圧延された素材が圧延されることで、製品であるハット形鋼矢板1Aが製造される(仕上圧延)。仕上圧延では、図3(B)に示す、K2孔型74及びK1孔型75で圧延が行われる。K2孔型74では、最終的な厚み圧下が行われ、K1孔型75では、継手部14の曲げ成形が行われる。また、K2孔型74及びK1孔型75での圧延パス数は、基本的に1パスとする。
また、本実施形態では、仕上圧延機6のK2孔型74で圧延が行われる際に、トルク計測部8によって、上ロール61の圧延トルクである第1圧延トルク及び下ロール62での圧延トルクである第2圧延トルクが計測される。第1圧延トルク及び第2圧延トルクは、第1計測部81及び第2計測部82にて圧延中に測定され、受信部83に送信されるひずみデータを変換することで得られる。ひずみデータの変換は、受信されるひずみデータのひずみの値を、受信部83のアンプを介してトルク値に換算することで行われる。ひずみからトルクへの換算については、例えば、一般的に知られている下記(1)式を用いることができる。
T=εEZ/(1+ν) ・・・(1)
T:トルク
ε:ひずみ
E:スピンドルのヤング率
ν:スピンドルのポアソン比
:スピンドルの極断面係数
そして、演算装置9は、上ロール61及び下ロール62の圧延トルクデータをそれぞれ平均することで、圧延中の上ロール61及び下ロール62の圧延トルクである第1圧延トルク及び第2圧延トルクを演算する。その後、演算装置9は、第1圧延トルク及び第2圧延トルクに応じて、上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じているか否かを判断する。この際、演算装置9は、第2圧延トルクに対する第1圧延トルクの比率であるトルク比率を算出し、このトルク比率が第1閾値以上、且つ第2閾値以下の範囲にあるか否かを判断することで、アンバランスが生じているか否かを判断する。なお、第1閾値を0.67とすることが好ましく、第2閾値を1.50とすることが好ましい。トルク比率が0.67以上1.50以下の範囲にある場合には、上ロール61と下ロール62とでの圧延トルクのアンバランスが問題となることはない。しかし、トルク比率が0.67未満、または1.50超となる場合には、上ロール61及び下ロール62のいずれかのロールの圧延トルクが過大となり、設備の破損が生じる可能性が生じる。
第1閾値および第2閾値は、第2圧延トルクに対する第1圧延トルクの自然対数比率、すなわち、ln(第1圧延トルク/第2圧延トルク)の値に対する閾値としてもよい。この場合、第1閾値は、−0.405(=ln(0.67)、第2閾値は+0.405(=ln(1.50))とすることが好ましい。
そして、演算装置9は、判断の結果に応じて、次にK2孔型74で素材を圧延する際の、ロール隙(圧下隙)の条件である第1圧下条件を決定する。ロール隙とは、上ロール61と下ロール62との間の距離であり、上ロール61と下ロール62との離間距離を示すものである。この際、判断の結果、トルク比率が第1閾値以上第2閾値以下となり、上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じていないと判断される場合、次に圧延される素材の第1圧下条件は、圧延トルクが計測された際の第1圧下条件(以下、直前の第1圧下条件ともいう。)と同じ条件に決定される。
一方、判断の結果、トルク比率が第1閾値未満または第2閾値超となり、上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じていると判断される場合、演算装置9は、次に圧延される素材の第1圧下条件を、直前の第1圧下条件から変更する。この場合、演算装置9は、トルク比率が第1閾値未満である場合には、K2孔型74での圧下量が大きくなるように、直前の第1圧下条件よりもロール隙を小さくする。また、演算装置9は、トルク比率が第2閾値超である場合には、K2孔型74での圧下量が小さくなるように、直前の第1圧下条件よりもロール隙を大きくする。
上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じている場合、K2孔型74での圧下量が、圧延トルクのバランスの観点から適正となっていないことを考えられる。通常、孔型設計としては、各カリバでの基準圧下量で、鋼矢板断面内各部の減面率(圧下率)が一定となるようにされる。これは、鋼矢板断面のどの部分であっても同じように延伸するようにするためである。また、上ロール61、下ロール62ともに、孔型の形成されている部分では、ロール軸方向位置によってロール径が異なる。例えば上ロール61では、ウェブを圧下する部分よりも腕部を圧下する部分の方が、ロール径は大きくなる。ここで、孔型の水平方向に延びる重心線が、上ロール61の平均ロール径、下ロール62の平均ロール径がおよそ一致するように、それぞれのロールのロール径が設計される。これは、圧延時に発生する上ロールトルクと下ロールトルクとを同レベルにバランスさせるためである。
しかしながら、上ロール61に発生するトルクと、下ロール62に発生するトルクが完全にバランスする孔型設計とすることはできず、圧下条件や、ロールの摩耗の進行等の様々な要因に起因して、第1圧延トルク(上ロールトルク)と第2圧延トルク(下ロールトルク)にアンバランスが生じる。このアンバランスについて、本発明者らの検討によれば、図8に示すような孔型を設けた上下ロールでハット形鋼矢板を圧延する場合、すなわち、ウェブが上側となり腕部が下型となるハット姿勢で圧延を行う場合、トルク比率(上ロールトルク/下ロールトルク)は、圧下量の増大にともない、上昇することがわかった。これは、ハット形鋼矢板は、ウェブの厚さに比して腕部の厚さが小さい値であるため、圧下量増大にともなう圧下率の上昇量が、ウェブに比べて腕部の方が大きいためである。孔型の腕部を圧下する部分は、上ロール61でロール径が大きく、下ロール62でロール径が小さくなっている。圧下量増大にともなう、腕部の圧下率上昇量がウェブの圧下率上昇量よりも大きいということは、腕部を圧下する部分についてロール径の大きい側のロールに、より大きなトルクが必要ということになり、圧下量上昇にともなって、上ロール61のトルクが増大し、上記のトルク比率が上昇する。
よって、第1圧延トルクが第2圧延トルクに対して大きすぎてバランスがとれていない場合、すなわち、トルク比率が第2閾値超となっている場合には、圧下量を減少させることでトルク比率を低下させて、第1閾値以上第2閾値以下の範囲に調整でき、逆に、第1圧延トルクが第2圧延トルクに対して小さすぎてバランスがとれていない場合、すなわち、トルク比率が第1閾値未満となっている場合には、圧下量を増大させることでトルク比率を上昇させて、第1閾値以上第2閾値以下の範囲に調整できる。
ある圧延を行っているときに、第1圧延トルクと第2圧延トルクとをそれぞれ測定しておき、次の圧延を行う際には、それぞれの圧延トルクの測定結果にもとづき、圧下量を調整した上で圧延を実施することで、第1圧延トルクと第2圧延トルクとをバランスさせることができる。
圧下量の調整は、例えば以下の方法で行われる。圧延設備2では、基本的に、各孔型の各圧延パスでの基準のウェブの目標厚みT(iは各孔型におけるパス番号)が、孔型の設計時あるいはパススケジュールの作成時に設定される。そして、各孔型の圧延パスがiパス目の圧延における圧下量ΔTは、当該圧延パスでのウェブの目標厚みTと、前の圧延パスでの目標厚みTi−1との差から、下記(2)式で示される。なお、当該圧延パスが1パス目である場合には、前の圧延パスでの目標厚みTi−1とは、当該孔型の前の孔型における最終圧延パスでのウェブの目標厚みとなる。
ΔT=Ti−1−T ・・・(2)
本実施形態では、算出されるトルク比率αに応じて、次に圧延される素材において、ウェブの圧下調整量Sが(3)式あるいは(3)’式となるように仕上圧延機6の圧下量の調整を行う。なお、(3)式あるいは(3)’式において、kは、各孔型の各圧延パスにおいて定められる比例定数であり、圧下量の調整を行った時のトルク比率αの変化を事前に調べておくことで決めることができる。
=k(1−α)・ΔT ・・・(3)
=k・ln(α)・ΔT ・・・(3)’
例えば、図7には、25Hのハット形鋼矢板1Aの仕上圧延の1パス目(K2孔型74)について、K2孔型74でのウェブの圧下量(ウェブ圧下量)と上下ロールの圧延トルクのトルク比率との関係を調べた結果を示す。なお、この調査では、K2孔型74での圧延の前に行われる、中間圧延機5のK3孔型でのウェブの設定ロール隙((2)式の「Ti−1」に相当)と、K2孔型でのウェブのロール隙((2)式の「T」に相当)との差を、圧下量ΔT(ウェブ圧下量)とした。
図7では、K2孔型74での圧延において、実測された長手方向での上ロール61と下ロール62との圧延トルクの平均値について、自然対数比率をとり、これをグラフの縦軸としている。つまり、図7に示す対数トルク比率は、第1圧延トルクを第2圧延トルクで除して自然対数をとった値(ln(第1圧延トルク/第2圧延トルク))となる。図7に示す例では、ウェブの圧下量に対するトルク比率の変化(図7の直線の傾き)は、2.63mm−1となった。この例は、(3)’式でのkを求めるものであるが、(3)式を用いた場合についても、同様の方法によってkを求めることができる。
ここで、図7では、ウェブの圧下量を横軸にとっているが、孔型全体でのロール隙を考えると、ウェブのロール隙が決まれば、腕部及び継手部の圧下隙についても一義的に決まるものとなる。図8には、K2孔型74のロール隙を示す拡大断面図を示す。図8からわかるように、圧延される素材のウェブに相当する部位のロール隙であるウェブ圧下隙、腕部に相当する部位のロール隙である腕部圧下隙及び継手部に相当する部位のロール隙である継手部圧下隙は、左右方向に平行な部位のロール同士の上下方向の離間距離である。このため、ウェブの圧下量つまりウェブ圧下隙を0.5mm大きくする場合には、腕部及び継手部の圧下量、つまり腕部圧下隙及び継手部圧下隙もそれぞれ0.5mm大きくなるものとなる。しかし、圧下量を0.5mm変更した場合のウェブの厚み圧下率の変化に対して、腕部及び継手部の厚み圧下率の変化は異なるものとなる。ハット形鋼矢板1Aでは、通常、ウェブの厚みよりも、腕部と継手部との厚みの方が薄くなる。このため、圧下量の増減に対して、ウェブの圧下率の変化よりも、腕部や継手部の圧下率の変化の方が大きくなる。なお、U形鋼矢板1Bについても、ハット形鋼矢板1Aと同様なものとなり、ウェブ11の厚みよりも継手部14の厚みの方が薄くなる。
第1圧下条件が決定されると、決定された第1圧下条件で次の素材の仕上圧延が行われる。つまり、圧延される複数本の素材に対して、1本目の素材の仕上圧延での圧延トルクに応じて決定される第1圧下条件で、2本目の素材の圧延が行われる。なお、第1圧下条件を変更する場合、演算装置9は、調整機構68に圧下指令を送信する。そして、調整機構68は、この圧下指令に基づいて圧下量を設定し、上ロール61と下ロール62とのロール隙を調整する。これにより、2本目の素材では、圧延トルクのアンバランスが生じないように、圧延トルクが制御された状態で圧延が行われる。例えば、1本目の素材の後、上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じていると判断され、(3)式で求められるSが0.2mmとなる場合、K2孔型74での圧延において、ウェブ圧下隙を1本目のものから0.2mm小さくして圧延を行う。また、(3)式で求められるSが−0.2mmとなる場合、K2孔型74での圧延において、ウェブ圧下隙を1本目のものから0.2mm大きくして圧延を行う。なお、ウェブ圧下隙の調整は、調整機構68が上ロール61と下ロール62との間隙を開閉することで行われる。
さらに、3本目以降の素材についても、同様に、直前に圧延される素材の仕上圧延での圧延トルクに応じて決定される第1圧下条件で圧延が行われる。
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
例えば、上記実施形態では、K2孔型74での圧延トルクに応じて、K2孔型74での第1圧条件を調整するとしたが、本発明はかかる例に限定されない。上述のように、圧延トルクのアンバランスを解消するためには、圧延トルクを計測した圧延パスでの圧下量を増減させればよい。このため、例えば、K2孔型74での圧延トルクに応じて、K2孔型74の直前に圧延が行われる中間圧延機5のK3孔型での最終圧延パスの圧下条件である第2圧条件を調整するようにしてもよい。この場合、第2圧下量の調整としては、トルク比率が第1閾値未満である場合には、K3孔型のロール隙を大きくすることで、K3孔型での圧下量を小さくする。これにより、K3孔型での圧延後の素材は、厚みが厚くなり、結果的にK2孔型74での圧下量が大きくなる。また、トルク比率が第2閾値超である場合には、K3孔型のロール隙を小さくすることで、K3孔型での圧下量を大きくする。これにより、K3孔型での圧延後の素材は、厚みが薄くなり、結果的にK2孔型74での圧下量が小さくなる。例えば、仕上圧延において上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じ、(3)式で算出されるSが0.2mmとなる場合、K3孔型での最終圧延パスにおいて、ウェブ圧下隙を前のものから0.2mm大きくして圧延を行う。このようにすることで、K2孔型74で圧延される素材の、圧延前の厚みが0.2mm厚くなり、結果的にK2孔型74のウェブ圧下隙を小さくするのと同等な効果を得ることができる。
また、第1圧下条件及び第2圧下条件のいずれか1つを調整するだけでなく、第1圧下条件と第2圧下条件との両方を調整するようにしてもよい。この場合、第1圧下条件と第2圧下条件の調整量の合計が、(3)式で算出されるSとなるようにすればよい。
さらに、一つの孔型での圧延に対する、圧下の調整量が大きすぎると、圧延荷重や、上ロール61と下ロール62との圧延トルクの和が大きくなり過ぎる場合がある。このため、圧下の調整量に上下限を設けてもよい。
さらに、圧延トルクの調整を行う孔型は、仕上圧延機6のK2孔型74での圧延トルクに限らず、粗圧延機4や中間圧延機5の他の孔型においても同様に圧延トルクを計測し、次の素材の圧延において、圧延条件を調整するようにしてもよい。この場合においても、圧延トルクを計測した孔型の同じ圧延パスでの圧下量である第1圧下条件、及び圧延トルクが計測された圧延パスの一つ前の圧延パスでの圧下量である第2圧下条件の少なくとも一方を調整する。なお、調整を行う圧延パスが、ある孔型での2パス目以降の場合には、第2圧下条件として変更する圧延パスは、同じ孔型での一つ前の圧延パスとなる。
さらに、少なくとも一つの孔型の複数の圧延パスにて、圧延トルクを計測し、算出されるトルク比率に応じて、次に圧延される素材の複数の圧延パスにおける圧下条件を変更するようにしてもよい。この場合、最終的な製品の目標厚みは決まっているので、各圧延パスでの圧下量を、圧延順で後半(圧延の下流側)の圧延パスから前半(圧延の上流側)に順に圧下調整量を計算してもよい。
さらに、上記実施形態では、第1閾値及び第2閾値を用いて上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じているか否かを判断するとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、上ロール61と下ロール62との圧延トルクにアンバランスが生じているか否かの判断をせずに、計測されるトルク比率に応じて圧延の度に圧下条件を調整するようにしてもよい。この場合、トルク比率が1未満となる場合には、第1圧下条件の変更として、圧下量が小さくなるように変更し、第2圧下条件の変更として、圧下量が大きくなるように変更すればよい。また、トルク比率が1超となる場合には、第1圧下条件の変更として、圧下量が大きくなるように変更し、第2圧下条件の変更として、圧下量が小さくなるように変更すればよい。なお、トルク比率が1となる場合には、第1圧下条件及び第2圧下条件を変更する必要はない。
さらに、上記実施形態では、(3)式を用いて圧下調整量Sを算出するとしたが、本発明はかかる例に限定されない。(3)式は、トルク比率が1となるように調整する場合の圧下調整量Sの算出式であるが、上述のようにトルク比率は0.67以上1.50以下の範囲としてもよい。このため、圧下調整量Sの算出にあたり、下記の(4)式を用いるようにしてもよい。なお、(4)式において、nは係数であり、0.67以上1.50以下の範囲で設定することができる。例えば、上述の変形例のように、K2孔型74よりも前の圧延パスでトルクの制御を行う場合、目標とする圧下率の違いからトルク比率が1とならない場合がある。このような場合には、目標とする圧下条件に応じて求められるトルク比率に応じて、nを設定することができる。
=k(n−α)・ΔT ・・・(4)
さらに、上記実施形態では、直前に圧延される素材の圧延トルクに応じて、その次に圧延される素材の圧下条件を調整するとしたが、本発明はかかる例に限定されない。圧下条件が調整される素材は、圧延設備2にて連続して圧延される同一鋼種及び同一サイズの鋼矢板1のうち、圧延トルクが計測された素材の次以降に圧延される素材であればよい。なお、同一サイズの鋼矢板1とは、断面形状及び断面寸法が同じ鋼矢板1であり、長手方向の長さは異なっていてもよい。
さらに、上記実施形態では、一例として、鋼矢板1がハット形鋼矢板1Aの場合について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。鋼矢板1は、図1(B)に示す断面形状のU形鋼矢板1Bであってもよい。U形鋼矢板1Bの場合についても、ハット形鋼矢板1Aと同様に、ウェブの圧下率と継手部の圧下率との違いから、圧延トルクのアンバランスが生じる可能性があるものとなる。
さらに、上記実施形態では、圧延される素材の姿勢が、腕部に対してウェブが上ロール側(鉛直方向の上側)に配されるハット姿勢であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、圧延される素材の姿勢は、ハット姿勢と上下方向が反転した逆ハット姿勢であってもよい。この場合、圧延トルクの制御は、圧下量の変更を上記実施形態と反対にするようにすればよい。つまり、トルク比率が小さくなる場合(例えば第1閾値未満となる場合)には、圧延トルクを計測した圧延パスと同じ圧延パスにおいて、圧下量が小さくなるように、第1圧下条件及び第2圧下条件の少なくとも一方を変更する。また、トルク比率が大きくなる場合(例えば、第2閾値超となる場合)には、圧延トルクを計測した圧延パスと同じ圧延パスにおいて、圧下量が大きくなるように、第1圧下条件及び第2圧下条件の少なくとも一方を変更する。なお、逆ハット姿勢の場合、第1閾値を0.67、第2閾値を1.50とすることが好ましい。
さらに、上記実施形態では、トルク比率は、下ロール62の圧延トルク(第2圧延トルク)に対する上ロール61の圧延トルク(第1圧延トルク)の比であるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。トルク比率は、上ロール61の圧延トルクと、下ロール62の圧延トルクとの比であればよく、例えば、トルク比率は、上ロール61の圧延トルクに対する下ロール62の圧延トルクの比であってもよい。
すなわち、圧延トルクの制御では、ある圧延パスにおいて上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルク圧延トルクとを計測し、計測される上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとのトルク比に応じて、次以降に圧延される素材の当該圧延パスにおける圧下量を調整してもよい。また、圧下量の調整では、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとのうち、圧延される素材のウェブ側のロールの圧延トルクが大きい場合には、トルク比率に応じて、圧下量が小さくなるように調整してもよい。一方、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとのうち、圧延される素材の継手部側のロールの圧延トルクが大きい場合には、トルク比率に応じて、圧下量が大きくなるように調整してもよい。
<実施形態の効果>
(1)本発明の一態様に係る鋼矢板1の圧延方法は、ウェブ11とフランジ12と腕部13と継手部14とを有するハット形鋼矢板1A、またはウェブ11とフランジ12と継手部14とを有するU形鋼矢板1Bを、上下方向に対向して設けられ、孔型(例えば、K2孔型74)が刻設された上ロール(例えば、上ロール61)と下ロール(例えば、下ロール62)とで圧延する、鋼矢板1の圧延方法であって、上ロール及び下ロールの孔型で素材を圧延する際に、上ロール及び下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測し、次以降に圧延される素材について、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、孔型の圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する。
(2)上記(1)の構成において、圧下量を調整する際に、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとのうち、圧延される素材のウェブ側のロールの圧延トルクが大きい場合には、トルク比率に応じて、圧下量が小さくなるように圧下量を調整し、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとのうち、圧延される素材の継手部側のロールの圧延トルクが大きい場合には、トルク比率に応じて、圧下量が大きくなるように圧下量を調整する。
(3)上記(1)または(2)の構成において、圧下量を調整する際に、孔型の圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスでのロール隙の条件である第1圧下条件、及び圧延トルクが計測された圧延パスの一つ前の圧延パスでのロール隙の条件である第2圧下条件の少なくとも一方を調整することで、圧下量を調整する。
上述のように、本発明者らの知見によれば、上ロールと下ロールとの圧延トルクにアンバランスが生じた場合、トルク比率が変化する。そして、この圧延トルクのアンバランスは、当該圧延パスにおける圧下量を調整することで、解消することができる。このため、上記(1)〜(3)の構成によれば、トルク比率の変化に応じて圧下量を調整することで、計測された素材の次以降に圧延される素材について、圧延トルクのアンバランスを解消することができる。これにより、駆動系の大きな増強を行うことなしに、既存の圧延設備2で大型の鋼矢板1の製造が可能となる。また、圧延での駆動系の設備破損も回避することができる。さらには、上下ロールのトルクを揃えることができるので、上下ロールの圧下のアンバランスを解消することができ、圧延で材料が上下方向に反る「反り」の発生も低減することができる。さらに、上下ロールの圧延トルクのアンバランスを解消させることで、先尾端のピークトルクも軽減することができる。
(4)上記(3)の構成において、圧延トルクを計測した後、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとのアンバランスが生じているか否かを判断し、アンバランスが生じている場合には、次以降に圧延される素材について、第1圧下条件及び第2圧下条件の少なくとも一方を変更し、アンバランスが生じていない場合には、次以降に圧延される素材について、第1圧下条件及び第2圧下条件を、圧延トルクが計測された時と同じとする。
(5)上記(4)の構成において、トルク比率は、下ロールの圧延トルクに対する上ロールの圧延トルクの比率であり、ハット形鋼矢板またはU形鋼矢板を圧延する際に、圧延される素材の姿勢が、継手部に対してウェブが上ロール側に配されるハット姿勢であり、第1圧下条件及び第2圧下条件の少なくとも一方を変更する際に、トルク比率が、第1閾値未満である場合には、第1圧下条件の変更としてロール隙を小さくし、第2圧下条件の変更としてロール隙を大きくし、トルク比率が、第2閾値超である場合には、第1圧下条件の変更としてロール隙を大きくし、第2圧下条件の変更としてロール隙を小さくする。
(6)上記(4)の構成において、トルク比率は、下ロールの圧延トルクに対する上ロールの圧延トルクの比率であり、ハット形鋼矢板またはU形鋼矢板を圧延する際に、圧延される素材の姿勢が、継手部に対してウェブが下ロール側に配される逆ハット姿勢であり、第1圧下条件及び第2圧下条件の少なくとも一方を変更する際に、トルク比率が、第1閾値未満である場合には、第1圧下条件の変更としてロール隙を大きくし、第2圧下条件の変更としてロール隙を小さくし、トルク比率が、第2閾値超である場合には、第1圧下条件の変更としてロール隙を小さくし、第2圧下条件の変更としてロール隙を大きくする。
上記(4)、(5)の構成によれば、ハット姿勢及び逆ハット姿勢で素材を圧延する場合に、圧延トルクのアンバランスを解消することができる。
(7)本発明の一態様に係る鋼矢板1の圧延設備2は、ウェブ11とフランジ12と腕部13と継手部14とを有するハット形鋼矢板1A、またはウェブ11とフランジ12と継手部14とを有するU形鋼矢板1Bを圧延する、鋼矢板1の圧延設備2であって、上下方向に対向して設けられ、少なくとも一つの孔型(例えば、K2孔型74)が刻設される上ロールと下ロールとをそれぞれ有する、複数の圧延機(例えば、粗圧延機4や中間圧延機5、仕上圧延機6)と、孔型で素材を圧延する際に、上ロールの圧延トルク及び下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測する、トルク計測部8と、次以降に圧延される素材について、上ロールの圧延トルクと下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、孔型の圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する演算装置9と、を備える。
上記(7)の構成によれば、上記(1)と同様な効果が得られる。
次に、本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、図2及び図6に示す装置構成の圧延設備2を用いて、25Hのハット形鋼矢板1Aの圧延を連続して行い、2本目以降に圧延される素材について、K2孔型74での圧延に対するトルクの制御を行った。なお、K2孔型74での圧延パス数は1パスとし、K2孔型74での圧延の前には、中間圧延機5での最終圧延に用いられるK3孔型で1パスの圧延を行った。また、K2孔型74での圧延において、トルクの制御として、圧延トルクの計測結果から、K2孔型74での圧下量(第1圧下条件)及びK3孔型での圧下量(第2圧下条件)の少なくとも一方を調整した。この際、圧延トルクにアンバランスが生じているか否かに関わらず、(3)式を用いて圧下調整量Sを算出し、算出される圧下調整量Sとなるように、第1圧下条件及び第2圧下条件の少なくとも一方を変更した。また、K2孔型74での圧延では、上下ロールそれぞれのトルクを800kN・m以下として圧延することが望まれている。
実施例では、鋼種SYW295の素材5本、鋼種SYW390の素材5本を連続して圧延し、SYW295の2本目から制御を行った。また、比較のために、トルクの制御を全く行わない場合についても、SYW295及びSYW390の素材を5本ずつ圧延した。
実施例及び比較例での結果として、上下ロールの圧延トルクの平均値を図9及び図10にそれぞれ示す。実施例では、図9に示すように、制御を実施した2本目以降の素材の圧延で、上下ロールとも過大なトルクの発生は生じておらず、制御の効果が発揮された。一方、比較例では、図10に示すように、上下ロールのトルクがアンバランスな状態で圧延が行われていき、圧延順の後半のSYW390鋼種で下ロールトルクがマイナス側となり、上ロール側に800kN・mを超える過大なトルクが発生する結果となった。このため、比較例での圧延後に設備点検を行ったところ、スピンドルとロールとを接続するカップリングフォーク内面にクラック(破損箇所)が発見され、カップリングフォークを予備品に交換することを余儀なくされた。
本実施例では、ハット形鋼矢板の仕上圧延について示したが、中間圧延や粗圧延でも同様の制御ができる。また、U形鋼矢板でも同様の制御ができる。
かくして、本発明の効果が明らかである。
1 鋼矢板
1A ハット形鋼矢板
1B U形鋼矢板
11 ウェブ
12 フランジ
13 腕部
14 継手部
2 圧延設備
3 加熱炉
4 粗圧延機
41 上ロール
42 下ロール
5 中間圧延機
6 仕上圧延機
61 上ロール
62 下ロール
63 主機モータ
64 モータカップリング
65 ピニオンスタンド
651a,651b ピニオンギア
66a,66b スピンドル
661a,661b スピンドルカップリング
67a,67b カップリングフォーク
68 調整機構
71 Box孔型
72 K8孔型
73 K7孔型
74 K2孔型
75 K1孔型
8 トルク計測部
81 第1計測部
82 第2計測部
83 受信部
9 演算装置

Claims (7)

  1. ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板、またはウェブとフランジと継手部とを有するU形鋼矢板を、上下方向に対向して設けられ、孔型が刻設された上ロールと下ロールとで圧延する、鋼矢板の圧延方法であって、
    前記上ロール及び前記下ロールの前記孔型で素材を圧延する際に、前記上ロール及び前記下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測し、
    次以降に圧延される素材について、前記上ロールの圧延トルクと前記下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、前記孔型の前記圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する、鋼矢板の圧延方法。
  2. 前記圧下量を調整する際に、
    前記上ロールの圧延トルクと前記下ロールの圧延トルクとのうち、圧延される素材のウェブ側のロールの圧延トルクが大きい場合には、前記トルク比率に応じて、前記圧下量が小さくなるように前記圧下量を調整し、
    前記上ロールの圧延トルクと前記下ロールの圧延トルクとのうち、圧延される素材の継手部側のロールの圧延トルクが大きい場合には、前記トルク比率に応じて、前記圧下量が大きくなるように前記圧下量を調整する、請求項1に記載の鋼矢板の圧延方法。
  3. 前記圧下量を調整する際に、前記孔型の前記圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスでのロール隙の条件である第1圧下条件、及び前記圧延トルクが計測された圧延パスの一つ前の圧延パスでのロール隙の条件である第2圧下条件の少なくとも一方を調整することで、前記圧下量を調整する、請求項1または2に記載の鋼矢板の圧延方法。
  4. 前記圧延トルクを計測した後、前記上ロールの圧延トルクと前記下ロールの圧延トルクとのアンバランスが生じているか否かを判断し、
    前記アンバランスが生じている場合には、次以降に圧延される素材について、前記第1圧下条件及び前記第2圧下条件の少なくとも一方を変更し、
    前記アンバランスが生じていない場合には、次以降に圧延される素材について、前記第1圧下条件及び前記第2圧下条件を、前記圧延トルクが計測された時と同じとする、請求項3に記載の鋼矢板の圧延方法。
  5. 前記トルク比率は、前記下ロールの圧延トルクに対する前記上ロールの圧延トルクの比率であり、
    前記ハット形鋼矢板または前記U形鋼矢板を圧延する際に、圧延される前記素材の姿勢が、前記継手部に対して前記ウェブが前記上ロール側に配されるハット姿勢であり、
    前記第1圧下条件及び前記第2圧下条件の少なくとも一方を変更する際に、
    前記トルク比率が、第1閾値未満である場合には、前記第1圧下条件の変更としてロール隙を小さくし、前記第2圧下条件の変更としてロール隙を大きくし、
    前記トルク比率が、第2閾値超である場合には、前記第1圧下条件の変更としてロール隙を大きくし、前記第2圧下条件の変更としてロール隙を小さくする、請求項4に記載の鋼矢板の圧延方法。
  6. 前記トルク比率は、前記下ロールの圧延トルクに対する前記上ロールの圧延トルクの比率であり、
    前記ハット形鋼矢板または前記U形鋼矢板を圧延する際に、圧延される前記素材の姿勢が、前記継手部に対して前記ウェブが前記下ロール側に配される逆ハット姿勢であり、
    前記第1圧下条件及び前記第2圧下条件の少なくとも一方を変更する際に、
    前記トルク比率が、第1閾値未満である場合には、前記第1圧下条件の変更としてロール隙を大きくし、前記第2圧下条件の変更としてロール隙を小さくし、
    前記トルク比率が、第2閾値超である場合には、前記第1圧下条件の変更としてロール隙を小さくし、前記第2圧下条件の変更としてロール隙を大きくする、請求項4に記載の鋼矢板の圧延方法。
  7. ウェブとフランジと腕部と継手部とを有するハット形鋼矢板、またはウェブとフランジと継手部とを有するU形鋼矢板を圧延する、鋼矢板の圧延設備であって、
    上下方向に対向して設けられ、少なくとも一つの孔型が刻設される上ロールと下ロールとをそれぞれ有する、複数の圧延機と、
    前記孔型で素材を圧延する際に、前記上ロールの圧延トルク及び前記下ロールの圧延トルクをそれぞれ計測する、トルク計測部と、
    次以降に圧延される素材について、前記上ロールの圧延トルクと前記下ロールの圧延トルクとの比であるトルク比率に応じて、前記孔型の前記圧延トルクが計測された圧延パスと同じ圧延パスにおける圧下量を調整する演算装置と、
    を備える、鋼矢板の圧延設備。
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