本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、ニッケル、マンガン及びコバルトからなる群より選択される1種又は2種以上の遷移金属を含むリチウム遷移金属複合酸化物(A)と、リン酸マンガン鉄リチウム(B)とを含有する正極を備え、上記リン酸マンガン鉄リチウム(B)に含まれるマンガンと鉄との合計原子数に対するマンガンの原子数の割合が0.5以上であり、上記リチウム遷移金属複合酸化物(A)と上記リン酸マンガン鉄リチウム(B)との合計質量に対する上記リン酸マンガン鉄リチウム(B)の質量の割合が0.8以上であり、定格容量が5Ah以上である非水電解質蓄電素子である。
当該非水電解質蓄電素子は、定格容量が5Ah以上の大型でありながら、耐過充電性能に優れる。このような効果が生じる理由は定かではないが、以下の理由が推測される。リチウム遷移金属複合酸化物(A)の含有率が高い場合、温度が高温にまで上昇しやすい傾向がある。この原因は次のように考えられる。リチウム遷移金属複合酸化物(A)は、酸素原子が金属原子と結合する構造であるのに対し、リン酸マンガン鉄リチウム(B)は、酸素原子がリン原子と結合する構造であることから、リン酸マンガン鉄リチウム(B)は、リチウム遷移金属複合酸化物(A)に比べて、酸素を放出し難く、熱安定性に優れるため、発熱し難い。当該非水電解質蓄電素子においては、このように熱安定性の高いリン酸マンガン鉄リチウム(B)の含有割合を0.8以上とすることで、DO−311に準拠した過充電試験においても、発熱が抑制され、高温にまで温度が上昇し難い非水電解質蓄電素子が得られるものと推測される。また、当該非水電解質蓄電素子は、リチウム遷移金属複合酸化物(A)と、マンガンと鉄との合計原子数に対するマンガンの原子数の割合が0.5以上であり、マンガンの含有率が高いリン酸マンガン鉄リチウム(B)とが用いられているため、十分な蓄電素子性能を発揮することができる。
なお、定格容量とは、蓄電素子の容量表示に用いる容量(Ah)である。すなわち、定格容量は、蓄電素子に表示されている容量である。
当該非水電解質蓄電素子は、負極と、非水電解質と、上記正極、上記負極及び上記非水電解質を収納する容器とをさらに備え、55℃の環境下において2Cの電流及び公称電圧の1.5倍の電圧での定電流定電圧充電を行った場合の上記容器表面の最大到達温度が300℃以下であることが好ましい。例えば容器や蓄電装置のケース(以下「容器等」という)に用いられるアルミニウムや樹脂は300℃を超えると強度が急激に低下する。このため、アルミニウム製や樹脂製の容器等が用いられた従来の非水電解質蓄電素子においては、過充電の際に容器表面が300℃を超えるような温度上昇に至った場合、容器等の変形等が生じ易くなる。これに対し、過充電試験における容器表面の最大到達温度を300℃以下とすることで、アルミニウム製や樹脂製の容器等の変形や破裂が生じ難くなり、耐過充電性能がより高まる。
なお、公称電圧とは、蓄電素子の電圧表示に用いる電圧である。すなわち、公称電圧は、蓄電素子に表示されている電圧である。1Cは、蓄電素子の定格容量を1時間で放電する電流値である。例えば定格容量が10Ahの蓄電素子においては、1Cは10Aであり、2Cは20Aである。また、容器表面の最大到達温度の測定箇所は、蓄電素子容器表面の側面の中央部とする。即ち、側面の中央部は、矩形状(角型)の蓄電素子においては最も面積が大きい面における各頂点から最も遠い点とする。底面が円形又は楕円形の筒型蓄電素子においてもこれに準ずる。
当該非水電解質蓄電素子は、航空機用であることが好ましい。当該非水電解質蓄電素子は、大型であるにも拘らず、航空機に搭載する蓄電素子等が満たす性能の基準を定めたDO−311の基準を満たした上で、さらに耐過充電性能に優れる蓄電素子を提供することができる。従って、当該非水電解質蓄電素子は、航空機用の大型の蓄電素子として用いることができる。「航空機用」とは、航空機の設計に恒久的に組み込まれるものをいう。
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子について詳説する。
<非水電解質蓄電素子(非水電解質二次電池)>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の一例として、図1の矩形状の非水電解質二次電池1(以下、単に「二次電池1」とも称する)について説明する。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図1に示す二次電池1は、正極及び負極を有する電極体2と、電極体2を収納する容器3と、正極端子4と、負極端子5とを備えている。また、容器3内には、非水電解質が充填されている。非水電解質は、正極と負極との間に介在する。
電極体2は、帯状の正極と帯状の負極とが帯状のセパレータを介して巻回されることにより形成された、巻回型の電極体である。電極体2においては、一枚の正極と一枚の負極とが、一枚のセパレータを介して積層された状態で渦巻き状に巻かれている。なお、図1とは異なる他の態様において、電極体は、複数枚の正極及び複数枚の負極がセパレータを介して一枚ずつ交互に積層されることにより形成された、積層型の電極体であってもよい。電極体2の正極は、正極リード4aを介して正極端子4と電気的に接続され、電極体2の負極は、負極リード5aを介して負極端子5と電気的に接続されている。
帯状の正極及び帯状の負極の活物質層の長さの下限としては、例えば1mであり、2mが好ましく、3mがより好ましい。正極及び負極の活物質層の長さを上記下限以上とすることで、定格容量が十分に大きい二次電池1とすることができる。一方、この正極及び負極の活物質層の長さの上限としては、例えば30mであってよく、20mであってよい。正極及び負極の活物質層の長さは、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。また、帯状の正極及び帯状の負極の活物質層の幅の下限としては、例えば5cmであり、8cmが好ましい。正極及び負極の活物質層の幅を上記下限以上とすることで、定格容量が十分に大きい二次電池1とすることができる。一方、この正極及び負極の活物質層の幅の上限としては、例えば20cmであってよく、15cmであってよい。正極及び負極の活物質層の幅は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であってよい。
また、正極及び負極それぞれの片面の活物質層の総面積の下限としては、0.05m2が好ましく、0.1m2がより好ましく、0.24m2がさらに好ましい。正極及び負極それぞれの片面の活物質層の総面積を上記下限以上とすることで、定格容量が十分に大きい二次電池1とすることができる。一方、正極及び負極それぞれの片面の活物質層の総面積の上限としては、6m2が好ましく、3m2がより好ましい。正極及び負極それぞれの片面の活物質層の総面積は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であってよい。なお、例えば正極の片面の活物質層の総面積とは、巻回型の電極体の場合、帯状の正極活物質層の長さと幅との積である。積層型の電極体の場合、一枚の正極の片面の活物質層の面積(縦の長さと横の長さとの積)と、正極の枚数との積である。
容器3は、有底角筒状の容器本体3aと、容器本体3aの開口部を閉鎖する細長い矩形板状の蓋体3bとを有する。容器本体3aと蓋体3bとは、溶接等により、互いの接合部を気密な状態で固定されることができる。これにより、容器3は、内部に密閉された空間を形成する。蓋体3bの外面上に、正極端子4及び負極端子5が配置されている。蓋体3bにおいて、正極端子4と負極端子5との中間には、安全弁6が設けられている。
安全弁6は、容器3内にガスが生じ、容器3内部の圧力が高まったとき、開口してガスが排出されるように設けられた弁である。安全弁6は、ガス排出弁、圧力解放弁などと称されるものであってよい。安全弁6は、蓋体3bの一部の厚さを薄くすることによって形成された弱化部6aと、弱化部6aに切り込むように形成された溝部6bとを含む。図1の形態では、弱化部6aは、楕円状の平面形状を有している。溝部6bは、1つの溝の端のそれぞれに2つの異なる向きの溝が接続する形状、つまり、2つのYの字が連結した平面形状を有している。これにより、溝の交差部で弱化部6aが破断しやすくなる。よって、安全弁6に所定の圧力が作用すると、溝部6bにおいて弱化部6aが破断し、溝部6bの周囲の弱化部6aの部材が開いて圧力逃がし穴としての開口を形成する。弱化部6aにおける弱化部の形状、弱化部の部材厚さ、溝部の形状、溝部の深さ等によって、安全弁6が解放する圧力をコントロールすることができる。なお、安全弁の構造としては上記構造に限定されず、容器内の圧力が高まると開口し、内部圧力が低下するように構成されている公知の構造のものを採用することができる。
容器3(容器本体3a及び蓋体3b)としては、非水電解質二次電池等の容器として通常用いられる公知の金属容器、樹脂容器等を用いることができる。一態様としてアルミニウム製の容器や樹脂製の容器を好適に用いることができる。ここで、アルミニウム製とは、主成分がアルミニウムであることをいい、純アルミニウム製であってもよく、アルミニウム合金製であってもよい。アルミニウム製の容器においては、例えばアルミニウムの含有量が90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。樹脂製の容器としては、ポリエチレンテレフタレート製の容器、ポリブチレンテレフタレート製の容器、ポリカーボネート製の容器、ポリプロピレン製の容器、ポリエチレン製の容器、ポリフェニレンサルファイド樹脂製の容器、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合(ABS)樹脂製の容器、等が挙げられる。ポリエチレンテレフタレート製の容器とは、主成分がポリエチレンテレフタレートであることをいう。ポリエチレンテレフタレート製の容器においては、例えばポリエチレンテレフタレートの含有量が90質量%以上であることが好ましく、99質量%以上であることがより好ましい。ポリエチレンテレフタレート以外の樹脂製の容器についても同様である。
二次電池1の定格容量の下限は、5Ahであり、8Ahが好ましく、10Ahがより好ましい。定格容量が上記下限以上であることで、十分に大型の蓄電素子となり、航空機用、自動車用、その他産業用の各種用途に有用になる。また、このような大型の従来の蓄電素子の場合、耐過充電性能が低下するため、本発明の利点が十分に享受できる。一方、この定格容量の上限は、例えば70Ahであり、50Ahであってよく、30Ahであってもよい。二次電池1の定格容量は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
二次電池1の質量の下限は、例えば200gであり、300gであってもよく、400gであってもよい。二次電池1の質量が上記下限以上であることで、十分に大型の蓄電素子となる。一方、この質量の上限は、例えば4kgであり、2kgであってもよく、1kgであってもよい。二次電池1の質量は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であってよい。
以下、二次電池1が有する正極、負極、セパレータ、非水電解質等について詳説する。
(正極)
正極は、正極基材、及びこの正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層を有する。
正極基材は、導電性を有する。「導電性」を有するとは、JIS−H−0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS−H−4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
正極基材は、帯状又は板状の形状を有する。正極基材の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。正極基材の平均厚さの上限としては、50μmが好ましく、40μmがより好ましい。正極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、正極基材の強度を高めることができる。正極基材の平均厚さが上記上限以下とすることで、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、正極基材の平均厚さは上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダ及び導電性を有する粒子を含む。中間層は、例えば、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。
正極活物質層は、リチウム遷移金属複合酸化物(A)とリン酸マンガン鉄リチウム(B)とを含む。リチウム遷移金属複合酸化物(A)とリン酸マンガン鉄リチウム(B)とは、正極活物質として機能する。正極活物質層は、通常、正極活物質を含むいわゆる正極合剤から形成される層である。正極活物質層を形成する正極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。
リチウム遷移金属複合酸化物(A)は、ニッケル、マンガン及びコバルトからなる群より選択される1種又は2種以上の遷移金属を含む。リチウム遷移金属複合酸化物(A)としては、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、及びスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物(A)としては、例えば、Li[LixCo1−x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγMn(1−x−γ)]O2(0≦x<0.5、0<γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1−x−γ−β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1)等が挙げられる。これらが有する遷移金属の一部は、アルミニウム等の他の元素で置換されたLi[LixNiγCoδAl(1−x−γ−δ]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<δ、0.5<γ+δ<1)等であってもよい。
スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物(A)としては、LixMn2O4(0.8≦x≦1.2)、LixNiγMn(2−γ)O4(0.8≦x≦1.2、0<γ<2)、LixCoγMn(2−γ)O4(0.8≦x≦1.2、0<γ<2)等が挙げられる。これらが有する遷移金属の一部は、アルミニウム等の他の元素で置換されていてもよい。
リチウム遷移金属複合酸化物(A)としては、充放電性能、エネルギー密度等の点から、α−NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。また、ニッケル、マンガン及びコバルトを含むリチウム遷移金属複合酸化物も好ましい。
リチウム遷移金属複合酸化物(A)としては、下記式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
Li[LixNiγMnβCo(1−x−γ−β]O2(0≦x<0.5、0<γ、0<β、0.5<γ+β<1) ・・・(1)
式(1)中、xは0であってよい。Niの含有割合に関するγは、0.1以上0.9以下が好ましく、0.3以上0.6以下であってよい。Mnの含有割合に関するβは、0.1以上0.9以下が好ましく、0.3以上0.5以下であってよい。Coの含有割合に関する1−x−γ−βは、0.1以上0.9以下が好ましく、0.3以上0.5以下であってよい。式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(A)としては、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2、LiNi1/2Mn3/10Co1/5O2、LiNi6/10Mn1/5Co1/5O2、LiNi4/5Mn1/10Co1/10O2等を挙げることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物(A)の二次粒子の平均粒子径としては、例えば0.1μm以上100μm以下が好ましく、1μm以上20μm以下がより好ましい。リチウム遷移金属複合酸化物(A)の平均粒径を上記下限以上とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物(A)の製造及び取り扱いが容易になる。リチウム遷移金属複合酸化物(A)の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS−Z−8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS−Z−8819−2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法として、例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミル又は篩等を用いる方法が挙げられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、篩や風力分級機等が、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
リン酸マンガン鉄リチウム(B)は、リチウムとマンガンと鉄とを含むリン酸塩化合物である。リン酸マンガン鉄リチウム(B)は、オリビン型結晶構造を有する。リン酸マンガン鉄リチウム(B)は、マンガン及び鉄以外の遷移金属元素やアルミニウム等の典型元素を含んでいてもよい。但し、リン酸マンガン鉄リチウム(B)は、実質的にリチウム、マンガン、鉄、リン及び酸素から構成されていることが好ましい。
リン酸マンガン鉄リチウム(B)に含まれるマンガンと鉄との合計原子数に対するマンガンの原子数の割合(Mn/(Mn+Fe))の下限は0.5であり、0.7が好ましい。このようにマンガンの含有割合が高いリン酸マンガン鉄リチウム(B)を用いることで、放電容量、エネルギー密度等の蓄電素子性能を高めることができる。一方、リン酸マンガン鉄リチウム(B)に含まれるマンガンと鉄との合計原子数に対するマンガンの原子数の割合(Mn/(Mn+Fe))は1未満であり、導電性等の点から、0.9以下が好ましく、0.8以下がより好ましい。リン酸マンガン鉄リチウム(B)に含まれるマンガンと鉄との合計原子数に対するマンガンの原子数の割合(Mn/(Mn+Fe))は、0.5以上0.9以下が好ましく、0.7以上0.8以下がより好ましい。
リン酸マンガン鉄リチウム(B)としては、下記式(2)で表される化合物を好適に用いることができる。
LiMnxFe(1−x)PO4(0.5≦x<1) ・・・(2)
式(2)中、xの上限は0.9であってよく、0.8であってもよい。xの下限は0.7が好ましい。
リン酸マンガン鉄リチウム(B)の二次粒子の平均粒子径としては、例えば0.1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上20μm以下がより好ましい。リン酸マンガン鉄リチウム(B)の平均粒径を上記下限以上とすることで、リチウム遷移金属複合酸化物(A)の製造及び取り扱いが容易になる。リン酸マンガン鉄リチウム(B)の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。
リチウム遷移金属複合酸化物(A)とリン酸マンガン鉄リチウム(B)との合計質量に対するリン酸マンガン鉄リチウム(B)の質量の割合(B/(A+B))の下限は、0.8である。このように、リン酸マンガン鉄リチウム(B)の含有割合が高いことで、十分な蓄電素子性能を発揮できる正極活物質を用い、且つ大型でありながら、優れた耐過充電性能を発揮することができる。一方、上記リン酸マンガン鉄リチウム(B)の質量の割合(B/(A+B))は、1未満であり、0.9以下が好ましく、0.85以下がより好ましく、0.8であってよい。リン酸マンガン鉄リチウム(B)の質量の割合を上記上限以下とし、ある程度の量のリチウム遷移金属複合酸化物(A)を含有させることで、放電容量を大きくするなど、良好な電池性能を発揮することができる。上記リン酸マンガン鉄リチウム(B)の質量の割合(B/(A+B))は、0.8以上0.9以下が好ましく、0.8以上0.85以下がより好ましい。
正極活物質層には、リチウム遷移金属複合酸化物(A)及びリン酸マンガン鉄リチウム(B)以外の正極活物質がさらに含まれていてもよい。このような他の正極活物質としては、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の正極活物質の中から適宜選択できる。但し、正極活物質層に含まれる全正極活物質に占めるリチウム遷移金属複合酸化物(A)及びリン酸マンガン鉄リチウム(B)の合計含有量の下限としては、90質量%が好ましく、99質量%がより好ましい。このように実質的に正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物(A)及びリン酸マンガン鉄リチウム(B)のみを用いることで、本発明の効果をより高めることができる。
正極活物質層における正極活物質の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、90質量%がさらに好ましい。正極活物質の含有量の上限としては、98質量%が好ましく、96質量%がより好ましい。正極活物質の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量をより大きくすることができる。正極活物質の含有量は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような導電剤としては、例えば、黒鉛;ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック;金属;導電性セラミックス等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。
正極活物質層における導電剤の含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。導電剤の含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。導電剤の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量を高めることができる。また、これらの理由から、導電剤の含有量は上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
バインダとしては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリアクリル酸等の熱可塑性樹脂;エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
正極活物質層におけるバインダの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、2質量%がより好ましい。バインダの含有量の上限としては、10質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。バインダの含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。また、これらの理由から、バインダの含有量は上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、アルミナシリケイト等が挙げられる。
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤及びフィラー以外の成分として含有してもよい。
正極活物質層の単位面積当たりの質量としては、例えば0.005g/cm2以上0.02g/cm2以下が好ましく、0.01g/cm2以上0.015g/cm2以下がより好ましい。
(負極)
負極は、負極基材、及びこの負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層を有する。負極の中間層の構成は特に限定されず、正極の中間層と同様の構成とすることができる。
負極基材は、帯状又は板状の形状を有する。負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
負極基材の平均厚さの下限としては、3μmが好ましく、5μmがより好ましい。負極基材の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。負極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材の強度を高めることができる。負極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。また、これらの理由から、負極基材の平均厚さは、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質層は、通常、負極活物質を含むいわゆる負極合剤から形成される層である。負極活物質層を形成する負極合剤は、必要に応じて導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分を含んでいてよい。
負極活物質としては、リチウムイオン二次電池等に通常用いられる公知の負極活物質の中から適宜選択できる。上記負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましく、黒鉛がより好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素の結晶子サイズLcは、通常、0.80〜2.0nmである。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。難黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し難い性質を有する。
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。易黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し易い性質を有する。
負極活物質の平均粒径は、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。負極活物質の粒子を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機等が用いられる。粉砕方法及び粉級方法は、例えば、上記正極で例示した方法から選択できる。
負極活物質層における負極活物質の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。負極活物質の含有量の上限としては、97質量%が好ましく、95質量%がより好ましい。負極活物質の含有量を上記範囲とすることで、二次電池の電気容量をより大きくすることができる。負極活物質の含有量は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
負極活物質層における導電剤、バインダ、増粘剤、フィラー等の任意成分は、正極活物質層と同様のものを用いることができる。負極活物質層において、バインダの含有量の下限としては、1質量%が好ましく、3質量%がより好ましく、5質量%がさらに好ましく、6質量%がよりさらに好ましい。一方、このバインダの含有量の上限としては、20質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。バインダの含有量を上記範囲とすることで、活物質を安定して保持することができる。負極活物質層におけるバインダの含有量は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
負極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、バインダ、増粘剤及びフィラー以外の成分として含有してもよい。
負極活物質層の単位面積当たりの質量としては、例えば0.002g/cm2以上0.01g/cm2以下が好ましく、0.003g/cm2以上0.008g/cm2以下がより好ましい。
(セパレータ)
セパレータは、帯状又は板状の形状を有する。セパレータの材質としては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
なお、セパレータと電極(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。無機粒子としては、Al2O3、SiO2、アルミノシリケート等が好ましい。
(非水電解質)
非水電解質としては、一般的な非水電解質二次電池に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む非水電解液であってよい。
非水溶媒としては、一般的な二次電池用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1−フェニルビニレンカーボネート、1,2−ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもDMC及びEMCが好ましい。
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiPF2(C2O4)2、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
非水電解質における電解質塩の含有量の下限としては、0.1mol/Lが好ましく、0.3mol/Lがより好ましく、0.5mol/Lがさらに好ましく、0.7mol/Lが特に好ましい。一方、この上限としては、特に限定されないが、2.5mol/Lが好ましく、2mol/Lがより好ましく、1.5mol/Lがさらに好ましい。非水電解質における電解質塩の含有量は上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であることが好ましい。
非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、非水電解質として、常温溶融塩、イオン液体、ポリマー固体電解質などを用いることもできる。
(過充電試験における容器表面の最大到達温度)
当該二次電池1は、耐過充電性能に優れる。具体的には、当該二次電池1は、正極活物質において酸素が放出し難いリン酸マンガン鉄リチウム(B)の含有割合が高いため、過充電試験における容器表面の温度上昇を抑制できる。また、リン酸マンガン鉄リチウム(B)の含有割合が高いことにより正極活物質層における熱の伝播が遅いため温度の上昇が遅く、例えば300℃のような高温に至る前に安全弁6が開口することができる。
過充電による具体的な容器表面の最大到達温度に関し、当該二次電池1に対して、55℃の環境下において2Cの電流及び公称電圧の1.5倍の電圧での定電流定電圧充電による過充電試験を行った場合の容器表面の最大到達温度が、300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましい。このような容器表面の最大到達温度であることで、容器3等がアルミニウム製や樹脂製である場合において、過充電の際の温度上昇に伴う容器3等の変形が抑制される。上記容器表面の最大到達温度の下限は、例えば120℃であってよく、160℃であってもよい。上記容器表面の最大到達温度は、上記いずれかの下限以上かついずれかの上限以下の範囲内であってよい。なお、過充電試験における容器表面の最大到達温度は、二次電池1の容量や、安全弁6の設計等により調整することができる。
(用途)
当該二次電池1は、従来蓄電素子が用いられている各種用途に用いることができる。中でも、大容量化が望まれる、自動車、航空機、産業機械等の分野で好適に用いられる。特に、当該二次電池1は、大型でありながら、航空機に搭載する蓄電素子等が満たす性能の基準として定められたDO−311の基準を満たすことができるため、航空機に備えられる蓄電素子として好適に用いられる。
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、公知の方法により製造することができる。当該非水電解質蓄電素子は、例えば、正極を作製すること、負極を作製すること、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成すること、正極及び負極(電極体)を容器に収容すること、並びに非水電解質を容器に注入することを備える製造方法により製造することができる。これらの工程の後、注入口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、当該非水電解質蓄電素子においては、安全弁以外の機構等により、過充電に伴う過剰な内部圧力を低下するように設計されていてもよい。上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解質蓄電素子の正極及び負極は、明確な層構造を有していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極活物質が担持された構造などであってもよい。
また、上記実施の形態においては、非水電解質蓄電素子が非水電解質二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
本発明に係る非水電解質蓄電素子の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。蓄電装置の一実施形態を図2に示す。図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質蓄電素子10を備えている。上記蓄電ユニット20のケースや蓄電装置30のケースとして、アルミニウム製又はポリエチレンテレフタレート製のケース等を用いることができる。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源、航空機用電源などとして搭載することができる。
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(正極板の作製)
正極活物質として、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(リチウム遷移金属複合酸化物(A))とLiMn0.7Fe0.3PO4(リン酸マンガン鉄リチウム(B))との質量比2:8の混合物を用いた。質量比で、正極活物質:ポリフッ化ビニリデン(PVDF):アセチレンブラック(AB)=90:5:5の割合(固形物換算)で含む正極合剤ペーストを調製した。この正極合剤ペーストを正極活物質の塗布量が0.0128g/cm2となるように、正極基材としての帯状のアルミニウム箔(長さ約4m×幅10cm)の両面に塗布した。なお、幅方向両端にアルミニウム箔の露出部を残して塗工した。正極合剤ペーストを塗工したアルミニウム箔を加圧及び乾燥することで、正極を得た。
(負極板の作製)
負極活物質として、黒鉛を用いた。質量比で、負極活物質:PVDF=92:8の割合で含む負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを負極活物質の塗布量が0.0054g/cm2含まれるように、負極基材としての帯状の銅箔(長さ約4m×幅10cm)の両面に塗布した。なお、幅方向両端に銅箔の露出部を残して塗工した。負極合剤ペーストを塗工した銅箔を加圧及び乾燥することで、負極を得た。
(非水電解質の調製)
EC:DMC:EMCを30:40:30の体積比で混合した非水溶媒に、電解質塩としてLiPF6を1.2mol/Lの濃度で溶解させ、非水電解質を得た。
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、無機層が表面に形成されたポリオレフィン製微多孔膜を用いた。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層し、巻回することにより巻回型の電極体を作製した。この電極体を、安全弁を有するアルミニウム製の容器に収納し、内部に上記非水電解質を注入した後、封口し、実施例1の非水電解質蓄電素子(二次電池)を得た。得られた実施例1の非水電解質蓄電素子の質量は、450gであった。
[比較例1〜3]
正極活物質として用いたリチウム遷移金属複合酸化物(A)とリン酸マンガン鉄リチウム(B)との質量比((A):(B))を表1の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1〜3の各非水電解質蓄電素子を得た。
[評価]
(充放電試験)
各非水電解質蓄電素子を用い、以下の要領で初期の充放電試験を行った。25℃の環境下において、充電電流1C、充電終止電圧4.1Vとして定電流定電圧充電した。充電の終了条件は、総充電時間が3時間となるまでとした。10分間の休止期間を設けた後、放電電流1C、放電終止電圧2.50Vとして定電流放電した。放電容量を表1に示す。
(過充電試験)
各非水電解質蓄電素子を用い、以下の要領で過充電試験を行った。具体的には、55℃の環境下において、充電電流を2C、電圧を5.4V(公称電圧3.6Vの1.5倍)で定電流定電圧充電を行い、過充電させた。このとき、最も面積の大きい側面の中央部の位置に熱電対を設置して温度変化を観測し、容器表面の最大到達温度を記録した。容器表面の最大到達温度を表1に示す。
上記表1に示されるように、リチウム遷移金属複合酸化物(A)の含有割合の高い比較例1、2の非水電解質蓄電素子は、過充電試験において容器表面の最大到達温度が高く、容器の変形も大きかった。一方、比較例3の非水電解質蓄電素子は、正極活物質としてリン酸マンガン鉄リチウム(B)のみを用いており、エネルギー密度などの点から、蓄電素子性能が不十分であると判断した。これらに対し、実施例1の非水電解質蓄電素子は、蓄電素子性能も十分であり、過充電試験においても容器表面の最大到達温度が低く、容器の変形もほぼ生じなかった。実施例1の非水電解質蓄電素子は、十分な蓄電素子性能を発揮できる正極活物質を用いつつ、耐過充電性能に優れることが確認できた。
[参考例]
放電容量が0.6Ahとなるように設計したこと以外は比較例1と同様にして、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物(A)のみを用いた小型の非水電解質蓄電素子を組み立てた。この非水電解質蓄電素子に対して過充電試験を行ったところ容器表面の最大到達温度は160℃であった。小型の非水電解質蓄電素子においては、正極活物質としてリチウム遷移金属複合酸化物(A)のみを用いた場合であっても、過充電試験においてアルミニウム製の容器が大きく変形するような高温にまで容器表面の温度が上昇するといった問題が生じないことが確認できた。