以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。本発明の濃度分析装置は、超純水製造装置の二次純水システム(サブシステム)における被処理水(一次純水システムで製造された一次純水)または処理水(超純水)の過酸化水素濃度と溶存酸素濃度とを分析するために好適に用いられる。ただし、本発明はこれに限定されず、様々な水処理システムの所定位置から採取した水を分析対象とすることができる。本発明が対象とする試料水としては、例えば、ユースポイントから回収された使用済みの処理水(超純水)や、水素水のようないわゆる機能水、排水処理設備における被処理水または処理水なども挙げられる。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る濃度分析装置の概略構成図である。なお、図示した構成は、あくまで一例であり、本発明を限定するものではない。
濃度分析装置10は、分析対象となる試料水が流れるメイン配管L1にサンプリング配管L10を介して接続され、サンプリング配管L10を通じて採取される試料水中の過酸化水素濃度と溶存酸素濃度を分析するものである。濃度分析装置10は、脱気装置1と、過酸化水素分解装置2と、2つの濃度測定装置3a,3bと、切替装置4と、演算装置5とを有している。また、濃度分析装置10は、各種分析結果(測定結果や演算結果)をリアルタイムで表示したり印刷したりするために、モニタなどの表示装置やプリンタなどの出力装置を有していてもよい。なお、メイン配管L1には、サンプリング配管L10が接続される部分より上流側に、試料水を流通させるためのポンプなどの送液装置(図示せず)が設けられており、それがもたらす圧力により、濃度分析装置10への試料水の供給も行われる。そのため、濃度分析装置10の間近にポンプなどの送液装置を設けることは基本的には不要であるが、必要に応じて、例えばサンプリング配管L10に送液装置が設けられていてもよい。また、サンプリング配管L10には、濃度分析装置10への試料水の供給を制御するバルブが設けられていてもよい。
脱気装置(脱気手段)1は、サンプリング配管L10から分岐した2つの分岐配管L11,L12のうち第1の分岐配管L11に設けられている。脱気装置1は、試料水中の溶存水素を除去するものであり、これにより、後述するように、過酸化水素分解装置2で過酸化水素が分解される際に生じる酸素と水素との反応を抑制することができる。また、脱気装置1は、試料水中の溶存酸素を除去することもできる。このことは、溶存酸素のバックグラウンド濃度(ブランク値)を100μg/L以下、好ましくは10μg/L以下に下げることができ、過酸化水素濃度がμg/Lレベルの微量分析において特に有用である。脱気装置1としては、例えば、気体分離膜を備えたものが挙げられる。
過酸化水素分解装置(過酸化水素分解手段)2は、脱気装置1の下流側で第1の分岐配管L11に設けられている。過酸化水素分解装置2は、白金族金属が担体に担持された白金族金属担持触媒を備えている。白金族金属担持触媒は、例えば容器(カラム)に充填され、過酸化水素を含有する試料水と接触することで、過酸化水素を水と酸素に分解する機能を有している(2H2O2→2H2O+O2)。
白金族金属担持触媒に用いられる白金族金属としては、触媒活性に優れ、比較的安価であることから、パラジウムを用いることが好ましい。白金族金属担持触媒の担体としては、一般的な粒状のアニオン交換樹脂を用いることもできるが、触媒の調整および反応性の観点から、アニオン交換体を用いることが好ましく、特に、モノリス状有機多孔質アニオン交換体を用いることがより好ましい。モノリス状有機多孔質アニオン交換体は、モノリス状有機多孔質体の骨格中にイオン交換基が導入されたものであり、2000h−1を越える空間速度での通水が可能になる。そのため、例えば、過酸化水素分解装置2に間欠的または連続的に空気(酸素)が混入したり、装置立ち上げ時に過酸化水素分解装置2に空気が残留していたりする場合にも、空気の一部または全部を速やかに下流側に押し流すことができる。その結果、空気の混入による分析精度の悪化を抑制したり、立ち上げ時間を短縮したりすることができる。なお、モノリス状有機多孔質アニオン交換体を用いることは、過酸化水素分解装置2の小型化が容易になる点でも有利である。モノリス状有機多孔質アニオン交換体の具体的な例については後述する。
白金族金属担持触媒が充填される容器(カラム)の材料としては、特に制限はないが、酸素透過率が低く、耐久性に優れたものが好ましく、加えて、装置立ち上げ時にカラム内の気泡の有無を確認できるように透明なものが好ましい。そのような材料としては、例えば、アクリル、塩化ビニル、ポリカーボネートなどが挙げられる。
2つの濃度測定装置3a,3bは、試料水中の溶存酸素濃度を測定するものであり、過酸化水素分解装置2の下流側で第1の分岐配管L11に設けられた第1の濃度測定装置3aと、第2の分岐配管L12に設けられた第2の濃度測定装置3bを含んでいる。第1および第2の濃度測定装置3a,3bとして、それぞれ公知の溶存酸素計を用いることができる。なお、この場合、それぞれの個体差を小さくして分析精度を高めるために、同一の型式およびロットの溶存酸素計を用いることが好ましい。
濃度分析装置10には、2つの濃度測定装置3a,3bに対し、メイン配管L1を流れる試料水を3つの供給経路のいずれかを経由して供給するために、サンプリング配管L10と2つの分岐配管L11,L12に加えて、接続配管L21が設けられている。接続配管L21は、第1の分岐配管L11のうち脱気装置1の下流側であって過酸化水素分解装置2の上流側の部分と、第2の分岐配管L12のうち第2の濃度測定装置3bの上流側の部分とを接続するものである。
こうして、4つの配管L10〜L12,L21により、上述した3つの供給経路が形成される。第1の供給経路L10,L11は、サンプリング配管L10から第1の分岐配管L11を経由して脱気装置1と過酸化水素分解装置2とを通る経路である。第2の供給経路L10,L11,L21,L12は、サンプリング配管L10から第1の分岐配管L11を経由して脱気装置1を通り、過酸化水素分解装置2を通らずに接続配管L21から第2の分岐配管L12へと通じる経路である。第3の供給経路L10,L12は、サンプリング配管L10から第2の分岐配管L12へと通じる経路であり、脱気装置1と過酸化水素分解装置2とを通らない経路である。そして、第1の濃度測定装置3aは、第1の供給経路L10,L11上にあり、第2の濃度測定装置3bは、第2の供給経路L10,L11,L21,L12上であって第3の供給経路L10,L12上にある。
したがって、第1の濃度測定装置3aは、第1の供給経路L10,L11を流れた試料水、すなわち、脱気装置1により溶存水素が除去され過酸化水素分解装置2により過酸化水素が分解された試料水の溶存酸素濃度である第1の濃度を測定するものである。また、第2の濃度測定装置3bは、第2の供給経路L10,L11,L21,L12を流れた試料水、すなわち、脱気装置1により溶存水素が除去された試料水であって過酸化水素分解装置2により過酸化水素が分解されていない試料水の溶存酸素濃度である第2の濃度を測定するものである。さらに、第2の濃度測定装置3bは、第3の供給経路L10,L12を流れた試料水、すなわち、メイン配管L1を流れる試料水の溶存酸素濃度である第3の濃度を測定するものでもある。
第2の濃度測定装置3bへの試料水の供給経路の切り替えは、切替装置(切替手段)4により行われる。すなわち、切替装置4は、第2の濃度測定装置3bへの試料水の供給経路を第2の供給経路L10,L11,L21,L12と第3の供給経路L10,L12のいずれかに切り替えるものであり、2つの開閉弁41,42から構成されている。第1の開閉弁41は、接続配管L21に設けられ、第2の開閉弁42は、第2の分岐配管L12のうち、第2の分岐配管L12と接続配管L21との接続部より上流側に設けられている。このような切替装置4により、第1および第2の濃度測定装置3a,3bによる濃度測定は、試料水中の過酸化水素濃度を分析するための第1の測定モードと、試料水中の過酸化水素濃度と溶存酸素濃度とを分析するための第2の測定モードとに切り替え可能になる。
第1の測定モードでは、第1の開閉弁41が開放されるとともに第2の開閉弁42が閉鎖される。これにより、第1の濃度測定装置3aには、第1の供給経路L10,L11を通じて試料水が供給され、第2の濃度測定装置3bには、第2の供給経路L10,L11,L21,L12を通じて試料水が供給される。こうして、第1の濃度測定装置3aで第1の濃度が測定され、第2の濃度測定装置3bで第2の濃度が測定される。その結果、後述するように、演算装置5により試料水中の過酸化水素濃度が算出される。
一方、第2の測定モードでは、第1の開閉弁41が閉鎖されるとともに第2の開閉弁42が開放される。これにより、第1の濃度測定装置3aには、第1の供給経路L10,L11を通じて試料水が供給され、第2の濃度測定装置3bには、第3の供給経路L10,L12を通じて試料水が供給される。こうして、第1の濃度測定装置3aで第1の濃度が測定され、第2の濃度測定装置3bで第3の濃度、すなわち、試料水にもともと含まれる酸素の濃度(溶存酸素濃度)が測定される。なお、第2の測定モードにおいても、第1の測定モードでの第2の濃度測定装置3bによる第2の濃度の測定値を用いることで、後述するように、演算装置5により試料水中の過酸化水素濃度が算出される。
演算装置5は、第1の濃度測定装置3aによる第1の濃度の測定値と第2の濃度測定装置3bによる第2の濃度の測定値との差分に基づいて、試料水中の過酸化水素濃度を算出するものである。すなわち、第1の濃度測定装置3aにより測定された第1の濃度DO1と、第2の濃度測定装置3bにより測定された第2の濃度DO2とから、その差分ΔDO=DO1−DO2を算出する。ここで、算出された差分ΔDOは、過酸化水素分解装置2において過酸化水素の分解(2H2O2→2H2O+O2)により生じた酸素に由来する酸素濃度の増加分に一致する。したがって、算出された差分すなわち酸素濃度の増加分ΔDOから、試料水中の過酸化水素濃度CHP=(68/32)ΔDOを算出する。ここで、係数68は、上記過酸化水素の分解反応式の左辺における過酸化水素の分子量であり、係数32は、同右辺における酸素の分子量である。
なお、過酸化水素分解装置2の白金族金属担持触媒は、試料水中の過酸化水素を分解するだけでなく、水素共存下で酸素と反応して水を生成する機能(2H2+O2→2H2O)も有している。したがって、過酸化水素と水素を含有する試料水が過酸化水素分解装置2に供給されると、過酸化水素の分解により生じた酸素が水素と反応して消費されてしまい、算出される差分ΔDOが、実際に生じた酸素に由来する酸素濃度の増加分よりも低く見積もられる可能性がある。このような状況は、例えば、試料水として、紫外線酸化装置を含む超純水製造装置のサブシステムにおける処理水を用いた場合に発生する可能性がある。すなわち、紫外線酸化装置では、紫外線酸化処理の過程で微量の過酸化水素だけでなく微量の水素も生成されることが知られており、サブシステムにおける処理水に過酸化水素だけでなく水素も含まれる可能性がある。
しかしながら、本実施形態の濃度分析装置10では、採取した試料水は、脱気装置1を含む第1の供給経路L10,L11を経由して、第1の濃度測定装置3aに供給され、同じく脱気装置1を含む第2の供給経路L10,L11,L21,L12を経由して、第2の濃度測定装置3bに供給される。したがって、仮にメイン配管L1を流れる試料水に水素が含まれていたとしても、そのような水素は脱気装置1により除去されるため、過酸化水素の分解により生じた酸素が水素と反応して消費されることはなくなる。その結果、算出される差分ΔDOが、実際に生じた酸素の増加分よりも低く見積もられる可能性はなくなり、より高精度に試料水中の過酸化水素濃度を算出することが可能になる。なお、本実施形態の濃度分析装置10は、試料水に含み得る水素を除去する脱気装置1を備えているため、気体分離膜などの脱気手段を備えていない超純水製造装置のサブシステムにおける処理水を分析対象とする場合に特に有用である。
また、本実施形態によれば、採取した試料水を第3の供給経路L10,L12に流通させることで、試料水中の過酸化水素濃度を分析するために用いられる第2の濃度測定装置3bにより、試料水にもともと含まれる酸素の濃度(溶存酸素濃度)を測定することも可能になる。なお、濃度測定が行われた試料水は、それぞれ分岐配管L11,L12から外部に排出されるが、本実施形態は、濃度測定に試薬などが使用されないため、排水処理が容易になる点でも有利である。
第1の測定モードと第2の測定モードはいずれも継続的に行われることが好ましい。それにより、各測定値のばらつきが大きい場合にも、一定時間における移動平均値を用いて過酸化水素濃度を算出することができ、その結果、過酸化水素濃度の分析精度を高めることができる。また、第1の測定モードと第2の測定モードとの切り替えは所定の頻度で行われてもよく、あるいは、通常は第1の測定モードが実行され、必要に応じて、第1の測定モードの合間に第2の測定モードが実行されてもよい。第1の測定モードと第2の測定モードとを所定の頻度で切り替える場合、その頻度に特に制限はないが、測定値が安定する前に切り替えが行われてしまわないように、切り替えの頻度は多すぎないことが好ましい。なお、各測定モードにおいて、実際の濃度測定は、試料水の供給の切り替えが行われてから一定時間が経過し、各測定値が安定した後で行われることが好ましい。
また、第1および第2の濃度測定装置3a,3bに用いられる溶存酸素計に対しては、任意の頻度で校正を行うことが好ましい。それにより、各濃度計の測定精度、ひいては過酸化水素濃度と溶存酸素濃度の分析精度を高めることができる。溶存酸素計の校正方法としては、溶存酸素計の校正に一般的に用いられる大気校正やゼロ点校正を用いることができる。校正の頻度に特に制限はないが、1日に1回より多い頻度では、頻繁に校正が行われるため煩雑であり、1年に1回より少ない頻度では、校正の頻度として少なすぎるため、測定値の信頼性が乏しくなる。したがって、校正の頻度は、1日から1年に1回が好ましく、より好ましくは1週間から半年に1回である。
第1および第2の濃度測定装置3a,3bに用いられる溶存酸素計は、所定の流量範囲で最も誤差が少なくなるように調整されている。そのため、各濃度計に供給される試料水の流量がそのような流量範囲に調整されていることが好ましい。したがって、各分岐配管L11,L12には、図示したように、それぞれを流れる試料水の流量を調整する流量調整手段11,12が設けられていることが好ましい。各流量調整手段11,12の構成に特に制限はなく、例えば、流量計と流量調整弁とからなる流量調整手段をそれぞれ用いることができる。また、各流量調整手段11,12の設置位置は、配管などの継ぎ目から空気(酸素)が侵入するおそれがあるため、各濃度測定装置3a,3bの下流側であることが好ましい。なお、各分岐配管L11,L12には、流量調整手段11,12の他にも、プロセス制御に用いられる周知の構成(例えば警報装置など)が任意に設けられていてもよい。
第1の供給経路L10,L11と第2の供給経路L10,L11,L21,L12は、第2の分岐配管L12に過酸化水素分解装置2が設置されていない分、圧力損失などの通水条件が互いに異なる。そのため、このような通水条件の違いが、過酸化水素濃度の分析精度に影響を及ぼす可能性がある。そこで、第1の供給経路L10,L11の通水条件と第2の供給経路L10,L11,L21,L12の通水条件を一致させるために、第2の分岐配管L12のうち、第2の分岐配管L12と接続配管L21との接続部より下流側に、ダミー容器(カラム)が設置されていてもよい。ダミーカラムの構成に特に制限はなく、例えば、過酸化水素分解能力を備えていないこと(担体に白金族金属が担持されていないこと)を除いて過酸化水素分解装置2と同様の構成のものを設置することができる。
なお、サンプリング配管L10や分岐配管L11,L12、接続配管L21の材料としては、ガス透過性の低いものが好ましく、特に、酸素透過率が低く、不純物の溶出が少ないものが好ましい。そのような材料としては、例えば、ステンレス鋼やポリアミド樹脂が挙げられる。また、各配管の材料としてステンレス鋼が用いられる場合、継ぎ目からの空気(酸素)の侵入を抑制するために、配管の分岐部や屈曲部は、エルボやチーズなどの継手類によって構成されるのではなく、溶接や曲げ加工によって作製されることが好ましい。
本実施形態では、第1の濃度測定装置3aが、第1の濃度を測定する第1の濃度測定手段として機能し、第2の濃度測定装置3bが、第2の濃度と第3の濃度とを測定する第2の濃度測定手段として機能し、演算装置5が、これらの測定値に基づいて試料水中の過酸化水素濃度を算出する演算手段として機能するが、第1の濃度測定手段と第2の濃度測定手段と演算手段の構成はこれに限定されるものではない。例えば、濃度測定装置(溶存酸素計)3a,3bの代わりに、隔膜電極法に基づいて試料水中の溶存酸素濃度に比例して電極間に流れる電流を検出する検出器が設けられ、その検出結果に基づいて、演算装置5が、溶存酸素濃度の換算と過酸化水素濃度の算出とを行ってもよい。すなわち、演算装置5が、第1の濃度測定手段としての機能と第2の濃度測定手段としての機能と演算手段としての機能とを併せ持っていてもよい。
図示した構成では、2つの分岐配管L11,L12がサンプリング配管L10を介してメイン配管L1に接続されているが、それぞれが直接メイン配管L1に接続されていてもよい。ただし、試料水の採取位置が大きく異なると、溶存酸素濃度などの水質条件が異なるおそれがあるため、2つの分岐配管L11,L12は、図示したように、サンプリング配管L10を介してメイン配管L1に接続されていることが好ましい。
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態に係る濃度分析装置の概略構成図である。以下、第1の実施形態と同様の構成については、図面に同じ符号を付してその説明を省略し、第1の実施形態と異なる構成のみ説明する。
上述したように、第1および第2の濃度測定装置3a,3bに用いられる溶存酸素計の測定精度を高めるためには、任意の頻度で校正を行うことが好ましいが、そのような校正を実行しても、過酸化水素濃度がμg/Lレベルの微量分析を行う場合、各濃度計の微小な個体差が無視できないことがある。特に、2つの溶存酸素計の測定値の差分に基づいて過酸化水素濃度が算出される場合、このような微小な個体差による影響がより大きくなる可能性がある。
そこで、本実施形態では、濃度分析装置10の通常動作である上述した濃度分析工程(第1および第2の測定モード)の合間に、補正値取得工程(第3の測定モード)が任意の頻度で実行される。補正値取得工程では、溶存酸素計(第1および第2の濃度測定装置3a,3b)の個体差を補償するための補正値が取得され、こうして取得された補正値に基づいて、本実施形態の濃度分析工程において、第1の濃度測定装置3aにより測定された第1の濃度DO1と、第2の濃度測定装置3bにより測定された第2の濃度DO2と差分ΔDO(=DO1−DO2)が補正される。そして、この補正された差分が、過酸化水素の分解により生じた酸素に由来する酸素濃度の増加分に一致することになる。
この補正値取得工程を実行するために、本実施形態の濃度分析装置10には、第1の実施形態の接続配管(第1の接続配管)L21に加えて、その下流側にさらに別の接続配管(第2の接続配管)L22が設けられている。第2の接続配管L22は、第1の分岐配管L11のうち過酸化水素分解装置2の下流側であって第1の濃度測定装置3aの上流側の部分と、第2の分岐配管L12のうち、第2の分岐配管L12と第1の接続配管L21との接続部より下流側であって第2の濃度測定装置3bの上流側の部分とを接続するものである。なお、第2の接続配管L22の材料や加工方法は、サンプリング配管L10や分岐配管L11,L12、第1の接続配管L21の場合と同様であることが好ましい。
濃度分析工程と補正値分析工程とは切替装置4によって切り替えられる。このために、切替装置4は、第1の開閉弁41と第2の開閉弁42に加えて、第3の開閉弁43と第4の開閉弁44とを有している。第3の開閉弁43は、第2の接続配管L22に設けられ、第4の開閉弁44は、第1の分岐配管L11のうち、過酸化水素分解装置2の下流側であって第1の分岐配管L11と第2の接続配管L22との接続部より上流側に設けられている。本実施形態の濃度分析工程(第1の測定モードおよび第2の測定モード)では、いずれの測定モードにおいても、第3の開閉弁43は閉鎖され、第4の開閉弁44は開放される。
一方、補正値取得工程では、第1および第2の開閉弁41,42が閉鎖されるとともに第3および第4の開閉弁43,44が開放される。これにより、第1の濃度測定装置3aには、第1の供給経路L10,L11を通じて試料水が供給され、第2の濃度測定装置3bにも、第1の供給経路L10,L11を流れた試料水が第2の接続配管L22から第2の分岐配管L12を通じて供給される。こうして、第1の濃度測定装置3aと第2の濃度測定装置3bで同時に第1の濃度が測定される。あるいは、補正値取得工程では、第1および第4の開閉弁41,44が閉鎖されるとともに第2および第3の開閉弁42,43が開放される。これにより、第1の濃度測定装置3aには、第3の供給経路L10,L12を流れた試料水が第2の接続配管L22から第1の分岐配管L11を通じて供給され、第2の濃度測定装置3bにも、第2の供給経路L10,L12を流れた試料水が供給される。こうして、第1の濃度測定装置3aと第2の濃度測定装置3bで同時に第3の濃度が測定される。
第1の濃度測定装置3aと第2の濃度測定装置3bで同時に第1の濃度または第3の濃度が測定されると、演算装置5により、第1の濃度測定装置3aの測定値M1と、第2の濃度測定装置3bの測定値M2とから、その差分ΔM=M1−M2が算出される。こうして算出された差分ΔMは、第1および第2の濃度測定装置3a,3bの溶存酸素計の個体差を補償するための補正値として演算装置5に記憶され、補正値取得工程が実行されるごとに更新される。
本実施形態の濃度分析工程では、補正値取得工程で取得された補正値ΔMに基づいて、上記差分ΔDOが補正される。すなわち、補正値ΔMと、差分ΔDOとから、過酸化水素の分解により生じた酸素に由来する酸素濃度の増加分ΔDO0=ΔDO−ΔMが算出される。そして、上述したように、算出された酸素濃度の増加分ΔDO0から、試料水中の過酸化水素濃度CHPが算出される(CHP=(68/32)ΔDO0)。これにより、溶存酸素計(第1および第2の濃度測定装置3a,3b)の個体差による影響を抑え、より高精度に過酸化水素濃度の分析を行うことができる。
補正値取得工程は、上述した濃度計自体の校正の直後に実行されるが、これとは別に所定の頻度でも実行される。その実行頻度に特に制限はないが、1日に1回より多い頻度では、濃度分析工程から補正値取得工程への切り替えが頻繁に生じるため、過酸化水素濃度を分析できない期間が長くなってしまい、半年に1回より少ない頻度では、校正の頻度として少なすぎるため、測定値の信頼性が乏しくなる。したがって、補正値取得工程を実行する頻度は、濃度計自体の校正直後を除いて、1日から半年に1回であることが好ましい。なお、補正値取得工程における実際の補正値の算出は、試料水の供給の切り替えが行われてから一定時間が経過し、各測定値が安定した後で行われることが好ましく、その算出には、所定時間における平均値を用いることもできる。
補正値取得工程では、第1および第2の濃度測定装置3a,3bに対して同じ種類の試料水が供給される限り、第1の供給経路L10,11を流れた試料水と第3の供給経路L10,12を流れた試料水のどちらが供給されてもよい。ただし、補正値取得工程の実行中にも、試料水にもともと含まれていた酸素の濃度(第3の濃度)を監視することができる点で、第3の供給経路L10,12を流れた試料水が供給されることが好ましい。なお、図示した構成では、上述した2つの場合において、試料水は第2の接続配管L22を互いに反対方向に流れる。そのため、第2の接続配管L22に設置される第3の開閉弁43としては、ボールバルブのように流れ方向に制限のないものを用いることが好ましい。また、補正値取得工程において、第1および第2の濃度測定装置3a,3bに対して第1の供給経路L10,11を流れた試料水が供給されることがあらかじめ決められている場合、第4の開閉弁44を省略することができる。これにより、バルブから侵入する空気(酸素)量を低減することができ、バルブのメンテナンスも減らすことができる。
補正値取得工程では、第1および第2の濃度測定装置3a,3bに用いられる溶存酸素計に対して同じ流量の試料水が供給されることが好ましい。したがって、第1の実施形態と同様に、各分岐配管L11,L12には、それぞれを流れる試料水の流量を調整する流量調整手段11,12が設けられていることが好ましい。
(モノリスアニオン交換体)
ここで、上述した実施形態の過酸化水素分解装置2に好適に使用されるモノリス状有機多孔質アニオン交換体の具体例として、2種類のモノリス状有機多孔質アニオン交換体について説明する。以下、モノリス状有機多孔質アニオン交換体を単に「モノリスアニオン交換体」といい、モノリス状有機多孔質体を単に「モノリス」ともいう。また、モノリスの製造における中間体(前駆体)であるモノリス状有機多孔質中間体を単に「モノリス中間体」ともいう。
[Aタイプのモノリスアニオン交換体]
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、モノリスにアニオン交換基を導入することで得られるものであり、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が水湿潤状態で平均直径30〜300μm、好ましくは30〜200μm、特に好ましくは40〜100μmの開口(メソポア)となる連続マクロポア構造体である。Aタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの開口の平均直径よりも大きくなる。水湿潤状態での開口の平均直径が30μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、水湿潤状態での開口の平均直径が大き過ぎると、被処理水(試料水)とAタイプのモノリスアニオン交換体および担持された白金族金属ナノ粒子との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性が低下してしまうため好ましくない。なお、乾燥状態のモノリス中間体の開口の平均直径、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及び乾燥状態のモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、それぞれ水銀圧入法により測定される値を意味する。また、水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径は、乾燥状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの開口の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの開口の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のAタイプのモノリスアニオン交換体の開口の平均直径を算出することもできる。
Aタイプのモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の切断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25〜50%、好ましくは25〜45%である。断面に表れる骨格部面積が、画像領域中、25%未満であると、細い骨格となり、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体およびそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくなく、50%を超えると、骨格が太くなり過ぎ、通水時の圧力損失が増大するため好ましくない。
また、Aタイプのモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、0.5〜5ml/g、好ましくは0.8〜4ml/gである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当たりの透過流体量が小さくなり、処理能力が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にAタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とAタイプのモノリスアニオン交換体およびそれに担持された白金族金属ナノ粒子との接触効率が低下し、触媒効果も低下してしまうため好ましくない。なお、モノリス中間体、モノリス、及びモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、それぞれ水銀圧入法により測定される値を意味する。また、モノリス中間体、モノリス、及びモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、それぞれ、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
なお、Aタイプのモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、これを1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失で示すと、0.001〜0.1MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.05MPa/m・LVであることが好ましい。
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.4〜1.0mg当量/mlである。体積当たりのアニオン交換容量が0.4mg当量/ml未満であると、体積当たりの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当たりのアニオン交換容量が1.0mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、Aタイプのモノリスアニオン交換体の重量当たりのアニオン交換容量は特に限定されないが、アニオン交換基が多孔質体の表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3.5〜4.5mg当量/gである。
Aタイプのモノリスアニオン交換体において、連続マクロポア構造体の骨格を構成する材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料の架橋密度は特に限定されないが、ポリマー材料を構成する全構成単位に対して、0.3〜10モル%、好適には0.3〜5モル%の架橋構造単位を含んでいることが好ましい。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、10モル%を越えると、アニオン交換基の導入が困難になる場合があるため好ましくない。該ポリマー材料の種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレン等の芳香族ビニルポリマーが挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、連続マクロポア構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、芳香族ビニルポリマーの架橋重合体が好ましく、特に、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい材料として挙げられる。
Aタイプのモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム基、ジメチルヒドロキシプロピルアンモニウム基、メチルジヒドロキシエチルアンモニウム基等の四級アンモニウム基等が挙げられる。
導入されたアニオン交換基は、多孔質体の表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布している。ここで言う「アニオン交換基が均一に分布している」とは、アニオン交換基の分布が少なくともμmオーダーで表面および骨格内部に均一に分布していることを指す。アニオン交換基の分布状況は、対アニオンを塩化物イオン、臭化物イオンなどにイオン交換した後、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いることで、比較的簡単に確認することができる。また、アニオン交換基が、モノリスの表面のみならず、多孔質体の骨格内部にまで均一に分布していると、表面と内部の物理的性質及び化学的性質を均一にできるため、膨潤及び収縮に対する耐久性が向上する。
Aタイプのモノリスアニオン交換体は、骨太のモノリスにアニオン交換基が導入されるため、例えば骨太モノリスの1.4〜1.9倍のように大きく膨潤する。このため、骨太モノリスの開口径が小さいものであっても、モノリスイオン交換体の開口径は概ね、上記倍率で大きくなる。また、開口径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、Aタイプのモノリスイオン交換体は、開口径が格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。
[Bタイプのモノリスアニオン交換体]
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.3〜5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが水湿潤状態で1〜60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であって、全細孔容積が0.5〜5ml/gであり、水湿潤状態での体積当たりのイオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlであり、アニオン交換基が該多孔質イオン交換体中に均一に分布している。
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、アニオン交換基が導入された平均太さが水湿潤状態で1〜60μm、好ましくは3〜58μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が水湿潤状態で10〜100μm、好ましくは15〜90μm、特に好ましくは20〜80μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体である。すなわち、共連続構造は、連続する骨格相と連続する空孔相とが絡み合ってそれぞれが共に3次元的に連続する構造である。この連続した空孔は、従来の連続気泡型モノリスや粒子凝集型モノリスに比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なイオンの吸着挙動を達成できる。また、骨格が太いため機械的強度が高い。
Bタイプのモノリスアニオン交換体の骨格の太さ及び空孔の直径は、モノリスにアニオン交換基を導入する際、モノリス全体が膨潤するため、モノリスの骨格の太さ及び空孔の直径よりも大きくなる。この連続した空孔は、従来の連続気泡型モノリスアニオン交換体や粒子凝集型モノリスアニオン交換体に比べて空孔の連続性が高くてその大きさに偏りがないため、極めて均一なアニオンの吸着挙動を達成できる。三次元的に連続した空孔の平均直径が水湿潤状態で10μm未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、100μmを超えると、被処理水(試料水)と有機多孔質アニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、被処理水中の溶存酸素の除去が不十分となるため好ましくない。また、骨格の平均太さが水湿潤状態で1μm未満であると、体積当たりのアニオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にBタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とBタイプのモノリスアニオン交換体との接触効率が低下し、触媒効果が低下するため好ましくない。一方、骨格の太さが60μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、通水時の圧力損失が増大するため好ましくない。
上記連続構造体の空孔の水湿潤状態での平均直径は、水銀圧入法で測定した乾燥状態のモノリスアニオン交換体の空孔の平均直径に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの空孔の平均直径に、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の空孔の平均直径を算出することもできる。また、上記連続構造体の骨格の水湿潤状態での平均太さは、乾燥状態のBタイプのモノリスアニオン交換体のSEM観察を少なくとも3回行い、得られた画像中の骨格の太さを測定し、その平均値に、膨潤率を乗じて算出される値である。また、アニオン交換基導入前の乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さ、及びその乾燥状態のモノリスにアニオン交換基導入したときの乾燥状態のモノリスに対する水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の膨潤率がわかる場合は、乾燥状態のモノリスの骨格の平均太さに、膨潤率を乗じて、水湿潤状態のBタイプのモノリスアニオン交換体の骨格の平均太さを算出することもできる。なお、骨格は棒状であり円形断面形状であるが、楕円断面形状等異径断面のものが含まれていてもよい。この場合の太さは短径と長径の平均である。
また、Bタイプのモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、0.5〜5ml/gである。全細孔容積が0.5ml/g未満であると、通水時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくなく、更に、単位断面積当たりの透過水量が小さくなり、処理水量が低下してしまうため好ましくない。一方、全細孔容積が5ml/gを超えると、体積当たりのアニオン交換容量が低下し、白金族金属ナノ粒子の担持量も低下し触媒効果が低下するため好ましくない。また、機械的強度が低下して、特に高流速で通水した際にBタイプのモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、被処理水とBタイプのモノリスアニオン交換体との接触効率が低下して、過酸化水素分解効果も低下してしまうため好ましくない。三次元的に連続した空孔の大きさ及び全細孔容積が上記範囲にあれば、被処理水との接触が極めて均一で接触面積も大きく、かつ低圧力損失下での通水が可能となる。なお、モノリス中間体、モノリス、及びモノリスアニオン交換体の全細孔容積は、それぞれ、乾燥状態でも、水湿潤状態でも、同じである。
なお、Bタイプのモノリスアニオン交換体に水を透過させた際の圧力損失は、多孔質体を1m充填したカラムに通水線速度(LV)1m/hで通水した際の圧力損失で示すと、0.001〜0.5MPa/m・LVの範囲、特に0.005〜0.1MPa/m・LVである。
Bタイプのモノリスアニオン交換体において、共連続構造体の骨格を構成する材料は、全構成単位中、0.3〜5モル%、好ましくは0.5〜3.0モル%の架橋構造単位を含んでいる芳香族ビニルポリマーであり疎水性である。架橋構造単位が0.3モル%未満であると、機械的強度が不足するため好ましくなく、一方、5モル%を越えると、多孔質体の構造が共連続構造から逸脱しやすくなる。該芳香族ビニルポリマーの種類に特に制限はなく、例えば、ポリスチレンが挙げられる。上記ポリマーは、単独のビニルモノマーと架橋剤を共重合させて得られるポリマーでも、複数のビニルモノマーと架橋剤を重合させて得られるポリマーであってもよく、また、二種類以上のポリマーがブレンドされたものであってもよい。これら有機ポリマー材料の中で、共連続構造形成の容易さ、アニオン交換基導入の容易性と機械的強度の高さ、および酸又はアルカリに対する安定性の高さから、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量が0.3〜1.0mg当量/mlのイオン交換容量を有する。Bタイプのモノリスアニオン交換体は、三次元的に連続した空孔の連続性や均一性が高いため、全細孔容積を低下させても圧力損失はさほど増加しない。そのため、圧力損失を低く押さえたままで体積当たりのアニオン交換容量を飛躍的に大きくすることができる。体積当たりのアニオン交換容量が0.3mg当量/ml未満であると、体積当たりの白金族金属のナノ粒子担持量が低下してしまうため好ましくない。一方、体積当たりのアニオン交換容量が1.0mg当量/mlを超えると、通水時の圧力損失が増大してしまうため好ましくない。なお、Bタイプのモノリスアニオン交換体の乾燥状態における重量当たりのアニオン交換容量は特に限定されないが、イオン交換基が多孔質体の骨格表面及び骨格内部にまで均一に導入しているため、3.5〜4.5mg当量/gである。
Bタイプのモノリスアニオン交換体のアニオン交換基としては、Aタイプのモノリスアニオン交換体の説明で挙げたものと同様のものを挙げることができる。また、アニオン交換基の分布状態や、「アニオン交換基が均一に分布している」ことの意味内容や、アニオン交換基分布状態の確認方法や、アニオン交換基がモノリスの表面のみならず多孔質体の骨格内部にまで均一に分布することの効果もAタイプのモノリスアニオン交換体と同様である。
モノリス中間体のポリマー材料の種類は、Aタイプのモノリスアニオン交換体のモノリス中間体のポリマー材料の種類と同様であり、その説明を省略する。
モノリス中間体の全細孔容積は、16ml/gを超え、30ml/g以下、好適には16ml/gを超え、25ml/g以下である。すなわち、このモノリス中間体は、基本的には連続マクロポア構造ではあるが、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)が格段に大きいため、モノリス構造を構成する骨格が二次元の壁面から一次元の棒状骨格に限りなく近い構造を有している。これを重合系に共存させると、モノリス中間体の構造を型として共連続構造の多孔質体が形成される。全細孔容積が小さ過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの構造が共連続構造から連続マクロポア構造に変化してしまうため好ましくなく、一方、全細孔容積が大き過ぎると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの機械的強度が低下したり、体積当たりのアニオン交換容量が低下したりしてしまうため好ましくない。モノリス中間体の全細孔容積をBタイプのモノリスアニオン交換体の特定の範囲とするには、モノマーと水の比を、概ね1:20〜1:40とすればよい。
また、モノリス中間体は、マクロポアとマクロポアの重なり部分である開口(メソポア)の平均直径が乾燥状態で5〜100μmである。開口の平均直径が乾燥状態で5μm未満であると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が小さくなり、流体透過時の圧力損失が大きくなってしまうため好ましくない。一方、100μmを超えると、ビニルモノマーを重合させた後で得られるモノリスの開口径が大きくなりすぎ、被処理水とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、その結果、過酸化水素分解特性が低下してしまうため好ましくない。モノリス中間体は、マクロポアの大きさや開口の径が揃った均一構造のものが好適であるが、これに限定されず、均一構造中、均一なマクロポアの大きさよりも大きな不均一なマクロポアが点在するものであってもよい。
Bタイプのモノリスアニオン交換体は、共連続構造のモノリスにアニオン交換基が導入されるため、例えばモノリスの1.4〜1.9倍に大きく膨潤する。また、空孔径が膨潤で大きくなっても全細孔容積は変化しない。従って、Bタイプのモノリスアニオン交換体は、3次元的に連続する空孔の大きさが格段に大きいにもかかわらず、骨太骨格を有するため機械的強度が高い。また、骨格が太いため、水湿潤状態での体積当たりのアニオン交換容量を大きくでき、更に、被処理水を低圧、大流量で長期間通水することが可能である。