以下、図面を参照しながら、上述した本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。以下では、二次電池の一形態である、双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池を例に挙げて本発明を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
[二次電池システム]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池システムの構成を説明するためのブロック図である。
この全固体リチウムイオン二次電池システム(以下、「二次電池システム1」とも称する)は、全固体リチウムイオン二次電池(以下、「二次電池2」とも称する)を備える。そして、二次電池2のセル電圧(端子間電圧)を測定する電圧センサー3、二次電池2の外表面温度(環境温度)を測定する温度センサー4、二次電池2へ充電電力を供給する電圧電流調整部5、二次電池2の充放電電流を測定する電流センサー6、入力信号(交流摂動電流)を二次電池2へ印加し、これに応じた応答電圧を取得することにより二次電池2の交流インピーダンスを測定するインピーダンス測定部7、二次電池2の充放電を制御する制御部8を備える。制御部8は、CPU81や記憶部82などを含む。
電圧電流調整部5は外部電源9に接続されていて充電時には電力の供給を受ける一方、放電時には電圧電流調整部5を介して外部電源9側へ放電する(詳細は後述する)。
以下、各部の詳細を説明する。
二次電池2は、通常の全固体リチウムイオン二次電池であり、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、前記正極活物質層および前記負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、を有する発電要素を備える。二次電池2は、図示しないヒーターによって所定の温度(設定温度)に加熱されている。また、図示しない加圧部材によって拘束圧力を電池の積層方法に印加されている。これらのヒーターおよび加圧部材は、後述する制御部8による制御を受けている。なお、全固体リチウムイオン二次電池の詳細については後述する。
電圧センサー3は、例えば電圧計でよく、二次電池2の正極と負極との間のセル電圧(端子間電圧)を測定する。電圧センサー3の取り付け位置は特に制限されず、二次電池2に接続される回路内において正極と負極との間のセル電圧(端子間電圧)を測定することができる位置であればよい。
温度センサー4は、二次電池2の外表面温度(環境温度)を測定する。温度センサー4は、例えば、二次電池2のケース(外装体、筐体)の表面などに取り付けられる。本実施形態では、温度センサー4によって測定される二次電池2の外表面温度を「電池温度」としている。なお、通常はこの電池温度は、上述したヒーターの設定温度である。
電圧電流調整部5は、二次電池2の充電時には、制御部8からの指令に基づいて外部電源9からの電力の電圧および電流を調整し、前記電力を二次電池2へ供給する。また、二次電池2の放電時には、電圧電流調整部5は、二次電池2から放電された電気を外部電源9へ放出する。
ここで、外部電源9は、電気自動車等の充電に使用される、いわゆる電源グリッドなどと称される電気自動車用の電源であり、直流が出力されている。このような電気自動車用の電源は、商用電力(交流)を二次電池2の充電のために必要な電圧および電流の直流に変換して提供している。ここで、外部電源9による充電方式としては、急速充電と普通充電がある。「急速充電」とは、例えば電源に三相200Vを使用し、出力50kWで行う充電であり、比較的短時間で満充電にすることができる充電方式である。一方、「普通充電」とは、一般に使用される単相交流200Vまたは100Vを使用した充電であり、満充電となるまでに比較的長い時間を要する充電方式である。本発明においてはいずれの充電方式も採用されうるが、全固体リチウムイオン二次電池において内部短絡の可能性がより高く本発明の作用効果が得られるメリットが大きいという点で、好ましくは急速充電に適用される。また、外部電源9には電力回生機能が備えられており、二次電池2からの放電があった場合は、直流を交流に変換して商用電源へ回生することができる。なお、このような外部電源9を構成する装置としては、電力回生機能の付いた周知の電源を使用すればよいため、ここでは詳細な説明は省略する(電力回生機能の付いた電源としては、例えば、特開平7−222369号公報、特開平10−080067号公報などに開示されているものがある)。
外部電源9が商用電源などの外部電源装置に接続されていない場合、例えば外部に設置された他の二次電池などを電源として二次電池2を充電するときには、二次電池2から放電した電力を他の二次電池へ蓄電させることが好ましい。これによりエネルギーの無駄を少なくすることができる。
電流センサー6は、例えば電流計である。電流センサー6は、二次電池2の充電時には電圧電流調整部5から二次電池2へ供給される電力の電流値を測定し、放電時には二次電池2から電圧電流調整部5へ供給される電力の電流値を測定する。電流センサー6の取り付け位置は特に制限されず、電圧電流調整部5から二次電池2に電力を供給する回路内に配置されて、充放電時の電流値を測定することができる位置であればよい。
インピーダンス測定部7は、単一の周波数成分からなる交流摂動電流を入力信号として二次電池2へ印加し、当該交流摂動電流に応じた応答電圧を取得することにより二次電池2の交流インピーダンス(複素インピーダンス)を測定するものとして構成されている。
このようなインピーダンス測定部7は、一般的な交流インピーダンス測定装置として常套的に使用されているものから任意に選択されうる。例えば、インピーダンス測定部7は、交流インピーダンス法により、交流摂動電流の周波数を経時的に変化させて二次電池の交流インピーダンスを測定するものでありうる。また、周波数の異なる複数の交流摂動電流を同時に印加可能なものであってもよい。交流インピーダンス法における交流インピーダンスの測定方法としては特に限定されない。例えば、リサージュ法、交流ブリッジ法などのアナログ方式や、デジタル・フーリエ積分法、ノイズ印加による高速フーリエ変換法などのデジタル方式が適宜採用されうる。好ましい実施形態においては、周波数の異なる複数の交流摂動電流が二次電池2に印加されて交流インピーダンスが測定される。ここで、複数の周波数は、例えば、インピーダンス測定部7によって測定される交流インピーダンスZを構成する実部成分Z’および虚部成分Z”を複素平面座標上にプロットしたグラフ(ナイキストプロット;コール・コールプロット)から、二次電池の電解質抵抗成分および反応抵抗成分を算出できる範囲であればよい。一例として、複数の周波数は典型的には1MHz〜0.1Hz程度であり、好ましくは1kHz〜0.1Hz程度とすることができる。これにより、交流インピーダンスの測定結果から二次電池の電解質抵抗成分および反応抵抗成分を高精度に算出できる。電池に印加する交流摂動電流の波形(例えば、正弦波)の振幅などについては特に制限はなく、適宜設定されうる。インピーダンス測定部7によって測定された交流インピーダンスの測定結果は、インピーダンス測定部7の出力として制御部8に送られる。
制御部8は、例えば、CPU81や記憶部82などを含んでいる、いわゆるコンピューターである。記憶部82は、事前に二次電池2と等価な参照電池を用いて得られた、前記参照電池において内部短絡が発生した内部抵抗座標(以下、「内部短絡プロット」とも称する)および内部短絡が発生しなかった内部抵抗座標(以下、「正常プロット」とも称する)を含むマップを記憶している(第1記憶部)。なお、本明細書中、参照電池を用いて当該マップを得ることを「事前検討」とも称する。
図2は、本実施形態に係る二次電池2と等価な参照電池を用いた事前検討により得られた、当該二次電池2の電解質抵抗成分(横軸)および反応抵抗成分(縦軸)をプロットしたマップの一例である。ここで、このようにしてプロットされた座標を本明細書では「内部抵抗座標」と称する。また、「等価な参照電池」とは、本発明の制御において内部短絡の状態を推定する対象である電池と同一の製造方法によって製造された別の電池を意味する。このため、本発明の制御において内部短絡の状態を推定する対象である電池は、「等価な参照電池」と同様の挙動を示すと考えられる。なお、二次電池2の電解質抵抗成分および反応抵抗成分については、インピーダンス測定部7によって測定された交流インピーダンスから演算されるものであれば具体的な演算の手法は特に制限されない。一例として、二次電池2に上述したような所定の周波数帯内の多数の周波数値の交流信号を印加して、各前記周波数値ごとに交流インピーダンスの実軸成分値(Z’)および虚軸成分値(Z”)を測定し、実軸および虚軸が直交してなる複素平面座標上に、前記実軸成分値を前記実軸成分とするとともに前記虚軸成分値を前記虚軸成分としてプロットすると、図3に示すような円弧軌跡を含む複素インピーダンスプロット(ナイキストプロット;コール・コールプロット)が得られる。ここで、上記円弧軌跡の実軸との交点と前記複素平面座標の原点との距離を求めることにより前記電解質抵抗成分を求めることができる。また、上記円弧軌跡の円成分の直径を求めることにより前記反応抵抗成分を求めることができる。このような構成とすることで、簡便な手法により交流インピーダンスから電解質抵抗成分および反応抵抗成分を演算することができる。
上述したように、本発明者らの検討によれば、全固体リチウムイオン二次電池の交流インピーダンスを測定し、測定された交流インピーダンスから電解質抵抗成分および反応抵抗成分を演算し、これらを図2に示すような平面座標上にプロットしていくと、電池の劣化に伴って当該プロットが当該平面座標の原点から遠ざかる向きに略直線状に移動していくという現象が見出された。図2には、そのように略直線状に移動したプロットを直線近似することにより得られた近似直線が(i)〜(v)の5本示されている。すなわち、図2に示す(i)〜(v)の5本の直線は、参照電池を複数の異なる環境条件で繰り返し充電および/または放電した際に、上記環境条件ごとに内部短絡プロットおよび正常プロットを用いて作成されたものである。本明細書では、上記マップに含まれるこのような近似直線を「参照近似直線」とも称する。なお、これらの参照近似直線のそれぞれは、同一の(等価な)電池を用いて得られたものであるが、異なる環境条件(電池温度および/または電池に印加される拘束圧力)のもとで充電および/または放電を繰り返して得られたものである。言い換えれば、電池の充放電時の環境条件を固定すれば、充放電回数の増加に伴って交流インピーダンスから演算される電解質抵抗成分および反応抵抗成分のプロットは略直線状に移動することが判明したのである。このように、記憶部82(第1記憶部)が記憶する「内部短絡プロットおよび正常プロットを含むマップ」は、参照電池を複数の異なる環境条件で繰り返し充電および/または放電することにより作成されたものであることが好ましく、この際、上記環境条件は電池温度および/または電池に対して印加される拘束圧力を含むことがより好ましい。これは以下の理由による。すなわち、本発明者らは、ある正常プロットを得た後に電池温度を高くしたり、電池に対して印加される拘束圧力を大きくしたりすると、反応抵抗成分(図2に示す縦軸)に対する電解質抵抗成分(図2に示す横軸)の比の値が相対的に変化することを見出した。そして、この事実を反映して近似直線の傾きが変化し、当該直線は図2において時計回りまたは反時計回りに移動する。また、上記の処理によって、正常プロットの原点からの距離は短縮して異なる近似直線をもたらすことが見出されたため、上記のような環境条件を変化させることで複数の近似直線を得ておくことができるのである。なお、これらの事実から、本発明者らは、充放電反応の進行とこれに伴う電池の劣化の原因として、固体電解質層と電極活物質層との間の接触状態の悪化が関与しているものと考えている。そして、電池温度の上昇や拘束圧力の増加によって固体電解質層と電極活物質層との間の接触状態が良化する結果、上述したような正常プロットの原点からの距離の短縮が生じるものと推測している。図4は、等価な電池を用い、同一の電池温度(60℃)の条件下において、異なる拘束圧力(0.2MPaまたは7.0MPa)で同一の充電条件による同一回数の充電処理を繰り返すことにより得られた内部抵抗座標と、各環境条件について内部抵抗座標を最小二乗法を用いて直線近似することにより得られた近似直線を示すグラフの一例である。
ここで、図2に戻ると、図2に示すバツ印(×)のプロットは、事前検討の際にその後の充放電によって参照電池において内部短絡が生じた電解質抵抗成分および反応抵抗成分の座標に対応する(内部短絡プロット)。一方、図2に示す丸印(○および●)のプロットは、事前検討の際にその後の充放電によっても内部短絡を生じなかった電解質抵抗成分および反応抵抗成分の座標に対応する(正常プロット)。また、黒丸(●)のプロットは、各近似直線におけるバツ印(×)のプロット(内部短絡プロット)の直前に得られた正常プロット(最終正常プロット)である。
これらの各プロットを用いて、図2においては、上記平面座標が3つの領域(領域A〜領域C)に分割されている。まず、領域Aは、各近似直線における黒丸(●)のプロットを曲線近似することにより滑らかに結んだ境界線によって区画される上記平面座標の原点側の領域である。領域Aに存在する座標の電解質抵抗成分および反応抵抗成分の値は、基本的に正常プロットの値よりも小さいことから、内部短絡の状態を推定する対象の電池の電解質抵抗成分および反応抵抗成分の座標が領域Aに存在する場合、当該推定対象の電池はその後の充放電によっても内部短絡を生じないものと推定される。したがって、領域Aを「正常領域」とも称する。一方、領域Cは、各近似直線におけるバツ印(×)のプロット(内部短絡プロット)を曲線近似することにより滑らかに結んだ境界線によって区画される上記平面座標の原点とは反対側の領域である。領域Cに存在する座標の電解質抵抗成分および反応抵抗成分の値は少なくとも1つの内部短絡プロットにおける電解質抵抗成分および反応抵抗成分の値よりもともに大きいことから、内部短絡の状態を推定する対象の電池の電解質抵抗成分および反応抵抗成分の座標が領域Cに存在する場合、当該推定対象の電池はすでに内部短絡を生じているものと推定される。したがって、領域Cを「内部短絡領域」とも称する。最後に、領域Bは、領域A(正常領域)と領域C(内部短絡領域)との間の領域である。領域Bの座標は領域Aに含まれているわけではない。このため、内部短絡の状態を推定する対象の電池の電解質抵抗成分および反応抵抗成分の座標が領域Bに存在する場合、当該推定対象の電池はその後の充放電によって内部短絡を生じないとは言い切れない。よってこの場合、当該推定対象の電池においては、その後の充放電によって内部短絡が発生する可能性があると推定される。したがって、領域Bを「短絡可能性領域」とも称する。このように、正常領域のみならず内部短絡領域および短絡可能性領域も有するマップを用いることで、内部短絡の可能性を予め検知し、事前に対処することが可能となる。なお、図2では最終正常プロット(黒丸)を曲線近似して得られた曲線および内部短絡プロット(×印)を曲線近似して得られた曲線を用いて領域A〜領域Cを区画している。ただし、曲線近似に限らず、各最終正常プロットを直線で繋いで得られた折れ線および各内部短絡プロットを直線で繋いで得られた折れ線を用いて同様に領域A〜領域Cを区画してもよい。
以上、記憶部82が記憶する「内部短絡プロットおよび正常プロットを含むマップ」について説明したが、制御部8は、上記と同様の手順により、インピーダンス測定部7によって測定された交流インピーダンスから電解質抵抗成分および反応抵抗成分を演算し、二つの軸成分からなる平面座標上に、前記電解質抵抗成分を一方の軸成分とするとともに前記反応抵抗成分を他方の軸成分としてプロットすることにより二次電池2の内部抵抗座標を取得する。すなわち、制御部8は、内部抵抗座標取得部としての機能を有している。さらに、制御部8は、取得された前記内部抵抗座標を、事前に二次電池2と等価な参照電池を用いて得られ記憶部82に記憶された、内部短絡プロットおよび正常プロットを含むマップ(例えば、図2に示すマップ)に照らし合わせることにより二次電池2における内部短絡の発生またはその可能性の有無を推定する。すなわち、制御部8は、状態推定部としての機能も有している。
また、本実施形態において、制御部8は、二次電池2に対して充電処理または放電処理を行う前に上記推定を実施した際に、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定したときには、前記内部短絡が発生しにくくなるように前記充電処理または前記放電処理の条件を設定して前記充電処理または前記放電処理を行う(短絡可能性検知時制御)。このような制御部8としては、電気自動車においては、例えば電子制御ユニット(ECU;Electronic Control Unit)などを用いるようにしてもよい。
ここで、記憶部82は、CPU81がワーキングエリアとして使用するRAMのほかに、不揮発性メモリーを搭載している。不揮発性メモリーには、本実施形態において二次電池2の内部抵抗座標を取得する制御や、二次電池2における内部短絡の発生の可能性の有無の推定、短絡可能性検知時制御などを行うためのプログラムが記憶されている。
また、記憶部82は、推定対象の二次電池2について、内部抵抗座標取得部としての制御部8によって取得された内部抵抗座標を、当該内部抵抗座標が取得されるごとに記憶する(第2記憶部)。なお、図1に示すブロック図では、第1記憶部および第2記憶部をまとめて「記憶部82」として示している。
[充放電処理]
また、本発明の一形態に係る二次電池システムは、例えば、全固体リチウムイオン二次電池の充放電処理にも適用することができる。すなわち、状態推定部としての制御部8は、二次電池2に対して充電処理または放電処理を行う前に本発明に係る制御(二次電池の内部短絡状態の推定)を実施しうる。このように、二次電池2に対して充電処理または放電処理を行う前に本発明に係る制御を実施することで、内部短絡の可能性を向上させうる充放電処理の実施前に内部短絡の可能性の有無を検知することができ、より確実に二次電池2における内部短絡の発生を防止することができる。以下では、二次電池システム1における充電処理と、その際に制御部8が行う本発明に係る制御(二次電池の内部短絡状態の推定)の手順を説明する。
充電処理は、二次電池システム1が外部電源9に接続されて、二次電池2に対して充電電力が供給可能な状態において行われる。また、本実施形態における充電処理の制御は、二次電池2の電圧が所定電圧となるまでは定電流充電方式で行い、二次電池2の電圧が所定電圧となった後には定電圧充電方式で行う、定電流・定電圧(CC−CV)充電方式を用いている。
本実施形態における充電処理においては、二次電池2に充電処理を行う際に、当該二次電池2の交流インピーダンス(複素インピーダンス)を測定し、測定された当該二次電池2の交流インピーダンス(複素インピーダンス)に基づいて、当該二次電池2の状態(ここでは、内部短絡の発生の可能性の有無)を推定する。そして、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定したときには、内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の条件を設定して充電処理を行うものである。なお、特に断りのない限り、この充電処理は制御部8によって行われる。以下、図5を参照してこの充電処理の手順を説明する。図5は、二次電池システム1における充電処理の手順を示すフローチャートである。
まず、制御部8は、温度センサー4から現在温度を取得し、電圧センサー3から現在電圧を取得する(S101)。
続いて、制御部8は、インピーダンス測定部7を制御して、二次電池2の交流インピーダンスを測定するための入力信号としての交流摂動電流の重畳を開始する(S102)。この際、国際公開第2012/077450号パンフレットの図2に記載されているような内部抵抗測定装置のように、交流ブリッジの原理を利用することで、計測対象ではない経路に重畳電流が回り込むことを防止することが好ましい。このような構成とすることで、二次電池2に接続されている負荷等が交流インピーダンスの測定結果に及ぼす影響を低減することができ、交流インピーダンスを高精度で測定することが可能となる。その後、制御部8は、後述する本発明に係る制御(二次電池2における内部短絡の発生の可能性の有無の推定)を実施する。
具体的に、制御部8は、内蔵するタイマー(図示せず)から取得した交流摂動電流の重畳開始からの経過時間(交流電流重畳時間)が、予め決定された所定時間(「第1しきい時間」と称する)以上であるか否かを判断する(S103)。ここで交流電流重畳時間が第1しきい時間以上でなければ(S103:NO)、制御部8は、交流電流重畳時間が第1しきい時間以上となるまで、この判断を繰り返し実施する。ここで、交流インピーダンスを測定するために重畳される交流電流の印加の初期には電流値が安定せず、過渡的な電流値の変化が本発明に係る制御に影響を及ぼす可能性がある。このステップS103を実施するのは、この影響を排除することで、推定の精度を向上させるためである。なお、第1しきい時間の具体的な値は適宜設定されうるが、例えば数十〜数百ミリ秒である。
続いて、ステップS103において、交流電流重畳時間が第1しきい時間以上となったら(S103:YES)、制御部8は、インピーダンス測定部により測定された交流インピーダンスに基づいて、二次電池2において内部短絡の発生の危険性があるか否かの推定を実施する(S104)。
図6は、図5のステップS104のサブルーチンフローチャートである。
図6に示すサブルーチンにおいて、制御部8は、まず、インピーダンス測定部7によって測定された交流インピーダンスの測定結果を、インピーダンス測定部7の出力として取得する。この際、制御部8は、低域通過フィルタ(ローパスフィルタ;LPF)などを用いることで、インピーダンス測定部7からの出力における高周波成分に起因するノイズを除去する(S201)。
次いで、制御部8は、ステップS201においてノイズが除去されたインピーダンス測定部7からの出力をもとに、二次電池2の電解質抵抗値および反応抵抗値を演算する(S202)。上述したように、電解質抵抗値および反応抵抗値から内部抵抗座標を求め、これを指標として内部短絡状態を推定することで、特に全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡の状態を精度よく推定することが可能である。ここで、二次電池2の等価回路図を図7に示す。図7に示すように、正極(反応抵抗Ract,cおよび容量(電気二重層)成分Cdl,cからなる)と、電解質(抵抗成分Rsepからなる)と、負極(反応抵抗Ract,aおよび容量(電気二重層)成分Cdl,aからなる)とから構成されている。ここで制御部8は、上述したように、二次電池2に所定の周波数帯内の多数の周波数値の交流信号を印加して、各前記周波数値ごとにインピーダンスの実軸成分値(Z’)および虚軸成分値(Z”)を測定する。次いで、実軸および虚軸が直交してなる複素平面座標上に、前記実軸成分値を前記実軸成分とするとともに前記虚軸成分値を前記虚軸成分としてプロットすることにより、図3に示すような円弧軌跡を含む複素インピーダンスプロット(ナイキストプロット;コール・コールプロット)を得る。そしてこの複素インピーダンスプロットから、二次電池2の電解質抵抗値および反応抵抗値を演算するのである。なお、このようにして得られる反応抵抗値は、図7に示す等価回路図における正極の反応抵抗Ract,cと負極の反応抵抗Ract,aとの合計値に相当する。
続いて、制御部8は、ステップS202において今回の演算により取得された二次電池2における電解質抵抗値および反応抵抗値を、図2に示すような二つの軸成分からなる平面座標上に、前記電解質抵抗成分を一方の軸成分(図2に示す横軸成分)とするとともに前記反応抵抗成分を他方の軸成分(図2に示す縦軸成分)としてプロットすることにより二次電池2の内部抵抗座標を取得する(S203)。そして、制御部8は、今回の演算により取得された内部抵抗座標を、記憶部82(第1記憶部)に記憶された、図2に示すような「正常領域を(短絡危険領域および内部短絡領域とともに)示すマップ」に照らし合わせ、当該内部抵抗座標が内部短絡領域に含まれるか否かを判断する(S204)。ここで今回の演算により取得された内部抵抗座標が内部短絡領域に含まれていれば(S204:YES)、制御部8は、二次電池2において内部短絡が発生していると推定し、このサブルーチンを終了する。
そして、図5に示すフローチャートを参照して、ステップS204において二次電池2において内部短絡が発生していると推定された場合(S105:YES)、制御部8は、充電処理を停止する制御を実施して、この処理を終了する(S106)。この際、必要に応じて、充電が停止したことをユーザーに通知してもよい。
一方、図6に示すフローチャートを参照して、ステップS204において二次電池2において内部短絡が発生していないと推定された場合(S204:NO)、制御部8は、二次電池2において内部短絡は発生していないと推定する。そして、制御部8は続いて、今回の演算により取得された内部抵抗座標を、記憶部82(第1記憶部)に記憶された「正常領域を(短絡危険領域および内部短絡領域とともに)示すマップ」に照らし合わせ、当該内部抵抗座標が短絡可能性領域に含まれるか否かを判断する(S205)。ここで今回の演算により取得された内部抵抗座標が短絡可能性領域に含まれていれば(S205:YES)、制御部8は、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定する。
一方、今回の演算により取得された内部抵抗座標が短絡可能性領域に含まれていなければ(S205:NO)、制御部8は、今回の演算と同一の環境条件(設定温度および拘束圧力)下での前回までの演算において取得された内部抵抗座標がすでに記憶部82に記憶されているか否かを判断する(S206)。ここで第2記憶部が今回の演算と同一の環境条件(設定温度および拘束圧力)下での前回までの演算において取得された内部抵抗座標を記憶していなければ(S206:NO)、制御部8は、今回の演算において取得された内部抵抗座標を第2記憶部に記録して、このサブルーチンを終了する(S207)。
一方、第2記憶部が今回の演算と同一の環境条件(設定温度および拘束圧力)下での前回までの演算において取得された内部抵抗座標を記憶していれば(S206:YES)、制御部8は、前回までの演算において取得され前記第2記憶部に記憶された内部抵抗座標を今回の演算において取得された内部抵抗座標とともに用いて近似直線を得る(S208)。この際、近似直線を得る手法について特に制限はなく、例えば最小二乗法などの近似手法が用いられうる。そして、制御部8は、得られた近似直線を第1記憶部に記憶された「正常領域を(短絡危険領域および内部短絡領域とともに)示すマップ」を参照することにより、前記近似直線取得部によって得られた前記近似直線の傾きに基づいて二次電池2における内部短絡の発生の可能性の有無を推定する。
本実施形態において、制御部8は、上記マップにおける短絡可能性領域と上記近似直線との交点と、今回の演算において取得された内部抵抗座標との距離(「距離L1」と称する)が予め決定されたしきい値(「第1しきい距離」と称する)以下であるか否かを判断する(S209)。ここで距離L1が第1しきい距離以下であれば(S209:YES)、制御部8は、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定する。一方、距離L1が第1しきい距離よりも大きければ(S209:NO)、制御部8は、二次電池2において短絡が発生する可能性はないと推定し、今回の演算において取得された内部抵抗座標を第2記憶部に記録して、このサブルーチンを終了する(S207)。
このように、本実施形態に係る制御は、同一の環境条件(設定温度および拘束圧力)下において取得される全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗座標が直線近似可能であることを利用して、近似直線の傾きに基づいて内部短絡の発生の可能性の有無を推定するものである。そして、今回の演算において取得された内部抵抗座標が、参照電池においては内部短絡が発生しなかった領域である正常領域(図2に示す領域A)に含まれる場合であっても、短絡可能性領域(図2に示す領域B)との距離が近い場合には次回の充電処理において内部短絡が発生する可能性があると推定して、後述する短絡可能性検知時制御などの対処を予め採ることができ、より安全に二次電池2を使用することを可能とするものである。なお、上述の実施形態では、第2記憶部が今回の演算と同一の環境条件(設定温度および拘束圧力)下での前回までの演算において取得された内部抵抗座標を記憶している場合に得られた近似直線から内部短絡の発生の可能性を推定する際には、距離L1が所定値以下であるか否かを指標とした。ただし、このような形態のみに制限されず、例えば、距離L1が、今回の演算において取得された内部抵抗座標と前回の演算において取得された内部抵抗座標との距離よりも小さいときに、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定することもできる。このような構成とすることによっても、後述する短絡可能性検知時制御などの対処を予め採ることができ、より安全に二次電池2を使用することが可能である。
続いて、ステップS107における判定の具体的な手法の他の例について説明する。
ここでは、まず、近似直線取得部によって得られた前記近似直線の傾きに基づいて二次電池2における内部短絡の発生の可能性の有無を推定する際に、前記近似直線の傾きから、前記近似直線に最も近接した前記参照近似直線を特定する。そして、特定された前記参照近似直線における内部短絡プロットと、今回の演算において取得された前記内部抵抗座標との距離L2に基づいて、前記全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡の発生の可能性の有無を推定することも可能である。具体的に、制御部8は、上記で特定された参照近似直線における内部短絡プロットと今回の演算において取得された内部抵抗座標との距離L2が予め決定されたしきい値(「第2しきい距離」と称する)以下であるときには、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定することができる。
また、特定された参照近似直線における最終正常プロットを参照して内部短絡の発生の可能性を推定することもできる。例えば、制御部8は、上記で特定された参照近似直線における内部短絡プロットと今回の演算において取得された内部抵抗座標との距離L2が、特定された参照近似直線における内部短絡プロットの直前に得られた正常プロット(最終正常プロット)と今回の演算において取得された前記内部抵抗座標との距離に基づいて決定されたしきい値(「第3しきい距離」と称する)よりも小さいときには、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定することができる。なお、第3しきい距離としては、特定された参照近似直線における最終正常プロットと今回の演算において取得された内部抵抗座標との距離をそのまま用いてもよいし、この距離に一定の安全率(>1)を乗算して得られた値を用いてもよい。
以上では、第1記憶部に記憶されるマップが、正常領域、内部短絡領域および短絡可能性領域を示すものである場合や、これに加えて参照近似直線をさらに含むものである場合を例に挙げて本発明の制御について説明した。ただし、第1記憶部に記憶されるマップがこれらの情報を含まず、単に参照電池において内部短絡が発生した内部抵抗座標(内部短絡プロット)および内部短絡が発生しなかった内部抵抗座標(正常プロット)のみを含む場合であっても、本発明によれば、近似直線取得部によって得られた前記近似直線の傾きに基づいて二次電池2における内部短絡の発生の可能性の有無を推定することが可能である。例えば、制御部8は、まず、近似直線取得部によって得られた前記近似直線の傾きに基づいて二次電池2における内部短絡の発生の可能性の有無を推定する際に、前記近似直線の傾きから、前記近似直線に最も近接した内部短絡プロットおよび正常プロットを特定する。そして、制御部8は、前記近似直線に最も近接した内部短絡プロットと今回の演算において取得された内部抵抗座標との距離L3が、前記近似直線に最も近接した正常プロットと今回の演算において取得された前記内部抵抗座標との距離に基づいて決定されたしきい値(「第4しきい距離」と称する)よりも小さいときには、二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定することができる。なお、第4しきい距離としては、前記近似直線に最も近接した正常プロットと今回の演算において取得された前記内部抵抗座標との距離をそのまま用いてもよいし、この距離に一定の安全率(>1)を乗算して得られた値を用いてもよい。
図5に示すフローチャートを参照して、ステップS209において二次電池2において内部短絡が発生する可能性がないと推定された場合(S107:NO)、制御部8は、充電条件を変更せずに充電処理を実施し、この処理を終了する(S108)。
一方、ステップS209において二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定された場合(S107:YES)、制御部8は、二次電池2において内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の条件(充電条件)を設定して充電処理を実施し、この処理を終了する(S109)。
ここで、上述したように、本実施形態における充電処理の制御は、定電流・定電圧(CC−CV)充電方式を用いている。したがって、ステップS108またはステップS109において充電処理を実施する際、制御部8は、充電処理を開始した後、電圧センサー3から取得した現在電圧と、電流センサー6から取得した現在電流に基づいて、定電流(CC)充電方式にて充電を実施するか、定電圧(CV)充電方式にて充電を実施するかを決定してもよい。なお、この切り替えの指標としては、二次電池2のSOCが挙げられ、例えばSOCが80%以上であるか否かを基準として切り替えが可能である。ここで、SOCの値は、電圧センサー3によって取得された現在電圧を最大セル電圧で除算することにより算出することができる。
続いて、ステップS209において二次電池2において内部短絡が発生する可能性があると推定された場合(S107:YES)に、二次電池2において内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の条件(充電条件)を設定して充電処理を実施する際の制御(短絡可能性検知時制御)の具体的な形態について、説明する。
本実施形態において、短絡可能性検知時における制御の具体的な形態については特に制限されず、二次電池2において内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の条件を変更する処理であればよい。例えば、制御部8は、抵抗可能性検知時制御として、充電処理における電流またはCレートを、選択可能な電流またはCレートの上限値よりも小さい値に設定して充電処理を行うことができる。また、制御部8は、抵抗可能性検知時制御として、充電処理における電流またはCレートを、前回の充電処理における値よりも小さい値に設定して充電処理を行うこともできる。充電電流またはCレートが大きいほど内部短絡は発生しやすくなることから、これらの短絡可能性検知時制御を実施することにより、内部短絡の可能性があると推定された場合であってもその可能性を低減した状態で充電処理を実施することができる。このため、内部短絡による電池の劣化を効果的に防止しつつ、二次電池2が潜在的に保有している電池容量を十分に活用することができる。なお、これらの制御を実施する際には、必要に応じて、その旨や所定電圧までの充電に要する時間が延長されることとなる旨をユーザーに通知してもよい。このような短絡可能性検知時制御を実施する場合には、条件変更後の充電処理の条件(充電電流またはCレート、および充電時間)を予め適切に設定しておくことで、その後の充電処理において二次電池2での内部短絡の可能性が上昇するのを防止することができる。
短絡可能性検知時制御として、制御部8は、二次電池2において内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の際の二次電池2の環境条件を設定して充電処理を実施してもよい。ここで、二次電池の環境条件としては、二次電池2の電池温度や拘束圧力が挙げられる。また、上述したように、電池温度を高くしたり、電池に対して印加される拘束圧力を大きくしたりすると、内部抵抗座標(正常プロット)の原点からの距離を短縮させることができる。このような内部抵抗座標の原点からの距離の短縮は、内部短絡の可能性を低下させるものであるため、これらの制御もまた、短絡可能性検知時制御として好ましいものである。なお、上述したように、二次電池2の環境条件を変更すると、その後に得られる内部抵抗座標はそれまでに得られた内部抵抗座標から得られた近似直線上からは逸脱することとなる。したがて、上記の形態のように二次電池2において内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の際の二次電池2の環境条件を設定して充電処理を行った後には、それまでに近似直線を得るための近似に用いた内部抵抗座標(第2記憶部に記憶されている)を、その後の近似直線を得るための近似には用いないことが好ましい。言い換えれば、二次電池2において内部短絡が発生しにくくなるように充電処理の際の二次電池2の環境条件を設定して充電処理を行った後には、それまでに第2記憶部に記憶されていた内部抵抗座標を消去することが好ましい。これにより、次回以降の本発明の制御は、内部抵抗座標が第2記憶部に記憶されていない状態で実施されることとなり、より高精度で内部抵抗の発生やその可能性の有無を推定することが可能となる。
以上、本発明に係る制御について詳細に説明したが、図面を参照しつつ説明した実施形態はあくまでも一例に過ぎず、特許請求の範囲に記載された発明の技術的思想の範囲内において適宜改変して本発明を実施してもよい。例えば、上述の説明においては、本発明の制御を充電処理(好ましくは急速充電処理)を実施する前の全固体リチウムイオン二次電池に対して実施する場合を例に挙げたが、放電処理前に本発明の制御を実施してもよい。例えば、毎日の電気自動車の起動時に本発明の制御を実施し、内部短絡の可能性があると推定された場合には、上記の説明における「充電処理」を「放電処理」と読み替えて短絡可能性検知時制御を実施すればよい。
なお、本発明の他の形態によれば、全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡の発生またはその可能性の有無を推定する内部短絡状態推定装置が提供される。具体的に、内部短絡状態推定装置は、図1に示すインピーダンス測定部7と、制御部8と、を必須の構成要素として構成されうる。インピーダンス測定部7は、全固体リチウムイオン二次電池の交流インピーダンスを測定するものである。また、内部短絡状態推定装置において、制御部8は、インピーダンス測定部によって測定された交流インピーダンスから電解質抵抗成分および反応抵抗成分を演算し、二つの軸成分からなる平面座標上に、前記電解質抵抗成分を一方の軸成分とするとともに前記反応抵抗成分を他方の軸成分としてプロットすることにより全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗座標を取得する内部抵抗座標取得部として機能する。また、制御部8は、事前に全固体リチウムイオン二次電池と等価な参照電池を用いて得られた、前記参照電池において内部短絡が発生した内部抵抗座標(内部短絡プロット)および内部短絡が発生しなかった内部抵抗座標(正常プロット)を含むマップを記憶し(第1記憶部)、前記内部抵抗座標取得部によって取得された前記内部抵抗座標を、前記内部抵抗座標が取得されるごとに記憶する(第2記憶部)、記憶部82を備える。そして、制御部8は、内部抵抗座標取得部によって取得された内部抵抗座標を、前記第1記憶部に記憶された前記マップに照らし合わせることにより全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡の発生の可能性の有無を推定する状態推定部としての機能も有している。また、制御部8は、前記内部抵抗座標取得部によって取得され前記第2記憶部に記憶された複数の前記内部抵抗座標を用いて近似直線を得る近似直線取得部としての機能も有している。
以上、図5および図6に示すフローチャートを参照して、本発明に係る制御について説明したが、本発明によれば、この制御に対応する全固体リチウムイオン二次電池の内部短絡状態の推定方法もまた、提供される。すなわち、本発明の一形態に係る全固体リチウムイオン二次電池の内部短絡状態の推定方法は、全固体リチウムイオン二次電池の交流インピーダンスを測定することと、前記交流インピーダンスから電解質抵抗成分および反応抵抗成分を演算し、二つの軸成分からなる平面座標上に、前記電解質抵抗成分を一方の軸成分とするとともに前記反応抵抗成分を他方の軸成分としてプロットすることにより前記全固体リチウムイオン二次電池の内部抵抗座標を取得することと、前記内部抵抗座標を、事前に前記全固体リチウムイオン二次電池と等価な参照電池を用いて得られた、前記参照電池において内部短絡が発生した前記内部抵抗座標である内部短絡プロットおよび内部短絡が発生しなかった前記内部抵抗座標である正常プロットを含むマップに照らし合わせることにより前記全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡の発生の可能性の有無を推定することと、を含む。そして、当該方法は、今回の演算において取得された前記内部抵抗座標を前記マップに照らし合わせることにより前記全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡が発生しておらず、その可能性もないと推定したときに、前回までの演算において取得された前記内部抵抗座標が存在すれば、前回までの演算において取得された前記内部抵抗座標を今回の演算において取得された内部抵抗座標とともに用いて近似直線を得、得られた前記近似直線の傾きに基づいて、前記全固体リチウムイオン二次電池における内部短絡の発生の可能性の有無を推定することをさらに含むものである。
また、本発明のさらに他の形態によれば、全固体リチウムイオン二次電池を充電する全固体リチウムイオン二次電池用充電装置も提供される。具体的に、全固体リチウムイオン二次電池用充電装置は、図1に示すインピーダンス測定部7と、制御部8(記憶部82を含む)と、外部電源9と、電圧電流調整部5と、を必須の構成要素として構成されうる。
以下、本実施形態に係る全固体リチウムイオン二次電池システムの構成要素について説明する。なお、本明細書では、双極型の全固体リチウムイオン二次電池を単に「双極型二次電池」とも称し、双極型全固体リチウムイオン二次電池用電極を単に「双極型電極」と称することがある。
<双極型二次電池>
図8は、本発明の一実施形態に係る双極型(バイポーラ型)の全固体リチウムイオン二次電池(双極型二次電池)を模式的に表した断面図である。図8に示す双極型二次電池10は、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。
図8に示すように、本形態の双極型二次電池10の発電要素21は、集電体11の一方の面に電気的に結合した正極活物質層13が形成され、集電体11の反対側の面に電気的に結合した負極活物質層15が形成された複数の双極型電極23を有する。各双極型電極23は、固体電解質層17を介して積層されて発電要素21を形成する。なお、固体電解質層17は、固体電解質が層状に成形されてなる構成を有する。この際、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15とが固体電解質層17を介して向き合うように、各双極型電極23および固体電解質層17が交互に積層されている。すなわち、一の双極型電極23の正極活物質層13と前記一の双極型電極23に隣接する他の双極型電極23の負極活物質層15との間に固体電解質層17が挟まれて配置されている。ただし、本発明の技術的範囲は図8に示すような双極型二次電池に限定されず、複数の単電池層が電気的に直列に積層されてなる結果として同様の直列接続構造を有する電池であってもよい。
隣接する正極活物質層13、固体電解質層17、および負極活物質層15は、一つの単電池層19を構成する。したがって、双極型二次電池10は、単電池層19が積層されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の最外層に位置する正極側の最外層集電体11aには、片面のみに正極活物質層13が形成されている。また、発電要素21の最外層に位置する負極側の最外層集電体11bには、片面のみに負極活物質層15が形成されている。
さらに、図8に示す双極型二次電池10では、正極側の最外層集電体11aに隣接するように正極集電板(正極タブ)25が配置され、これが延長されて電池外装体であるラミネートフィルム29から導出している。一方、負極側の最外層集電体11bに隣接するように負極集電板(負極タブ)27が配置され、同様にこれが延長されてラミネートフィルム29から導出している。
なお、単電池層19の積層回数は、所望する電圧に応じて調節する。また、双極型二次電池10では、電池の厚みを極力薄くしても十分な出力が確保できれば、単電池層19の積層回数を少なくしてもよい。双極型二次電池10でも、使用する際の外部からの衝撃、環境劣化を防止するために、発電要素21を電池外装体であるラミネートフィルム29に減圧封入し、正極集電板25および負極集電板27をラミネートフィルム29の外部に取り出した構造とするのがよい。
以下、上述した双極型二次電池の主な構成要素について説明する。
[集電体]
集電体は、正極活物質層と接する一方の面から、負極活物質層と接する他方の面へと電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。
また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはポリスチレン(PS)などが挙げられる。かような非導電性高分子材料は、優れた耐電位性または耐溶媒性を有しうる。
上記の導電性高分子材料または非導電性高分子材料には、必要に応じて導電性フィラーが添加されうる。特に、集電体の基材となる樹脂が非導電性高分子のみからなる場合は、樹脂に導電性を付与するために必然的に導電性フィラーが必須となる。
導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物を含むことが好ましい。また、導電性カーボンとしては、特に制限はない。好ましくは、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)、ブラックパール(登録商標)、カーボンナノファイバー、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノバルーン、およびフラーレンからなる群より選択される少なくとも1種を含むものである。
導電性フィラーの添加量は、集電体に十分な導電性を付与できる量であれば特に制限はなく、一般的には、集電体の全質量100質量%に対して5〜80質量%である。
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含む。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb2O5、Li4Ti5O12、SiO等が挙げられる。さらに、金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等の金属単体や、TiSi、La3Ni2Sn7等の合金が挙げられる。また、負極活物質として、Liを含有する金属を用いてもよい。このような負極活物質は、Liを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属のほか、Li含有合金が挙げられる。Li含有合金としては、例えば、Liと、In、Al、SiおよびSnの少なくとも1種との合金が挙げられる。
場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
負極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。負極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm〜100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm〜20μmの範囲内であり、特に好ましくは1〜20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
負極活物質層における負極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40〜99質量%の範囲内であることが好ましく、50〜90質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。負極活物質層が固体電解質を含むことにより、負極活物質層のイオン伝導性を向上させることができる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI−Li2S−SiS2、LiI−Li2S−P2O5、LiI−Li3PO4−P2S5、Li2S−P2S5、LiI−Li3PS4、LiI−LiBr−Li3PS4、Li3PS4、Li2S−P2S5、Li2S−P2S5−LiI、Li2S−P2S5−Li2O、Li2S−P2S5−Li2O−LiI、Li2S−SiS2、Li2S−SiS2−LiI、Li2S−SiS2−LiBr、Li2S−SiS2−LiCl、Li2S−SiS2−B2S3−LiI、Li2S−SiS2−P2S5−LiI、Li2S−B2S3、Li2S−P2S5−ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S−GeS2、Li2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S−P2S5」の記載は、Li2SおよびP2S5を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
硫化物固体電解質は、例えば、Li3PS4骨格を有していてもよく、Li4P2S7骨格を有していてもよく、Li4P2S6骨格を有していてもよい。Li3PS4骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI−Li3PS4、LiI−LiBr−Li3PS4、Li3PS4が挙げられる。また、Li4P2S7骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi−P−S系固体電解質(例えば、Li7P3S11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4−x)Ge(1−x)PxS4(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、Li2S−P2S5を主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
また、硫化物固体電解質がLi2S−P2S5系である場合、Li2SおよびP2S5の割合は、モル比で、Li2S:P2S5=50:50〜100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLi2S:P2S5=70:30〜80:20であることが好ましい。
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10−5S/cm以上であることが好ましく、1×10−4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlxGe2−x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlxTi2−x(PO4)3(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO3)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.3N0.46)、LiLaZrO(例えば、Li7La3Zr2O12)等が挙げられる。
固体電解質の形状としては、例えば、真球状、楕円球状等の粒子形状、薄膜形状等が挙げられる。固体電解質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、特に限定されないが、40μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。一方、平均粒径(D50)は、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。
負極活物質層における固体電解質の含有量は、例えば、1〜60質量%の範囲内であることが好ましく、10〜50質量%の範囲内であることがより好ましい。
負極活物質層は、上述した負極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。
導電助剤としては、例えば、アルミニウム、ステンレス(SUS)、銀、金、銅、チタン等の金属、これらの金属を含む合金または金属酸化物;炭素繊維(具体的には、気相成長炭素繊維(VGCF)、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、活性炭素繊維等)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(具体的には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラック等)等のカーボンが挙げられるが、これらに限定されない。また、粒子状のセラミック材料や樹脂材料の周りに上記金属材料をめっき等でコーティングしたものも導電助剤として使用できる。これらの導電助剤のなかでも、電気的安定性の観点から、アルミニウム、ステンレス、銀、金、銅、チタン、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウム、ステンレス、銀、金、およびカーボンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことがより好ましく、カーボンを少なくとも1種を含むことがさらに好ましい。これらの導電助剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用しても構わない。
導電助剤の形状は、粒子状または繊維状であることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。
導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01〜10μmであることが好ましい。なお、本明細書中において、「導電助剤の粒子径」とは、導電助剤の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離Lを意味する。「導電助剤の平均粒子径」の値としては、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの観察手段を用い、数〜数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする。
負極活物質層が導電助剤を含む場合、当該負極活物質層における導電助剤の含有量は特に制限されないが、負極活物質層の合計質量に対して、好ましくは0〜10質量%であり、より好ましくは2〜8質量%であり、さらに好ましくは4〜7質量%である。このような範囲であれば、負極活物質層においてより強固な電子伝導パスを形成することが可能となり、電池特性の向上に有効に寄与することが可能である。
一方、バインダとしては、特に限定されないが、例えば、以下の材料が挙げられる。
ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム、エポキシ樹脂等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
負極活物質層の厚さは、目的とする全固体電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1〜1000μmの範囲内であることが好ましい。
[正極活物質層]
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質の種類としては、特に制限されないが、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、Li(Ni−Mn−Co)O2等の層状岩塩型活物質、LiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4等のスピネル型活物質、LiFePO4、LiMnPO4等のオリビン型活物質、Li2FeSiO4、Li2MnSiO4等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、Li4Ti5O12が挙げられる。なかでも、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好ましく用いられ、さらに好ましくはLi(Ni−Mn−Co)O2およびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
さらに、硫黄系正極活物質が用いらるのも好ましい実施形態の1つである。硫黄系正極活物質としては、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、国際公開第2010/044437号パンフレットに記載の化合物に代表される硫黄変性ポリアクリロニトリル、硫黄変性ポリイソプレン、ルベアン酸(ジチオオキサミド)、ポリ硫化カーボン等が挙げられる。なかでも、ジスルフィド化合物および硫黄変性ポリアクリロニトリル、およびルベアン酸が好ましく、特に好ましくは硫黄変性ポリアクリロニトリルである。ジスルフィド化合物としては、ジチオビウレア誘導体、チオウレア基、チオイソシアネート、またはチオアミド基を有するものがより好ましい。ここで、硫黄変性ポリアクリロニトリルとは、硫黄粉末とポリアクリロニトリルとを混合し、不活性ガス下もしくは減圧下で加熱することによって得られる、硫黄原子を含む変性されたポリアクリロニトリルである。その推定構造は、例えばChem. Mater. 2011,23,5024−5028に示されているように、ポリアクリロニトリルが閉環して多環状になるとともに、Sの少なくとも一部はCと結合している構造である。この文献に記載されている化合物はラマンスペクトルにおいて、1330cm−1と1560cm−1付近に強いピークシグナルがあり、さらに、307cm−1、379cm−1、472cm−1、929cm−1付近にピークが存在する。一方、無機硫黄化合物は安定性に優れることから好ましく、具体的には、硫黄(S)、S−カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、NiS、NiS2、CuS、FeS2、Li2S、MoS2、MoS3等が挙げられる。なかでも、S、S−カーボンコンポジット、TiS2、TiS3、TiS4、FeS2およびMoS2が好ましく、S−カーボンコンポジット、TiS2およびFeS2がより好ましい。ここで、S−カーボンコンポジットとは、硫黄粉末と炭素材料とを含み、これらを加熱処理または機械的混合に供することによって複合化した状態のものである。より詳細には、炭素材料の表面や細孔内に硫黄が分布している状態、硫黄と炭素材料がナノレベルで均一に分散し、それらが凝集して粒子となっている状態、細かな硫黄粉末の表面や内部に炭素材料が分布している状態、または、これらの状態が複数組み合わさった状態のものである。
場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質が粒子形状である場合、その平均粒径(D50)は、例えば、1nm〜100μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10nm〜50μmの範囲内であり、さらに好ましくは100nm〜20μmの範囲内であり、特に好ましくは1〜20μmの範囲内である。なお、本明細書において、活物質の平均粒径(D50)の値は、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、40〜99質量%の範囲内であることが好ましく、50〜90質量%の範囲内であることがより好ましい。なお、正極活物質層もまた、上述した負極活物質層と同様に、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、バインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。これらの材料の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
[固体電解質層]
本形態に係る双極型二次電池の固体電解質層は、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
固体電解質層における固体電解質の含有量は、例えば、10〜100質量%の範囲内であることが好ましく、50〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、90〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層に含有されうるバインダの具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
固体電解質層の厚さは、目的とする双極型二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1〜1000μmの範囲内であることが好ましく、0.1〜300μmの範囲内であることがより好ましい。
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板27と負極集電板25とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図8に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができることから、外装体はアルミニウムを含むラミネートフィルムがより好ましい。
本形態の双極型二次電池は、複数の単電池層が直列に接続された構成を有することにより、高レートでの出力特性に優れるものである。したがって、本形態の双極型二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
図9は、双極型二次電池の代表的な実施形態である扁平なリチウムイオン二次電池の外観を表した斜視図である。
図9に示すように、扁平な双極型二次電池50では、長方形状の扁平な形状を有しており、その両側部からは電力を取り出すための正極タブ58、負極タブ59が引き出されている。発電要素57は、双極型二次電池50の電池外装体(ラミネートフィルム52)によって包まれ、その周囲は熱融着されており、発電要素57は、正極タブ58および負極タブ59を外部に引き出した状態で密封されている。ここで、発電要素57は、先に説明した図8に示す双極型二次電池10の発電要素21に相当するものである。発電要素57は、双極型電極23が、固体電解質層17を介して複数積層されたものである。
なお、上記リチウムイオン二次電池は、積層型の扁平な形状のものに制限されるものではない。巻回型のリチウムイオン二次電池では、円筒型形状のものであってもよいし、こうした円筒型形状のものを変形させて、長方形状の扁平な形状にしたようなものであってもよいなど、特に制限されるものではない。上記円筒型の形状のものでは、その外装体に、ラミネートフィルムを用いてもよいし、従来の円筒缶(金属缶)を用いてもよいなど、特に制限されるものではない。好ましくは、発電要素がアルミニウムラミネートフィルムで外装される。当該形態により、軽量化が達成されうる。
また、図9に示すタブ58、59の取り出しに関しても、特に制限されるものではない。正極タブ58と負極タブ59とを同じ辺から引き出すようにしてもよいし、正極タブ58と負極タブ59をそれぞれ複数に分けて、各辺から取り出しようにしてもよいなど、図9に示すものに制限されるものではない。また、巻回型のリチウムイオン電池では、タブに変えて、例えば、円筒缶(金属缶)を利用して端子を形成すればよい。
[組電池]
組電池は、電池を複数個接続して構成した物である。詳しくは少なくとも2つ以上用いて、直列化あるいは並列化あるいはその両方で構成されるものである。直列、並列化することで容量および電圧を自由に調節することが可能になる。
電池が複数、直列にまたは並列に接続して装脱着可能な小型の組電池を形成することもできる。そして、この装脱着可能な小型の組電池をさらに複数、直列に又は並列に接続して、高体積エネルギー密度、高体積出力密度が求められる車両駆動用電源や補助電源に適した大容量、大出力を持つ組電池を形成することもできる。何個の電池を接続して組電池を作製するか、また、何段の小型組電池を積層して大容量の組電池を作製するかは、搭載される車両(電気自動車)の電池容量や出力に応じて決めればよい。
組電池に対して本発明に係る充電方法を実施する際には、例えば組電池を構成する個々の電池(単セル)のそれぞれの交流インピーダンスを測定しながら充電処理を実行することができる。このような構成とすることで、個々の電池(単セル)のそれぞれにおける電析の発生を別々にモニタリングしながら充電処理を行うことができる。
[車両]
本形態の二次電池は、長期使用しても放電容量が維持され、サイクル特性が良好である。さらに、体積エネルギー密度が高い。電気自動車やハイブリッド電気自動車や燃料電池車やハイブリッド燃料電池自動車などの車両用途においては、電気・携帯電子機器用途と比較して、高容量、大型化が求められるとともに、長寿命化が必要となる。したがって、上記二次電池は、車両用の電源として、例えば、車両駆動用電源や補助電源に好適に利用することができる。
具体的には、電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を車両に搭載することができる。本発明では、長期信頼性および出力特性に優れた高寿命の電池を構成できることから、こうした電池を搭載するとEV走行距離の長いプラグインハイブリッド電気自動車や、一充電走行距離の長い電気自動車を構成できる。電池またはこれらを複数個組み合わせてなる組電池を、例えば、自動車ならばハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車(いずれも四輪車(乗用車、トラック、バスなどの商用車、軽自動車など)のほか、二輪車(バイク)や三輪車を含む)に用いることにより高寿命で信頼性の高い自動車となるからである。ただし、用途が自動車に限定されるわけではなく、例えば、他の車両、例えば、電車などの移動体の各種電源であっても適用は可能であるし、無停電電源装置などの載置用電源として利用することも可能である。
車両に搭載された電池(組電池)に対して本発明に係る充電方法を実施することで、例えば急速充電時のように内部短絡が発生しやすい充電条件下において充電処理を施す場合であっても、内部短絡が発生する可能性を高精度に推定しつつ、電池の容量を十分に利用するための対処を実施することが可能となるという利点がある。
なお、上記の説明では、双極型二次電池を例に挙げて本発明の実施形態を説明したが、本発明が適用可能な二次電池の種類は特に制限されず、発電要素において単電池層が並列接続されてなる形式のいわゆる並列積層型の全固体電池や、従来公知の任意の双極型または非双極型(並列積層型)の非水電解質二次電池(電解液を用いる電池)にも適用可能である。