本発明は、既設の和風便器を利用して洋風便器を設置した改修便器構造において洋風便器の排水口を和風便器の排水口に接続させる排水接続管に関するものであり、上側を洋風便器の排水口に接続させる上流側縦管部と、上流側縦管部の下端から横方向に延伸した横管部とにより形成された角部分の形状等について工夫を施したしたものである。これにより、本発明は、洋風便器の洗浄の際、洋風便器からの排水によって排水接続管の流路内で部分的に生じる満水化を抑制することで、洋風便器における封水切れを抑制し、結果として節水を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る改修便器構造1について、図1を用いて説明する。図1に示すように、改修便器構造1は、既設の和風便器を利用して洋風便器2を設置した便器構造である。すなわち、改修便器構造1は、元々床に和風便器が設置されていた場所に、既設の和風便器の大部分を利用して、洋風便器2を新設したものである。
改修便器構造1は、既設の和風便器に所定の加工を施した加工後和風便器3と、加工後和風便器3の上側において所定の設置面4上に設置された洋風便器2と、加工後和風便器3と洋風便器2との間の排水流路を構成する排水接続管5とを備える。また、改修便器構造1は、加工後和風便器3内に充填された充填材6を備える。
加工後和風便器3は、洋風便器2を設置するに際し、洋風便器2の設置面4に対応するため、既設の和風便器に対し、上側が設置面4に沿って水平状となるような加工等を施したものであり、既設の和風便器の一部(残存部分)である。具体的には、加工後和風便器3は、図1において二点鎖線で示すように、既設の和風便器の床面上の突出部分7がカットされたものである。この突出部分7は、主に、和風便器において前部に湾曲面状に立ち上がった前立て部と、和風便器のボウル部3aの上側の周囲に形成されたリム部である。
加工後和風便器3は、その下部に、排水口30を有する。排水口30は、加工後和風便器3の後部に設けられており、下方に向けて筒状に突出した部分であって下方に向けて開口している。排水口30は、既設の和風便器の排水口であり、和風便器のボウル部3aの底面部3bの下側において前側から後側への折返しのトラップ流路の下流側に形成されている。排水口30には、加工後和風便器3の下側に配された排水管9が連通接続されている。図1に示す例では、排水管9は、その上端部に排水口30の下端部を挿嵌させた状態で、排水口30に連通接続されている。
洋風便器2は、便器本体10と、便器本体10内に設けられた便器内排水管11とを有する。便器本体10は、図示せぬ給水装置から供給される洗浄水を受けるボウル部12と、ボウル部12の上縁部に形成されたリム部13と、給水装置から供給された洗浄水をボウル部12へと導く導水路14とを有する。ボウル部12の上端部の内壁面には、導水路14から供給される洗浄水を吐出する吐水口15が開口している。吐水口15から吐水された洗浄水は、ボウル部12の壁面に沿って旋回しながら流下してボウル部12を洗浄する。
ボウル部12の下側には、溜水部16が形成されており、溜水部16から、排水トラップ管路17および排水口部18により、便器本体10の排水流路が構成されている。排水トラップ管路17は、溜水部16の下側から後側にかけて、下側に凸の湾曲状のトラップ流路を形成した部分であり、上流側を溜水部16に連通させるとともに、下流側を排水口部18に連通させている。排水口部18は、下方に向けて筒状に突出した部分であり、便器本体10の排水口を下方に向けて開口させている。排水口部18は、便器本体10の後部において、上下方向の中間部の高さ位置で開口している。
便器内排水管11は、その上流側をなす縦方向管部11aと、縦方向管部11aの下部から洋風便器2の前方(図1における左方)に向けて水平状に延伸した横方向管部11bとを有し、これらの管部によって側面視で略「L」字状に構成されている。便器内排水管11は、便器本体10の下部において下側を開放させるように形成された空間内に設けられている。
縦方向管部11aは、上下方向に沿う略鉛直状の管部であり、その上端部に排水口部18の下部を挿嵌させた状態で、排水口部18に連通接続されている。横方向管部11bは、便器本体10の接地面10aに沿って水平状に配された水平状の管部であり、先端部に、下方に向けて開口した排水口11cを有する。排水口11cは、その開口端面を、設置面4に対する便器本体10の接地面10aと略同一平面状に位置させている。排水口11cの周囲には、フランジ部11dが形成されている。
本実施形態では、便器内排水管11の排水口11cが、洋風便器2の排水口20となる。なお、洋風便器2としては、便器内排水管11を介することなく、便器本体10の一部として排水口20を形成した構成のものであってもよい。
排水接続管5は、既設の和風便器を利用して設置された洋風便器2の排水口20を、和風便器の排水口である加工後和風便器3の排水口30に接続させる。すなわち、排水接続管5は、その下流側を加工後和風便器3の排水口30に接続させるとともに上流側を洋風便器2の排水口20に接続させ、洋風便器2の排水口20と和風便器の排水口30とを互いに接続させる。
排水接続管5は、上側を洋風便器2の排水口20に接続させる上流側縦管部31と、下側を加工後和風便器3の排水口30に接続させる下流側縦管部33と、これらの縦管部同士をつなぐ横管部32とを有する。排水接続管5は、これらの管部によって全体としてクランク状をなすように屈曲した形状を有し、その外形に沿ったクランク状の流路を形成している。
したがって、排水接続管5において、横管部32は、上流側縦管部31の下流側に設けられ、上流側縦管部31とともに直角状の屈曲部(以下「上流側屈曲部」という。)38をなす。上流側屈曲部38において、上流側縦管部31における鉛直下方への排水の流れの方向が、横管部32における水平方向に変換される。また、横管部32は、下流側縦管部33の上流側に設けられ、下流側縦管部33とともに直角状の下流側屈曲部39をなす。下流側屈曲部39において、横管部32における水平方向の排水の流れの方向が、下流側縦管部33における鉛直下方に変換される。なお、排水接続管5は、全体として、平面視で横管部32の中心軸方向に直交する方向について対称の形状を有する。
排水接続管5は、下流側縦管部33の下部を、加工後和風便器3の内部側から排水口30に差し込んだ状態で、排水口30に接続されている。排水接続管5の下流側の開口部、つまり下流側縦管部33の下側の開口部は、排水口30に接続された排水管9内に臨んで下方に向けて開口している。
また、改修便器構造1において、排水接続管5の上流側の開口端部、つまり上流側縦管部31の上側の開口端部には、鍔部34が形成されている。鍔部34は、上流側縦管部31の外周面に沿う環状の突起部分であり、上流側縦管部31の管軸方向に対して垂直な面に沿うように形成されており、互いに平行な上面34aおよび下面34bを有する(図3参照)。なお、加工前の状態の排水接続管5においては、鍔部34の上側に延設管部35が存在している。
充填材6は、加工後和風便器3内に、モルタルまたはコンクリートを充填して打設することで形成されたものである。充填材6は、その上面6aを水平状の設置面4に沿わせるように形成されている。充填材6は、設置面4と略面一状の面を形成し、設置面4を補強する補強材として機能する。なお、設置面4の表面には、充填材6の形成部位を含め、床面シートやタイル等が適宜敷設される。
本実施形態に係る改修便器構造1の製造方法、つまり既設の和風便器を利用して洋風便器2を設置する便器の改修方法の概要について、排水接続管5の構成の説明も含めて、図1から図4を用いて説明する。
まず、図2Aに示すように、既設の和風便器3Xに対し、和風便器3Xにおいて前部に湾曲面状に立ち上がった前立て部21、およびボウル部3aの上側の周囲に形成されたリム部をカットする加工が施される。また、ボウル部3aの底面部3b等をカットすることで、排水口30に接続されている既存の排水管9の接続部を露出させるとともに排水接続管5の配設空間を確保するための開口部3c(図1参照)が形成される。
このような和風便器3Xの加工には、例えば円盤状の切断砥石を有する汎用のディスクグラインダ22が用いられる。ただし、和風便器3Xの加工専用の装置が用いられてもよい。以上のような和風便器3Xに対する加工により、改修便器構造1を構成する加工後和風便器3が得られる。
次に、図2Bに示すように、排水接続管5の取付けが行われる。ここで、排水接続管5としては、図3に示すような加工前の状態の構成のものが用いられる。図3に示すように、加工前の状態の排水接続管5(5A)は、鍔部34の上側に延設された延設管部35を有する。延設管部35は、便器の改修の過程で用いられる部分であり、洋風便器2の設置に際しては除去される部分となる。
排水接続管5は、加工後和風便器3に形成された開口部3cを介して、下流側縦管部33を加工後和風便器3の排水口30に上側から差し込んだ状態で取り付けられる。下流側縦管部33の外周面と排水口30の内周面との間は、シール材や接着剤等が適宜用いられて密閉される。
また、排水接続管5は、加工後和風便器3の排水口30の位置との関係で、新設する洋風便器2の排水口20の位置に合わせて取り付けられる。具体的には、図1に示すように、加工後和風便器3の排水口30の軸心線C1と、洋風便器2の排水口20の軸心線C2との距離である心間距離D1に合わせて、横管部32がカットされ、横管部32の長さが調整される。加工後和風便器3の排水口30の軸心線C1が下流側縦管部33の軸心線Cx1に一致し、洋風便器2の排水口20の軸心線C2が上流側縦管部31の軸心線Cx2に一致する。
図3および図4に示すように、排水接続管5は、横管部32をカットすることによる長さ調整を行うための構成として、上流側縦管部31および横管部32の大部分をなす上流側配管部材41と、横管部32と下流側縦管部33の角部分をなすコーナー部材42と、下流側縦管部33の大部分をなす下流側配管部材43とによる分割構造を有する。
コーナー部材42は、開口中心線を互いに直交させた上流側開口42aおよび下流側開口42bを有する屈曲管状の部材である。上流側開口42aに、上流側配管部材41の下流側の端部が挿嵌されており、上流側配管部材41の水平に沿う直線状の管部分と、コーナー部材42とにより、排水接続管5における横管部32が形成されている。また、コーナー部材42の下流側開口42bを形成する下流側の筒状部分は、下流側配管部材43の上側の開口部43aに挿嵌されており、コーナー部材42と下流側配管部材43とにより、排水接続管5における下流側縦管部33が形成されている。以上のような構成により、心間距離D1が、例えば150〜500mmの範囲で調整可能となっている。
本実施形態に係る排水接続管5において、上流側縦管部31の中心軸方向(管軸方向)および下流側縦管部33の中心軸方向は、互いに平行であり、これらの管部の軸心線(Cx2、Cx1)に対して、横管部32の軸心線Cx3は直交している。すなわち、排水接続管5において、上流側縦管部31および下流側縦管部33の中心軸方向(図3における上下方向)を第1の方向とすると、図3に示す排水接続管5の側面視において、横管部32の中心軸方向(図3における左右方向)は、第1の方向に直交する第2の方向となる。排水接続管5は、改修便器構造1において、上流側縦管部31の中心軸方向を上下方向(鉛直方向)とするように設けられている。
図1に示すように、本実施形態では、洋風便器2は、既設の和風便器に対して、前後の向きを反対にするとともに、便器の前部を和風便器の前部の上側に重ねた位置に配置され、排水口20を加工後和風便器3の前部に位置させている。この加工後和風便器3の前部に位置する排水口20と、加工後和風便器3の後部に位置する排水口30とが、排水接続管5により接続される。
そして、側面視で略「L」字状の便器内排水管11と、側面視でクランク状の排水接続管5とにより、便器本体10の排水口部18から加工後和風便器3の排水口30にかけて階段状の排水流路が構成されている。このような流路構成においては、排水接続管5に対して、横管部32の延伸方向(中心軸方向、図1における左右方向)について、便器内排水管11の横方向管部11b内を、上流側縦管部31からの横管部32の延設方向側と反対側から同延設方向側に向かって(図1において右から左に向かって)流れた水が、排水口20から上流側縦管部31に流入する(図1、矢印A1参照)。
なお、加工後和風便器3に対する洋風便器2の配置の向きや位置等により、排水接続管5に流入する水の流れの方向については種々の態様がある。例えば、洋風便器2が、既設の和風便器に対して前後の向きを同じとして、これらの便器の大部分同士が上下に重なる位置に配置された構成において、便器内排水管11の横方向管部11bと、排水接続管5の上流側縦管部31および横管部32とによって略「U」字状の折返し流路が構成される場合がある。このような流路構成においては、排水接続管5に対して、横管部32の延伸方向について、上流側縦管部31からの横管部32の延設方向側から同延設方向側と反対側に向かって(図1において左から右に向かって)流れた水が、上流側縦管部31に流入することになる。
加工後和風便器3に対して排水接続管5が取り付けられた後、図2Cに示すように、モルタルやコンクリート等の充填材料46が、排水接続管5が配置された加工後和風便器3内に打設される。充填材料46を養生して硬化させることで、排水接続管5の位置が固定されるとともに、床の強度を上げるための補強材としての充填材6が形成される。
充填材6は、その上面6aが水平面に沿うように形成される。ここで、充填材6は、その上面6aを、排水接続管5の鍔部34の上面34aと略面一とするように形成される。したがって、充填材料46の養生の過程においては、充填材6の上面6aとなる充填材料46の上面から、延設管部35が上方に向けて突出している(図2C参照)。
延設管部35は、充填材料46の養生の過程において、充填材料46内で排水接続管5が傾くこと等を防止して排水接続管5の姿勢を保持するため、つまり排水接続管5の位置ずれを防止するため、所定の支持部材を作用させる部分となる。延設管部35は、充填材料46の養生後にカットされる。これにより、鍔部34の上面34aが、上流側縦管部31の上側の開口端面となり、充填材6の上面6aと略面一となる。なお、充填材6の代わりにあるいは充填材6に加えて、例えばセラミック板や鋼板といった補強板等の補強部材を設けてもよい。
その後、図2Dに示すように、洋風便器2が、その排水口20に排水接続管5の上流側縦管部31の上端側、つまり鍔部34側を接続させるように、加工後和風便器3の上側に設置される(矢印B1参照)。なお、洋風便器2の設置に際しては、設置面4の表面に、充填材6の形成部位を含め、床面シートやタイル等が適宜敷設される。
以上のような便器の改修方法によれば、例えば既設の和風便器3Xを全て除去する方法と比べて、短い工期で、しかも、複数階の建物の場合において設置階からの作業のみにより階下に影響を与えることなく改修を行うことができる。
以上のような便器の改修によって得られる改修便器構造1においては、排水接続管5は、その横管部32を加工後和風便器3内に位置させるように設けられるため、上流側縦管部31について、上側を洋風便器2の排水口20に接続させる関係から、十分な長さを確保することが困難となる。上流側縦管部31の長さが短いことにより、洋風便器2のボウル部12に臨むように溜水部16に溜められた封水が引き込まれるという現象が生じ得る。
具体的には、洋風便器2において洗浄水による便器の洗浄が行われた際、排水接続管5の上流側縦管部31と横管部32との角部分、つまり上流側屈曲部38において、便器からの排水(洗浄水)が滞留し、流路の一部が排水によって満たされる満水化が生じる。満水化が生じると、排水の流れの作用によって負圧が生じ、サイフォン現象によって洋風便器の封水が引き込まれてしまう。
図5において、改修便器構造1の排水経路で満水化が生じている部位を破線楕円E1で示している。図5に示すように、改修便器構造1の排水経路において、上流側縦管部31の流路部分が排水で満たされた状態となっており、満水化が生じている。なお、図5は、洋風便器2の便器洗浄時における所定のタイミングでの改修便器構造1の排水経路における排水の状態を示している。図5に示す水の状態は、改修便器構造1の排水経路における排水の挙動についてのシミュレーションに基づくものであり、図5において着色部分(薄墨部分)が水を示している。
このように洋風便器2の封水が引き込まれることで、封水の水面(溜水面)が低下し、封水が断絶される封水切れという現象が生じる可能性がある。図5おいて、封水切れが生じている部位を破線楕円E2で示している。図5に示す例では、便器洗浄時において、溜水面が、便器洗浄の開始前の位置P0から、排水トラップ管路17内の高さ位置である位置P1に低下し、封水切れが生じている。
こうした封水切れを防止するためには、洋風便器2の洗浄に用いる洗浄水の水量を増やす必要がある。しかしながら、洗浄水の水量を増やすことは、節水の観点から好ましくない。
上述したような満水化の発生は、上流側屈曲部38に対し、横管部32の延設方向と同じ方向(図5において左方向)に横方向管部11b内を流れてきた水が上流側縦管部31の上側から下側に向けて急激に流れ込むことで、横管部32の上流側の開口部(破線楕円E3で示す部位参照)において流路が水によって瞬間的に塞がれることに起因する。
そこで、満水化を抑制するための方策として、排水接続管5における上流側屈曲部38の角度を大きくすること、つまり上流側屈曲部38を鈍角状の角部分とすることや、上流側屈曲部38を湾曲状の角部分とすることが考えられる。しかしながら、上流側屈曲部38の角度が鈍角になったり上流側屈曲部38が湾曲状の角部分となったりすると、心間距離D1(図1参照)に応じた横管部32の長さ調整の幅が小さくなってしまう。
また、上流側屈曲部38の角度が鈍角の場合、水平状の横管部32に対して上流側縦管部31が同角度を直角から大きくする向きに傾斜した状態となる。つまり、加工後和風便器3内に配置される排水接続管5については、上流側を洋風便器2の排水口20に接続させる関係上、上流側屈曲部38の角度を直角から大きくすると、その分、上流側屈曲部38が下流側(下流側縦管部33側)に移動することになる。この点、上流側屈曲部38が湾曲状の角部分である場合も同様である。このことから、排水接続管5の上側に形成された充填材6について、上流側屈曲部38の上側の部位の厚さが薄くなり、その分、補強材としての充填材6による強度が低下することになる。
このように、排水接続管5において横管部32の長さ調整の幅を確保する観点や、排水接続管5の上側における充填材6の強度を確保する観点からは、上流側屈曲部38は直角状であることが好ましい。そこで、本実施形態に係る排水接続管5は、排水の満水化を抑制すべく、以下に説明するような構成を備える。
すなわち、図6から図12に示すように、排水接続管5において、横管部32は、その上流側に、上流側屈曲部38の流路内に臨む流路断面を上側に広げた流路拡大部としての膨出部50を有する。膨出部50は、横管部32において、横方向の管部分の基端部(上流側の端部)の上側に、管部分の他の部位、つまり長手方向について図11に示すような一定の横断面形状をなす通常部位32Aに対して、膨出状に張り出した部分として形成されている。
膨出部50は、平面視(上面視)で横管部32の中心軸方向に直交する方向(図8における上下方向)について対称に形成されている。なお、排水接続管5において、平面視で横管部32の中心軸方向に直交する方向(図8における矢印X1方向)を左右方向とし、横管部32の中心軸方向を前後方向とし、横管部32に対して下流側縦管部33が設けられた側(図8において左側)を前側、その反対側(図8において右側)を後側とする。
膨出部50は、上流側縦管部31の前側の略半円筒面状の部分である前側半部31cと、横管部32の上側の略半円筒面状の部分である上側半部32cとによる角部分に形成されている。つまり、膨出部50は、上流側屈曲部38の屈曲形状における内側に形成されている。
膨出部50は、横管部32において、通常部位32Aとの関係で管壁の厚さを薄くするとともに、外形上、部分的に膨出することで、横管部32の管状部分の基端部の流路面積を上側に広げている。ここで、横管部32の管状部分は、横管部32のうち、上流側縦管部31の前側半部31cより前側に突出した部分である。
具体的には、図9に示すように、膨出部50は、横管部32の通常部位32Aに対して、横管部32の上流側屈曲部38内に臨む開口部分(矢印F1参照)、つまり上流側縦管部31の前側半部31cの下側における流路部分の流路断面積を上側に広げている。膨出部50は、前後方向については、上流側縦管部31の前側半部31cの位置から前方に向けて所定の範囲で形成されている。
本実施形態では、膨出部50は、前後方向について、横管部32の全体の長さに対して十分に短い範囲で形成されている。なお、図9は、排水接続管5の上流側屈曲部38近傍の左右方向の中央位置における側面断面図を示している。
また、膨出部50は、左右方向について、横管部32の左右方向の外径の範囲の全体に形成されている(図8参照)。なお、横管部32の左右方向の外径の範囲は、円形の横断面形状を有する上流側縦管部31の外径の範囲と略一致する。
膨出部50は、横管部32の上面をなす水平面51を形成している。膨出部50は、水平面51を形成する水平状の上面部52と、横管部32の通常部位32Aに対して上側に立ち上がった曲面状の立上り面部53とを有する。
上面部52は、水平板状の部分であり、その上面を水平面51としている。また、上面部52は、水平面51の裏面として、水平に沿う下面52aを有する。本実施形態では、上面部52の板厚は、横管部32の通常部位32Aの周壁の厚さよりも薄くなっている。具体的には、上面部52の板厚は、通常部位32Aの管壁(周壁)の厚さの略半分程度の厚さとなっている。通常部位32Aの管壁の厚さは、例えば7mm程度である。ただし、上面部52の板厚と通常部位32Aの管壁の厚さとの相対的な大小関係および各部の厚さは特に限定されず、例えば、各部の厚さが互いに略同一であってもよい。
上面部52は、平面視において、上流側縦管部31の前側半部31cの外周の湾曲形状に沿った三日月状の形状を有する。すなわち、上面部52の平面視形状は、上流側縦管部31の前側半部31cの外周面に沿った後側の円弧状の線と、この円弧状の線の前側に位置する湾曲線とによって三日月状の形状となっている。
また、上面部52は、上流側縦管部31の前側半部31cに対して垂直状に形成されている。したがって、例えば図9に示す左右方向の中心位置における縦断面視において、上下方向に沿う前側半部31cと、水平状の上面部52とにより、直角状の角部分が形成されている。ただし、前側半部31cと上面部52の角部分、つまり上流側縦管部31と横管部32による屈曲形状の内側の角部分は、縦断面視でR形状部をなすような湾曲面状の部分であってもよい。
立上り面部53は、上面部52と、横管部32の通常部位32Aにおける上側半部32cとをつなぐ曲面部である。立上り面部53と上面部52との境界部は、上述のとおり水平面51の平面視形状である三日月状の前側の湾曲線に沿う稜線を形成している。立上り面部53と上面部52とは、縦断面視で鈍角状の角部を形成している。
立上り面部53は、その前側の部分をなす前側面部53aと、立上り面部53左右両側の部分をなす左右両側の側面部53bとを有する。前側面部53aおよび左右の側面部53bは、上面部52の平面視形状における前側の湾曲形状に沿うように滑らかにつながっている。
前側面部53aは、立上り面部53の前側において、上面部52と通常部位32Aの上側半部32cとを傾斜状に滑らかにつなぐ裾野状の部分を形成している。側面部53bは、立上り面部53の左右両側において、平面視で略前後方向に沿う略平面状の部分を形成しており、平面視で上流側縦管部31の左右両端部に対して接線状をなすように形成されている。
膨出部50は、図9に示すように、立上り面部53の前側面部53aにより、横管部32の上側半部32cにおいて、通常部位32Aの内周面32eの高さ位置H1に対し、前側面部53aの立上り寸法ΔH分、上面部52の下面52aの高さ位置H2を上側に位置させている。すなわち、膨出部50は、横管部32の上流側屈曲部38内に臨む開口部分(図9、矢印F1参照)の流路断面積(開口面積)を、通常部位32Aに対して、前側面部53aの立上り寸法ΔH分、上側に向けて拡げている。
ここで、横管部32における通常部位32Aおよび膨出部50の形成部位それぞれの横断面形状について、図11および図12を用いて説明する。なお、図11は、図7におけるB−B断面図であり、通常部位32Aの横断面形状を示している。また、図12は、図7におけるC−C断面図であり、膨出部50の形成部位の横断面形状を示している。
図11に示すように、横管部32における通常部位32Aの横断面形状は、円形状に沿う横断面形状が上側の部分についてひしゃげた態様の形状となっている。詳細には、通常部位32Aの横断面形状において、下側の大部分は、略円弧形状に沿う下側に凸の略半円形状の円弧形状部32fとなっており、上側の部分は、略楕円形状に沿う上側に凸の略半楕円形状の楕円形状部32gとなっている。
すなわち、通常部位32Aの横断面形状は、下側に凸の円弧形状部32fが沿う円形状の直径に対して、上側に凸の楕円形状部32gが沿う楕円形状の長軸が対応し、半楕円形状と半円弧形状とが上下に合わさった形状を有する。このように、横管部32の通常部位32Aの横断面形状は、上側の部分について円形状に対して扁平な形状であり、円形状に対する異形形状(変形円形状)となっている。
本実施形態では、横管部32の通常部位32Aにおいて、上下方向について、下側の略2/3が円弧形状部32fとなっており、上側の略1/3が楕円形状部32gとなっている。このような横断面形状を有する横管部32の通常部位32Aは、横断面形状において円弧形状部32fをなす下側の部分は、下側に凸の半円筒状の形状を有し、横断面形状において楕円形状部32gをなす上側の部分は、上側に凸の半楕円筒状の形状を有する。なお、図11においては、円弧形状部32fと楕円形状部32gの境界線を二点鎖線L1で示している。
図12に示すように、膨出部50の形成部位の横断面形状は、下側の大部分を、通常部位32Aと共通の形状とし、通常部位32Aの横断面形状における円弧形状部32fと同形状の円弧形状部32sとしている。これに対し、膨出部50の形成部位の横断面形状において、上側の部分は、膨出部50によって上側に張り出した形状を有する膨出形状部50sとなっている。
膨出形状部50sは、円弧形状部32sの左右両側の上側に形成された部分であって前側面部53aの左右の両側の部分による傾斜形状部56と、上面部52による水平面部57とにより、略台形状に沿うように角張った形状を有する。左右の傾斜形状部56は、下側から上側にかけて徐々に左右の間隔を狭めるように傾斜状に形成されており、上部において上下方向に対する傾斜を緩めて水平面部57につながっている。膨出形状部50sにおいて、傾斜形状部56の上部と上面部52とにより、直角に近い角度(例えば100°程度)の鈍角状の角部が形成されている。
このように、膨出部50の形成部位の横断面形状は、下側に凸の円弧形状部32sが沿う円形状の直径に対して、膨出形状部50sが沿う台形状の下底が対応し、台形状と半円弧形状とが上下に合わさった形状を有する。なお、図12においては、円弧形状部32sと膨出形状部50sの境界線を二点鎖線L2で示している。
そして、膨出部50が通常部位32Aに対して上側に張り出し状に形成されているため、膨出部50の形成部位においては、通常部位32Aに対して、流路断面積が上側に拡張している。すなわち、図12に示すように、横断面形状において、膨出形状部50sの大部分は、通常部位32Aの楕円形状部32gの内周面32eよりも上側に位置しており、その分、流路断面積が上側に広がっている。
図12において、通常部位32Aに対して膨出部50により上側に拡張された流路部分を、着色部分(薄墨部分)で示している。この着色部分は、楕円形状部32gの内周面32eと、上面部52の下面52aに対応する水平面部57の下面57aと、前側面部53aの左右部分の内側面に対応する傾斜形状部56の内側面56aとにより囲まれた領域となる。
以上のように、本実施形態の排水接続管5において、膨出部50は、横管部32の上側に張り出した部分として形成されている。そして、膨出部50は、上下方向について、排水接続管5の他の部位との間で次のような高さ関係を有する。すなわち、膨出部50の上面は、横管部32の膨出部50以外の部分の上端の高さ位置を基準として、上流側縦管部31の上端面の高さの半分の高さよりも下に位置している。
本実施形態では、膨出部50の上面は、上面部52の水平面51である。また、横管部32の膨出部50以外の部分は、直線管状の部分である通常部位32Aである。そして、ここでの上流側縦管部31の上端面は、改修便器構造1を構成する使用状態の排水接続管5、つまり延設管部35がカットされた状態の排水接続管5についてのものであり、鍔部34の上面34aとなる。
したがって、図9に示すように、膨出部50の水平面51の高さ位置T1は、横管部32の通常部位32Aの上端の高さ位置T0を基準として、鍔部34の上面34aの高さ位置T2の半分の高さ位置T3よりも下に位置している。言い換えると、通常部位32Aの上端の高さ位置T0を基準とした高さ(上下方向の寸法)について、水平面51の高さU1は、鍔部34の上面34aの高さU0の半分の高さU2よりも小さくなっている。本実施形態では、水平面51の高さU1は、鍔部34の上面34aの高さU2の1/6〜1/5程度の高さとなっている。
以上説明した本実施形態に係る排水接続管5によれば、既設の和風便器を利用して洋風便器2を設置した改修便器構造1における洋風便器2からの排水流路において、排水の満水化を抑制することができ、洋風便器2の封水切れを抑制することができる。
すなわち、洋風便器2において洗浄水による便器の洗浄が行われた際、洋風便器2からの排水が上流側屈曲部38に流れ込んだときに、排水の一部が膨出部50内に流れ込み、これによって水の流れが撹拌される。これにより、上流側屈曲部38において、便器からの排水が滞留することが抑制され、流路の一部が排水によって満たされる満水化を抑制することができる。このため、満水化に起因した負圧の作用により洋風便器2の封水が下流側に引き込まれることを抑制することができる。
結果として、洋風便器2の封水が引き込まれることで生じる封水切れを抑制することができるので、封水切れを防止するために洋風便器2の洗浄水の水量を増やす必要がなくなり、節水を図ることができる。具体的には、排水接続管5において膨出部50を設けることにより、膨出部50がない場合との比較において、洋風便器2の洗浄水の量を、例えば6.0リットルから4.8リットルに減らすことが可能になることが実験等によりわかっている。
図13は、本実施形態に係る洋風便器2の便器洗浄時における所定のタイミングでの改修便器構造1の排水経路における排水の状態を示している。つまり、図5に示す例は、排水接続管5が膨出部50を有さない場合の排水の挙動についてのシミュレーションに基づくものであるのに対し、図13に示す例は、排水接続管5が膨出部50を有する場合の排水の挙動についてのシミュレーションに基づくものである。図13において、着色部分(薄墨部分)が水を示している。
図13に示す例においては、図5に示す例で満水化が生じていた上流側縦管部31の流路部分は排水で満たされておらず、排水の滞留、即ち満水化が解消されている(破線楕円E4で示す部分参照)。
このように上流側縦管部31の流路部分での満水化が解消されることで、便器洗浄時における溜水面の低下量は、便器洗浄の開始前の位置P0から位置P2までの溜水部16内におけるわずかな量となる。このように溜水面の低下が抑制されることで、洋風便器2における封水切れが生じないこととなる(破線楕円E5で示す部分参照)。なお、図13に示す例における溜水面の低下量ΔP2は、図5に示す例における溜水面の低下量ΔP1に対して略1/4程度に減っている。
このように、排水接続管5において膨出部50を設けることで、横管部32の上流側の開口部(破線楕円E3で示す部位参照)の流路が拡大され、排水接続管5における満水化を抑制することができる。なお、横管部32の上流側の開口部の流路を広げるために、単に横管部32の管径を全体的に大きくした構成が考えられる。しかしながら、かかる構成によれば、加工後和風便器3内に配される横管部32については、設置面4との関係で高さの制約があることから、横管部32上の充填材6の部分について十分な厚さを得ることができず、充填材6の強度を確保することが困難となる。
また、本実施形態に係る排水接続管5において、膨出部50は、横管部32の上面をなす水平面51を形成している。
このような構成によれば、設置面4側から充填材6を介して膨出部50に加わる荷重について、水平面51により均一に荷重を受けることができることから、膨出部50に対して荷重が一部に集中することを抑制することができる。これにより、膨出部50が上側からの荷重によって変形したり破損したりすることを抑制することができ、膨出部50における耐荷重性を向上させることができる。
また、本実施形態に係る排水接続管5において、張り出し状に形成された膨出部50は、その上面である水平面51を、横管部32の通常部位32Aの上端から鍔部34の上面34aまでの高さの半分よりも低い高さに位置させている。
このような構成によれば、膨出部50の上側の充填材6の部分について十分な厚さを得ることができ、充填材6の強度を容易に確保することができる。すなわち、膨出部50の上面の高さ位置が鍔部34の上面34aの高さ位置に近付くほど、膨出部50の上側の充填材6の厚さが薄くなるため、充填材6の強度を確保することが困難となるが、膨出部50をその上面が上述のような高さ位置となるように設けることにより、充填材6について十分な強度を容易に得ることが可能となる。
また、本実施形態に係る排水接続管5において、横管部32は、その通常部位32Aの横断面形状を、上側の部分について円形状に対して扁平な形状としている。
このような構成によれば、設置面4との関係で高さの制約がある横管部32において、流路面積を確保しながら、高さを抑えることができる。そして、横管部32の高さが抑えられることから、横管部32上の充填材6の部分について十分な厚さを得ることができ、充填材6の強度を容易に確保することができる。
以上のように実施形態を用いて説明した本発明に係る排水接続管は、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。
上述した実施形態では、本発明に係る流路拡大部は、横管部32においてその上流側の端部のみに形成された膨出部50として設けられているが、このような構成に限定されるものではなく、膨出部50は、横管部32の中間部の方まで下流側に延設されていてもよい。ただし、上述したように横管部32上の充填材6の厚さを確保する観点からは、上述した実施形態のように横管部32の上流側の端部のみに膨出部50を設けた構成が好ましい。つまり、上述した実施形態のような膨出部50の形成態様によれば、横管部32上の略全体にわたって充填材6の厚さを確保することができ、充填材6について十分な強度を得ることができる。
また、上述した実施形態では、本発明に係る流路拡大部は、横管部32の表面に対して外形的に張り出した膨出部50として設けられているが、このような構成に限定されるものではない。本発明に係る流路拡大部は、例えば、横管部32の外形的には通常部位32Aと共通の横断面形状をなすとともに、横管部32の内周側に、横管部32の上流側の開口部の流路面積を上側に広げるような凹部ないし溝部を形成した部分であってもよい。
また、上述した実施形態では、排水接続管5は、その構成部材として上流側縦管部31および横管部32の大部分をなす上流側配管部材41を有するものであるが、このような構成に限定されるものではない。本発明に係る排水接続管は、例えば、上流側縦管部31および横管部32を互いに別体の部材により構成したものや、上流側縦管部31および横管部32の一部同士を別体の部材により構成したものや、上流側縦管部31および横管部32の各管部を複数の部材により構成したものあってもよい。これらの構成は、例えば、上述した実施形態における上流側配管部材41を複数の部材からなる分割構造とすること等によって実現される。