以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
<車両の駆動系>
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。エンジン2は、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンである。
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)および燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3およびベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission:無段変速機)4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
トルクコンバータ3は、ロックアップ機構付きのトルクコンバータであり、フロントカバー11、ポンプインペラ12、タービンランナ13およびロックアップクラッチ(ロックアップピストン)14を備えている。フロントカバー11には、エンジン2のクランクシャフトが接続され、フロントカバー11は、クランクシャフトと一体に回転する。ポンプインペラ12は、フロントカバー11に対するエンジン側と反対側に配置されている。ポンプインペラ12は、フロントカバー11と一体回転可能に設けられている。タービンランナ13は、フロントカバー11とポンプインペラ12との間に配置されて、フロントカバー11と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。ロックアップクラッチ14は、フロントカバー11とタービンランナ13との間に配置されている。
ロックアップクラッチ14は、ロックアップクラッチ14とフロントカバー11との間の解放側油室15の油圧とロックアップクラッチ14とポンプインペラ12との間の係合側油室16の油圧との差圧により係合/解放される。すなわち、解放側油室15の油圧が係合側油室16の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップクラッチ14がフロントカバー11から離間し、ロックアップクラッチ14が解放された状態(ロックアップオフ)になる。係合側油室16の油圧が解放側油室15の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップクラッチ14がフロントカバー11に押し付けられて、ロックアップクラッチ14が係合された状態(ロックアップオン)になる。
ロックアップオフの状態において、E/G出力軸が回転されると、ポンプインペラ12が回転する。ポンプインペラ12が回転すると、ポンプインペラ12からタービンランナ13に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ13で受けられて、タービンランナ13が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ13には、E/G出力軸のトルクよりも大きなトルクが発生する。
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸が回転されると、E/G出力軸、ポンプインペラ12およびタービンランナ13が一体となって回転する。
トルクコンバータ3と無段変速機4との間には、オイルポンプ8が設けられている。オイルポンプ8は、機械式のオイルポンプであり、ポンプ軸は、トルクコンバータ3のポンプインペラ12と一体回転するように設けられている。これにより、エンジン2の動力によりポンプインペラ12が回転すると、オイルポンプ8のポンプ軸が回転し、オイルポンプ8から油圧が発生する。
無段変速機4は、トルクコンバータ3から入力される動力をデファレンシャルギヤ5に伝達する。無段変速機4は、インプット軸(入力軸)21、アウトプット軸(出力軸)22、ベルト伝達機構23および前後進切替機構24を備えている。
インプット軸21は、トルクコンバータ3のタービンランナ13に連結され、タービンランナ13と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
アウトプット軸22は、インプット軸21と平行に配置されている。アウトプット軸22には、出力ギヤ25が相対回転不能に支持されている。
ベルト伝達機構23には、プライマリ軸31およびセカンダリ軸32が含まれる。プライマリ軸31およびセカンダリ軸32は、それぞれインプット軸21およびアウトプット軸22と同一軸線上に配置されている。
そして、ベルト伝達機構23は、プライマリ軸31に支持されたプライマリプーリ33とセカンダリ軸32に支持されたセカンダリプーリ34とに、無端状のベルト35が巻き掛けられた構成を有している。
プライマリプーリ33は、プライマリ軸31に固定された固定シーブ41と、固定シーブ41にベルト35を挟んで対向配置され、プライマリ軸31にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ42とを備えている。可動シーブ42に対して固定シーブ41と反対側には、プライマリ軸31に固定されたシリンダ43が設けられ、可動シーブ42とシリンダ43との間に、可動シーブ42に付与される油圧が供給される油圧室44が形成されている。
セカンダリプーリ34は、セカンダリ軸32に対して固定された固定シーブ45と、固定シーブ45にベルト35を挟んで対向配置され、セカンダリ軸32にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持された可動シーブ46とを備えている。可動シーブ46に対して固定シーブ45と反対側には、セカンダリ軸32に固定されたピストン47が設けられ、可動シーブ46とピストン47との間に、可動シーブ46に付与される油圧が供給される油圧室48が形成されている。
プライマリプーリ33の可動シーブ42の移動により、固定シーブ41と可動シーブ42との間隔である溝幅が連続的に変化する。セカンダリプーリ34の可動シーブ46の移動により、固定シーブ45と可動シーブ46との間隔である溝幅が連続的に変化する。プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34の各溝幅を連続的に変更することにより、プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34に対するベルト35の巻きかけ径を変更することができ、変速比(プーリ比)を無段階で連続的に変更することができる。
その一方で、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧がベルト35に付与されるよう、プライマリプーリ33の油圧室44およびセカンダリプーリ34の油圧室48に油圧が供給される。
なお、図示されていないが、可動シーブ46とピストン47との間には、ベルト35に初期挟圧(初期推力)を与えるためのバイアススプリングが介在されている。バイアススプリングの弾性力により、可動シーブ46およびピストン47は、互いに離間する方向に付勢されている。
前後進切替機構24は、インプット軸21とベルト伝達機構23のプライマリ軸31との間に介装されている。前後進切替機構24は、遊星歯車機構51、クラッチC1およびブレーキB1を備えている。
遊星歯車機構51には、キャリヤ52、サンギヤ53およびリングギヤ54が含まれる。
キャリヤ52は、インプット軸21に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ52は、複数のピニオンギヤ55を回転可能に支持している。複数のピニオンギヤ55は、円周上に配置されている。
サンギヤ53は、インプット軸21に相対回転不能に支持されて、複数のピニオンギヤ55により取り囲まれる空間に配置されている。サンギヤ53のギヤ歯は、各ピニオンギヤ55のギヤ歯と噛合している。
リングギヤ54は、その回転軸線がプライマリ軸31の軸心と一致するように設けられている。リングギヤ54には、ベルト伝達機構23のプライマリ軸31が連結されている。リングギヤ54のギヤ歯は、複数のピニオンギヤ55を一括して取り囲むように形成され、各ピニオンギヤ55のギヤ歯と噛合している。
クラッチC1は、油圧により、キャリヤ52とサンギヤ53とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態(オン)と、その直結を解除する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
ブレーキB1は、キャリヤ52とトルクコンバータ3および無段変速機4を収容するトランスミッションケースとの間に設けられ、油圧により、キャリヤ52を制動する係合状態(オン)と、キャリヤ52の回転を許容する解放状態(オフ)とに切り替えられる。
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、シフトレバー(セレクトレバー)が配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジションおよびD(ドライブ)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放され、パーキングロックギヤ(図示せず)が固定されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるPレンジが構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるNレンジが構成される。クラッチC1およびブレーキB1の両方が解放された状態では、インプット軸21およびサンギヤ53が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
シフトレバーがDポジションに位置する状態では、ブレーキB1が係合されて、クラッチC1が解放されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つである前進レンジが構成される。前進レンジでは、エンジン2の動力がインプット軸21に入力されると、キャリヤ52が静止した状態で、サンギヤ53がインプット軸21と一体に回転する。そのため、サンギヤ53の回転は、リングギヤ54に逆転かつ減速されて伝達される。これにより、リングギヤ54が回転し、ベルト伝達機構23のプライマリ軸31およびプライマリプーリ33がリングギヤ54と一体に回転する。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。そして、セカンダリ軸32と一体に、アウトプット軸22および出力ギヤ25が回転する。出力ギヤ25は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5の入力ギヤ)と噛合している。出力ギヤ25が回転すると、デファレンシャルギヤ5から左右に延びるドライブシャフト6L,6Rが回転して、駆動輪7L,7Rが回転することにより、車両1が前進する。
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、ブレーキB1が解放されて、クラッチC1が係合されることにより、無段変速機4の変速レンジの1つであるRレンジが構成される。Rレンジでは、エンジン2の動力がインプット軸21に入力されると、キャリヤ52およびサンギヤ53がインプット軸21と一体に回転する。そのため、サンギヤ53の回転は、リングギヤ54に回転方向が逆転されずに伝達される。これにより、リングギヤ54が回転し、ベルト伝達機構23のプライマリ軸31およびプライマリプーリ33がリングギヤ54と一体に回転する。プライマリプーリ33の回転は、ベルト35を介して、セカンダリプーリ34に伝達され、セカンダリプーリ34およびセカンダリ軸32を回転させる。そして、セカンダリ軸32と一体に、アウトプット軸22および出力ギヤ25が回転する。出力ギヤ25が回転すると、デファレンシャルギヤ5から左右に延びるドライブシャフト6L,6Rが回転して、駆動輪7L,7Rが回転することにより、車両1が後進する。
<車両の制御系>
図2は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。図5には、1つのECU91のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU91と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU91を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
トルクコンバータ3および無段変速機4を含むユニットには、各部に油圧を供給するための油圧回路92が備えられている。ECU91は、無段変速機4の変速比の制御などのため、油圧回路92に含まれる各種のバルブなどを制御する。
ECU91には、制御に必要な各種センサが接続されている。各種センサには、たとえば、アクセルセンサ93および車速センサ94が含まれる。
アクセルセンサ93は、運転者により操作されるアクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた検出信号を出力する。ECU91では、アクセルセンサ93の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度が求められる。
車速センサ94は、たとえば、車両1の走行に伴って回転する磁性体からなるロータと、ロータと非接触に設けられた電磁ピックアップとを備え、ロータが一定角度回転する度に電磁ピックアップから出力されるパルス信号を検出信号として出力する。この検出信号(パルス信号)の周波数は、車両1の実車速に対応している。ECU91では、車速センサ94から入力される検出信号の周波数が求められて、その周波数が車速に換算される。
なお、アクセルセンサ93および車速センサ94は、他のECUに接続されていてもよく、その場合、ECU91は、それらの検出信号から求められる情報を他のECUから通信により取得してもよい。
<変速比制御>
図3は、ECU91による無段変速機4の変速比の制御のための構成を示すブロック図である。
ECU91のメモリには、変速線図101が記憶されている。変速線図101は、アクセル開度および車速とインプット軸21の目標回転数との関係を定めたマップである。ECU91では、変速比を制御するため、変速線図101に基づいて、アクセル開度および車速に応じた目標回転数が設定される。
ECU91は、変速比の制御のための機能処理部として、目標変速比設定部102、フィルタ処理部103および変速コントローラ104を実質的に備えている。これらの機能処理部は、プログラム処理によってソフトウエア的に実現されるか、または、論理回路などのハードウェアにより実現される。
ECU91では、目標回転数が設定されると、目標変速比設定部102の機能により、インプット軸21に入力される回転数、つまりタービン回転数を目標回転数に一致させる変速比の目標である目標変速比が求められる。
図4は、目標変速比(制御目標)についての不感帯の時間変化の一例を示す図である。図5は、車速と不感帯の幅との関係を示す図である。
フィルタ処理部103は、目標変速比についての不感帯を設定する。具体的には、アクセル開度および車速は、それぞれ一定の周期で検出され、フィルタ処理部103は、たとえば、変速線図101を用いて、目標回転数の設定に使用されたアクセル開度および車速よりもN周期前(N:自然数)に検出されたアクセル開度および車速に応じた基準回転数を求め、その求めた基準回転数に応じた基準変速比を求める。そして、その基準変速比に所定値を加えた値を不感帯の上限値に設定し、基準変速比から所定値を減じた値を不感帯の下限値に設定する。
基準変速比に加減される所定値は、車速に応じて設定される。すなわち、車速が高いほど不感帯の幅が小さくなるように、基準変速比に加減される所定値が設定される。言い換えれば、車速が低いほど不感帯の幅が大きくなるように、基準変速比に加減される所定値が設定される。ただし、不感帯の幅に上限ガードが設定されて、不感帯の幅が上限ガード以下に制限されることが好ましい。基準変速比に加えられる所定値と基準変速比から減じられる所定とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
フィルタ処理部103は、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯に含まれるか否かを判定する。目標変速比が不感帯に含まれる場合、フィルタ処理部103は、不感帯の上限値と下限値との平均値を求め、その求めた平均値を目標変速比として出力する。すなわち、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯に含まれる場合、目標変速比が目標変速比設定部102により設定された目標変速比から不感帯の上限値と下限値との平均値に変更される。
一方、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯に含まれない場合、フィルタ処理部103は、不感帯の上下限値を、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯を超えた量だけ更新する。たとえば、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯の上限値を上回る場合には、不感帯の上限値が目標変速比設定部102により設定された目標変速比と同じ値に更新され、不感帯の下限値が更新後の上限値から更新前の上限値と下限値との差(車速に応じた不感帯の幅)を引いた値に設定される。また、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯の下限値を下回る場合には、不感帯の下限値が目標変速比設定部102により設定された目標変速比と同じ値に更新され、不感帯の上限値が更新後の下限値に更新前の上限値と下限値との差(車速に応じた不感帯の幅)を足した値に設定される。そして、更新後の上限値と下限値との平均値を目標変速比として出力する。これにより、フィルタ処理部103から出力される目標変速比は、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯を超えた量に追従して変化する。
変速コントローラ104は、フィルタ処理部103から出力される目標変速比と実際の変速比である実変速比との偏差に応じて、プライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34に供給される油圧を制御するためのソレノイドバルブに供給される電流の指示値(ソレノイド指示値)を設定する。このソレノイド指示値の電流がソレノイドバルブに供給されることにより、プライマリプーリ33の油圧室44およびセカンダリプーリ34の油圧室48に供給される油圧が変更されて、プライマリプーリ33の可動シーブ42およびセカンダリプーリ34の可動シーブ46が移動して、実変速比が目標変速比と一致するように変速する。
実変速比は、プライマリ回転数およびセカンダリ回転数から求めることができ、プライマリ回転数およびセカンダリ回転数は、それぞれプライマリプーリ33およびセカンダリプーリ34が一定角度回転する度にセンサから出力されるパルス信号の周波数から求めることができる。
<作用効果>
以上のように、フィルタ処理部103では、アクセル開度および車速に基づいて、制御目標である目標変速比についての不感帯が設定される。不感帯の設定後、アクセル開度および車速に応じた目標変速比が設定されると、その目標変速比が不感帯に含まれるか否かが判断される。そして、目標変速比が不感帯に含まれる場合には、その目標変速比が不感帯の上限値と下限値との平均値に変更され、変更後の目標変速比がフィルタ処理部103から出力されて変速コントローラ104に入力される。これにより、目標変速比が不感帯内で振動的に変動しても、制御対象の制御量である実変速比が変動することを抑制できる。その結果、ベルト35の挟圧に過不足が生じることにより、ベルト35の滑りが生じたり、ベルト35の挟圧が過大となって、無段変速機4のトルク伝達効率が悪化したりすることを抑制できる。
一方、アクセル開度および車速に応じた目標変速比が不感帯に含まれない場合には、その目標変速比が不感帯を超えた量に応じて、不感帯の上限値および下限値が更新される。そして、更新後の上限値と下限値との平均値が目標変速比とされる。したがって、アクセルが素早くかつ大きく操作されて、アクセル開度および車速に応じた目標変速比が不感帯を超えて大きく変化した場合には、その超えた量に応じて不感帯の上限値および下限値が更新され、その更新後の上限値と下限値との平均値が目標変速比とされる。これにより、アクセル開度および車速に応じた目標変速比が不感帯を超えた量に応じてフィルタ処理部103から出力される目標変速比が変化するので、アクセル操作による変速要求に対して良好な応答性で実変速比を変更(変速)することができる。
しかも、車速が高いほど不感帯の幅が小さく設定されるので、車両1が高車速で走行中のキックダウン要求に対しても良好な応答性で制御対象の制御量を変化させることができる。
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述の実施形態では、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯に含まれない場合、その目標変速比が不感帯を超えた量に応じて、不感帯の上下限値が更新され、更新後の上限値と下限値との平均値が目標変速比としてフィルタ処理部103から出力されるとした。しかしながら、それに限らず、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯に含まれない場合、不感帯の上下限値の更新に対してローパスフィルタ処理が行われて、ローパスフィルタ処理後の不感帯の上限値と下限値との平均値が目標変速比としてフィルタ処理部103から出力されてもよい。これにより、不感帯の上限値および下限値の急変が抑制されるので、間接的に(結果的に)、目標変速比の急変が抑制される。
ローパスフィルタ処理では、図6に示されるように、目標変速比設定部102により設定された目標変速比、つまりアクセル開度および車速に応じた目標変速比とローパスフィルタ処理後の不感帯の上下限値に応じて設定される目標変速比との偏差が大きいほど、ローパスフィルタ処理の時定数が小さく(カットオフ周波数が大きく)設定されることが好ましい。これにより、目標変速比が不感帯を超えて変化する場合にも、目標変速比の不要な振動を抑制しつつ、変速要求に対して良好な応答性で実変速比を変化させることができる。
また、目標変速比設定部102により設定された目標変速比が不感帯に含まれない場合に、不感帯の上下限値が変更されずに、その目標変速比が不感帯を超えた量(目標変速比と不感帯との偏差)に応じて目標変速比が補正されて、補正後の目標変速比がフィルタ処理部103から出力されてもよい。
また、本発明がベルト式の無段変速機4の変速比を制御する装置に適用された場合を例に挙げたが、本発明は、有段式の自動変速機(AT:Automatic Transmission)または動力分割式無段変速機など、無段変速機4以外の変速機の変速比を制御する装置に適用されてもよい。動力分割式無段変速機は、たとえば、変速比の変更により動力を無段階に変速するベルト式の無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路に分岐して伝達可能な変速機である。
その他、前述の構成には、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。