以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が適用された車両用変速機10(以下、変速機10と称す)の構造を簡略的に示す骨子図である。変速機10は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路上に設けられ、エンジン12から入力される回転を所定のギヤ比γ(変速比)で減速或いは増速することで複数のギヤ段(変速段)を成立させる平行2軸式のトランスミッションである。
変速機10は、クラッチ16を介してエンジン12に動力伝達可能に連結されている入力軸18と、入力軸18と平行に配置されているカウンタ軸20と、差動機構21等を介して駆動輪14に動力伝達可能に連結されている出力軸22とを備えている。入力軸18および出力軸22は、エンジン12のクランク軸24と同じ回転軸線CL1上に直列に配置されている。なお、出力軸22が、本発明のシャフトに対応している。
変速機10は、回転軸線CL1方向でエンジン12から駆動輪14側に向かって順番に、入力ギヤ対26a、2速ギヤ対26b、3速ギヤ対26c、6速ギヤ対26d、4速ギヤ対26e、および1速ギヤ対26fを備えている。
また、変速機10は、出力軸22上であって、出力軸22の軸方向で入力ギヤ対26aの後述する入力ギヤ30aおよび2速ギヤ対26bの後述する2速ギヤ30bと隣り合う位置に配置される第1切替機構28aと、出力軸22の軸方向で3速ギヤ対26cの後述する3速ギヤ30cおよび6速ギヤ対26dの後述する6速ギヤ対30dと隣り合う位置に配置される第2切替機構28bと、出力軸22の軸方向で4速ギヤ対26eの後述する4速ギヤ30eおよび1速ギヤ対26fの後述する1速ギヤ30fと隣り合う位置に配置される第3切替機構28cとを、備えている。
第1切替機構28aは、入力ギヤ30aまたは2速ギヤ30bと出力軸22との間を接続して各ギヤ30a、30bの何れかと出力軸22とが一体的に回転する接続状態と、入力ギヤ30aおよび2速ギヤ30bと出力軸22との間を遮断してこれらが相対回転する遮断状態と、に切替可能に構成されている断接機構である。第2切替機構28bは、3速ギヤ30cまたは6速ギヤ30dと出力軸22との間を接続して各ギヤ30c、30dの何れかと出力軸22とが一体的に回転する接続状態と、3速ギヤ30cおよび6速ギヤ30dと出力軸22との間を遮断してこれらが相対回転する遮断状態と、に切替可能に構成されている断接機構である。第3切替機構28cは、4速ギヤ30eまたは1速ギヤ30fと出力軸22との間を接続して各ギヤ30e、30fの何れかと出力軸22とが一体的に回転する接続状態と、4速ギヤ30eおよび1速ギヤ30fと出力軸22との間を遮断してこれらが相対回転する遮断状態と、に切替可能に構成されている断接機構である(以下、第1切替機構28a〜第3切替機構28cを区別しない場合には、切替機構28と称す)。なお、第1切替機構28a〜第3切替機構28cが、本発明の切替機構に対応している。
入力ギヤ対26aは、入力ギヤ30aと、その入力ギヤ30aと噛み合うカウンタギヤ32aとから構成されている。入力ギヤ30aは、入力軸18に接続されており、エンジン12の動力がクラッチ16を介して伝達される。カウンタギヤ32は、回転軸線CL2を中心にして回転するカウンタ軸20に相対回転不能に設けられている。従って、入力ギヤ30aが回転すると、カウンタギヤ32aに回転が伝達されることでカウンタ軸20が回転させられる。また、入力ギヤ30aと出力軸22との間が第1切替機構28aによって接続されると、入力軸18と出力軸22とが直結される。このとき、変速機10において、ギヤ比γが1.0となる第5ギヤ段5thが成立する。また、入力ギヤ30aの第1切替機構28aと向かい合う面には、第1切替機構28aの後述する噛合歯66a、76aと噛合可能なギヤ側噛合歯70aが形成されている。なお、入力ギヤ30aが、本発明の変速ギヤに対応している。
2速ギヤ対26bは、2速ギヤ30bと、2速ギヤ30bと噛み合う2速カウンタギヤ32bとから構成されている。2速ギヤ30bは、出力軸22の外周側に相対回転可能に嵌め付けられている。2速カウンタギヤ32bは、カウンタ軸20に相対回転不能に設けられている。2速ギヤ30bと出力軸22との間が、第1切替機構28aによって動力伝達可能に接続されると、入力軸18と出力軸22とが、2速ギヤ対26bを介して動力伝達可能に接続される。このとき、変速機10において、2速ギヤ段2ndが成立する。また、2速ギヤ30bの第1切替機構28aと向かい合う面には、第1切替機構28aの後述する噛合歯68a、72aと噛合可能なギヤ側噛合歯70bが形成されている。なお、2速ギヤ30bが、本発明の変速ギヤに対応している。
3速ギヤ対26cは、3速ギヤ30cと、3速ギヤ30cと噛み合う3速カウンタギヤ32cとから構成されている。3速ギヤ30cは、出力軸22の外周面に相対回転可能に嵌め付けられている。3速カウンタギヤ32cは、カウンタ軸20に相対回転不能に設けられている。3速ギヤ30cと出力軸22との間が、第2切替機構28bによって動力伝達可能に接続されると、入力軸18と出力軸22とが、3速ギヤ対26cを介して動力伝達可能に接続される。このとき、変速機10において3速ギヤ段3rdが成立する。また、3速ギヤ30cの第2切替機構28bと向かい合う面には、第2切替機構28bの後述する噛合歯66b、76bと噛合可能なギヤ側噛合歯70cが形成されている。なお、3速ギヤ30cが、本発明の変速ギヤに対応している。
6速ギヤ対26dは、6速ギヤ30dと、6速ギヤ30dと噛み合う6速カウンタギヤ32dとから構成されている。6速ギヤ30dは、出力軸22の外周面に相対回転可能に嵌め付けられている。6速カウンタギヤ32dは、カウンタ軸20に相対回転不能に設けられている。6速ギヤ30dと出力軸22との間が、第2切替機構28bによって動力伝達可能に接続されると、入力軸18と出力軸22とが、6速ギヤ対26dを介して動力伝達可能に接続される。このとき、変速機10において、ギヤ比γが最小となる6速ギヤ段6thが成立する。また、6速ギヤ30dの第2切替機構28bと向かい合う面には、第2切替機構28bの後述する噛合歯68b、72bと噛合可能なギヤ側噛合歯70dが形成されている。なお、6速ギヤ30dが、本発明の変速ギヤに対応している。
4速ギヤ対26eは、4速ギヤ30eと、4速ギヤ30eと噛み合う4速カウンタギヤ32eとから構成されている。4速ギヤ30eは、出力軸22の外周面に相対回転可能に嵌め付けられている。4速カウンタギヤ32eは、カウンタ軸20に相対回転不能に設けられている。4速ギヤ30eと出力軸22との間が、第3切替機構28cによって動力伝達可能に接続されると、入力軸18と出力軸22とが、4速ギヤ対26eを介して動力伝達可能に接続される。このとき、変速機10において4速ギヤ段4thが成立する。また、4速ギヤ30eの第3切替機構28cと向かい合う面には、第3切替機構28cの後述する噛合歯66c、76cと噛合可能なギヤ側噛合歯70eが形成されている。なお、4速ギヤ30eが、本発明の変速ギヤに対応している。
1速ギヤ対26fは、1速ギヤ30fと、1速ギヤ30fと噛み合う1速カウンタギヤ32fとから構成されている。1速ギヤ30fは、出力軸22の外周面に相対回転可能に嵌め付けられている。1速カウンタギヤ32fは、カウンタ軸20に相対回転不能に設けられている。1速ギヤ30fと出力軸22との間が、第3切替機構28cによって動力伝達可能に接続されると、入力軸18と出力軸22とが、1速ギヤ対26fを介して動力伝達可能に接続される。このとき、変速機10において、ギヤ比γが最大となる1速ギヤ段1stが成立する。また、1速ギヤ30fの第3切替機構28cと向かい合う面には、第3切替機構28cの後述する噛合歯68c、72cと噛合可能なギヤ側噛合歯70fが形成されている。なお、1速ギヤ30fが、本発明の変速ギヤに対応している。また、以下において入力ギヤ30a〜1速ギヤ30fを特に区別しない場合には、ギヤ30と称し、ギヤ側噛合歯70a〜70fを特に区別しない場合には、ギヤ側噛合歯70と称す。
このように、変速機10は、第1切替機構28a〜第3切替機構28cの作動状態が切り替えられることで、前進6速のギヤ段に切替可能に構成されている。各切替機構28の作動状態は、各切替機構28が出力軸22の軸方向に移動させられることで切り替えられる。各切替機構28は、シフト機構33によって出力軸22の軸方向に移動させられる。
図2は、各切替機構28を出力軸22の軸方向に移動させる操作力を付与するシフト機構33の斜視図である。なお、図2の斜視図では、第2切替機構28bおよび第3切替機構28cが示されており、第1切替機構28aは省略されている。さらに、第1切替機構28aによって出力軸22との間が断接される入力ギヤ30aおよび2速ギヤ30b、第2切替機構28bによって出力軸22との間が断接される3速ギヤ30c、および第3切替機構28cによって出力軸22との間が断接される1速ギヤ30fについても省略されている。
シフト機構33は、各切替機構28に嵌合するシフトフォーク36と、各シフトフォーク36を保持する保持シャフト38と、各切替機構28に嵌合する各シフトフォーク36の位置を規定するための後述するシフト溝42が形成されているバレル40と、バレル40を回転させるシフトアクチュエータ41(図1、図8参照)とを、備えて構成されている。保持シャフト38およびバレル40は、出力軸22の回転軸線CL1と平行に配置されている。
各シフトフォーク36は、二股状に形成されて各切替機構28の外周側に形成されている環状の凹溝34に嵌合する嵌合部36aと、保持シャフト38によって保持される保持部36bとから構成されている。保持部36bは、保持シャフト38が回転軸線CL1方向に貫通している。また、各シフトフォーク36は、保持シャフト38に対して、回転軸線CL1方向への相対移動が許容されている。
また、各シフトフォーク36の保持部36bには、突起46(図4参照)が形成されており、この突起46がバレル40に形成されているシフト溝42にそれぞれ係合されている。シフト溝42は、シフトフォーク36と同じ数(本実施例では3個)だけ形成されている。シフト溝42は、バレル40の周方向に沿うようにして形成され、周方向の一部がバレル40の軸方向に屈曲された形状となっている。従って、バレル40が回転することで、各シフトフォーク36の突起46がシフト溝42の屈曲された部位に接触すると、突起46がシフト溝42の形状に応じて出力軸22の軸方向(回転軸線CL1方向)に移動させられる。これより、各シフトフォーク36が、シフト溝42の形状に応じて回転軸線CL1方向に移動させられる。また、シフトフォーク36が回転軸線CL1方向に移動させられると、そのシフトフォーク36と嵌合する切替機構28についても、回転軸線CL1方向に移動させられる。このように、シフトフォーク36と嵌合する各切替機構28に、シフトフォーク36を介して切替機構28を出力軸22の軸方向に移動させる力、すなわち、切替機構28の作動状態を切り替えるための操作力が付与されることで、各切替機構28が出力軸22の軸方向に移動させられる。
各シフト溝42は、バレル40の周方向の位置に対する形状がそれぞれ異なっている。具体的には、バレル40が一方向に回転するに従い、変速機10が1速ギヤ段1st〜6速ギヤ段6thの順番で順次アップシフトするとともに、バレル40が他方向に回転するに伴い、変速機10が6速ギヤ段6th〜1速ギヤ段1stの順番で順次ダウンシフトするように形成されている。また、アップシフトおよびダウンシフトの過渡期においても、適切なタイミングで各切替機構28の作動状態が切り替えられるように、各シフト溝42の形状が形成されている。従って、バレル40の回転に伴って各切替機構28が出力軸22の軸方向に移動させられ、各切替機構28の位置に応じて変速機10が変速される。以下、第1切替機構28aと嵌合するシフトフォーク36に形成される突起46が係合されるシフト溝42をシフト溝42aとし、第2切替機構28bと嵌合するシフトフォーク36に形成される突起46が係合されるシフト溝をシフト溝42bとし、第3切替機構28cと嵌合するシフトフォーク36に形成される突起46が形成されるシフト溝42をシフト溝42cとする。なお、変速過渡期の各切替機構28の作動については後述する。
次に、切替機構28の構造について説明する。図3は、図2の第1切替機構28aを分解して示した斜視図である。以下、第1切替機構28aの構造について説明するが、第2切替機構28bおよび第3切替機構28cについては、第1切替機構28aと基本的に変わらないため、その説明を省略する。
第1切替機構28aは、スリーブ48と、円盤状の第1ドグリング50aと、円盤状の第2ドグリング52aと、第1ドグリング50aと第2ドグリング52aとの間に介挿されているスプリング78とを、含んで構成されている。なお、入力ギヤ30aを本発明の変速ギヤとしたとき、第1ドグリング50aが本発明の第1リングに対応し、第2ドグリング52aが本発明の第2リングに対応する。一方、2速ギヤ30bを本発明の変速ギヤとしたとき、第2ドグリング52aが本発明の第1リングに対応し、第1ドグリング50aが本発明の第2リングに対応する。
スリーブ48は、円筒形状を有し、内周部には出力軸22とスプライン嵌合するスプライン歯が形成されている。従って、組付後において、スリーブ48が出力軸22とスプライン嵌合されることで、スリーブ48が出力軸22と一体的に回転させられる。また、スリーブ48の外周面には、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aとスプライン嵌合するためのスプライン歯54が形成されている。
第1ドグリング50aは、出力軸22の軸方向(回転軸線CL1方向)で入力ギヤ30aと隣り合う位置に配置されている。また、第1ドグリング50aは、回転軸線CL1方向で2速ギヤ30bに対して第2ドグリング52aを隔てた位置に配置されている。第1ドグリング50aは、円盤状に形成され、回転軸線CL1を中心にして回転可能となっている。第1ドグリング50aの内周部には、スリーブ48のスプライン歯54とスプライン嵌合するスプライン歯56が形成されている。
第2ドグリング52aは、回転軸線CL1方向で2速ギヤ30bと隣り合う位置に配置されている。また、第2ドグリング52aは、回転軸線CL1方向で入力ギヤ30aに対して第1ドグリング50aを隔てた位置に配置されている。第2ドグリング52aは、円盤状に形成され、回転軸線CL1を中心にして回転可能となっている。第2ドグリング52aの内周部には、スリーブ48のスプライン歯54とスプライン嵌合するスプライン歯58が形成されている。従って、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aがスリーブ48にスプライン嵌合された状態において、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aは、出力軸22に対して相対回転不能、且つ、出力軸22の軸方向への相対移動可能となる。
また、第1ドグリング50aの外周端部であって、回転軸線CL1方向で第2ドグリング52aと向かい合う側には、L字状に切り欠かれた切欠60が周方向全体に渡って形成されている。同様に、第2ドグリング52aの外周端部であって、回転軸線CL1方向で第1ドグリング50aと向かい合う側には、L字状に切り欠かれた切欠62が周方向全体に渡って形成されている。そして、第1ドグリング50aと第2ドグリング52aとが一体的に組み付けられると、互いのL字状の切欠60、62によって、シフトフォーク36の嵌合部36aと嵌合する凹溝34が形成される。
第1ドグリング50aの回転軸線CL1方向で入力ギヤ30aと向かい合う側の面には、その入力ギヤ30aに向かって突き出す複数個(本実施例では6個)の第1噛合歯66aが、周方向で等角度間隔に形成されている。第1噛合歯66aは、第1ドグリング50aが、回転軸線CL1方向で入力ギヤ30a側に向かって移動した場合において、入力ギヤ30aに形成されている各ギヤ側噛合歯70a(図3では図示されず)と噛合可能な位置に形成されている。
第1ドグリング50aの回転軸線CL1方向で第2ドグリング52aと向かい合う面には、その第2ドグリング52aに向かって突き出す複数個(本実施例では6個)の第2噛合歯68aが周方向で等角度間隔に形成されている。第2噛合歯68aは、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aの組付状態において、第2ドグリング52aの後述する貫通穴75を貫通し、第2ドグリング52aから2速ギヤ30b側に向かって突き出している。第2噛合歯68aは、第1ドグリング50aが回転軸線CL1方向で2速ギヤ30b側に向かって移動した場合において、2速ギヤ30bの各ギヤ側噛合歯70bと噛合可能な位置に形成されている。
第1ドグリング50aには、その第1ドグリング50aを貫通する複数個(本実施例では6個)の貫通穴74が、周方向で等角度間隔に形成されている。貫通穴74は、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aの組付状態において、第2ドグリング52aの後述する第4噛合歯76aが貫通する位置に形成されている。
第2ドグリング52aの回転軸線CL1方向で2速ギヤ30bと向かい合う側の面には、その2速ギヤ30bに向かって突設された複数個(本実施例では6個)の第3噛合歯72aが、周方向で等角度間隔に形成されている。第3噛合歯72aは、第2ドグリング52aが回転軸線CL1方向で2速ギヤ30b側に向かって移動した場合において、2速ギヤ30bに形成されている各ギヤ側噛合歯70bと噛合可能な位置に形成されている。なお、第3噛合歯72aが、本発明の第1噛合歯に対応している。
第2ドグリング52aの回転軸線CL1方向で第1ドグリング50aと向かい合う面には、その第1ドグリング50aを貫通する複数個(本実施例では6個)の第4噛合歯76aが周方向で等角度間隔に形成されている。第4噛合歯76aは、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aの組付状態において、第1ドグリング50aの貫通穴74を貫通し、第1ドグリング50aから入力ギヤ30aに向かって突き出している。第4噛合歯76aは、第2ドグリング52aが回転軸線CL1方向で入力ギヤ30a側に向かって移動した場合において、入力ギヤ30aの各ギヤ側噛合歯70aと噛合可能な位置に構成されている。なお、第4噛合歯76cが、本発明の第2噛合歯に対応している。
第2ドグリング52aには、その第2ドグリング52aを貫通する複数個(本実施例では6個)の貫通穴75が、周方向で等角度間隔に形成されている。貫通穴75は、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aの組付状態において、第1ドグリング50aの第2噛合歯68aが貫通する位置に形成されている。
第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aは、これら第1ドグリング50aと第2ドグリング52aとの間に介挿されている複数個のスプリング78によって連結されている。第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aは、スプリング78によって互いに引き付けられる方向に付勢されている。従って、第1切替機構28aに外力が付与されない状態では、互いに向かい合う面が当接させられた状態となる。なお、スプリング78による、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aの連結構造については、公知の技術であるためその説明を省略する。
図4は、1速ギヤ段1stで走行中における、第1切替機構28aおよび第3切替機構28cの作動状態を簡略的に示すものである。図4において左側が第1切替機構28aに対応し、第1切替機構28aの周方向の一部が平面に展開した状態で簡略化して示されている。また、図4において右側が第3切替機構28cに対応し、第3切替機構28cの周方向の一部が平面に展開した状態で簡略化して示されている。また、第1切替機構28aの回転軸線CL1方向の両側には、入力ギヤ30aのギヤ側噛合歯70aおよび2速ギヤ30のギヤ側噛合歯70bが平面に展開されて示されている。また、第3切替機構28cの回転軸線CL1方向の両側には、4速ギヤ30eのギヤ側噛合歯70eおよび1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fが平面に展開されて示されている。なお、図4では、第2切替機構28bについては省略されている。
図4の第1切替機構28aにおいて、第1切替機構28aの紙面左側に位置する部材が第1ドグリング50aに対応し、紙面右側に位置する部材が第2ドグリング52aに対応している。
図4の第1切替機構28aについて説明すると、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aが、スプリング78の付勢力によって相互に当接させられている。第1ドグリング50aには、入力ギヤ30a側に向かって突き出す第1噛合歯66a、および、第2ドグリング52aの貫通穴75を貫通し、2速ギヤ30b側に向かって突き出す第2噛合歯68aが形成されている。また、第2ドグリング52aには、2速ギヤ30b側に向かって突き出す第3噛合歯72a、および、第1ドグリング50aの貫通穴74を貫通し、入力ギヤ30a側に向かって突き出す第4噛合歯76aが形成されている。
第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aによって形成される凹溝34に、シフトフォーク36が嵌合している。また、シフトフォーク36には、図4の黒丸で示す突起46が形成されており、この突起46がバレル40に形成されているシフト溝42aと係合している。従って、バレル40の回転に伴って、突起46と係合するシフト溝42aの形状が変化すると、シフトフォーク36についても、シフト溝42aの形状に沿って回転軸線CL1方向に移動する。
図4に示す第3切替機構28cについては、上述した第1切替機構28aと構造が基本的には変わらないため、詳細な説明を省略する。なお、以下の説明において、第3切替機構28cを第1切替機構28aと区別するため、第1切替機構28aの第1ドグリング50a、第2ドグリング52a、第1噛合歯66a、第2噛合歯68a、第3噛合歯72a、および第4噛合歯76aに対して、第3切替機構28cの第1ドグリング50c、第2ドグリング52c、第1噛合歯66c、第2噛合歯68c、第3噛合歯72c、および第4噛合歯76cとそれぞれ記載する。なお、第1ドグリング50cが本発明の第1リングに対応し、第2ドグリング52cが本発明の第2リングに対応している。また、第3噛合歯72cが本発明の第1噛合歯に対応し、第4噛合歯76cが本発明の第2噛合歯に対応している。
図4において、矢印で示す紙面上方が、前進時回転方向を示している。すなわち、前進走行中は、入力ギヤ30a、2速ギヤ30b、4速ギヤ30e、および1速ギヤ30fが図4において紙面上方に移動する。なお、入力ギヤ30a、2速ギヤ30b、4速ギヤ30e、および1速ギヤ30fは、エンジン12の回転速度、および、各ギヤ段毎に機械的に設定されているギヤ比γに基づいた回転速度で回転させられる。具体的には、1速ギヤ段1stに対応する1速ギヤ30fの回転速度が最も遅く、高速ギヤ段に対応する変速ギヤほど回転速度が速くなる。また、第1切替機構28aおよび第3切替機構28cについても、前進走行中に回転するため、図4において紙面上方に移動する。なお、第1切替機構28aおよび第3切替機構28cは、出力軸22と一体的に回転するため、回転速度が等しくなる。また、第1噛合歯66a、66cには、それぞれ傾斜面80a、80cが形成されているとともに、第3噛合歯72a、72cには、それぞれ傾斜面82a、82cが形成されている。
図4に示す1速ギヤ段1stで走行中における、第1切替機構28aおよび第3切替機構28cの作動状態について説明する。1速ギヤ段1stで走行中では、第1切替機構28aの凹溝34に嵌合するシフトフォーク36は、シフト溝42aに基づいて中立位置(ニュートラル位置)に移動させられている。このとき、第1切替機構28aの各噛合歯は、入力ギヤ30aのギヤ側噛合歯70aおよび2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bの何れにも噛み合うことはなく、第1切替機構28aと入力ギヤ30aおよび2速ギヤ30bとの間での動力伝達が遮断されている。従って、入力ギヤ30aおよび2速ギヤ30bと出力軸22とが相対回転し、入力ギヤ30aおよび2速ギヤ30bと出力軸22との間での動力伝達が遮断されている。
一方、第3切替機構28cの凹溝34に嵌合するシフトフォーク36が、シフト溝42cの形状に基づいて1速ギヤ段位置(1st位置)に移動させられている。このとき、第3切替機構28cが1速ギヤ30f側に向かって移動させられるため、図4に示すように、第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとが噛み合い、第3切替機構28cと1速ギヤ30fとの間で動力伝達可能となっている。従って、1速ギヤ30fと出力軸22とが第3切替機構28cを介して動力伝達可能に接続されることで、1速ギヤ段1stが成立する。なお、1速ギヤ段1stにおいて、図示しない第2切替機構28bは、3速ギヤ30cおよび6速ギヤ30dとの間で動力伝達が遮断される中立位置(ニュートラル位置)に移動させられ、第1切替機構28aと同様に、出力軸22との間での動力伝達が遮断されている。
図5は、エンジン12の動力で走行中における、変速機10の1速ギヤ段1stから2速ギヤ段2ndへのアップシフト過渡期の第1切替機構28aおよび第3切替機構28cの作動状態を時系列で示したものである。アップシフト過渡期において、第1切替機構28aおよび第3切替機構28cは、図5に示す(a)〜(f)の順番で作動する。なお、図示しない第2切替機構28bについては、1速ギヤ段1stから2速ギヤ段2ndへの変速過渡期において、中立位置で保持されている。
図5(a)は、1速ギヤ段1stで走行中(すなわちアップシフト開始前)の状態を示している。この状態は、前述した図4と全く同じであるため、その説明を省略する。
図5(b)は、2速ギヤ段2ndへのアップシフトが開始されたときの作動状態を示している。バレル40が回転することで、シフトフォーク36が、シフト溝42cの形状の変化に沿って、1速ギヤ30fから離れる方向(紙面左方向)に移動させられている。このとき、シフトフォーク36に押されて第1ドグリング50cが第2ドグリング52cから離れる方向に移動し、第1ドグリング50cと第2ドグリング52cとの間に介挿されているスプリング78が弾性変形させられる。一方、第2ドグリング52cの第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとの間で動力が伝達された状態であるため、第3噛合歯72cとギヤ側噛合歯70fとの間の摩擦抵抗によって、スプリング78の弾性復帰力に抗って、第3噛合歯72cとギヤ側噛合歯70fとの噛合が維持されている。従って、第3切替機構28cの第1ドグリング50cと第2ドグリング52cとが乖離した状態となる。
図5(c)は、第2ギヤ段2ndを形成するため、第1切替機構28aが2速ギヤ30b側に移動した状態を示している。バレル40が回転することで、シフト溝42aと係合するシフトフォーク36の位置が変化し、シフトフォーク36に押されて第1切替機構28aが2速ギヤ30b側に移動する。このとき、第1ドグリング50aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとが噛合可能な状態となる(なお、図5(c)は噛み合う前の状態を示している)。
図5(d)は、第1切替機構28aにおいて、第1ドグリング50aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとが噛み合った状態(すなわち第1切替機構28aの接続状態)を示している。2速ギヤ30bの回転速度が第1切替機構28aの回転速度よりも速いため、図5(c)の状態になると速やかに第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとが噛み合わされる。このとき、第1切替機構28aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70とが噛み合うとともに、第3切替機構28cの第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとが噛み合う、同時噛み合い状態となる。この図5(d)に示す同期噛み合い状態は、極めて短い時間だけ形成される。
図5(e)は、第3切替機構28cにおいて、第1ドグリング50cの第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとの噛合が解除された状態(すなわち第3切替機構28cの遮断状態)を示している。図5(d)において2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bと第1切替機構28aの第3噛合歯72aとが噛み合うと、出力軸22は2速ギヤ段2ndに対応する回転速度で回転させられることから、第3切替機構28cの回転速度が1速ギヤ30fの回転速度よりも速くなる。従って、第2ドグリング52cの第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとの噛合が解除される。
図5(f)は、第3切替機構28cの第2ドグリング52cが第1ドグリング50c側に引き寄せられた状態を示している。図5(e)において、第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとの噛合が解除されると、これら第3噛合歯72cとギヤ側噛合歯70fとの間で作用していた摩擦抵抗がなくなるため、スプリング78の弾性復帰力によって第2ドグリング52cが第1ドグリング50c側に引き寄せられる。従って、第3切替機構28cが、何れのギヤ側噛合歯70とも噛み合わないニュートラル位置に移動させられる。このとき、変速機10の2速ギヤ段2ndへの変速が完了する。このように、第1切替機構28aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとが噛み合うと、第3切替機構28cの第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとの噛合が速やかに解除されるため、変速中のトルク抜けが防止される。なお、図5は、1速ギヤ段1stから2速ギヤ段2ndへのアップシフトが一例として説明されているが、他のアップシフト(例えば2速ギヤ段2ndから3速ギヤ段3rdへのアップシフト)についても同様の手順でアップシフトされる。
次に、エンジン12の動力で走行中における、変速機10の2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトについて説明する。図6は、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト過渡期の第1切替機構28aおよび第3切替機構28cの作動状態を時系列で示している。
図6(a)は、2速ギヤ段2ndで走行中(すなわちダウンシフト開始前)の状態を示している。2速ギヤ段2ndで走行中は、第1切替機構28aが、2速ギヤ段2ndが成立する2速ギヤ段位置(2nd位置)に移動させられているとともに、第3切替機構28cが、動力伝達が遮断される中立位置(ニュートラル位置)に移動させられている。このとき、第2ドグリング52aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとが噛み合うことで、2速ギヤ30bから伝達される動力が、第1切替機構28aを介して出力軸22に伝達される2速ギヤ段2ndが成立する。
図6(b)は、1速ギヤ段1stへのダウンシフトが開始されたときの作動状態を示している。バレル40がダウンシフト方向に回転することで、シフト溝42aに嵌合するシフトフォーク36が、回転軸線CL1方向で2速ギヤ30bから離れる方向に移動させられる。このとき、第1切替機構28aの第1ドグリング50aが、シフトフォーク36によって、2速ギヤ30bから離れる方向に移動させられる。一方、第1切替機構28aの第2ドグリング52aは、第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとの間の摩擦抵抗によって、スプリング78の付勢力に抗って第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとの噛合が維持されている。従って、第2ドグリング52aは、2速ギヤ30bから離れる方向に移動することはなく、第1ドグリング50aと第2ドグリング52aとが乖離した状態となっている。
図6(c)は、エンジン12のトルクダウンが実行されることで、第2ドグリング52aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除された状態(すなわち第1切替機構28aの遮断状態)を示している。エンジン12のトルクダウンが実行されると、2速ギヤ30bの回転速度が低下するため、第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除される。
図6(d)は、第2ドグリング52aの第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除されることで、第2ドグリング52aが2速ギヤ30bから離れる方向に移動させられた状態を示している。第3噛合歯72aとギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除されると、スプリング78の弾性復帰力によって、第2ドグリング52aが2速ギヤ30bから離れる方向に移動させられる。このとき、第1切替機構28aの各噛合歯が、入力ギヤ30aのギヤ側噛合歯70aおよび2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bと噛み合わなくなるため、第1切替機構28aにおいて動力伝達が遮断される。
図6(e)は、バレル40がさらにダウンシフト方向に回転することで、第3切替機構28cが、回転軸線CL1方向で1速ギヤ30f側に移動させられた状態を示している。バレル40がダウンシフト方向に回転すると、シフト溝42cに嵌合するシフトフォーク36が、回転軸線CL1方向で1速ギヤ30fに移動させられ、このシフトフォーク36に嵌合する第3切替機構28cについても、回転軸線CL1方向で1速ギヤ30f側に移動させられる。ここで、第3切替機構28cの移動に先だって、1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fが第3切替機構28cの第3噛合歯72cと噛合可能となる回転速度まで、1速ギヤ30fの回転速度を上昇させるブリッピング制御が実行されている。
図6(f)は、第3切替機構28cの第3噛合歯72cが、1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fに噛み合った状態(すなわち第3切替機構28cの接続状態)を示している。予めブリッピング制御が実行されることで、第3切替機構28cが回転軸線CL1方向で1速ギヤ30f側に移動させられると、第3切替機構28cの第3噛合歯72cと1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fとが噛み合うこととなる。このとき、1速ギヤ30fから伝達される動力が、第3切替機構28cを介して出力軸22に伝達される1速ギヤ段1stが成立する。なお、図6は、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトが一例として説明されているが、他のダウンシフト(例えば3速ギヤ段3rdから2速ギヤ段2ndへのダウンシフト)についても同様の手順でダウンシフトされる。
ところで、バレル40は、図1に示すシフトアクチュエータ41によって回転駆動させられる。シフトアクチュエータ41は、バレル40に設けられているピニオン86と、ピニオン86と噛み合う歯88aが形成されているラック88と、ラック88を移動させる駆動力源として機能する電動アクチュエータ90とを、備えている。電動アクチュエータ90は、後述する電子制御装置92(図8参照)から出力される指令信号によって駆動させられる。電動アクチュエータ90によってラック88がアップシフト方向に移動させられると、ピニオン86を介してバレル40がアップシフト方向に回転させられる。また、電動アクチュエータ90によってラック88がダウンシフト方向に移動させられると、ピニオン86を介してバレル40がダウンシフト方向に回転させられる。
ここで、エンジン12の動力によって車両が走行させられる駆動状態において、電子制御装置92の誤作動、または、電動アクチュエータ90の故障などによって、バレル40が意図せずダウンシフト方向に回転させられる場合が考えられる。このとき、変速機10において、例えば2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトが実行されることになるが、ダウンシフト過渡期において、上述したエンジン12のトルクダウンが実行されないため、第1切替機構28aにおいて第3噛合歯72aと2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bとの噛合が維持された状態で、1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fと第3切替機構28cの第2噛合歯68cまたは第3噛合歯72cとが噛み合う二重噛合が発生する可能性がある。
図7は、2速ギヤ段2ndで走行中に、電子制御装置92の誤作動等によって、バレル40がダウンシフト方向に回転させられたときの第1切替機構28aおよび第3切替機構28cの作動状態を簡略的に示している。図7(a)が第1切替機構28aに対応し、図7(b)および図7(c)が、それぞれ第3切替機構28cに対応している。なお、図7において、紙面右方向が前進回転方向に対応し、紙面左側が後進回転方向に対応し、紙面上下方向が回転軸線CL1方向に対応している。
図7(a)の第1切替機構28aについて説明すると、第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aの周方向の一部が、平面に展開されて示されている。図7(a)の第1切替機構28aにおいて、紙面上側に位置する部材が、第2ドグリング52aに対応し、紙面下側に位置する斜線が施された部材が、第1ドグリング50aに対応している。2速ギヤ段2ndで走行中に、バレル40がダウンシフト方向に回転することで、第1ドグリング50aが、第2ドグリング52aから離れる方向に移動させられている。このとき、2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bと第2ドグリング52aの第3噛合歯72aとの間で動力伝達が伝達されているため、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの間の摩擦抵抗によって噛合が維持されている。また、図7に示すように、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの間は、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの噛合が抜けにくくなる楔構造となっている。従って、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとが一層抜けにくくなっている。
図7(b)の第3切替機構28cについて説明すると、第1ドグリング50cおよび第2ドグリング52cの周方向の一部が、平面に展開されて示されている。図7(b)の第3切替機構28cにおいて、紙面上側に位置する部材が、第2ドグリング52cに対応し、紙面下側に位置する斜線が施された部材が、第1ドグリング50cに対応している。2速ギヤ段2ndで走行中に、バレル40がダウンシフト方向に回転することで、第1ドグリング50cおよび第2ドグリング52cが、1速ギヤ30f側に移動させられている。このとき、第1ドグリング50cおよび第2ドグリング52cの回転速度が、1速ギヤ30fの回転速度よりも速いため、第1ドグリング50cの第2噛合歯68cがギヤ側噛合歯70fと噛み合わされる。
図7(c)の第3切替機構28cは、図7(b)と基本的には変わらないが、2速ギヤ段2ndで走行中に、バレル40がダウンシフト方向に回転することで、第1ドグリング50cおよび第2ドグリング52cが、1速ギヤ30f側に移動させられたときの他の態様を示している。図7(c)は、第1ドグリング50cおよび第2ドグリング52cが1速ギヤ30f側に移動する過渡期において、第1ドグリング50cの第2噛合歯68cが1速ギヤ30fのギヤ側噛合歯70fと接触することで、第1ドグリング50cが第2ドグリング52cから離れる方向に相対移動させられ、ギヤ側噛合歯70fが第2ドグリング52cの第3噛合歯72cと噛み合わされた状態を示している。
このように、第1切替機構28aにおいて、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの噛合が維持された状態で、第3切替機構28cにおいて、ギヤ側噛合歯70fと第2噛合歯68cまたは第3噛合歯72cとが噛み合う二重噛合が発生する可能性がある。これを防止するため、シフト機構33には、バレル40のダウンシフト方向への回転を阻止するとともに、バレル40のアップシフト方向への回転を許容するワンウェイ状態と、バレル40のアップシフト方向およびダウンシフト方向への回転を許容するフリー状態に切替可能な二重噛合防止機構100(図8参照)が設けられている。また、バレル40の回転に連動して、切替機構28がシフトフォーク36を介してアップシフト方向およびダウンシフト方向に移動させられることから、言い換えれば、二重噛合防止機構100は、切替機構28のダウンシフト方向への移動を阻止するとともに、切替機構28のアップシフト方向への移動を許容するワンウェイ状態と、切替機構28のアップシフト方向およびダウンシフト方向への移動を許容するフリー状態とに、切替可能に構成されている。
図8は、シフト機構33を構成するシフトアクチュエータ41を、図1の矢印Aで示す方向から見た図である。図8に示すように、シフトアクチュエータ41は、バレル40に設けられ、バレル40と一体的に回転するピニオン86と、ピニオン86と噛み合う歯88aが形成されているラック88と、ラック88を駆動させるための電動アクチュエータ90とを、備えている。
ピニオン86は、バレル40に一体的に設けられることで、バレル40と一体的に回転する。ラック88は長手状に形成され、ラック88のピニオン86と対向する部位に、ピニオン86と噛み合う歯88aが長手方向に沿って形成されている。従って、電動アクチュエータ90によってラック88が長手方向に移動させられると、ラック88の歯88aと噛み合うピニオン86およびバレル40が回転させられる。電動アクチュエータ90は、電子制御装置92によって制御され、電子制御装置92から出力されるシフト信号に応じた回転位置に回転させられる。なお、図8において、バレル40(およびピニオン86)の時計回り方向、言い換えれば、ラック88が紙面右側に移動する方向が、変速機10のアップシフトされる方向(アップシフト方向)に対応し、バレル40(およびピニオン86)の反時計回り方向、言い換えれば、ラック88が紙面左側に移動する方向が、変速機10のダウンシフトされる方向(ダウンシフト方向)に対応している。
また、シフト機構33には、二重噛合防止機構100が設けられている。二重噛合防止機構100は、バレル40のダウンシフト方向への回転を阻止する一方、バレル40のアップシフト方向への回転を許容するワンウェイ状態と、バレル40のダウンシフト方向およびアップシフト方向への回転を許容するフリー状態とに切替可能に構成されている。
二重噛合防止機構100は、バレル40に設けられている二重噛合防止ギヤ102と、二重噛合防止ギヤ102の後述するラチェット歯105に当接可能に構成されているストッパ部材103と、ストッパ部材103の回動位置を切り替えるための切替アクチュエータ104とを、備えている。二重噛合防止ギヤ102とストッパ部材103によって、バレル40のダウンシフト方向への回転を阻止するとともに、バレル40のアップシフト方向への回転を許容するラチェット機構が構成される。
二重噛合防止ギヤ102は、バレル40に一体的に設けられることで、バレル40と一体的に回転させられる。二重噛合防止ギヤ102には、少なくとも変速機10のギヤ段数と同じ歯数を有するラチェット歯105が形成されている。各ラチェット歯105は、バレル40の回転方向に対して垂直方向(法線方向)に形成されているストッパ面118と、バレル40の回転方向に沿うようにして形成されている斜面120とに挟まされて形成されている。
ストッパ部材103は、回動部103aを中心にして、図8の実線で示す第1位置および破線で示す第2位置に回動可能に構成されている。ストッパ部材103は、切替アクチュエータ104によって回動させられる。
切替アクチュエータ104は、円筒状のケース106と、ケース106の内部に摺動可能に収容されているピストン108と、一端(先端)がケース106から突き出すとともに他端がピストン108に連結されているロッド110と、ピストン108をケース106からロッド110が突き出す側に対して反対方向に付勢するスプリング112と、ピストン108に推力を発生させるためのソレノイド116とを、備えている。ソレノイド116には、電子制御装置92から切替アクチュエータ104の切替電流(指示電流)が供給されるようになっている。また、ロッド110の先端には、ストッパ部材103の端部が連結されている。従って、ロッド110の先端の位置に応じて、ストッパ部材103が回動させられる。
切替アクチュエータ104のソレノイド116に切替電流が供給されない状態では、スプリング112の付勢力によってピストン108がロッド110の突き出す側に対して反対側に移動させられる。このとき、ロッド110が、ピストン108に連動して、実線で示す位置に移動させられる。また、ストッパ部材103が、ロッド110に連動して回動部103aを中心にして時計回りに回動させられ、図8の実線で示す第1位置となる。
ストッパ部材103が第1位置にあると、図8に示すように、ストッパ部材103が、二重噛合防止ギヤ102に形成されるラチェット歯105のストッパ面118に当接可能となり、二重噛合防止ギヤ102が反時計回りに回転した場合には、ストッパ部材103の端部がストッパ面118に当接させられる。従って、例えばバレル40が意図せず反時計回りに回転した場合であっても、ストッパ部材103の端部がストッパ面118に当接することで、バレル40の反時計回りの回転が阻止される。また、バレル40の反時計回り方向は、変速機10のダウンシフト方向に対応するため、ストッパ部材103の端部がストッパ面118に当接することで、バレル40がダウンシフト方向に回転したときに発生する変速機10の二重噛合が、二重噛合防止機構100によって防止される。
また、ストッパ部材103がストッパ面118に当接した状態において、切替機構28が出力軸22と変速ギヤ30との間の動力伝達の遮断される中立位置に移動させられるように設定されている。すなわち、ストッパ部材103がストッパ面118に当接した状態において、出力軸22と変速ギヤ30との間の動力伝達が遮断され、変速機10がニュートラル(動力伝達遮断)となるように設定されている。これより、走行中に例えばクラッチ16が解放されなくなる故障(オンフェール)が発生した場合には、バレル40をダウンシフト方向に回転させてストッパ部材103とストッパ面118とを当接させることで、変速機10を容易にニュートラルに切り替えることが可能になる。
また、ストッパ部材103が図8の実線で示す位置に回動させられた状態において、バレル40が時計回りに回転した場合には、ストッパ部材103が、二重噛合防止ギヤ102に形成されている斜面120を乗り越えることで、バレル40の回転が許容される。ここで、バレル40の時計回り方向は、変速機10のアップシフト方向に対応するため、ストッパ部材103が図8の実線で示す位置に回動させられた状態において、変速機10のアップシフトが許容される。
このように、切替アクチュエータ104のソレノイド116に切替電流が供給されない場合には、ストッパ部材103が図8の実線で示す第1位置に移動させられることで、二重噛合防止機構100が、バレル40のダウンシフト方向の回転が阻止されるとともに、バレル40のアップシフト方向の回転が許容されるワンウェイ状態に切り替えられる。従って、バレル40がダウンシフト方向に回転する、すなわちシフト機構33が切替機構28をダウンシフト側に移動させる方向に作動しても、ラチェット歯105とストッパ部材103とが当接することで、シフト機構33の作動が阻止される。
一方、ソレノイド116に電子制御装置92から切替電流が供給されると、スプリング112の付勢力に抗って、ピストン108がロッド110の突き出す方向に移動させられる。このとき、ロッド110がピストン108に連動して移動することで、ロッド110の先端に連結されているストッパ部材103が、回動部103aを中心にして破線で示す第2位置まで反時計回りに回動させられる。ストッパ部材103が破線で示す第2位置まで回動させられると、バレル40の回転方向に拘わらず、ストッパ部材103が二重噛合防止ギヤ102のストッパ面118に当接しなくなるため、バレル40のアップシフト方向およびダウンシフト方向への回転が許容される。このように、ソレノイド116に切替電流が供給されると、二重噛合防止機構100が、バレル40のアップシフト方向およびダウンシフト方向への回転が許容されるフリー状態に切り替えられる。
また、シフト機構33には、ディテント機構130が設けられている。ディテント機構130は、変速機10が所定のギヤ段に変速されたとき、そのギヤ段に応じた回転位置にバレル40を規制するための節度機構である。ディテント機構130は、バレル40に設けられてバレル40と一体的に回転させられる円板状のディテントプレート132と、ディテントプレート132の後述するディテント面138に押し付けられるボール134と、ボール134をディテントプレート132に押し付ける付勢力を付与するスプリング136とを、備えている。なお、ボール134が、本発明の押圧部材に対応している。
ディテントプレート132の外周部には、周期的に変化する波状に形成されたディテント面138が形成されており、このディテント面138にボール134が押し付けられている。ディテント面138に形成される谷142の位置にボール134が押し付けられた状態において、変速機10において所定のギヤ段が形成される。なお、ディテント面138に形成される谷142の数は、少なくとも変速機10のギヤ段と同じ数に設定されている。
また、二重噛合防止機構100のストッパ部材103の端部がラチェット歯105のストッパ面118に当接した状態において、ボール134が、ディテント面138に形成される山頂140よりもダウンシフト側に位置する面に押し付けられるように設定されている。
図9は、バレル40の回転位置θに対する、ディテントプレート132のディテント面138の形状(ディテントパターン)、バレル40のシフト溝42の形状(バレルパターン)、二重噛合防止機構100のラチェット歯105の形状(二重噛合防止機構パターン)、および変速機10のギヤ段を示している。図9において、紙面右側が変速機10のアップシフト方向に対応し、紙面左側が変速機10のダウンシフト方向に対応している。なお、図9では、バレル40の回転位置が、変速機10の1速ギヤ段1stから2速ギヤ段2ndの範囲のみ示されているが、他の変速段においても同様に構成されている。
図9に示すディテントパターンについて説明すると、ボール134が押し付けられるディテント面138に形成される波形状を示している。なお、図9では、2個のボール134が記載されているが、実際には1個のボール134から構成されている。また、バレルパターンは、上側が、第1切替機構28aの凹溝34に嵌合するシフトフォーク36が係合するシフト溝42aの溝形状を示し、下側が、第3切替機構28cの凹溝34に嵌合するシフトフォーク36が係合するシフト溝42cの溝形状を示している。二重噛合防止機構パターンは、二重噛合防止ギヤ102に形成されているラチェット歯105の形状を示している。
例えば、バレル40の回転位置θが、変速機10の2速ギヤ段2ndに対応する回転位置θ2ndにある場合には、バレル40のシフト溝42aが2速ギヤ段2ndに対応する位置となる。このとき、シフト溝42aに係合するシフトフォーク36が、2速ギヤ段2ndに対応する位置に移動させられ、変速機10が2速ギヤ段2ndに変速される。また、ボール134が、ディテントプレート132のディテント面138において、2速ギヤ段2ndに対応する谷142の位置に押し付けられる。また、ストッパ部材103は、ラチェット歯105を形成する斜面120に接した状態となる。
また、バレル40が、回転位置θ2ndから二重噛合防止機構100のストッパ部材103とストッパ面118とが当接する回転位置θrockまでダウンシフト方向に回転した場合において、変速機10がニュートラルとなるとともに、ボール134が、ディテントプレート132のディテント面138に形成される波形状の山頂140よりもダウンシフト側に位置する面に押し付けられるように設定されている。
上記のように構成される二重噛合防止機構100の作動について説明する。変速機10が所定のギヤ段に変速された状態で走行中は、電子制御装置92から切替アクチュエータ104のソレノイド116に切替電流は供給されない。従って、二重噛合防止機構100のストッパ部材103が、図8の実線で示す第1位置に回動させられ、変速機10のダウンシフトが阻止される一方で、変速機10のアップシフトが許容されるワンウェイ状態となる。このとき、電子制御装置92の誤作動や電動アクチュエータ90の故障などによってバレル40が変速機10のダウンシフト方向に回転した場合であっても、ストッパ部材103と二重噛合防止ギヤ102のストッパ面118とが当接することで、バレル40のダウンシフト方向への回転が阻止される。これより、変速機10のダウンシフトが阻止され、ダウンシフトに伴う二重噛合が防止される。
一方、電子制御装置92の誤作動等でバレル40が、変速機10のアップシフト方向に回転した場合には、二重噛合防止機構100は変速機10のアップシフトを許容するため、変速機10のアップシフトが実行される。これより、変速機10がアップシフトされるものの、変速機10のアップシフト過渡期では、トルクダウンやブリッピング制御を実行することなく変速作動が実行されるため二重噛合は生じない。
また、二重噛合防止機構100のストッパ部材103とストッパ面118とが当接した状態で、変速機10がニュートラルとなるため、バレル40が意図せず変速機10のダウンシフト方向に回転すると、変速機10がニュートラルに切り替えられ、変速機10がニュートラルの状態での退避走行が可能になる。
また、走行中にエンジン12と変速機10との間のクラッチ16が係合状態で固着する故障(オンフェール)が発生した場合には、バレル40をダウンシフト方向に回転させることで、精緻な制御を実行することなく変速機10をニュートラルに切り替えることが可能になる。さらに、ディテント機構130のボール134が、ディテント面138の山頂140よりもダウンシフト側に位置する面に押し付けられるため、ディテント機構130のボール134を介して、ディテントプレート132をダウンシフト方向に回転させる付勢力が付与される。すなわち、バレル40をダウンシフト方向に回転させる方向の付勢力が付与される。この付勢力によって、二重噛合防止機構100のストッパ部材103とストッパ面118とが当接する状態が維持され、変速機10を機械的にニュートラルで保持することが可能になる。
また、変速機10のダウンシフトを実行する場合には、電子制御装置92から切替アクチュエータ104のソレノイド116に切替電流が供給される。このとき、ピストン108がスプリング112の付勢力に抗って、ロッド110の先端側に移動させられ、ロッド110の先端に連結されたストッパ部材103が、図8の破線で示す第2位置に回動させられる。これより、ストッパ部材103とストッパ面118とが当接しなくなるため、バレル40のアップシフト方向およびダウンシフト方向への回転が許容されることから、変速機10のダウンシフトを実行可能になる。なお、二重噛合防止機構100がワンウェイ状態であっても変速機10のアップシフトが許容されるため、変速機10のアップシフトをする場合には、ソレノイド116に切替電流が供給されることなくアップシフトが実行される。
次に、変速機10のダウンシフト過渡期における作動について説明する。図10は、変速機10の変速制御を実行する電子制御装置92の制御系(入出力信号)および電子制御装置92の制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。なお、図10の変速機10は適宜簡略化して記載されている。電子制御装置92は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェイス等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、変速機10の変速制御を実行する。
電子制御装置92には、回転センサ150によって検出されるエンジン12の回転角θe(クランク角)およびエンジン回転速度Neを表す信号、回転センサ152によって検出されるカウンタ軸20の回転角θconおよびカウンタ軸回転速度Nconを表す信号、回転センサ154によって検出される出力軸22の回転角θoutおよび出力軸回転速度Noutを表す信号、回転センサ156によって検出されるバレル40の回転角θbrlを表す信号、アクセル開度センサ158によって検出されるアクセルペダルの踏込量(操作量)であるアクセル開度θaccなどが入力される。
電子制御装置92からは、変速中におけるエンジン12の作動状態を制御するエンジン出力制御信号Se、バレル40を回転駆動させるシフトアクチュエータ41の駆動信号Sact、二重噛合防止機構100の作動状態を制御する切替信号Schgなどが出力される。
電子制御装置92は、変速機10の変速制御を実行する変速制御手段すなわち変速制御部160を機能的に備えている。変速制御部160は、走行中に所定のギヤ段への変速を判断すると、電動アクチュエータ90を介して、バレルを所定のギヤ段に変速される回転角θbrlまで回転させる。尚、バレル40の各ギヤ段に対する回転角θbrlは、予め求められて記憶されている。
以下、変速機10のダウンシフトについて説明する。変速制御部160は、変速機10のダウンシフトの実行を判断すると、バレル40を、ダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる側の切替機構28が遮断状態となる回転角θbrlまで回転させる。次いで、変速制御部160は、エンジン12をトルクダウンさせることで、ダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる側の切替機構28の噛合歯とその噛合歯と噛み合うギヤ側噛合歯70との噛合を解除する。これより、遮断状態に切り替えられる側の切替機構28の噛合歯とその噛合歯と噛み合うギヤ側噛合歯70との噛合が解除されて、切替機構28が遮断状態に切り替えられる。
次いで、変速制御部160は、ダウンシフト中に噛み合うギヤ側噛合歯70が形成されているギヤ30の回転速度N30を、ダウンシフト中に接続状態に切り替えられる側の切替機構28の回転速度Ndog(詳細には、切替機構28を構成する第1ドグリング50および第2ドグリング52の回転速度Ndog)まで上昇させるブリッピング制御を実行する。ブリッピング制御によって、前記ギヤ30の回転速度N30が、ダウンシフト中に接続状態に切り替えられる側の切替機構28の回転速度Ndogまで上昇すると、変速制御部160は、バレル40をさらに回転させることにより、接続状態に切り替える側の切替機構28を、ダウンシフト後のギヤ段に対応するギヤ30に向かって移動させ、切替機構28の噛合歯とギヤ30のギヤ側噛合歯70とを噛み合わせることで、切替機構28を接続状態に切り替えてダウンシフトを完了させる。
ここで、変速機10のダウンシフトが判断されると、二重噛合防止機構100がフリー状態に切り替えられることでダウンシフトの実行が可能になるが、ダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる側の切替機構28が遮断状態に切り替わる前に、バレル40が、接続状態に切り替えられる側の切替機構28が接続状態となる回転角θbrlまで回転すると、ダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる側の切替機構28およびダウンシフト中に接続状態に切り替えられる切替機構28が同時に接続状態(すなわち噛合歯の噛合状態)となる、二重噛合が発生する虞がある。
この問題を解消するため、電子制御装置92は、ダウンシフト中に遮断される側の切替機構28が遮断状態(ドグニュートラル)に切り替えられたかを判定するニュートラル判定手段すなわち切替機構断接判定部162と、二重噛合防止機構100の作動を制御する切替制御手段すなわち切替制御部164と、を機能的に備えている。なお、切替機構断接判定部162が、本発明の判定部に対応している。
以下、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトを一例にして説明する。なお、他のギヤ段のダウンシフトにおいても、後述する2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトと変わらないため、その説明を省略する。2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトでは、第1切替機構28aがダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる側の切替機構に対応し、第3切替機構28cがダウンシフト中に接続状態に切り替えられる側の切替機構に対応する。
切替機構断接判定部162は、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト指令が出力され、バレル40のダウンシフト方向への回転およびエンジン12のトルクダウンが開始されると、変速機10のダウンシフト中において遮断状態に切り替えられる側の切替機構に対応する第1切替機構28aが遮断状態(ドグニュートラル)に切り替えられたかを判定する。切替機構断接判定部162は、第1切替機構28aを構成する第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52a(以下、これらを纏めてドグリングDR1と称す)の回転角θdogと、そのドグリングDR1に形成されている第3噛合歯72aと噛み合うギヤ側噛合歯70bが形成されている2速ギヤ30bの回転角θgearと、から算出されるドグの位相に基づいて、第3噛合歯72aとギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除されたか、すなわち第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられたかを判定する。
なお、ドグリングDR1の回転角θdogは、回転センサ154によって検出される出力軸22の回転角θoutに基づいて算出される。ドグリングDR1の回転角θdogは、出力軸22の回転角θoutから一義的に決定されるためである。また、2速ギヤ30bの回転角θgearは、回転センサ152によって検出されるカウンタ軸20の回転角θconに基づいて算出される。2速ギヤ30bの回転角θgearは、カウンタ軸20の回転角θconから一義的に決定されるためである。
切替機構断接判定部162は、ドグリングDR1の回転角θdogおよび2速ギヤ30bの回転角θgearに基づいて、ドグリングDR1の所定の基準位置oに対する2速ギヤ30bに形成されるギヤ側噛合歯70bの所定の点Mの相対的な位置(すなわちドグの位相)が、第1切替機構28aが接続状態となる位置bに対して予め設定されている閾値x以上変化した場合において、切替機構28が遮断状態に切り替えられたものと判定する。
図11は、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる第1切替機構28a、および第1切替機構28aに形成される第3噛合歯72aと噛み合う2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bの一部を回転方向に展開した断面図である。図11において、紙面左右方向が回転方向に対応し、紙面右側が前進回転方向に対応し、紙面左方向が後進回転方向に対応している。図11に示すように、遮断状態に切り替えられる第1切替機構28aにおいて、スプリング78が配置される位置が、ドグリングDR1の基準位置oに設定されている。この基準位置oから回転角θaだけ相対移動(相対回転)した位置aでは、基準位置oと同じ位相となる。また、基準位置oに対してギヤ側噛合歯70bの所定の点Mが回転角θbだけ相対移動した位置bでは、ギヤ側噛合歯70bと切替機構28の第3噛合歯72aとが噛み合った状態、すなわち第1切替機構28aが接続状態となる。この位置bに対して図11に示す閾値xだけ相対移動した位置c、すなわち基準位置oに対して回転角θcだけ相対移動した位置cでは、ギヤ側噛合歯70bと第1切替機構28aの第3噛合歯72aとの噛合が解除され、切替機構28が遮断状態に切り替わる。
これより、切替機構断接判定部162は、ギヤ側噛合歯70bの所定の点Mが、ドグリングDR1の基準位置oに対して回転角θbだけ移動した位置bに対して閾値x以上変化した場合、すなわちギヤ側噛合歯70bの所定の点Mが、ドグリングDR1の基準位置oに対して回転角θc以下の位置となったとき、切替機構28が遮断状態(ドグニュートラル)に切り替わったものと判定する。閾値xは、予め実験的または設計的に求められ、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの噛合が解除され、第1切替機構28aの第2ドグリング52aが、スプリング78の付勢力によって第1ドグリング50aに向かって移動可能となる値に設定されている。
切替機構断接判定部162が、第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられたものと判定すると、切替制御部164は、二重噛合防止機構100の切替アクチュエータ104を作動させ、二重噛合防止機構100をフリー状態に切り替える。このとき、変速機10のダウンシフトの進行が許容される。言い換えれば、変速機10のダウンシフト過渡期において第1切替機構28aが遮断状態に切り替わらない限り、二重噛合防止機構100によってバレル40のダウンシフト側への回転が阻止されるため、ダウンシフト過渡期における二重噛合が確実に防止される。
ここで、ダウンシフト中に第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかの判定は、上述したような判定方法以外に、以下のようにして判定することもできる。図12は、図11と同じく、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる第1切替機構28a、および第1切替機構28aに形成される第3噛合歯72aと噛み合う2速ギヤ30bのギヤ側噛合歯70bの一部を回転方向に展開した断面図である。図12においても、ドグリングDR1においてスプリング78が配置される位置が、基準位置oに設定されている。この基準位置から回転角θaだけ相対移動(相対回転)した位置aでは、基準位置oと同じ位相となる。また、基準位置oに対してギヤ側噛合歯70bの所定の点Mが回転角θbだけ相対移動した位置bでは、ギヤ側噛合歯70bと第1切替機構28aの第3噛合歯72aとが噛み合った状態、すなわち第1切替機構28aが接続状態となる。また、基準位置oに対してギヤ側噛合歯70bの所定の点Mが回転角θdだけ相対移動した位置dでは、ギヤ側噛合歯70bが第1切替機構28aの第2噛合歯68aと噛み合う位置となる。なお、第2噛合歯68aは、被駆動時にギヤ側噛合歯70bと噛み合う噛合歯である。ギヤ側噛合歯70bの所定の点Mが基準位置oに対して位置d以下になると、ギヤ側噛合歯70bと第2噛合歯68aとの噛合が解除され、第1切替機構28aが遮断状態となる。
これより、切替機構断接判定部162は、ギヤ側噛合歯70の所定の点Mが、基準位置oに対して回転角θdだけ相対移動した位置d以下になったとき、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったものと判定する。
また、ダウンシフト中に第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかの判定を、第1切替機構28a(のドグリングDR1)の回転速度Ndogおよび2速ギヤ30bの回転速度N30bとの回転速度差ΔN(=|Ndog−N30b|)に基づいて判定することもできる。第1切替機構28aの回転速度Ndogは、回転センサ154によって検出される出力軸22の出力軸回転速度Noutに基づいて算出される。また、2速ギヤ30bの回転速度N30bは、回転センサ152によって検出されるカウンタ軸20のカウンタ軸回転速度Nconおよび2速ギヤ段2ndのギヤ比γに基づいて算出される。
ダウンシフト中にエンジン12のトルクダウンが実行されることで、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わると、その第1切替機構28aの回転速度Ndogと、その第1切替機構28aと一体的に回転していた2速ギヤ30bの回転速度N30bとの間に回転速度差ΔNが発生する。そこで、切替機構断接判定部162は、ダウンシフト中にドグリングの回転速度Ndogとギヤ30の回転速度N30との間の回転速度差ΔNが予め設定される所定値以上になったとき、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったものと判定する。
また、ダウンシフト中に第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかの判定を、変速機10のギヤ比γ(=カウンタ軸回転速度Ncon/出力軸回転速度Nout)の変化から判定することもできる。ダウンシフト中にエンジン12のトルクダウンが実行されることで、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わると、変速機10のギヤ比γが変化する。そこで、切替機構断接判定部162は、ダウンシフト中にギヤ比γがダウンシフト前の2速ギヤ段2ndのギヤ比γに対して所定値以上変化したとき、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったものと判定する。
また、ダウンシフト中に第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかの判定を、ギヤ比γの変化速度Δγから判定することもできる。なお、ギヤ比γの変化速度Δγは、ギヤ比γの単位時間当たりの変化であり、随時算出されるギヤ比γに基づいて算出される。ダウンシフト中にエンジン12のトルクダウンが実行されることで、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わると、ギヤ比γの変化に伴ってギヤ比γの変化速度Δγが変化する。そこで、切替機構断接判定部162は、ダウンシフト中にギヤ比γの変化速度Δγが所定値以上になったとき、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったものと判定する。
図13は、変速機10の2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト過渡期における作動状態を示すタイムチャートである。図13に示すt1時点において、変速機10のダウンシフト指令が出力されてダウンシフトが開始される。このとき、t1時点からエンジン12のトルクダウンが開始され、変速機10に入力される入力トルクTinが低下している。t2時点では、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わることで、回転速度N30bと回転速度Ndogとの間に回転速度差ΔNが発生する。なお、エンジン12のトルクダウンが実行されていることから、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わると、2速ギヤ30の回転速度N30bが低下することで、回転速度差ΔNが発生する。回転速度差ΔNが所定値以上になることで、第1切替機構28aの遮断状態への切り替わりが判断され、t3時点において二重噛合防止機構100がフリー状態(OFF)に切り替えられる。
また、第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられることで、変速機10のギヤ比γが変化している。なお、トルクダウンが実行されていることから、入力軸回転速度Ninが低下するため、切替機構28が遮断状態に切り替わった直後は、ギヤ比γが減少側に変化する。ギヤ比γの変化が所定値以上になることで、第1切替機構28aの遮断状態への切り替わりが判断され、t3時点において二重噛合防止機構100がフリー状態(OFF)に切り替えられる。
また、第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられることで、ギヤ比γの変化速度Δγが変化している。なお、トルクダウンが実行されていることから、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わった直後は、ギヤ比γが減少側に変化し、それに伴ってギヤ比γの変化速度Δγが負の方向に変化する。ギヤ比γの変化速度Δγが所定値以上になることで、切替機構28の遮断状態への切り替わりが判断され、t3時点において二重噛合防止機構100がフリー状態(OFF)に切り替えられる。
また、ダウンシフト中に第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかの判定を、エンジン12のエンジントルクTeが予め設定されている閾値Y以下になったかに基づいて判定することもできる。
変速機10のダウンシフトが開始されると、エンジン12のトルクダウンが実行されるため、エンジントルクTeが減少する。エンジン12のトルクダウンに伴って、切替機構28を構成するスプリング78による第1ドグリング50aと第2ドグリング52aとの間の付勢力Fspが、第1切替機構28aの第3噛合歯72aとその第3噛合歯72aと噛み合うギヤ側噛合歯70bとの間の接触面で発生する摩擦力Ffriよりも大きくなると、スプリング78の付勢力によって第2ドグリング52aが移動させられて、第3噛合歯72aとギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除される。すなわち、第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられる。
図14は、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフトにおいて第1切替機構28aが遮断状態に切り替わる前の時点における第1切替機構28aに作用する力の関係を示している。ダウンシフトが開始されると、第1切替機構28aを構成する一対の第1ドグリング50aおよび第2ドグリング52aが互いに乖離した状態となる。このとき、スプリング78が弾性変形させられ、互いのドグリング50a、52aを引き付ける方向に作用する付勢力Fspが作用する。また、エンジン12側からトルクが伝達されることで、ギヤ側噛合歯70bとそのギヤ側噛合歯70bと噛み合う第2ドグリング52aの第3噛合歯72aとの間の接触面において、トルクによる押付力Ftrqが作用する。さらに、接触面において押付力Ftrqおよび接触面での摩擦係数μに基づく摩擦力Ffriが作用する。摩擦力Ffriは、押付力Ftrqが小さくなるほど小さくなり、摩擦力Ffriがスプリング78による付勢力Fspよりも小さくなると、スプリング78の付勢力Fspによって第2ドグリング52aが第1ドグリング50a側に引き寄せられ、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの噛合が解除される。ここで、エンジントルクTeの閾値Yが、スプリング78による付勢力Fspが、摩擦力Ffriよりも大きくなる値の閾値に設定されている。
上記のように閾値Yが設定されることで、エンジントルクTeが閾値Y以下になると、スプリング78による付勢力Fspが摩擦力Ffriよりも大きくなるため、スプリング78によって第1切替機構28aの第2ドグリング52aが移動させられ、その第2ドグリング52aの第3噛合歯72aとギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除され、第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられる。従って、切替機構断接判定部162は、エンジントルクTeが閾値Y以下になったかに基づいて、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかを判定することができる。なお、エンジントルクTeは、例えばエンジン12に取り付けられたトルクセンサによって検出される。
また、ダウンシフト中に切替機構28が遮断状態に切り替わったかの判定を、エンジン12のトルクダウンの指示後から所定時間t(Te)経過したかに基づいて判定することもできる。図15は、トルクダウン指令が出力されたときのエンジントルクTeおよび二重噛合防止機構100の作動状態を示すタイムチャートである。図15のt1時点において変速機10のダウンシフト指令が出力されると、エンジン12のトルクダウンが開始される。そして、エンジントルクTeが上述した閾値Yになると、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わる。ここで、所定時間t(Te)は、エンジントルクTeが閾値Yとなる値に設定されている。従って、トルクダウンの指示後から所定時間t(Te)経過すると、スプリング78による付勢力Fspが摩擦力Ffriよりも大きくなるため、スプリング78の付勢力Fspによって第2ドグリング52aが移動させられ、その第2ドグリング52aの第3噛合歯72aとギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除され、第1切替機構28aが遮断状態に切り替えられる。図15のt2時点では、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったものと判断されることで、二重噛合防止機構100がフリー状態(OFF)に切り替えられる。
ここで、スプリング78による付勢力Fspが摩擦力Ffriよりも大きくなるまでに要する所定時間t(Te)は、トルクダウンが指示された時点のエンジントルクTeに応じて変化することから、所定時間t(Te)は、トルクダウンが指示された時点でのエンジントルクTeに応じて変更される。切替機構断接判定部162は、エンジントルクTeからなる所定時間t(Te)を求めるための関係マップを記憶しており、トルクダウンが開始された時点でのエンジントルクTeを関係マップに適用することで、所定時間t(Te)を決定する。そして、切替機構断接判定部162は、トルクダウンの指示後から決定された所定時間t(Te)経過すると、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったものと判定する。なお、関係マップは、予め実験的または設計的に求められて記憶されており、エンジントルクTeに基づいて、スプリング78による付勢力Fspが摩擦力Ffriよりも大きくなる所定時間t(Te)が求められるようになっている。
上述した何れかの判定方法に基づいて、ダウンシフト中に第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったかが判定され、第1切替機構28aが遮断状態に切り替わったと判定されると、二重噛合防止機構100がフリー状態に切り替えられることでも、ダウンシフト中における二重噛合が確実に防止される。
変速機10のダウンシフト中に二重噛合防止機構100がフリー状態に切り替えられることで変速が進行し、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト中に接続状態に切り替えられる側の切替機構である第3切替機構28cが接続状態に切り替えられたものと判定されると、ダウンシフトが終了したものと判断され、切替制御部164は、二重噛合防止機構100をワンウェイ状態に切り替える。ここで、切替機構断接判定部162は、ダウンシフト中に接続状態に切り替えられる第3切替機構28cが接続状態に切り替わったかを判定する。
切替機構断接判定部162は、2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト中に接続状態に切り替えられる第3切替機構28cの回転角θdogと、ダウンシフト中に第3切替機構28cの第3噛合歯72cと噛み合うギヤ側噛合歯70fが形成されている1速ギヤ30fの回転角θgearと、から算出されるドグの位相に基づいて、第3噛合歯72cとギヤ側噛合歯70fとが噛み合ったか、すなわち第3切替機構28cが接続状態に切り替えられたかを判定する。
図11の第1切替機構28aを、ダウンシフト中に接続状態に切り替えられる第3切替機構28cに読み替えると、第3切替機構28cの基準位置oに対して、ギヤ側噛合歯70fの所定の点Mが回転角θbだけ相対移動した位置bまで移動すると、ギヤ側噛合歯70fと第3切替機構28cの第3噛合歯72cとが噛み合う、第3切替機構28cの接続状態となる。これより、切替機構断接判定部162は、ギヤ側噛合歯70fの所定の点Mが、第3切替機構28cの基準位置oに対して回転角θbだけ移動した位置bに到達したとき、第3切替機構28cが接続状態に切り替わったものと判定する。
また、切替機構断接判定部162は、変速機10のギヤ比γに基づいて判定することもできる。第3切替機構28cが接続状態に切り替わると、ギヤ比γがダウンシフト後のギヤ段である1速ギヤ段1stに対応するギヤ比γとなる。切替機構断接判定部162は、ギヤ比γを随時算出し、ギヤ比γがダウンシフト後のギヤ段に対応するギヤ比γとなったとき、第3切替機構28cが接続状態に切り替わったものと判定する。
切替機構断接判定部162が、ダウンシフト中に第3切替機構28cが接続状態に切り替えられたものと判定すると、切替制御部164が二重噛合防止機構100をワンウェイ状態に切り替えることで、バレル40のダウンシフト側への回転が規制され、バレル40が意図せずダウンシフト側に回転することによる二重噛合が確実に防止される。
図16は、電子制御装置92の制御作動の要部を説明するためのフローチャートであり、変速機10の2速ギヤ段2ndから1速ギヤ段1stへのダウンシフト中に発生する二重噛合を確実に防止するための制御作動を説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、変速機10のダウンシフト指令が出力されると実行される。
変速機10のダウンシフト指令が出力されると、変速制御部160の制御機能に対応するステップST1(以下、ステップを省略)において、エンジン12のトルクダウンが開始される。次いで、変速制御部160の制御機能に対応するST2において、バレル40がダウンシフト側に回転させられ、ダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる第1切替機構28aに、第3噛合歯72aとギヤ側噛合歯70bとの噛合が解除される方向の付勢力がシフト機構33を介して付与される。このとき、ダウンシフト開始後は、第1切替機構28aを構成する第1ドグリング50aが移動させられる一方、ギヤ側噛合歯70bと噛み合う第3噛合歯72aが形成されている第2ドグリング52aは、ギヤ側噛合歯70bと第3噛合歯72aとの間の接触面で作用する摩擦力Ffriによってその位置が維持される。そして、エンジン12のトルクダウンに伴って、スプリング78による付勢力Fspが摩擦力Ffriよりも大きくなると、スプリング78の付勢力Fspによって第2ドグリング52aが2速ギヤ30bから離れる方向に移動させられ、ギヤ側噛合歯70とドグリングの噛合歯との噛合が解除され、切替機構28が遮断状態に切り替えられる。
切替機構断接判定部162の制御機能に対応するST3では、切替機構28が遮断状態に切り替わったかが判定される。ST3が否定される場合、ST3が肯定されるまで同じステップが繰り返し実行される。ST3が肯定される場合、切替制御部164の制御機能に対応するST4において、二重噛合防止機構100がフリー状態(OFF)に切り替えられ、ダウンシフトの進行が許容される。また、変速制御部160の制御機能に対応するST5において、ダウンシフト中に接続状態となる1速ギヤ30fの回転速度を、第3切替機構28cの回転速度まで上昇させるブリッピング制御が実行される。
変速制御部160の制御機能に対応するST6では、1ギヤ30fの回転速度が第3切替機構28cの回転速度まで上昇したかに基づいて、第3切替機構28cを接続状態に切替可能かが判定される。ST6が否定される場合、ST6が肯定されるまで同じステップが繰り返し実行される。ST6が肯定される場合、変速制御部160の制御機能に対応するST7において、第3切替機構28cが1速ギヤ30f側に向かって移動させられる。切替機構断接判定部162の制御機能に対応するST8では、第3切替機構28cが接続状態に切り替わった(接続完了)かが判定される。ST8が否定される場合、ST8が肯定されるまで同じステップが繰り返し実行される。ST8が肯定される場合、切替制御部164の制御機能に対応するST9において、二重噛合防止機構100がワンウェイ状態(ON)に切り替えられ、本ルーチンが終了させられる(ダウンシフト完了)。
上述のように、本実施例によれば、シフト機構33を作動させるシフトアクチュエータ41等の故障によって、走行中にシフト機構33のバレル40が意図せずダウンシフト方向に回転した場合であっても、二重噛合防止機構100がワンウェイ状態に切り替えられた状態では、二重噛合防止機構100によってバレル40のダウンシフト方向への回転が阻止される。結果として、切替機構28のダウンシフト方向への移動に伴う二重噛合を防止することができる。また、ダウンシフトを実行する場合には、二重噛合防止機構100がフリー状態に切り替えられることでダウンシフトが許容されるため、ダウンシフトの実行が可能になる。
また、本実施例によれば、二重噛合防止機構100のラチェット歯105とストッパ部材103とが当接した状態において、出力軸22と変速ギヤ30との間の動力伝達が遮断されるため、例えば、エンジン12と変速機10との間に配置されるクラッチ16が係合側に固着する故障が発生した場合には、シフト機構33をダウンシフト方向に作動させてラチェット歯105とストッパ部材103とが当接した状態とすることで、変速機10の動力伝達を容易に遮断することができる。また、二重噛合防止機構100のラチェット歯105とストッパ部材103とが当接した状態において、ディテント機構130のボール134が、ディテント面138に形成される山頂140よりもダウンシフト側に位置する面に押し付けられるため、ディテント機構130によって、バレル40をダウンシフト方向に回転させる方向に付勢される。従って、ラチェット歯105とストッパ部材103とが当接した状態を機械的に保持することができる。
また、本実施例によれば、変速機10のダウンシフト中に遮断状態に切り替えられる切替機構28が遮断状態に切り替えられたことを判定すると、二重噛合防止機構100がフリー状態に切り替えられるため、ダウンシフト中における二重噛合を確実に防止することができる。また、変速機10のダウンシフト中に接続状態に切り替えられる側の切替機構28が接続状態に切り替えられると、二重噛合防止機構100がワンウェイ状態に切り替えられるため、その後にシフト機構33が意図せずダウンシフト方向に作動した場合であっても、二重噛合防止機構100によってダウンシフトが阻止され、二重噛合を確実に防止することができる。
つぎに、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において前述の実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。