以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る膜ろ過装置の構成を示す概略図である。
本実施形態の膜ろ過装置10は、原水(被処理水)に含まれる不純物を除去して処理水を生成する装置であって、原水を、不純物を含む濃縮水と、不純物が除去された透過水とに分離するろ過手段11を有している。ろ過手段11は、逆浸透膜(RO膜)またはナノろ過膜(NF膜)を有している。
また、膜ろ過装置10は、ろ過手段11にそれぞれ接続された複数のライン、すなわち、ろ過手段11に原水を供給する供給ライン1と、ろ過手段11からの透過水を流通させる透過水ライン2と、ろ過手段11からの濃縮水を流通させる濃縮水ライン3とを有している。加えて、膜ろ過装置10は、濃縮水ライン3から分岐した2つのライン、すなわち、濃縮水ライン3を流れる濃縮水の一部を外部へ排出する排水ライン4と、濃縮水の残りを供給ライン1に還流させる還流水ライン5とを有している。還流水ライン5は、濃縮水ライン3から分岐した後、後述する加圧ポンプ21の上流側で供給ライン1に接続されている。なお、還流水ライン5は、供給ライン1に直接接続される代わりに、供給ライン1に設けられた原水タンク(図示せず)に接続されていてもよい。
さらに、膜ろ過装置10は、透過水ライン2を流れる透過水の流量を検出する透過水流量計(第1の流量検出手段)12と、その流量を設定流量に調整する透過水流量制御機構(第1の流量制御手段)20を有している。
透過水流量制御機構20は、供給ライン1に設けられ、供給ライン1を流れる原水の圧力(ろ過手段11への原水の供給圧力)を調整する加圧ポンプ(圧力調整手段)21と、透過水流量計12による透過水の検出流量(検出値)に基づいて、加圧ポンプ21を制御する透過水流量制御部22とを有している。
透過水流量制御部22は、加圧ポンプ21の回転数を制御するインバータ(図示せず)を含み、透過水流量計12による透過水の検出流量が一定になるように、加圧ポンプ21の回転数を制御するものである。例えば、水温が変化すると、水の粘性が変化することで、RO膜またはNF膜で分離される透過水の流量も変化する。この変化に応じて、透過水流量制御部22は、加圧ポンプ21の回転数を制御するようになっている。すなわち、水温が低くなると、水の粘性は高くなり、その結果、RO膜またはNF膜で分離される透過水の流量は減少する。そのため、透過水流量制御部22は、この減少分を補うように、加圧ポンプ21の回転数を上げることで、原水の供給圧力を増加させる。また、水温が高くなると、水の粘性は低くなり、その結果、RO膜またはNF膜で分離される透過水の流量は増加する。そのため、透過水流量制御部22は、この増加分を打ち消すように、加圧ポンプ21の回転数を下げることで、原水の供給圧力を低下させる。なお、加圧ポンプ21の回転数は、予め設定された上限値を上回ったり、同じく予め設定された下限値を下回ったりしないように、透過水流量制御部22により制御される。そのため、加圧ポンプ21の回転数が下限値になるように制御された場合でも、透過水の流量が設定流量を上回ってしまう可能性があるが、このような場合を考慮して、加圧ポンプ21とろ過手段11との間に、原水の供給圧力を調整するための手動弁や比例制御弁が設けられていてもよい。
このように、本実施形態では、加圧ポンプ21の回転数、すなわち原水の供給圧力を調整することで、透過水の流量は一定(予め設定された目標流量)に維持されるが、その原水の供給圧力の変化に応じて、RO膜またはNF膜で分離される濃縮水の流量も変化することになる。このような濃縮水の流量変化そのものを抑制するために、濃縮水ライン3には、濃縮水ライン3を流れる濃縮水の流量を一定に保持する定流量弁13が設けられている。これにより、透過水流量制御部22により加圧ポンプ21の回転数が変化して、ろ過手段11への原水の供給圧力が変化した場合にも、濃縮水の流量を一定に保持することができる。
ここで、定流量弁13の規定流量は、一方では、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりが発生しない程度であればよく、他方では、圧力損失の増大によって膜を破損させない程度であればよい。ただし、定流量弁13の規定流量を必要以上に大きくすることは、加圧ポンプ21に要求される流量が必要以上に大きくなり、結果的に加圧ポンプ21のサイズが大きくなるため、エネルギー消費の点で好ましくない。そのため、定流量弁13の規定流量は、ろ過手段11の透過流束とろ過手段11に要求される濃縮水の最低流量も考慮して設定され、例えば、ろ過手段11として直径が約20.32cm(8インチ)のRO膜を用いる場合、1〜15m3/hの範囲である。なお、ろ過手段11に要求される濃縮水の最低流量とは、ファウリングやスケーリングによる膜の詰まりが発生しないための濃縮水ライン3に流すべき濃縮水の最低流量を意味する。
ところで、定流量弁13には、定流量弁13を正常に作動させるための作動差圧範囲(定流量弁の一次側と二次側の圧力差の許容範囲)が規定されている。そのため、例えば、ろ過手段11として中高圧用のRO膜を使用する場合や、水温が極端に低下した場合など、条件によっては、原水の供給圧力が著しく上昇して濃縮水の圧力が上昇し、定流量弁13の一次側と二次側の圧力差が作動差圧範囲を超えてしまうことがある。その場合、濃縮水ライン3を流れる濃縮水の流量が一定に保持されないおそれがある。
そこで、定流量弁13の上流側の濃縮水ライン3に、濃縮水ライン3を流れる濃縮水の圧力を減圧する(すなわち、二次側の圧力を一次側の圧力よりも低くすることができる)減圧弁が設けられていてもよい。これにより、ろ過手段11への原水の供給圧力が著しく上昇する場合であっても、定流量弁13の一次側と二次側の圧力差を作動差圧範囲内に収めて定流量弁13を正常に作動させることができ、濃縮水ライン3を流れる濃縮水の流量を一定に保持することができる。また、減圧弁を設けることで、それよりも下流側の周辺部材(配管など)にそれほどの耐圧性能が要求されなくなる。そのため、減圧弁の設置は、安全面で有利であるだけでなく、耐圧性能がそれほど高くない安価な汎用品が利用可能になることで、コスト面でも有利である。なお、減圧弁の種類は、濃縮水の圧力を定流量弁13の作動差圧範囲内に減圧することができるものであれば特に限定されるものではないが、定流量弁13の規定流量以上の流量が流れるものや、二次側の圧力が排水ライン4や還流水ライン5の通水差圧よりも大きくなるものを選定する必要がある。
上述したように、定流量弁13の設置により、透過水の流量制御が濃縮水の流量に影響を及ぼすことがなくなり、その結果、排水ライン4または還流水ライン5を流れる濃縮水の流量制御が容易に実行可能になる。そこで、本実施形態の膜ろ過装置10は、排水ライン4を流れる濃縮水(以下、「濃縮排水」という)の流量を検出する排水流量計(第2の流量検出手段)14と、その流量を設定流量に調整する排水流量制御機構(第2の流量制御手段)30とを有している。この排水流量制御機構30による濃縮排水の流量制御は、透過水流量制御機構20による透過水の流量制御とは独立して行われる。
排水流量制御機構30は、排水ライン4に設けられた流量調整弁31と、排水流量計14による濃縮排水の検出流量(検出値)に基づいて、流量調整弁31の開度を調整する排水流量制御部32とを有している。
排水流量制御部32は、透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する透過水の流量の割合である回収率を考慮して濃縮排水の設定流量を決定し、排水流量計14による検出値がその設定流量となるように、流量調整弁31の開度を調整するようになっている。このときの回収率は、水の有効利用(節水)の観点から、できるだけ高いことが好ましい。すなわち、濃縮排水の流量はできるだけ少ないことが好ましい。しかしながら、定流量弁13により濃縮水の流量が一定に保持されているため、濃縮排水の流量が少なくなると、当然のことながら、還流水ライン5から供給ライン1に還流する濃縮水の流量が増加する。それにより、原水の不純物濃度が高まると、ろ過手段11のRO膜またはNF膜の膜面に不純物(特に、シリカまたはカルシウム)が析出するスケーリングが起こりやすくなってしまう。したがって、濃縮排水の流量は、濃縮水の不純物濃度が溶解度以上の濃度にならない範囲で回収率が最大になるように、すなわち、不純物であるシリカまたはカルシウムが析出しない範囲で回収率が最大になるように設定される。
ただし、不純物の溶解度は、水温に応じて変化する。例えば、シリカの場合、その溶解度は温度に比例して増加し、カルシウム(炭酸カルシウム)の場合、温度が上昇するにつれてその溶解度は減少する。そのため、水温が低い場合には、シリカの溶解度が相対的に低く、シリカが析出しやすい(シリカスケールが発生しやすい)が、水温が高くなると、カルシウムの溶解度が相対的に低くなるため、カルシウムが析出しやすく(カルシウムスケールが発生しやすく)なる。そこで、本実施形態では、ろ過手段11に供給される原水の水温を検出する温度センサ(水温検出手段)16が供給ライン1に設けられており、この温度センサ16で検出された水温に基づいて、濃縮排水の最適な設定流量が算出される。なお、温度センサ16は、ろ過手段11からの透過水と濃縮水のいずれかの水温を検出するようになっていてもよく、すなわち、透過水ライン2または濃縮水ライン3に設けられていてもよい。
具体的には、まず、検出された水温でシリカが析出する理論上の回収率(以下、「シリカの析出回収率」という)と、検出された水温でカルシウム(炭酸カルシウム)が析出する理論上の回収率(以下「カルシウムの析出回収率」という)が算出される。なお、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率のそれぞれの算出方法については後述する。次に、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率とが比較され、目標回収率として、より小さい方の析出回収率が設定される。そして、この目標回収率と、透過水流量計12による透過水の検出流量とに基づいて、以下の式(1)により、濃縮排水の目標流量が算出されて設定される。
(濃縮排水の目標流量)=
(透過水の検出流量/目標回収率)−(透過水の検出流量) (1)
スケーリングの発生を確実に抑制するという観点からは、安全率を加味し、上記式(1)で算出された目標流量を上回る流量を濃縮排水の設定流量として設定することもできるが、節水の観点からは、算出された目標流量を濃縮排水の設定流量として設定することが好ましい。なお、回収率(目標回収率)として、通常は、パーセントで表した値が用いられるが、上記式(1)では、小数で表した値が用いられることは言うまでもない。
ここで、シリカの析出回収率とカルシウムの析出回収率の算出方法についてそれぞれ説明する。
(シリカの析出回収率の算出方法)
シリカの析出回収率YSは、検出された水温でのシリカの溶解度(mg/L)をCSとし、予め測定された原水のシリカ濃度(mg/L)をFSとしたとき、以下の式(2)から算出される。
YS=(CS−FS)/CS (2)
なお、シリカの溶解度の算出方法としては、ASTM(American Society for Testing and Materials)D4993−89などに規定された方法を用いることができる。
(カルシウムの析出回収率の算出方法)
カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数を算出する方法を利用して算出される。ここで、ランゲリア指数(飽和指数)とは、カルシウム(炭酸カルシウム)の析出の可能性を示す指標であり、水の実際のpHと、理論pH(pHs:水中の炭酸カルシウムが溶解も析出もしない平衡状態にあるときのpH)との差(pH−pHs)を意味する。すなわち、ランゲリア指数が正の値で絶対値が大きいほど炭酸カルシウムが析出しやすくなり、負の値では炭酸カルシウムは析出されない。そのため、カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数がゼロになるときの回収率として算出される。なお、より安全側の値として設定するために、カルシウムの析出回収率は、濃縮水のランゲリア指数が負の値になるときの回収率であってもよい。
濃縮水のランゲリア指数は、濃縮水のpHと、濃縮水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)と、検出された水温とから算出される。ランゲリア指数の算出方法としては、例えば、特開平11−267687号公報(段落[0025]〜[0027])などに記載された方法を用いることができる。また、濃縮水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)は、予め測定された原水の不純物濃度(カルシウム濃度、総アルカリ度、および蒸発残留物濃度)と、回収率とから算出される。したがって、カルシウムの析出回収率YCは、濃縮水のランゲリア指数がゼロになるときの濃縮水の不純物濃度(mg/L)をCCとし、予め測定された原水の不純物濃度(mg/L)をFCとしたとき、以下の式(3)の関係で表されることになる。
YC=(CC−FC)/CC (3)
なお、透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する透過水の流量の割合である回収率は、透過水の流量と濃縮排水の流量との和に対する濃縮水の流量の割合である許容濃縮倍率で表すことができる。すなわち、回収率Yは、許容濃縮倍率をNとしたとき、以下の式(4)で表すことができる。
Y=(N−1)/N (4)
したがって、上記式(1)〜(3)は、上記式(4)を用いて、それぞれ以下のように表すことができる。
(濃縮排水の目標流量)=(透過水の検出流量)/(許容濃縮倍率−1) (1’)
NS=CS/FS (2’)
NC=CC/FC (3’)
ここで、NSは、カルシウムの析出回収率に対応する許容濃縮倍率であり、NCは、シリカの析出回収率に対応する許容濃縮倍率である。
シリカおよびカルシウムの析出回収率の算出方法や濃縮排水の設定流量の算出方法は、例えば加圧ポンプの容量や原水の流量などの装置設計上の制約によって、予め回収率や流量に制約がある場合には、上述した限りではない。また、濃縮排水の設定流量の算出には、予め設定された透過水の目標流量を用いることもできるが、この方法は、透過水の目標流量と実際の流量が一致していない場合に、実際の回収率が目標回収率からずれる可能性があるため好ましくない。すなわち、透過水の実際の流量が目標流量よりも大きい場合には、実際の回収率が目標回収率を上回ることでスケーリングが発生したり、透過水の実際の流量が目標流量よりも小さい場合には、実際の回収率が目標回収率を下回ることで節水を図ることができなくなったりする。
したがって、濃縮排水の設定流量の算出には、上述したように、透過水流量計12による透過水の検出流量を用いることが好ましい。これにより、透過水の流量制御が適切に実施されない事態が発生しても、実際の回収率が目標の回収率からずれることを抑制することができる。なお、実際の算出には、透過水の検出流量のばらつきなどによる影響を最小限に抑えるために、所定検出時間や所定検出回数における平均流量を用いることが好ましい。
ただし、装置起動時や運転再開時など、透過水の流量が安定せず、検出流量のばらつきが非常に大きい場合には、透過水の流量が安定するまでの一定期間、予め設定された透過水の目標流量を用いて、濃縮排水の設定流量を算出するようになっていてもよい。また、透過水の目標流量と実際の流量との差に応じて、濃縮排水の設定流量の算出に用いる透過水の流量を切り替えるようになっていてもよい。すなわち、その差が所定範囲内にある場合には、目標流量を用いて算出し、その差が所定範囲を外れた場合には、実際の流量を用いて算出するようになっていてもよい。
上述のように回収率制御を行う場合、流量調整弁31としては、電動比例制御弁を用いることが好ましい。これにより、電動比例制御弁の分解能に応じて開度調整を細かく行うことができ、電磁弁の組み合わせなどによる段階式での開度調整に比べて、回収率を滑らかに調整することができる。例えば、50〜70%の範囲の回収率を5段階(50%、55%、60%、65%、70%)にしか制御できない段階式では、目標回収率が64%に設定された場合、回収率を60%にしか調整することができず、無駄な濃縮排水が発生してしまう。したがって、流量調整弁31として電動比例制御弁を用いることは、このような濃縮排水の無駄も削減することができるため、節水の観点からも有利である。
ただし、流量調整弁31として電動比例制御弁を用いる場合には、その開閉速度と、排水流量制御部32による濃縮排水の設定流量の算出速度(演算速度)との関係に注意が必要である。例えば、2つの速度が大きく異なっている場合、電動比例制御弁の開閉が完了して濃縮排水の流量が安定する前に濃縮排水の設定流量が変更されると、ハンチングが発生する可能性がある。また、透過水流量計12による透過水の検出流量に基づいて濃縮排水の設定流量が決定されるため、濃縮排水の流量制御は、加圧ポンプ21の回転数を制御するインバータの応答速度にも影響を受ける可能性がある。したがって、排水流量制御部32による濃縮排水の設定流量の演算速度を決定する際には、電動比例制御弁の開閉速度とインバータの応答速度とを考慮することが好ましい。すなわち、電動比例制御弁の開閉速度が遅い場合は、インバータの応答速度を遅くし、電動比例制御弁の開閉速度が速い場合は、インバータの応答速度を速くすることが好ましい。なお、本実施形態では、上述したように、定流量弁13の設置により透過水の流量制御と濃縮水の流量制御とが独立して行われるため、互いの流量制御が干渉することを抑制することができる。その結果、上述のようなハンチングの発生を極力抑制することができ、実際の回収率が目標の回収率からずれることを抑制することができる。この点からも、濃縮水ライン3に定流量弁13が設けられていることが好ましい。
なお、本実施形態では、回収率の目標値をより高く設定して、さらなる節水を実現するために、上述の析出回収率をより高くすることを目的として、スケール防止剤を原水に添加するようになっていてもよい。この場合、定流量弁13の規定流量を小さくすることができ、結果として、より小さい容量の加圧ポンプ21を用いることで省エネルギー化を実現することもできる。スケール防止剤の添加は、薬注ポンプによって行うことができる。
スケール防止剤は、シリカやカルシウムなどのスケール成分の析出を抑制可能な物質であれば、特定のものに限定されるものではない。その種類としては、例えば、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ニトリロトリメチルホスホン酸などのホスホン酸とその塩類などのホスホン酸系化合物;正リン酸塩、重合リン酸塩などのリン酸系化合物;ポリマレイン酸、マレイン酸共重合物などのマレイン酸系化合物;アクリル酸系ポリマーなどが挙げられ、アクリル酸系ポリマーとしては、ポリ(メタ)アクリル酸、マレイン酸/(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸/スルホン酸、(メタ)アクリル酸/ノニオン基含有モノマーなどのコポリマーや、(メタ)アクリル酸/スルホン酸/ノニオン基含有モノマー、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド−アルキルスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド−アリールスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーなどが挙げられる。ターポリマーを構成する(メタ)アクリル酸としては、例えば、メタアクリル酸およびアクリル酸と、それらのナトリウム塩などの(メタ)アクリル酸塩などが挙げられる。ターポリマーを構成するアクリルアミド−アルキルスルホン酸としては、例えば、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とその塩などが挙げられる。また、ターポリマーを構成する置換(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、t−ブチルアクリルアミド、t−オクチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミドなどが挙げられる。
これらの中でも、ホスホン酸系化合物とアクリル酸系ポリマーのうち少なくとも1種類を含むものを用いることが好ましい。また、カルシウムとシリカに由来するスケールを同時に抑制するためには、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸と、アクリル酸と(メタ)アクリル酸/2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸/置換(メタ)アクリルアミドのターポリマーとの混合物とからなるスケール防止剤を用いることが特に好ましい。
なお、RO膜用の市販のスケール防止剤としては、オルガノ株式会社製の「オルパージョン」シリーズ、BWA Water Additives社製の「Flocon(登録商標)」シリーズ、Nalco社製の「PermaTreat(登録商標)」シリーズ、ゼネラル・エレクトリック社製の「Hypersperse(登録商標)」シリーズ、栗田工業株式会社製の「クリバーター(登録商標)」シリーズなどが挙げられる。
ところで、還流水ライン5との合流部よりも上流側の供給ライン1には、多くの場合、原水に含まれる残留遊離塩素を除去するために活性炭ろ過器が設けられている。しかしながら、活性炭ろ過器の塩素除去能力は、原水の水温や流量、残留遊離塩素の濃度に依存するため、場合によっては、活性炭ろ過器の下流側に残留遊離塩素が漏れることがあり、そのような残留遊離塩素がろ過手段11のRO膜またはNF膜を酸化させて劣化させる可能性がある。このような膜の劣化が発生すると、膜厚が薄くなり膜の孔径が大きくなることで、透過水の流量が増加するだけでなく、膜の塩除去性能が低下して透過水の水質低下につながる。
一方、水の有効利用(節水)の観点から回収率はできるだけ高いことが好ましいが、このときの目標回収率は、上述したように、温度センサ16による検出値と予め測定された原水の不純物濃度に基づいて算出される。そのため、原水の不純物濃度が変動して予め測定された設定値を上回ると、目標回収率を達成するように濃縮排水の流量制御が行われていても、スケール発生のリスクが高まり、ろ過手段11のRO膜またはNF膜に詰まりが発生する可能性がある。このような膜の詰まりが発生すると、膜の透過孔が閉塞されることで、透過水の流量が減少するだけでなく、膜の塩除去性能が低下して透過水の水質低下につながる。
このような理由から、ろ過手段11のRO膜またはNF膜の性能、特に劣化または詰まりの有無を正確に判定し、劣化や詰まりが発生する場合にはそれを可能な限り初期の段階で検知することが望ましい。そこで、本実施形態では、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があるか否かを判定する予兆判定部(判定手段)40が設けられている。さらに、本実施形態では、予兆判定部40が予兆判定を行うために用いるデータを取得するために、複数の検出手段が設けられている。すなわち、供給ライン1を流れる原水の導電率を検出する原水導電率計(第1の導電率検出手段)17aと、透過水ライン2を流れる透過水の導電率を検出する透過水導電率計(第2の導電率検出手段)17bと、供給ライン1を流れる原水の圧力を検出する原水圧力計(第1の圧力検出手段)18aと、透過水ライン2を流れる透過水の圧力を検出する透過水圧力計(第2の圧力検出手段)18bと、濃縮水ライン3を流れる濃縮水の圧力を検出する濃縮水圧力計(第3の圧力検出手段)18cと、が設けられている。なお、これら検出手段の設置位置は図示した位置に限定されるものではない。
以下、予兆判定部40による、ろ過手段11の劣化または詰まりの予兆判定方法について説明する。
ろ過手段11の劣化または詰まりは、上述したように、透過水の水質低下(すなわち、透過水の導電率上昇)として現れるとともに、透過水の流量変化として現れる。ただし、透過水流量制御機構20によって透過水ライン2を流れる透過水の流量が一定に維持されている場合には、透過水の流量変化として現れる代わりに、原水の供給圧力の変化として現れる。したがって、ろ過手段11の劣化または詰まりは、透過水の導電率の経時変化と原水の供給圧力の経時変化を詳細に解析することで、その有無を判定することが可能になる。しかしながら、透過水の導電率は、ろ過手段11の劣化または詰まりの有無だけでなく、水温や原水の水質(導電率)によっても変化し、回収率によっても変化する。また、原水の供給圧力は、水温によっても変化する。そのため、ろ過手段11の劣化または詰まりの有無を正確に判定するには、透過水の導電率の検出結果や原水の供給圧力の検出結果を直接解析するのではなく、劣化または詰まり以外の影響を排除した補正値を用いて解析を行うことが必要になる。
そこで、原水圧力計18aにより原水の供給圧力が検出されると、その供給圧力の検出値が補正され、水温の変動による影響が排除された補正値(以下、「圧力補正値」という)が算出される。具体的には、温度センサ16による検出値と、透過水流量計12による検出値とに基づいて、原水圧力計18aによる検出値が補正されて圧力補正値が算出される。原水圧力計18aにより検出された原水の供給圧力をP
fo[bar]とすると、圧力補正値P
fs[bar]は、以下の式(5)によって与えられる。
ここで、Q
poは透過水流量計12により検出された透過水の流量[L/h]、Q
psはその参照値である。また、K
Tは水温補正係数であり、以下の式(6)によって与えられる。
ここで、Aは水温によって決まる定数、T
oは温度センサ16により検出された原水の水温[℃]、T
sはその参照値である。
また、透過水導電率17bにより透過水の導電率が検出されると、その導電率の検出値が補正され、水温の変動、原水の水質(導電率)の変動、および回収率の変動による影響が排除された補正値(以下、「導電率補正値」という)が算出される。具体的には、温度センサ16による検出値と、原水導電率計17aによる検出値と、原水圧力計18a、透過水圧力計18b、および濃縮水圧力計18cによる検出値とに基づいて、透過水導電率計17bによる検出値が補正されて導電率補正値が算出される。透過水導電率計17bにより検出された透過水の導電率をC
po[μS/cm]とすると、導電率補正値C
ps[μS/cm]は、以下の式(7)によって与えられる。
P
fo:原水圧力計18aにより検出された原水の供給圧力[bar]
P
fs:式(5)により算出された圧力補正値[bar]
ΔP
o:原水がろ過手段11の一次側を通過する際の圧力損失[bar]
ΔP
s:同参照値[bar]
P
po:透過水圧力計18bにより検出された透過水の圧力[bar]
P
ps:同参照値[bar]
C
fo:原水導電率計17aにより検出された原水の導電率[μS/cm]
C
fs:同参照値[μS/cm]
C
po:透過水導電率計17bにより検出された透過水の導電率[μS/cm]
C
ps:同参照値[μS/cm]
T
o:温度センサ16により検出された原水の水温[℃]
T
s:同参照値[℃]
ここで、圧力損失ΔPo,ΔPsは、原水圧力計18aと濃縮水圧力計18cにより間接的に検出(算出)され、供給ライン1を流れる原水と濃縮水ライン3を流れる濃縮水との圧力差として表される。なお、式(5)〜(7)における各参照値としては、ろ過手段11の使用開始直後(膜ろ過装置10の運転開始直後)の検出値(算出値)や、使用開始直後から一定時間経過してから性能が安定した後の検出値(算出値)を用いることができる。ただし、ろ過手段11の使用開始直後には、特に、運転開始前に拡散したイオンによって透過水の導電率が時間と共に変化する。そのため、参照値としては、ろ過手段11の使用開始直後から一定時間経過して性能が安定した後で取得した値を用いることが好ましい。ろ過手段11(RO膜またはNF膜)の性能が安定するまでの期間は、それまで膜がどのように保管されていたかによって変化するが、その保管状態が適切であれば、ドライタイプ(乾燥状態で保管)とウェットタイプ(湿潤状態で保管)のどちらの膜でも、一般に数時間から数日である。すなわち、膜の塩除去性能は、使用開始後、数時間から数日の間に向上し、それ以降は安定するのが一般的である。したがって、参照値としては、ろ過手段11の使用開始直後から、予め設定された時間または日数を経過した後に取得した値を用いることができる。
圧力補正値および導電率補正値は連続的または周期的に算出され、こうして算出された値がそれぞれの経時変化を示すデータ(時系列データ)として収集される。なお、ろ過手段11の劣化または詰まりは急激に起こるわけではなく、圧力補正値および導電率補正値にもその影響が急激に現れるわけではないため、時系列データとして、それぞれの一定期間における移動平均値を収集してもよく、移動平均を算出する期間は数時間から数日であってよい。
そして、時系列データの収集と並行して、時系列データに対して回帰分析(線形回帰)が行われ、算出される回帰直線の傾きに基づいて、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があるか否かが判定される。ろ過手段11に劣化または詰まりがない場合、圧力補正値および導電率補正値にそれぞれ変化はなく、回帰直線の傾きもそれぞれゼロとなる。したがって、この予兆判定では、圧力補正値の時系列データに対する回帰直線(以下、単に「圧力回帰直線」ともいう)の傾きがゼロを含む所定範囲内であるか否かが判定され、かつ導電率補正値の時系列データに対する回帰直線(以下、単に「導電率回帰直線」ともいう)の傾きがゼロを含む所定範囲内であるか否かが判定される。その結果、圧力回帰直線の傾きが所定範囲から外れるか、導電率回帰直線の傾きが所定範囲から外れた場合に、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定される。
圧力補正値は、ろ過手段11の劣化が発生すると、原水がろ過手段11を透過しやすくなることで減少し、ろ過手段11の詰まりが発生すると、原水がろ過手段11を透過しにくくなることで増加する。したがって、圧力回帰直線の傾きが所定の下限値以下になった場合に、ろ過手段11に劣化の予兆があると判定され、圧力回帰直線の傾きが所定の上限値以上になった場合に、ろ過手段11に詰まりの予兆があると判定される。一方、導電率補正値は、ろ過手段11の劣化が発生しても詰まりが発生しても、ろ過手段11の塩除去性能が低下することで増加するが、実際には、ろ過手段11に詰まりが発生した場合、それがかなり進行してからでないと導電率補正値に変化が現れない。そのため、ろ過手段11の詰まりに対応する上限値は設定されず、導電率回帰直線の傾きが所定の上限値以上になった場合に、ろ過手段11に劣化の予兆があると判定される。
なお、ろ過手段11の劣化または詰まりには、比較的短期間で発生するものと長期間かけて緩やかに発生するものとがある。すなわち、圧力補正値および導電率補正値にはそれぞれ、比較的短期間で現れる変化と長期間かけて緩やかに現れる変化とがある。このような2種類の変化を検知するために、短期間である第1の期間とそれよりも長期間である第2の期間の2種類の時系列データに対して回帰分析が実施されることが好ましい。ここで、第1の期間の時系列データとは、例えば、現時点を含む直近の5〜90日分の時系列データである。また、第2の期間の時系列データとは、現時点を含む直近の、第1の期間よりも長い期間の時系列データ、あるいは、上述した参照値を取得した時点から現時点までの期間が第1の期間を超えていた場合、その全期間の時系列データである。このような2種類の時系列データに対して回帰分析を実施した場合にも、それぞれの回帰直線の傾きに基づいて、上述したのと同様の基準でろ過手段11の劣化または詰まりの有無を判定することができる。
すなわち、第1の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲から外れるか、第2の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲から外れた場合に、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定される。具体的には、第1の期間または第2の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲の下限値以下になった場合に、ろ過手段11に劣化の予兆があると判定される。また、第1の期間または第2の期間における圧力回帰直線の傾きが所定範囲の上限値以上になった場合に、ろ過手段11に詰まりの予兆があると判定される。これら上限値および下限値は、劣化または詰まりが発生しないぎりぎりの範囲を実験的に検証することで設定することができる。なお、装置構成やろ過手段11に使用する膜の違いによって、第1の期間と第2の期間でそれぞれ所定範囲(上限値および下限値)を変更して設定してもよい。一例として、上限値は+0.0001〜+0.01に設定され、下限値は−0.0001〜−0.01に設定される。一方で、第1の期間における導電率回帰直線の傾きが所定値以上になるか、第2の期間における導電率回帰直線の傾きが所定値以上になった場合に、ろ過手段11に劣化の予兆があると判定される。一例として、所定値は+0.01〜+1.0に設定される。
ここで、本実施形態の予兆判定部40による効果を確認するための実験結果について説明する。
本発明者らは、図1に示す膜ろ過装置を用いて24時間連続運転を行い、第1および第2の期間における圧力回帰直線の傾きに基づいて、それぞれろ過手段に詰まりの予兆があると判定されるまでの期間を測定した。なお、原水として水道水を用い、ろ過手段として、ダウケミカル社製のRO膜(品番:XLE−4040)を用いた。また、時系列データの要素として、式(5)から算出された圧力補正値の日平均値(1日あたりの平均値)を用い、第1の期間の時系列データとしては、現時点を含む直近の30日分の時系列データを用い、第2の期間の時系列データとしては、現時点を含む全期間の時系列データを用いた。したがって、実際には、第1の期間における圧力回帰直線の傾きの算出は、ろ過手段の使用開始日から数えて30日後から行い、第2の期間における圧力回帰直線の傾きの算出は、ろ過手段の使用開始日から数えて31日後から行った。例えば、ろ過手段の使用開始日(1日目)から35日目の場合、第1の期間における圧力回帰直線の傾きの算出は、6〜35日分の30点の時系列データに対して行い、第2の期間における圧力回帰直線の傾きの算出は、1〜35日分の35点の時系列データに対して行った。なお、式(5)〜(7)における各参照値としては、ろ過手段の使用開始日の検出値(算出値)を用いた。
膜ろ過装置の運転は、ろ過手段に詰まりが発生する条件下、具体的には、式(5)から算出された圧力補正値(日平均値)の経時変化が図2に示すような条件下で行った。この条件では、圧力補正値が1.0MPaを超えた時点(109日目)でろ過手段に詰まりが発生したものとした。
図3および図4は、それぞれ第1の期間および第2の期間における圧力回帰直線の傾きの経時変化を示すグラフである。第1の期間および第2の期間のいずれの場合においても、詰まりの予兆判定のための閾値(上限値)を+0.001とすると、第1の期間における圧力回帰直線の傾きでは、図3に示すように78日目に、第2の期間における圧力回帰直線の傾きでは、図4に示すように94日目に、それぞれろ過手段に詰まりの予兆があることを判定できた。すなわち、圧力回帰直線の傾きに着目することで、実際にろ過手段に詰まりが発生するときの圧力(1.0MPa)よりも低い圧力(0.7〜0.8MPa)の段階で、ろ過手段に詰まりの予兆があることを判定できた。また、第1の期間における圧力回帰直線の傾きにおいてより早い時点で詰まりの予兆判定が行われたことは、より短期間での圧力上昇を観測することができたと考えられる。したがって、ろ過手段の詰まりという同じ症状であっても進行速度が異なる場合にも、それらを区別して判定可能になることも確認された。
このように、本実施形態によれば、圧力補正値と導電率補正値の経時変化から得られる回帰直線の傾きを監視することより、初期値との単純な比較により劣化または詰まりの有無を判定する従来の方法に比べて、可能な限り初期の段階でろ過手段11の劣化または詰まりを検知することが可能になる。
予兆判定部40によりろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定された場合、ろ過手段11の交換または洗浄を行うことが好ましい。しかしながら、ろ過手段11の交換または洗浄を行うには膜ろ過装置1の運転を停止する必要があり、それができない場合、ろ過手段11の劣化または詰まりが進行し、膜ろ過装置10が運転不能に陥るなどの重大な問題に発展する可能性がある。そこで、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定されたにもかかわらず、膜ろ過装置1の運転を停止することができない場合には、ろ過手段11の劣化または詰まりの進行を遅らせる延命運転を行うことが好ましい。さらに、ろ過手段11の交換を行うか洗浄を行うかなどの具体的な対策の検討に十分な時間が必要な場合にも、ろ過手段11の延命運転を行うことができる。具体的な延命運転の方法は、以下に示すように、ろ過手段11の劣化または詰まりの原因に応じて適切なものが選択される。なお、このような延命運転は、予兆判定部40による予兆判定後に自動的に実施されてもよい。
ろ過手段11の劣化の主な原因としては、例えば、上述したように、ろ過手段11の上流側に設置された活性炭ろ過器の塩素除去能力が低下したことにより、残留遊離塩素を含む原水がろ過手段11に供給されたことが考えられる。この場合には、回収率を当初の目標値よりも高い値に設定することで、濃縮排水の流量を減少させ、それに応じて還流水ライン5を流れる濃縮水(以下、「濃縮還流水」という)の流量を増加させることができる。あるいは、予め設定された透過水の目標流量よりもユースポイントでの透過水の使用量が少ない場合には、その目標流量をより低い必要最小限の値に変更し、透過水の流量を減少させることもできる。その結果、還流水ライン5との合流部よりも上流側の供給ライン1を流れて活性炭ろ過器に流入する原水の流量を減少させ、活性炭ろ過器への塩素負荷を下げることができる。こうして、活性炭ろ過器からの残留遊離塩素の漏れを最小限に抑え、ろ過手段11の劣化の進行を遅らせて延命を図ることができる。なお、回収率の初期目標値として、シリカまたはカルシウムが析出しない最大のシリカ濃度またはカルシウム濃度となる回収率が設定されている場合、そこからさらに回収率を高くすることは、スケール発生のリスクを高めることにつながる。そのため、活性炭ろ過器からの残留遊離塩素の漏れが懸念される場合、回収率の初期目標値としては、シリカまたはカルシウムが析出しない最大のシリカ濃度またはカルシウム濃度となる回収率に安全率を加味した値を設定しておくことが好ましい。
ろ過手段11の劣化の原因は他にも考えられ、例えば、原水への酸化剤の混入なども考えられる。さらには、ろ過手段11の破損や配管接続部におけるOリングの取り付けミスなどにより、劣化によるものと類似した変化が圧力補正値および導電率補正値に現れることもある。したがって、ろ過手段11に劣化の予兆があると判定された場合、まず、その原因が残留遊離塩素であるか否か、すなわち、ろ過手段11に供給される原水に残留遊離塩素が含まれているか否かが特定(検出)され、その上で、ろ過手段11の適切な延命運転が選択される。残留遊離塩素の検出方法としては、例えば、ジエチル−P−フェニレンジアミン(DPD)試薬を用いた比色法が挙げられ、あるいは、残留塩素計を用いて原水中の残留遊離塩素を直接検出することもできる。なお、残留遊離塩素が検出されなかった場合には、回収率を当初の目標値よりも低い値に設定することで、透過水の水質悪化を抑制することを優先してもよい。
一方、ろ過手段11の詰まりの主な原因としては、上述したように、原水の不純物濃度の変動によるスケーリングが挙げられ、その他にも、原水中の有機物や微粒子などの付着によるファウリングが挙げられる。スケーリングによってろ過手段11に詰まりが発生する場合、そもそもの原因は回収率が高いことであるため、回収率を当初の目標値よりも低い値に設定することで、許容濃縮倍率(式(4)参照)を下げることができ、ろ過手段11の詰まりの進行を遅らせて延命を図ることができる。なお、ここで設定する回収率は、例えば加圧ポンプの容量や原水の流量などの装置設計上の制約によって決まる許容最低回収率よりも高い値であることが好ましい。一方、ファウリングによってろ過手段11に詰まりが発生する場合、フラッシングを実施することで、ろ過手段11の詰まりの進行を遅らせたり、場合によっては詰まりを回復したりすることができる。フラッシングは、フラッシング用の排水ライン(図示せず)から濃縮水を排出することで実施され、これにより、フラッシングに必要な膜面流速が得られることになる。ろ過手段11の詰まりの原因は、原水をサンプリングし、その水質分析を行うことで特定することができるが、その原因が特定されるまでに時間を要する場合がある。この場合には、まず、フラッシングを複数回実施するか、あるいは数日間フラッシングを実施し、それでも詰まりが回復しない場合、詰まりの原因としてはスケーリングの可能性が高いため、回収率変更に基づいた延命運転に移行することが好ましい。
なお、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定された場合、そのことを通知する警報が出力されることが好ましい。これにより、膜ろ過装置1の操作員に対し、ろ過手段11の交換または洗浄を行うかどうかの判断を促したり、ろ過手段11の延命運転を行う場合には、劣化または詰まりの原因を特定する作業のタイミングを知らせたりすることができる。
また、ろ過手段11に劣化または詰まりの予兆があると判定され、例えば、ろ過手段11の交換を行った場合、式(5)〜(7)における各参照値は、新たなろ過手段11に対して取得され、そうして新たに取得した参照値を用いて、圧力補正値および導電率補正値が算出される。したがって、予兆判定部40は、式(5)〜(7)における各参照値を記憶する記憶手段を備えていることが好ましく、記憶手段に記憶された各参照値は、ろ過手段11が交換されるたびにリセットされて更新される。
上述したように、本実施形態では、定流量弁13により濃縮水の流量が一定に維持されるため、排水ライン4および還流水ライン5の一方を流れる濃縮水の流量を規定するだけで、他方を流れる濃縮水の流量も規定することができる。そのため、図示した実施形態では、排水ライン4に排水流量計14と流量制御手段(流量調整弁31)が設けられ、還流水ライン5には、排水ライン4および還流水ライン5を流れる濃縮水の圧力バランスを調整するための手動弁(圧力調整弁)15が設けられているが、その逆であってもよい。すなわち、還流水ライン5に、流量計と流量制御手段としての流量調整弁(比例制御弁)とが設けられ、排水ライン4に、圧力バランス調整のための手動弁が設けられていてもよい。あるいは、排水ライン4および還流水ライン5の両方に、流量計と流量制御手段としての流量調整弁(比例制御弁)とを設けることもできる。また、上述した実施形態では、透過水流量制御部と排水流量制御部とが別個に設けられているが、1つの流量制御部により、透過水の流量調整と濃縮排水の流量調整とが行われるようになっていてもよい。
また、ろ過手段の数は1つに限定されるものではなく、2つ以上のろ過手段が直列に接続されて設けられていてもよい。その場合にも、定流量弁は、2つ以上のろ過手段のうち最も上流側のろ過手段に接続された濃縮水ラインに設けられ、最も下流側のろ過手段で分離された透過水が設定流量(予め設定された目標流量)に調整されることになる。ただし、最も上流側のろ過手段を除いたすべてのろ過手段において、任意の流量調整手段により透過水と濃縮水の流量分配が適切に設定・調整される必要があることは言うまでもない。さらに、最も上流側のろ過手段からの濃縮排水の設定流量の算出には、最も下流側のろ過手段で分離された透過水ではなく、最も上流側のろ過手段で分離された透過水の流量(検出流量)が用いられることに留意されたい。なお、ここでいう「直列に接続される」とは、被処理水が複数のろ過手段で順次処理されることを意味し、隣接する2つのろ過手段において、上流側のろ過手段で分離された透過水が下流側のろ過手段に被処理水として供給されることを意味する。また、各ろ過手段は、複数のRO膜またはNF膜から構成されていてもよい。この場合、複数のRO膜またはNF膜は、一次側(原水および濃縮水の流通側)が直列に接続されて最終的に濃縮水ラインに接続され、二次側(透過水の流通側)が並列に接続されて最終的に透過水ラインに接続されることになる。