JP2020128909A - Ni合金のクリープ寿命評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】Ni合金のクリープ寿命評価方法において、Ni合金のクリープ寿命をより簡易に評価することである。【解決手段】Ni合金のクリープ寿命評価方法は、実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域における結晶粒界を占めるクラックの割合であるクラック率を算出するクラック率算出工程(S10)と、実機のNi合金のクラック率から、実機のNi合金のクリープ寿命を評価するクリープ寿命評価工程(S12)と、を備え、クラック率の算出は、クラック発生領域に所定ピッチで複数の線を引き、各線毎に、各線と交差する結晶粒界の数と、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントし、各線についてカウントした結晶粒界の数の合計をPとし、各線についてカウントした結晶粒界上のクラックの数の合計をRとしたとき、クラック率をR/Pで算出する。【選択図】図1

Description

本開示は、Ni合金のクリープ寿命評価方法に関する。
近年、火力発電プラントや化学プラントの配管等には、高強度で耐熱性を有するNi合金が用いられている。これらのプラントの配管等では、高温高圧の蒸気に長時間熱曝露されるため、Ni合金のクリープ特性を把握することが求められている。
このことから、上記のような使用環境で熱曝露されるNi合金のクリープ寿命を評価することが行われている(特許文献1参照)。
特開2014−6048号公報
ところで、従来のNi合金のクリープ寿命評価は、プラント等の実機のNi合金に発生するクラックのクラック面積に基づいて評価を行っている。しかし、クラック面積に基づいてクリープ寿命を評価する場合には、クラックの形状が複雑形状であることから、クラック面積を求めることが難しくなる。このためNi合金のクリープ寿命評価をクラック面積に基づいて行う場合には、多大な時間を要する可能性がある。
そこで、本開示の目的は、Ni合金のクリープ寿命をより簡易に評価可能なNi合金のクリープ寿命評価方法を提供することである。
本開示に係るNi合金のクリープ寿命評価方法は、実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域における結晶粒界を占めるクラックの割合であるクラック率を算出するクラック率算出工程と、前記実機のNi合金のクラック率から、前記実機のNi合金のクリープ寿命を評価するクリープ寿命評価工程と、を備え、前記クラック率の算出は、前記クラック発生領域に所定ピッチで複数の線を引き、各線毎に、各線と交差する結晶粒界の数と、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントし、各線についてカウントした結晶粒界の数の合計をPとし、各線についてカウントした結晶粒界上のクラックの数の合計をRとしたとき、前記クラック率をR/Pで算出する。
本開示に係るNi合金のクリープ寿命評価方法において、前記クリープ寿命評価工程は、前記実機のNi合金のクラック率と、予め求めておいた前記実機のNi合金と同じNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を比較して、前記実機のNi合金のクリープ寿命を評価してもよい。
本開示に係るNi合金のクリープ寿命評価方法において、前記実機のNi合金は、γ’析出強化型のNi合金からなり、前記実機のNi合金のγ’相の体積率であるγ’体積率を算出するγ’体積率算出工程を有し、前記クリープ寿命評価工程は、前記実機のNi合金のクラック率と、前記実機のNi合金のγ’体積率から求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を比較して、前記実機のNi合金のクリープ寿命を評価してもよい。
本開示に係るNi合金のクリープ寿命評価方法は、前記クリープ寿命評価工程において、前記実機のNi合金のγ’体積率から求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係は、予めγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率を算出すると共に、γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求め、γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングする2次曲線を決定し、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線とを関連付けし、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関係と、前記実機のNi合金のγ’体積率とを比較して、前記実機のNi合金のγ’体積率に対応する2次曲線を決定して求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係としてもよい。
本開示に係るNi合金のクリープ寿命評価方法は、前記クラック率算出工程において、前記クラック発生領域は、前記金属組織観察した金属組織の中で最もクラックの発生が多い領域としてもよい。
本開示に係るNi合金のクリープ寿命評価方法は、前記クラック率算出工程において、前記クラック率は、双晶を除いて算出してもよい。
上記構成によれば、Ni合金のクリープ寿命をより簡易に評価することができる。
本開示の第一実施形態において、Ni合金のクリープ寿命評価方法の構成を示すフローチャートである。 本開示の第一実施形態において、クラック発生領域のクラック率の算出方法を説明するための図である。 本開示の第一実施形態において、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を示す図である。 本開示の第一実施形態において、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する方法を説明するための図である。 本開示の第二実施形態において、Ni合金のクリープ寿命評価方法の構成を示すフローチャートである。 本開示の第二実施形態において、γ’析出強化型のNi合金におけるγ’体積率と使用温度との関係を示す図である。 本開示の第二実施形態において、γ’析出強化型のNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示す図である。 本開示の第二実施形態において、2次曲線のフィッティング方法を説明するための図である。 本開示の第二実施形態において、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、2次曲線とを関連付ける方法を示す図である。 本開示の第二実施形態において、実機のNi合金のγ’体積率からクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を作成する方法を説明するための図である。 本開示の第二実施形態において、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する方法を説明するための図である。 本開示の第一実施例において、クリープ試験片の形状を示す図である。 本開示の第一実施例において、HR6Wの中断試験片のクラック発生領域を示す写真である。 本開示の第一実施例において、HR6Wの中断試験片(クリープ寿命消費率0.71)のクラック率の算出方法を説明するための写真である。 本開示の第一実施例において、HR6Wにおけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すグラフである。 本開示の第一実施例において、HR6Wにおける伸びとクリープ寿命消費率との関係を示すグラフである。 本開示の第一実施例において、Alloy263及びAlloy617のクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すグラフである。 本開示の第一実施例において、HR6Wのマスター曲線を示すグラフである。 本開示の第一実施例において、HR6Wの金属組織観察結果を示す写真である。 本開示の第一実施例において、HR6Wの金属組織観察結果を示す写真である。 本開示の第一実施例において、HR6Wのクリープ寿命消費率の求め方を示す図である。 本開示の第二実施例において、各Ni合金における使用温度に対するγ’体積率の関係を示すグラフである。 本開示の第二実施例において、Alloy263及びAlloy617のクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングさせた2次曲線を示すグラフである。 本開示の第二実施例において、Alloy263及びAlloy617のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線Y=aX+bXの係数a,bとの関連付けを行ったグラフである。 本開示の第二実施例において、Alloy263のγ’体積率に対応する2次曲線の求め方を説明するための図である。 本開示の第二実施例において、Alloy263のγ’体積率から求めたマスター曲線を示すグラフである。
[第一実施形態]
以下に本開示の第一実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、Ni合金のクリープ寿命評価方法の構成を示すフローチャートである。Ni合金のクリープ寿命評価方法は、クラック率算出工程(S10)と、クリープ寿命評価工程(S12)と、を備えている。
クラック率算出工程(S10)は、実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域の結晶粒界を占めるクラックの割合であるクラック率を算出する工程である。
Ni合金は、火力発電プラント、化学プラント等の実機における配管や伝熱管等に使用されている。このような配管や伝熱管等は、高温高圧の蒸気等の熱媒体により高温で負荷応力が作用する。例えば、火力発電プラントのボイラ配管やボイラ伝熱管には、600℃から800℃で、25MPaから100MPaの負荷応力が作用する。
実機に適用されるNi合金は、特に限定されず、例えば、HR6W、Alloy263、Alloy617等を適用可能である。HR6Wは、FeWからなるラーベス相やM23炭化物が結晶粒内や結晶粒界に析出して強化されたNi合金である。Alloy263及びAlloy617は、Ni(Ti、Al)からなるγ’相で析出強化されたγ’析出強化型のNi合金である。
まず、実機のNi合金からレプリカを採取する。レプリカの採取方法は、一般的なレプリカ法等の採取方法を用いることができる。例えば、Ni合金の表面を腐食液等でエッチィングし、Ni合金の金属組織をフィルムに転写してレプリカを作製すればよい。
採取したフィルムを用いてNi合金の金属組織観察を行う。金属組織観察は、光学顕微鏡や金属顕微鏡等で行うことが可能である。まず、Ni合金の金属組織のなかで、クラックが発生しているクラック発生領域を選択する。クラック発生領域は、クリープ寿命評価の精度を高めるために、最も多くクラックが発生している領域を選択するとよい。クラック発生領域の選択は、例えば、目視等で定性的に行ってもよいし、画像処理等して選択してもよい。
クラック発生領域のサイズは、誤差を低減するために、結晶粒を100個以上含むようにするとよい。例えば、HR6Wの場合には、クラック発生領域のサイズは3mm×3mmとするとよい。Alloy263の場合には、クラック発生領域のサイズは1mm×1mmとするとよい。Alloy617の場合には、クラック発生領域のサイズは2mm×2mmとするとよい。この理由は、HR6Wの場合には結晶粒径が大きく、Alloy263の場合には、結晶粒径が小さいからである。そして、クラック発生領域の組み写真を撮影する。
次に、クラック発生領域の結晶粒界を占めるクラックの割合であるクラック率を算出する。クラック率の算出は、クラック発生領域に所定ピッチで複数の線を引き、各線毎に、各線と交差する結晶粒界の数と、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントする。そして、各線についてカウントした結晶粒界の数の合計をPとし、各線についてカウントした結晶粒界上のクラックの数の合計をRとしたとき、クラック率をR/Pで算出する。
クラック率の算出方法についてより詳細に説明する。図2は、クラック発生領域のクラック率の算出方法を説明するための図である。なお、図2の中の黒色部分は、クラックを示している。まず、クラック発生領域に所定ピッチpで、例えば、線a〜jの平行線を引く(なお、線c〜iは省略している)。ピッチpは、クラック発生領域に含まれる結晶粒の中で最も小さい結晶粒の結晶粒径のサイズより小さいピッチとするとよい。これによりクラック発生領域の各結晶粒は、少なくとも1つの線と交わることになるので、ばらつきを抑制することができる。ピッチpは、Ni合金の結晶粒径に依存するが、例えば、150μm〜450μmとするとよい。
各線a〜jについて、各線a〜jと交差する結晶粒界の数と、各線a〜jと交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントする。例えば、線aの場合には、線aと交差する結晶粒界の数は3つであり、線aと交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数は2つである。線bの場合には、線bと交差する結晶粒界の数は4つであり、線bと交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数は2つである。線jの場合には、線jと交差する結晶粒界の数は4つであり、線jと交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数は2つである。そして、線a〜jについてカウントした結晶粒界の数の合計をPとし、線a〜jについてカウントした結晶粒界上のクラックの数の合計をRとしたとき、クラック率をR/Pで算出する。
実機のNi合金は、使用時間が長くなるほどクリープ変形が進行し、Ni合金中に発生するクラックが多くなる。このNi合金中に発生するクラックをクラック面積で評価する場合には、クラックの形状が複雑形状であるので、クラック面積を求めるためには多大な時間を要する。更に、クラックの形状が複雑形状であるためクラック面積の正確な算出が困難となり、クラック面積を精度良く求めることが難しくなる。また、Ni合金中に発生するクラックをクラック個数密度で評価する場合には、クリープ変形が進行するとマイクロクラックが連結して大きなクラックが形成されるので、クラックの大小に関わらず1個とカウントされる。このため、クラック個数密度からクリープ寿命を精度良く評価することができない。
これに対して上記のクラック率の算出方法によれば、所定ピッチで引いた線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの有無を確認すればよいので、クラック数を精度良くカウントできると共に、確認作業が容易になるのでクリープ寿命を簡易に評価することが可能となる。更に、クラックが小さい場合には1つの線と交差し、クラックが大きい場合には複数の線と交差するので、クラックの大小関係についても考慮することができる。このようにクラック率によればクリープ寿命を精度良く評価することができる。
また、上記のクラック率の算出方法によれば、結晶粒界上のクラックのみを評価対象としており、双晶については評価対象としていない。この理由は、クリープ変形が進行しても、双晶には、クラックが殆ど発生しないためである。このように双晶をクラック率の算出の評価対象から除くことにより、クリープ寿命をより精度良く評価することができる。更に、上記のクラック率の算出方法によれば、結晶粒内のクラックの有無については評価対象としていない。この理由は、結晶粒内には、殆どクラックが発生しないからである。
クリープ寿命評価工程(S12)は、実機のNi合金のクラック率と、予め求めておいた実機のNi合金と同じNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を比較して、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する工程である。
まず、実機のNi合金と同じNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を予め実験等で求めておく。例えば、実機のNi合金がHR6Wであれば、HR6Wにおけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を予めクリープ試験等により求めておく。クリープ寿命消費率は、クリープ破断時間に対する使用時間の比率である。例えば、クリープ破断時間が1000時間で、使用時間が500時間である場合には、クリープ寿命消費率は0.5である(500時間/1000時間)。
クラック率とクリープ寿命消費率との関係については、予め熱曝露される実機のNi合金と同じNi合金についてクリープ試験を行ってマスター曲線を作成しておくとよい。実機のNi合金と同じNi合金とは、実機のNi合金と同じ合金組成で構成されており、実機のNi合金と同じ強化機構(固溶強化、析出強化等)からなるNi合金である。
クリープ試験は、使用環境と同じ試験温度と負荷応力とにより試験することが好ましいが、使用環境と異なる試験温度や負荷応力で試験してもよい。例えば、火力発電プラントのボイラ配管やボイラ伝熱管に用いられるNi合金の場合には、試験温度600℃から800℃、負荷応力25MPaから100MPaでクリープ試験を行うとよい。
まず、所定温度及び所定負荷応力でクリープ試験を行い、クリープ破断に至るまでのクリープ破断時間trを測定する。次に、同じ温度及び同じ負荷応力でクリープ試験を行い、例えば、tr/5(クリープ寿命消費率0.2)、2tr/5(クリープ寿命消費率0.4)、3tr/5(クリープ寿命消費率0.6)、4tr/5(クリープ寿命消費率0.8)でクリープ試験を中断する。クリープ試験を中断した中断試験片の評定部について、クラック率算出工程(S10)で説明したクラック率の算出方法と同様の方法でクラック率を算出する。このようにしてクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を作成すればよい。
図3は、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を示す図である。図3では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、マスタ―曲線を実線で示している。クラック率とクリープ寿命消費率とは、正の相関性を有している。クリープ寿命消費率が大きいほど、クラック率が大きくなり、クリープ寿命消費率が小さいほど、クラック率が小さくなる。なお、マスター曲線を作成するときには回帰分析して、回帰曲線や回帰式を求めるようにしてもよい。
次に、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する方法を説明する。図4は、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する方法を説明するための図である。図4では、図3のマスター曲線を用いている。クラック率算出工程(S10)で算出された実機のNi合金のクラック率がAの場合には、マスター曲線からクリープ寿命消費率がBとなり、クリープ余寿命が1−Bと評価される。例えば、クリープ寿命消費率が0.8の場合には、クリープ余寿命が0.2と評価される。クリープ破断までの残存期間については、次のようにして算出可能である。クリープ寿命消費率が0.8に至るまでの使用時間が、例えば1000時間である場合には、クリープ破断までの残存時間が250時間(1000時間×0.2/0.8)と算出される。なお、クラック率算出工程(S10)のクラック率の算出、クリープ寿命評価工程(S12)におけるクリープ寿命評価には、一般的なコンピュータシステムを用いることが可能である。
実機のNi合金については、同じNi合金であれば同じマスター曲線を用いることが可能である。例えば、実機におけるNi合金製部品の形状が異なる場合(パイプやチューブ等)、Ni合金製部品の使用温度が異なる場合、Ni合金製部品に負荷される負荷応力が異なる場合でも、Ni合金製部品が同じNi合金で形成されている場合には、同じマスター曲線を用いることができる。
なお、実機のNi合金がγ’析出強化型のNi合金の場合には、使用温度が異なる場合において、同じマスター曲線を用いてもよいし、使用温度毎に異なるマスター曲線を用いてもよい。析出強化型のNi合金の場合には、使用温度が異なるとγ’相の体積率であるγ’体積率が多少変わるので、使用温度毎に使用温度に対応したマスター曲線を用いることにより、同じマスター曲線を用いるよりもクリープ寿命評価を更に精度良く行うことができる。実機のNi合金の使用温度は、熱電対や放射温度計等で測定することが可能である。勿論、同じγ’析出強化型のNi合金であれば使用温度が異なる場合でもクリープ特性の違いは僅かであるので、使用温度が異なる場合でも同じマスター曲線を用いてクリープ寿命を簡易に評価可能である。
以上、上記構成によれば、実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域のクラック率に基づいてクリープ寿命を評価するので、Ni合金のクリープ寿命をより簡易に評価することができる。また、上記構成によれば、クラック発生領域のクラック率に基づいてクリープ寿命を評価するので、クラック面積やクラック個数密度に基づいてクリープ寿命を評価するよりも、Ni合金のクリープ寿命を精度良く評価することができる。更に、上記構成によれば、実機のNi合金からレプリカを採取してクリープ寿命を評価するので、非破壊でNi合金のクリープ寿命の評価が可能である。
[第二実施形態]
以下に本開示の第二実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図5は、Ni合金のクリープ寿命評価方法の構成を示すフローチャートである。Ni合金のクリープ寿命評価方法は、クラック率算出工程(S20)と、γ’体積率算出工程(S22)と、クリープ寿命評価工程(S24)と、を備えている。
クラック率算出工程(S20)は、実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域の結晶粒界を占めるクラックの割合であるクラック率を算出する工程である。実機のNi合金には、γ’析出強化型のNi合金が用いられる。γ’析出強化型のNi合金は、γ’析出強化型であれば特に限定されず、Alloy263、Alloy617等を適用可能である。クラック率の算出方法は、第一実施形態のクラック率算出工程(S10)におけるクラック率の算出方法と同様であるので詳細な説明を省略する。
γ’体積率算出工程(S22)は、実機のNi合金のγ’相の体積率であるγ’体積率を算出する工程である。実機のNi合金のγ’体積率は、合金組成と使用温度とから熱力学計算等で算出することができる。実機のNi合金の使用温度は、熱電対や放射温度計等で測定することが可能である。
γ’析出強化型のNi合金は、γ’体積率が大きくなるほどクリープ変形し難くなるので、クラックの発生が抑制されてクリープ寿命が長くなる。γ’析出強化型のNi合金は、γ’体積率が小さくなるほどクリープ変形し易くなるので、クラックが発生し易くなりクリープ寿命が短くなる。また、異なるγ’析出強化型のNi合金であっても、γ’体積率が同じであれば、同様のクリープ特性を示す傾向がある。このようにγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率は、γ’析出強化型のNi合金のクリープ寿命と関係している。したがって、後述するように予めγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を関連付けておくことにより、実機のNi合金に用いられるγ’析出強化型のNi合金の種類に関わらず、実機のNi合金のγ’体積率からクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求めることができる。これにより実機のNi合金ごとにクラック率とクリープ寿命消費率との関係を実験等で求める必要がない。
図6は、γ’析出強化型のNi合金におけるγ’体積率と使用温度との関係を示す図である。γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率は、合金組成と使用温度とに依存しており、合金組成と使用温度とから熱力学計算等で算出することができる。γ’析出強化型のNi合金は、使用温度が高くなるとγ’体積率が小さくなり、使用温度が低くなるとγ’体積率が大きくなる傾向がある。この理由は、γ’析出強化型のNi合金の使用温度が高くなると、γ’相が母相中に固溶し易くなるからである。
クリープ寿命評価工程(S24)は、実機のNi合金のクラック率と、実機のNi合金のγ’体積率から求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を比較して、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する工程である。
まず、実機のNi合金のγ’体積率からクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求める方法について説明する。予めγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率を算出すると共に、γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求める。γ’析出強化型のNi合金は、実機のNi合金と同じγ’析出強化型のNi合金であってもよいし、実機のNi合金と異なるγ’析出強化型のNi合金であってもよい。γ’析出強化型のNi合金のクラック率の算出は、第一実施形態のクラック率算出工程(S10)におけるクラック率の算出と同様に行えばよい。γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係については、第一実施形態のクリープ寿命評価工程(S12)におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係と同様にしてクリープ試験により求めることができる。γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率は、合金組成とクリープ試験温度とから熱力学計算等で算出することが可能である。
図7は、γ’析出強化型のNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示す図である。図7では、例として、2つの異なるγ’析出強化型のNi合金A、Bにおけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示している。γ’析出強化型のNi合金Aを白四角形で示し、γ’析出強化型のNi合金Bを白三角形で示している。
次にγ’析出強化型のNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングする2次曲線を決定する。図8は、2次曲線のフィッティング方法を説明するための図である。図7に示すγ’析出強化型のNi合金A、Bにおけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係に2次曲線Y=aX+bXをフィッティングさせる。そして、フィッティングさせた2次曲線Y=aX+bXにおける係数a、bを計算等で求める。例えば、γ’析出強化型のNi合金AではY=a+bX、γ’析出強化型のNi合金BではY=a+bXと求めることができる。このようにしてγ’析出強化型のNi合金A、Bのクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングする2次曲線が決定される。
次に、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けを行う。より詳細には、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、2次曲線Y=aX+bXにおける係数a、bとの関連付けを行うことにより、フィッティングさせた2次曲線との関連付けを行う。図9は、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、2次曲線とを関連付ける方法を示す図である。例えば、γ’析出強化型のNi合金Aのγ’体積率がcであるとき、γ’体積率cを2次曲線の係数a及びbに関連付ける。γ’析出強化型のNi合金Bのγ’体積率がcであるとき、γ’体積率cを2次曲線の係数a及びbに関連付ける。このようにしてγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、2次曲線Y=aX+bXにおける係数a、bとを線形に直線で関連付けることができる。これにより、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けを行うことが可能となる。
なお、図9に示すγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けを行う際に、上記では例として2つの異なる合金組成のγ’析出強化型のNi合金A、Bを用いて説明したが、勿論、3つや5つ等の異なる合金組成のγ’析出強化型のNi合金を用いてγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けを行ってもよい。より多くの異なる合金組成のγ’析出強化型のNi合金を用いることにより、γ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けの精度を高めることができる。また、同じγ’析出強化型のNi合金を異なる試験温度でクリープ試験して、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、2次曲線との関連付けを行ってもよい。図6に示すように、同じγ’析出強化型のNi合金であっても使用温度が異なればγ’体積率が異なるため、γ’体積率と、2次曲線との関連付けを行うことが可能である。
次に、γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関係と、実機のNi合金のγ’体積率とを比較して、実機のNi合金のγ’体積率に対応する2次曲線を決定してクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を作成する。図10は、実機のNi合金のγ’体積率からクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を作成する方法を説明するための図である。マスター曲線の作成には、図9のグラフが用いられる。例えば、実機のNi合金のγ’体積率がcであれば、2次曲線Y=aX+bXの係数aがa、係数bがbとなるので2次曲線Y=a+bXが決定される。
そして実機のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係を表す二次曲線が決定されることにより、実機のNi合金のマスター曲線を求めることができる。図11は、実機のNi合金のクリープ寿命を評価する方法を説明するための図である。図11では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を実線で示している。マスター曲線は、2次曲線Y=a+bXから構成されており、Xがクリープ寿命消費率に対応しており、Yがクラック率に対応している。クラック率算出工程(S20)で算出された実機のNi合金のクラック率がTの場合には、クリープ寿命消費率がSとなり、クリープ余寿命が1−Sと評価される。
このNi合金のクリープ寿命評価方法では、実機のNi合金の合金組成と、使用温度とがわかれば、実機のNi合金のγ’体積率を熱力学計算等で算出し、図10のグラフからマスター曲線となる2次曲線を決定することができる。これにより実機のNi合金ごとに予め実験等によりクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求めておく必要がないので、簡易にクリープ寿命を評価することができる。例えば、図10のグラフは、γ’析出強化型のNi合金A,Bから求めたものであるが、実機のNi合金が、γ’析出強化型のNi合金A,Bと異なるγ’析出強化型のNi合金である場合でも、図10のグラフを用いてマスター曲線を作成することができる。
以上、上記構成によれば、実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域のクラック率に基づいてクリープ寿命を評価するので、Ni合金のクリープ寿命を簡易に評価することができる。また、上記構成によれば、実機のNi合金ごとに予め実験によりクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求めておく必要がないので、Ni合金のクリープ寿命評価をより簡易に行うことができる。
上記構成によれば、クラック発生領域のクラック率に基づいてクリープ寿命を評価するので、クラック面積やクラック個数密度に基づいてクリープ寿命を評価するよりも、Ni合金のクリープ寿命を精度良く評価することができる。更に、上記構成によれば、実機のNi合金からレプリカを採取してクリープ寿命を評価するので、非破壊でNi合金のクリープ寿命の評価が可能である。
[第一実施例]
Ni合金のクリープ寿命について評価を行った。
(マスター曲線の作成)
Ni合金についてクリープ試験を行い、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を求めてマスター曲線を作成した。Ni合金には、HR6W、Alloy263及びAlloy617を使用した。試験片は、全長が70mm、評定部がφ6mm、ゲージ長30mmの小型クリープ試験片とした。図12は、クリープ試験片の形状を示す図である。なお、HR6Wの合金組成は、0.1質量%以下のCと、1.0質量%以下のSiと、1.5質量%以下のMnと、0.03質量%以下のPと、0.015質量%以下のSと、21.5質量%以上24.5質量%以下のCrと、6.0質量%以上8.0質量%以下のWと、0.05質量%以上0.20質量%以下のTiと、0.10質量%以上0.35質量%以下のNbと、0.0005質量%以上0.006質量%以下のBと、20.0質量%以上27.0質量%以下のFeと、を含み、残部がNiと不可避的不純物とから構成されている。Alloy263の合金組成は、0.04質量%以上0.08質量%以下のCと、0.40質量%以下のSiと、0.60質量%以下のMnと、0.007質量%以下のSと、19.0質量%以上21.0質量%以下のCrと、5.6質量%以上6.1質量%以下のMoと、19.0質量%以上21.0質量%以下のCoと、0.7質量%以下のFeと、0.60質量%以下のAlと、1.9質量%以上2.4質量%以下のTiと、0.20質量%以下のCuと、0.005質量%以下のBと、0.0005質量%以下のAgと、0.0020質量%以下のPbと、0.0001質量%以下のBiと、を含み、Al+Tiが2.4質量%以上2.8質量%以下であり、残部がNiと不可避的不純物とから構成されている。Alloy617の合金組成は、0.05質量%以上0.15質量%以下のCと、1.0質量%以下のMnと、3.0質量%以下のFeと、0.015質量%以下のSと、0.10質量%以下のSiと、0.5質量%以下のCuと、44.5質量%以上のNiと、20.0質量%以上24.0質量%以下のCrと、0.8質量%以上1.5質量%以下のAlと、0.6質量%以下のTiと、を含み、残部が不可避的不純物から構成されている。
HR6Wのクリープ試験方法について説明する。試験温度800℃、負荷応力70MPaでクリープ試験を行い、クリープ破断に至るまでのクリープ破断時間trを測定した。次に、同じ試験条件でクリープ試験を行い、クリープ時間tとしたときクリープ寿命消費率t/tr=0.35、0.45.0.65、0.71、0.81.1.00でクリープ試験を中断して中断試験片を作製した。
Alloy263のクリープ試験方法について説明する。試験温度750℃、負荷応力70MPaでクリープ試験を行い、クリープ破断に至るまでのクリープ破断時間trを測定した。次に、同じ試験条件でクリープ試験を行い、クリープ時間tとしたときクリープ寿命消費率t/tr=0.30、0.39、0.60、0.80、0.92、1.00でクリープ試験を中断して中断試験片を作製した。
Alloy617のクリープ試験方法について説明する。試験温度725℃、負荷応力70MPaでクリープ試験を行い、クリープ破断に至るまでのクリープ破断時間trを測定した。次に、同じ試験条件でクリープ試験を行い、クリープ時間tとしたときクリープ寿命消費率t/tr=0.33、0.55、0.78、1.00でクリープ試験を中断して中断試験片を作製した。また、試験温度750℃、負荷応力70MPaでクリープ試験を行い、クリープ破断に至るまでのクリープ破断時間trを測定した。次に、同じ試験条件でクリープ試験を行い、クリープ時間tとしたときクリープ寿命消費率t/tr=0.31、0.41、0.53、0.64、0.88、1.00でクリープ試験を中断して中断試験片を作製した。
中断試験片の評定部の外表面からレプリカを採取して光学顕微鏡により金属組織観察した。レプリカは、中断試験片の評定部を腐食液でエッチィングした後、フィルムに金属組織を転写して作製した。金属組織の中で最もクラックの発生が多いクラック発生領域を選択し、組み写真を撮影した。クラック発生領域の大きさは、結晶粒が100個以上含まれるようにした。HR6Wのクラック発生領域のサイズは、3mm×3mmとした。Alloy263のクラック発生領域のサイズは、1mm×1mmとした。Alloy617のクラック発生領域のサイズは、2mm×2mmとした。
図13は、HR6Wの中断試験片のクラック発生領域を示す写真であり、図13(a)はクリープ寿命消費率0.45の写真であり、図13(b)はクリープ寿命消費率0.65の写真であり、図13(c)はクリープ寿命消費率0.71の写真であり、図13(d)はクリープ寿命消費率0.80の写真であり、図13(e)はクリープ寿命消費率1.00の写真である。図13の写真から明らかなように、クリープ時間の増加に伴ってクラックの割合は増加していた。なお、写真中の黒い箇所は、クラックを示している。また、Alloy263及びAlloy617についてもHR6Wと同様の傾向が得られた。
次に、クラック発生領域のクラック率を算出した。クラック発生領域について所定ピッチで線を引き、各線と交差する結晶粒界の数と、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントした。代表としてHR6Wのクリープ寿命消費率0.71の中断試験片のクラック率算出方法についてより詳細に説明する。図14は、HR6Wの中断試験片(クリープ寿命消費率0.71)のクラック率の算出方法を説明するための写真である。
まず、クラック発生領域に、300μmピッチで線a〜jの平行線を引く。そして、線a〜jについて、各線と交差する結晶粒界の数と、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントした。例えば、線aでは、線aと交差する結晶粒界の数が18であり、線aと交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数が4であるので、写真中に4/18と表記した。また、線jでは、線jと交差する結晶粒界の数が21であり、線jと交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数が7であるので、写真中に7/21と表記した。そして、線a〜jにおける各線と交差する結晶粒界の数の合計Pと、線a〜jにおける各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数の合計Rとを算出し、クラック率をR/Pで算出した。HR6Wの中断試験片(クリープ寿命消費率0.71)では、線a〜jにおける各線と交差する結晶粒界の数の合計Pが189であり、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数の合計Rが70であるので、クラック率を0.37(70/189)とした。なお、Alloy263ではピッチを100μmとし、Alloy617ではピッチを200μmとした以外は、HR6Wと同様にクラック率を算出した。
次に、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を求めた。図15は、HR6Wにおけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すグラフである。図15では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、各中断試験片のクラック率を白丸で表している。このように、クラック率とクリープ寿命消費率とは、正の相関性があることがわかった。
また、図16は、HR6Wにおける伸びとクリープ寿命消費率との関係を示すグラフである。図16では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸に伸びを取り、各中断試験片の伸びを白丸で表している。図15と図16とを対比すると、クラック率の変化は、伸びの変化と略同じ傾向を示すことがわかった。このことからもクラック率は、クリープ損傷の傾向を良く捉えていると考えられる。
図17は、Alloy263及びAlloy617のクラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すグラフである。図17では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、Alloy263(試験温度750℃)を白四角形、Alloy617(試験温度725℃)を白丸、Alloy617(試験温度750℃)を白三角形で表している。このようにAlloy263及びAlloy617についても、クラック率とクリープ寿命消費率とは、正の相関性があることがわかった。また、Alloy617(試験温度725℃)と、Alloy617(試験温度750℃)とを比較すると、同じγ’析出強化型のNi合金であれば、使用温度が異なる場合でも、概ね同様な傾向が得られることがわかった。
図18は、HR6Wのマスター曲線を示すグラフである。図18では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、HR6Wのマスター曲線を実線で示している。HR6Wのマスター曲線は、図15のグラフから各中断試験片のデータにフィッティングするように作成した。なお、Alloy263及びAlloy617についても、HR6Wと同様にして図17のグラフからマスター曲線を作成することができる。
次に、上記のクリープ試験で使用した小型クリープ試験片よりもサイズが大きい大型クリープ試験片を用いてクリープ試験を行った。大型クリープ試験片の材質は、HR6Wとした。試験温度は700℃とし、負荷応力は100MPaとした。クリープ破断時間trを測定した後に、クリープ寿命消費率0.84でクリープ試験を中断して中断試験片とした。そして中断試験片について、上記と同様にしてレプリカを作製してクラック率を算出した。
図18には、大型クリープ試験片のデータが黒三角形で記載されている。このように大型クリープ試験片についても、小型クリープ試験片の傾向と略一致することがわかった。この結果から、Ni合金の材質が同じであれば、部品形状、使用温度、負荷応力が異なる場合でも、同じマスター曲線を使用可能であることがわかった。
次に、クリープ変形時のクラックの形態について評価した。図19は、HR6Wの金属組織観察結果を示す写真であり、図19(a)は、クリープ寿命消費率0.65の写真であり、図19(b)は、クリープ寿命消費率1.00の写真である。クラックは、クリープ寿命消費率の増加に伴って進展や連結していた。また、クリープ変形による伸びと共に、クラックが開口している様子が観察された。更に、クラックの形状は、複雑形状を示していた。この結果からクリープ寿命を、クリープ面積率やクリープ個数密度に基づいて評価することは難しいことがわかった。
図20は、HR6Wの金属組織観察結果を示す写真であり、図20(a)は、クリープ試験前の写真であり、図20(b)は、クリープ寿命消費率1.00の写真である。図20(b)に示すように、クラックは、結晶粒界で発生しており、結晶粒内では認められなかった。また、双晶が多数認められたが、双晶でのクラックの発生は認められなかった。このことからクラック率を算出する際に、双晶を除くことにより、ばらつきが抑制されて、クリープ寿命をより精度良く評価できることがわかった。
(クリープ寿命評価)
次に、Ni合金のクリープ寿命評価方法について説明する。例えば、火力発電プラントにおけるHR6W製の配管や伝熱管等からHR6Wのレプリカを採取する。採取したレプリカを光学顕微鏡で金属組織観察し、クラック発生領域を選択する。クラック発生領域は、最もクラックが発生している領域を選択するとよい。クラック発生領域のクラック率を算出し、HR6Wのクリープ寿命消費率を求める。
図21は、HR6Wのクリープ寿命消費率の求め方を示す図である。図21のグラフでは、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を示すマスター曲線を実線で表している。なお、図21のマスター曲線は、図18のグラフに実線で示されるHR6Wのマスター曲線を採用している。例えば、クラック率が0.4の場合には、マスター曲線からクリープ寿命消費率が0.8と求められる。したがって、クリープ余寿命については0.2と算出される。
また、クリープ破断までの残存期間については、次のようにして算出可能である。クリープ寿命消費率が0.8に至るまでの使用時間が、例えば1000時間である場合には、クリープ破断までの残存期間が250時間(1000時間×0.2/0.8)と算出される。このようにしてNi合金のクリープ寿命を評価することができる。
[第二実施例]
Ni合金のクリープ寿命について評価を行った。
(マスター曲線の作成)
Ni合金には、γ’析出強化型のNi合金であるAlloy263、Alloy617を使用した。まず、各Ni合金のγ’体積率を、合金組成と使用温度とから熱力学計算で算出した。図22は、各Ni合金における使用温度に対するγ’体積率の関係を示すグラフである。図22のグラフでは、横軸に使用温度を取り、縦軸にγ’体積率を取り、使用温度に対する平衡状態でのγ’体積率を示している。Alloy263のγ’体積率は、破線で示しており、Alloy617のγ’体積率は、実線で示している。Alloy263及びAlloy617は、高温になるほどγ’体積率が低下した。
次に、Alloy263及びAlloy617について、クラック率とクリープ寿命消費率との関係を求めた。Alloy263及びAlloy617におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係については、第一実施例における図17のグラフを使用した。
次に、Alloy263及びAlloy617のクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングする2次曲線を決定した。図23は、Alloy263及びAlloy617のクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングさせた2次曲線を示すグラフである。図23では、横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、Alloy263及びAlloy617のクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングさせた2次曲線を実線で示している。
Alloy263(試験温度750℃)の2次曲線は、クリープ寿命消費率をX、クラック率をYとしたとき、Y=0.60X−0.20Xであった。Alloy617(試験温度725℃)の2次曲線は、Y=1.20X−0.15Xであった。Alloy617(試験温度750℃)の2次曲線は、Y=1.30X−0.10Xであった。
次に、Alloy263及びAlloy617のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けを行った。より詳細には、Alloy263及びAlloy617のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線Y=aX+bXの係数a,bとの関連付けを行った。Alloy263(試験温度750℃)では、γ’体積率が12.00%のとき、係数aが0.60、係数bが−0.20とした。Alloy617(試験温度725℃)では、γ’体積率が4.00%のとき、係数aが1.20、係数bが−0.15とした。Alloy617(試験温度750℃)では、γ’体積率が3.00%のとき、係数aが1.30、係数bが−0.10とした。なお、Alloy263及びAlloy617のγ’体積率は、図22のグラフから求めた。
図24は、Alloy263及びAlloy617のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線Y=aX+bXの係数a,bとの関連付けを行ったグラフである。図24のグラフでは、横軸にγ’体積率を取り、縦軸に係数a,bを取り、係数aを実線で表し、係数bを破線で表している。Alloy263及びAlloy617のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線Y=aX+bXの係数a,bとは、線形に直線で関連付けを行った。これによりγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関連付けが可能となった。
(クリープ寿命評価)
次に、Ni合金のクリープ寿命評価方法について説明する。例えば、火力発電プラントにおけるAlloy263製の配管や伝熱管等からAlloy263のレプリカを採取する。採取したレプリカを光学顕微鏡等で金属組織観察し、クラック発生領域を選択してクラック率を求める。
Alloy263の合金組成と、使用温度とから熱力学計算により、Alloy263のγ’体積率を算出する。次に、Alloy263のγ’体積率からクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求める。より詳細には、まず、図24におけるγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関係と、Alloy263のγ’体積率とを比較して、Alloy263のγ’体積率に対応する2次曲線を決定する。図25は、Alloy263のγ’体積率に対応する2次曲線の求め方を説明するための図である。なお、図25には、図24のグラフを用いている。例えば、Alloy263のγ’体積率が6%である場合には、係数aが1.00、係数bが−0.10と求めることができるので2次曲線Y=1.00X−0.10Xが決定される。
図26は、Alloy263のγ’体積率から求めたマスター曲線を示すグラフである。図26のグラフでは横軸にクリープ寿命消費率を取り、縦軸にクラック率を取り、マスター曲線としての2次曲線Y=1.00X−0.10Xを実線で示している。なお、2次曲線のXがクリープ寿命消費率に対応し、Yがクラック率に対応している。
次に、Alloy263のクラック率に対応するクリープ寿命消費率を求める。例えば、クラック率が0.4の場合には、図26のマスター曲線から、クリープ寿命消費率が0.7と求められる。したがって、クリープ余寿命については0.3(1−0.7)と算出される。
S10、S20 クラック率算出工程
S12、S24 クリープ寿命評価工程
S22 γ’体積率算出工程

Claims (6)

  1. Ni合金のクリープ寿命評価方法であって、
    実機のNi合金からレプリカを採取して金属組織観察し、クラック発生領域における結晶粒界を占めるクラックの割合であるクラック率を算出するクラック率算出工程と、
    前記実機のNi合金のクラック率から、前記実機のNi合金のクリープ寿命を評価するクリープ寿命評価工程と、
    を備え、
    前記クラック率の算出は、前記クラック発生領域に所定ピッチで複数の線を引き、各線毎に、各線と交差する結晶粒界の数と、各線と交差する位置にある結晶粒界上のクラックの数と、をカウントし、各線についてカウントした結晶粒界の数の合計をPとし、各線についてカウントした結晶粒界上のクラックの数の合計をRとしたとき、前記クラック率をR/Pで算出する、Ni合金のクリープ寿命評価方法。
  2. 請求項1に記載のNi合金のクリープ寿命評価方法であって、
    前記クリープ寿命評価工程は、前記実機のNi合金のクラック率と、予め求めておいた前記実機のNi合金と同じNi合金におけるクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を比較して、前記実機のNi合金のクリープ寿命を評価する、Ni合金のクリープ寿命評価方法。
  3. 請求項1に記載のNi合金のクリープ寿命評価方法であって、
    前記実機のNi合金は、γ’析出強化型のNi合金からなり、
    前記実機のNi合金のγ’相の体積率であるγ’体積率を算出するγ’体積率算出工程を有し、
    前記クリープ寿命評価工程は、前記実機のNi合金のクラック率と、前記実機のNi合金のγ’体積率から求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係と、を比較して、前記実機のNi合金のクリープ寿命を評価する、Ni合金のクリープ寿命評価方法。
  4. 請求項3に記載のNi合金のクリープ寿命評価方法であって、
    前記クリープ寿命評価工程において、前記実機のNi合金のγ’体積率から求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係は、
    予めγ’析出強化型のNi合金のγ’体積率を算出すると共に、γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係を求め、
    γ’析出強化型のNi合金のクラック率とクリープ寿命消費率との関係にフィッティングする2次曲線を決定し、
    γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線とを関連付けし、
    γ’析出強化型のNi合金のγ’体積率と、フィッティングさせた2次曲線との関係と、前記実機のNi合金のγ’体積率とを比較して、前記実機のNi合金のγ’体積率に対応する2次曲線を決定して求めたクラック率とクリープ寿命消費率との関係である、Ni合金のクリープ寿命評価方法。
  5. 請求項1から4のいずれか1つに記載のNi合金のクリープ寿命評価方法であって、
    前記クラック率算出工程において、前記クラック発生領域は、前記金属組織観察した金属組織の中で最もクラックの発生が多い領域である、Ni合金のクリープ寿命評価方法。
  6. 請求項1から5のいずれか1つに記載のNi合金のクリープ寿命評価方法であって、
    前記クラック率算出工程において、前記クラック率は、双晶を除いて算出する、Ni合金のクリープ寿命評価方法。
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