JP5622406B2 - 耐熱鋼の脆化評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、耐熱鋼の脆化を評価する方法に関するものである。
ガスタービンは高温環境で使用されるため、ローターなどの部材には、高Cr鋼のような耐熱鋼が用いられている。タービンを高温で長時間運転することにより、耐熱鋼ではクリープ、疲労、軟化、酸化や脆化などが生じる。そのため、定期的に点検や検査を行い、それら損傷が進んだ耐熱鋼を修理・交換するメンテナンスが必要となる。
耐熱鋼の脆化のメカニズムの1つとして、焼き戻し脆化がある。焼き戻し脆化とは、P、Sn、As、Sbなどの脆化元素が結晶粒界に偏析し、粒界破壊しやすくなることによって生じる脆化である。この焼き戻し脆化は、従来、電気化学的方法(特許文献1及び特許文献2参照)、磁気的方法、超音波を利用した方法、アコースティック・エミッション法(AE計測法)、内部摩擦法などにより評価されている。また、腐食割れ等の経年的な変化を評価す方法の1つとして、硬さを測定する方法が用いられている(特許文献3参照)。
特開2008−64606号公報(請求項3) 特開2005−300226号公報(請求項1) 特開2005−249681号公報(請求項4)
耐熱鋼は、高温環境下で使用すると、析出物が生成され、析出硬化する可能性があることが知られている。そのため、通常、使用前に耐熱鋼を熱処理して、予想される析出物を使用前に析出させて、組織を安定化させるという手法がとられている。しかし、使用中に析出が起きる場合、生成された析出物の量などから、耐熱鋼の寿命などを予測することができる。
しかしながら、析出硬化のメカニズムは、耐熱鋼の組成によって析出物の種類が異なるため、析出硬化の挙動(析出温度等)は耐熱鋼によって異なる。そのため、長時間使用した後に予期せぬ新たな析出物が生成されることもあるが、使用前に、このような使用途中で生成された析出物が耐熱鋼に及ぼす影響まで予測することは困難である。
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、使用途中に析出物が生成された耐熱鋼の状態を評価する方法を提供することを目的とする。
上記問題を解決するために、本発明は、検査対象の耐熱鋼に生成した微細析出物を検出し、該検出した微細析出物の面積率を算出し、該算出した微細析出物の面積率の値を、予め作成された脆化指標と耐熱鋼に生成した微細析出物の面積率との相関を表すマスターカーブと照合して、前記算出した微細析出物の面積率に対する脆化指標を取得する耐熱鋼の脆化評価方法を提供する。
本発明者らは、耐熱鋼を用いたガスタービンのローターにおいて、300℃〜450℃の高温環境で長時間使用した後に、新たな微細析出物が生じることを発見し、且つ、この微細析出物の析出量が耐熱鋼の硬化をともなう脆化と相関していることを見出した。従って、検査対象の耐熱鋼に生成した微細析出物の面積率を算出し、予め作成されたマスターカーブと照合することで、耐熱鋼の脆化度合いを評価することができる。
上記の微細析出物は、MX型炭窒化物である。上記の微細析出物の大きさは、100nmより小さく,更に40nm未満であることが好ましい。
X型炭窒化物の析出量は、耐熱鋼の硬化をともう脆化と相関する。
耐熱鋼には、使用前に熱処理した際に、大きさが数百μm程度の別の析出物が生成される。MX型炭窒化物の大きさが40nm未満であれば、別の析出物と区別しやすいため、MX型炭窒化物のみを検出することが容易となる。
上記の脆化指標は、延性脆性遷移温度とすることができる。脆化指標は、検査対象の使用前の延性脆性遷移温度と、検査対象の評価時の延性脆性遷移温度との差とすることが好ましい。
延性脆性遷移温度は、簡便な脆化評価手法であるシャルピー衝撃試験により得られるため、短時間で耐熱鋼の脆性の度合いを評価することが可能となる。
上記発明において、前記検査対象の耐熱鋼の硬さ変化量を計測し、該計測した硬さ変化量を、予め作成された脆化指標と耐熱鋼の硬さ変化量との相関を表すマスターカーブと照合して、前記計測した硬さ変化量に対する脆化指標を読み取り、該読み取った脆化指標を、前記微細析出物の面積率に対する脆化指標と合算して平均値を取得することが好ましい。
上記の微細析出物は、耐熱鋼の硬化をともなう脆化と相関しているため、耐熱鋼の硬さと合わせて評価することで、評価精度を向上させることができる。
本発明によれば、硬化をともなって耐熱鋼を脆化させる析出物が使用途中に生成された耐熱鋼の脆化を非破壊で評価することができる。
使用前及び使用途中に耐熱鋼に生成された析出物の電子顕微鏡写真の一例である。 脆化指標と微細析出物の面積率とを相関させたマスターカーブの一例を示すグラフである。 脆化指標と硬さ変化量とを相関させたマスターカーブの一例を示すグラフである。
300℃〜450℃の高温環境で長時間使用した後に微細析出物が生成される耐熱鋼としては、高Cr鋼、例えば、10Cr−6Co鋼が挙げられる。このような高Cr鋼は、多くの元素を含有しているために、長時間使用すると、微細析出物が析出する場合がある。
図1に、使用途中に耐熱鋼に生成された微細析出物の電子顕微鏡写真を示す。図1(a)は使用前に熱処理を施した耐熱鋼である。図1(b)は300℃〜450℃の高温環境下で、15万時間程度使用した後の耐熱鋼である。図1(c)及び図1(d)は、図1(a)及び図1(b)の一部を拡大した写真である。図1(a)では、粗大な析出物1が観察された。一方、図1(b)では、粗大な析出物1とともに、新たに別の微細な析出物2が観察された。
図1(a)及び図1(b)の耐熱鋼の硬さを測定したところ、15万時間程度使用した後の耐熱鋼の硬さは、使用前よりも50HV程度増加していた。
微細析出物は、一般式MX(M:Cr、Fe、Mo等、X:C、N)で表される炭窒化物であることを確認した。この微細析出物は、大きさが40nm未満であって、主に300℃〜450℃で長時間使用された耐熱鋼に生成される。
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態について説明する。
本実施形態に係る耐熱鋼の脆化評価方法は、マスターカーブ作成工程と、検査工程と、評価工程とを備えている。
マスターカーブ作成工程では、脆化指標と微細析出物の面積率とを相関させてマスターカーブを作成する。
具体的には、まず、耐熱鋼を300〜450℃で最大15万時間まで使用された様々な脆化度合いの試験片を準備する。次に、準備した試験片の脆化指標および微細析出物の面積率を算出する。
脆化は、例えば、シャルピー衝撃試験によって測定することができる。本実施形態では、シャルピー衝撃試験で得られた延性脆性破面率が50%になる温度の使用前からの変化量(以下「ΔFATT」と称する)を脆化指標とする。
検査対象となる耐熱鋼表面の微細析出物の面積率は、例えば、TEMレプリカ法によって測定することができる。レプリカ法を用いる場合、エッチングの状態が気温などの周辺環境に影響されるため、検査対象物から直接レプリカを採取すると、レプリカに採取される微細析出物量が変化し、定量精度が低下してしまう。そのため、検査対象となる耐熱鋼表面から微小のサンプルを削り取るなどして採取し、そのサンプルを用いてレプリカを採取することが好ましい。
採取したサンプルは、エッチング液にてエッチングし、アセチルセルロース等のレプリカフィルムに転写してレプリカを採取する。エッチング条件(時間、温度等)は、適宜選定する。エッチング時間は、長すぎると微細析出物が定着し難くなるが、短すぎるとエッチング不足により微細析出物が現出しない。また、エッチング温度が低いと、エッチング時間が同じであっても、よりエッチング時間を長くしないと微細析出物が現出しない。このように、エッチング条件は、得られる微細析出物量に影響する。従って、エッチングによる計測のばらつきを小さくするために、エッチング標準サンプルを用いて、電子顕微鏡等でエッチング状態を確認することが好ましい。そうすることにより、ΔFATTの推定精度を向上させることができる。
例えば、本発明者らは、エッチング液やエッチング時間は所定の条件とし、エッチング時間を90秒、120秒、150秒、180秒、240秒と変化させて試験片を作製した。エッチング時間を180秒とした試験片において、微細析出物の定着が最適となることを電子顕微鏡にて確認した。この場合、所定の観察倍率で、この180秒の試験片の析出物の電子顕微鏡写真を撮影し、エッチングの標準条件とすることができる。
上記のように採取したレプリカを透過型電子顕微鏡にて観察し、所定の観察倍率における一定視野に対する微細析出物の面積の割合を面積率として算出する。
次に、上記で得られた脆化指標および微細析出物の面積率を用いて、マスターカーブを作成する。作成したマスターカーブは、相関係数が0.7以上のものを採用とする。図2に、脆化指標と微細析出物の面積率とを相関させたマスターカーブの一例を示す。同図において、横軸を微細析出物の面積率、縦軸を脆化指標(ΔFATT)とする。
検査工程では、マスターカーブ作成工程と同様に、検査対象の耐熱鋼の調査位置から微小のサンプルを採取して、そのサンプルからレプリカを採取する。そうすることで、微細析出物の定量精度が向上するだけでなく、再試も可能となる。
採取したレプリカを透過型電子顕微鏡にて所定倍率で観察し、微細析出物の面積率を算出する。
評価工程では、検査工程で得られた微細析出物の面積率の値と、マスターカーブとを照合し、その面積率に対するΔFATTの値を読み取る。このΔFATTの値を、検査対象の耐熱鋼の脆化度合いとし、耐熱鋼の脆化を評価する。
例えば、微細析出物の面積率が50%であった場合、この値を図2のマスターカーブに挿入すると、ΔFATTは112℃であることが読み取れる。
〔第2実施形態〕
本実施形態では、脆化指標と微細析出物の面積率とを相関させたマスターカーブの他に、脆化指標と耐熱鋼の硬さ変化量とを相関させた別のマスターカーブを作成して耐熱鋼の脆化を評価する。
マスターカーブ作成工程では、脆化指標と微細析出物の面積率とを相関させたマスターカーブ(以下「第1マスターカーブ」と称する。)と、脆化指標と耐熱鋼の硬さ変化量とを相関させた別のマスターカーブ(以下「第2マスターカーブ」と称する。)と、を作成する。
試験片は、第1実施形態と同様に準備する。試験片の脆化指標と、微細析出物の面積率と硬さ変化量とをそれぞれ測定する。第1マスターカーブの作成方法は、第1実施形態と同様とする。
硬さは、例えば、市販のポータブルビッカース硬度計を使用して非破壊硬さを測定する。上記で得られた試験片の脆化指標の値と硬さ変化量の値を用いて、マスターカーブを作成する。
図3に、脆化指標と耐熱鋼の硬さ変化量とを相関させた第2マスターカーブの一例を示す。同図において、横軸を硬さ変化量、縦軸を脆化指標(ΔFATT)とする。
検査工程では、まず、検査対象の耐熱鋼の調査位置の硬さ変化量をマスターカーブ作成工程と同様の方法にて測定する。次に、同位置からマスターカーブ作成工程と同様の方法にて微小のサンプルを採取して、そのサンプルからレプリカを採取する。
採取したレプリカを透過型電子顕微鏡にて所定倍率で観察し、微細析出物の面積率を算出する。
評価工程では、検査工程で得られた微細析出物の面積率の値及び耐熱鋼の硬さ変化量を、それぞれ第1マスターカーブ及び第2マスターカーブと照合し、その面積率及び硬さ変化量に対するΔFATTの値を読み取る。第1マスターカーブと第2マスターカーブから読み取った値を平均化し、得られたΔFATTの値を、検査対象の耐熱鋼の脆化度合いとして、耐熱鋼の脆化を評価する。
例えば、微細析出物の面積率が50%、硬さ変化量が30HVであった場合、これらの値を第1マスターカーブ及び第2マスターカーブ(図2及び図3)に挿入すると、それぞれのΔFATTは112℃、129℃であることが読み取れる。上記結果から、この耐熱鋼のΔFATTは121℃となる。
硬さは、ビッカース硬度計などの携帯式測定器を用いることで、現場で実機の硬さを測定できる利点を有する。しかしながら、硬度の測定値のばらつきがあるため、ΔFATTの推定精度が低くなる可能性がある。また、実機の脆化を評価するには、実機の運転を停止させなくてはならない上、再度同じ場所を測定することは困難である。本実施形態では、第1マスターカーブと第2マスターカーブの2つのマスターカーブを用いることで、FATTの推定精度を向上させることができる。なお、第2マスターカーブから得られたΔFATTの値が第1マスターカーブから得られたΔFATTの値とかけ離れている場合、第1マスターカーブから読み取ったΔFATTの値のみを用いて脆化を評価することもできる。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
1 粗大析出物
2 微細析出物

Claims (4)

  1. 300℃〜450℃で使用された耐熱鋼を検査対象とし、
    前記耐熱鋼に生成した微細析出物であるM X型炭窒化物を検出し、
    該検出した微細析出物の面積率を算出し、
    該算出した微細析出物の面積率の値を、予め作成された脆化指標と耐熱鋼に生成した微細析出物の面積率との相関を表すマスターカーブと照合して、前記算出した微細析出物の面積率に対する脆化指標を取得する耐熱鋼の脆化評価方法。
  2. 記M X型炭窒化物大きさが40nm未満である請求項1に記載の耐熱鋼の脆化評価方法。
  3. 前記脆化指標が、延性脆性遷移温度である請求項1または請求項2に記載の耐熱鋼の脆化評価方法。
  4. 前記検査対象の耐熱鋼の硬さ変化量を計測し、
    該計測した硬さ変化量を、予め作成された脆化指標と耐熱鋼の硬さ変化量との相関を表すマスターカーブと照合して、前記計測した硬さ変化量に対する脆化指標を読み取り、
    該読み取った脆化指標を、前記微細析出物の面積率に対する脆化指標と合算して平均値を取得する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の耐熱鋼の脆化評価方法。
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