JP2020122767A - 組換え構造タンパク質の製造方法及び分析方法、並びにタンパク質成形体の製造方法 - Google Patents

組換え構造タンパク質の製造方法及び分析方法、並びにタンパク質成形体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、目的とする構造タンパク質を高い純度で得ることができる、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】本発明の所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法は、(A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、(B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、(C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、(D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程とを備える。【選択図】なし

Description

本発明は、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法及び分析方法、タンパク質成形体の製造方法、並びに、難溶性タンパク質溶液のための希釈剤及び難溶性タンパク質希釈液に関する。
構造タンパク質(例えば、クモ糸タンパク質)を精製する方法としては、宿主細胞の懸濁液に対して、水酸化ナトリウム等の金属水酸化物を利用する方法(特許文献1)、及びギ酸若しくはプロピオン酸等の有機酸を利用する方法(特許文献2)、並びにジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒を宿主に添加して溶解し、不溶物を分離して溶解液を得ることを含む方法(特許文献3)等が報告されている。
特表2013−523665号公報 特表2004一503204号公報 国際公開第2014/103847号
特許文献1及び2に記載の方法では、目的とする構造タンパク質とともに存在する分子量が異なる構造タンパク質(例えば、タンパク質への翻訳が途中で止まったもの、宿主内で分解されたものなど)等を除去することが難しいため、単離された目的の構造タンパク質には、不純物として分子量が異なる構造タンパク質が残存してしまう問題があった。また、有機酸を使用する方法では、酸に対して耐性がない構造タンパク質は分解され易いことから、単離可能な構造タンパク質が限定されるという問題があった。
一方、特許文献3に記載の方法では、約70%まで目的とする構造タンパク質を精製することができる。しかし、目的とする構造タンパク質が、ハイドロパシーインデックス(HI)が0以下の親水性組換えタンパク質に限定されること、また依然として分子量の異なる構造タンパク質も残存してしまうため、極めて高い純度が求められる医薬、医療用品などの分野へそのまま適用することが難しいという問題があった。
本発明は、目的とする構造タンパク質を高い純度で得ることができる、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討した結果、目的とする組換え構造タンパク質を溶解できる溶解用溶媒を用いて目的とする組換え構造タンパク質を溶解した組換え構造タンパク質溶液を用意し、更に水を含む混合溶媒を用いて該溶液を希釈することにより溶液のゲル化を抑制しつつ、目的とする所望の分子量を有する組換え構造タンパク質を多孔質ゲルで分子量分画し、分取することで、非常に高い純度で目的とする構造タンパク質を精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、例えば、以下の各発明を提供する。
[1]
(A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、
(B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、
(C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、
(D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と
を備える、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法。
[2]
前記溶解用溶媒が、ギ酸及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒である、[1]の製造方法。
[3]
前記混合溶媒が、水と、アセトニトリル、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒とを含む、[1]又は[2]の製造方法。
[4]
工程(A)において、前記組換え構造タンパク質溶液を回収するともに、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減することを含む、[1]〜[3]のいずれの製造方法。
[5]
前記混合溶媒に占める水の割合が重量比で20〜80%ある、[1]〜[4]のいずれの製造方法。
[6]
前記溶解用溶媒及び/又は前記混合溶媒が、塩を更に含む、[1]〜[5]のいずれの製造方法。
[7]
前記多孔質ゲルが、シリカゲルである、[1]〜[6]のいずれかの製造方法。
[8]
前記組換え構造タンパク質が、クモ糸タンパク質である、[1]〜[7]のいずれかの製造方法。
[9]
工程(D)で回収された組換え構造タンパク質の純度が90%以上である、[1]〜[8]のいずれかの製造方法。
[10]
(A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、
(B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、
(C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、
(D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と、
(E)工程(D)で回収された組換え構造タンパク質を成形して成形体を得る工程と
を備える、タンパク質成形体の製造方法。
[11]
工程(E)において、組換え構造タンパク質がタンパク質繊維に成形される、[10]のタンパク質成形体の製造方法。
[12]
水を含む混合溶媒を含む、難溶性タンパク質溶液のための希釈剤であって、前記難溶性タンパク質溶液が溶解用溶媒に難溶性タンパク質が溶解されている溶液であり、前記希釈剤が難溶性タンパク質溶液を難溶性タンパク質が溶解されたまま希釈できる、希釈剤。
[13]
前記溶解用溶媒が、ギ酸及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒である、[12]の希釈剤。
[14]
前記混合溶媒が、水と、アセトニトリル、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒とを含む、[12]又は[13]の希釈剤。
[15]
前記難溶性タンパク質が、クモ糸タンパク質である、[12]〜[14]のいずれかの希釈剤。
[16]
難溶性タンパク質と、該難溶性タンパク質を溶解するための溶解用溶媒と、[12]〜[15]のいずれかの希釈剤とを含む、難溶性タンパク質希釈液。
[17]
(A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、
(B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、
(C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、
(D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と
(F)工程(D)で回収画分を検出器によって分析する工程と
を備える、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の分析方法。
[18]
前記検出器が質量分析計を備える、[17]に記載の分析方法。
[19]
前記組換え構造タンパク質が、クモ糸タンパク質である、[17]又は[18]の分析方法。
本発明によれば、目的とする組換え構造タンパク質を高い純度で得ることができる、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法を提供することが可能となる。
本発明に係る所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法は、得られる組換え構造タンパク質の純度が高く、例えば、医薬、医療用品など微量な不純物(同じ構造タンパク質であっても分子量が異なる場合も含む)であっても除去しなければならない分野でも利用することができる。また、得られた組換え構造タンパク質が例えばクモ糸タンパク質である場合、紡糸やフィルムの形成等の製造にも利用することができ、所定の分子量に設計された組換え構造タンパク質(例えば、クモ糸タンパク質)の性質を解析する場合にも有用に利用することができる。
フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。 フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。 フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。 図4は、参考例1で得られたタンパク質精製粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)による分析の結果を示す写真である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
〔所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法〕
本実施形態に係る所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法は、(A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、(B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、(C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、(D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と、を備える。
[工程(A)]
工程(A)は、溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程である。
組換え構造タンパク質溶液は、目的とする組換え構造タンパク質を含むものであればよい。組換え構造タンパク質溶液は、通常、目的とする組換え構造タンパク質と同種の組換え構造タンパク質であって、分子量が異なるタンパク質(例えば、タンパク質への翻訳が途中で止まったもの、(宿主内で)分解されたものなど)を含む。組換え構造タンパク質溶液は、その他夾雑物(例えば、宿主細胞由来の夾雑物)を含むものであってもよい。
原料となる組換え構造タンパク質としては、例えば、目的とする組換え構造タンパク質を発現する宿主細胞或いは宿主細胞の破砕物又は破砕液を用いてもよく、上記宿主細胞或いは宿主細胞の破砕物又は破砕液から得られた目的とする組換え構造タンパク質を含む可溶化画分を用いてもよく、あるいは、目的とする組換え構造タンパク質を発現する宿主細胞から後述の組換え構造タンパク質の粗精製を経て、粗精製された組換え構造タンパク質を用いてもよい。
(溶解用溶媒)
溶解用溶媒は、目的とする組換え構造タンパク質を溶解できる溶媒であれば、特に制限なく使用することができ、有機溶媒であってよい。溶解用溶媒としては、例えば、ギ酸及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒が挙げられ、ギ酸であることが好ましい。溶解用溶媒は、塩を更に含むものであってもよい。
非プロトン性極性溶媒は、特に限定されないが、夾雑物を低減するという観点から、純度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。上記非プロトン性極性溶媒は、環状構造を有しない非プロトン性極性溶媒であることが好ましい。環状構造を有しない非プロトン性極性溶媒を用いると、組換え構造タンパク質をより高い純度で抽出できる。環状構造を有しない非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)等が挙げられる。
また、上記非プロトン性極性溶媒は、双極子モーメントが3.0D以上であることが好ましい。双極子モーメントは、分子の極性の強さを表す指標として用いられ、双極子モーメントが大きいほど、極性の強さも大きくなる。一般的に双極子モーメントが3.0D以上の分子は極性が強いとされ、タンパク質等の極性を持った化合物を溶解する場合には極性の大きな溶媒が有効である。下記表1に、講談社サイエンティフィック社が出版している溶剤ハンドブック(2007年)に基づいた各種有機化合物(有機溶剤)の双極子モーメントを記載する。双極子モーメントが3.0D以上の非プロトン性極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン(DMI)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトニトリル等が挙げられる。
組換え構造タンパク質の抽出純度が高い観点から、上記非プロトン性極性溶媒は、双極子モーメントが3.0D以上であり、且つ、環状構造を有しないことがより好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)からなる群から選ばれる一種以上の非プロトン性極性溶媒であることが更に好ましい。
溶解用溶媒は塩を含むものであってもよい。塩を含むことにより、目的とする組換え構造タンパク質がより溶解しやすくなり、後述のサイズ排除クロマトグラフィーの分離能が向上するため、より純度が高い組換え構造タンパク質を得ることができる。
溶解用溶媒に含まれる塩としては、例えば、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属硝酸塩、チオシアン酸塩、過塩素酸塩等の無機塩、トリフルオロ酢酸ナトリウム(CFCOONa)等の有機塩、酢酸アンモニウム等の揮発性塩を挙げることができる。
アルカリ金属ハロゲン化物としては、例えば、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化リチウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属ハロゲン化物としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等を挙げることができる。アルカリ土類金属硝酸塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸バリウム等を挙げることができる。チオシアン酸塩としては、例えばチオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸アンモニウム、(グアニジニウムチオシアナート)等を挙げることができる。過塩素酸塩としては、例えば過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸銀、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸マグネシウム等を挙げることができる。
これらの塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、トリフルオロ酢酸ナトリウムが好ましく、塩化リチウム、塩化カルシウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウムがより好ましい。
塩を添加する場合の添加量としては、使用する溶解用溶媒の種類等に応じて最適量を決めればよいが、例えば、溶解用溶媒全量を基準として、0M超1.0M以下の塩を添加できる。塩の添加量の上限値は、例えば、0.7M以下、0.6M以下又は0.5M以下であってよく、塩の添加量の下限値は、0.05M以上、0.1M以上又は0.2M以上であってよい。
(組換え構造タンパク質)
構造タンパク質とは、生体構造を形成するタンパク質又はそれに由来するタンパク質を示す。組換え構造タンパク質とは、遺伝子組み換え技術により製造した構造タンパク質である。組換え構造タンパク質は、天然由来の構造タンパク質であってよく、天然由来の構造タンパク質のアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列の一部を改変した改変構造タンパク質であってもよい。
組換え構造タンパク質としては、例えば、工業規模での製造が好ましい任意の構造タンパク質を挙げることができ、具体的には、工業用に利用できる構造タンパク質、医療用に利用できる構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できる構造タンパク質の具体例としては、難溶性タンパク質である、フィブロイン、コラ−ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができるが、水溶性タンパク質であってもよい。フィブロインは、例えば、絹フィブロイン、クモ糸フィブロイン(クモ糸タンパク質)、及びホーネットシルクフィブロインからなる群より選択される1種以上であってよい。
本実施形態に係るフィブロインは、天然由来のフィブロインと改変フィブロインとを含む。本明細書において「天然由来のフィブロイン」とは、天然由来のフィブロインと同一のアミノ酸配列を有するフィブロインを意味し、「改変フィブロイン」とは、天然由来のフィブロインとは異なるアミノ酸配列を有するフィブロインを意味する。
本実施形態に係るフィブロインは、クモ糸フィブロイン(クモ糸タンパク質)であることが好ましい。クモ糸フィブロインには、天然クモ糸フィブロイン、及び天然クモ糸フィブロインに由来する改変フィブロインが含まれる。天然クモ糸フィブロインとしては、例えば、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
本実施形態に係るフィブロインは、例えば、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態に係るフィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2〜27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、10〜300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
天然由来のフィブロインとしては、例えば、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質を挙げることができる。天然由来のフィブロインの具体例としては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin−3(adf−3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin−4(adf−4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin−like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
改変フィブロインは、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
改変フィブロインは、例えば、カイコが産生する絹タンパク質に由来する改変フィブロインであってもよく、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質に由来する改変フィブロインであってもよい。
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、及びグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)としては、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインは、式1中、nは3〜20の整数が好ましく、4〜20の整数がより好ましく、8〜20の整数が更に好ましく、10〜20の整数が更により好ましく、4〜16の整数が更によりまた好ましく、8〜16の整数が特に好ましく、10〜16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10〜200残基であることが好ましく、10〜150残基であることがより好ましく、20〜100残基であることが更に好ましく、20〜75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列、又は配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列である、ポリペプチドであってもよい。
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1−i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1−ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1〜13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
(1−i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
グリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、図1に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)モチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2−i)配列番号6(Met−PRT380)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(2−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8〜11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
(2−i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2−iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2−iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(2−iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(2−iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)モチーフを10〜40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1〜3つの(A)モチーフ毎に1つの(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)モチーフの欠失、及び1つの(A)モチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
x/yの算出方法を図1を参照しながら更に詳細に説明する。図1には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)モチーフ−第1のREP(50アミノ酸残基)−(A)モチーフ−第2のREP(100アミノ酸残基)−(A)モチーフ−第3のREP(10アミノ酸残基)−(A)モチーフ−第4のREP(20アミノ酸残基)−(A)モチーフ−第5のREP(30アミノ酸残基)−(A)モチーフという配列を有する。
隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)モチーフ−REP]ユニットが存在してもよい。図1には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
図1中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる[(A)モチーフ−REP]ユニットの組を実線で示した。以下このような比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)モチーフ−REP]ユニットの組は破線で示した。
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)モチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。図1に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9〜11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8〜3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9〜4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)モチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)モチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3−i)配列番号17(Met−PRT399)、配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)若しくは配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(3−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met−PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)モチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)モチーフ−REP]を1つ挿入したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号18で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号11で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端にHisタグが付加されたものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8〜11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号18で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
(3−i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3(ギザ比率が1:1.8〜11.3)となる隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3−iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3−iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(3−iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(3−iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8〜11.3となる隣合う2つの[(A)モチーフ−REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
グリシン残基の含有量、及び(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)モチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)モチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述したグリシン残基の含有量が低減された改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)と、(A)モチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)の特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4−i)配列番号7(Met−PRT410)、配列番号8(Met−PRT525)、配列番号9(Met−PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4−ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)は、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2〜4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105−132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表2に示すとおりである。
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1〜4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4−1=7。「−1」は重複分の控除である。)。例えば、図2に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、図2に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)モチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。図2の場合28/170=16.47%となる。
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5−i)配列番号19(Met−PRT720)、配列番号20(Met−PRT665)若しくは配列番号21(Met−PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(5−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met−PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いてREP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列に対し、各(A)モチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met−PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
(5−i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5−iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5−iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
(5−iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]で表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(5−iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
グルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)は、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図3は、フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図3を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図3に示したフィブロインのドメイン配列(「[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図3中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図3のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表2に示すとおりである。
表2に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、−0.8以上であることが好ましく、−0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図3の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)モチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)モチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−i)配列番号25(Met−PRT888)、配列番号26(Met−PRT965)、配列番号27(Met−PRT889)、配列番号28(Met−PRT916)、配列番号29(Met−PRT918)、配列番号30(Met−PRT699)、配列番号31(Met−PRT698)、配列番号32(Met−PRT966)、配列番号41(Met−PRT917)若しくは配列番号42(Met−PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(6−i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met−PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met−PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met−PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met−PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表3)。
(6−i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列を含む第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6−iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6−iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表4)。
(6−iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6−iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6−iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6−iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6−iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
改変フィブロインは、親水性改変フィブロインであってもよく、疎水性改変フィブロインであってもよい。本明細書において、「疎水性改変フィブロイン」とは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0超である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、「親水性改変フィブロイン」とは、平均HIが0以下である改変フィブロインである。改変フィブロインとしては、耐燃焼性に優れるという観点から、親水性改変フィブロインが好ましい。
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
親水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
コラーゲン由来の構造タンパク質として、例えば、式3:[REP2]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは5〜300の整数を示す。REP2は、Gly−X−Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号39で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号39で示されるアミノ酸配列は、NCBIデータベースから入手したヒトのコラーゲンタイプ4の部分的な配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号:CAA56335.1、GI:3702452)のリピート部分及びモチーフに該当する301残基目から540残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
レシリン由来の構造タンパク質として、例えば、式4:[REP3]で表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、qは4〜300の整数を示す。REP3はSer−J−J−Tyr−Gly−U−Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意アミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。具体的には、配列番号40で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号40で示されるアミノ酸配列は、レシリン(NCBIのGenBankのアクセッション番号NP 611157、Gl:24654243)のアミノ酸配列において、87残基目のThrをSerに置換し、かつ95残基目のAsnをAspに置換した配列の19残基目から321残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
エラスチン由来の構造タンパク質として、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。具体的には、配列番号41で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質を挙げることができる。配列番号41で示されるアミノ酸配列は、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395のアミノ酸配列の121残基目から390残基目までのアミノ酸配列のN末端に配列番号12で示されるアミノ酸配列(タグ配列及びヒンジ配列)が付加されたものである。
ケラチン由来の構造タンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。具体的には、配列番号42で示されるアミノ酸配列(NCBIのGenBankのアクセッション番号ACY30466のアミノ酸配列)を含むタンパク質を挙げることができる。
(構造タンパク質の組換え発現)
組換え構造タンパク質は、例えば、当該構造タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることにより生産することができる。
構造タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のフィブロイン等の構造タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅しクローニングし、必要に応じて遺伝子工学的手法により改変する方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したタンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)などで自動合成したオリゴヌクレオチドをPCRなどで連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、組換え構造タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、上記のアミノ酸配列のN末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる構造タンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
調節配列は、宿主における組換え構造タンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、組換え構造タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、組換え構造タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主として、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
原核生物の宿主の好ましい例として、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する細菌を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、構造タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、構造タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、YEp13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
組換え構造タンパク質は、例えば、発現ベクターで形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に当該タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、上記形質転換微生物が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15〜40℃である。培養時間は、通常16時間〜7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0〜9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中、必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
(組換え構造タンパク質を含む可溶化画分の回収方法)
発現させた組換え構造タンパク質は、可溶化画分として回収することができる。可溶化画分として回収することにより、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減することができるため、工程(A)の前に実施することが好ましい。
可溶化画分の回収方法は、例えば、当該組換え構造タンパク質が、宿主細胞内に溶解状態で発現した場合には、まず物理的処理又は化学的処理により宿主細胞を破壊して宿主細胞の破砕液を得る。物理的処理としては、超音波処理、ホモジナイザーによる破砕処理などが挙げられ、化学的処理としては主に目的とする組換え構造タンパク質は溶解するが、宿主細胞は溶解しない溶媒で処理する方法が挙げられ、溶媒としてHFIPなどが挙げられる。次いで、宿主細胞の破砕液から目的とする組換え構造タンパク質を含む可溶化画分を回収する。目的とする組換え構造タンパク質を含む可溶化画分を回収する方法としては、遠心分離、並びにドラムフィルター及びプレスフィルター等のフィルターろ過等の一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、テフロンフィルターを用いる方法、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用する方法により、目的とする組換え構造タンパク質を含む可溶性画分をより効率的に回収することができる。
また、組換え構造タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に物理的処理又は化学的処理により宿主細胞を破壊した後、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として組換え構造タンパク質の不溶体を回収する。回収した組換え構造タンパク質の不溶体は、タンパク質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の方法により組換え構造タンパク質を含む可溶化画分を得ることができる。当該組換え構造タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から当該組換え構造タンパク質を含む可溶化画分を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離、ドラムフィルター及びプレスフィルター等のフィルターろ過等の手法により処理することにより組換え構造タンパク質を含む可溶化画分を取得することができる。フィルターろ過による場合、テフロンフィルターを用いる方法、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用する方法により、組換え構造タンパク質を含む可溶性画分をより効率的に回収することができる。
(組換え構造タンパク質の粗精製)
組換え構造タンパク質を含む可溶性画分から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、組換え構造タンパク質の粗精製標品を得ることができる。
(組換え構造タンパク質溶液の調製方法)
組換え構造タンパク質溶液は、溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された溶液であれば特に限定されない。例えば、上述の組換え構造タンパク質の粗精製標品を溶解用溶媒に溶解させることで得ることもできるし、上述の組換え構造タンパク質を含む可溶性画分をそのまま、又は溶解用溶媒に溶媒置換若しくは溶媒添加することで得ることもできるし、組換え構造タンパク質を発現した宿主細胞(又は宿主細胞の破砕物若しくは破砕液等)を溶解用溶媒に溶解させることで得ることもできる。組換え構造タンパク質として使用する宿主細胞又は宿主細胞の破砕物若しくは破砕液等に、溶解用溶媒を添加して組換え構造タンパク質を溶解した後に、組換え構造タンパク質溶液を可溶化画分として回収するともに、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減するのが好ましい。可溶化画分の回収方法、上述の通りである。
組換え構造タンパク質を溶解用溶媒に溶解させる条件は、溶解用溶媒の種類、添加する塩の種類及び濃度、並びに組換え構造タンパク質の種類等に応じて適宜設定できる。一般的には、溶解条件を適切に設定することで、組換え構造タンパク質を溶解用溶媒に溶解させることができる。
溶解温度は、組換え構造タンパク質が溶解するが、組換え構造タンパク質を発現した宿主細胞由来の夾雑物が溶解しない温度まで加温して、所定時間維持することが好ましい。溶解させるための温度は、溶解用溶媒の種類、添加する塩の種類及び濃度、並びに組換え構造タンパク質の種類等に応じて決めればよいが、例えば30〜100℃及び40〜60℃の温度を挙げることができる。例えば、溶解させるための温度の上限値は、100℃、90℃、80℃又は70℃であってよく、溶解させるための温度の下限値は30℃、40℃、50℃であってよい。溶解させるための時間は、組換え構造タンパク質が充分溶解し、且つ夾雑物の溶解が少ない時間であれば、特に限定する必要はないが、工業的生産を考慮すると、10〜120分が好ましく、10〜60分がより好ましく、10〜30分が更に好ましい。
組換え構造タンパク質が、フィブロイン、コラ−ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等である場合には、例えば、以下の条件を挙げることができる。上記構造タンパク質を発現した宿主に添加する溶解用溶媒の添加量は、組換え構造タンパク質重量(wt)当たり、溶媒(vol)/組換え構造タンパク質重量(wt)比として、100〜300倍が好ましく、150〜250倍がより好ましく、175〜225倍が更に好ましい。溶解用溶媒に添加する塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム及びトリフルオロ酢酸ナトリウムが好ましく、トリフルオロ酢酸ナトリウムがより好ましい。また、塩を添加する場合の濃度は、溶解用溶媒全量を基準として、0M超1.0M以下が好ましく、0M超0.6M以下がより好ましく、0M超0.5M以下が更に好ましく、0M超0.01M以下であってもよい。
組換え構造タンパク質が、フィブロイン(改変フィブロインを含む)である場合には、例えば、以下の条件を挙げることができる。上記組換え構造タンパク質を発現した宿主細胞に添加する溶解用溶媒の添加量は、組換え構造タンパク質重量(wt)当たり、溶解用溶媒(vol)/組換え構造タンパク質重量(wt)比として、100〜300倍が好ましく、150〜250倍がより好ましく、175〜225倍が更に好ましい。溶解用溶媒に添加する塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム及びトリフルオロ酢酸ナトリウムが好ましく、トリフルオロ酢酸ナトリウムがより好ましい。また、塩を添加する場合の濃度は、溶解用溶媒全量を基準として、0M超1.0M以下が好ましく、0M超0.6M以下がより好ましく、0M超0.5M以下が更に好ましく、0M超0.01M以下であってもよい。温度条件としては、上記の溶媒を用いて、30〜100℃及び40〜60℃の温度を挙げることができる。例えば、溶解させるための温度の上限値は、100℃、90℃、80℃又は70℃であってよく、溶解させるための温度の下限値は30℃、40℃、50℃であってよい。溶解するための時間としては例えば10〜120分が好ましく、10〜60分がより好ましく、10〜30分が更に好ましい。
組換え構造タンパク質溶液は、組換え構造タンパク質を発現した宿主細胞(又は宿主細胞の破砕物若しくは破砕液等)を溶解用溶媒に溶解させることで得られた場合は、組換え構造タンパク質溶液を回収するともに、不溶物を分離し、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減してもよい。構造タンパク質溶液を回収及び不溶物の分離は、溶液と沈降物(凝集物)とを分離できればよく、特に限定されない。取扱いの簡便性から、濾過による分離及び/又は遠心分離により行うことが好ましい。濾過による分離は、例えば、ろ紙、ろ過膜等を用いて行うことができる。遠心分離の条件は、特に限定されない。例えば、室温(20±5℃)、8000×g〜15000×gで5〜20分間行うことができる。上記不溶物の分離は2回以上行ってもよい。
[工程(B)]
工程(B)は、工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程である。
混合溶媒(以下、「希釈用混合溶媒」ともいう)は、水を含む2種類以上の溶媒からなる。水としては、特に限定されないが、夾雑物を低減するという観点から、純水、蒸留水、超純水等を用いることが好ましい。また、水として、水溶性緩衝液、酸性水溶液、塩基性水溶液等が挙げられる。酸性水溶液としては、ギ酸、酢酸、希塩酸等の酸性水溶液が挙げられ、塩基性水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などの塩基性水溶液が挙げられる。
水溶性緩衝液としては、例えば、pH3〜9のリン酸系緩衝液、pH3〜9のトリス系緩衝液等を用いることができる。上記リン酸系緩衝液の濃度は、例えば10〜200mMである。上記トリス系緩衝液の濃度は、例えば10〜100mMである。例えば、上記トリス系緩衝液としては、pH3〜9の50mMのTris緩衝液を用いることができる。また、例えば、上記リン酸系緩衝液としては、pH3〜9の50mMのリン酸ナトリウム緩衝液を用いることができる。
水以外の溶媒としては、水と混合できる有機溶媒であればよく、公知のものを用いることができる。具体的には、アセトニトリル、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒が挙げられる。希釈用混合溶媒は、純度が高い組換え構造タンパク質が得られるとともに、簡便という観点から、水とアセトニトリルとの混合溶媒であることが好ましい。
組換え構造タンパク質の純度が高いという観点から、混合溶媒に占める水の割合が重量比で90%以下であることが好ましく、85%以下であることがより好ましく、80%以下であることが更に好ましく、70%以下であることが特に好ましい。また、組換え構造タンパク質を凝集させない観点から、混合溶媒に占める水の割合が重量比で10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが特に好ましい。混合溶媒に占める水の割合が重量比で、20〜80%であってよく、30〜70%、30〜60%、40〜80%若しくは40〜60%であってよい。混合溶媒が水とイソプロパノールを含む場合、水の割合が重量比で30〜60%であってもよい。また、混合溶媒が水とアセトニトリルを含む場合、水の割合が重量比で40〜80%であってもよい。
上記組換え構造タンパク質溶液に希釈用混合溶媒を添加して希釈することで、組換え構造タンパク質以外の夾雑タンパク質の大部分を凝集させ、凝集した不溶物を分離除去し、組換え構造タンパク質を含むタンパク質溶液(上清)を回収する。
希釈用混合溶媒の添加量は、組換え構造タンパク質以外のタンパク質(以下、他のタンパク質ともいう)を凝集させることができればよく、特に限定されない。均一に希釈するという観点から、組換え構造タンパク質溶液に対して、体積比で、0.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.75倍以上であり、更に好ましくは1倍以上である。また、組換え構造タンパク質を凝集させない観点から、10倍以下であることが好ましく、より好ましくは6倍以下であり、更に好ましくは4倍以下である。
混合溶媒は、塩を更に含むものであってもよい。混合溶媒に含まれ得る塩は、溶解用溶媒に含まれ得る塩と同じであってよく、例えば、上述した、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属硝酸塩、チオシアン酸塩、過塩素酸塩等の無機塩、トリフルオロ酢酸ナトリウム(CFCOONa)等の有機塩、酢酸アンモニウム等の揮発性塩を挙げることができる。これらの塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、トリフルオロ酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウムが好ましく、塩化リチウム、塩化カルシウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウムがより好ましい。
塩を添加する場合の添加量としては、混合溶媒に含まれる水以外の溶媒の種類等に応じて最適量を決めればよいが、例えば、混合溶媒全量を基準として、0M超1.0M以下の塩を添加できる。塩の添加量の上限値は、例えば、0.7M以下、0.6M以下又は0.5M以下であってよく、塩の添加量の下限値は、0.05M以上、0.1M以上又は0.2M以上であってよい。
不溶物の分離は、沈降物(凝集物)を分離できればよく、特に限定されない。取扱いの簡便性から、濾過による分離及び/又は遠心分離により行うことが好ましい。濾過による分離は、例えば、ろ紙、ろ過膜等を用いて行うことができる。遠心分離の条件は、特に限定されない。例えば、室温(20±5℃)、8000×g〜15000×gで5〜20分間行うことができる。上記不溶物の分離は2回以上行ってもよい。
本実施形態の製造方法は、工程(A)の前又は後に、組換え構造タンパク質を発現した宿主細胞を含む培養物から、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減することを更に備えるものであってもよい。これにより、工程(A)及び工程(B)における操作を円滑に進めることができる。夾雑物の除去又は低減は、上述した(組換え構造タンパク質を含む可溶化画分の回収方法)方法に従って実施することができる。
[工程(C)]
工程(C)は、工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程である。
多孔質ゲルは、特に限定されず、例えば、ポリスチレン、ハイドロゲル、シリカゲル等を基材とする多孔質材料を挙げることができる。多孔質ゲルとしては、シリカゲルが好ましい。これらの多孔質ゲルをカラムに充填し、当該カラムに組換え構造タンパク質溶液を通液することで、組換え構造タンパク質溶液中に含まれる成分を分子量に応じて分画することができる。
カラムの材質及び形状は、組換え構造タンパク質溶液中に含まれる成分を分子量に応じて分画できる限りにおいて、通常用いられているものを特に制限なく用いることができる。多孔質ゲルが充填されたカラムとしては、特定の分子量を有する画分が溶出される寒天から、シリカゲルが充填されたサイズ排除クロマトグラフィー用カラムが好ましい。これにより、クロマトグラフィー装置を使用して、工程(C)の分子量分画、及び工程(D)の画分の回収を自動化することができる。クロマトグラフィー装置は、溶媒(特に有機溶媒)に耐性があり、流速などを適切に制御できる一般的なクロマトグラフィー装置であればよく、特に限定されない。
組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに導入する流速は、多孔質ゲルが充填されたカラムに問題なく導入することができる流速であれば特に限定されず、例えば、多孔質ゲルがシリカゲルであり、カラム容量がカラム内径2cm、カラム長さ40cm、目的とする組換え構造タンパク質がPRT799(分子量211.4kDa)である場合は、0.1mL/分〜100mL/分、好ましくは0.1mL/分〜50mL/分、よりに好ましくは0.1mL/分〜6mL/分である。
組換え構造タンパク質溶液は、多孔質ゲルが充填されたカラムの種類に応じて溶質(好ましくは、組換え構造タンパク質)の濃度を調整することが好ましい。濃度を調整する方法として、濃縮、希釈などの方法が挙げられ、濃縮する場合は、蒸留などが挙げられ、希釈する場合は、組換え構造タンパク質溶液の溶媒と同一の溶媒で希釈する方法などが挙げられる。
本実施形態の製造方法は、工程(C)の前に、工程(B)で用意した組換え構造タンパク質溶液から不溶性画分を除去する工程を更に含むものであってもよい。不溶性画分を除去する方法は、例えば、遠心分離、並びにドラムフィルター及びプレスフィルター等のフィルターろ過等の一般的な方法が挙げられる。フィルターろ過による場合、テフロンフィルターを用いる方法、セライト、珪藻土等のろ過助剤及びプリコート剤等を併用する方法により、組換え構造タンパク質を含む可溶性画分をより効率的に回収することができる。回収した組換え構造タンパク質を含む可溶性画分は、組換え構造タンパク質溶液として、工程(C)で使用することができる。
[工程(D)]
工程(D)は、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程である。
所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分は、任意に設定してよいが、目的とする組換え構造タンパク質と同程度の分子量のタンパク質が含まれる画分とするのが好ましい。目的とする組換え構造タンパク質の分子量は、当該構造タンパク質のアミノ酸配列から推定することもできるし、予め複数の画分を回収してSDS−PAGE等の解析により当該組換え構造タンパク質が含まれる画分を特定してもよい。
また、目的とする組換え構造タンパク質と同程度の分子量のタンパク質が含まれる画分以外の画分を、「所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分」に設定してもよい。これにより、例えば、目的とする組換え構造タンパク質の分解物等を回収することもできる。
所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する方法は、特に制限されず、例えば、所望の分子量を有するタンパク質が含まれる画分が、多孔質ゲルが充填されたカラムから排出される時間に別の容器に回収する方法などが挙げられる。また、クロマトグラフィー装置を使用して工程(D)を実施する場合は、例えば、クロマトグラフィー装置のフラクションコレクター等を利用して回収することもできる。
所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分が多孔質ゲルが充填されたカラムから排出される時間は、流速、カラム容量、多孔質ゲル及び目的とする組換え構造タンパク質の種類によって適宜設定することができる。
具体的には、流速が0.3mL/分、カラム容量がカラム内径4.6mm、カラム長さ250mm、2本のカラムを直結し、多孔質ゲルがシリカゲル、及び目的とする組換え構造タンパク質がPRT918(分子量52.7kDa)である場合は、多孔質ゲルが充填されたカラムに組換え構造タンパク質溶液を導入後、7分〜12分、8分〜11分などの画分が挙げられ、より目的とする組換え構造タンパク質の純度が高い画分は9分〜10分の画分である。
回収量を増やす場合は、カラム容量の増加、回数の増加などが考えられ、回数の増加である場合は、上記と同条件により50回行うことで60mL程度の画分を取得することができる。
カラム容量がカラム内径20mm、カラム長さ250mm、多孔質ゲルがシリカゲル、及び目的とする組換え構造タンパク質がPRT918(分子量52.7kDa)である場合、流速6mL/分で処理することが挙げられる。
この方法によれば、所定の分子量を有する組換え構造タンパク質を簡便な方法により高い純度で得ることできる。また、有機溶媒が主体である溶媒を用いていることにより、蒸留などの操作で簡便に回収することができ経済的である。
蒸留などの操作で回収した所定の分子量を有する組換え構造タンパク質を凍結乾燥することで組換え構造タンパク質粉末を得ることができ、その組換え構造タンパク質粉末を溶解することでタンパク質成形に加工することもできる。
〔組換え構造タンパク質〕
本発明に係る所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法によれば、分子量分布の幅が狭い組換え構造タンパク質(以下、特に「単一分子量の組換え構造タンパク質」ともいう。)が得られる。
本実施形態に係る単一分子量の組換え構造タンパク質は、分子量分布の幅が狭いものであることから、純度が高いといえる。ここで、純度とは、組換え構造タンパク質総量に占める所定の分子量(すなわち、頻度が最も高い分子量)を有する組換え構造タンパク質の割合を意味する。本実施形態に係る単一分子量の組換え構造タンパク質は、純度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが更により好ましい。
単一分子量の組換え構造タンパク質の分子量は、多孔質ゲルを充填したカラムで分離可能な分子量であれば特に制限されない。組換え構造タンパク質がフィブロイン、コラ−ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等である場合には、当該分子量として、例えば、50kDa、100kDa、150kDa、200KDa、250KDa、300KDaなどが挙げられる。
〔タンパク質成形体及びその製造方法〕
(単一分子量の組換え構造タンパク質を含むドープ溶液)
本実施形態に係るドープ液は、本発明に係る単一分子量の組換え構造タンパク質を含む。本実施形態に係るドープ液は、例えば、本発明に係る単一分子量の組換え構造タンパク質を溶媒に溶解させることで得ることもできるし、本発明に係る組換え構造タンパク質の製造方法を実施し、工程(D)の結果物として得ることもできる。工程(D)の結果物は、更に別の精製工程を実施することで単一分子量の組換え構造タンパク質の純度をより高めることができる。更に別に行う精製工程は特に限定されず、エタノール沈殿、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどが挙げられる。
本実施形態に係るドープ液中の単一分子量の組換え構造タンパク質の濃度は、ドープ液全量を基準として、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、3質量%以上であってよく、4質量%以上であってよく、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、30質量%以上であってよく、40質量%以上であってよく、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよい。単一分子量の組換え構造タンパク質の濃度の上限は、例えば、70質量%以下であってよい。
ドープ液の溶媒としては、構造タンパク質を溶解させる溶媒として通常用いられているものを用いることができ、例えば、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、ヘキサフルオロアセトン(HFA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ギ酸、並びに尿素、グアニジン、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、臭化リチウム、塩化カルシウム及びチオシアン酸リチウム等を含む水溶液等を挙げることができる。これらの溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
ドープ液は、溶解促進剤を含むものであってもよい。溶解促進剤としては、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩が挙げられる。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。ルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩の具体例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。
溶解促進剤の含有量は、組換え構造タンパク質の全量100質量部に対して、1.0質量部以上、5.0質量部以上、9.0質量部以上、15質量部以上又は20.0質量部以上であってよい。溶解促進剤の含有量は、組換え構造タンパク質の全量100質量部に対して、40質量部以下、35質量部以下又は30質量部以下であってよい。
本実施形態に係るドープ液の製造時に、30〜90℃に加温してもよい。使用する溶媒、組換え構造タンパク質の種類等に応じて溶解可能な温度を適時設定すればよい。溶解を促進するために振盪、撹拌してもよい。
本実施形態に係るドープ液の粘度は、ドープ液の用途等に応じて適宜設定してよい。例えば、本実施形態に係るドープ液を紡糸原液として使用する場合、その粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定してよく、例えば、35℃において100〜50000cP(センチポイズ)、40℃において100〜50000cP(センチポイズ)等に設定すればよい。紡糸原液の粘度は、例えば京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
(タンパク質成形体の製造方法)
本実施形態に係るタンパク質成形体の製造方法は、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法の工程(A)〜(D)に加えて、工程(E):工程(D)で回収された組換え構造タンパク質を成形して成形体を得る工程を更に備える。成形は当業者にとって既知の方法によって行えばよく、例えば上述のドープ液を用いて成形する。
得られるタンパク質成形体は、単一分子量の組換え構造タンパク質が成形されたものである。成形体の形状は特に限定されず、例えば、繊維、フィルム、多孔質体、パーティクル、モールド成形体等であってよい。
フィルム状の成形体(タンパク質フィルム)は、例えば、上述したドープ液の膜を形成し、形成された膜から溶媒を除去する方法により得られる。
繊維状の成形体(タンパク質繊維)は、例えば、上述したドープ液を紡糸し、紡糸されたドープ液から溶媒を除去する方法により得られる。
多孔質状の成形体(タンパク質多孔質体)は、フィブロイン由来タンパク質より多孔質体を製造する方法が国際公開第2014/175178号に記載されており、基本的にこの方法によって得られる。
パーティクル状の成形体(タンパク質パーティクル)は、例えば、上述したドープ液を用い、ドープ液中の溶媒を水溶性溶媒に置換することによりタンパク質の水溶液を得る工程と、タンパク質の水溶液を乾燥する工程とを含む方法によって得られる。水溶性溶媒は、水を含む溶媒をいい、例えば、水、水溶性緩衝液、生理食塩水等が挙げられる。水溶性溶媒に置換する工程は、ドープ液を透析膜内に入れ、水溶性溶媒中に浸漬し、水溶性溶媒を1回以上入れ替える方法により行われることが好ましい。具体的には、ドープ液を透析膜に入れ、ドープ液の100倍以上の量の水溶性溶媒の中に3時間静置し、この水溶性溶媒入れ替えを繰り返すことがより好ましい。透析膜は、タンパク質が透過させないものであればよく、例えばセルロース透析膜等であってよい。水溶性溶媒の置換を繰り返すことにより、ドープ液中に存在していた溶媒の量をゼロに近づけることができる。水溶性溶媒に置換する工程の後半では、透析膜は使用しなくてもよい。タンパク質の水溶液を乾燥する工程は、真空凍結乾燥を用いることが好ましい。真空凍結乾燥時の真空度は、好ましくは200パスカル(Pa)以下、より好ましくは150パスカル以下、更に好ましくは100パスカル以下である。凍結乾燥後のパーティクルにおける水分率は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下である。
モールド成形体は、例えば、国際公開第2017/047504号の明細書にフィブロイン由来タンパク質よりモールド成形体を製造する方法が記載されており、基本的にこの方法によって得られる。なお、フィブロイン由来タンパク質よりモールド成形体を製造する際には、例えば以下の操作が実施される。即ち、先ず、タンパク質を含む組成物(タンパク質のみ、或いは他の成分を含む)を加圧成形機の金型に導入した後、金型を加熱すると共に組成物に対して加圧する。所定の加圧下でタンパク質が所定の温度に達するまで加熱及び加圧を継続して、加熱加圧された組成物を得る。次いで、冷却器(例えばスポットクーラー)を用いて金型の温度を下降させ、組成物が所定の温度になったところで、内容物を取り出してモールド成形体を得る。加熱は、80〜300℃で行うことが好ましく、100〜180℃がより好ましく、100〜130℃が更に好ましい。加圧は、5kN以上で行うことが好ましく、10kN以上がより好ましく、20kN以上が更に好ましい。また、所定の加熱加圧条件に達した後、その条件での処理を続ける時間(保温条件)は、0〜100分が好ましく、1〜50分がより好ましく、5〜30分が更に好ましい。
〔難溶性タンパク質溶液の希釈剤及び難溶性タンパク質希釈液〕
本実施形態に係る難溶性タンパク質溶液の希釈剤は、難溶性タンパク質溶液のための希釈剤であって、水を含む混合溶媒を含む。難溶性タンパク質溶液が溶解用溶媒に難溶性タンパク質が溶解されている溶液である。溶解用溶媒及び混合溶媒は、上述のとおりである。また、難溶性タンパク質溶液の希釈剤は、上記の希釈用混合溶媒と同じであり得る。
難溶性タンパク質は、水に難溶性のタンパク質であれば特に限定されないが、例えば上述したフィブロイン、コラ−ゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができ、特にクモ糸タンパク質であることが好ましい。難溶性タンパク質溶液を上記希釈剤で希釈すると、難溶性タンパク質の析出を抑制しつつ、難溶性タンパク質溶液のゲル化を抑制できる。
本実施形態に係る難溶性タンパク質希釈液は、難溶性タンパク質と、該難溶性タンパク質を溶解するための溶解用溶媒と、難溶性タンパク質溶液の希釈剤とを含む。難溶性タンパク質、難溶性タンパク質を溶解するための溶解用溶媒、及び希釈剤は上述のとおりである。難溶性タンパク質希釈液は、難溶性タンパク質を溶解用溶媒に溶解させて難溶性タンパク質溶液としてから、希釈剤を用いて、難溶性タンパク質が溶解したまま、難溶性タンパク質溶液を希釈することによって得られる。難溶性タンパク質の溶解は、難溶性タンパク質に溶解用溶媒を添加してもよく、溶解用溶媒に難溶性タンパク質を添加してもよい。及び希釈は、同時でもよく、溶解用溶媒を先に添加し、難溶性タンパク質を溶解してから、混合溶媒を添加して希釈してもよい。本実施形態に係る難溶性タンパク質希釈液は、希釈液のまま難溶性タンパク質の精製に用いることができる。例えば、希釈液を多孔質ゲルで分子量分画し、分取することで、非常に高い純度で所望の分子量を有する目的タンパク質を精製することができる。
〔所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の分析方法〕
本実施形態に係る所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の分析方法は、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法の工程(A)〜(D)に加えて、(F)工程(D)で回収画分を検出器によって分析する工程を備える。
検出器は、回収された画分の分子量などを分析できるものであればよく、例えばUV(紫外線)分光光度計等の定量検出器が挙げられる。また、検出器は質量分析計を更に備えることが好ましい。質量分析計としては、例えばMS(質量分析装置)が挙げられる。
上記分析方法によれば、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が得られるかどうか、また、その定量や純度を分析でき、それによって、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質を製造できる最適な方法を提供することができる。
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
〔参考例1:組換え構造タンパク質の製造〕
(1)目的とする組換え構造タンパク質発現株(組換え細胞)の作製
配列番号29(Met−PRT918)、配列番号9(Met−PRT799)で示されるアミノ酸配列を有するクモ糸由来の配列を有するフィブロインを合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト及び終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。各タンパク質のハイドロパシーインデックス及び分子量(kDa)は表5に示した通りである。
目的とするタンパク質をコードする核酸をそれぞれクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET−22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。当該4種類の核酸をそれぞれ組換えたpET−22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)をそれぞれ形質転換して、目的とするタンパク質を発現する形質転換大腸菌(組換え細胞)を得た。
(2)目的とする組換え構造タンパク質の発現
上記形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を、アンピシリンを含む100mLのシード培養用培地(表6)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
500mLの生産培地(表7)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように当該シード培養液を添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、酵母エキス 120g/1L)を1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持し、20時間培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質が不溶体として発現されていることを確認した。
(3)夾雑物の除去及び目的とするタンパク質の精製
エッペンチューブに33.3mgの乾燥菌体を量り取り、これを60℃で加熱している、第1の溶媒(0.5M CaCl含有のDMSO(第1のプロトン性極性溶媒))500μL中に添加した。乾燥菌体添加後、菌体がダマになっていないことを確認してから60℃、2000rpm、30分の条件で撹拌しながら加熱溶解を行った。加熱溶解終了後、溶液温度が45℃以下になるまで放冷し、45℃まで放冷後、第2の溶媒として、アセトン(第2の非プロトン性極性溶媒)を撹拌しながら添加した。DMSOの添加量とアセトンの添加量との比(DMSOの添加量:アセトンの添加量)は、5(vol/vol):1(vol/vol)とした。添加後、5〜10分程経ったら撹拌を止めて、室温で静置(60分撹拌時間も含む)した。目的の静置時間が経過したら、遠心分離を500×g、10分、20℃の条件で行った。
遠心分離終了後、抽出液(可溶性画分)を等量のエタノール(目的とする組換えタンパク質の貧溶媒)に添加し、疎水性タンパク質(Met−PRT799及びMet−PRT918)を沈殿させた。2時間静置後、遠心分離(条件:20℃、500×g、30分)を行うことで沈殿したフィブロインを回収した。沈殿したフィブロインを抽出液と等量のRO水で3回洗浄した。洗浄終了後、サンプルを凍結乾燥した。凍結乾燥終了後、精製粉末を回収した。得られた粉体をSDS−PAGEで分析した。結果を図4に示す。
図4中、レーン1及び3にはそれぞれMet−PRT799を、レーン2及び4にはMet−PRT918を、レーンMには分子量マーカータンパク質をそれぞれアプライした。レーン1及び2は、泳動後、全てのタンパク質を染色可能なOriole(商標)蛍光ゲルステイン(Bio−Rad社製)で染色したもの、レーン3及び4は、泳動後、Met−PRT799及びMet−PRT918のHisタグ領域に反応するInVision(商標)Hisタグ付きゲル内染色試薬(Thermo Fisher Scientific社製)で染色したものである。理論分子量が211.4kDaのPRT799は250kDaの分子量マーカーと150kDaの分子量マーカーとの間にバンドとして検出され、理論分子量が52.7kDaのPRT918は50kDaの分子量マーカーに近い位置にバンドとして検出された。
[実施例1 所定の分子量を有する目的とする組換え構造タンパク質の精製−精製粉末]
精製粉末10mgをギ酸82μLで溶解し、溶解液を0.1w/v%(タンパク質1mgにつき1mLのアセトニトリル及び水(HO)の混合溶媒で)まで希釈し、0.5μm孔径のテフロンフィルターで吸引ろ過を行う。
カラム担体がシリカゲルであるシリカゲルカラム(カラム長:250mm、カラム内径:4.6mm(Imtakt社製))を2本用い、分取HPLCによりサイズ排除クロマトグラフィーを用いて分子量分画を行う(流速0.3mL/分)。保持時間9〜10分で流下するタンパク質成分を回収した。
[実施例2 混合溶媒におけるHOの割合の検討]
実施例1で得られた精製粉末10mgをギ酸82μLで溶解し、溶解液をHOを含む混合溶媒で、0.1mgタンパク質/mL混合溶媒(0.1wt%)に希釈した。HOは、各混合溶媒に以下の表8における割合で溶媒X(メタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、DMSO、又はNMP)と混合し、溶解液の分散性を、遠心分離後の沈殿物の有無によって評価した。具体的には、溶解液を11000g、5分、20℃で遠心分離し、沈殿物があるかどうか目視で確認した。結果は以下の表8に示す。

Claims (19)

  1. (A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、
    (B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、
    (C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、
    (D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と
    を備える、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の製造方法。
  2. 前記溶解用溶媒が、ギ酸及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記混合溶媒が、水と、アセトニトリル、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒とを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. 工程(A)において、前記組換え構造タンパク質溶液を回収するともに、宿主細胞及び/又は宿主細胞由来の夾雑物を除去又は低減することを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
  5. 前記混合溶媒に占める水の割合が重量比で20〜80%ある、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
  6. 前記溶解用溶媒及び/又は前記混合溶媒が、塩を更に含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
  7. 前記多孔質ゲルが、シリカゲルである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
  8. 前記組換え構造タンパク質が、クモ糸タンパク質である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
  9. 工程(D)で回収された組換え構造タンパク質の純度が90%以上である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の製造方法。
  10. (A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、
    (B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、
    (C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、
    (D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と、
    (E)工程(D)で回収された組換え構造タンパク質を成形して成形体を得る工程と
    を備える、タンパク質成形体の製造方法。
  11. 工程(E)において、組換え構造タンパク質がタンパク質繊維に成形される、請求項10に記載のタンパク質成形体の製造方法。
  12. 水を含む混合溶媒を含む、難溶性タンパク質溶液のための希釈剤であって、前記難溶性タンパク質溶液が溶解用溶媒に難溶性タンパク質が溶解されている溶液であり、前記希釈剤が難溶性タンパク質溶液を難溶性タンパク質が溶解されたまま希釈できる、希釈剤。
  13. 前記溶解用溶媒が、ギ酸及び非プロトン性極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒である、請求項12に記載の希釈剤。
  14. 前記混合溶媒が、水と、アセトニトリル、イソプロパノール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、及びジメチルスルホキシド(DMSO)からなる群より選択される少なくとも1つの溶媒とを含む、請求項12又は13に記載の希釈剤。
  15. 前記難溶性タンパク質が、クモ糸タンパク質である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の希釈剤。
  16. 難溶性タンパク質と、該難溶性タンパク質を溶解するための溶解用溶媒と、請求項12〜15のいずれか一項に記載の希釈剤とを含む、難溶性タンパク質希釈液。
  17. (A)溶解用溶媒に組換え構造タンパク質が溶解された組換え構造タンパク質溶液を用意する工程と、
    (B)工程(A)で用意した組換え構造タンパク質溶液を、水を含む混合溶媒で希釈する工程と、
    (C)工程(B)で希釈した組換え構造タンパク質溶液を、多孔質ゲルが充填されたカラムに通液して、分子量分画する工程と、
    (D)所望の分子量を有する組換え構造タンパク質が含まれる画分を回収する工程と、
    (F)工程(D)で回収画分を検出器によって分析する工程と
    を備える、所望の分子量を有する組換え構造タンパク質の分析方法。
  18. 前記検出器が質量分析計を備える、請求項17に記載の分析方法。
  19. 前記組換え構造タンパク質が、クモ糸タンパク質である、請求項17又は18に記載の分析方法。
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