この発明に係る玉軸受の一例としての第一実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。
図1に示す玉軸受Bは、外方の軌道輪1と、外方の軌道輪1に対して同軸に配置された内方の軌道輪2と、これら軌道輪1、2と同軸に配置された保持器3と、保持器3によって円周方向に所定のピッチで並ぶように配置された複数の玉4と、を備える。
ここで、保持器の回転中心線に沿った方向のことを「軸方向」という。また、その保持器の回転中心線回りに一周する円周に沿った方向のことを「円周方向」という。また、その保持器の回転中心線に直交する方向のことを「半径方向」という。また、軸方向一方と他方の概念は、その保持器を基準に考えた方向である。また、内径又は外径は、保持器の回転中心線と同心の仮想内接円又は仮想外接円の直径を意味する。図1において、左右方向は軸方向に相当し、軸方向一方を左方とし、軸方向他方を右方とする。また、図1において、半径方向は上下方向に相当し、上方向は半径方向外方に相当し、下方向は半径方向内方に相当する。
外方の軌道輪1は、外方の軌道面1aを含む内周を有する環状の軸受部品である。内方の軌道輪2は、内方の軌道面2aを含む外周を有する環状の軸受部品である。
軌道輪1,2と玉4は、それぞれ鋼によって形成されている。
外方の軌道面1aと内方の軌道面2aは、それぞれ軌道輪幅の中央部に配置された断面円弧状の軌道溝からなる。図示の玉軸受Bでは、深溝玉軸受を例示している。
一般に、外方の軌道輪1と内方の軌道輪2の一方が、回転軸(図示省略)と一体に回転するように固定され、他方が、回転軸に対して静止するハウジング(図示省略)に固定される。図示例の玉軸受Bは、dmn220万で運転可能なものを想定している。このような高速運転の用途として、例えば、図2に概念的に示すように、モータ5の回転軸5aをハウジング6に対して回転自在に支持する場合が挙げられる。モータ5は、例えば、自動車の駆動源となる電動モータである。
図1に示すように、玉4は、外方の軌道面1aと内方の軌道面2aとの間に配置されている。保持器3は、複数の玉4を円周方向に均等に配置する。
図1、図3、図4に示すように、保持器3は、玉4の円周方向位置を保つポケット部3aを円周方向の複数箇所に有し、かつ複数の玉4の公転に伴って複数のポケット部3aと一体に円周方向に回転できるように連なった軸受構成要素の全体をいう。
保持器3は、樹脂製のものである。ここで、樹脂製とは、保持器3の全体が樹脂によって形成されていることを意味する。その樹脂の概念には、一種単独のもの、二種以上を混ぜたもの、一種以上の樹脂を母材として補強材(例えばガラス繊維、炭素繊維等)を混在させたもの(いわゆる繊維強化樹脂)が包まれる。dmn200万を許容する玉軸受にする場合、繊維強化樹脂を採用することが好ましい。
保持器3では、前述の樹脂として、エンジニアリングプラスチックが採用されている。エンジニアリングプラスチックは、一般に、耐熱性が100℃以上120℃以下であり、強度が50MPa以上、曲げ弾性率が2.4GPa以上であるプラチックのことをいう。
エンジニアリングプラスチックの主なものとして、例えば、ポリアミド(PA,PA6,PA9,PA46,PA66)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられ、繊維強化樹脂としては、(PA46又は66+ガラス繊維)や(PA9T+炭素繊維)が挙げられる。
保持器3の全体は、軸方向に二分割の金型を用いた射出成形によって一体に形成されている。
ポケット部3aは、図1、図3に示すように、玉4を収めるための空間を形成する凹面部であって、保持器3の軸方向一方の側面に開口した形状である。複数のポケット部3aは、円周方向に一定ピッチで配置されている。玉4は、一般的な冠形保持器と同様に、保持器3の左側面の開口からポケット部3aに収められる。
図示例のポケット部3aは、図1、図3、図4に示すように、保持器3の外周及び内周にも開口した形状であり、そのポケット部3aのうち、玉4と当接可能な部分は、玉4に沿う凹球面状になっている。すなわち、玉4は、円周方向の両方、軸方向他方、半径方向内方及び外方に向かってポケット部3aと対向する。
ポケット部3aと玉4との間にポケットすきまが設定されている。保持器3は、ポケットすきまの範囲内で複数の玉4に対して自由に移動することができる。遠心力によって保持器3が変形し、ポケットすきまが負になると、ポケット部3aが玉4に干渉し、これらが異常に強く接触することになる。ポケットすきまを大きくすれば、その干渉は起こり難くなるが、音響特性が悪化する。すなわち、玉軸受Bの高速回転時、玉軸受Bの荷重負荷領域に出入りする際の玉4の進み遅れが原因で玉4がポケット部3aに当接する。この当接によって玉4の円周方向位置が保たれるが、ポケットすきまが大き過ぎると、その当接の際の衝突音が問題になる。高速回転時の音響特性を実用的なレベルにするため、ポケットすきまを0.2mm以下に設定することが好ましい。
ここで、図1に示すように、ポケット部3aの軸方向の深さをHとし、玉4の直径(玉径)をdとする。深さHは、ポケット部3aの先端に接する仮想ラジアル平面と、当該ポケット部3aの底に接する仮想ラジアル平面間の距離に相当する。ここで、仮想ラジアル平面は、保持器3の回転中心線に直交する仮想平面である。ポケット部3aの先端は、ポケット部3aのうち、最も軸方向一方に位置する部分である。ポケット部3aの底は、ポケット部3aのうち、最も軸方向他方に位置する部分である。なお、深さHは、保持器3のうち、ポケット部3aを形成するように軸方向一方へ突き出た突出部分の軸方向長さに一致している。
玉軸受Bの高速回転時、前述のように玉4の進み遅れが原因で玉4がポケット部3aに円周方向に当接したとき、玉4がポケット部3aを乗り越えることが起こってはならない。このような事態を防止するため、0.15d≦Hに設定されている。
一方、ポケット部3aの深さHを小さくする程、ポケット部3aを半径方向、円周方向に小さくし、また、遠心力の影響を受けにくい保持器形状にすることが可能になる。このことは、保持器3のリング部の半径方向長さを短くすることでポケット部3aと玉4間の対向範囲を小さくし、この間における潤滑油のせん断抵抗を抑制することにも有利である。すなわち、H/dが小さいほど、玉4とポケット部3aとの対向面積が小さくなり、その結果、玉4とポケット部3a間の潤滑油のせん断抵抗が小さくなるため、保持器3の回転トルクを低減することが可能になる。また、せん断抵抗を小さくすると、保持器3付近での発熱量も抑えられるため、本実施形態のような高速回転対応に好適である。
様々なH/dにおいて、玉によるポケット部の乗り越えや、遠心力による保持器変形について評価した結果を表1に星取表で示す。
表1において、項目「乗り越え」は、前述の乗り越えの防止性能についての評価結果を示し、項目「遠心力の影響」は、遠心力によるポケット部変形の抑制性能についての評価結果を示し、項目「せん断抵抗」は、玉とポケット部間の潤滑油のせん断抵抗についての評価結果を示し、項目「総合評価」は、玉軸受の高速運転への好適性についての評価結果を示す。これら各項目おいて「◎」は極めて良好、「○」は良好、「×」は悪い、をそれぞれ意味する。
表1に示すように、H>0.65dに設定する場合、従来の冠形保持器と同様、ポケット部と玉の係合のみで保持器の軸方向他方への移動を規制できるようなポケット部形状にすることは可能であるが、エンジニアリングプラスチック製の保持器を採用すると、dmn値で200万を超えるような高速回転においてポケット部が玉に干渉する懸念が特に高くなる。
H≦0.65dに設定すると、保持器3のうち、ポケット部3aを形成するための突出部分の軸方向長さを短くし、この突出部分の軽量化を図り、保持器3が遠心力の影響を受けにくくすることができる。
図示例の保持器3では、H<0.5dに設定されている。より具体的には、H=0.45dに設定されている。
H≦0.5dである場合、前述の射出成形において、ポケット部3aがアンダーカットにならず、離型時にポケット部3aの形状が歪むことはない。このため、ポケット部3aの寸法精度が良好になる。
H<0.5dの場合、保持器3の左側面におけるポケット部3aの開口幅を玉4の直径dよりも小さくしなければならない。このため、ポケット部3aが軸方向他方に向かって玉4と係合することはできない。0.5d<H≦0.65dに設定し、ポケット部の形状を右方に向かって玉4と当接可能な形状にしたとしても、掛かりの浅い当接になる。このため、玉軸受Bが高速回転する場合、その当接のみで保持器3の軸方向他方への移動を規制することに不安がある。特に、H<0.5dの場合、玉4がポケット部3aに当接するとき、その当接方向が軸方向他方に近くなり、玉4がポケット部3aを軸方向他方に押す分力が大きくなる。
そこで、内外の軌道輪1、2の少なくとも一方に対して保持器3が軸方向他方に向かって係合可能な後述の構造を採用し、その係合を利用して保持器3の軸方向他方への移動を規制することにより、深さHと玉径dの関係をH≦0.65dに設定できるようにしている。
具体的には、外方の軌道輪1は、保持器3の軸方向他方への移動を規制するために用いられる係止部1bと、その係止部1bを形成するように加工された溝部1cとを有する。
溝部1cは、外方の軌道輪1の内周のうち、軌道面1aよりも軸方向他方の位置で半径方向に深さをもって円周方向全周に連続する。溝部1cは、円周方向全周で一定の断面形状を有する。
係止部1bは、外方の軌道輪1の内周のうち、溝部1cの溝底から軸方向他方の端までの部分を構成している。
図5に示すように、係止部1bは、半径方向内方(係止部1bの先端へ接近する方)に向かって軸方向他方に向かう傾斜角度θ1を10°以下にした形状の受け面1dを有する。ここで、係止部1bの先端は、係止部1bのうち、半径方向に最も高い部分である。係止部1bの先端から受け面1dまでの部分は、断面円弧状になっている。係止部1bの受け面1dから溝部1cの溝底までの部分は、断面円弧状になっている。
溝部1cのうち、受け面1dと軸方向に対向する部分は、傾斜面1eになっている。溝部1cの溝底から傾斜面1eまでの部分は、係止部1bと同一の断面円弧状になっている。傾斜面1eは、外方の軌道輪1の内径を規定する肩部まで連続している。傾斜面1eは、半径方向内方(溝底から遠ざかる方)に向かって軸方向一方に向かう傾斜角度θ2をもっている。傾斜角度θ2は、傾斜角度θ1よりも大きく設定されている。溝部1cを回転砥石で削る際、削り屑は、傾斜の大きな傾斜面1eに沿って排出され易くなる。
また、係止部1bは、その先端と、軌道輪1の軸方向他方の幅面1fとを繋ぐ面取り部1gを有する。ここで、幅面は、ある部材の軸方向長さ(全長)を規定する両端の表面部のことをいう。軌道輪1の幅面1fは、軌道輪幅を規定する半径方向に沿った側面部である。
面取り部1gは、係止部1bの先端から軸方向他方に向かって内径を次第に大きくした(当該先端との径差を次第に大きくした)形状である。面取り部1gは、係止部1bの先端から軸方向他方に向かって0.2mm以上の長さをもち、かつ軸方向他方に向かって半径方向外方へ45°以上の傾斜角度θ3をもっている。
一方、保持器3は、図1に示すように、軸方向他方に向かって係止部1bと係合可能に配置された係合部3bを有する。係合部3bは、保持器3のうち、複数のポケット部3aよりも軸方向他方の位置に配置されている。
図1、図3に示すように、保持器3の外周と内周には、それぞれ複数のポケット部3aよりも軸方向他方の位置に円筒面が形成されている。保持器3の内周側の円筒面は、外周側の円筒面よりも軸方向に広い幅をもっている。
係合部3bは、図1、図4に示すように、保持器3の外周のうち、軸方向他方の端部に位置し、保持器3の外周側の円筒面から半径方向に高さをもっている。
係合部3bは、図3に示すように、円周方向に延びる円弧状の突片部になっている。保持器3は、二つ以上の係合部3bを有する。それら係合部3bは、円周方向に均等間隔に分散配置されている。係合部3bの円周方向中央の位置と、ポケット部3aの円周方向中央の位置とが一致している。係合部3bの円周方向長さは、ポケット部3aの円周方向長さよりも大きい。円周方向に隣り合う係合部3b間の空間は、軸方向両方に向かって開放している。
ポケット部3aの底は、肉厚が薄くなるため、保持器3の強度上の弱部となる。保持器3の回転中心線回りの角度で考えると、係合部3bがポケット部3aの存在する角度範囲を内包する角度範囲に配置されているため、ポケット部3aの底への負荷を係合部3bで緩和することができる。
なお、図3、図4に示すように、保持器3の軸方向一方の側面のうち、円周方向に隣り合うポケット部3aの先端間の部分は、円周方向に沿って連続する円弧面状の幅面3cになっている。また、保持器3の外周のうち、円周方向に隣り合うポケット部3a間の部分は、保持器3の外周側の円筒面と同径の円弧面状になっている。また、保持器3の内周のうち、円周方向に隣り合うポケット部3a間の部分は、保持器3の内周側の円筒面と同径の円弧面状になっている。
図1、図5に示すように、係合部3bは、軸方向他方に向かって係止部1bの受け面1dと対向するように配置されている。係合部3bの右側面のうち、軸方向他方に向かって受け面1dと対向する部分は、受け面1dに沿った形状の対向端部3dである。
係合部3bは、係合部3bの先端から軸方向一方に向かって外径を次第に小さくした(当該先端との径差を次第に大きくした)形状である。ここで、係合部3bの先端は、係合部3bのうち、半径方向に最も高い部分である。係合部3bのうち、軸方向一方に向かって傾斜面1eと対向する部分は、傾斜面1eに沿った形状の斜面部3eである。係合部3bの斜面部3eから先端を経て対向端部3dまでの部分は、断面円弧状になっている。
保持器3の各ポケット部3aに玉4を収めるように保持器3を内外の軌道輪1、2間に組み込む工程は、従来の冠形保持器と同様である。この組み込み工程において、これら係合部3bは、係止部1bに対して軸方向他方の位置から軸方向一方に向かって押し付けられる。このため、係合部3bを含む保持器3が弾性変形を生じ、係合部3bが強制的に係止部1bを超えさせられ、溝部1cに入り込む。これにより、係合部3bは、右方に向かって係止部1bと係合可能な状態に配置される。
この際、各係合部3bは、円周方向に分散配置されているので、それぞれ係止部1bから逃げるように弾性変形を生じ易い。
また、係合部3bが係止部1bの面取り部1gに押し付けられると、面取り部1gの前述の傾斜角度θ3により、係合部3bが面取り部1gを滑り易く、また、係合部3bが軸方向他方かつ内方の斜め方向に強く押され易くなる。このため、係合部3bの先端が係止部1bの先端に達するように係合部3bを係止部1bから逃がす保持器3の変形(係合部3bの撓みや保持器3の捩れ変形)が生じ易くなる。なお、面取り部1gは、R面のように丸めた形状にしてもよい。
また、係合部3bが係止部1bに押し付けられると、係合部3bの前述の外径漸減形状により、係合部3bが係止部1bを滑り易く、また、係合部3bが前述の斜め方向へ強く押され易くなる。このため、係合部3bの先端が係止部1bの先端に達するように係合部3bを係止部1bから逃がす保持器3の変形が生じ易くなる。
係合部3bと、係止部1bを含む溝部1cの全体との間に軸方向及び半径方向のクリアランスが設定されている。なお、クリアランスは、誇張して図示している。
係合部3bと溝部1cとの間に半径方向のクリアランスが設定されているため、係合部3bと係止部1b間には、軸受外部から潤滑油を供給することが可能であり、また、軸受内部の潤滑油も供給される。また、円周方向に隣り合う係合部3b間の空間は、軸受内部の潤滑油を係合部3bと係止部1b間に届き易くする。また、玉軸受の高速回転時には、溝部1cの傾斜面1eでの周速差に基づくポンプ作用が生じ、傾斜面1eに連れ回される潤滑油が、係止部1bの方へ向かい易くなる。
係合部3bと係止部1bとの間の軸方向のクリアランスCは、係止部1bの受け面1dと係合部3bの対向端部3dとの間で設定されている。
玉軸受が高速回転する際、玉4がポケット部3aに当接し、軸方向他方の分力が保持器3に加えられる。保持器3がクリアランスC以上に軸方向他方へ移動しようとすると、各係合部3bが軸方向他方に向かって係止部1bに係合することになる。この係合により、それ以上の保持器3の軸方向他方への移動が阻止されるので、保持器3の軸方向他方への抜けが起こらない。
このとき、係合部3bの対向端部3dが、係止部1bの受け面1dに係合することになる。その受け面1dが半径方向内方に向かって右方への傾斜角度θ2を10°以下にした形状であるから、半径方向内方の分力が大きく発生しない。このため、係合部3bの先端が係止部1bの先端に達するように係合部3bを係止部1bから逃がす程の保持器3の変形は生じない。
クリアランスCは、1.5μmよりも十分に大きく設定されている。これは、玉軸受の高速回転時、受け面1dと対向端部3dとの間に最小でも1.5μmの厚さの油膜を形成可能とするためである。
また、クリアランスCは、係合部3bと係止部1bが係合する状態で、ポケット部3aで玉4の円周方向位置を保てる範囲内の値に設定されている。
保持器3は、転動体案内型であってもよいし、軌道輪案内型であってもよい。保持器3と外方の軌道輪1の全体間、保持器3と内方の軌道輪2の全体間の各間でポケットすきまに比して大きなクリアランスを設定すれば、保持器3は、複数の玉4によって半径方向に案内される転動体案内型のものとなる。転動体案内型の場合、係合部3bと軌道輪1(係止部1bを有する軌道輪)との間に隙間を確保し、係合部3bと軌道輪1の接触を避けて係合部3bの高さが低くなるような摩耗を防止することができる。
また、前述の係合部3bと溝部1c(係止部1bを含む)との間のクリアランスに比して、前述のポケットすきまを大きく設定する場合、保持器3が遠心力で変形しても、各ポケット部3aが玉4を抱え込みにくくする(すなわち干渉しにくくする)ことができる。この場合、係合部3bを利用した軌道輪案内型の保持器になるので、溝部1cに対する相対回転による係合部3bの摩耗を流体潤滑によって実質的に無くすことが可能な場合に好適である。
そのような流体潤滑を実現するには、係合部3bと、係止部1bを含む溝部1cとのうち、互いに円周方向に滑る二表面の算術平均粗さRaがそれぞれ0.2μm以下であることが好ましい。ここで、算術平均粗さRaは、JIS B601:2001 「製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ」において定義されたものをいう。
係合部3bと溝部1cの表面性状は、正規分布に従うと考えてよい。したがって、対向端部3dを含む係合部3bの二乗平均平方根粗さσ1と、受け面1dを含む溝部1cの二乗平均平方根粗さσ2は、それぞれ1.25Raになると考えられる。最小の油膜厚さhmin/√(σ1 2+σ2 2)で求まる油膜パラメータΛは、対向端部3dと受け面1d間で最小の油膜厚さhminが1.5μm以上のとき、Λ>3になる。Λ>3であれば、対向端部3dと受け面1d間の摩擦状態が実質的に流体潤滑状態になると考えられる。
EV等の電動モータの回転軸を支持するような用途の場合、玉軸受Bは、電動モータの回転開始後、速やかに最小の油膜厚さhminが1.5μm以上になるような回転速度(保持器3と軌道輪1間の相対回転による周速差)になる。このため、運転時間の殆どで係合部3bと溝部1c間の摩擦状態を流体潤滑状態にすることができる。
第一実施形態に係る玉軸受Bは、上述のようなものであり、図1、図5に示す保持器3の軸方向他方への移動を保持器3の係合部3bと軌道輪1の係止部1bの係合で規制することができる。このため、第一実施形態に係る玉軸受Bは、保持器3の軸方向一方の側面で開口した形状であるポケット部3aの軸方向の深さHと、玉4の直径dとの関係をH≦0.65dに設定することができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、係止部1bが軌道輪1の軌道面1aよりも軸方向他方の位置に配置され、対応の係合部3bが保持器3のポケット部3aよりも軸方向他方の位置に配置されているため、ポケット部3aを形成するための突出部分に係合部3bが存在せず、玉軸受Bの高速回転時、係合部3bに作用する遠心力が原因でポケット部3aが玉4に異常接触し易くなるような事態を避けることもできる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、ポケット部3aの深さH≦0.65dであるため、前述の突出部分を短くして軽量化し、遠心力による保持器3の変形を抑えると共に、ポケット部3aと玉4間でのせん断抵抗を抑えることができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、ポケット部3aの深さHと玉4の直径dの関係がH<0.5dに設定されているので、遠心力による保持器3の変形や前述のせん断抵抗をより抑えることができ、射出成形品である場合にはポケット部3aの寸法精度が良好になる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、係合部3bと係止部1bとの間に軸方向のクリアランスCが設定され、係合部3bと係止部1bの互いに円周方向に滑る二表面としての対向端部3dと受け面1dの各Raが0.2以下であるため、対向端部3dと受け面1d間で油膜の形成が起こり、対向端部3dと受け面1d間における最小の油膜厚さhminが1.5μm以上になると、油膜パラメータΛ>3の摩擦状態(実質的に流体潤滑状態)になることを期待できる。このため、第一実施形態に係る玉軸受Bは、係合部3bと係止部1bの摩耗を良好に防止することができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、保持器3が二つ以上の係合部3bを有し(図3も参照)、これら係合部3bが円周方向の二箇所以上に分散配置されているため、保持器3を内外の軌道輪1、2間に組み込む際、各係合部3bが係止部1bから逃げ易くなり、ひいては、各係合部3bに強制的に係止部1bを超えさせることを容易にすることができる。
なお、円周方向全周に一連の係合部を採用することも可能だが、係止部を超えさせる強制嵌合に強い力が必要になるので、分散配置にすることが好ましい。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、係止部1bがその先端から軸方向他方に向かって当該先端との径差を次第に大きくした形状の面取り部1gを有するため、保持器3を内外の軌道輪1、2間に組み込む際、係合部3bが係止部1bを滑りながら係止部1bから逃げ易くなり、ひいては、各係合部3bに強制的に係止部1bを超えさせることを容易にすることができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、係合部3bがその先端から軸方向一方に向かって当該先端との径差を次第に大きくした形状であるため、保持器3を内外の軌道輪1、2間に組み込む際、係合部3bが係止部1bを滑りながら係止部1bから逃げ易くなり、ひいては、各係合部3bに強制的に係止部1bを超えさせることを容易にすることができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、係止部1bが半径方向に係止部1bの先端へ接近する方に向かって軸方向他方に向かう傾斜角度θ1を10°以下にした形状の受け面1dを有し、係合部3bが軸方向他方に向かって受け面1dと係合可能に配置されているため、係合部3bが軸方向他方に向かって係止部1bに係合するとき、係合部3bが係止部1bから逃げにくくなり、ひいては、保持器3が軸方向他方へ抜けることを防止することができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、軌道輪1が軌道面1aを含む内周のうち、軌道面1aよりも軸方向他方の位置で半径方向に深さをもって円周方向全周に連続する溝部1cを有し、係止部1bが軌道輪1の内周のうち、軸方向他方の端から溝部1cの溝底までの部分を構成しているため、一般的なシール取付用のシール溝部がある位置に溝部1cの軸方向他方側が係止部1bにすることができ、ひいては、一般的な玉軸受の軸方向のレイアウトを採用することができる。
また、第一実施形態に係る玉軸受Bは、保持器3がエンジニアリングプラスチックによって形成されているので、高価なスーパーエンジニアリングプラスチックの使用を避けて、保持器の製造コストを抑制することができる。
第一実施形態では、保持器3を一つだけ備える玉軸受Bを例示したが、二つの保持器を備えてもよい。この場合、玉に対して両側に保持器を配置することになる。玉を二つの保持器のポケット部に収めるには、玉の両側の保持器同士が軸方向に突き合うことがないように、ポケット部の深さHを0.5dよりも小さくするとよい。軌道輪1は、係止部1b、溝部1cに相当の部位を反対側にも有するから、保持器を反対側に配置することも可能である。
第一実施形態では、保持器3の移動規制性能を優先するため、図3から明らかなように、係合部3bの円周方向長さを係合部3b間の空間の円周方向長さよりも大きく、全係合部3bの円周方向の総延長に比して係合部3b間の全空間の円周方向の総延長を小さくした場合を例示したが、係合部3bの分散配置の態様は様々に変更することが可能である。その一例としての第二実施形態を図6、図7に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。また、軌道輪や玉に関しては適宜に図1を参照されたい。
第二実施形態に係る保持器10は、円周方向に隣り合う係合部10a間の空間に比して係合部10aの円周方向長さが小さい。また、全係合部10aの円周方向の総延長は、係合部10a間の全空間の円周方向の総延長よりも小さい。これらのことから、第二実施形態では、保持器10の組み込みに際し、係合部10aが係止部1bから逃げるように変形し易く、また、係合部10aと係止部1b間に潤滑油を供給し易くすることができる。
各係合部10aは、前述のポケット部3aの存在する角度範囲から外れた位置に配置されている。このような配置は、玉4付近の潤滑性能を重視する場合に好適である。
別例としての第三実施形態を図8に示す。第三実施形態に係る保持器20は、係合部20aを前述のポケット部3aの存在する角度範囲に配置しつつ、第一実施形態よりも各係合部20aを円周方向に短くし、保持器20の組み込み容易化を図ったものである。
前述の第一実施形態〜第三実施形態では、係合部を保持器の外周のみに配置した場合を例示したが、係合部を保持器の内外周に配置してもよい。その一例としての第四実施形態を図9、図10に示す。
第四実施形態に係る保持器30は、外周に係合部20aを有し、さらに内周にも係合部30aを有する。内方の係合部30aも、前述のポケット部3aの存在する角度範囲に配置されている。
内方の軌道輪31は、内方の軌道面31aと、内方の係止部31bと、その係止部31bを形成するための内方の溝部31cとを有する。なお、内方の係合部30a、係止部31b、溝部31cの任意の形状は、半径方向に関して、外方の係合部20a、係止部1b、溝部1cと反対の関係になるだけなので、詳細説明を省略する。
第四実施形態に係る玉軸受は、外方の軌道輪1及び内方の軌道輪31がそれぞれ係止部1b、31bを有し、保持器30外方の軌道輪1の係止部1bに対応した外方の係合部20aと、内方の軌道輪31の係止部31bに対応した内方の係合部30aとを有するため、保持器30の内外の係合部20a,30aと、内外の軌道輪1,31の係止部1b,31bとの係合によって保持器30の軸方向他方への移動が規制される。このため、第四実施形態に係る玉軸受は、保持器30が軸方向他方へ抜けることをより防止することができる。
前述の第一実施形態〜第四実施形態では、軌道輪として、軌道面に対して両側の肩部が同高さである標準的な深溝玉軸受用のものを備える玉軸受を例示したが、両肩部間で高さの異なる軌道輪に変更することも可能である。また、保持器の係合部を内周のみに配置してもよい。その一例としての第五実施形態を図11に示す。
第五実施形態に係る外方の軌道輪41は、外方の軌道面41aに対して両側に外方の肩部41b,41cを有する。第一の外方の肩部41bは、第二の外方の肩部41cよりも高く設けられている。
内方の軌道輪42は、内方の軌道面42aに対して両側に内方の肩部42b,42cを有する。第一の内方の肩部42bは、第二の内方の肩部42cよりも高く設けられている。
第一の外方の肩部41bと第二の内方の肩部42cは、半径方向に対向するように配置されている。第二の外方の肩部41cと第一の内方の肩部42bは、半径方向に対向するように配置されている。
第五実施形態に係る玉軸受は、第一の外方の肩部41bと、第一の内方の肩部42bとに玉4が接触する方のスラスト荷重の負荷能力を第一実施形態に比して向上させることができる。なお、第二の外方の肩部41cと第二の内方の肩部42cは、第一実施形態と同等の高さである。
保持器40は、第一の外方の肩部41bと第二の内方の肩部42cとの間に配置されている。すなわち、図11において、保持器40を基準に考えた軸方向一方は、右方に相当し、軸方向他方は、左方に相当する。
ポケット部40aの半径方向長さは、第一実施形態よりも短くなっている。これは、第一の外方の肩部41bを第一実施形態に比して高くしたことに伴い、第二の内方の肩部42cとの半径方向の距離を狭くしたことに対応するためである。
係合部40bは、保持器40の内周にだけ設けられている。これに対応の係止部42d及び溝部42eが、内方の軌道輪42に設けられている。
外方の軌道輪41が回転輪になる場合、比較的内径の小さな第一の外方の肩部41bの周速は、比較的内径の大きな第二の肩部41cの周速よりも遅くなる。この周速差に基づき、第一の外方の肩部41bに連れ回される潤滑油が比較的高圧になり、第二の外方の肩部41cに連れ回される潤滑油が比較的低圧になるため、潤滑油を第一の外方の肩部41b側から第二の外方の肩部41c側へ送るポンプ作用が生じる。
内方の軌道輪42が回転輪になる場合、比較的外径の小さな第二の内方の肩部42cの周速は、比較的外径の大きな第一の内方の肩部42bの周速よりも遅くなる。この周速差に基づき、第二の内方の肩部42cに連れ回される潤滑油が比較的高圧になり、第一の内方の肩部42bに連れ回される潤滑油が比較的低圧になるため、潤滑油を第二の内方の肩部42c側から第一の内方の肩部42b側へ送るポンプ作用が生じる。
したがって、外方の軌道輪41と内方の軌道輪42のいずれが回転輪になる場合でも、回転輪の前述のポンプ作用により、潤滑油は、第一の外方の肩部41bと第二の内方の肩部42cとの間から、第二の外方の肩部41cと第一の内方の肩部42bとの間の方へ送られる。このポンプ作用による潤滑油の流れに対し、保持器が上流側にあるか否か、下流側にあるか否かで、軸受内部に対する潤滑油の流出入を調整することができる。
図示例では、保持器40が上流側だけに配置されているので、軸受内部(外方の軌道輪41と内方の軌道輪42間の環状空間)へ潤滑油が流入し難く、軸受外部へ流出し易い。このため、軸受内部に潤滑油が過剰に溜まりにくい。
なお、保持器が下流側だけに配置されている場合、軸受内部へ潤滑油が上流側から流入し易く、軸受外部へ流出しにくくなるので、潤滑油の過剰流出を防止することができる。
また、潤滑環境によっては、二つの保持器を上流側と下流側に配置することも可能である。この場合、外方の軌道輪41の溝部1cを利用して、もう一つの保持器を配置することができる。上流側と下流側に保持器を配置すると、潤滑油の流入及び流出が抑制されるため、特に潤滑油が希薄、低粘度にするときに好適である。
前述の実施形態では、係合部等のRaを流体潤滑に好適なものとしたが、動圧を積極的に発生させて油膜形成を促進し、流体潤滑状態を実現してもよい。その一例としての第六実施形態を図12〜図15に示す。
第六実施形態に係る保持器50の係合部50aは、軸方向他方の側面に第一の突起50bを有し、軸方向一方の側面に第二の突起50cを有する。
第一の突起50b、第二の突起50cは、それぞれ軸方向に高さをもって、半径方向に真っ直ぐ延びている。二つ以上の第一の突起50bが、係合部50aの円周方向の全長に分布している。これら第一の突起50bは、円周方向に一定ピッチで配置されている。二つ以上の第二の突起50cが、第一の突起50bと同様に配置されている。これら第一の突起50bと第二の突起50cの位相は同一である。係合部50aの先端において、これら両突起50b、50cが一連になっている。
図12、15に示すように、係合部50aと係止部1b間の軸方向のクリアランスC1が設定されている。第一の突起50bは、円周方向に向かって軸方向に(C2−C1)の長さだけ狭くなる空間を係止部1bとの間に形成する。
円周方向に隣り合う第一の突起50b間は、係止部1bに接触できない。隣り合う第一の突起50b間の隙間には、潤滑油が入り込む。玉軸受の回転時、係合部50aが係止部1bに摺動する。前述の隙間に存在する潤滑油が第一の突起50bによって当該突起50bと係止部1bとの間に引き摺り込まれる。この際、(C2−C1)だけ空間が狭まるので、動圧が発生し、油膜の圧力が高まるくさび効果が生じる。このため、油膜が厚くなり、第一の突起50bと係止部1bを完全に分離させる油膜が形成される。したがって、係合部50aと係止部1b間の摩擦状態が流体潤滑状態になる。
図示例では、係合部50aの円周方向長さを考慮し、二つ以上の第一の突起50bを分散配置することにより、係合部50aが係止部1bに対して当接し得る部位を第一の突起50bに限られるようにしたが、係合部の円周方向長さが短い場合、各係合部に一つの第一の突起を設けることでも当接部位を第一の突起に限定することは可能であろう。勿論、油膜の形成を促進するには、第一の突起50bが係止部1bの受け面を高速に次々と通過する方がよいので、各係合部50aに二つ以上の第一の突起50bを分散配置で形成することが好ましい。
また、図15に示すように、第一の突起50bは、円周方向に沿った任意の断面において半円状になっていることが好ましい。第一の突起が尖っていると、玉軸受の高速回転時、玉から保持器50に与えられる軸方向他方への推力により、第一の突起の鋭利な先端が油膜に押し付けられて油膜切れが起こり易くなるためである。
また、流体潤滑状態の実現には、係合部50aと係止部1b間の周速差も重要であるから、外方の軌道輪1が静止輪である場合に第一の突起50bが特に有効となる。
第二の突起50cは、その傾斜による周速差から潤滑油を軸方向他方へ送るポンプ作用を強化する。なお、係合部50aと溝部との間を第一の突起50bと係止部1b間のように狭くする場合、第二の突起50cは、係合部50aの軸方向一方の側面と軌道輪1間の摩擦状態を流体潤滑状態にするのに有効となる。係合部の軸方向一方の側面が軌道輪に摺動する懸念がないようにクリアランスを設定する場合、係合部50aの軸方向一方の側面に突起は不要である。
このように、第六実施形態に係る玉軸受は、係合部50aが円周方向に向かって軸方向に狭くなる空間を係止部1bとの間に形成する第一の突起50bを有し、第一の突起50bと係止部1bとの間に軸方向のクリアランスC1が設定されているので、係合部50aと係止部1bの互いに円周方向に滑る二表面間で油膜の形成が起こり、第一の突起50bが潤滑油を空間の狭くなる方へ引き摺り、動圧を発生させるくさび効果が生じるので、油膜の形成を促進し、係合部50aや係止部1bの摩耗を防止することができる。また、係止部1bと係合部50aの周速差が所定以上に大きくなると、係合部50aと係止部1bを完全に分離させる油膜の厚さを実現し、係合部50aと係止部1b間の摩擦状態を流体潤滑状態にすることもできる。この流体潤滑状態では、係合部50aと係止部1bが保持器50の軸方向他方への移動を規制する際に油膜を介して係合することになるので、これら両部50a、1bの摩耗を良好に防止することができる。
第六実施形態では、半径方向に真っ直ぐ延びる突起を採用したが、突起によるポンプ作用を併せて得るようにしてもよい。その一例としての第七実施形態を図16に示す。
第七実施形態に係る保持器60は、係合部60aの先端に向かって円周方向の一方へ傾斜した方向に延びている突起60bを採用したものである。玉軸受の回転中、突起60bから潤滑油に対して半径方向に係合部60aの先端に向かう方へエネルギが与えられるため、潤滑油を係合部60aの先端の方へ送るポンプ作用が生じる。なお、図示例では、第六実施形態の第二の突起に相当する突起60bの場合を示したが、第一の突起についても同様にポンプ作用を生じさせてもよい。
前述の第一実施形態では、図5に示すような溝部1cを採用したが、一般的な溝部1cに代えて、一般的なシール溝部をそのまま溝部として使用することも考えられる。その一例としての第八実施形態を図17に示す。
第八実施形態に係る保持器70は、ポケット部70aの深さHが0.25d以下に設定されている。その分、第一実施形態に比して、玉4から保持器70に与えられる軸方向他方への推力が大きくなるため、保持器70のリング部分が軸方向一方へ厚くされている。
外方の軌道輪71は、一般的なシール付軸受用のものである。係止部71aは、シール取付用の溝部71bの軸方向他方側の部分を構成している。シール取付用の溝部71bは、一般に、図5における傾斜角度θ1と傾斜角度θ2の大小関係で考えると、傾斜角度θ1>傾斜角度θ2に設定した形状である。
第八実施形態に係る玉軸受は、一般的なシール付軸受用の軌道輪71を流用することができるので、製造コストを抑制するのに有利である。
これまでに述べた各実施形態は、適宜に組み合わせてもよく、例えば、第六実施形態や第七実施形態の潤滑用の突起は第一から第五、第八実施形態のいずれにおいても併用可能である。
なお、第一実施形態のような面取り部1gによって保持器3の組み込みを容易にすること、及び受け面1dによって保持器3を抜けにくくすることは、この発明の採否とは無関係に保持器以外にも適用可能な技術であり、例えば、シール、シールド等の環状の軸受部品を軌道輪に取り付ける場合に適用可能である。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。