JP2020107498A - 鉛蓄電池用負極板、およびそれを用いた液式鉛蓄電池 - Google Patents

鉛蓄電池用負極板、およびそれを用いた液式鉛蓄電池 Download PDF

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Abstract

【課題】SOCが低い状態での寿命特性に優れた、新規な鉛蓄電池用負極板、およびそれを用いた鉛蓄電池を提供する。【解決手段】鉛とカーボンを含む負極合剤3が格子状基板21に保持されている負極板1であって、負極合剤3に含まれるカーボンの比表面積R(m2/g)、負極合剤3に含まれる鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)、および格子状基板21を構成する各孔214の開口面積の平均値S(m2)を用い、下記の(1)式で示されるDが、2.1×104以上3.4×106以下の範囲にあり、比表面積R(m2/g)と含有量W(g)との積(R×W)が420(m2)未満である。D=R×W/S‥‥(1)【選択図】図1

Description

本発明は、鉛蓄電池用負極板に関する。また、上記負極板を用いた液式鉛蓄電池に関する。
近年、自動車用の鉛蓄電池は、電装品の増加や燃費向上のために、使用状態が過酷になってきている。よって、自動車用の鉛蓄電池には、過酷な使用に耐えられる性能が要求されている。特に、アイドリングストップ車(ISS車)が急速に普及してきており、自動車のクランキング回数は増加傾向にある。
一方、自動車用の鉛蓄電池は、高充電受入性を保つために部分充電状態(Partial State of charge:PSOC)で使用される。このため、自動車用の鉛蓄電池のSOC(State of charge;充電状態、充電率:残容量の満充電容量に対する比率)は常に低い状態となっており、SOCが低すぎると、クランキング時に急激に電圧が低下してイグニションせず、エンジンが停止する可能性もある。
また、環境負荷低減のために車両の電動化が急速に進み、ハイブリッド車の普及率も上昇してきている。ハイブリッド車には、マイクロハイブリッド車、マイルドハイブリッド車、及びストロングハイブリッド車があり、比較的安価なマイクロハイブリッド車やマイルドハイブリッド車の人気が高まっている。
マイクロハイブリッド車やマイルドハイブリッド車には、エンジン始動用および再始動用にアイドリングストップ用の鉛蓄電池が使用されている。アイドリングストップ機能は、電池の劣化がある程度進むと車両側の制御によりその機能を停止するが、そのまま始動用として鉛蓄電池を使用する場合がある。このような場合であっても、突然電圧が低下し、エンジンが始動できなくなるという問題が発生しないようにする必要がある。
マイルドハイブリッド車とマイクロハイブリッド車を比較すると、マイルドハイブリッド車の方がマイクロハイブリッド車よりも、鉛蓄電池がより厳しい状態で使用される傾向にある。具体的には、マイルドハイブリッド車は、発進時のアシストや加速中のパワーアシストの機能を有しており、これらの機能によって大電流放電が行われる。マイクロハイブリッド車はこれらの機能を有さない。そのため、マイルドハイブリッド車に対しては、マイクロハイブリッド車に対してよりも、回生充電による急速充電特性に優れていることが求められている。
そして、鉛蓄電池が部分充電状態で使用され、低い充電状態が続くと、負極表面に不導体の硫酸鉛が蓄積して粗大化するサルフェーションを生じ、寿命が短くなる可能性がある。よって、鉛蓄電池の性能向上のためにはサルフェーションを抑制することが重要である。
サルフェーションを抑制する方法の一つとして、負極活物質にカーボン材料を添加する方法が挙げられる。
特許文献1には、負極活物質中に添加するカーボン粒子の量を増やすと、充電受入性が向上することに加えて、硫酸鉛が蓄積して導電性が低下するような場合でも、負極活物質中のカーボン粒子が互いに導電パスを形成し、導電性が得られることが記載されている。また、負極活物質に多量のカーボン粒子を添加すると、電解液が濁り、液面の視認性が低下するとともに、カーボン粒子がリグニンを吸着し、低温高率放電性能が低下するという問題が記載されている。
この問題を解決するために、特許文献1に記載された発明では、負極板のカーボン粒子のカーボン導電性と負極板の格子体のメッシュ面積(格子部の面積をマス目の数で除した値)との関係を、計算式を用いて一定の範囲に規定している。これにより、低SOCで使用しても硫酸鉛の蓄積が抑制され、鉛蓄電池の寿命性能を向上できると記載されている。
特許第6210269号公報
しかし、特許文献1に記載された鉛蓄電池には、SOCが低い状態での寿命特性の点で改善の余地がある。
また、特許文献1には、「負極活物質中にリグニンが添加されている場合、当該負極活物質中に多量のカーボン粒子が含まれていると、カーボン粒子がリグニンを吸着し、低温高率放電性能が低下することがある。しかし、本発明においては、前記カーボン導電性が8.0×1010(Ω-1・m-2・質量%)以下であるように、カーボン粒子の含有率が低いか、または、平均粒子径が大きければ(すなわち、比表面積が小さければ)、リグニンの吸着を抑制することができるので、低温高率放電性能の低下を抑制することができる」との記載があるだけで、カーボンの比表面積と添加量との関係を特定することに関する記載はないし、これを示唆する記載もない。
本発明の課題は、SOCが低い状態での寿命特性に優れた、新規な鉛蓄電池を提供することである。
上記課題を解決するために、本発明の一態様の鉛蓄電池用負極板は、下記の構成(a)〜(c)を有している。
(a)鉛とカーボンとを含む負極合剤が格子状基板に保持されている。
(b)負極合剤に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)、負極合剤に含まれる鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)、および格子状基板を構成する各孔の開口面積の平均値S(m2)を用い、下記の(1)式で示されるDが、2.1×104以上3.4×106以下の範囲にある。D=R×W/S‥‥(1)
(c)負極合剤に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)と鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)との積(R×W)が、420(m2)未満である。
なお、カーボンの比表面積R(m2/g)は、JIS Z 8830:2013(ガス吸着による粉体(固体)の比表面積測定方法)に規定された測定方法に従って測定したBET比表面積(m2/g)の値を採用する。
また、本発明の一態様の液式鉛蓄電池は、上記鉛蓄電池用負極板を有している。
本発明によれば、SOCが低い状態での寿命特性に優れた、新規な鉛蓄電池用負極板、およびそれを用いた液式鉛蓄電池が提供される。
実施形態の鉛蓄電池を構成する負極板を示す部分破断正面図である。 図1のA−A断面図である。
[一態様の鉛蓄電池]
本発明の一態様の鉛蓄電池では、負極板において、負極合剤に含まれているカーボンが負極合剤中に導電パスを形成する。放電時には、この導電パスを通って電子が負極合剤中を移動して集電体である格子状基板に向かう。充電時には、集電体である格子状基板から負極合剤中に入った電子が、この導電パスを通って負極合剤中を移動する。
よって、負極合剤中に良好な導電パスが形成されていれば、格子状基板から離れた位置に存在する鉛(負極活物質)による充放電反応が促進され、硫酸鉛の粗大化が抑制されることで、サルフェーションの抑制効果が得られる。そして、格子状基板の孔の中心付近に存在する負極合剤は、他の位置に存在する負極合剤よりも格子状基板から離れた位置に存在するため、格子状基板から離れた位置での鉛による充放電反応を促進するためには、格子状基板の孔一個当たりの負極合剤中のカーボン含有量が重要である。
また、カーボンの含有量Wとカーボンの比表面積Rは、それぞれカーボンの表面官能基の数と比例関係にある。カーボンの表面官能基は、充電時に負極板の鉛イオンを吸着する作用を有する。よって、カーボンの含有量W(g)とカーボンの比表面積R(m/g)との積(R×W)が大きいほど、負極板表面の鉛イオン濃度が低下して硫酸鉛の分解が促進されることで、サルフェーションの抑制効果が高くなる。
上述のように、一態様の鉛蓄電池では、上記(1)式で規定したD(=R×W/S)が2.1×104以上3.4×106以下の範囲に限定されている。
D(=R×W/S)が小さいほど、格子状基板の孔におけるカーボンのかさ密度が大きくなり、D(=R×W/S)が大きいほど孔におけるカーボンのかさ密度が小さくなる。かさ密度が大きいほど孔一個当たりの負極合剤中に存在するカーボンの数が少なくなり、かさ密度が小さいほど孔一個当たりの負極合剤中に存在するカーボンの数が多くなる。そして、Dが2.1×104以上であれば、孔一個当たりの負極合剤中に存在するカーボンの数が十分に多い状態となって、カーボンにより孔内の負極合剤中に良好な導電パスが形成されるとともに、上述のカーボンの表面官能基による作用も十分に得られることで、SOCが低い状態でのサルフェーション抑制効果が得られると推測される。
Dが2.1×104未満であると、孔一個当たりの負極合剤中に存在するカーボンの数が、カーボンによる合剤中に良好な導電パスを形成するために必要な量より少なくなる。また、積(R×W)が小さくなることで、上述のカーボンの表面官能基により得られる作用が少なくなる。
Dが3.4×106を超えると、孔一個当たりの負極合剤中に存在するカーボンの数が多くなり過ぎて、負極合剤中の鉛同士の接合力が弱くなり、格子状基板から負極合剤が落下する可能性がある。また、負極合剤ペーストを格子状基板の孔に充填するとともに格子状基板の表裏面に付着させて、負極充填板(化成により負極板となるもの)を作製する際に、Dが3.4×106を超えるか、積R×Wが420以上であると、カーボンの作用で負極合剤ペーストが硬化して、負極合剤ペーストを格子状基板の孔に充填しにくくなる。
積(R×W)が170(m2)以下であると、負極合剤ペーストの状態が格子状基板の孔への充填に適した柔らかさとなる。よって、負極合剤ペーストの充填し易さの点で、積(R×W)は170(m2)以下であることが好ましい。
なお、製品として出荷される鉛蓄電池は、化成により負極合剤中の鉛元素が海綿状鉛となっているものであるが、負極合剤中の海綿状鉛の量は充電状態(SOC)によって変化する。例えば、製造してから使用開始するまでの間に、自己放電が進んでSOCが低下すると、負極合剤において海綿状鉛が減少して硫酸鉛が増加する。
また、負極充填板は、通常、鉛蓄電池用鉛粉を含む負極合剤ペーストを用いて製造される。鉛蓄電池用鉛粉は、単体の鉛(Pb)と、鉛化合物である酸化鉛(PbO)との混合粉末であり、酸化鉛(PbO)に含まれるPbの割合は、Pbの原子量が207.2、Oの原子量が16.0であることから、92.8質量%である。よって、鉛蓄電池用鉛粉中の鉛(Pb)および酸化鉛(PbO)の混合比と、酸化鉛(PbO)については質量を0.928倍にしたPb換算値を用い、鉛蓄電池用鉛粉に含まれる鉛元素(Pb)の質量を算出できる。未使用の鉛蓄電池の負極板中に存在する鉛元素(Pb)の質量は、強い衝撃等で活物質が剥離または脱落しない限りは、充電状態(SOC)によって変化しないし、化成前後でも変化しない。
一態様の鉛蓄電池における「鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)」は、「鉛元素(Pb)100g当たりのカーボンの含有量W(g)」を意味している。負極合剤(化成後)の鉛元素(Pb)には、単体として存在する鉛(海綿状鉛など)と、化合物として存在する鉛(硫酸鉛や酸化鉛など)が含まれ、これらに含まれる鉛元素の合計値をWの算出に使用する。
また、一態様の鉛蓄電池における「鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)」は、負極充填板が、鉛蓄電池用鉛粉(単体の鉛と酸化鉛との混合粉末)を含む負極合剤ペーストを用いて製造される場合、以下の方法で算出された値と同じである。
負極合剤ペースト中の鉛蓄電池用鉛粉の質量およびカーボンの質量を用いて、鉛蓄電池用鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)を算出する。鉛蓄電池用鉛粉100g当たりの鉛粉末の含有量と、酸化鉛粉末の含有量(質量)を0.928倍にしたPb換算値と、両者の混合比とに基づいて、鉛蓄電池用鉛粉に含まれる鉛元素の含有率Zを算出する。上記YをZで除算してWを算出する(W=Y/Z)。
[実施形態]
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
本発明の実施形態の液式鉛蓄電池は、従来公知のモノブロックタイプの電槽と、蓋と、六個の極板群を有する。電槽は、隔壁により六個のセル室に区画されている。六個のセル室は電槽の長手方向に沿って配列されている。各セル室に一つの極板群が配置されている。
各極板群は、複数枚の負極板および正極板と、セパレータと、負極ストラップと、正極ストラップと、負極ストラップから立ち上がる負極中間極柱と、正極ストラップから立ち上がる正極中間極柱を有する。複数枚の負極板および正極板は、セパレータを介して交互に配置されている。極板群を構成する負極板の枚数Mnは正極板の枚数Mpよりも一枚多いが、同枚数でも構わない。
この実施形態の液式鉛蓄電池は、図1に示す負極板1を有する。
負極板1は、負極集電体2と負極合剤3で構成されている。負極集電体2は、長方形の格子状基板21と、格子状基板21から上側に突出する耳22と、格子状基板21から下側に突出する足23で構成されている。格子状基板21は、長方形の外周縁を形成する外枠211と、外枠211の対向する二本の縦部間に渡された複数の横骨212と、外枠211の対向する二本の横部間に渡された複数の縦骨213とで構成され、これらで形成された網目状の孔214を有する。負極集電体2は、主として鉛を含む合金で形成されている。
図2に示すように、格子状基板21の全ての孔214の中および格子状基板21の表裏面の全体に、負極合剤3が保持されている。なお、図1は、負極合剤3を部分的に除去して、負極集電体2の一部を露出させた図になっている。
負極合剤3は、負極活物質である鉛とカーボンブラックと補強繊維などを含む。負極合剤3に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)、負極合剤3に含まれている鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)、および格子状基板21を構成する各孔214の開口面積の平均値S(m2)を用い、下記の(1)式で示されるDが、2.1×104以上3.4×106以下の範囲にある。
D=R×W/S‥‥(1)
また、負極合剤3に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)と負極合剤3に含まれている鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)との積(R×W)が170(m2)以下になっている。
正極板は、正極集電体と正極合剤で構成されている。正極集電体は、長方形の格子状基板と、格子状基板から上側に突出する耳と、格子状基板から下側に突出する足で構成されている。格子状基板の全ての孔の中および格子状基板の表裏面の全体に、正極合剤が保持されている。正極集電体も、主として鉛を含む合金で形成されている。正極合剤は、従来品と同様の構成である。具体的には、正極活物質である二酸化鉛を主とする鉛酸化物と、補強繊維などを含む。
各セル室において、負極ストラップおよび正極ストラップは、全ての負極板および正極板の上方に配置され、同極性の耳同士を極板群の厚さ方向に連結している。
実施形態の液式鉛蓄電池は、従来公知の方法によって、例えば以下の方法で製造することができる。
まず、極板群を構成する負極充填板(化成により負極板となるもの)と正極充填板(化成により正極板となるもの)を作製する。
負極充填板の作製は、格子状基板21に耳22および足23が一体化された形状の負極集電体2を鉛合金で形成し、負極合剤ペーストを格子状基板21の孔214に充填するとともに、格子状基板21の表裏面に付着させた後、熟成および乾燥することで行う。
負極合剤ペーストとしては、水と、鉛蓄電池用の鉛粉と、カーボンブラックと、補強繊維などを含むものを用意する。なお、カーボンブラック以外のカーボンとしては、カーボンナノチューブ、活性炭、フラーレンなどが使用できる。
正極充填板の作製は、正極格子状基板に耳および足が一体化された形状の正極集電体を鉛合金で形成し、正極合剤ペーストを正極格子状基板の孔に充填するとともに、正極格子状基板の表裏面に付着させた後、熟成および乾燥することで行う。正極合剤ペーストとしては、水と、鉛蓄電池用の鉛粉と、補強繊維などを含むものを用意する。
これらの正極充填板および負極充填板を、ポリエチレン製などのセパレータを挟んで交互に積層することで積層体(ストラップ未形成の極板群)を得る。このとき、正極充填板または負極充填板を、二枚に折り曲げられて折り目を下にしたセパレータ内に配置した後、ギアシール等で各セパレータの左右の端を封止して、袋状セパレータを形成してもよい。
次に、この積層体を電槽の各セル室に配置した後、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、正極充填板の耳同士を接続した正極ストラップおよび負極充填板の耳同士を接続した負極ストラップを形成する。
次に、極板群が電槽の各セル室に配置された状態で、抵抗溶接を行って隣接するセル間を電気的に直列に接続する。次に、電槽の上面と蓋の下面を熱で溶かして蓋を電槽に載せ、熱溶着により電槽に蓋を固定する。なお、蓋を電槽に載せる際に、極柱を蓋の貫通孔に通す。
その後、蓋を貫通する孔として設けた注液孔からセル室内に、電解液として硫酸アルミニウムを添加した希硫酸水溶液を注入した後、注液孔を液口栓で塞ぎ、未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた。その後、通常の条件で電槽化成を行って完成品とした。
この実施形態の液式鉛蓄電池は、負極合剤3に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)、負極合剤3に含まれる鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)、および格子状基板21を構成する各孔214の開口面積の平均値S(m2)を用い、上記(1)式で示されるDが、2.1×104以上3.4×106以下の範囲にある負極板1を有するため、SOCが低い状態でのサルフェーション抑制効果が得られる。また、積(R×W)が170(m2)以下になっているため、負極充填板の製造時に、格子状基板21の孔214に負極合剤ペーストを充填し易いという効果も得られる。
[試験電池の作製]
実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造の鉛蓄電池用の負極として、サンプルNo.1〜No.28の鉛蓄電池用負極板を作製した。対象となる鉛蓄電池は、具体的には、M−42型(外形寸法および端子形状はJIS B20と同じ)のアイドリングストップ用液式鉛蓄電池であって、20時間容量が40Ah、動作電圧が12Vの液式鉛蓄電池である。
サンプルNo.1〜No.28の鉛蓄電池用負極板は、表1に示すように、それぞれ、負極合剤3に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)、負極合剤3に含まれる鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)、および格子状基板21を構成する各孔214の開口面積の平均値S(m2)の少なくともいずれかが異なるものであり、それ以外の点は全て同じ構成を有する。
<正極充填板の作製>
《正極集電体の作製》
Pb−Ca−Sn系合金を用いて、JIS−Bサイズの重力鋳造基板を、一枚あたり約35gの重さで作製した。
《正極合剤ペーストの作製》
鉛蓄電池用の鉛粉(粒径が数μm〜30数μmである鉛と酸化鉛との混合粉末で、質量比での混合比が鉛:酸化鉛≒25:75)100gに対し、酸化ビスマス粉末を0.07g、ポリエステル繊維(補強繊維)を0.1g、それぞれ添加して混合した。
このようにして得られた混合物に、20℃での比重が1.37である希硫酸水溶液を、正極合剤に含まれる鉛粉100gに対して硫酸分が5.4gとなるように加えて混練することで、正極合剤ペーストを得た。得られたペーストを、上述の正極集電体の格子状基板の孔に充填するとともに格子状基板の表裏面に付着させた後、通常の条件による熟成乾燥工程を行い、正極充填板を得た。
<負極充填板の作製>
《負極集電体の作製》
負極集電体2として、格子状基板21を構成する各孔214の開口面積の平均値(以下、「平均孔面積」と称する。)Sが50mm2、100mm2、150mm2、180mm2であるものを用意した。外枠211をなす長方形の寸法を100mm×100mmで一定にし、外枠211、横骨212、および縦骨213の幅もそれぞれ同じにして、横骨212および縦骨213の数を変えることにより、平均孔面積Sの値を変化させた。
平均孔面積Sが50mm2(=50×10-62)の負極集電体では、横骨212を13本、縦骨213を14本とした。これに対応する格子状基板21が図1に示されている。平均孔面積Sが100mm2の負極集電体では、横骨212を10本、縦骨213を11本とした。平均孔面積Sが150mm2の負極集電体では、横骨212を8本、縦骨213を8本とした。平均孔面積Sが180mm2の負極集電体では、横骨212を7本、縦骨213を7本とした。
各負極集電体は、Pb−Ca−Sn系合金を用いて、連続鋳造法により、一枚あたり約16g〜22gの重さで作製されたものである。
《負極合剤ペーストの作製》
(第一の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉(粒径が数μm〜30数μmである鉛と酸化鉛との混合粉末で、質量比での混合比が鉛:酸化鉛≒25:75)100gに対し、比表面積が5m2/gであるカーボンブラックを0.1g、硫酸バリウムを1.0g、ポリエステル繊維(補強繊維)を0.1g、それぞれ添加して混合した。
このようにして得られた混合物に、鉛粉100gに対して0.2gとなる量のリグニンを含むリグニン水溶液を加えた後、さらに、20℃での比重が1.37である硫酸水溶液を、鉛粉100gに対して硫酸分が4.15gとなるように加えて混練することで、第一の負極合剤ペーストを得た。つまり、第一の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.1gである。
(第二の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が5m2/gであるカーボンブラックを0.2g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第二の負極合剤ペーストを得た。つまり、第二の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.2gである。
(第三の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が5m2/gであるカーボンブラックを0.5g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第三の負極合剤ペーストを得た。つまり、第三の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.5gである。
(第四の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が70m2/gであるカーボンブラックを0.1g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第四の負極合剤ペーストを得た。つまり、第四の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.1gである。
(第五の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が70m2/gであるカーボンブラックを0.2g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第五の負極合剤ペーストを得た。つまり、第五の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.2gである。
(第六の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が70m2/gであるカーボンブラックを0.5g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第六の負極合剤ペーストを得た。つまり、第一の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.5gである。
(第七の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が800m2/gであるカーボンブラックを0.1g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第七の負極合剤ペーストを得た。つまり、第七の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.1gである。
(第八の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100質量部に対し、比表面積が800m2/gであるカーボンブラックを0.2質量部添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第八の負極合剤ペーストを得た。つまり、第八の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.2gである。
(第九の負極合剤ペースト)
鉛蓄電池用の鉛粉100gに対し、比表面積が800m2/gであるカーボンブラックを0.5g添加した以外は、第一の負極合剤ペーストと同じ方法で、第九の負極合剤ペーストを得た。つまり、第九の負極合剤ペーストに含まれている鉛粉100g当たりのカーボンの含有量Y(g)は0.5gである。
《負極合剤ペーストの格子状基板への充填など》
No.1〜No.3では、第一の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが150mm2(No.1)、100mm2(No.2)、50mm2(No.3)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。No.4〜No.7では、第二の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが180mm2(No.4)、150mm2(No.5)、100mm2(No.6)、50mm2(No.7)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。
No.8〜No.11では、第三の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが180mm2
(No.8)、150mm2(No.9)、100mm2(No.10)、50mm2(No.11)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。No.12〜No.14では、第四の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが180mm2(No.12)、150mm2(No.13)、50mm2(No.14)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。
No.15とNo.16では、第五の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが100mm2(No.15)、50mm2(No.16)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。No.17とNo.18では、第六の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが150mm2(No.17)、50mm2(No.18)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。
No.19〜No.21では、第七の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが150mm2(No.19)、100mm2(No.20)、50mm2(No.21)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。No.22〜No.24では、第八の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが150mm2(No.22)、100mm2(No.23)、50mm2(No.24)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。
No.25〜No.28では、第九の負極合剤ペーストを用い、平均孔面積Sが180mm2(No.25)、150mm2(No.26)、100mm2(No.27)、50mm2(No.28)である各格子状基板の孔への充填と表裏面への塗布を行った。
次に、通常の条件による熟成乾燥工程を行い、No.1〜No.28の負極充填板を得た。
なお、試験No.25〜No.28の負極充填板は、格子状基板の表裏面からペーストが落ちている部分や、ペーストが充填されていない孔が目視で確認できたため、ペースト充填不良と判断して、以降の工程を行わなかった。つまり、No.1〜No.24の負極充填板を用いて以下の工程を行うことにより、No.1〜No.24液式鉛蓄電池を作製した。
<ストラップ形成による正極板および負極板の固定>
まず、上述の方法で作製した正極充填板を六枚と、サンプルNo.毎に同じ七枚の負極充填板を用意した。次に、七枚の負極充填板をそれぞれ袋状セパレータ内に収納し、この負極充填板入りセパレータと正極充填板とを交互に積層することで、正極充填板を六枚、および負極板を七枚有する積層体を、サンプルNo.1〜24で六個ずつ得た。
次に、サンプルNo.毎に、得られた六個の積層体を、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた後、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用い、キャビティ内に溶融金属(鉛合金)を供給するとともに、耳を下側に向けた状態で積層体の耳を挿入することで、まず、各耳同士を接続する正極ストラップおよび負極ストラップを形成した。続いて、配列方向両端のセル室に配置された負極ストラップおよび正極ストラップには小片と極柱を形成し、それ以外の各正極ストラップおよび負極ストラップには、それぞれ正極中間極柱および負極中間極柱を形成した。
次に、電槽のセル室同士を仕切る隔壁を挟んで対向する正極中間極柱および負極中間極柱を、隔壁に設けた貫通孔の部分で抵抗溶接することにより接続した。この状態では、電槽の各セル内に未化成の極板群が配置されている。
この状態の電槽と蓋を、実施形態に記載された方法で熱溶着することで、No.1〜24の未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた。
<電槽化成>
20℃での比重が1.22である希硫酸水溶液に、硫酸アルミニウムを添加して、アルミニウムイオン濃度0.10mol/lの電解液を調製した。この電解液を、No.1〜24の未化成の液式鉛蓄電池の蓋の注液孔から、電槽の各セル室内へ注入した。その後、所定の電流値で電槽化成を行って希硫酸比重1.285(20℃換算値)のNo.1〜24の液式鉛蓄電池を得た。
電槽化成により、負極充填板が有する合剤は、海綿状の鉛(負極活物質)と、カーボンブラックと、アルミニウムイオンを含む負極合剤に変化した。また、化成後の正極板が有する合剤は、二酸化鉛(正極活物質)を含む正極合剤に変化した。その結果、No.1〜24の液式鉛蓄電池では、負極合剤に含まれている鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)が、表1に示す各値となっていた。
なお、使用した鉛蓄電池鉛粉では、鉛粉100g当たりの鉛(Pb)含有量が約25g、酸化鉛(PbO)含有量が約75gであるため、鉛粉100g当たりの鉛元素(Pb)の含有量は約94.9gとなる。この鉛元素の質量は化成前後で不変である。
[性能試験]
得られたNo.1〜24の液式鉛蓄電池について、以下の方法でアイドリングストップ寿命試験を行った。この試験は、「日本電池工業会規格 SBA 0101:2014 アイドリングストップ寿命試験」に準拠した方法であり、試験手順は以下に示す通りである。
まず、液式鉛蓄電池を25℃の気相中で、充電電流0.1ItAでSOCが100%になるまで充電した後、この液式鉛蓄電池の20時間率容量C20,n及び20時間率電流I20を求めた。次に、25℃の気相中でI20の18.3倍の電流値での59秒間の定電流放電、続いて300Aの電流値での1秒間の定電流放電と、これに続く100Aの定電流かつ14.0Vの定電圧での60秒間の定電流・定電圧充電と、からなる一連の充放電サイクルを繰り返した。
そして、試験中の放電時電圧が7.2Vを下回った時点を寿命と判断し、それまでの上記充放電サイクルの繰り返し数をSBA寿命として測定した。なお、試験中は3600サイクル毎に、40時間の放置時間を設けた。
No.1〜24の液式鉛蓄電池で測定された各SBA寿命について、試験No.7の液式鉛蓄電池の結果を100とした場合の相対値を算出した。その結果を、各液式鉛蓄電池の負極板の構成(負極合剤+格子状基板)および負極充填板の構成(負極合剤ペースト)とともに表1に示す。
Figure 2020107498
試験No.7の鉛蓄電池は、SBA寿命が32000サイクルと十分に長いアイドリングストップ寿命を有し、SOCが低い状態での寿命特性に優れたものとなっている。よって、SBA寿命の相対値が100以上であれば、SOCが低い状態での寿命特性に優れた鉛蓄電池であると判断できる。
表1に示すように、本発明の一態様の条件である、(b)負極合剤に含まれているカーボンの比表面積R(m2/g)、負極合剤に含まれている鉛100g当たりのカーボンの含有量W(g)、および負極板の格子状基板を構成する各孔の開口面積の平均値S(m2)によるD(=R×W/S)が、2.1×104以上3.4×106以下の範囲にあることと、(c)比表面積R(m2/g)と含有量W(g)との積(R×W)が420(m2)未満であることの両方を満たすもの(実施例)は、これらの要件のいずれか一つ以上を満たさないものと比較して、SBA寿命が長く、ペースト充填不良も生じなかった。
また、実施例に分類されるサンプルの中では、D(=R×W/S)が1.4×105以上3.4×106以下の範囲にあるNo.14〜No.24の鉛蓄電池は、SBA寿命の相対値が119以上と特に大きかった。
なお、実施例に分類されるサンプルは全て、比表面積R(m2/g)と含有量W(g)との積(R×W)が170(m2)以下になっている。これらのサンプルは、比表面積R(m2/g)と負極合剤ペーストの鉛粉100g当たりのカーボンの含有率Yとの(R×Y)が160(m2)以下になっており、ペースト充填性に優れていた。
1 負極板
2 負極集電体
21 格子状基板
211 格子状基板の外枠
212 格子状基板の横骨
213 格子状基板の縦骨
214 格子状基板の孔
22 負極板の耳
3 負極合剤(鉛とカーボンを含む合剤)

Claims (3)

  1. 鉛とカーボンとを含む負極合剤が格子状基板に保持されている鉛蓄電池用負極板であって、
    前記カーボンの比表面積R(m2/g)、前記鉛100g当たりの前記カーボンの含有量W(g)、および前記格子状基板を構成する各孔の開口面積の平均値S(m2)を用い、下記の(1)式で示されるDが、2.1×104以上3.4×106以下の範囲にあり、
    前記比表面積R(m2/g)と前記含有量W(g)との積(R×W)が420(m2)未満であることを特徴とする鉛蓄電池用負極板。
    D=R×W/S‥‥(1)
  2. 前記積(R×W)は170(m2)以下である請求項1記載の鉛蓄電池用負極板。
  3. 請求項1または2に記載の鉛蓄電池用負極板を有することを特徴とする液式鉛蓄電池。
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