JP2020094993A - カートリッジ及び分析システム - Google Patents

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Abstract

【課題】 試料の分析が完了するまでに要する時間を短縮する。【解決手段】 本明細書に開示のカートリッジは、エマルジョン中の分散相に含まれる対象物の濃度分析に用いられるカートリッジであって、前記エマルジョンを生成する生成部と、前記エマルジョンを保持する第1の空間と、前記エマルジョンに含まれる対象物を観察する第2の空間と、前記分散相の前記第1の空間から前記第2の空間への流動を促進し、且つ連続相の前記第2の空間から前記第1の空間への流動を促進する促進部と、を備えることを特徴とする。【選択図】 図1

Description

本明細書の開示は、カートリッジ及び分析システムに関する。
従来、種々の核酸が混在する試料から、特定の塩基配列を含む核酸(標的核酸)の濃度を定量分析する方法として、デジタルPCR(dPCR;digital Polymerase Chain Reaction)法が知られている。デジタルPCR法において、サンプルを含む反応液を物理的に独立した多数の反応場に分割する方法として、反応液の液滴をオイル中に形成する方法、すなわち、油中水型エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成する方法がある。この方法では、油中水型エマルジョン中の1つ1つの液滴を反応場として用いる(特許文献1)。
特表2012−503773
しかしながら、特許文献1に開示の試料の分析に用いられる装置は、試料の分析が完了するまでに要する時間が長かった。
本明細書の開示は、試料の分析が完了するまでに要する時間を短縮することを目的の一つとする。
本明細書に開示のカートリッジは、エマルジョン中の分散相に含まれる対象物の濃度分析に用いられるカートリッジであって、前記エマルジョンを生成する生成部と、前記エマルジョンを保持する第1の空間と、前記エマルジョンに含まれる対象物を観察する第2の空間と、前記分散相の前記第1の空間から前記第2の空間への流動を促進し、且つ連続相の前記第2の空間から前記第1の空間への流動を促進する促進部と、を備えることを特徴とする。
本明細書の開示によれば、試料の分析が完了するまでに要する時間を短縮することができる。
第1の実施形態に係るカートリッジの構成の一例を示す図。 第1の実施形態に係るカートリッジを用いた試料の分析の全体の処理手順の一例を示すフローチャート。 第1の実施形態に係るカートリッジの構成による効果の一例を示す図。 第1の実施形態の変形例に係るカートリッジの構成の一例を示す図。 第1の実施形態の変形例に係るカートリッジの構成の一例を示す図。 第1の実施形態の変形例に係るカートリッジの構成の一例を示す図。 第2の実施形態に係るカートリッジの構成の一例を示す図。 第2の実施形態に係るカートリッジを回転させた場合の一例を示す図。
以下に、本明細書に開示のカートリッジの好ましい実施形態を添付の図面に基づいて詳細に説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本明細書に開示のカートリッジの技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。また、本明細書の開示は下記実施形態に限定されるものではなく、本明細書の開示の趣旨に基づき種々の変形(各実施例の有機的な組合せを含む)が可能であり、それらを本明細書の開示の範囲から除外するものではない。即ち、後述する各実施例及びその変形例を組み合わせた構成も全て本明細書に開示の実施形態に含まれるものである。
なお、以下本明細書においては、カートリッジの底面をX軸とY軸で示し、Z軸はカートリッジの高さ方向を示すものとする。すなわち、カートリッジは、第1の軸と第2の軸と、前記2つの軸で規定される底面に垂直な第3の軸とで形成される3次元空間上の前記底面に設置されたカートリッジである。また、カートリッジの底面とは、載置する面に接する面でもよいし、カートリッジの空間を形成する面のうち載置する面に平行な面でもよい。
<第1の実施形態>
第1の実施形態に係るカートリッジは、試料の分析に用いることができるカートリッジである。ここでいう試料とは、検体そのものであってもよいし、検体に対して精製や濃縮、分析対象物の化学修飾や断片化など、分析のための前処理や調整を施したものであってもよい。分析対象物は、例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、酵素などが挙げられ、これらが共存していてもよい。分析対象物は、核酸、ペプチド、タンパク質、酵素の少なくともいずれかが共有結合等で結合または付着した分子、マイクロ粒子、ナノ粒子、さらにはウイルス、細菌、細胞などであってもよい。
分析方法の一例としては、デジタルPCR法が知られている。デジタルPCR法では、分析の対象とする核酸を含む試料を、核酸を増幅するための増幅試薬、核酸を検出するための蛍光試薬などと混合して希釈し、物理的に独立した多数の反応場に分割する。エマルジョンに含まれる分散相はデジタルPCR法において反応場として用いられることがある。そして、多数の反応場(分散相)のそれぞれにおいて独立にPCRが行われ、核酸が増幅される。増幅後に蛍光試薬により核酸を検出し、当該蛍光試薬のシグナルが検出された反応場の数(陽性反応場数)と、増幅後にシグナルが検出されなかった反応場の数(陰性反応場数)とに基づいて、試料中の核酸の濃度を推定することができる。なお、その他の分析物の絶対量を推定する方法などに用いてもよい。
以下、図1を用いて本実施形態に係るカートリッジの構成および濃度分析システムを用いたデジタルPCRの一連の処理を説明する。
図1は本実施形態に係るカートリッジ1の外観を示す図である。
図1(a)はカートリッジ1の平面図である。図1(b)はカートリッジ1のA−A断面を示す矢視図である。なお、図1(b)において、カートリッジ1の斜線部は樹脂等で形成される部分を示しているが、図1(a)においては内部の構造を示すために上面の樹脂を便宜的に除いて示している。
以下、図1(b)を用いてカートリッジ1の構成を説明する。
第1の部材2は、液体を注入可能な開口を有する筒状の部材である。
第2の部材3は、第1の部材2と同様に液体を注入可能な開口を有する筒状の部材である。
生成部8は、複数の孔を有しており、第1の部材2の開口から注入された第1の液体が複数の孔を透過することで互いに物理的に独立した複数の反応場、すなわち液滴(分散相)を生成する。すなわち、油中水滴型のエマルジョンが生成される。生成部8は例えば、膜状の部材に孔が複数2次元的に配置された部材であり、連続気泡の多孔質体や、繊維を縦横に配置したメッシュ、単一部材に貫通孔を配置したマイクロチャンネルが使用される。本実施形態では、生成部8には多孔質膜を用いる。生成部8として使用される多孔質膜の孔の直径は、およそ20[μm]であると望ましいが上記に限定されない。また、生成部8は、第1の部材2に備えられていることが望ましい。さらには、第1の部材2の開口に略平行に備えられていることが望ましい。なお、液滴生成が可能な位置であれば生成部8が備えられる位置は上記に限定されない。
第1の空間4は、第1の部材2と繋がっており生成部8で生成された分散相を保持する。
第2の空間5では、第1の空間4でPCR処理を行った分散相が移送され、分散相内の対象物の観察を行う。そのため、第2の空間5は観察のために透明な素材で構成されることが望ましい。具体的にはガラス、ポリカーボネート樹脂(PC)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP)、アクリル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリジメチルシロキサン樹脂(PDMA)などを使用することが出来る。また、対象物の観察を行う場合、液滴同士が高さ方向に重なると定量の精度が低下するため第2の空間のZ軸方向の高さは、生成される液滴の液滴径と同程度であることが望ましい。すなわち、本実施形態においては、およそ20[μm]であると望ましい。
また、第1の空間4と、第2の空間5はZ軸方向に互いに異なる高さを有する。具体的には、図1に示すようにカートリッジの空間内の底面に直交する方向において、第1の空間は、第2の空間に比べて底面から上面までの高さが高い。上記の理由は、第1の空間4に保持した分散相に対して行うPCR処理工程において発生する気泡をカートリッジの上面の方向に逃がすことができるため分散相が合一する可能性を低減できるからである。さらに、第1の空間4と第2の空間5との間の高さの差分で生まれる壁部は、傾斜をつけて第1の空間4から第2の空間5へと分散相が流動しやすいようにしてもよい。また、カートリッジ1は、第1の空間4と第2の空間5の上面の高さが一致しているが、下面の高さを一致させるような構成でもよい。
仕切り部材6は、第2の空間5のうち、第1の空間4の上部にせり出した床面7の両側に対向するように設けられており、対向する1対の面の間隔は第1の空間4から第2の空間5に向かって広くなっている。本実施形態では、仕切り部材6のZ軸方向の高さは図1(b)に示すようにカートリッジ1の上面に非接触に設ける。このとき、カートリッジ1の上面との隙間は生成される液滴の液滴径未満であることが望ましい。なお、仕切り部材の高さや形状は上記に限定されず、カートリッジ1の上部に接するような高さで設けてもよいし、部分的に接するように設けてもよい。また、トンネルのような形状で設けてもよい。さらに、本実施形態では面の間隔が第1の空間4から第2の空間5に向かって広くなるように設けたが、第1の空間4から第2の空間5に向かって狭くなるように設けてもよいし、互いに平行に設けてもよい。また、仕切り部材は、1対の対抗する面を複数備える構成でもよい。すなわち、場所や形状に依らず、第1の空間4から第2の空間5へと流れる方向と直交する方向において、連続相が流れ込む空間と分散相が流れ込む空間とを異ならせることで分散相と連続相の流動を促進することができればよい。
床面7は、第1の空間4と第2の空間5の境界を跨って第1の空間4の上部にせり出した部分であり、連続相が流れ込む空間となる。
次に、図2のフローチャートを用いて本実施形態における全体の処理を説明する。
(S11)(第2の液体(油相)を注入する)
ステップS11において、第2の液体(油相)をカートリッジ1に注入する。第2の液体(油相)は、油と界面活性剤とを含む。油相は水相と相溶せず分離する溶剤から成り、典型的には脂肪族炭化水素やシリコーンオイル等のオイルから成る。
また、カートリッジ1に第2の液体を注入する注入手段には、シリンジ等の所定の容量の液体を吐出する手段や、流路内の空気を加圧または減圧するポンプやポンプとバルブの組み合わせなどを用いることができる。すなわち、注入手段は、カートリッジ1内に第2の液体を注入できる機能を有する任意の手段により実現される。
本ステップにおいて、第2の液体(油相)は第2の部材3の開口から注入することにより、生成部8を透過せずにカートリッジ1に充填することができるため充填時間は短くなる。なお、第2の液体(油相)は、第1の部材2の開口から注入されてもよい。また、注入手段によって注入される第2の液体(油相)は、カートリッジ1全体を満たすように注入し、少なくとも生成部8が第2の液体(油相)に浸かる程度の量が注入されることが望ましい。
(S12)(第1の液体(水相)を注入する)
ステップS12において、第1の液体(水相)をカートリッジ1に注入する。第1の液体(水相)は反応液で構成され、反応液は水と試料と増幅試薬と蛍光試薬とを含有する。すなわち、第1の液体(水相)は、第2の液体(油相)よりも比重が大きい。なお、反応液の構成はこれに限定されない。また、注入手段には、シリンジ等の所定の容量の液体を吐出する手段や、流路内の空気を加圧または減圧するポンプやポンプとバルブの組み合わせなどを用いることができる。すなわち、水相注入手段305は、カートリッジ100内に第1の液体(水相)を注入できる機能を有する任意の手段により実現される。なお、ステップS11とステップS12は、ステップS13でエマルジョンを生成できさえすればフローの順番はこれに限定されない。
(S13)(エマルジョンを生成する)
ステップS13において、駆動手段が第1の部材2からカートリッジ1内を加圧する、もしくは第2の部材3からカートリッジ1内を減圧することにより、カートリッジ1内に充填された第2の液体(油相)を駆動させる。または、両方から圧力を加えることによりカートリッジ100内に充填された第2の液体(油相)を駆動させる。そして、第2の液体(油相)の駆動に伴い、ステップS12において生成部8の上面に充填された第1の液体(水相)が生成部102を透過し液滴が生成され、第1の空間4に保持される。すなわち、第2の液体(油相)を連続相、第1の液体(水相)を含む液滴を分散相とするエマルジョンが生成される。(以下、第1の液体(水相)を分散相、第2の液体(油相)を連続相と記述する。)すなわち、生成部8はエマルジョンを生成する生成部の一例に相当する。
なお、本ステップでは、カートリッジ1が樹脂の薄い層などの機械強度の低い素材で形成されている場合は、破壊や剥離が生じないように第2の部材3から駆動手段により減圧することで連続相を駆動させることが望ましい。一方、カートリッジ1が機械強度の高い素材であれば第1の部材2から加圧して連続相を駆動させてもよい。
また、第1の部材2と第2の部材3のうち駆動手段を用いる方の部材には耐圧栓をつけることで圧力の抜け漏れを防ぐことができる。なお、耐圧栓は必ずしも必要ではない。
また、駆動手段はステップS11とステップS12で用いた注入手段を用いてもよいし、これらとは異なる手段を新たに用いてもよい。すなわち、駆動手段は圧力を加えることで液体の駆動が可能な手段であれば種々の手段を用いることができる。
なお、本実施形態ではカートリッジ1内でエマルジョンを生成したが、別の装置でエマルジョンを生成して第1の部材2から注入し第1の空間4に保持してもよい。この場合、第1の部材2には生成部8を設けなくてもよいし、第2の部材3はなくてもよい。
(S14)(第1の空間に保持された分散相に熱サイクルを掛けPCR反応をさせる)
ステップS14において、ステップS13で生成された液滴に含まれる核酸試料に対するPCR処理が行われる。具体的には、例えばペルチェ素子とコントローラを含むサーマルサイクラ―を用いて、カートリッジ1の第1の空間4に保持された分散相内で核酸増幅反応を発生させる。核酸の増幅反応としては、分散相(反応場)をサーマルサイクルに供することで反応を進行させるPCR法やLCR(Ligase Chain Reaction)法の他に、液滴(反応場)をサーマルサイクルに供さずに温度調整することで反応を進行させるSDA(Strand Displacement Amplification)法、ICAN(Isothermal andChimeric primer−initiated Amplificationof Nucleic acids)法、LAMP(Loop−Mediated Isothermal Amplification)法なども用いることができる。なお、温度調整手段として用いられる装置や核酸増幅の方法は上記に限定されない。
(S15)(分散相を第1の空間から第2の空間に移動させる)
ステップS15において、PCR処理によって核酸増幅反応を発生させた分散相を第1の空間4から第2の空間5へと移動させる。本実施形態では、図3(a)および図3(b)に示すように傾動手段21が角度θでカートリッジ1を傾動させることにより第1の空間4に保持されていた分散相を第2の空間5へと移動させる。このとき、仕切り部材6が設けられた第1の空間4の上部にせり出した床面7があることにより、分散相はその両側から沈降するように第2の空間5へと移動する。また、分散相よりも比重の小さい連続相は、床面7が設けられた中央部を通って上昇する。上記のような構成を備えることにより、液滴内の対象物の観察を行われる第2の空間5に分散相を効率的に充填することができる。
この効果について、床面7が設けられていない形態のカートリッジと比較して詳述する。図3(c)は、床面7が設けられていない形態のカートリッジを、図3(a)と同様に角度θで傾動させた状態を示している。このとき、第1の空間4に保持された分散相は一様に第2の空間5へと沈降する。一方、第2の空間5に予め充填されている連続相は、分散相に比べて比重が小さいため逆に上昇する方向に流動しようとする。しかしながら、図3(c)もしくは(e)に示すように、このカートリッジの構成では、分散相が沈降していく空間と連続相が上昇しようとする空間が同じ空間になる。そのため、一様に沈降する分散相によって連続相が上昇できる流路が小さくなる。その結果、連続相が上昇することにより生まれる、分散相が流れ込める空間が形成されるまでに時間がかかってしまい、分散相の流動速度も遅くなる。
一方、本実施形態に係るカートリッジでは、仕切り部材6が設けられた床面7があることにより、図3(a)もしくは(d)に示すように分散相は第2の空間5の両側の空間を沈降し、連続相は第2の空間5の中央の空間を上昇する。そのため、連続相が上昇するにあたって分散相によって流路が遮られることがないため、効率的に分散相の移動をすることができる。
すなわち、仕切り部材6が設けられた床面7は、分散相の第1の空間から第2の空間への流動を促進し、且つ連続相の第2の空間から第1の空間への流動を促進する促進部の一例に相当する。
なお、本実施形態では、中央に仕切り部材6を備えた床面7を設けることにより、分散相と連続相の流動を促進したが、どちらかの側面に寄せて設けてもよいし、複数設けてもよい。また、本実施形態ではハの字型の床面7を設けたが、形状はこれに限定されない。
(S16)(分散相内の核酸増幅産物有無を観察する)
ステップS16において、第2の空間5に充填された分散相の内部に含まれる対象物の蛍光などの光を計測する。すなわち、S14において増幅された試料中の分析対象物の分析が行われる。蛍光は照明手段(不図示)と観察手段(不図示)とで計測され、照明手段は、所定の波長の光を液滴充填領域105に保持された複数の液滴に照射する。照明手段としては、LEDライト、ハロゲンランプおよび蛍光灯などを用いることができる。観察手段は、光が照射された複数の液滴のそれぞれから発せられたシグナルを検出し、分散相内の増幅産物の有無を観察する。また、液滴径の測定を行う。観察手段としては、フォトダイオードやラインセンサ、イメージセンサ(撮像素子)等を用いることができ、中でも、多数の液滴について一括してシグナルの検出ができる点で、イメージセンサを用いることが好ましい。イメージセンサとしては、CCD(電荷結合素子)、CMOS(相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサを用いることができる。観察手段は、イメージセンサを備えたデジタルカメラであってもよい。
なお、本ステップS16では、カートリッジ1を傾動手段21によって傾動させたまま観察をおこなってもよいし、水平(θ=0)に戻してから観察を行ってもよい。また、本実施形態において観察手段は、カートリッジ1を形成する樹脂の透過率等に鑑みて、樹脂の薄い上面から撮像することが望ましいが、上記に限定されない。
(S17)(核酸増幅前の試料の核酸濃度を推定する)
ステップS17において、S16で行われた観察の結果から試料の全体積に対する増幅産物を含まない液滴の体積の割合からプロセッサ(不図示)が試料内の濃度推定を行う。
(分析対象物の濃度の計算)
分析対象物の濃度の計算は、従来行われているデジタル分析における濃度計算方法を採用して実施することができる。温度調整手段における反応の前に、それぞれの反応場が含む分析対象物が1個または0個のいずれかであるとみなせる場合について説明する。この場合は、分析対象物が検出された反応場(陽性反応場)の数xを、観察手段が分析対象物の検出の対象とした体積Vsの反応液中に含まれていた分析対象物の数とみなすことができる。よって、下記式(1)により、反応液中の分析対象物の濃度λrを計算することができる。なお、観察手段が分析対象物の検出の対象とした体積Vsは、観察手段から取得される反応場のサイズに関する情報に基づいて算出することができる。
λr=x/Vs・・・式(1)
また、例えば、温度調整手段における反応の前に、1つの反応場に複数個の分析対象物が入り得るとみなせる場合は、ポアソンモデルによる補正を行うことで、分析対象物の濃度を計算することができる。この場合は、温度調整手段における反応の前にそれぞれの反応場に含まれていた分析対象物の平均個数Cを推定することにより、分析対象物の濃度算出を行う。具体的には、観察手段が分析対象物の検出の対象とした反応場について、1つの反応場に含まれる分析対象物の平均個数をCとすると、1つの反応場にn個の分析対象物が含まれる確率は、ポアソンモデルの式から、下記式(2)のように表される。
P(n,C)=(C−e−C)/n!・・・式(2)
ここで、1つの反応場が分析対象物を1つも含まない確率は、式(2)においてn=0として、下記式(3)で表される。
P(0,C)=e−C・・・式(3)
温度調整手段における反応の前に1つの反応場中に少なくとも1つの分析対象物が含まれていれば、その反応場からはシグナルを検出することができるが、反応の前にその反応場に含まれていた分析対象物の数の情報までは分からない。そこで、観察手段が検出対象とした反応場の総数に対する、分析対象物が検出されなかった反応場の割合(シグナルが検出されなかった反応場の割合)に基づいて、式(3)を用いて、検出対象とした反応液中に含まれていた分析対象物の個数を推定する。
具体的には、シグナルが検出された反応場の個数またはシグナルが検出されなかった反応場の個数と、検出対象とした反応場の総数とから、シグナルが検出されなかった反応場の割合F0を算出する。そして、下記式(4)から、検出対象とした反応場に、温度調整手段における反応の前に1つの反応場に含まれていた分析対象物の平均個数Cを推定する。
C=−ln(F0)・・・式(4)
ここで、観察手段が分析対象物の検出対象とした反応場の平均体積をvとすると、下記式(5)により、反応液中の分析対象物の濃度λrを計算することができる。なお、観察手段が分析対象物の検出の対象とした平均体積vは、観察手段から取得される反応場のサイズに関する情報に基づいて算出することができる。
λr=C/v・・・式(5)
なお、反応液中の分析対象物の濃度λrは、分析対象物の平均個数Cと反応場の数を乗じて得られる分析対象物の総数と、反応場の平均体積vと反応場の数を乗じて得られる反応場の総体積と、に基づいて算出してもよい。
このようにして得られた、反応液中の分析対象物の濃度は、検体またはサンプルから反応液を調整した際の希釈倍率を用いることによって、検体またはサンプル中の分析対象物の濃度に換算することができる。
以上によって、本実施形態に係るカートリッジを用いた試料の分析の一連の処理が行われる。
上記によれば、第1の空間4にせり出した床面7を設けることによりカートリッジ1を傾動させたときに分散相の流れ込む空間と連続相が流れ込む空間を異ならせることができるため、効率的に分散相を第2の空間5に充填することができる。また、分散相内の対象物を観察する空間が狭い場合であっても、分散相同士の重なりを低減しながら効率的に充填することができる。さらに、これにより試料分析の一連の処理にかかる時間を短縮することができ、且つ液滴の重なりによって定量精度が低下する可能性を低減することができる。
(変形例1)
本実施形態では、互いに高さが異なる第1の空間4と第2の空間5との間での分散相の流動を図1に示すカートリッジ1の構成により促進させた。具体的には、第1の空間4の上部にせり出すように床面7と仕切り部材6を設けることにより、連続相が流れ込む空間と分散相が流れ込む空間とを異ならせた。しかしながら、図4に示すように、カートリッジに分散相の液滴径以下の溝を設けることによっても同様の効果を奏する。
図4に示すカートリッジ10の全体図を用いて説明する。カートリッジ10は、仕切り部材6と床面7の代わりに溝41が設けられている以外は、図1に示すカートリッジ1と構成は同様である。図3(c)に示すように、溝41はそれぞれ第2の空間5の下面に分散相の平均液滴径未満の幅で設けられている。このように溝41を設けることによって、ステップS15において分散相を第2の空間5へと流し込む際に、連続相は溝41を通って第2の空間5から第1の空間4へと流れ込む。さらに、これにより試料分析の一連の処理にかかる時間を短縮することができる。なお、このとき溝41の高さは任意の高さでよい。もしくは、図4(d)に示すように溝41の幅を分散相の平均液滴径以上の長さで設けることによって、溝41に沿うように分散相が流れ込み、その溝41の間を連続相が流れるため、同様の効果を奏することができる。なお、このときは、分散相同士の重なりを防ぐために、溝41の高さは分散相の平均液滴径未満の高さであることが望ましい。しかし、溝41の高さ及び幅は、分散相の平均液滴径に基づいていなくてもよく、分散相の液滴径がばらつく場合には、生成される液滴の中で最も大きい液滴の液滴径に基づいた長さにしてもよい。すなわち、分散相と連続相が流れる空間を異ならせることができるのであれば、溝41の高さや幅は上記に限定されない。
上記によれば、溝41を設けることによって、カートリッジの底面に直交する方向において、分散相の流動する高さと連続相の流動する高さとを異ならせることができるため、効率的に分散相を第2の空間5に充填することができる。
(変形例2)
本実施形態では、互いに高さが異なる第1の空間4と第2の空間5との間での分散相の流動を図1に示すカートリッジ1の構成により促進させた。具体的には、第1の空間4の上部にせり出すように床面7と仕切り部材6を設けることにより、連続相が流れ込む空間と分散相が流れ込む空間とを異ならせた。しかしながら、図5に示すように、面内方向においてカートリッジ1の第1の空間4と第2の空間5とは異なる位置に、流路を設けることによって連続相が流れ込む空間と分散相が流れ込む空間を異ならせてもよい。
カートリッジ20の構成について図5の全体図を用いて説明する。
カートリッジ20は、第2の空間5の終端部には分散相の液滴径未満の高さに狭められたチョーク部32があり、チョーク部32の先にZ軸方向に高さを有する流路33が設けられている。すなわち、チョーク部は、分散相の平均液滴径よりも小さい、流路33と第2の空間5との境界部である。流路33はチョーク部32と同様に分散相の液滴径未満の高さに狭められたチョーク部31を通じて第1の空間4の上部に接続される。すなわち、流路33の入口部の直径は、分散相の液滴径よりも小さい。これにより、ステップS15において分散相が第2の空間5に流動する際に、連続相は流路33を通じて第1の空間4に流れる。すなわち、分散相の流れ込む空間と連続相が流れ込む空間を異ならせることができるため、効率的に分散相を第2の空間5に充填することができる。さらに、これにより試料分析の一連の処理にかかる時間を短縮することができる。
なお、流路33は複数備えていても良く、例えば分岐させて第2の空間5の両脇に備えてもよい。さらに、図6に示すように、流路33を柔軟性のあるチューブ75などで構成し、駆動部76を回転させることによって連続相の駆動を促進するような構成でもよい。
(変形例3)
本実施形態では、互いに高さが異なる第1の空間4と第2の空間5との間での分散相の流動を図1に示すカートリッジ1の構成により促進させた。具体的には、第1の空間4の上部にせり出すように床面7と仕切り部材6を設けることにより、連続相が流れ込む空間と分散相が流れ込む空間とを異ならせた。しかしながら、図7に示すように、第2の空間5に歯車61を設け、歯車61を回転させることによって連続相と分散相の流動を制御してもよい。
以下、図7を用いてカートリッジ30の構成を説明する。
カートリッジ30は、仕切り部材6と床面7の代わりに歯車61および、回転制御部62が備えられている以外は、第1の実施形態のカートリッジ1と構成が同じであるため、同一部分は説明を省略する。歯車61は、第2の空間5に設けられており、回転制御部62によって回転することにより、エマルジョンの流れを作る。例えば、図7に示すように反時計周りに歯車を回転させることによって、分散相は紙面左側から第2の空間5に流れ込み、一方で連続相は紙面右側から第1の空間4に流れ込む。さらに、図8に示すように、回転機構を含む傾動手段によって、カートリッジ30を歯車の回転方向と同じ方向に角度αで傾けることによって、エマルジョンの流れを促進させてもよい。換言すると、回転により分散相が流れこむ空間と連続相が流れこむ空間のうち、連続相が流れ込む空間の方が鉛直方向において高さを有するようにカートリッジを回転させることによりエマルジョンの流れを促進させてもよい。
上記によれば、分散相の流動する高さと連続相の流動する高さとを異ならせることができるため、効率的に分散相を第2の空間5に充填することができる。さらに、これにより試料分析の一連の処理にかかる時間を短縮することができる。
1 カートリッジ
2 第1の部材
3 第2の部材
4 第1の空間
5 第2の空間
6 仕切り部材
7 床面
8 生成部

Claims (17)

  1. エマルジョン中の分散相に含まれる対象物の分析に用いられるカートリッジであって、
    前記エマルジョンを保持する第1の空間と、
    前記対象物を観察する第2の空間と、
    前記分散相の前記第1の空間から前記第2の空間への流動を促進し、且つ前記エマルジョン中の連続相の前記第2の空間から前記第1の空間への流動を促進する促進部と、
    を備えることを特徴とするカートリッジ。
  2. 前記エマルジョンを生成する生成部をさらに備え、
    前記生成部は、多孔質膜を含み構成されていることを特徴とする請求項1に記載のカートリッジ。
  3. 前記カートリッジの空間内の底面に直交する方向において、前記第1の空間は、前記第2の空間に比べて前記底面から上面までの高さが高いことを特徴とする請求項1または2に記載のカートリッジ。
  4. 前記促進部は、前記第2の空間に設けられており、前記分散相が前記第1の空間から前記第2の空間へと流れる方向と直交する方向において、前記連続相が流れこむ空間と前記分散相が流れこむ空間とを異ならせることで前記分散相と前記連続相の流動を促進することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のカートリッジ。
  5. 前記促進部は、仕切り部材によって前記連続相が流れこむ空間と前記分散相が流れこむ空間とを異ならせることを特徴とする請求項4に記載のカートリッジ。
  6. 前記仕切り部材は、前記第1の空間と前記第2の空間の境界を跨るように設けられていることを特徴とする請求項5に記載のカートリッジ。
  7. 前記仕切り部材は、対向する1対の面を含み、前記1対の面の間隔は前記第1の空間から前記第2の空間に向かって広くなるように設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載のカートリッジ。
  8. 前記促進部は、前記カートリッジの空間内の底面に直交する方向において、前記分散相が流れ込む空間の高さと前記連続相が流れ込む空間の高さとを異ならせることで前記連続相の前記第2の空間から前記第1の空間への流動を促進することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載のカートリッジ。
  9. 前記促進部は、前記第2の空間の前記カートリッジの空間内の底面に直交する方向において、前記分散相の平均液滴径よりも低い高さを有する溝であることを特徴とする請求項8に記載のカートリッジ。
  10. 前記促進部は、前記分散相が前記第1の空間から前記第2の空間へと流れる方向と直交する方向において、前記分散相の平均液滴径よりも狭い幅を有する溝であることを特徴とする請求項8または9に記載のカートリッジ。
  11. 前記第2の空間から前記第1の空間へと前記連続相を流動させる流路を前記第1の空間及び前記第2の空間とは異なる空間に有する請求項1乃至9のいずれか1項に記載のカートリッジ。
  12. 前記流路と前記第2の空間との境界部の直径は、前記分散相の平均液滴径よりも小さいことを特徴とする請求項11に記載のカートリッジ。
  13. エマルジョン中の分散相に含まれる対象物の分析に用いられるカートリッジであって、
    前記エマルジョンを保持する第1の空間と、
    前記エマルジョンに含まれる対象物を観察する第2の空間と、
    前記分散相の前記第1の空間から前記第2の空間への流動を促進し、且つ前記エマルジョン中の連続相の前記第2の空間から前記第1の空間への流動を促進する促進部と、
    を備えるカートリッジと、
    前記カートリッジを傾動させる傾動手段と、
    を備える分析システム。
  14. 前記傾動手段は、鉛直方向において前記第1の空間が前記第2の空間に比べて高くなるように前記カートリッジを傾動させることを特徴とする請求項13に記載の分析システム。
  15. 前記促進部は、エマルジョンの流れを形成する歯車であって、
    前記歯車の回転を制御する回転制御部をさらに備えることを特徴とする請求項13または14に記載の分析システム。
  16. 前記傾動手段は、前記カートリッジを底面を含む面の面内方向に回転させる回転機構を含み、前記回転機構は、前記回転により前記分散相が流れこむ空間と前記連続相が流れこむ空間のうち、前記連続相が流れ込む空間の方が鉛直方向において高くなるように前記カートリッジを回転させることを特徴とする請求項13乃至15のいずれか1項に記載の分析システム。
  17. エマルジョン中の分散相に含まれる対象物の分析に用いられるカートリッジであって、
    前記エマルジョンを保持する第1の空間と、
    前記エマルジョンに含まれる対象物を観察する第2の空間と、
    前記分散相の前記第1の空間から前記第2の空間への流動を促進し、且つ前記エマルジョン中の連続相の前記第2の空間から前記第1の空間への流動を促進する促進部と、
    前記第1の空間及び前記第2の空間とは異なる空間に前記第2の空間から前記第1の空間へと前記連続相が流れる流路と、
    を備えるカートリッジと、
    前記流路を流れる前記連続相を駆動させる駆動装置と、
    を備える分析システム。
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