JP2020081936A - ケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法 - Google Patents

ケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法 Download PDF

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Abstract

【課題】固形物残渣を路盤材や吸着剤として再利用できる処理効率の高いケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法を提供する。【解決手段】ケイ酸カルシウムを含む固形物からカルシウムイオンを溶出させた固形物残渣を再生する方法であって、中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムを含む固形物を添加して中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムイオンを溶出させる溶出工程と、溶出工程でカルシウムイオンが溶出した固形物を固形物残渣として、固形物残渣に含まれる二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムのモル比である塩基度を制御する制御工程と、を備えている。【選択図】図1

Description

本発明は、ケイ酸カルシウムを含む固形物からカルシウムイオンを溶出させた固形物残渣を再生するケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法に関する。
従来、金属精錬の過程で発生する副産物であるカルシウムを含む固形物(製鋼スラグや銅精錬スラグ)を、路盤材や有害物質の吸着剤として再生する方法が知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
特許文献1には、製鋼スラグに残存するフリーライム(f−CaO)が水により膨張して崩壊することから、このフリーライムを安定化させて路盤材として活用する固形物の改質方法が開示されている。特許文献1に記載の発明は、製鋼過程で二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムの重量比(塩基度)を2.0〜5.0に制御すると共に蛍石を添加したスラグを冷却した後に自然エージング処理(大気中で山積み)し、自然エージング処理後に粒度調整したスラグに大気圧下で水蒸気を吹き込む強制エージング処理を実行している。これにより、自然エージング処理のみの場合に比べて処理時間を短縮するものである。
特許文献2には、製鋼スラグに比べて鉄の含有量が多い銅精錬スラグを、セシウム等の有害物質を吸着する吸着剤として活用する固形物の改質方法が開示されている。特許文献2に記載の発明は、銅精錬スラグを塩酸又は硝酸を含む水溶液で処理することによってヒドロゲルを生成し、このヒドロゲルを乾燥させることにより高純度のケイ酸を含む吸着剤を製造している。
特開平7−62346号公報 特開2015−98431号公報
特許文献1に記載の固形物の改質方法は、自然エージング処理に2〜3か月要し、依然として処理効率が悪い。しかも、強制エージング処理では高温の水蒸気を数日間吹き込む必要があり、処理コストが増大してしまう。
特許文献2に記載の固形物の改質方法は、ケイ素を溶出させるためにpHが1.0以下の酸を用いており、取扱いが困難であると共に、吸着剤として用いるためには別途中和処理する必要があり、処理効率が悪い。しかも、ヒドロゲルは液体分散媒のコロイドであるため、乾燥工程が必要となり、処理工数の増大を招いてしまう。
そこで、固形物残渣を路盤材や吸着剤として再利用できる処理効率の高いケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法が望まれている。
本発明に係る特徴方法は、ケイ酸カルシウムを含む固形物からカルシウムイオンを溶出させた固形物残渣を再生する方法であって、中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムを含む固形物を添加して前記中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムイオンを溶出させる溶出工程と、前記溶出工程で前記カルシウムイオンが溶出した前記固形物を固形物残渣として、当該固形物残渣に含まれる二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムのモル比である塩基度を制御する制御工程と、を備えた点にある。
本方法では、溶出工程において中性アミノ酸含有水溶液を用いているため、カルシウムイオンと中性付近(pH=約4〜8)の等電点を示すアミノ酸(以下、中性アミノ酸と称する)とがキレート反応を起こして、固形物からカルシウムイオンを速やかに分離させることができる。特に、中性アミノ酸は水に対する飽和溶解度が高いので、溶液中の中性アミノ酸濃度を高めてキレート反応を促進させることが可能となり、カルシウムイオンの溶出効率を高めることができる。しかも、カルシウムイオンと中性アミノ酸とはキレート反応を起こしているので、例えば炭酸ガスの吹き込みによって、炭酸カルシウムを析出させると共に、中性アミノ酸を分離回復させることが可能となる。その結果、中性アミノ酸を繰り返し利用することが可能となり、処理コストを低減することができる。
また、本方法では、溶出工程において、カルシウムイオンが溶出した固形物である固形物残渣に含まれる塩基度(CaO/SiOモル比)を制御している。つまり、溶出工程において、固形物残渣に含まれるケイ酸化合物の組成を制御している。その結果、路盤材や吸着剤に適したケイ酸化合物の組成を容易に作り出すことが可能となる。しかも、中性アミノ酸により固形物残渣を再生していることから該固形物残渣は中性付近のpHとなり、固形物残渣の中和処理等が不要である。よって、本方法における処理工数を増大することなく、固形物残渣を路盤材や吸着剤として再生することができる。
このように、固形物残渣を路盤材や吸着剤として再利用できる処理効率の高い固形物の改質方法を提供できた。
他の特徴方法は、前記制御工程は、前記溶出工程において前記中性アミノ酸含有水溶液に対する前記固形物の添加量又は浸漬回数を調整して、前記塩基度を制御する点にある。
本発明者らは、中性アミノ酸含有水溶液に対する固形物の添加量又は浸漬回数を調整すれば、塩基度を制御できることを見出した。つまり、本方法のように、中性アミノ酸含有水溶液に対する固形物の添加量又は浸漬回数を調整することにより塩基度を制御すれば、制御方法が極めて容易である。
他の特徴方法は、前記制御工程は、前記塩基度を0.57以上1.4以下に制御する点にある。
本方法のように、塩基度を0.57以上1.4以下に制御すれば、路盤材の用途に適する固形物残渣を製造することができる。また、塩基度を0.57以上としているので、固形物からカルシウムイオンを必要以上に溶出させる必要がなく、処理時間や処理コストを低減することができる。
他の特徴方法は、前記制御工程は、前記塩基度を0.17以上0.75以下に制御する点にある。
本方法のように、塩基度を0.17以上0.75以下に制御すれば、有害物質の吸着剤の用途に適する固形物残渣を製造することができる。また、塩基度を0.17以上としているので、固形物残渣のゲル化を抑制することができ、固形物残渣の取り扱いが容易である。
本実施形態に係る改質方法のフロー図である。 本実施形態に係る改質装置の概略図である。 アミノ酸含有水溶液を繰り返して使用したときのカルシウムイオンの溶出率(mоl%)と析出率(mоl%)とを示すグラフである。 アミノ酸の等電点とカルシウムイオンの溶出量(mоl/L)との関係を示す図である。 アミノ酸の等電点とカルシウムイオンの溶出量(mоl/L)との関係を示す図である。 固形物の浸漬回数毎のカルシウムイオン及びpHを示す図である。 固形物の浸漬回数毎のXRD分析結果を示す図である。 固形物を6回浸漬したときの固形物残渣の断面を拡大したSEM写真である。 固形物を6回浸漬したときの固形物残渣のラマンスペクトルを示す図である。 Ca(OH)及びHSiOの活量を示す図である。 CaO−SiO−HO系の組織状態図を示す図である。 固形物の添加量と塩基度との関係を示す図である。 固形物の浸漬回数と塩基度との関係を示す図である。 転炉スラグの浸漬前及び17回浸漬後の定量分析結果を示す図である。 本実施形態に係る固形物残渣の物性を示す図である。 本実施形態に係る固形物残渣の吸着性能を示す図である。 塩基度毎のヒ素の吸着率を示す図である。 塩基度毎のヒ素の吸着率を示す図である。 塩基度毎のセシウムの吸着率を示す図である。 塩基度毎のストロンチウムの吸着率を示す図である。
以下に、本発明に係るケイ酸カルシウムを含む固形物からカルシウムイオンを溶出させた固形物残渣を再生するケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
[ケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法]
図1に示すように、本実施形態に係るケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法は、中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムを含む固形物を添加して中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムイオンを溶出させる第1溶出工程(溶出工程)と、第1溶出工程でカルシウムイオンが溶出した固形物を固形物残渣として、固形物残渣に含まれる二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムのモル比である塩基度を制御する制御工程と、を備えている。
さらに、本実施形態に係る固形物の改質方法は、第1溶出工程で用いた中性アミノ酸含有水溶液又は新規の中性アミノ酸含有水溶液に第1溶出工程で得た固形物残渣を添加(浸漬)して、中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムイオンを溶出させる第2溶出工程(溶出工程)と、第2溶出工程でカルシウムイオンが溶出した中性アミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させてカルシウム塩を析出させる析出工程と、カルシウム塩及び固形物残渣を回収する回収工程と、を備えていると好適である。この第2溶出工程は、2回以上繰り返し実行することができる。この第2溶出工程においても、上述した制御工程を有している。さらに、制御工程は、第1溶出工程において中性アミノ酸含有水溶液に対する固形物の添加量(固形物添加量制御工程)を調整することにより、又は/及び第2溶出工程において固形物残渣の中性アミノ酸含有水溶液に対する浸漬回数(浸漬回数制御工程)を調整することにより、塩基度を制御すると好適である。なお、析出工程後の濾液は、最初に準備した中性アミノ酸含有水溶液として利用できる。ここで、固形物の添加量とは、中性アミノ酸含有水溶液に添加する固形物のカルシウム濃度又は塩基度の初期値のことを言う。
(固形物)
カルシウムを含む固形物として、例えば、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等が挙げられる。
天然鉱物としては、例えば、ケイ酸塩の単体やその水和物等が挙げられる。そのような天然鉱物の具体例としては、ケイ酸カルシウムを主成分とする岩石、あるいは当該岩石の風化物ないし粉砕物等が挙げられる。
また、廃材や製造工程で排出される副産物の具体例としては、セメント水和固形物で固化されたコンクリート、当該コンクリートを含む建築廃材、粉砕物や製鋼工程で排出される副産物の製鋼スラグ、銅精錬スラグ、キュポラスラグ、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、廃棄物焼却で発生するフライアッシュ又はこれらの溶融スラグ、製紙工程で発生するペーパスラッジ、都市ゴミ又は汚泥等が挙げられる。
(中性アミノ酸含有水溶液)
本実施形態における中性アミノ酸含有水溶液とは、中性付近(pH=約4〜8)の等電点を示すアミノ酸を含む水溶液を意味する。アミノ酸は、中性アミノ酸のみで構成することが好ましいが、中性アミノ酸の他に必要に応じて、塩基性アミノ酸や酸性アミノ酸を混合させたり、溶液を安定に維持するために通常使用される公知の添加剤等を含有させたりしても良い。なお、中性アミノ酸に塩基性アミノ酸又は/及び酸性アミノ酸を混合させた場合には、中性アミノ酸含有水溶液の等電点が中性付近(pH=約4〜8)とするのが好ましい。
また、中性アミノ酸含有水溶液とは、所定量の中性アミノ酸、酸性アミノ酸及び塩基性アミノ酸の少なくとも一つを含有した水溶液にpH調整剤を混合することで、等電点が中性付近(pH=約4〜8)となる水溶液でも良い。pH調整剤としては、酸性アミノ酸に塩基性アミノ酸を混合しても良いし、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを混合しても良く、特に限定されない。また、必要に応じて、溶液を安定に維持するために通常使用される公知の添加剤等を含有させても良い。
中性アミノ酸とは、アミノ基及びカルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物であって、pHが約5〜7に等電点を有するものを意味する。具体的には、生体のタンパク質に含まれる、イソロイシン、ロイシン、バリン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、フェニルアラニン、アスパラギン、システィン、チロシン、アラニン、グルコサミン、グリシン、プロリン、セリンが挙げられるが、中性アミノ酸含有水溶液をより多く安定して繰り返し使用するのに特に好ましい中性アミノ酸としてはアラニンが挙げられる。塩基性アミノ酸とは、2つ以上のアミノ基を持つ有機化合物であって、アルカリ性側に等電点を有するものを意味し、具体的には、生体のタンパク質に含まれる、リシン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。酸性アミノ酸とは、2つのカルボキシル基を持つアミノ酸であって、酸性側に等電点を有するグルタミン酸やアスパラギン酸が挙げられる。なお、上述したアミノ酸に限定されず、N−アセチル−D−グルコサミンなどのN保護アミノ酸やC保護アミノ酸を使用しても良い。
中性アミノ酸含有水溶液等に含有させるアミノ酸の量は、中性アミノ酸含有水溶液に添加される固形物の量に依存するものであり、例えば、固形物中に含まれるカルシウムの総モル数のおよそ0.01倍以上の量で添加すれば良いが、固形物の量が一定であればアミノ酸濃度が高い方が好適である。また、アミノ酸の種類に応じて水に対する飽和溶解度が異なっており、中性アミノ酸の飽和溶解度は、酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に比べて高い傾向にある。このため、水溶液中に含まれるアミノ酸濃度を効率よく高めることができるのは、中性アミノ酸又はpH調整剤を混合して等電点を中性付近とした各種アミノ酸である。
先ず、所定量の中性アミノ酸を含む中性アミノ酸含有水溶液や、例えば、所定量の塩基性アミノ酸と所定量の酸性アミノ酸とを混合して生成される中性アミノ酸含有水溶液を調製する。次いで、第1溶出工程(第2溶出工程も同様、以下単に「溶出工程」と称する)において、調製した中性アミノ酸含有水溶液に対して、カルシウムを含む固形物又は固形物残渣を添加して、例えば、しばらくの間静置するか、あるいは公知の攪拌装置を用いて攪拌,混合して、カルシウムイオンを中性アミノ酸含有水溶液に溶出させる。
具体的に言うと、例えば、中性アミノ酸に固形物又は固形物残渣を添加したときのカルシウムイオンの溶出反応は、例えば以下のようなものが想定される。
(1)2HL+Ca(OH) → Ca(HL) 2++2OH
(2)2HL+Ca(OH) → CaL+2H
ここで、Lは、中性アミノ酸の配位子を指す。
これら(1)や(2)から分かるように、固形物に含まれるカルシウムが、アミノ酸のカルボキシル基やアミノ基とキレート反応を起こし、キレート錯体(Ca(HL) 2+、CaL)が生成される。このとき、カルシウムイオン(Ca2+)と結合していた水酸化物イオン(OH)が解離するため、水溶液がアルカリ側にシフトする。
なお、中性アミノ酸含有水溶液の使用量、静置時間、攪拌装置の攪拌速度、攪拌する際の温度、及び攪拌時間などの溶出工程における各種条件に関しては作業者が適宜調節して良いが、例えば、攪拌装置を使用して固形物の溶出工程を実施する場合、攪拌装置の攪拌速度はおよそ300rpm〜500rpm、攪拌する際の温度はおよそ10℃〜70℃、攪拌時間はおよそ0.5分以上が好適である。
(酸性ガス)
本実施形態に適用可能な酸性ガスとしては、例えば、CO、NOx、SOx、硫化水素などを挙げることができる。特にCO(炭酸ガス)は、純粋な炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であれば適用できる。例えば、液化天然ガス(LNG),液化石油ガス(LP)等の気体燃料、ガソリン,軽油等の液体燃料、石炭等の固体燃料等を燃焼させて発生する燃焼排ガス等を炭酸ガスとして用いることができる。
析出工程において酸性ガスを中性アミノ酸含有水溶液に接触させる方法は、公知の方法により行うことができ、特に制限はない。例えば、中性アミノ酸含有水溶液に酸性ガスをバブリングする(吹き込む)方法、中性アミノ酸含有水溶液と酸性ガスとを同一容器に封入して振とうする方法等が挙げられる。また、酸性ガスとして燃焼排ガス等を用いる場合には、中性アミノ酸含有水溶液と接触させる前に吸着フィルタ等を通過させて、塵埃等を除去しても良い。なお、析出工程は任意の温度で実施できるが、温度が高いほど酸性ガスが溶け込み難くなるため、70℃以下で使用することが好ましい。
析出工程にて例えば炭酸ガスを使用した場合、固形物から溶出したカルシウムイオンと炭酸とが反応して、炭酸カルシウムの炭酸塩が生成されて析出する。具体的には、上述の(1)(2)で示した溶出反応後の水溶液に、炭酸ガスを接触させたときの析出反応は、以下のようになる。
(3)Ca(HL) 2++HCO → CaCO+2HL+H
(4)CaL+CO 2− → CaCO+2L
析出工程においてキレート錯体を含有する水溶液に炭酸ガスを吹き込むと、キレート錯体からカルシウムイオンが分離して炭酸塩が生成されると共に、キレート錯体から中性アミノ酸などが分離して、元の中性アミノ酸含有水溶液の状態が回復される。すなわち、中性アミノ酸は、カルシウムを固形物から分離して炭酸塩を生成するための触媒として働き、繰り返し使用できるので有益である。
ところで、酸性ガスが所望の緩衝能を発揮できる範囲として、第一酸解離定数に対して±1.5の範囲であることが知られている。そこで、本実施形態においては、中性アミノ酸含有水溶液の等電点が、酸性ガスの第一酸解離定数に対して±1.5の範囲内であるのが好ましい。これは、酸性ガス((3)、(4)における左辺)の緩衝能範囲と回復するアミノ酸((3)、(4)における右辺)の緩衝能範囲とが重なることでバランスが取れ、酸性ガスの消費と炭酸塩の析出とが促進されるためである。
酸性ガスの第一酸解離定数とは、炭酸ガスの場合、HCO→HCO +HとなるときのpHであり、pKa1=6.35となる。また、酸性ガスとしてのHSやHSOはpKa1=約6〜7である。このため、例えば、酸性ガスに炭酸ガスを用いる場合は、中性アミノ酸含有水溶液の等電点は、4.75〜7.85の範囲内であることが好ましい。なお、アミノ酸の緩衝能範囲が等電点から±1.5であれば、アミノ酸はある程度の緩衝能を発揮するので、酸性ガスとアミノ酸との緩衝能範囲が重なるよう中性アミノ酸含有水溶液の等電点は、約4〜8の範囲であれば良い。
析出工程にて析出した塩は、その後の回収工程において、濾過等の公知の方法によって回収することができる。回収された塩は、例えば、ショットブラスト等の防爆材(防火材)、又は、製紙、顔料、塗料、プラスチック、ゴム、織編物等の産業において充填材として利用することができる。
(装置構成)
図2に示すように、固形物の改質方法に用いられる改質装置は、反応容器1、攪拌機2、反応容器1内の溶液の温度を調整する水浴槽3、流量調整器4,5、混合装置6、計測計7、計算機8を備えている。
反応容器1では、中性アミノ酸含有水溶液を投入した後、この中性アミノ酸含有水溶液に所定量の固形物又は固形物残渣を投入して混合水溶液が調製される。そして、攪拌機2を用いて所定の回転数(例えば300rpm)で所定時間(例えば10分間)混合水溶液を攪拌して、固形物からカルシウムイオンを溶出させる(溶出工程)。このとき、反応容器1の温度は、常温であることが好ましい。この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液中のpH、酸化還元電位、温度、カルシウムイオン濃度(溶出Ca濃度)、及びケイ素イオン濃度(溶出Si濃度)を計測する。そして、計算機8を用いて、反応容器1に投入する前の固形物に含まれる組成に対して、溶出したカルシウムイオン濃度及びケイ素イオン濃度から、固形物残渣に含まれる二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムのモル比である塩基度(CaO/SiOモル比、以下「C/S」と称する)を演算する。つまり、固形物の含まれるカルシウムイオン濃度及びケイ素イオン濃度から中性アミノ酸水溶液に溶出したカルシウムイオン濃度及びケイ素イオン濃度を減算することにより、塩基度(C/S)が演算される。そして、この塩基度が、所定範囲内となるように、反応容器1に投入する固形物の添加量又は固形物残渣の浸漬回数を制御する(制御工程)。
また、酸性ガスとして炭酸ガス(CO)と窒素(N)ガスとの混合ガスを用い、炭酸ガスと窒素ガスとを、夫々流量調整器4,5で流量を調整しつつ、混合装置6において所定の混合比で混合して反応容器1内に供給する。これによって、カルシウムイオンが溶出した中性アミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させて炭酸カルシウムを析出させる(析出工程)。そして、カルシウムイオンが溶出した固形物残渣を取り出すと共に、沈降した炭酸カルシウムを濾過により回収し、残りの濾液(中性アミノ酸含有水溶液)を採取する(回収工程)。この濾液に、カルシウムイオンが溶出した固形物残渣を再投入し、上述した溶出工程,析出工程及び回収工程というこの一連のプロセスを複数回繰り返しても良い。
(実施例1)
中性アミノ酸含有水溶液を繰り返して使用した場合に、その中性アミノ酸含有水溶液によりカルシウムの抽出能力が維持されるか否かを確認するため、図2に示す装置を用いて、同じ中性アミノ酸含有水溶液に対して、溶出工程、析出工程、及び回収工程という一連のプロセスを繰り返し実施し、各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率と析出率とを調べた。
中性アミノ酸としてDL−アラニン2.40gを含有する中性アミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40gを添加して混合水溶液を調製し、実施例1と同様に10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。なお、このときのセメント中のCaOのモル数:添加したDL−アラニンのモル数=1:1とした。
この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、カルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率:混合水溶液中のCaOの物質量(モル)/固形物中のCaOの物質量(モル)×100(%))を調べた。
次いで、混合水溶液中の固形物残渣を取り出して濾液を採取し、この濾液に対して、酸性ガスとして模擬燃焼排ガスを導入してバブリングして炭酸カルシウムを析出させた(析出工程)。
模擬燃焼排ガスは、炭酸ガス(CO)と窒素(N)ガスとの混合ガスを用いた。模擬燃焼排ガスは、炭酸ガスと窒素ガスとを、夫々流量調整器4,5で流量を調整しつつ、混合装置6において所定の混合比で混合して供給した。本実施例では、模擬燃焼排ガスの組成を10vol%CO+90vol%Nとして、1リットル/分で90分間導入した。
次いで、析出した炭酸カルシウムを吸引濾過により回収して濾液(中性アミノ酸含有水溶液)を採取した(回収工程)。回収した炭酸カルシウムを乾燥して計量し、カルシウムイオンの析出率(Ca析出率:溶出工程で溶出したカルシウムイオンの量に対する炭酸カルシウム中のカルシウムの割合)を調べた。
次いで、採取した濾液(中性アミノ酸含有水溶液)に対して、別の固形物としてセメント2.40gを再び添加して、上述と同様に第2の溶出工程、析出工程、回収工程という一連のプロセスを実施した。このようにして、本実施例では、同じ中性アミノ酸含有水溶液に対して、溶出工程、析出工程、回収工程というこの一連のプロセスを5回繰り返して実施した。
各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)と析出率(Ca析出率)の結果を図3に示す。図3に示すように、多少のばらつきはあるものの、同じアミノ酸含有水溶液を少なくとも5回繰り返して使用したとしても、Ca溶出率の大きな低下は見られなかった。よって、中性アミノ酸含有水溶液は、固形物から炭酸塩を析出させる触媒として繰り返し使用できることが確認できた。
(実施例2)
本実施例では、析出工程において塩を析出させる前段階である、固形物からカルシウムイオンを溶出させる量について、酸性ガスの第一酸解離定数(pKa1)の±1.5の範囲内に等電点を有するアミノ酸が、他のアミノ酸に比べて優位であることを確認する。
本実施例では、炭酸ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲内に等電点を有するアミノ酸(L−システィン、L−アラニン、DL−アラニン、L−プロリン、グリシン)や、他のアミノ酸(L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アルギニン)を含有するアミノ酸含有水溶液100mLを、各種アミノ酸ごとに調整した。次いで、セメント及びスラグの夫々に含まれるCaOの物質量(モル)と各種アミノ酸の物質量(モル)との比率を1:1とし、実施例1と同様の溶出工程により、固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液中のカルシウムイオン濃度である溶出Ca濃度(mоl/L)を測定した。
この測定した溶出Ca濃度(mоl/L)を、各種アミノ酸の飽和溶解度(1Lの水に対して飽和状態となるときのアミノ酸の物質量)に換算して、各種アミノ酸の等電点(pH)とカルシウムイオンの溶出量(mоl/L)との関係をプロットした(図4〜図5)。図4に示すように、固形物がセメントの場合、炭酸ガスの第一酸解離定数(pKa1=6.35)の近傍(概ねpH=4〜8)に等電点を持つアミノ酸では、他のアミノ酸に比べてカルシウムイオンの溶出量が高いことが分かる。一方、pH=4〜8より酸性側又はアルカリ性側においては、カルシウムイオンの溶出量が少ない。また、図5に示すように、固形物がスラグの場合においても同様の傾向が見られた。
これは、中性付近に等電点を持つアミノ酸の飽和溶解度は、酸性アミノ酸又は塩基性アミノ酸に比べて高い傾向にあるからである。すなわち、カルシウムイオンの溶出率が小さくても、アミノ酸含有水溶液に溶解できるアミノ酸の飽和溶解度が大きければ、カルシウムイオンの溶出量の絶対値が高くなる。このため、後の析出工程で炭酸ガスを接触させると、カルシウムイオンの溶出量に比例して塩の析出量は増大する。さらに、中性付近に等電点を持つアミノ酸の緩衝能範囲は、炭酸ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲と重なるので、塩の析出とアミノ酸の分離回復を促進させる。よって、アミノ酸含有水溶液の等電点が、炭酸ガスの第一酸解離定数の±1.5の範囲内にあることで、二酸化炭素の消費量を増大させることができる。
(実施例3)
図6〜図9を用いて固形物残渣の組成変化を検証する。
図6〜図7に示す例では、中性アミノ酸として1.7mоl/LのDL−アラニンを含有する飽和中性アミノ酸含有水溶液を調製し、固形物として塩基度(C/S)=3.1であるセメントを添加して混合水溶液を調製した。飽和中性アミノ酸含有水溶液に固形物を添加(1回浸漬)した後、カルシウムイオンが溶出した固形物残渣を更に新規の飽和中性アミノ酸含有水溶液に3回まで浸漬して混合水溶液を調製した。混合水溶液のpHはAg/AgClガラス電極を用いて計測した。また、飽和中性アミノ酸含有水溶液に固形物(固形物残渣)を添加してから1分,3分,5分,10分,15分,30分経過時にピペットで混合水溶液を採取して、キレート滴定分析によってカルシウムイオン濃度を測定した。さらに、飽和中性アミノ酸含有水溶液に固形物(固形物残渣)を添加してから30分経過時にピペットで混合水溶液を採取して、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析でケイ素イオン濃度を測定した。
図6に示すpH及び溶出Ca濃度(log[Ca2+])の経時変化によると、1回目の浸漬においては浸漬後5分までの短時間でpH及び溶出Ca濃度が共に増加した後一定となった。また、2回目浸漬以降も同様にpH及び溶出Ca濃度が初期増加の後に暫増している。本実施例では、1回の浸漬後30分経過するとpH及び溶出Ca濃度が一定となっているので、2回目以降も30分を見かけの固液平衡状態とした。30分経過時のカルシウムイオン濃度(溶出Ca濃度)及びケイ素イオン濃度(溶出Si濃度)の計測値を基に演算した固形物残渣のC/Sは、カルシウムイオン溶出前の3.1から1回浸漬では0.82、3回浸漬では0.64と浸漬を繰り返すほど低下し、低いC/SほどpH及び溶出Ca濃度の増加率は小さくなっている。
図7に示すXRD(X線回折分析)の解析結果より、1回目の浸漬後にはC2S相(ビーライト)及びC3S相(エーライト)とCaO相とが消滅し、CSH相(ケイ酸カルシウム水和物)のCSH(II)相と同定される2θ≒23°のピーク強度が増加している。この結果と、図6のpH及び溶出Ca濃度の経時変化を考慮すると,1回浸漬時は5分以内にC2S相,C3S相及びCaO相からのカルシウムイオンの溶出が完了し、2,3回浸漬時はCSH相から僅かにカルシウムイオンが溶出したと考えられる。
図8〜図9に示す例では、セメントを飽和中性アミノ酸含有水溶液に6回浸漬し、C/S=0.58となった固形物残渣を拡大したSEM写真とラマン分光法で解析したラマンスペクトルとを示している。
図8に示すように、固形物残渣の断面における4カ所(反応層A, B及び基材C, D)について、カルシウム濃度が高い組織では白く観察されることより、基材CはC3S相、基材DはC2S相、及び反応層A,Bは各相からカルシウムイオンが溶出し形成された組織と考えられる。図9には、各ラマンスペクトルについて、ピーク位置に帰属される波長と相が下矢印で示されている。同図から、反応層A,Bの両方にはC3S相とCSH相、基材C,Dにはケイ酸カルシウム組織であるC3S相とC2S相が確認された。特に、反応層Aにはシリカゲル(gel−SiO)に帰属される977cm−1のピークが強く表れている。
これらのことから、中性アミノ酸含有水溶液に対する固形物の浸漬回数を増やすことで、固形物残渣の組成は、C2S相,C3S相及びCaO相からCSH相及びシリカゲルに変化することが理解できる。
(実施例4)
図10〜図11を用いて固形物残渣の組成変化に基づいて、路盤材及び吸着剤として適した塩基度(C/S)を検証する。
1.7mоl/LのDL−アラニンを含有する飽和中性アミノ酸含有水溶液に固形物としてCaOが0.1〜2.9mоl/L相当のセメントを添加して混合水溶液を調製した。飽和中性アミノ酸含有水溶液に固形物を添加(浸漬)した後、カルシウムイオンが溶出した固形物残渣を更に新規の飽和中性アミノ酸含有水溶液に複数回(本実施例では12回まで)浸漬して混合水溶液を調製した。上述したように1回の浸漬後30分経過するとpH及び溶出Ca濃度が一定となっているので、2回目以降も30分を見かけの固液平衡状態とし、浸漬回数毎に30分経過時の塩基度(C/S)を演算した。なお、飽和中性アミノ酸含有水溶液に固形物(固形物残渣)を添加してから30分経過時にピペットで混合水溶液を採取して、キレート滴定分析によってカルシウムイオン濃度を測定し、ICP(高周波誘導結合プラズマ)分析でケイ素イオン濃度を測定した。
また、Ca(OH)(s)とHSiO(s)を基準とする相対化学ポテンシャルを下記の(5)〜(10)により導出した。なお、Ca(OH)(aq)とHSiO(s)の溶解度積は、U.R.Berner :Waste Management, 12(1992), 201-219の文献で示すBernerの値


を用いた。なお、logは10を底とする対数関数である。
図10には、Ca(OH)(s)とHSiO(s)を基準とする相対化学ポテンシャルの関係が示されている。なお、本実施例と比較するため、下記の文献に示す純水への固形物の浸漬実験の報告値もプロットした。
Greenberg :S.A.Greenberg and T.N.Chang, J.Phys.Chem.,69(1)(1965),182-188
Atkinson :A.Atkinson,J.A.Hearne and C.F.Knights, J.Chem.Soc.Dalton Trans.,12(1989),2371-2379
Fujii :K.Fujii and W.Kondo, J.Amer.Ceram.Soc.,66(1983),C-220-221
K.Fujii and W.Kondo: J.Chem.Soc.Dalton Trans.,2(1981),645-651
Chen :J.J.Chen,J.J.Thomas,H.F.W.Taylor and H.M.Jennings, Cem.Conct.Res.,34(2004),1499-1519
Flint :E.P.Flint and L.S.Wells, J.Res.Nat.Bur.Stand.,12(1934),751-783
Grutzeck :M.Grutzeck,A.Benesi and B.Fanning, J.Am.Ceram.Soc.,72(1989),665-668
Roller :P.S.Roller and G.Ervin, J.Am.Chem.Soc.,62(1940),461-471
また、図11に示されるように、図10の結果よりCaO−SiO−HO系の組織状態図の相関係が新たに記述できる。なお、図11に示すタイラインは二相領域を示す。
液相と1固相または2固相が共存する平衡境界または三相平衡点を図11中に(a)〜(e)と示す。図10の液相と固相が二相共存のタイライン(c),(e)の傾きは、固体の平衡組成であるCa(OH)とSiOモル組成比(C/S)に対応する。二相領域(a)は、溶液/Ca(OH)(s)の二相平衡であり、図11の組成状態図では理想希薄溶液とCa(OH)(s)のタイラインに相当する。このとき図10では、
の二相境界線になる。三相共存(b)は、液相/Ca(OH)相/CSH相の三相平衡に対応しており、図10では三つの相境界が交わる平衡点になる。図11の組成状態図では、これら三相を頂点とする組成三角形となる。二相領域(c)は、溶液/CSH(s)と二相平衡であり、二相境界で表される。図10のCSH平衡境界線の傾きは、2>C/S>0.5ではC/Sが低下するに従って−1/2から−2へと変化する。三相共存(d)は,図10では(c)及び(e)、ならびにCSH/gel-SiOの3つの相境界の交点に対応し、図11に示す組成状態図では、液相/CSH/gel-SiOの三相三角形となる。二相領域(e)は、溶液/gel-SiOの二相平衡であり、図10ではC/S=0.16に相当する傾き−6から傾きが連続的に垂直へと変化する。これは、gel-SiOのC/Sが0に漸近することに対応している。図10の二相領域の傾きは−1/(C/S)の関係を表しており、これから平衡するCSHならびにgel-SiOのC/S比の組成範囲を指定することができる。
このように、シリカゲル(gel-SiO)/HOの二相平衡範囲は0<C/S<0.17であり、吸着剤としては、ゲル化を抑制しつつ吸着性能を有する固体としてCSH相単体である二相領域(c)、又はCSH相及びシリカゲル(gel-SiO)相の混合物である三相共存(d)の0.17≦C/S≦0.75が好ましい。なお、シリカゲル(gel-SiO)相が含まれない0.57≦C/S≦0.75であれば、固形物残渣にゲル状部位を含まないため、取り扱いが容易であり、より好ましい。さらに、図10に示すCa(OH)(s)とHSiO(s)を基準とする相対化学ポテンシャルの関係に基づいて、Ca(OH)(s)とHSiO(s)との比(例えば、
)によりゲル未生成領域を特定しても良い。
また、本発明者らは、従来のエージング処理における公知文献(特開平8−12384号、特開平8−119692号、特開平10−121121号、特開平9−316518号)を基に、JISA5015に規定される路盤材の水浸膨張率1.5%以下を満足する塩基度は、C/S≦1.4であることを見出した。さらに、シリカゲル(gel-SiO)相を含んでいない方が路盤材として取り扱い易い(濾過し易い)ため、路盤材としては、0.57≦C/S≦1.4であることが好ましい。なお、固形物からカルシウムイオンを溶出させるために用いられる中性アミノ酸を節約する観点からは、0.75≦C/S≦1.4であることがより好ましい。
(実施例5)
図12を用いて、第1溶出工程において中性アミノ酸含有水溶液に対する固形物の添加量(固形物添加量制御工程)を調整することにより、塩基度を制御することができる点を説明する。また、図13を用いて、第2溶出工程において固形物残渣の中性アミノ酸含有水溶液に対する浸漬回数(浸漬回数制御工程)を調整することにより、塩基度を制御することができる点を説明する。
図12に示す実施例では、DL−アラニンを含有する飽和中性アミノ酸含有水溶液に、固形物の初期濃度として塩基度(C/S)=30.0,15.0,12.0,11.5,11.0,10.5を示すケイ酸カルシウム材を添加して混合水溶液を調製した。300rpmの攪拌速度で混合水溶液を30分間撹拌した後、混合水溶液を濾過した後の濾液のカルシウムイオン濃度及びケイ素イオン濃度から固形物残渣のC/Sを求めた結果を図12に示す。同図に示されるように、中性アミノ酸含有水溶液に添加する固形物の塩基度の初期値が小さくなるほど、見かけの固液平衡状態となる30分経過時に得られる固形物残渣の塩基度が小さくなっている。つまり、中性アミノ酸含有水溶液に添加する固形物の添加量としての固形物に含まれる塩基度の初期値を調整すれば、得られる固形物残渣の塩基度を制御できることが理解される。
図13に示す実施例では、1.7mоl/LのDL−アラニンを含有する飽和中性アミノ酸含有水溶液に、固形物としてCaOが0.4mоl/L相当の表1に示す組成を有するセメント、転炉スラグ、脱炭スラグ及び脱硫スラグで構成される4種類を添加して混合水溶液を調製した。300rpmの攪拌速度で混合水溶液を30分間撹拌した後、混合水溶液を濾過した後の濾液のカルシウムイオン濃度及びケイ素イオン濃度から固形物残渣の塩基度(C/S)を求めた結果を図13に示す。同図に示されるように、固形物残渣の浸漬回数により、得られる固形物残渣の塩基度を制御できることが理解される。
(実施例6)
本実施例では、1.7mоl/LのDL−アラニンを含有する飽和中性アミノ酸含有水溶液に、固形物としてCaOが0.4mоl/L相当の転炉スラグを添加して混合水溶液を調製した。図14には、添加前の転炉スラグと飽和中性アミノ酸含有水溶液に転炉スラグを17回浸漬したときの固形物残渣との結晶相のRIR(参照強度比)法による定量分析結果を示す。図14に示すように、CaO相が添加前に15重量%含まれていたが、17回浸漬後には、カルシウムイオンが溶解して、マグネタイト相(Fe)等が確認された。また、二酸化ケイ素も析出していることから、転炉スラグにおいても中性アミノ酸含有水溶液への固形物の浸漬を繰り返すことでC/Sが低下することを検証できた。
(実施例7)
図15〜図16を用いて、固形物残渣の吸着性能を検証する。
図15には、C/S=3.3のセメントとC/S=0.52の固形物残渣との窒素ガス吸着測定を行い、BET法に基づく比表面積解析及びBJH法に基づく細孔径分布解析の結果が示されている。固形物ではセメントに比べて、カルシウムイオン及びケイ素イオンが溶出した固形物残渣の方が、比表面積が3倍以上となっていることが分かる。また、図16には、BJH法に基づく吸着,脱着等温線が示されている。固形物残渣の表面積の大きさに応じてガス吸着/脱離量も大きいことが確認された。このような吸着特性から、0.17≦C/S≦0.75の範囲に含まれるC/S=0.52の固形物残渣は有害金属を捕集することができると考えられる。
(実施例8)
図17〜図20を用いて、ヒ素(As)、セシウム(Cs)及びストロンチウム(Sr)の有害金属に対する固形物残渣の吸着性能を検証する。
As(III)(三フッ化ヒ素)溶液作製にはAs(III)標準溶液(ひ素標準溶液,As100,No. 013-15501,和光純薬工業(株)製)又はAs(No. 040370,純度99.9%,Alfa Aesar社製)、As(V)(五フッ化ヒ素)溶液作製にはヒ酸水素二ナトリウム七水和物(NaHAsO7HO,No. 195-13052,和光純薬工業(株)製)又はAs(No. 14668,純度99.9%,Alfa Aesar社製)を用意した。As(III)及びAs(V)濃度が1000mg/kgになるように試薬を秤取し超純水で定容とした。これらを純水で逐次希釈し、0.01〜1.0ppmの各溶液を調整した。スラグ残渣1gをポリ容器に精秤し、溶液を10.0ml添加して振盪器により水平振盪200回/分、振盪幅40〜50mm 、室温で24時間振盪した。振盪後の溶出液をシリンジフィルタ(孔径0.45μm)で濾過し、得られた液を希硝酸で希釈した。水液中のAs濃度はICP質量分析装置(ELAN DRCII型,パーキンエルマー社製)を用いて定量した。
セシウム(Cs)及びストロンチウム(Sr)は、塩化セシウム(No. 033-01953,和光純薬工業(株)製),塩化ストロンチウム(No. 197-04205,和光純薬工業(株)製)を用意した。Cs及びSr濃度が各1000mg/kgになるように試薬を秤取し純水で定容とした。これらを超純水で逐次希釈し、Cs溶液0.01〜0.4ppm,Sr溶液0.5〜9.5ppmの各溶液を調製した。また、スラグ残渣1gをポリ容器に精秤し、溶液を10.0ml添加して振盪器により水平振盪200回/分、振盪幅40〜50mm 、室温で24時間振盪した。振盪後の溶出液をシリンジフィルタ(孔径0.45μm)で濾過し、得られた液を希硝酸で希釈した。水液中のSr濃度はICP発光分析装置(SPS3100型,日立ハイテクサイエンス製)、Cs濃度はICP質量分析装置(ELAN DRCII型,パーキンエルマー社製)を用いて定量した。なお、Sr濃度はICP質量分析装置でも分析可能であるが、分子イオンによる正の干渉を受けやすいためICP発光分析装置で測定している。
図16〜図17には、C/S=3.6,0.58,0.52の3種類の固形物残渣におけるAs吸着率の計測結果が示されている。図18〜図19には、C/S=0.58の固形物残渣におけるCs,Sr吸着率の計測結果が示されている。なお、初期濃度とは、上述したように夫々の有害金属を純水で希釈した後の濃度のことであり、図16〜図17では、C/S=3.6,0.58の固形物残渣において、複数の初期濃度のうちの一部について吸着率を測定した。
図16〜図17に示すように、C/S=0.58,0.52の固形物残渣を吸着剤として用いた場合、初期濃度が0.05mg/L以上のAs水溶液では、重量比にして80%以上のAs吸着率を示した。一方、C/S=3.6の固形物残渣を吸着剤として用いた場合、極めて小さいAs吸着率となっている。また、図18〜図19に示すように、C/S=0.58の固形物残渣におけるCs吸着率は約100%であり,Sr吸着率は約80%であった。これらのことから、吸着剤としては0.17≦C/S≦0.75の範囲の固形物残渣が有効であることが検証できた。
本発明は、ケイ酸カルシウムを含む固形物からカルシウムイオンを溶出させた残渣を再生することにより、固形物残渣を路盤材や吸着剤として利用可能とするものである。
1 反応容器
2 攪拌機
3 水浴槽
4 流量調整器
5 流量調整器
6 混合装置
7 計測計
8 計算機

Claims (4)

  1. ケイ酸カルシウムを含む固形物からカルシウムイオンを溶出させた固形物残渣を再生する方法であって、
    中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムを含む固形物を添加して前記中性アミノ酸含有水溶液にカルシウムイオンを溶出させる溶出工程と、
    前記溶出工程で前記カルシウムイオンが溶出した前記固形物を固形物残渣として、当該固形物残渣に含まれる二酸化ケイ素に対する酸化カルシウムのモル比である塩基度を制御する制御工程と、を備えたケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法。
  2. 前記制御工程は、前記溶出工程において前記中性アミノ酸含有水溶液に対する前記固形物の添加量又は浸漬回数を調整して、前記塩基度を制御する請求項1に記載のケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法。
  3. 前記制御工程は、前記塩基度を0.57以上1.4以下に制御する請求項1又は2に記載のケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法。
  4. 前記制御工程は、前記塩基度を0.17以上0.75以下に制御する請求項1又は2に記載のケイ酸カルシウムを含む固形物の改質方法。
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