JP2020064801A - ステータ - Google Patents

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慶介 梓沢
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遼太郎 金子
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忠夫 西山
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Abstract

【課題】安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線及びこの電線を備えたステータを提供する。【解決手段】電線10は、導体4と、前記導体4を覆い、絶縁材53の内部に前記空孔54を有する空孔層51と、前記絶縁材57の内部に空孔54を有することなく形成された無空孔層52と、を有する絶縁被膜5と、を備える。前記絶縁被膜5は、前記空孔層51と前記無空孔層52とが前記導体4の径方向に交互に配置されることにより、3層以上の複数層となるように形成されている。前記空孔層51の1層の厚みは20μm以下となるように設定されている。【選択図】図3

Description

本発明は、電線及びステータに関するものである。
従来、回転電機のステータとして、ステータコアに形成されたスロットに導体セグメントを挿入し、ステータコアから突出した導体端部を互いに溶接することでステータコアに装着されて形成されるコイルを備えるものがある。この種のコイルに用いられる電線として、絶縁被膜の内部に微小な空孔を複数含有することにより、絶縁被膜の絶縁性を高める技術が種々提案されている。
例えば特許文献1には、図7に示すように、導体202の外周を覆う絶縁被膜201の内部に複数の気孔(空孔)220が形成された電線200の構造が開示されている。空孔220は、熱分解性樹脂及び熱分解性樹脂を囲む外郭材230を含む絶縁被膜201を、熱分解性樹脂がガス化する温度まで加熱することにより形成される。このようにして周囲を外郭材230に囲まれたカプセル状の空孔220が形成されることにより、絶縁被膜201の低誘電率化を実現でき、高電圧に対する絶縁被膜201の絶縁性を向上できるとされている。
特許文献2には、電線の最外表面に配置された熱融着層の内部に空孔が形成された構成が開示されている。特許文献2に記載の技術によれば、複数の電線を束ねてコイルを形成する際に空孔を発生させることにより、電線の絶縁性を向上するとともに、空孔発生により熱融着層を膨張させて隣り合う電線同士を融着させやすくできるとされている。
国際公開第2017/073551号 特開2016−81563号公報
このように、絶縁被膜の絶縁性を向上するためには空孔の導入が効果的であるが、複数の空孔同士が結合して大きな空隙が形成されると、絶縁被膜の強度及び絶縁性が逆に低下するおそれがある。このため、上述した特許文献1及び2に記載の技術にあっては、複数の空孔同士が結合するのを防ぐために空孔の周囲を囲む外郭材を設ける構成とされている。しかしながら、これらの外郭材は絶縁材とは異なる特殊な材料で構成されるため、材料費や製造費等のコストが増大するおそれがある。
したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線及びこの電線を備えたステータの提供という点で改善の余地があった。
そこで、本発明は、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線及びこの電線を備えたステータを提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明に係る電線(例えば、実施形態における電線10)は、導体(例えば、実施形態における導体4)と、前記導体を覆い、絶縁材(例えば、実施形態における絶縁材53)の内部に空孔(例えば、実施形態における空孔54)を有する空孔層(例えば、実施形態における空孔層51)と、前記絶縁材(例えば、実施形態における絶縁材57)の内部に前記空孔を有することなく形成された無空孔層(例えば、実施形態における無空孔層52)と、を有する絶縁被膜(例えば、実施形態における絶縁被膜5)と、を備えることを特徴としている。
また、請求項2に記載の発明に係る電線は、前記絶縁被膜は、前記空孔層と前記無空孔層とが前記導体の径方向に交互に配置されることにより、3層以上の複数層により形成されていることを特徴としている。
また、請求項3に記載の発明に係る電線は、前記空孔層の1層の厚みは20μm以下であることを特徴としている。
また、請求項4に記載の発明に係るステータ(例えば、実施形態におけるステータ1)は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の前記電線を備えたことを特徴としている。
本発明の請求項1に記載の電線によれば、絶縁被膜は空孔層を有するので、空孔が形成されることにより絶縁被膜の誘電率が低下し、絶縁被膜の絶縁性を向上できる。一方、無空孔層は内部に空孔を有さないので、空孔層に比べて絶縁被膜の強度を向上できる。このように、絶縁被膜は空孔層と無空孔層とを備えるので、空孔層により絶縁被膜の絶縁性を向上するとともに無空孔層により絶縁被膜の強度を向上した電線とすることができる。また、絶縁被膜が空孔層のみを有する場合と比較して、空孔層が無空孔層により分割されて単位空孔層あたりの体積が減少するので、空孔層内の空孔が結合して大きな空隙を形成することによる絶縁性の低下を抑制することができる。よって、一つ一つの空孔を独立させるための外郭材が不要となり、空孔層の形成が容易になるとともに材料費を削減できる。
したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線を提供することができる。
本発明の請求項2に記載の電線によれば、空孔層と無空孔層とが径方向において交互に配置されているので、絶縁被膜の絶縁性の向上と高強度化を両立することができる。また、径方向において空孔層の間に無空孔層が配置されるので、空孔が径方向に結合して大きな空隙を形成することを抑制できる。よって、無空孔層により、空孔層における空孔の独立を保証できる。したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線を提供することができる。
本発明の請求項3に記載の電線によれば、空孔層の1層の厚みは20μm以下となるように構成されているので、たとえ空孔層内部の空孔が結合したとしても、空隙の大きさは20μm以下となる。
ここで、大気圧環境下において、平行平板電極間で放電が生じ始める電圧は、電極間距離がおよそ22μmのときに極小値となる。電極間距離が22μm以下のときには、電極間(ギャップ)に存在する初期電子の加速する距離が短いため初期電子が十分に加速できず、放電が発生しにくい。一方、電極間距離が22μm以上のときには、電極間の電界強度が不足して初期電子が加速できないため放電が発生しにくいが、電極間の電圧を上昇させることにより放電が発生する可能性がある。
そこで、本発明の電線は、空孔層の1層の厚みを20μm以下とすることにより、空隙の大きさが20μm以下となるようにした。これにより、空隙が形成された場合であっても、空隙の大きさを放電が生じにくい範囲に設定できる。よって、部分放電の発生を抑制した、絶縁性に優れた絶縁被膜を有する電線とすることができる。
また、空孔が結合して空隙を形成しても絶縁性が確保されるので、一つ一つの空孔を外郭材で覆う必要がない。よって、外郭材を設ける必要がなく、材料費や製造コストを削減できる。
本発明の請求項4に記載のステータによれば、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線を備えているので、安価で高性能なステータを提供できる。
第1実施形態に係るステータの外観斜視図。 第1実施形態に係る電線の断面図。 図2のIII−III線に沿う断面図。 平行平板電極間における電極間距離と放電開始電圧との関係を示すグラフ。 第1実施形態に係る電線の製造方法を示す説明図。 第2実施形態に係る電線の断面図。 従来技術における電線の断面図。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
(第1実施形態)
(ステータ)
図1は、ステータ1の外観斜視図である。ステータ1は、ステータコア2と、コイル3と、を備える。なお、図1では、説明のためコイル3を一部省略している。
ステータコア2は、軸線Cを中心とした環状に形成されている。ステータコア2の内周面には、ティース21が形成されている。ティース21は、ステータコア2の内周面から径方向の内側に向かって突出している。ティース21は、周方向に複数設けられている。各ティース21の間はスロット22とされ、各スロット22には後述するコイル3が挿入される。ステータコア2の内部には、不図示のロータが軸線Cを中心として回転自在に配置される。
以下の説明では、ステータコア2の軸線Cに沿う方向を軸方向といい、軸線Cに直交する方向を径方向といい、軸線C回りの方向を周方向という場合がある。
コイル3は、ステータコア2のスロット22に挿入されてステータコア2に装着されている。コイル3は、複数の電線10により構成されている。具体的に、コイル3は、U字状に曲げられた電線10が径方向及び周方向に複数重ねられた状態で軸方向一方側(図1における下方側)から各スロット22に挿入されている。その後、各スロット22から軸方向他方側(図1における上方側)に突出した電線10の端部が互いに接合されることにより、ステータコア2にコイル3が装着される。コイル3のうち、スロット22内に挿入されている部分はコイル挿通部31とされ、ステータコア2の端面から軸方向の一方側及び他方側に突出する部分はコイルエンド32とされている。
(電線)
図2は、電線10の断面図である。図3は、図2のIII−III線に沿う断面図である。電線10は、導体4と、絶縁被膜5と、を有する。
導体4は、コイル3の芯部分を構成し、例えば銅等の金属材料により形成されている。導体4は、矩形状の断面を有する線状に形成されている。ステータコア2の軸方向他方側に位置するコイルエンド32は、導体4の一部が露出され、隣り合う導体4同士が電気的及び物理的に接合されている(図1参照)。
絶縁被膜5は、導体4の外周部を覆っている。絶縁被膜5は、例えば絶縁性の樹脂により形成されている。絶縁被膜5は、軸方向他方側に位置するコイルエンド32における導体4が露出した部分を除く導体4の全長に亘って形成されている。絶縁被膜5は、空孔層51と、無空孔層52と、を有する。絶縁被膜5は、空孔層51と無空孔層52とが導体4の径方向において交互に配置されることにより、3層以上の複数層となるように形成されている。
図3に示すように、空孔層51は、例えば複数の空孔層形成膜61を有する。空孔層形成膜61は、絶縁材53の基材であるワニスの塗布及び焼き付けを繰り返して絶縁被膜5を形成する製造工程において、1回の焼き付けにより形成される部分である。なお、詳しい絶縁被膜5の製造工程については後述する。空孔層形成膜61の厚さはおよそ3〜4μmである。本実施形態において、空孔層51は、5層の空孔層形成膜61を有する。空孔層51の1層の厚みは20μm以下となるように設定されている。
空孔層形成膜61は、内部に空孔54が形成された絶縁材53を有する。換言すれば、空孔層形成膜61(空孔層51)は内部に空孔54を有する。絶縁材53は、例えばポリイミド等の絶縁性の樹脂により形成されている。空孔54は、絶縁材53に含まれた熱分解性樹脂が加熱され、この熱分解性樹脂がガス化することにより絶縁材53の内部に形成される。
無空孔層52は、例えば1層又は複数の無空孔層形成膜62を有する。無空孔層形成膜62は、空孔54を形成するための熱分解性樹脂を内部に含まない通常ワニス112(図4参照)の塗布及び焼き付けを行うことにより上述の空孔層形成膜61と同様の方法により形成される。本実施形態において、無空孔層52は、1層の無空孔層形成膜62を有する。電線10の最外表面には、無空孔層52が配置されている。
無空孔層形成膜62は、内部に空孔54を有することなく形成された絶縁材57を有する。絶縁材57は、例えばポリイミド等の絶縁性の樹脂により形成されている。本実施形態において、空孔層51の絶縁材53と、無空孔層52の絶縁材57と、は同一材料である。なお、空孔層形成膜61の絶縁材53と、無空孔層形成膜62の絶縁材57と、は異なる材料であってもよい。
ここで、絶縁材53,57の誘電率をα、内部に空孔54を有する絶縁被膜5(空孔層51)の誘電率をβ、空気(空孔54)の誘電率をγ、とすると、α>β>γとなる。したがって、内部に空孔54を有する空孔層51の誘電率βは、内部に空孔54を有さないように形成された無空孔層52の誘電率αよりも小さくなる。このように、絶縁被膜5全体の耐電性は、空孔層51を有することにより向上する。
電線10は、上述した空孔層51と無空孔層52とが導体4の外周部において導体4の径方向に交互に配置されることにより形成される。
(絶縁被膜の製造装置)
図4は、絶縁被膜5の製造装置100の説明図である。製造装置100は、ワニス漕101と、焼き付け炉102と、ダイス103と、を備える。
ワニス漕101は、熱分解性樹脂を含む空孔成形剤ワニス111と、熱分解性樹脂を含まない通常ワニス112と、を有する。空孔成形剤ワニス111は、加熱されて内部の熱分解性樹脂がガス化することにより、内部に空孔54が設けられた空孔層形成膜61を形成する。すなわち、空孔成形剤ワニス111は、後の空孔層51を形成する。通常ワニス112は、内部に空孔54を有さない無空孔層形成膜62を形成する。すなわち、通常ワニス112は、後の無空孔層52を形成する。
焼き付け炉102は、導体4に塗布された通常ワニス112及び空孔成形剤ワニス111(以下、単にワニスという。)を焼き付けにより導体4に固着する。
ダイス103は、電線10を電線10の軸方向に移動可能に保持している。
(絶縁被膜の製造工程)
製造装置100を用いて絶縁被膜5を製造する工程について説明する。絶縁被膜5の製造工程は、導体4の外周部にワニス111,112(後の絶縁材53,57)を塗布する塗布工程と、焼き付けによりワニス111,112を固着する焼き付け工程と、を有する。絶縁被膜5は、塗布工程と焼き付け工程とを所定の回数繰り返すことにより形成される。
具体的に、例えば空孔成形剤ワニス111を導体4に塗布する塗布工程の後、焼き付け炉102で空孔成形剤ワニス111を焼き付ける焼き付け工程を経ることにより、1層の空孔層形成膜61を形成する。同様に、通常ワニス112を導体4に塗布する塗布工程の後、焼き付け炉102で通常ワニス112を焼き付ける焼き付け工程を経ることにより、1層の無空孔層形成膜62を形成する。本実施形態においては、初めに、導体4に空孔成形剤ワニス111を塗布した後、焼き付けて空孔層形成膜61を形成し、この空孔成形剤ワニス111の塗布工程及び焼き付け工程を5回繰り返す。これにより、5層の空孔層形成膜61を有する空孔層51を形成する。次に、空孔層51の外周部に通常ワニス112を塗布した後焼き付けて無空孔層形成膜62を1層形成する。次に、無空孔層52の外周部に再び空孔成形剤ワニス111を塗布した後焼き付けて空孔層形成膜61を形成する。上述した工程を、絶縁被膜5が所定の厚みを有するまで繰り返すことにより、5層の空孔層形成膜61を有する空孔層51と、1層の無空孔層形成膜62を有する無空孔層52と、が交互に配置された絶縁被膜5が製造される。
(作用、効果)
次に、電線10及びステータ1の作用、効果について説明する。
ここで、図7に示すように、絶縁被膜201が空孔層のみを有する従来の構成にあっては、複数の空孔220同士が結合して大きな空隙が形成された場合に絶縁被膜201の強度及び絶縁性が逆に低下するおそれがある。このため、従来技術にあっては、複数の空孔220同士が結合するのを防ぐために空孔220の周囲を囲む外郭材230を設ける必要があり、外郭材230の材料費や製造費等のコストが増大するおそれがあった。
本実施形態の電線10によれば、絶縁被膜5は空孔層51を有するので、空孔54が形成されることにより絶縁被膜5の誘電率が低下し、絶縁被膜5の絶縁性を向上できる。一方、無空孔層52は内部に空孔54を有さないので、空孔層51に比べて絶縁被膜5の強度を向上できる。このように、絶縁被膜5は空孔層51と無空孔層52とを備えるので、空孔層51により絶縁被膜5の絶縁性を向上するとともに無空孔層52により絶縁被膜5の強度を向上した電線10とすることができる。また、絶縁被膜5が空孔層51のみを有する場合と比較して、空孔層51が無空孔層52により分割されて単位空孔層51あたりの体積が減少する。よって、空孔層51内の空孔54が結合して大きな空隙を形成することによる絶縁性の低下を抑制することができる。これにより、一つ一つの空孔54を独立させるための外郭材が不要となり、空孔層51の形成が容易になるとともに材料費を削減できる。
したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜5の絶縁性を向上した電線10を提供することができる。
空孔層51と無空孔層52とが径方向において交互に配置されているので、絶縁被膜5の絶縁性の向上と高強度化を両立することができる。また、径方向において空孔層51の間に無空孔層52が配置されるので、空孔54が径方向に結合して大きな空隙を形成することを抑制できる。よって、無空孔層52により、空孔層51における空孔54の独立を保証できる。したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜5の絶縁性を向上した電線10を提供することができる。
また、空孔層51の1層の厚みは20μm以下となるように構成されているので、たとえ空孔層51内部の空孔54が結合したとしても、空隙の大きさは20μm以下となる。
ここで、空孔層51における1層の厚みの上限値を20μmに設定した理由について説明する。
図5は、大気圧環境下において平行平板間(電極間)に電圧を印可した場合の放電開始電圧を示す、いわゆるパッシェン曲線80を示すグラフである。図5のグラフは、横軸を電極間距離、縦軸を火花放電電圧として、電極間距離による放電の発生しやすさ(し難さ)を示している。図5に示すように、大気圧環境下において、電極間で放電が生じ始める電圧は、電極間距離がおよそ22μmのときに極小値Pをとる。電極間距離が22μm以下のときには、電極間(ギャップ)に存在する初期電子の加速する距離が短いため初期電子が十分に加速できず、放電が発生しにくい。一方、電極間距離が22μm以上のときには、電極間の電界強度が不足して初期電子が加速できないため放電が発生しにくいが、電極間の電圧を上昇させることにより放電が発生する可能性がある。これより、電極間距離は、20μm以下の範囲において最も放電が発生しにくくなる。
本実施形態の電線10によれば、空孔層51の1層の厚みを20μm以下とすることにより、空隙の大きさが20μm以下となるようにした。これにより、空隙が形成された場合であっても、空隙の大きさを放電が生じにくい範囲に設定できる。よって、絶縁被膜5における部分放電の発生を抑制した、絶縁性に優れた絶縁被膜5を有する電線10とすることができる。
また、空孔54が結合して空隙を形成しても絶縁性が確保されるので、一つ一つの空孔54を外郭材で覆う必要がない。よって、外郭材を設ける必要がなく、材料費や製造コストを削減できる。
また、絶縁被膜5の最外層には、クラックの起点となり得る空孔54が形成されていない滑らかな表面を有する無空孔層52が配置されているので、曲げに対するクラックの発生を抑制することができる。さらに、空孔層51における空孔54の密度を上昇させた場合であっても、絶縁被膜5の最外層におけるクラックの発生を抑制できるので、高い絶縁性を確保しつつ絶縁被膜5の可撓性を向上できる。
本実施形態のステータ1によれば、上述したように安価かつ簡素な構成で絶縁被膜5の絶縁性を向上した電線10を備えているので、安価で高性能なステータ1とすることができる。
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態について説明する。図6は、第2実施形態に係る電線10の断面図であって、図2のIII−III線に対応する断面図である。本実施形態では、空孔層51が1層の空孔層形成膜61を有する点で上述した実施形態と相違している。以下の説明において、上述した第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
本実施形態において、空孔層51は、1層の空孔層形成膜61を有する。無空孔層52は、1層の無空孔層形成膜62を有する。空孔層51と無空孔層52とは、導体4の径方向において交互に配置されている。換言すれば、空孔層形成膜61と無空孔層形成膜62
とは、導体4の径方向において1層ずつ交互に配置されている。
本実施形態によれば、空孔層51が無空孔層52により細かく分割されるので、空孔層51の空孔54を独立させやすくなる。また、空孔層51が複数の空孔層形成膜61を有する場合と比較して空孔層51の1層の厚みが薄くなるので、空孔54が結合した場合であっても、特に径方向における空隙の大きさを抑えることができる。したがって、本実施形態によれば、より空隙の形成及び空隙の存在による部分放電の発生を抑えた絶縁被膜5とすることができる。
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施形態では絶縁被膜5の最外表面に無空孔層52が配置される構成について説明したが、これに限られない。すなわち、最初の層(導体4に接触する層)及び最後の層(電線10の最外表面に位置する層)は、空孔層51及び無空孔層52のいずれであってもよい。
また、導体4及び絶縁被膜5の断面形状は、例えば丸形状等であってもよい。
絶縁材53,57の材料はポリイミド以外の絶縁性の樹脂であってもよい。
1層の空孔層51が有する空孔層形成膜61の層数は1層又は複数層であるが、5層以下であればより好ましい。なお、絶縁被膜5の全体の体積に対して空孔層51の占める体積が大きいほど絶縁被膜5の絶縁性が向上し、無空孔層52の占める体積が大きいほど絶縁被膜5の曲げ強度が向上する。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上述した変形例を適宜組み合わせてもよい。
1 ステータ
4 導体
5 絶縁被膜
10 電線
51 空孔層
52 無空孔層
53,57 絶縁材
54 空孔
本発明は、ステータに関するものである。
そこで、本発明は、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線を備えたステータを提供することを目的とする。
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の発明に係るステータ(例えば、実施形態におけるステータ1)は、環状のステータコア(例えば、実施形態におけるステータコア2)と、前記ステータコアのスロット(例えば、実施形態におけるスロット22)に前記ステータコアの軸方向の一方側から挿入され、前記スロットから前記軸方向の他方側に突出した端部が互いに接合されて前記ステータコアに装着される電線(例えば、実施形態における電線10)と、を備え、前記電線は、導体(例えば、実施形態における導体4)と、前記導体を覆い、絶縁材(例えば、実施形態における絶縁材53)の内部に空孔(例えば、実施形態における空孔54)を有する空孔層(例えば、実施形態における空孔層51)と、前記絶縁材(例えば、実施形態における絶縁材57)の内部に前記空孔を有することなく形成された無空孔層(例えば、実施形態における無空孔層52)と、を有する絶縁被膜(例えば、実施形態における絶縁被膜5)と、を備え、前記絶縁被膜は、前記ステータコアに装着された状態で前記端部を除く全領域に亘って形成されていることを特徴としている。
また、請求項2に記載の発明に係るステータは、前記絶縁被膜は、前記空孔層と前記無空孔層とが前記導体の径方向に交互に配置されることにより、3層以上の複数層により形成されていることを特徴としている。
また、請求項3に記載の発明に係るステータは、前記空孔層の1層の厚みは20μm以下であることを特徴としている。
本発明の請求項1に記載のステータによれば、絶縁被膜は空孔層を有するので、空孔が形成されることにより絶縁被膜の誘電率が低下し、絶縁被膜の絶縁性を向上できる。一方、無空孔層は内部に空孔を有さないので、空孔層に比べて絶縁被膜の強度を向上できる。このように、絶縁被膜は空孔層と無空孔層とを備えるので、空孔層により絶縁被膜の絶縁性を向上するとともに無空孔層により絶縁被膜の強度を向上した電線とすることができる。また、絶縁被膜が空孔層のみを有する場合と比較して、空孔層が無空孔層により分割されて単位空孔層あたりの体積が減少するので、空孔層内の空孔が結合して大きな空隙を形成することによる絶縁性の低下を抑制することができる。よって、一つ一つの空孔を独立させるための外郭材が不要となり、空孔層の形成が容易になるとともに材料費を削減できる。
したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線を備えたステータを提供することができる。
本発明の請求項2に記載のステータによれば、空孔層と無空孔層とが径方向において交互に配置されているので、絶縁被膜の絶縁性の向上と高強度化を両立することができる。また、径方向において空孔層の間に無空孔層が配置されるので、空孔が径方向に結合して大きな空隙を形成することを抑制できる。よって、無空孔層により、空孔層における空孔の独立を保証できる。したがって、安価かつ簡素な構成で絶縁被膜の絶縁性を向上した電線を備えたステータを提供することができる。
本発明の請求項3に記載のステータによれば、空孔層の1層の厚みは20μm以下となるように構成されているので、たとえ空孔層内部の空孔が結合したとしても、空隙の大きさは20μm以下となる。
ここで、大気圧環境下において、平行平板電極間で放電が生じ始める電圧は、電極間距離がおよそ22μmのときに極小値となる。電極間距離が22μm以下のときには、電極間(ギャップ)に存在する初期電子の加速する距離が短いため初期電子が十分に加速できず、放電が発生しにくい。一方、電極間距離が22μm以上のときには、電極間の電界強度が不足して初期電子が加速できないため放電が発生しにくいが、電極間の電圧を上昇させることにより放電が発生する可能性がある。
そこで、本発明のステータは、電線の空孔層の1層の厚みを20μm以下とすることにより、空隙の大きさが20μm以下となるようにした。これにより、空隙が形成された場合であっても、空隙の大きさを放電が生じにくい範囲に設定できる。よって、部分放電の発生を抑制した、絶縁性に優れた絶縁被膜を有する電線を備えたステータとすることができる。
また、空孔が結合して空隙を形成しても絶縁性が確保されるので、一つ一つの空孔を外郭材で覆う必要がない。よって、外郭材を設ける必要がなく、材料費や製造コストを削減できる。

Claims (4)

  1. 導体と、
    前記導体を覆い、絶縁材の内部に空孔を有する空孔層と、前記絶縁材の内部に前記空孔を有することなく形成された無空孔層と、を有する絶縁被膜と、
    を備えることを特徴とする電線。
  2. 前記絶縁被膜は、前記空孔層と前記無空孔層とが前記導体の径方向に交互に配置されることにより、3層以上の複数層により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電線。
  3. 前記空孔層の1層の厚みは20μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電線。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の前記電線を備えたことを特徴とするステータ。
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