以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、先ず幾つかの実施形態について説明し、その後に各実施形態の要部について説明する。
本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
(第1実施形態)
本実施形態に係る回転電機10は、同期式多相交流モータであり、アウタロータ構造(外転構造)のものとなっている。回転電機10の概要を図1乃至図5に示す。図1は、回転電機10の縦断面斜視図であり、図2は、回転電機10の回転軸11に沿う方向での縦断面図であり、図3は、回転軸11に直交する方向での回転電機10の横断面図(図2のIII−III線断面図)であり、図4は、図3の一部を拡大して示す断面図であり、図5は、回転電機10の分解図である。なお、図3では、図示の都合上、回転軸11を除き、切断面を示すハッチングを省略している。以下の記載では、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
回転電機10は、大別して、軸受部20と、ハウジング30と、回転子40と、固定子50と、インバータユニット60とを備えている。これら各部材は、いずれも回転軸11と共に同軸上に配置され、所定順序で軸方向に組み付けられることで回転電機10が構成されている。
軸受部20は、軸方向に互いに離間して配置される2つの軸受21,22と、その軸受21,22を保持する保持部材23とを有している。軸受21,22は、例えばラジアル玉軸受であり、それぞれ外輪25と、内輪26と、それら外輪25及び内輪26の間に配置された複数の玉27とを有している。保持部材23は円筒状をなしており、その径方向内側に軸受21,22が組み付けられている。そして、軸受21,22の径方向内側に、回転軸11及び回転子40が回転自在に支持されている。
ハウジング30は、円筒状をなす周壁部31と、その周壁部31の軸方向両端部のうち一方の端部に設けられた端面部32とを有している。周壁部31の軸方向両端部のうち端面部32の反対側は開口部33となっており、ハウジング30は、端面部32の反対側が開口部33により全面的に開放された構成となっている。端面部32には、その中央に円形の孔34が形成されており、その孔34に挿通させた状態で、ネジやリベット等の固定具により軸受部20が固定されている。また、ハウジング30内、すなわち周壁部31及び端面部32により区画された内部スペースには、回転子40と固定子50とが収容されている。本実施形態では回転電機10がアウタロータ式であり、ハウジング30内には、筒状をなす回転子40の径方向内側に固定子50が配置されている。回転子40は、軸方向において端面部32の側で回転軸11に片持ち支持されている。
回転子40は、中空筒状に形成された回転子本体41と、その回転子本体41の径方向内側に設けられた環状の磁石部42とを有している。回転子本体41は、略カップ状をなし、磁石保持部材としての機能を有する。回転子本体41は、筒状をなす磁石保持部43と、同じく筒状をなしかつ磁石保持部43よりも小径の固定部44と、それら磁石保持部43及び固定部44を繋ぐ部位となる中間部45とを有している。磁石保持部43の内周面に磁石部42が取り付けられている。
固定部44の貫通孔44aには回転軸11が挿通されており、その挿通状態で回転軸11に対して固定部44が固定されている。つまり、固定部44により、回転軸11に対して回転子本体41が固定されている。なお、固定部44は、凹凸を利用したスプライン結合やキー結合、溶接、又はかしめ等により回転軸11に対して固定されているとよい。これにより、回転子40が回転軸11と一体に回転する。
また、固定部44の径方向外側には、軸受部20の軸受21,22が組み付けられている。上述のとおり軸受部20はハウジング30の端面部32に固定されているため、回転軸11及び回転子40は、ハウジング30に回転可能に支持されるものとなっている。これにより、ハウジング30内において回転子40が回転自在となっている。
回転子40には、軸方向両側のうち片側にのみ固定部44が設けられており、これにより、回転子40が回転軸11に片持ち支持されている。ここで、回転子40の固定部44は、軸受部20の軸受21,22により、軸方向に異なる2位置で回転可能に支持されている。すなわち、回転子40は、回転子本体41における軸方向の両側端部のうち一方の側において、軸方向2箇所の軸受21,22により回転可能に支持されている。そのため、回転子40が回転軸11に片持ち支持される構造であっても、回転子40の安定回転が実現されるようになっている。この場合、回転子40の軸方向中心位置に対して片側にずれた位置で、回転子40が軸受21,22により支持されている。
また、軸受部20において回転子40の中心寄り(図の下側)の軸受22と、その逆側(図の上側)の軸受21とは、外輪25及び内輪26と玉27との間の隙間寸法が相違しており、例えば回転子40の中心寄りの軸受22の方が、その逆側の軸受21よりも隙間寸法が大きいものとなっている。この場合、回転子40の中心寄りの側において、回転子40の振れや、部品公差に起因するインバランスによる振動が軸受部20に作用しても、その振れや振動の影響が良好に吸収される。具体的には、回転子40の中心寄り(図の下側)の軸受22において予圧により遊び寸法(隙間寸法)を大きくしていることで、片持ち構造において生じる振動がその遊び部分により吸収される。前記予圧は、定位置予圧でもよいが、軸受22の軸方向外側(図の上側)の段差に予圧用バネ、ウェーブワッシャ等を挿入することで与えてもよい。
また、中間部45は、径方向中心側とその外側とで軸方向の段差を有する構成となっている。この場合、中間部45において、径方向の内側端部と外側端部とは、軸方向の位置が相違しており、これにより、軸方向において磁石保持部43と固定部44とが一部重複している。つまり、固定部44の基端部(図の下側の奥側端部)よりも軸方向外側に、磁石保持部43が突出するものとなっている。本構成では、中間部45が段差無しで平板状に設けられる場合に比べて、回転子40の重心近くの位置で、回転軸11に対して回転子40を支持させることが可能となり、回転子40の安定動作が実現できるものとなっている。
上述した中間部45の構成によれば、回転子40には、径方向において固定部44を囲みかつ中間部45の内寄りとなる位置に、軸受部20の一部を収容する軸受収容凹部46が環状に形成されるとともに、径方向において軸受収容凹部46を囲みかつ中間部45の外寄りとなる位置に、後述する固定子50の固定子巻線51のコイルエンド部54を収容するコイル収容凹部47が形成されている。そして、これら各収容凹部46,47が、径方向の内外で隣り合うように配置されるようになっている。つまり、軸受部20の一部と、固定子巻線51のコイルエンド部54とが径方向内外に重複するように配置されている。これにより、回転電機10において軸方向の長さ寸法の短縮が可能となっている。
コイルエンド部54は、径方向の内側又は外側に曲げられることで、そのコイルエンド部54の軸方向寸法を小さくすることができ、固定子軸長を短縮することが可能である。コイルエンド部54の曲げ方向は、回転子40との組み付けを考慮したものであるとよい。回転子40の径方向内側に固定子50を組み付けることを想定すると、その回転子40に対する挿入先端側では、コイルエンド部54が径方向内側に曲げられるとよい。その逆側の曲げ方向は任意でよいが、空間的に余裕のある外径側が製造上好ましい。
また、磁石部42は、磁石保持部43の径方向内側において、周方向に沿って磁極が交互に変わるように配置された複数の磁石により構成されている。ただし、磁石部42の詳細については後述する。
固定子50は、回転子40の径方向内側に設けられている。固定子50は、略筒状に巻回形成された固定子巻線51と、その径方向内側に配置された固定子コア52とを有しており、固定子巻線51が、所定のエアギャップを挟んで円環状の磁石部42に対向するように配置されている。固定子巻線51は複数の相巻線よりなる。それら各相巻線は、周方向に配列された複数の導線が所定ピッチで互いに接続されることで構成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の3相巻線と、X相、Y相及びZ相の3相巻線とを用い、それら3相2組の相巻線を用いることで、固定子巻線51が6相の相巻線として構成されている。
固定子コア52は、軟磁性材からなる積層鋼板により円環状に形成されており、固定子巻線51の径方向内側に組み付けられている。固定子巻線51は、軸方向において固定子コア52に重複する部分であり、かつ固定子コア52の径方向外側となるコイルサイド部53と、軸方向において固定子コア52の一端側及び他端側にそれぞれ張り出すコイルエンド部54,55とを有している。コイルサイド部53は、径方向において固定子コア52と回転子40の磁石部42にそれぞれ対向している。回転子40の内側に固定子50が配置された状態では、軸方向両側のコイルエンド部54,55のうち軸受部20の側(図の上側)となるコイルエンド部54が、回転子40の回転子本体41により形成されたコイル収容凹部47に収容されている。ただし、固定子50の詳細については後述する。
インバータユニット60は、ハウジング30に対してボルト等の締結具により固定されるユニットベース61と、そのユニットベース61に組み付けられる電気コンポーネント62とを有している。ユニットベース61は、ハウジング30の開口部33側の端部に対して固定されるエンドプレート部63と、そのエンドプレート部63に一体に設けられ、軸方向に延びるケーシング部64とを有している。エンドプレート部63は、その中心部に円形の開口部65を有しており、開口部65の周縁部から起立するようにしてケーシング部64が形成されている。
ケーシング部64の外周面には固定子50が組み付けられている。つまり、ケーシング部64の外径寸法は、固定子コア52の内径寸法と同じか、又は固定子コア52の内径寸法よりも僅かに小さい寸法になっている。ケーシング部64の外側に固定子コア52が組み付けられることで、固定子50とユニットベース61とが一体化されている。また、ユニットベース61がハウジング30に固定されることからすると、ケーシング部64に固定子コア52が組み付けられた状態では、固定子50がハウジング30に対して一体化された状態となっている。
また、ケーシング部64の径方向内側は、電気コンポーネント62を収容する収容空間となっており、その収容空間には、回転軸11を囲むようにして電気コンポーネント62が配置されている。ケーシング部64は、収容空間形成部としての役目を有している。電気コンポーネント62は、インバータ回路を構成する半導体モジュール66や、制御基板67、コンデンサモジュール68を具備する構成となっている。
ここで、上記図1〜図5に加え、インバータユニット60の分解図である図6を用いて、インバータユニット60の構成をさらに説明する。
ユニットベース61において、ケーシング部64は、筒状部71と、その筒状部71の軸方向両端部のうち一方の端部(軸受部20側の端部)に設けられた端面部72とを有している。筒状部71の軸方向両端部のうち端面部72の反対側は、エンドプレート部63の開口部65を通じて全面的に開放されている。端面部72には、その中央に円形の孔73が形成されており、その孔73に回転軸11が挿通可能となっている。
ケーシング部64の筒状部71は、その径方向外側に配置される回転子40及び固定子50と、その径方向内側に配置される電気コンポーネント62との間を仕切る仕切り部となっており、筒状部71を挟んで径方向内外に、回転子40及び固定子50と電気コンポーネント62とが並ぶようにそれぞれ配置されている。
また、電気コンポーネント62は、インバータ回路を構成する電気部品であり、固定子巻線51の各相巻線に対して所定順序で電流を流して回転子40を回転させる力行機能と、回転軸11の回転に伴い固定子巻線51に流れる3相交流電流を入力し、発電電力として外部に出力する発電機能とを有している。なお、電気コンポーネント62は、力行機能と発電機能とのうちいずれか一方のみを有するものであってもよい。発電機能は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生電力として外部に出力する回生機能である。
電気コンポーネント62の具体的な構成として、回転軸11の周りには、中空円筒状をなすコンデンサモジュール68が設けられており、そのコンデンサモジュール68の外周面上に、複数の半導体モジュール66が周方向に並べて配置されている。コンデンサモジュール68は、互いに並列接続された平滑用のコンデンサ68aを複数備えている。具体的には、コンデンサ68aは、複数枚のフィルムコンデンサが積層されてなる積層型フィルムコンデンサであり、横断面が台形状をなしている。コンデンサモジュール68は、12個のコンデンサ68aが環状に並べて配置されることで構成されている。
なお、コンデンサ68aの製造過程においては、例えば、複数のフィルムが積層されてなる所定幅の長尺フィルムを用い、フィルム幅方向を台形高さ方向とし、かつ台形の上底と下底とが交互になるように長尺フィルムが等脚台形状に切断されることにより、コンデンサ素子が作られる。そして、そのコンデンサ素子に電極等を取り付けることでコンデンサ68aが作製される。
半導体モジュール66は、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子を有し、略板状に形成されている。本実施形態では、回転電機10が2組の3相巻線を備えており、その3相巻線ごとにインバータ回路が設けられていることから、計12個の半導体モジュール66が電気コンポーネント62に設けられている。
半導体モジュール66は、ケーシング部64の筒状部71とコンデンサモジュール68との間に挟まれた状態で配置されている。半導体モジュール66の外周面は筒状部71の内周面に当接し、半導体モジュール66の内周面はコンデンサモジュール68の外周面に当接している。この場合、半導体モジュール66で生じた熱は、ケーシング部64を介してエンドプレート部63に伝わり、エンドプレート部63から放出される。
半導体モジュール66は、外周面側、すなわち径方向において半導体モジュール66と筒状部71との間にスペーサ69を有しているとよい。この場合、コンデンサモジュール68では軸方向に直交する横断面の断面形状が正12角形である一方、筒状部71の内周面の横断面形状が円形であるため、スペーサ69は、内周面が平坦面、外周面が曲面となっている。スペーサ69は、各半導体モジュール66の径方向外側において円環状に連なるように一体に設けられていてもよい。なお、筒状部71の内周面の横断面形状をコンデンサモジュール68と同じ12角形にすることも可能である。この場合、スペーサ69の内周面及び外周面がいずれも平坦面であるとよい。
また、本実施形態では、ケーシング部64の筒状部71に、冷却水を流通させる冷却水通路74が形成されており、半導体モジュール66で生じた熱は、冷却水通路74を流れる冷却水に対しても放出される。つまり、ケーシング部64は水冷機構を備えている。図3や図4に示すように、冷却水通路74は、電気コンポーネント62(半導体モジュール66及びコンデンサモジュール68)を囲むように環状に形成されている。半導体モジュール66は筒状部71の内周面に沿って配置されており、その半導体モジュール66に対して径方向内外に重なる位置に冷却水通路74が設けられている。
筒状部71の外側には固定子50が配置され、内側には電気コンポーネント62が配置されていることから、筒状部71に対しては、その外側から固定子50の熱が伝わるとともに、内側から半導体モジュール66の熱が伝わることになる。この場合、固定子50と半導体モジュール66とを同時に冷やすことが可能となっており、回転電機10における発熱部材の熱を効率良く放出することができる。
また、電気コンポーネント62は、軸方向において、コンデンサモジュール68の一方の端面に設けられた絶縁シート75と、他方の端面に設けられた配線モジュール76とを備えている。この場合、コンデンサモジュール68の軸方向両端面のうち一方の端面(軸受部20側の端面)は、ケーシング部64の端面部72に対向しており、絶縁シート75を挟んだ状態で端面部72に重ね合わされている。また、他方の端面(開口部65側の端面)には、配線モジュール76が組み付けられている。
配線モジュール76は、合成樹脂材よりなり円形板状をなす本体部76aと、その内部に埋設された複数のバスバー76b,76cを有しており、そのバスバー76b,76cにより、半導体モジュール66やコンデンサモジュール68と電気的接続がなされている。具体的には、半導体モジュール66は、その軸方向端面から延びる接続ピン66aを有しており、その接続ピン66aが、本体部76aの径方向外側においてバスバー76bに接続されている。また、バスバー76cは、本体部76aの径方向外側においてコンデンサモジュール68とは反対側に延びており、その先端部にて配線部材79に接続されるようになっている(図2参照)。
上記のとおりコンデンサモジュール68の軸方向両側に絶縁シート75と配線モジュール76とがそれぞれ設けられた構成によれば、コンデンサモジュール68の放熱経路として、コンデンサモジュール68の軸方向両端面から端面部72及び筒状部71に至る経路が形成される。これにより、コンデンサモジュール68において半導体モジュール66が設けられた外周面以外の端面部からの放熱が可能になっている。つまり、径方向への放熱だけでなく、軸方向への放熱も可能となっている。
また、コンデンサモジュール68は中空円筒状をなし、その内周部には所定の隙間を介在させて回転軸11が配置されることから、コンデンサモジュール68の熱はその中空部からも放出可能となっている。この場合、回転軸11の回転により空気の流れが生じることにより、その冷却効果が高められるようになっている。
配線モジュール76には、円板状の制御基板67が取り付けられている。制御基板67は、所定の配線パターンが形成されたプリントサーキットボード(PCB)を有しており、そのボード上には各種ICや、マイコン等からなる制御装置77が実装されている。制御基板67は、ネジ等の固定具により配線モジュール76に固定されている。制御基板67は、その中央部に、回転軸11を挿通させる挿通孔67aを有している。
なお、配線モジュール76の軸方向両側のうちコンデンサモジュール68の反対側に制御基板67が設けられ、その制御基板67の両面の一方側から他方側に配線モジュール76のバスバー76cが延びる構成となっている。かかる構成において、制御基板67には、バスバー76cとの干渉を回避する切欠が設けられているとよい。例えば、円形状をなす制御基板67の外縁部の一部が切り欠かれているとよい。
上述のとおり、ケーシング部64に囲まれた空間内に電気コンポーネント62が収容され、その外側に、ハウジング30、回転子40及び固定子50が層状に設けられている構成によれば、インバータ回路で生じる電磁ノイズが好適にシールドされるようになっている。すなわち、インバータ回路では、所定のキャリア周波数によるPWM制御を利用して各半導体モジュール66でのスイッチング制御が行われ、そのスイッチング制御により電磁ノイズが生じることが考えられるが、その電磁ノイズを、電気コンポーネント62の径方向外側のハウジング30、回転子40、固定子50等により好適にシールドできる。
筒状部71においてエンドプレート部63の付近には、その外側の固定子50と内側の電気コンポーネント62とを電気的に接続する配線部材79(図2参照)を挿通させる貫通孔78が形成されている。図2に示すように、配線部材79は、圧着、溶接などにより、固定子巻線51の端部と配線モジュール76のバスバー76cとにそれぞれ接続されている。配線部材79は、例えばバスバーであり、その接合面は平たく潰されていることが望ましい。貫通孔78は、1カ所又は複数箇所に設けられているとよく、本実施形態では2カ所に貫通孔78が設けられている。2カ所に貫通孔78が設けられる構成では、2組の3相巻線から延びる巻線端子を、それぞれ配線部材79により容易に結線することが可能となり、多相結線を行う上で好適なものとなっている。
上述のとおりハウジング30内には、図4に示すように径方向外側から順に回転子40、固定子50が設けられ、固定子50の径方向内側にインバータユニット60が設けられている。ここで、ハウジング30の内周面の半径をdとした場合に、回転中心からd×0.705の距離よりも径方向外側に回転子40と固定子50とが配置されている。この場合、回転子40及び固定子50のうち径方向内側の固定子50の内周面(すなわち固定子コア52の内周面)から径方向内側となる領域を第1領域X1、径方向において固定子50の内周面からハウジング30までの間の領域を第2領域X2とすると、第1領域X1の横断面の面積は、第2領域X2の横断面の面積よりも大きい構成となっている。また、軸方向において回転子40の磁石部42及び固定子巻線51が重複する範囲で見て、第1領域X1の容積が第2領域X2の容積よりも大きい構成となっている。
なお、回転子40及び固定子50を磁気回路コンポーネントとすると、ハウジング30内において、その磁気回路コンポーネントの内周面から径方向内側となる第1領域X1が、径方向において磁気回路コンポーネントの内周面からハウジング30までの間の第2領域X2よりも容積が大きい構成となっている。
次いで、回転子40及び固定子50の構成をより詳しく説明する。
一般に、回転電機における固定子の構成として、積層鋼板よりなりかつ円環状をなす固定子コアに周方向に複数のスロットを設け、そのスロット内に固定子巻線を巻装するものが知られている。具体的には、固定子コアは、ヨーク部から所定間隔で径方向に延びる複数のティースを有しており、周方向に隣り合うティース間にスロットが形成されている。そして、スロット内に、例えば径方向に複数層の導線が収容され、その導線により固定子巻線が構成されている。
ただし、上述した固定子構造では、固定子巻線の通電時において、固定子巻線の起磁力が増加するのに伴い固定子コアのティース部分で磁気飽和が生じ、それに起因して回転電機のトルク密度が制限されることが考えられる。つまり、固定子コアにおいて、固定子巻線の通電により生じた回転磁束がティースに集中することで、磁気飽和が生じると考えられる。
また、一般的に、回転電機におけるIPMロータの構成として、永久磁石がd軸に配置され、q軸にロータコアが配置されたものが知られている。このような場合、d軸近傍の固定子巻線が励磁されることで、フレミングの法則により固定子から回転子のq軸に励磁磁束が流入される。そしてこれにより、回転子のq軸コア部分に、広範囲の磁気飽和が生じると考えられる。
図7は、固定子巻線の起磁力を示すアンペアターン[AT]とトルク密度[Nm/L]との関係を示すトルク線図である。破線が一般的なIPMロータ型の回転電機における特性を示す。図7に示すように、一般的な回転電機では、固定子において起磁力を増加させていくことにより、スロット間のティース部分及びq軸コア部分の2カ所で磁気飽和が生じ、それが原因でトルクの増加が制限されてしまう。このように、当該一般的な回転電機では、アンペアターン設計値がX1で制限されることになる。
そこで本実施形態では、磁気飽和に起因するトルク制限を解消すべく、回転電機10において、以下に示す構成を付与するものとしている。すなわち、第1の工夫として、固定子において固定子コアのティースで生じる磁気飽和をなくすべく、固定子50においてティースレス構造を採用し、かつIPMロータのq軸コア部分で生じる磁気飽和をなくすべく、SPMロータを採用している。第1の工夫によれば、磁気飽和が生じる上記2カ所の部分をなくすことができるが、低電流域でのトルクが減少することが考えられる(図7の一点鎖線参照)。そのため、第2の工夫として、SPMロータの磁束増強を図ることでトルク減少を挽回すべく、回転子40の磁石部42において磁石磁路を長くして磁力を高めた極異方構造を採用している。
また、第3の工夫として、固定子巻線51のコイルサイド部53において導線の径方向厚さを小さくした扁平導線構造を採用してトルク減少の挽回を図っている。ここで、上述の磁力を高めた極異方構造によって、対向する固定子巻線51には、より大きな渦電流が発生することが考えられる。しかしながら、第3の工夫によれば、径方向に薄い扁平導線構造のため、固定子巻線51における径方向の渦電流の発生を抑制することができる。このように、これら第1〜第3の各構成によれば、図7に実線で示すように、磁力の高い磁石を採用してトルク特性の大幅な改善を見込みつつも、磁力の高い磁石ゆえに生じ得る大きい渦電流発生の懸念も改善できるものとなっている。
さらに、第4の工夫として、極異方構造を利用し正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石部を採用している。これによれば、後述するパルス制御等によって正弦波整合率を高めてトルク増強を図ることができるとともに、ラジアル磁石と比べ緩やかな磁束変化のため渦電流損もまた更に抑制することができるのである。
また、第5の工夫として、固定子巻線51を複数の素線を寄せ集めて撚った素線導体構造としている。これによれば、基本波成分は集電されて大電流が流せるとともに、扁平導線構造で周方向に広がった導線で発生する周方向に起因する渦電流の発生を、素線それぞれの断面積が小さくなるため、第3の工夫による径方向に薄くする以上に効果的に抑制することができる。そして、複数の素線が撚り合っていることで、導体からの起磁力に対しては、電流通電方向に対して右ネジの法則で発生する磁束に対する渦電流を相殺することができる。
このように、第4の工夫、第5の工夫をさらに加えると、第2の工夫である磁力の高い磁石を採用しながら、さらにその高い磁力に起因する渦電流損を抑制しながらトルク増強を図ることができる。
以下に、上述した固定子50のティースレス構造、固定子巻線51の扁平導線構造、及び磁石部42の極異方構造について個別に説明を加える。ここではまずは、固定子50におけるティースレス構造と固定子巻線51の扁平導線構造とを説明する。図8は、回転子40及び固定子50の横断面図であり、図9は、図8に示す回転子40及び固定子50の一部を拡大して示す図である。図10は、固定子50の横断面を示す断面図であり、図11は、固定子50の縦断面を示す断面図である。また、図12は、固定子巻線51の斜視図である。なお、図8及び図9には、磁石部42における磁石の磁化方向を矢印にて示している。
図8乃至図11に示すように、固定子コア52は、軸方向に複数の電磁鋼板が積層され、かつ径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしており、その径方向外側に固定子巻線51が組み付けられるものとなっている。固定子コア52の外周面が導線設置部となっている。固定子コア52の外周面は凹凸のない曲面状をなしており、その外周面において周方向に並べて複数の導線群81が配置されている。固定子コア52は、回転子40を回転させるための磁気回路の一部となるバックヨークとして機能する。この場合、周方向に隣り合う各導線群81の間には軟磁性材からなるティース(つまり、鉄心)が設けられていない構成(つまり、ティースレス構造)となっている。本実施形態において、それら各導線群81の間隙56には、封止部57の樹脂材料が入り込む構造となっている。つまり、封止部57の封止前の状態で言えば、固定子コア52の径方向外側には、それぞれ導線間領域である間隙56を隔てて周方向に所定間隔で導線群81が配置されており、これによりティースレス構造の固定子50が構築されている。
なお、周方向に並ぶ各導線群81の間においてティースが設けられている構成とは、ティースが、径方向に所定厚さを有し、かつ周方向に所定幅を有することで、各導線群81の間に磁気回路の一部、すなわち磁石磁路を形成する構成であると言える。この点において、各導線群81の間にティースが設けられていない構成とは、上記の磁気回路の形成がなされていない構成であると言える。
図10及び図11に示すように、固定子巻線51は、封止材としての合成樹脂材からなる封止部57により封止されている。図10の横断面で見れば、封止部57は、各導線群81の間、すなわち間隙56に合成樹脂材が充填されて設けられており、封止部57により、各導線群81の間に絶縁部材が介在する構成となっている。つまり、間隙56において封止部57が絶縁部材として機能する。封止部57は、固定子コア52の径方向外側において、各導線群81を全て含む範囲、すなわち径方向の厚さ寸法が各導線群81の径方向の厚さ寸法よりも大きくなる範囲で設けられている。
また、図11の縦断面で見れば、封止部57は、固定子巻線51のターン部84を含む範囲で設けられている。固定子巻線51の径方向内側では、固定子コア52の端面の少なくとも一部を含む範囲で封止部57が設けられている。この場合、固定子巻線51は、各相の相巻線の端部、すなわちインバータ回路との接続端子を除く略全体で樹脂封止されている。
封止部57が固定子コア52の端面を含む範囲で設けられた構成では、封止部57により、固定子コア52の積層鋼板を軸方向内側に押さえ付けることができる。これにより、封止部57を用いて、各鋼板の積層状態を保持することができる。なお、本実施形態では、固定子コア52の内周面を樹脂封止していないが、これに代えて、固定子コア52の内周面を含む固定子コア52の全体を樹脂封止する構成であってもよい。
回転電機10が車両動力源として使用される場合には、封止部57が、高耐熱のフッ素樹脂や、エポキシ樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、LCP樹脂、シリコン樹脂、PAI樹脂、PI樹脂等により構成されていることが好ましい。また、膨張差による割れ抑制の観点から線膨張係数を考えると、固定子巻線51の導線の外被膜と同じ材質であることが望ましい。すなわち、線膨張係数が、一般的に他樹脂の倍以上であるシリコン樹脂は望ましくは除外される。なお、電気車両の如く、燃焼を利用した機関を持たない電気製品においては、180℃程度の耐熱性を持つPPO樹脂やフェノール樹脂、FRP樹脂も候補となる。回転電機の周囲温度が100℃未満と見做せる分野においては、この限りではない。
回転電機10のトルクは磁束の大きさに比例する。ここで、固定子コアがティースを有している場合には、固定子での最大磁束量がティースでの飽和磁束密度に依存して制限されるが、固定子コアがティースを有していない場合には、固定子での最大磁束量が制限されない。そのため、固定子巻線51に対する通電電流を増加して回転電機10のトルク増加を図る上で、有利な構成となっている。
固定子コア52の径方向外側における各導線群81は、断面が扁平矩形状をなす複数の導線82が径方向に並べて配置されて構成されている。各導線82は、横断面において「径方向寸法<周方向寸法」となる向きで配置されている。これにより、各導線群81において径方向の薄肉化が図られている。また、径方向の薄肉化を図るとともに、導体領域が、ティースが従来あった領域まで平らに延び、扁平導線領域構造となっている。これにより、薄肉化により断面積が小さくなることで懸念される導線の発熱量の増加を、周方向に扁平化して導体の断面積を稼ぐことで抑えている。なお、複数の導線を周方向に並べ、かつそれらを並列結線とする構成であっても、導体被膜分の導体断面積低下は起こるものの、同じ理屈に依る効果が得られる。
スロットがないことから、本実施形態における固定子巻線51では、その周方向の一周における導体領域を、隙間領域より大きく設計することができる。なお、従来の車両用回転電機は、固定子巻線の周方向の一周における導体領域/隙間領域は1以下であるのが当然であった。一方、本実施形態では、導体領域が隙間領域と同等又は導体領域が隙間領域よりも大きくなるようにして、各導線群81が設けられている。ここで、図10に示すように、周方向において導線82(つまり、後述する直線部83)が配置された導線領域をWA、隣り合う導線82の間となる導線間領域をWBとすると、導線領域WAは、導線間領域WBより周方向において大きいものとなっている。
回転電機10のトルクは、導線群81の径方向の厚さに略反比例する。この点、固定子コア52の径方向外側において導線群81の厚さを薄くしたことにより、回転電機10のトルク増加を図る上で有利な構成となっている。その理由としては、回転子40の磁石部42から固定子コア52までの距離(つまり鉄の無い部分の距離)を小さくして磁気抵抗を下げることができるためである。これによれば、永久磁石による固定子コア52の鎖交磁束を大きくすることができ、トルクを増強することができる。
導線82は、導体82aの表面が絶縁被膜82bにより被覆された被覆導線よりなり、径方向に互いに重なる導線82同士の間、及び導線82と固定子コア52との間においてそれぞれ絶縁性が確保されている。この絶縁被膜82bは、後述する素線86が自己融着被覆線であるならその皮膜、又は、素線86の皮膜とは別に重ねられた絶縁部材で構成されている。なお、導線82により構成される各相巻線は、接続のための露出部分を除き、絶縁被膜82bによる絶縁性が保持されるものとなっている。露出部分としては、例えば、入出力端子部や、星形結線とする場合の中性点部分である。導線群81では、樹脂固着や自己融着被覆線を用いて、径方向に隣り合う各導線82が相互に固着されている。これにより、導線82同士が擦れ合うことによる絶縁破壊や、振動、音が抑制される。
本実施形態では、導体82aが複数の素線86の集合体として構成されている。具体的には、図13に示すように、導体82aは、複数の素線86を撚ることで撚糸状に形成されている。つまり、本実施形態では、n相の固定子巻線51の全相の導体82aが、複数の素線86が撚られて形成される部位を、相内の1か所以上に持つ素線集合体として構成されている。また、図14に示すように、素線86は、細い繊維状の導電材87を束ねた複合体として構成されている。例えば、素線86はCNT(カーボンナノチューブ)繊維の複合体であり、CNT繊維として、炭素の少なくとも一部をホウ素で置換したホウ素含有微細繊維を含む繊維が用いられている。炭素系微細繊維としては、CNT繊維以外に、気相成長法炭素繊維(VGCF)等を用いることができるが、CNT繊維を用いることが好ましい。なお、素線86の表面は、エナメルなどの高分子絶縁層で覆われている。ポリイミドの被膜やアミドイミドの被膜からなる、いわゆるエナメル被膜であることが好ましい。
上記の導体82aでは、複数の素線86が撚り合わされて構成されているため、各素線86での渦電流の発生が抑えられ、導体82aにおける渦電流の低減を図ることができる。また、各素線86が捻られていることで、1本の素線86において磁界の印加方向が互いに逆になる部位が生じて逆起電圧が相殺される。そのため、やはり渦電流の低減を図ることができる。特に、素線86を繊維状の導電材87により構成することで、細線化することと捻り回数を格段に増やすこととが可能になり、渦電流をより好適に低減することができる。なお、ここでいう素線86同士の絶縁方法は、前述の高分子絶縁膜に限定されず、接触抵抗を利用し撚られた素線86間で電流が流れにくくする方法であってもよい。すなわち撚られた素線86間の抵抗値が、素線86そのものの抵抗値よりも大きい関係であれば、抵抗値に発生する電位差により、上記効果を得ることができる。たとえば、素線を作成する製造設備と、回転電機の電機子を作成する製造設備を別の非連続の設備として作成することで、移動時間などから素線は酸化し、接触抵抗を増やすことができ、好適である。
上述のとおり導線82は、断面が扁平矩形状をなし、径方向に複数並べて配置されるものとなっており、例えば融着層と絶縁層とを備えた自己融着被覆線で被覆された複数の素線86を撚った状態で集合させ、その融着層同士を融着させることで形状を維持している。なお、融着層を備えない素線や自己融着被覆線の素線を撚った状態で合成樹脂等により所望の形状に固めて成形してもよい。もし、導線82における絶縁被膜82bの厚さを例えば80μmとし、一般に使用される導線の被膜厚さ(5〜40μm)よりも厚肉とした場合、導線82と固定子コア52との間に絶縁紙等を介在させることをしなくても、これら両者の間の絶縁性が確保することができる。
各導線82は、周方向に所定の配置パターンで配置されるように折り曲げ形成されており、これにより、固定子巻線51として相ごとの相巻線が形成されている。図12に示すように、固定子巻線51では、各導線82のうち軸方向に直線状に延びる直線部83によりコイルサイド部53が形成され、軸方向においてコイルサイド部53よりも両外側に突出するターン部84によりコイルエンド部54,55が形成されている。各導線82は、直線部83とターン部84とが交互に繰り返されることにより、波巻状の一連の導線として構成されている。直線部83は、磁石部42に対して径方向に対向する位置に配置されており、磁石部42の軸方向外側となる位置において所定間隔を隔てて配置される同相の直線部83同士が、ターン部84により互いに接続されている。なお、直線部83が「磁石対向部」に相当する。
本実施形態では、固定子巻線51が分布巻きにより円環状に巻回形成されている。この場合、コイルサイド部53では、相ごとに、磁石部42の1極対に対応するピッチで周方向に直線部83が配置され、コイルエンド部54,55では、相ごとの各直線部83が、略V字状に形成されたターン部84により互いに接続されている。1極対に対応して対となる各直線部83は、それぞれ電流の向きが互いに逆になるものとなっている。また、一方のコイルエンド部54と他方のコイルエンド部55とでは、ターン部84により接続される一対の直線部83の組み合わせがそれぞれ相違しており、そのコイルエンド部54,55での接続が周方向に繰り返されることにより、固定子巻線51が略円筒状に形成されている。
より具体的には、固定子巻線51は、各相2対ずつの導線82を用いて相ごとの巻線を構成しており、固定子巻線51のうち一方の3相巻線(U相、V相、W相)と他方の3相巻線(X相、Y相、Z相)とが径方向内外の2層に設けられるものとなっている。この場合、巻線の相数をS、導線82の対数をmとすれば、極対ごとに2×S×m=2Sm個の導線群81が形成されることになる。本実施形態では、相数Sが3、対数mが2であり、8極対(16極)の回転電機であることから、2×3×2×8=96の導線群81が周方向に配置されている。
図12に示す固定子巻線51では、コイルサイド部53において、径方向内外の2層で直線部83が重ねて配置されるとともに、コイルエンド部54,55において、径方向内外に重なる各直線部83から、互いに周方向逆となる向きでターン部84が周方向に延びる構成となっている。つまり、径方向に隣り合う各導線82では、コイル端となる部分を除き、ターン部84の向きが互いに逆となっている。
ここで、固定子巻線51における導線82の巻回構造を具体的に説明する。本実施形態では、波巻にて形成された複数の導線82を、径方向内外に複数層(例えば2層)に重ねて設ける構成としている。図15は、n層目における各導線82の形態を示す図であり、(a)には、固定子巻線51の側方から見た導線82の形状を示し、(b)には、固定子巻線51の軸方向一側から見た導線82の形状を示している。なお、図15では、導線群81が配置される位置をそれぞれD1,D2,D3,…と示している。また、説明の便宜上、3本の導線82のみを示しており、それを第1導線82_A、第2導線82_B、第3導線82_Cとしている。
各導線82_A〜82_Cでは、直線部83が、いずれもn層目の位置、すなわち径方向において同じ位置に配置され、周方向に6位置(3×m対分)ずつ離れた直線部83同士がターン部84により互いに接続されている。換言すると、各導線82_A〜82_Cでは、いずれも回転子40の軸心を中心とする同一のピッチ円上において、5個おきの直線部83がターン部84により互いに接続されている。例えば第1導線82_Aでは、一対の直線部83がD1,D7にそれぞれ配置され、その一対の直線部83同士が、逆V字状のターン部84により接続されている。また、他の導線82_B,82_Cは、同じn層目において周方向の位置を1つずつずらしてそれぞれ配置されている。この場合、各導線82_A〜82_Cは、いずれも同じ層に配置されるため、ターン部84が互いに干渉することが考えられる。そのため本実施形態では、各導線82_A〜82_Cのターン部84に、その一部を径方向にオフセットした干渉回避部を形成することとしている。
具体的には、各導線82_A〜82_Cのターン部84は、同一のピッチ円上で周方向に延びる部分である傾斜部84aと、傾斜部84aからその同一のピッチ円よりも径方向内側(図15(b)において上側)にシフトし、別のピッチ円上で周方向に延びる部分である頂部84b、傾斜部84c及び戻り部84dとを有している。頂部84b、傾斜部84c及び戻り部84dが干渉回避部に相当する。なお、傾斜部84cは、傾斜部84aに対して径方向外側にシフトする構成であってもよい。
つまり、各導線82_A〜82_Cのターン部84は、周方向の中央位置である頂部84bを挟んでその両側に、一方側の傾斜部84aと他方側の傾斜部84cとを有しており、それら各傾斜部84a,84cの径方向の位置(図15(a)では紙面前後方向の位置、図15(b)では上下方向の位置)が互いに相違するものとなっている。例えば第1導線82_Aのターン部84は、n層のD1位置を始点位置として周方向に沿って延び、周方向の中央位置である頂部84bで径方向(例えば径方向内側)に曲がった後、周方向に再度曲がることで、再び周方向に沿って延び、さらに戻り部84dで再び径方向(例えば径方向外側)に曲がることで、終点位置であるn層のD9位置に達する構成となっている。
上記構成によれば、導線82_A〜82_Cでは、一方の各傾斜部84aが、上から第1導線82_A→第2導線82_B→第3導線82_Cの順に上下に並ぶとともに、頂部84bで各導線82_A〜82_Cの上下が入れ替わり、他方の各傾斜部84cが、上から第3導線82_C→第2導線82_B→第1導線82_Aの順に上下に並ぶ構成となっている。そのため、各導線82_A〜82_Cが互いに干渉することなく周方向に配置できるようになっている。
ここで、複数の導線82を径方向に重ねて導線群81とする構成において、複数層の各直線部83のうち径方向内側の直線部83に接続されたターン部84と、径方向外側の直線部83に接続されたターン部84とが、それら各直線部83同士よりも径方向に離して配置されているとよい。また、ターン部84の端部、すなわち直線部83との境界部付近で、複数層の導線82が径方向の同じ側に曲げられる場合に、その隣り合う層の導線82同士の干渉により絶縁性が損なわれることが生じないようにするとよい。
例えば図15のD7〜D9では、径方向に重なる各導線82が、ターン部84の戻り部84dでそれぞれ径方向に曲げられる。この場合、図16に示すように、n層目の導線82とn+1層目の導線82とで、曲がり部の曲げアールを相違させるとよい。具体的には、径方向内側(n層目)の導線82の曲げアールR1を、径方向外側(n+1層目)の導線82の曲げアールR2よりも小さくする。
また、n層目の導線82とn+1層目の導線82とで、径方向のシフト量を相違させるとよい。具体的には、径方向内側(n層目)の導線82のシフト量S1を、径方向外側(n+1層目)の導線82のシフト量S2よりも大きくする。
上記構成により、径方向に重なる各導線82が同じ向きに曲げられる場合であっても、各導線82の相互干渉を好適に回避することができる。これにより、良好な絶縁性が得られることとなる。
次に、回転子40における磁石部42の構造について説明する。本実施形態では、永久磁石として、残留磁束密度Br=1.0[T]、保磁力bHc=400[kA/m]以上のものを想定している。5000〜10000[AT]が相間励磁により掛かるものであるから、1極対で25[mm]の永久磁石を使えば、bHc=10000[A]となり、減磁をしないことが伺える。ここで、本実施形態においては、配向により磁化容易軸をコントロールした永久磁石を利用しているから、その磁石内部の磁気回路長を、従来1.0[T]以上を出す直線配向磁石の磁気回路長と比べて、長くすることができる。すなわち、1極対あたりの磁気回路長を、少ない磁石量で達成できる他、従来の直線配向磁石を利用した設計と比べ、過酷な高熱条件に曝されても、その可逆減磁範囲を保つことができる。また、本願発明者は、従来技術の磁石を用いても、極異方性磁石と近しい特性を得られる構成を見いだした。
図8及び図9に示すように、磁石部42は、円環状をなしており、回転子本体41の内側(詳しくは磁石保持部43の径方向内側)に設けられている。磁石部42は、それぞれ極異方性磁石でありかつ磁極が互いに異なる第1磁石91及び第2磁石92を有している。第1磁石91及び第2磁石92は周方向に交互に配置されている。第1磁石91は、回転子40においてN極となる磁石であり、第2磁石92は、回転子40においてS極となる磁石である。第1磁石91及び第2磁石92は、例えばネオジム磁石等の希土類磁石からなる永久磁石である。
各磁石91,92では、それぞれ磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間において磁化方向が円弧状に延びている。各磁石91,92それぞれにおいて、d軸側では磁化方向が径方向とされ、q軸側では磁化方向が周方向とされている。磁石部42では、各磁石91,92により、隣接するN,S極間を円弧状に磁束が流れるため、例えばラジアル異方性磁石に比べて磁石磁路が長くなっている。このため、図17に示すように、磁束密度分布が正弦波に近いものとなる。その結果、図18に比較例として示すラジアル異方性磁石の磁束密度分布とは異なり、磁極位置に磁束を集中させることができ、回転電機10のトルクを高めることができる。なお、図17及び図18において、横軸は電気角を示し、縦軸は磁束密度を示す。また、図17及び図18において、横軸の90°はd軸(すなわち磁極中心)を示し、横軸の0°,180°はq軸を示す。
また、磁束密度分布の正弦波整合率は、例えば40%以上の値とされていればよい。このようにすれば、正弦波整合率が30%程度であるラジアル配向磁石、パラレル配向磁石を用いる場合に比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。また、正弦波整合率を60%以上とすれば、ハルバッハ配列と呼ばれる磁束集中配列と比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。
図18に示す比較例では、q軸付近において磁束密度が急峻に変化する。磁束密度の変化が急峻なほど、固定子巻線51に発生する渦電流が増加してしまう。これに対し、本実施形態では、磁束密度分布が正弦波に近い。このため、q軸付近において、磁束密度の変化が、ラジアル異方性磁石の磁束密度の変化よりも小さい。これにより、渦電流の発生を抑制することができる。
ところで、磁石部42では、各磁石91,92のd軸付近(すなわち磁極中心)において磁極面に直交する向きで磁束が生じ、その磁束は、磁極面から離れるほど、d軸から離れるような円弧状をなす。また、磁極面に直交する磁束ほど、強い磁束となる。この点において、本実施形態の回転電機10では、上述のとおり各導線群81を径方向に薄くしたため、導線群81の径方向の中心位置が磁石部42の磁極面に近づくことになり、固定子50において回転子40から強い磁石磁束を受けることができる。
また、固定子50には、固定子巻線51の径方向内側、すなわち固定子巻線51を挟んで回転子40の逆側に円筒状の固定子コア52が設けられている。そのため、各磁石91,92の磁極面から延びる磁束は、固定子コア52に引きつけられ、固定子コア52を磁路の一部として用いつつ周回する。この場合、磁石磁束の向き及び経路を適正化することができる。
次に、回転電機10を制御する制御システムの構成について説明する。図19は、回転電機10の制御システムの電気回路図であり、図20は、制御装置110による制御処理を示す機能ブロック図である。
図19では、固定子巻線51として2組の3相巻線51a,51bが示されており、3相巻線51aはU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、3相巻線51bはX相巻線、Y相巻線及びZ相巻線よりなる。3相巻線51a,51bごとに、第1インバータ101と第2インバータ102とがそれぞれ設けられている。インバータ101,102は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、固定子巻線51の各相巻線において通電電流が調整される。
各インバータ101,102には、直流電源103と平滑用のコンデンサ104とが並列に接続されている。直流電源103は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。なお、インバータ101,102の各スイッチが、図1等に示す半導体モジュール66に相当し、コンデンサ104が、図1等に示すコンデンサモジュール68に相当する。
制御装置110は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ101,102における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。制御装置110が、図6に示す制御装置77に相当する。回転電機10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子40の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。制御装置110は、インバータ101,102の各スイッチを操作する操作信号を生成して出力する。なお、発電の要求は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生駆動の要求である。
第1インバータ101は、U相、V相及びW相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源103の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源103の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。
第2インバータ102は、第1インバータ101と同様の構成を有しており、X相、Y相及びZ相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源103の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源103の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれX相巻線、Y相巻線、Z相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点で互いに接続されている。
図20には、U,V,W相の各相電流を制御する電流フィードバック制御処理と、X,Y,Z相の各相電流を制御する電流フィードバック制御処理とが示されている。ここではまず、U,V,W相側の制御処理について説明する。
図20において、電流指令値設定部111は、トルク−dqマップを用い、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値や、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωに基づいて、d軸の電流指令値とq軸の電流指令値とを設定する。なお、電流指令値設定部111は、U,V,W相側及びX,Y,Z相側において共通に設けられている。なお、発電トルク指令値は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生トルク指令値である。
dq変換部112は、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値(各相電流)を、界磁方向をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。
d軸電流フィードバック制御部113は、d軸電流をd軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてd軸の指令電圧を算出する。また、q軸電流フィードバック制御部114は、q軸電流をq軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてq軸の指令電圧を算出する。これら各フィードバック制御部113,114では、d軸電流及びq軸電流の電流指令値に対する偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて指令電圧が算出される。
3相変換部115は、d軸及びq軸の指令電圧を、U相、V相及びW相の指令電圧に変換する。なお、上記の各部111〜115が、dq変換理論による基本波電流のフィードバック制御を実施するフィードバック制御部であり、U相、V相及びW相の指令電圧がフィードバック制御値である。
そして、操作信号生成部116は、周知の三角波キャリア比較方式を用い、3相の指令電圧に基づいて、第1インバータ101の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部116は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。
また、X,Y,Z相側においても同様の構成を有しており、dq変換部122は、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値(各相電流)を、界磁方向をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。
d軸電流フィードバック制御部123はd軸の指令電圧を算出し、q軸電流フィードバック制御部124はq軸の指令電圧を算出する。3相変換部125は、d軸及びq軸の指令電圧を、X相、Y相及びZ相の指令電圧に変換する。そして、操作信号生成部126は、3相の指令電圧に基づいて、第2インバータ102の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部126は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。
ドライバ117は、操作信号生成部116,126にて生成されたスイッチ操作信号に基づいて、各インバータ101,102における各3相のスイッチSp,Snをオンオフさせる。
続いて、トルクフィードバック制御処理について説明する。この処理は、例えば高回転領域及び高出力領域等、各インバータ101,102の出力電圧が大きくなる運転条件において、主に回転電機10の高出力化や損失低減の目的で用いられる。制御装置110は、回転電機10の運転条件に基づいて、トルクフィードバック制御処理及び電流フィードバック制御処理のいずれか一方の処理を選択して実行する。
図21には、U,V,W相に対応するトルクフィードバック制御処理と、X,Y,Z相に対応するトルクフィードバック制御処理とが示されている。なお、図21において、図20と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。ここではまず、U,V,W相側の制御処理について説明する。
電圧振幅算出部127は、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値と、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωとに基づいて、電圧ベクトルの大きさの指令値である電圧振幅指令を算出する。
トルク推定部128aは、dq変換部112により変換されたd軸電流とq軸電流とに基づいて、U,V,W相に対応するトルク推定値を算出する。なお、トルク推定部128aは、d軸電流、q軸電流及び電圧振幅指令が関係付けられたマップ情報に基づいて、電圧振幅指令を算出すればよい。
トルクフィードバック制御部129aは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値にトルク推定値をフィードバック制御するための操作量として、電圧ベクトルの位相の指令値である電圧位相指令を算出する。トルクフィードバック制御部129aでは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値に対するトルク推定値の偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて電圧位相指令が算出される。
操作信号生成部130aは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて、第1インバータ101の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部130aは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて3相の指令電圧を算出し、算出した3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号を生成する。
ちなみに、操作信号生成部130aは、電圧振幅指令、電圧位相指令、電気角θ及びスイッチ操作信号が関係付けられたマップ情報であるパルスパターン情報、電圧振幅指令、電圧位相指令並びに電気角θに基づいて、スイッチ操作信号を生成してもよい。
また、X,Y,Z相側においても同様の構成を有しており、トルク推定部128bは、dq変換部122により変換されたd軸電流とq軸電流とに基づいて、X,Y,Z相に対応するトルク推定値を算出する。
トルクフィードバック制御部129bは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値にトルク推定値をフィードバック制御するための操作量として、電圧位相指令を算出する。トルクフィードバック制御部129bでは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値に対するトルク推定値の偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて電圧位相指令が算出される。
操作信号生成部130bは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて、第2インバータ102の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部130bは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて3相の指令電圧を算出し、算出した3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号を生成する。ドライバ117は、操作信号生成部130a,130bにて生成されたスイッチ操作信号に基づいて、各インバータ101,102における各3相のスイッチSp,Snをオンオフさせる。
ちなみに、操作信号生成部130bは、電圧振幅指令、電圧位相指令、電気角θ及びスイッチ操作信号が関係付けられたマップ情報であるパルスパターン情報、電圧振幅指令、電圧位相指令並びに電気角θに基づいて、スイッチ操作信号を生成してもよい。
以下に、他の実施形態を第1実施形態との相違点を中心に説明する。
(第2実施形態)
本実施形態では、回転子40における磁石部42の極異方構造を変更しており、以下に詳しく説明する。
図22及び図23に示すように、磁石部42は、ハルバッハ配列と称される磁石配列を用いて構成されている。すなわち、磁石部42は、磁化方向(磁極の向き)を径方向とする第1磁石131と、磁化方向(磁極の向き)を周方向とする第2磁石132とを有しており、周方向に所定間隔で第1磁石131が配置されるとともに、周方向において隣り合う第1磁石131の間となる位置に第2磁石132が配置されている。第1磁石131及び第2磁石132は、例えばネオジム磁石等の希土類磁石からなる永久磁石である。
第1磁石131は、固定子50に対向する側(径方向内側)の極が交互にN極、S極となるように周方向に互いに離間して配置されている。また、第2磁石132は、各第1磁石131の隣において周方向の磁極の向きが交互に逆向きとなるように配置されている。
また、第1磁石131の径方向外側、すなわち回転子本体41の磁石保持部43の側には、軟磁性材料よりなる磁性体133が配置されている。例えば磁性体133は、電磁鋼板や軟鉄、圧粉鉄心材料により構成されているとよい。この場合、磁性体133の周方向の長さは第1磁石131の周方向の長さ(特に第1磁石131の外周部の周方向の長さ)と同じである。また、第1磁石131と磁性体133とを一体化した状態でのその一体物の径方向の厚さは、第2磁石132の径方向の厚さと同じである。換言すれば、第1磁石131は第2磁石132よりも磁性体133の分だけ径方向の厚さが薄くなっている。各磁石131,132と磁性体133とは、例えば接着剤により相互に固着されている。磁石部42において第1磁石131の径方向外側は、固定子50とは反対側であり、磁性体133は、径方向における第1磁石131の両側のうち、固定子50とは反対側(反固定子側)に設けられている。
磁性体133の外周部には、径方向外側、すなわち回転子本体41の磁石保持部43の側に突出する凸部としてのキー134が形成されている。また、磁石保持部43の内周面には、磁性体133のキー134を収容する凹部としてのキー溝135が形成されている。キー134の突出形状とキー溝135の溝形状とは同じであり、各磁性体133に形成されたキー134に対応して、キー134と同数のキー溝135が形成されている。キー134及びキー溝135の係合により、第1磁石131及び第2磁石132と回転子本体41との周方向(回転方向)の位置ずれが抑制されている。なお、キー134及びキー溝135(凸部及び凹部)を、回転子本体41の磁石保持部43及び磁性体133のいずれに設けるかは任意でよく、上記とは逆に、磁性体133の外周部にキー溝135を設けるとともに、回転子本体41の磁石保持部43の内周部にキー134を設けることも可能である。
ここで、磁石部42では、第1磁石131と第2磁石132とを交互に配列することにより、第1磁石131での磁束密度を大きくすることが可能となっている。そのため、磁石部42において、磁束の片面集中を生じさせ、固定子50寄りの側での磁束強化を図ることができる。
また、第1磁石131の径方向外側、すなわち反固定子側に磁性体133を配置したことにより、第1磁石131の径方向外側での部分的な磁気飽和を抑制でき、ひいては磁気飽和に起因して生じる第1磁石131の減磁を抑制できる。これにより、結果的に磁石部42の磁力を増加させることが可能となっている。本実施形態の磁石部42は、言うなれば、第1磁石131において減磁が生じ易い部分を磁性体133に置き換えた構成となっている。
図24は、磁石部42における磁束の流れを具体的に示す図であり、(a)は、磁石部42において磁性体133を有していない従来構成を用いた場合を示し、(b)は、磁石部42において磁性体133を有している本実施形態の構成を用いた場合を示している。なお、図24では、回転子本体41の磁石保持部43及び磁石部42を直線状に展開して示しており、図の下側が固定子側、上側が反固定子側となっている。
図24(a)の構成では、第1磁石131の磁極面と第2磁石132の側面とが、それぞれ磁石保持部43の内周面に接触している。また、第2磁石132の磁極面が第1磁石131の側面に接触している。この場合、磁石保持部43には、第2磁石132の外側経路を通って第1磁石131との接触面に入る磁束F1と、磁石保持部43と略平行で、かつ第2磁石132の磁束F2を引きつける磁束との合成磁束が生じる。そのため、磁石保持部43において第1磁石131と第2磁石132との接触面付近において、部分的に磁気飽和が生じることが懸念される。
これに対し、図24(b)の構成では、第1磁石131の反固定子側において第1磁石131の磁極面と磁石保持部43の内周面との間に磁性体133が設けられているため、その磁性体133で磁束の通過が許容される。したがって、磁石保持部43での磁気飽和を抑制でき、減磁に対する耐力が向上する。
また、図24(b)の構成では、図24(a)とは異なり、磁気飽和を促すF2を消すことができる。これにより、磁気回路全体のパーミアンスを効果的に向上させることができる。このように構成することで、その磁気回路特性を、過酷な高熱条件下でも保つことができる。
また、従来のSPMロータにおけるラジアル磁石と比べて、磁石内部を通る磁石磁路が長くなる。そのため、磁石パーミアンスが上昇し、磁力を上げ、トルクを増強することができる。さらに、磁束がd軸の中央に集まることにより、正弦波整合率を高くすることができる。特に、PWM制御により、電流波形を正弦波や台形波とする、又は120度通電のスイッチングICを利用すると、より効果的にトルクを増強することができる。
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
・上記実施形態では、固定子コア52の外周面を凹凸のない曲面状とし、その外周面に所定間隔で複数の導線群81を並べて配置する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、図25に示すように、固定子コア52は、固定子巻線51の径方向両側のうち回転子とは反対側(図の下側)に設けられた円環状のヨーク部141と、そのヨーク部141から、周方向に隣り合う直線部83の間に向かって突出するように延びる突起部142とを有している。突起部142は、ヨーク部141の径方向外側、すなわち回転子40側に所定間隔で設けられている。固定子巻線51の各導線群81は、突起部142と周方向において係合しており、突起部142を位置決め部として用いつつ周方向に並べて配置されている。なお、突起部142が「巻線間部材」に相当する。
突起部142は、ヨーク部141からの径方向の厚さ寸法が、径方向内外の複数層の直線部83のうち、ヨーク部141に径方向に隣接する直線部83の径方向の厚さ寸法の1/2(図のH1)よりも小さい構成となっている。こうした突起部142の厚さ制限により、周方向に隣り合う導線群81(すなわち直線部83)の間において突起部142がティースとして機能せず、ティースによる磁路形成がなされないようになっている。突起部142は、周方向に並ぶ各導線群81の間ごとに全て設けられていなくてもよく、周方向に隣り合う少なくとも1組の導線群81の間に設けられていればよい。突起部142の形状は、矩形状、円弧状など任意の形状でよい。
また、固定子コア52の外周面では、直線部83が一層で設けられていてもよい。したがって、広義には、突起部142におけるヨーク部141からの径方向の厚さ寸法は、直線部83における径方向の厚さ寸法の1/2よりも小さいものであればよい。
なお、回転軸11の軸心を中心とし、かつヨーク部141に径方向に隣接する直線部83の径方向の中心位置を通る仮想円を想定すると、突起部142は、その仮想円の範囲内においてヨーク部141から突出する形状、換言すれば仮想円よりも径方向外側(すなわち回転子40側)に突出しない形状をなしているとよい。
上記構成によれば、突起部142は、径方向の厚さ寸法が制限されており、周方向に隣り合う直線部83の間においてティースとして機能するものでないため、各直線部83の間にティースが設けられている場合に比べて、隣り合う各直線部83を近づけることができる。これにより、導体断面積を大きくすることができ、固定子巻線51の通電に伴い生じる発熱を低減することができる。かかる構成では、ティースがないことで磁気飽和の解消が可能となり、固定子巻線51への通電電流を増大させることが可能となる。この場合において、その通電電流の増大に伴い発熱量が増えることに好適に対処することができる。また、固定子巻線51では、ターン部84が、径方向にシフトされ、他のターン部84との干渉を回避する干渉回避部を有することから、異なるターン部84同士を径方向に離して配置することができる。これにより、ターン部84においても放熱性の向上を図ることができる。以上により、固定子50での放熱性能を適正化することが可能になっている。
また、固定子コア52のヨーク部141と、回転子40の磁石部42(すなわち各磁石91,92)とが所定距離以上離れていれば、突起部142の径方向の厚さ寸法は、図25のH1に縛られるものではない。具体的には、ヨーク部141と磁石部42とが2mm以上離れていれば、突起部142の径方向の厚さ寸法は、図25のH1以上であってもよい。例えば、直線部83の径方向厚み寸法が2mmを越えており、かつ導線群81が径方向内外の2層の導線82により構成されている場合に、ヨーク部141に隣接していない直線部83、すなわちヨーク部141から数えて2層目の導線82の半分位置までの範囲で、突起部142が設けられていてもよい。この場合、突起部142の径方向厚さ寸法が「H1×3/2」までになっていれば、導線群81における導体断面積を大きくすることで、前記効果を少なからず得ることはできる。
また、固定子コア52は、図26に示す構成であってもよい。なお、図26では、封止部57を省略しているが、封止部57が設けられていてもよい。図26では、便宜上、磁石部42及び固定子コア52を直線状に展開して示している。
図26の構成では、固定子50は、周方向に隣接する導線82(すなわち直線部83)の間に、巻線間部材としての突起部142を有している。ここで、磁石部42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の幅寸法をWt、突起部142の飽和磁束密度をBs、磁石部42の1極分の周方向の幅寸法をWm、磁石部42の残留磁束密度をBrとする場合、突起部142は、
Wt×Bs≦Wm×Br …(1)
となる磁性材料により構成されている。
なお、範囲Wnは、周方向に隣接する複数の導線群81であって、励磁時期が重複する複数の導線群81を含むように設定される。その際、範囲Wnを設定する際の基準(境界)として、導線群81の間隙56の中心を設定することが好ましい。例えば、図26に例示する構成の場合、周方向においてN極の磁極中心からの距離が最も短いものから順番に、4番目までの導線群81が、当該複数の導線群81に相当する。そして、当該4つの導線群81を含むように範囲Wnが設定される。その際、範囲Wnの端(起点と終点)が間隙56の中心とされている。
図26において、範囲Wnの両端には、それぞれ突起部142が半分ずつ含まれていることから、範囲Wnには、合計4つ分の突起部142が含まれている。したがって、突起部142の幅(すなわち、固定子50の周方向における突起部142の寸法、言い換えれば、隣接する導線群81の間隔)をAとすると、範囲Wnに含まれる突起部142の合計の幅は、Wt=1/2A+A+A+A+1/2A=4Aとなる。
詳しくは、本実施形態では、固定子巻線51の3相巻線が分布巻であり、その固定子巻線51では、磁石ユニット42の1極に対して、突起部142の数、すなわち各導線群81の間となる間隙56の数が「相数×Q」個となっている。ここでQとは、1相の導線82のうち固定子コア52と接する数である。なお、導線82が回転子40の径方向に積層された導線群81である場合には、1相の導線群81の内周側の導線82の数であるともいえる。この場合、固定子巻線51の3相巻線が各相所定順序で通電されると、1極内において2相分の突起部142が励磁される。したがって、磁石ユニット42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の合計幅寸法Wtは、突起部142(つまり、間隙56)の周方向の幅寸法をAとすると、「励磁される相数×Q×A=2×2×A」となる。
そして、こうして合計幅寸法Wtが規定された上で、固定子コア52において、突起部142が、上記(1)の関係を満たす磁性材料として構成されている。なお、合計幅寸法Wtは、1極内において比透磁率が1よりも大きくなりえる部分の周方向寸法でもある。また、余裕を考えて、合計幅寸法Wtを、1磁極における突起部142の周方向の幅寸法
としてもよい。具体的には、磁石ユニット42の1極に対する突起部142の数が「相数×Q」であることから、1磁極における突起部142の周方向の幅寸法(合計幅寸法Wt)を、「相数×Q×A=3×2×A=6A」としてもよい。
なお、ここでいう分布巻とは、磁極の1極対周期(N極とS極)で、固定子巻線51の一極対があるものである。ここでいう固定子巻線51の一極対は、電流が互いに逆方向に流れ、ターン部84で電気的に接続された2つの直線部83とターン部84からなる。上記条件みたすものであれば、短節巻(Short Pitch Winding)であっても、全節巻(Full Pitch Winding)の分布巻の均等物とみなす。
次に、集中巻の場合の例を示す。ここでいう集中巻とは、磁極の1極対の幅と、固定子巻線51の一極対の幅とが異なるものである。集中巻の一例としては、1つの磁極対に対して導線群81が3つ、2つの磁極対に対して導線群81が3つ、4つの磁極対に対して導線群81が9つ、5つの磁極対に対して導線群81が9つのような関係であるものが挙げられる。
ここで、固定子巻線51を集中巻とする場合には、固定子巻線51の3相巻線が所定順序で通電されると、2相分の固定子巻線51が励磁される。その結果、2相分の突起部142が励磁される。したがって、磁石ユニット42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の幅寸法Wtは、「A×2」となる。そして、こうして幅寸法Wtが規定された上で、突起部142が、上記(1)の関係を満たす磁性材料として構成されている。なお、上記で示した集中巻の場合は、同一相の導線群81に囲まれた領域において、固定子50の周方向にある突起部142の幅の総和をAとする。また、集中巻におけるWmは「磁石ユニット42のエアギャップに対向する面の全周」×「相数」÷「導線群81の分散数」に相当する。
ちなみに、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石、フェライト磁石といったBH積が20[MGOe(kJ/m^3)]以上の磁石ではBd=1.0強[T]、鉄ではBr=2.0強[T]である。そのため、高出力モータとしては、固定子コア52において、突起部142が、Wt<1/2×Wmの関係を満たす磁性材料であればよい。
・上記実施形態では、固定子巻線51を覆う封止部57を、固定子コア52の径方向外側において各導線群81を全て含む範囲、すなわち径方向の厚さ寸法が各導線群81の径方向の厚さ寸法よりも大きくなる範囲で設ける構成としたが、これを変更してもよい。例えば、図27に示すように、封止部57を、導線82の一部がはみ出すように設ける構成とする。より具体的には、封止部57を、導線群81において最も径方向外側となる導線82の一部を径方向外側、すなわち固定子50側に露出させた状態で設ける構成とする。この場合、封止部57の径方向の厚さ寸法は、各導線群81の径方向の厚さ寸法と同じ、又はその厚さ寸法よりも小さいとよい。
・図28に示すように、各導線群81が封止部57により封止されていない構成としてもよい。つまり、固定子巻線51を覆う封止部57を用いない構成とする。この場合、周方向に並ぶ各導線群81の間は空隙となっている。
・固定子50が固定子コア52を具備していない構成としてもよい。この場合、固定子50は、図12に示す固定子巻線51により構成されることになる。なお、固定子コア52を具備していない固定子50において、固定子巻線51を封止材により封止する構成としてもよい。又は、固定子50が、軟磁性材からなる固定子コア52に代えて、合成樹脂等の非磁性材からなる円環状の巻線保持部を備える構成であってもよい。
・固定子巻線51において、導線82の直線部83を径方向に単層で設ける構成としてもよい。また、径方向内外に複数層で直線部83を配置する場合に、その層数は任意でよく、3層、4層、5層、6層等で設けてもよい。
・上記実施形態では、回転軸11を、軸方向で回転電機10の一端側及び他端側の両方に突出するように設けたが、これを変更し、一端側にのみ突出する構成としてもよい。この場合、回転軸11は、軸受部20により片持ち支持される部分を端部とし、その軸方向外側に延びるように設けられるとよい。本構成では、インバータユニット60の内部に回転軸11が突出しない構成となるため、インバータユニット60の内部空間、詳しくは筒状部71の内部空間をより広く用いることができることとなる。
・回転軸11を回転自在に支持する構成として、回転子40の軸方向一端側及び他端側の2カ所に軸受を設ける構成としてもよい。この場合、図1の構成で言えば、インバータユニット60を挟んで一端側及び他端側の2カ所に軸受が設けられるとよい。
・上記実施形態では、回転子40において回転子本体41の中間部45を、軸方向に段差を有する構成としたが、これを変更し、中間部45の段差を無くし、平板状としてもよい。
・上記実施形態では、固定子巻線51の導線82において導体82aを複数の素線86の集合体として構成したが、これを変更し、導線82として断面矩形状の角形導線を用いる構成としてもよい。また、導線82として断面円形状又は断面楕円状の丸形導線を用いる構成としてもよい。
・上記実施形態では、固定子50の径方向内側にインバータユニット60を設ける構成としたが、これに代えて、固定子50の径方向内側にインバータユニット60を設けない構成としてもよい。この場合、固定子50の径方向内側となる内部領域を空間としておくことが可能である。また、その内部領域に、インバータユニット60とは異なる部品を配することが可能である。
・回転電機10において、ハウジング30を具備しない構成としてもよい。この場合、例えばホイールや他の車両部品の一部において、回転子40、固定子50等が保持される構成であってもよい。
・インナロータ構造(内転構造)の回転電機に本発明を適用することも可能である。この場合、例えばハウジング30内において、径方向外側から順に固定子50、回転子40が設けられ、回転子40の径方向内側にインバータユニット60が設けられているとよい。
(実施形態の要部)
次に、上記各実施形態の要部について説明する。前述したように、上記各実施形態では、固定子50において、周方向における各導線82の間に巻線間部材(封止材57,突起部142)を設け、かつその巻線間部材として、1磁極における巻線間部材の周方向の幅寸法をWt、巻線間部材の飽和磁束密度をBs、1磁極における磁石部42の周方向の幅寸法をWm、磁石部42の残留磁束密度をBrとした場合に、Wt×Bs≦Wm×Brの関係となる磁性材料、若しくは非磁性材料を用いる構成か、又は周方向における各導線82の間に巻線間部材を設けていない構成となっている。
また前述したように、上記各実施形態では、固定子巻線51は、固定子コア52から軸方向に突出するコイルエンド部54,55を備えている。固定子巻線51は、本発明における「巻線」に相当し、固定子コア52は、本発明における「巻線保持部」に相当する。この巻線保持部は、固定子巻線51を封止する封止材であってもよいし、合成樹脂等の非磁性材からなる円環状のものでもよい。
そして、上記各実施形態では、図1、図2、図5及び図11に示されるように、固定子巻線51のコイルエンド部54,55の表面の一部(ここでは内周面)に軟磁性部材150,152が装着されている。これらの軟磁性部材150,152は、ここでは磁性粉体の結合体(soft magnetic composites;SMC)により構成されており、当該磁性粉体が圧縮成型されたものである。これらの軟磁性部材150,152は、コイルエンド部54,55と同軸の円筒状又は略円筒状をなしており、上記の圧縮成型によりコイルエンド部54,55の内周面に結合されている。このため、軟磁性部材150,152の外周面には、コイルエンド部54,55の内周面にフィットする凹凸形状(図示省略)が形成されている。軟磁性部材150,152の軸方向寸法は、例えばコイルエンド部54,55の軸方向寸法と同等又は略同等に設定されており、軟磁性部材150,152の内径寸法は、例えば固定子コア52の内径寸法よりも若干大きく設定されている。また、これらの軟磁性部材150,152は、コイルエンド部54,55とともに封止材57により封止されている。
上記構成によれば、磁気回路の主要部分、即ち固定子巻線51のコイルサイド部53は従来同様として主特性に影響を与えないままに、コイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152を備えることで、固定子巻線51の漏れインダクタンスを増すことができる。主インダクタンスは増えないが、漏れインダクタンスが増えることで、巻線端から見たトータルのインダクタンスを増やすことができるため、固定子巻線51に対する通電電流の一次遅れ特性を大きくできる。その結果、従来のスイッチング周波数(例えば10kHz以下)でPWM制御を実施しても電流変動を小さく抑えることができるので、従来の制御装置能力のまま、従来よりも安定的に固定子巻線51の電流制御を行うことが可能となる。この効果は、本実施形態のようなティースレス構造の回転電機10に限らず、固定子がスロット(即ちティース)を有する回転電機においても得られるものであるが、特にティースレス構造に適用すると効果絶大である。
また、図12に示されるように、コイルエンド部54,55の表面は複雑な凹凸形状をしているが、軟磁性部材150,152をSMCで構成すれば、各コイルエンド部54,55の表面の凸凹に各軟磁性部材150,152をフィットさせることができる。つまり、SMCでは、3次元造形が容易であるため、複雑な凹凸形状をなすコイルエンド部54,55の導線82間の隙間にも万遍なく磁性粉体を充填することができる。その結果、各軟磁性部材150,152を形成するための素材使用量を抑制しつつ、大きなインダクタンスを稼ぐことができる。また、コイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152が設けられることで、コイルエンド部54,55における漏れ磁束の発生が抑制されるので、当該漏れ磁束による渦電流損の発生も抑制できる。
さらに、上述した各実施形態には、円筒状をなす固定子コア52の径方向内側に筒状部71(即ちケーシング部64)を介して半導体モジュール66が内蔵されたものが含まれている。上記の筒状部71は、本発明における「放熱部材」に相当し、上記の半導体モジュール66は、本発明における「インバータ回路」に相当する。このような構成では、半導体モジュール66と固定子巻線51のコイルエンド部54,55との間に軟磁性部材150,152が介在されることとなる。これらの軟磁性部材150,152は、コイルエンド部54,55で発生する漏れ磁界を磁気遮断する効果を発揮するので、固定子巻線51の漏れ磁界が半導体モジュール66の運用上の障害となることがない。特に電流センサやチョークコイルなど磁気部品を多用するインバータには効果が大きい。
また、上記各実施形態では、回転子40は、固定子50との対向面に永久磁石(即ち第1磁石91及び第2磁石92)が配置された表面磁石型(即ちSPMロータ型)とされている。ここで、SPMロータ型の回転電機では、固定子巻線の作る閉磁路における固定子巻線との対向面に磁気抵抗の大きな永久磁石が配置されているため、磁気回路的には磁気抵抗が直列に接続されたような構成になっている。このため、SPMロータ型の回転電機では、埋め込み磁石型や誘導電動機の回転子のように回転子表面に軟磁性材が露出しているタイプの回転電機よりも、固定子巻線のインダクタンスが小さくなる。従って、前述したようなインダクタンスの増強効果を奏する軟磁性部材150,152は、上記のようなインダクタンスの小さい回転電機に適用してこそ良好な効果を発揮するのである。回転子表面に軟磁性材が露出しているタイプの回転電機では、既にある程度のインダクタンスが生じているので、コイルエンド部に軟磁性部材を配しても、然程インダクタンスの増強は見込めないのである。
また、上記各実施形態には、永久磁石である第1磁石91及び第2磁石92が極異方配向されたもの、即ち磁極中央の磁化容易軸と異なる方向に磁石端部の磁化容易軸が向いているものが含まれている。このような構成では、一般的なラジアル配向磁石と比べて有効磁路長が長くなり、その分磁気抵抗も大きくなる。即ちラジアル配向型磁石を採用した場合よりも、極異方配向磁石を採用した場合の方が、回転子との対向部分の磁気抵抗が一層大きくなる。このため、上記各実施形態のように、コイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152を配することの効果が一層際立つのである。
次に、図29〜図32を用いて、上記各実施形態の各種変形例について説明する。
(第1変形例)
図29には、第1変形例における軟磁性部材150の一部が斜視図にて示されている。この軟磁性部材150は、軟磁性材料からなる長尺帯状の板材(例えば磁性ステンレス鋼板)153が円筒状にプレス成形されて形成されたものであり、コイルエンド部54の内周面に装着されている。この軟磁性部材150の外周面には、固定子巻線51のターン部84に沿って斜めに延びる複数の突起部150Aが軟磁性部材150の周方向に並んで形成されている。この軟磁性部材150は、上記複数の突起部150Aがコイルエンド部54の内周面の導線82間の隙間に嵌入するようにコイルエンド部54に装着されている。これにより、軟磁性部材150がコイルエンド部54に対して周方向に位置決めされている。この軟磁性部材150は、封止材57又は接着剤などによりコイルエンド部54に固定されている。なお、この第1変形例では、上記の軟磁性部材150と同様に軟磁性材料からなる板材153により円筒状に形成された軟磁性部材152(図示省略)がコイルエンド部55の内周面に装着されている。この第1変形例においても前述したインダクタンスの増強効果が得られる。
(第2変形例)
図30には、第2変形例における軟磁性部材150が斜視図にて示されている。この軟磁性部材150は、磁性ステンレス鋼(例えばSUS430系合金)の鋼線154が螺旋状に巻き上げられ(即ち環状に周回され)ることで円筒状に形成されており、コイルエンド部54の内周面に装着されている。この軟磁性部材150は、封止材57又は接着剤などによりコイルエンド部54に固定されている。なお、この第2変形例では、上記の軟磁性部材150と同様に磁性ステンレス鋼の鋼線154によって円筒状に形成された軟磁性部材152(図示省略)がコイルエンド部55の内周面に装着されている。この第2変形例においても前述したインダクタンスの増強効果が得られる。しかも、この第2変形例では、鋼線154を巻き取るだけの簡易な工法でインダクタンス増強用の鉄心(即ち軟磁性部材150、152)を製作することができる。また、コイルエンド部54、55の形状に応じて軟磁性部材150、152を円盤状、円筒状、円錐台状(即ち軸方向一端から軸方向他端へ向かうほど縮径する筒状)、ひょうたん状など任意の形状に容易に製作することができる。さらに、SMC用の大型プレス機が不要となるので、製造設備を簡素化することができる。
(第3変形例)
図31には、第3変形例における固定子50が図11に対応した縦断面図にて示されている。また、図32には、第3変形例における軟磁性部材150が斜視図にて示されている。この第3変形例では、コイルエンド部54の突出方向が、回転子40とは反対側(ここでは径方向内側)に傾倒している。このコイルエンド部54は、コイルサイド部53とは反対側へ向かうほど縮径する円錐台状をなしている。このコイルサイド部53の内周面には、第2変形例における軟磁性部材150と同様に磁性ステンレス鋼の鋼線154によって形成された軟磁性部材150(図32参照)が装着されている。なお、図31では、軟磁性部材150の断面を概略的に記載している。この軟磁性部材150は、前述した円錐台状に形成されており、封止材57又は接着剤などによりコイルエンド部54に固定されている。なお、この第3変形例に係る軟磁性部材150をSMCにより製作する構成にしてもよい。この第3変形例においても前述したインダクタンスの増強効果が得られる。また、この第3変形例では、コイルエンド部54が反回転子40側に傾倒しているので、回転電機10を軸方向に小型化しつつ、固定子巻線51の漏れインダクタンスの増強を図ることができる。しかも、この第3変形例では、インバータユニット60とコイルエンド部54との間に軟磁性部材150が介在することになるため、コイルエンド部54の磁気遮蔽効果をも奏することができる。
次に、図33〜図35を用いて前述した電流変動抑制効果を更に詳細に説明する。図33には、上記各実施形態、即ちコイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152が装着されている場合におけるスイッチング周波数10kHzでの駆動の電流波形が示されている。また、図34には、従来例、即ちコイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152が装着されていない場合におけるスイッチング周波数10kHzでの駆動の電流波形が示されている。また、図35には、図34において符号Aを付した領域の一部が模式的に拡大されて示されている。
従来例のように、コイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152が装着されていない場合、固定子巻線51に流れる電流の一次遅れ成分が小さく、時定数(L/R)が小さいため、電流が瞬時に反応して振動が大きくなる。これは、インバータ101,102における各スイッチのオン/オフ直後の電流時間変化により説明できる。
つまり、上記各スイッチをオンした直後の電流時間変化は以下の(2)式で表される。
I(t)=(I0−I1)・{(1−exp(−R/L・t))}+I1・・・(2)
一方、上記各スイッチをオフした直後の電流時間変化は以下の(3)式で表される。
I(t)=I2・exp(−R/L・t)・・・(3)
ここで、上記のI1,I2は、それぞれ上記各スイッチをスイッチオン/オフする直前の電流値であり、上記のI0は、電流振幅値であり、上記のRは、巻線抵抗であり、上記のLは、巻線インダクタンスである。
上記(2)式及び(3)式のように表されるから、インダクタンスLが小さいと電流の時間変化が激しくなるのである。この点、上記各実施形態のように、コイルエンド部54,55に軟磁性部材150,152が装着された構成では、インダクタンスLが大きくなり電流の一次遅れ特性が改善されるため、電流の振動が抑制されるのである。具体的には、上記各実施形態(図33参照)では、上記従来例(図34参照)と比較して電流振幅が約1/4に抑制されている。この電流振動は電磁両立性(electromagnetic compatibility;EMC)の問題や、振動騒音の元凶となるため小さいに越したことはない。つまり、上記各実施形態によれば、電磁両立性や振動騒音の問題を従来よりも改善できるのである。
(実施形態の補足説明)
なお、上記各実施形態は、軟磁性部材150,152がコイルエンド部54,55の内周面に装着される構成にしたが、これに限らず、軟磁性部材150,152がコイルエンド部54,55の外周面に装着される構成にしてもよい。その場合、コイルエンド部54,55から外部に漏れる磁界を遮蔽する効果を呈するとともに、固定子巻線51の漏れインダクタンスを一層増強させることができる。
また、上記各実施形態では、コイルエンド部54,55の両方に軟磁性部材150,152が装着された構成にしたが、これに限らず、コイルエンド部54,55のうちの何れか一方のみに軟磁性部材が装着された構成にしてもよい。
また、上記各実施形態では、軟磁性部材150,152がコイルエンド部54,55の内周面に直接装着される構成にしたが、これに限らず、軟磁性部材150,152が非磁性体を介してコイルエンド部54,55の内周面に間接的に装着される構成にしてもよい。
また、上記各実施形態では、回転子40は、固定子50との対向面に永久磁石である第1磁石91及び第2磁石92が配置された表面磁石型とされた構成にしたが、これに限るものではない。固定子巻線のコイルエンド部に軟磁性部材を設ける構成は、埋め込み磁石型や誘導電動機の回転子のように回転子表面に軟磁性材が露出しているタイプの回転電機に対しても適用可能である。
また、上記各実施形態では、永久磁石は、保磁力(即ち固有保磁力)が400kA/m以上で且つ残留磁束密度が1T以上とされた構成にしたが、これに限らず、永久磁石の保持力及び残留磁束密度は適宜変更可能である。
また、上記各実施形態では、固定子巻線51は、一極一相あたりの径方向の寸法が周方向の寸法よりも小さく設定された構成にしたが、これに限るものではない。即ち、上記各実施形態では、コイルサイド部53において、相ごとに、磁石部42の1極対に対応するピッチで周方向に直線部83が配置されており、各導線82は、横断面において「径方向寸法<周方向寸法」となる向きで配置された構成とされている。これを変更し、固定子巻線51において、一極一相あたりの径方向の寸法が、周方向の寸法と同等又は周方向の寸法よりも大きく設定された構成にしてもよい。
また、上記各実施形態では、回転電機10が8極対(即ち16極)とされた構成にしたが、これに限らず、回転電機の極数は適宜変更可能である。
その他、本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本開示の技術的範囲が上記各実施形態に限定されないことは勿論である。