JP2020056874A - 光学フィルタ及び光学装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】撮像装置の大型化を極力抑制し、可視光や赤外光を利用した良好な画像を得る光学フィルタを提供する。【解決手段】所定の波長領域の光を遮蔽する第一カット膜、第一遮蔽膜よりも長波長側の光を遮蔽する第二カット膜、第一カット膜と第二カット膜よりも長波長側の光を遮蔽する第三カット膜とからなり、第一カット膜と第二カット膜は基板の同一面内の異なる領域に配置し、第三カット膜は第一カット膜と第二カット膜の領域に渡って、基板の厚み方向に形成する。【選択図】図1

Description

本発明は光学フィルタ及び、光学フィルタを有する光学装置に関するものである。
カメラなどの光学装置の撮像光学系には、CCDやCMOSなどの撮像素子が搭載されており、撮像素子に入射した光を電気信号に変換することで映像を得ている。撮像素子の前には、赤外カットフィルタや可視光カットフィルタなどの光学フィルタが搭載されており、撮像素子の感度や撮影環境を考慮し、最適な光波長で画像が得られるように、適宜光学フィルタが光路上に挿入される。
特開2010−175838号公報
特許文献1では、光学特性を考慮し、カット波長の異なる複数のカット膜からなる光学フィルタが開示されている。しかしながら、特許文献1の光学フィルタは単一光学フィルタにおける光透過波長帯が一つしかなく、例えば撮影状況に応じて可視光や赤外光の光を利用した撮影を行う場合、複数の光学フィルタを光学系に搭載する必要があり、撮像光学系の大型化を引き起こすという問題があった。また、赤外長波長領域の光透過は撮影画質の低下を引き起こすという問題があった
上記課題を解決するために、本発明の光学フィルタは基板上に、所定の波長領域の光を遮蔽する第一カット膜、第一遮蔽膜よりも長波長側の光を遮蔽する第二カット膜、第一カット膜と第二カット膜よりも長波長側の光を遮蔽する第三カット膜とを備え、第一カット膜と第二カット膜は基板の同一面内の異なる領域に配置され、第三カット膜は第一カット膜と第二カット膜の領域に渡って、基板の厚み方向に配置されている。
本発明の光学フィルタによれば、第一カット膜と第三カット膜により形成される光透過波長領域と、第二カット膜と第三カット膜により形成される光透過波長領域とが、同一の光学フィルタ内に存在する。なお、第三カット膜は、赤外長波長領域の画質劣化要因となり得る光波長の透過を遮蔽する機能を有する。このため、撮像系の部品を増加することなく撮影状況に合わせて、最適な光波長を利用した撮影が可能となる。
本発明に係る光学フィルタの構成図 実施例1に係る光学フィルタの透過率特性 第一カット膜の反射率特性 第二カット膜の反射率特性 第三カット膜の反射率特性 実施例1に係る光学フィルタの変形例 実施例1に係る光学フィルタの変形例 実施例1に係る第三カット膜の反射率特性 実施例2に係る光学フィルタの構成図 光減衰膜の透過率特性 実施例2に係る光学フィルタの変形例 本発明に係る光学系 本発明に係る光量制御装置 本発明に係る光学フィルタの配置図。
図を基に本発明に係る光学フィルタについて説明する。
図1は本発明に係る光学フィルタの構成図を示したものである。本発明の光学フィルタは所望の光波長において透明な基板1上に、カット波長の異なる3つ以上のカット膜を有する。カット膜は屈折率の異なる複数の薄膜が積層された薄膜積層構造体からなる。カット膜の内、最も短波長領域の光をカットするカット膜を第一カット膜2、第一カット膜よりも長波長領域の光をカットするカット膜を第二カット膜3、最も長波長領域の光をカットするカット膜を第三カット膜4とした時、第一カット膜2と第二カット膜3はそれぞれ基板の同一面内の異なる領域に形成され、第三カット膜4は第一カット膜2と第二カット膜3の領域に渡って、基板1の厚み方向に配置されている。
本発明において、第一カット膜2と第二カット膜3を面内の異なる領域に形成し、第一カット膜2を形成した領域と第二カット膜3を形成した領域において、基板の厚み方向にそれぞれ重なるように第三カット膜4を形成したのは、同一の光学フィルタにおいて、第一カット膜2と第三カット膜4によって形成される光透過波長領域と、第二カット膜3と第三カット膜4によって形成される光透過波長領域とを形成するためである。
(基板)
本発明に使用する基板としては、所望の光波長領域において透明な基板であれば、任意の基板を使用することが可能である。例えばガラスや水晶などの無機材料からなる基板や、ポリエステル系、ノルボルネン系、ポリエーテル系、アクリル系、スチレン系、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PES(ポリエーテルスルホン)系、ポリスルホン系、PEN(ポリエチレンナフタレート)系、PC(ポリカーボネート)系、及びポリイミド系などの様々な合成樹脂基板を使用することができる。合成樹脂基板は、ガラスなどの無機基板に比べ、柔軟で軽く、加工性が良いが、膜応力や熱応力による変形や、水分による特性変化を起こしやすい。このため、合成樹脂基板を用いる場合は、高耐熱性(高ガラス転移温度Tg)、高曲げ弾性率、低吸水性の材料を用いることが望ましい。例えば、高耐熱性基板としてポリイミド系やPES系、曲げ弾性率が大きい基板としてはPET、低吸水性基材としてはノルボルネン系などが挙げられる。また、必要に応じて、例えばシルセスキオキサン骨格を有する有機‐無機ハイブリッド材料からなる基板などを用いてもよい。尚、本発明において透明な基板とは第一カット膜2と第三カット膜3、及び第二カット膜3と第三カット膜4によって形成される光透過波長において透明であることを意味し、例えば第一カット膜2と第三カット膜4、及び第二カット膜3と第三カット膜4によって形成される光透過波長よりも短波長側あるいは長波長側に光吸収特性を有する基板を用いることもできる。具体的には紫外線領域や赤外線領域に吸収を有する基材を用いてもよい。紫外線領域に吸収を有する基材としては、紫外線領域に光吸収特性を有する酸化亜鉛や酸化チタンなどの無機成分や既知の有機染料・顔料をガラスや樹脂に練り込んだ基材を用いることができる。赤外線領域に吸収を有する基板としては、赤外線領域に光吸収特性を有する遷移金属イオンや、有機色素などを樹脂やガラスに練り込んだ基板を用いることができる。
基板の厚みとしては、小型・軽量化を考慮すると、剛性を保てる範囲で、できるだけ薄い方が好ましく、具体的には20μm〜1mm、25μm〜400μm程度が好適である。尚、光干渉薄膜積層体によって形成される透過帯域以外に光吸収を有する基板を用いる場合は、基板の光吸収特性も考慮し、基材厚みを決定する。
(カット膜)
本発明のカット膜は屈折率の異なる2つ以上の無機薄膜を複数層積層することで得る。無機薄膜は蒸着やスパッタリングなどによって形成され、屈折率の異なる複数の無機薄膜によって光干渉を起こし、これを利用して任意の光学特性を得る。無機薄膜としては、MgF2、SiO2、SiO、Si3H4、Al2O3、MgO、LaTiO3、ZrO2、TiO2、Nb2O5、Ta2O5などを用いることができる。カット膜は、カット膜によって形成される不透過波長領域における中心波長をλとすると、光学膜厚がλ/4程度、具体的には0.7〜1.3λ/4程度の屈折率の異なる無機薄膜が複数積層された構造を基本構成としている。但し、透過帯域のリップルを低減するためにλ/4から大きく離れた層を有していても良い。特に基板1との界面にリップルを低減する層を複数層形成することが効果的である。ここで光学膜厚とは、薄膜の屈折率をn、物理膜厚dとしたとき、n×dで表される。またカット膜は比較的膜厚が厚く、積層数が多いため、蒸着源の輻射熱により成膜温度が高くなりやすい。このため、基板1として合成樹脂基板を用いる場合は、成膜時に発生する熱による基板1の変形を抑制するために、冷却機構を有する成膜装置を用いることが有効である。尚、カット膜においては無機薄膜の屈折率差が大きい方が、所望の分光特性を得るのに必要な積層数が少なくなるため、極力屈折率差の大きい組み合わせとするのが好ましい。
第一カット膜2は第一から第三カット膜の内、最も短い光波長領域にカット機能を有し、近赤外領域の光を透過させる光学特性を有する。第二カット膜3は可視光波長の光を透過させ、近赤外領域をカットする特性を有している。すなわち第一カット膜2よりも長波長側にカット機能を有する光波長領域を有する。第三カット膜4は可視光波長〜近赤外領域の光を透過させ、第二カット膜3がカットする近赤外領域よりも長波長側の光に対しカット機能を有する。ここで、第三カット膜4は、第一カット膜2の光透過波長及び第二カット膜3の光透過波長のいずれを利用する場合においても不要となる光波長領域をカットする。第一カット膜2及び第二カット膜3の領域に渡って、第三カット膜4を基板1の厚み方向に形成することで、効率的に最適な光透過特性を有する光学フィルタとすることができる。
カット膜は一般的に長波長側にカット機能を有するほど物理膜厚は厚くなる。すなわち、第三カット膜4、第二カット膜3、第一カット膜2の順に膜厚が厚くなる。それに比例し、カット膜による膜応力もこの順に大きくなる。極薄ガラス基板や合成樹脂基板を用いる場合は、カット膜の応力により反りが発生しやすくなる。このような時は、第一カット膜2と第二カット膜3を基板1の同一面に、第三カット膜4を基板1のもう一方の面に配置すると良い。このように配置することで、第一カット膜2と第二カット膜3によって、第三カット膜4の膜応力をある程度キャンセルすることができる。更に、カット膜を成膜する際は、第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4の順に成膜することが好ましい。膜応力が小さい順番に成膜することで、カット膜成膜途中の基板の反りをできるだけ小さくできる。基板1が反ると、蒸発材料と基板1との距離が基板の面内で変化し、これに起因して基板の面内で蒸着膜の厚みが変わり、分光特性に影響が出ることがあるが、第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4の順で形成することで、この影響を極力抑えることができる。
本発明において、カット膜を形成する無機薄膜は真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンアシスト法、スパッタリング法など既知の様々な手法で成膜できるが、特にアシストを加えて成膜することが好ましい。アシストを印加することで、膜の密度が高くなり、成膜後の環境安定性を向上させることができる。尚、スパッタリング法では真空蒸着法よりも成膜エネルギーが大きく、積極的にアシストを加えなくても成膜時の再現性や環境安定性の良好な光干渉薄膜積層体を得られることがある。
(実施例1)
図1を基に本実施例に係る光学フィルタを説明する。本実施例の光学フィルタは板厚0.4mmのガラス基板の一方の面に、第一カット膜2と第二カット膜3がそれぞれ異なる領域に配置され、ガラス基板のもう一方の面に第三カット膜4が第一カット膜2と第二カット膜3が成膜された領域に重なるように形成されている。第一カット膜2と第三カット膜4、第二カット膜3と第三カット膜4によって形成される透過率特性は図2の様になっており、2つの透過波長帯域を有している。
本実施例に係る光学フィルタの作製方法について説明する。
はじめに第一カット膜2を形成する。ガラス基板を特定の領域のみに開口が設けられた成膜マスクで覆い、蒸着機に投入する。蒸着機内が所望の真空度に到達したら、蒸着材料を加熱し、ガラスに薄膜を積層させる。第一カット膜2は図3に示した反射率特性を有し、可視光波長の光を反射し、赤外光の光を透過させる。すなわち、光波長550nm程度を中心波長λとして、低屈折率材料SiO2と高屈折率材料TiO2を光学膜厚λ/4程度で複数交互積層した構成となっている。ここで、低屈折率材料をSiO2、高屈折率材料をTiO2としたのはこの組み合わせが実質的に屈折率差が最も大きくなる組合せであるためである。低屈折率材料と高屈折率材料の屈折率差が大きいと、所望の分光特性を形成するために必要となる積層数が少なくできるため、成膜時間を短くすることができる。
次に第二カット膜3を形成する。第一カット膜2の成膜が終わったら、ガラスを蒸着機から取り出し、第二カット膜用3の成膜マスクに取り換える。ここで第二カット膜用3の成膜マスクは第一カット膜2用の成膜マスクとは異なる領域に開口を有している。成膜マスクをガラスに装着したら、蒸着機に投入し、所望の真空度となったら蒸着を開始する。第二カット膜3は図4に示した反射率特性を有し、赤外光領域の一部を反射し、可視光波長の光を透過させる。すなわち、光波長750nm程度を中心波長λとして、低屈折率材料SiO2と高屈折率材料TiO2を光学膜厚λ/4程度で複数交互積層した構成となっている。但し、透過帯域のリップルを低減するためにλ/4から大きく離れた層を有していても良い。低屈折率材料と高屈折率材料は第一カット膜と同様の理由でSiO2とTiO2とした。
第二カット膜3の成膜が終わったら、第一カット膜2と第二カット膜3を形成した面とは反対面に第三カット膜4を成膜する。第一カット膜2と第二カット膜3が成膜された面とは反対面を蒸着材料に対向するようにガラスを蒸着機内に配置し、所望の真空度に到達したら成膜を開始する。ここで第三カット膜4は第一カット膜2と第二カット膜3の形成された領域にそれぞれ重なるように形成される。第三カット膜4は第一カット膜2と同様の理由でSiO2とTiO2の複数交互積層構造とし、図5に示す反射率特性を有している。すなわち光波長1000nm程度を中心波長λとし、SiO2とTiO2をそれぞれλ/4程度の光学膜厚で複数交互積層した構成となっている。第一カット膜2によって形成されるカット波長領域と第三カット膜4によって形成されるカット波長領域は非連続、第二カット膜3によって形成されるカット波長領域と第三カット膜4によって形成されるカット波長領域とは連続している。つまり、第一カット膜2と第三カット膜4がそれぞれカットする波長領域の間に透過波長帯域を有する。
第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4の全てのカット膜でSiO2とTiO2の複数交互積層構造としているが、SiO2とTiO2に限らず、MgF2、SiO2、SiO、Si3H4、Al2O3、MgO、LaTiO3、ZrO2、TiO2、Nb2O5、Ta2O5など様々な材料を使用することができる。また、必ずしも2つの材料の交互積層構造でなくてもよく、例えば低屈折率材料にSiO2とMgF2など複数の異なる材料を使用してもよいし、高屈折率材料としてTiO2とLaTiO3など複数の異なる材料を使用してもよい。また、適宜Al2O3などの中間屈折率材料を挿入することもできる。本実施例では、第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4のいずれも同じ膜材料を使用した構成となっているが、それぞれのカット膜で適宜最適な膜材料を使用すれば良い。また、成膜は既に公知の様々な方法を用いることができ、必要に応じて様々な反応性ガスやアシストなどを利用することができる。
本実施例に係る光学フィルタの変形例を図6〜7に示す。本実施例の光学フィルタは、図6に示すように、例えば第一カット膜2のみによってカット波長領域が決定される領域を有していてもよい。第一カット膜2のみによりカット波長領域を決定することで、赤外領域の広い波長領域を利用した撮影が可能となり、例えば赤外光の光量が比較的少ない条件で撮影する際に有効となる。尚、図示しないが、第二カット膜3のみ、第三カット膜4のみでそれぞれカット波長領域が決定される領域を有していてもよい。また、図7(a)に示すように、第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4が基板1の一方の面に形成された構成となっていてもよく、更には図7(b)に示すように例えば第三カット膜4が第一カット膜2と第二カット膜3の端面を覆うように形成していてもよい。図示しないが、第三カット膜4が第一カット膜2と第二カット膜3の一部の端面のみを覆う構成でもよく、更には第三カット膜4の端面の一部または全部を第一カット膜2と第二カット膜3とによって覆う構成としてもよい。このようにカット膜の端面の一部または全部を別のカット膜で覆うことで、覆われたカット膜が大気中の空気の影響による分光変化を起こしにくくなり、更にカット膜どうしの密着性も向上させることができる。
第三カット膜4は、図8に示すように、第二カット膜3より長波長側のカット波長領域以外に、第一カット膜2のカット波長よりも短波長側(すなわち紫外線領域)にもカット波長領域を有していてもよい。第三カット膜4に紫外線カット機能を設けることで、撮影に有害な紫外線が撮像素子に到達するのを効率的に抑制することができる。
(実施例2)
図9に本実施例に係る光学フィルタの構成図を示す。本実施例の光学フィルタは、板厚0.4mmのガラス基板に、第一カット膜2と第二カット膜3がガラス基板の同一面にそれぞれ異なる領域に配置され、ガラス基板のもう一方の面に第三カット膜4と光減衰膜5とが形成されている。尚、第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4の分光特性に関しては実施例1と同様である。
ここで光減衰膜5について説明する。光減衰膜5は、光吸収薄膜と誘電体薄膜の積層構造からなり、光吸収薄膜の光吸収特性と、光吸収薄膜と誘電体薄膜との光干渉とを利用して所望の光波長領域における透過率が略同等となるように形成される。光吸収薄膜としては減衰したい波長領域に合わせてTi、Ni、Cr、Fe、Nb、Ta、等の金属や合金、酸化物、窒化物などを用いることができる。光吸収薄膜として金属膜を利用する場合は、プラズマ振動数が光減衰領域の光の振動数よりも大きいことが好ましい。ここで、プラズマ振動数とは、金属の自由電子がプラズマ振動をする限界の振動数を指す。プラズマ振動数が光の振動数よりも大きい時、光が金属内へ侵入するのを防ぎ、反射させる。反対に、光の振動数がプラズマ振動数よりも大きいと、光は金属内に侵入し、金属によって吸収される。このため、金属膜のプラズマ振動数が光減衰領域の光の振動数よりも大きい材料を選択することで、所望の領域においてより平坦な分光特性を有する光学フィルタとすることができる。また、誘電体薄膜としては、MgF2、SiO2、SiO、Si3H4、Al2O3、MgO、LaTiO3、ZrO2、TiO2、Nb2O5、Ta2O5などを、光吸収薄膜の物性や必要とする分光特性に合わせて適宜選択することができる。なお、光吸収薄膜は金属の酸化物あるいは窒化物であることが好ましい。金属の酸化物や窒化物は金属膜と比較し消衰係数が小さく、比較的厚い膜厚を成膜することができるため、膜設計の自由度が増し、より分光特性の良好な光減衰膜とすることができるためである。本実施例においては光吸収薄膜としてTiOx(0<x<2)、誘電体薄膜としてAl2O3を用いている。図9の様に光減衰膜5が光学フィルタの表層に形成される場合、光減衰膜の最表層に反射防止膜を形成することが好ましい。本実施例では反射防止膜としてMgF2を、反射防止する波長量領域の中心波長をλとし、光学膜厚がλ/4程度となるように成膜した。尚、反射防止膜としてはMgF2に限らず、SiO2などの低屈折率材料も有効的に使用できる。本実施例の光減衰膜は図10に示すように可視光波長領域から近赤外領域(光波長400〜1000nm)程度で略均一の透過率となっている。
本実施例の光学フィルタの作製方法について説明する。実施例1と同様に第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4をそれぞれ形成する。第三カット膜4の成膜が終わったら、第三カット膜4上に光減衰膜5を形成する。第一から第三カット膜を形成したガラス基板を蒸着機に投入し、所望の真空度となったら、誘電体膜であるAl2O3と光吸収薄膜であるTiOxを交互に積層し、最表層にMgF2を光学膜厚λ/4程度成膜する。
光減衰膜5は基板の面方向で連続的に透過率が変化していてもよい。面方向に連続的に透過率の異なる領域を形成する方法としては、例えば、光吸収薄膜を成膜時に導入するガス量を調整し、酸化数または窒化数を面内方向で連続的に変化させる方法や、少なくとも光吸収膜の物理膜厚が面内方向で連続的に変化するように形成する方法がある。連続的に透過率が変化する領域は第一カット膜2と第二カット膜3を形成した領域に渡って存在していてもよいし、第一カット膜2と第二カット膜3のいずれか一方の領域のみであってもよい。透過率が連続に変化することで、光学フィルタが光路に挿入された際に、連続的に光が減衰されるため、特に動画撮影などの差異には、撮影者が感じる違和感を低減することができる。
本実施例では光減衰膜5は第三カット膜4上に形成したが、第三カット膜4と基板1の間、第一カット膜2・第二カット膜3と基板1との間、第一カット膜2・第二カット膜3上に配置されていてもよい。また、例えば図11(a)に示すように、第一カット膜2・第二カット膜3によって光減衰膜5の端部を覆うように形成してもよく、図示しないが、第三カット膜4によって光減衰膜5の端部を覆うように形成してもよい。光減衰膜5の光吸収薄膜は金属あるいは金属酸化物・窒化物などからなるが、これらは大気中の水蒸気により酸化され光吸収率が小さくなることがある。カット膜を光減衰膜5の端面を覆うように形成することで、光減衰膜5が大気中の水蒸気と接触するのを防止し、光学フィルタの透過率変化を抑制することができる。一方で、光減衰膜5が表層に配置されている場合、光学フィルタは帯電防止機能が期待される。光減衰膜5に使用される光吸収薄膜は金属・合金あるいはその酸化物または窒化物であり、可視ND膜上に反射防止膜を設けていても、表面抵抗率は10×1010Ω/□程度以下であり、十分に帯電防止機能を有しているためである。尚、一般的に表面抵抗が1010Ω/□台以下であれば、帯電防止効果を有していると判断できる。
本実施例では光減衰膜5を可視光波長領域から近赤外領域(光波長400〜1000nm)程度で略均一の透過率となるようにしているが、赤外波長領域における光減衰膜を第一光減衰膜5a、可視光波長領域における光減衰膜を第二光減衰膜5bとし、図11(b)に示すようにそれぞれ第一カット膜2、第二カット膜3に対応するように配置してもよい。この時第一光減衰膜5aと第二光減衰膜5bは異なる透過率であってもよい。また、図示しないが第一減衰膜5a、第二減衰膜5bのいずれか一方のみを形成した光学フィルタとしてもよい。第一減衰膜5a、第二減衰膜5bは基板と第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4のいずれかの上部あるいは基板との間に設けられていてもよい。また、第一減衰膜5aや第二減衰膜5bが第一カット膜2、第二カット膜3、第三カット膜4のいずれかによって、端面を含む領域を覆われていてもよい。
光減衰膜5の成膜は真空蒸着法やスパッタリング法を用いることができるが、アシストは加えないことが好ましい。アシストを加える際に導入するガスの影響で光吸収膜の吸収特性が変化しやすく、透過率の制御が難しくなるためである。
カット膜と光減衰膜5は使用する材料や成膜条件によってそれぞれ異なる方向に応力を有することがある。この場合、カット膜と光減衰膜5の間に応力緩衝膜を設けることが有効である。応力緩衝膜は例えば金属膜あるいは組成が連続的に変化する傾斜膜である。金属膜は金属結合からなる膜である。金属結合からなる膜は、共有結合やイオン結合からなる膜に比べ、延性に優れ、比較的自由に変形可能である。応力方向の異なるカット膜と光減衰膜との間に、金属膜を配置することで、カット膜と光減衰膜5の応力エネルギーが金属膜の変形に使用され、カット膜と光減衰膜5との間で剥離が発生するのを抑制することができる。金属膜の種類は光学フィルタの光学特性を考慮し適宜選択される。金属膜を応力緩衝膜として利用する場合、物理膜厚60Å以上であることが好ましい。60Åより膜厚が薄いと、金属膜は完全な層を形成せず、応力緩衝機能が極端に低減するためである。傾斜膜は例えば、膜厚方向で連続的に化学組成あるいは膜密度が変化する膜である。化学組成の連続的変化は、例えば酸素比の連続変化である。傾斜膜において膜厚方向に酸素比を連続的に変化させることで、徐々に応力の大きさあるいは方向を変化させることができる。例えば傾斜膜をTiOy(0≦y≦2)とした時、成膜時に導入する反応ガスであるO2の導入量を徐々に減らすことで、yの値が小さくなり、これに伴い、応力も連続的に変化する。また、膜密度を連続的に変化させることで、傾斜膜の膜厚方向で徐々に応力を変化させることもできる。例えばTiO2において、傾斜膜成膜初期はアシストを加えて成膜し、徐々に加えるアシストを弱くしていくと、圧縮応力から引張応力へと連続的に応力方向を変化させることができる。また、傾斜膜成膜時に徐々にガス導入量を連続的に変化させることで、傾斜膜の膜密度を連続的に低くすることができ、傾斜膜の膜応力の大きさを徐々に変化させることができる。更には、複数の蒸着材料を同時に成膜し、その混合比率を変化させることでも応力の方向や大きさを連続的に変化させることができる。
また、カット膜上に光減衰膜5を成膜すると、カット膜と光減衰膜5との間で光干渉作用が起こり、意図しない波長領域において反射が高くなることがある。この場合、カット膜と光減衰膜5との間に光学調整層を挿入することで反射を抑制できることがある。光学調整層は単層あるいは複数層からなり、SiO2やTiO2などが好適に使用できるが、これら以外にもMgF2、SiO2、SiO、Si3H4、Al2O3、MgO、LaTiO3、ZrO2、TiO2、Nb2O5、Ta2O5などを任意に選択可能である。
図12は本発明に係る光学系を示した図である。入射光はレンズ11、15〜17、絞り羽根、12a、12bや光学フィルタ13、14等から形成される光量調整装置30を通り、CCDやCMOSセンサから成る撮像素子18へと入射して電気信号に変換され映像化される。絞り羽根12a、12bの位置情報は光量制御部20へと伝達され、光量制御部20は撮像素子19からの光量情報と絞り羽根12a、12bの位置情報から最適な開口となるように絞り羽根12a、12bを駆動させる。光学フィルタ13はNDフィルタであり、絞り羽根12a、12bが一定の開口以下となると光路に挿入され、絞り羽根12a、12bの開口が小さくなり過ぎることで発生するフレアなどの弊害を抑制する。光学フィルタ14には、実施例1〜2で作製した光学フィルタが挿入され、撮影に使用する光波長領域によって光学フィルタ14の光路に挿入される領域を調整する。通常の撮影環境、つまり可視光波長の光が十分な時、光学フィルタ14は可視光を透過させる領域(第二カット膜3が形成された領域)が光路上に挿入される。この時、第一カット膜2が形成された領域は光路から退避される。一方、夜間など可視光波長の光が不十分の時は赤外光を利用して撮影する。この時、光学フィルタ14の赤外光波長を透過する領域(第一カット膜2が形成された領域)が光路に挿入され、第二カット膜3が形成された領域は光路から退避する。本発明の光学フィルタの第三カット膜4は、可視光撮影及び赤外光撮影のいずれの撮影環境においても、画質劣化の要因となり得る赤外長波長領域の光透過を遮蔽する機能を有する。本発明の光学フィルタを用いることで、可視光撮影及び赤外光撮影のいずれの撮影環境においても、高品質な画質を得ることが可能となる。
図13は本発明に係る光量調整装置を示した図である。光量調整装置はベース板とカバー、光学フィルタ、光学フィルタ駆動ユニットからなる。ベース板は開口を有し、開口の上下に光学フィルタの退避スペースを有する。カバーはベース板同様に開口と退避スペースとを有し、カバーの背面にはベース板が装着され、カバーとベース板とで箱状の中空体が形成される。光学フィルタは枠に保持され、光学フィルタのカット領域の異なる領域が、光軸に対して垂直方向となるように配置される。光学フィルタのカット波長の異なるそれぞれの領域は、ベース板あるいはカバーの開口を覆える程度の面積を有している。光学フィルタは光学フィルタ駆動ユニットによって、所望の領域がベース板及びカバーの開口上の位置に駆動される。光学フィルタ駆動ユニットは駆動機構と支持板、駆動軸とを備える。駆動機構はモータと変換部とを有し、変換部はモータの出力を直線運動に変換する機構であり、例えばリードスクリュである。なお、モータはどのような種類のモータでもよいが、例えばステッピングモータなどが好適である。移動機構をモータと変換部の例で説明したが、他の構成、例えば圧電素子と圧電素子に接続された駆動棒とからなる構成でもよい。光学フィルタは枠を介して、光学フィルタ駆動ユニットとビスにより接合されている。このような構成とすることで、変換部により直性運動に変換されたモータの出力が光学フィルタの駆動に利用される。撮影状況に応じて、光学フィルタの最適な領域が開口を覆うように駆動され、具体的には可視光波長の光量が十分な時は図14(a)の様に第二カット膜成膜領域が、可視光波長の光が不十分で、赤外光波長の光を利用して撮影するときは図14(b)の様に、第一カット膜が形成された領域がそれぞれベース板及びカバーにより形成される開口を覆うように配置される。なお、光学フィルタのいずれかのカット領域が開口を覆うように配置されることが好ましい。別途、カバーガラスを設けることでカット領域が完全に光路から退避させることも可能ではあるが、退避のために必要なスペースが大きくなり、光量制御装置の大型化を招いてしまうためである。
図13には図示しないが、光量調整装置には光学フィルタと光学フィルタ駆動ユニットの他に、NDフィルタ及びNDフィルタ駆動ユニットを設けてもよい。NDフィルタはNDフィルタ駆動ユニットによって、必要に応じてベース板及びカバーの開口を覆う位置に配置される。NDフィルタは駆動方向に連続的あるいは段階的に光学濃度の異なる領域を有していてもよい。なお、NDフィルタ駆動ユニットは光学フィルタ駆動ユニットと略同様の構成である。更に、図13には図示しないが、図12で示したように、開口に入射する光量を調整するための絞り羽根を設けてもよい。絞り羽根は例えばカーボンフェザーなどの遮光性材料からなり、入射光量に合わせて任意に開口径を調整可能である。絞り羽根を用いる場合、図12の様に、絞り羽根とNDフィルタとを接着させて用いることも可能である。絞り羽根により開口を調整する場合は、光学フィルタの各カット領域及びNDフィルタは絞り羽根によって形成される開口径を覆える程度の面性を有していればよい。
図12ではNDフィルタが存在するが、光学フィルタ14を実施例2の光学フィルタとすることで、NDフィルタを個別に設けなくても、略同様の効果を得ることができる。実施例2の光学フィルタを光学系に挿入する場合は、第二カット膜と撮像素子との間に光減衰膜を形成することが好ましい。カット膜は透過領域からカット領域への遷移波長領域において透過率と反射率の積が大きくなる領域がある。この遷移波長領域は光学フィルタによる多重反射に起因した画質劣化であるゴーストが発生しやすい領域である。ここで、光学フィルタに起因するゴースト強度を簡易的に求める式は、(光学フィルタの透過率)×(光学フィルタの反射率)×(撮像素子の感度)で表される。第二カット膜の遷移波長領域は撮像素子の感度が高い領域である上に、人の認識できる光の境界領域を含むため、特にゴースト強度を小さくすることが好ましい。第二カット膜と撮像素子との間に光減衰膜を配置することで、一度第二カット膜を透過した光が、第二カット膜で再び反射され、撮像素子へ入射するまでの間に3回光減衰膜を通過することになるため、ゴースト強度を効率的に低減させることができる。尚、第一カット膜や第三カット膜と撮像素子との間に光減衰膜を設けてもよい。
本発明の光学フィルタは、光軸方向の単一あるいは複数のカット膜によって光学特性が決まる領域を有している。撮影状況に応じて単一カット膜、複数のカット膜のそれぞれの領域を光路上に挿入させればよい。
本発明の光学フィルタを配置することで、光学フィルタの部品点数を増やすことなく、撮影環境に合わせ適宜最適な光波長を利用した映像を撮影できる光学系を提供することができる。更に、実施例2の光学フィルタの様に、光減衰膜を有する光学フィルタとすることで、光学系からNDフィルタを取り除くことが可能となり、更なる部品点数の削減・小型軽量化に貢献することができる。
本発明の光学フィルタを有する撮像装置は、装置の大型化を抑制しながら、可視光撮影・赤外光撮影のいずれの撮影環境においても高品質な画像を得ることができる。
1 基板
2 第一カット膜
3 第二カット膜
4 第三カット膜
5 光減衰膜
5a 第一光減衰膜
5b 第二光減衰膜
11 レンズ
12a、b 絞り羽根
13 NDフィルタ
14 光学フィルタ
15 フィルタ駆動部
16〜18 レンズ
19 撮像素子
20 光量制御部
30 光量制御装置
31 ベース板
31a 開口
32 カバー
32a 開口
33 光学フィルタ駆動ユニット
34 駆動機構
35 支持板
36 駆動軸

Claims (7)

  1. 基板と、
    前記基板上に設けられ、同一面内の異なる領域に波長領域の異なる光の透過を遮蔽する薄膜積層体を備え、
    前記薄膜積層体は、所定の波長領域の光の透過を遮蔽する第一カット膜と、
    前記第一カット膜よりも長波長側の波長領域の光を遮蔽する第二カット膜と、
    前記第一カット膜及び前記第二カット膜よりも長波長側の光を遮蔽する第三カット膜と、を有し、
    前記第一カット膜および前記第二カット膜が同一面内の異なる領域に配置され、
    前記第三カット膜が、前記第一カット膜及び前記第二カット膜の領域に渡って前記基板の厚み方向に配置されたことを特徴とする光学フィルタ。
  2. 前記第一カット膜がカットする波長領域と前記第三カット膜がカットする波長領域が不連続であり、前記第二カット膜がカットする波長領域と前記第三カット膜がカットする波長領域が連続であることを特徴とする請求項1に記載の光学フィルタ。
  3. 前記第3カット膜は、前記基板の前記第1カット及び前記第2カット膜が設けられた面側とは反対側の面に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルタ。
  4. 前記第1カット膜と前記第2カット膜の少なくとも一部の端面が前記第3カット膜によって覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルタ。
  5. 前記第3カット膜の端面が、前記第1カット膜と前記第2カット膜とによって覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載の光学フィルタ。
  6. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルタを光学系に備えた光学装置。
  7. 開口が設けられた地板と、
    前記地板に設けられる駆動部と、を備え、
    前記駆動部は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光学フィルタを駆動し、
    前記光学フィルタの前記第1カット膜、または、前記第2カット膜の少なくとも何れか一方が、常に前記開口を覆うように配置することを特徴とする光学装置。

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