JP2020056417A - 転がり軸受用保持器、および転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受用保持器、および転がり軸受 Download PDF

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Abstract

【課題】80℃以上の高温下での使用や高速条件下においても焼付きや破損を生じない転がり軸受用保持器、および該保持器を用いた転がり軸受を提供する。【解決手段】保持器5は、樹脂組成物を射出成形してなる転がり軸受用保持器であって、樹脂組成物は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を配合してなる組成物であり、樹脂組成物の射出成形体であり、樹脂組成物は、ガラス繊維を樹脂組成物全体に対して15〜40質量%含む。【選択図】図2

Description

本発明は、自動車のオルタネータや、モータ、工作機械などで用いられる転がり軸受の転がり軸受用保持器に関し、特に、所定の樹脂組成物を成形してなり、高温での使用に耐えることができ、かつ、変形がなく、組み込み性が良好な樹脂製の転がり軸受用保持器に関する。また、本発明は、上記保持器を備え、高温環境や高速回転条件、高負荷条件等の過酷な使用条件下で長期間の使用に耐え得る転がり軸受に関する。
従来の玉軸受には、外輪の軌道面と内輪の軌道面との間に円周方向に配置された複数個の転動体を転動自在に保持する保持器として、一般的にプレス成形された鉄製のものが使用されている。しかし、軸受の回転速度が速くなった場合、鉄製の保持器では転動体と該保持器の滑り接触による摩擦が大きくなり、軸受の昇温が大きくなり、その結果、焼き付きに至るおそれがあった。そこで、保持器の材料を自己潤滑性、低摩擦特性、軽量などの点で鉄製に比較して優れている合成樹脂を射出成形した保持器を用いることが有効と考えられ、一般的には、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド46(PA46)などが用いられ、必要に応じてこれらにガラス繊維を含有させ強化したものを用いている(特許文献1参照)。また、より寸法安定性、耐熱性、耐薬品性を向上させる目的でポリアミド9T(PA9T)を使用した保持器も提案されている(特許文献2、3参照)。
特開2000−227120号公報 特開2001−317554号公報 特開2006−207684号公報
樹脂製の保持器を組み込んだ転がり軸受を高速回転させる場合、高速回転によって発生する遠心力が保持器に作用する結果、保持器が変形するおそれがある。保持器が変形すると保持器とこの保持器に保持されている玉との摩擦が大きくなり、軸受の発熱を引き起こす原因となる。また、保持器が変形すると軸受外輪との接触も起こり、この接触による摩擦熱によって樹脂が溶融して転がり軸受が回転しなくなる(焼き付く)場合がある。よって、このように高速回転で使用される転がり軸受に組み込まれる樹脂製の保持器は、機械および/または熱的応力により、変形しないことが要求される。
同様に、高温下で使用される転がり軸受においても、高温下では、保持器の剛性が低下し、遠心力等の外力によって保持器が変形するおそれがある。昨今の自動車の低燃費化に向けた軽量化、コンパクト化に伴い、軸受に対する高温特性への要求も高まっている。
しかしながら、合成樹脂はガラス転移温度を境にして、機械的特性が大きく変化し、高温では、強度や弾性率が低下する。特許文献1に記載される一般的な保持器材質であるPA66やPA46は、そのガラス転移温度がそれぞれ約50℃、約80℃であり、それをこえる温度では、上述のように、遠心力による変形の発生、保持器と転動体との滑り摩擦による発熱の増大、軸受温度の更なる上昇を経て、保持器と外輪が接触し、焼き付きや保持器破損に至る可能性がある。このため、高速回転や高温環境で使用した場合、焼き付きによる損傷や保持器破損を防ぐことが困難であった。また、PA66やPA46は、吸水率が高く、それに伴って保持器寸法が変化するため、吸湿させた状態で寸法管理して使用する必要がある。さらに、保持器の吸湿後の強度および弾性率は吸湿前に比較して大きく低下する。
一方、特許文献2、3に記載されるようなPA9Tは、そのガラス転移温度が125℃であり、上述のPA66やPA46のガラス転移温度と比較して高い。しかし、PA9Tにおいても、高速回転条件下での温度上昇に対して、何らかの要因で潤滑状態が悪くなった場合、保持器温度がそのガラス転移温度以上となり、変形などの問題が発生するおそれがある。
また、PA9Tは、芳香族ポリアミドであることから、PA66やPA46のような脂肪族ポリアミドと比較して吸水性は低くなる。しかし、射出成形で製造される樹脂製の保持器には、成形時に樹脂組成物が合流する領域に形成されるウエルド部が必ず存在するところ、PA9Tは、弾性率が高く、靱性が低くなることから、使用時に該ウエルド部への応力集中が発生し、ウエルド部での割れが発生しやすくなり、保持器としての強度が低下するおそれがある。
これらの点に関して、特許文献2には、PA9Tを使用した保持器の提案こそなされているが、その耐焼付き性能については示唆されていない。また、特許文献3では、温度上昇についてdm・n値が60×10程度の記載はあるが、ウエルド部を含めた、その保持器としての強度については示唆されていない。
ポリアミド樹脂は、ガラス繊維等の繊維状充填材を多量に配合すると、射出成形性および寸法精度が期待できず、また、機械的特性が低下する場合がある。特にもみ抜き型の保持器において射出成形時のウエルド部に割れが生じたり、冠型保持器において射出成形時の無理抜きにより保持爪先端部の亀裂や白化が生じたりする。また、繊維状充填材は摺動性の低下により使用時の発熱がし易くなるおそれがある。
また、高温環境下で使用されるポリアミド樹脂以外の材料として、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)等のいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチック樹脂が提案されている。しかし、これらの材料は、耐熱性や耐薬品性には優れているものの、保持器として必要な適度な柔軟性に劣り、保持器の組み込み性に問題があるなどの指摘もある。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、80℃以上の高温下での使用や高速条件下においても焼付きや破損を生じない転がり軸受用保持器、および該保持器を用いた転がり軸受を提供することを目的とする。
本発明の転がり軸受用保持器は、樹脂組成物を射出成形してなる転がり軸受用保持器であって、上記樹脂組成物は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を配合してなる組成物であり、上記樹脂組成物は、上記ガラス繊維を上記樹脂組成物全体に対して15〜40質量%含むことを特徴とする。本発明において、「主成分」とは、ジカルボン酸成分、ジアミン成分、または原料モノマーの総モル数(100モル%)に対するモル%が最も多い成分、または構成単位であることを意味する。
上記ポリアミド樹脂は、上記ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを含み、上記ポリアミド樹脂が、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、構成単位として、上記テトラメチレンテレフタルアミド単位および上記ヘキサメチレンテレフタルアミド単位以外の芳香族ポリアミドのモノマー単位、および、脂肪族ポリアミドのモノマー単位の少なくともいずれかをさらに含む共重合ポリアミドであることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、構成単位として、上記芳香族ポリアミドのモノマー単位を含み、上記芳香族ポリアミドのモノマー単位が、テトラメチレンイソフタルアミド単位、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位、オクタメチレンテレフタルアミド単位、ノナメチレンテレフタルアミド単位、デカメチレンテレフタルアミド単位、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位、ドデカメチレンテレフタルアミド単位、メタキシリレンアジパミド単位、またはメタキシリレンセバカミド単位であることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、構成単位として、上記脂肪族ポリアミドのモノマー単位を含み、上記脂肪族ポリアミドのモノマー単位が、カプロアミド単位、オクタンアミド単位、デカンアミド単位、ウンデカンアミド単位、ドデカンアミド単位、テトラメチレンアジパミド単位、テトラメチレンスベラミド単位、テトラメチレンセバカミド単位、テトラメチレンドデカミド単位、ヘキサメチレンアジパミド単位、ヘキサメチレンセバカミド単位、ヘキサメチレンドデカミド単位、またはデカメチレンセバカミド単位であることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であり、融点が300℃以上であることを特徴とする。
上記転がり軸受用保持器が、円すいころ軸受に用いられ、大径リング部と、小径リング部と、これらを連結する複数の柱部とを備えてなり、上記円すいころ軸受に組み付ける際に、弾性変形を経て組み込まれることを特徴とする。
上記転がり軸受用保持器が、円筒ころ軸受に用いられ、一対のリング部と、これらを連結する複数の柱部とを備えてなり、上記転がり軸受用保持器は、上記柱部の外径側端部に、射出成形における離型時の無理抜き部を有することを特徴とする。
150℃以上の高温の油中で使用されることを特徴とする。
本発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備える転がり軸受であって、上記保持器が、本発明の転がり軸受用保持器であることを特徴とする。
上記転がり軸受が、dm・n値が80×10以上の高速回転で使用される軸受であることを特徴とする。上記転がり軸受が、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑で潤滑される転がり軸受であることを特徴とする。
本発明の転がり軸受用保持器は、ポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を所定量配合してなる樹脂組成物の射出成形体であり、上記ポリアミド樹脂が、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるので、保持器の剛性(弾性率)が高く、高温環境下や、高速回転となる条件下でも変形を小さくでき、高速回転で使用されても、焼付きや破損を防止できる。特に、上記ポリアミド樹脂が、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであるので、耐熱性などに一層優れる。
ベース樹脂とする上記ポリアミド樹脂は、融点が300℃以上であるので、保持器材料として最も多く用いられているPA66(融点267℃)、PA46(融点295℃)と比較して、非常に高い耐熱性を備える。また、PA9T樹脂(融点306℃)と比較しても、同等以上の耐熱性を備える。このため、高温高速回転となる条件下でも保持器の変形を小さくできる。また、上記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であるので、80℃以上の高温雰囲気下での使用や、dm・n値が80×10以上となるような高速回転で使用されても、保持器の変形を抑制でき、転動体と保持器の滑り摩擦による発熱を小さくできる。
また、耐油性、耐薬品性において、上記他のポリアミド樹脂よりも優れており、従来よりも厳しい使用条件、例えば高温、油中などでも使用可能となる。さらに、吸水率も、PA9Tと同等程度であり、PA66やPA46と比較して非常に少なく、吸水による寸法変化、物性低下を極力抑制できる。
本発明の転がり軸受は、内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する上記本発明の保持器を備えてなるので、例えばdm・n値が80×10以上の高速回転で使用される場合においても焼付きや保持器破損による不具合を発生させない軸受となる。
アンギュラ玉軸受の軸方向断面図である。 もみ抜き型の樹脂製保持器の斜視図等である。 冠型の樹脂製保持器の部分拡大斜視図である。 円すいころ軸受の軸方向断面図である。 円すいころ軸受用保持器を示す斜視図である。 円筒ころ軸受の軸方向断面図である。 円筒ころ軸受用保持器を示す図である。 射出成形の離型時の無理抜きを説明するための模式図である。 軸受への組み付け時の弾性変形を説明するための模式図である。 図1のアンギュラ玉軸受の潤滑構造の断面図である。 図1のアンギュラ玉軸受を用いたスピンドル装置を示す図である。 保持器引張試験の概要を示す図である。
本発明の転がり軸受用保持器は、樹脂組成物を射出成形してなる樹脂製の保持器である。樹脂材料とする樹脂組成物は、所定のポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これに所定量の繊維状補強材(ガラス繊維)を配合してなる。なお、本発明のポリアミド樹脂を、他のポリアミド樹脂と区別してポリアミドAと記す。
ポリアミドAは、ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなり、各成分を構成するジカルボン酸とジアミンとを重縮合して得られる。上記ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分とする。テレフタル酸を主成分とすることで、ポリアミド樹脂の高温剛性などに優れる。上記ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分は、1,4−ブタンジアミンを主成分とする。
ポリアミドAは、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸およびジアミン成分である1,4−ブタンジアミンのみから構成されるポリアミドであってもよい。この場合、ポリアミドAは、テトラメチレンテレフタルアミド単位のみで構成される。テトラメチレンテレフタルアミド単位は、ジカルボン酸であるテレフタル酸と、ジアミンである1,4−ブタンジアミンとが重合したPA4Tの構成単位である。また、ポリアミドAは、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸およびジアミン成分である1,4−ブタンジアミンの一部を、他の共重合成分で置き換えた共重合ポリアミドとしてもよい。
以下には、ポリアミドAが共重合ポリアミドの場合について説明する。
他の共重合成分として用いる、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香環を有するジカルボン酸などが挙げられる。また、他の共重合成分として用いる、1,4−ブタンジアミン以外のジアミン成分としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、芳香環を有するジアミンなどが挙げられる。これらジカルボン酸やジアミンの具体例については後述する。
ポリアミドAは、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであることが好ましい。ヘキサメチレンテレフタルアミド単位は、ジカルボン酸であるテレフタル酸と、ジアミンである1,6−ヘキサンジアミンとが重合したPA6Tの構成単位である。以下では、便宜上、テトラメチレンテレフタルアミド単位をPA4T単位、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位をPA6T単位と記す。
ポリアミドAは、例えば、PA4T単位およびPA6T単位のみで構成される2元共重合ポリアミド、PA4T単位およびPA6T単位を含む3種のモノマー単位で構成される3元共重合ポリアミド、PA4T単位およびPA6T単位を含む4種のモノマー単位で構成される4元共重合ポリアミドである。
ポリアミドAが3元共重合ポリアミドまたは4元共重合ポリアミドである場合、追加の構成単位としては、PA4T単位およびPA6T単位以外の芳香族ポリアミドのモノマー単位および脂肪族ポリアミドのモノマー単位の少なくともいずれかを含む。
上記芳香族ポリアミドは、分子中に芳香環を含んでいるポリアミド樹脂を意味し、芳香族ポリアミドのモノマー単位の分子中に芳香環が含まれていればよい。具体的には、モノマー単位中に、芳香族ジアミン、芳香環を有するジアミン、芳香族ジカルボン酸、および芳香環を有するジカルボン酸の少なくともいずれかから誘導される部分が含まれていればよい。芳香族ジアミンとしては、p−フェニレンジアミンやm−フェニレンジアミンなどが挙げられ、芳香環を有するジアミンとしては、m−キシリレンジアミンやp−キシリレンジアミンなどが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸や、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、芳香環を有するジカルボン酸としては、p−フェニレン二酢酸などが挙げられる。
上記芳香族ポリアミドのモノマー単位において、ジアミン成分とジカルボン酸成分の少なくともいずれか一方が芳香環を有していればよく、他方の重合成分は芳香環を有する必要はない。例えば、芳香環を有さない成分の原料としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
芳香環を有さないジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミンなどの直鎖状の脂肪族ジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、2−エチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの分岐型の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。
芳香環を有さないジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
以上より、芳香族ポリアミドのモノマー単位の具体例としては、テトラメチレンイソフタルアミド単位(PA4Iの構成単位)、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位(PA6Iの構成単位)、オクタメチレンテレフタルアミド単位(PA8Tの構成単位)、ノナメチレンテレフタルアミド単位(PA9Tの構成単位)、デカメチレンテレフタルアミド単位(PA10Tの構成単位)、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位(PA11Tの構成単位)、ドデカメチレンテレフタルアミド単位(PA12Tの構成単位)、メタキシリレンアジパミド単位(PAMXD6の構成単位)、メタキシリレンセバカミド単位(PAMXD10の構成単位)、メタキシリレンドデカミド単位(PAMXD12の構成単位)、パラキシリレンアジパミド単位(PAPXD6の構成単位)、パラキシリレンセバカミド単位(PAPXD10の構成単位)、パラキシリレンドデカミド単位(PAPXD12の構成単位)などが挙げられる。
上記脂肪族ポリアミドは、分子中に芳香環を含まないポリアミドを意味し、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂肪族ジアミンと脂環式ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂環式ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂環式ジアミンと脂環式ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂肪族ラクタム及び/または脂肪族アミノカルボン酸を重合させたポリアミド、及びこれらの共重合体である。脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸としては、上述したようなジアミンやジカルボン酸を用いることができる。
脂肪族ラクタムとして、例えば、ピロリドンや、カプロラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムなどが挙げられる。脂肪族アミノカルボン酸としては、例えば、1,11−アミノウンデカン酸などが挙げられる。
以上より、脂肪族ポリアミドのモノマー単位の具体例としては、酪酸アミド単位(PA4の構成単位)、カプロアミド単位(PA6の構成単位)、オクタンアミド単位(PA8の構成単位)、デカンアミド単位(PA10の構成単位)、ウンデカンアミド単位(PA11の構成単位)、ドデカンアミド単位(PA12の構成単位)、テトラメチレンアジパミド単位(PA46の構成単位)、テトラメチレンセバカミド単位(PA410の構成単位)、テトラメチレンドデカミド単位(PA412の構成単位)、ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66の構成単位)、ヘキサメチレンセバカミド単位(PA610の構成単位)、ヘキサメチレンドデカミド単位(PA612の構成単位)、デカメチレンセバカミド単位(PA1010の構成単位)、デカメチレンドデカミド単位(PA1012の構成単位)などが挙げられる。
ポリアミドAとしては3元共重合ポリアミドが好ましく、PA4T/6T/66、PA4T/6T/6、PA4T/6T/410、PA4T/6T/46、PA4T/6T/10Tがより好ましい。ここで、「/」は共重合体を示す。この場合、PA4TおよびPA6T以外の成分のポリアミドの総量は、ポリアミドA全体の原料モノマーの総モル数(100モル%)に対して、1〜30モル%とすることが好ましいく、5〜25モル%とすることがより好ましい。ポリアミドAを構成するジカルボン酸成分においてテレフタル酸が主成分となることで、高温剛性などに優れる。
ポリアミドAを製造する方法としては、溶融重合法、固相重合法、塊状重合法、溶液重合法、またはこれらを組み合わせた方法等、種々の重縮合を利用することができる。これらの中で好ましくは、溶融重合と固相重合の組み合わせ、水溶液重合と固相重合の組み合わせによる方法である。
以上で説明したように、ポリアミドAは、PA4T単位のみを構成単位とする単重合体、またはPA4T単位以外の構成単位も含む共重合ポリアミドである。
ポリアミドAの相対粘度は、特に限定されないが、保持器の成形を容易にするためには、96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定される相対粘度を1.8以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましい。
ポリアミドAは、その融点が300℃以上であることが好ましい。また、上限は特に限定されないが、成形加工性などを考慮して320〜350℃程度とすることが好ましい。融点範囲としては、320〜340℃が好ましく、330〜340℃がより好ましい。保持器材料として一般に使用される他のポリアミド樹脂(PA66樹脂(同267℃)、PA46樹脂(同295℃)よりも融点が高く、耐熱性に優れるので、高温環境下や、dm・n値が80×10以上となるような、高温、高速回転で使用されても、保持器の変形、焼付き、破損などを防止できる。なお、融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下で、上記ポリアミド樹脂を溶融状態から20℃/分の降温速度で25℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度(Tm)として測定できる。
ポリアミドAは、そのガラス転移温度が120℃以上であることが好ましい。より好ましくは150℃以上である。保持器材料として一般に使用される他のポリアミド樹脂(PA66樹脂(同49℃)、PA46樹脂(同78℃)よりもガラス転移温度が高いので、80℃以上の高温雰囲気下での使用や、dm・n値が80×10以上となるような高速回転で使用されても、保持器の変形を抑制でき、転動体と保持器の滑り摩擦による発熱を小さくできる。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下で、上記ポリアミド樹脂を急冷した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる階段状の吸熱ピークの中点の温度(Tg)として測定できる(JIS K7121)。
ベース樹脂とするポリアミドAに配合する繊維状補強材としては、ガラス繊維を用いる。ガラス繊維は、SiO、B、Al、CaO、MgO、NaO、KO、Feなどを主成分とする無機ガラスから紡糸して得られる。一般に、無アルカリガラス(Eガラス)、含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス)などを使用できる。ポリアミドAへの影響を考慮すれば無アルカリガラスが好ましい。無アルカリガラスは、組成物中にアルカリ成分をほとんど含んでいないホウケイ酸ガラスである。アルカリ成分がほとんど入っていないので、ポリアミドAへの影響がほとんどなく樹脂組成物の特性が変化しない。ガラス繊維としては、例えば、旭ファイバーグラス社製:03JAFT692、MF03MB120、MF06MB120などが挙げられる。
繊維状補強材としてガラス繊維を用いる場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して15〜40質量%とする。ガラス繊維を上記範囲とすることで、成形流動性の確保や、保持器の剛性を高め、高温、高速回転となる条件下でも保持器の変形を小さくできる。さらに、保持器の形状を射出成形時に無理抜きする形状とする場合や、ウエルド部の十分な強度(引張強度)を確保することを考慮すれば、ガラス繊維の配合量は、樹脂組成物全体に対して20〜30質量%が好ましい。
本発明における樹脂組成物には、保持器機能や射出成形性を損なわない範囲であれば、必要に応じて、上記繊維状補強材以外の添加剤を配合してもよい。他の添加剤として、例えば、ポリアミドA以外の他のポリマー、固体潤滑剤、無機充填材、酸化防止剤、帯電防止剤、離型材などを配合できる。具体的には、4フッ化エチレン樹脂、グラファイト、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラストナイト、エラストマ等を添加してもよい。
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形により保持器を成形する。射出成形時は、樹脂温度をポリアミドAの融点以上とし、金型温度をポリアミドAのガラス転移温度以上に保持して行なう。
本発明の転がり軸受用保持器の樹脂材料とする樹脂組成物は、上述のとおり、所定のポリアミド樹脂に所定量の繊維状補強材(ガラス繊維)を配合してなるので、融点およびガラス転移温度が高く、優れた耐熱性、耐油性、耐薬品性、寸法安定性、靱性、摺動性を示すとともに高い機械的性質を有する。このため、本発明の転がり軸受用保持器は、高温雰囲気での使用や、高速回転域などの過酷な環境条件(油や薬品と接触する条件、高速回転条件、高負荷条件、多湿環境など)で長時間の使用に耐え得る保持器となる。
本発明で使用する樹脂組成物は、成形後の引張り強さが140MPa以上であり、好ましくは160MPa以上である。また、引張り弾性率が8GPa以上であり、好ましくは10GPa以上である。引張り強さと引張り弾性率は、ISO527に準拠して測定される。
上記樹脂組成物のISO62に準拠して測定される吸水率は3.0%以下であり、好ましくは2.5%以下である。ここでの吸水率は、23℃で相対湿度50%の恒温恒湿下で、純水に24時間浸漬したときの吸水率である。このように、上記樹脂組成物は、吸水性が小さいため、吸水・吸湿による膨潤、膨張に伴う寸法変化や物性低下を抑制できる。本発明の転がり軸受用保持器は、寸法安定性に優れ、精度の要求される用途の保持器として安価に提供できる。
本発明の転がり軸受用保持器および転がり軸受を図1および図2に基づいて説明する。図1は、本発明の転がり軸受の一例であるアンギュラ玉軸受の軸方向断面図であり、図2は図1の転がり軸受における保持器(もみ抜き型)の斜視図および一部拡大図である。図1に示すように、アンギュラ玉軸受1は、外周面に軌道面2aを有する内輪2と、内周面に軌道面3aを有する外輪3と、内輪2の軌道面2aと外輪3の軌道面3aとの間に介在する複数の玉4と、この玉4を周方向に一定間隔で保持する保持器5とを備えている。保持器5が、上述の本発明の転がり軸受用保持器である。内輪2および外輪3と、玉4とは径方向中心線に対して所定の角度θ(接触角)を有して接触しており、ラジアル荷重と一方向のアキシアル荷重を負荷できる。保持器5は、外輪案内方式であり、該保持器の外周面の一部に外輪3に案内される外輪案内部5aを有している。図1の構成では、外輪案内部5aが外輪3の内周面と接触することで、保持器5が外輪3に案内される。なお、保持器の案内形式は、外輪案内形式に限らず、内輪案内形式でもよい。また、必要に応じて、玉4の周囲にグリースなどの潤滑剤が封入されて潤滑がなされる。
図1のようなアンギュラ玉軸受1は、高速回転用途などで使用されるものである。本発明ではその保持器5として、ガラス転移温度が高く、剛性に優れたポリアミドAをベース樹脂とする樹脂組成物の射出成形体を用いているため、高温、高速回転条件下においても該保持器の変形を抑制できる。また、ポリアミドAは、自己潤滑性および低摩擦特性にも優れているため、玉4や外輪3と保持器5との摩擦による発熱量を小さくでき、温度上昇が抑えられ、焼付きが発生しない。このため、該軸受は、高温、高速回転条件下でも長時間の運転が可能となる。
図2(a)に示すように、保持器5は、円環状の保持器本体に転動体である玉を保持するポケット部6が周方向に一定間隔で複数設けられている。ポケット部6の平面形状は、平円形状であるが、真円でもよい。ここで、平円形状とは、真円形状で必要とされるポケット隙間(ポケット内径と玉の直径との差)量と一致させる隙間を間にして、その両側に玉の半径にほぼ近似するポケット面の半径で構成させた平円とする形状をいう。このような形状により、回転軸周方向のポケット隙間量を大きくして、玉の進み遅れを吸収することにより、保持器にかかる負荷を低減できる。
保持器5は、もみ抜き型の保持器であり、上述の樹脂組成物を用いて射出成形で素形材を成形した後、切削加工にてポケット部を加工する等して得られる。保持器5は射出成形体であるため、図2(b)に示すように、成形時に樹脂組成物が合流する領域にウエルド部7が形成される。ウエルド部7は、保持器円環において応力集中により破断しやすい箇所である。本発明の保持器では、ポリアミドAをベース樹脂とし、これに所定量の繊維状補強材(ガラス繊維)を配合してなる樹脂組成物を射出成形して得られた成形体であるので、上記ウエルド部7での引張強度に優れ、高速回転での使用に際しても該ウエルド部での割れを防止できる。具体的には、後述の実施例に示すように、ベース樹脂のみを他のポリアミド樹脂に変更した場合と比較して、高温での引張強度が高くなっている。
本発明の転がり軸受用保持器の他の例として、冠型の転がり軸受用保持器を図3に基づいて説明する。図3は、上述の樹脂組成物を射出成形して得られた冠型保持器の部分拡大斜視図である。図3に示すように、保持器5’は、環状の保持器本体の上面に周方向に一定ピッチをおいて対向一対の保持爪8を形成し、その対向する各保持爪8を相互に接近する方向にわん曲させるとともに、その保持爪8間に転動体としての玉を保持するポケット部9を形成したものである。また、隣接するポケット部9における相互に隣接する保持爪8の背面相互間に、保持爪8の立ち上がり基準面となる平坦部10が形成される。保持爪8は、わん曲している先端部8aを有する。
図3に示す冠型保持器を射出成形する場合、保持爪8のわん曲している先端部8aは、金型から取り出すときに無理抜きされる。これは、ポケット開口部の直径がポケット部9の内径よりも小さいため、ポケット部を成形する内径金型が、ポケット開口部の直径をポケット部の内径まで弾性的に押し広げて離型されるためである。本発明の保持器では、保持器材料として上述の樹脂組成物を用いるので、使用時の高い剛性を維持しながら、成形時の上記無理抜きの際における保持爪先端部の亀裂や白化を防止し得る。特に、樹脂組成物に含まれるガラス繊維について、その配合量を樹脂組成物全体に対して20〜30質量%とすることで、これを防止しやすくなる。
図1および図2では、本発明の転がり軸受としてアンギュラ玉軸受を例に説明したが、本発明を適用できる軸受形式はこれに限定されず、他の玉軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受などにも適用できる。以下に、円すいころ軸受、円筒ころ軸受の形態について説明する。
本発明の円すいころ軸受用保持器および円すいころ軸受を図4および図5に基づいて説明する。図4は、本発明の円すいころ軸受の軸方向断面図であり、図5は、図4の円すいころ軸受における保持器の斜視図である。図4に示すように、円すいころ軸受11は、外周面にテーパ状の軌道面12aを有する内輪12と、内周面にテーパ状の軌道面13aを有する外輪13と、内輪12の軌道面12aと外輪13の軌道面13aとの間を転動する複数の円すいころ14と、円すいころ14を周方向一定間隔で転動自在に保持する保持器15とを備えている。各軌道面は、軸方向に沿って該軌道面を構成する径が増加・減少するテーパ状である。内輪12の大径側端部には大鍔12bが、小径側端部には小鍔12cがそれぞれ一体形成されている。円すいころ軸受における内輪は、テーパ状の軌道面を有することから軸方向に見て小径側と大径側とがあり、「小鍔」は小径側端部に設けられた鍔であり、「大鍔」は大径側端部に設けられた鍔である。
図5には、本発明の円すいころ軸受用保持器の一例を示す。保持器15は、大径リング部16と、小径リング部17と、これらを連結する複数の柱部18とを備えてなり、隣接する柱部18同士の間にポケット部19が形成されている。このポケット部19に円すいころが収納される。保持器15は射出成形体であるため、成形時に樹脂組成物が合流する領域にウエルド部が形成される。ウエルド部は、保持器円環において応力集中により破断しやすい箇所である。ウエルド部の位置は、ゲート位置によって異なるが、例えば、各ポケット部の小径リング部の中央付近に形成される。
円すいころ軸受の組立方法は、まず、内輪、保持器、および円すいころを組み付けて一体品とし、さらに、この一体品と外輪とを組み付けることで組み立てられる。上記一体品は、例えば、保持器の各ポケット部に円すいころをそれぞれ配置(仮入れ)した後、この状態で内輪を内輪の小鍔部側(小径側端部側)から軸方向に沿って圧入することで組み付けられる。また、上記一体品は、内輪に円すいころをそれぞれ等間隔で配置した後、この状態で保持器を内径側から軸方向に沿って圧入することでも組み付けられる。一体品の組み付け時には、保持器を弾性変形させながら、円すいころを保持器のポケット部に組み込む(かち込む)。また、一体品と外輪とを組み付ける際にも、円すいころに応力が加わることで保持器は弾性変形させられる。このように円すいころ軸受用保持器は、円すいころ軸受に組み付ける際に、保持器を大きく変形させる必要がある。
円すいころ軸受用保持器は、上記のような円すいころ軸受に組み付ける際の弾性変形に伴って、ウエルド部が割れたり、ポケット部(ポケット部を構成する柱部などの変形する箇所)が白化したりすることが懸念される。これに対し、本発明の円すいころ軸受用保持器は、高い剛性と適度な靭性を有しているので、ウエルド部が割れたり、ポケット部が白化したりすることを防ぐことができる。そのため、ウエルド部の割れや、ポケット部の白化がない保持器となる。なお、白化とは、樹脂を屈曲させたときに樹脂が白く変色する現象であり、白化した部分は機械的特性など各種特性が低下する。
また、円すいころ軸受は、自動車のトランスミッション等の油潤滑環境下で使用されることが多いため耐油性が要求されるところ、本発明の円すいころ軸受用保持器は、耐熱性や耐油性に優れるため、高温の油中においても長期間使用することができる。そのため、本発明の円すいころ軸受は、トランスミッション装置やディファレンシャル装置、産業機械、鉄道車両の円すいころ軸受として好適である。
本発明の円筒ころ軸受用保持器および円筒ころ軸受を図6および図7に基づいて説明する。図6は、本発明の円筒ころ軸受の軸方向一部断面図であり、図7は、図6の円筒ころ軸受における保持器の一例を示す図である。図6に示すように、円筒ころ軸受21は、内輪両鍔付き(N形)の円筒ころ軸受である。円筒ころ軸受21は、外周面に軌道面22aを有する内輪22と、内周面に軌道面23aを有する外輪23と、内輪22の軌道面22aと外輪23の軌道面23aとの間を転動する複数の円筒ころ24と、複数の円筒ころ24を周方向一定間隔で転動自在に保持する保持器25とを備えている。内輪22の軸方向両端には鍔22bがそれぞれ一体形成されており、円筒ころ24が内輪22にはめ込まれている。
図7(a)には、本発明の円筒ころ軸受用保持器の軸方向一部断面図を示し、図7(b)には、図7(a)のA−A断面図を示す。図7(a)、(b)に示すように、保持器25は、軸方向に離間し互いに平行な一対のリング部26と、これらを連結する複数の柱部27とを備えてなる。隣接する柱部27同士の間にポケット部28が形成され、このポケット部28に円筒ころ24が収納される。
図7(b)に示すように、各柱部27は、外径側端部の周方向両側に一対の爪部27aを有している。爪部27aは、柱部27の外径側寄りの領域から外径方向および周方向に向かって突出して設けられており、円筒ころ24の外周面に接触可能となっている。この爪部27aにより、保持器25と円筒ころ24とを組み込んだ状態で、ポケット部28内の円筒ころ24がそのポケット部28から径方向外側に抜け出るのを防ぐことができる。なお、各柱部27において、一対の爪部27a間には凹部27bが形成され、凹部27bは、柱部27の外径側周面の一部が径方向内側に凹んだ凹溝となっている。
以下に、本発明の円筒ころ軸受用保持器の製造方法について説明する。保持器25は、上記樹脂組成物の射出成形体であり、成形金型を用いて製造される。本発明の円筒ころ軸受用保持器の製造方法の一例として、スライドコア方式が採用される。スライドコア方式では、内径側金型と各ポケット部を成形するための可動金型が用いられる。上記可動金型は、各ポケット部に対応するよう円環状に配置されたスライドコアと、各スライドコアを放射方向に開閉する駆動手段を備えている。
製造において、まず、内径側金型とスライドコアが衝合されて、所望の保持器の形状の成形キャビティが形成される。この成形キャビティに溶融した上記樹脂組成物をゲートから注入し、成形キャビティに充填させて、溶融樹脂を圧縮するように圧力をかける。そして、一定時間金型内で溶融樹脂を冷却して固化させたのち、金型を開いて離型することで、保持器25が得られる。
しかし、上記スライドコア方式では、スライドコアを外径方向に開く際(離型時)に、無理抜きを行う必要がある。図8には、この無理抜き時を説明するための模式図を示す。図8に示すように、各柱部27の爪部27aの外形は、スライドコア29の作動方向Xに対して逆テーパとなっているので、爪部27aを弾性変形させながら、スライドコア29を抜き出すことになる。この場合、爪部27aは、図中矢印の方向に弾性変形する。このように無理抜きする際には、爪部27aおよびその周囲には、大きな負荷がかかり、この負荷によって保持器の一部(特に、爪部27a)が白化したり、欠けや割れなどの破損が生じたりする懸念がある。
加えて、保持器25には、射出成形時に樹脂組成物が合流する領域にウエルド部が形成される。ウエルド部は、保持器円環において応力集中により破断しやすい箇所であるため、無理抜き時の負荷によってウエルド部で割れが生じることも懸念される。
これに対し、本発明の円筒ころ軸受用保持器は、高い剛性と適度な靭性を有しているので、樹脂の白化や破損が生じることを防ぐことができる。そのため、無理抜きによっても、欠けや、割れ、白化がない保持器となる。なお、本発明では、離型時に弾性変形する部位を無理抜き部といい、例えば、図8では柱部27の外径側端部に設けられた爪部27aが無理抜き部に相当する。また、白化とは、樹脂を屈曲させたときに樹脂が白く変色する現象であり、白化した部分は機械的特性など各種特性が低下する。
一方、円筒ころ軸受への組み付け時においても、無理抜き時と同様に、樹脂の白化や破損といった問題が生じる場合がある。図9には、この組み付け時を説明するための模式図を示す。図9に示すように、内輪両鍔付きの円筒ころ(N形やNF形)を組み付ける場合には、円筒ころ24を保持器25の外径側(方向Y)から組み込むことになる。この場合、爪部27aを弾性変形させながら円筒ころ24を押し込むことになり、爪部27aは、図中矢印の方向に弾性変形する。そのため、組み付け時においても上記問題が生じることになるが、本発明の円筒ころ軸受用保持器は、高い剛性と適度な靭性を有しているので、組み付け時においても、樹脂の白化や破損が生じることを防ぐことができる。
本発明の円筒ころ軸受として、図6には内輪両鍔付き(N形)の円筒ころ軸受を示したが、これに限らず、外輪両鍔付き(NU形)、内輪両鍔付き・外輪片鍔付き(NF形)、内輪片鍔付き・外輪両鍔付き(NJ形)、内輪両鍔のうち片側が別体の鍔輪・外輪両鍔付き(NUP形)など、種々の公知の軸受形式が採用できる。また、本発明の円筒ころ軸受用保持器は、弾性変形によっても破損や白化が生じないことから、組み付け時に弾性変形を伴うN形やNF形の円筒ころ軸受に用いることがより好ましい。
さらに、本発明の円筒ころ軸受用保持器は、耐熱性や耐油性に優れるため、高温の油中においても長期間使用することができる。そのため、本発明の円筒ころ軸受は、トランスミッション装置やディファレンシャル装置、産業機械、鉄道車両の円筒ころ軸受として好適である。
上記本発明の転がり軸受の潤滑方法としては、例えば、グリース潤滑、オイルミスト潤滑、エアオイル潤滑、ジェット潤滑などの方法があり、いずれも採用できる。これら潤滑方法のうち、例えばスピンドル装置の主軸構造等の構造の簡素化という観点では、付属部品や付帯設備の不要なグリース潤滑が好ましい。本発明の転がり軸受は、上述のとおり、保持器が上記樹脂組成物からなるので、高速回転(例えばd・m値80×10以上)でも長時間の使用に耐え得る保持器となっている。
一方で、近年の装置の高速化の要求から、更なる高速回転条件下でも焼付くことなく使用可能な転がり軸受とすることが望ましい。より高速の回転条件下では、軸受部材に潤滑油を適正に供給することが重要になると考えられる。そのため、更なる高速回転条件下(例えばd・m値100×10以上)での使用については、本発明の転がり軸受は、オイルミスト潤滑またはエアオイル潤滑によって潤滑されることが好ましい。これらの潤滑方式では、圧縮空気を用い潤滑油を軸受内部に吐出するため、潤滑油の適正な供給が可能となる。また、グリースを用いたグリース潤滑に比べて、軸受内部の潤滑剤の量を少なくでき、それに伴う軸受内部の潤滑剤の撹拌抵抗を小さくすることができる。
さらに、オイルミスト潤滑やエアオイル潤滑の潤滑方式では、圧縮空気を圧送して潤滑油を軸受内部に供給するため、圧縮空気による軸受の冷却効果も得られる。この冷却効果によって、軸受の昇温を抑えることができる。このように、保持器に上記樹脂組成物を用い、さらにオイルミスト潤滑またはエアオイル潤滑の潤滑方式を組み合わせることで、超高速回転条件下でも溶融することなく長時間の運転が可能となる。
図10には、図1のアンギュラ玉軸受とエアオイルを吐出するノズル部材31とを組み合わせた潤滑構造を示す。ノズル部材31は、アンギュラ玉軸受1が設置されているハウジング35の内周面に嵌合して、外輪3に隣接して設けられる。また、ノズル部材31の内径側には内輪2に隣接して内輪間座32が設けられる。ノズル部材31は、外部のエアオイル供給装置(図示せず)から供給されるエアオイルを軸受空間に導く潤滑油流路を内部に有する。潤滑油流路は、先端が軸受空間に向かって開口したノズル孔33と、このノズル孔33に連通する流入孔34とからなる。エアオイル供給装置は、潤滑油と圧縮空気を混合してエアオイルを送り出す装置であり、ハウジング35には、該エアオイル供給装置と流入孔34とを繋ぐ潤滑油供給路36が設けられている。
アンギュラ玉軸受1の回転時には、エアオイル供給装置からエアオイルが所定間隔毎に所定量(例えば0.01〜0.03mm/3〜10min)供給される。エアオイルは、ハウジング35の潤滑油供給路36からノズル部材31の流入孔34に入り、ノズル孔33から内輪2の軌道面2aに向かって噴射される。その結果、内輪2の軌道面2aや外輪3の軌道面3aなどが潤滑される。なお、潤滑方式は、エアオイル潤滑に限らず、オイルミスト潤滑でもよい。オイルミスト潤滑では、霧状にした潤滑油を圧縮空気で混合した潤滑用の混合気体(オイルミスト)を軸受に供給することで潤滑させる。
図10では、アンギュラ玉軸受を例に説明したが、他の玉軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受などにも適用できる。
上述したように、オイルミスト潤滑またはエアオイル潤滑により潤滑される転がり軸受は、高速回転に際しても軸受の発熱をより抑えることができるため、高速回転用途に特に適している。具体的には、本発明の転がり軸受は、dm・n値80×10以上、好ましくはdm・n値100×10以上でも使用可能である。高速回転用途として、例えば、工作機械主軸用スピンドル装置に適用される。
図11は、図1のアンギュラ玉軸受を用いた工作機械主軸用スピンドル装置の例である。図11に示すように、スピンドル装置41は、2個のアンギュラ玉軸受1を有しており、各アンギュラ玉軸受1にはエアオイルを吐出するノズル部材31がそれぞれ隣接して設けられている。2個のアンギュラ玉軸受1は、内輪側と外輪側とにそれぞれ介在する内輪間座43と外輪間座44とによって位置決めされ、ハウジング内筒45内で主軸42を回転自在に支持している。ハウジング外筒46とハウジング内筒45の間には、冷却液通路47が設けられており、運転時の装置の過度の温度上昇を防止している。
主軸42のフロント側(図中左側)に工具などが取り付けられ、主軸42のリア側(図中右側)にモータなどの駆動源が回転伝達機構を介して連結される。スピンドル装置41は、例えば、マシニングセンタ、旋盤、フライス盤、研削盤などの各種工作機械に適用できる。
なお、スピンドル装置41の構成はこれに限らず、装置内においてステータおよびロータからなるモータを主軸に直接組み込んだ構成、いわゆるビルトインモータを内蔵した構成としてもよい。この構成とすることで、より高速回転が可能となる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
実施例および比較例に用いる原材料を一括して以下に示す。
樹脂組成物A:PA4T単位を主成分とするポリアミドAをベース樹脂とした樹脂組成物(DSM社製ForTii Ace MX51、Tg160℃、Tm335℃、ガラス繊維30%添加グレード)
樹脂組成物B:PA4T単位を主成分とするポリアミドAをベース樹脂とした樹脂組成物(DSM社製ForTii K11、Tg125℃、Tm325℃、ガラス繊維30%添加グレード)
PA66:東レ社製アミランCM3001
PA46:DSM社製スタニールTW300
PPS樹脂:DIC製FZ2100
PA9T:クラレ社製ジェネスタN1000
ガラス繊維(GF):旭ファイバーグラス社製03JAFT692(平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)
実施例1〜2、比較例1〜2
上記原材料を表1に示す割合で配合した樹脂組成物を用いて、実施例と比較例の各試験片を作製し、各種の試験を実施した。組成物の製造には二軸押出機を用いた。ガラス繊維は折損を防止するために定量サイドフィーダーを用いて供給し、押し出して造粒した。得られた成形用ペレットを用い、インラインスクリュー式射出成形機にて成形し、ダンベル試験片(ISO527)、アンギュラ玉軸受用保持器(外径93mm、内径88mm、幅13mm)とした。なお、保持器の形状は図2に示すもみ抜き型保持器とした。
[保持器引張試験]
室温と150℃での保持器の引張り強さを確認するため、実施例および比較例のダンベル試験片を用いて保持器引張試験を実施した。保持器引張試験は、島津製作所社製の引張試験機(オートグラフAG50KNX)を用いて10mm/minの引張速度で行なった。結果を表1に示す。
[軸受温度試験]
アンギュラ玉軸受を使用してdm・n値80×10まで順次回転数を上げていく軸受試験を実施した。実施例および比較例の保持器を組み込み、潤滑剤としてのグリースを封入し、両側に非接触型シールを設けて密封したアンギュラ玉軸受を用いて軸受温度試験を行なった。試験では外輪温度を測定し、その上昇温度が、精度や耐久性を鑑み、30℃までを基準とし、30℃未満を合格、30℃以上温度が上昇したものを不合格とした。結果を表1に示す。
Figure 2020056417
保持器引張試験に関して、高温雰囲気での使用や、dm・n値が80×10以上の使用条件での発熱を想定し、150℃の引張り試験を実施した。表1に示すように、室温における引張り強さは、いずれも100MPa以上を示した。一方、150℃における引張り強さは、実施例1〜2では100MPa以上と良好な強度を示したのに対して、比較例1〜2ではいずれも100MPa未満であった。
また、軸受温度試験に関して、表1に示すように、比較例1〜2は、dm・n値が70×10をこえた辺りから外輪温度が急上昇し、30℃以上となった。これに対して、実施例1〜2では、dm・n値が80×10となっても外輪温度の急上昇は見られず、30℃未満を保っていた。
実施例3〜4、比較例3〜5
上記原材料を表2に示す割合で配合した樹脂組成物を用いて、実施例と比較例の円すいころ軸受用保持器を作製し、各種の試験を実施した。成形後、80℃、95%相対湿度の雰囲気にて調湿処理を実施し、吸水させたものについて各試験を実施した。得られた保持器の調湿前後の質量から以下に示す算出式により吸水率を測定した。結果を表2に示す。
[吸水率の算出式]吸水率(質量%)=(調湿後の質量−調湿前の質量)× 100/調湿前の質量・・・(1)
[保持器引張試験]
保持器を150℃のギヤ油中に1000時間浸漬した後の室温下における引張破壊強さを測定した。保持器引張試験には、保持器からポケット部3つ分だけを切断した試験用切片を用いた。図12に示すように、室温下において、試験用切片51の真ん中のポケット部に一対の治具52の突起を挿入した状態で、冶具52の突起を互いに離間する方向に引っ張った際の引張破壊強さを測定した。測定は島津製作所社製の引張試験機(オートグラフAG50KNX)を用いて10mm/minの引張速度で行なった。測定した1000時間浸漬した後の引張破壊強さと、1000時間浸漬する前の引張破壊強さ(初期値:上記保持器引張試験の室温下における引張破壊強さ)とから以下に示す算出式により保持率を測定した。結果を表2に示す。
[保持率の算出式]保持率(%)=1000時間浸漬後の引張破壊強さ/1000時間浸漬前の引張破壊強さ×100・・・(2)
[軸受への組み付け試験]
作製した保持器を円すいころ軸受に組み付け、その際における保持器の破損や白化を観察した。具体的には、保持器のポケット部に複数の円すいころをそれぞれ仮入れし、この状態で内輪を小径側端部側から軸方向に沿って圧入することによって、保持器を内輪に組み付けた。この組み付け時におけるウエルド部での割れやポケット部の白化の有無を評価した。結果を表2に示す。
Figure 2020056417
表2に示すように、長期の耐油性および耐熱性に関して、実施例3〜4は、150℃の油中で1000時間浸漬した後であっても引張り破壊強さが保持されており、PPS樹脂を用いた場合(比較例5)と同等の保持率を示した。
また、円すいころ軸受への組み付けに関して、実施例3〜4においてウエルド部での割れや、ポケット部での白化が見られなかった。一方、PPS樹脂を用いた場合(比較例5)には、割れや白化が見られた。
上記の結果より、実施例3〜4の円すいころ軸受用保持器は、機械的特性が優れるとともに、柔軟性と耐熱性に優れることが判明した。つまり、円すいころ軸受に要求される特性に優れており、円すいころ軸受用保持器として使用されることが好ましいといえる。
実施例5〜6、比較例6〜8
上記原材料を表3に示す割合で配合した樹脂組成物を用いて、実施例と比較例の円筒ころ軸受用保持器を作製し、各種の試験を実施した。インラインスクリュー式射出成形機にて、スライドコア方式によって図7に示すような形状(外径寸法36mm、内径寸法30mm、幅19mm)の保持器を得た。得られた保持器について80℃、95%相対湿度の雰囲気にて調湿処理を実施し、吸水させたもので各試験を実施した。吸水率は上記式(1)で算出した。結果を表3に示す。
[無理抜き試験]
上述したように、スライドコア方式による製造では、離型時に無理抜きが生じる。無理抜き試験では、柱部の外径側端部(無理抜き部)の欠けや、割れ(特にウエルド部)、樹脂の白化を評価した。いずれも発生しなかった場合を「なし」とし、いずれかが発生した場合を「あり」とした。結果を表3に示す。
[保持器引張試験]
保持器の破壊強さ(ウエルド部の引張強度)、耐油性、耐熱性を確認するため、作製した保持器を用いて保持器引張試験を実施した。測定は島津製作所社製の引張試験機(オートグラフAG50KNX)を用いて10mm/minの引張速度で行なった。保持器を150℃のギヤ油中に1000時間浸漬する前の引張破壊強さ(初期値)と1000時間浸漬した後の引張破壊強さをそれぞれ測定し、上記式(2)で算出した。結果を表3に示す。
[軸受への組み付け試験]
作製した保持器をN形の円筒ころ軸受に組み付け、その際における保持器の破損(欠けや割れ)、白化を観察した。具体的には、保持器のポケット部の外径側から複数の円筒ころを組み込み、この際の外径側端部での欠けや、割れ(特にウエルド部)、樹脂の白化の有無を評価した。いずれも発生しなかった場合を「なし」とし、いずれかが発生した場合を「あり」とした。結果を表3に示す。
Figure 2020056417
表3に示すように、射出成形の無理抜き時および円筒ころ軸受への組み付け時において、実施例のすべてで欠けや、割れ、白化が見られなかった。一方、PPS樹脂を用いた場合(比較例8)には、これらの事象が見られた。
長期の耐油性および耐熱性に関して、実施例は、150℃の油中で1000時間浸漬した後であっても破壊強さが保持されており、PPS樹脂を用いた場合(比較例8)と同等の保持率を示した。つまり、実施例の保持器は、PPS樹脂製の保持器と同等の優れた耐油性および耐熱性を備えつつ、弾性変形に対しては、PPS樹脂製の保持器よりも優れた機械的特性を備えている。
上記の結果より、実施例5〜6の円筒ころ軸受用保持器は、機械的特性が優れるとともに、柔軟性と耐熱性に優れることが判明した。つまり、円筒ころ軸受に要求される特性に優れており、円筒ころ軸受用保持器として使用されることが好ましいといえる。
実施例7〜8、比較例9〜11
上記原材料を表4に示す割合で配合した樹脂組成物を用いて、実施例と比較例のアンギュラ玉軸受用保持器を作製し、各種の試験を実施した。インラインスクリュー式射出成形機にて、所望の保持器形状(外径寸法93mm、内径寸法88mm、幅13mm)とした。図2に示すもみ抜き型保持器とした。成形後、80℃、95%相対湿度の雰囲気にて調湿処理を実施し、吸水させたものについて各試験を実施した。吸水率は上記式(1)で算出した。結果を表4に示す。
[軸受温度試験]
作製した保持器をそれぞれアンギュラ玉軸受に組み込んだ。保持器の案内方式は、外輪案内方式とした。アンギュラ玉軸受を定圧予圧で組み立て、ビルトインモータを内蔵したスピンドル装置とした。軸受の潤滑方式はエアオイル潤滑とした。装置内のビルトインモータを駆動させることで主軸を回転させ、順次回転数を上げていく軸受温度試験を実施した。軸受内部の昇温によって保持器が溶融した時点で試験を停止し、その際のdm・n値を記録した。なお、dm・n値300×10でも溶融しなかった場合を「なし」とした。結果を表4に示す。
Figure 2020056417
表4に示すように、比較例9(PA66)はdm・n値180×10で、比較例10(PA46)はdm・n値200×10で、比較例11(PA9T)はdm・n値288×10でそれぞれ保持器が溶融したのに対し、実施例では、dm・n値300×10まで回転数を上げても保持器は溶融することなく回転することが可能であった。
上記の結果より、実施例7〜8の転がり軸受は、所定の樹脂組成物からなる保持器を用いるとともに、オイルミスト潤滑またはエアオイル潤滑によって潤滑させることで、高速回転条件下においても焼付くことなく、安定して回転可能であることが判明した。
本発明の転がり軸受用保持器は、高温雰囲気や高速条件下においても焼付きや破損を生じないので、自動車、モータ、工作機械などで用いられる種々の転がり軸受の保持器として利用できる。特に、高温の潤滑油環境下で使用される自動車等のトランスミッション装置やディファレンシャル装置、産業機械、鉄道車両に使用される円すいころ軸受、円筒ころ軸受として好適である。また、使用環境が80℃以上の高温下であったり、dm・n値が80×10以上となるような高速回転で使用される軸受の保持器として好適である。具体的には、工作機械主軸用スピンドル装置の転がり軸受として好適である。
1 アンギュラ玉軸受(転がり軸受)
2 内輪
3 外輪
4 玉
5、5’ 保持器
6 ポケット部
7 ウエルド部
8 保持爪
9 ポケット部
10 平坦部
11 円すいころ軸受(転がり軸受)
12 内輪
13 外輪
14 円すいころ
15 保持器
16 大径リング部
17 小径リング部
18 柱部
19 ポケット部
21 円筒ころ軸受(転がり軸受)
22 内輪
23 外輪
24 円筒ころ
25 保持器
26 リング部
27 柱部
28 ポケット部
29 スライドコア

Claims (12)

  1. 樹脂組成物を射出成形してなる転がり軸受用保持器であって、
    前記樹脂組成物は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を配合してなる組成物であり、
    前記樹脂組成物は、前記ガラス繊維を前記樹脂組成物全体に対して15〜40質量%含むことを特徴とする転がり軸受用保持器。
  2. 前記ポリアミド樹脂は、前記ジアミン成分として1,6−ヘキサンジアミンを含み、
    前記ポリアミド樹脂が、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであることを特徴とする請求項1記載の転がり軸受用保持器。
  3. 前記ポリアミド樹脂は、構成単位として、前記テトラメチレンテレフタルアミド単位および前記ヘキサメチレンテレフタルアミド単位以外の芳香族ポリアミドのモノマー単位、および、脂肪族ポリアミドのモノマー単位の少なくともいずれかをさらに含む共重合ポリアミドであることを特徴とする請求項2記載の転がり軸受用保持器。
  4. 前記ポリアミド樹脂は、構成単位として、前記芳香族ポリアミドのモノマー単位を含み、
    前記芳香族ポリアミドのモノマー単位が、テトラメチレンイソフタルアミド単位、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位、オクタメチレンテレフタルアミド単位、ノナメチレンテレフタルアミド単位、デカメチレンテレフタルアミド単位、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位、ドデカメチレンテレフタルアミド単位、メタキシリレンアジパミド単位、またはメタキシリレンセバカミド単位であることを特徴とする請求項3記載の転がり軸受用保持器。
  5. 前記ポリアミド樹脂は、構成単位として、前記脂肪族ポリアミドのモノマー単位を含み、
    前記脂肪族ポリアミドのモノマー単位が、カプロアミド単位、オクタンアミド単位、デカンアミド単位、ウンデカンアミド単位、ドデカンアミド単位、テトラメチレンアジパミド単位、テトラメチレンスベラミド単位、テトラメチレンセバカミド単位、テトラメチレンドデカミド単位、ヘキサメチレンアジパミド単位、ヘキサメチレンセバカミド単位、ヘキサメチレンドデカミド単位、またはデカメチレンセバカミド単位であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の転がり軸受用保持器。
  6. 前記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であり、融点が300℃以上であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
  7. 前記転がり軸受用保持器が、円すいころ軸受に用いられ、大径リング部と、小径リング部と、これらを連結する複数の柱部とを備えてなり、前記円すいころ軸受に組み付ける際に、弾性変形を経て組み込まれることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
  8. 前記転がり軸受用保持器が、円筒ころ軸受に用いられ、一対のリング部と、これらを連結する複数の柱部とを備えてなり、
    前記転がり軸受用保持器は、前記柱部の外径側端部に、射出成形における離型時の無理抜き部を有することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器。
  9. 150℃以上の高温の油中で使用されることを特徴とする請求項7または請求項8記載の転がり軸受用保持器。
  10. 内輪および外輪と、この内・外輪間に介在する複数の転動体と、この転動体を保持する保持器とを備える転がり軸受であって、
    前記保持器が、請求項1から請求項9までのいずれか1項記載の転がり軸受用保持器であることを特徴とする転がり軸受。
  11. 前記転がり軸受が、dm・n値が80×10以上の高速回転で使用される軸受であることを特徴とする請求項10記載の転がり軸受。
  12. 前記転がり軸受が、エアオイル潤滑またはオイルミスト潤滑で潤滑される転がり軸受であることを特徴とする請求項10または請求項11記載の転がり軸受。
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