JP7022673B2 - 樹脂製プーリ - Google Patents

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Description

本発明は、樹脂製プーリに関し、特に、自動車に搭載される補機類の駆動用ベルトやその他のベルトのテンショナ用、またはアイドラプーリ等として使用される樹脂製プーリに関する。
従来、自動車の補機にエンジンの回転動力を伝達するための補機駆動用ベルトなどで使用されるプーリには、その重量軽減ならびにコスト削減の目的で、転がり軸受の外輪の外周に樹脂プーリを一体成形した樹脂プーリ付き軸受(樹脂製プーリ)が用いられている。自動車におけるこれらのプーリは、高温や高衝撃、雨水、道路に散布された凍結防止剤(塩化カルシウム)などに曝される環境下で使用される。このため、樹脂プーリでは、ベルト張力に対応した機械的特性、ベルトを掛け渡して案内する案内部の形状精度、連続負荷使用時における耐熱性と耐塩化カルシウム性に優れることや、軸受との密着性を維持するために低吸水で寸法変化が少ないことが要求される。
このような特性を考慮し、従来、樹脂プーリの成形材料として、ガラス繊維などの強化繊維を所定量配合した強化ナイロン(ポリアミド)、例えば、PA6、PA66、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド12(PA12)などのガラス繊維強化材を用いることが知られている(特許文献1、2参照)。また、プーリの機械的強度および耐熱性を保持しながら塩化カルシウム耐性を高くするものとして、PA66とPA612との混合ポリマーに、ガラス繊維を配合してなる樹脂材料が提案されている(特許文献3参照)。
特許第3506735号公報 特許第2838037号公報 特開2000-2317号公報
しかしながら、PA66とPA612との混合ポリマーのガラス繊維強化材からなる従来の樹脂製プーリは、ガラス繊維強化PA66よりも耐塩化カルシウム性に優れるものの、PA612が、いわゆる海島構造で存在しており、PA612はPA66よりも耐熱性に劣るため、全体として耐熱性や機械的強度に劣る。また、耐塩化カルシウム性についても、PA612単独と比較すれば劣る。
また昨今では、居住空間を確保するため、エンジンルーム内がコンパクトになり、各部品に求められる耐熱性がより厳しくなっている。PA612ではガラス転移温度(Tg)や融点が低く、吸水した状態での高温時の物性低下も大きいため、吸水時での高い高温物性が必要となっている。
Tgが低いことから、Tgをこえての線膨張係数が大きいため、転がり軸受と樹脂プーリ材との線膨張係数の違いから、締め代が小さくなり、高温時に転がり軸受外輪と樹脂プーリとの間で、剥がれ、すべり、フレッチングの発生といったおそれがある。また、耐熱性が低いため、使用条件によっては高温時にプーリのクリープが発生し、ベルトを適切に案内することができなくなるおそれがある。また、軽量化の必要性から、プーリの肉ぬすみや、薄肉化から、より耐熱性(高温強度)が必要となっている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、高温強度、吸水時強度、耐熱性および耐塩化カルシウム性の更なる向上を図り、寸法変化や、クリープの抑制、耐摩耗性をあわせて達成した樹脂製プーリを提供することを目的とする。
本発明の樹脂製プーリは、内輪、外輪、および、上記内輪と上記外輪との間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、上記外輪に固定された樹脂製のプーリ部とを備えてなる樹脂製プーリであって、上記プーリ部は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を配合してなる樹脂組成物の射出成形体であり、上記樹脂組成物は、上記ガラス繊維を上記樹脂組成物全体に対して10~50質量%含むことを特徴とする。本発明において、「主成分」とは、ジカルボン酸成分、ジアミン成分、または原料モノマーの総モル数(100モル%)に対するモル%が最も多い成分、または構成単位であることを意味する。
上記ポリアミド樹脂は、上記ジアミン成分として1,6-ヘキサンジアミンを含み、上記ポリアミド樹脂が、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、構成単位として、上記テトラメチレンテレフタルアミド単位および上記ヘキサメチレンテレフタルアミド単位以外の芳香族ポリアミドのモノマー単位、および、脂肪族ポリアミドのモノマー単位の少なくともいずれかをさらに含む共重合ポリアミドであることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、構成単位として、上記芳香族ポリアミドのモノマー単位を含み、上記芳香族ポリアミドのモノマー単位が、テトラメチレンイソフタルアミド単位、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位、オクタメチレンテレフタルアミド単位、ノナメチレンテレフタルアミド単位、デカメチレンテレフタルアミド単位、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位、ドデカメチレンテレフタルアミド単位、メタキシリレンアジパミド単位、またはメタキシリレンセバカミド単位であることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、構成単位として、上記脂肪族ポリアミドのモノマー単位を含み、上記脂肪族ポリアミドのモノマー単位が、カプロアミド単位、オクタンアミド単位、デカンアミド単位、ウンデカンアミド単位、ドデカンアミド単位、テトラメチレンアジパミド単位、テトラメチレンスベラミド単位、テトラメチレンセバカミド単位、テトラメチレンドデカミド単位、ヘキサメチレンアジパミド単位、ヘキサメチレンセバカミド単位、ヘキサメチレンドデカミド単位、またはデカメチレンセバカミド単位であることを特徴とする。
上記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であり、融点が300℃以上であることを特徴とする。
本発明の樹脂製プーリのプーリ部は、ポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を所定量配合してなる樹脂組成物の射出成形体であり、上記ポリアミド樹脂が、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるので、耐熱性が高く、高温時かつ吸水時の強度低下やクリープが小さく、耐塩化カルシウム性や耐疲労性、耐摩耗性に優れる樹脂製プーリとなり、信頼性向上を図ることができる。特に、上記ポリアミド樹脂が、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであるので、耐熱性などに一層優れる。
ベース樹脂とする上記ポリアミド樹脂は、融点が300℃以上であるので、プーリの材料として多く用いられているPA66(融点267℃)、PA46(融点295℃)と比較して、非常に高い耐熱性を備える。また、PA9T樹脂(融点306℃)と比較しても、同等以上の耐熱性を備える。このため、高温条件下でもプーリの変形を小さくできる。
本発明の樹脂製プーリの一例を示す側面図である。 図1の樹脂製プーリの軸方向断面図である。 本発明の樹脂製プーリの他の例を示す軸方向断面図である。
本発明の樹脂製プーリは、樹脂組成物を射出成形してなる樹脂製のプーリ部と、転がり軸受とを備える。樹脂材料とする樹脂組成物は、所定のポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これに所定量の繊維状補強材(ガラス繊維または炭素繊維)を配合してなる。なお、本発明のポリアミド樹脂を、他のポリアミド樹脂と区別してポリアミドAと記す。
ポリアミドAは、ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなり、各成分を構成するジカルボン酸とジアミンとを重縮合して得られる。上記ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分とする。テレフタル酸を主成分とすることで、ポリアミド樹脂の高温剛性などに優れる。上記ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分は、1,4-ブタンジアミンを主成分とする。
ポリアミドAは、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸およびジアミン成分である1,4-ブタンジアミンのみから構成されるポリアミドであってもよい。この場合、ポリアミドAは、テトラメチレンテレフタルアミド単位のみで構成される。テトラメチレンテレフタルアミド単位は、ジカルボン酸であるテレフタル酸と、ジアミンである1,4-ブタンジアミンとが重合したPA4Tの構成単位である。また、ポリアミドAは、ジカルボン酸成分であるテレフタル酸およびジアミン成分である1,4-ブタンジアミンの一部を、他の共重合成分で置き換えた共重合ポリアミドとしてもよい。
以下には、ポリアミドAが共重合ポリアミドの場合について説明する。
他の共重合成分として用いる、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香環を有するジカルボン酸などが挙げられる。また、他の共重合成分として用いる、1,4-ブタンジアミン以外のジアミン成分としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン、芳香環を有するジアミンなどが挙げられる。これらジカルボン酸やジアミンの具体例については後述する。
ポリアミドAは、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであることが好ましい。ヘキサメチレンテレフタルアミド単位は、ジカルボン酸であるテレフタル酸と、ジアミンである1,6-ヘキサンジアミンとが重合したPA6Tの構成単位である。以下では、便宜上、テトラメチレンテレフタルアミド単位をPA4T単位、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位をPA6T単位と記す。
ポリアミドAは、例えば、PA4T単位およびPA6T単位のみで構成される2元共重合ポリアミド、PA4T単位およびPA6T単位を含む3種のモノマー単位で構成される3元共重合ポリアミド、PA4T単位およびPA6T単位を含む4種のモノマー単位で構成される4元共重合ポリアミドである。
ポリアミドAが3元共重合ポリアミドまたは4元共重合ポリアミドである場合、追加の構成単位としては、PA4T単位およびPA6T単位以外の芳香族ポリアミドのモノマー単位および脂肪族ポリアミドのモノマー単位の少なくともいずれかを含む。
上記芳香族ポリアミドは、分子中に芳香環を含んでいるポリアミド樹脂を意味し、芳香族ポリアミドのモノマー単位の分子中に芳香環が含まれていればよい。具体的には、モノマー単位中に、芳香族ジアミン、芳香環を有するジアミン、芳香族ジカルボン酸、および芳香環を有するジカルボン酸の少なくともいずれかから誘導される部分が含まれていればよい。芳香族ジアミンとしては、p-フェニレンジアミンやm-フェニレンジアミンなどが挙げられ、芳香環を有するジアミンとしては、m-キシリレンジアミンやp-キシリレンジアミンなどが挙げられる。また、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸や、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、芳香環を有するジカルボン酸としては、p-フェニレン二酢酸などが挙げられる。
上記芳香族ポリアミドのモノマー単位において、ジアミン成分とジカルボン酸成分の少なくともいずれか一方が芳香環を有していればよく、他方の重合成分は芳香環を有する必要はない。例えば、芳香環を有さない成分の原料としては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸などが挙げられる。
芳香環を有さないジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミンなどの直鎖状の脂肪族ジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-エチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミンなどの分岐型の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、シクロペンタンジアミン、シクロオクタンジアミンなどの脂環式ジアミンが挙げられる。
芳香環を有さないジカルボン酸としては、例えば、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
以上より、芳香族ポリアミドのモノマー単位の具体例としては、テトラメチレンイソフタルアミド単位(PA4Iの構成単位)、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位(PA6Iの構成単位)、オクタメチレンテレフタルアミド単位(PA8Tの構成単位)、ノナメチレンテレフタルアミド単位(PA9Tの構成単位)、デカメチレンテレフタルアミド単位(PA10Tの構成単位)、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位(PA11Tの構成単位)、ドデカメチレンテレフタルアミド単位(PA12Tの構成単位)、メタキシリレンアジパミド単位(PAMXD6の構成単位)、メタキシリレンセバカミド単位(PAMXD10の構成単位)、メタキシリレンドデカミド単位(PAMXD12の構成単位)、パラキシリレンアジパミド単位(PAPXD6の構成単位)、パラキシリレンセバカミド単位(PAPXD10の構成単位)、パラキシリレンドデカミド単位(PAPXD12の構成単位)などが挙げられる。
上記脂肪族ポリアミドは、分子中に芳香環を含まないポリアミドを意味し、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂肪族ジアミンと脂環式ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂環式ジアミンと脂肪族ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂環式ジアミンと脂環式ジカルボン酸とを重合させたポリアミド、脂肪族ラクタム及び/または脂肪族アミノカルボン酸を重合させたポリアミド、及びこれらの共重合体である。脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸としては、上述したようなジアミンやジカルボン酸を用いることができる。
脂肪族ラクタムとして、例えば、ピロリドンや、カプロラクタム、ウンデカラクタム、ラウロラクタムなどが挙げられる。脂肪族アミノカルボン酸としては、例えば、1,11-アミノウンデカン酸などが挙げられる。
以上より、脂肪族ポリアミドのモノマー単位の具体例としては、酪酸アミド単位(PA4の構成単位)、カプロアミド単位(PA6の構成単位)、オクタンアミド単位(PA8の構成単位)、デカンアミド単位(PA10の構成単位)、ウンデカンアミド単位(PA11の構成単位)、ドデカンアミド単位(PA12の構成単位)、テトラメチレンアジパミド単位(PA46の構成単位)、テトラメチレンセバカミド単位(PA410の構成単位)、テトラメチレンドデカミド単位(PA412の構成単位)、ヘキサメチレンアジパミド単位(PA66の構成単位)、ヘキサメチレンセバカミド単位(PA610の構成単位)、ヘキサメチレンドデカミド単位(PA612の構成単位)、デカメチレンセバカミド単位(PA1010の構成単位)、デカメチレンドデカミド単位(PA1012の構成単位)などが挙げられる。
ポリアミドAとしては3元共重合ポリアミドが好ましく、PA4T/6T/66、PA4T/6T/6、PA4T/6T/410、PA4T/6T/46、PA4T/6T/10Tがより好ましい。ここで、「/」は共重合体を示す。この場合、PA4TおよびPA6T以外の成分のポリアミドの総量は、ポリアミドA全体の原料モノマーの総モル数(100モル%)に対して、1~30モル%とすることが好ましく、5~25モル%とすることがより好ましい。ポリアミドAを構成するジカルボン酸成分においてテレフタル酸が主成分となることで、高温剛性などに優れる。
ポリアミドAを製造する方法としては、溶融重合法、固相重合法、塊状重合法、溶液重合法、またはこれらを組み合わせた方法等、種々の重縮合を利用することができる。これらの中で好ましくは、溶融重合と固相重合の組み合わせ、水溶液重合と固相重合の組み合わせによる方法である。
以上で説明したように、ポリアミドAは、PA4T単位のみを構成単位とする単重合体、またはPA4T単位以外の構成単位も含む共重合ポリアミドである。
ポリアミドAの相対粘度は、特に限定されないが、プーリ部の成形を容易にするためには、96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定される相対粘度を1.8以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましい。
ポリアミドAは、その融点が300℃以上であることが好ましい。また、上限は特に限定されないが、成形加工性などを考慮して320~350℃程度とすることが好ましい。融点範囲としては、320~340℃が好ましく、330~340℃がより好ましい。プーリ部の材料として一般に使用される他のポリアミド樹脂(PA66樹脂(同267℃)、PA46樹脂(同295℃)、PA612樹脂)よりも融点が高く、耐熱性に優れるので、高温環境下で使用されても、プーリ部の変形、破損などを防止できる。なお、融点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下で、上記ポリアミド樹脂を溶融状態から20℃/分の降温速度で25℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度(Tm)として測定できる。
ポリアミドAは、そのガラス転移温度が120℃以上であることが好ましい。より好ましくは150℃以上である。プーリ部の材料として一般に使用される他のポリアミド樹脂(PA66樹脂(同49℃)、PA46樹脂(同78℃)、PA612樹脂)よりもガラス転移温度が高いので、高温雰囲気下で使用されても、プーリ部の変形を抑制できる。なお、ガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下で、上記ポリアミド樹脂を急冷した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる階段状の吸熱ピークの中点の温度(Tg)として測定できる(JIS K7121)。
ベース樹脂とするポリアミドAに配合する繊維状補強材としては、ガラス繊維または炭素繊維を用いる。ガラス繊維は、SiO、B、Al、CaO、MgO、NaO、KO、Feなどを主成分とする無機ガラスから紡糸して得られる。一般に、無アルカリガラス(Eガラス)、含アルカリガラス(Cガラス、Aガラス)などを使用できる。ポリアミドAへの影響を考慮すれば無アルカリガラスが好ましい。無アルカリガラスは、組成物中にアルカリ成分をほとんど含んでいないホウケイ酸ガラスである。アルカリ成分がほとんど入っていないので、ポリアミドAへの影響がほとんどなく樹脂組成物の特性が変化しない。ガラス繊維としては、例えば、旭ファイバーグラス社製:03JAFT692、MF03MB120、MF06MB120などが挙げられる。
炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系(PAN系)、ピッチ系、レーヨン系、リグニン-ポバール系混合物など原料の種類によらないで使用できる。ピッチ系炭素繊維としては、例えば、クレハ社製:クレカ C-103S、同C-106S、同C-203Sなどが挙げられる。また、PAN系炭素繊維としては、例えば、東邦テナックス社製:ベスファイトHTA-C6、同HTA-C6-Sなどが挙げられる。
繊維状補強材としてガラス繊維を用いる場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して10~50質量%であり、好ましくは20~50質量%であり、より好ましくは20~35質量%である。含有量が10質量%未満では、補強効果が少なく、50質量%を越える場合は、射出成形に適した流動性が得られなかったり、表面平滑性が損なわれ、ベルトの摩耗を促進するおそれがある。繊維状補強材として炭素繊維を用いる場合、その配合量は、樹脂組成物全体に対して10~40質量%であり、好ましくは15~30質量%である。含有量が10質量%未満では補強効果が少なく、40質量%を越える場合は、射出成形に適した流動性が得られなかったり、表面平滑性が損なわれ、ベルトの摩耗を促進するおそれがある。
本発明における樹脂組成物には、プーリ部の機能や射出成形性を損なわない範囲であれば、必要に応じて、上記繊維状補強材以外の添加剤を配合してもよい。他の添加剤として、例えば、ポリアミドA以外の他のポリマー、固体潤滑剤、無機充填材、酸化防止剤、帯電防止剤、離型材、着色剤などを配合できる。外径円筒部の耐摩耗性を向上させるため、固体潤滑剤や粒子状充填剤、具体的には、4フッ化エチレン樹脂、グラファイト、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ、ウォラストナイト、エラストマ等を添加してもよい。
上記樹脂組成物を構成する各材料を、必要に応じて、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどにて混合した後、二軸混練押出し機などの溶融押出し機にて溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、二軸押出し機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。この成形用ペレットを用いて射出成形によりプーリ部を成形する。射出成形時は、樹脂温度をポリアミドAの融点以上とし、金型温度をポリアミドAのガラス転移温度以上に保持して行なう。
本発明の樹脂製プーリの樹脂材料とする樹脂組成物は、上述のとおり、所定のポリアミド樹脂に所定量の繊維状補強材(ガラス繊維または炭素繊維)を配合してなるので、融点およびガラス転移温度が高く、優れた耐熱性、耐油性、耐薬品性、寸法安定性、靱性、摺動性を示すとともに高い機械的性質を有する。このため、本発明の樹脂製プーリは、高温雰囲気での使用や、高速回転域などの過酷な環境条件(油や薬品と接触する条件、高速回転条件、高負荷条件、多湿環境など)で長時間の使用に耐え得る。
本発明で使用する樹脂組成物は、成形後の引張り強さが140MPa以上であり、好ましくは160MPa以上である。また、80℃で95%相対湿度の雰囲気で3時間吸水させた後の吸水引張り強さが、140MPa以上であり、好ましくは160MPa以上である。上記引張り強さは、ASTM D638に準拠して測定される。
上記樹脂組成物の吸水率は3.0%以下であり、好ましくは2.5%以下である。ここで、吸水率は、23℃で相対湿度50%の恒温恒湿下で、純水に24時間浸漬したときの吸水率をいう。吸水率はISO62に準拠して測定される。このように、上記樹脂組成物は、吸水性が小さいため、吸水・吸湿による膨潤、膨張に伴う寸法変化や物性低下を抑制できる。本発明の樹脂製プーリは、寸法安定性に優れ、精度の要求される用途のプーリとして安価に提供できる。
本発明の樹脂製プーリの一例を図1および図2に基づいて説明する。図1は樹脂製プーリを示す側面図であり、図2は図1の樹脂製プーリの軸方向断面図である。図1および図2に示すように、樹脂製プーリ1は、ラジアル荷重を受ける深溝玉軸受11と、プーリ部2とを備えてなる。深溝玉軸受11は、内輪12と、外輪13と、内輪12と外輪13との間に介在する複数の玉14と、この玉14を周方向に一定間隔で保持する保持器15とを備えている。プーリ部2は、深溝玉軸受11の外輪13に固定されている。この形態のプーリ部2は、外輪13に固定される内径円筒部3と、ベルト案内面を有する外径円筒部4と、内径円筒部3と外径円筒部4との間に設けられた円板部5と、円板部5の両面に放射状に設けられた複数のリブ6とを有する。プーリ部2におけるベルト案内面の形状は、フラット形状である。
深溝玉軸受11では、内外輪間の軸方向両端開口部にシール部材16を設けており、玉14の周囲にグリース17が封入されて潤滑がなされる。グリース17としては、プーリの使用温度を考慮して、例えば、ポリ-α-オレフィン油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油などを基油とし、ジウレア化合物などを増ちょう剤とするグリースが使用される。
プーリ部2は上記樹脂組成物の射出成形体である。プーリ部2を深溝玉軸受11の外輪13に固定する方法は特に限定されないが、製造工程の簡略化が図れ、係合部不良の発生を防止できることから、射出成形により外輪13に重ねて一体に成形(インサート成形)することが好ましい。インサート成形では、金型内に予め転がり軸受を配置し、これに上記樹脂組成物を充填してプーリ部を外輪の外径側に一体成形する。射出成形時のゲート位置は、形成されるウエルド部などを考慮して適宜設定できる。例えば、内径円筒部3の端面に所定円周間隔で複数のゲートを設けることができる。
図2に示すように、プーリ部2の内径円筒部3は、外輪13の外径面から端面までを覆うように形成されている。これにより、外輪13の外径部を、プーリ部2の内径円筒部3で抱え込む形となり、プーリ部2が転がり軸受から外れることを防止できる。
本発明の樹脂製プーリの他の例を図3に基づいて説明する。図3は樹脂製プーリの軸方向断面図である。図3に示すように、樹脂製プーリ21は、ラジアル荷重を受ける深溝玉軸受31と、プーリ部22とを備えてなる。深溝玉軸受31の構成は、上記図2の場合と概ね同じである。この形態のプーリ部22は、内周部に形成されるボス部27と、Vリブドベルト(図示省略)が掛け渡されるプーリ溝を有する外周部28とが一体に形成されている。ボス部27は、外輪33の外径面の溝33aに係合することで外輪33に固定されている。外径面に溝33aを有する外輪33に対して、プーリ部22をインサート成形することで該溝に入り込んだ樹脂により係合形状が形成される。
転がり軸受の形式としては、図2、3に示す深溝玉軸受に限定されず、アンギュラ玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受など、公知の転がり軸受を適用できる。また、プーリ部のベルト案内面の形状は、図2のフラット形状、図3のVリブド形状の他、タイミング歯車形状などの任意の形状とできる。その他、プーリ部と転がり軸受とをインサート成形で一体とすることが、コスト的に優位であり好ましいが、プーリ部のみを樹脂組成物で成形した後、これに必要に応じて転がり軸受を嵌合する形態であってもよい。
本発明の樹脂製プーリにおいてプーリ部は、上述のとおり、ポリアミドAをベース樹脂とし、所定量の繊維状補強材(ガラス繊維または炭素繊維)を配合してなるので、高温強度、吸水時強度、耐熱性、耐塩化カルシウム性に優れ、寸法変化やクリープを抑制できる。このため、高温時でもベルトを適切に案内でき、転がり軸受外輪とプーリ部との固定部における剥がれやすべりを防止できる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
実施例および比較例に用いる原材料を一括して以下に示す。
樹脂組成物A:PA4T単位を主成分とするポリアミドAをベース樹脂とした樹脂組成物(DSM社製ForTii Ace MX51、Tg160℃、Tm335℃、ガラス繊維30%添加グレード)
樹脂組成物B:PA4T単位を主成分とするポリアミドAをベース樹脂とした樹脂組成物(DSM社製ForTii K11、Tg125℃、Tm325℃、ガラス繊維30%添加グレード)
PA66:東レ社製アミランCM3001(Tg49℃、Tm265℃)
PA46:DSM社製スタニールTW300(Tg75℃、Tm295℃)
PA612:デュポン社製ザイテル151L(Tg60℃、Tm212℃)
ガラス繊維(GF):旭ファイバーグラス社製03JAFT692(平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)
実施例1~2、比較例1~3
上記原材料を表1に示す割合で配合した樹脂組成物を用いて、実施例と比較例の組成にて作製し、各種の試験を実施した。組成物の製造には二軸押出機を用いた。ガラス繊維は折損を防止するために定量サイドフィーダーを用いて供給し、押し出して造粒した。得られた成形用ペレットを用い、インラインスクリュー式射出成形機にて各評価用のダンベル試験片等を成形した。
各試験片について、下記の(1)吸水率、(2)引張強度評価、(3)吸水引張強度評価、(4)高温引張強度評価、(5)耐塩化カルシウム性評価を行った。それぞれの結果を表1に示す。
(1)吸水率は、ISO62(23℃で50%相対湿度)に準拠して測定した。
(2)引張強度評価は、ASTM D638に準拠して引張り強さを測定した。
(3)吸水引張り強さは、80℃で95%相対湿度の雰囲気で3時間吸水させた後、(2)と同様に引張り強さを測定した。
(4)高温引張強度評価は、120℃雰囲気中で(2)と同様に引張り強さを測定した。
(5)耐塩化カルシウム性評価は、ダンベル試験片を95℃の熱水に48時間浸漬して吸水させた後、塩化カルシウム5wt%水溶液に噴霧し、その後100℃で1時間乾燥した。これを1サイクルとして3サイクル繰り返し、引張り強さと外観を確認した。引張強度は、(2)と同様に測定し、塩化カルシウム噴霧前のものとの比較で引張強度の保持率として評価した。外観は、光学顕微鏡にて試験片の表面を観察し、表面あれやクラックが発生しているかを確認した。
Figure 0007022673000001
表1に示すように、各実施例は、吸水後および高温時においても引張り強さに優れ、また、耐塩化カルシウム性にも優れていた。一方、他のポリアミド樹脂を用いた各比較例は、吸水後の引張り強さや耐塩化カルシウム性に劣る結果となった。このように本発明にかかる実施例は、樹脂成分に由来して強度、耐熱性、耐カルシウム性に優れている。
本発明の樹脂製プーリは、耐摩耗性、高温時強度、吸水後強度、耐熱性、耐塩化カルシウム性に優れ、寸法変化やクリープを抑制できるので、自動車における補機駆動用ベルトを案内するプーリや、アイドラプーリ、テンションプーリとして好適に利用できる。
1、21 樹脂製プーリ
2、22 プーリ部
3 内径円筒部
4 外径円筒部
5 円板部
6 リブ
11、31 深溝玉軸受
12、32 内輪
13、33 外輪
14、34 玉
15、35 保持器
16、36 シール部材
17、37 グリース
27 ボス部
28 外周部

Claims (6)

  1. 内輪、外輪、および、前記内輪と前記外輪との間に介在する複数の転動体を有する転がり軸受と、前記外輪に固定された樹脂製のプーリ部とを備えてなる樹脂製プーリであって、
    前記プーリ部は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,4-ブタンジアミンを主成分とするジアミン成分とからなるポリアミド樹脂をベース樹脂とし、これにガラス繊維を配合してなる樹脂組成物の射出成形体であり、
    前記樹脂組成物は、前記ガラス繊維を前記樹脂組成物全体に対して10~50質量%含むことを特徴とする樹脂製プーリ。
  2. 前記ポリアミド樹脂は、前記ジアミン成分として1,6-ヘキサンジアミンを含み、
    前記ポリアミド樹脂が、テトラメチレンテレフタルアミド単位と、ヘキサメチレンテレフタルアミド単位を構成単位として含む共重合ポリアミドであることを特徴とする請求項1記載の樹脂製プーリ。
  3. 前記ポリアミド樹脂は、構成単位として、前記テトラメチレンテレフタルアミド単位および前記ヘキサメチレンテレフタルアミド単位以外の芳香族ポリアミドのモノマー単位、および、脂肪族ポリアミドのモノマー単位の少なくともいずれかをさらに含む共重合ポリアミドであることを特徴とする請求項2記載の樹脂製プーリ。
  4. 前記ポリアミド樹脂は、構成単位として、前記芳香族ポリアミドのモノマー単位を含み、
    前記芳香族ポリアミドのモノマー単位が、テトラメチレンイソフタルアミド単位、ヘキサメチレンイソフタルアミド単位、オクタメチレンテレフタルアミド単位、ノナメチレンテレフタルアミド単位、デカメチレンテレフタルアミド単位、ウンデカメチレンテレフタルアミド単位、ドデカメチレンテレフタルアミド単位、メタキシリレンアジパミド単位、またはメタキシリレンセバカミド単位であることを特徴とする請求項3記載の樹脂製プーリ。
  5. 前記ポリアミド樹脂は、構成単位として、前記脂肪族ポリアミドのモノマー単位を含み、
    前記脂肪族ポリアミドのモノマー単位が、カプロアミド単位、オクタンアミド単位、デカンアミド単位、ウンデカンアミド単位、ドデカンアミド単位、テトラメチレンアジパミド単位、テトラメチレンスベラミド単位、テトラメチレンセバカミド単位、テトラメチレンドデカミド単位、ヘキサメチレンアジパミド単位、ヘキサメチレンセバカミド単位、ヘキサメチレンドデカミド単位、またはデカメチレンセバカミド単位であることを特徴とする請求項3または請求項4記載の樹脂製プーリ。
  6. 前記ポリアミド樹脂は、ガラス転移温度が120℃以上であり、融点が300℃以上であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載の樹脂製プーリ。
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