JP2020056060A - アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法 - Google Patents

アルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】フラックスを使用せずに行うろう付におけるろう付性が良好であり、簡素な構成を有するブレージングシート及びその製造方法を提供する。【解決手段】ブレージングシート1は、0.10〜3.0質量%のMgを含むAl合金からなる心材11と、Mgと、6.0〜13.0質量%のSiと0.050質量%以下のBiとを含むAl合金からなり、心材11の少なくとも片面上に積層されるとともに最表面121に露出したろう材12と、を有している。ろう材12は、心材11との境界面122から最表面121へ近づくほどMg濃度が連続的に低くなるMg分布を有している。最表面121からの深さがろう材12の厚みtfの1/8となる位置P1/8におけるMg濃度c1/8が0.150質量%以下であり、かつ、最表面121からの深さがろう材の厚みtfの7/8となる位置P7/8におけるMg濃度c7/8が心材11中のMg量の5〜90%である。【選択図】図1

Description

本発明は、不活性ガス雰囲気中又は真空中でフラックスを用いずにアルミニウムをろう
付するために用いられるアルミニウム合金ブレージングシートおよびその製造方法に関する。
アルミニウム製の熱交換器や機械用部品など、細かな接合部を多数有する製品の接合方法としてろう付が広く用いられている。アルミニウム材(アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)のろう付を行うためには、アルミニウム材の表面に存在する酸化皮膜を破壊し、溶融ろうを接合相手の母材または溶融ろうに接触させることが必要である。酸化皮膜を破壊する方法としては、フラックスを使用する方法と真空中で加熱する方法とがある。また、アルミニウム材のろう付には、心材と、心材の少なくとも一方の面上に設けられたろう材とを有するブレージングシートが多用されている。
しかし、フラックスろう付法、つまり、フラックスを使用して酸化皮膜を破壊するろう付法においては、フラックスの材料費及びフラックスを塗布する工程における作業コストがアルミニウム製品の製造コストの増大要因となっている。
フラックスの使用に伴う前記の問題を回避するため、アルミニウム製品の用途によっては、接合予定部の表面にフラックスを塗布せずに真空中においてろう付を行う、いわゆる真空ろう付法を採用することもある。しかし、真空ろう付法は、フラックスろう付法に比べて生産性が低い、あるいはろう付接合の品質が悪化しやすいという問題がある。また、真空ろう付法に用いるろう付炉は、一般的なろう付炉に比べて設備費やメンテナンス費が高くなる。
そこで、接合予定部の表面にフラックスを塗布せずに不活性ガス雰囲気中でろう付を行う、いわゆるフラックスフリーろう付法が提案されている。フラックスフリーろう付法に用いられるブレージングシートは、その積層構造のうち少なくとも1つの層に、酸化皮膜を脆弱化する、あるいは酸化皮膜を破壊する作用を有する元素を有している。この種の元素としては、Mg(マグネシウム)が多用されている。
しかし、Mgは比較的酸化されやすいという問題がある。そのため、Mgを単純にろう材中に添加した場合、ろう付加熱中に、ろう材の表面にMgOの皮膜が形成され、ろう付性の悪化を招くおそれがある。かかる問題を回避するため、ブレージングシートにおける心材とろう材との間にMgを含有する中間材を介在させ、ろう付時の加熱によってMgを中間材からろう材表面へ向けて拡散させる技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、芯材と、1質量%以上4質量%未満のSi(シリコン)および0.1〜5.0質量%のMg(マグネシウム)を含有するAl−Si−Mg系合金からなり芯材上にクラッドされた中間ろう材層と、4〜12質量%のSiを含有するAl−Si系合金からなり中間ろう材層上にクラッドされた最表面ろう材層と、を有するブレージングシートが開示されている。
特許第6055573号
しかし、特許文献1のブレージングシートを用いてろう付を行う場合、中間ろう材層中のMgがブレージングシートの表面に到達するまでの間はMgによる酸化皮膜の脆弱化が起こらない。そして、Mgは固体の中間ろう材層及び最表面ろう材層中を移動するため、ブレージングシートの表面に到達するまでに比較的長い時間を要する。それ故、このブレージングシートは、例えばろう材の厚さが厚い場合や昇温速度が速い場合等に、上述したろう付不良の発生を招くおそれがある。
また、特許文献1のブレージングシートのように心材とろう材との間に中間材を介在させる場合には、中間材を設けない場合に比べてブレージングシートに含まれる層の数が多くなるため、ブレージングシートの構成がより複雑になる。また、ブレージングシートの層数が多くなることにより、生産性の低下や材料コストの増大を招くおそれもある。
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、フラックスを使用せずにに行うろう付におけるろう付性が良好であり、簡素な構成を有するブレージングシート及びその製造方法を提供しようとするものである。
本発明の一態様は、フラックスを使用せずに行うろう付に適用可能なアルミニウム合金ブレージングシートであって、
0.10質量%以上3.0質量%以下のMg(マグネシウム)を含むアルミニウム合金からなる心材と、
Mgと、6.0質量%以上13.0質量%以下のSi(シリコン)と、0質量%以上0.050質量%以下のBi(ビスマス)とを含むアルミニウム合金からなり、前記心材の少なくとも片面上に積層されるとともに最表面に露出したろう材と、を有し、
前記ろう材は、
前記心材との境界面から前記最表面へ近づくほどMg濃度が連続的に低くなるMg分布を有しており、
前記最表面からの深さが前記ろう材の厚みの1/8となる位置におけるMg濃度が0.150質量%以下であり、かつ、
前記最表面からの深さが前記ろう材の厚みの7/8となる位置におけるMg濃度が前記心材中のMg量の5〜90%である、アルミニウム合金ブレージングシートにある。
前記アルミニウム合金ブレージングシート(以下、「ブレージングシート」という。)は、前記心材と、前記心材の少なくとも片面上に積層され、最表面に露出した前記ろう材と、を有している。また、ろう材中のMgは、心材との境界面からブレージングシートの最表面へ近づくほどMg濃度が連続的に低くなるように分布している。そして、最表面からの深さがろう材の厚みの1/8となる位置におけるMg濃度及びろう材の厚みの7/8となる位置におけるMg濃度が、それぞれ前記特定の範囲となっている。
ろう材中のMgは、ろう材の固相線温度を低下させ、比較的低い温度から溶融ろうを生じさせることができる。更に、ろう材内に予め前記特定のMg分布を形成することにより、ろう付中のMgの酸化を抑制しつつ、ブレージングシートの最表面へ迅速にMgを供給することができる。
そして、前記最表面へ迅速にMgを供給するとともに、比較的低い温度から溶融ろうを生じさせることにより、接合予定部におけるフィレットの形成速度を速めることができる。その結果、不活性ガス雰囲気中においてフラックスを用いずに行う、いわゆるフラックスフリーろう付法や真空ろう付法におけるろう付性を向上させることができる。
また、前記ブレージングシートは、ろう材という単一の層内に前記特定のMg分布が形成されているため、ブレージングシートに含まれる層の数の増加を回避することができる。それ故、前記ブレージングシートの構成の複雑化を回避するとともに、生産性の低下や材料コストの増大を回避することができる。
以上の結果、前記の態様によれば、フラックスを使用せずに行うろう付におけるろう付性が良好であり、簡素な構成を有するブレージングシートを提供することができる。
実施例1における、ブレージングシートの要部を示す一部断面図である。 実施例1における、間隙充填試験に用いた試験体の側面図である。 実施例3における、ミニコア試験体の斜視図である。
前記ブレージングシートにおいて、ろう材は、心材の少なくとも片面上に積層されている。即ち、前記ブレージングシートは、心材と、心材の片面上に積層されたろう材とからなる2層構造を有していてもよいし、心材と、心材の両面上に積層されたろう材とからなる3層構造を有していてもよい。
また、前記ブレージングシートは、心材と、心材の一方の面上に積層されたろう材と、前記心材及び前記ろう材とは異なるアルミニウム合金からなり、心材の他方の面上に積層された層とを備えた3層以上の多層構造を有していてもよい。かかる層としては、例えば、犠牲陽極材や、前記ろう材とは異なる化学成分を有する第2ろう材等がある。
心材の一方の面上にろう材を積層し、他方の面上に第2ろう材を積層する場合において、第2ろう材は、前記特定のMg分布を有していなくてもよい。また、第2ろう材は、前記ろう材とは異なる厚みを有していてもよい。
前記ブレージングシートの厚みは、例えば、0.050〜2.0mmの範囲から適宜設定することができる。また、前記ブレージングシートにおけるろう材のクラッド率は、例えば、3〜20%の範囲から適宜設定することができる。ろう材中のMgをブレージングシートの最表面まで早期に到達させる観点からは、ろう材のクラッド率を3〜10%にすることが好ましい。
前記ブレージングシートを構成する各層の化学成分及びその限定理由について説明する。
(心材)
前記ブレージングシートの心材は、0.10質量%以上3.0質量%以下のMgを含むアルミニウム合金から構成されている。心材を構成するアルミニウム合金は、例えば、0.10質量%以上3.0質量%以下のMgを含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、心材を構成するアルミニウム合金中には、必須成分としてのMgの他に、更に、任意成分として、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Si(シリコン)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)が含まれていてもよい。
・Mg:0.10質量%以上3.0質量%以下
心材中のMgは、ろう付の初期段階、つまり、ろう材が溶融する前の段階において、ろう付加熱によって拡散し、心材から固体のろう材中に移動する。そのため、ろう材中のMgの総量は、ろう付の進行に伴って徐々に増加する。そして、ろう付が進行して溶融ろうが形成された後においては、溶融ろう中のMgによって接合予定部に存在する酸化皮膜が破壊される。その結果、フラックスを用いることなくブレージングシートと相手材とのろう付を行うことができる。
心材中のMg量を0.10質量%以上とすることにより、溶融ろう中のMgの総量を十分に多くし、酸化皮膜の破壊を促進することができる。その結果、前記ブレージングシートと相手材とのろう付性を向上させることができる。心材中のMg量が0.10質量%未満の場合には、溶融ろう中のMgの総量が不足し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。
心材中のMgの含有量が多くなるほど酸化皮膜の破壊をより促進し、ろう付性をより向上させることができる。かかる観点からは、心材中のMgの含有量を0.40質量%以上とすることが好ましい。
しかし、心材中のMgの含有量が過度に多くなると、含有量に見合ったろう付性向上の効果を得ることが難しくなる。また、この場合には、前記ブレージングシートの成形性の悪化や、心材の結晶粒の微細化によるエロージョンの発生を招くおそれもある。心材中のMg量を3.0質量%以下、好ましくは1.50質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつ、前記ブレージングシートと相手材とのろう付性を向上させることができる。
・Fe:1.0質量%以下
心材中には、任意成分として、1.0質量%以下のFeが含まれていてもよい。Feは、心材の強度を向上させる作用を有している。しかし、Feの含有量が過度に多くなると、心材の耐食性の悪化を招くおそれがある。また、この場合には、心材中に巨大な析出物が形成されやすくなり、ブレージングシートの成形性の低下を招くおそれもある。Feの含有量を1.0質量%以下、より好ましくは0.70質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつ心材の強度をより向上させることができる。
・Mn:1.80質量%以下
心材中には、任意成分として、1.80質量%以下のMnが含まれていてもよい。Mnは、心材の強度を向上させる作用を有している。また、Mnは、心材の電位を調整し、耐食性を向上させる作用を有している。これらの作用効果をより高める観点からは、Mnの含有量を0.60質量%以上とすることが好ましい。しかし、Mnの含有量が過度に多くなると、前記ブレージングシートの製造過程において心材に割れが発生しやすくなる。Mnの含有量を1.80質量%以下、より好ましくは1.30質量%以下とすることにより、ブレージングシートの製造性の悪化を回避しつつ心材の強度及び耐食性をより向上させることができる。
・Si:1.0質量%以下
心材中には、任意成分として、1.0質量%以下のSiが含まれていてもよい。Siは、心材の強度を向上させる作用を有している。しかし、Siの含有量が過度に多くなると、心材の融点が低下し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。Siの含有量を1.0質量%以下とすることにより、ろう付性の悪化を回避しつつ心材の強度をより向上させることができる。
・Cu:1.0質量%以下
心材中には、任意成分として、1.0質量%以下のCuが含まれていてもよい。Cuは、心材の強度を向上させる作用を有している。また、Cuは、心材の電位を調整し、耐食性を向上させる作用を有している。しかし、Cuの含有量が過度に多くなると、粒界腐食が発生しやすくなる。また、この場合には、心材の融点が低下し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。Cuの含有量を1.0質量%以下、より好ましくは0.50質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつ心材の強度及び耐食性をより向上させることができる。
・Zn:3.0質量%以下
心材中には、任意成分として、3.0質量%以下のZnが含まれていてもよい。Znは、心材の自然電極電位を卑にする作用を有している。心材の自然電位を卑にすることにより、心材を犠牲陽極として機能させることができる。しかし、Znの含有量が過度に多くなると、心材の自然電極電位が過度に低下し、犠牲防食効果が早期に損なわれるおそれがある。Znの含有量を3.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下とすることにより、心材による犠牲防食効果をより長期間にわたって維持することができる。
・Ti:0.20質量%以下
心材中には、任意成分として、0.20質量%以下のTiが含まれていてもよい。Tiは、心材の腐食を層状に進行させ、深さ方向への腐食の進行を抑制する作用を有している。しかし、Tiの含有量が過度に多くなると、心材中に巨大な析出物が形成されやすくなり、ブレージングシートの製造過程における圧延性の悪化を招くおそれがある。また、この場合には、かえって心材の耐食性の悪化を招くおそれもある。Tiの含有量を0.20質量%以下、より好ましくは0.15質量%以下とすることにより、かかる問題を回避しつつ心材の深さ方向への腐食の進行をより効果的に抑制することができる。
・Zr:0.50質量%以下
心材中には、任意成分として、0.50質量%以下のZrが含まれていてもよい。Zrは、心材の結晶粒径を大きくし、エロージョンの発生を抑制する作用を有している。しかし、Zrの含有量が過度に多くなると、前記ブレージングシートの製造過程において心材に割れが発生しやすくなる。Zrの含有量を0.50質量%以下、より好ましくは0.20質量%以下とすることにより、ブレージングシートの製造性の悪化を回避しつつエロージョンの発生をより効果的に抑制することができる。
(ろう材)
前記ブレージングシートのろう材は、Mgと、6.0質量%以上13.0質量%以下のSiとを含むアルミニウム合金から構成されている。ろう材を構成するアルミニウム合金は、例えば、Mgと、6.0質量%以上13.0質量%以下のSiとを含み、残部がAl(アルミニウム)及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。また、ろう材を構成するアルミニウム合金中には、必須成分としてのMg及びSiの他に、更に、任意成分として、Sr(ストロンチウム)、Sb(アンチモン)、Bi(ビスマス)、Na(ナトリウム)、Zn(亜鉛)が含まれていてもよい。
・Si:6.0質量%以上13.0質量%以下
ろう材中のSiは、ろう材の融点を低下させ、ろう付時に溶融ろうを生じさせる作用を有している。Siの含有量を6.0質量%以上、好ましくは7.0質量%以上とすることにより、ろう付時に十分な量の溶融ろうを生じさせ、前記ブレージングシートと相手材とのろう付を行うことができる。ろう材中のSiの含有量が6.0質量%未満の場合には、溶融ろうの量が不足し、ろう付性の悪化を招くおそれがある。
しかし、ろう材中のSiの含有量が過度に多くなると、ろう付時における心材の溶解量が過度に多くなり、ろう付後の心材の強度が低下するおそれがある。また、この場合には、ろう材中に粗大な初晶Siが形成されやすくなり、ろう付加熱時に溶融穴が生じやすくなるおそれがある。更に、前記ブレージングシートの製造過程において熱間圧延を行った際に、初晶Siの存在によって心材が局部的に溶融し、圧延割れの発生を招くおそれもある。ろう材中のSiの含有量を13.0質量%以下、好ましくは12.0質量%以下とすることにより、これらの問題を回避しつつ、十分な量の溶融ろうを生じさせることができる。
・Mg
前記ろう材中には、Mgが含まれている。ろう材中のMgは、心材との境界面から最表面へ近づくほどMg濃度が連続的に低くなるように分布している。また、ブレージングシートの最表面からの深さがろう材の厚みの1/8となる位置におけるMg濃度は0.150質量%以下であり、ブレージングシートの最表面からの深さが前記ろう材の厚みの7/8となる位置におけるMg濃度は心材中のMg量の5〜90%である。
ここで、「連続的」とは、縦軸をろう材内のMg濃度、横軸を最表面からの深さとし、各深さにおけるMg濃度をプロットすることにより作成したMgの濃度プロファイルが滑らかな曲線状を呈する状態をいう。例えば、ろう材がMg濃度の異なる複数の層から構成されており、Mgの濃度プロファイルが階段状を呈する状態は、「連続的」の概念からは除外される。
前述したように、ろう材内部に存在するMgは、ろう付加熱によって心材中のMgよりも早期にブレージングシートの最表面に到達する。このMgにより、接合予定部に存在する酸化皮膜を迅速に破壊することができる。また、ろう材中のMgは、ろう材の固相線温度を低下させ、比較的低い温度から溶融ろうを生じさせることができる。
前記ブレージングシートは、最表面からの深さがろう材の厚みの1/8となる位置におけるMg濃度を0.150質量%以下とすることにより、ブレージングシートの最表面に存在するMgの量を十分に少なくすることができる。これにより、ろう付の初期段階におけるMgOの生成量を低減し、ろう付性の悪化を回避することができる。
前記特定の位置におけるMg濃度が0.150質量%を超える場合には、ろう付の初期段階においてMgが酸化され、ブレージングシートの最表面にMgO皮膜が形成されやすくなる。そして、このMgO皮膜の存在によって接合予定部に存在する酸化皮膜の破壊が妨げられ、ろう付性の悪化を招くおそれがある。
また、前記ブレージングシートは、最表面からの深さが前記ろう材の厚みの7/8となる位置におけるMg濃度を心材中のMg量の5%以上、好ましくは20%以上とすることにより、ろう付の初期段階において適正な量のMgを迅速にブレージングシートの最表面まで到達させることができる。その結果、接合予定部に存在する酸化皮膜を迅速に破壊することができる。また、この場合には、ろう材の固相線温度を適度に低下させ、フィレットの形成速度を早くすることができる。これらの結果、ろう付性を向上させることができる。
前記特定の位置におけるMg濃度が心材中のMg量の5%未満の場合には、ろう材内部に存在するMgによって酸化皮膜を破壊することが難しくなる。また、この場合には、ろう材の固相線温度を低下させる効果が低いため、フィレットの形成速度の低下を招くおそれもある。これらの結果、ろう付性の低下を招くおそれがある。
ろう付性をより向上させる観点からは、ろう材内部に存在するMgの量を多くすることが好ましい。しかし、ろう材内部に存在するMgの量が過度に多くなると、ろう付の初期段階においてブレージングシートの最表面に到達するMgの量が過度に多くなる。そのため、ブレージングシートの最表面にMgOの皮膜が形成されやすくなり、ろう付性の悪化を招くおそれがある。前記特定の位置におけるMg濃度を心材中のMg量の90%以下、好ましくは80%以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
・Bi:0質量%以上0.050質量%以下
前記ろう材中には、任意成分として、Biが含まれていてもよい。Biは、ろう付中におけるブレージングシートの酸化を抑制する作用を有している。ろう材中のBiは、ろう付中にブレージングシートの最表面に濃縮される。Biの含有量を0.050質量%以下、好ましくは0.030質量%以下とすることにより、ろう付時の加熱によるち密な酸化皮膜の形成を抑制し、ろう付性をより向上させることができる。Biは、例えばろう付雰囲気中の酸素濃度が50〜500体積ppm程度の場合のように、酸素濃度が比較的高い不活性ガス雰囲気中でろう付を行う場合に特に有効である。
・Sr:0.10%以下、Sb:0.10%以下、Na:0.30%以下
前記ろう材中には、任意成分として、Sr:0.10%以下、Sb:0.10%以下、Na:0.30%以下のうち1種または2種以上が含まれていてもよい。これらの元素は、ろう付後に形成される接合部、つまり、凝固したろうの組織を微細化し、接合強度を向上させる作用を有している。これらの元素による接合強度向上の効果をより高める観点からは、Srの含有量を0.0030質量%以上、Sbの含有量を0.0040質量%以上、Naの含有量を0.0020質量%以上とすることが好ましい。
しかし、Sr、Sb、Naの含有量が過度に多くなると、これらの元素の含有量に見合ったろう付性向上の効果が得られにくい。Srの含有量を0.10質量%以下、好ましくは0.050質量%以下とすることにより、Srの含有量に見合ったろう付性向上の効果を得ることができる。同様に、Sbの含有量を0.10質量%以下、好ましくは0.050質量%以下とすることにより、Sbの含有量に見合ったろう付性向上の効果を得ることができる。また、Naの含有量を0.30質量%以下、好ましくは0.10質量%以下とすることにより、Naの含有量に見合ったろう付性向上の効果を得ることができる。
・Zn:5.0質量%以下
前記ろう材中には、任意成分として、5.0質量%以下のZnが含まれていてもよい。Znを含むろう材を用いてろう付を行うことにより、ろう付後に心材の表面に残留するろう材の電位を低下させることができる。そして、ろう材の犠牲防食効果により、ろう付後のアルミニウム製品の耐食性をより向上させることができる。アルミニウム製品の耐食性を向上させる効果をより高める観点からは、Znの含有量を1.0質量%以上とすることがより好ましい。
一方、Znの含有量が過度に多くなると、心材の表面に残留したろう材の電位が過度に低下し、腐食の進行が早まるおそれがある。Znの含有量を5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
(犠牲陽極材)
前記ブレージングシートは、心材と、心材の一方の面上に積層された前記ろう材と、純アルミニウムまたはZn:8.0質量%以下を含有するアルミニウム合金からなり、心材の他方の面上に積層された犠牲陽極材と、を有していてもよい。この場合には、犠牲陽極材の犠牲防食効果によって、ろう付後のアルミニウム製品の耐食性をより向上させることができる。なお、前述した「純アルミニウム」とは、Alの純度が99.00質量%以上であるアルミニウム材をいう。
犠牲陽極材としてZnを含むアルミニウム合金を使用する場合、当該アルミニウム合金は、例えば、Zn:0質量%超え8.0質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。アルミニウム製品の耐食性を向上させる効果をより高める観点からは、Znの含有量を0.50質量%以上とすることがより好ましい。
一方、Znの含有量が過度に多くなると、犠牲陽極材の電位が過度に低下し、腐食の進行が早まるおそれがある。Znの含有量を8.0質量%以下、より好ましくは5.0質量%以下とすることにより、かかる問題を回避しつつ犠牲防食効果をより向上させることができる。
犠牲陽極材を構成するアルミニウム合金は、更に、In(インジウム):0.0050〜0.100質量%、Sn(スズ):0.0050〜0.100質量%のうち1種または2種を含有していてもよい。In及びSnは、Znと同様に犠牲陽極材の自然電極電位を低下させる作用を有している。しかし、In及びSnの含有量が過度に多くなると、犠牲陽極材の自然電極電位が過度に低下し、自己耐食性の悪化を招くおそれがある。
In及びSnの含有量を0.0050質量%以上、より好ましくは0.010質量%以上とすることにより、犠牲陽極材による犠牲防食効果をより向上させることができる。また、In及びSnの含有量をそれぞれ0.100質量%以下、より好ましくは0.050質量%以下とすることにより、犠牲防食効果を得つつ、自己耐食性の悪化を回避することができる。
犠牲陽極材は、更に、Mg:3.0質量%以下を含有していてもよい。犠牲陽極材中のMgは、犠牲陽極材の表面に存在する酸化皮膜を破壊することができる。それ故、犠牲陽極材としてMgを含むアルミニウム合金を使用することにより、溶融ろうに対する犠牲陽極材の濡れ性を向上させ、犠牲陽極材と他の部品とをろう付することができる。
しかし、犠牲陽極材中のMgの含有量が過度に多くなると、犠牲陽極材の表面にMgの酸化物が形成され、ろう付性の悪化を招くおそれがある。犠牲陽極材中のMgの含有量を3.0質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下とすることにより、Mgの酸化物の形成を抑制しつつ、ろう付性を向上させることができる。
犠牲陽極材は、更に、Mn:2.0質量%以下、Si:1.5質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Ti:0.30質量%以下、Zr:0.30質量%以下、Cr:0.30質量%のうち1種または2種以上を含有していてもよい。これらの元素は、アルミニウム母相中に金属間化合物を形成し、または、アルミニウム母相中に固溶することにより、ブレージングシートの強度を向上させる作用を有している。
(第2ろう材)
前記ブレージングシートは、心材と、心材の一方の面上に積層された前記ろう材と、前記心材及び前記ろう材とは異なるアルミニウム合金からなり、心材の他方の面上に積層された第2ろう材と、を有していてもよい。第2ろう材を構成するアルミニウム合金としては、公知のAl−Si系合金を採用することができる。
前記の態様のブレージングシートは、例えば、以下の態様の製造方法により作製することができる。
まず、前記心材の化学成分を備えた心材用塊と、6.0質量%以上13.0質量%以下のSiと0.050質量%以下のBiとを含むアルミニウム合金からなり、前記心材用塊に重ね合わされたろう材用塊とを有するクラッド塊を作製する。
このクラッド塊に熱間圧延を行うことにより、前記クラッド塊を構成する各層を接合してクラッド材を作製する。
次いで、前記クラッド材に1パス以上の冷間圧延を行うとともに、前記冷間圧延のパス間及び最終パスの後のうち少なくとも一方において前記クラッド材を1回以上加熱してMgを拡散させることにより、前記ろう材中に前記Mg分布を形成する。
クラッド塊は、所望するブレージングシートの構成に対応した積層構造とすることができる。例えば、心材と、心材の両面に積層された前記ろう材とを備えた3層構造のブレージングシートを作成しようとする場合には、心材用塊の両面にろう材用塊を重ね合わせ、3層構造のクラッド塊を作成すればよい。
クラッド塊の熱間圧延は、例えば、圧延開始温度を400〜500℃とした条件で行うことができる。また、熱間圧延においては、クラッド材の板厚が所望するブレージングシートの厚みの200%よりも厚くなるように圧延を行うことが好ましい。熱間圧延では比較的高い温度で圧延を行うため、心材用塊中のMgが圧延中にろう材用塊へ拡散し、クラッド材のろう材内にごく薄いMg拡散層が形成されることがある。
クラッド材の厚みをブレージングシートの厚みの200%よりも厚くすることにより、後に行う冷間圧延においてMg拡散層を厚み方向に圧縮し、Mg拡散層の厚みを無視できる程度に薄くすることができる。その結果、後に行う熱処理において、所望のMg分布を精度よく形成することができる。クラッド材の厚みをブレージングシートの厚みの200%以下とする場合には、後に行う冷間圧延におけるMg拡散層の圧縮量が不足しやすい。Mg拡散層の圧縮量が不足すると、後に行う熱処理において、Mg拡散層の厚みを考慮しつつ心材からろう材へMgを拡散させる必要が生じる。その結果、熱処理条件の設定が複雑になるおそれがある。
熱間圧延によりクラッド材を作製した後、クラッド材に1パス以上の冷間圧延を行うとともに、冷間圧延のパス間及び最終パスの後のうち少なくとも一方においてクラッド材を1回以上加熱してMgを拡散させる。つまり、クラッド材に1パスの冷間圧延を行って所望の厚みとする場合には、冷間圧延後にクラッド材を加熱して前記Mg分布を形成すればよい。また、クラッド材に2パス以上の冷間圧延を行って所望の厚みとする場合には、例えば、いずれかのパス間において前記加熱を行ってもよいし、最終パスの後に前記加熱を行ってもよい。更に、冷間圧延のパス間及び最終パスの後のうち2回以上のタイミングで前記加熱を行うこともできる。
また、Mgを拡散させるための加熱は、いわゆる中間焼鈍や最終焼鈍などの、機械的特性を調整するための熱処理を兼ねていてもよいし、これらの熱処理とは別の工程として行ってもよい。
前記心材から前記ろう材へMgを拡散させる際には、下記式(1)で表されるDの値が3.0×10-15〜3.0×10-9となる条件で前記クラッド材を加熱することが好ましく、3.0×10-11〜3.0×10-9となる条件で前記クラッド材を加熱することがより好ましい。
Figure 2020056060
但し、前記式(1)におけるnは前記クラッド材の厚みが前記ブレージングシートの厚みの100〜200%の範囲にある間の加熱回数であり、Thkはk回目の加熱における前記クラッド材のろう材の厚み(m)であり、Rは気体定数(J/mol・K)であり、tk0はk回目の加熱において前記クラッド材の温度が50℃を超えた時点の時刻であり、tk1はk回目の加熱において前記クラッド材の温度が50℃を下回った時点の時刻であり、T(t)は時刻tにおける前記クラッド材の温度(K)である。また、前記式(1)における時間の微小変分dtの単位は秒とする。
前記式(1)におけるDの値は、クラッド材の厚みがブレージングシートの厚みの100〜200%の範囲内にある時に行った加熱における、Mgの拡散距離の合計に相当する値である。Dの値を前記特定の範囲とすることにより、ろう材中に適度にMgを拡散させ、前記特定のMg分布をより確実に形成することができる。
前記の態様の製造方法においては、必要に応じて、酸を用いてブレージングシートの表面をエッチングしてもよい。エッチングを行うことにより、熱間圧延時の加熱や、Mgを拡散させる際の加熱によって形成された酸化皮膜を脆弱化または除去することができる。その結果、ブレージングシートのろう付性をより向上させることができる。
エッチングを行う時期は、熱間圧延を行った後、ブレージングシートを用いてろう付を行うまでの間であれば、特に限定されることはない。例えば、熱間圧延後のクラッド板にエッチングを行ってもよいし、冷間圧延の途中のクラッド板にエッチングを行ってもよい。また、熱間圧延を行った後、冷間圧延がすべて完了するまでに行う熱処理の後にエッチングを行ってもよい。
また、前述した加熱及び冷間圧延が全て完了した直後のブレージングシートにエッチングを行ってもよい。更に、前述した加熱及び冷間圧延が全て完了した後、前述した酸化皮膜を有する状態でブレージングシートを保管し、ろう付を行う直前にエッチングを行ってもよい。ろう付を行う際に前述した酸化皮膜が脆弱化または除去されていれば、前記ブレージングシートを用いたろう付におけるろう付性を向上させることができる。
ブレージングシートのエッチングに用いる酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、フッ酸等の水溶液を使用することができる。これらの酸は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。酸化皮膜をより効率よく除去する観点からは、酸として、フッ酸と、フッ酸以外の酸とを含む混合水溶液を使用することが好ましく、フッ酸と硫酸との混合水溶液またはフッ酸と硝酸との混合水溶液を使用することがより好ましい。
エッチングにおけるエッチング量は0.05〜2g/m2であることが好ましい。エッチング量を0.05g/m2以上、より好ましくは0.1g/m2以上とすることにより、ブレージングシート表面の酸化皮膜を十分に除去し、ろう付性をより向上させることができる。
ブレージングシートのろう付性向上の観点からは、エッチング量に上限は存在しない。しかし、エッチング量が過度に多くなると、処理時間に見合ったろう付性向上の効果を得にくくなるおそれがある。エッチング量を2g/m2以下、より好ましくは0.5g/m2以下とすることにより、かかる問題を回避することができる。
前記ブレージングシートは、フラックスフリーろう付法及び真空ろう付法のいずれの方法にも使用することができる。前記ブレージングシートを用いてフラックスフリーろう付法によりろう付を行う場合、ろう付雰囲気としての不活性ガス中の酸素濃度を20体積ppm以下とすることが好ましく、10体積ppm以下とすることがより好ましい。この場合には、酸素によるMg等の酸化を抑制し、ろう付性をより向上させることができる。
前記ブレージングシート及びその製造方法の実施例について、以下に説明する。なお、本発明に係るブレージングシート及びその製造方法の態様は、以下に示す実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
本例においては、表1の合金記号C1〜C14で示す化学成分を有する心材、合金記号F1〜F10で示す化学成分を有するろう材及び合金記号L1〜L4で示す化学成分を有する犠牲陽極材を使用する。なお、表1における記号「−」は、当該元素を積極的に添加しておらず、含有量が不可避的不純物としての含有量を超えないことを示す記号である。また、同表における記号「Bal.」は、残部であることを示す記号である。
Figure 2020056060
(実施例1)
本例は、図1に示すように、心材11と、心材11の片面上に積層されたろう材12とからなる2層構造のブレージングシート1の例(図1参照)である。本例のブレージングシート1の作成方法は以下の通りである。まず、連続鋳造により、表1の合金記号C1〜C14に示す化学成分(合金記号C1〜C14)を有する心材用塊を作製する。次いで、心材用塊に面削を施し、心材用塊の厚みを所定の厚さとする。
また、心材用塊とは別に、連続鋳造により、表1の合金記号F1〜F10に示す化学成分を有するろう材用塊及び合金記号L1〜L4に示す化学成分を有する犠牲陽極材用塊を作製する。次いで、ろう材用塊及び犠牲陽極材用塊にそれぞれ熱間圧延を行い、これらの塊の厚みを所定の厚みとする。
このようにして得られた心材用塊、ろう材用塊及び犠牲陽極材用塊を表2及び表3に示す組み合わせで重ね合わせ、クラッド塊を作製する。得られたクラッド塊に熱間圧延を行い、重なり合う塊同士を接合し、厚み3.0mmのクラッド材を作製する。
次いで、クラッド材の厚みが表2及び表3に示す値となるように、クラッド材に複数パスの冷間圧延を行う。そして、冷間圧延の最終パスの後に、上記式(1)のDの値が表2及び表3に示す値となる加熱条件でクラッド材を加熱する。なお、この加熱における保持温度は、例えば350〜450℃の範囲内から選択することができる。また、保持時間は、例えば1〜24時間の範囲内から選択することができる。以上により、表2及び表3に示す試験材101〜142を得ることができる。
・ろう材中のMg分布
以下の方法により、各試験材におけるろう材12中のMg分布を評価することができる。まず、各試験材を板幅方向に切断した後、露出した断面に鏡面研磨を施す。この断面において、図1に示すように、試験材の最表面111からの深さがろう材12の厚みtfの1/8である3点の分析位置P1/8を無作為に選択する。これらの各分析位置P1/8においてEPMA(つまり、電子プローブマイクロアナライザ)による点分析を行い、各分析位置P1/8におけるMg濃度を測定する。そして、各分析位置P1/8におけるMg濃度を平均した値を、最表面121からの深さがろう材の厚みの1/8となる位置におけるMg濃度c1/8とする。各試験材における当該位置のMg濃度c1/8は、表2及び表3に示す通りである。
また、EPMAによる点分析を行う位置を、試験材の最表面121からの深さがろう材の厚みの7/8である分析位置P7/8に変更し、上記と同様の評価を行うことにより、最表面からの深さがろう材の厚みの7/8となる位置におけるMg濃度c7/8を得ることができる。各試験材における当該位置のMg濃度c7/8は、表2及び表3に示す通りである。なお、表2及び表3中には、各試験材の前記位置におけるMg濃度c7/8そのもの値と合わせて、ろう材中のMg量に対する前記位置のMg濃度c7/8の比率(%)を記載した。
・間隙充填試験によるろう付性評価
間隙充填試験を行うことにより、各試験材のろう付性を評価することができる。間隙充填試験において使用する試験体2は、図2に示すように、試験材から採取した水平板21と、水平板21のろう材12上に配置された垂直板22と、を有している。垂直板22は、水平板21に対して直交する向きに配置されている。また、垂直板22の長手方向の一端221は、水平板21のろう材12に当接している。なお、本例の水平板21の幅は25mmであり、長さは60mmである。また、垂直板22は、JIS A3003合金から構成された、幅25mm、長さ約55mm、厚さ1mmのアルミニウム板である。
垂直板22の長手方向における他端222と水平板21との間には、スペーサー23が介在している。これにより、水平板21と垂直板22との間に、垂直板22の一端221からスペーサー23側へ向かうにつれて徐々に広がる間隙Sが形成されている。なお、本例のスペーサー23は、具体的には直径1.6mmのステンレス鋼製丸線であり、垂直板22が水平板21に当接する位置(一端221)から水平方向に55mm離れた位置に配置されている。
試験材101〜129及び試験材133〜142を用いた試験体2については、水平板21及び垂直板22の脱脂処理を行った後に試験体2を組み立てる。また、試験材130〜132を用いた試験体2については、水平板21及び垂直板22に脱脂処理及び酸を用いたエッチングを順次行った後に試験体2を組み立てる。その後、試験体2のろう付を行う。なお、いずれの試験体についても、ろう付前にフラックスの塗布は行わない。
試験体のろう付は、窒素ガス炉を用いて行う。炉内の雰囲気は10体積ppm以下の酸素濃度を有する窒素ガス雰囲気とする。また、ろう付加熱は、温度が600℃となるまで試験体の温度を上昇させた後、600℃の温度を3分間保持することにより行う。ろう付加熱が完了した後、ある程度温度が低下するまで試験体を炉内で徐冷し、その後、炉外に試験体を取り出す。
間隙充填試験においては、ろう付後に形成されるフィレット120の長さL及び形状(図2参照)に基づいてろう付性を評価することができる。表2及び表3中の「フィレットの長さ」欄には、3個の試験体2についてろう付を行った結果、隙間S内にろうが充填された長さLの平均が25mm以上である場合には記号「A+」、15mm以上25mm未満の場合には記号「A」、15mm未満の場合には記号「B」を記載した。また、同表中の「フィレットの形状」欄には、フィレットの幅が均一であり、かつ、垂直板22の両側に均等に形成される場合には記号「A」、フィレットの幅が不均一、または、垂直板22の片側のみに形成される場合には記号「B」を記載した。
ろう付性の評価においては、フィレットの長さが「A+」または「A」であり、かつ、フィレットの形状が「A」である場合を、優れたろう付性を有するため合格と判定する。また、フィレットの長さが「B」であるか、または、フィレットの形状が「B」である場合を、ろう付性に劣っているため不合格と判定する。
Figure 2020056060
Figure 2020056060
表2及び表3に示したように、試験材101〜136は、心材11及びろう材12の化学成分が前記特定の範囲内であり、かつ、ろう材12の内部に、心材11との境界面122(図1参照)から最表面121へ近づくほどMg濃度が連続的に低くなるMg分布が形成されている。そして、最表面121からの深さがろう材12の厚みtfの1/8となる位置におけるMg濃度c1/8が0.150質量%以下であり、かつ、最表面121からの深さがろう材12の厚みtfの7/8となる位置におけるMg濃度c7/8が心材11中のMg量の5〜90%である。そのため、これらの試験材によれば、フラックスを使用しないろう付におけるろう付性を向上させることができる。
これらの試験材の中でも、試験材130〜132は、酸を用いたエッチングが施されている。そのため、試験材130〜132は、エッチングを行わなかった他は同一の構成を有する試験材122〜124よりもろう付性を向上させることができる。
試験材137は、ろう材中のSiの含有量が前記特定の範囲よりも少ないため、ろう付時に生じるろうが不足しやすい。そのため、試験材137を用いる場合、試験材101〜136に比べてろう付不良が発生しやすい。
試験材138は、ろう材中のSiの含有量が前記特定の範囲よりも多いため、ろう付時に、心材が溶融ろうによって侵食されやすい。そのため、試験材138を用いる場合、心材が溶融し、ろう付を行うことができなくなるおそれがある。
試験材139は、心材中にMgが含まれていないため、心材からろう材へのMgの拡散が起こらない。そのため、試験材139は、フラックスを用いずにろう付を行うことができない。
試験材140は、心材中のMgの含有量が前記特定の範囲よりも多いため、心材からろう材へ拡散するMgの量が過度に多くなりやすい。そのため、試験材140は、ろう付中に心材の結晶粒が微細化し、エロージョンの発生を招くおそれがある。
試験材141は、前記式(1)におけるDの値が前記特定の範囲よりも小さいため、心材からろう材へのMgの拡散量が不足しやすい。そのため、試験材141を用いる場合、試験材101〜136に比べてろう付不良が発生しやすい。
試験材142は、前記式(1)におけるDの値が前記特定の範囲よりも多いため、ろう材の表面に到達するMgの量が過度に多くなりやすい。そのため、試験材142を用いる場合、ろう付中に試験材の最表面にMgOのち密な皮膜が形成され、ろう付性の悪化を招くおそれがある。
(実施例2)
本例は、厚みが1.0mmであるブレージングシートの例である。表4に示す本例の試験材201〜204は、厚みを1.0mmに変更した以外は、実施例1における試験材101〜142と同様の方法により作製することができる。
試験材201〜203を用いた試験体2については、水平板21及び垂直板22の脱脂処理を行った後に試験体2を組み立てる。また、試験材204を用いた試験体2については、水平板21及び垂直板22に脱脂処理及び酸を用いたエッチングを順次行った後に試験体2を組み立てる。その後、実施例1と同様の条件で試験体2のろう付を行う。なお、いずれの試験体2についても、ろう付前にフラックスの塗布は行わない。試験材201〜204について、実施例1と同様の方法によりMg分布及びろう付性の評価を行った結果を表4に示す。
なお、表4中の「フィレットの長さ」欄には、3個の試験体2についてろう付を行った結果、隙間S内にろうが充填された長さの平均が30mm以上である場合には記号「A+」、20mm以上30mm未満の場合には記号「A」を、20mm未満の場合には記号「B」を記載した。また、同表中の「フィレットの形状」欄には、フィレットの幅が均一であり、かつ、垂直板22の両側に均等に形成される場合には記号「A」、フィレットの幅が不均一、または、垂直板22の片側のみに形成される場合には記号「B」を記載した。
ろう付性の評価においては、フィレットの長さが「A+」または「A」であり、かつ、フィレットの形状が「A」である場合を、優れたろう付性を有するため合格と判定する。また、フィレットの長さが「B」であるか、または、フィレットの形状が「B」である場合を、ろう付性に劣っているため不合格と判定する。
Figure 2020056060
表4に示した通り、試験材201〜204は、心材及びろう材の化学成分が前記特定の範囲内であり、かつ、ろう材内部に前記特定のMg分布が形成されている。そのため、これらの試験材によれば、フラックスフリーろう付におけるろう付性を向上させることができる。また、心材及びろう材の化学成分が同一である試験材201と試験材204との比較から、酸を用いたエッチングを行うことにより、フィレットの長さがより長くなり、ろう付性がさらに向上することが理解できる。
(実施例3)
本例は、心材の両面にろう材が積層された3層構造のブレージングシートの例である。表5に示す本例の試験材301〜306は、心材用塊の両面にろう材用塊を重ね合わせた後、実施例1と同様の方法により熱間圧延、冷間圧延及び加熱を順次行うことにより作製することができる。なお、本例の試験材301〜306の厚みは0.050mmである。
本例においては、コルゲートフィン型熱交換器のコアを模擬したミニコア試験体3を用いてろう付性の評価を行う。図3に示すように、ミニコア試験体3は、試験材からなるコルゲートフィン31と、コルゲートフィン31を狭持する2枚の平板32と、を有している。本例のコルゲートフィン31の長さは50mmであり、高さは10mmであり、隣り合う頂部311間のピッチは3mmである。また、本例の平板32はJIS A3003合金から構成された、長さ60mm、幅16mm、厚み0.50mmのアルミニウム板である。
試験材301〜304及び試験材306を用いたミニコア試験体3については、コルゲートフィン31及び平板32に脱脂処理を施した後にミニコア試験体3を組み立てる。試験材305を用いたミニコア試験体3については、コルゲートフィン31及び平板32に脱脂処理を施し、次いでコルゲートフィン31に酸を用いたエッチングを行う。その後、これらのコルゲートフィン31及び平板32を用いてミニコア試験体3を組み立てる。ミニコア試験体3を組み立てた後、実施例1と同様の条件によりミニコア試験体3のろう付を行う。なお、いずれのミニコア試験体3についても、ろう付前にフラックスの塗布は行わない。
ミニコア試験体3のろう付性の評価方法は、以下の通りである。まず、ろう付後のミニコア試験体3からコルゲートフィン31を切除する。そして、各平板32上に存在するフィレットの痕跡について平板32の幅方向における長さを測定し、これらの合計を算出する。これとは別に、平板32とコルゲートフィン31とが完全に接合されたと仮定した場合のフィレットの板幅方向における長さの合計を算出する。そして、後者の値に対する前者の値の比率を各試験体3におけるコルゲートフィン31の接合率(%)とする。なお、後者の値は、例えば、コルゲートフィン31の幅と、コルゲートフィン31の頂部311の数とを掛け合わせることにより算出できる。
表5中の「ろう付性」欄には、3個のミニコア試験体3についてろう付を行った結果、接合率の平均が80%以上である場合には記号「A」、80%未満の場合には記号「B」を記載した。本例のろう付性の評価においては、接合率の平均が80%以上の場合を、優れたろう付性を有するため合格と判定する。また、接合率の平均が80%未満の場合を、ろう付性に劣っているため不合格と判定する。
Figure 2020056060
表5に示した通り、試験材301〜305は、心材及びろう材の化学成分が前記特定の範囲内であり、かつ、ろう材内部に前記特定のMg分布が形成されている。そのため、これらの試験材によれば、フラックスフリーろう付におけるろう付性を向上させることができる。これらの試験材の中でも、試験材305は、酸を用いたエッチングが施されている。そのため、試験材305は、エッチングを行わなかった他は同一の構成を有する試験材302よりもろう付性を向上させることができる。
一方、試験材306は、前記式(1)におけるDの値が前記特定の範囲よりも小さいため、心材からろう材へのMgの拡散量が不足しやすい。そのため、試験材306を用いる場合、試験材301〜305に比べてろう付不良が発生しやすい。
以上に説明した実施例1〜実施例3の結果から、心材及びろう材の化学成分を前記特定の範囲内とし、かつ、ろう材内部に前記特定のMg分布を形成することにより、フラックスを用いずに行うろう付におけるろう付性に優れたブレージングシートを得られることが理解できる。
1 ブレージングシート
11 心材
12 ろう材

Claims (12)

  1. フラックスを使用せずに行うろう付に適用可能なアルミニウム合金ブレージングシートであって、
    0.10質量%以上3.0質量%以下のMgを含むアルミニウム合金からなる心材と、
    Mgと、6.0質量%以上13.0質量%以下のSiと、0質量%以上0.050質量%以下のBiとを含むアルミニウム合金からなり、前記心材の少なくとも片面上に積層されるとともに最表面に露出したろう材と、を有し、
    前記ろう材は、
    前記心材との境界面から前記最表面へ近づくほどMg濃度が連続的に低くなるMg分布を有しており、
    前記最表面からの深さが前記ろう材の厚みの1/8となる位置におけるMg濃度が0.150質量%以下であり、かつ、
    前記最表面からの深さが前記ろう材の厚みの7/8となる位置におけるMg濃度が前記心材中のMg量の5〜90%である、アルミニウム合金ブレージングシート。
  2. 前記ろう材中には、更に、Sr:0.10質量%以下、Sb:0.10質量%以下、Na:0.30質量%以下のうち1種または2種以上が含まれている、請求項1に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  3. 前記ろう材中には、更に、Zn:5.0質量%以下が含まれている、請求項1または2に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  4. 前記心材中には、更に、Fe:1.0質量%以下、Mn:1.80質量%以下、Si:1.0質量%以下、Cu:1.0質量%以下、Zn:3.0質量%以下、Ti:0.20質量%以下、Zr:0.50質量%以下のうち1種または2種以上が含まれている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  5. 前記ろう材は、前記心材の両面上に積層されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  6. 前記アルミニウム合金ブレージングシートは、前記心材と、前記心材の一方の面上に積層された前記ろう材と、純アルミニウムまたはZn:8.0質量%以下を含有するアルミニウム合金からなり、前記心材の他方の面上に積層された犠牲陽極材と、を有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  7. 前記犠牲陽極材は、更に、Mn:2.0質量%以下、Mg:3.0%質量以下、Si:1.5質量%以下、Fe:1.0質量%以下、Cu:1.0%質量以下、Ti:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、Cr0.3質量%以下のうち1種または2種以上を含むアルミニウム合金から構成されている、請求項6に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  8. 前記犠牲陽極材は、更に、In:0.0050〜0.100質量%、Sn:0.0050〜0.100質量%のうち1種または2種以上を含むアルミニウム合金から構成されている、請求項6または7に記載のアルミニウム合金ブレージングシート。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法であって、
    前記心材の化学成分を備えた心材用塊と、6.0質量%以上13.0質量%以下のSiと0質量%以上0.050質量%以下のBiとを含むアルミニウム合金からなり、前記心材用塊に重ね合わされたろう材用塊とを有するクラッド塊を作製し、
    前記クラッド塊に熱間圧延を行うことにより、前記クラッド塊を構成する各層を接合してクラッド材を作製し、
    前記クラッド材に1パス以上の冷間圧延を行うとともに、前記冷間圧延のパス間及び最終パスの後のうち少なくとも一方において前記クラッド材を1回以上加熱してMgを拡散させることにより、前記ろう材中に前記Mg分布を形成する、アルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
  10. 前記心材から前記ろう材へMgを拡散させる際に、下記式(1)で表されるDの値が3.0×10-15〜3.0×10-9となる条件で前記クラッド材を加熱する、請求項9に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
    Figure 2020056060
    (但し、前記式(1)におけるnは前記クラッド材の厚みが前記ブレージングシートの厚みの100〜200%の範囲にある間の加熱回数であり、Thkはk回目の加熱における前記クラッド材のろう材の厚み(m)であり、Rは気体定数(J/mol・K)であり、tk0はk回目の加熱において前記クラッド材の温度が50℃を超えた時点の時刻であり、tk1はk回目の加熱において前記クラッド材の温度が50℃を下回った時点の時刻であり、T(t)は時刻tにおける前記クラッド材の温度(K)である。)
  11. 前記熱間圧延を行った後、前記ブレージングシートを用いてろう付を行うまでの間に、酸を用いて前記クラッド材の表面をエッチングする、請求項9または10に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
  12. 前記エッチングにおけるエッチング量は0.05〜2g/m2である、請求項11に記載のアルミニウム合金ブレージングシートの製造方法。
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