JP2020051507A - 風力発電機用ヨー軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】風力発電機のナセルを回動支持するヨー軸受において、長期間(例えば30年以上)にわたり、優れた耐摩耗性および機械強度を維持可能なヨー軸受を提供する。【解決手段】ヨー軸受9は、風力発電機のナセルを回動支持する、円環平板状のヨー軸受であり、少なくとも軸方向一方のスラスト面が複数の摺動プレート11aからなり、摺動プレート11aは、金属基材と、該金属基材の表面に直接または金属多孔質層を介して形成された摺動層とから構成され、該摺動層は、表面にフッ素樹脂を含むフッ素樹脂層を有し、フッ素樹脂層は、少なくとも表面近傍が架橋された架橋フッ素樹脂層であり、最表面から5μmの深さまでの平均架橋率が9〜25%である。【選択図】図3
Description
本発明は風力発電機用のナセルを回動支持するヨー軸受に関する。
従来、風力発電機のナセルを回動支持するヨー軸受には転がり軸受が使用されている(特許文献1参照)。また、風車が風向きの変化に敏感に反応してナセルが不安定な動作を取らないように、ナセルを風向きに対して安定的に保持するためにヨー軸受には制動ブレーキが設けられている。
従来のヨー軸受である転がり軸受は回転抵抗が小さいために強力な制動力が必要であり、そのために、制動ブレーキを大型にしたり、多数設置したり、油圧ブレーキを採用したりと、装置の大型化や複雑化、高重量化、高価格化などの問題があった。また、グリース補充のメンテナンスが必要であり、グリースによる汚れもあった。
このような問題に対して、転がり軸受を低摩擦材料からなる複数の摺動プレートで形成して、摺動プレートの摩擦力を利用して制動ブレーキを簡略化した風力発電機が知られている(特許文献2参照)。低摩擦材料からなる摺動プレートはスラスト軸受とラジアル軸受を形成している。
このような問題に対して、転がり軸受を低摩擦材料からなる複数の摺動プレートで形成して、摺動プレートの摩擦力を利用して制動ブレーキを簡略化した風力発電機が知られている(特許文献2参照)。低摩擦材料からなる摺動プレートはスラスト軸受とラジアル軸受を形成している。
特許文献2の摺動プレートに用いられる低摩擦材料として、具体的にはPET(ポリエチレンテレフタレート)が例示されている。しかし、PETは長期間の使用によって加水分解により摩擦特性や機械強度が低下するおそれがあり、摺動プレートの交換が必要になると考えられる。また、風力発電機は、風向きおよび風力が安定的な地理として海岸周辺に設置されることが多く、海岸特有の潮風にさらされ続けるため耐候性が高い必要がある。また、ナセル内に配置されるヨー軸受は、夏の炎天下において60℃にまで達することがあり、熱変化に対しての摩擦特性に変動がないことが必要である。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、風力発電機のナセルを回動支持するヨー軸受において、長期間(例えば30年以上)にわたり、優れた耐摩耗性および機械強度を維持可能なヨー軸受の提供を目的とする。
本発明のヨー軸受は、風力発電機のナセルを回動支持する、円環平板状のヨー軸受であって、上記ヨー軸受は、少なくとも軸方向一方のスラスト面が複数の摺動プレートからなり、上記摺動プレートは、金属基材と、該金属基材の表面に直接または金属多孔質層を介して形成された摺動層とから構成され、該摺動層は、表面にフッ素樹脂を含むフッ素樹脂層を有し、上記フッ素樹脂層は、少なくとも表面近傍が架橋された架橋フッ素樹脂層であり、最表面から5μmの深さまでの平均架橋率が9〜25%であることを特徴とする。
上記摺動層は、上記金属基材の表面または上記金属多孔質層の表面に形成される耐熱性樹脂および第一のフッ素樹脂を含む下地層と、この下地層表面に形成される第二のフッ素樹脂を含む第二のフッ素樹脂層とからなり、上記耐熱性樹脂は、炭素原子と共に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子の少なくとも1つの原子を高分子構造の少なくとも主鎖に含む樹脂であり、上記第二のフッ素樹脂層が上記架橋フッ素樹脂層であることを特徴とする。
上記架橋フッ素樹脂層の層厚さが5〜20μmであることを特徴とする。
上記架橋フッ素樹脂層に含まれるフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂であることを特徴とする。上記金属多孔質膜は、銅合金の焼結層または溶射層であることを特徴とする。
本発明のヨー軸受は少なくとも軸方向一方のスラスト面が複数の摺動プレートからなり、この摺動プレートは、金属基材と摺動層とから構成され、該摺動層は、その表面に、少なくとも表面近傍が架橋された架橋フッ素樹脂層を有するので、海岸周辺に設置された場合であっても、樹脂の加水分解や、潮風による腐食を防ぐことができ、優れた摩擦特性や機械強度を長期的に安定して維持できる。特に、架橋フッ素樹脂層は最表面から5μmの深さまでの平均架橋率が9〜25%であるので、過度な架橋による被膜の剥離などを抑制しつつ、架橋による耐摩耗効果を発揮させることができる。その結果、長期間(例えば、30年以上)のメンテナンスフリー化が可能である。
本発明のヨー軸受が用いられる風力発電機を図1および図2に基づいて説明する。図1は風力発電機の全体図であり、図2は図1の風力発電機の断面模式図である。図1および図2に示すように、風力発電機1は、風車となるブレード2が取付けられた主軸3を、ナセル4内に設置された軸受5により回転自在に支持し、さらにナセル4内に増速機6および発電機7を設置したものである。増速機6は、主軸3の回転を増速して発電機7の入力軸に伝達するものである。ナセル4は、支持台8上にヨー軸受9を介して水平旋回自在に設置され、旋回用のモータ(図示省略)の駆動により、減速機(図示省略)を介して旋回させられる。ナセル4の旋回は、風向きにブレード2の方向を対向させるために行われる。
図3および図4には、本発明のヨー軸受の一例を示す。ヨー軸受9は円環平板状(中空円盤状)であり、金属製の取り付け台10と、この取り付け台10に固定されたスラスト軸受部11およびラジアル軸受部12とを備える。スラスト軸受部11は円環平板状であり、ヨー軸受9の軸方向一方のスラスト面を構成する。スラスト軸受11は、ナセルの下面に当接してスラスト荷重を支持する。また、ラジアル軸受部12は円筒形状であり、ヨー軸受9の内周面を構成する。ラジアル軸受部12は、ナセルに負荷されるラジアル荷重を支持する。
スラスト軸受部11は、円周方向に4〜16個(図3では12個)に分割された複数の円弧状の摺動プレート11aが合体した構造である。また、ラジアル軸受部12は、円周方向に4〜16個(図3では12個)に分割された複数の円弧状の摺動プレート12aが合体した構造である。これら摺動プレート11a、12aは、取り付け台10に接着固定またはボルトなどの締結手段で固定されて、各軸受部11、12を構成する。
図5には、摺動プレート11aの断面図を示す。摺動プレート11aは、金属基材13と、金属基材13の表面に直接形成された下地層14と、この下地層14の表面に形成された架橋フッ素樹脂層15とで構成される。図5の形態では、摺動層16は下地層14と架橋フッ素樹脂層15とからなる。架橋フッ素樹脂層15に含まれるフッ素樹脂は、少なくとも表面近傍が架橋されている。この場合、架橋フッ素樹脂層は、表面より下地層との境界面に向かってフッ素樹脂の架橋率が低くなる傾斜層とすることができる。なお、図5では摺動プレート11aについて例示したが、摺動プレート12aも同様の構成である。
図5に示す金属基材13は、下地層側の表面が粗面化処理により粗くなっている。粗面化処理としては、ショットブラスト法などの機械的粗面化法、グロー放電やブラズマ放電処理などの電気的粗面化法、アルカリ処理などの化学的粗面化法などが採用できる。また、金属基材13上に金属多孔質層を介して、摺動層を形成する構成としてもよい。金属多孔質層は、例えば金属粉末を固化させる焼結法や、溶射法などによって形成される。用いる金属粉末には、鉄系、銅系、ニッケル系、モリブデン系、アルミニウム系およびこれらを複合したものを用いることができる。特に銅合金粉末の焼結層、溶射層が加工性および密着性に優れるため好ましい。金属多孔質層や粗面化した金属基材表面は、アンカー効果により摺動層を金属基材に強固に密着させる役割を果たす。
下地層14は、耐熱性樹脂および第一のフッ素樹脂を含む混合物層であり、金属基材13と架橋フッ素樹脂層15との密着性を向上させる。なお、下地層14に含まれる第一のフッ素樹脂の架橋については特に限定されない。例えば、境界面の近傍に存在する第一のフッ素樹脂のみが架橋された構造でもよい。
耐熱性樹脂は、下地層および上層膜の焼成時において熱分解しない樹脂である。ここで熱分解しないとは、下地層および上層膜を焼成する温度および時間内において、熱分解を開始しない樹脂である。また耐熱性樹脂は、鉄系金属材との密着性に優れた官能基および第一のフッ素樹脂とも反応する官能基を分子主鎖内または分子端部に有する樹脂であることが好ましい。
耐熱性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミドイミド樹脂、イミド樹脂、エーテルイミド樹脂、イミダゾール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。また、フッ素樹脂が塗膜形成時の収縮を防ぐウレタン樹脂、アクリル樹脂を併用することができる。
耐熱性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミドイミド樹脂、イミド樹脂、エーテルイミド樹脂、イミダゾール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。また、フッ素樹脂が塗膜形成時の収縮を防ぐウレタン樹脂、アクリル樹脂を併用することができる。
第一のフッ素樹脂は、下地層を形成する水系塗布液に粒子状に分散できる樹脂であれば使用できる。第一のフッ素樹脂としては、PTFE粒子、テトラフルオロエチレン−パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAという)粒子、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、FEPという)粒子、またはこれらの2種以上が好ましく使用できる。
下地層を形成する水系塗布液には、耐熱性樹脂および第一のフッ素樹脂以外に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどの非イオン界面活性剤、カーボンブラックなどの無機顔料、N−メチル−2−ピロリドンなどの水に任意に混合する非プロトン系極性溶剤、主溶剤としての水が配合される。また、消泡剤、乾燥剤、増粘剤、レベリング剤、ハジキ防止剤などを配合できる。下地層を形成する水系塗布液としては、例えば、ダイキン工業株式会社製プライマー塗料EKシリーズ、EDシリーズが挙げられる。
架橋フッ素樹脂層は、下地層の表面に形成され、放射線によりフッ素樹脂の分子鎖同士が架橋反応を起こし、架橋されたフッ素樹脂の層である。第一のフッ素樹脂と第二のフッ素樹脂とは同一であっても異なっていてもよいが、同一のフッ素樹脂を使用することが好ましい。第二のフッ素樹脂としては、PTFE、PFA、FEP、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。これらの樹脂は単独でも混合物としても使用できる。また、これらの中で、耐熱性および摺動性に優れるPTFEが好ましい。
架橋フッ素樹脂層は、PTFE樹脂粒子を分散させた水分散液を塗布乾燥することにより得られる。PTFE樹脂粒子を分散させた水分散液としては、例えば、ダイキン工業株式会社製ポリフロン=PTFEエナメルが挙げられる。
架橋フッ素樹脂層の層厚さは2.5〜20μm、好ましくは5〜20μm、より好ましくは5〜15μmの範囲内である。2.5μm未満であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗により、下地層が露出するおそれがある。特に、層厚さを5〜20μmの範囲とすることで、初期摩耗による下地層の露出を好適に防止できる。
下地層の層厚さは2.5〜20μm、好ましくは5〜20μm、より好ましくは5〜15μmの範囲内である。2.5μm未満であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗により、金属基材が露出するおそれがある。20μmをこえると、被膜形成時のクラック発生や運転中に剥離して潤滑状態が悪化するおそれがある。層厚さを2.5〜20μmの範囲とすることで、初期摩耗による金属基材の露出を防止でき、運転中における剥離を長期間にわたって防止できる。
以上より、摺動層の層厚さは、5μm以上40μm未満、好ましくは15〜30μmである。層厚さが5μm未満であると、被膜の密着不良による剥離や初期摩耗により、金属基材が露出するおそれがある。40μm以上であると、被膜形成時のクラック発生や運転中に剥離して潤滑状態が悪化するおそれがある。摺動層の層厚さを5μm以上40μm未満の範囲とすることで、初期摩耗による金属基材の露出を防止でき、運転中における剥離を長期間にわたって防止できる。
金属基材表面への摺動層の形成方法について以下説明する。
(1)金属基材の表面処理
金属基材は、摺動層形成前にショットブラスト等を用いて、予め金属基材表面の粗さ(Ra)を1.0〜2.0μmに調整し、その後、石油ベンジン等の有機溶剤内に浸漬させ、5分〜1時間程度超音波脱脂を行なうことが好ましい。
(2)下地層を形成する水系塗布液の塗装
下地層を形成する水系塗布液を塗布前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミル架台を用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗布する。
(3)下地層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。
(1)金属基材の表面処理
金属基材は、摺動層形成前にショットブラスト等を用いて、予め金属基材表面の粗さ(Ra)を1.0〜2.0μmに調整し、その後、石油ベンジン等の有機溶剤内に浸漬させ、5分〜1時間程度超音波脱脂を行なうことが好ましい。
(2)下地層を形成する水系塗布液の塗装
下地層を形成する水系塗布液を塗布前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミル架台を用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗布する。
(3)下地層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。
(4)第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液の塗装
第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミル架台を用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗装する。
(5)第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。
なお、下地層および第二のフッ素樹脂層の塗装方法としては、スプレー法以外にディッピング法、刷毛塗り法など被膜を形成できるものであれば使用できる。被膜の表面粗さ、塗布形状をできるだけ小さくし、層厚さの均一性を考慮するとスプレー法が好ましい。
第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液前に、水分散液の分散性を向上させるために、ボールミル架台を用いて、例えば40rpmで1時間回転させ再分散する。この再分散した水系塗布液を100メッシュの金網を用いて濾過し、スプレー法を用いて塗装する。
(5)第二のフッ素樹脂層を形成する水系塗布液の乾燥
水系塗布液を塗布後乾燥する。乾燥条件としては、例えば90℃の恒温槽内で30分程度の乾燥が好ましい。
なお、下地層および第二のフッ素樹脂層の塗装方法としては、スプレー法以外にディッピング法、刷毛塗り法など被膜を形成できるものであれば使用できる。被膜の表面粗さ、塗布形状をできるだけ小さくし、層厚さの均一性を考慮するとスプレー法が好ましい。
(6)焼成
第二のフッ素樹脂層の乾燥後、加熱炉内、空気中で(融点(Tm)+30℃)〜(融点(Tm)+100℃)、5〜40分の範囲内で焼成する。第一および第二のフッ素樹脂がPTFEの場合、好ましくは380℃の加熱炉内で30分間焼成する。
第二のフッ素樹脂層の乾燥後、加熱炉内、空気中で(融点(Tm)+30℃)〜(融点(Tm)+100℃)、5〜40分の範囲内で焼成する。第一および第二のフッ素樹脂がPTFEの場合、好ましくは380℃の加熱炉内で30分間焼成する。
(7)第二のフッ素樹脂層の電子線照射
焼成後の被膜に、放射線を照射して第二のフッ素樹脂層を架橋させる。放射線としては、α線(α崩壊を行なう放射性核種から放出されるヘリウム−4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子および陽電子)、電子線(ほぼ一定の運動エネルギーを持つ電子ビーム;一般に、熱電子を真空中で加速してつくる)などの粒子線;γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移や素粒子の対消滅、対生成などによって放出・吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線を用いることができる。これらの放射線の中でも、架橋効率や操作性の観点から、電子線およびγ線が好ましく、電子線がより好ましい。特に電子線は、電子線照射装置が入手しやすいこと、照射操作が簡単であること、連続的な照射工程を採用することができることなどの利点を有している。
焼成後の被膜に、放射線を照射して第二のフッ素樹脂層を架橋させる。放射線としては、α線(α崩壊を行なう放射性核種から放出されるヘリウム−4の原子核の粒子線)、β線(原子核から放出される陰電子および陽電子)、電子線(ほぼ一定の運動エネルギーを持つ電子ビーム;一般に、熱電子を真空中で加速してつくる)などの粒子線;γ線(原子核、素粒子のエネルギー準位間の遷移や素粒子の対消滅、対生成などによって放出・吸収される波長の短い電磁波)などの電離放射線を用いることができる。これらの放射線の中でも、架橋効率や操作性の観点から、電子線およびγ線が好ましく、電子線がより好ましい。特に電子線は、電子線照射装置が入手しやすいこと、照射操作が簡単であること、連続的な照射工程を採用することができることなどの利点を有している。
架橋フッ素樹脂層は、少なくとも表面近傍が架橋されていればよい。好ましくは、架橋フッ素樹脂層の最表面から5μmの深さまでの平均架橋率が9〜25%であり、より好ましくは、平均架橋率が15〜25%である。平均架橋率を9%以上とすることで、架橋による耐摩耗効果が得られやすく、下地層の露出をより防ぐことができる。また、平均架橋率を25%以下とすることで、過度な架橋による被膜の剥離などの損傷が起こりにくくできる。また、電子線照射に要する時間も長くなりすぎず、量産性を保つことができる。架橋条件は、平均架橋率が9〜25%の範囲内となるような照射温度、照射線量、および加速電圧で放射線を照射することが好ましい。
図3では本発明のヨー軸受として、スラスト軸受部とラジアル軸受部がすべり軸受の構成を例示したが、本発明のヨー軸受はこの構成に限らず、例えば、ラジアル軸受部は転がり軸受で構成されていてもよい。
また、図5では摺動層が下地層と架橋フッ素樹脂層とからなる二層構造を例示したが、これに限定されず、例えば摺動層が架橋フッ素樹脂層のみからなる単層構造であってもよい。この場合でも、架橋フッ素樹脂層の最表面から5μmの深さまでの平均架橋率が9〜25%であることが好ましい。
(1)試験片の作成
試験片:SPCC製30mm×30mm、厚さ2mmの金属平板に摺動層を形成した。金属基材の表面粗さは、ショットブラストを用いて1.5μmRaに調整し、その後、石油ベンジンに浸漬し、5分程度超音波脱脂を行った。下地層はダイキン社製プライマー塗料(型番:EK−1909S21R)、第二のフッ素樹脂層にはダイキン社製トップ塗料(型番:EK−3700C21R)を用いて、下地層および第二のフッ素樹脂層の層厚さがそれぞれ10μmとなるよう成膜した。各塗料は上述したスプレー法により行った。乾燥時間はそれぞれ90℃の恒温槽内で30分間乾燥し、380℃の加熱炉内で30分間焼成した。
摺動層を形成した試験片を電子線照射装置の加熱プレートに置き、以下の条件で摺動層側から電子線照射を行なった。照射条件の照射線量を変更して複数の試験片を得た。
使用装置:浜松ホトニクス株式会社製 EBエンジン
照射条件:加速電圧 70kV
温度 340℃
照射時のチャンバー内雰囲気 加熱窒素(酸素濃度1000ppm以下)
試験片:SPCC製30mm×30mm、厚さ2mmの金属平板に摺動層を形成した。金属基材の表面粗さは、ショットブラストを用いて1.5μmRaに調整し、その後、石油ベンジンに浸漬し、5分程度超音波脱脂を行った。下地層はダイキン社製プライマー塗料(型番:EK−1909S21R)、第二のフッ素樹脂層にはダイキン社製トップ塗料(型番:EK−3700C21R)を用いて、下地層および第二のフッ素樹脂層の層厚さがそれぞれ10μmとなるよう成膜した。各塗料は上述したスプレー法により行った。乾燥時間はそれぞれ90℃の恒温槽内で30分間乾燥し、380℃の加熱炉内で30分間焼成した。
摺動層を形成した試験片を電子線照射装置の加熱プレートに置き、以下の条件で摺動層側から電子線照射を行なった。照射条件の照射線量を変更して複数の試験片を得た。
使用装置:浜松ホトニクス株式会社製 EBエンジン
照射条件:加速電圧 70kV
温度 340℃
照射時のチャンバー内雰囲気 加熱窒素(酸素濃度1000ppm以下)
(2)架橋率の算出
各試験片の第二のフッ素樹脂層を、最表面から5μmの深さまで削り取り、削り取った試料を測定試料とした。各測定試料のNMR測定の結果から、架橋率として、最表面(深さ0μm)から深さ5μmまでの平均架橋率を算出した。
架橋率は19F Magic angle Spinning(MAS)核磁気共鳴(NMR)法(High speed magic angle nuclear magnetic resonance)によって測定および算出した。参考文献(Beate Fuchs and Ulrich Scheler., Branching and Cross−Linking in Radiation−Modified Poly(tetrafluoroethylene):A Solid−State NMR Investigation.Macromolecules,33,120−124.2000年)によるとNMR測定の化学シフトから、以下に記す下線部のF原子を帰属することができる。
A:−70ppm : =CF−CF 3
B:−82ppm : −CF2−CF 3
C:−186ppm : ≡CF
各試験片の第二のフッ素樹脂層を、最表面から5μmの深さまで削り取り、削り取った試料を測定試料とした。各測定試料のNMR測定の結果から、架橋率として、最表面(深さ0μm)から深さ5μmまでの平均架橋率を算出した。
架橋率は19F Magic angle Spinning(MAS)核磁気共鳴(NMR)法(High speed magic angle nuclear magnetic resonance)によって測定および算出した。参考文献(Beate Fuchs and Ulrich Scheler., Branching and Cross−Linking in Radiation−Modified Poly(tetrafluoroethylene):A Solid−State NMR Investigation.Macromolecules,33,120−124.2000年)によるとNMR測定の化学シフトから、以下に記す下線部のF原子を帰属することができる。
A:−70ppm : =CF−CF 3
B:−82ppm : −CF2−CF 3
C:−186ppm : ≡CF
ここで、図6(a)に電子線を照射していない未架橋PTFEのNMRスペクトルを示し、図6(b)に1000kGy照射した架橋PTFEのNMRスペクトルを示す。図6に示すように、電子線を照射することで上記Bのシグナルの強度が増加し、上記Aおよび上記Cのシグナルが現れていることが分かる。
上記A〜Cの各シグナルの面積比をそれぞれSA、SB、SCとすると、架橋率は下記式で算出することができる。
上記A〜Cの各シグナルの面積比をそれぞれSA、SB、SCとすると、架橋率は下記式で算出することができる。
上記式は、全ての≡CFの構造の炭素原子からそれぞれ伸びる3本の分子鎖のうち、架橋構造になっていない=CF−CF3および=CF−(CF2)m−CF3の分子鎖を差し引いて、架橋鎖である=CF−(CF2)n−CF=の割合を架橋率として算出している。なお、mおよびnは任意の整数である。図6および上記式を照らし合わせると、電子線を照射することで架橋率が増加することがわかる。
(3)摩耗試験
上記(1)で得た試験片(実施例1〜3、比較例2〜3)、第二のフッ素樹脂層が架橋されていない試験片(比較例1)、およびPET被膜を形成した試験片(比較例4)における長期間の摩耗特性の維持を評価するため、カロテストを実施した。カロテストは、被膜処理した平板試験片に鋼球を押し当て、被膜を摩耗させる試験である。カロテストの試験条件を表1に示す。また、各試験片における摩耗深さを表2に示す。
上記(1)で得た試験片(実施例1〜3、比較例2〜3)、第二のフッ素樹脂層が架橋されていない試験片(比較例1)、およびPET被膜を形成した試験片(比較例4)における長期間の摩耗特性の維持を評価するため、カロテストを実施した。カロテストは、被膜処理した平板試験片に鋼球を押し当て、被膜を摩耗させる試験である。カロテストの試験条件を表1に示す。また、各試験片における摩耗深さを表2に示す。
表2より、平均架橋率9〜25%の架橋フッ素樹脂層では摩耗量が少なく耐摩耗性に優れていることが分かる(実施例1〜3)。一方、平均架橋率が9%未満の比較例2では、架橋による効果が現れず摩耗量は大きくなり、また、未架橋の比較例1では基材が露出するほどフッ素樹脂層が摩耗する結果となった。一方、平均架橋率が25%を超えると架橋により被膜が脆くなり、剥離が発生した。従来の被膜であるPET被膜の場合は該被膜の摩耗が大きい結果であった。
本発明は、風力発電機のナセルを回動支持するヨー軸受において、長期間(例えば30年以上)にわたり、優れた耐摩耗性および機械強度を維持可能であるので、長期間メンテナンスが不要なヨー軸受として広く使用できる。
1 風力発電機
2 ブレード
3 主軸
4 ナセル
5 軸受
6 増速機
7 発電機
8 支持台
9 ヨー軸受
10 取り付け台
11 スラスト軸受部
11a 摺動プレート
12 ラジアル軸受部
12a 摺動プレート
13 金属基材
14 下地層
15 架橋フッ素樹脂層
16 摺動層
2 ブレード
3 主軸
4 ナセル
5 軸受
6 増速機
7 発電機
8 支持台
9 ヨー軸受
10 取り付け台
11 スラスト軸受部
11a 摺動プレート
12 ラジアル軸受部
12a 摺動プレート
13 金属基材
14 下地層
15 架橋フッ素樹脂層
16 摺動層
Claims (5)
- 風力発電機のナセルを回動支持する、円環平板状のヨー軸受であって、
前記ヨー軸受は、少なくとも軸方向一方のスラスト面が複数の摺動プレートからなり、前記摺動プレートは、金属基材と、該金属基材の表面に直接または金属多孔質層を介して形成された摺動層とから構成され、
該摺動層は、表面にフッ素樹脂を含むフッ素樹脂層を有し、
前記フッ素樹脂層は、少なくとも表面近傍が架橋された架橋フッ素樹脂層であり、最表面から5μmの深さまでの平均架橋率が9〜25%であることを特徴とするヨー軸受。 - 前記摺動層は、前記金属基材の表面または前記金属多孔質層の表面に形成される耐熱性樹脂および第一のフッ素樹脂を含む下地層と、この下地層表面に形成される第二のフッ素樹脂を含む第二のフッ素樹脂層とからなり、
前記耐熱性樹脂は、炭素原子と共に、酸素原子、窒素原子および硫黄原子の少なくとも1つの原子を高分子構造の少なくとも主鎖に含む樹脂であり、
前記第二のフッ素樹脂層が前記架橋フッ素樹脂層であることを特徴とする請求項1記載のヨー軸受。 - 前記架橋フッ素樹脂層の層厚さが5〜20μmであることを特徴とする請求項1または請求項2記載のヨー軸受。
- 前記架橋フッ素樹脂層に含まれるフッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項記載のヨー軸受。
- 前記金属多孔質膜は、銅合金の焼結層または溶射層であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載のヨー軸受。
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---|---|---|---|
JP2018180993A JP2020051507A (ja) | 2018-09-26 | 2018-09-26 | 風力発電機用ヨー軸受 |
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2018
- 2018-09-26 JP JP2018180993A patent/JP2020051507A/ja active Pending
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