上記のような電子部品が接合された基板は、例えば、自動車に搭載されてエンジンを制御する車載用エンジンコントロールユニットを構成する。ここで、自動車は、酷寒環境下で使用されることもあれば、酷暑環境下で使用されることもある。このため、広い温度範囲での動作保証が求められる。
しかしながら、公知のPbフリーはんだ材料は、特に極低温環境下での機械特性にバラツキがあることが認められる。従って、酷寒環境下で自動車を用いる場合に車載用エンジンコントロールユニットの製品寿命にバラツキが生じる懸念がある。このように、従来技術に係るはんだ材料には、極低温環境下で使用する際の信頼性が十分ではないという不都合がある。
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、極低温時であっても安定した機械特性を示し、このために極低温環境下で使用する場合であっても十分な信頼性を得ることが可能なはんだ材料を提供することを目的とする。
前記の目的を達成するために、本発明の一実施形態によれば、Ag:0.5〜2.5重量%未満、Cu:0.3〜0.5重量%、In:5.5〜6.4重量%、Sb:0.5〜1.4重量%を含み、残部が不可避的不純物及びSnであるとともに、Biを実質的に含まないはんだ材料が提供される。なお、例えば、「0.3〜0.5重量%」は「0.3重量%以上0.5重量%以下の範囲内」であることを意味し、「0.5〜2.5重量%未満」は「0.5重量%以上2.5重量%未満の範囲内」であることを意味する。その他の数値範囲についても同様である。
本発明の別の一実施形態によれば、Ag:2.5〜3.3重量%、Cu:0.3〜0.5重量%、In:2.5〜5.5重量%未満、Sb:0.5〜1.4重量%を含み、残部が不可避的不純物及びSnであるとともに、Biを実質的に含まないはんだ材料が提供される。
本発明のまた別の一実施形態によれば、Ag:2.5〜3.3重量%、Cu:0.3〜0.5重量%、In:5.5〜6.4重量%、Sb:1.4超〜3.4重量%を含み、残部が不可避的不純物及びSnであるとともに、Biを実質的に含まないはんだ材料が提供される。ここで、「1.4超〜3.4重量%」は「1.4重量%よりも大きく3.4重量%以下」であることを表す。
以上挙げた3つの組成のいずれかとすることで、低融点のはんだ材料とすることができる。低融点であることから、接合時にはんだ材料に付与する温度を低くすることが可能である。従って、接合する物体、例えば、電子部品に熱的ダメージが加わることを低減することができる。
しかも、固溶元素の添加が少量であることから双晶変形が起こり難く、且つ過共晶物が生成することが抑制されるので、機械特性のバラツキが小さくなる。このために接合部の寿命のバラツキが小さくなり、その結果、接合品の製品寿命が安定する。このため、信頼性が向上する。以上については、後に詳述する。
上記したように、本発明に係るはんだ材料は、Biを実質的に含まない。これにより、機械特性が安定したはんだ材料となる。なお、ここでいう「実質的に含まない」とは、不可避的に混入する量に留まり、それを超える量は含まないことを表す。
本発明によれば、所定量のAg、Cu、In、SbとSnを含み、且つ実質的にBiを含まない組成ではんだ材料を構成するようにしている。このため、低融点で且つ機械特性のバラツキが小さなはんだ材料を得ることができる。従って、接合品に加わる熱ダメージを低減することができるとともに、製品寿命のバラツキを抑制して信頼度を向上させることができる。
以下、本発明に係るはんだ材料につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では、重量%を単に「%」とも表す。
第1実施形態〜第3実施形態に係るはんだ材料はいずれも、Snを主成分とし、且つ析出強化を促すAg及びCuを含有するとともに、In、Sbがさらに添加されたいわゆるPbフリーはんだ材料である。
第1実施形態に係るはんだ材料は、0.5〜2.5%未満のAg、0.3〜0.5%のCu、5.5〜6.4%のIn、0.5〜1.4%のSbを含み、残部が不可避的不純物及びSnである合金からなる。
また、第2実施形態に係るはんだ材料は、2.5〜3.3%のAg、0.3〜0.5%のCu、2.5〜5.5%未満のIn、0.5〜1.4%のSbを含み、残部が不可避的不純物及びSnである合金からなる。
さらに、第3実施形態に係るはんだ材料は、2.5〜3.3%のAg、0.3〜0.5%のCu、5.5〜6.4%のIn、1.4超〜3.4%のSbを含み、残部が不可避的不純物及びSnである合金からなる。
Agを含む組成とすることにより、析出強化が促される。ここで、Agが3.0%、3.5%であるSn−Ag−Cu−In−Sb合金の試験片に対し、−40℃の環境下で引張試験を複数回行うことによって得られた引張強度をプロットすると、Agが3.5%であるとき、3.0%のときに比して引張強度のバラツキが大きいことが分かる。
この理由は、Agが3.5%であるときにはSn−Agの共晶組成であることから、亜共晶物、共晶物、過共晶物が混在した組織となっているためであると推察される。このため、Agは共晶組成とならないように3.3%以下に設定される。これにより組織中に亜共晶物、共晶物、過共晶物が混在することが回避され、引張強度のバラツキを抑制することができるからである。このような理由から、Agは、第1実施形態においては0.5〜2.5%未満、第2実施形態及び第3実施形態においては2.5〜3.3%に設定される。
0.3%以上のCuも同様に、析出強化が促される。その一方で、Sn−Cuの共晶組成、すなわち、Cuが概ね0.7%である場合、亜共晶、共晶、過共晶が混在した組織となり、引張強度にバラツキが生じるようになる。これを回避するべく、Cuは0.5%以下に設定される。
また、Inを添加することにより、固溶強化が促進されるとともにはんだ材料の融点が低くなる。すなわち、このはんだ材料は、Sn、Ag及びCuのみを含有するPbフリーはんだ材料に比して低融点である。このため、電子部品を基板に接合する際等に低温で融解する。
その一方で、Snに過剰のInを添加するとSnの変態点が低くなる。例えば、125℃以上ではγ相(InSn4)に変態する。このような副生相は、はんだ材料の機械特性にバラツキが生じる一因となる。そこで、これを回避するべく、Inは最大でも6.4%に設定される。この場合、はんだ材料に双晶変形が起こることがないからである。すなわち、Inは、第1実施形態及び第3実施形態では5.5〜6.4%、第2実施形態では2.5〜5.5%未満に設定される。
さらに、0.5%以上のSbを添加することにより、固溶強化が促進される。また、Inとともに液相中にInSn4とβ−Snが生成し、これにより結晶粒が微細となるために多方位化する。すなわち、はんだ材料は、異方性をほとんど示さない。換言すれば、等方性に近似することができる。
Snに対するSbの割合を1.0%〜3.0%の範囲内とした合金からなる試験片を用い、−40℃の環境下で引張試験を行ったときの応力−歪み曲線を求めると、Sbの割合が大きくなるにつれて引張強度が大きくなるものの、引張強度のバラツキが大きくなる結果が得られる。さらに3.4%超としたとき、応力−歪み曲線に、応力が急激に低下・上昇する箇所、すなわち、乱れが出現することが認められる。この理由は、固溶元素が多量であるためにすべり変形ができず、その結果として双晶変形が起こり易くなるためであると推察される。これを回避するべく、Sbは、双晶変形が起こり難い3.4%以下に設定される。すなわち、Sbは、第1実施形態及び第2実施形態では0.5〜1.4%、第3実施形態では1.4超〜3.4%に設定される。
また、Snに対するBiの割合を1.0%、2.0%、3.0%とした合金からなる試験片を用い、−40℃の環境下で引張試験を行ったときの応力−歪み曲線を求めると、1.0%であっても引張強度のバラツキが大きくなるとともに、2.0%であっても応力−歪み曲線に乱れが出現することが認められる。この理由は、Biを添加した場合、Snに比して双晶変形が顕著に起こり易くなるためであると考えられる。このため、第1実施形態〜第3実施形態のいずれにおいても、Biの実質的な添加量を0とする。
第1実施形態〜第3実施形態のような組成とすることにより、融点が低く引張強度のバラツキが抑制されたはんだ材料が得られる。従って、先ず、リフローでの低温溶融及び接合が可能となるので、例えば、電子部品を基板に接合する際、電子部品が受ける熱的ダメージを低減することができる。
また、引張強度のバラツキが小さいので、該はんだ材料を用いて接合された接合部の寿命が、バラツキの少ない安定したものとなる。従って、信頼性が向上する。しかも、接合品(例えば、車載用エンジンコントロールユニット等)の製品寿命のバラツキが抑制されるので、該接合品の設計自由度が向上し、高密度化や小型化を図ることができる。
図1にNo.1〜No.14として示すように、Sn、Ag、Cu、In、Sbの組成比、すなわち、重量割合を種々変更することで、はんだ材料(合金)からなる14種の試験片をそれぞれ複数個作製した。No.10及びNo.11が第1実施形態、No.7及びNo.8が第2実施形態、No.12及びNo.14が第3実施形態に対応する。その他は、Ag、Cu、In、Sbのいずれかの組成比が第1実施形態〜第3実施形態の各はんだ材料と相違する比較例である。
No.1〜No.14の各試験片につき、−40℃の環境下で引張試験を複数回行った。No.7、No.8、No.10、No.11、No.12及びNo.14の応力−歪み曲線を、各回で線種を相違させて図2A〜図3Cに示す。これら図2A〜図3Cから、実施例の試験片では、応力−歪み曲線に乱れがないことが分かる。
また、引張試験の結果から、各試験片につき、引張強度及びそのバラツキの平均を求めた。結果を、図1に併せて示すとともに図4にグラフとして示す。図4中のプロットに付した各数字が、試験片の番号に対応する。図1及び図4から、No.7、No.8、No.10、No.11、No.12及びNo.14が、引張強度が比較的大きく、且つ応力が略一致して引張強度のバラツキが小さいことが分かる。
これに対し、図4に示すように、比較例では、試験毎に応力が異なるために引張強度のバラツキが大きかった。すなわち、第1実施形態〜第3実施形態に基づく組成にすることにより、−40℃という極低温において引張強度(機械特性)が安定したはんだ材料が得られる。
−40℃での引張強度が38MPaを下回ったNo.2(比較例)と、No.7(第2実施形態)について結晶方位解析を行い、シュミット因子を算出した。その結果、シュミット因子は、引張強度のバラツキが大きいNo.2が、バラツキが小さいNo.7に比して小さかった。このことから、バラツキの主要因は、結晶方位に異方性があるためであると推察される。
しかも、No.7、No.8、No.10、No.11、No.12及びNo.14では、融点がいずれも210℃を下回る。このことは、実施例のはんだ材料が比較的低温で容易に溶融することを意味する。
さらに、比較例の各試験片について組織の顕微鏡観察を行うと、双晶変形が起こっていることが確認された。このことから、比較例における引張強度のバラツキが大きい理由は、双晶変形が起こっているためであると推察される。
これに対し、実施例では、上記したように−40℃の環境下でも安定した引張強度を示し、さらに、顕微鏡観察を行っても双晶変形は認められなかった。このことから、組成を上記の範囲内とし、且つBiを実質的に0とすることによって、引張強度のバラツキが小さなはんだ材料が得られることが明らかである。