本発明者等が検討したところ、従来の水蒸気分離膜、例えば、特許文献1に記載の加湿用膜、及び特許文献2に記載の多孔質高分子除湿膜等は、実際に水蒸気分離膜として使用した場合、水透過性能に対して水蒸気透過性能が低い場合があった。すなわち、従来の水蒸気分離膜は、内周面で吸着された水蒸気を外周面から放出する効率(パージ効率)が低い場合があった。
具体的には、特許文献1において、加湿用膜の透水性能やエアリークの有無等は評価しているものの、水蒸気透過性能は特に評価していない。また、特許文献2に記載の多孔質高分子除湿膜は、水透過率が高く、窒素ガス透過率が低いことが開示されている。よって、特許文献2に記載の多孔質高分子除湿膜は、水透過性が高く、ガスバリア性が高いと考えられるものの、特許文献2において水蒸気透過性能は特に評価していない。これらのことから、特許文献1及び特許文献2では、水透過性能及びガスバリア性で、水蒸気分離膜の性能が評価されていると考えられる。特許文献1に記載の加湿用膜、及び特許文献2に記載の多孔質高分子除湿膜等は、ガスバリア性が高く、水透過性能が高かったとしても、上述したように、水透過性能に対して水蒸気透過性能が低い場合があった。
そこで、水蒸気分離膜に水蒸気を透過させる際、上述したように、内周面側で吸着された水分を、膜内を移動させ、外周面側で放出すると考えられるが、これらの過程の中で、外周面側で放出する過程が律速であると、本発明者等は推察した。従来の水蒸気分離膜では、この膜内の水分を外周面側で放出させる速度を高める構造になっていないと考え、この速度を高める構造になるような、水蒸気分離膜の膜構造を検討した。その結果、ガスバリア性及び水透過性能が高く、パージ効率の高い水蒸気分離膜を提供するといった上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
本発明の実施形態に係る水蒸気分離膜は、親水性樹脂を含む多孔性中空糸状の水蒸気分離膜である。すなわち、前記水蒸気分離膜は、親水性樹脂を含む膜であって、多孔性の中空糸膜である。前記水蒸気分離膜は、その膜に存在する孔の位置と、それぞれの位置における孔の大きさとの関係は、以下のような関係である。
まず、図1〜図4に示すように、前記水蒸気分離膜10は、内周面11における孔の平均径が、外周面12における孔の平均径より小さい。前記水蒸気分離膜10は、前記外周面12における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域13と、前記第1領域13より内周面11側であって、前記内周面11における孔の平均径より大きく、かつ、前記第1領域13における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域14とを有する。すなわち、前記水蒸気分離膜10は、前記外周面12から前記内周面11にむかって順に、前記第1領域13と、前記第2領域14とを有する。前記水蒸気分離膜10における、前記外周面12、前記第1領域13、前記第2領域14、及び前記内周面11の各構造、及び孔の平均径の関係は、前記水蒸気分離膜10の長手方向に対して垂直な面である断面を電子顕微鏡で観察することで確認することができる。
なお、図1は、本実施形態に係る水蒸気分離膜10の断面(水蒸気分離膜の長手方向に対して垂直な面)の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図2は、本実施形態に係る水蒸気分離膜10の断面における外周面12付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図3は、本実施形態に係る水蒸気分離膜10の外周面12の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図4は、本実施形態に係る水蒸気分離膜10における、膜内の位置とその位置での孔の平均径との関係を示す図である。図4において、x軸は、膜内における位置、すなわち、前記水蒸気分離膜10の、外周面12から内周面11に向かう、外周面12からの距離を示す。また、図4において、y軸は、それぞれの膜内における位置に形成されている孔の平均径を示す。
なお、図1〜4に示す結果は、下記実施例2に基づくものである。
前記水蒸気分離膜10は、図4に示すように、前記水蒸気分離膜10の外周面12からの距離をx軸とし、前記水蒸気分離膜10内の孔の平均径をy軸とした関数が、極小値と極大値とを有する。前記極小値となる位置が、前記第1領域13に相当し、前記極大値となる位置が、前記第2領域14に相当する。すなわち、前記水蒸気分離膜10は、前記水蒸気分離膜10内の気孔の平均径が、外周面12側から内周面11側にむかって、漸次的に小さくなった後、漸次的に大きくなり、その後、漸次的に小さくなる構造を有する。
前記水蒸気分離膜10は、上記のことから、前記外周面12から前記内周面11にむかって順に、前記外周面12を含む前記外周面12付近の層(第1粗大層)と、前記第1領域付近の層(第1緻密層)と、前記第2領域付近の層(第2粗大層)と、前記内周面11を含む前記内周面11付近の層(第2緻密層:分離層)とを有する。
前記第1粗大層は、上述したように、前記外周面12を含む前記外周面12付近の層である。前記外周面12は、前記内周面11で吸着され、前記第2領域14及び前記第1領域13を通過してきた水分を、外部に放出する。このため、前記外周面12は、この水分を外部に放出する際に、前記駆動力、例えば、外部からの減圧や乾燥エアの影響を最も受ける面である。よって、前記外周面12を含む前記第1粗大層は、水分を放出しやすい性質を有していることが好ましい。
前記外周面12における孔の平均径は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。また、前記第1粗大層は、形成されている孔が外周面12に近付くと、大きくなる傾向がある。このため、前記第1粗大層は、形成されている孔の、膜厚方向毎の平均径のうちの最大値は、前記外周面12における孔の平均径である。このことから、前記第1粗大層における前記最大値は、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましく、0.5〜10μmであることがさらに好ましい。前記第1粗大層に形成されている孔が小さすぎると、膜内の水分を外部に放出しにくくなる傾向がある。このことは、前記駆動力が、厚み方向に充分に伝わらないことによると考えられる。よって、パージ効率が低下することになると考えられる。また、前記第1粗大層に形成されている孔が大きすぎると、前記水蒸気分離膜を好適に製造することができない傾向がある。
なお、外周面12における孔の平均径は、例えば、以下のように測定することができる。水蒸気分離膜の外周面を、細孔の大きさがわかりやすい倍率(例えば、倍率5000倍等が挙げられ、細孔の大きさによっては、倍率2000倍であってもよいし、倍率1000倍であってもよい)で走査型電子顕微鏡にて撮影した画像(例えば、図3)を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、細孔面積の分布を得る。得られた面積から、細孔を真円とみなした場合の直径を算出し、細孔分布を正規分布にフィッティングしたときに最頻値を、水蒸気分離膜の外周面における孔の平均径(前記第1粗大層における前記最大値)として定義する。
前記外周面12は、赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度が、前記内周面11の、前記吸収強度より弱いことが好ましい。すなわち、前記水蒸気分離膜10において、前記内周面11の、赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度が、前記外周面12の、前記吸収強度より強いことが好ましい。また、前記内周面11の、赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度が、前記外周面12の、前記吸収強度と比較して、1.5倍より大きく20倍未満であることが好ましく、2倍以上20倍未満であることがより好ましく、2倍以上10倍以下であることがさらに好ましい。赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度の上記の関係は、前記外周面に存在する親水性樹脂より多くの親水性樹脂が前記内周面に存在することを表すと考えられる。すなわち、前記水蒸気分離膜の内周面側に含有されている親水性樹脂は多く、前記水蒸気分離膜の外周面側に含有されている親水性樹脂は少ないことを表すと考えられる。すなわち、前記外周面12に存在する親水性樹脂は、前記内周面11に存在する親水性樹脂より少ない。このことからも、前記水蒸気分離膜10には親水性樹脂が含まれていても、前記外周面12から水分を放出しやすいと考えられる。また、前記外周面12の、前記吸収強度が強すぎると、前記外周面12に存在する親水性樹脂が多すぎることを表し、膜内の水分を外部に放出しにくくなる傾向がある。また、前記外周面12の、前記吸収強度が弱すぎると、前記外周面12に存在する親水性樹脂が少なすぎることを表し、こうなると、膜内の水分を移動効率が低下する傾向がある。よって、赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度の関係が上記の関係であると、まず、前記水蒸気分離膜10の内周面11側に含有されている親水性樹脂が多いことから、供給された湿潤エアに含まれる水蒸気が、前記水蒸気分離膜10の内周面11側に、より好適に吸着されると考えられる。また、前記水蒸気分離膜10の外周面12側に含有されている親水性樹脂が少ないことから、前記外周面12から水分がより放出されやすいと考えられる。これらのことから、ガスバリア性が高く、水透過性能及びパージ効率のより高い水蒸気分離膜が得られると考えられる。
ここでの赤外吸収スペクトルは、赤外分光法で得られたスペクトルであれば、特に限定されない。具体的には、一般的な赤外分光光度計(例えば、日本電子株式会社製のJIR−5500等)を用いて、1回反射ATR法で、水蒸気分離膜の内周面及び外周面を測定した際に得られる赤外吸収スペクトル等が挙げられる。なお、赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度は、例えば、1671cm−1付近の吸収強度等が挙げられる。
前記第1緻密層は、前記外周面12における孔の平均径より小さく、かつ、前記第2領域14における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域13付近の層であれば、特に限定されない。また、前記第1領域13は、前記外周面12における孔の平均径より小さく、かつ、前記第2領域14における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されば特に限定されない。具体的には、前記第1領域13における孔の平均径は、0.01〜1.0μmであることが好ましく、0.01〜0.8μmであることがより好ましく、0.01〜0.5μmであることがさらに好ましい。また、前記第1緻密層に形成されている孔の、膜厚方向毎の平均径のうちの最小値が、前記第1領域13における孔の平均径になるので、前記第1緻密層における前記最小値は、0.01〜1.0μmであることが好ましく、0.01〜0.8μmであることがより好ましく、0.01〜0.5μmであることがさらに好ましい。前記第1領域13における孔や前記第1緻密層に形成されている孔が小さすぎると、除湿性能が低下する傾向がある。このことは、前記第1緻密層における水分の移動速度が遅くなりすぎることによると考えられる。また、前記第1領域13における孔や前記第1緻密層に形成されている孔が大きすぎると、前記第1粗大層や前記第2粗大層における孔の大きさとの差が小さくなりすぎ、好適な第1緻密層が形成されず、親水性樹脂の流出抑制効果を充分に奏することができない傾向がある。
また、前記第1領域13における孔の平均径、すなわち、前記第1緻密層における前記最小値は、例えば、以下のように測定することができる。前記水蒸気分離膜の断面(前記水蒸気分離膜の長手方向に対して垂直な面)における第1緻密層を、細孔の大きさがわかりやすい倍率(例えば、倍率5000倍等が挙げられ、細孔の大きさによっては、倍率2000倍であってもよいし、倍率1000倍であってもよい)で走査型電子顕微鏡にて撮影した画像を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、細孔面積の分布を得る。得られた面積から、細孔を真円とみなした場合の直径を算出し、細孔分布を正規分布にフィッティングしたときに最頻値を、水蒸気分離膜の前記第1領域13における孔の平均径(前記第1緻密層における前記最小値)として定義する。そして、同一断面で観察される第1緻密層における膜厚方向の複数箇所で、この平均値を算出し、その最小値を前記第1緻密層における前記最小値(前記第1領域13における孔の平均径)とすることができる。
前記第2粗大層は、前記内周面11における孔の平均径より大きく、かつ、前記第1領域13における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域14付近の層であれば、特に限定されない。また、前記第2領域14は、前記内周面11における孔の平均径より大きく、かつ、前記第1領域13における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されば特に限定されない。具体的には、前記第2領域14における孔の平均径は、1〜20μmであることが好ましく、1〜15μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。また、前記第2粗大層に形成されている孔の、膜厚方向毎の平均径のうちの最大値が、前記第2領域14における孔の平均径になるので、前記第2粗大層における前記最大値は、1〜20μmであることが好ましく、1〜15μmであることがより好ましく、1〜10μmであることがさらに好ましい。前記第2領域14における孔や前記第2粗大層に形成されている孔が小さすぎると、除湿性能が低下する傾向がある。このことは、前記第2粗大層における水分の移動速度が遅くなりすぎることによると考えられる。具体的には、前記第2領域14における孔や前記第2粗大層に形成されている孔が前記内周面11における孔の平均径より小さいと、前記第2粗大層において水分の移動速度を高める効果を充分にそうすることができないと考えられる。また、前記第2領域14における孔や前記第2粗大層に形成されている孔が大きすぎると、膜の強度低下を招いたり、前記第2緻密層である分離層に親水性樹脂を保持させる機能を充分に奏することができない傾向がある。
なお、前記第2領域14における孔の平均径、すなわち、前記第2粗大層における前記最大値は、前記第1緻密層における前記最小値と同様の方法により測定することができる。すなわち、前記水蒸気分離膜の断面(前記水蒸気分離膜の長手方向に対して垂直な面)における第2粗大層を、細孔の大きさがわかりやすい倍率(例えば、倍率5000倍等が挙げられ、細孔の大きさによっては、倍率2000倍であってもよいし、倍率1000倍であってもよい)で走査型電子顕微鏡にて撮影した画像を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、細孔面積の分布を得る。得られた面積から、細孔を真円とみなした場合の直径を算出し、細孔分布を正規分布にフィッティングしたときに最頻値を、水蒸気分離膜の前記第2領域14における孔の平均径(前記第2粗大層における前記最大値)として定義する。そして、同一断面で観察される第2粗大層における膜厚方向の複数箇所で、この平均値を算出し、その最大値を前記第2粗大層における前記最大値(前記第2領域14における孔の平均径)とすることができる。
前記第2緻密層(前記分離層)は、前記内周面11を含む前記内周面11付近の層である。前記内周面11を含む分離層は、水蒸気以外の気体の透過を抑制し、すなわち、ガスバリア性を発揮し、さらに、水蒸気を膜内に取り込む層である。
前記内周面11における孔の平均径は、1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましく、1〜30nmであることがさらに好ましい。また、前記第2緻密層(前記分離層)は、形成されている孔が内周面11に近付くと、小さくなる傾向がある。このため、前記第2緻密層(分離層)に形成されている孔の、膜厚方向毎の平均径のうちの最小値が、前記内周面11における孔の平均径である。よって、前記第2緻密層(分離層)における前記最小値は、1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましく、1〜30nmであることがさらに好ましい。前記内周面11における孔や前記第2緻密層(分離層)に形成されている孔が大きすぎると、ガスバリア性を充分に発揮できない、すなわち、水蒸気以外の気体の透過を充分に抑制できない傾向がある。ガスバリア性を充分に発揮できないと、除湿膜として機能できない。また、前記内周面11における孔や前記第2緻密層(分離層)に形成されている孔は、小さければ小さいほど好ましいが、実際には、1nm程度が限界である。このため、前記内周面11における孔の平均径及び記第2緻密層(分離層)における前記最小値は、上記範囲であることが好ましい。
前記内周面11における孔の平均径、すなわち、前記第2緻密層(分離層)における前記最小値は、水中に分散させたデキストランの除去率から、例えば、以下のように測定することができる。有効膜長さ20cmの水蒸気分離膜を30本用いてなる膜モジュールを作製し、この膜モジュールを用いて、デキストランを分散させた液を透過させ、阻止率を測定する。前記デキストランとしては、異なる分子量を有する少なくとも2種以上のデキストラン(例えば、東京化成工業株式会社製の、デキストラン−40及びデキストラン−70等)を用いて、水蒸気分離膜による阻止率が90%となるときのデキストランの分子量を求める。求めた分子量から下記ストークス式を用いて、ストークス径を算出し、このストークス径を、前記内周面11における孔の平均径、すなわち、前記第2緻密層(分離層)における前記最小値と定義する。
なお、ストークス式は、下記式である。
Rs=2KT/(6πηD)
上記式中、Rsは、ストークス径を示す。Kは、ボルツマン係数を示し、1.381×10−23である。また、Kは、絶対温度である298℃であり、ηは、溶媒の粘度を示し、0.00089Pa・sであり、D=8.76×10−9×(Mw:重量平均分子量)−0.48である。
前記水蒸気分離膜の透過性能は、例えば、以下のような性能であることが好ましい。
前記水蒸気分離膜は、空気の透過流束(エアリーク量)が、0LMH/bar以上5000LMH/bar未満であることが好ましく、0〜3000LMH/barであることがより好ましく、0〜500LMH/barであることがさらに好ましく、0LMH/barであることが最も好ましい。前記エアリーク量が多すぎると、ガスバリア性が低下し、前記水蒸気分離膜が充分に機能しなくなる傾向がある。また、前記エアリーク量は、小さければ小さいほど好ましいので、上述したように、0LMHであることが最も好ましい。
なお、空気の透過流束は、例えば、以下のようにして求められる。一端を封止した、有効長20cmの水蒸気分離膜を用いた膜モジュールを用意し、所定のろ過圧力、温度が25℃の条件で空気をろ過して、時間当たりの空気の透過量を測定する。この測定した透過量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力、1bar(0.1MPa)当たりの透過量に換算して、透過流束(L/m2/時/bar:LMH/bar)を得る。
また、前記水蒸気分離膜は、膜間差圧0.1MPaにおける水の透過流束(透水性能)が、1〜1000LMHであることが好ましく、1〜800LMHであることがより好ましく、1〜600LMHであることがさらに好ましい。前記透水性能が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向があり、よって、前記水蒸気分離膜が充分に機能しなくなる傾向がある。また、前記透水性能が低すぎる場合、膜内での水分の移動速度が遅くなりすぎ、水蒸気分離膜として作用しにくくなる傾向がある。
なお、膜間差圧0.1MPaにおける水の透過流束は、例えば、以下のようにして求められる。一端を封止した、有効長20cmの水蒸気分離膜を用いた膜モジュールを用意し、ろ過圧力が0.1MPa、温度が25℃の条件で純水をろ過して、時間当たりの透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算して、膜間差圧0.1MPaにおける水の透過流束(L/m2/時:LMH)を得る。なお、ここでの水の透過流束は、膜間差圧0.1MPaにおける水の透過流束であるので、LMH/barである。
前記水蒸気分離膜は、マクロボイドが形成されていないことが好ましい。マクロボイドとは、前記水蒸気分離膜内の欠損部位であり、例えば、孔径が20μmを超えるような孔である。
前記水蒸気分離膜は、中空糸状であって、長手方向の一方側は開放し、他方側は、開放していても閉じていてもよい。前記水蒸気分離膜の形状としては、例えば、図5に示すような形状等が挙げられる。なお、図5は、本実施形態に係る水蒸気分離膜の一例を示す部分斜視図である。
前記水蒸気分離膜の外径R1は、200〜1500μmであることが好ましく、200〜1000μmであることがより好ましく、200〜900μmであることがさらに好ましい。前記外径が小さすぎると、前記水蒸気分離膜の内径も小さくなる傾向があり、通気抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。また、前記外径が大きすぎると、前記水蒸気分離膜の内径も大きくなる傾向があり、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。また、水蒸気分離膜の破裂圧力が低下し、水蒸気分離膜として充分な耐圧強度を確保できない傾向がある。さらに、モジュールにした場合の単位体積当たりの膜面積が減少し、モジュール効率の低下を招く傾向もある。上記のような外径であれば、水蒸気分離膜を用いた分離技術を実現する装置に備える水蒸気分離膜として、好適な大きさである。
前記水蒸気分離膜の内径R2は、100〜750μmであることが好ましく、100〜700μmであることが好ましく、100〜650μmであることがさらに好ましい。前記内径が小さすぎると、通気抵抗が大きくなり、充分な流量を確保できなくなる傾向がある。また、前記内径が大きすぎると、前記外径も大きくなる傾向があり、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。また、水蒸気分離膜の破裂圧力が低下し、水蒸気分離膜として充分な耐圧強度を確保できない傾向がある。さらに、モジュールにした場合の単位体積当たりの膜面積が減少し、モジュール効率の低下を招く傾向もある。上記のような内径であれば、水蒸気分離膜を用いた分離技術を実現する装置に備える水蒸気分離膜として、好適な大きさである。
前記水蒸気分離膜の膜厚Tは、50〜500μmであり、50〜400μmであることがより好ましく、50〜300μmであることがさらに好ましい。前記膜厚が薄すぎると、強度不足により、ゆがみ等の変形が発生しやすくなる傾向がある。また、前記膜厚が厚すぎると、マクロボイドの発生の抑制が困難になる等、好適な膜構造を得ることが困難になる傾向がある。場合によっては、強度が低下する場合もある。
前記水蒸気分離膜の外径R1、内径R2、及び膜厚Tが、それぞれ上記範囲内であれば、水蒸気分離膜を用いた分離技術を実現する装置に備える水蒸気分離膜として、好適な大きさであり、前記装置の小型化が図れる。
前記水蒸気分離膜の強度は、水蒸気分離膜として使用できれば、特に限定されない。前記水蒸気分離膜の強度は、具体的には、耐圧強度(破裂強度)で、1〜20MPaであることが好ましく、1〜15MPaであることがより好ましく、1〜10MPaであることがさらに好ましい。前記強度が低すぎると、水蒸気分離膜として実用することができない傾向がある。すなわち、水蒸気分離膜は、通常、加圧した湿潤エアを内周面側に供給し、外周面側(二次側)を減圧することが多いため、充分に高い耐圧強度が必要であるが、それを満たさなくなる傾向がある。前記強度が高すぎると、水蒸気透過性能が低下する蛍光がある。前記水蒸気分離膜の強度として、耐圧強度が、上記範囲内であれば、水蒸気分離膜として好適に使用することができる。
なお、前記耐圧強度(破裂強度)は、水蒸気分離膜の一端を封止し、他端側を開放したままの水蒸気分離膜を用いた膜モジュールを用意し、水蒸気分離膜の内周側にかかる圧力を徐々に高めるように加圧して、水蒸気分離膜が破裂したときの圧力を表したものである。
前記水蒸気分離膜は、上述したように、親水性樹脂を含む。すなわち、前記水蒸気分離膜には、前記水蒸気分離膜を構成する樹脂として、前記親水性樹脂だけではなく、他の樹脂を含むことが好ましい。この他の樹脂は、前記水蒸気分離膜を構成する樹脂の主成分となることが好ましい。ここで主成分とは、前記水蒸気分離膜に含まれる樹脂に対して、95質量%以上含むことを指す。この場合、前記親水性樹脂の含有量は、5質量%以下である。前記親水性樹脂の含有量は0質量%より高く、前記親水性樹脂は、所望の透水性を示す程度に含有されていればよい。
他の樹脂、すなわち、主成分となる樹脂は、特に限定されず、例えば、水蒸気分離膜を構成する樹脂として用いられる樹脂等が挙げられる。この主成分となる樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリクロロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、結晶性セルロース、ポリサルホン、ポリフェニルサルホン、ポリエーテルサルホン、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、及びAS(アクリロニトリルスチレン)樹脂等が挙げられる。この中でも、孔径制御性に優れるという観点から、ABS樹脂、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリ塩化ビニル、及びポリエーテルイミド等の、非晶性の高分子が好ましく、ポリサルホンがより好ましい。また、この主成分となる樹脂は、これらの樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。
前記親水性樹脂は、特に限定されず、具体的には、親水性基を分子内に有する樹脂等が挙げられる。前記親水性樹脂としては、例えば、セルロースエステル;エチレン−ビニルアルコール共重合体;ポリビニルアルコール;ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体、ビニルピロリドンとビニルカプロラクタムとの共重合体等のビニルピロリドン系樹脂;及びポリアクリル酸エステル類等が挙げられる。上記例示の樹脂の中でも、親水性が高く、水分の吸着性能に優れるという観点から、ビニルピロリドン系樹脂が好ましい。この中でも、取り扱い性及び価格面にも優れているという観点から、ポリビニルピロリドンが好ましい。また、前記親水性樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本実施形態に係る水蒸気分離膜の製造方法は、上述の水蒸気分離膜を製造することができれば、特に限定されない。この製造方法としては、例えば、以下のような製造方法が挙げられる。この製造方法としては、前記水蒸気分離膜を構成する樹脂と、溶剤とを含む製膜原液を調製する工程(調製工程)と、前記製膜原液を中空糸状に形成する工程(形成工程)と、前記中空糸状に形成された製膜原液を、加湿された空間に通過させる工程(通過工程)と、前記加湿された空間を通過した製膜原液を、外部凝固液に接触させる工程(接触工程)とを備える方法等が挙げられる。
このような製造方法によれば、まず、前記調製工程で、前記水蒸気分離膜を構成する樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製し、前記形成工程で、前記調製工程で得られた製膜原液を中空糸状に形成する。その後、前記通過工程で、この中空糸状に形成された製膜原液を、加湿された空間に通過させると、中空糸状に形成された製膜原液に、加湿された空間に存在する水分が接触する。この中空糸状に形成された製膜原液を、加湿された空間に通過させると、中空糸状に形成された製膜原液に、加湿された空間に存在する水分が接触する。そうすると、中空糸状に形成された製膜原液の外周面側から、相分離が発生し、外周面側付近で比較的大きい孔が形成され、その内側で比較的小さい孔が形成されるように凝固されると考えられる。一方で、中空糸状に形成された製膜原液に、加湿された空間に存在する水分が接触するだけであることから、接触量が少なく、内周面までは凝固しないと考えられる。これにより、前記外周面から前記第1領域付近までが形成されると考えられる。すなわち、前記外周面における孔の平均径が、前記内周面における孔の平均径より大きく、また、前記第1領域における孔の平均径より大きい孔が形成され、さらに、その外周面付近の内側に前記第1領域を有するような水蒸気分離膜が形成されると考えられる。その後、前記接触工程で、前記加湿された空間を通過した製膜原液を、外部凝固液に接触させると、前記通過工程での相分離で凝固しなかった領域で相分離が発生し、内周面まで凝固されると考えられる。その際、前記第1領域の内側で比較的大きい孔が形成され、さらに、その内側で比較的小さい孔が形成され、内周面ではより小さい孔が形成されるように凝固されると考えられる。これにより、前記第1領域から前記内周面までが形成されると考えられる。すなわち、前記第1領域の内側に、前記内周面における孔の平均径より大きく、また、前記第1領域における孔の平均径より大きい第2領域が形成され、さらにその内側に、前記外周面における孔の平均径より小さい孔が形成された内周面が形成されると考えられる。よって、本実施形態に係る水蒸気分離膜、すなわち、ガスバリア性及び水透過性能が高く、パージ効率の高い水蒸気分離膜を製造することができると考えられる。
前記調製工程は、前記水蒸気分離膜を構成する樹脂と溶剤とを含む製膜原液を調製することができれば、特に限定されない。調製工程としては、具体的には、例えば、製膜原液の原料を、加熱攪拌する方法等が挙げられる。また、加熱攪拌時に、混練することが好ましい。加熱攪拌する方法は、特に限定されず、混練の際に、例えば、二軸混練設備、ニーダ、ミキサ、及びタンク等を用いることができる。
前記樹脂は、上述したように、親水性樹脂を含み、親水性樹脂だけでなく、他の樹脂を含むことが好ましい。
前記親水性樹脂は、前記水蒸気分離膜に含まれる親水性樹脂として例示した樹脂を用いることができる。また、前記他の樹脂は、前記水蒸気分離膜に含まれる他の樹脂として例示した樹脂を用いることができる。
前記溶剤は、少なくとも特定の温度では、前記熱可塑性樹脂を溶解させることができる溶剤であれば、特に限定されない。前記溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、メタノール、アセトン、グリセリン、N-メチルピロリドン、セバシン酸ブチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジブチルベンジル、フタル酸ノニルベンジル、フタル酸オクチル、テトラヒドロフラン、安息香酸へキシル、及びカプロラクトン等が挙げられる。この中でも、樹脂に対する溶解性が高く、水に対する溶解性も高いという観点から、ジメチルアセトアミド、及びN−メチルピロリドン等が好ましい。また、前記溶剤としては、上記例示の溶剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記製膜原液は、前記樹脂と前記溶剤とを含んでいればよく、これらからなるものであってもよい。また、前記製膜原液としては、これらの成分以外にも、他の成分を含んでいてもよい。この他の成分としては、例えば、相分離促進剤及び添加剤等が挙げられる。
前記調製工程で得られた製膜原液は、水蒸気分離膜の製造に用いられる。その際、得られた製膜原液は、充分に脱気することが好ましい。そして、ギアポンプ等の計量ポンプで計量した後に、後述する水蒸気分離膜の製造に用いられる。
前記形成工程は、前記製膜原液を、中空糸状に形成することができれば、特に限定されない。前記形成工程としては、例えば、前記製膜原液を中空糸状に押し出す押出工程等が挙げられる。前記押出工程としては、図6に示す中空糸成型用ノズルから前記製膜原液を押し出す工程等が挙げられる。なお、図6は、本実施形態に係る製造方法で用いる中空糸成型用ノズルの一例を示す概略図である。また、図6(a)には、その断面図を示し、図5(b)には、中空糸成型用ノズルの、製膜原液を吐出する吐出口側を示す平面図である。具体的には、ここでの中空糸成型用ノズル21は、円環状の外側吐出口26と、前記外側吐出口26の内側に配置する円状又は円環状の内側吐出口27とを備える。そして、この中空糸成型用ノズル21は、製膜原液を流通させる流通管24の末端に備え、流通管24内を流動してきた製膜原液を、ノズル内の流路22を介して、外側吐出口26から吐出する。また、この中空糸成型用ノズル21は、この外側吐出口26からの製膜原液の吐出と同時に、内部凝固液を、流通管25に流通させ、ノズル内の流路23を介して、内側吐出口27から吐出する。そうすることによって、中空糸成型用ノズル21から押し出された中空糸状の前記製膜原液を前記内部凝固液と接触させる。
前記内部凝固液は、前記水蒸気分離膜を製造することができる内部凝固液であれば、特に限定されない。前記内部凝固液としては、例えば、ジメチルアセトアミドとグリセリンとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンとグリセリンとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンとエチレングリコールとの混合溶剤、γ−ブチロラクトンと水との混合溶剤、ジメチルアセトアミドと水との混合溶剤、ジメチルアセトアミドとエチレングリコールとの混合溶剤、ジメチルホルムアミドと水との混合溶剤、及び水等が挙げられる。この中でも、好適な性能が得られるという観点から、ジメチルホルムアミドと水の混合溶剤及び水が好ましい。
前記通過工程は、前記形成工程で中空糸状に形成された製膜原液を、加湿された空間に通過させる工程である。そうすることによって、上述したように、中空糸状に形成された製膜原液の外周面側から、相分離が発生し、外周面側付近で比較的大きい孔が形成され、その内側で比較的小さい孔が形成されるように凝固されると考えられる。一方で、中空糸状に形成された製膜原液に、加湿された空間に存在する水分が接触するだけであることから、接触量が少なく、内周面までは凝固しないと考えられる。これにより、前記外周面から前記第1領域付近までが形成されると考えられる。すなわち、前記外周面における孔の平均径が、前記内周面における孔の平均径より大きく、また、前記第1領域における孔の平均径より大きい孔が形成され、さらに、その外周面付近の内側に前記第1領域を有するような水蒸気分離膜が形成されると考えられる。
前記空間の温度は、20℃以上80℃未満であることが好ましく、20〜70℃であることがより好ましく、30〜70℃であることがさらに好ましい。また、前記空間の相対湿度は、30〜100%RHであることが好ましく、40〜100%RHであることが好ましく、50〜100%RHであることが好ましい。前記温度が低すぎる場合又は前記相対湿度が低すぎる場合、水蒸気透過性能が低下する傾向がある。このことは、上記相分離が好適に行われず、前記外周面及び前記第1粗大層が好適に形成されないことによると考えられる。また、前記温度が高すぎる場合又は前記相対湿度が高すぎる場合、水蒸気分離膜の強度が低下したり、好適に中空糸膜が形成できなかったりする傾向がある。よって、前記空間の温度や相対湿度がそれぞれ上記範囲内であると、ガスバリア性及び水透過性能が高く、パージ効率の高い水蒸気分離膜をより好適に製造することができる。このことは、前記通過工程での相分離がより好適に行われるためと考えられる。
前記空間に通過させる時間が、0.2秒間以上20秒間未満であることが好ましく、0.2秒間以上15秒間未満であることがより好ましく、0.2秒間以上13秒間未満であることがさらに好ましい。前記時間が短すぎると、水蒸気透過性能が低下する傾向がある。このことは、上記相分離が好適に行われず、前記外周面及び前記第1粗大層が好適に形成されないことによると考えられる。また、前記時間が長すぎると、水蒸気分離膜の強度が低下したり、好適に中空糸膜が形成できなかったりする傾向がある。よって、前記時間が上記範囲内であると、ガスバリア性及び水透過性能が高く、パージ効率の高い水蒸気分離膜をより好適に製造することができる。このことは、前記通過工程での相分離がより好適に行われるためと考えられる。
前記接触工程は、前記通過工程で前記加湿された空間を通過した製膜原液を、外部凝固液に接触させる工程であれば、特に限定されない。前記接触工程は、具体的には、前記通過工程で前記加湿された空間を通過した製膜原液を、外部凝固浴に貯留した外部凝固液に浸漬させる工程等が挙げられる。このような工程によって、上述したように、前記通過工程での相分離で凝固しなかった領域で相分離が発生し、内周面まで凝固されると考えられる。その際、前記第1領域の内側で比較的大きい孔が形成され、さらに、その内側で比較的小さい孔が形成され、内周面ではより小さい孔が形成されるように凝固されると考えられる。これにより、前記第1領域から前記内周面までが形成されると考えられる。すなわち、前記第1領域の内側に、前記内周面における孔の平均径より大きく、また、前記第1領域における孔の平均径より大きい第2領域が形成され、さらにその内側に、前記外周面における孔の平均径より小さい孔が形成された内周面が形成されると考えられる。よって、本実施形態に係る水蒸気分離膜、すなわち、ガスバリア性及び水透過性能が高く、パージ効率の高い水蒸気分離膜を製造することができると考えられる。
前記外部凝固液は、前記通過工程で前記加湿された空間を通過した製膜原液をさらに凝固させることができる溶剤であれば、特に限定されない。前記外部凝固液としては、具体的には、水、及び塩類又は溶剤を含有した水溶液等が挙げられる。ここでの塩類としては、例えば、硫酸塩、塩化物、硝酸塩、及び酢酸塩等の各種の塩類が挙げられる。前記外部凝固液としては、水が好ましい。
外部凝固液の温度は、前記通過工程で前記加湿された空間を通過した製膜原液をさらに凝固させることができる温度であれば、特に限定されない。前記外部凝固液の温度としては、具体的には、20℃以上95℃未満であることが好ましく、30℃以上95℃未満であることがより好ましく、40℃以上95℃未満であることがさらに好ましい。前記温度が低すぎると、透水性能が低下する傾向がある。このことは、前記接触工程における溶剤交換速度が遅くなり、得られた水蒸気分離膜の緻密化が進みすぎることによると考えられる。また、前記温度が高すぎると、ガスバリア性が低下する傾向がある。このことは、前記接触工程における溶剤交換速度が速くなることによると考えられる。
前記製造方法は、前記調製工程、前記形成工程、前記通過工程、及び前記接触工程を備えていればよく、他の工程をさらに備えていてもよい。前記他の工程としては、前記接触工程後に、得られた水蒸気分離膜を洗浄する工程(洗浄工程)、及び前記水蒸気分離膜に含まれる親水性樹脂を架橋させる工程(架橋工程)等が挙げられる。
前記洗浄工程は、得られた水蒸気分離膜を洗浄することができれば、特に限定されない。前記洗浄工程における洗浄の方法としては、例えば、得られた水蒸気分離膜を、水浴に浸漬させ、水浴中にて洗浄する方法等が挙げられる。このような洗浄により、得られた水蒸気分離膜に含まれる溶剤を除去することができる。また、この洗浄により、水蒸気分離膜含まれる親水性樹脂が外周面側から順次除去される。このことは、前記水蒸気分離膜は、前記第1緻密層を有しているために、前記第1粗大層では、親水性樹脂が除去される一方で、第1緻密層より内側の第2粗大層及び前記分離層からは親水性樹脂が除去されにくくなる。このことから、親水性樹脂の残存量を外周面側と内周面側とで変えることができる。
前記架橋工程は、前記水蒸気分離膜に含まれる親水性樹脂を架橋させることができれば、特に限定されない。前記架橋工程としては、例えば、水蒸気分離膜(架橋前の水蒸気分離膜)を、ラジカル開始剤を含む水溶液に浸漬させる工程、水蒸気分離膜を強酸や強アルカリに浸漬させる工程、水蒸気分離膜を熱処理する工程、及び水蒸気分離膜に対して放射線処理する工程等が挙げられる。
本実施形態に係る水蒸気分離膜は、クリンプ状になっていてもよい。クリンプ状とは、パーマをかけたように水蒸気分離膜を縮れさせた構造のことを指す。クリンプ状にする(クリンプをかける)ことで、モジュール時に充填率を上げても、パージ効率低下を起こさないという点で優れている。
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
まず、樹脂として、ポリサルホン(以下、PSFと略することがある)(BASFジャパン株式会社製のUltrason S3010)と、溶剤として、ジメチルアセトアミド(三菱化学株式会社製のDMAc)と、親水性樹脂として、ポリビニルピロリドン(PVP:BASFジャパン株式会社製のソカランK−90P)とを、質量比20:70:10になるように混合物を調製した。この混合物を、95℃の恒温下で溶解タンク内にて溶解した。そうすることによって、製膜原液が得られた。
前記製膜原液を、混練した後に、図6に示すような二重環構造のノズル(中空糸膜形成用ノズル)から押し出した。このとき、内部凝固液としての水を、製膜原液と同時吐出した。
この内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、通過時間が6.4秒間となるように、加湿された空間を通過させた。なお、この加湿された空間における製膜原液の移動距離は、80cmであった。この加湿された空間は、その温度が45℃で、相対湿度が100%RHであった。その後、この加湿された空間を通過した製膜原液を、外部凝固液である、水温40℃の水に浸漬させた。そうすることによって、製膜原液が固化され、中空糸膜が得られた。
次いで、得られた水蒸気分離膜を水中で洗浄した。そうすることによって、溶剤が抽出除去され、親水性樹脂も一部除去された。
このようにして得られた水蒸気分離膜は、外径が780μm、内径が400μmであり、膜厚が190μmであった。
(構造)
この実施例1に係る水蒸気分離膜の断面(水蒸気分離膜の長手方向に対して垂直な面)を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて観察することで、前記水蒸気分離膜の膜構造を確認した。その結果、膜内の孔の大きさの関係が、図4に示すような関係になっていることを確認した。すなわち、実施例1に係る水蒸気分離膜の膜構造は、水蒸気分離膜の内周面における孔の平均径が、外周面における孔の平均径より小さく、該外周面における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域と、該第1領域より内周面側であって、該内周面における孔の平均径より大きく、かつ、該第1領域における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域とを有する構造であることを確認した。
(外周面における孔の平均径)
前記水蒸気分離膜の外周面を、倍率5000倍で走査型電子顕微鏡にて撮影した画像(例えば、図3)を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、細孔面積の分布を得た。得られた面積から、細孔を真円とみなした場合の直径を算出し、細孔分布を正規分布にフィッティングしたときに最頻値を、水蒸気分離膜の外周面における孔の平均径(前記第1粗大層における前記最大値:外周面孔径)とした。
(第1領域における孔の平均径)
前記水蒸気分離膜の断面(前記水蒸気膜の長手方向に対して垂直な面)における第1緻密層を、倍率5000倍で走査型電子顕微鏡にて撮影した画像を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、細孔面積の分布を得た。得られた面積から、細孔を真円とみなした場合の直径を算出し、細孔分布を正規分布にフィッティングしたときに最頻値を、水蒸気分離膜の前記第1領域13における孔の平均径(前記第1緻密層における前記最小値)とした。そして、同一断面で観察される第1緻密層における膜厚方向の複数箇所で、この平均値を算出し、その最小値を前記第1緻密層における前記最小値(前記第1領域における孔の平均径)とした。
(第2領域における孔の平均径)
前記水蒸気分離膜の断面(前記水蒸気膜の長手方向に対して垂直な面)における第2粗大層を、倍率5000倍で走査型電子顕微鏡にて撮影した画像を、画像計測ソフト(株式会社プラネトロン製のImage−Pro Plus)を用いて二値化し、細孔面積の分布を得た。得られた面積から、細孔を真円とみなした場合の直径を算出し、細孔分布を正規分布にフィッティングしたときに最頻値を、水蒸気分離膜の前記第2領域14における孔の平均径(前記第2粗大層における前記最大値)とした。そして、同一断面で観察される第2粗大層における膜厚方向の複数箇所で、この平均値を算出し、その最大値を前記第2粗大層における前記最大値(前記第2領域における孔の平均径)とした。
(内周面の孔の平均径)
有効膜長さ20cmの水蒸気分離膜を30本用いてなる膜モジュールを作製し、この膜モジュールを用いて、デキストランを分散させた液を透過させ、阻止率を測定した。前記デキストランとしては、東京化成工業株式会社製の、デキストラン−40及びデキストラン−70を用いて、水蒸気分離膜による阻止率が90%となるときのデキストランの分子量を求めた。求めた分子量から下記ストークス式を用いて、ストークス径を算出し、このストークス径を、前記内周面における孔の平均径(内周面孔径)、すなわち、前記第2緻密層(分離層)における前記最小値とした。
なお、ストークス式は、下記式である。
Rs=2KT/(6πηD)
上記式中、Rsは、ストークス径を示す。Kは、ボルツマン係数を示し、1.381×10−23である。また、Kは、絶対温度である298℃であり、ηは、溶媒の粘度を示し、0.00089Pa・sであり、D=8.76×10−9×(Mw:重量平均分子量)−0.48である。
(水の透過流束)
前記水蒸気分離膜の膜間差圧0.1MPaにおける水の透過流束(透水性能)は、水蒸気分離膜を用いた以下のような操作における、単位時間当たりのろ過液の量を測定し、この得られた量と、膜面積とから算出した。
この水蒸気分離膜を用いて膜ろ過装置を作製した。膜ろ過装置に装填されている膜モジュールは、有効膜長さ20cm、中空糸本数20本からなり、下端部をエポキシ系樹脂で封止されている。上端部は水蒸気分離膜の中空部が開口しており、下端部は水蒸気分離膜の中空部をエポキシ系樹脂にて封止されている。この膜ろ過装置は、水蒸気分離膜の内周面側より、純水をろ過し、上端部の外周面側よりろ過水を得た。この際、膜間差圧0.1MPaになるように調整した。
この測定方法により得られた透水量、すなわち、膜間差圧0.1MPaにおける水の透過流束は、15.3LMH/barであった。
(エアリーク量)
前記膜ろ過装置を用いて、前記水蒸気分離膜を完全に乾燥させた後、前記水蒸気分離膜の内周面側から0.5MPaの空気圧力をかけて、前記水蒸気分離膜から漏れ出てくる空気の量を測定した。この測定した空気の量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力、1bar(0.1MPa)当たりの透過量に換算して、透過流束(L/m2/時/bar:LMH/bar)を得た。この得られた透過流束を、エアリーク量とした。このエアリーク量は、3.1LMH/barであった。
(耐圧強度:破裂強度)
前記膜モジュールにおける水蒸気分離膜の内周面側にかかる圧力を徐々に高めるように加圧して、水蒸気分離膜が破裂したときの圧力を測定した。この得られた圧力を、耐圧強度(破裂強度)とした。この破裂強度は、1.4MPaであった。
(赤外吸収スペクトルにおける親水性樹脂に由来のピークの吸収強度:IRの吸収強度)
赤外分光光度計(日本電子株式会社製のJIR−5500)で、水蒸気分離膜の内周面及び外周面の赤外吸収スペクトルを測定した。赤外吸収スペクトルにおける前記親水性樹脂に由来のピークの吸収強度は、1671cm−1の吸収強度であるとして、測定した。その結果、内周面側での吸収強度が、0.18であり、内周面側での吸収強度が、0.03であった。このことから、外周面側より内周面側に親水性樹脂が多く存在することがわかった。
(水蒸気透過速度)
前記水蒸気分離膜の水蒸気透過速度は、水蒸気分離膜を用いた以下のような操作における、単位時間当たりの水蒸気の透過量を測定し、この得られた透過量と、膜面積と、時間とから算出した。
この水蒸気分離膜を用いて膜ろ過装置を作製した。膜ろ過装置に装填されている膜モジュールは、有効膜長さ20cm、中空糸本数20本からなり、下端部をエポキシ系樹脂で封止されている。上端部は水蒸気分離膜の中空部が開口しており、下端部は水蒸気分離膜の中空部をエポキシ系樹脂にて封止されている。この膜ろ過装置は、水蒸気分離膜の内周面側より、相対湿度100%RHの空気を1L/分で連続供給し、外周面側を30kPaの減圧状態にして、水蒸気分離膜の内周面側から外周面側に透過してきた水蒸気を、冷却トラップにて得た。この水蒸気の透過量と、膜面積と、時間とから、水蒸気透過速度(mg/分/m)を算出した。
この測定方法により得られた水蒸気透過速度は、12.1mg/分/mであった。
製造条件や結果等は、表1に示す。
[実施例2]
内部凝固液とともに押し出した製膜原液を、加湿された空間を通過させる通過時間を、6.4秒間から1.6秒間に変更し、加湿された空間の温度を、45℃から35℃に変更し、外部凝固液を、水温40℃の水から水温60℃の水に変更したこと以外、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。なお、この加湿された空間における製膜原液の移動距離は、20cmであった。
また、実施例2に係る水蒸気分離膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて確認した。その結果を、図1〜3に示す。図1は、実施例2に係る水蒸気分離膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図2は、実施例2に係る水蒸気分離膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図3は、実施例2に係る水蒸気分離膜の外周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
実施例2に係る水蒸気分離膜の膜構造は、水蒸気分離膜の内周面における孔の平均径が、外周面における孔の平均径より小さく、該外周面における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域と、該第1領域より内周面側であって、該内周面における孔の平均径より大きく、かつ、該第1領域における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域とを有する構造であることを確認した。
また、実施例1と同様に各種測定を行った。
製造条件や結果等は、表1に示す。
[実施例3]
加湿された空間の相対湿度を、100%から70%に変更したこと以外、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。
実施例3に係る水蒸気分離膜の膜構造を実施例1と同様に確認した。その結果、実施例3に係る水蒸気分離膜の膜構造は、水蒸気分離膜の内周面における孔の平均径が、外周面における孔の平均径より小さく、該外周面における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域と、該第1領域より内周面側であって、該内周面における孔の平均径より大きく、かつ、該第1領域における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域とを有する構造であることを確認した。
また、実施例1と同様に各種測定を行った。
製造条件や結果等は、表1に示す。
[実施例4]
加湿された空間の相対湿度を、100%から50%に変更したこと以外、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。
実施例4に係る水蒸気分離膜の膜構造を実施例1と同様に確認した。その結果、実施例4に係る水蒸気分離膜の膜構造は、水蒸気分離膜の内周面における孔の平均径が、外周面における孔の平均径より小さく、該外周面における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域と、該第1領域より内周面側であって、該内周面における孔の平均径より大きく、かつ、該第1領域における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域とを有する構造であることを確認した。
また、実施例1と同様に各種測定を行った。
製造条件や結果等は、表1に示す。
[比較例]
加湿した空間を通過させる代わりに、乾燥した空間を通過させたこと以外、実施例1と同様に製造した。なお、この乾燥した空間は、その温度が45℃で、相対湿度が20%RHであった。
比較例に係る水蒸気分離膜の膜構造を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製のS−3000N)を用いて確認した。その結果を、図7〜9に示す。図7は、比較例に係る水蒸気分離膜の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図8は、比較例に係る水蒸気分離膜の断面における外周面付近の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図9は、比較例に係る水蒸気分離膜の外周面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
これらの電子顕微鏡写真から、第1緻密層や第1粗大層が形成されていないことがわかった。
製造条件や結果等は、表1に示す。
表1から、親水性樹脂を含む多孔性中空糸状の水蒸気分離膜であって、前記水蒸気分離膜の内周面における孔の平均径が、前記水蒸気分離膜の外周面における孔の平均径より小さく、前記外周面における孔の平均径より小さい平均径の孔が形成されている第1領域と、前記第1領域より内周面側であって、前記内周面における孔の平均径より大きく、かつ、前記第1領域における孔の平均径より大きい平均径の孔が形成されている第2領域とを有する水蒸気分離膜である場合(実施例1〜4)は、そうでない場合(比較例)と比較して、水蒸気透過速度が非常に高かった。また、実施例1と比較例とを対比すると、実施例1に係る水蒸気分離膜は、比較例に係る水蒸気分離膜と比較して、透水性及びガスバリア性が同程度であっても、水蒸気透過速度が高かった。