以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。始めに、図1を参照して、本実施の形態に係る車線維持制御装置を搭載する車両の概略の構成について説明する。図1に示したように、車両1には、左前輪FLと、右前輪FRと、左後輪RLと、右後輪RRとが設けられている。以下、左右前輪FL,FRが駆動輪且つ操舵輪として構成された場合を例にとって説明する。
車両1には、更に、例えばラックアンドピニオン機構等のステアリング機構2が設けられている。ステアリング機構2には、タイロッド3を介して左右前輪FL,FRが連設されていると共に、先端にステアリングホイール4が固設されたステアリング軸5が連設されている。左右前輪FL,FRは、運転者によるステアリングホイール4の操作によって、ステアリング機構2を介して、左右方向に転舵される。
車両1には、更に、電動パワーステアリング装置(以下、EPS装置と記す。)6が設けられている。EPS装置6は、電動パワーステアリングモータ(以下、EPSモータと記す。)7と、電動パワーステアリング制御ユニット(以下、EPS制御ユニットと記す。)8とを有している。なお、図1では、EPS制御ユニットをEPS_ECUと記している。EPSモータ7は、図示しない伝達機構を介して、ステアリング軸5に連接されている。
EPS制御ユニット8は、後述する操舵角センサおよび車両状態取得手段の検出結果に基づいて、運転者の操舵トルクをアシストするアシストトルクを設定する。また、EPS制御ユニット8は、設定したアシストトルクがステアリング軸5に付加されるように、EPSモータ7を制御する。
また、車両1には、更に、本実施の形態に係る車線維持制御装置11が設けられている。EPS制御ユニット8と車線維持制御装置11は、CAN(Controller Area Network)等の車内ネットワーク10に接続されている。図示しないが、車内ネットワーク10には、更に、エンジン制御ユニット、変速機制御ユニット、ブレーキ制御ユニット等の、車両1の走行状態を制御する複数のユニットが接続されている。
車線維持制御装置11は、車両1を車線に沿って走行させる車線維持制御を実行する装置である。車線維持制御装置11は、車線維持制御の実行時には、アシストトルクである制御トルクを設定し、設定した制御トルクに対応する指令信号をEPS制御ユニット8に送信する。EPS制御ユニット8は、受信した指令信号に基づいて、設定した制御トルクがステアリング軸5に付加されるように、EPSモータ7を制御する。
また、車両1には、更に、ステアリング軸5に介装されたトーションバー5aの捩れ角から、運転者によってステアリングホイール4に入力される操舵トルクを検出する操舵トルクセンサ12が設けられている。操舵トルクセンサ12は、車線維持制御装置11に接続されている。なお、操舵トルクの正負は、ステアリングホイール4の操作方向が左旋回方向であるか右旋回方向であるかによって定義される。
車線維持制御装置11は、車線維持制御として、車線維持制御の制御態様が互いに異なる第1の制御および第2の制御を選択的に実行可能である。本実施の形態では、第1の制御は、通常の車線維持制御であり、第2の制御は、運転者による運転操作を優先するように車線維持制御の制御態様を変化させるオーバーライド制御である。
本実施の形態では、車線維持制御装置11は、運転者の操舵トルクの情報を取得する操舵トルク取得手段およびオーバーライド制御を実行するか否かを判定する判定手段として、オーバーライド判定部11Aを備えている。以下、オーバーライド制御を実行するか否かの判定を、オーバーライド判定と言う。オーバーライド判定部11Aは、操舵トルクセンサ12が検出した操舵トルクの情報を取得し、取得した操舵トルクに基づいてオーバーライド判定を行う。オーバーライド判定部11Aは、更に、オーバーライド制御の実行中に、操舵トルクセンサ12が検出した操舵トルクに基づいて、オーバーライド制御を中止して通常の車線維持制御を実行するか否かの判定を行う。以下、オーバーライド制御を中止して通常の車線維持制御を実行するか否かの判定を、中止判定と言う。
なお、後述するように、オーバーライド判定部11Aは、操舵トルクが所定の閾値以上の場合に、オーバーライド制御を実行すると判定する。操舵トルクが上記所定の閾値よりも大きな閾値であるキャンセル閾値以上になった場合、車線維持制御装置11は、車線維持制御そのものを解除して、運転者による手動運転に切り替える。車線維持制御の解除の判定は、オーバーライド判定部11Aによって行われてもよい。
車線維持制御装置11には、更に、操舵角センサ13と、車両状態取得手段14が接続されている。操舵角センサ13は、ステアリングホイール4の操舵角を検出する。車両状態取得手段14は、車両1の状態を取得するセンサ類の総称である。具体的には、例えば、車両状態取得手段14は、車両1の車速を検出する車速センサ、車両1の横加速度を検出する横加速度センサ、車両1のヨーレートを検出するヨーレートセンサ等によって構成されている。
車線維持制御装置11は、更に、車線維持制御における車両1の目標操舵角を算出する操舵角算出手段を含んでいる。操舵角算出手段の詳細については、後で説明する。
車両1には、更に、カメラユニット21が設けられている。ここで、図1および図2を参照して、カメラユニット21について詳しく説明する。図2は、カメラユニット21の構成を示す機能ブロック図である。カメラユニット21は、メインカメラ22aとサブカメラ22bとを含むステレオカメラによって構成された車載カメラ22と、画像処理部23と、車線認識部24とを有している。
カメラ22a,22bは、例えば、車室内におけるフロントガラスの近傍において、それぞれ、車幅方向の中央から所定の間隔をあけて配置されている。カメラ22a,22bは、それぞれ、CCDまたはCMOS等の撮像素子を含んでいる。撮像素子は、車両1が走行している進行方向の前方の走行環境の画像を撮像する。
画像処理部23は、カメラ22a,22bによって撮像された一対のアナログ画像を所定の輝度階調のデジタル画像に変換する。また、画像処理部23は、メインカメラ22aによって撮像された画像に基づいて基準画像データを生成し、サブカメラ22bによって撮像された画像に基づいて比較画像データを生成する。そして、画像処理部23は、基準画像データと比較画像データの視差に基づいて、車両1から対象物までの距離である距離データを算出する。
車線認識部24は、車両1が走行する車線の左右両側に描画されている車線区画線を認識すると共に、車線区画線の認識結果に基づいて、車両1の車幅方向の位置である車両横位置と、目標横位置と、車両1が走行する車線の曲率(以下、車線曲率と記す。)と、車線に対する車両1のヨー角(以下、対車線ヨー角と記す。)を算出する。本実施の形態では、目標横位置は、左右の車線区画線から規定される車線の中央である。なお、本実施の形態では、曲率の正負は、左方向に曲がるか右方向に曲がるかによって定義される。
車線認識部24は、例えば以下のようにして、車線曲率と対車線ヨー角を算出する。まず、基準画像データと比較画像データに基づいて、仮想道路平面を生成する。次に、距離データに基づいて、生成した仮想道路平面上に、左右の車線区画線の内側エッジをプロットする。次に、左右の内側エッジの曲率を算出する。次に、左右の内側エッジの曲率に基づいて、車線曲率と対車線ヨー角を算出する。
EPS制御ユニット8、車線維持制御装置11およびカメラユニット21は、それぞれ、例えば、CPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータを主体として構成されている。ROMにはシステム毎に設定されている動作を実現するための制御プログラムが記憶されている。
次に、図3を参照して、車線維持制御装置11の操舵角算出手段の詳細について説明する。図3は、車線維持制御装置11の構成を示す機能ブロック図である。本実施の形態では、車線維持制御装置11は、操舵角算出手段として、第1の初期目標操舵角算出部30、第2の初期目標操舵角算出部40、第3の初期目標操舵角算出部50および操舵角算出部60を備えている。第1の初期目標操舵角算出部30は、第1の初期目標操舵角を算出する。第2の初期目標操舵角算出部40は、第2の初期目標操舵角を算出する。第3の初期目標操舵角算出部50は、第3の初期目標操舵角を算出する。操舵角算出部60は、第1の初期目標操舵角と第2の初期目標操舵角の和を求めることを含む演算によって目標操舵角を算出する第3の演算を実行する。本実施の形態では、操舵角算出部60は、第1の初期目標操舵角と第2の初期目標操舵角と第3の初期目標操舵角の和を求める演算によって目標操舵角を算出する。
車線維持制御装置11は、更に、目標操舵角に基づいて操舵トルクを算出する操舵トルク算出部70を備えている。本実施の形態では、操舵トルク算出部70によって算出された操舵トルクが前述の制御トルク、すなわち車線維持制御の実行時のアシストトルクとして設定される。前述のように、設定された制御トルク対応する指令信号は、EPS制御ユニット8に送信される。
以下、第1ないし第3の初期目標操舵角算出部30,40,50の構成について説明する。始めに、図4を参照して、第1の初期目標操舵角算出部30の構成について説明する。図4は、第1の初期目標操舵角算出部30の構成を示す機能ブロック図である。第1の初期目標操舵角算出部30は、曲率取得手段としての曲率取得部31と、車速取得手段としての車速取得部32と、対車線ヨー角取得手段としての対車線ヨー角取得部33と、車両横位置取得手段としての車両横位置取得部34と、オーバーライド判定結果取得部35とを含んでいる。
曲率取得部31は、車線認識部24(図2参照)から、車線曲率の情報を取得する。車速取得部32は、車両状態取得手段14(図1参照)、具体的には車速センサから、車両1の車速の情報を取得する。対車線ヨー角取得部33は、車線認識部24から、対車線ヨー角の情報を取得する。車両横位置取得部34は、車線認識部24から、車両1の車両横位置の情報を取得する。オーバーライド判定結果取得部35は、オーバーライド判定部11A(図1参照)から、オーバーライド判定の判定結果または中止判定の判定結果の情報を取得する。
第1の初期目標操舵角算出部30は、更に、補正曲率算出部36を含んでいる。補正曲率算出部36は、車速取得部32が取得した車速の情報と、対車線ヨー角取得部33が取得した対車線ヨー角の情報と、車両横位置取得部34が取得した車両横位置の情報とに基づいて、補正曲率を算出する第4の演算を実行する。補正曲率とは、車両1の現在位置から所定の時点における車両1の推定位置までの車両1の進行路の曲率であって、目標横位置である車線の中央から上記推定位置までの距離を0にする曲率である。所定の時点は、一定時間経過後の時点であってもよいし、車両1が一定の距離を進んだ時点であってもよい。
第1の初期目標操舵角算出部30は、更に、第1の漸近処理部37を含んでいる。第1の漸近処理部37は、オーバーライド判定結果取得部35が取得したオーバーライド判定部11Aの判定結果に基づいて、補正曲率算出部36が算出した補正曲率を補正する処理を行う。なお、オーバーライド判定部11Aの判定結果によっては、第1の漸近処理部37は、補正曲率を補正する処理を行わない。以下、第1の漸近処理部37よりも前段における補正曲率を第1の補正曲率とも言い、第1の漸近処理部37よりも後段における補正曲率を第2の補正曲率とも言う。第2の補正曲率は、第1の補正曲率を補正した曲率、または、第1の補正曲率と同じ曲率である。
第1の初期目標操舵角算出部30は、更に、第1の演算部38を含んでいる。第1の演算部38は、車両1が車線曲率に沿って走行するように、車線曲率を用いて第1の初期目標操舵角を算出する第1の演算を行うものである。本実施の形態では、第1の演算は、車線曲率と第2の補正曲率の和を求めることを含む演算と、車線曲率と第2の補正曲率の和を用いて第1の初期目標操舵角を算出する演算とを含んでいる。第1の初期目標操舵角は、車両1が車線曲率に沿って走行し、且つ補正曲率に沿って走行するための操舵角である。
次に、図5を参照して、第2の初期目標操舵角算出部40の構成について説明する。図5は、第2の初期目標操舵角算出部40の構成を示す機能ブロック図である。第2の初期目標操舵角算出部40は、目標ヨー角取得部41と、対車線ヨー角取得部42を含んでいる。対車線ヨー角取得部42は、図4に示した対車線ヨー角取得部33と同様に、車線認識部24(図2参照)から、対車線ヨー角の情報を取得する。
目標ヨー角取得部41は、目標ヨー角の情報を取得する。目標ヨー角は、車両1を車線に沿って走行させる車両1のヨー角である。目標ヨー角は、車線認識部24(図2参照)によって算出されてもよい。あるいは、第2の初期目標操舵角算出部40に、目標ヨー角を算出する演算部が設けられていてもよい。
第2の初期目標操舵角算出部40は、更に、ヨー角偏差算出部43と、第2の演算部44とを含んでいる。ヨー角偏差算出部43は、目標ヨー角取得部41が取得した目標ヨー角の情報と、対車線ヨー角取得部42が取得した対車線ヨー角の情報に基づいて、目標ヨー角と対車線ヨー角との差であるヨー角偏差を算出する。
第2の演算部44は、対車線ヨー角が目標ヨー角に一致するように、ヨー角偏差を用いて第2の初期目標操舵角を算出する第2の演算を行うものである。本実施の形態では、第2の演算部44は、ヨー角偏差を用いたフィードバック制御によって、第2の初期目標操舵角を算出する。具体的には、第2の演算部44は、ヨー角偏差が0になるように、ヨー角偏差と所定のフィードバックゲインとの乗算を含む演算によって、第2の初期目標操舵角を算出する。
また、本実施の形態では、対車線ヨー角が0°になるように、第2の初期目標操舵角が算出される。すなわち、本実施の形態では、目標ヨー角は0°である。
次に、図6を参照して、第3の初期目標操舵角算出部50の構成について説明する。図6は、第3の初期目標操舵角算出部50の構成を示す機能ブロック図である。第3の初期目標操舵角算出部50は、目標横位置取得部51と、車両横位置取得部52と、オーバーライド判定結果取得部53とを含んでいる。車両横位置取得部52は、図4に示した車両横位置取得部34と同様に、車線認識部24(図2参照)から、車両1の車両横位置の情報を取得する。オーバーライド判定結果取得部53は、図4に示したオーバーライド判定結果取得部35と同様に、オーバーライド判定部11Aの判定結果の情報を取得する。
目標横位置取得部51は、車線認識部24(図2参照)から、目標横位置の情報を取得する。前述のように、本実施の形態では、目標横位置は、車線の中央である。
第3の初期目標操舵角算出部50は、更に、横位置偏差算出部54と、第2の漸近処理部55とを含んでいる。横位置偏差算出部54は、目標横位置取得部51が取得した目標横位置の情報と、車両横位置取得部52が取得した車両横位置の情報に基づいて、目標横位置と車両横位置との差である横位置偏差を算出する。
第2の漸近処理部55は、オーバーライド判定結果取得部53が取得したオーバーライド判定部11Aの判定結果に基づいて、横位置偏差算出部54が算出した横位置偏差を補正する処理を行う。なお、オーバーライド判定部11Aの判定結果によっては、第2の漸近処理部55は、横位置偏差を補正する処理を行わない。以下、第2の漸近処理部55よりも前段における横位置偏差を第1の横位置偏差とも言い、第2の漸近処理部55よりも後段における横位置偏差を第2の横位置偏差とも言う。第2の横位置偏差は、第1の横位置偏差を補正した偏差、または、第1の横位置偏差と同じ偏差である。
第3の初期目標操舵角算出部50は、更に、第3の演算部56を含んでいる。第3の演算部56は、車両横位置が所定の目標横位置に一致するように、横位置偏差を用いて第3の初期目標操舵角を算出する第5の演算を行うものである。本実施の形態では、第3の演算部56は、横位置偏差を用いたフィードバック制御によって、第3の初期目標操舵角を算出する。具体的には、第3の演算部56は、横位置偏差が0になるように、横位置偏差と所定のフィードバックゲインとの乗算を含む演算によって、第3の初期目標操舵角を算出する。
前述のように、本実施の形態では、目標横位置は、車線の中央である。従って、本実施の形態では、車両横位置が車線の中央に一致するように、第3の初期目標操舵角が算出される。
次に、車線維持制御の実行について説明する。車線維持制御は、例えば、運転者が車線維持制御のためのスイッチをオンにすることによって実行される。車線維持制御の実行中には、第1の初期目標操舵角算出部30によって第1の初期目標操舵角が算出され、第2の初期目標操舵角算出部40によって第2の初期目標操舵角が算出され、第3の初期目標操舵角算出部50によって第3の初期目標操舵角が算出される。そして、操舵角算出部60によって目標操舵角が算出され、操舵トルク算出部70によって操舵トルクが算出される。
EPS制御ユニット8は、操舵トルク算出部70によって算出された操舵トルクに対応する指令信号を受信して、受信した指令信号に基づいて、上記の操舵トルクがステアリング軸5に付加されるように、EPSモータ7を制御する。このようにして、車線維持制御が実行される。
次に、オーバーライド制御の実行と中止について説明する。前述のように、オーバーライド制御を実行するか否かの判定すなわちオーバーライド判定と、オーバーライド制御を中止して通常の車線維持制御を実行するか否かの判定すなわち中止判定は、オーバーライド判定部11A(図1参照)によって行われる。本実施の形態では、オーバーライド判定部11Aは、操舵トルクセンサ12が検出した操舵トルクに加えて、車線認識部24によって算出された車両横位置に基づいて、オーバーライド判定処理と中止判定処理を実行する。
また、本実施の形態では、判定結果に対応する情報として、オーバーライド判定フラグが用いられる。本実施の形態では、通常の車線維持制御の実行中に、オーバーライド判定フラグがOFFからONになると、オーバーライド制御が実行される。また、オーバーライド制御の実行中に、オーバーライド判定フラグがONからOFFになると、オーバーライド制御が中止されて、通常の車線維持制御が実行される。
なお、オーバーライド判定フラグがOFFの状態が継続することにより、通常の車線維持制御が継続して実行される。また、オーバーライド判定フラグがONの状態が継続することにより、オーバーライド制御が継続して実行される。
以下、図7を参照して、オーバーライド判定部11Aの判定処理について具体的に説明する。図7は、オーバーライド判定部11Aの判定処理の一例を示すフローチャートである。車線維持制御の実行中には、図7に示した各ステップが所定の間隔で繰り返し実行される。判定処理では、まず、車線認識部24から車両横位置の情報を取得し、車両1が車線の左よりを走行しているか否かを判定する(ステップS11)。具体的には、例えば、車両1が車線の中央よりも左側の位置にある場合には、車両1が車線の左よりを走行していると判定される。
ステップS11において車両1が車線の左よりを走行していると判定された場合(YES)には、次に、操舵トルクの方向が車線から逸脱する方向であるか否かが判定される。具体的には、操舵トルクセンサ12から操舵トルクの情報を取得し、操舵トルクの方向が左旋回方向であるか否か判定される(ステップS12)。ここで、操舵トルクの値を記号Tsで表し、ステアリングホイール4の操作方向が左旋回方向である場合のTsを負の値で表し、ステアリングホイール4の操作方向が右旋回方向である場合のTsを正の値で表す。ステップS12では、例えば、Tsが負の値であるか否かによって、操舵トルクの方向が左旋回方向であるか否か判定される。
ステップS12において操舵トルクの方向が左旋回方向である場合(YES)、すなわち操舵トルクの方向が車線から逸脱する方向である場合には、次に、操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の閾値TH1以上であるか否かが判定される(ステップS13)。操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の閾値TH1以上の場合(YES)には、次に、オーバーライド判定フラグをONにする(ステップS14)。
ステップS12において操舵トルクの方向が左旋回方向ではない場合(NO)と、ステップS13において操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の閾値TH1以上ではない場合(NO)には、次に、オーバーライド判定フラグをOFFにする(ステップS15)。
ステップS11において車両1が車線の左よりを走行していると判定されない場合(NO)には、次に、操舵トルクの方向が車線から逸脱する方向であるか否かが判定される。具体的には、操舵トルクセンサ12から操舵トルクの情報を取得し、操舵トルクの方向が右旋回方向であるか否か判定される(ステップS16)。ステップS16では、例えば、例えば、Tsが正の値であるか否かによって、操舵トルクの方向が右旋回方向であるか否か判定される。
ステップS16において操舵トルクの方向が右旋回方向である場合(YES)、すなわち操舵トルクの方向が車線から逸脱する方向である場合には、次に、操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の閾値TH2以上であるか否かが判定される(ステップS17)。操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の閾値TH2以上の場合(YES)には、次に、オーバーライド判定フラグをONにする(ステップS18)。
ステップS16において操舵トルクの方向が右旋回方向ではない場合(NO)と、ステップS17において操舵トルクの絶対値|Ts|が所定の閾値TH2以上ではない場合(NO)には、次に、オーバーライド判定フラグをOFFにする(ステップS19)。
なお、ステップS17における閾値TH2は、ステップS13における閾値TH1と同じでもよいし、異なっていてもよい。
次に、図4を参照して、第1の初期目標操舵角算出部30の第1の漸近処理部37によって行われる、補正曲率算出部36が算出した補正曲率を補正する処理について説明する。前述のように、第1の漸近処理部37は、オーバーライド判定結果取得部35が取得したオーバーライド判定部11Aの判定結果に基づいて、上記の補正処理を行う。
ここで、通常の車線維持制御の実行中に算出される補正曲率の値を第1の値とする。第1の値は、第1の漸近処理部37よりも前段における補正曲率(第1の補正曲率)の値でもある。第1の漸近処理部37は、オーバーライド制御の実行中には、補正曲率の値を、その絶対値が第1の値の絶対値よりも小さい第2の値に補正する。本実施の形態では特に、第2の値は0である。また、本実施の形態では、オーバーライド判定部11Aがオーバーライド制御を実行すると判定したとき、すなわち、通常の車線維持制御の実行中に、オーバーライド判定フラグがOFFからONになったときには、第1の漸近処理部37は、補正曲率の値を、第2の値まで漸近させる。補正曲率の値が第2の値に達したら、第1の漸近処理部37は、補正曲率の値を、第2の値に保持する。
また、オーバーライド判定部11Aがオーバーライド制御を中止して通常の車線維持制御を実行すると判定したとき、すなわち、オーバーライド制御の実行中に、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときには、第1の漸近処理部37は、補正曲率の値を第1の値まで漸近させる。言い換えると、第1の漸近処理部37は、補正曲率の値が、第1の漸近処理部37よりも前段における補正曲率(第1の補正曲率)の値に戻るように、補正曲率の値を第1の値まで漸近させる。補正曲率の値が第1の値に達したら、第1の漸近処理部37は、補正曲率を補正する処理を終了する。
なお、補正曲率の値が第2の値のときに、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときには、第1の漸近処理部37は、補正曲率の値を第2の値から第1の値まで漸近させる。また、補正曲率の値の漸近中に、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときには、第1の漸近処理部37は、補正曲率の値を、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときの値から第1の値まで漸近させる。
また、補正曲率の値を第1の値または第2の値に漸近させる場合、第1の漸近処理部37は、例えば、所定の期間、補正曲率の値を線形的に漸増または漸減させることによって、補正曲率の値を第1の値または第2の値に漸近させてもよい。
次に、図6を参照して、第3の初期目標操舵角算出部50の第2の漸近処理部55によって行われる、横位置偏差算出部54が算出した横位置偏差を補正する処理について説明する。前述のように、第2の漸近処理部55は、オーバーライド判定結果取得部53が取得したオーバーライド判定部11Aの判定結果に基づいて、上記の補正処理を行う。
ここで、通常の車線維持制御の実行中に算出される横位置偏差の値を第3の値とする。第3の値は、第2の漸近処理部55よりも前段における横位置偏差(第1の横位置偏差)の値でもある。第2の漸近処理部55は、オーバーライド制御の実行中には、横位置偏差の値を、その絶対値が第3の値の絶対値よりも小さい第4の値に補正する。本実施の形態では特に、第4の値は0である。また、本実施の形態では、オーバーライド判定部11Aがオーバーライド制御を実行すると判定したとき、すなわち、通常の車線維持制御の実行中に、オーバーライド判定フラグがOFFからONになったときには、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を、第4の値まで漸近させる。横位置偏差の値が第4の値に達したら、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を、第4の値に保持する。
また、オーバーライド判定部11Aがオーバーライド制御を中止して通常の車線維持制御を実行すると判定したとき、すなわち、オーバーライド制御の実行中に、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときには、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を第3の値まで漸近させる。言い換えると、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値が、第2の漸近処理部55よりも前段における横位置偏差(第1の横位置偏差)の値に戻るように、横位置偏差の値を第3の値まで漸近させる。横位置偏差の値が第3の値に達したら、第2の漸近処理部55は、横位置偏差を補正する処理を終了する。
なお、横位置偏差の値が第4の値のときに、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときには、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を第4の値から第3の値まで漸近させる。また、横位置偏差の値の漸近中に、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときには、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を、オーバーライド判定フラグがONからOFFになったときの値から第3の値まで漸近させる。
また、横位置偏差の値を第3の値または第4の値に漸近させる場合、第2の漸近処理部55は、例えば、所定の期間、横位置偏差の値を線形的に漸増または漸減させることによって、横位置偏差の値を第3の値または第4の値に漸近させてもよい。
次に、第1の漸近処理部37の補正処理と第2の漸近処理部55の補正処理の具体例について説明する。ここでは、第2の漸近処理部55の補正処理を例にとって説明する。図8は、オーバーライド判定フラグの変化を模式的に示す説明図である。図8において、横軸は時間を示し、縦軸はオーバーライド判定フラグの値を示している。図8では、オーバーライド判定フラグがOFFのときのオーバーライド判定フラグの値を0で表し、オーバーライド判定フラグがONのときのオーバーライド判定フラグの値を1で表している。オーバーライド判定フラグは、時刻t1にOFFからONになり、時刻t2にONからOFFになっている。
図9は、横位置偏差の値の変化を模式的に示す説明図である。図9において、横軸は時間を示し、縦軸は横位置偏差を示している。なお、図9では、補正処理前の横位置偏差(第1の横位置偏差)の平均値が1になるように、横位置偏差を規格化している。また、図9では、第4の値を0としている。また、図9において、符号91は、第2の漸近処理部55によって補正された横位置偏差を示し、符号92は、補正されていない横位置偏差(第1の横位置偏差)を示している。
図8および図9に示したように、時刻t1においてオーバーライド判定フラグがOFFからONになると、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を0まで漸近させる処理を開始する。図9に示した例では、第2の漸近処理部55は、所定の期間、横位置偏差の値を線形的に漸減させることによって、横位置偏差の値を0まで漸近させている。横位置偏差の値が0に達した後は、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値が0の状態を保持する。
また、時刻t2においてオーバーライド判定フラグがONからOFFになると、第2の漸近処理部55は、横位置偏差の値を、補正されていない横位置偏差の値まで漸近させる処理を開始する。図9に示した例では、第2の漸近処理部55は、所定の期間、横位置偏差の値を線形的に漸増させることによって、横位置偏差の値を、補正されていない横位置偏差(第1の横位置偏差)の値まで漸近させている。横位置偏差の値が、補正されていない横位置偏差の値に達した後は、第2の漸近処理部55は、補正処理を終了する。
なお、ここまでは、第2の漸近処理部55の補正処理を例にとって説明してきた。第1の漸近処理部37の補正処理も、基本的には、図8および図9を参照して説明した第2の漸近処理部55の補正処理と同様である。
次に、本実施の形態に係る車線維持制御装置11の作用および効果について説明する。本実施の形態では、第1の初期目標操舵角算出部30、第2の初期目標操舵角算出部40、第3の初期目標操舵角算出部50および操舵角算出部60によって、目標操舵角を算出すると共に、オーバーライド制御の実行中には、車線曲率およびヨー角偏差を補正せずに、通常の車線維持制御の実行中に比べて、目標操舵角を小さくしている。
本実施の形態では、第1の漸近処理部37の補正処理と第2の漸近処理部55の補正処理によって、目標操舵角を小さくしている。すなわち、本実施の形態では、オーバーライド制御の実行中に、第1の漸近処理部37が、補正曲率の絶対値が小さくなるように、補正曲率を補正している。補正曲率の絶対値が小さくなると、第1の初期目標操舵角が小さくなり、その結果、目標操舵角も小さくなる。また、本実施の形態では、オーバーライド制御の実行中に、第2の漸近処理部55が、横位置偏差の絶対値が小さくなるように、横位置偏差を補正している。横位置偏差の絶対値が小さくなると、第3の初期目標操舵角が小さくなり、その結果、目標操舵角も小さくなる。
本実施の形態では、オーバーライド制御の実行中には、通常の車線維持制御の実行中に比べて、目標操舵角を小さくしている。これにより、本実施の形態よれば、オーバーライド制御の実行中に、運転者の操作方向とは反対方向に作用する制御トルクを小さくすることができ、その結果、運転者に与える違和感を抑制することができる。また、本実施の形態では、オーバーライド制御の実行中に作用する上記の制御トルクによって、運転者にオーバーライド制御の実行中であることを認識させることができる。
また、本実施の形態では、車線曲率およびヨー角偏差を補正せずに、目標操舵角を小さくしている。すなわち、本実施の形態では、オーバーライド制御の実行中であっても、車両1が車線曲率に沿って走行し、且つ対車線ヨー角が所定の目標ヨー角に一致するように、車両1が制御される。これにより、本実施の形態によれば、オーバーライド制御の実行中に、走行車線から車両1が逸脱してしまうことを防止することができる。
また、本実施の形態では、第1の漸近処理部37は、補正曲率を補正する際には、補正曲率の値を所定の値まで漸近させている。同様に、第2の漸近処理部55は、横位置偏差を補正する際には、横位置偏差の値を所定の値まで漸近させている。これにより、本実施の形態によれば、目標操舵角を徐々に変化させることができ、その結果、運転者に与える違和感をより抑制することができる。
なお、本実施の形態では、第1の漸近処理部37は、補正処理によって、補正曲率の値を第2の値すなわち0にしている。同様に、第2の漸近処理部55は、補正処理によって、横位置偏差の値を第4の値すなわち0にしている。補正曲率と横位置偏差の各々の値が0の場合には、車線の中央に車両1を近づける制御が実行されない。
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変えない範囲において、種々の変更、改変等が可能である。