JP2020031628A - 生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法 - Google Patents

生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】イミダゾールペプチド、特にバレニンを豊富に含み得る、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の提供。【解決手段】生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される、バレニンを7wt%以上含有する、抽出物。前記液状媒体が、アルコールである、前記抽出物。さらに、イミダゾールジペプチドを25wt%以上含有する、前記抽出物。【選択図】図1

Description

本発明は、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法に関する。
健康は市民生活を豊かにし、活力ある社会の構築に貢献する。健康の維持又は増進に役立ち得る食品を提供することは、今や先進国のみならず開発途上国においても重要な課題である。そのような食品の代表格の一つは、魚に代表される水産物である。人間は、長期にわたって魚を食しており、その良質な動物性たんぱく質、低カロリー、及び脳機能の改善といった特徴については、従来から注目されてきた。
近年、人間の生理機能を高めると言われる水産物のうち、抗酸化作用及び/又は抗疲労作用等に着目した魚にも注目が集まっている(非特許文献1)。
例えば、イミダゾールジペプチドに分類される物質が主として3種類が存在し、一般的には、魚の中に存在するイミダゾールジペプチドの種類は偏っている。具体的には、イミダゾールジペプチドのうち、アンセリンとカルノシンが主として魚に含まれている。例えば、カツオ、マグロといった高速回遊魚は、アンセリンを比較的多く含むことが知られている。また、カルノシンとアンセリンは、魚介類以外にも、例えば豚肉又は鶏肉に豊富に含まれている。そのため、カルノシンとアンセリンについての研究は盛んに進められている。特にカルノシンについては、血清又は組織中に存在するカルノシンジペプチダーゼによってカルノシンが分解され、カルノシンの機能発揮の障害となっていることから、カルノシンジペプチダーゼ阻害用組成物が開示されている(特許文献1)。
国際公開第WO2017/104777号公報
西谷,他3名,「総説 新規抗疲労成分:イミダゾールジペプチド」,日本補完代替医療学会誌 第6巻第3号,2009年10月,p123−129 高橋,他4名,「アンセリン含有サケエキスの高脂肪食飼育ラットに対する脂肪蓄積抑制効果」,日本水産学会誌 第76巻第6号,2008年,p1075−1081 大村,他8名,「アカマンボウ Lampris guttatus筋肉中のバレニン含量」,平成30年度日本水産学会春季大会 講演要旨集,2018年3月26日,p92
一方、イミダゾールジペプチドに分類される他の物質は、バレニンである。バレニンを筋肉等に含む動物は、鯨やホタテガイ等、極めて限定されている。加えて、他のイミダゾールジペプチドとともにバレニンを比較的多く含む肉として知られている鯨肉は、捕鯨が実質的に禁止されている状況では、摂取することが不可能又は非常に困難となっている。そのため、かつて捕鯨国であった国であっても、現状ではバレニンを摂取する機会が非常に少なくなっている。
イミダゾールジペプチドの中でも、バレニンは、餌も食べずに長距離を泳ぎ続けることができる鯨の生態からも、他のイミダゾールジペプチド(カルノシン、アンセリン)と比較して、抗酸化作用及び/又は抗疲労作用の観点で優位性があると考えられる物質である。従って、捕鯨が実質的に禁止されている状況であっても、イミダゾールジペプチド、特にバレニンを継続的に摂取するための方法を見出す努力を続けることは、健康の維持又は増進を図る社会にとって極めて重要である。
本発明は、イミダゾールジペプチド、特にバレニンを豊富に含み得る、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法の実現に大きく貢献するものである。
本発明者は、鯨肉が実質的に摂取不可能又は困難となった状況を踏まえ、鯨に代わる、又は鯨を超えるバレニンを含む可能性のある海洋生物について、その生態を含めた研究と分析に取り組んだ。多くの調査と分析を重ねた結果、本発明者は、連続的運動に対応できる回遊魚という観点から離れ、何らかの影響によって抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を体内で発揮しているであろうと思われる深海魚に着眼するに至った。
その後の本発明者による更なる試行錯誤と分析により、様々な深海魚の中でもアカマンボウ(「マンダイ」とも呼ばれる)が、非常に豊富な量のイミダゾールジペプチド、特にバレニンを含有していることを本発明者は知得した。そこで、本発明者がこのアカマンボウの研究と分析を集中的に行った。その結果、例えばアカマンボウの略全ての部位に対して熱を加えた場合であっても、該魚肉が有するバレニン含有量が実質的に変動しないという、大変興味深い技術的知見を得た。
さらに分析を進めたところ、アカマンボウが含有するイミダゾールジペプチドが下記の(1)〜(4)の特徴を有することも、本発明者は知得した。
(1)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(頭部、内臓、及び皮)も、可食部(普通筋)に匹敵する量のバレニンを含んでいること。
(2)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの量は、該可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの量よりも顕著に多いこと。
(3)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量と、該可食部(普通筋)と異なる部位(特に、内臓及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量とが顕著に異なっていること。
(4)アカマンボウの普通筋と比較して、血合肉のイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいこと。
本発明は、上述の視点、及び技術的知見に基づいて創出された。
本発明の1つの抽出物は、アカマンボウ由来であり、かつ生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物である。
この抽出物によれば、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該抽出物を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。なお、バレニンを豊富に含むこの抽出物によれば、上述の作用以外にも、乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下を抑制する効果が奏され得る。
本発明の1つの抽出物の製造方法は、アカマンボウを20℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む。
また、本発明のもう1つの抽出物の製造方法は、アカマンボウを60℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む。
これらの抽出物の製造方法によれば、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有する、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を製造することができる。そのため、該抽出物を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。また、上述の抽出工程においては、20℃以上又は60℃以上の生理学的に許容可能な液状媒体にアカマンボウ(切断された状態、又は細片化された状態を含む)を接触させることは、アカマンボウが有するタンパク質を凝固させるとともに、該タンパク質が、いわば保持していた該抽出物を解放することになるため、該抽出物のより確度高い回収を可能にする。なお、バレニンを豊富に含むこの抽出物を製造することにより、製造された該抽出物は、上述の作用以外にも、乳酸によるpH低下に起因する筋活動の低下を抑制する効果が奏し得る。
なお、上述のとおり、該アカマンボウの血合肉が含有するイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつきが高いことが明らかとなった。従って、上述の各発明において、血合肉から形成されたアカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の割合が5wt%未満にまで抑えられることは、該アカマンボウ由来の該抽出物が含有するイミダゾールジペプチド又はバレニンの含有量のバラつきを抑える、換言すれば、イミダゾールジペプチド又はバレニンの含有量の均一性を高める観点から、好適な一態様である。
ところで、本願において「皮」又は「皮部」とは、アカマンボウの最表面から内側(体内側)に向けて10mm未満の厚みを有する部位を意味する。また、本願において「血合肉」とは、魚類の体側にある筋肉のうち、暗赤色を呈する部分をいう。別の指標で見れば、本願において「血合肉」とは、「普通筋」に含まれる鉄分量の2倍以上の鉄分量を含有する部位をいう。
本発明の1つの生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物によれば、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該抽出物を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。
また、本発明の1つの生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の製造方法によれば、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有する該抽出物を製造することができる。そのため、該抽出物を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得る。
第1の実施形態のアカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の製造工程を示すフローである。 第1の実施形態のアカマンボウの切断箇所、及び部位を示すアカマンボウの一部を示す写真である。 第2の実施形態のアカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の製造工程を示すフローである。 第1の実施形態の抽出工程において、温度が20℃〜60℃の水を用いて抽出したときの、普通筋20aにおけるバレニンの量(mg/100g)と、温度が60℃の水を用いて抽出されたバレニンの量を1としたときの、20℃〜50℃の水を用いて抽出されたバレニンの量の割合を示すグラフである。
本発明の実施形態として、アカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態のアカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物(本実施形態においては、「水溶性抽出物」。以下、本実施形態においては代表して「水溶性抽出物」と表記する。)の製造工程を示すフローである。本実施形態の水溶性抽出物及びその製造方法においては、図1に示す各処理工程が、水溶性抽出物の製造方法における全工程又はその一部となり得る。従って、本実施形態の水溶性抽出物の製造方法は、必ずしも図1に示す各処理工程の全てを含むことを要しない。また、図2は、本実施形態のアカマンボウ100の切断箇所及び部位を示すアカマンボウ100の一部を示す写真である。
具体的には、図1に示すように、漁獲されたアカマンボウ100が冷凍される(ステップS1)。その後、図2に示すように、アカマンボウ100の、頭部10、筋肉20(より細かく分類すれば、普通筋20a及び血合肉20b)、内臓部30、並びに尾ひれ90が、それぞれ分かれるように、略直線状にC、C、及びCに沿って冷凍状態のアカマンボウ100を切断する、切断(解体)工程が行われる(ステップS2)。なお、図2においては、背びれを含む一部の部位が写真に表れていないが、表示されていない部位は、本実施形態の水溶性抽出物の原料ではないため、当該部位の説明を省略する。
ここで、図2におけるCに示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100のカマが筋肉20に含まれないように、かつ該カマにおける筋肉20側の端部の略接線方向に沿って実施される。また、図2におけるCに示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100の目と口が頭部10に含まれるように実施される。加えて、Cに示される切断は、本実施形態のアカマンボウ100の筋肉20が、極力、尾ひれ90に含まれないように実施される。なお、本実施形態においては、尾ひれ90は、本実施形態の水溶性抽出物の原料ではないため、当該部位の説明を省略する。なお、本実施形態の切断(解体)工程においては、公知のバンドソー装置が用いられているが、該工程においてアカマンボウを切断する手段は、該バンドソー装置に限定されない。C、C、及びCに沿って冷凍状態のアカマンボウを切断することができる他の公知の切断方法も採用され得る。
その後、公知のチョッパー装置(例えば、株式会社なんつね社製、型式:MC−22)による細片化を行うために、該チョッパー装置に導入することが可能となる程度に、冷凍状態であったアカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)を、それぞれ完全に又は不完全に解凍する。その後、該チョッパー装置を用いた細片化工程が行われることにより、例えば、10mmφの貫通孔を備えたプレートから細片化されたミンチ状の該各部位を得ることができる。なお、本実施形態の細片化工程においては、公知のチョッパー装置が用いられているが、該工程において細片化された該各部位を得る手段は、該チョッパー装置に限定されない。例えば、公知のサイレントカッターも、細片化工程において採用され得る。
[アカマンボウ由来の細片化された各部位のイミダゾールジペプチド含有量の分析]
ここで、本発明者は、本実施形態の細片化された各部位が含有する、バレニンを含むイミダゾールジペプチドの量について分析を行った。具体的には、上述のように細片化された各部位から、過塩素酸抽出エキスを調製した上で、公知のアミノ酸自動分析計を用いて、図2に示す各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の細片化された各部位に関する遊離アミノ酸及び結合アミノ酸に関する分析を行った。
なお、表1における「Bal.」は「バレニンの含有量」を意味する。また、「Ans.」は「アンセリンの含有量」を意味し、「Cal.」は「カルノシンの含有量」を意味する。従って、表1における「合計(Imd.)」は、イミダゾールジペプチドの含有量を意味する。理解を容易にするために、各数値の下段には、イミダゾールジペプチドの含有量に対する比率(%)がカッコ書きによって表示されている。また、表1における各欄における「±」以降は、標準偏差を意味する。また、表1における分析対象としての皮部40は、筋肉20の部位の皮である。加えて、表1及び後述する表2における各数値における一の位の値は四捨五入している。
また、この分析においては、塩酸加水分解して結合アミノ酸を分析することにより、高濃度の3−メチルヒスチジンが検出された結果に基づいて、バレニンの存在が明らかとなった。また、バレニンの標準品を用いた加水分解液中の3−メチルヒスチジンに基づいてバレニンの量を定量することにより、細片化された各部位中のバレニンの量が定量された。
表1に示すように、この分析により、細片化された各部位中のバレニンを含むイミダゾールジペプチドの量に関する下記の(1)〜(4)の特徴が明らかとなった。
(1)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(頭部、内臓、及び皮)も、可食部(普通筋)に匹敵する量のバレニンを含んでいること。
(2)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)と異なる部位(内臓、及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの量は、該可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの量よりも顕著に多いこと。
(3)アカマンボウの、いわゆる可食部(普通筋)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量と、該可食部(普通筋)と異なる部位(特に、内臓及び皮)が含有するイミダゾールジペプチドの種類ごとの量とが顕著に異なっていること。
(4)アカマンボウの普通筋と比較して、血合肉のイミダゾールジペプチド(バレニンを含む)の量のバラつき(標準偏差)が非常に大きいこと。
なお、上述の特徴の(1)に関してより具体的に説明すれば、少なくともアカマンボウ100由来の細片化された各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)が含有するバレニンの量は、ミンククジラの背肉赤肉が含有するバレニンの量と同等、又は該バレニンの量よりかなり多いと言える。また、興味深いことに、表1の普通筋20aの中でも、普通筋20a中心から頭側の普通筋20aのバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量が、普通筋20a中心から尾側の普通筋20aのバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量よりも、約10%多いことが確認された。
なお、本実施形態においては、「普通筋20a中心」の位置は、頭部10の先端(口部の先端)から普通筋20aの尾側の端(従って、尾ひれ90を含まない)までの長さ(図2における「L」)を1としたときの、頭側先端から0.5の位置と定義される。従って、バレニンの含有量が多い普通筋20aをより確度高く得るためには、頭側先端から0.4以下までの普通筋20aを含む普通筋20aからイミダゾールジペプチド及び/又はバレニンを得ることは好適な一態様である。
本実施形態においては、その後、細片化された各部位を約60〜約100℃の抽出媒体としての水(イオン交換水)に接触させる。より具体的には、細片化された各部位が、公知の容器内の約60℃〜約100℃の該抽出媒体中に浸漬される抽出工程(ステップS3)が行われる。なお、本実施形態の抽出工程においては、意図的な該抽出媒体の撹拌は行われていないが、意図的に該抽出媒体を撹拌することも採用し得る一態様である。
その後、本実施形態においては、細片化された各部位が該抽出媒体中に浸漬されてから約2時間後に、該細片化された各部位からの水溶性抽出物を含有する該抽出媒体(本実施形態においては、水溶液)を、遠心分離機を用いて該各部位(残渣として取り扱われ得る)と分離する、分離工程が行われる(ステップS4)。具体的には、300メッシュのろ布を用いた遠心ろ過処理を行うことにより、本実施形態の水溶性抽出物を製造することができる。なお、本実施形態の水溶性抽出物は、液状である。また、本実施形態の分離工程においては、300メッシュのろ布を用いた遠心ろ過処理が採用されているが、本実施形態の分離工程はそのような態様に限定されない。公知の分離工程(例えば、遠心沈降による分離処理)も採用し得る他の一態様である。
<第1の実施形態の変形例(1)>
本変形例においては、図1に示すように、第1の実施形態の水溶性抽出物の製造工程によって製造された水溶性抽出物をさらに濃縮することにより、より豊富な量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する濃縮抽出物としての水溶性抽出物(以下、単に「濃縮抽出物」ともいう。)を製造するための濃縮工程(ステップS5)が行われ得る。例えば、約1時間〜約8時間、温度が約60℃であって、減圧(例えば、0.03MPa)状態の空間内に、第1の実施形態の水溶性抽出物を攪拌する又は静置させることにより、濃縮抽出物を製造することができる。なお、本変形例の濃縮工程においては、前述の処理条件が採用されているが、本変形例の濃縮工程はそのような態様に限定されない。後述する精製工程とは異なる公知の他の濃縮工程も採用し得る他の一態様である。また、本変形例の濃縮工程が行われる前に、殺菌処理(例えば、加熱処理)が行われることも、採用し得る他の一態様である。また、濃縮工程(ステップS5)において、第1の実施形態の水溶性抽出物を攪拌する又は静置させる温度が20℃以上、30℃以上、40℃以上、又は50℃以上であれば、本変形例の効果の少なくとも一部が奏され得る。
ここで、本変形例の濃縮工程によって得られた濃縮抽出物が含有するバレニンの量を分析した結果、例えば、水分を約75wt%含有する(換言すれば、固形分が約25wt%である)濃縮抽出物を試料とした場合は、濃縮抽出物の総量に対するバレニンの含有量は、5wt%以上(より狭義には、9wt%以上)であることが確認された。従って、本変形例の濃縮工程によって得られた濃縮抽出物が含有するイミダゾールジペプチドの量も、5wt%以上(より狭義には、9wt%以上)含まれていることが明らかとなった。
<第1の実施形態の変形例(2)>
本変形例においては、図1に示すように、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物としての生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物(本変形例においては、「水溶性抽出物」。以下、本変形例においては代表して「水溶性抽出物」と表記する。)の製造工程によって製造された濃縮抽出物を乾燥させることにより、乾燥抽出物を得る乾燥工程(ステップS6)が行われ得る。
本変形例においては、乾燥工程の代表的な例としての、真空乾燥(減圧乾燥を含む)工程又は凍結乾燥工程が行われる。ここで、本変形例における「真空乾燥(又は減圧乾燥)工程」とは、加熱しつつ真空状態(又は減圧状態)で乾燥させる工程を意味する。また、本変形例における「凍結乾燥工程」は、「凍結真空乾燥工程」又は「凍結減圧乾燥工程」を含む。
なお、本変形例の乾燥抽出物が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量が顕著に(例えば、約20%以上)損なわれない限り、前述の2種類の乾燥工程の代わりに、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、過熱水蒸気乾燥、フライ乾燥、減圧フライ乾燥、ドラム乾燥、又は天日乾燥による乾燥工程を採用することもできる。
例えば、真空乾燥工程が採用される場合、公知の方法及び装置を用いることができる。例えば、連続式ベルト乾燥装置又は真空ドラム式乾燥装置が採用され得る。本実施形態においては、大気圧を0としたゲージ圧−0.093MPaの圧力下であって約60℃の環境下において、約12時間〜約72時間、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物を攪拌する又は静置させることによって、本変形例の乾燥抽出物を形成することができる。なお、この真空乾燥工程において、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物を攪拌する又は静置させる温度が20℃以上、30℃以上、40℃以上、又は50℃以上であれば、本変形例の効果の少なくとも一部が奏され得る。
次に、凍結乾燥工程が採用される場合も、公知の方法及び装置を用いることができる。例えば、凍結乾燥装置(協和真空技術社製、型式:RL4522BS)が採用され得る。本実施形態においては、約266Paの圧力下であって約−20℃の環境下において、約168時間、第1の実施形態の変形例(1)の濃縮抽出物を攪拌する又は静置させることによって、バレニンを7wt%(より狭義には10wt%以上、又は15wt%以上、あるいは20wt%以上、さらに狭義には25wt%以上、非常に狭義には30wt%以上)含有する本変形例の乾燥抽出物を形成することができる。
なお、真空乾燥又は凍結乾燥に代表される本変形例の乾燥抽出物の水分量は、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が本変形例の乾燥抽出物の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が本変形例の乾燥抽出物の5wt%以下であることがより好ましく、本変形例の乾燥抽出物の3wt%以下であることが更に好ましい。
その後、本変形例の乾燥抽出物をさらに粉砕することによって粗粉体を得るための粉末化工程(ステップS7)が行われることは採用し得る一態様である。本実施形態においては、例えば、公知のハンマーミル(例えば、ホソカワミクロン株式会社製ハンマーミル)が採用され得る。より具体的には、粒度が2mm以下になるように設定された処理条件によって、本変形例の乾燥抽出物が粉末化され得る。
なお、本変形例の乾燥抽出物が含有するイミダゾールジペプチド(特に、バレニン)の量が顕著に(例えば、約20%以上)損なわれない限り、前述のハンマーミルの代わりに、ピンミル、ボールミル、インパクトミル、エッジランナーミル、ローラーミル、振動ミル、円錐形粉砕機、ジェットミル、又はその他の公知の機械式衝撃/粉砕装置を採用することもできる。
上述の各工程を経て、アカマンボウ100由来である、本実施形態の粗粉体としての乾燥抽出物(以下、単に「粗粉体」ともいう)を製造することができる。
ここで、本発明者は、本変形例の粉末化工程によって得られた粗粉体としての乾燥抽出物が含有するバレニンの量を分析した。その結果、例えば、アカマンボウ100の筋肉20に着目すれば、水分を約5wt%含有する(換言すれば、固形分が約95wt%である)粗粉体を試料とした場合は、粗粉体の総量に対するバレニンの含有量は、7wt%(より狭義には10wt%以上、又は15wt%以上、あるいは20wt%以上、さらに狭義には25wt%以上、非常に狭義には30wt%以上)という非常に高い含有量であることが確認された。従って、本変形例の粉末化工程によって得られた粗粉体が含有するイミダゾールジペプチドの量も、7wt%(より狭義には10wt%以上、又は15wt%以上、あるいは20wt%以上、さらに狭義には25wt%以上、非常に狭義には30wt%以上)含まれていることが明らかとなった。
なお、本変形例の粗粉体としての乾燥抽出物の水分量も、上述と同様に、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が本変形例の粗粉体の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が本変形例の粗粉体の5wt%以下であることがより好ましく、本変形例の粗粉体の3wt%以下であることが更に好ましい。
加えて、本変形例の粗粉体は、精製工程を経ずに製造された粗粉体である。より具体的には、該粗粉体は、例えば、非特許文献2において開示されている方法のように、該粗粉体を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用してバレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われずに得られた粗粉体である。従って、精製されていない粗粉体であっても、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、上述のように非常に豊富な量のバレニンを含有していることは、イミダゾールジペプチド及び/又はバレニンの歩留まり(収率を含む)の向上、製造工程の簡素化(製造時間の短縮化を含む)、製造コストの低減等、多くの利点を生み出すため、特筆に値する。
<第1の実施形態の変形例(3)>
本変形例においては、図1に示すように、第1の実施形態の変形例(2)の製造工程によって製造された粗粉体としての乾燥抽出物をさらに分級することにより、1mm未満(より好ましくは、0.8mm未満)の粒子径を有する粉体からなる微粉体としての乾燥抽出物(以下、単に「微粉体」ともいう)を得るための分級工程(ステップS8)が行われ得る。
本変形例の分級工程(ステップS8)を採用することにより、例えば、目開きが0.7mmの篩(ふるい)を通過する、微粉体のみを回収することができる。その結果、アカマンボウ100由来の本変形例の乾燥抽出物(1mm未満の粒子径を有する粉体からなる微粉体としての乾燥抽出物)を製造することができる。なお、第1の実施形態の変形例(2)における粉末化工程において採用されたハンマーミル等が分級機能をも備えている場合は、粉末化工程と分級工程とが同時に実施され得る。
ここで、本発明者は、本変形例の分級工程によって得られた微粉体が含有するバレニンの量を分析した。その結果、例えば、アカマンボウ100の筋肉20に着目すれば、水分を約5wt%含有する(換言すれば、固形分が約95wt%である)微粉体を試料とした場合は、微粉体の総量に対するバレニンの含有量は、7wt%(より狭義には10wt%以上、又は15wt%以上、あるいは20wt%以上、さらに狭義には25wt%以上、非常に狭義には30wt%以上)という非常に高い含有量であることが確認された。従って、本変形例の分級工程によって得られた微粉体が含有するイミダゾールジペプチドの量も、7wt%(より狭義には10wt%以上、又は15wt%以上、あるいは20wt%以上、さらに狭義には25wt%以上、非常に狭義には30wt%以上)含まれていることが明らかとなった。なお、現段階において本発明者が確認できている最も高い結果を述べると、微粉体としての該乾燥抽出物の総量に対するバレニンのみの含有量として、約35wt%の値が得られていることは特筆に値する。
なお、別の視点で本変形例の微粉体を評価すると、例えば、アカマンボウ100の筋肉20に着目すれば、漁獲されたアカマンボウ100の筋肉20の質量(例えば、1kg)を基準としたときの、該筋肉20由来の乾燥抽出物(微粉体としての乾燥抽出物)の質量の比率(すなわち、収率)は、50g超(より狭義には、60g以上)であった。また、大変興味深いことに、微粉体としての該乾燥抽出物のうちのバレニンの含有量が占める割合の一例は、25wt%以上(より狭義には、30wt%以上)という極めて高い値であった。
なお、本変形例の微粉体としての乾燥抽出物の水分量も、上述と同様に、適宜、公知の手段によって調整され得る。但し、運搬の容易化及び/又は取り扱いの容易化の観点から、該水分量が本変形例の微粉体の0wt%超10wt%以下であることは好適な一態様である。なお、前述の観点から言えば、該水分量が本変形例の微粉体の5wt%以下であることがより好ましく、本変形例の微粉体の3wt%以下であることが更に好ましい。
上述のとおり、本変形例における微粉体としての乾燥抽出物は、精製工程を経ずに製造された微粉体である。より具体的には、該微粉体は、例えば、非特許文献2において開示されている方法のように、該微粉体を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用してバレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われずに得られた微粉体である。従って、精製されていない微粉体としての微粉体であっても、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用を発揮し得るイミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有していることは、特筆に値する。
表2は、冷凍工程から分級工程までの各工程(ステップS1〜S8)が行われたときの、普通筋20aの生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物(本変形例においては、「水溶性抽出物」。以下、本変形例においては代表して「水溶性抽出物」と表記する。)の表1に対応する分析結果の一例を示している。
なお、この分析においては、塩酸加水分解して結合アミノ酸を分析することにより、高濃度の3−メチルヒスチジンが検出された結果に基づいて、バレニンの存在が明らかとなった。また、バレニンの標準品を用いた加水分解エキス中の3−メチルヒスチジンに基づいてバレニンの量を定量することにより、各部位の水溶性抽出物中のバレニンの量が定量された。
表2に示すように、第1の実施形態のステップS2によって切断された普通筋20aから製造された水溶性抽出物における、(バレニンを含む)イミダゾールジペプチドの含有量(例えば、表2における27850mg/100g)に対するバレニン含有量(例えば、表2における23870mg/100g)の比率が、約86%であった。この値は、表1における同基準の比率(約88%)とほぼ同等であるといえる。なお、説明の便宜上、前述の比率を、「イミダゾールジペプチド−バレニン比率」ともいう。
従って、本実施形態において製造された水溶性抽出物は、極めて高いバレニン含有量と、極めて高い「イミダゾールジペプチド−バレニン比率」を実現し得ることが確認された。加えて、本実施形態において製造された水溶性抽出物は、第1の実施形態のアカマンボウ由来の各部位のイミダゾールジペプチド含有量、バレニン含有量、及び前述の「イミダゾールジペプチド−バレニン比率」を、ほぼそのまま反映し得る物質であることが確認された。
なお、第1の実施形態と同様に、本実施形態において製造された水溶性抽出物が含有するバレニンの量は、ミンククジラの背肉赤肉が含有するバレニンの量と同等、又は該バレニンの量よりかなり多いと言える。
上述の結果及び他の実験結果を受け、本発明者らの分析と検討の結果、本実施形態において製造された水溶性抽出物が含有するバレニンの含有量、及びイミダゾールジペプチドの含有量、及び「イミダゾールジペプチド−バレニン比率」について、本発明者らは、下記の数値範囲を実現し得ることを知得した。
(1)水溶性抽出物全体の質量に対して、バレニンの含有量が7wt%以上(より狭義には、10wt%以上)である。
(2)水溶性抽出物全体の質量に対して、イミダゾールジペプチドの含有量が25wt%以上である。
(3)本実施形態の水溶性抽出物の「イミダゾールジペプチド−バレニン比率」については、イミダゾールジペプチド(但し、バレニンを含む)の含有量を1としたときの、該バレニンの含有量が、0.5以上0.97以下(より狭義には、0.75以上0.97以下)である。
<第2の実施形態>
本実施形態の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法においては、図3に示す各処理工程が、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物(本実施形態においては、「水溶性抽出物」。以下、本実施形態においては、代表して「水溶性抽出物」と表記する。)の製造方法における全工程又はその一部となり得る。従って、本実施形態の水溶性抽出物の製造方法は、必ずしも図3に示す各処理工程の全てを含むことを要しない。また、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(3)と重複する説明は省略され得る。
具体的には、図3に示すように、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(2)に示す、冷凍工程から乾燥工程(ステップS1〜S6)まで、冷凍工程から粉末化工程までの各工程(ステップS1〜S7)、又は冷凍工程から図示しない分級工程までの各工程(ステップS1〜S8)が行われた後、あるいは、冷凍工程から分離工程(ステップS1〜S4)が行われた後、本実施形態の精製工程(ステップS9)が行われる。
本実施形態の精製工程(ステップS9)においては、非特許文献2において開示されている方法のように、乾燥抽出物又は粗粉体としての乾燥抽出物を水等に溶解させた後、イオン交換樹脂(例えば、陽イオン交換樹脂)を利用して、バレニンを含むイミダゾールジペプチドを抽出し精製する工程が行われる。その結果、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(3)よりも豊富な含有率のイミダゾールジペプチド、及び豊富な含有率のバレニンを含有する水溶性抽出物を製造することができる。
なお、本実施形態の精製工程(ステップS9)が行われることによって得られる水溶性抽出物全体の質量に対するイミダゾールジペプチドの含有量及びバレニンの含有量の上限は特に限定されないため、それぞれの含有量の上限は、いわば100wt%未満といえる。敢えて上限値を言及すれば、より狭義には、該イミダゾールジペプチドの含有量及び該バレニンの含有量は99wt%以下であり、更に狭義には、95wt%以下である。また、この上限値の数値範囲については他の実施形態にも適用され得る。
<その他の実施形態>
ところで、第1の実施形態及びその各変形例、並びに第2の実施形態においては、アカマンボウ100の各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の特徴を知るために、個別に抽出工程(ステップS3)及び分離工程(ステップS4)、並びに必要に応じた濃縮工程(ステップS5)、乾燥工程(ステップS6)、粉末化工程(ステップS7)、分級工程(ステップS8)、又は精製工程(ステップS9)が行われているが、本実施形態はそのような態様に限定されない。
例えば、表1に示すように、カルノシンを多く含むためにイミダゾールジペプチドの量が多い内臓部30と皮部40とを混合し得る状態となるように、切断(解体)工程(ステップS2)以降の各工程が実施されることも採用し得る一態様である。また、バレニンを含むイミダゾールジペプチドを豊富に含有するという、顕著な特徴を有する各部位(頭部10,普通筋20a,血合肉20b,内臓部30,皮部40)の全てを混合し得る状態となるように、切断(解体)工程(ステップS2)以降の各工程が実施されることも採用し得る一態様である。
また、第1の実施形態及びその各変形例、並びに第2の実施形態においては、はえ縄漁船によって漁獲されたアカマンボウを、速やかに(例えば、60分以内)に漁船上において低温凍結処理(例えば、−65℃以上−15℃以下)を施したが、アカマンボウの漁獲方法、及びアカマンボウの漁船における保存方法は前述の例に限定されない。但し、イミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量を自己消化によって減少させる可能性を低減する観点から言えば、漁獲されたアカマンボウを、速やかに(例えば、60分以内)に漁船上において低温凍結処理(例えば、−65℃以上−15℃以下)することは、好適な一態様である。
また、第1の実施形態においては、細片化されたアカマンボウ100の各部位が、該容器内の約60℃以上約100℃以下の抽出媒体(例えば、水)中に浸漬される抽出工程(ステップS3)が行われるが、第1の実施形態はそのような抽出工程に限定されない。例えば、次の(a)〜(c)に示すような抽出工程(ステップS3)を採用することも、第1の実施形態の好適な変形例である。
(a)温度が20℃以上、30℃以上、40℃以上、又は50℃以上の抽出媒体(例えば、水)中に、細片化されたアカマンボウ100の各部位が浸漬される抽出工程
(b)抽出工程の該容器内の圧力が、通常採用される約1atm(約0.101MPa)とは異なる圧力(例えば、約0.001MPa以上約100MPa以下(但し、約0.101MPaを除く))である抽出工程
(c)抽出媒体が、生理学的に許容可能な液状媒体(例えば、有機液状媒体)、及び/又は他の生理学的に許容可能な液状媒体の例としての塩水である抽出工程
ここで、前述の「生理学的に許容可能な液状媒体」は、アルコール(代表的には、高純度のエタノール(例えば、99.5%、又は100%))に限定されない。例えば、ビール、ワイン、及び日本酒を含む醸造酒、ウィスキー、焼酎、及びウォッカを含む蒸留酒、並びに、カシス及びカンパリを含む混成酒を含み得る。なお、水が「生理学的に許容可能な液状媒体」に含まれることは言うまでもない。
なお、上述の第1の実施形態の変形例として説明した各抽出工程(ステップS3)のうち、(a)の抽出工程が採用された場合は、より低温による抽出が実現されるため、省エネルギーに寄与し得る。本発明者が調べた結果、通常採用される約1atm(約0.101MPa)下において、該抽出媒体の温度が20℃であっても、第1の実施形態の一例としての温度(約60℃)において抽出できる量を1としたときに約0.77を抽出し得るという知見を得ている。
上述の内容を、より具体的なデータに基づいて説明する。図4は、第1の実施形態の抽出工程において、温度が20℃〜60℃の水を用いて抽出したときの、普通筋20aにおけるバレニンの量(mg/100g)(図4の点線)と、温度が60℃の水を用いて抽出されたバレニンの量を1としたときの、20℃〜50℃の水を用いて抽出されたバレニンの量の割合(図4の実線)を示すグラフである。なお、バレニンの量の分析方法は、第1の実施形態において説明された方法と同様である。
図4に示すように、20℃以上の抽出媒体(例えば、水)を採用することにより、60℃の抽出媒体(例えば、水)の場合と比較しても遜色ない程度のバレニンの量(75%以上)を得ることが可能であることを確認することができた。なお、20℃という、抽出温度としてはかなり低温の抽出媒体であっても、上述のとおり相当量のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)を抽出し得ることは、特筆に値する。
また、上述の第1の実施形態の変形例として説明した各抽出工程(ステップS3)のうち、(b)の抽出工程が採用された場合は、例えば、通常採用される圧力よりも高い圧力によって抽出される場合は、より低温の抽出媒体を用いて抽出工程を実現し得る。
また、上述の第1の実施形態の変形例として説明した各抽出工程(ステップS3)のうち、(c)の抽出工程が採用された場合は、抽出物の風味を向上させることに寄与し得る。例えば、エタノール(純度99.5%)を用いて上述の(c)の抽出工程が行われた場合のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量は、水を抽出媒体とした場合のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)の量の約70%であることが確認されている。従って、抽出媒体がアルコールである場合は、抽出媒体が水である場合よりも抽出量が減少するが、水の場合の抽出量の約70%であっても、相当量のイミダゾールジペプチド(代表的には、バレニン)が抽出されることは特筆に値する。従って、水以外の抽出媒体が採用された場合であっても、第1の実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。
また、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(3)、第2の実施形態、並びにその他の実施形態においては、アカマンボウ100の背びれ又は尾ひれ90が生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物(代表的には水溶性抽出物であるが、水溶性抽出物に限定されない。また、濃縮抽出物及び乾燥抽出物を含む。以下、同じ。)に含まれていないが、該抽出物は、そのような態様に限定されない。例えば、該抽出物の製造工程をより簡便化するために、図2におけるCに示される切断を行わずに、その後の各工程が行われることも、採用し得る一態様である。従って、背びれ及び/又は尾ひれ90が、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(3)、並びに第2の実施形態の抽出物の構成成分の一つとして含まれることも採用され得る。
一方、表1に示すように、血合肉20bが含有するイミダゾールジペプチド又はバレニンの量のバラつきは大きい。従って、より安定した量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を得る観点から言えば、上述のように各部位が混合される場合には、混合される血合肉20bの量が5wt%未満であることが好ましい。また、別の観点から言えば、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(3)、並びに第2の実施形態の該抽出物について、血合肉から形成された、アカマンボウ由来の生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物の割合が5wt%未満であることが、より安定した量のイミダゾールジペプチド又はバレニンを含有する該抽出物の製造を実現し得る。
さらに、第1の実施形態及びその各変形例(1)〜(3)、第2の実施形態、並びにその他の実施形態において製造された、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を構成成分の一部として含む、錠剤、カプセル剤、散剤(顆粒剤を含む)、丸剤、シロップ剤、液剤、ドリンク剤、トローチ剤、ドロップ、水飴等(以下、総称して「製剤」という。)を製造することは、採用し得る好適な一態様である。該製剤は、イミダゾールジペプチド、特に、非常に豊富な量のバレニンを含有しているため、該製剤を摂取することにより、例えば抗酸化作用及び/又は抗疲労作用が奏され得る。なお、該製剤は、公知の製造方法によって製造され得る。また、該製剤は、成形性の向上又は経口投与するときの容易性の向上等のため、適宜、賦形剤、結合剤、崩壊剤、又は湿潤剤、あるいは蜂蜜又は米粉等を混合することによって形成され得る。
本発明の1つの生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物及びその製造方法、並びに剤形は、バレニンを豊富に含み得る魚由来の該抽出物及びその製造方法であるため、食品業及び水産業に限らず、医薬、健康、医療、美容に関連する各産業においても極めて有用である。
10 頭部
20 筋肉
20a 普通筋
20b 血合肉
30 内臓部
90 尾ひれ
100 アカマンボウ

Claims (16)

  1. アカマンボウ由来であり、かつ
    生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される、
    抽出物。
  2. バレニンを7wt%以上含有する、
    請求項1に記載の抽出物。
  3. バレニンを10wt%以上含有する、
    請求項1に記載の抽出物。
  4. さらに、イミダゾールジペプチドを25wt%以上含有する、
    請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の抽出物。
  5. 前記イミダゾールジペプチド(但し、バレニンを含む)の含有量を1としたときの、前記バレニンの含有量が、0.5以上0.97以下である、
    請求項4に記載の抽出物。
  6. 精製されていない、
    請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の抽出物。
  7. 血合肉から形成された、前記アカマンボウ由来の前記抽出物の割合が5wt%未満である、
    請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の抽出物。
  8. 水分量が0wt%超10wt%以下の粉体である、
    請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の抽出物。
  9. 請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の抽出物を含む、錠剤、カプセル剤、散剤、丸剤、シロップ剤、液剤、ドリンク剤、トローチ剤、ドロップ、又は水飴である、
    製剤。
  10. アカマンボウを20℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む、
    抽出物の製造方法。
  11. アカマンボウを60℃以上の抽出媒体に接触させることにより、生理学的に許容可能な液状媒体に可溶な抽出物、又は生理学的に許容可能な液状媒体を抽出媒体として抽出される抽出物を抽出する、抽出工程を含む、
    抽出物の製造方法。
  12. 前記抽出工程の後に、前記抽出物を濃縮し、バレニンを5wt%以上含有する濃縮抽出物を得る濃縮工程と、を含む、
    請求項10又は請求項11に記載の抽出物の製造方法。
  13. 前記濃縮工程の後に、前記抽出物の水分量が0wt%超10wt%以下になるように前記抽出物を乾燥し、バレニンを7wt%以上含有する乾燥抽出物を得る乾燥工程を、さらに含む、
    請求項12に記載の抽出物の製造方法。
  14. 前記乾燥抽出物を粉砕して、1mm未満の粒子径を有する前記乾燥抽出物の粉体を得る、粉末化工程を、さらに含む、
    請求項13に記載の抽出物の製造方法。
  15. 前記バレニンを含むイミダゾールジペプチドを精製する精製工程を、さらに含む、
    請求項10乃至請求項12のいずれか1項に記載の抽出物の製造方法。
  16. 血合肉から形成された、前記アカマンボウ由来の前記抽出物の割合が5wt%未満である、
    請求項10乃至請求項15のいずれか1項に記載の抽出物の製造方法。
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