JP2020029413A - ERO1−αの阻害物質を用いた、がん幹細胞分化誘導およびがん用化学療法の増強 - Google Patents
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Abstract
Description
[1]がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導するための分化誘導剤であって、有効成分としてERO1−α阻害物質を含む、前記分化誘導剤。
[2]ERO1−α阻害物質が、ERO1−α遺伝子に対する干渉核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、もしくはこれらを発現するベクター、もしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−αタンパク質活性阻害剤である、[1]に記載の分化誘導剤。
[3]がん幹細胞が、CD44v9を発現する細胞である、[1]または[2]に記載の分化誘導剤。
[4]分化誘導が、がん幹細胞におけるCD44v9またはKLF4の発現の低下により確認される、[1]〜[3]のいずれか一つに記載の分化誘導剤。
[5]がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための、ERO1−α阻害物質を含む、医薬組成物。
[6]がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための医薬の製造のための、ERO1−α阻害物質の使用。
[8]対象において、ERO1−α阻害物質により、がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導する方法。
[9]対象に有効量のERO1−α阻害物質を投与することを含む、対象におけるがん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための方法。
[10]ERO1−α阻害物質を含む、がん用化学療法剤の増強剤。
[11]ERO1−α阻害物質が、ERO1−α遺伝子に対する干渉核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、もしくはこれらを発現するベクター、もしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−αタンパク質活性阻害剤である、[10]に記載の増強剤。
[12]増強が、薬物排出タンパク質の発現抑制によるものである、[10]または[11]に記載の増強剤。
[14]化学療法剤が、細胞膜透過性の抗がん剤である、[10]〜[13]のいずれか一つに記載の増強剤。
[15][10]に記載の増強剤、および化学療法剤を含むキット。
[16]がん用化学療法剤と併用して投与するための、ERO1−α阻害物質を含む医薬組成物。
[17]ERO1−α阻害物質が、ERO1−α遺伝子に対する干渉核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、もしくはこれらを発現するベクター、もしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−αタンパク質活性阻害剤である、[16]に記載の医薬組成物。
[18]化学療法剤が、細胞膜透過性の抗がん剤である、[16]に記載の医薬組成物。
[20]化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することによってがんを治療するための医薬の製造のためのERO1−α阻害物質の使用。
[21]化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することを含む、インビトロにおいて、がん幹細胞を処置する方法。
[22]化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することを含む、対象において、がん幹細胞を処置する方法。
[23]化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することを含む、対象において、がんを治療および/または予防する方法。
ここで、CD44v9は、細胞表面マーカーCD44のバリアントであり、がん幹細胞において高頻度で発現していることから、がん幹細胞のマーカーとして一般に用いられている。CD133は、造血幹細胞、内皮前駆細胞、神経幹細胞およびグリア幹細胞で発現することが報告されている細胞表面マーカーであり、がん幹細胞マーカーとしても報告されている。
また、KLF4は、体細胞の初期化に用いられる遺伝子の1つであり、KLF4の発現は、幹細胞性の維持に必須であると考えられている。
ERO1−α遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列は、当該技術分野において公知であり、当業者は、干渉核酸を設計することができる。
本発明において、「相補的」とは、核酸が、他の核酸配列と、古典的なワトソン−クリック型か、または他の非古典的なタイプにより水素結合を形成できることを意味する。
また、本発明において、「実質的に相補的」とは、核酸配列の全ての連続する残基が、他の核酸配列における同じ数の連続する残基と水素結合を形成する場合のみならず、核酸配列の全ての残基のうち、例えば、70%、80%、および90%の残基が、他の核酸配列の残基と水素結合を形成する場合も含む。
したがって、本発明において、siRNAは、ERO1−α遺伝子の転写体RNAの一部に100%相補的なヌクレオチドから数塩基変更されているヌクレオチドを含むアンチセンスRNAを有していてもよい。
また、本発明において、センスRNAとアンチセンスRNAの各3'末端には、2〜5ヌクレオチド、好ましくは2ヌクレオチドの突出末端を有していてもよい。また、本発明において、siRNAは、修飾siRNAであってもよい。
ERO1−A siRNA:
5'-ACCAGACAAGAAAUAGUAUCAUUat-3'(センス鎖、配列番号1)
5'-AAUGAUACUAUUUCUUGUCUGGUat-3'(アンチセンス鎖、配列番号2);
ERO1−B siRNA:
5'-GGUAUAACAUGUU- GAAAUGUCACat-3'(センス鎖、配列番号3)
5'-GUGACAUUUCAA- CAUGUUAUACCat-3'(アンチセンス鎖、配列番号4);
ERO1−C siRNA:
5'-AGCUGAAUAUGUAGAUUUGCUUCtt-3'(センス鎖、配列番号5)
5'-GAAGCAAAUCUACAUAUUCAGCUtt-3'(アンチセンス鎖、配列番号6)
上記siRNAは、OriGene(Rockville, MD, USA)から購入することができる。
ERO1 shRNA:
5'-AGAGCATTCTACAGACTTATATCTGGCCT-3'(配列番号7)
上記shRNAは、OriGene(Rockville, MD, USA)から購入することができる。
ウイルスベクターを使用する場合、ウイルスの力価としては1×103〜1×1015p.f.u.(プラーク形成単位)であってもよく、好ましくは1×105〜1×1013p.f.u.、より好ましくは1×107〜1×1011p.f.u.、さらに好ましくは1×108〜1×1010p.f.u.で用いることができる。
本発明の化学療法剤としては、細胞透過性抗がん剤などの、がん治療に用いられる化学療法剤が好ましく、細胞透過性抗がん剤としては、限定されずに、殺細胞作用や増殖阻害作用などの細胞障害作用を有する化学療法剤、例えば、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、シクロホスファミド、ダカルバジン、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチンなど)、代謝拮抗剤(例えば、5−フルオロウラシル(5−FU)、メトトレキサート、クラドリビン、クロファラビン、6−メルカプトプリン、ゲムシタビン、エノシタビン、カペシタビン、カルモフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート、テガフール、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム、ドキシフルリジン、ネララビン、ヒドロキシカルバミド、フルダラビン、ペメトレキセド、ペントスタチン、など)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジノスタチンスチマラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、リポソーマルドキソルビシンなど)、アルカロイド、ホルモン療法剤(例えば、アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ビカルタミド、フルタミド、プレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾールなど)、白金錯体(例えば、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチンなど)、血管新生阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、ミトキサントロン、エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イリノテカン、SN−38、ノギテカン、ソブゾキサンなど)、微小管作用薬(例えば、パクリタキセル、ドセタキセル、エリブリン、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチンなど)、CDK阻害剤(フラボピリドールなど)、および、チロシンキナーゼ阻害剤(イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、ルカパリブなど)などが挙げられる。
本発明の一態様において、がん幹細胞は、細胞表面マーカーCD44v9を発現する細胞である。
本発明の一態様において、ERO1−α阻害物質は、ERO1−αに対する干渉核酸、リボザイム、アンチセンス核酸、これらを発現するベクターもしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−α活性阻害剤である。
本発明はまた、がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための医薬の製造のための、ERO1−α阻害物質の使用に関する。
本発明はまた、インビトロにおいて、がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導する方法であって、がん幹細胞をERO1−α阻害物質で処置することを含む、前記方法に関する。
本発明の一態様において、分化誘導剤は、有効成分としてERO1−α阻害物質を含む。
本発明の一態様において、ERO1−α阻害物質は、ERO1−αに対する干渉核酸、リボザイム、アンチセンス核酸、これらを発現するベクターもしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−α活性阻害剤である。
本発明はまた、対象におけるがん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための方法であって、対象に有効量のERO1−α阻害物質を投与することを含む、前記方法に関する。
本発明において、「化学療法剤の増強」とは、抗がん剤などの化学療法剤を、同じ濃度で投与した場合において、がん細胞または対象におけるその化学療法剤の効果が増強されることを指す。
特定の理論に拘束されることは望まないが、ERO1−αの発現を抑制することにより、がん幹細胞が通常がん細胞に分化誘導され、がん幹細胞において高発現していた薬物排出タンパク質の発現が抑制され、その結果、化学療法剤の薬物排出能が低下することにより、化学療法剤が細胞内に留まりやすくなり、化学療法剤の効果が増強されるものと考えられる。
薬物排出タンパク質としては、例えば、ABCトランスポーター(ATP-binding cassette transporters)(ABCB1、ABCC1、ABCG2など)、多剤排出トランスポーター(multi-drug resistance(MDR)transporter)などが挙げられる。
本発明の一態様において、薬物排出タンパク質は、ABCトランスポーターである。
本発明の一態様において、化学療法剤は、細胞膜透過性の抗がん剤である。
本発明において、細胞膜透過性の抗がん剤は、好ましくは、ABCG2の基質となる細胞透過性抗がん剤であり、例えば、限定されずに、5−フルオロウラシル、メトトレキサート、クラドリビン、クロファラビン、6−メルカプトプリン、ミトキサントロン、エトポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イリノテカン、SN−38、フラボピリドール、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、ゲフィチニブ、エルロチニブ、またはルカパリブなどである。
本発明の一態様において、ERO1−α阻害物質が腫瘍内投与され、化学療法剤が静脈投与される。
本発明の一態様において、化学療法剤が、細胞膜透過性の抗がん剤である。
本発明において、対象とは、処置の必要な対象であり、任意の生物であればよく、好ましくは哺乳動物であり、例えば、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの齧歯動物、ウシ、ラクダ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコなどが挙げられ、より好ましくはヒトである。
本明細書において「処置」とは、本明細書で用いる場合、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、疾患の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
本発明は、本発明の医薬に含まれ得る有効成分を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される医薬の必要構成要素にも関する。本発明のキットは、上記のほか、本発明の医薬の調製方法や投与方法などが記載された指示、例えば説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体等を含んでいてもよい。
細胞および薬剤
ヒト結腸癌細胞株SW480およびヒト乳癌細胞株MDA−MB−231はATCC(Manassas, VA, USA)から購入した。SW480細胞およびMDA−MB−231細胞は、10%ウシ胎児血清(FCS)(Invitrogen Life Technologies)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)中で5%CO2雰囲気下、37℃で培養した。
ヒトERO1−αに対するsiRNA(配列番号1および2)には、OriGene(Rockville, MD, USA)から購入した以下の配列:
ERO1−A siRNA;
5'-ACCAGACAAGAAAUAGUAUCAUUat-3'(センス鎖、配列番号1)
5'-AAUGAUACUAUUUCUUGUCUGGUat-3'(アンチセンス鎖、配列番号2)
または対照スクランブルsiRNAを用いた。図3〜6および10〜12には、上記配列を使用して得られた結果を示しているが、以下の配列:
ERO1−B siRNA:
5'-GGUAUAACAUGUU- GAAAUGUCACat-3'(センス鎖、配列番号3)
5'-GUGACAUUUCAA- CAUGUUAUACCat-3'(アンチセンス鎖、配列番号4);
ERO1−C siRNA:
5'-AGCUGAAUAUGUAGAUUUGCUUCtt-3'(センス鎖、配列番号5)
5'-GAAGCAAAUCUACAUAUUCAGCUtt-3'(アンチセンス鎖、配列番号6)
を用いても同様の結果が得られる。上記の配列において、大文字はRNAを表し、小文字は、DNAを表す。
トランスフェクトは、RNAiMAX(Life Technologies)を用いて行い、5%CO2雰囲気下、37℃で細胞を培養した。
ヒトERO1−αに対するshRNAには、OriGene(Rockville, MD, USA)から購入した以下の配列:
ERO1 shRNA:
5'-AGAGCATTCTACAGACTTATATCTGGCCT-3'(配列番号7)
または対照スクランブル配列を含むプラスミドを用いた。トランスフェクトは、Lipofectamine 2000(Life Technologies)を用いて行い、ピューロマイシン(Sigma-Aldrich)選択(4μg/ml)下で、5%CO2雰囲気下、37℃で細胞を安定に増殖させた。
ERO1−αのタンパク質活性阻害剤EN460は、MERCK(Darmstadt, Germany)から購入した。5−フルオロウラシル(5−FU)、パクリタキセル、ゲムシタビンはWako(Tokyo, Japan)から購入した。
SP解析は、いくつかの改変を伴って、Inoda et al., The American journal of pathology. 2011;178(4):1805-13. Epub 2011/03/26. pmid:21435460; PubMed Central PMCID: PMC3078439、Takaya et al., PLoS One. 2016 Jul 14;11(7):e0158903. doi: 10.1371/journal.pone.0158903. eCollection 2016、およびNishizawa et al., Cancer Res. 2012 Jun 1;72(11):2844-54. doi: 10.1158/0008-5472.CAN-11-3062. Epub 2012 May 2などに記載されているように行った。細胞を、ABCトランスポーター阻害剤であるベラパミル(Sigma-Aldrich)75μMの存在下または非存在下で、終濃度2.5μg/mlのHoechst 33342 色素(Lonza, Walkersville, MD, USA)で染色した。細胞を連続振とうしながら37℃で90分間インキュベートした。FACS Aria II(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)を用い、357nmで励起し、その蛍光を二重波長(青色、402〜446nm;赤色、650〜670nm)で測定した。
CD44v9、CD44およびABCG2に対する反応性の抗体(適切なアイソタイプ対照を含む)を用いて、細胞を標識した。標識された対照細胞およびノックダウンした細胞を、FACS Caliburフローサイトメーター(BD Biosciences)およびFlowJo(Tree Star Inc.)によって分析した。抗体は、全てFunakoshi(Tokyo, Japan)から購入した。
培養した細胞を氷冷PBSで洗浄し、溶解緩衝液(50mmol/L Tris-HCl[pH7.5]、150mmol/L NaCl、5mmol/L EDTA、1%NP40)中で氷上でインキュベートすることによって溶解し、4℃において21880gで30分間遠心分離して細胞を分離した。遊離チオールのブロックのために、細胞をPBS中の10mMメチルメタンチオスルホナート(Pierce, Rockford, IL, USA)で5分間前処理した。核除去後の上清を非還元または還元SDSサンプル緩衝液中で95℃で5分間加熱し、SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜(Immobilon-P;Millipore, Billerica, MA, USA)に電気泳動的に転写した。膜をブロッキング緩衝液(PBSまたはBSA中5%脱脂粉乳)で30分間室温でインキュベートし、その後、抗ERO1−α mAb(Abnova, Taipei, Taiwan)、抗PDIポリクローナル抗体(Enzo Life Sciences, Farmingdale, NY, USA)、抗ABCG2抗体(Cell Signaling Technologies, Danvers, Massachusetts, USA)、またはマウス抗β−actin mAb AC−15(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)で一晩インキュベートした。洗浄緩衝液(TBS中0.1%Tween−20)で3回洗浄後、膜をペルオキシダーゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(KPL, Gaitherburg, MD, USA)と3時間反応させた。その後、製造元のプロトコールに従って、ECL検出システム(Amersham Life Science, Arlington Heights, IL, USA)またはIMMOBILON検出システム(Millipore Corporation, Billerica, Massachusetts, USA)を用いてシグナルを視覚化した。
ISOGEN試薬(Nippon Gene, Tokyo, Japan)およびRNeasy Miniキット(QIAGEN, Valencia, CA)を製造元の指示に従って用いて、細胞から単離した。cDNA混合物を製造元のプロトコールに従って、Superscript IIIおよびoligo(dT)プライマー(Life Technologies)を用いて全逆転写により計1μgの全RNAから合成した。正常大腸組織cDNAおよび正常乳腺組織cDNAの鋳型には、ヒト多組織cDNAパネルIおよびII(TAKARA BIO INC., Otsu, JAPAN)の正常大腸組織cDNAおよび正常乳腺組織cDNAをそれぞれ用いた。
その後、CD44v9、CD44、POU5F1、NANOG、c−Myc、KLFまたは4およびβ−actinに対して、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(リアルタイムPCR)を実施した。各種プライマーは、Thermo Fisher Scientific(Tokyo, Japan)から購入した。各試料の発現値をβ−actinに対して正規化し、所定の遺伝子の発現レベルは、複数回の反応の平均(±SEM)したものにより表した。PCRは、StepOneReal-TimePCRシステム(Life Technologies)により、95℃で10分、95℃で15秒および60℃で1分のサイクルを45サイクル行い、その後、融解曲線解析を行った。データ解析にはΔΔCt法を用いた。
4〜6週齢の雌性非肥満糖尿病/重度複合免疫不全(NOD/SCID)マウスをSankyo Laboratory Co. Ltd.(Tsukuba, Japan)から購入し、研究は札幌医科大学の動物実験倫理委員会(Sapporo, Japan)の承認を得て行った。
ヒト大腸癌細胞SW480細胞については、5×106個のSW480細胞をPBSとマトリゲル(BD Biosciences)との混合物に懸濁し、NOD/SCIDマウスの左背部に注入した。対照群については、移植後7日目から生理食塩水10μlを週に2回投与した。siRNA投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与した。5−FU投与群については移植後7日目から、5−FU(50mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)、合計4回、腹腔内に投与した。siRNAおよび5−FU併用投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与し、5−FU(50mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)、合計4回腹腔内に投与した。
腫瘍の長さおよび幅は、キャリパーで測定した。
2つの不対サンプルの分析にスチューデントのt検定を用いた。ERO1−αの発現とKLF4の発現との間の相関性、およびKLF4の発現とCD44v9の発現との間の相関性を、スピアマンの順位相関係数を用いて評価した。全ての分析は、STATMATE version 3.19(ATMS Co., Ltd., Tokyo, Japan)を用いて行った。0.05未満のP値を統計的に有意であるとみなした。全ての統計的検定を両側検定で行った。
ヒト大腸がん細胞SW480においてSP解析を行った。結果を図1に示す。近年、多くの幹細胞がABCG2ポンプの発現により、Hoechst 33342というDNA蛍光色素に対して高い排出能を持つことが報告されており、これらの細胞はサイドポピュレーション(SP)細胞と呼ばれている。ヒト大腸がん細胞SW480において、Hoechst 33342色素排出能を有するSP細胞、すなわちがん幹細胞が存在していることが分かる。
ヒト大腸がん細胞SW480においてSPに分類されたクローンSP−BおよびSP−H、ならびにメインポピュレーション(MP)に分類されたクローンMP−Dにおいて、リアルタイムPCRにより、がん幹細胞の指標であるCD44v9/CD44の発現比を測定した。結果を図2(A)に示す。CD44v9/CD44の発現比は、SP−BおよびSP−Hにおいて高く、MP−Dにおいては低かった。このことからもSP細胞は、がん幹細胞であるものと考えられる。
また、ヒト大腸がん細胞SW480においてSPに分類されたクローンSP−BおよびSP−H、ならびにMPに分類されたクローンMP−Dにおいて、ERO1−α、ABCG2、PDI、およびβ−actin(対照)について、ウェスタンブロッティングを行った。結果を図2(B)に示す。SP−BおよびSP−HのABCG2およびERO1−αの発現量は、MP−Dと比較して高く、がん幹細胞において、ERO1−αおよびABCG2が高発現していることが確認された。
ヒト大腸がん細胞SW480に、ERO1−αに対するsiRNAをトランスフェクトし、ERO1−αおよびβ−actin(対照)について、ウェスタンブロッティングを行った。結果を図4に示す。ERO1−αに対するsiRNAをトランスフェクトした細胞において、ERO1−α発現の低下が見られた。したがって、siRNAをトランスフェクトすることにより、当該細胞においてERO1−α発現がノックダウンされたことが確認された。
ヒト大腸がん細胞SW480を、例3で用いたERO1−αに対するsiRNAによりノックダウンし、がん幹細胞マーカーであるCD44v9の発現について調べた。
CD44v9を標識して行ったフローサイトメトリーの結果を図4(A)に示す。太線がノックダウンした細胞を表し、細線が対照を表す。ノックダウンし細胞は、対照と比較して、CD44v9の発現が低下していた。
加えて、リアルタイムPCRにより、CD44v9/CD44の発現比およびCD44v9/β−actinの発現比を測定した。結果を図4(B)と(C)に示す。ノックダウンした細胞は、対照と比較して、CD44v9/CD44の発現比およびCD44v9/β−actinの発現比が低下していた。
以上より、ERO1−αの発現を抑制することが、がん幹細胞が通常がん細胞に分化しているものと理解することができる。
ヒト大腸がん細胞SW480を、ERO1−αに対するsiRNAでノックアウトし、SP解析を行った。結果を図5に示す。mock対照においてSPに分類される細胞の割合が9.75%であるのに対し、ノックダウンした細胞においては、SPに分類される細胞の割合は0.27%であった。ERO1−αをノックアウトすることにより、SPに分類される細胞の割合は大きく低下したことからも、ERO1−αの発現の抑制が、がん幹細胞が通常がん細胞に分化しているものと理解することができる。
ヒト大腸がん細胞SW480を、ERO1−αに対するsiRNAでノックダウンし、POU5F1、NANOG、c−Myc、KLF4の発現についてリアルタイムPCRを行った。結果を図6に示す。ノックダウンした細胞は、対照と比較して、幹細胞性の維持に重要な遺伝子である山中因子の一つであるKLF4の発現が著しく低下していた。ERO1−αの発現の抑制により、KLF4発現の低下が生じることは、ERO1−αの発現の抑制が、がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導していることを示すものである。
まず、ヒト乳癌細胞MDA−MB−231に、ERO1−αに対するshRNAをトランスフェクトし、クローンsh2−5を得た。ERO1−αおよびβ−actinについて、ウェスタンブロッティングを行った。結果を図7(A)に示す。クローンsh2−5において、ERO1−α発現の低下が見られた。したがって、shRNAをトランスフェクトすることにより、当該細胞においてERO1−αがノックダウンされたことが確認された。
次に、CD44またはCD44v9を標識してフローサイトメトリーを行った。結果を図7(B)に示す。細線は抗CD44抗体または抗CD44v9抗体で標識した対照細胞を表し、太線は抗CD44抗体または抗CD44v9抗体で標識したノックダウン細胞を表す。ノックダウンした細胞は、対照細胞と比較して、CD44v9の発現が低下していた。
さらに、リアルタイムPCRにより、CD44v9/β−actinの発現比、CD44v9/CD44比の発現比、およびKLF4/β−actinの発現比を測定した。結果を図7(C)、(D)および(E)にそれぞれ示す。ノックダウンした細胞のCD44v9/β−actin発現比、CD44v9/CD44発現比、およびKLF4/β−actin発現比は、いずれも対照より低いものであった。すなわち、ERO1−αの発現の抑制により、がん幹細胞マーカーであるCD44v9の発現、および幹細胞性の維持に重要な役割を果たしているKLF4の発現低下が低下していた。
これらの結果はヒト大腸がん細胞SW480で見られたのと同様の傾向であり、ヒト乳癌細胞MDA−MB−231においても、ERO1−αの発現の抑制が、がん幹細胞が通常がん細胞に分化誘導していることを示すものである。
ヒト大腸がん細胞SW480において、ERO1−αタンパク質活性阻害剤であるEN460により処理し、リアルタイムPCRにより、CD44v9/β−actinの発現比およびKLF4/β−actinの発現比を測定した。結果を図8(A)と(B)に示す。CD44v9/β−actinの発現比およびKLF4/β−actinの発現比は、EN460の濃度依存的に、低下した。ERO1−αタンパク質活性阻害剤による処理によっても、ERO1−αに対するsiRNAまたはshRNAをトランスフェクトした場合と同様に、がん幹細胞は通常がん細胞に分化誘導されることが示された。
ヒト乳癌細胞MDA−MB−231に、ERO1−αに対するshRNAをトランスフェクトし、クローンsh2−2を得た。ERO1−αおよびβ−actinについて、ウェスタンブロッティングを行った。結果を図9(A)に示す。クローンsh2−2において、ERO1−α発現の低下が見られた。shRNAをトランスフェクトすることにより、当該細胞においてERO1−αがノックダウンされたされたことが確認された。
次に、ABCG2を標識してフローサイトメトリーを行った。結果を図7(B)に示す。細線は抗ABCG2抗体で標識した対照細胞を表し、太線は抗ABCG2抗体で標識したノックダウン細胞を表す。ノックダウンした細胞は、対照細胞と比較して、ABCG2の発現が低下していた。
4〜6週齢の雌性非肥満糖尿病/重度複合免疫不全(NOD/SCID)マウスの左背部に5×106個のヒト大腸癌細胞SW480を左背部に注入した。対照群については、移植後7日目から生理食塩水10μlを週に2回投与した。siRNA投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与した。5−FU投与群については移植後7日目から、5−FU(50mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)、合計4回、腹腔内に投与した。siRNAおよび5−FU併用投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与し、5−FU(50mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)、合計4回腹腔内に投与した。腫瘍の長さおよび幅は、キャリパーで測定した。
結果を図10に示す。siRNAおよび5−FU併用投与群は、対照群、5−FU投与群、およびsiRNA投与群と比較して、腫瘍体積は著しく減少した。
4〜6週齢の雌性非肥満糖尿病/重度複合免疫不全(NOD/SCID)マウスの右第3乳腺に1×106個のヒト乳癌細胞MDA−MB−231細胞を注入した。対照群については、移植後7日目からエタノール10μlを週に2回投与した。siRNA投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを、移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与した。パクリタキセル投与群については移植後7日目から、パクリタキセル(5mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)静脈内に投与した。siRNAおよびパクリタキセル投与併用群については、siRNA投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与し、パクリタキセル(5mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)静脈内に投与した。腫瘍の長さおよび幅は、キャリパーで測定した。
結果を図11に示す。siRNAおよびパクリタキセル併用投与群は、対照群、パクリタキセル投与群、およびsiRNA投与群と比較して、腫瘍体積は著しく減少した。
4〜6週齢の雌性非肥満糖尿病/重度複合免疫不全(NOD/SCID)マウスの右第3乳腺に1×106個のヒト乳癌細胞MDA−MB−231細胞を注入した。対照群については、移植後7日目からエタノール10μlを週に2回投与した。siRNA投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを、移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与した。ゲムシタビン投与群については移植後7日目から、ゲムシタビン(100mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)静脈内に投与した。siRNAおよびゲムシタビン併用投与群については、siRNA投与群については、50μLのLipotrust(Hokkaido System Science, Sapporo, Japan)にERO1−αに対するsiRNA(1mg/kg)を混合したものを移植後7日目から週に2回(7日目、10日目、14日目、17日目、21日目、24日目、28日目)、合計7回腫瘍内に投与し、ゲムシタビン(100mg/kg)を週に1回(7日目、14日目、21日目、28日目)静脈内に投与した。腫瘍の長さおよび幅は、キャリパーで測定した。
結果を図12に示す。siRNAおよびゲムシタビン併用投与群は、対照群、ゲムシタビン投与群、およびsiRNA投与群と比較して、腫瘍体積は著しく減少した。
Claims (23)
- がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導するための分化誘導剤であって、有効成分としてERO1−α阻害物質を含む、前記分化誘導剤。
- ERO1−α阻害物質が、ERO1−α遺伝子に対する干渉核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、もしくはこれらを発現するベクター、もしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−αタンパク質活性阻害剤である、請求項1に記載の分化誘導剤。
- がん幹細胞が、CD44v9を発現する細胞である、請求項1または2に記載の分化誘導剤。
- 分化誘導が、がん幹細胞におけるCD44v9またはKLF4の発現の低下により確認される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分化誘導剤。
- がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための、ERO1−α阻害物質を含む、医薬組成物。
- がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための医薬の製造のための、ERO1−α阻害物質の使用。
- がん幹細胞をERO1−α阻害物質で処置することを含む、インビトロにおいて、がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導する方法。
- 対象において、ERO1−α阻害物質により、がん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導する方法。
- 対象に有効量のERO1−α阻害物質を投与することを含む、対象におけるがん幹細胞を通常がん細胞に分化誘導して、がんを治療および/または予防するための方法。
- ERO1−α阻害物質を含む、がん用化学療法剤の増強剤。
- ERO1−α阻害物質が、ERO1−α遺伝子に対する干渉核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、もしくはこれらを発現するベクター、もしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−αタンパク質活性阻害剤である、請求項10に記載の増強剤。
- 増強が、薬物排出タンパク質の発現抑制によるものである、請求項10または11に記載の増強剤。
- 薬物排出タンパク質が、ABCトランスポーターである、請求項12に記載の増強剤。
- 化学療法剤が、細胞膜透過性の抗がん剤である、請求項10〜13のいずれか一項に記載の増強剤。
- 請求項10に記載の増強剤、および化学療法剤を含むキット。
- がん用化学療法剤と併用して投与するための、ERO1−α阻害物質を含む医薬組成物。
- ERO1−α阻害物質が、ERO1−α遺伝子に対する干渉核酸、アンチセンス核酸、リボザイム、もしくはこれらを発現するベクター、もしくはこれらを発現するように形質転換された細胞、またはERO1−αタンパク質活性阻害剤である、請求項16に記載の医薬組成物。
- 化学療法剤が、細胞膜透過性の抗がん剤である、請求項16に記載の医薬組成物。
- ERO1−α阻害物質が腫瘍内投与され、化学療法剤が静脈投与される請求項16に記載の医薬組成物。
- 化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することによってがんを治療するための医薬の製造のためのERO1−α阻害物質の使用。
- 化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することを含む、インビトロにおいて、がん幹細胞を処置する方法。
- 化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することを含む、対象において、がん幹細胞を処置する方法。
- 化学療法剤とERO1−α阻害物質とを併用して投与することを含む、対象において、がんを治療および/または予防する方法。
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