JP2020012196A - 放電加工用電極材若しくは半導体用ヒートシンク並びにそれらの製造方法 - Google Patents

放電加工用電極材若しくは半導体用ヒートシンク並びにそれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】材料の消耗を抑え、加工速度を改善した放電加工用電極材料又は従来よりも多くの銅を含有させることにより、高い熱伝導率を有するにも拘わらず、線膨張係数を抑制させた半導体用ヒートシンクを提供する。【解決手段】銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクであって、前記銅−タングステン系合金は、前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、55〜85質量%のタングステンを含有する銅−タングステン系合金であり、前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が0.6〜16μmであり、前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい、放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。【選択図】なし

Description

本発明は、放電加工用電極材若しくは半導体用ヒートシンク並びにその製造方法に関する。
放電加工とは、電極材料と被削材との間にパルス状のアーク放電を起こし、その際に発する高熱と衝撃波で互いを溶融、除去することを繰返すことで被削材を溶断する加工方法である。従って、理想的な放電加工とは、電極材料自体の消耗を抑える為に電極材料自身の溶融量を抑えた加工条件で行うことである。また、放電加工では複雑形状の加工を行うことから、電極材料自体の被削性も重視される。
この条件に適した電極材料特性としては、被削材よりも熱伝導率や電気伝導率が高く、且つ、耐アーク消耗性や被削性が高いことも求められる。実用材料としては、熱伝導率や電気伝導率が高い銀や銅と融点が実用金属の中で最も高いタングステンを組合せた銀−タングステン系合金や銅−タングステン系合金が挙げられる。一般的には、高価な銀−タングステン系合金は避けて、銅−タングステン系合金が多く用いられている。
耐アーク消耗性は銀や銅では低く、非酸化性雰囲気下でのタングステンは高い。一方、タングステンは脆性材料で難削材であるが、銀や銅は展延性が高く加工しやすい。これらより放電加工用電極には、タングステンに、合金の総質量の30〜35質量%の銅を含有した銅−タングステン系合金が多く用いられている。
しかしながら、銅−タングステン系合金を電極に用いると電極の消耗に関しては優れているものの、加工速度は決して速くは無い。加工速度を上げるには一パルス当たりのアーク放電のエネルギーを高くし、また単位時間あたりのパルス回数を増やす必要があるが、このような条件を設定して放電加工を実施すると集中放電といわれる異常放電を生じ、高い加工精度が得られないばかりか加工速度が低下する。
つまり、放電加工は加工面に対して均等に分散放電を起こすことで初めて面の加工が進行するが、放電に偏りがあると、放電が集中した個所では加工はされるが、そうでない個所では加工が進まない為、加工面全体としては局部的に穴が開くだけで加工が進行しない。
この問題を改善するため、この銅−タングステン系合金に低仕事関数化合物である酸化バリウム(BaO)等の添加物を含有させることにより、電極材料の仕事関数を低くしてアークスタート性を改善することによって集中放電を抑え、加工速度を高めた材料も知られている(例えば、特許文献1参照)。
銅−タングステン系合金の用途としては、上記した放電加工用電極のみならず、半導体用ヒートシンク、接点等にも用いられる。半導体用ヒートシンクでは、通常、タングステンに合金の総質量の10〜20質量%の銅を含有し、接点では、通常、タングステンに合金の総質量の20〜40質量%の銅を含有する。
またタングステンの融点は3400℃なのに対して、銅の融点は1083℃と低く、銅−タングステン系合金が焼結によって緻密化する焼結温度は、銅の融点以上となる。そこで銅−タングステン系合金の製造工程としては、通常、所定の気孔率を有したタングステン多孔質体(タングステンスケルトン)を作り、そこに銅を溶かして溶浸(溶浸法)させることにより製造することが多い。ところが30質量%以上の銅を含有する銅−タングステン系合金の場合、成形した時点で所定の気孔率となっていることからタングステン多孔質体のハンドリングが困難となり、製造上の取扱いにおいて強度的な問題が生じる。このような場合、タングステン粉に総質量の5〜10質量%の銅粉を混合して銅−タングステン多孔質体を作り、そこに銅を溶かして溶浸(部分溶浸法)させることにより製造することが多い。また、所定量のタングステン粉末と銅粉末を混合して液相焼結(混合法)することによっても製造することができる。ただし銅とタングステンは、濡れ性は良いものの、互いに固溶しないので溶解−析出機構(オストワルド成長)による緻密化は起こらないため、タングステン粒子の粗大化もほとんど起こらない。
タングステンに10〜20質量%の銅を含有する銅−タングステン系合金の場合、タングステン多孔質体を所定の気孔率とするために加熱することによってタングステン結晶粒同士の強固な固着が生じ、タングステン結晶粒同士による骨格構造が形成されることにより、銅−タングステン系合金の機械的強度向上及び線膨張係数の抑制に寄与している。この場合、使用されるタングテン粉末には0.1〜0.3質量%のニッケルが硝酸ニッケルなどの可溶性化合物で液状ドープされることが多い。熱分解によって硝酸基等を除去し、タングステン粒子の表面に固着または固溶したニッケルは、タングステン粒子を活性化させて比較的低温で収縮(活性化焼結)させて所定の気孔率を経済的に得ることができるばかりか、タングステン多孔質体に銅を溶浸させる際の濡れ性改善に寄与して、ポアや溶浸不良等の内部欠陥を低減させるものの、銅とニッケルが固溶体を形成することにより、熱伝導率や電気伝導率の大幅な低下をもたらす。
ところで放電加工用電極に使用される銅−タングステン系合金では、30〜35質量%の銅を含有することから部分溶浸法又は混合法で作られることになる。これらの方法で作った場合、タングステン結晶粒同士の固着はほとんど起こらず、タングステン結晶粒の表面に溶融した銅が覆った構造となる。この場合、銅−タングステン系合金の機械的強度は、銅結晶粒同士の固着強度に依存するばかりか、線膨張係数も低線膨張係数物質であるタングステン結晶粒同士の固着による拘束力が低下し、高線膨張係数物質である銅結晶粒の寄与が大きくなる。その結果、銅−タングステン系合金を放電加工用電極として使用した際、パルス状のアーク放電により短い周期で加熱−冷却されるという熱サイクルを受けることにより、激しい膨張と収縮を繰り返して電極寿命を低減させる原因の一つとなっていた。
一方、半導体用ヒートシンクに用いられる銅−タングステン系合金で要求される特性としては、高い熱伝導率及びセラミックパッケージとマッチングする線膨張係数となる。高い熱伝導率は、銅−タングステン合金中の銅含有率を高めることにより容易に達成されるが、低線膨張係数物質であるタングステンに高線膨張係数物質である銅を加え過ぎると、セラミックパッケージの線膨張係数とのマッチングが出来なくなる。
つまり放電加工用電極材料に求められる線膨張係数は小さいほど望ましいが、半導体ヒートシンク材料に求められる線膨張係数は、ろう付けするセラミックパッケージとのマッチングが重要となる。
複合材料における線膨張係数の変化は、含有成分の含有比に依存する複合則が成立すると云われている。しかしながら銅−タングステン系合金の場合、銅含有量が増えるとタングステン結晶粒同士の固着が減り、銅の高い線膨張係数を抑える拘束力が急激に低下する。これは銅−タングステン系合金を構成するタングステン結晶粒と銅結晶粒は、互いに固溶体等を形成せず、単純に複合されているのに加えて、溶融して凝固した銅粒子がタングステン粒子の表面を被覆しているからである。所定の気孔率を有したタングステン多孔質体又は銅-タングステン多孔質体を作る際の加熱により、タングステン結晶粒同士の固着が促進されるが、多くの銅を含有させるためには大きな気孔率が必要となることから、加熱温度の低下に基づく固着強度の低下をもたらす。
従来の溶浸法、部分溶浸法及び混合法で作製された銅-タングステン系材料の伸び率をみると、500℃以下では直線的に変化しているが、500℃以上では伸び率が右肩上がりに増加する傾向が見て取れる。これは、500℃以上の温度領域において理想的な複合則から逸脱していることを示している。この現象は、500℃以上において、タングステン結晶粒による拘束力が低下し、高線膨張係数物質である銅の伸び率に対する寄与が大きくなったためであると考えられる。
つまり、従来製法による銅-タングステン系材料における500℃以上の温度領域での複合則からの正方向への逸脱は、膨張-収縮挙動の促進に伴い放電加工用電極材料の寿命を縮める。また半導体ヒートシンク用に用いられる銅-タングステン系合金とセラミックパッケージとの線膨張係数のマッチングのため、複合則から求められる銅含有量の更なる低減を材料設計に織り込む必要があることを意味している。
また、熱伝導率を低下させるニッケルの含有を無くすると、所定の気孔率を有したタングステン多孔質体を得るのに極度に高い成型圧力や焼結温度が必要となるばかりか、銅の溶浸不良に基づく内部欠陥が残りやすい。
特公昭35−8046号公報
近年特に、放電加工用電極材料に関しては、放電加工機の自動化に伴い、加工速度を高めるのみならず、電極交換コストの観点から電極消耗をさらに低減するという要望があり、上記の特許文献1の方法では電極材料の消耗量及び加工速度に関して十分に改善できているとは言えない。一方、半導体ヒートシンクに関しては、半導体の高集積化による発熱量の増大に対応するため、より高い熱伝導率の達成が要望されていた。また、高い熱伝導率と大きな線膨張係数を有する銅を多量に(例えば30質量%以上)含んだ銅−タングステン系合金の組織構造を改善させると共に大き過ぎる線膨張係数を抑制させることができれば、放電加工用電極のみならず、半導体用ヒートシンク、接点等にも適用可能である。
本発明は、上記のような課題を解決しようとするものであり、材料の消耗を抑え、加工速度を改善した放電加工用電極材料又は従来よりも多くの銅を含有させることにより、高い熱伝導率を有するにも拘わらず、線膨張係数を抑制させた半導体用ヒートシンクを提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、15〜45質量%の銅と、0.3〜3質量%のアルカリ土類金属酸化物と、残部タングステンとより成り、タングステン結晶粒間を強固に固着させて、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい銅−タングステン系合金を使用することにより、材料の消耗を抑え、加工速度も改善した放電加工用電極材料又は従来よりも多くの銅を含有させることにより高い熱伝導率を有するにも拘わらず、線膨張係数を抑制させた半導体用ヒートシンクが得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ね、完成したものである。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
項1.銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクであって、
前記銅−タングステン系合金は、前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、55〜85質量%のタングステンを含有する銅−タングステン系合金であり、
前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が0.6〜16μmであり、
前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい、放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。
項2.前記銅−タングステン系合金が、タングステン結晶粒同士の強固な固着を有する、項1に記載の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。
項3.10℃/分で900℃まで昇温した後に室温まで自然冷却する熱処理試験を行った場合、熱処理を加えた後の収縮率が0.05%以下である、項1又は2に記載の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。
項4.銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料であって、
前記銅−タングステン系合金は、前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、54.7〜82質量%のタングステンと、0.3〜3質量%のアルカリ土類金属酸化物を含有する銅−タングステン系合金であり、
前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が2〜16μmであり、
前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい、放電加工用電極材料。
項5.前記銅−タングステン系合金が、タングステン結晶粒同士の強固な固着を有する、項4に記載の放電加工用電極材料。
項6.10℃/分で900℃まで昇温した後に室温まで自然冷却する熱処理試験を行った場合、熱処理を加えた後の収縮率が0.05%以下である、項4又は5に記載の放電加工用電極材料。
項7.項1〜3のいずれか1項に記載の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクの製造方法であって、
銅粉末と、タングステン粉末とを含有する原料粉末を混合し、固相焼結条件で放電プラズマ焼結処理する工程を備え、
前記タングステン粉末の平均粒子径が0.6〜16μmである、製造方法。
項8.前記原料粉末において、原料粉末の総量を100質量%として、前記銅粉末の含有量が15〜45質量%であり、前記タングステン粉末の含有量が55〜85質量%である、項7に記載の製造方法。
項9.項4〜6のいずれか1項に記載の放電加工用電極材料の製造方法であって、
銅粉末と、タングステン粉末と、タングステン酸アルカリ土類金属粉末とを含有する原料粉末を混合し、固相焼結条件で放電プラズマ焼結処理する工程
を備え、
前記タングステン粉末の平均粒子径が2〜16μmである、製造方法。
項10.前記原料粉末において、原料粉末の総量を100質量%として、前記銅粉末の含有量が15〜45質量%であり、前記タングステン粉末の含有量が54.7〜82質量%であり、前記タングステン酸アルカリ土類金属粉末の含有量が0.3〜3質量%である、項9に記載の製造方法。
本発明によれば、材料の消耗を抑え、加工速度も改善した放電加工用電極材料又は従来よりも多くの銅を含有させることにより高い熱伝導率を有するにも拘わらず、線膨張係数を抑制させた半導体用ヒートシンクを提供することができる。
実施例1及び比較例1〜3の試料の結晶組織の電子顕微鏡写真(500倍及び2000倍)の反射電子像による組成像、エネルギー分散型X線分析による元素分析の結果、並びに実施例1及び比較例1、3の試料の破断面の電子顕微鏡写真(2000倍及び5000倍)の反射電子像による組成像である。 実施例2、4及び6の試料の結晶組織の電子顕微鏡写真(500倍及び2000倍)の反射電子像による組成像、並びにエネルギー分散型X線分析による元素分析の結果である。 実施例1及び比較例1の試料の線膨張係数を示すグラフである。 実施例2、4及び6並びに比較例4、5及び7の試料の線膨張係数を示すグラフである。 SPS処理の有無と温度を変えた場合のCu組成と線膨張係数との関係を示すグラフである。 実施例2、4及び6、並びに比較例4〜7の試料の温度と伸び率との関係を示すグラフである。 実施例2及び比較例4〜5の試料の温度と伸び率との関係を示すグラフである。 実施例6及び比較例4〜6の試料の温度と伸び率との関係を示すグラフである。
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。また、本明細書において、数値範囲をA〜Bで表記する場合、A以上B以下を示す。
1.放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク
本発明の第1の態様における放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク(以下、単に「電極材料又はヒートシンク」と言うこともある)は、銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクであって、前記銅−タングステン系合金は前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、55〜85質量%のタングステンを含有する銅−タングステン系合金であり、前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が0.6〜16μmであり、前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい。
また、本発明の第2の態様における放電加工用電極材料は、銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料であって、前記銅−タングステン系合金は、前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、54.7〜82質量%のタングステンと、0.3〜3質量%のアルカリ土類金属酸化物を含有する銅−タングステン系合金であり、前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が2〜16μmであり、前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい。
放電加工用電極材料においては一般には、銅の含有量は30〜35質量%程度であることが多い。この銅の含有量は、被削材よりも高い電気伝導率及び熱伝導率並びに電極材料自体の被削性を確保するためであるが、耐アーク消耗性が低下する原因ともなっている。本発明によれば、例えば後述の製造方法によれば、焼結時にタングステン粒子同士のネッキング形成と同時にタングステン粒子の塑性変形が起こり、耐アーク消耗性の高いタングステン結晶粒同士による三次元ネットワーク構造が形成される。放電加工時、パルス状のアーク放電により電極材料の表面は、激しい熱サイクルによる膨張、収縮とアーク放電による衝撃波により、低融点、高線膨張係数で対アーク消耗性が大きい銅が優先的に消耗すると共に、タングステン結晶粒同士の固着が少ないことによりタングステン粒子の脱粒を招いて大きく消耗する。ところが、本発明の電極材料では、高融点、低線膨張係数で耐アーク消耗性も良好なタングステン結晶粒同士が強固に固着して三次元ネットワーク構造を形成していることから電極消耗を抑制すると共に加工速度を速めることが可能となった。このことは、このような銅−タングステン系合金を半導体用ヒートシンクとして使用した場合も同様である。半導体ヒートシンクの場合、耐アーク消耗性の代わりに線膨張係数を小さくしてセラミックパッケージの線膨張係数とマッチングさせることが重要である。線膨張係数の小さなタングステン結晶粒同士が強固に固着して三次元ネットワーク構造を形成していることから、大きな線膨張係数を有する銅結晶粒の拘束力が向上して半導体ヒートシンク用銅−タングステン系合金に、従来よりも多くの銅を含有させることが可能となる。その結果として、従来よりも高い熱伝導率の半導体ヒートシンクを作ることが可能となる。このため、本発明では従来よりも広い銅の含有量範囲でタングステン結晶粒同士の強固な固着を生じさせることが可能となり、銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、銅の含有量は15〜45質量%、好ましくは20〜40質量%である。銅の含有量が15質量%未満ではタングステン粒子同士の強固な固着は優勢となるものの、強固なタングステン骨格構造の形成が塑性変形を阻害して緻密化が困難なことに加えて、熱伝導率、電気伝導率が被削材に劣ると共に、被削性が低下して電極材料自体の加工が困難となる。また、銅の含有量が45質量%を超えるとタングステン結晶粒同士の固着の減少により銅結晶粒の拘束力が低下し、電極材料の耐アーク消耗性が低下して電極消耗を抑制することができないことに加えて、線膨張係数が急激に大きくなる。
本発明の電極材料が含有する銅−タングステン系合金において、タングステンの含有量は、例えばアルカリ土類金属酸化物を含まない場合は、銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、55〜85質量%、好ましくは60〜80質量%である。タングステンの含有量が55質量%未満では材料の消耗を抑制することができない。また、タングステンの含有量が85質量%を超えると熱伝導率、電気伝導率等に劣る。一方、アルカリ土類金属酸化物を含む場合は、銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、54.7〜82質量%、好ましくは59.5〜77.5質量%である。タングステンの含有量が54.7質量%未満では材料の消耗を抑制することができない。また、タングステンの含有量が82質量%を超えると熱伝導率、電気伝導率等に劣る。
本発明において、銅−タングステン系合金を電極材料として使用する場合、銅−タングステン系合金において、低仕事関数化合物のアルカリ土類金属酸化物を含有することもできる。アルカリ土類金属酸化物としては、特に制限はなく、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等が挙げられる。これらのアルカリ土類金属酸化物は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
本発明の電極材料が含有する銅−タングステン系合金において、アルカリ土類金属酸化物の含有量は、加工速度及び材料の消耗の観点から、銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、0.3〜3質量%が好ましく、0.5〜2.5質量%がより好ましい。アルカリ土類金属酸化物は、低仕事関数化合物であるため熱電子放出特性に優れる反面、絶縁体であることから電気を流さず、酸化物であることから金属よりも熱伝導率が低い。更に電極材料への過度のアルカリ土類金属酸化物の含有は、電気抵抗の上昇を招いてジュール熱により電極材料自体が発熱して電極消耗を促進する。
本発明において、銅−タングステン系合金をヒートシンクとして使用する場合、銅−タングステン系合金において、タングステン結晶粒表面の濡れ性及び焼結時の緻密化を改善するために、鉄族金属を含有することもできる。鉄族金属としては、特に制限はなく、鉄、コバルト、ニッケル等が挙げられる。これらの鉄族金属は、単独で用いることもでき、2種類以上を組合せて用いることもできる。
本発明のヒートシンクが含有する銅−タングステン系合金において、鉄族金属の含有量は、濡れ性及び焼結時の緻密化の観点から、銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、0.05〜0.5質量%が好ましく、0.1〜0.3質量%がより好ましい。
鉄族金属の添加形態としては、金属粉としてタングステン粉や銅粉と一緒に混合しても良いし、タングステン粉にアルコール等で溶解した硝酸塩の形態で液状ドープし、水素雰囲気下等で加熱して硝酸基を分解、還元した溶浸用のタングステンスケルトン作製用のドープタングステン粉として含有してもよい。
鉄族金属の内、ニッケルを添加するとタングステンの活性化焼結により緻密化が特に改善される。
一方、添加された鉄族金属は、タングステン結晶粒表面の銅の濡れ性改善や焼結時の緻密化を改善して内部欠陥低減効果が見込めるものの、熱伝導率と電気伝導率が低下する傾向がある。
本発明によれば、鉄族金属の添加なしに内部欠陥がなく緻密な銅−タングステン系合金を得ることも可能であり、鉄族金属を含有せずとも、より高い熱伝導率と電気伝導率を達成することが可能である。
なお、本発明の電極材料又はヒートシンクが有する銅−タングステン系合金には、上記の銅、タングステン、アルカリ土類金属酸化物、及び鉄族金属の他、不可避金属元素を含むこともできる。このような不可避金属元素としては、クロム、モリブデン、アルミニウム等が挙げられる。これらの不可避金属元素は、単独で含まれていてもよく、2種以上を組合せて含まれていてもよい。これらの不可避金属元素は、少量含まれていても電極材料の消耗率や加工速度並びにヒートシンクの熱伝導率や線膨張係数に影響を与えるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で含まれることができる。具体的には、銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、銅の含有量を15〜45質量%、アルカリ土類金属酸化物の含有量を0.3〜3質量%及び鉄族金属の含有量を0.05〜0.5質量%としてタングステンと不可避金属元素はこの残部であることが好ましい。
本発明の電極材料又はヒートシンクが含有する銅−タングステン系合金は、緻密でタングステン結晶粒同士が強固に固着していることが好ましい。電極材料にポア等の内部欠陥が残留していると、放電加工で型彫りした際に、ポア等の内部欠陥が被削材に転写されてしまう。ポア等の内部欠陥が存在すると、熱伝導率や電気伝導率の低下を招くと共に、製品の表面に露出した場合、ヒートシンクの表面にめっき処理を施した際、ポアに染み込んだめっき液が乾燥時に染みとなって現れたり、腐食の起点となったりする。
各金属元素の結晶粒のなかでも、電極材料ではタングステン結晶粒は大きいことが好ましい。タングステン結晶粒が大きいことにより、タングステン結晶粒同士が強固に固着して放電加工時にタングステン結晶粒が脱粒することを抑制し電極材料の消耗又は線膨張係数を抑えることができる。これは、タングステン結晶粒の機械的強度が粒界強度よりも粒内強度の方が高いからであり、タングステン結晶粒が大きいということは、銅相の平均自由工程(ミーンフリーパス)が大きく取れるという観点から熱拡散率の向上による熱伝導率の向上が見込めるからである。因みに緻密化していないと、内部欠陥に基づく熱拡散率の低下と密度の低下により熱伝導率が大幅に低下する。一般に比熱容量、熱拡散率及び熱伝導率を熱三定数と呼び、熱伝導率は、比熱容量、熱拡散率及び密度を掛け合わせて算出される。比熱容量も線膨張係数と同じく材料組成に基づく複合則により決まるが、熱拡散率は内部欠陥や固溶体の形成などにより大きく影響を受ける。なお、タングステン結晶粒が小さい場合には、緻密化が促進される反面、タングステン結晶粒同士の接触面積の低下と共に固着力が低下しやすい。一般的な連続したアーク放電の場合、放電部分は溶融して溶融池を形成し、電極材料は電極材料自身の組成に基づく定常的な耐アーク消耗性に支配される。一方、放電加工の場合、パルス状のアーク放電により被削材を加工している関係から短時間の内に何度もアークスタートを繰り返している。こういった非定常的な放電形態の場合、溶融池の形成よりも放電開始部分に負荷が掛かり結晶粒の結合が弱いと結晶粒界に沿った結晶粒の脱粒による電極消耗が支配的となり電極材料の消耗率が大きくなる。このような観点から、放電加工用電極材料のタングステン結晶粒の平均粒径は2〜16μmが好ましく、3〜10μmがより好ましく、4〜8μmがさらに好ましい。なお、電極寿命と被削性の関係をより最適化するために、タングステン結晶粒の大きさを適宜調整することも可能である。一方、半導体ヒートシンク用途の場合、タングステン結晶粒の脱粒防止を考慮しなくて良いことから緻密化が優先され、タングステン結晶粒の平均粒径は0.6〜2μmを用いても良い。つまり、半導体用ヒートシンク用途には、タングステン結晶粒の平均粒径は0.6〜16μmが好ましく、放電加工用電極材料用途には、タングステン結晶粒の平均粒径は2〜16μmが好ましい。なお、タングステン結晶粒の平均粒径は、本発明の電極材料の電子顕微鏡(SEM)観察の反射電子像の組成像により測定する。
なお、他の金属の結晶粒、つまり、銅結晶粒及びアルカリ土類金属酸化物結晶粒及び鉄族金属の大きさについては特に制限されない。ただし、偏析のない均質な分散性を得る観点からは、銅結晶粒の平均粒径は25〜50μmが好ましく、アルカリ土類金属酸化物結晶粒の平均粒径は0.1〜200μmが好ましく、50〜150μmとすることもできる。なお、銅結晶粒及びアルカリ土類金属酸化物結晶粒の平均粒径は、本発明の電極材料の電子顕微鏡(SEM)観察の反射電子像の組成像により測定する。一方、鉄族金属に関しては、硝酸塩による液状ドープで含有されることが多く、タングステン粉末の表面に均質分散又は固溶している。
本発明の電極材料又はヒートシンクにおいては、金属結晶粒、特にタングステン結晶粒同士がネッキングを形成し強固に固着していることが好ましい。このように、タングステン結晶粒同士が強固に固着していることにより、アークスタート時に発生する熱電子放出と衝撃波並びに熱膨張によりタングステン結晶粒及び/又は銅結晶粒が脱粒することを抑制し、電極材料の消耗を抑制することができる。通常、放電加工用電極材料に用いられる銅−タングステン系合金は、タングステンに 30〜35質量%の銅を含有しているが、従来の部分溶浸法や混合法で作った場合、含有する銅粉末粒子が周囲に多いのでタングステン粉末粒子同士の接着は稀となり、焼結による加熱で銅粉末粒子が溶融するとタングステン粒子の表面を覆い、タングステン粒子間のネッキング形成を阻害する。一方、本発明の銅−タングステン系合金ではタングステン結晶粒同士が強固に固着している。
両者を線膨張係数と温度で比較すると、従来の銅−タングステン系合金の場合、低線膨張係数物質のタングステン粒子によるネットワークの形成阻害により線膨張係数の大きな銅粒子に対する拘束が弱く、加熱温度が高くなっていくに従い、高線膨張係数物質の銅により銅−タングステン系合金の線膨張係数は500℃以上において右肩上がりに大きくなる。一方、本発明の電極材料又はヒートシンクが有する銅−タングステン系合金の場合、低線膨張係数のタングステン結晶粒同士による強固な三次元ネットワーク構造によって線膨張係数の大きな銅粒子に対しての拘束が強く、銅−タングステン系合金の線膨張係数の増加を抑制する。この結果、本発明の電極材料又はヒートシンクが含有する銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい材料である。具体的には、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数の80〜99%(特に85〜98%)であることが好ましい。なお、500℃以下の領域では、概してタングステン粒子と銅粒子の含有割合に基づく線膨張係数の複合則が成り立っている。
放電加工用電極では、電極表面にパルス状のアーク放電を起こして加工していることから、アークスタート時の急激な加熱により金属結晶粒の結合力が弱いと脱粒する。この場合、電極表面の銅結晶粒は、急激に熱膨張すると共に溶融することと、対アーク消耗性が低いことから優先的に消耗してしまう。そして、電極消耗を抑えるのは高融点、低線膨張係数及び対アーク消耗性に優れたタングステン結晶粒となるが、タングステン結晶粒同士が強固に固着していないと容易に脱粒してしまう。また、タングステン結晶粒のネッキング部分、すなわちタングステン結晶粒界はタングステン粒内よりも結合力が弱いので、粗粒のタングステン粒子を使用する方が有利となる。
更にアーク放電が生じている表面層の内部でもジュール熱と熱伝導率により加熱される。この場合、タングステン結晶粒が強固に固着していないと、線膨張係数の大きい銅結晶粒によりタングステン結晶粒界が破壊して電極消耗を助長させる。
一方、ヒートシンクでは、半導体と共にセラミックパッケージに組み込み、銀ろう等を用いてろう付けされる。この際にヒートシンクとセラミックパッケージの線膨張係数のマッチングが出来ていないとろう付けすることが出来ない。銀の融点は961.8℃であり、銀ろうの融点はそれより低い700〜800℃前後である。ヒートシンクとセラミックパッケージの線膨張係数のマッチングは、銀ろう付けするろう付け温度までが要求される。
熱膨張を表す用語には、線膨張係数(熱膨張率、熱膨張係数ともいう)と体積膨張係数と呼ばれるものがあり、試料の長さ方向の熱膨張を測定する場合と体積膨張で測定する場合があるということを示している。普通、熱膨張というと、測定が容易な線膨張係数を指す。また、線膨張係数には、平均線膨張係数と瞬時線膨張係数というものもある。平均線膨張係数とは、あらかじめ定めた基準温度と測定温度区間での線膨張係数の平均値を指し、瞬時線膨張係数とは、ある測定温度における瞬間的な線膨張係数を示している。単に線膨張係数と呼ぶ場合は、平均線膨張係数のことを指している。
ヒートシンクとセラミックパッケージの線膨張係数のマッチングとは、厳密にいうと銀ろう付けするろう付け温度までの昇温過程から室温までの降温過程の全過程において線膨張係数がマッチングしているということを示しているが、特にろう材がヒートシンクとセラミックパッケージを固着させた後の降温過程が重要である。ヒートシンクの線膨張係数がセラミックパッケージの許容する線膨張係数の範囲を逸脱すると、反ったり剥離したりする等というろう付け不良が発生する。
一般的に溶浸法で作られた銅−タングステン系合金の場合、タングステン結晶粒が強固な三次元ネットワークを形成していることから加熱するに従って線膨張係数の増加率は僅かに右肩上がりに変化してゆく傾向にある。一方、部分溶浸法や混合法で作られた銅−タングステン系合金の線膨張係数は、タングステン結晶粒の固着が弱く、又は溶融した銅相で覆われていることから、昇温とともに銅の線膨張係数の寄与が大きくなり、徐々に右肩上がりに増加していく傾向にある。
一般に言われる複合材料の線膨張係数に於ける複合則は、銅−タングステン系合金では室温から500℃の範囲で維持されていた。
一方、本発明の銅−タングステン系合金の場合、含有する銅量が多いにも拘わらず、タングステン結晶粒同士の固着が強固であるため、溶浸法、部分溶浸法及び混合法で作られた銅−タングステン系合金と異なり、500℃以上で増加率が低下するという特異な挙動を示すことで、ヒートシンク用として好適に使用することができる。
線膨張係数を溶浸法と同程度に抑えつつ銅量を増やすアイデアとしては、ハニカム構造や細かな穴を開けたタングステン素材に銅を溶浸という試みが行われた。結果として線膨張係数の抑制効果は認められたものの、熱サイクル負荷をかけると銅相部分が徐々に盛り上がり、半導体を破損する事態となり適用することは叶わなかった。
一方、本発明の銅−タングステン系合金の場合、微視的に見てもタングステン結晶粒同士の固着が三次元ネットワーク構造を形成していることから、銅相の部分的な盛り上がりを抑制することが可能である。
また銅-モリブデン系合金又は銅−タングステン系合金では、溶浸体又は焼結体を圧延加工することにより、モリブデン粒子又はタングステン粒子同士が塑性変形して扁平形状になり銅粒子とモリブデン粒子又はタングステン粒子との接触面積が増大することにより高温領域での線膨張係数を抑制することが可能である。しかしながらモリブデン粒子又はタングステン粒子の塑性変形が必要となることから相応する加工度が必要となり、圧延材は薄板に限定されると共に線膨張係数の異方性も生ずる。
溶浸法、部分溶浸法及び混合法といった従来法で作製した銅-タングステン系合金は、900℃まで加熱する熱処理試験により0.11%の寸法収縮を起こすが、本発明の銅-タングステン系合金の場合、ほとんど寸法収縮することはない。具体的には、還元雰囲気下において10℃/分の昇温速度で900℃まで加熱し、自然冷却する条件で熱処理試験を行った場合、熱処理を加えた後の収縮率が0.05%以下(特に0.001〜0.03%)とすることができる。
同様の効果は、銀−タングステン系材料、銅−モリブデン系材料、銀−モリブデン系材料及び銀−炭化タングステン−コバルト系材料等に関しても適用することが可能である。
本発明の電極材料又はヒートシンクは、上記した銅−タングステン系合金のみからなる構成であってもよいし、銅−タングステン系合金の他に多少不純物が含まれていてもよい。このような不純物としては、例えば、クロム、モリブデン、アルミニウム等が挙げられる。このような不純物の含有量は、本発明の効果を奏する限り特に制限はなく、本発明の電極材料を100質量%として、上記した銅−タングステン系合金を99.5〜100質量%(特に99.7〜99.9質量%)、不純物を0〜0.5質量%(特に0.1〜0.3質量%)含有することが好ましい。
本発明の電極材料又はヒートシンクの密度は、特に制限されないが、電極材料の消耗を特に抑えることができ、加工速度や被削性もさらに向上させられる又はヒートシンクのめっき不良を抑える観点から、13.5〜14.5g/cm3が好ましく、13.9〜14.0g/cm3がより好ましい。本発明の電極材料の密度は、寸法と質量測定に基づく計算法又は、水中法(アルキメデス法)により測定する。
本発明の電極材料又はヒートシンクの相対密度は、特に制限されないが、相対密度が低いとタングステン結晶粒同士の固着力が低下しやすいし、相対密度が低いとポア等の内部欠陥が生じやすい。電極材料又はヒートシンクの表面にポアが残っていると型彫り加工した際に、欠陥が被削材に転写しやすいし、めっき処理した場合には染みや腐食の起点となりやすい。このような観点から相対密度は95%以上が好ましく、97%以上がより好ましい。本発明の電極材料又はヒートシンクの相対密度は、寸法と質量測定に基づく計算法又は、水中法(アルキメデス法)で求めた密度を、電極材料を構成する化合物の密度と含有比から求めた理論密度で割って100を乗じることにより算出される。
本発明の電極材料又はヒートシンクの硬度(ビッカース硬度;Hv10)は、特に制限されないが、電極材料の消耗を特に抑えることができ、加工速度や被削性もさらに向上させられる観点から、170〜200が好ましく、180〜195がより好ましい。本発明の電極材料の硬度は、JIS Z 2244に準拠したビッカース硬さ試験により測定する。
本発明の電極材料又はヒートシンクの導電率は、特に制限されないが、焼鈍標準軟銅(体積抵抗率ρ0= 1.7241×10-2μΩm)の導電率を100%IACSとして規定した場合に、本発明の電極材料の体積抵抗率をρとして、導電率Ec= ρ0/ρ×100で計算した場合に40〜55%が好ましく、42〜50%がより好ましく、44〜48%がさらに好ましい。本発明の電極材料の導電率は、導電率測定装置により測定する。
このような条件を満たす本発明の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクは、加工速度を飛躍的に向上させ材料を特に消耗させにくくすると共に線膨張係数を抑制するものである。
2.放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクの製造方法
本発明の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクの製造方法は、特に制限はなく、例えば、銅粉末と、タングステン粉末とを含有する原料粉末を混合し、固相焼結条件で放電プラズマ焼結処理する工程を備える。
原料粉末として使用する銅粉末としては特に制限されないが、原料粉末を放電プラズマ焼結することにより上記した平均粒径を有する銅結晶粒を形成するようなサイズの銅粉末を使用することが好ましい。具体的には、銅粉末の平均粒子径は、放電プラズマ焼結による固相焼結によりタングステン結晶粒同士が強固に固着し電極材料の消耗をより抑え加工速度もより改善した放電加工用電極材料を得やすい観点から、平均粒子径は13〜100μmが好ましく、25〜50μmがより好ましい。銅粉末の平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定する。
原料粉末として使用するタングステン粉末としては特に制限されないが、原料粉末を放電プラズマ焼結することにより上記した平均粒径を有するタングステン結晶粒を形成するようなサイズのタングステン粉末を使用することが好ましい。具体的には、粗粒なタングステン結晶粒同士を強固に固着させることにより、放電加工における電極材料の消耗を抑えることができる放電加工用電極材料が得られる観点から、タングステン粉末の平均粒子径は2〜16μmが好ましく、3〜10μmがより好ましく、4〜8μmがさらに好ましい。なお、電極寿命と被削性の関係をより最適化するために、タングステン結晶粒の大きさを適宜調整することも可能である。更にヒートシンク用に緻密化を優先させる場合、タングステン結晶粒の平均粒径は0.6〜2μmを用いても良い。つまり、半導体用ヒートシンク用途には、タングステン結晶粒の平均粒径は0.6〜16μmが好ましく、放電加工用電極材料用途には、タングステン結晶粒の平均粒径は2〜16μmが好ましい。また、放電加工条件や使用される放電加工機により電極材料の消耗性か被削性のどちらを優先するかが異なる場合、タングステン粉末の平均粒子径を適宜調整することにより最適化を図ることができる。タングステン粉末の平均粒子径が大きいと、電極材料の消耗は抑えられるが被削性が低下する。一方、タングステン粒子の平均粒子径が小さいと、電極材料の耐消耗性は低下するが被削性は向上する。タングステン粉末の平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定する。
本発明の放電プラズマ焼結による固相焼結では、タングステン粒子の周囲に銅粒子が存在しているが、タングステンと銅は固溶体を形成しないことからタングステン結晶粒と銅結晶粒の成長はほとんど起こらない。しかしながら緻密化を促進するためにニッケルを含有させると活性化焼結が起こり、緻密化を促進させるものの、タングステン結晶粒の粗粒化と、電極材料の電気伝導率や熱伝導率の低下を招きやすいことからニッケルの含有量は0.5質量%以下にとどめることが好ましい。
本発明の電極材料が有する銅−タングステン系合金がアルカリ土類金属酸化物を含有している場合は、原料粉末中にタングステン酸アルカリ土類金属粉末を含ませることが好ましい。原料粉末として使用するタングステン酸アルカリ土類金属粉末における「タングステン酸」には、オルトタングステン酸のみならずピロタングステン酸も含まれる。原料粉末として使用するタングステン酸アルカリ土類金属粉末としては、特に制限はなく、タングステン酸マグネシウム(MgWO4、MgW2O7等)、タングステン酸カルシウム(CaWO4、CaW2O7等)、タングステン酸ストロンチウム(SrWO4、SrW2O7等)、タングステン酸バリウム(BaWO4、BaW2O7等)等が挙げられる。これらのタングステン酸アルカリ土類金属粉末は単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
原料粉末として使用するタングステン酸アルカリ土類金属粉末の大きさは特に制限されないが、原料粉末を放電プラズマ焼結することにより上記した平均粒径を有するアルカリ土類金属酸化物結晶粒を形成するようなサイズのタングステン酸アルカリ土類金属粉末を使用することが好ましい。具体的には、タングステン酸アルカリ土類金属粉末の平均粒子径は、放電プラズマ焼結による固相焼結によりタングステン結晶粒同士が強固に固着し電極材料の消耗をより抑え加工速度もより改善した放電加工用電極材料を得やすい観点から、平均粒子径は0.1〜200μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。なお、50〜200μm、特に50〜100μmとすることもできる。タングステン酸アルカリ土類金属粉末の平均粒子径は、粒度分布測定装置により測定する。
各原料粉末の使用量は特に制限されない。本発明の電極材料又はヒートシンクを得た場合に上記した含有量となるように使用することが好ましい。具体的には、原料粉末の総量を100質量%として、タングステン酸アルカリ土類金属粉末を含まない場合は、銅粉末の含有量を15〜45質量%(特に20〜40質量%)、残部をタングステンとすることが好ましく、タングステン酸アルカリ土類金属粉末を含む場合は、銅粉末の含有量を15〜45質量%(特に20〜40質量%)、タングステン酸アルカリ土類金属粉末の含有量を0.3〜3質量%(特に0.5〜2.5質量%)、残部をタングステンとすることが好ましい。
上記した原料粉末を用いて混合し、固相焼結による放電プラズマ焼結処理(以下、「SPS処理」と言うこともある)を施すことにより、本発明の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクを得ることができる。
SPS処理を施すにあたり、原料粉末を加熱させることが好ましい。この場合の加熱温度は、タングステン結晶粒同士が強固に固着した放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクを得やすく材料の消耗や線膨張係数をより抑え加工速度もより改善できる観点から、950〜1050℃が好ましく、1000〜1030℃がより好ましい。また、昇温速度については同様の理由から30〜100℃/分が好ましく、45〜55℃/分がより好ましい。なお、溶融した銅がタングステン粉末粒子の表面を覆い、タングステン結晶粒同士の固着をより阻害しにくくするために、放電プラズマ焼結時の焼結温度は銅の融点(1083℃)以下が好ましい。
SPS処理を施すにあたり、加圧下にて行うことが好ましい。この場合の圧力は、特に制限はなく、タングステン結晶粒同士が強固に固着した放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクを得やすく材料の消耗や線膨張係数をより抑え加工速度もより改善できる観点から、30〜100MPaが好ましく、45〜55MPaがより好ましい。
SPS処理の雰囲気は特に制限されないが、タングステン結晶粒同士が強固に固着した放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクを得やすく材料の消耗や線膨張係数をより抑え加工速度もより改善できる観点から、水素雰囲気や一酸化炭素等の還元雰囲気、真空雰囲気および窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性雰囲気が好ましい。
SPS処理の時間は特に制限されないが、タングステン結晶粒同士が強固に固着した放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクを得やすく材料の消耗や線膨張係数をより抑え加工速度もより改善できる観点から、30〜60分が好ましく、35〜45分がより好ましい。
放電プラズマ焼結法による固相焼結と類似した効果は、ホットプレス法や密閉容器に混合粉末を充填して真空引きしながら成形する熱間等方圧加圧法(キャニングHIP法)でも達成可能であるが、ネッキングの形成は放電プラズマ焼結法の方が顕著であることから、タングステン結晶粒の固着力は放電プラズマ焼結法には及ばない。その理由としては、ホットプレス法や熱間等方圧加圧法の場合、結晶粒全体に均質な熱と圧力が掛かるだけであるのに対して、放電プラズマ焼結法の場合には、前者の効果に加えて発生したプラズマが結晶粒の接触部を優先的に溶解させて強固なネッキングを形成するからである。
次に得られた溶浸体又は焼結体について見ると、従来法である溶浸法や部分溶浸法では溶浸に必要な銅量に加えて銅切れ防止のために余剰な銅を投入することが多い。これら余剰の銅は溶浸体の表面を覆うことになるが、溶浸炉の炉内温度分布や銅の表面張力の関係で一部に偏析する傾向がある。この余剰な銅相は、銅−タングステン系材料と比較して大きな線膨張係数を有することから、冷却時に溶浸体が反る原因となる。また従来の混合法による焼結法でも、溶融した銅の一部が表面に染み出して余剰な銅相を形成して焼結体が変形することとなる。
これらの溶浸体又は焼結体から銅−タングステン系材料を研削加工やホーニング加工で取り出す際には、変形量を考慮する必要があり、材料歩留まりの低下を招く。
一方、固相焼結であるホットプレス法やSPS法で得られる焼結体には余剰な銅相等はないため、材料歩留まりが良い。一方、同じ固相焼結でも熱間等方圧加圧法(キャニングHIP法)を使用した場合には、銅−タングステン系材料の周囲に加圧により変形した充填容器があるため、材料歩留まりの低下を防ぐことは難しい。
余剰に投入した銅による銅−タングステン系材料の反りであるが、余剰な銅相の厚さが増大すると銅−タングステン系材料と余剰な銅相との界面近くの銅相の中に銅の引け巣に基づくポアが形成されることになる。このようなポアが形成される場合、水素雰囲気下での溶浸工程に続く冷却工程では、雰囲気を水素から窒素に切り替えることにより回避することができる。
次に従来の溶浸体又は焼結体から得られた銅−タングステン系材料は、未だ緻密化する余地を残している。これは銅−タングステン系材料中に取り込んだ水素や線膨張係数がタングステンよりも大きな銅相が冷却過程で、引っ張り残留応力や微細な引け巣を生じさせるためであると思われる。
このような銅−タングステン系材料は、固相焼結温度での熱処理を施すことにより内部エネルギーが解放されると共に密度の向上と寸法収縮が生じる。
一方、冷却工程まで加圧され、更に吸蔵されやすい水素を使用しないホットプレス法、SPS法及び熱間等方圧加圧法(キャニングHIP法)によって得られた銅−タングステン系材料は、熱処理を施す必要がない。
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらのみに限定されるものではない。
[密度]
計算法又は水中法(アルキメデス法)により、各試料の密度を測定した。なお、溶浸法等で作製された試料の密度は、余剰な銅相を除去した後に測定している。
[相対密度]
上記のように測定した密度を焼結密度(実密度)とし、気孔や欠陥を含まないとして理論的に複合則により算出される密度を理論密度とし、両密度を[焼結密度/理論密度×100(%)]に代入することによって相対密度を算出した。
[ビッカース硬度(Hv10)]
JIS Z 2244に準拠して、各試料のビッカース硬度(Hv10)を測定した。
[導電率]
導電率測定装置(シグマテスト2067)により各試料の体積抵抗率を測定した。そのうえで、焼鈍標準軟銅(体積抵抗率ρ0= 1.7241×10-2μΩm)の導電率を100%IACSとして規定した場合に、本発明の試料の体積抵抗率をρとして、導電率Ec= ρ0/ρ×100で計算した。
[電極消耗]
ある厚さを持つ同一被加工物に対して、貫通加工が完了した際の電極消耗長さ(面積)を比較した。電極消耗長さが短いほど優れていると判断し、以下:
○:実施例1より電極消耗量が少ない(優れる)
△:実施例1と電極消耗量が同程度
×:実施例1より電極消耗量が多い(劣る)
のとおり評価した。
[加工時間]
ある厚さを持つ同一被加工物に対して、貫通加工が完了するまでの加工時間を比較した。加工時間が短いほど優れていると判断し、以下:
○:実施例1より加工時間が少ない(優れる)
△:実施例1と加工時間が同程度
×:実施例1より加工時間が多い(劣る)
のとおり評価した。
[線膨張係数、伸び率及び全伸び]
横型示差膨張測定(株式会社マック・サイエンス社製TD5200S使用、100%水素雰囲気中、昇温速度:5℃/min、荷重負荷:10gf)により、線膨張係数、伸び率及び全伸びを測定した。
[熱伝導率]
レーザフラッシュ法熱定数測定装置(真空理工株式会社製TC−7000型)により、大気中室温下(25℃)での比熱容量及び熱拡散率を測定した。比熱容量と熱拡散率を乗じ、更に別途測定した密度を乗じると熱伝導率が[熱伝導率=比熱容量×熱拡散率×密度]にしたがって算出される。
[実施例1:29.15Cu-69.15W-1.7BaWO4
Cu粉末、W粉末(平均粒子径4.00〜7.99μm)、BaWO4粉末を所定比率となるよう秤量し、シェイカーミキサーを用いた乾式混合を行い、これを混合粉末とした。この混合粉末を黒鉛ダイス型に充填し、上下パンチ型で挟み込んだ状態で装置チャンバーへ設置した。ロータリーポンプを用いてチャンバー内部を10-1Pa程度の真空雰囲気とし、その後、混合粉末に50MPaの圧力を掛けながら、室温〜1030℃まで昇温時間50℃/分にて通電加熱し、最高温度1030℃にて30分間保持後炉冷を行い、300℃以下に達した時点で負荷圧力の開放及びチャンバー内部を大気圧へ開放し焼結体の取出しを行った。なお、加熱温度は黒鉛ダイス型に設置した熱電対を用いて測温した。
[比較例1:Ba系化合物添加 30Cu-70W]
株式会社アライドマテリアル製の銅−タングステン系合金NEL150(ニッケル含有Cu-W系合金;SPS処理せず)を比較例1の放電加工用電極材料として使用した。なお、この比較例1の放電加工用電極材料は、製造過程でSPS処理されていない材料である。
[比較例2:Ba系化合物添加 30Cu-70W]
冨士ダイス株式会社製の銅−タングステン系合金CE-08を比較例2の放電加工用電極材料として使用した。なお、この比較例2の放電加工用電極材料は、製造過程でSPS処理されていない材料である。
[比較例3:Cr系化合物添加 30Cu-70W]
株式会社シルバーロイ製の銅−タングステン系合金を比較例3の放電加工用電極材料として使用した。なお、この比較例3の放電加工用電極材料は、製造過程でSPS処理されていない材料である。
[実施例2:30Cu-70W、50MPa]
Cu粉末、W粉末(平均粒子径2.00〜3.99μm)を所定比率(CuとWの質量比が30: 70)となるように秤量し、シェイカーミキサーを用いた乾式混合を2時間行い、これを混合粉末とした。この混合粉末を黒鉛ダイス型に充填し、上下パンチ型で挟み込んだ状態で装置チャンバーへ設置した。ロータリーポンプを用いてチャンバー内部を10-1Pa程度の真空雰囲気とし、その後、混合粉末に50MPaの圧力を掛けながら、室温から、12分かけて800℃まで昇温し、その後、5分かけて900℃まで昇温し、その後、13分かけて1030℃まで昇温するように通電加熱し、最高温度1030℃にて30分間保持後炉冷を行い、300℃以下に達した時点で負荷圧力の開放及びチャンバー内部を大気圧へ開放し焼結体の取出しを行った。なお、加熱温度は黒鉛ダイス型に設置した熱電対を用いて測温した。
[実施例3:30Cu-70W、80MPa]
通電加熱する際の荷重を50MPaではなく80MPaとしたこと以外は実施例2と同様に、焼結体を作製した。
[実施例4:25Cu-75W、50MPa]
Cu粉末、W粉末(平均粒子径2.00〜3.99μm)を所定比率(CuとWの質量比が25: 75)となるよう秤量したこと以外は実施例2と同様に、焼結体を作製した。
[実施例5:25Cu-75W、80MPa]
通電加熱する際の荷重を50MPaではなく80MPaとしたこと以外は実施例2と同様に、焼結体を作製した。
[実施例6:20Cu-80W、80MPa]
Cu粉末、W粉末(平均粒子径2.00〜3.99μm)を所定比率(CuとWの質量比が20: 80)となるよう秤量し、通電加熱する際の荷重を50MPaではなく80MPaとし、900℃から1030℃まで26分かけて昇温したこと以外は実施例2と同様に、焼結体を作製した。
[実施例7:20Cu-80W、80MPa]
Cu粉末、W粉末(平均粒子径1.50〜1.99μm)を所定比率(CuとWの質量比が20: 80)となるよう秤量し、通電加熱する際の荷重を50MPaではなく80MPaとし、900℃から1030℃まで26分かけて昇温したこと以外は実施例2と同様に、焼結体を作製した。
[比較例4:30Cu-70W、部分溶浸法]
W粉(平均粒径4.00〜7.99μm)に10質量%の銅粉を混合、造粒した混合粉をプレス、脱脂、固相焼結して所定の気孔率を有した銅−タングステンスケルトンを作製し、切断した銅条を加えて溶浸した。放電加工用又は接点用の通常品として採用した。
[比較例5:20Cu-80W、粗粒タイプ、溶浸法]
0.3質量%相当の硝酸ニッケルを液状ドープし硝酸基を熱分解したW粉末(平均粒径4.00〜7.99μm)をプレス、脱脂、固相焼結して所定の気孔率のタングステンスケルトンを作製し、切断した銅条を加えて溶浸した。半導体ヒートシンク用の通常品として採用した。
[比較例6:20Cu-80W、キャニングHIP法]
Cu粉、W粉(平均粒径1.50〜1.99μm)を乾式混合し、鉄容器に入れ、真空脱気しながらキャニングHIP処理を実施した。
[比較例7:サファイア標準]
横型示差膨張測定の標準附属品を使用した。
[評価結果]
放電加工用電極材料用途に関する実施例1及び比較例1〜3の試料の結晶組織の電子顕微鏡写真(500倍及び2000倍)による反射電子像の組成像、エネルギー分散型X線分析による元素分析の結果及び破断面の電子顕微鏡写真(2000倍及び5000倍)を図1に示す。結晶組織写真用の試料は樹脂に埋め込んだ後に鏡面研磨し、更に村上試薬で腐食して結晶粒界を明瞭にしている。なお、図1において、比較例1〜2では白い粒子がタングステン、黒い粒子が銅、灰色の粒子がバリウム化合物であり、比較例3では白い粒子がタングステン、黒い粒子が銅、より黒色の強い粒子がクロム酸化物であり、粒子の色は原子番号が大きいほど白くなる。この結果、比較例2と比較して実施例1はタングステン結晶粒の大きさが大きく(平均粒径4.00〜7.99μm)、且つ、角張っており、タングステン結晶粒同士のネッキングがしっかり形成されており、タングステン結晶粒同士の固着強度が高いことが理解できる。対して実施例1と比較例1のタングステン結晶粒の大きさを比較すると、実施例1の方が僅かに大きく、且つ、角張っているように観察されるが、僅かな違いであった。ところが破断面の観察から、比較例1及び比較例3ではタングステン粒子が丸みを帯びているのに対して、実施例1でそれは見受けられず、タングステン結晶粒が角張っており、タングステン結晶粒同士のネッキング形成がしっかり形成されていることが理解できる。また破断部位を比較すると、実施例1ではタングステン-タングステン結晶粒界からの破断が確認されるのに対して、比較例1及び比較例3では銅-銅結晶粒界や銅相からタングステン結晶粒が脱粒して破断した様子が観察される。このことから、比較例1は、混合法で作製された可能性が示唆されると共にタングステン結晶粒のネッキング形成がほとんどないことが窺われた。
次に、半導体用ヒートシンク用途に関する実施例2、4及び6の試料の結晶組織の電子顕微鏡写真(500倍及び2000倍)を図2に示す。試料は樹脂に埋め込んだ後に鏡面研磨し、更に村上試薬で腐食して結晶粒界を明瞭にしている。なお、図2において、白い粒子がタングステン、黒い粒子が銅であり、粒子の色は原子番号が大きいほど白くなる。この結果、いずれの試料においても、タングステン結晶粒の大きさは実施例1と比較して小さいものの(平均粒径2.00〜3.99μm)、且つ、角張っており、タングステン結晶粒同士のネッキングがしっかり形成されており、タングステン結晶粒同士の固着強度が高いことが理解できる。
実施例1の場合、電極消耗の観点から粗粒タングステン粉を使用したが、実施例2、4及び6では焼結密度の緻密化を重視して微粒タングステン粉を使用したため、全体として結晶組織が細かくなっていた。
次に、実施例1及び比較例1〜3の試料の密度、相対密度、硬度、導電率、電極消耗及び加工時間の結果を表1に示す。この結果、密度、相対密度、硬度及び導電率は同程度であっても、粗粒タングステン粉末を用いて、SPS処理をすることで他の比較例と比較してタングステン結晶粒同士が塑性変形するとともに強固に固着しており電極消耗が抑制され、電極の消耗が比較例1〜3と比較すると半分程度であった。また、加工時間については比較例1〜3と比較すると1割程度減少させることができた。
次に、実施例2〜7の試料の密度、相対密度の結果を表2に示す。この結果、いずれの試料においても、SPS処理により相当程度の密度を確保することができた。Cuの軟化は500℃付近で起こるため、高温ではタングステン粒同士の焼結(ネック形成)によって相対密度が向上しているものと推察される。またSPS処理中の荷重を50MPaから80MPaに上げたり、タングステン粉末の平均粒径を2.00〜3.99μmから1.50〜1.99μmへと微粉化したりすることにより、緻密化が進んでいることがわかる。
次に、実施例1及び比較例1の試料の線膨張係数を図3に示す。この結果、比較例1では800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも大きいのに対し、実施例1では800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さかった(約95%であった)。図1によると、実施例1と比較例1の組織写真の差は僅かであることから、線膨張係数挙動の違いは、SPS処理と従来法(破断面の観察から混合法と思われる)の違いにより生じたと考えられる。
次に、実施例2、5及び7並びに比較例4〜7の試料の線膨張係数の結果を表3及び図4〜5に示す。溶浸法又は部分溶浸法で作製した試料は温度の上昇とともに線膨張係数の直線的な増加が見られたが、500℃以上の温度領域では右肩上がりに増加している。一方、SPS焼結体は600℃付近から傾きが緩やかになり、高温域での線膨張係数が低くなった。これは従来の混合法、溶浸法及び部分溶浸法で作製したものでは見られない特徴である。なお、比較例7のサファイア標準試料の場合は直線的に上昇していることから、SPS焼結体では高温域で線膨張係数が減少していることは測定装置による測定エラーではないことが理解できる。また、図5からは、SPS焼結体については銅含有量の変化によってほぼ直線的に線膨張係数の挙動が変わっている。また溶浸法又は部分溶浸法で作製した試料の500℃と800℃の線膨張係数を比較すると、800℃の線膨張係数の方が高い。一方、SPS焼結体では逆に500℃の線膨張係数の方が高い。このため、高温域で線膨張係数が減少していることはSPS焼結特有の挙動と推察される。このような挙動が見られる理由としては、固相焼結のSPS処理により、タングステン結晶粒同士の強固な三次元ネットワークが形成されていたことの証左である。つまりSPS処理では、従来のタングステンスケルトンによるタングステン結晶粒同士の固着よりも強固に固着しているため、高い線膨張係数を有する銅に対する拘束力が高いことが分かった。また、線膨張係数の拘束力は含有する銅量に依存する。
次に、実施例2、5及び7並びに比較例4〜7の試料の伸び率の結果を図6〜8に示す。この結果、溶浸法又は部分溶浸法で作製した比較例4及び5では温度の上昇とともに伸び率がほぼ直線形的に上昇し、500℃以上の温度領域では右肩上がりに増加している。対して、実施例2、5及び7では高温域(700〜900℃)では伸び率の上昇が抑制されていた。このことは、実施例2、5及び7ではSPS処理によりタングステン粒子同士がより強固に固着している(ネッキングしている)ことが示唆される。なお、キャニングHIP法を採用した比較例6の場合も、高温域(700〜900℃)での伸び率の上昇が抑制されているものの、SPS処理を採用した実施例7の場合は高温域(700〜900℃)での伸び率の上昇がさらに抑制されていた。このため、SPS処理を採用することで、キャニングHIP法を採用した場合と比較しても、タングステン粒同士がより強固に固着している(ネッキングしている)ことが示唆される。これはキャニングHIP法の場合、加熱と静水圧による固相焼結であるのに対して、SPS処理法ではプラズマによるネッキング形成が更に加味されるからであると考えられる。
半導体ヒートシンクでは表面にニッケルめっき等を施して耐食性の向上を図っているが、従来の溶浸法で作製した銅-タングステン系合金はニッケルめっきの焼き締め工程で収縮することが知られており、収縮率を見込んで大きめに製品を作製する等の対策が取られている。この収縮挙動は、非常に大きな製品を作製する必要がある場合は、前述のような対策を取らないと製品の寸法不良が発生する原因となる。表3では、銅-タングステン系合金を10℃/分で昇温して900℃に到達すれば自然冷却するという加熱条件によって生じる収縮率を示している。従来の溶浸法で作製した比較例5では0.11%収縮したのに対して、SPS焼結により作製した実施例では収縮率は0.01%に過ぎなかった。
SPS処理によって作製された銅−タングステン系合金では、このような収縮挙動はほとんどみられず、前述のような対策なしに精密加工が可能であることを示している。
熱処理試験による試料収縮の有無は、銅-タングステン系合金の熱膨張及び収縮において、大きな寄与がある銅相の挙動により生じた可能性が高い。降温過程において試料は全体として収縮するが、線膨張係数が小さなタングステン相と比較して、線膨張係数の大きな銅相は銅-タングステン系合金の中で引っ張り残留応力が生じることが考えられる。この引っ張り残留応力により、銅-タングステン系合金の中に微細な欠陥が生じると共に熱処理試験によって収縮する余地が生じたのではないかと考えられる。この現象は大気圧下で処理される溶浸法、部分溶浸法及び混合法で発生する。対して、加圧下で処理されるSPS法及びキャニングHIP法では、降温時に生じる引っ張り残留応力が周囲からの加圧によってキャンセルされることにより、試料の収縮が生じなかったのではないかと考えられた。
次に、実施例2、4、5及び7の試料の熱伝導率及び導電率の測定結果を表4に示す。また参考のために、タングステン及び銅の熱伝導率及び導電率を金属データブックより引用して記載した。
熱伝導率は銅含有率が25質量%までの実施例2、4及び5では、体積比による理論値との差は大きくないが、銅含有率が20質量%の実施例7では大きく低下して、体積比による理論値との差が大きく乖離している。この傾向は、導電率についても同様である。その原因としては試料の緻密化不足が考えられる。表2を参照すると、実施例2、4、5及び7の相対密度は各々98.5%、97.7%、98.0%及び97.4%であり、試料の緻密化不足によることが確認された。

Claims (10)

  1. 銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクであって、
    前記銅−タングステン系合金は、前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、55〜85質量%のタングステンを含有する銅−タングステン系合金であり、
    前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が0.6〜16μmであり、
    前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい、放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。
  2. 前記銅−タングステン系合金が、タングステン結晶粒同士の強固な固着を有する、請求項1に記載の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。
  3. 10℃/分で900℃まで昇温した後に室温まで自然冷却する熱処理試験を行った場合、熱処理を加えた後の収縮率が0.05%以下である、請求項1又は2に記載の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンク。
  4. 銅−タングステン系合金より成る放電加工用電極材料であって、
    前記銅−タングステン系合金は、前記銅−タングステン系合金の総量を100質量%として、15〜45質量%の銅と、54.7〜82質量%のタングステンと、0.3〜3質量%のアルカリ土類金属酸化物を含有する銅−タングステン系合金であり、
    前記銅−タングステン系合金は、タングステン結晶粒の平均粒径が2〜16μmであり、
    前記銅−タングステン系合金は、800℃における線膨張係数が、500℃における線膨張係数よりも小さい、放電加工用電極材料。
  5. 前記銅−タングステン系合金が、タングステン結晶粒同士の強固な固着を有する、請求項4に記載の放電加工用電極材料。
  6. 10℃/分で900℃まで昇温した後に室温まで自然冷却する熱処理試験を行った場合、熱処理を加えた後の収縮率が0.05%以下である、請求項4又は5に記載の放電加工用電極材料。
  7. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の放電加工用電極材料又は半導体用ヒートシンクの製造方法であって、
    銅粉末と、タングステン粉末とを含有する原料粉末を混合し、固相焼結条件で放電プラズマ焼結処理する工程
    を備え、
    前記タングステン粉末の平均粒子径が0.6〜16μmである、製造方法。
  8. 前記原料粉末において、原料粉末の総量を100質量%として、前記銅粉末の含有量が15〜45質量%であり、前記タングステン粉末の含有量が55〜85質量%である、請求項7に記載の製造方法。
  9. 請求項4〜6のいずれか1項に記載の放電加工用電極材料の製造方法であって、
    銅粉末と、タングステン粉末と、タングステン酸アルカリ土類金属粉末とを含有する原料粉末を混合し、固相焼結条件で放電プラズマ焼結処理する工程
    を備え、
    前記タングステン粉末の平均粒子径が2〜16μmである、製造方法。
  10. 前記原料粉末において、前記銅粉末の含有量が15〜45質量%であり、前記タングステン粉末の含有量が54.7〜82質量%であり、前記タングステン酸アルカリ土類金属粉末の含有量が0.3〜3質量%である、請求項9に記載の製造方法。
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