JP2020011403A - シクロオレフィンポリマーの接合方法 - Google Patents

シクロオレフィンポリマーの接合方法 Download PDF

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Abstract

【課題】シクロオレフィンポリマー(COP)製の板(第1板)を、大きな圧力や高い温度を付加することなく、また、光学特性を変化させることなく、相手材料の板(第2板)に接合する方法を提供する。【解決手段】少なくとも第1板の接合面をH2Oプラズマに曝した後、第1板の接合面と第2板の接合面を、第1板材料(COP)のガラス転移温度及び第2材料のガラス転移温度のいずれか低い方よりも50℃低い温度以下の温度(ただし、通常の大気中では5℃以上)の雰囲気下で合わせる。これにより、接合面において両板が光学的に一体化し、接合面が光学的に現れなくなる。また、H2Oプラズマに曝された接合面の親水性が維持される。【選択図】図2

Description

本発明は、シクロオレフィンポリマー(COP)を相手材料に接合する方法に関する。
飽和炭化水素系の非晶質プラスチックであるシクロオレフィンポリマー (COP) は、可視光領域において透明で複屈折が小さいという優れた光学特性を有する上、水による膨張が少ないことから、光学レンズに多く用いられる。また、バックグラウンドの蛍光強度がガラスに匹敵するほど低いことから、蛍光検出系のマイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップ)への利用が考えられている。さらには、材料内での電気エネルギーの損失の度合いを示す誘電正接が小さく、高周波特性に優れている点に着目して、電子材料としての応用も期待されている。なお、その共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)も、これらの点についてはほぼ同様の特性を持つことから、本明細書ではシクロオレフィンポリマー(COP)にはシクロオレフィンコポリマー(COC)を含むとして扱う。
しかし、COPは疎水性樹脂であり、濡れ性や接着性が低いことから、マイクロ流路チップ等の光学デバイスを製造する際には困難性を伴う。そこで、エキシマUV光の照射によりCOPの表面を改質し、接着剤を使うことなくCOP同士を接合することが報告されている(非特許文献1)。また、酸素プラズマ処理によりCOPの表面を改質し、接着剤を使うことなくCOPとシリコン(あるいはガラス)を接合する技術も提案されている(特許文献1)。さらに、特許文献2には、COPとガラスを酸素プラズマ処理した後、水蒸気ガスを吸着させて接合媒体層を形成し、該接合媒体層を挟圧しつつ50℃、80℃、100℃で1分、5分、10分加熱することにより接合することが記載されている。
特開2011-104886号公報 国際公開WO2011/010738A1
「光表面活性化によるシクロオレフィンポリマーの接合:接合強度評価とマイクロ流路への応用」、谷口義尚他、表面技術 Vol. 65(2014), No. 5, p. 234-239
前記のようにCOPの表面をエキシマUV光の照射や酸素プラズマ処理により改質する方法では、改質された表面を合わせるだけでは十分な接合強度が得られないため、更に加圧や加熱を施す必要があった。例えば、エキシマUV光の照射によって表面を改質する方法の場合、3N/cm2以上の接合強度を得るためには3.6MPa以上の加圧及び70℃以上の加熱を必要とするとされている(非特許文献1)。また、特許文献2では、表面に接合媒体層を形成した後、50〜100℃に加熱しつつ加圧している。しかし、マイクロ流路チップを製造する場合には、このような加圧や加熱によって流路のパターンが変形したり、親水化された表面が疎水性になってしまうという問題が生じる。また、この方法で十分な接合強度を得るためには、エキシマUV光の照射時間を3分以上とすることが望ましい、ともされている(非特許文献1)。しかし、エキシマUV光の照射時間が長くなるにつれてCOPの蛍光強度が高くなるため、蛍光検出系のマイクロ流路チップの製造において3分以上のエキシマUV光の照射は好ましくない。また、特許文献2では、湿度80%の恒温恒湿槽内に1時間静置して表面に接合媒体層を形成した後、40℃に加熱している。しかし接合媒体層の形成に長時間を要し好ましくない。
本発明はこのような課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、COPを、大きな圧力や高い温度を付加することなく、また、光学特性を変化させることなく、相手材料に接合する方法を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明は、
シクロオレフィンポリマー(COP)である第1材料と、COP又はその他の材料である第2材料を接合する方法であって、
少なくとも前記第1材料の接合面をH2Oプラズマに曝すステップと、
前記第1材料の接合面と前記第2材料の接合面を、第1材料のガラス転移温度及び第2材料のガラス転移温度のいずれか低い方よりも50℃低い温度以下の温度雰囲気下で合わせるステップと、
を含むことを特徴とする。
上記の方法において、前述のとおり、シクロオレフィンポリマー(COP)にはシクロオレフィンコポリマー(COC)を含む。COPに接合される相手材料(第2材料)は、COPであってもよいしCOP以外の材料であってもよく、具体的には例えば、COP(シクロオレフィンコポリマー(COC)を含む)、ガラス等が第2材料として想定される。
更に具体的には第2材料は、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリシロキサン、フエノール樹脂、ポリサルフアイド、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、ポリビニルクロライド、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアセタート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイソプレン、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリトリアゾール、ポリキノキサリン、ポリイミダゾピロロン、エポキシ樹脂、並びに芳香族成分及びビニルやシクロブタン基から選択される成分を含む共重合体のような有機物であってもよく、あるいは、ガラス、サファイア、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ(ITO)のような無機物であってもよい。
また、上記の方法において、両材料のそれぞれの接合面は、その表面粗さがRa10nm以下となっていることが好ましい。
また、少なくとも第1材料の接合面が曝されるH2Oプラズマの電極面積当たりの投入電力(パワー密度)が0.3〜336mW/cm2であることが好ましい。このようなH2Oプラズマであれば、これに曝されることによってCOPの光学特性が変化することがない。
また、このときのH2Oプラズマの圧力は、0.1〜200Pa程度とするのが好ましい。
また、接合面をH2Oプラズマに曝す時間は、1〜3600秒であることが好ましい。
なお、ここにおける「H2Oプラズマ」とは、H2Oの分圧が20%以上のプラズマのことをいい、プラズマガス中にH2O以外に酸素(O2)、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、等のその他のガスが少量含まれていてもよい。
少なくとも第1材料の接合面をH2Oプラズマに曝した後、第1材料と第2材料の両接合面を5〜50℃の温度雰囲気下で合わせることにより、両材料は接合される。その際、接合面に圧力を付与する必要はほとんどなく、0.2g程度の材料の場合、その自重で十分強固な接合が成される。ただし、圧力を付与することを排除するものではなく、通常のマイクロ流路チップの場合(例えば、流路の幅が100?m以下、深さが50?m以下程度の場合)、30kPa程度の圧力を付加することが可能である。これにより接合をより確実にすることができる。
上記本発明に係る接合方法でCOP同士を接合した場合(すなわち、第2材料がCOPである場合)、単に接合が機械的に強固であるばかりではなく、その接合面において両側の材料が光学的にも一体化し、接合面が光学的に現れなくなる。すなわち、接合面において光の屈折や反射が生じず、光は接合面をそのまま直進するようになる。これにより、光学的検出法を用いる場合のノイズを抑えることができる。
また、上記本発明に係る接合方法の一つの適用例として、前記マイクロ流路チップを挙げることができる。この場合、流路が形成されたCOP製の基板の該流路形成面と、同じくCOP製のもう1枚の基板を上記の接合方法で接合することにより、強固に一体化されたCOP製マイクロ流路チップを製造することができる。
このマイクロ流路チップは、上記のように接合面、すなわち、流路以外の部分において光の屈折や反射が生じないため、検出系に光学的手法を用いる場合、流路における測定対象流体の測定の精度が上がる。
本発明に係るCOPの接合方法では、COPを、接合面に圧力をほとんど付与することなく、また、温度を大きく上げることなく、また、COPの光学特性を変化させることもなく、相手材料に十分強固に接合することができる。特に、本発明に係る方法でCOP同士を接合した場合、単に接合が機械的に強固であるばかりではなく、その接合面において両側の材料が光学的にも一体化する。このため、2個以上の部品を接合して光学デバイスとする場合に適した接合方法となる。また、COPの高周波特性に着目して、それを電子部品の材料として用いた場合も、部品を接合した面において高周波が反射や屈折を生じることがないため、低損失の電子部品を得ることができるようになる。
本発明の好適な実施形態であるマイクロ流路チップ製造方法で用いるプラズマ処理装置の一例の概略構成図。 前記実施形態であるマイクロ流路チップ製造方法のフローチャート。 2枚のCOP板の接合試験において用いられる2枚のCOP板の平面図(a)及び側面図(b)。 前記接合試験における接合時の試験片の配置を示す平面図(a)及び接合時の加圧の状態を示す側面図(b)。 前記接合試験における引張試験の際の試験片の様子を示す側面図。 前記接合試験における接合時の試験片の温度と接合強度の関係を示すグラフ。 前記接合試験において、80〜120℃の各温度で押圧接合した後の試験片の状態を示す外観写真。 前記試験片を用いた、保持温度と濡れ性(純水接触角)の関係を示すグラフ。 前記接合試験において、5〜120℃の各温度で押圧接合し、引張試験で剥離した後の剥離面の状態を示す光学顕微鏡写真。
以下、本発明の好適な実施形態であるマイクロ流路チップの製造方法の一例について、図面を参照しつつ説明する。
<1.装置構成>
まず、本発明を実施するために用いるプラズマ処理装置の一例について、その概略構成図である図1を参照しながら説明する。該プラズマ処理装置100は図1に示されるとおり平行平板型(容量結合型)プラズマ処理装置であり、処理すべき対象物が配置される処理空間Vを内部に形成するプラズマ処理室10、処理空間Vに水(具体的には、気体状の水である水蒸気)を導入する水導入部30、処理空間Vを排気する排気部40、処理空間Vに対向配置された一対の電極11,12、及びこれら各部を制御する制御部20を備える。
プラズマ処理室10には、処理空間V内にガスを導入するガス導入口13と、処理空間V内を排気するための排気口14とが設けられている。ガス導入口13には、後述する配管31が接続されている。また、排気口14には、後述する配管41が接続されている。
水導入部30は、一端がガス導入口13と接続され、他端が水供給源35と接続された配管31を備える。配管31の途中には、バルブ32と、配管31を流れるガスの流量を自動調整するマスフローコントローラ33と、導入される流体を気化する(ここでは、水を気化して水蒸気とする)ヴェーパライザ(気化装置)34とが設けられている。これら各部32,33,34は制御部20と電気的に接続されており、制御部20によって処理空間Vへの水蒸気の導入及び停止が制御される。
排気部40は、一端が排気口14と接続され、他端が排気ラインに接続された配管41を備える。配管41の途中にはバルブ42と真空ポンプ43とが設けられている。これら各部42,43は制御部20と電気的に接続されており、制御部20によって、処理空間V内からのガスの排気が制御される。
プラズマ処理室10内に対向配置された一対の電極11,12のうち、一方の電極11には、コンデンサ51を介してRF電源52から電力が供給される(以下、この電極11を「パワード電極11」と呼ぶ)。また、他方の電極12は接地される(以下、この電極12を「接地電極12」と呼ぶ)。この構成において、パワード電極11にRF電力が供給されることによって、処理空間V内に導入されているガスがプラズマ化される。このパワード電極11へのRF電力の供給も制御部20により制御される。
なお、このプラズマ処理装置100では、処理するべき対象物(61,62)をパワード電極11上に載置するRIE(Reactive Ion Etching)モード、接地電極12上に載置するPE(Plasma Etching)モードの二つのモードから選択してプラズマ処理を行うことができるが、本発明を実施するにあたっては、どちらのモードを用いてもよい。図1ではPEモードでプラズマ処理する場合の配置が例示されている。
対象物(61,62)が載置される予定の電極(図1の例では接地電極12)には、対象物(61,62)を該電極に固定するための対象物固定機構と、対象物(61,62)のプラズマ処理中の温度を制御するための温度制御機構が設けられている。対象物固定機構としては例えば静電チャックを用いることができる。また、温度制御機構としては、プラズマ処理による処理対象物の温度上昇を制御(抑制)するための冷却機構の他、積極的に加熱するためのヒーターを用いることができる。これら対象物固定機構及び温度制御機構も制御部20により制御される。
制御部20は、上記の各要素を制御して、一連の処理を実行させる。制御部20は、パーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該パーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより、該制御に必要な各種の機能ブロックが具現化される構成とすることができる。
<2.処理の流れ>
本発明の一実施形態として、上記プラズマ処理装置100を用いた2枚のCOP板の接合方法を図2のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS1:まず、接合対象物である2枚のCOP板(第1板61及び第2板62)の接合面に対し、H2Oプラズマで表面処理を行う。なお、その前に、第1板61及び第2板62の接合面の表面粗さは、共にRa10nm以下としておくことが望ましい。これら第1板61及び第2板62を、図示しない搬入口を介してプラズマ処理室10に搬入し、接地電極12上に載置する。両板61、62を接地電極12上にセットした後、対象物固定機構で該電極上に固定する。なお、前述のとおり、処理モードによっては対象物である第1板61及び第2板62を載置するのはパワード電極11上となる。
続いて、処理空間VにH2Oプラズマを形成する。具体的には、前記搬入口を閉鎖してプラズマ処理室10を密閉した後、処理空間Vへの水蒸気(H2Oガス)の導入を行い、これと同時に、処理空間Vの排気を行って、処理空間V内の圧力が5Paとなるようにする。この圧力は、0.1〜200Paの範囲内としておくことが望ましい。処理空間V内に導入される水蒸気(H2Oガス)の流量は20sccmである(本実施形態では、処理空間Vの容積は120,000cm3である)。この流量は、1〜400sccmとしておくことが望ましい。続いて、パワード電極11に100Wの高周波電力を投入する(本実施形態では、パワード電極11の面積は2975cm2であり、100Wの場合、パワー密度は33mW/cm2となる)。パワー密度は、0.3〜336mW/cm2の範囲内としておくことが望ましい。
これにより、処理空間V内に導入されている水蒸気がプラズマ化されてH2Oプラズマが形成され、該H2Oプラズマに曝されている両板61,62の上面(接合面)のプラズマ処理が進行する。
H2Oプラズマによる処理が開始されてから所定時間が経過すると、制御部20はバルブ32を閉鎖して水蒸気の供給を停止するとともに高周波電力の供給を停止して、処理を終了する。この所定時間(すなわち、両板61,62の接合面をH2Oプラズマに曝す時間)は、80秒程度とする。この時間は、1〜3600秒の範囲内としておくことが望ましい。
このH2Oプラズマ処理により、第1板61と第2板62の上面(接合面)に存在している高分子の一部が酸化されて脱離する(すなわ、表面がエッチングされる)。また、接合面に存在している高分子の主鎖が切断されて低分子量化する。これらにより、接合面が平滑化され(すなわち、表面粗さが小さくなり)、接合しやすい状態が形成されると考えられる。ただし、このような反応が過度に進むと逆に表面粗さが大きくなる可能性があるが、H2Oプラズマのパワー密度を小さく(具体的には336mW/cm2以下)することで、或いは、処理時間を短く(具体的には3600秒以下)することで、表面粗さが大きくなるまでには至らないようにできるものと考えられる。
また、COP(COCも)は、環状構造(脂環構造)を有する飽和炭化水素系ポリマーであるところ、この環状構造が破壊されてしまうと接合面が荒れて接合が困難になる。また、環状構造が破壊されると、透明度の低下といった光学特性の変化も生じ得る。しかし、H2Oプラズマのパワー密度を小さく(具体的には336mW/cm2以下)すれば、環状構造が破壊されずに維持されると考えられる。
更に、H2Oプラズマに含まれるヒドロキシルラジカル、原子状水素、および、原子状酸素が、接合面の界面に存在している高分子の官能基(OH基、COOH基、C=O基等)を修飾し、これにより接合面が親水化されると考えられる。
H2Oプラズマ処理が終了した後、処理空間Vが大気圧に戻され、第1板61及び第2板62が前記搬入口を介してプラズマ処理室10から搬出される。
ステップS2:続いて、第1板61と第2板62を接合する。なお、この接合処理は、H2Oプラズマ処理が終了してから30分以内に行うことが好ましい。この接合は、第1板61及び第2板62を重ねた上、所定の低い温度の下で行う。この接合時の温度については、後に詳しく検討する。なお、この際、第1板61と第2板62には0.5MPa以下の小さな圧力を加えるだけで十分である。これにより、第1板61と第2板62は光学的にも一体化し、接合面が光学的に現れなくなる。
<4.評価実験>
接合の際の雰囲気温度の効果を調べるため、試験片として、共にCOPであるZEONOR 1060R(日本ゼオン株式会社製。ZEONORは登録商標。)を素材とし、縦15mm、横10mm、厚さが0.5mmである板を用いた。これら2枚の試験片(第1板61、第2板62)に対し上記H2Oプラズマ処理を施した後、次のような条件で接合を行った。
まず、第1板61と第2板62を図3(a)、(b)のように互いに直交するように重ねる。こうして重ねた第1板61と第2板62のセットを3組用意し、図4(a)及び(b)に示すように、2枚の剛性のある平板65、66の間に挟む。これを水平な台の上に置き、上の平板65の上に重錘67を置く。平板65、66としては厚さ625?mのシリコンウエハを使用し、重錘67は質量1kgのものを使用した。重錘67の質量と比べると上の平板65及び第1板61自身の質量は無視できる程度であるため、第1板61と第2板62の接合面に負荷される圧力は約0.33kgf/cm2(約33kPa)である。
こうして圧力を加えた状態で、雰囲気の温度を5〜120℃の範囲内の様々な値(5℃、20℃、40℃、60℃、80℃、90℃、100℃、120℃)に維持し、15分(900秒)間保持した。
この接合処理が終了した後、第1板61と第2板62のセットを取り出すと、いずれの温度で保持したものについても、第1板61と第2板62は接合されていた。各温度による両板61、62の接合の強さ(接合強度)を調べるため、図5に示すように、第1板61及び第2板62にそれぞれボルト68、69を接着剤で接合し、両ボルト68、69を引張試験機で引っ張った。このようにして行った接合強度試験の結果を図6に示す。
しかし、80℃、90℃、100℃、120℃で接合した試験片の外観写真である図7が示すように、接合時の温度を100℃及び120℃とした試験片では、各板の著しい変形が見られた。従って、微細な流路が形成されるマイクロ流路チップを製造する際には、このような温度で接合することは好ましくないことが分かる。
実際、前記の引張試験で分離した第1板61と第2板62の分離面を光学顕微鏡で観察(×150)すると、図9に示すように、90℃以下で接合した試験片では分離面に多数の平行な曲線(貝殻模様)が見られるのに対し、100℃以上で接合した試験片ではそのような模様が見られない。これは、100℃以上で接合した試験片では接合面で溶融が生じたことを推測させる。
次に、上記H2Oプラズマ処理を行った同じZEONOR 1060Rの板について、接合することなく、上記と同じ5〜120℃の範囲内の様々な温度(5℃、20℃、40℃、60℃、80℃、90℃、100℃、120℃)に15分(900秒)間保持し、その後の表面における純水の接触角を調べた。その結果を図8に示す。一般に、マイクロ流路チップの流路に水(又は水溶性の液)を流す場合、大きな抵抗なく水が流れるためには、その純水接触角が30゜以下であることが望ましいとされている。この基準に照らした場合、ZEONOR 1060Rを素材としてマイクロ流路チップを製造する際には接合時の温度を100℃以上の温度にすることは避けなければならないことが分かる。また、接合時の温度を5〜20℃とすることにより、より良好な濡れ性(低い純水接触角)が得られ、マイクロ流路チップとして良好な水溶性試料流通性能が得られることが期待される。
以上は、ZEONOR 1060Rについて行った測定であるが、ZEONOR 1060Rのガラス転移温度が100℃であることを考慮すると、接合時のCOP板の温度はそのガラス転移温度よりも十分低い温度、すなわちガラス転移温度よりも50℃程度低い温度(例えばZEONOR 1060Rの場合、50℃)以下の温度とすることが望ましいと言える。また、COPはZEONOR 1060R以外にも様々な種類のものが市販されているが、その多くはガラス転移温度が100℃以上であることから、接合時の温度を50℃以下としておくことにより、ほとんどのCOP製板の(H20プラズマ表面処理後の)接合を十分に行うことができると考えられる。
また、上記濡れ性の試験結果からすると、接合時の温度は5〜20℃とすることが更に望ましいと言える。
以上の知見は、マイクロ流路チップの製造に有効に用いることができる。すなわち、前記第1板61を、一方の面に流路溝を形成したCOP板(流路板)とし、前記第2板62を、該流路溝の端部又は中間に対応する箇所に貫通開口(試料導入口又は試料/気体排出口)を設けたCOP板(閉鎖板)として、これら流路板の流路溝形成面と閉鎖板の接合面を上記のようにH2Oプラズマ処理し、その後、上記のようにCOPのガラス転移温度よりも50℃程度低い温度以下の温度で合わせる(加圧もしくは非加圧)ことにより、変形の無い、しかも十分な光学一体性を有するマイクロ流路チップを得ることができる。
10…プラズマ処理室
100…プラズマ処理装置
11…パワード電極
12…接地電極
13…ガス導入口
14…排気口
20…制御部
30…水導入部
40…排気部
52…RF電源
61…第1板
62…第2板
65,66…剛性平板
67…重錘

Claims (11)

  1. シクロオレフィンポリマー(COP)である第1材料と、第2材料を接合する方法であって、
    少なくとも前記第1材料の接合面をH2Oプラズマに曝すステップと、
    前記第1材料の接合面と前記第2材料の接合面を、前記第1材料のガラス転移温度及び前記第2材料のガラス転移温度のいずれか低い方よりも50℃低い温度以下の温度雰囲気下で合わせるステップと、
    を含むことを特徴とするシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  2. 前記第2材料もCOPであることを特徴とする請求項1に記載のシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  3. 前記接合面を合わせるステップにおける雰囲気温度を5〜50℃とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  4. 前記雰囲気温度を5〜40℃とすることを特徴とする請求項3に記載のシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  5. 前記雰囲気温度を5〜20℃とすることを特徴とする請求項4に記載のシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  6. 前記第1材料の接合面及び前記第2材料の接合面の表面粗さが共にRa10nm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  7. 前記H2OプラズマにおけるH2Oの分圧が20%以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のシクロオレフィンポリマーの接合方法。
  8. 流路溝が形成されたシクロオレフィンポリマー製の流路板と、開口が形成されたシクロオレフィンポリマー製の閉鎖板とを接合して成るマイクロ流路チップの製造方法において
    前記流路板と前記閉鎖板の各接合面をH2Oプラズマに曝すステップと、
    前記流路板と前記閉鎖板の各接合面を50℃以下の温度雰囲気下で合わせるステップと、
    を含むことを特徴とするシクロオレフィンポリマー製マイクロ流路チップの製造方法。
  9. 前記接合面を合わせるステップにおける雰囲気温度を5〜50℃とすることを特徴とする請求項8に記載のシクロオレフィンポリマー製マイクロ流路チップの製造方法。
  10. 前記雰囲気温度を5〜40℃とすることを特徴とする請求項9に記載のシクロオレフィンポリマー製マイクロ流路チップの製造方法。
  11. 前記雰囲気温度を5〜20℃とすることを特徴とする請求項10に記載のシクロオレフィンポリマー製マイクロ流路チップの製造方法。
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