JP2020011253A - 抵抗スポット溶接方法 - Google Patents
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Abstract
Description
なお、図7において、符号T’Sは、スクイズ時間(秒)、すなわち電極による加圧開始時点t’0から通電開始時点t’1までの時間(秒)を意味し、また、符号T’hは、保持時間(秒)、すなわち通電終了時点t’2から加圧終了時点t’3までの時間(秒)を意味する。
この図8に示す溶接部材においては、熱影響部5の外方側端部、より具体的には、2枚の鋼板31、32の重ね合わせ面の圧接部51(コロナボンド)の外方側端部隣接部分(以下、「コロナボンド直外部」と称する。)の割れCOと、上側の表面から溶接金属4にまで至る電極直下部の割れCVと、が生じている。
前記複数枚の金属板が、少なくとも一方の表面に金属めっき層を有するめっき金属板を含むものであり、
前記複数枚の金属板を前記厚さ方向に積み重ねて板組を形成する板組形成工程と、
前記板組を一対の第1電極で前記厚さ方向に挟み、以下の関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電することにより、前記金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程と、
前記予備通電工程の後に、前記板組を一対の第2電極で前記厚さ方向に挟んで通電することにより、前記複数枚の金属板を接合する本通電工程と、を有する、
前記抵抗スポット溶接方法である。
1.2×d2<d1<3.0×d2 ・・・(1)
[式(1)中、d1は、前記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、d2は、前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
2≦I1<1.5×I2 ・・・(2)
[式(2)中、I1は、前記予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、I2は、前記本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、前記予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、前記複数枚の金属板の総板厚(mm)を表わす。]
以上により、本態様1の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)における割れの発生を抑制することができ、結果的に優れた強度の溶接部材を得ることができる。
前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体及び前記外側電極体の各先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する。
これにより、本態様2の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生を抑制することができる上、優れた強度の溶接部材をより効率よく得ることができる。
前記一対の第1電極の各々は、前記板組における溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複する位置に配置された空洞部と、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複しないように前記空洞部を囲繞し且つ前記板組の表面に接触する環状の先端面を備えた筒状部と、を有する筒状の外側電極体であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複し且つ前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記外側電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記外側電極体を前記中央電極体に切り換えた後に、前記中央電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電する。
また、通常の抵抗スポット溶接方法では、先端径の大きい電極を用いる場合、そのサイズに応じた大きな通電電流を必要とするが、本態様3の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極として上記特定の構造を有する(特に、上記空洞部を有する)筒状の外側電極体のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極よりも先端径の大きい第1電極を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面から離間した位置に配置された先端面を備え且つ前記板組に近接する方向に移動可能な中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記中央電極体を前記板組に近接する方向に移動させ且つ前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記複合電極における前記外側電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する。
さらに、本態様4の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程において、第1電極として上記複合電極の外側電極体のみを用いているため、割れが発生し易く且つ割れの影響が大きいコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)と厚さ方向に対応する位置に存在するめっき金属を、集中的に合金化することができ、かかるコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生をより効率よく、より確実に抑制することができる。
また、本態様4の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極として上記複合電極の外側電極体のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極よりも先端径の大きい第1電極を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、金属板の「厚さ方向」は、複数枚の金属板を重ね合わせて接合する際に接合対象部分となる、金属板の重ね合わせ部分の厚み方向(板厚方向)を意味する。したがって、例えば、金属板がハット型の場合は、当該ハット型の金属板の接合対象部分となるフランジ部分の厚み方向が、金属板の厚さ方向となる。かかる厚さ方向は、複数枚の金属板が接合された後の溶接部材(継手)においても、同様に適用される。
本明細書において、金属板が延在する「平面方向」は、複数枚の金属板を重ね合わせて接合する際に接合対象部分となる部分の、金属板の重ね合わせ面と平行な仮想平面が延在する方向を意味し、上述の「厚さ方向」とは、互いに直交する関係にある。したがって、例えば、金属板がハット型鋼板の場合は、当該ハット型鋼板の接合対象箇所となるフランジ部分の、重ね合わせ面と平行な仮想平面が延在する方向が、平面方向となる。かかる平面方向は、複数枚の金属板が接合された後の溶接部材(継手)においても、同様に適用される。
また、本明細書において、上側及び下側は、対象物(例えば、金属板、溶接部材等)の上下方向(垂直方向)における相対的な位置関係(すなわち、斜め上、斜め下などを含む位置関係)を意味するものであり、それぞれ真上及び真下等の限定的な位置関係を意味するものではない。
さらに、本明細書では、厚さ方向に重ね合わされた複数枚の金属板が接合されてなる溶接部材の平面方向において、「溶接金属(ナゲット)の中心に対して相対的に遠位側」を、「平面方向の外方側」といい、「溶接金属の中心に対して相対的に近位側」を、「平面方向の内方側」という。
なお、本明細書においては、複数枚の金属板からなる板組の内部の所定領域(具体的には、厚さ方向に隣接する金属板同士の接触面及びその近傍領域)が電気抵抗によるジュール熱で溶融して、凝固した部分を「溶接金属」(いわゆる、ナゲット)といい、当該溶接金属及びその周辺の熱影響部を含む部分を「溶接部」という。
なお、本第1実施形態においては、上側第1電極1の先端径d1と下側第1電極1’の先端径d’1が同一であり、上側第2電極2の先端径d2と下側第2電極2’の先端径d’2が同一である。
1.2×d2<d1<3.0×d2 ・・・(1)
[式(1)中、d1は、上記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、d2は、上記一対の第1電極に対応する上記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
2≦I1<1.5×I2 ・・・(2)
[式(2)中、I1は、予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、I2は、本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、複数枚の金属板(2枚の鋼板)の総板厚(mm)を表わす。]
また、予備通電工程における関係式(2)及び(3)の要件は、亜鉛めっき鋼板のめっき金属(亜鉛)を合金化するための要件であり、それぞれめっき金属を合金化するのに要する温度及び時間の要件である。
なお、これらの関係式については後述する。
なお、本通電工程における各種条件(例えば、電流値I2、通電時間Tw2、加圧力等)は、少なくとも上述の溶接金属4が形成されて、鋼板31と鋼板32とが接合し得る条件であれば特に制限されず、従来の抵抗スポット溶接に用いられる各種条件と同様の条件を採用することができる。かかる本通電工程における具体的な条件については後述する。
したがって、本第1実施形態の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)における割れの発生を抑制することができ、結果的に優れた強度の溶接部材を得ることができる。
本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法は、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板を厚さ方向DTに積み重ねて、板組3を形成する板組形成工程を有する。この板組形成工程は、接合対象となる上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板における各々の接合対象箇所(すなわち、スポット溶接の対象箇所)同士を厚さ方向DTに重ね合わせることにより、板組3全体としての接合対象箇所を形成するものである。
かかる板組3の接合対象箇所は、図1に示すように、板組形成工程の後工程である予備通電工程及び本通電工程における溶接金属形成対象部分4’及び溶接金属4と、厚さ方向DTにおいて対応する位置関係にある。
また、金属めっき層の被覆量も、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途等に応じた任意の被覆量を採用することができる。そのような被覆量としては、例えば、金属板の片面当たり130g/m2以下の被覆量が挙げられる。
さらに、板組を形成する複数枚の金属板において、めっき金属板と、めっき金属板以外の金属板とが混在する場合、めっき金属板の配置位置は特に制限されないが、耐食性等の点から、めっき金属板は、板組を形成する際に金属めっき層が電極と接触する側の表面を形成するような位置に配置されることが好ましい。
以下、本発明の抵抗スポット溶接方法における予備通電工程について、上述の第1実施形態を用いて詳細に説明する。
本第1実施形態において、予備通電工程は、上述のとおり、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の亜鉛めっき鋼板を積み重ねてなる板組3を、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’で厚さ方向DTに挟み、上述の関係式(1)〜(3)を満たす条件下で通電することにより、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の亜鉛めっき層の亜鉛を合金化する工程である。
なお、本第1実施形態においては、上側第1電極1の先端径d1と下側第1電極1’の先端径d’1が同一であり、上側第2電極2の先端径d2と下側第2電極2’の先端径d’2が同一であるが、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、このような態様に限定されず、予備通電工程に用いる一対の第1電極は、互いに異なるサイズの先端径を有していてもよい。この場合、予備通電用の一対の第1電極は、一方の第1電極(上側第1電極)が本通電用の一方の第2電極(上側第2電極)に対して上記関係式(1)を満たすとともに、他方の第1電極(下側第1電極)が本通電用の他方の第2電極(下側第2電極)に対して上記関係式(1)を満たす先端径を有していればよい。
なお、図2の加圧パターン(a)において、縦軸Fは、加圧力(kgf)を表わし、横軸Tは、経過時間(秒)を表わす。また、図2の通電パターン(b)において、縦軸Iは、電流値(kA)を表わし、横軸Tは、上記加圧パターン(a)の横軸Tと対応する経過時間(秒)を表わす。
予備通電工程における関係式(1)〜(3)のうち、関係式(1)の要件は、複数枚の金属板よりなる板組の合金化する対象領域(合金化領域)を特定するための要件であり、かかる合金化領域は、本通電工程で形成される溶接金属の周囲に隣接する熱影響部をすべて包含する領域である。
下記に示すように、関係式(1)は、第1電極の先端径d1(mm)が、対応する第2電極の先端径d2(mm)の1.2倍よりも大きく、3.0倍よりも小さいことを意味するものである。
1.2×d2<d1<3.0×d2 ・・・(1)
[式(1)中、d1は、前記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、d2は、前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
なお、熱影響部(HAZ)は、スポット溶接の際に、溶接金属(ナゲット)の周辺領域で高温(700℃程度)に曝されて金属組織的に変質した部分であり、通常、溶接金属を形成する際に用いる電極(第2電極)の先端径の1.2倍よりも小さい範囲に形成される。
なお、本明細書において、電極の先端径は、特に断りのない限り、通電時に溶接対象の金属板の表面に接触する部分(先端面)の直径(外径)を意味し、JIS C 9304:1999乃至JIS C 9305:2011に記載されている「先端径」と同義である。
また、本発明においては、第1電極は、後述する実施形態のように、複合電極における一部の電極体によって構成されていてもよいし、上述の熱影響部(少なくともコロナボンド部分)及びその周辺部分を集中的に通電することのできる、筒状の構造を有する電極体によって構成されていてもよい。
なお、本明細書において、上側及び下側という用語は、説明の便宜上、一対の電極が上下方向に対向配置された定置式の溶接装置を用いた場合の位置関係を表わすために用いているが、ロボットガン等の溶接装置を用いる場合は、必ずしも上側及び下側の位置関係になるとは限らないため、そのような場合には、所定方向における一方側及び他方側と読み替えることにより、適用することができる。
下記に示すように、関係式(2)は、予備通電工程における通電時の電流値I1(kA)が、2(kA)以上であり、本通電工程における通電時の電流値I2(kA)の1.5倍未満であることを意味するものである。
2≦I1<1.5×I2 ・・・(2)
[式(2)中、I1は、予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、I2は、本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
また、予備通電工程における通電時の電流値I1(kA)が、本通電工程における通電時の電流値I2(kA)の1.5倍未満であると、めっき金属の溶融を防ぐことができる(すなわち、溶融しためっき金属による母材の結晶粒界への侵入を、生じ難くすることができる。)。
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、複数枚の金属板の総板厚(mm)を表わす。]
以下、本発明の抵抗スポット溶接方法における本通電工程について、上述の第1実施形態を用いて詳細に説明する。
本第1実施形態において、本通電工程は、上述のとおり、めっき金属(亜鉛)が合金化された、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の亜鉛めっき鋼板を積み重ねてなる板組3を、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’で厚さ方向DTに挟んで通電することにより、板組3内部の所定領域(具体的には、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の接触面及びその近傍領域)を電気抵抗によるジュール熱で溶融させて、溶接金属4(ナゲット)を形成させるとともに、当該溶接金属4に隣接する周辺部分において、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の各重ね合わせ面同士が固相接合した圧接部51(コロナボンド)を形成させて、上述の上側の鋼板31及び下側の鋼板32を接合する工程である。
さらに、本通電工程に用いる溶接装置も、一対の第2電極を備えたものであれば特に制限されず、上述の予備通電工程に用いるものと同様の溶接装置を用いることができる。
例えば、本通電工程におけるスクイズ時間TS2(秒)は、加圧力fが安定するのに必要な時間(かかる時間は、溶接装置の特性に依存する。)を適宜設定することができ、保持時間Th2(秒)は、特に制限されないが、0.065×(H/2)2(秒)以上に設定することが好ましく(なお、上記式中のHは、複数枚の金属板の総板厚(mm)である。)、保持時間Th2(秒)の上限は、生産性等に応じて適宜設定することができる。また、本通電工程における加圧力fも特に制限されず、例えば300kgf〜600kgfの範囲内である。
また、本発明において、本通電工程における通電時間Tw2(秒)は、少なくとも上述の溶接金属が形成され得る時間であれば特に制限されないが、0.2×h+0.04(秒)に設定することが好ましい。なお、上記式中のhは、複数枚の金属板の総板厚(mm)である。
さらに、本通電工程における電流値I2(kA)も、少なくとも上述の溶接金属が形成され得る電流値であれば特に制限されず、所望の製品品質や生産性等に応じた任意の電流値を採用することができる。
なお、本発明において、冷却時間Tc(秒)の長さは、特に制限されず、0秒以上の任意の時間を設定することができるが、電極交換に必要な時間や生産性等を考慮して適宜設定することができる。
したがって、本発明の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)における割れの発生を抑制することができ、結果的に優れた強度の溶接部材を得ることができる。
以下、上述の第1実施形態とは、予備通電用の一対の第1電極及び本通電用の一対の第2電極の態様のみが異なる(すなわち、電極の加圧パターンや通電パターン等の各種条件は、上述の第1実施形態と同じである。)、本発明の別の実施形態(第2実施形態〜第4実施形態)について、図面を参照しながら説明する。なお、上述の第1実施形態と異なる構成以外の構成は、基本的に上述の第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
図3は、本発明の第2実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。
図3の(a)に示すように、本第2実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(すなわち、一対の第1電極)の各々は、2枚の鋼板31、32(いずれも亜鉛めっき鋼板)からなる板組3の表面に接触する先端面S61、S’61を備えた中央電極体61、61’と、上記板組3の表面に接触する先端面S62、S’62を備え、上記中央電極体61、61’を内部に収容し且つ上記板組3から離間する方向に移動可能な外側電極体62、62’と、によって構成された複合電極6、6’である。
この複合電極6、6’においては、図3の(a)に示すように、外側電極体62、62’の先端面S62、S’62の外径が本第2実施形態における第1電極1、1’の先端径d1となる。なお、外側電極体62、62’の内径d1i、d’1iは、溶接金属形成対象部分4’に対応した先端径d2を有する中央電極体61、61’を、内部に収容し得る程度の大きさであれば、特に制限されない。
この第2実施形態においても、予備通電工程は、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件下で行われる。
これにより、本第2実施形態の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生を抑制することができる上、優れた強度の溶接部材をより効率よく得ることができる。
図4は、本発明の第3実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。
図4の(a)に示すように、本第3実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(すなわち、一対の第1電極)の各々は、2枚の鋼板31、32(いずれも亜鉛めっき鋼板)からなる板組3における溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向DTに重複する位置に配置された空洞部72、72’と、上記溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向DTに重複しないように上記空洞部72、72’を平面方向DPから囲繞し且つ上記板組3の表面に接触する環状の先端面S71、S’71を備えた筒状部71、71’と、を有する筒状の外側電極体7、7’である。
この筒状の外側電極体7、7’においては、図4の(a)に示すように、筒状部71、71’の先端面S71、S’71の外径が、本第3実施形態における第1電極1、1’の先端径d1となる。なお、筒状部71、71’の内径d1r、d’1rは、上記溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向DTに重複しない程度の大きさであれば、特に制限されない。
この第3実施形態においても、予備通電工程は、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件下で行われる。
また、通常の抵抗スポット溶接方法では、先端径の大きい電極を用いる場合、そのサイズに応じた大きな通電電流を必要とするが、本第3実施形態の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極1、1’として上記特定の構造を有する(特に、上記空洞部72、72’を有する)筒状の外側電極体7、7’のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極2、2’よりも先端径の大きい第1電極1、1’を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
図5は、本発明の第4実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。
図5の(a)に示すように、本第4実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(一対の第1電極)の各々は、2枚の鋼板31、32(いずれも亜鉛めっき鋼板)からなる板組3の表面から離間した位置に配置された先端面S91、S’91を備え且つ上記板組3に近接する方向に移動可能な中央電極体91、91’と、上記板組3の表面に接触する先端面S92、S’92を備え、上記中央電極体91、91を内部に収容し且つ上記板組3から離間する方向に移動可能な外側電極体92、92’と、によって構成された複合電極9、9’である。
この複合電極9、9’においては、図5の(a)に示すように、外側電極体92、92’の先端面S92、S’92の外径が、本第4実施形態における第1電極1、1’の先端径d1となる。なお、外側電極体92、92’の内径d1i、d’1iは、溶接金属形成対象部分4’に対応した先端径d2を有する中央電極体91、91’を、内部に収容し得る程度の大きさであれば、特に制限されない。
この第4実施形態においても、予備通電工程は、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件下で行われる。
さらに、本第4実施形態の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程において、第1電極1、1’として上記複合電極9、9’の外側電極体92、92’のみを用いているため、割れが発生し易く且つ割れの影響が大きいコロナボンド部分及びその周辺部分と厚さ方向DTに対応する位置に存在するめっき金属を、集中的に合金化することができ、かかるコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生をより効率よく、より確実に抑制することができる。
また、本第4実施形態の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極1、1’として上記複合電極9、9’の外側電極体92、92’のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極2、2’よりも先端径の大きい第1電極1、1’を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
図9に示すスポット溶接装置は、2枚の鋼板からなる板組3を下側から支持する支持部材15と、該支持部材15上に載置された板組3を挟んで上下に対向する一対の電極11、11’と、板組3の下方側に配置された打角調整用の支持台16と、を備えており、さらに、一対の電極11、11’は、それぞれ、板組3に接触する先端面及び所定の先端径を有する電極チップ12、12’と、該電極チップ12、12’に接続された棒状のシャンク13、13’と、該シャンク13、13’の後端部に接続されたホルダー14、14’と、を備えている。
さらに、上記スポット溶接装置は、一対の電極11、11’を板組3に対して互いに近接する方向及び離間する方向に移動させる駆動設備(不図示)を備えており、上記一対の電極11、11’を用いて板組3に所定の加圧力Fを付与できるように構成されている。
なお、上記一対の電極11、11’は、電源設備(不図示)に接続されており、電極チップ12、12’を介して板組3に電流を供給できるように構成されている。
供試材として、引張強度が980MPa級の鋼板の両表面に合金化溶融亜鉛めっき(GAめっき)処理を施した、同一鋼種の2枚の金属板(各金属板の板厚:1.6mm、総板厚:3.2mm)を用意した。
この2枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて板組を形成した後、該板組を、図9に示す定置式のスポット溶接装置を用いて、所定の外乱条件(打角:3°、板組の下側表面と下側の電極先端面と間の隙間DS:0.3mm)で抵抗スポット溶接を実施し、実施例1の溶接部材(継手)を得た。
なお、この抵抗スポット溶接においては、予備通電工程時は、先端径d1が8mmのDR形電極チップを用い、本通電工程時は、先端径d1が6mmのDR形電極チップを用いた。その他の各種通電条件は、表1に示すとおりである。
また、本通電工程における本通電時の電流値I2(kA)は、5.0kA〜8.0kAまで0.5kAごとの電流値(すなわち、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5及び8.0kA)を用いてそれぞれスポット溶接を行い、そのそれぞれの電流値ごとに得られた溶接部材について、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認した。
なお、表1中の〇印は、割れが生じていないことを意味し、×印は、割れが生じていることを意味する。
スポット溶接装置における電極を、それぞれ図3に示す複合電極(実施例2)、図4に示す筒状の外側電極体及び中央電極体(実施例3)、並びに図5に示す複合電極(実施例4)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4の溶接部材を作製した。
そして、これらの実施例2〜4の溶接部材についても、実施例1と同様に、それぞれの本通電時の電流値ごとに得られた溶接部材について、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認した。
予備通電工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の溶接部材を作製した。この比較例1の溶接部材についても、実施例1と同様に、それぞれの本通電時の電流値ごとに得られた溶接部材について、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認した。
特に、実施例1及び2においては、電極直下部の割れについても、優れた結果(すなわち、本通電時の電流値I2が8.0kA以上でも電極直下部の割れが生じていない)を示し、極めて優れた強度の溶接部材が得られることがわかった。
1’ 予備通電用の下側第1電極
2 本通電用の上側第2電極
2’ 本通電用の下側第2電極
3 板組
31 上側の鋼板
32 下側の鋼板
4 溶接金属(ナゲット)
4’ 溶接金属形成対象部分
5 熱影響部
51 圧接部(コロナボンド)
d1 予備通電用の上側第1電極の先端径
d’1 予備通電用の下側第1電極の先端径
d2 本通電用の上側第2電極の先端径
d’2 本通電用の下側第2電極の先端径
Ra 合金化領域
Claims (4)
- 複数枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて接合する抵抗スポット溶接方法であって、
前記複数枚の金属板が、少なくとも一方の表面に金属めっき層を有するめっき金属板を含むものであり、
前記複数枚の金属板を前記厚さ方向に積み重ねて板組を形成する板組形成工程と、
前記板組を一対の第1電極で前記厚さ方向に挟み、以下の関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電することにより、前記金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程と、
前記予備通電工程の後に、前記板組を一対の第2電極で前記厚さ方向に挟んで通電することにより、前記複数枚の金属板を接合する本通電工程と、を有する、
前記抵抗スポット溶接方法。
1.2×d2<d1<3.0×d2 ・・・(1)
[式(1)中、d1は、前記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、d2は、前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
2≦I1<1.5×I2 ・・・(2)
[式(2)中、I1は、前記予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、I2は、前記本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、前記予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、前記複数枚の金属板の総板厚(mm)を表わす。] - 前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体及び前記外側電極体の各先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する、
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。 - 前記一対の第1電極の各々は、前記板組における溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複する位置に配置された空洞部と、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複しないように前記空洞部を囲繞し且つ前記板組の表面に接触する環状の先端面を備えた筒状部と、を有する筒状の外側電極体であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複し且つ前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記外側電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記外側電極体を前記中央電極体に切り換えた後に、前記中央電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電する、
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。 - 前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面から離間した位置に配置された先端面を備え且つ前記板組に近接する方向に移動可能な中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記中央電極体を前記板組に近接する方向に移動させ且つ前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記複合電極における前記外側電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する、
請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
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