JP2020011253A - 抵抗スポット溶接方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、少なくともコロナボンド直外部に生じる割れを抑制し、優れた強度の溶接部材を得ることができる、抵抗スポット溶接方法を提供するものである。【解決手段】本発明の複数枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて接合する抵抗スポット溶接方法であって、前記複数枚の金属板が、少なくとも一方の表面に金属めっき層を有するめっき金属板を含むものであり、前記複数枚の金属板を前記厚さ方向に積み重ねて板組(3)を形成する板組形成工程と、前記板組(3)を一対の第1電極(1)、(1’)で前記厚さ方向に挟み、特定の条件下で通電することにより、前記金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程と、前記予備通電工程の後に、前記板組(3)を一対の第2電極(2)、(2’)で前記厚さ方向に挟んで通電することにより、前記複数枚の金属板を接合する本通電工程と、を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、めっき金属板を含む複数枚の金属板の抵抗スポット溶接方法に関する。
自動車等の輸送用機械や産業用機械においては、種々の金属製の構造部品が用いられており、これらの金属製の構造部品の取付けや製造には、抵抗スポット溶接が多く採用されている。ここで、図6は、一般的な抵抗スポット溶接における通電時の状態を模式的に示す断面図であり、図7は、一般的な抵抗スポット溶接における電極の(a)加圧パターン及び(b)通電パターンを示す概略図である。なお、本明細書においては、金属板が延在する平面方向Dに対して垂直となるように、金属板をその厚さ方向Dに沿って切断したときの切断面を、断面といい、特に、スポット溶接後の溶接部材(継手)においては、金属板の板面から見てインデンテーションの中心を通り且つ板面に対して垂直となるように切断したときの切断面を、断面という。
一般的な抵抗スポット溶接においては、まず複数枚の金属板(図6では、2枚の鋼板31、32)を厚さ方向Dに積み重ねて金属板の板組3を形成し、さらに、この板組3を図6に示すように上側電極10及び下側電極10’で厚さ方向Dに挟み込んだ後、かかる上側電極10及び下側電極10’を用いて、図7に示すように、金属板の板組3に所定の加圧力f’(kgf)を付与しつつ、所定の電流値I’(kA)の電流を所定時間(通電時間T’)印加することにより、板組3内部の所定領域(具体的には、厚さ方向Dに隣接する金属板同士の接触面及びその近傍領域)が電気抵抗によるジュール熱で溶融し、溶接金属4(いわゆる、ナゲット)が形成される。このナゲットの形成とともに、当該ナゲットに隣接する周辺部分においては、金属板の重ね合わせ面同士が固相接合した圧接部51(いわゆる、コロナボンド)が形成され、これらナゲット及びコロナボンドの形成によって(主に、ナゲットの形成によって)、板組3の各金属板同士が接合され、所定の強度を備えた構造部品を得ることができる。
なお、図7において、符号T’は、スクイズ時間(秒)、すなわち電極による加圧開始時点t’から通電開始時点t’までの時間(秒)を意味し、また、符号T’は、保持時間(秒)、すなわち通電終了時点t’から加圧終了時点t’までの時間(秒)を意味する。
また、自動車等の輸送用機械や産業用機械に用いられる金属製の構造部品においては、高防錆化の観点から、金属板として耐食性に優れた亜鉛めっき鋼板などが用いられている。しかしながら、このような亜鉛めっき鋼板を含む複数枚の金属板に対して抵抗スポット溶接を行うと、溶接金属周辺の熱影響部や電極直下部に割れが発生することがあり、特に、高強度の亜鉛めっき鋼板を用いたものにおいては、このような割れの問題が顕在化している。ここで、図8は、2枚の亜鉛めっき鋼板を従来の一般的な抵抗スポット溶接により接合した溶接部材の断面拡大写真(光学顕微鏡写真)である。なお、この図8に示す溶接部材は、割れの発生状況を検証するため、敢えて割れの発生し易い条件下(例えば、打角を所定角度傾けた条件等。以下、「外乱条件」ということがある。)でスポット溶接を実施している。
この図8に示す溶接部材においては、熱影響部5の外方側端部、より具体的には、2枚の鋼板31、32の重ね合わせ面の圧接部51(コロナボンド)の外方側端部隣接部分(以下、「コロナボンド直外部」と称する。)の割れCと、上側の表面から溶接金属4にまで至る電極直下部の割れCと、が生じている。
このような熱影響部の割れは、めっき金属である亜鉛の融点が母材である鋼板の融点よりも低いことに起因するものと考えられており、具体的には、スポット溶接中に、鋼板表面に存在する低融点の金属めっき層が溶融し、さらに溶融しためっき金属が、電極の加圧力や母材の熱膨張ないし収縮による引張応力等の影響により、母材の結晶粒界に侵入して粒界強度を低下させること(いわゆる、液体金属脆性(LME))に起因すると考えられている。このような液体金属脆性に起因する割れ(以下、「LME割れ」と称することがある。)が、図8に示す溶接部材のように、熱影響部(特に、コロナボンド直外部)に発生してしまうと、得られる溶接部材(継手)の強度が低下するなどの機械特性への影響が大きいため、このような熱影響部や溶接金属における割れの発生を抑制することが、強く望まれている。
このような割れを抑制する技術は、種々検討されており、例えば、特許文献1には、抵抗スポット溶接方法において、溶接時の上側電極の中心軸と下側電極の中心軸とのずれ量(芯ずれ量)に応じて、通電終了後の加圧力の保持時間を調整する技術が開示されている。この特許文献1に開示された技術によれば、鋼種に関わらず、溶接部の割れの発生を抑制することができるとされている。
国際公開第2017/104647号
しかしながら、この特許文献1に開示された技術では、電極直下部に生じる割れについては一定の対処がなされているものの、溶接金属周辺の熱影響部、特にコロナボンド直外部に生じる割れについては十分に対処されておらず、依然として、コロナボンド直外部を始めとする熱影響部に割れが生じ易く、得られる溶接部材の強度低下を招く虞があった。
そこで、本発明は、少なくともコロナボンド直外部に生じる割れを抑制し、優れた強度の溶接部材を得ることができる、抵抗スポット溶接方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様(態様1)は、複数枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて接合する抵抗スポット溶接方法であって、
前記複数枚の金属板が、少なくとも一方の表面に金属めっき層を有するめっき金属板を含むものであり、
前記複数枚の金属板を前記厚さ方向に積み重ねて板組を形成する板組形成工程と、
前記板組を一対の第1電極で前記厚さ方向に挟み、以下の関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電することにより、前記金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程と、
前記予備通電工程の後に、前記板組を一対の第2電極で前記厚さ方向に挟んで通電することにより、前記複数枚の金属板を接合する本通電工程と、を有する、
前記抵抗スポット溶接方法である。
1.2×d<d<3.0×d ・・・(1)
[式(1)中、dは、前記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、dは、前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
2≦I<1.5×I ・・・(2)
[式(2)中、Iは、前記予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、Iは、前記本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、前記予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、前記複数枚の金属板の総板厚(mm)を表わす。]
本態様1の抵抗スポット溶接方法は、複数枚の金属板を接合する本通電工程の前に、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電して、めっき金属板のめっき金属を合金化する予備通電工程を有しているため、少なくともコロナボンド部分を含む熱影響部と厚さ方向に対応する位置に存在するめっき金属を、合金化することができ、かかるめっき金属の融点を上昇させることができる。このようにして、本通電工程前にめっき金属の融点を上昇させることで、本通電工程時には、めっき金属が溶融し難くなるため、めっき金属が母材の結晶粒界に侵入して粒界強度を低下させたりするようなことが生じ難くなる。
以上により、本態様1の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)における割れの発生を抑制することができ、結果的に優れた強度の溶接部材を得ることができる。
なお、本態様1の抵抗スポット溶接方法は、上記関係式(1)に示すとおり、予備通電工程では、本通電用の第2電極よりも先端径の大きい第1電極を用いているものの、本通電工程に用いる第2電極は、従来から用いられている通常のサイズの電極を使用することができるため、本通電時の溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
また、本発明の別の態様(態様2)では、上記態様1の抵抗スポット溶接方法において、前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体及び前記外側電極体の各先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する。
本態様2の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程と本通電工程において共通の複合電極を使用し、当該複合電極の外側電極体を移動させるだけで、予備通電用の電極(第1電極)と本通電用の電極(第2電極)を切り換えることができるため、電極自体を交換する必要がなく、工程時間の短縮や関連設備の簡略化等の点で、より効率よく抵抗スポット溶接を行うことができる。
これにより、本態様2の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生を抑制することができる上、優れた強度の溶接部材をより効率よく得ることができる。
本発明の更に別の態様(態様3)では、上記態様1の抵抗スポット溶接方法において、
前記一対の第1電極の各々は、前記板組における溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複する位置に配置された空洞部と、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複しないように前記空洞部を囲繞し且つ前記板組の表面に接触する環状の先端面を備えた筒状部と、を有する筒状の外側電極体であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複し且つ前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記外側電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記外側電極体を前記中央電極体に切り換えた後に、前記中央電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電する。
本態様3の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程において、第1電極として上記特定の構造を有する筒状の外側電極体のみを用いているため、割れが発生し易く且つ割れの影響が大きいコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)と厚さ方向に対応する位置に存在するめっき金属を、集中的に合金化することができ、かかるコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生をより効率よく、より確実に抑制することができる。
また、通常の抵抗スポット溶接方法では、先端径の大きい電極を用いる場合、そのサイズに応じた大きな通電電流を必要とするが、本態様3の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極として上記特定の構造を有する(特に、上記空洞部を有する)筒状の外側電極体のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極よりも先端径の大きい第1電極を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
本発明の更に別の態様(態様4)では、上記態様1の抵抗スポット溶接方法において、
前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面から離間した位置に配置された先端面を備え且つ前記板組に近接する方向に移動可能な中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記中央電極体を前記板組に近接する方向に移動させ且つ前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
前記予備通電工程は、前記複合電極における前記外側電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する。
本態様4の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程と本通電工程において共通の複合電極を使用し、当該複合電極の中央電極体及び外側電極体を移動させるだけで、予備通電用の電極(第1電極)と本通電用の電極(第2電極)を切り換えることができるため、電極自体を交換する必要がなく、工程時間の短縮や関連設備の簡略化等の点で、より効率よく抵抗スポット溶接を行うことができる(すなわち、溶接部材をより効率よく得ることができる。)。
さらに、本態様4の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程において、第1電極として上記複合電極の外側電極体のみを用いているため、割れが発生し易く且つ割れの影響が大きいコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)と厚さ方向に対応する位置に存在するめっき金属を、集中的に合金化することができ、かかるコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生をより効率よく、より確実に抑制することができる。
また、本態様4の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極として上記複合電極の外側電極体のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極よりも先端径の大きい第1電極を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
本発明の抵抗スポット溶接方法によれば、少なくともコロナボンド直外部に生じる割れを抑制し、優れた強度の溶接部材を得ることができる。
図1は、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。 図2は、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、電極の(a)加圧パターン及び(b)通電パターンを示す概略図である。 図3は、本発明の第2実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。 図4は、本発明の第3実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。 図5は、本発明の第4実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。 図6は、一般的な抵抗スポット溶接における通電時の状態を模式的に示す断面図である。 図7は、一般的な抵抗スポット溶接における電極の(a)加圧パターン及び(b)通電パターンを示す概略図である。 図8は、2枚の亜鉛めっき鋼板を従来の一般的な抵抗スポット溶接により接合した溶接部材の断面拡大写真(光学顕微鏡写真)である。 図9は、本発明の実施例及び比較例に用いたスポット溶接装置(定置式)の概略断面図である。
以下、本発明の抵抗スポット溶接方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、本明細書においては、特に断りのない限り、金属板の「厚さ方向」は、複数枚の金属板を重ね合わせて接合する際に接合対象部分となる、金属板の重ね合わせ部分の厚み方向(板厚方向)を意味する。したがって、例えば、金属板がハット型の場合は、当該ハット型の金属板の接合対象部分となるフランジ部分の厚み方向が、金属板の厚さ方向となる。かかる厚さ方向は、複数枚の金属板が接合された後の溶接部材(継手)においても、同様に適用される。
その他の本明細書において用いられる各種方向等については、特に断りのない限り、以下のとおりである。
本明細書において、金属板が延在する「平面方向」は、複数枚の金属板を重ね合わせて接合する際に接合対象部分となる部分の、金属板の重ね合わせ面と平行な仮想平面が延在する方向を意味し、上述の「厚さ方向」とは、互いに直交する関係にある。したがって、例えば、金属板がハット型鋼板の場合は、当該ハット型鋼板の接合対象箇所となるフランジ部分の、重ね合わせ面と平行な仮想平面が延在する方向が、平面方向となる。かかる平面方向は、複数枚の金属板が接合された後の溶接部材(継手)においても、同様に適用される。
また、本明細書において、上側及び下側は、対象物(例えば、金属板、溶接部材等)の上下方向(垂直方向)における相対的な位置関係(すなわち、斜め上、斜め下などを含む位置関係)を意味するものであり、それぞれ真上及び真下等の限定的な位置関係を意味するものではない。
さらに、本明細書では、厚さ方向に重ね合わされた複数枚の金属板が接合されてなる溶接部材の平面方向において、「溶接金属(ナゲット)の中心に対して相対的に遠位側」を、「平面方向の外方側」といい、「溶接金属の中心に対して相対的に近位側」を、「平面方向の内方側」という。
なお、本明細書においては、複数枚の金属板からなる板組の内部の所定領域(具体的には、厚さ方向に隣接する金属板同士の接触面及びその近傍領域)が電気抵抗によるジュール熱で溶融して、凝固した部分を「溶接金属」(いわゆる、ナゲット)といい、当該溶接金属及びその周辺の熱影響部を含む部分を「溶接部」という。
図1は、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図であり、図2は、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、電極の(a)加圧パターン及び(b)通電パターンを示す概略図である。
図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法は、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板(本発明における「金属板」の一例である。)を厚さ方向Dに積み重ねて、板組3を形成する板組形成工程と、該板組3を予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(本発明における「一対の第1電極」の一例である。)により厚さ方向Dに挟み、後述する特定の条件下で通電する予備通電工程と、かかる予備通電工程の後に、板組3を本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’(本発明における「一対の第2電極」の一例である。)で厚さ方向Dに挟んで通電することにより、上記2枚の鋼板を接合する本通電工程と、を有している。
本第1実施形態において、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板は、それぞれ鋼板の両面に亜鉛めっき層を有する亜鉛めっき鋼板(本発明における「めっき金属板」の一例)であり、予備通電工程において、以下の関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電することにより、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の亜鉛めっき層の亜鉛が合金化される。
なお、本第1実施形態においては、上側第1電極1の先端径dと下側第1電極1’の先端径d’が同一であり、上側第2電極2の先端径dと下側第2電極2’の先端径d’が同一である。
1.2×d<d<3.0×d ・・・(1)
[式(1)中、dは、上記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、dは、上記一対の第1電極に対応する上記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
2≦I<1.5×I ・・・(2)
[式(2)中、Iは、予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、Iは、本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、複数枚の金属板(2枚の鋼板)の総板厚(mm)を表わす。]
予備通電工程における関係式(1)の要件は、2枚の鋼板よりなる板組3の合金化する対象領域(合金化領域R)を特定するための要件であり、かかる合金化領域Rは、図1に示すように、本通電工程で形成される溶接金属4の周囲に隣接する熱影響部5をすべて包含する領域である。
また、予備通電工程における関係式(2)及び(3)の要件は、亜鉛めっき鋼板のめっき金属(亜鉛)を合金化するための要件であり、それぞれめっき金属を合金化するのに要する温度及び時間の要件である。
なお、これらの関係式については後述する。
そして、本第1実施形態においては、上述の予備通電工程の後に、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板からなる板組3を、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’で厚さ方向Dに挟んで通電することにより、図1に示すように、上側第2電極2及び下側第2電極2’の間における鋼板31及び鋼板32の重ね合わせ面を中心にして、溶接金属4(ナゲット)が形成されるとともに、当該溶接金属4に隣接する周辺部分においては、鋼板31及び鋼板32の重ね合わせ面同士が固相接合した圧接部51(コロナボンド)を含む熱影響部5が形成され、上記板組3の鋼板31と鋼板32とが接合される。
なお、本通電工程における各種条件(例えば、電流値I、通電時間Tw2、加圧力等)は、少なくとも上述の溶接金属4が形成されて、鋼板31と鋼板32とが接合し得る条件であれば特に制限されず、従来の抵抗スポット溶接に用いられる各種条件と同様の条件を採用することができる。かかる本通電工程における具体的な条件については後述する。
以上のように、本第1実施形態の抵抗スポット溶接方法は、2枚の鋼板31及び鋼板32を接合する本通電工程の前に、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電して、亜鉛めっき鋼板である鋼板31及び鋼板32のめっき金属(亜鉛)を合金化する予備通電工程を有しているため、少なくともコロナボンド部分を含む熱影響部5と厚さ方向Dに対応する位置に存在するめっき金属を、合金化することができ、かかるめっき金属の融点を上昇させることができる。このようにして、本通電工程前にめっき金属の融点を上昇させることで、本通電工程時には、めっき金属が溶融し難くなるため、めっき金属が母材の結晶粒界に侵入して粒界強度を低下させたりするようなことが生じ難くなる。
したがって、本第1実施形態の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)における割れの発生を抑制することができ、結果的に優れた強度の溶接部材を得ることができる。
なお、本第1実施形態の抵抗スポット溶接方法は、上記関係式(1)に示すとおり、予備通電工程では、本通電用の第2電極よりも先端径の大きい予備通電用の第1電極を用いているものの、本通電工程に用いる第2電極は、従来から用いられている通常のサイズの電極を使用することができるため、本通電時の溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
以下、本発明の抵抗スポット溶接方法における各種工程等について、上述の第1実施形態を用いて更に詳細に説明する。
[板組形成工程]
本発明の第1実施形態に係る抵抗スポット溶接方法は、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板を厚さ方向Dに積み重ねて、板組3を形成する板組形成工程を有する。この板組形成工程は、接合対象となる上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の鋼板における各々の接合対象箇所(すなわち、スポット溶接の対象箇所)同士を厚さ方向Dに重ね合わせることにより、板組3全体としての接合対象箇所を形成するものである。
かかる板組3の接合対象箇所は、図1に示すように、板組形成工程の後工程である予備通電工程及び本通電工程における溶接金属形成対象部分4’及び溶接金属4と、厚さ方向Dにおいて対応する位置関係にある。
そして、本第1実施形態においては、上側の鋼板31及び下側の鋼板32として、それぞれ鋼板の両面に亜鉛めっき層を有する亜鉛めっき鋼板が用いられているが、本発明の抵抗スポット溶接方法において、板組を形成する複数枚の金属板は、少なくとも一方の表面に金属めっき層を有するめっき金属板を1枚以上含むものであれば、それ以外の金属板は特に制限されず、接合後の溶接部材が適用される用途(例えば、自動車の構造部品等)などに応じた任意の金属板を採用することができる。
本発明に用い得る、めっき金属板以外の金属板としては、例えば、引張強度が400MPa〜1300MPaの範囲内の鋼板やアルミニウム板、ステンレス鋼板等が挙げられるが、引張強度が780MPa以上(特に、引張強度が980MPa以上)の鋼板は、溶接箇所に割れが生じ易いため、本発明の抵抗スポット溶接方法は、このような割れの生じ易い金属板に対して特に有利である。
一方、本発明に用い得るめっき金属板は、金属板と、該金属板の少なくとも一方の表面を被覆する金属めっき層とによって構成されたものであれば、上述の第1実施形態のような亜鉛めっき鋼板に限定されず、接合後の溶接部材が適用される用途などに応じた任意のめっき金属板を採用することができる。なお、めっき金属板に用いる、めっき処理前の金属板としては、上述のめっき金属板以外の金属板で例示したものと同様のものを採用することができる。
また、本発明においては、めっき金属板の金属めっき層を形成するめっき金属の種類についても、特に制限されず、上述の第1実施形態のような亜鉛等の亜鉛系金属のほか、銅系金属等の任意のめっき金属を採用することができる。なお、耐食性の観点からすると、めっき金属は、亜鉛系金属を用いることが好ましい。また、めっき金属として亜鉛系金属を用いる場合、そのめっき種も特に制限されず、例えば、合金化溶融亜鉛めっき(GAめっき)、溶融亜鉛めっき(GIめっき)、電気亜鉛めっき(EGめっき)、亜鉛・ニッケル電気めっき等の任意のめっき種を採用することができる。
さらに、本発明においては、めっき金属板における金属めっき層の被覆対象面についても、特に制限されず、例えば、金属めっき層は、第1実施形態の亜鉛めっき鋼板のように金属板の両面を被覆するものであっても、板組を形成する際に電極と接触する側の表面のみを被覆するものであっても、他の金属板との重ね合わせ面のみを被覆するものであってもよい。なお、耐食性の観点からすると、金属めっき層は、少なくとも、板組を形成する際に電極と接触する側の表面を被覆するものが好ましい。
また、金属めっき層の被覆量も、本発明の効果を阻害しない限り特に制限されず、各種用途等に応じた任意の被覆量を採用することができる。そのような被覆量としては、例えば、金属板の片面当たり130g/m以下の被覆量が挙げられる。
また、本発明において、板組を形成する複数枚の金属板は、すべての金属板が同一種類の金属板であっても、一部の金属板のみが同一種類の金属板であっても、すべての金属板がそれぞれ異なる種類の金属板であってもよい。
さらに、板組を形成する複数枚の金属板において、めっき金属板と、めっき金属板以外の金属板とが混在する場合、めっき金属板の配置位置は特に制限されないが、耐食性等の点から、めっき金属板は、板組を形成する際に金属めっき層が電極と接触する側の表面を形成するような位置に配置されることが好ましい。
また、本発明において、板組を形成する複数枚の金属板の枚数は、特に制限されず、上述の第1実施形態のような2枚の金属板のほか、接合後の溶接部材が適用される用途などに応じて、3枚以上の金属板を用いてもよい。さらに、各金属板の板厚(すなわち、金属板1枚の板厚)についても、特に制限されず、接合後の溶接部材が適用される用途などに応じた任意の板厚を採用することができる。そのような板厚としては、例えば、0.5mm〜5.0mmの範囲内の板厚が挙げられる。これに関連して、複数枚の金属板の総板厚も特に制限されず、例えば、総板厚は、1.0mm〜8.0mmの範囲内とすることができるが、溶接金属周辺の割れを生じ難くする点から、好ましくは2.0mm〜3.5mmの範囲内である。
また、本発明において、金属板の形状は、少なくとも接合対象箇所(すなわち、スポット溶接の対象箇所)が、他の金属板の接合対象箇所と厚さ方向に重ね合わせられるような所定の板状構造を有するものであれば、特に制限されず、金属板は、金属板全体が平坦な板状構造を有するもの(例えば、平板状の鋼板等)であっても、接合対象箇所を含む一部の部分において板状構造を有し且つその他の部分において屈曲構造等を有するもの(例えば、L字形鋼板、ハット型鋼板等)であってもよい。
そして、本発明においては、上述の板組形成工程の後に、複数枚の金属板からなる板組を一対の第1電極で厚さ方向に挟み、特定の関係式を満たす条件下で通電することにより、上述の金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程を行う。
以下、本発明の抵抗スポット溶接方法における予備通電工程について、上述の第1実施形態を用いて詳細に説明する。
[予備通電工程]
本第1実施形態において、予備通電工程は、上述のとおり、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の亜鉛めっき鋼板を積み重ねてなる板組3を、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’で厚さ方向Dに挟み、上述の関係式(1)〜(3)を満たす条件下で通電することにより、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の亜鉛めっき層の亜鉛を合金化する工程である。
かかる予備通電工程においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’を備えた定置式の溶接装置が用いられ、さらに、これらの上側第1電極1及び下側第1電極1’は、上記関係式(1)を満たす特定の先端径を有している。
なお、本第1実施形態においては、上側第1電極1の先端径dと下側第1電極1’の先端径d’が同一であり、上側第2電極2の先端径dと下側第2電極2’の先端径d’が同一であるが、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、このような態様に限定されず、予備通電工程に用いる一対の第1電極は、互いに異なるサイズの先端径を有していてもよい。この場合、予備通電用の一対の第1電極は、一方の第1電極(上側第1電極)が本通電用の一方の第2電極(上側第2電極)に対して上記関係式(1)を満たすとともに、他方の第1電極(下側第1電極)が本通電用の他方の第2電極(下側第2電極)に対して上記関係式(1)を満たす先端径を有していればよい。
そして、上述の第1実施形態においては、予備通電工程は、図1の(a)に示すように、板組3を予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’で挟み込んだ後(なお、この段階では、板組3の上側表面及び下側表面の各々に、上側第1電極1の先端面S及び下側第1電極1’の先端面S’の各々が接触しただけの状態である。)、かかる板組3に対して、図2に示すように、上側第1電極1及び下側第1電極1’により板組3を厚さ方向Dに圧縮するように所定の加圧力f(kgf)を付与し、さらに、この加圧力fを付与し始めた時点(すなわち、加圧開始時点t)から所定のスクイズ時間Ts1(秒)経過後に(なお、このスクイズ時間Ts1(秒)の経過した時点が通電開始時点tとなる。)、上記関係式(2)を満たす所定の電流値I(kA)の電流を、上述の関係式(3)を満たす所定の通電時間Tw1(秒)印加することにより、本通電工程時に形成されるコロナボンド部分を含む熱影響部5と厚さ方向Dに対応する位置に存在するめっき金属を、合金化することができる。
さらに、上記通電時間Tw1(秒)の経過後は、通電を終了し、かかる通電終了時点tから所定の保持時間Th1(秒)経過後に、板組3に付与していた加圧力fの付与を終了する。この加圧力fの付与を終了した時点(すなわち、加圧終了時点t)が、予備通電工程の終了時点となる。
なお、図2の加圧パターン(a)において、縦軸Fは、加圧力(kgf)を表わし、横軸Tは、経過時間(秒)を表わす。また、図2の通電パターン(b)において、縦軸Iは、電流値(kA)を表わし、横軸Tは、上記加圧パターン(a)の横軸Tと対応する経過時間(秒)を表わす。
ここで、本発明の抵抗スポット溶接方法における予備通電工程の各関係式について説明する。
予備通電工程における関係式(1)〜(3)のうち、関係式(1)の要件は、複数枚の金属板よりなる板組の合金化する対象領域(合金化領域)を特定するための要件であり、かかる合金化領域は、本通電工程で形成される溶接金属の周囲に隣接する熱影響部をすべて包含する領域である。
下記に示すように、関係式(1)は、第1電極の先端径d(mm)が、対応する第2電極の先端径d(mm)の1.2倍よりも大きく、3.0倍よりも小さいことを意味するものである。
1.2×d<d<3.0×d ・・・(1)
[式(1)中、dは、前記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、dは、前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
このように、第1電極の先端径d(mm)が、対応する第2電極の先端径d(mm)の1.2倍よりも大きいと、本通電工程で形成される溶接金属の周辺に隣接する熱影響部をすべて包含し得る領域を通電することができ、かかる領域と厚さ方向に対応する領域に存在するめっき金属(すなわち、少なくともコロナボンド部分を含む熱影響部と厚さ方向に対応する位置に存在するめっき金属)を合金化することができる。
なお、熱影響部(HAZ)は、スポット溶接の際に、溶接金属(ナゲット)の周辺領域で高温(700℃程度)に曝されて金属組織的に変質した部分であり、通常、溶接金属を形成する際に用いる電極(第2電極)の先端径の1.2倍よりも小さい範囲に形成される。
また、第1電極の先端径d(mm)が、対応する第2電極の先端径d(mm)の3.0倍よりも小さいと、予備通電工程に用いる電流を一定の範囲内に抑えることができ、電源設備上の制約を最小限に抑えることができる。なお、スポット溶接においては、通常、通電時の電流値は、電極の先端径の2乗に比例した電流値が必要となる。
また、上記関係式(1)において、「前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極」とは、一対の第1電極の各々と一対の第2電極の各々との位置関係が、互いに対応していることを意味し、例えば、上述の第1実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1と本通電用の上側第2電極2とが対応し、予備通電用の下側第1電極1’と本通電用の下側第2電極2’とが対応する関係にある。
本発明において、予備通電工程に用いる第1電極は、先端径が上記関係式(1)を満たすものであれば、その他の構造は特に制限されず、公知の任意の電極を採用することができる。そのような電極としては、例えば、板組に接触する先端面及び所定の先端径を有する電極チップと、該電極チップに接続された棒状のシャンクと、該シャンクの後端部に接続されたホルダーと、を備えたものが挙げられる。なお、かかる電極は、電源設備に接続されており、電極チップを介して溶接対象の金属板に電流を供給できるように構成されている。さらに、電極内には、冷却用の媒体(例えば、水等)が供給されている。
本発明において、予備通電工程に用いる第1電極の先端形状は、先端径が上記関係式(1)を満たすものであれば、特に制限されず、例えば、JIS C 9304:1999に記載されているもの(例えば、ドームラジアス形(DR形)、ドーム形(D形)、ラジアス形(R形)等)などを採用することができる。
なお、本明細書において、電極の先端径は、特に断りのない限り、通電時に溶接対象の金属板の表面に接触する部分(先端面)の直径(外径)を意味し、JIS C 9304:1999乃至JIS C 9305:2011に記載されている「先端径」と同義である。
また、本発明においては、第1電極は、後述する実施形態のように、複合電極における一部の電極体によって構成されていてもよいし、上述の熱影響部(少なくともコロナボンド部分)及びその周辺部分を集中的に通電することのできる、筒状の構造を有する電極体によって構成されていてもよい。
さらに、本発明においては、予備通電工程に用いる溶接装置は、一対の第1電極を備えたものであれば特に制限されず、上述の第1実施形態のような定置式の溶接装置のほか、ロボットガン等であってもよい。
なお、本明細書において、上側及び下側という用語は、説明の便宜上、一対の電極が上下方向に対向配置された定置式の溶接装置を用いた場合の位置関係を表わすために用いているが、ロボットガン等の溶接装置を用いる場合は、必ずしも上側及び下側の位置関係になるとは限らないため、そのような場合には、所定方向における一方側及び他方側と読み替えることにより、適用することができる。
また、予備通電工程における関係式(1)〜(3)のうち、関係式(2)及び(3)の要件は、めっき金属板のめっき金属を合金化するための要件であり、それぞれめっき金属を合金化するのに要する温度及び時間の要件である。
下記に示すように、関係式(2)は、予備通電工程における通電時の電流値I(kA)が、2(kA)以上であり、本通電工程における通電時の電流値I(kA)の1.5倍未満であることを意味するものである。
2≦I<1.5×I ・・・(2)
[式(2)中、Iは、予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、Iは、本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
このように、予備通電工程における通電時の電流値I(kA)が、2(kA)以上であると、めっき金属板におけるめっき金属の合金化に要する温度(例えば、めっき金属が亜鉛の場合、500℃〜600℃の温度)が得られ易い。
また、予備通電工程における通電時の電流値I(kA)が、本通電工程における通電時の電流値I(kA)の1.5倍未満であると、めっき金属の溶融を防ぐことができる(すなわち、溶融しためっき金属による母材の結晶粒界への侵入を、生じ難くすることができる。)。
また、下記に示すように、関係式(3)は、予備通電工程における通電時間Tw1(秒)が所定時間(すなわち、0.2×H/2(秒))以上であることを意味するものである。
0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
[式(3)中、Tw1は、予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、複数枚の金属板の総板厚(mm)を表わす。]
このように、予備通電工程における通電時間Tw1(秒)が0.2×H/2(秒)以上であると、上記関係式(1)によって定まる合金化領域内のめっき金属を、十分に合金化することができる。なお、予備通電工程における通電時間Tw1(秒)の上限は、特に制限されず、生産性等に応じて適宜設定することができる。
本発明において、予備通電工程の各種条件は、上記関係式(1)〜(3)を満たすものであれば、その他の条件は特に制限されず、所望の強度や生産性等に応じた任意の条件を採用することができる。例えば、予備通電工程におけるスクイズ時間TS1(秒)は、加圧力fが安定するのに必要な時間(かかる時間は、溶接装置の特性に依存する。)を適宜設定することができ、保持時間Th1(秒)は、0秒以上であれば、上限は生産性等に応じて適宜設定することができる。また、予備通電工程における加圧力fも、特に制限されず、例えば300kgf〜600kgfの範囲内である。
そして、本発明においては、上述の予備通電工程の後に、複数枚の金属板からなる板組を一対の第2電極で厚さ方向に挟んで通電することにより、上記複数枚の金属板を接合する本通電工程を行う。
以下、本発明の抵抗スポット溶接方法における本通電工程について、上述の第1実施形態を用いて詳細に説明する。
[本通電工程]
本第1実施形態において、本通電工程は、上述のとおり、めっき金属(亜鉛)が合金化された、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の2枚の亜鉛めっき鋼板を積み重ねてなる板組3を、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’で厚さ方向Dに挟んで通電することにより、板組3内部の所定領域(具体的には、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の接触面及びその近傍領域)を電気抵抗によるジュール熱で溶融させて、溶接金属4(ナゲット)を形成させるとともに、当該溶接金属4に隣接する周辺部分において、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の各重ね合わせ面同士が固相接合した圧接部51(コロナボンド)を形成させて、上述の上側の鋼板31及び下側の鋼板32を接合する工程である。
かかる本通電工程においては、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’を備えた定置式の溶接装置が用いられており、さらに、本第1実施形態においては、上述のとおり、上側第2電極2の先端径dと下側第2電極2’の先端径d’とが同一のものを用いている。しかしながら、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、このような態様に限定されず、本通電工程に用いる一対の第2電極は、互いに異なるサイズの先端径を有していてもよい。
そして、上述の第1実施形態においては、本通電工程は、図1の(b)に示すように、予備通電工程後の板組3を、本通電工程用の上側第2電極2及び下側第2電極2’で挟み込んだ後(なお、この段階では、板組3の上側表面及び下側表面の各々に、上側第2電極2の先端面S及び下側第2電極2’の先端面S’の各々が接触しただけの状態である。)、かかる板組3に対して、図2に示すように、上側第2電極2及び下側第2電極2’により板組3を厚さ方向Dに圧縮するように所定の加圧力f(kgf)を付与し、さらに、この本通電用の加圧力fを付与し始めた時点(すなわち、本通電用の加圧開始時点t)から所定のスクイズ時間Ts2(秒)経過後に(なお、このスクイズ時間Ts2(秒)が経過した時点が通電開始時点tとなる。)、所定の電流値I(kA)の電流を所定の通電時間Tw2(秒)印加することにより、板組3内部の所定領域(具体的には、上側の鋼板31及び下側の鋼板32の接触面及びその近傍領域)に溶接金属4(ナゲット)等を形成させることができ、上述の上側の鋼板31及び下側の鋼板32を接合することができる。
さらに、上記通電時間Tw2(秒)の経過後は、通電を終了し、かかる通電終了時点tから所定の保持時間Th2(秒)経過後に板組3に付与していた加圧力fの付与を終了する。この加圧力fの付与を終了した時点(すなわち、加圧終了時点t)が、本通電工程の終了時点となる。
本発明において、本通電工程に用いる第2電極は、特に制限されず、公知の任意の電極を採用することができる。そのような電極としては、例えば、上述の予備通電用の第1電極と同様のものが挙げられる。なお、第2電極の先端形状も特に制限されず、上述の予備通電用の第1電極と同様のものを採用することができる。
また、本発明においては、第2電極は、後述する実施形態のように、複合電極における一部の電極体によって構成されていてもよい。
さらに、本通電工程に用いる溶接装置も、一対の第2電極を備えたものであれば特に制限されず、上述の予備通電工程に用いるものと同様の溶接装置を用いることができる。
本発明において、本通電工程の各種条件は、少なくとも上述の溶接金属(ナゲット)が形成されて、複数枚の金属板同士が接合し得る条件であれば特に制限されず、従来の抵抗スポット溶接に用いられる各種条件と同様の条件を採用することができる。
例えば、本通電工程におけるスクイズ時間TS2(秒)は、加圧力fが安定するのに必要な時間(かかる時間は、溶接装置の特性に依存する。)を適宜設定することができ、保持時間Th2(秒)は、特に制限されないが、0.065×(H/2)(秒)以上に設定することが好ましく(なお、上記式中のHは、複数枚の金属板の総板厚(mm)である。)、保持時間Th2(秒)の上限は、生産性等に応じて適宜設定することができる。また、本通電工程における加圧力fも特に制限されず、例えば300kgf〜600kgfの範囲内である。
また、本発明において、本通電工程における通電時間Tw2(秒)は、少なくとも上述の溶接金属が形成され得る時間であれば特に制限されないが、0.2×h+0.04(秒)に設定することが好ましい。なお、上記式中のhは、複数枚の金属板の総板厚(mm)である。
さらに、本通電工程における電流値I(kA)も、少なくとも上述の溶接金属が形成され得る電流値であれば特に制限されず、所望の製品品質や生産性等に応じた任意の電流値を採用することができる。
また、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、上述の予備通電工程と本通電工程との間に、一定時間電流を流さないで冷却する、冷却時間(秒)を有していてもよい。例えば、上述の第1実施形態においては、図2の(b)に示すように、予備通電工程における通電終了時点tから本通電工程における通電開始時点tまでの間が冷却時間T(秒)となっており、この間に予備通電用の第1電極と本通電用の第2電極とを切り換えることもできる。
なお、本発明において、冷却時間T(秒)の長さは、特に制限されず、0秒以上の任意の時間を設定することができるが、電極交換に必要な時間や生産性等を考慮して適宜設定することができる。
以上のように、本発明の抵抗スポット溶接方法は、複数枚の金属板を接合する本通電工程の前に、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電して、めっき金属板のめっき金属を合金化する予備通電工程を有しているため、少なくともコロナボンド部分を含む熱影響部と厚さ方向に対応する位置に存在するめっき金属を、合金化することができ、かかるめっき金属の融点を上昇させることができる。このようにして、本通電工程前にめっき金属の融点を上昇させることで、本通電工程時には、めっき金属が溶融し難くなるため、めっき金属が母材の結晶粒界に侵入して粒界強度を低下させたりするようなことが生じ難くなる。
したがって、本発明の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)における割れの発生を抑制することができ、結果的に優れた強度の溶接部材を得ることができる。
なお、本発明の抵抗スポット溶接方法において、予備通電用の一対の第1電極及び本通電用の一対の第2電極の態様は、本発明の効果を阻害しない限り、上述の第1実施形態の態様に限定されず、任意の態様のものを採用することができる。
以下、上述の第1実施形態とは、予備通電用の一対の第1電極及び本通電用の一対の第2電極の態様のみが異なる(すなわち、電極の加圧パターンや通電パターン等の各種条件は、上述の第1実施形態と同じである。)、本発明の別の実施形態(第2実施形態〜第4実施形態)について、図面を参照しながら説明する。なお、上述の第1実施形態と異なる構成以外の構成は、基本的に上述の第1実施形態と同様であるため、説明を省略する。
(第2実施形態)
図3は、本発明の第2実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。
図3の(a)に示すように、本第2実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(すなわち、一対の第1電極)の各々は、2枚の鋼板31、32(いずれも亜鉛めっき鋼板)からなる板組3の表面に接触する先端面S61、S’61を備えた中央電極体61、61’と、上記板組3の表面に接触する先端面S62、S’62を備え、上記中央電極体61、61’を内部に収容し且つ上記板組3から離間する方向に移動可能な外側電極体62、62’と、によって構成された複合電極6、6’である。
この複合電極6、6’においては、図3の(a)に示すように、外側電極体62、62’の先端面S62、S’62の外径が本第2実施形態における第1電極1、1’の先端径dとなる。なお、外側電極体62、62’の内径d1i、d’1iは、溶接金属形成対象部分4’に対応した先端径dを有する中央電極体61、61’を、内部に収容し得る程度の大きさであれば、特に制限されない。
一方、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’(すなわち、一対の第2電極)の各々は、図3の(b)に示すように、上述の複合電極6、6’における外側電極体62、62’を上記板組3から離間する方向に移動させた後の中央電極体61、61’である。なお、この中央電極体61、61’の各先端径が、本第2実施形態における第2電極2、2’の先端径dとなる。
本第2実施形態においては、図3に示すように、予備通電工程は、上記複合電極6、6’における中央電極体61、61’の各先端面S61、S’61及び外側電極体62、62’の各先端面S62、S’62を上記板組3の表面に接触させた状態で通電し、本通電工程は、上記複合電極6、6’における中央電極体61、61’の各先端面S61、S’61のみを上記板組3の表面に接触させた状態で通電する。
この第2実施形態においても、予備通電工程は、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件下で行われる。
なお、本第2実施形態においても、上側第1電極1の先端径d(すなわち、上側の外側電極体62の先端面S62の外径)と下側第1電極1’の先端径d’(すなわち、下側の外側電極体62’の先端面S’62の外径)が同一であり、上側第2電極2の先端径d(すなわち、上側の中央電極体61の先端径)と下側第2電極2’の先端径d’(すなわち、下側の中央電極体61’の先端径)が同一であるが、上述のとおり、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、このような態様に限定されない。
また、本第2実施形態における予備通電工程及び本通電工程の各種条件は、上述の第1実施形態と同様である。
本第2実施形態の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程と本通電工程において共通の複合電極6、6’を使用し、当該複合電極6、6’の外側電極体62、62’を移動させるだけで、予備通電用の電極(第1電極)と本通電用の電極(第2電極)を切り換えることができるため、電極自体を交換する必要がなく、工程時間の短縮や関連設備の簡略化等の点で、より効率よく抵抗スポット溶接を行うことができる。
これにより、本第2実施形態の抵抗スポット溶接方法は、少なくともコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生を抑制することができる上、優れた強度の溶接部材をより効率よく得ることができる。
(第3実施形態)
図4は、本発明の第3実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。
図4の(a)に示すように、本第3実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(すなわち、一対の第1電極)の各々は、2枚の鋼板31、32(いずれも亜鉛めっき鋼板)からなる板組3における溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向Dに重複する位置に配置された空洞部72、72’と、上記溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向Dに重複しないように上記空洞部72、72’を平面方向Dから囲繞し且つ上記板組3の表面に接触する環状の先端面S71、S’71を備えた筒状部71、71’と、を有する筒状の外側電極体7、7’である。
この筒状の外側電極体7、7’においては、図4の(a)に示すように、筒状部71、71’の先端面S71、S’71の外径が、本第3実施形態における第1電極1、1’の先端径dとなる。なお、筒状部71、71’の内径d1r、d’1rは、上記溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向Dに重複しない程度の大きさであれば、特に制限されない。
一方、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’(すなわち、一対の第2電極)の各々は、図4の(b)に示すように、溶接金属形成対象部分4’と厚さ方向Dに重複し且つ上記板組3の表面に接触する先端面S、S’を備えた中央電極体8、8’である。なお、この中央電極体8、8’の各先端径が、本第3実施形態における第2電極2、2’の先端径dとなる。
本第3実施形態においては、図4に示すように、予備通電工程は、予備通電用の外側電極体7、7’の各先端面S71、S’71を上記板組3の表面に接触させた状態で通電し、本通電工程は、上記外側電極体7、7’を本通電用の中央電極体8、8’に切り換えた後に、中央電極体8、8’の各先端面S、S’を上記板組3の表面に接触させた状態で通電する。
この第3実施形態においても、予備通電工程は、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件下で行われる。
なお、本第3実施形態においても、上側第1電極1の先端径d(すなわち、上側の外側電極体7の筒状部71の先端面S71の外径)と下側第1電極1’の先端径d’(すなわち、下側の外側電極体7’の筒状部71’の先端面S’71の外径)が同一であり、上側第2電極2の先端径d(すなわち、上側の中央電極体8の先端径)と下側第2電極2’の先端径d’(すなわち、下側の中央電極体8’の先端径)が同一であるが、上述のとおり、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、このような態様に限定されない。
また、本第3実施形態における予備通電工程及び本通電工程の各種条件は、上述の第1実施形態と同様である。
本第3実施形態の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程において、第1電極1、1’として上記特定の構造を有する筒状の外側電極体7、7’のみを用いているため、割れが発生し易く且つ割れの影響が大きいコロナボンド部分及びその周辺部分(コロナボンド直外部を含む。)と厚さ方向Dに対応する位置に存在するめっき金属を、集中的に合金化することができ、かかるコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生をより効率よく、より確実に抑制することができる。
また、通常の抵抗スポット溶接方法では、先端径の大きい電極を用いる場合、そのサイズに応じた大きな通電電流を必要とするが、本第3実施形態の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極1、1’として上記特定の構造を有する(特に、上記空洞部72、72’を有する)筒状の外側電極体7、7’のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極2、2’よりも先端径の大きい第1電極1、1’を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
(第4実施形態)
図5は、本発明の第4実施形態に係る抵抗スポット溶接方法における、(a)予備通電工程時及び(b)本通電工程時の状態を模式的に示す断面図である。
図5の(a)に示すように、本第4実施形態においては、予備通電用の上側第1電極1及び下側第1電極1’(一対の第1電極)の各々は、2枚の鋼板31、32(いずれも亜鉛めっき鋼板)からなる板組3の表面から離間した位置に配置された先端面S91、S’91を備え且つ上記板組3に近接する方向に移動可能な中央電極体91、91’と、上記板組3の表面に接触する先端面S92、S’92を備え、上記中央電極体91、91を内部に収容し且つ上記板組3から離間する方向に移動可能な外側電極体92、92’と、によって構成された複合電極9、9’である。
この複合電極9、9’においては、図5の(a)に示すように、外側電極体92、92’の先端面S92、S’92の外径が、本第4実施形態における第1電極1、1’の先端径dとなる。なお、外側電極体92、92’の内径d1i、d’1iは、溶接金属形成対象部分4’に対応した先端径dを有する中央電極体91、91’を、内部に収容し得る程度の大きさであれば、特に制限されない。
一方、本通電用の上側第2電極2及び下側第2電極2’(すなわち、一対の第2電極)の各々は、図5の(b)に示すように、上述の複合電極9、9’における中央電極体91、91’を上記板組3に近接する方向に移動させ且つ外側電極体92、92’を上記板組3から離間する方向に移動させた後の中央電極体91、91’である。なお、この中央電極体91、91’の各先端径が、本第4実施形態における第2電極2、2’の先端径dとなる。
本第4実施形態においては、図5に示すように、予備通電工程は、上記複合電極9、9’における外側電極体92、92’の各先端面S92、S’92のみを上記板組3の表面に接触させた状態で通電し、本通電工程は、上記複合電極9、9’における中央電極体91、91’の各先端面S91、S’91のみを上記板組3の表面に接触させた状態で通電する。
この第4実施形態においても、予備通電工程は、上記関係式(1)〜(3)を満たす条件下で行われる。
なお、本第4実施形態においても、上側第1電極1の先端径d(すなわち、上側の外側電極体92の先端面S92の外径)と下側第1電極1’の先端径d’(すなわち、下側の外側電極体92’の先端面S’92の外径)が同一であり、上側第2電極2の先端径d(すなわち、上側の中央電極体91の先端径)と下側第2電極2’の先端径d’(すなわち、下側の中央電極体91’の先端径)が同一であるが、上述のとおり、本発明の抵抗スポット溶接方法においては、このような態様に限定されない。
また、本第4実施形態における予備通電工程及び本通電工程の各種条件は、上述の第1実施形態と同様である。
本第4実施形態の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程と本通電工程において共通の複合電極9、9’を使用し、当該複合電極9、9’の中央電極体91、91’及び外側電極体92、92’を移動させるだけで、予備通電用の電極(第1電極)と本通電用の電極(第2電極)を切り換えることができるため、電極自体を交換する必要がなく、工程時間の短縮や関連設備の簡略化等の点で、より効率よく抵抗スポット溶接を行うことができる(すなわち、溶接部材をより効率よく得ることができる。)。
さらに、本第4実施形態の抵抗スポット溶接方法は、予備通電工程において、第1電極1、1’として上記複合電極9、9’の外側電極体92、92’のみを用いているため、割れが発生し易く且つ割れの影響が大きいコロナボンド部分及びその周辺部分と厚さ方向Dに対応する位置に存在するめっき金属を、集中的に合金化することができ、かかるコロナボンド部分及びその周辺部分における割れの発生をより効率よく、より確実に抑制することができる。
また、本第4実施形態の抵抗スポット溶接方法においては、予備通電用の第1電極1、1’として上記複合電極9、9’の外側電極体92、92’のみを用いているため、予備通電工程において、本通電用の第2電極2、2’よりも先端径の大きい第1電極1、1’を用いていても、予備通電時の電流を特段大きくする必要がなく、溶接条件や設備上の制約も最小限に抑えることができるという利点もある。
なお、本発明の抵抗スポット溶接方法は、自動車等の輸送用機械や産業用機械の各種構造部品、建築物の構造体などの様々な構造部材に適用することができる。また、本発明の抵抗スポット溶接方法は、上述した各実施形態や後述する実施例等に制限されることなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。なお、本明細書において、「第1」、「第2」等の序数は、当該序数が付された事項を区別するためのものであり、各事項の順序や優先度、重要度等を意味するものではない。
以下、実施例及び比較例を例示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこのような実施例のみに限定されるものではない。
図9は、本発明の実施例及び比較例に用いたスポット溶接装置(定置式)の概略断面図である。
図9に示すスポット溶接装置は、2枚の鋼板からなる板組3を下側から支持する支持部材15と、該支持部材15上に載置された板組3を挟んで上下に対向する一対の電極11、11’と、板組3の下方側に配置された打角調整用の支持台16と、を備えており、さらに、一対の電極11、11’は、それぞれ、板組3に接触する先端面及び所定の先端径を有する電極チップ12、12’と、該電極チップ12、12’に接続された棒状のシャンク13、13’と、該シャンク13、13’の後端部に接続されたホルダー14、14’と、を備えている。
さらに、上記スポット溶接装置は、一対の電極11、11’を板組3に対して互いに近接する方向及び離間する方向に移動させる駆動設備(不図示)を備えており、上記一対の電極11、11’を用いて板組3に所定の加圧力Fを付与できるように構成されている。
なお、上記一対の電極11、11’は、電源設備(不図示)に接続されており、電極チップ12、12’を介して板組3に電流を供給できるように構成されている。
実施例1
供試材として、引張強度が980MPa級の鋼板の両表面に合金化溶融亜鉛めっき(GAめっき)処理を施した、同一鋼種の2枚の金属板(各金属板の板厚:1.6mm、総板厚:3.2mm)を用意した。
この2枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて板組を形成した後、該板組を、図9に示す定置式のスポット溶接装置を用いて、所定の外乱条件(打角:3°、板組の下側表面と下側の電極先端面と間の隙間D:0.3mm)で抵抗スポット溶接を実施し、実施例1の溶接部材(継手)を得た。
なお、この抵抗スポット溶接においては、予備通電工程時は、先端径dが8mmのDR形電極チップを用い、本通電工程時は、先端径dが6mmのDR形電極チップを用いた。その他の各種通電条件は、表1に示すとおりである。
また、本通電工程における本通電時の電流値I(kA)は、5.0kA〜8.0kAまで0.5kAごとの電流値(すなわち、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5及び8.0kA)を用いてそれぞれスポット溶接を行い、そのそれぞれの電流値ごとに得られた溶接部材について、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認した。
なお、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認する際は、得られた溶接部材を、金属板の板面から見てインデンテーションの中心を通り且つ板面に対して垂直となるように切断し、その切断面を研磨した後、光学顕微鏡を用いて観察した。コロナボンド直外部及び電極直下部における割れ(図8に示す断面拡大写真におけるコロナボンド直外部の割れC及び電極直下部の割れCを参照。)の発生の有無を確認した結果は、表1に示すとおりである。
なお、表1中の〇印は、割れが生じていないことを意味し、×印は、割れが生じていることを意味する。
実施例2〜4
スポット溶接装置における電極を、それぞれ図3に示す複合電極(実施例2)、図4に示す筒状の外側電極体及び中央電極体(実施例3)、並びに図5に示す複合電極(実施例4)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜4の溶接部材を作製した。
そして、これらの実施例2〜4の溶接部材についても、実施例1と同様に、それぞれの本通電時の電流値ごとに得られた溶接部材について、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認した。
比較例1
予備通電工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の溶接部材を作製した。この比較例1の溶接部材についても、実施例1と同様に、それぞれの本通電時の電流値ごとに得られた溶接部材について、コロナボンド直外部及び電極直下部における割れの発生の有無を確認した。
表1に示すように、予備通電工程を実施していない比較例1の溶接部材では、本通電時の電流値Iが6.5kA以上でコロナボンド直外部の割れが確認されたが、上記関係式(1)〜(3)を満たす特定の条件下で予備通電工程を実施した実施例1〜4の溶接部材では、本通電時の電流値Iが8.0kA以上でもコロナボンド直外部の割れが確認されず、より大きなナゲット径で溶接できること(すなわち、より優れた強度の溶接部材が得られること)がわかった。
特に、実施例1及び2においては、電極直下部の割れについても、優れた結果(すなわち、本通電時の電流値Iが8.0kA以上でも電極直下部の割れが生じていない)を示し、極めて優れた強度の溶接部材が得られることがわかった。
1 予備通電用の上側第1電極
1’ 予備通電用の下側第1電極
2 本通電用の上側第2電極
2’ 本通電用の下側第2電極
3 板組
31 上側の鋼板
32 下側の鋼板
4 溶接金属(ナゲット)
4’ 溶接金属形成対象部分
5 熱影響部
51 圧接部(コロナボンド)
予備通電用の上側第1電極の先端径
d’ 予備通電用の下側第1電極の先端径
本通電用の上側第2電極の先端径
d’ 本通電用の下側第2電極の先端径
合金化領域

Claims (4)

  1. 複数枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて接合する抵抗スポット溶接方法であって、
    前記複数枚の金属板が、少なくとも一方の表面に金属めっき層を有するめっき金属板を含むものであり、
    前記複数枚の金属板を前記厚さ方向に積み重ねて板組を形成する板組形成工程と、
    前記板組を一対の第1電極で前記厚さ方向に挟み、以下の関係式(1)〜(3)を満たす条件で通電することにより、前記金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程と、
    前記予備通電工程の後に、前記板組を一対の第2電極で前記厚さ方向に挟んで通電することにより、前記複数枚の金属板を接合する本通電工程と、を有する、
    前記抵抗スポット溶接方法。
    1.2×d<d<3.0×d ・・・(1)
    [式(1)中、dは、前記一対の第1電極の各々の先端径(mm)を表わし、dは、前記一対の第1電極に対応する前記一対の第2電極の各々の先端径(mm)を表わす。]
    2≦I<1.5×I ・・・(2)
    [式(2)中、Iは、前記予備通電工程における通電時の電流値(kA)を表わし、Iは、前記本通電工程における通電時の電流値(kA)を表わす。]
    0.2×H/2≦Tw1 ・・・(3)
    [式(3)中、Tw1は、前記予備通電工程における通電時間(秒)を表わし、Hは、前記複数枚の金属板の総板厚(mm)を表わす。]
  2. 前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
    前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
    前記予備通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体及び前記外側電極体の各先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
    前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する、
    請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
  3. 前記一対の第1電極の各々は、前記板組における溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複する位置に配置された空洞部と、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複しないように前記空洞部を囲繞し且つ前記板組の表面に接触する環状の先端面を備えた筒状部と、を有する筒状の外側電極体であり、
    前記一対の第2電極の各々は、前記溶接金属形成対象部分と前記厚さ方向に重複し且つ前記板組の表面に接触する先端面を備えた中央電極体であり、
    前記予備通電工程は、前記外側電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
    前記本通電工程は、前記外側電極体を前記中央電極体に切り換えた後に、前記中央電極体の先端面を前記板組の表面に接触させた状態で通電する、
    請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
  4. 前記一対の第1電極の各々は、前記板組の表面から離間した位置に配置された先端面を備え且つ前記板組に近接する方向に移動可能な中央電極体と、前記板組の表面に接触する先端面を備え、前記中央電極体を内部に収容し且つ前記板組から離間する方向に移動可能な外側電極体と、によって構成された複合電極であり、
    前記一対の第2電極の各々は、前記複合電極における前記中央電極体を前記板組に近接する方向に移動させ且つ前記外側電極体を前記板組から離間する方向に移動させた後の前記中央電極体であり、
    前記予備通電工程は、前記複合電極における前記外側電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電し、
    前記本通電工程は、前記複合電極における前記中央電極体の先端面のみを前記板組の表面に接触させた状態で通電する、
    請求項1に記載の抵抗スポット溶接方法。
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