以下、図面を参照して、磁性体の設置方法及び演算装置の各実施形態を説明する。なお、実施形態は、以下の内容に限られるものではない。また、1つの実施形態や変形例に記載された内容は、原則として他の実施形態や変形例にも同様に適用される。
(実施形態の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る検査室2の周辺の構成例を示す図である。図1において、病院等の施設1内の検査室2には、磁気共鳴イメージング装置3が設置される。検査室2内には、磁気共鳴イメージング装置3の環境磁場を調整するための1又は複数の磁性体4が配置される。磁性体4には、検査室2の構造上から予め設置されている建物の鉄骨や磁気シールド等によるものと、環境磁場を調整するために新たに追加されるものとが含まれる。
環境磁場とは、磁気共鳴イメージング装置3の周囲の磁場である。本実施形態において、磁気共鳴イメージング装置3の撮像空間(例えば、直径数十cm程度の球)内の静磁場を均一化するためにパッシブシミングが行われる前の磁場分布が所定のパターンになるような状態に、環境磁場は磁性体4によって調整が行われる。環境磁場が所定のパターンになるように調整された後、通常の手法によりパッシブシミングが行われると、撮像空間内の静磁場が均一化される過程で、環境磁場による影響を打ち消すようにシム部材が配置され、シム部材に作用する電磁力により、磁気共鳴イメージング装置3の傾斜磁場コイルユニットに所定の方向の力を及ぼすことができる。
傾斜磁場コイルユニットに鉛直上向きの力を発生させる場合、傾斜磁場コイルユニットの支持構造に与える荷重を減らすことができる。また、傾斜磁場コイルユニットに鉛直下向きの力を発生させる場合、傾斜磁場コイルユニットの支持構造に与える荷重を増やすことができる。鉛直上向きの荷重と鉛直下向きの荷重を適宜に調整することで、騒音の周波数に共鳴しにくい荷重に制御しやすくなり、騒音を低減することができる。鉛直上向きの力を発生させる場合、傾斜磁場コイルユニットの下に敷かれる防振ゴムの押し潰しが軽減され、傾斜磁場コイルユニット内のシム部材の相対的な位置の変動による磁場の均一性の経時劣化が軽減される。
演算装置5は、環境磁場の調整のための演算や、パッシブシミングのための演算を行うためのコンピューター装置である。磁場測定装置6は、パッシブシミングを行う際に、磁気共鳴イメージング装置3の撮像空間内の静磁場を測定するための測定装置である。演算装置5や磁場測定装置6は、環境磁場の調整やパッシブシミングが行われる場合に使用され、通常の検査時には必要とされない。なお、演算装置5の機能を磁気共鳴イメージング装置3内のコンピューターが代替することで、演算装置5を不要とすることもできる。
図2は、磁気共鳴イメージング装置3の構成例を示す図である。図2において、磁気共鳴イメージング装置3は、磁石架台301と、寝台311とを備えている。なお、本実施形態では、寝台311の天板312の長手方向をZ軸方向、Z軸方向に直交し床面に対し水平である軸方向をX軸方向、Z軸方向に直交し床面に対し垂直である軸方向をY軸方向とする。磁石架台301は、静磁場磁石302と、傾斜磁場コイルユニット308と、RFコイル309とを備えている。なお、磁石架台301の内部構成については、縦断面図にて示されている。
傾斜磁場コイルユニット308には、メインコイル303と、シールドコイル304と、シムトレイ306と、シム部材307とが含まれている。また、磁気共鳴イメージング装置3は、傾斜磁場電源322と、送信回路323と、受信回路324と、寝台制御回路325と、シーケンス制御回路326と、コンピューター331とを備えている。なお、磁気共鳴イメージング装置3に、被検体P(例えば、人体)は含まれない。また、図2に示す構成は一例に過ぎない。例えば、シーケンス制御回路326及びコンピューター331内の各部は、適宜統合若しくは分離して構成されてもよい。
静磁場磁石302は、概略円筒形状をなしており、被検体Pの撮像領域を含むボア(静磁場磁石302の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石302は超伝導磁石でもよいし、永久磁石でもよい。
傾斜磁場コイルユニット308も概略円筒形状をなし、静磁場磁石302の内側に防振ゴム等の支持構造により保持されている。傾斜磁場コイルユニット308は、傾斜磁場電源322から供給される電流により互いに直交するX軸,Y軸及びZ軸の方向に傾斜磁場を印加するメインコイル303と、メインコイル303の漏洩磁場をキャンセルするシールドコイル304とを有している。メインコイル303とシールドコイル304との間にはシムトレイ306が挿入される。シムトレイ306には、ボア内の磁場不均一を補正するためのシム部材(鉄シム、金属シム等とも呼ばれる)307が収納される。
図3は、傾斜磁場コイルユニット308の構成例を示す図である。図3において、傾斜磁場コイルユニット308のメインコイル303とシールドコイル304の間には、周方向に略均等な間隔で複数のスロット305が設けられている。なお、スロット305の数は図示のものに限られない。
スロット305は、傾斜磁場コイルユニット308の両端面に開口を形成し、傾斜磁場コイルユニット308の長手方向(長軸方向)の全長にわたって形成された貫通穴である。各スロット305には、それぞれシムトレイ306が挿入され、各シムトレイ306は、傾斜磁場コイルユニット308の概ね中央部に固定される。シムトレイ306は、非磁性かつ非電導性の材料である樹脂にて形成され、概略棒状を成す。
図4は、シムトレイ306の構成例を示す図である。図4において、シムトレイ306の長手方向には、連続して形成された複数のポケット306aが形成されている。ポケット306aの数は図示のものに限られない。各ポケット306aには、ボア内の中間部の撮像空間内の静磁場を均一化する目的で、必要な箇所に必要な枚数のシム部材307が収納される。シム部材307は、名刺サイズ程度の薄い金属板である。
図2に戻り、寝台311は、被検体Pが載置される天板312を備え、寝台制御回路325による制御の下、天板312を、被検体Pが載置された状態で、傾斜磁場コイルユニット308の空洞(撮像口)内へ挿入する。通常、寝台311は、長手方向が静磁場磁石302の中心軸と平行になるように設置される。寝台制御回路325は、コンピューター331による制御の下、寝台311を駆動して天板312を長手方向及び上下方向へ移動する。
RFコイル309は、傾斜磁場コイルユニット308の内側に配置され、送信回路323からRFパルス(対象とする原子の種類及び磁場強度で定まるラーモア(Larmor)周波数に対応するRFパルス)の供給を受けて高周波磁場を発生するとともに、高周波磁場の影響によって被検体Pから発せられる磁気共鳴信号を受信し、受信した磁気共鳴信号を受信回路324へ出力する。なお、RFコイル309は、送信コイルと受信コイルとに分かれて構成されるものでもよい。
受信回路324は、RFコイル309から出力される磁気共鳴信号を検出し、検出された磁気共鳴信号に基づいて磁気共鳴データを生成する。具体的には、受信回路324は、RFコイル309で受信された磁気共鳴信号をデジタル変換することによって磁気共鳴データを生成する。また、受信回路324は、生成された磁気共鳴データをシーケンス制御回路326へ送信する。なお、受信回路324は、磁石架台301側に備えられてもよい。
シーケンス制御回路326は、コンピューター331から送信されるシーケンス情報に基づいて、傾斜磁場電源322、送信回路323及び受信回路324を駆動することによって、被検体Pの撮像を行う。ここで、シーケンス情報は、撮像を行うための手順を定義した情報である。シーケンス情報には、傾斜磁場電源322がメインコイル303に供給する電流の強さや電流を供給するタイミング、送信回路323がRFコイル309に供給するRFパルスの強さやRFパルスを印加するタイミング、受信回路324が磁気共鳴信号を検出するタイミング等が定義される。例えば、シーケンス制御回路326は、プロセッサにより実現される。
さらに、シーケンス制御回路326は、傾斜磁場電源322、送信回路323及び受信回路324を駆動して被検体Pを撮像した結果、受信回路324から磁気共鳴データを受信すると、受信した磁気共鳴データをコンピューター331へ転送する。
コンピューター331は、磁気共鳴イメージング装置3の全体制御や、画像の生成等を行う。コンピューター331は、メモリ332、入力装置333、ディスプレイ334及び処理回路335を備える。処理回路335は、インタフェース機能336、制御機能337、画像生成機能338、環境磁場演算機能339及びパッシブシミング演算機能340を備える。
上記のインタフェース機能336、制御機能337、画像生成機能338、環境磁場演算機能339及びパッシブシミング演算機能340にて行われる各処理機能は、コンピューター331において実行可能なプログラムの形態でメモリ332へ記憶されている。処理回路335はプログラムをメモリ332から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路335は、図2の処理回路335内に示された各機能を有することになる。なお、図2においては単一の処理回路335にて、インタフェース機能336、制御機能337、画像生成機能338、環境磁場演算機能339及びパッシブシミング演算機能340にて行われる処理機能が実現されるものとして説明するが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路335を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路335が各プログラムを実行する場合であってもよい。別の例として、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。
上記説明において用いられた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、あるいは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、又はフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサはメモリ332に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、メモリ332にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。
また、送信回路323、受信回路324及び寝台制御回路325等も同様に、上記のプロセッサ等の電子回路により構成される。
処理回路335は、インタフェース機能336により、シーケンス情報をシーケンス制御回路326へ送信し、シーケンス制御回路326から磁気共鳴データを受信する。また、磁気共鳴データを受信すると、インタフェース機能336を有する処理回路335は、受信した磁気共鳴データをメモリ332に格納する。メモリ332に格納された磁気共鳴データは、制御機能337によってk空間に配置される。この結果、メモリ332は、k空間データを記憶する。
メモリ332は、インタフェース機能336を有する処理回路335によって受信された磁気共鳴データや、制御機能337を有する処理回路335によってk空間に配置されたk空間データや、画像生成機能338を有する処理回路335によって生成された画像データ等を記憶する。例えば、メモリ332は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等である。
入力装置333は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。入力装置333は、例えば、マウスやトラックボール等のポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスである。入力装置333は、入力を受け付けるインタフェースである。ディスプレイ334は、制御機能337を有する処理回路335による制御の下、撮像条件の入力を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)や、画像生成機能338を有する処理回路335によって生成された画像等を表示する。ディスプレイ334は、例えば、液晶表示器等の表示デバイスである。
処理回路335は、制御機能337により、磁気共鳴イメージング装置3の全体制御を行い、撮像や画像の生成、画像の表示等を制御する。例えば、制御機能337を有する処理回路335は、撮像条件(撮像パラメータ等)の入力をGUI上で受け付け、受け付けた撮像条件に従ってシーケンス情報を生成する。また、制御機能337を有する処理回路335は、生成したシーケンス情報をシーケンス制御回路326へ送信する。処理回路335は、画像生成機能338により、k空間データをメモリ332から読み出し、読み出したk空間データにフーリエ変換等の再構成処理を施すことで、画像を生成する。
処理回路335は、環境磁場演算機能339により、傾斜磁場コイルユニット308の荷重の制御のために、環境磁場の調整のための演算を行う。環境磁場演算機能339は、電磁界解析ソフトとして一般に提供されている電磁界解析の機能と、パッシブシミングのためのシミングソフトとして一般に提供されている機能とを含んでいる。環境磁場演算機能339は入力部及び出力部の一例である。なお、環境磁場の調整のための演算が演算装置5において行われる場合、環境磁場演算機能339は省略可能であるため、破線で示されている。
処理回路335は、パッシブシミング演算機能340により、パッシブシミングの実施に際し、磁場測定装置6(図1)による撮像空間内の静磁場の測定結果に基づいて、シム部材307の位置(円周方向位置、Z軸方向位置)と数を演算する。パッシブシミング演算機能340は、パッシブシミングのためのシミングソフトとして一般に提供されている機能を含んでいる。なお、パッシブシミングの演算が演算装置5において行われる場合、パッシブシミング演算機能340は省略可能であるため、破線で示されている。
図5は、演算装置5の構成例を示す図である。図5において、演算装置5は、メモリ51、入力装置52、ディスプレイ53及び処理回路54を備える。処理回路54は、環境磁場演算機能55及びパッシブシミング演算機能56を備える。
上記の環境磁場演算機能55及びパッシブシミング演算機能56にて行われる各処理機能は、演算装置5において実行可能なプログラムの形態でメモリ51へ記憶されている。処理回路54はプログラムをメモリ51から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路54は、図5の処理回路54内に示された各機能を有することになる。なお、図5においては単一の処理回路54にて、環境磁場演算機能55及びパッシブシミング演算機能56にて行われる処理機能が実現されるものとして説明するが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路54を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路54が各プログラムを実行する場合であってもよい。別の例として、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。プロセッサの意味するところは、前述したとおりである。メモリ51は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等である。
また、メモリ51にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。
入力装置52は、操作者からの各種指示や情報入力を受け付ける。入力装置52は、例えば、マウスやトラックボール等のポインティングデバイス、モード切替スイッチ等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスである。入力装置52は、入力を受け付けるインタフェースである。ディスプレイ53は、環境磁場の調整のための演算結果や、パッシブシミングにおけるシム部材の位置や数の演算結果をGUI(Graphical User Interface)等により表示する。ディスプレイ53は、例えば、液晶表示器等の表示デバイスである。
処理回路54は、環境磁場演算機能55により、磁気共鳴イメージング装置3の傾斜磁場コイルユニット308の荷重の制御のために、環境磁場の調整のための演算を行う。環境磁場演算機能55は、電磁界解析ソフトとして一般に提供されている電磁界解析の機能と、パッシブシミングのためのシミングソフトとして一般に提供されている機能とを含んでいる。環境磁場演算機能55は入力部及び出力部の一例である。なお、環境磁場の調整のための演算が磁気共鳴イメージング装置3において行われる場合、環境磁場演算機能55は省略可能である。
処理回路54は、パッシブシミング演算機能56により、パッシブシミングの実施に際し、磁場測定装置6(図1)による撮像空間内の静磁場の測定結果に基づいて、シム部材307の位置(円周方向位置、Z軸方向位置)と数を演算する。パッシブシミング演算機能56は、パッシブシミングのためのシミングソフトとして一般に提供されている機能を含んでいる。なお、パッシブシミングの演算が磁気共鳴イメージング装置3において行われる場合、パッシブシミング演算機能56は省略可能である。
(実施形態の動作)
図6は、演算装置5の環境磁場演算機能55又は磁気共鳴イメージング装置3の環境磁場演算機能339による環境磁場の調整のための演算の処理例を示すフローチャートである。なお、以下では、演算装置5の環境磁場演算機能55による動作として説明するが、磁気共鳴イメージング装置3の環境磁場演算機能339による動作にも、環境磁場演算機能55を環境磁場演算機能339に読み替えることで適用することができる。
図6において、環境磁場演算機能55は、検査室設計データを取得する(ステップS11)。検査室設計データは、検査室2(図1)の建築時及びその後の改修時等における鉄骨や磁気シールド等の磁性体の配置の詳細を示すデータである。図7は、検査室設計データの例を示す図であり、磁性体が配置される位置(x,y,z)又は位置範囲と、磁性体の種類と、磁性体の質量とが含まれている。
図6に戻り、次いで、環境磁場演算機能55は、静磁場特性データを取得する(ステップS12)。静磁場特性データは、磁気共鳴イメージング装置3の静磁場磁石302(図2)の製造元により提供される、納品された製品の静磁場の特性を示すデータである。静磁場磁石302を構成する超伝導コイル等は、同じ規格に基づいて製造されたものであっても誤差が含まれており、磁場に不均一さが生じている。図8は、静磁場特性データの例を示す図であり、位置(x,y,z又はr,θ,φ)と、磁束密度又は磁束密度の偏差とが含まれている。図9は、座標系の例を示す図であり、直行座標系X,Y,Zと球座標系r,θ,φとの対応関係を示している。
図6に戻り、次いで、環境磁場演算機能55は、シム部材307を介して傾斜磁場コイルユニット308への電磁力の作用する方向と、力の大きさの概略値の指定を操作者から入力する(ステップS13)。電磁力の作用する方向が鉛直上向きである場合、傾斜磁場コイルユニット308が支持構造に与える荷重が減少する。電磁力の作用する方向が鉛直下向きである場合、傾斜磁場コイルユニット308が支持構造に与える荷重が増大する。
次いで、環境磁場演算機能55は、パッシブシミング前の撮像空間内が目標とする磁場勾配となるような、環境磁場を作成するための磁性体の配置例を作成する(ステップS14)。磁性体の配置例は、複数でもよいし、最適な一つに絞られたものでもよい。目標とする磁場勾配としては、例えば、鉛直上向きの電磁力を作用させる場合、図10に示されるようなものとなる。図10は、撮像空間内の磁場分布の例を示す図であり、中心が原点で、横軸をZ軸として左側がプラス、縦軸をY軸として上側がプラスとしている。図10では、左上の領域R1がZ軸方向の静磁場の磁場が相対的に弱く、右下の領域R2のZ軸方向の静磁場の磁場が相対的に強くなっている。図11Aは、磁場勾配の向きの例を示す図であり、図10の磁場が弱い領域R1から磁場が強い領域R2へ向けた矢印により磁場勾配の向きのパターンを示している。なお、図10及び図11Aにおいて、右下に矢印が向くパターンとしているのは、右側に磁気シールド等の磁性体が存在することを想定している。すなわち、右側に磁気シールド等の磁性体が存在すると(一般に寝台の反対側の壁に磁気シールドが設けられる)、磁性体に磁力線が引き寄せられ、右側の磁場が強まるため、そのような環境をできるだけ利用し、追加の磁性体を減らすためである。
鉛直上向きの電磁力を作用させるという観点では、図11Bのように左下に矢印が向くパターン(左側に磁気シールド等の磁性体が存在する場合に対応)や、図11Cのように真下に矢印が向くパターンでもよい。図11B及び図11Cは、磁場勾配の向きの例を示す図である。反対に、鉛直下向きの電磁力を作用させる場合、目標とする磁場勾配のパターンは、図12A〜図12Cのようになる。図12A〜図12Cは、磁場勾配の向きの例を示す図である。なお、目標とする磁場勾配のパターンは、鉛直上向きの電磁力を作用させる場合は図11A〜図11Cのいずれか、鉛直下向きの電磁力を作用させる場合は図12A〜図12Cのいずれかであればよいとするが、操作者にパターンを指定させるようにしてもよい。
また、目標とする磁場勾配は、球面調和関数を用いて表される撮像空間内の磁場強度(磁束密度)の各次数の成分(ハーモニクス)により指定されるようにしてもよい。図13は、ハーモニクスの例を示す図であり、横軸はZ軸で左がプラス側、縦軸は正規化された磁場強度を示している。Z軸方向(第1の軸方向)の位置に対して直線的に変化する1次成分a(1,0)は、図10及び図11Aのパターンに対しては、Zのプラスに対してマイナスの値となるように指定される。これにより、相対的に左側(Zのプラス側)の磁場が弱く、右側(Zのマイナス側)の磁場が強くなり、パッシブシミングによりシムトレイ端部のシム部材を増大させる効果がある。また、図示は省略するが、Y軸方向(第2の軸方向)に対して直線的に変化する1次成分b(1,1)は、図10及び図11Aのパターンに対しては、Yのプラスに対してマイナスの値となるように指定される。これにより、相対的に上側(Yのプラス側)の磁場が弱く、下側(Yのマイナス側)の磁場が強くなり、パッシブシミングにより比較的上側にあるシムトレイのシム部材を増加させる効果がある。
更に、図13に示されるように、Z軸方向の位置の2乗に応じて変化する2次成分a(2,0)は、図10及び図11Aのパターンに対しては、Zのプラス及びマイナスにおいてプラスの値となるように指定され、パッシブシミングによりシムトレイ両端のシム部材を増大させる効果がある。また、図示は省略するが、X軸方向に対して直線的に変化する1次成分a(1,1)は、X軸方向のシム部材に影響し、適宜に調整される。なお、ハーモニクスの値のプラス/マイナスは、図10及び図11Aのパターンについて説明したが、力の方向が逆となる図12Aの場合はプラス/マイナスが逆になる。また、他のパターンについても、適宜に値の方向は異なってくる。
図14は、磁性体の配置例の作成(図6のステップS14)の処理例を示すフローチャートである。図14において、環境磁場演算機能55は、検査室設計データと静磁場特性データとから電磁界解析により撮像空間内の磁場分布を推定する(ステップS141)。
次いで、環境磁場演算機能55は、推定された磁場分布をパッシブシミングで均一化した場合を想定(シム部材307の位置及び数を推定)し、シム部材307に作用するトータルの電磁力を推定する(ステップS142)。図15A及び図15Bは、磁場分布の例を示す図である。図15Aはシム部材が存在しない場合の静磁場磁石302及び傾斜磁場コイルユニット308の内部の磁力線の例を示し、円は撮像空間を示しており、領域R1の磁場が相対的に弱く、領域R2の磁場が相対的に強い場合を示している。この場合、図15Bに示されるように、磁場が弱かった領域に近い位置にシム部材307−1が仮想的に配置されることで、磁力線を上側に引き寄せ(引き寄せられた磁力線を破線で表示)、磁場を均一化しようとする。なお、図15Bの撮像空間の真下にも磁場も弱い部分があるため、その近くにシム部材307−2が仮想的に配置される。仮想的に配置されたシム部材307−1、307−2は、主として静磁場磁石302を構成する超伝導コイルの強い磁場により、電磁力を受ける。例えば、上側に配置されたシム部材307−1には、主として上方向に吸引される電磁力が作用し、上側に配置されるシム部材が多い場合、シム部材と一体になっている傾斜磁場コイルユニット308に鉛直上向きの力がトータルとして作用することになる。
図14に戻り、次いで、環境磁場演算機能55は、磁場分布が所望のパターンで、電磁力が充分であるか否か判断する(ステップS143)。すなわち、環境磁場演算機能55は、電磁界解析により得られた撮像空間内の磁場分布が、指定された電磁力の作用する方向が鉛直上向きである場合には図11A〜図11Cのいずれか(パターンが指定されている場合には指定されたパターン)、電磁力の作用する方向が鉛直下向きである場合には図12A〜図12Cのいずれか(パターンが指定されている場合には指定されたパターン)であって、シム部材に作用するトータルの電磁力が指定された概略値を満たすか否か判断する。
判断条件が満たされない場合(ステップS143のNo)、環境磁場演算機能55は、磁性体の仮想的な配置を行う(ステップS144)。すなわち、環境磁場演算機能55は、現時点の撮像空間内の磁場分布を、目標とする磁場分布に近づけるよう、磁性体の位置、種類、質量等を仮想的に追加・変更する。磁性体が配置されると、磁力線が磁性体側に引き寄せられ、磁力線が引き寄せられた部分の磁場を強める作用があるため、そのような作用を見込んで磁性体の仮想的な配置が行われる。
次いで、環境磁場演算機能55は、電磁界解析により磁性体が追加された後の撮像空間内の磁場分布を推定する(ステップS145)。
次いで、環境磁場演算機能55は、推定された磁場分布をパッシブシミングで均一化した場合を想定(シム部材307の位置及び数を推定)し、シム部材307に作用するトータルの電磁力を推定する(ステップS146)。そして、再び、環境磁場演算機能55は、磁場分布が所望のパターンで、電磁力が充分であるか否か判断する(ステップS143)。判断条件が満たされない場合(ステップS143のNo)、ステップS144〜S146が繰り返される。
そして、判断条件が満たされた場合(ステップS143のYes)、磁性体の配置例の作成を終了し、その時点の磁性体の配置が、作成された配置例となる。図16は、磁性体の配置の例を示す図であり、検査室2の床裏に磁性体4−1、4−2が設けられ、天井裏に磁性体4−3、4−4が設けられ、右の内壁の裏に磁性体4−5が設けられ、磁気共鳴イメージング装置3の磁石端部に磁性体4−6、4−7が設けられる場合を示している。なお、磁気共鳴イメージング装置3の磁石端部に設けられる磁性体4−6、4−7は、磁気共鳴イメージング装置3の開口部を塞がないようなドーナツ形状等となっている。また、磁性体は、静磁場磁石を支持する脚部の下に、床面と挟み込むようにして設けられてもよい。
なお、図16において、磁性体4−1は主として成分b(1,1)の調整用、磁性体4−2は主として成分a(1,0)及び成分b(1,1)の調整用、磁性体4−3、4−4は主として成分b(1,1)の調整用、磁性体4−5は主として成分a(1,0)の調整用、磁性体4−6、4−7は主として成分a(2,0)の調整用である。なお、図示の磁性体の全てが常に設けられるという趣旨ではなく、磁気共鳴イメージング装置3の静磁場磁石の特性に応じて適宜に省略又は追加が行われる。
図6に戻り、環境磁場演算機能55は、磁性体の配置例を操作者に提示する(ステップS15)。例えば、環境磁場演算機能55は、磁性体の種類及び質量(サイズ)と配置する場所(位置)とを提示する。操作者は、提示された磁性体の配置例に従って、実際に検査室2内に磁性体を配置する。
図6及び図14で説明したフローチャートにおける処理の順序は、結果に本質的な影響を与えない範囲で変えてもよい。
図6に示されたステップS11〜S15は、環境磁場演算機能55(又は環境磁場演算機能339)に対応するステップである。ステップS11〜S15は、処理回路54(又は処理回路335)がメモリ51(又はメモリ332)から環境磁場演算機能55(又は環境磁場演算機能339)に対応するプログラムを読み出し実行することにより、環境磁場演算機能55(又は環境磁場演算機能339)が実現されるステップである。
図14に示されたステップS141〜S146は、環境磁場演算機能55(又は環境磁場演算機能339)に対応するステップである。ステップS141〜S146は、処理回路54(又は処理回路335)がメモリ51(又はメモリ332)から環境磁場演算機能55(又は環境磁場演算機能339)に対応するプログラムを読み出し実行することにより、環境磁場演算機能55(又は環境磁場演算機能339)が実現されるステップである。
次に、図17は、パッシブシミングのための演算の処理例を示すフローチャートである。なお、演算装置5のパッシブシミング演算機能56による動作として説明するが、磁気共鳴イメージング装置3のパッシブシミング演算機能340による動作にも、パッシブシミング演算機能56をパッシブシミング演算機能340に読み替えることで適用することができる。
図17において、パッシブシミング演算機能56は、撮像空間内の静磁場の測定データを取得する(ステップS21)。撮像空間内の静磁場の測定データは、予め磁場測定装置6により取得されているものとする。
次いで、パッシブシミング演算機能56は、測定された撮像空間内の静磁場の値に基づき、撮像空間内の静磁場を均一化するために必要なシム部材307の位置及び枚数を算出する(ステップS22)。
次いで、パッシブシミング演算機能56は、算出されたシム部材307の位置及び枚数を提示する(ステップS23)。操作者は、提示されたシム部材307の位置及び枚数に従って、実際にシムトレイ306のシム部材307の枚数を調整する。
図17で説明したフローチャートにおける処理の順序は、結果に本質的な影響を与えない範囲で変えてもよい。また、結果に本質的な影響を与えない範囲で、並行して処理を行ってもよい。
図17に示されたステップS21〜S23は、パッシブシミング演算機能56(又はパッシブシミング演算機能340)に対応するステップである。ステップS21〜S23は、処理回路54(又は処理回路335)がメモリ51(又はメモリ332)からパッシブシミング演算機能56(又はパッシブシミング演算機能340)に対応するプログラムを読み出し実行することにより、パッシブシミング演算機能56(又はパッシブシミング演算機能340)が実現されるステップである。
以上説明された実施形態によれば、傾斜磁場コイルユニットが支持構造に及ぼす荷重を制御することができる。
例えば、傾斜磁場コイルユニットが支持構造に及ぼす荷重が適切な値に制御されることで、強調される騒音の周波数帯が変化し、騒音の低下が期待できる。複数種類のシーケンスに対し、導体部分に銅が用いられている場合と、軽いアルミニウムが用いられている場合とで、多くのシーケンスにおいて、軽いアルミニウムの場合に騒音の低下が認められる。その点、実施形態によれば、傾斜磁場コイルの導体部分を例えば銅からアルミニウムに代替して軽量化するといったことを行わずとも、傾斜磁場コイルユニットに鉛直上向きの電磁力を作用させることで、軽量化に相当する効果を得ることができる。例えば100kgF〜500kgF分の軽量化の効果が期待される。なお、傾斜磁場コイルユニットが支持構造に及ぼす荷重を減少させる場合だけでなく、荷重を増大させることにより騒音の低下が期待される場合には、荷重を増大させることもできる。
また、傾斜磁場コイルユニットが支持構造に及ぼす荷重が軽減されることで、傾斜磁場コイルユニットの下に敷かれる防振ゴムが押し潰されるのが緩和され、傾斜磁場コイルユニット内のシム部材の相対的な位置の変動(沈み込み)による静磁場の均一性の経時劣化が緩和される。
また、傾斜磁場コイルユニットが支持構造に及ぼす荷重が制御可能になることで、支持構造の選択肢が豊富になり、設計が容易になる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。