以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1の概略構成を示すための、軸線x沿う断面における断面図である。本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1は、互いに相対回転する、貫通孔とこの貫通孔に相通された軸との間の隙間を密封するために用いられる。密封装置1は、例えば、車両や汎用機械等において旋回時における左右の駆動輪の回転速度の差を吸収するためのディファレンシャル機構を備える装置に用いられる。ディファレンシャル機構を備える装置としては、例えば、トランスアクスルやディファレンシャル装置がある。本実施の形態においては、密封装置1はトランスアクスルに用いられるものとする。具体的には、密封装置1は、後述するように、トランスアクスルにおいて、ハウジングに形成された貫通孔と、この貫通孔に回動自在に挿通されたディファレンシャル機構の出力軸としての車軸との間の密封を図るために用いられる。密封装置1の適用対象はこの具体例に限られず、種々の機械において回転する部材の密封装置として適用することができる。
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(図1参照)方向を外側とし、軸線x方向において矢印b(図1参照)方向を内側とする。外側とは適用対象の外部に面する側であり、内側とは適用対象の内部に面する側である。より具体的には、外側とは、ディファレンシャル機構を備えるトランスアクスルにおいてハウジングの外部に面する側であり、大気側であり、内側とは、トランスアクスルにおいてハウジングの内部に面する側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1の矢印d方向)を内周側とする。
密封装置1は、軸線x周りに環状の補強環10と、補強環10に取り付けられている軸線x周りに環状の弾性体から形成された弾性体部20とを備えている。弾性体部20は、後述する適用対象の軸にこの軸が摺動可能に当接する環状のシールリップ21と、シールリップ21よりも外側(矢印a方向側)に設けられており外側に向かって延びる環状のサイドリップ22とを有している。サイドリップ22の内周側の面である内周面22aには、軸線x周りに環状の溝である周方向溝30が少なくとも1つ設けられている。周方向溝30には、周方向溝30の底面31から突出した部分である堰部40が少なくとも1つ設けられている。堰部40は、周方向溝30を部分的に塞いでいる。以下、密封装置1の構造を具体的に説明する。
補強環10は、図1に示すように、軸線xを中心又は略中心とする環状の金属製の部材であり、軸線xに沿う断面(以下、単に「断面」ともいう。)の形状がL字状又は略L字状の形状を呈している。補強環10は、例えば、軸線x方向に延びる円筒状又は略円筒状の部分である円筒部11と、円筒部11の外側の端部から内周側に向かって延びる中空円盤状の部分である円盤部12とを有している。円筒部11は、後述するように、トランスアクスルのハウジングに形成された貫通孔の内周面に密封装置1が嵌合可能となるように形成されており、直接貫通孔の内周面に接触して嵌合可能となっていてもよく、また、弾性体部20の部分を介して貫通孔の内周面に接触して嵌合可能となっていてもよい。
弾性体部20は、図1に示すように、補強環10に取り付けられており、本実施の形態においては補強環10全体を覆うように補強環10と一体的に形成されている。弾性体部20は、上述のように、シールリップ21と、サイドリップ22とを有しており、また、シールリップ21よりも外側(矢印a方向側)に設けられており軸線xに向かって延びる環状のダストリップ23を有している。また、弾性体部20は、環状のリップ腰部24を有している。シールリップ21は、後述するように、ディファレンシャル機構の車軸にこの車軸が摺動可能に当接するように形成されており、サイドリップ22は、後述するように、車軸に固定された環状のデフレクタにこのデフレクタが摺動可能に当接するように形成されており、ダストリップ23よりも外周側において外側に向かって延びている。ダストリップ23は、シールリップ21よりも外側に設けられており車軸に該車軸が摺動可能に当接するように形成されている。リップ腰部24は、弾性体部20において、補強環10の円盤部12の内周側の端部近傍に位置する部分である。
シールリップ21は、具体的には、図1に示すように、リップ腰部24から内側に向かって延びる部分であり、軸線xを中心又は略中心とする環状の部分であり、補強環10の円筒部11に対向して形成されている。シールリップ21は、内側の端部に、断面形状が内周側に向かって凸の楔形状の環状のリップ先端部25を有している。また、シールリップ21の外周側には、リップ先端部25に背向する位置に、ガータスプリング26が嵌着されている。ガータスプリング26は、リップ先端部25を軸線xに向かう方向に押して、リップ先端部25が車軸の変位に対して追随するようにリップ先端部25に車軸に対する所定の大きさの緊迫力を与える。リップ先端部25は、後述するように車軸の外周面に当接して、密封装置1と車軸との間の密封を図る。また、図1に示すように、リップ先端部25の外側の円錐面状のテーパ面25aには、リップ先端部25の先端に対して斜めに延びる内周側に突き出した突起であるネジ突起25bが複数、周方向に等角度間隔で形成されている。ネジ突起25bは、車軸が摺動する際に、外側から内側に向かう気流を発生させ、内側からの潤滑油の漏洩の防止を図る。弾性体部20には、ネジ突起25bが設けられていなくてもよい。
ダストリップ23は、リップ腰部24から外側に軸線xに向かって延びており、具体的には、図1に示すように、リップ腰部24から外側且つ内周側の方向に延出している。ダストリップ23により、外側からリップ先端部25方向への、泥水や砂、ダスト等の異物の侵入の防止が図られている。また、ダストリップ23には、使用状態において、ダストリップ23とシールリップ21と間の空間に負圧が発生しないように、ダストリップ23と車軸との当接を部分的に解除して隙間を形成し、負圧の発生の抑制又は負圧を解消するための内周方向に突き出た突起23aが複数周方向に等角度間隔で形成されている。ダストリップ23は、車軸に当接せずに近接するようになっていてもよく、また、突起23aを有していなくてもよい。
また、弾性体部20は、ガスケット部27と、後方カバー部28と、ライニング部29とを有している。ガスケット部27は、弾性体部20において、補強環10の円筒部11を外周側から覆っている部分であり、後述するように、トランスアクスルにおいて車軸が挿通される貫通孔に密封装置1が圧入された際に、この貫通孔と補強環10の円筒部11との間において径方向に圧縮されて、径方向に向かう力である嵌合力が所定の大きさ発生するように、径方向の厚さが設定されている。後方カバー部28は、補強環10の円盤部12を外側から覆っている部分であり、ライニング部29は、補強環10を内側及び内周側から覆っている部分である。
サイドリップ22は、図1に示すように、リップ腰部24から外側に向かって延びており、外側の端部が内側の端部よりも広がっている。サイドリップ22は、例えば、軸線x方向において内側から外側に向かうに連れて拡径しており、円錐筒状、略円錐筒状、又はトランペット状等の形状を呈している。また、サイドリップ22の内周面22aには、上述のように、軸線x周りに環状である周方向溝30が少なくとも1つ形成されている。具体的には、図1に示すように、サイドリップ22の内周面22aには、内周面22aから凹んでいる複数の周方向溝30が形成されている。周方向溝30の数は、図示の数に限定されるものではない。図示のこれらの数は一例である。
図2は、周方向溝30の断面図であり、具体的には、周方向溝30の延び方向に直交する断面における周方向溝30の形状を示している。図2に示すように、周方向溝30は、サイドリップ22の内周面22aから凹んでいる部分であり、底面31と一対の対向する側面32とを有している。底面31は、周方向溝30の底部を形成する面であり、周方向溝30の外周側の境界を画定しており、側面32の外周側の端の間に広がっている。側面32は、周方向溝30の側部を形成する面であり、周方向溝30の外側及び内側の境界を夫々画定しており、底面31の端とサイドリップ22の内周面22aとの間に夫々広がっている。底面31は、例えば図2に示すように、平らな面であり、側面32は、例えば図2に示すように、底面31に直交又は略直交する平らな面である。底面31は、曲面であってもよく、また、側面32は、底面31に対して傾斜する面であってもよく、また、曲面であってもよい。また、底面31と側面32とは、滑らかに接続していることが好ましく、底面31と側面32との接続部分は、例えば曲面となっている。
図3は、周方向溝30が形成されている部分のサイドリップ22の内周面22aを拡大して示す図であり、内周面22aを径方向に向かって見た図である。図1,3に示すように、周方向溝30は、具体的には、軸線xを中心又は略中心とする円状又は略円状に延びており、周方向溝30は互いに同心円又は略同心円になっている。また、周方向溝30は、内周面22aにおいて軸線x方向に等間隔又は略等間隔に並んでいる。
図3に示すように、堰部40は、周方向溝30を部分的に塞いでおり、周方向溝30の側面32間に延びており、例えば、堰部40の突出方向(径方向)に交差する断面における形状が矩形である。また、周方向溝30の延び方向において見た堰部40を示す周方向溝30の断面図(線A−A)である図4、及び周方向溝30の延び方向に沿う断面における堰部40及び周方向溝30の断面図(線B−B)である図5に示すように、堰部40は、上面41と、一対の側面である正転側側面42及反転側側面43とを有している。堰部40の上面41は、堰部40の内周側の境界を画成する面であり、周方向溝30の内周面22aと面一の面である。上面41は、例えば、周方向溝30の内周面22aの一部である。堰部40の正転側側面42は、後述する適用対象の車軸の回転方向(図3,5の矢印r方向)において手前側の境界を画成する面であり、車軸の回転方向rにおける手前側において周方向溝30内に面する面である。また、堰部40の反転側側面43は、車軸の回転方向rにおいて奥側の境界を画成する面であり、軸の回転方向rにおける奥側において周方向溝30内に面する面である。上面41、正転側側面42、及び反転側側面43は、周方向溝30の一対の側面32に夫々接続している。なお、車軸の回転方向rは、車軸が一方向にのみ回転する場合はその回転方向であり、車軸が両方向に回転(正転及び反転)する場合は、正転方向である。
具体的には、図3,5に示すように、堰部40は、軸線xに沿った方向に対して傾いて外側と内側との間で延びており、堰部40の突出方向に交差する断面における形状が平行四辺形又は略平行四辺形となっている。より具体的には、堰部40は、外側から内側に向かって、軸線xに沿った方向に対して軸の回転方向r側に傾いている。正転側側面42及び反転側側面43は、互いに平行又は略平行な面であり、平らな面であり、周方向溝30の底面31から垂直に又は略垂直に延びている。正転側側面42及び反転側側面43は、曲面であってもよい。
図示の例においては、各周方向溝30に1つの堰部40が設けられているが、各周方向溝30に複数の堰部40が設けられていてもよい。また、複数の周方向溝30に設けられた堰部40は、軸線xに沿う方向において互いに重ならないように、夫々の周方向溝30において周方向に離間して配設されている。複数の周方向溝30に設けられた2つ又はそれ以上の堰部40が、軸線xに沿う方向において互いに重なるように、夫々の周方向溝30において配設されていてもよい。複数の周方向溝30に設けられた堰部40は、周方向に等間隔又は略等間隔に並んでいる。複数の周方向溝30に設けられた堰部40は、周方向に等間隔又は略等間隔に並んでいなくてもよい。
後述するように、密封装置1の使用状態において、サイドリップ22の内周面22aは、軸線x方向に亘る所定の幅(シール幅δ)において、デフレクタに接触する。内周面22aにおいて、周方向溝30は、少なくとも部分的に、このシール幅δの範囲内に位置するようになっている。また、周方向溝30は、サイドリップ22の内周面22aにおいてシール幅δよりも内側の部分にも形成されている。周方向溝30は、シール幅δよりも内側に、サイドリップ22の付け根(リップ腰部24との接続部分)まで形成されていてもよく、サイドリップ22の途中まで形成されていてもよい。また、周方向溝30は、サイドリップ22の先端の縁である(先端縁22b)に達していない。
なお、弾性体部20は弾性材から一体に形成されており、シールリップ21、サイドリップ22、ダストリップ23、リップ腰部24、ガスケット部27、後方カバー部28、及びライニング部29は、弾性材から一体に形成された弾性体部20の各部分である。
補強環10の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。また、弾性体部20の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。補強環10は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部20は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環10は成形型の中に配置されており、弾性体部20が架橋接着により補強環10に接着され、弾性体部20が補強環10と一体的に成形される。
次いで、上述の構成を有する密封装置1の作用について説明する。図6は、適用対象の一例であるトランスアクスル50に取り付けられた状態における密封装置1を示すための図であり、トランスアクスル50の密封装置1近傍を拡大して示す軸線xに沿う部分拡大断面図である。なお、図6においては、トランスアクスル50の所望の位置に密封装置1が取り付けられた状態(以下、「初期状態」という。)が示されている。つまり、トランスアクスル50の図示しないディファレンシャル機構の出力軸としての車軸51に固定された環状のデフレクタ52の摺動面53に所望のシール幅δを持ってサイドリップ22の先端縁22b側の部分が当接するように、密封装置1がトランスアクスル50に取り付けられている。トランスアクスル50は公知のトランスアクスル(図17参照)であり、その構成の詳細な説明は省略する。なお、デフレクタ52は、車軸51とは別体の部材によって形成されていてもよく、車軸51の一部が外周側に向かって環状に突出して形成されていてもよい。また、デフレクタ52の形状は上述の円盤状の形状に限られない。例えば、デフレクタ52は、図6に示す円盤状の部分と、この円盤状の部分から軸線xに沿って延びる円筒状の部分とを有するものであってもよい。
密封装置1は、図6に示すように、トランスアクスル50のハウジング54に形成された貫通孔55に嵌着されている。貫通孔55には車軸51が回動自在に挿通されている。なお、トランスアクスル50には、左右の車輪に対応して、2つの貫通孔及び車軸が設けられているが、各車輪に対応する貫通孔及び車軸は互いに同様の構成を有しており、貫通孔55及び車軸51は、左右の車輪に対応する。
ハウジング54の貫通孔55において、車軸51の外周面51aと貫通孔55の内周面55aとの間は、密封装置1によって密封が図られている。具体的には、密封装置1は貫通孔55に嵌合されて、補強環10の円筒部11と貫通孔55の内周面55aとの間で弾性体部20のガスケット部27が圧縮されてガスケット部27が貫通孔55の内周面55aに密着し、外周側において密封装置1と貫通孔55との間の密封が図られている。また、弾性体部20のシールリップ21のリップ先端部25が、車軸51の外周面51aに車軸51が摺動可能に当接し、内周側において密封装置1と車軸51との間の密封が図られている。これにより、ハウジング54の内部に貯留された潤滑油が外部に漏れ出ることの防止が図られている。
また、ダストリップ23は、その先端縁が車軸51の外周面51aに車軸51が摺動可能に当接しており、ハウジング54の外部から異物が内部に侵入することを抑制している。ダストリップ23は、車軸51に当接していなくてもよい。サイドリップ22は、内周面22aにおける先端縁22b側のシール幅δの範囲が、デフレクタ52の摺動面53に当接しており、ハウジング54の外部から異物が内部に侵入することを抑制している。具体的には、サイドリップ22は、初期状態において、先端縁22b側の部分が部分的に湾曲して又は弾性変形して、内周面22aが、先端縁22bからシール幅δの範囲においてデフレクタ52の摺動面53に当接している。
上述したように、シール幅δの範囲には周方向溝30が形成されており、使用状態において、デフレクタ52の摺動面53と接触するサイドリップ22の内周面22aの部分には、周方向溝30が延びている。つまり、複数の周方向溝30の一部は、デフレクタ52の摺動面53と接触(対向)しており、サイドリップ22の内周面22aと接触するデフレクタ52の摺動面53との間に空間(溝)を形成している。
サイドリップ22の内周面22aには、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動抵抗を低減するための潤滑剤としてのグリースが塗布されており、グリースは、サイドリップ22の内周面22aにおいて、シール幅δの部分及びシール幅δの部分よりも内側の部分に塗布されている。より具体的には、グリースは、シール幅δの部分に加えて、シール幅δの部分よりも内側の部分において少なくとも周方向溝30が形成されている部分に塗布されている。つまり、グリースは、周方向溝30内に存在しており、保持されている。グリースの塗布範囲はこれに限られない。
車軸51が正方向に回転(正転)すると、デフレクタ52も回転し、デフレクタ52の摺動面53がサイドリップ22の内周面22a上を摺動する。このデフレクタ52の摺動面53の摺動によって、シール幅δの部分に塗布されているグリースは、デフレクタ52の回転に引きずられてデフレクタ52の回転方向(回転方向r)に移動する。これにより、周方向溝30内のグリースは、周方向溝30に沿って回転方向rに移動する。
図7は、図6に示す使用状態の密封装置1におけるサイドリップ22の内周面22aのシール幅δ部分における周方向溝30の部分拡大図であり、密封装置1の使用状態におけるグリースの動きを説明するための図である。デフレクタ52の回転によって周方向溝30内のグリースは、図7の矢印gで示すように周方向溝30に沿って回転方向rに移動していき、堰部40の正転側側面42にぶつかる。堰部40の正転側側面42にぶつかったグリースは、堰部40の正転側側面42に沿って内周側(図7において紙面上方)に押され、周方向溝30から押し出される(溢れ出る)。グリースが周方向溝30から押し出されることにより、サイドリップ22の内周面22a上に、つまり、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給される。堰部40の正転側側面42は回転方向r側に傾いているため、堰部40の正転側側面42にぶつかったグリースは、矢印gで示すように正転側側面42に沿って内側(図7において右斜め上方)に移動し、周方向溝30の側面32と堰部40の正転側側面42との接続する鋭角な隅角部(隅角部33)に押し込まれやすくなっている。このため、周方向溝30の側面32と堰部40の正転側側面42との接続する鋭角な隅角部33から、グリースが周方向溝30の外部に押し出されやすくなっている。
また、車軸51が正転方向とは反対方向(回転方向rとは反対方向)へ回転(反転)する場合は、上述のグリースの動き(矢印g)と同様に、グリースは図7の矢印g´のように動き、堰部40の反転側側面43にぶつかり、正転側側面42にぶつかるグリースと同様に周方向溝30から押し出される。この場合、堰部40の反転側側面43は反転方向側に傾いているため、堰部40の反転側側面43にぶつかったグリースは、矢印g´で示すように反転側側面43に沿って外側(図7において左斜め下方)に移動し、周方向溝30の側面32と堰部40の反転側側面43との接続する鋭角な隅角部(隅角部34)に押し込まれやすくなっている。このため、周方向溝30の側面32と堰部40の反転側側面43との接続する鋭角な隅角部34から、グリースが周方向溝30の外部に押し出されやすくなっている。
このように、密封装置1の使用状態において、デフレクタ52の回転による遠心力よりサイドリップ22とデフレクタ52との間のグリースが外周側に飛ばされてしまっても、グリースが周方向溝30からサイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部に供給される。このため、摺動部においてサイドリップ22とデフレクタ52との間にグリースが介在している状態を長く保持することができ、摺動部におけるグリースの潤滑作用を長期間持続させることができる。
また、周方向溝30からサイドリップ22の内周面22a上に押し出されたグリースは、他の周方向溝30に入り込むため、周方向溝30からグリースがなくなることを防止することができる。
また、デフレクタ52の軸線x方向の変異によりシール幅δが変動し、サイドリップ22の一部がデフレクタ52との接触を繰り返すことがある。例えば、トランスアクスル50においては、その各構成の寸法公差や組付け誤差により、車軸51が軸線x方向において内側又は外側に変位してデフレクタ52の摺動面53が軸線x方向に変位する場合や、車軸51が軸線xに対して傾斜してデフレクタ52の摺動面53が傾斜する場合がある。また、トランスアクスル50の作動時に、各構成間の隙間に基づいて、車軸51が軸線x方向に又は軸線xに対して斜めに変位する場合がある。このような変位(ガタ)が発生すると、サイドリップ22が振動する。これにより、デフレクタ52に付着したグリースが周方向溝30に入り込み、周方向溝30からグリースがなくなることを防止することができる。
このように、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1によれば、周方向溝30内にグリースを保持することができ、摺動部においてサイドリップ22とデフレクタ52との間にグリースが介在している状態を長く保持することができ、摺動部におけるグリースの潤滑作用を長期間持続させることができる。このため、サイドリップ22とデフレクタ52との間のグリース(潤滑剤)の量の低減を抑制することができる。これにより、デフレクタ52に作用する摺動抵抗の上昇を抑制することができる。
このように、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1によれば、サイドリップ22とデフレクタ52との間の潤滑剤の量の低減を抑制することができる。
密封装置1においては、上述のように、サイドリップ22の内周面22aのシール幅δの部分におけるグリースの量の低減を抑制することができ、シール幅δにおけるサイドリップ22とデフレクタ52との間の潤滑状態を、使用開始時の状態に維持、又は使用開始時の状態に近い状態に維持することができる。このため、サイドリップ22の摩耗や発熱によるへたりを抑制することができ、サイドリップ22の異物に対するシール性能の低減を抑制することができる。
なお、密封装置1において、堰部40は、外側から内側に向かって、軸線xに沿った方向に対して軸の回転方向rに傾いているとしたが、堰部40は、外側から内側に向かって、反対に、つまり軸線xに沿った方向に対して軸の回転方向rとは反対側に傾いていてもよい。この場合、周方向溝30の外側の側面32と堰部40の正転側側面42との接続する隅角部が鋭角となり、また、周方向溝30の内側の側面32と堰部40の反転側側面43との接続する隅角部が鋭角となり、これらの外側及び内側の隅角部からグリースが押し出されやすくなる。
次いで、上述の密封装置1における堰部40の第1の変形例について説明する。図8は、第1の変形例に係る堰部44を概略的に示す図であり、図8(a)は、第1の変形例に係る堰部44が設けられた周方向溝30の部分拡大図であり、図8(b)は、図8(a)における線C1−C1に沿う断面における断面図であり、図8(c)は、図8(a)における線C2−C2に沿う断面における断面図である。堰部44は、軸線xに沿って、軸線xに平行に又は略平行に、外側と内側との間で延びている。
第1の変形例に係る堰部44は、上述の堰部40の上面41に対応する上面44aと、上述の堰部40の正転側側面42に対応する正転側側面44bと、上述の堰部40の反転側側面43に対応する反転側側面44cとを有している。上面44aは、堰部40の上面と同様に周方向溝30の内周面22aと面一の面である。上面44aは、例えば、周方向溝30の内周面22aの一部である。正転側側面44bは、周方向溝30の延び方向(周方向)に延びた傾斜面であり、周方向溝30の底面31から上面44aの回転方向rにおける手前側の端まで、周方向に沿って周方向溝30の深さが徐々に浅くなるように延びている。反転側側面44cは、周方向溝30の延び方向に延びた傾斜面であり、周方向溝30の底面31から上面44aの回転方向rにおける奥側の端まで、周方向に沿って周方向溝30の深さが徐々に浅くなるように延びている。正転側側面44bと反転側側面44cとは、上面44aに対して対称又は略対称となっている。正転側側面44b及び反転側側面44cは、平らな面であってもよく、曲面であってもよい。
上述の第1の変形例に係る堰部44においても、上述の堰部40と同様に作用し、サイドリップ22とデフレクタ52との間のグリース(潤滑剤)の量の低減を抑制することができ、デフレクタ52に作用する摺動抵抗の上昇を抑制することができる。
また、図9に示すように、デフレクタ52の回転によって周方向溝30内のグリースは、図9の矢印gで示すように周方向溝30に沿って回転方向rに移動していき、堰部44の正転側側面44bに沿って正転側側面44bを上面44aに向かって上がっていく。そして、正転側側面44bを上がったグリースは上面44aに達し、周方向溝30から押し出される(溢れ出る)。グリースが周方向溝30から押し出されることにより、サイドリップ22の内周面22a上に、つまり、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給される。
一方、車軸51が回転方向rとは反対方向へ反転する場合は、上述のグリースの動き(矢印g)と同様に、グリースは図9の矢印g´のように動き、デフレクタ52の回転によって周方向溝30内のグリースは、図9の矢印g´で示すように周方向溝30に沿って回転方向rとは反対方向に移動していき、堰部44の反転側側面44cに沿って反転側側面44cを上面44aに向かって上がっていく。そして、反転側側面44cを上がったグリースは上面44aに達し、周方向溝30から押し出される(溢れ出る)。グリースが周方向溝30から押し出されることにより、サイドリップ22の内周面22a上に、つまり、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給される。
本変形例に係る堰部44においては、正転側側面44b及び反転側側面44cが、デフレクタ52の摺動面53との間に断面くさび状の空間を形成している(図8(c)参照)。このため、上述のようにグリースが正転側側面44b上又は反転側側面44c上を上面44aに向かって移動すると、この空間によってもたらされるくさび効果により、デフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がりやすくなる。デフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がると、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給されやすくなり、また、デフレクタ52に作用するサイドリップ22の摺動抵抗を低減することができる。
次いで、上述の密封装置1における堰部40の第2の変形例について説明する。図10は、第2の変形例に係る堰部45を概略的に示す図であり、図10(a)は、第2の変形例に係る堰部45が設けられた周方向溝30の部分拡大図であり、図10(b)は、図10(a)における線D1−D1に沿う断面における断面図であり、図10(c)は、図10(a)における線D2−D2に沿う断面における断面図である。
第2の変形例に係る堰部45は、上述の堰部40の上面41に対応する上面45aと、上述の堰部40の正転側側面42に対応する正転側側面45bと、上述の堰部40の反転側側面43に対応する反転側側面45cとを有している。上面45aは、堰部40の上面と同様に周方向溝30の内周面22aと面一の面である。上面45aは、例えば、周方向溝30の内周面22aの一部である。堰部45は、その突出方向に交差した断面の形状がひし形となっており、上面45もひし形の輪郭を有している。
正転側側面45bは、周方向溝30の底面31から垂直に又は略垂直に延びており、底面31から垂直に又は略垂直に延びる角部45dを有している。角部45dは、正転側側面45bの周方向に互いに傾斜する2つの面の部分(側面部分45b1,45b2)が交わる部分に形成される角部であり、周方向溝30の画成する空間に面している。正転側側面45bの2つの面の部分(側面部分45b1,45b2)は、平らな面であってもよく、曲面であってもよい。正転側側面45bの2つの面の部分(側面部分45b1,45b2)が平らな面である場合は、角部45dは、図10に示すように直線となる。反転側側面45cは、周方向溝30の底面31から垂直に又は略垂直に延びており、底面31から垂直に又は略垂直に延びる角部45eを有している。角部45eは、反転側側面45cの周方向に互いに傾斜する2つの面の部分(側面部分45c1,45c2)が交わる部分に形成される角部であり、正転側側面45bとは反対側の周方向溝30の画成する空間に面している。反転側側面45cの2つの面の部分(側面部分45c1,45c2)は、平らな面であってもよく、曲面であってもよい。反転側側面45cの2つの面の部分(側面部分45c1,45c2)が平らな面である場合は、角部45eは、図10に示すように直線となる。角部45d及び角部45eは、周方向溝30の側壁32間の中央又は略中央に位置している。正転側側面45bと反転側側面45cとは、周方向において対称又は略対称となっている。
図11は、図10に示す堰部45の作用を説明するための図であり、図11(a)は、軸部51が正転する際の堰部45の作用を説明するための図であり、図11(b)は、軸部51が反転する際の堰部45の作用を説明するための図である。軸部51が正転(回転方向rに回転)する場合、デフレクタ52の回転によって周方向溝30内のグリースは、図11(a)の矢印gで示すように周方向溝30に沿って回転方向rに移動していき、堰部45の正転側側面45bにぶつかる。堰部45の正転側側面45bにぶつかったグリースは、正転側側面45bの角部45dによって分断され、分断されたグリースは正転側側面42の側面部分45b1,45b2に沿って内周側(図11(a)において紙面上方)に押され、周方向溝30から押し出される(溢れ出る)。堰部45の正転側側面42の側面部分45b1,45b2は回転方向r側に傾いているため、堰部45の正転側側面42にぶつかって角部45dによって分断されたグリースは、矢印gで示すように正転側側面42の側面部分45b1,45b2に沿って内側(図11(a)において右斜め上方)及び外側(図11(a)において右斜め下方)に移動し、周方向溝30の側面32と側面部分45b1,45b2との夫々接続する鋭角な隅角部(隅角部35)に押し込まれやすくなっている。このため、周方向溝30の側面32と正転側側面45の側面部分45b1,45b2との接続する鋭角な隅角部35から、グリースが周方向溝30の外部に押し出されやすくなっている。
また、車軸51が反転する場合は、上述のグリースの動き(矢印g)と同様に、グリースは図11(b)の矢印g´のように動き、堰部45の反転側側面45cにぶつかり、正転側側面45bにぶつかるグリースと同様に角部45eによって分断され周方向溝30から押し出される。また、堰部45の反転側側面45cの側面部分45c1,45c2は反転方向側に傾いているため、堰部45の反転側側面45cにぶつかって角部45eによって分断されたグリースは、矢印g´で示すように反転側側面45cの側面部分45c1,45c2に沿って内側(図11(b)において左斜め上方)及び外側(図11(b)において左斜め下方)に移動し、周方向溝30の側面32と反転側側面45cの側面部分45c1,45c2との接続する鋭角な隅角部(隅角部36)に押し込まれやすくなっている。このため、周方向溝30の側面32と側面部分45c1,45c2との接続する鋭角な隅角部36から、グリースが周方向溝30の外部に押し出されやすくなっている。
このように、第2の変形例に係る堰部45においても、上述の堰部40と同様に作用し、サイドリップ22とデフレクタ52との間のグリース(潤滑剤)の量の低減を抑制することができ、デフレクタ52に作用する摺動抵抗の上昇を抑制することができる。また、第2の変形例に係る堰部45においては、正転側側面45b及び反転側側面45cに角部45d,45eが夫々形成されているため、正転側側面45b及び反転側側面45cにぶつかったグリースが均等に分断されやすく、両側(内側及び外側)の隅角部35,36から均一にグリースがあふれやすくなっている。
次いで、上述の密封装置1における堰部40の第3の変形例について説明する。図12は、第3の変形例に係る堰部46を概略的に示す図であり、図12(a)は、第3の変形例に係る堰部46が設けられた周方向溝30の部分拡大図であり、図12(b)は、図12(a)における線E1−E1に沿う断面における断面図であり、図12(c)は、図12(a)における線E2−E2に沿う断面における断面図である。
第3の変形例に係る堰部46は、円錐や角錐等の錐体を形成しており、堰部46の突出する方向に交差する断面は、周方向溝30の底部31側が大きくなっている。堰部46は、上述の堰部40の正転側側面42に対応する正転側側面46bと、上述の堰部40の反転側側面43に対応する反転側側面46cとを有している。堰部46は、例えば、図12に示すように、四角錘である。
正転側側面46bは、周方向溝30の底面31から斜めに延びており、底面31から斜めに延びる角部46dを有している。角部46dは、正転側側面46bの周方向に互いに傾斜する2つの面の部分(側面部分46b1,46b2)が交わる部分に形成される角部であり、周方向溝30の画成する空間に面している。正転側側面46bの2つの面の部分(側面部分46b1,4562)は、平らな面であってもよく、曲面であってもよい。正転側側面46bの2つの面の部分(側面部分46b1,46b2)が平らな面である場合は、角部46dは、図12に示すように直線となる。側面部分46b1,46b2は、四角錘形状の堰部46の反転方向側において周方向溝30の形成する空間に面する2つの面を夫々形成しており、周方向溝30の底面31側から内周側に向かってその幅が小さくなっている。正転側側面46bの側面部分46b1,46b2は、各々、周方向に沿って、反転方向側から正転方向側に向かって周方向溝30の深さが徐々に浅くなるように傾斜して延びている。
反転側側面46cは、周方向溝30の底面31から斜めに延びており、底面31から斜めに延びる角部46eを有している。角部46eは、反転側側面46cの周方向に互いに傾斜する2つの面の部分(側面部分46c1,46c2)が交わる部分に形成される角部であり、周方向溝30の画成する空間に面している。反転側側面46cの2つの面の部分(側面部分46c1,46c2)は、平らな面であってもよく、曲面であってもよい。反転側側面46cの2つの面の部分(側面部分46c1,46c2)が平らな面である場合は、角部46eは、図12に示すように直線となる。側面部分46c1,46c2は、四角錘形状の堰部46の正転方向側において周方向溝30の形成する空間に面する2つの面を夫々形成しており、周方向溝30の底面31側から内周側に向かってその幅が小さくなっている。反転側側面46cの側面部分46c1,46c2は、各々、正転方向側から反転方向側に向かって周方向溝30の深さが徐々に浅くなるように傾斜して延びている。
正転側側面46bの側面部分46b1,46b2は各々、内周側において点に収束してもよく、点に収束していなくてもよい。同様に、反転側側面46cの側面部分46c1,46c2は各々、内周側において点に収束してもよく、点に収束していなくてもよい。側面部分46b1,46b2,46c1,46c2が点に収束しない場合は、堰部46は、上述の堰部40の上面41に対応する面である上面を有する。
図13は、図12に示す堰部46の作用を説明するための図であり、図13(a)は、軸部51が正転する際の堰部46の作用を説明するための図であり、図13(b)は、軸部51が反転する際の堰部46の作用を説明するための図である。軸部51が正転(回転方向rに回転)する場合、デフレクタ52の回転によって周方向溝30内のグリースは、図13(a)の矢印gで示すように周方向溝30に沿って回転方向rに移動していき、堰部46の正転側側面46bにぶつかる。堰部46の正転側側面46bにぶつかったグリースは、正転側側面46bの角部46dによって分断され、分断されたグリースは正転側側面46の側面部分46b1,46b2に沿って内周側(図13(a)において紙面上方)に押され、周方向溝30から押し出される(溢れ出る)。また、車軸51が反転する場合は、上述のグリースの動き(矢印g)と同様に、グリースは図13(b)の矢印g´のように動き、堰部46の反転側側面46cにぶつかり、正転側側面46bにぶつかるグリースと同様に角部46eによって分断され周方向溝30から押し出される。
また、本変形例に係る堰部46においては、正転側側面46b(側面部分46b1,46b2)及び反転側側面46c(側面部分46c1,46c2)が、デフレクタ52の摺動面53との間に断面くさび状の空間を形成している(図12(c)参照)。このため、上述のようにグリースが正転側側面46b上又は反転側側面46c上を内周側に向かって移動すると、この空間によってもたらされるくさび効果により、デフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がりやすくなる。デフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がると、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給されやすくなり、また、デフレクタ52に作用するサイドリップ22の摺動抵抗を低減することができる。
このように、第3の変形例に係る堰部46においても、上述の堰部40と同様に作用し、サイドリップ22とデフレクタ52との間のグリース(潤滑剤)の量の低減を抑制することができ、デフレクタ52に作用する摺動抵抗の上昇を抑制することができる。また、第3の変形例に係る堰部46においては、上述の第2の変形例に係る堰部45と同様に、正転側側面46b及び反転側側面46cにぶつかったグリースが均等に分断されやすく、堰部46の両側(内側及び外側)から均一にグリースがあふれやすくなっている。また、第3の変形例に係る堰部46においては、上述の第1の変形例に係る堰部44と同様に、各側面部分46b1,46b2,46c1,46c2とデフレクタ52の摺動面53との間に形成される断面くさび状の空間によるくさび効果により、デフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がりやすくなる。このため、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給されやすくなり、また、デフレクタ52に作用するサイドリップ22の摺動抵抗を低減することができる。
次いで、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2について説明する。図14は、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2の概略構成を示すための、軸線xに沿う断面における断面図である。本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2は、上述の本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1に対して、周方向溝の構造が異なる。以下、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2について、本発明の第1の実施の形態に係る密封装置1と同一又は同様の機能を有する構成については同一の符号を付してその説明を省略し、異なる部分について説明する。
図14に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2は、密封装置1の周方向溝部30に変えて周方向溝37を有しており、密封装置1の堰部40に変えて堰部47を有している。密封装置2は、堰部47を周方向に互いに間隔を空けて複数有しており、複数の堰部47は、周方向に互いに間隔を空けて延びる複数の溝部38を形成している。溝部38は、この溝部38の深さが、軸の回転方向に向かって、徐々に浅くなるように形成されている。
具体的には、図14に示すように、周方向溝37は、サイドリップ22の内周面22aにおいて、シール幅δの部分に形成されている。周方向溝37において、複数の堰部47が周方向に等角度間隔又は略等角度間隔で形成されており、周方向において互いに隣接する堰部47の間には、内周面22aから外周側に凹む溝である溝部38が形成されている。堰部47は、サイドリップ22の内周面22aの一部であり、周方向において等角度間隔又は略等角度間隔で溝部38を複数形成することにより、堰部47が形成され、周方向溝37が形成されるともいえる。なお、密封装置2は、周方向溝37を1つのみではなく複数有していてもよい。
図15は、図14の線F1−F1に沿う断面における断面図であり、軸線xに直交する断面における周方向溝37の部分におけるサイドリップ22の断面を示す部分断面図である。図15に示すように、溝部38は、断面がくさび状の溝であり、底面38aと、回転側側面38bと、互いに対向する一対の幅側側面38cとを有している。底面38aは、溝部38の底部を形成する面であり、周方向溝30の外周側の境界を画定している。底面38aは、周方向に延びる面であり、周方向に対して傾斜する面である。底面38aは、軸部51の回転方向r側に向かうに連れて溝部38の深さが浅くなるように形成されており、回転方向rに進んだ側の端部においてサイドリップ22の内周面22aに接続している。回転側側面38bは、サイドリップ22の内周面22aと、底面38aの回転方向rとは反対側に進んだ側の底面38aの端部との間に延びる面であり、内周面22aに直交する方向又は略直交する方向に延びている。回転側側面38bは、回転方向rに面しており、溝部38が形成する空間に面している。幅側側面38cは、内周面22aに直交又は略直交しており、周方向に延びている。底面38a、回転側側面38b、及び幅側側面38cは、平面であってもよく曲面であってもよい。
次いで、本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2における周方向溝37の作用について説明する。密封装置2の使用状態においては、上述の密封装置1の使用状態と同様に、サイドリップ22の内周面22aのシール幅δの部分にはグリースが塗布される。サイドリップ22には上述のように、溝部38が形成されており、密封装置2は、溝部38内にグリースを保持することができる。図16は、密封装置2の周方向溝37の作用を説明するための図である。軸部51が正転すると、デフレクタ52の回転によって、サイドリップ22の内周面22aに塗布されているグリースは、図16の矢印gで示すように内周面22aに沿って回転方向rに移動する。また、溝部38内に保持されたグリースも同様に、図16の矢印gで示すように底面38a上を回転方向rに移動し、サイドリップ22の内周面22aにもれ出る。溝部38の底面38aは、デフレクタ52の摺動面53との間にくさび形の空間をしており、このため、溝部38内のグリースが底面38上を回転方向rに移動すると、溝部38とデフレクタ52との間に移動するグリースによる流動圧力が発生する。
このように、密封装置2においては、溝部38にグリースを保持することができ、また、軸部51の回転により、溝部38内のグリースをサイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部に供給することができ、サイドリップ22とデフレクタ52との間のグリース(潤滑剤)の量の低減を抑制することができ、デフレクタ52に作用する摺動抵抗の上昇を抑制することができる。また、溝部38の底面38aは、デフレクタ52の摺動面53との間にくさび形の空間をしており、この空間によってもたらされるくさび効果により、グリースの移動によって発生する流動圧によってデフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がりやすくなる。デフレクタ52の摺動面53に対してサイドリップ22が浮き上がると、サイドリップ22とデフレクタ52との間の摺動部にグリースが供給されやすくなり、また、デフレクタ52に作用するサイドリップ22の摺動抵抗を低減することができる。
このように本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2によれば、サイドリップ22とデフレクタ52との間のグリースの量の低減を抑制することができる。また、デフレクタ52に作用するサイドリップ22の摺動抵抗を低減することができる。
なお、上述の本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2においては、回転方向rに向かって溝の深さが浅くなるように傾斜した底面38aを有する溝部38に加えて、溝部38に周方向において対称形状である溝部、つまり、回転方向rとは反対方向に向かって溝の深さが浅くなるように傾斜した底面を有する溝部が設けられていてもよい。また、上述の本発明の第2の実施の形態に係る密封装置2において、回転方向rは軸部の反転方向であってもよい。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記本発明の実施の形態に係る密封装置1〜3に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における、各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
例えば、上述の密封装置1の堰部40は、正転側側面42及び反転側側面43に変えて、第1の変形例としての堰部44の正転側側面44a及び反転側側面44bを夫々有していてもよい。また、例えば、周方向溝30は、内周面22aにおいて等間隔に並んでいなくてもよく、例えば、一定のピッチパターンで並んでいてもよい。また、周方向溝30は、直線状又は略直線状に延びておらず、曲がって延びていてもよい。
また、本発明の実施の形態に係る密封装置1,2の適用対象として、上述のように具体的な適用対象を例示したが、本発明の適用対象はこれらに限られるものではなく、他の車両や汎用機械、産業機械等、本発明の奏する効果を利用し得るすべての構成に対して本発明は適用可能である。