図2(a)は本発明に係る堆積膜形成装置によって製作する電子写真感光体の一例の概略構成を表す断面図であり、図2(b)はその一部(A部に相当)を拡大して示す断面図である。図2(a)に示すように、電子写真感光体10は、導電性の円筒状基体10Aおよび円筒状基体10Aの外周面上に形成された感光体層10Bを有しており、電子写真方式の画像形成装置において画像信号に基づいた静電潜像やトナー像が表面に形成されるものである。この電子写真感光体10は、必要に応じて両端部にフランジFが嵌合によって固定され、これを介して画像形成装置内に回転可能に搭載される。
図2に示した例の電子写真感光体10(以下、感光体10ともいう。)は、導電性の円筒状基体10A(以下、基体10Aともいう。)の外周面に、感光体層10Bとして電荷注入阻止層10B1、光導電層10B2および表面層10B3を順次積層形成したものである。この例の感光体層10Bはa−Si系の材料を用いたものであり、この場合の基本的な構成について説明する。
基体10Aは、感光体10において感光体層10Bの支持部材となるものであり、導電性を有する金属材料で円筒状に構成されている。金属材料としては、例えばアルミニウム(Al),ステンレス(SUS),亜鉛(Zn),銅(Cu),鉄(Fe),チタン(Ti),ニッケル(Ni),クロム(Cr),モリブデン(Mo),インジウム(In),ニオブ(Nb),テルル(Te),バナジウム(V),パラジウム(Pd),タンタル(Ta),スズ(Sn),白金(Pt),金(Au)および銀(Ag)が挙げられる。中でも、非晶質(アモルファス)シリコン系(a−Si系)材料によって感光体層10Bを形成する場合においてこの感光体層10Bとの密着性を高める観点からは、基体10AをAl系合金(例えばAl−Mn系合金,Al−Mg系合金,Al−Mg−Si系合金)によって構成したものが好ましい。
基体10Aにおける感光体層10Bの形成面(外周面)は、旋盤加工などによって表面処理が施される。表面処理としては、例えば鏡面加工および線状溝加工が挙げられる。また、両端部にはフランジFを装着(嵌合して固定)するためのインロー部である嵌合部が形成される。
感光体層10Bは、下部電荷注入阻止層10B1,光導電層10B2および表面層10B3を積層して形成したものであり、その厚みは例えば15μm以上90μm以下に設定される。
下部電荷注入阻止層10B1(以下、下部阻止層10B1ともいう。)は、基体10A側からの電荷が光導電層10B2側に注入されるのを阻止する役割を担うものである。具体的に、下部阻止層10B1は、正帯電の感光体10では基体10A側から光導電層10B2側に電子(負電荷)が注入されるのを阻止する機能を有している。また、負帯電の感光体10では基体10A側から光導電層10B2側にホール(正電荷)が注入されるのを阻止する機能を有している。
本例の下部阻止層10B1は、a−Siを主体とする非単結晶材料により構成される。ここで非単結晶材料とは、多結晶、微結晶あるいは非晶質の部分を含む材料を意味している。また、下部阻止層10B1は、正帯電用であれば周期表第13族元素を、負帯電用であれば周期表第15族元素を含んでいる。
第13族元素としては、硼素(B),アルミニウム(Al),ガリウム(Ga),インジウム(In)またはタリウム(Tl)などが挙げられる。第15族元素としては、窒素(N),燐(P),砒素(As),アンチモン(Sb)またはビスマス(Bi)などが挙げられる。これらの中で、プラズマCVD法、例えばグロー放電分解法による成膜時のドーピング濃度の制御容易性の観点からは、第13族元素としては硼素が、第15族元素としては窒素または燐が好ましい。
また、下部阻止層10B1は、酸素(O)または炭素(C)をさらに含んでいてもよい。下部阻止層10B1が酸素または炭素を含むことによって、基体10Aとの密着性が向上することとなるので好ましい。
上記の添加元素は、いずれも下部阻止層10B1中に実質的に均一に分布していてもよいし、層厚方向において不均一に分布している部位を有していてもよい。但し、分布濃度が不均一である場合は、基体10Aへの密着性の観点または残留電荷の発生を低減する観点から、基体10A側における添加元素の濃度が大きくなるように含有させるのが好ましい。なお、いずれの場合においても、面内方向における特性の均一化を図る観点から、基体10Aの表面に平行な面内方向において実質的に均一に分布しているのが好ましい。
下部阻止層10B1の厚さは、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、0.1
μm以上10μm以下に設定される。下部阻止層10B1の厚さが0.1μm未満であると、基体10A側からの電荷の注入を充分に阻止することができない場合がある。他方、下部阻止層10B1の厚さが10μmを超えると、残留電荷が発生し、メモリ特性が悪化してしまう場合が
ある。
光導電層10B2は、レーザ光などの光照射によってキャリアを発生させる役割を担うもの
である。本例における光導電層10B2は、a−Siを主体とするものである。すなわち、シリコンを主体とする非単結晶材料により構成されており、微結晶シリコンを含んでなる場合は、暗導電率・光導電率を高めることができ、光導電層10B2の設計自由度を高めることができる。
光導電層10B2は、シリコンの未結合手(ダングリングボンド)を補償する観点から、水素およびハロゲン元素の少なくとも一方を含むものが好ましい。光導電層10B2における水素およびハロゲン元素の含有量の総和は、シリコンと水素とハロゲン元素との含有量の総和に対して1原子%以上40原子%以下とされるのが好ましい。光導電層10B2の原料としては、SiH4,Si2H6などの水素化珪素(シラン類)またはSiF4,Si2F6などのフッ化珪素が挙げられる。これらの原料は、必要に応じてH2およびHeの少なくとも一方によって希釈してもよい。
また、光導電層10B2には、伝導性を制御するための伝導性制御元素を導入してもよい。伝導性制御元素としては、例えばp型伝導特性を付与する第13族元素およびn型伝導特性を付与する第15族元素が挙げられる。半導体特性に対する感応性あるいは光感度の観点から、第13族元素としては硼素、第15族元素としては燐が好ましい。特に、伝導性制御元素としては、光導電層10B2を真性型(i型)に近付けるべく第13族元素を採用するのが好ましい。光導電層10B2に対する伝導性制御元素の導入は、層形成時に、光導電層10B2の主たる構成元素とともに、伝導性制御元素を導入するための原料を必要に応じてH2およびHeなどのガスによって希釈して反応容器中に供給することによって行なう。光導電層10B2における伝導性制御元素の濃度は層厚方向に変化させてもよい。その場合は、光導電層10B2における伝導性制御元素の含有量は、光導電層10B2の全体における平均含有量が所定範囲内であればよい。
さらに、光導電層10B2には、炭素、酸素および窒素のうちの少なくとも1種の元素を含有させてもよい。この光導電層10B2の厚さ(層厚)は、所望の電子写真特性および経済的効果などの観点から、5μm以上100μm以下(好適には10μm以上80μm以下)に設定
される。
表面層10B3は、主として感光体10の耐湿性、繰り返し使用特性、電気的耐圧性、使用環境特性あるいは耐久性を高める役割を担うものであり、本例ではシリコンおよび炭素の少なくとも一方を主体とする非単結晶材料によって構成される。具体的には、水素化アモルファスシリコンカーバイド(a−SiC:H)あるいは水素化アモルファスカーボン(a−C:H)で構成される。表面層10B3の厚さは、耐久性あるいは残留電位などの観点から、0.2μm以上1.5μm以下(好適には、0.5μm以上1μm以下)に設定される。
なお、以上のような感光体層10Bの各層に加えて、例えば光導電層10B2と表面層10B3との間に、表面層10B3側から光導電層10B2へと表面電荷が注入されるのを阻止するために上部電荷注入阻止層を配置したりして、所望の電子写真特性が得られるように設計しても構わない。
また、感光体層10Bは、帯電器によって所定の電位に表面電荷を帯電し、露光器からのレーザ光などの照射によってキャリアを発生して静電潜像を形成するためのものであるので、そのような電子写真特性を有するものであれば種々の材料が適用できる。
以下、本発明に係る堆積膜形成装置および堆積膜形成方法について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明に係る堆積膜形成装置の実施形態の一例の概略構成を示す模式的断面図
である。この堆積膜形成装置100は、感光体10における下部阻止層10B1、光導電層10B2お
よび表面層10B3をグロー放電分解法によって基体10A上に形成する成膜装置であって、グロー放電分解法によるプラズマCVD装置である。
堆積膜形成装置100は、反応室でもある堆積室20と円筒状の電極21と支持機構30と直流
電圧供給機構40と温度制御機構50と回転機構60とガス供給機構70と排気機構80とを備えている。
堆積室20は、基体10Aに対して各層となる堆積膜を形成するための空間であり、円筒状の電極21と、一対のプレート22,23と、絶縁部材24,25とにより仕切られている。
電極21は、堆積膜の形成空間を仕切るとともに、グロー放電を発生させるために基体10A側を第1導体とした場合の第2導体としての役割を担うものである。すなわち円筒状の電極21は、円筒状基体10Aを囲むように配置された、円筒状基体10Aとの間の放電空間に放電によるプラズマを生成するための電極である。電極21は、基体10Aと同様の導電性材料で構成されており、本例では絶縁部材24,25を介して一対のプレート22,23と一体化されている。本例における電極21は、支持機構30に支持させた基体10Aと円筒状の電極21との距離が所定の範囲となるように構成されている。
電極21は、本例では放電空間に原料ガスを導入するための原料ガス導入手段を兼ねており、原料ガス導入手段は電極21の内周面に一体化されている。この電極21は外周面に原料ガスの供給口21aを、内周面に放電空間への複数の導入口21bを有しており、その一端において接地されている。なお、電極21の接地は必須の条件ではなく、後述の直流電源41とは別の基準電源に接続する構成としてもよい。電極21を直流電源41とは別の基準電源に接続する場合に、基準電源における基準電圧は、例えば−1500V以上1500V以下とされる。
供給口21aは、洗浄ガスまたは原料ガスを電極21を介して堆積室20に供給するための開口であり、ガス供給機構70に接続されている。
電極21の内周面に一体化された原料ガス導入手段における複数の導入口21bは、電極21の内部に供給された洗浄ガスまたは原料ガスを基体10Aに向けて放電空間に吹き出して導入するための開口であり、図の上下方向および周方向において例えば等間隔で配置される。これら複数の導入口21bの孔径、形状および配置については、適宜設定可能である。このように電極21の内周面に原料ガス導入手段が一体化されていることにより、基体10Aを取り囲む放電空間に対して周囲から一様に原料ガスを導入することができる。
電極21は、その一端において接地されている。なお、電極21の接地は必須の条件ではなく、後述のパルス波を印加する直流電源41とは別の基準電源に接続する構成としてもよい。電極21を直流電源41とは別の基準電源に接続する場合に、基準電源における基準電圧は、例えば−1500V以上1500V以下とされる。このように直流電源41によって直流電力でプラズマを生成する場合には、例えば30kHzまたは50kHzなどのパルス波として電極21に電力が印加される。また、プラズマの生成に例えば13.56MHzあるいは50MHz以上450MHz以下、例えば105MHzなどの周波数の高周波電力を使用する場合には、基体10A側を接地して、電極21に高周波電力を印加する構成としてもよい。
なお、本例における電極21は堆積室20を形成する真空気密可能な容器を兼ねる円筒状の部材であるが、後述するように、電極は、基体10Aを中心軸とした円周上に配置された、複数の棒状または板状の部材からなるものであってもよい。
プレート22は、堆積室20の開放状態と閉塞状態とを選択することができるように着脱可
能な構成とされており、プレート22を開閉することによって堆積室20に対する後述の支持体31の出し入れが可能となっている。プレート22は、基体10Aと同様の導電性材料で形成されており、その下面側に防着板26が取り付けられている。これにより、プレート22に対して堆積膜が形成されるのが防止されている。なお、防着板26は、基体10Aと同様の導電性材料で形成されており、プレート22に対して着脱自在とされている。
プレート23は、堆積室20のベースとなるものであり、基体10Aと同様の導電性材料で形成されている。プレート23と電極21との間に介在する絶縁部材25は、電極21とプレート23との間にアーク放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。このような絶縁部材25は、例えばガラス材料(ホウ珪酸ガラス,ソーダガラス,耐熱ガラスなど)、無機絶縁材料(セラミックス,石英,サファイヤなど)、あるいは合成樹脂絶縁材料(ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂,ポリカーボネート,ポリエチレンテレフタレート,ポリエステル,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリアミド,ビニロン,エポキシ,マイラー,ポリエーテルエーテルケトンなど)で形成することができる。絶縁部材25の材料としては、絶縁性を有し、使用温度で充分な耐熱性があり、真空中でガスの放出が小さい材料であれば特に限定はない。
プレート23および絶縁部材25には、ガスの排気口23A,25Aおよび圧力計27が設けられている。排気口23A,25Aは、堆積室20の内部の気体を排出する役割を担うものであり、排気機構80に接続されている。圧力計27は、堆積室20の圧力をモニタリングするためのものであり、公知の種々のものを使用することができる。
支持機構30は、基体10Aを支持するとともに、グロー放電を発生させる第1導体としての役割を担うものである。支持機構30は、支持体31と導電性支柱32と絶縁材33とを含んで構成されている。本例における支持機構30は、2つの基体10Aを支持することができる長さ(寸法)に形成されており、支持体31が導電性支柱32に対して着脱自在とされている。このような構成によると、支持した2つの基体10Aの表面に直接触れることなく、堆積室20に対して2つの基体10Aの出し入れを行なうことができる。
支持体31は、フランジ部31aを有する中空状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料によって全体が導体として構成されている。
この支持体31に、複数のダミー基体Dとともに基体10Aがセットされる。本例では、2つの基体10Aが、支持体31のフランジ部31a上に、下から順に下ダミー基体D1,基体10A,中間ダミー基体D2,基体10Aおよび上ダミー基体D3を順次積み上げる形で支持されている。本発明においては、ダミー基体D1〜D3は、外周面が誘電体からなるものである。
下ダミー基体D1は、主として基体10Aの高さ位置を調整する役割を担うものである。中間ダミー基体D2は、主として隣接する基体10Aの端部間に不均一な放電が発生するのを抑制する役割を担うものである。中間ダミー基体D2の長さは、不均一な放電の発生を充分に抑制できる長さ(例えば1cm以上)に設定される。また、その外周面側角部に曲面加工(例えば曲率半径0.5mm以上)あるいは面取り加工(カットされた部分の軸方向
の長さおよび深さ方向の長さがそれぞれ0.5mm以上)を施したものが採用される。上ダ
ミー基体D3は、主として支持体31に堆積膜が形成されるのを抑制する役割を担うものである。上ダミー基体D3としては、その上側端部が支持体31の最上部よりも上方に突出するように構成されたものが採用される。
これらダミー基体D(D1〜D3)には、外周面が誘電体からなるものであれば、例えば図3(a)〜(d)にそれぞれ概略構成を断面図および横断面図で示すような実施形態
の例がある。図3(a)に示す例のダミー基体Dは、金属などからなる導電性の円筒状のベース部材となる導電体部分DBの外周面に、誘電体部分DAとして誘電体からなる被膜を形成したものである。図3(b)に示す例のダミー基体Dは、導電性の円筒状の部材である導電体部分DBの外側に誘電体からなる円筒状のカバー部材である誘電体部分DAを重ねて一体化したものである。図3(c)に示す例のダミー基体Dは、内側の導電性の円筒状の部材である導電体部分DBと外側の誘電体からなる円筒状の部材である誘電体部分DAとを一体化したものである。そして、図3(d)に示す例のダミー基体Dは、全体が誘電体からなる円筒状の誘電体部分DAからなるものである。
導電体部分DBの材料としては、金属材料が、好適には前述の基体10Aと同じ金属材料が用いられる。また、導電性カーボンブラック,カーボンセラミックスなどの導電性セラミックスを用いることもできる。
誘電体部分DAの材料としては、堆積膜の形成時の温度に耐えられる耐熱性の絶縁性樹脂または絶縁性セラミックスが用いられる。耐熱性の絶縁性樹脂としては、例えばPES(ポリエーテルサルフォン),PEI(ポリエーテルイミド),PAI(ポリアミドイミド),PEEK(ポリエーテルエーテルケトン),PTFE(ポリテトラフルオロエチレン),PPS(ポリフェニレンサルファイド)などが挙げられる。また、絶縁性セラミッ
クスとしては、Al2O3,MgO,ZrO2,SiO2,Y2O3,Cr2O3などを主成分とするアルミナ,クレーアルミナ,ムライト,コージェライト,クロミアなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素(SiC)などの炭化物系セラミックス、および窒化珪素(Si3N4),窒化アルミ(AlN),窒化硼素(BN)などの窒化物系セラミックスの少なくとも1種からなるものが挙げられる。
上記の材料の中でも、ダミー基体Dの誘電体部分DAは、セラミックスであることが好ましい。セラミックスは耐熱性、耐蝕性に優れており、化学的に安定で、繰り返し使用する場合の耐久性も良好である。
これらの材料を用いて、公知の製造方法によって、基体10Aと同じ外径で所望の長さのダミー基体Dが作られる。中でも、導電性のベース部材および部材には金属材料を、誘電体からなる被膜、カバー部材および部材には絶縁性セラミックス、特に酸化物系セラミックスを用いるのが好ましい。
ダミー基体Dの厚みおよび外径は、基体10Aと同程度かまたはわずかに大きくなるように設定される。ダミー基体Dの外径を基体10Aよりも同程度がわずかに大きく設定する場合は、基体10Aの外周面とダミー基体Dの外周面との段差が、例えば−0.5mm以上1.5mm以下、好ましくは0mm以上0.5mm以下になるようにするとよい。ダミー基体Dの外
径が基体10Aの外径よりも小さくなり過ぎると、基体10Aの端面部分に堆積膜が回り込んで形成されることになるが、その部分の膜は密着性が十分でないことが多く、膜剥がれを生じて堆積膜中に膜欠陥を生じるおそれがある。
導電体部分DBの厚みは、例えば0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上に設定される。誘電体部分DAの厚みは、被膜としては、例えば10μm以上、好ましくは50μm以上に設定され、部材としては例えば0.5mm以上、好ましくは1.5mm以上に設定される。
図3に示した例のダミー基体Dの中でも、(a)に示した例の、円筒状金属である導電体部分DBの外周面に、誘電体部分DAとしてセラミックスを溶射してなるものが好ましい。セラミックスを溶射して誘電体部分DAを形成する場合、セラミックスとしては酸化物系セラミックスを用いるのが、堆積膜の密着性が良好で、堆積膜の形成および除去に対して酸化などの変化を起こさず、科学的に安定で耐久性が優れているので好ましい。例え
ば、導電体部分DBに基体10Aと同様のアルミニウム合金を用い、誘電体部分DAにアルミナセラミックスを用いると、堆積膜の形成における加熱および冷却に対する膨張および収縮の挙動が基体10Aと同様になり、溶射によるセラミックス被膜を安定して低コストで形成することができるので好ましい。
ダミー基体Dとして、ベース部材である導電体部分DBの外周面に誘電体部分DAである酸化物系セラミックスからなる被膜を形成するには、セラミック溶射技術などを用いて、所望の膜厚で形成すればよい。誘電体部分DAが溶射による被膜である場合には、10μm以上の膜厚であれば、溶射むらによる絶縁不良の発生を防止して誘電体の特性を安定して利用することができる。また、50μm以上の膜厚であれば、堆積膜の形成後に堆積膜を除去して繰り返し使用するのに良好な耐久性を有するものとなる。なお、ダミー基体Dの外周面に誘電体部分DAを被膜として形成する場合には、ダミー基体Dの端面にも同じ被膜を形成しておくことが好ましい。
ダミー基体Dの誘電体部分DAの外周面の表面粗さは、繰り返し使用する場合の洗浄性を良好なものとし、外周面からのアウトガスを低減するには、できるだけ小さい方が好ましい。誘電体部分DAが焼成による部材の場合は、焼成面であってもよいが、より表面粗さの小さい研磨面としておくことが好ましい。誘電体部分DAが溶射による被膜の場合は、いわゆる溶射上がりの状態でもよいが、表面粗さは小さい方が好ましく、研磨面としてもよい。
導電性支柱32は、導板32aを有する筒状の部材であり、基体10Aと同様の導電性材料によって全体が導体として構成されている。導電性支柱32は、その上端部において支持体31の内壁面に当接するように構成されている。
絶縁材33は、導電性支柱32とプレート23との間の電気的絶縁性を確保する役割を担うものであり、堆積室20の略中央において導電性支柱32とプレート23との間に介在している。
直流電圧供給機構40は、導電性支柱32に直流電圧を供給する機構であり、直流電源41および制御部42を有している。
直流電源41は、導電性支柱32に印加する直流電圧を発生させる役割を担うものであり、導板32aを介して導電性支柱32に接続されている。
制御部42は、直流電源41の動作を制御する役割を担うものであり、直流電源41に接続されている。制御部42は、直流電源41の動作を制御して、導電性支柱32を介して支持体31に例えばパルス状の直流電圧を印加できるように構成されている。
なお、本例はグロー放電を発生させるのに直流グロー放電を利用する装置であるが、直流電源41に代えて13.56MHzあるいは50MHz以上450MHz以下、例えば105MHzの
周波数などの高周波電源(RF電源、VHF電源など)を使用して、高周波グロー放電を利用する装置であってもよい。
温度制御機構50は、基体10Aの温度を制御する役割を担うものであり、例えばセラミックパイプ51およびヒータ52を有している。
セラミックパイプ51は、絶縁性および熱伝導性を確保する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容されている。
ヒータ52は、基体10Aを加熱する役割を担うものであり、導電性支柱32の内部に収容さ
れている。基体10Aの温度制御は、例えば支持体31あるいは導電性支柱32に熱電対(図示せず)を取り付け、そのモニタ結果に基づいてヒータ52をオン/オフ制御することによって行なわれる。なお、ヒータ52としては、例えばニクロム線またはカートリッジヒータが挙げられる。
回転機構60は、支持体31を回転させる役割を担うものであり、回転モータ61と回転導入端子62と絶縁軸部材63と絶縁平板64とを有している。回転機構60によって支持機構30を回転させて成膜を行なう場合は、支持体31とともに基体10Aが回転するため、原料ガスの分解成分を基体10Aの外周に対して略均等に堆積させる上で好適である。
回転モータ61は、基体10Aに回転力を付与する役割を担うものである。回転モータ61は、例えば基体10Aを1rpm以上10rpm以下の一定の回転数で回転させるように動作制御される。回転モータ61としては、公知の種々のものを使用することができる。
回転導入端子62は、堆積室20内を所定の真空度に保ちながら絶縁軸部材63に回転力を伝達する役割を担うものである。このような回転導入端子62としては、回転軸を2重もしくは3重構造とした、オイルシールあるいはメカニカルシールなどの真空シール手段を用いることができる。
絶縁軸部材63および絶縁平板64は、支持機構30とプレート22との間の絶縁状態を維持しつつ、回転モータ61からの回転導入端子62を介した回転力を支持機構30に伝達する役割を担うものである。これらは例えば絶縁部材25と同様の絶縁材料で形成されている。
絶縁平板64は、プレート22を取り外す際に落下するゴミあるいは粉塵などの異物が基体10Aに付着するのを防止する役割を担うものである。このような絶縁平板64を有する場合は、基体10Aに異物が付着することに起因する異常放電の発生を抑制することができ、膜欠陥の発生を抑制することができる。
ガス供給機構70は、複数の原料ガスタンク71〜74と、複数の配管71A〜74Aと、複数のバルブ71B〜74B,71C〜74Cと、複数のマスフローコントローラ71D〜74Dとを含んでおり、配管75および供給口21aを介して原料ガス導入手段を兼ねる電極21に接続されている。
各原料ガスタンク71〜74は、原料ガスが充填されたものである。原料ガスとしては、例えば水素化珪素であるSiH4,H2,B2H6,炭化水素であるCH4,N2あるいはNOが用いられる。特に前述のようにa−Si系ならびにa−SiC系およびa−C系の材料によって感光体層10Bを形成するには、原料ガスには、水素化珪素および炭化珪素の少なくとも一方を含むことが好ましい。
バルブ71B〜74B,71C〜74Cおよびマスフローコントローラ71D〜74Dは、堆積室20に導入するガス成分の流量、組成およびガス圧を調整するためのものである。なお、ガス供給機構70においては、各原料ガスタンク71〜74に充填すべきガスの種類あるいは複数の原料ガスタンク71〜74の数は、基体10Aに形成すべき堆積膜の種類あるいは組成に応じて適宜選択すればよい。
排気機構80は、堆積室20のガスを排気口23A,25Aを介して外部に排出する役割を担うものであり、例えばメカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82を有している。これらのポンプ81,82は、圧力計27でのモニタリング結果によって動作制御されるものである。すなわち、排気機構80では、圧力計27でのモニタリング結果に基づいて、堆積室20を所定の真空状態に維持するとともに、堆積室20のガス圧を目的値に設定する。なお、堆積室20の圧力は、例えば1Pa以上470Pa以下とされる。
次に、堆積膜形成装置100を用いた堆積膜の形成方法について、感光体10(図2参照)
を作製する場合を例にして説明する。
まず、堆積膜形成装置100のプレート22を取り外して、複数(図1では2つ)の基体10
Aを支持した支持機構30を堆積室20の内部にセットし、再びプレート22を取り付ける。支持機構30における2つの基体10Aの支持は、支持体31のフランジ部31a上において、下ダミー基体D1,基体10A,中間ダミー基体D2,基体10Aおよび上ダミー基体D3を順次積み上げる形で行なわれる。
次いで、温度制御機構50によって基体10Aを所定温度に制御するとともに、排気機構80によって堆積室20を減圧する。基体10Aの温度制御は、ヒータ52を発熱させることによって所定温度近傍まで昇温させた後、ヒータ52をオン/オフすることによって所定温度に維持するように行なわれる。基体10Aの温度は、その表面に形成すべき膜の種類および組成によって適宜設定されるが、例えばa−Si系膜を形成する場合は200℃以上350℃以下の範囲に設定される。
一方、堆積室20の減圧は、圧力計27での堆積室20の圧力をモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、排気口23A,25Aを介して堆積室20からガスを排出させることによって行なわれる。なお、原料ガス導入前における堆積室20の減圧は、例えば1×10−3Pa程度に至るまで行なわれる。
次いで、基体10Aの温度および内周面の温度を所定温度で制御しつつ、堆積室20を所定圧力まで減圧した状態で、ガス供給機構70によって堆積室20に原料ガスを供給するとともに、電極21と支持体31との間に例えばパルス状の直流電圧を印加する。これにより、電極21と支持体31(基体10A)との間にグロー放電によるプラズマが生成されて原料ガスが分解され、その分解成分が基体10Aの表面に堆積することとなる。これにより、基体10Aの外周面にa−Si系材料などの所望の非晶質材料を含む堆積膜が形成される。
排気機構80においては、圧力計27でモニタリングしつつ、メカニカルブースタポンプ81およびロータリーポンプ82の動作を制御することにより、堆積室20の圧力を所定範囲(例えば1Pa以上470Pa以下)に維持する。すなわち、堆積室20の内部は、ガス供給機構70におけるマスフローコントローラ71D〜74Dと排気機構80におけるポンプ81,82によっ
て圧力を所定範囲に維持する。
堆積室20への原料ガスの供給は、バルブ71B〜74B,71C〜74Cの開閉状態を適宜制御しつつ、マスフローコントローラ71D〜74Dを制御することにより、原料ガスタンク71〜74の原料ガスを所望の組成および流量で、配管71A〜74A,75および供給口21aを介して電極21の内部に導入することによって行なわれる。電極21の内部に導入された原料ガスは、複数の導入口91bを介して基体10Aに向けて吹き出されて放電空間に導入される。そして、バルブ71B〜74B,71C〜74Cおよびマスフローコントローラ71D〜74Dによって原料ガスの組成を適宜変化させる。
一方、電極21と支持体31との間におけるパルス状直流電圧の印加は、電極21が接地されている場合は、−3000V以上−50V以下(好適には−3000V以上−500V以下)の負のパ
ルス状直流電位V1となるように行なわれる。また、電極21が基準電源(図示せず)に接続されている場合は、基準電源から供給される電位V2を基準電位として、目的とする電位差ΔV(例えば−3000V以上−50V以下)となるように行なわれる。また、支持体31(基体10A)に対して負のパルス状電圧を印加する場合は、基準電源から供給される電位V2は、例えば−1500V以上1500V以下に設定される。制御部42は、直流電圧の周波数(1/T[秒])が300kHz以下に、Duty比(T1/T)が20%以上90%以下になるように直流電源41を制御する。本例におけるDuty比とは、パルス状の直流電圧の1周期T(基体10Aと電極21との間に電位差が生じた瞬間から、次に電位差が生じた瞬間までの時間)における電位差発生時間T1が占める時間割合と定義する。例えば、Duty比が20%とは、パルス状の電圧を印加する際の1周期に占める電位差発生時間が1周期全体の20%であることを意味する。パルス状の電圧の周波数としては、例えば30kHzまたは50kHzなどを挙げることができる。
また、パルス波(パルス状の電圧)を印加するのに代えて、13.56MHzなどのRF、
あるいは50MHz以上450MHz以下、例えば105MHzのVHFといった高周波の電力を印加してもよい。
以上のようにして、基体10Aの表面に、下部阻止層10B1、光導電層10B2および表面層10B3が順次積層形成される。なお、下部阻止層10B1と光導電層10B2との間および光導電層10B2と表面層10B3との間には、界面を有していなくても有していてもよい。この間の界面の有無は、所望の電子写真特性および成膜工程の効率などを考慮して選択すればよい。
本発明に係る堆積膜形成装置100およびこれを用いる堆積膜形成方法によれば、上下に
ダミー基体D(D1〜D3)を配置した円筒状基体10Aを収容して基体10Aの外周面に非晶質材料を含む堆積膜を形成するための堆積室20と、基体10Aとの間の放電空間にプラズマを生成するための電極21と、原料ガス導入手段とを備え、ダミー基体Dは外周面が誘電体からなることから、放電空間における放電が基体10Aの外周面に対応する領域に比べてダミー基体Dの外周面に対応する領域において弱くなる。これにより、基体10Aの外周面に対応する領域で放電が強くなり、プラズマがより活性化するため、基体10Aの外周面への堆積膜の成膜効率を向上させることができる。また、ダミー基体Dの外周面に対応する領域で放電が弱くなり、基体10Aに比べてダミー基体Dに堆積する膜の膜厚が薄くなるので、ダミー基体Dからの膜剥がれの発生を抑制することができ、堆積膜における球状突起などの膜欠陥の発生を抑制することができる。その結果、得られる電子写真感光体について、膜質の均一性の向上を図り、ひいては画像品質の向上を図ることが可能となる。
また、基体10Aに比べてダミー基体Dに堆積する膜の膜厚が薄くなることから、原料ガスの導入口21bの配置を、ダミー基体Dに比べて基体10Aに対してより多くの原料ガスが到達するように設定することにより、ダミー基体Dに堆積する膜の膜厚をより薄くしてダミー基体Dからの膜剥がれの発生を抑制することもできる。
本発明に係る堆積膜形成装置および堆積膜形成方法は、以上の実施形態の例に限定されるものではなく、発明の要旨および思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、基体10Aとして上下に2つを配置した例が示されているが、前述のように、円筒状基体は1つでもよく、3つ以上を上下に配置してもよい。さらに、基体10Aを円筒状の堆積室20の中央の1箇所に配置した例が示されているが、堆積室の中に例えば同心円状の複数箇所に基体を配置して、それら基体を囲むように円筒状の電極または複数の棒状あるいは板状の電極を配置してもよい。
また、円筒状基体とダミー基体との組合せの例としては、図4(a)の模式的斜視図で概略構成を示すように、下から順に下ダミー基体D1、基体10A、中間ダミー基体D2、基体10Aおよび上ダミー基体D3を積み上げていた。これにより、放電空間のうち、外周面が誘電体からなる下ダミー基体D1、中間ダミー基体D2および上ダミー基体D3に対応する領域で放電が弱くなり、これらダミー基体D(D1〜D3)の間に配置された導電性の各基体10Aに対応する領域で放電が強くなって、プラズマがより活性化して成膜効率
が向上する。
これに対して、ダミー基体Dのうち中間ダミー基体D2は、必要に応じて用いればよく、省略しても構わない。すなわち、図4(b)に同じく模式的斜視図で示すように、下から順に下ダミー基体D1、基体10A、基体10Aおよび上ダミー基体D3を積み上げるようにしてもよい。これにより、放電空間のうち、外周面が誘電体からなる下ダミー基体D1および上ダミー基体D3に対応する領域で放電が弱くなり、これらダミー基体D(D1,D3)の間に配置された導電性の上下に連なる基体10Aに対応する領域で放電が強くなって、プラズマがより活性化して成膜効率が向上する。
次に、図5は、本発明に係る堆積膜形成装置の実施形態の他の例の概略構成を示す模式的断面図である。この堆積膜形成装置101は、図1に示す堆積膜形成装置100と同様のプラズマCVD装置であり、電極および原料ガス導入手段の構成が若干異なること以外は、概ね同じ構成であるので、同じ構成には同じ参照符号を付して説明は省略する。
堆積膜形成装置101において、堆積室20は、反応容器を兼ねる電極21’によって堆積膜
を形成するための空間が仕切られている。この電極21’は原料ガス導入手段を兼ねておらず、原料ガスの供給口および放電空間への複数の導入口を備えていない。本例では、原料ガスは、円筒状基体10Aと電極21’との間の放電空間内に上下方向に配置された管状体91に形成された導入口91bから放電空間に導入される。
放電空間への原料ガス導入手段である管状体91は、例えば複数本が基体10Aを囲むように、例えば周方向に3本〜8本程度が例えば同じ円周上に等間隔で配置される。管状体91は、例えば絶縁部材25に取り付けられて、ガス供給機構70からの配管75がプレート23を介して接続されており、外周面に原料ガスの放電空間への複数の導入口91bを複数有している。
管状体91における複数の導入口91bは、管状体91の内部に供給されたエッチングガスまたは原料ガスを基体10Aに向けて放電空間に吹き出して導入するための開口であり、図の上下方向において例えば等間隔あるいは堆積膜の分布に合わせた間隔で配置される。導入口91bの向きは、基体10Aに向かう方向であっても、基体10Aから逸れる方向であってもよい。これら管状体91の径、形状、本数および配置、ならびに複数の導入口91bの孔径、形状および配置については、適宜設定可能である。
このような構成は、特許文献2(特開2014−26101号公報)にも開示されている周知の
ものである。原料ガス導入手段に複数の管状体91を用いることにより、その配置および導入口91bの配置を調整することによって、基体10Aの外周面に形成される堆積膜の膜厚、膜質および膜特性の均一化を図ることができる。
管状体91の材料としては、導電性でも絶縁性でもよい。導電性の材料としては、例えばAl,Cr,Mo,Au,In,Nb,Te,V,Ti,Pt,Pd,Feなどの金属およびこれらの合金、例えばステンレス鋼などが挙げられる。絶縁性の材料としては、例えばAl2O3,MgO,ZrO2,SiO2,Y2O3などを主成分とするアルミナ,ムライト,コージェライトなどの酸化物系セラミックス、炭化珪素などの炭化物系セラミックス、および窒化珪素,窒化アルミ,窒化硼素などの窒化物系セラミックスの少なくとも1種からなるものが挙げられる。
このような堆積膜形成装置101およびこれを用いる堆積膜形成方法によっても同様に、
ダミー基体Dの外周面が誘電体からなることから、放電空間における放電が基体10Aの外周面に対応する領域に比べてダミー基体Dの外周面に対応する領域において弱くなり、基
体10Aの外周面に対応する領域で放電が強くなり、プラズマがより活性化する。これにより、基体10Aの外周面への堆積膜の成膜効率を向上させることができる。また、ダミー基体Dの外周面に対応する領域で放電が弱くなり、基体10Aに比べてダミー基体Dに堆積する膜の膜厚が薄くなるので、ダミー基体Dからの膜剥がれの発生を抑制することができ、堆積膜における球状突起などの膜欠陥の発生を抑制することができる。その結果、得られる電子写真感光体について、膜質の均一性の向上を図り、ひいては画像品質の向上を図ることが可能となる。
また、以上の実施形態の各例では、上下に2本重ねた円筒状基体10Aを堆積室20の中央に配置した例を示したが、基体10Aは堆積室20内に複数本を円周上に配置するようにしてもよい。その場合には、基体10Aの配置に応じて電極21,21’および管状体91は公知の種々の構成で配置すればよい。
また、以上の実施形態の各例では、円筒状基体10Aとの間の放電空間にプラズマを生成するための電極としては、堆積室20の容器を兼ねる円筒状の電極21,21’を示したが、ダミー基体Dおよび基体10Aを囲むように堆積室20内に配置された、管状体91と同様に上下方向に長い棒状または板状の電極を用いて、複数本例えば3〜8本が円周上に等間隔で配置されているものであってもよい。このような電極を用いると、その配置によって放電空間におけるプラズマの分布をダミー基体Dおよび基体10Aの周囲で所望の分布に調整することが可能となる。
図1に示す構成の本発明に係る堆積膜形成装置を用い、円筒状基体としてアルミニウム合金素管(外径30mm、長さ254mm、厚み1.5mm)を用いて、その外周面に堆積膜としてa−Si系の感光体層(電荷注入阻止層、光導電層および表面層)を形成して、電子写真感光体を作製した。その成膜条件を表1に示す。なお、表1において原料ガスは流量を示したが、B2H6およびNOについてはSiH4の流量に対する流量比で表している。また、プラズマを生成するための電源には、直流パルス電源(パルス周波数:50kHz、Duty比:70%)を使用した。また、ダミー基体の外径および厚みは基体と同じとし、軸方向の長さは、それぞれ下ダミー基体は145mm、中間ダミー基体は20mm、上ダミー基体
は90mmとした。
表1に示す条件において、表面層は膜厚0.3μmのa−SiC系の第1層領域から膜厚0.7μmの第2層領域を経て膜厚0.2μmのa−C系の第3層領域に到る構成の同じ条件と
したが、電荷注入阻止層および光導電層は膜厚の組合せを表2に示す条件とした。
まず、表3に示すように、ダミー基体の外周面の材料について評価する比較例である1,2および実施例である3〜5を作製した。比較例である1はアルミニウムからなる、2はSUSからなるダミー基体である。本発明の実施例である3〜5はSUSからなる導電体部分にセラミックスからなる被膜を50μmの厚みで溶射したものであり、3はアルミナ(Al2O3)を、4はグレーアルミナ(Al2O3/3TiO2)を、5はクロミア(Cr2O3)を溶射したものである。
また、表1および表2に示す6通りの成膜条件で作製した結果の評価は、ダミー基体の外観特性および感光体の外観特性によって行なった。ダミー基体の外観特性については、全体の目視により、膜剥がれが無かったものを◎とし、エッジ部に数ヶ所の膜剥がれが発生したものを○とし、外周面の一部に膜剥がれが発生したものを△とし、外周面に多数の膜剥がれが発生したものを×とした。また、感光体の外観特性については、全体の目視および双眼顕微鏡視によってφ0.3mmの膜欠陥(球状突起)の個数を確認し、1個以下の
ものを◎とし、3個以下のものを○とし、5個以下のものを△とし、6個以上のものを×とした。
以上の条件および外観特性の結果を表3に示す。
表3に示す結果より、比較例である1および2では、ダミー基体の外周面が導電体からなることから、ダミー基体には堆積膜の膜剥がれが発生し、感光体には膜欠陥が6個以上、良好な場合でも2個以上確認された。これに対して、実施例である3〜5では、ダミー基体には膜剥がれが無いかエッジ部に数ヶ所の膜剥がれが発生した程度であり、いずれも良好であった。また、感光体には膜欠陥が3個以下といずれも良好であった。
次に、ダミー基体の外周面にアルミナを溶射したときの誘電体被膜の厚みについての評価を行なった。その条件および外観特性の評価結果を表4に示す。比較例である2はSUSからなるダミー基体であり、実施例である6〜9はSUSからなる導電体部分に誘電体部分としてアルミナの溶射を厚み5μmから100μmと変えたダミー基体である。なお、
3は表3に示した実施例3と同じものである。また、実施例である10は、全体がアルミナセラミックスからなるダミー基体である。
これらの比較例および実施例のダミー基体および感光体についても同様に外観特性を評価した。その結果を表4に示す。
表4に示す結果より、比較例である2に対して、実施例である3,6〜9は、ダミー基体の膜剥がれおよび感光体の膜欠陥はいずれも良好であった。また、3,6〜9の結果から分かるように、セラミックスの溶射によって外周面側の誘電体部分を構成する場合に、その厚みは10μm以上とするのがより良好であり、さらに50μm以上とするのが、全体をセラミックスで構成した場合の10と同様の結果となって、さらに良好であった。なお、実施例6においては、厚みが5μmとやや薄いことから、特に成膜条件6のように感光体層の膜厚が厚くなると、ダミー基体および感光体の外観特性がともに△と良好であるものの、むらが生じてやや劣る傾向が見られたので、誘電体部分の厚みは10μm以上とするのが好ましい。
次に、ダミー基体の外周面がセラミックスを溶射した誘電体部分である場合に、さらに端面にもセラミックスを溶射することの効果を確認した。その条件および外観特性の評価結果を表5に示す。表3および表4に示すセラミックスを溶射した実施例は、いずれもダミー基体の端面には同じ被膜を溶射していなかったので、表5においては、アルミナセラミックスを30μmの厚みで溶射した実施例である8を「端面溶射なし」とし、同じ厚みで端面にも溶射した11を「端面溶射あり」とした。比較例として2を、全体をアルミナセラミックスで構成した実施例として10を合わせて示した。
これらの比較例および実施例のダミー基体および感光体についても同様に外観特性を評価した。その結果を表5に示す。
表5に示す結果より、実施例の8では特に成膜条件5でダミー基体の膜剥がれおよび感光体の膜欠陥の外観特性がやや低下する傾向があった。これに対して、「端面溶射あり」の11では、いずれの場合でも良好な結果であった。
次に、ダミー基体の外径と基体の外径とで違いがある場合の影響について、ダミー基体の半径と基体の半径との差を「ダミー基体段差」として、全体がアルミナセラミックスからなるダミー基体を用いて確認した。表4および表5に示した実施例10はダミー基体段差が0mmであったので、これとともに、ダミー基体段差が−0.5mm、+0.5mm、+1mmおよび+2mmの場合を実施例12〜15とした。
これらの比較例および実施例のダミー基体および感光体についても同様に外観特性を評価した。その結果を表6に示す。
表6に示す結果より、ダミー基体の外径が基体の外径よりも小さい実施例12では、基体の端面が堆積膜の形成中にプラズマにさらされやすくなり、基体の端面に回り込む膜が比較的厚くなるため、特に感光体層の膜厚が厚い場合にダミー基体の膜剥がれおよび感光体の膜欠陥の外観特性がやや低下する傾向があった。これに対して、ダミー基体の外径が基体の外径よりも大きい場合には、外観特性の評価についてはいずれも良好であった。ただし、ダミー基体段差が+2mm以上になると、ダミー基体および感光体の外観特性はともに△と良好であるものの、基体の端部における放電およびプラズマの状態が不安定になる傾向があるため、局所的な膜厚むらが生じやすくなる傾向があった。従って、ダミー基体段差については、−0.5mm以上+1.5mm以下であることが好ましく、0mm以上+0.5
mm以下であることがより好ましい。
また、本発明の実施例により作製した感光体を画像形成装置に搭載し、印画評価を行なったところ、印画結果において膜欠陥が原因となる画像黒点の様子は、それぞれ外観特性における膜欠陥に対応するものが確認された程度で、いずれも良好な画像品質であった。
以上、本発明の具体的な実施形態の例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。