JP2020001369A - 液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】液体噴射ヘッドにおける振動板のクラックを抑制する。【解決手段】液体が充填される圧力室の壁面を構成する振動板と、前記振動板を振動させることで前記圧力室内の液体をノズルから噴射させる圧電素子とを具備し、前記振動板は、酸化シリコンで形成された第1層と、前記第1層からみて前記圧力室とは反対側に酸化ジルコニウムで形成された第2層とを含み、前記第1層の膜厚に対する前記第2層の膜厚の比は、0.16以上であり、前記第2層の膜厚は、300nm以上である液体噴射ヘッド。【選択図】図5
Description
本発明は、振動板の振動によりインク等の液体を噴射する技術に関する。
圧力室の壁面を構成する振動板を圧電素子により振動させることで圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射ヘッドが、従来から提案されている。例えば特許文献1には、酸化シリコン(SiO2)で形成された第1層と、酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成された第2層との積層により振動板を形成した構成が開示されている。振動板の面上には、第1電極と圧電体層と第2電極とを積層した圧電素子が形成される。
近年の液体噴射ヘッドにはノズルの高密度化が要求される。高密度にノズルが配置された構成において振動板を充分に振動させるには、振動板の薄型化が重要である。しかし、振動板を薄型化した構成では機械的な強度が不足し易いから、振動板にクラックが発生する可能性がある。
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る液体噴射ヘッドは、液体が充填される圧力室の壁面を構成する振動板と、前記振動板を振動させることで前記圧力室内の液体をノズルから噴射させる圧電素子とを具備し、前記振動板は、酸化シリコンで形成された第1層と、前記第1層からみて前記圧力室とは反対側に酸化ジルコニウムで形成された第2層とを含み、前記第1層の膜厚に対する前記第2層の膜厚の比は、0.16以上であり、前記第2層の膜厚は、300nm以上である。
<液体噴射装置の構造>
図1は、本発明の好適な形態に係る液体噴射装置100を例示する構成図である。本実施形態の液体噴射装置100は、液体の例示であるインクを媒体12に噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。図1に例示される通り、液体噴射装置100には、インクを貯留する液体容器14が設置される。例えば液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、またはインクを補充可能なインクタンクが液体容器14として利用される。
図1は、本発明の好適な形態に係る液体噴射装置100を例示する構成図である。本実施形態の液体噴射装置100は、液体の例示であるインクを媒体12に噴射するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙であるが、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象が媒体12として利用される。図1に例示される通り、液体噴射装置100には、インクを貯留する液体容器14が設置される。例えば液体噴射装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、またはインクを補充可能なインクタンクが液体容器14として利用される。
図1に例示される通り、液体噴射装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体噴射ヘッド26とを具備する。制御ユニット20は、例えばCPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体噴射装置100の各要素を統括的に制御する。搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで媒体12をY方向に搬送する。
移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで液体噴射ヘッド26をX方向に往復させる。本実施形態の移動機構24は、液体噴射ヘッド26を収容する略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定された搬送ベルト244とを具備する。X方向は、液体噴射ヘッド26が媒体12に対して相対的に移動する方向であり、液体噴射ヘッド26が搬送体242とともに移動する構成では、媒体12が搬送されるY方向に交差する方向である。X方向は、Y方向に直交することが好ましい。なお、複数の液体噴射ヘッド26を搬送体242に搭載した構成、または、液体容器14を液体噴射ヘッド26とともに搬送体242に搭載した構成も採用され得る。液体噴射ヘッド26を移動させない構成においては、媒体12が移動する方向がY方向に相当する。Y方向は、第1方向の例示であり、X方向は、第2方向の例示である。
液体噴射ヘッド26は、液体容器14から供給されるインクを制御ユニット20による制御のもとで複数のノズルから媒体12に噴射する。搬送機構22による媒体12の搬送と搬送体242の反復的な往復とに並行して各液体噴射ヘッド26が媒体12にインクを噴射することで、媒体12の表面に画像が形成される。
図2は、液体噴射ヘッド26の分解斜視図であり、図3は、図2におけるIII-III線の断面図である。図3に図示された断面は、X-Z平面に平行な断面である。図2に例示される通り、X-Y平面に垂直な方向を以下ではZ方向と表記する。各液体噴射ヘッド26によるインクの噴射方向がZ方向に相当する。
図2および図3に例示される通り、液体噴射ヘッド26は、Y方向に長い略矩形状の流路基板32を具備する。流路基板32のうちZ方向における負側の面上には、圧力室基板34と振動板36と複数の圧電素子38と筐体部42と封止体44とが設置される。他方、流路基板32のうちZ方向における正側の面上には、ノズル板46と吸振体48とが設置される。液体噴射ヘッド26の各要素は、概略的には流路基板32と同様にY方向に長い板状部材であり、例えば接着剤を利用して相互に接合される。液体噴射ヘッド26の外形もY方向に長いことが好ましい。
図2に例示される通り、ノズル板46は、Y方向に配列する複数のノズルNが形成された板状部材である。各ノズルNは、インクが通過する貫通孔である。なお、流路基板32と圧力室基板34とノズル板46とは、例えばシリコン(Si)の単結晶基板をエッチング等の半導体製造技術により加工することで形成される。ただし、液体噴射ヘッド26の各要素の材料や製法は任意である。Y方向は、複数のノズルNが配列する方向とも換言され得る。本実施形態の液体噴射ヘッド26においては、Y方向に沿って1インチあたり300個以上の高密度で複数のノズルNが形成される。すなわち、複数のノズルNがY方向に沿って300npi(nozzle per inch)以上の密度で形成される。さらに好適な態様では、Y方向に沿って1インチあたり600個(600npi)以上の高密度で複数のノズルNが形成される。
流路基板32は、インクの流路を形成するための板状部材である。図2および図3に例示される通り、流路基板32には、開口部322と供給流路324と連通流路326とが形成される。開口部322は、Z方向からみた平面視において、複数のノズルNにわたり連続するようにY方向に沿って長い貫通孔である。他方、供給流路324および連通流路326は、ノズルN毎に個別に形成された貫通孔である。また、図3に例示される通り、流路基板32のうちZ方向における正側の表面には、複数の供給流路324にわたる中継流路328が形成される。中継流路328は、開口部322と複数の供給流路324とを連通させる流路である。
筐体部42は、例えば樹脂材料の射出成形で製造された構造体であり、流路基板32のうちZ方向における負側の表面に固定される。図3に例示される通り、筐体部42には収容部422と導入口424とが形成される。収容部422は、流路基板32の開口部322に対応した外形の凹部であり、導入口424は、収容部422に連通する貫通孔である。図3から理解される通り、流路基板32の開口部322と筐体部42の収容部422とを相互に連通させた空間が液体貯留室(リザーバー)Rとして機能する。液体容器14から供給されて導入口424を通過したインクが液体貯留室Rに貯留される。
吸振体48は、液体貯留室R内の圧力変動を吸収するための要素であり、例えば弾性変形が可能な可撓性のシート部材を含んで構成される。具体的には、流路基板32の開口部322と中継流路328と複数の供給流路324とを閉塞して液体貯留室Rの底面を構成するように、流路基板32のうちZ方向における正側の表面に吸振体48が設置される。
図2および図3に例示される通り、圧力室基板34は、相異なるノズルNに対応する複数の圧力室Cが形成された板状部材である。複数の圧力室Cは、Y方向に沿って配列する。すなわち、複数のノズルNが高密度に配列されるY方向に沿って複数の圧力室Cも配列する。複数の圧力室Cが配列する方向をY方向と表現してもよい。各圧力室Cは、平面視で複数の圧力室Cが配列するY方向に交差するX方向に沿って長い開口である。すなわち、X方向における圧力室Cの長さは、X方向に交差するY方向における圧力室Cの長さよりも長い。X方向の正側における圧力室Cの端部は平面視で流路基板32の1個の供給流路324に重なり、X方向の負側における圧力室Cの端部は平面視で流路基板32の1個の連通流路326に重なる。開口部322と収容部422とで構成される前述の液体貯留室Rは、複数の圧力室Cにインクを供給する共通液室として機能する。
圧力室基板34のうち流路基板32とは反対側の表面には振動板36が設置される。振動板36は、弾性的に変形可能な板状部材である。図3に例示される通り、本実施形態の振動板36は、第1層361と第2層362との積層で構成される。第2層362は、第1層361からみて圧力室基板34とは反対側に位置する。第1層361は、酸化シリコン(SiO2)で形成される。第2層362は、酸化ジルコニウム(ZrO2)で形成される。
図3から理解される通り、流路基板32と振動板36とは、各圧力室Cの内側で相互に間隔をあけて対向する。圧力室Cは、流路基板32と振動板36との間に位置し、当該圧力室C内に充填されたインクに圧力を付与するための空間である。液体貯留室Rに貯留されたインクは、中継流路328から各供給流路324に分岐して複数の圧力室Cに並列に供給および充填される。以上の説明から理解される通り、振動板36は、圧力室Cの壁面を構成する。
図2および図3に例示される通り、振動板36のうち圧力室Cとは反対側の表面(すなわち第2層362の表面)には、相異なるノズルNに対応する複数の圧電素子38が設置される。各圧電素子38は、駆動信号の供給により変形するアクチュエーターであり、平面視で複数の圧力室Cが配列するY方向に交差するX方向に沿って長い形成される。複数の圧電素子38は、複数の圧力室Cに対応するようにY方向に配列する。圧電素子38の変形に連動して振動板36が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することで、圧力室Cに充填されたインクが連通流路326とノズルNとを通過して噴射される。すなわち、圧電素子38は、振動板36を振動させることで圧力室C内のインクをノズルNから噴射させる。
図2および図3の封止体44は、複数の圧電素子38を保護するとともに圧力室基板34および振動板36の機械的な強度を補強する構造体であり、振動板36の表面に例えば接着剤で固定される。封止体44のうち振動板36との対向面に形成された凹部の内側に複数の圧電素子38が収容される。
図3に例示される通り、振動板36の表面には、例えば配線基板50が接合される。配線基板50は、制御ユニット20または電源回路(図示略)と液体噴射ヘッド26とを電気的に接続するための複数の配線(図示略)が形成された実装部品である。例えばFPC(Flexible Printed Circuit)やFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板50が好適に採用される。圧電素子38を駆動するための駆動信号が配線基板50から各圧電素子38に供給される。
各圧電素子38の具体的な構成を以下に詳述する。図4は、複数の圧電素子38の平面図である。なお、図4では、任意の1個の要素の奥側に位置する要素の周縁も便宜的に実線で図示されている。また、図5は、図4におけるV-V線の断面図であり、図6は、図4におけるVI-VI線の断面図である。
図4から図6に例示される通り、圧電素子38は、概略的には、第1電極51と圧電体層52と第2電極53との積層で構成される。なお、本明細書において「要素Aと要素Bとが積層される」という表現は、要素Aと要素Bとが直接的に接触する構成に限定する趣旨ではない。すなわち、要素Aと要素Bとの間に他の要素Cが介在する構成も、「要素Aと要素Bとが積層される」という概念に包含される。また、「要素Aの面上に要素Bが形成される」という表現も同様に、要素Aと要素Bとが直接的に接触する構成には限定されない。すなわち、要素Aの表面に要素Cが形成され、要素Cの表面に要素Bが形成された構成でも、要素Aと要素Bとの少なくとも一部が平面視で重なる構成であれば、「要素Aの面上に要素Bが形成される」という概念に包含される。
第1電極51は、振動板36の面上に形成される。第1電極51は、圧電素子38毎に相互に離間して形成された個別電極である。具体的には、X方向に延在する複数の第1電極51が、相互に間隔をあけてY方向に配列する。各圧電素子38の第1電極51には、当該圧電素子38に対応するノズルNからのインクの噴射を制御するための駆動信号が配線基板50を介して印加される。
圧電体層52は、第1電極51の面上に形成される。圧電体層52は、複数の圧電素子38にわたり連続するようにY方向に延在する帯状の誘電膜である。図4に例示される通り、圧電体層52のうち相互に隣合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域には、X方向に長い切欠521が形成される。切欠521は、圧電体層52を貫通する貫通孔である。以上の構成によれば、各圧電素子38は圧力室C毎に個別に変形し、圧電素子38の相互間における振動の伝播が抑制される。したがって、各ノズルNによるインクの噴射特性を高精度に制御することが可能である。噴射特性は、例えば噴射量、噴射方向または噴射速度である。
第2電極53は、圧電体層52の面上に形成される。具体的には、第2電極53は、複数の圧電素子38にわたり連続するようにY方向に延在する帯状の共通電極である。第2電極53には所定の基準電圧が印加される。
第1電極51に印加される駆動信号と第2電極53に供給される基準電圧との電圧差に応じて圧電体層52が変形する。すなわち、第1電極51と第2電極53とが圧電体層52を挟んで相互に対向する部分が圧電素子38として機能する。圧力室C毎に圧電素子38が個別に形成される。具体的には、複数の圧力室Cが配列するY方向に交差するX方向に沿って長く形成された複数の圧電素子38が、相互に間隔をあけてY方向に配列する。Y方向における圧力室Cの幅は、Y方向における圧電素子38の幅よりも大きい。
第2電極53の面上には第1導電体55と第2導電体56とが形成される。第1導電体55は、第2電極53におけるX方向の負側の縁辺に沿ってY方向に延在する帯状の導電膜である。第2導電体56は、第2電極53におけるX方向の正側の縁辺に沿ってY方向に延在する帯状の導電膜である。第1導電体55および第2導電体56は、例えば金(Au)等の低抵抗な導電材料を利用して同層から形成される。第1導電体55と第2導電体56とを形成することで、第2電極53における基準電圧の電圧降下が抑制される。
第1導電体55および第2導電体56は、振動板36および圧電素子38の変形を抑制するための錘としても機能する。すなわち、振動板36のうち第1導電体55と第2導電体56との間の領域が、圧電素子38の変形に連動して実際に振動する領域(以下「振動領域」という)Aである。X方向における振動領域Aの範囲は、第1導電体55におけるX方向の正側の縁辺と第2導電体56におけるX方向の負側の縁辺との間である。Y方向における振動領域Aの範囲は、圧力室CにおけるY方向の負側の縁辺と正側の縁辺との間である。図5から理解される通り、複数の圧力室Cが配列するY方向に交差するX方向に長い複数の振動領域Aが、相互に間隔をあけてY方向に配列する。すなわち、各振動領域AのY方向の寸法はX方向の寸法を下回る。振動板36の振動領域Aには、圧力室Cが長いX方向に沿ってクラックが発生し易いという傾向がある。
図6に例示される通り、振動板36の振動領域Aは、圧電素子38の短手方向において第1部分V1と第2部分V2とを含む。第1部分V1は、圧電素子38に平面視で重なる領域であり、第2部分V2は、平面視で圧電素子38の外側に位置する領域である。第2部分V2は、第1部分V1を弾性的に支持する腕状の部分に相当する。図6から理解される通り、第2部分V2における第2層362の膜厚T2は、第1部分V1における第2層362の膜厚T1を下回る。すなわち、第2部分V2においては振動板36の第2層362がZ方向に部分的に除去される。
振動板36にはクラックが発生し得る。具体的には、振動領域Aの長辺に沿って発生するクラック(以下「縦クラック」という)と、振動領域Aの短辺に沿って発生するクラック(以下「横クラック」という)とが、振動板36には発生し得る。また、横クラックが発生した状態では、第2電極53のうち当該横クラックの近傍の周縁において焼損(以下「縁部焼損」という)が発生し得る。本願発明者は、以上に例示した破損の態様(以下「破損モード」という)と、振動板36の第2層362の膜厚T1との間の相関を調査した。破損モードは、縦クラック、横クラックおよび縁部焼損である。
図7および図8は、複数の圧力室Cが配列するY方向に交差するX方向に長い振動領域Aを有する液体噴射ヘッド26を使用し、第2層362の膜厚T1を変化させた複数の場合の各々について各破損モードが観測された圧電素子38の比率(以下「破損発生率」という)Paを図示したグラフである。図7および図8においては、複数の圧電素子38の各々に印加される電圧を所定の範囲内で段階的に増加させ、最終的に各破損モードによる破損が発生した圧電素子38の比率が破損発生率Paとして縦軸に図示されている。具体的には、図7には、縦クラックおよび横クラックの双方の破損発生率Paと、横クラックおよび縁部焼損の双方の破損発生率Paとが図示されている。図8には、縦クラックの破損発生率Paと縁部焼損の破損発生率Paとが図示されている。図7および図8から理解される通り、第2層362の膜厚T1が小さいほど縦クラックが発生し易く、第2層362の膜厚T1が大きいほど横クラックおよび焼損が発生し易いという傾向がある。
図9は、複数の圧力室Cが配列するY方向に交差するX方向に長い振動領域Aを有する液体噴射ヘッド26を使用し、第1層361の膜厚Taに対する第2層362の膜厚T1の比(以下「膜厚比」という)Qを変化させた複数の場合の各々について各破損モードの発生率(以下「破損モード発生率」という)Pbを図示したグラフである。図10は、図9の各数値を示す図表である。なお、図10には、振動領域Aの第1部分V1の膜厚T1と第2部分V2の膜厚T2と膜厚比Qとに加えて、圧力室Cの幅Wc,圧電体層52の幅Wp,第1電極51の幅W1および第1層361の膜厚Taが併記されている。図9および図10においては、圧電素子38または振動板36に破損が発生するまで各圧電素子38の印加電圧を段階的に増加させ、最終的に観測された破損モードの回数の比率が破損モード発生率Pbとして縦軸に図示されている。したがって、3種類の破損モードにわたる各破損モード発生率の合計値は100%である。図9および図10から理解される通り、膜厚比Q(Q=T1/Ta)が0.16を下回る構成では、縦クラックおよび横クラックの双方が発生する。他方、膜厚比Qが0.16以上である構成では、観測される破損モードの殆どは横クラックであり、縦クラックは観測されないことが、図9および図10から確認できる。
図11は、図9および図10の試験において振動板36または圧電素子38に破損が発生した時点での圧電素子38の印加電圧Vdと、各破損モード発生率Pbとの関係を示すグラフである。図11から理解される通り、約70V以上の高電圧を圧電素子38に印加しなければ振動板36に横クラックは発生しないのに対し、振動板36の縦クラックは、圧電素子38に印加される電圧が70V以下であっても発生し得るという傾向がある。したがって、図9を参照して説明したように膜厚比Qを0.16以上に設定した構成では破損モードの大多数が横クラックであるという傾向からは、膜厚比Qを0.16以上に設定することで、圧電素子38に印加される電圧を70V以下に抑制した構成のもとで縦クラックを有効に抑制できると推測される。以上の結果を考慮して、本実施形態では、膜厚比Qを0.16以上に設定する。
また、前述の通り、第2層362の膜厚T1が大きいほど縦クラックが発生し難いという傾向がある。以上の傾向を考慮すると、第2層362の膜厚T1に充分な寸法を確保した構成が好適である。具体的には、図9および図10を参照すると、第2層362の膜厚T1が300nm以上であれば、振動板36の縦クラックの発生が有効に抑制されるという傾向が観測できる。以上の結果を考慮して、本実施形態では、振動板36の第2層362の膜厚T1が300nm以上に設定される。さらに好適な態様において、第2層362の膜厚T1は500nm以上に設定される。
また、図7および図8から理解される通り、第2層362の膜厚T1が600nm以下であれば、縦クラックの抑制と横クラックおよび焼損の抑制とを両立できるという傾向がある。以上の傾向を考慮して、本実施形態では、第2層362の膜厚T1が600nm以下に設定される。以上の構成によれば、縦クラックの抑制と横クラックおよび焼損の抑制とを高い水準で両立できるという利点がある。
以上に説明した通り、本実施形態によれば、振動板36の第1層361に対する第2層362の膜厚比Qが0.16以上に設定され、第2層362の膜厚T1が300nm以上に設定される。したがって、振動板36の横クラックおよび縁部焼損だけでなく縦クラックも有効に抑制することが可能である。
<変形例>
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
以上に例示した各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
(1)前述の形態では、第2電極53の面上に第1導電体55と第2導電体56とを形成したが、第1導電体55および第2導電体56は省略され得る。第1導電体55および第2導電体56が省略された構成では、X方向における振動領域Aの範囲は、圧力室CにおけるX方向の正側の縁辺と負側の縁辺との間の範囲、すなわち圧電体層52が振動する範囲である。
(2)前述の各形態では、第1電極51が個別電極であり第2電極53が共通電極である構成を例示したが、第1電極51を、複数の圧電素子38にわたり連続する共通電極とし、第2電極53を圧電素子38毎に個別の個別電極としてもよい。また、第1電極51および第2電極53の双方を個別電極としてもよい。
(3)前述の各形態では、液体噴射ヘッド26を搭載した搬送体242を往復させるシリアル方式の液体噴射装置100を例示したが、複数のノズルNが媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体噴射装置にも本発明を適用することが可能である。
(4)前述の各形態で例示した液体噴射装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を噴射する液体噴射装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
100…液体噴射装置、12…媒体、14…液体容器、20…制御ユニット、22…搬送機構、24…移動機構、26…液体噴射ヘッド、32……流路基板、34……圧力室基板、36……振動板、361…第1層、362…第2層、38……圧電素子、42……筐体部、44……封止体、46……ノズル板、N……ノズル、48……吸振体、50……配線基板、51…第1電極、52…圧電体層、53…第2電極、C…圧力室、R…液体貯留室。
Claims (8)
- 液体が充填される圧力室の壁面を構成する振動板と、
前記振動板を振動させることで前記圧力室内の液体をノズルから噴射させる圧電素子と
を具備し、
前記振動板は、
酸化シリコンで形成された第1層と、
前記第1層からみて前記圧力室とは反対側に酸化ジルコニウムで形成された第2層と
を含み、
前記第1層の膜厚に対する前記第2層の膜厚の比は、0.16以上であり、
前記第2層の膜厚は、300nm以上である
液体噴射ヘッド。 - 前記第2層の膜厚は、500nm以上である
請求項1の液体噴射ヘッド。 - 前記第2層の膜厚は、600nm以下である
請求項1または請求項2の液体噴射ヘッド。 - 前記圧力室は第1方向に複数配列され、
前記第1方向における前記圧力室の長さは、前記第1方向に交差する第2方向における前記圧力室の長さよりも長い
請求項1から請求項3の何れかの液体噴射ヘッド。 - 前記第1方向における前記ノズルの密度は、300npi以上である
請求項4の液体噴射ヘッド。 - 前記第1方向における前記ノズルの密度は、600npi以上である
請求項5の液体噴射ヘッド。 - 前記第1方向における前記圧力室の幅は、前記第1方向における前記圧電素子の圧電体層の幅よりも大きい
請求項4から請求項6の何れかの液体噴射ヘッド。 - 請求項1から請求項7の何れかの液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置。
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