アンテナの近傍電磁界を測定して遠方界指向性を算出する近傍界測定法(Near Field Measurement;NFM)が知られている。近傍界測定法は、アンテナ近傍で電磁界を測定するため、空間伝搬による電磁波の損失が小さく、指向性だけでなくアンテナの近傍界分布よりアンテナの診断を行うこともできる利点がある。
図12は、NFMによる従来のアンテナ測定装置100の基本構成を示す。信号発生器102は、所定の無線周波(Radio Frequency;RF)の連続波(Continuous Wave;CW)を被測定アンテナ101に供給する。被測定アンテナ101の近傍にて、被測定アンテナ101から出力される電磁界をプローブアンテナ112で受信する。
振幅位相検出部122は、信号発生器102からのRF信号を基準として、プローブアンテナ112で受信した信号の振幅と位相を検出する。具体的には、振幅位相検出部122は、プローブアンテナ112からのRF信号と信号発生器102からのRF信号との振幅比と位相差とを検出する。信号発生器102と振幅位相検出部122が一体化されたベクトルネットワークアナライザを使用することもできる。
プローブ走査機構113は、走査制御部121からの指示信号に従って被測定アンテナ101の近傍の測定平面Pをプローブアンテナ112で走査する。図13は、プローブ走査機構113により実施されるプローブアンテナ112の掃引方法の一例を示す。図13に示す掃引方法では、x軸方向の掃引をy軸方向の間隔Δyで所定の回数繰返して測定平面Pを網羅する。同図中、実線はアンテナ測定を伴うプローブアンテナ112の移動を示し、破線はアンテナ測定を伴わないプローブアンテナ112の移動(戻り)を示している。
遠方界算出部123は、振幅位相検出部122からの振幅及び位相の情報と走査制御部121からのプローブアンテナ112の位置情報とを用いて、遠方界の電界分布を算出する。具体的には、測定平面P内の位置(x,y)における振幅r(x,y)と位相θ(x,y)から電界を複素数E(x,y)=r(x,y)・ejθ(x,y)で表し、測定平面P上の2次元複素電界データE(x,y)を2次元複素逆フーリエ変換し、2次元の座標軸を角度に変換することにより、遠方界の電界分布を得ることができる。
表示部126は、被測定アンテナ101の遠方界の指向性(電界分布)等を測定結果として表示する。
図12の構成では、振幅位相検出部122は、信号発生器102からのRF信号を基準として、プローブアンテナ112で受信したRF信号の振幅と位相を検出する必要があるため、送信器(信号発生器)とアンテナが一体化したアクティブアンテナ等のようにRF信号端子を持たない被測定アンテナの場合には適用することができないという問題があった。
図14は、RF信号端子を持たない被測定アンテナを近傍界測定法により測定するアンテナ測定装置200を示す(例えば、特許文献1参照)。このアンテナ測定装置200では、複数のプローブアンテナ212が用いられ、プローブ走査機構213は走査制御部221からの指示信号に従って複数のプローブアンテナ212の相対位置を保ちつつ測定平面Pをプローブアンテナ212で走査する。振幅位相差検出部222は、複数のプローブアンテナ212からのRF信号の振幅と位相差を検出する。位相算出部223は、複数のプローブアンテナ212からのRF信号の位相差を測定平面P上の近傍界の位相に変換する。遠方界算出部224と表示部225は前述の基本構成と同じである。
この方法は、複数のプローブアンテナ212からのRF信号の位相差を検出するものであり、信号発生器202からのRF信号を使用しないため、RF信号端子を持たない被測定アンテナ201を測定することが可能である。しかしながら、複数のプローブアンテナ212と複数チャネルの振幅位相差検出部222が必要となり、装置が大がかりで高価になるという問題があった。
そこで、図15に示すように、1つのプローブアンテナ312のみを用い、かつ信号発生器302からのRF信号を使用しないで、振幅位相検出部322にてプローブアンテナ312からのRF信号の振幅と位相を検出する構成を考える。
図16は、図15のアンテナ測定装置300の振幅位相検出部322の構成図である。図16に示すように、振幅位相検出部322は、局発信号発生器331とミキサ332を用いてプローブアンテナ312からのRF信号を中間周波(Intermediate Frequency;IF)信号に周波数変換し、フィルタ333で所望のIF信号のスペクトルを抽出し、IF信号をA/D変換器334でディジタル信号に変換し、振幅位相算出器335で該ディジタル信号の振幅と位相を算出することが原理的には可能である。
しかしながら、一般に送信器や信号発生器や振幅位相検出部の局発信号発生器のRF出力信号には、図17に示すように低いオフセット周波数ほど大きな位相雑音が存在する。例えば、オフセット周波数1Hz以下では−30dB/decadeの傾きでオフセット周波数が低いほど位相雑音が増加する。このため、信号発生器302からのRF信号を基準としないで振幅位相検出部322にて位相を検出しようとすると、信号発生器302や局発信号発生器331の位相雑音による誤差が発生し、長時間の測定を行なうほど位相誤差が大きくなる。
信号発生器302と振幅位相検出部322を共通の基準信号(例えば、10MHz基準信号など)に同期するようにしてもよい。しかし、一般に高速無線通信システムで使用されるRFキャリア周波数は数GHz〜数10GHz以上で10MHzなどの基準周波数よりも桁違いに高いため、基準周波数における同期の僅かなドリフトによってRF周波数における大きな位相ドリフトが発生し、長時間の測定では位相誤差が大きくなる。
プローブ走査機構313は、プローブアンテナ312を機械的に移動(掃引)するため、掃引速度を速くするためには大がかりな機構が必要になる。また、プローブアンテナ312で微小な信号を測定するためには、測定の帯域幅を狭くして信号対雑音比を上げる必要があり、振幅及び位相の測定には所要の時間を要する。これらのことから、プローブアンテナ312の掃引速度を上げることには限界がある。
図13に示すようにプローブアンテナ312を掃引する場合、x軸方向の1掃引は比較的短時間で済むのに対して、y軸方向に測定平面Pを網羅するのは長時間を要する。このため、振幅位相検出部322で検出した位相にはy軸方向に見ると大きな位相誤差が含まれることとなり、遠方界に変換した結果においてもy軸方向の指向性の誤差が大きくなる。例えば、近傍界でy軸方向に位相ドリフトが存在すると、遠方界の測定結果における指向性のピークがy軸方向にシフトすることになる。大口径アンテナや多素子アレーアンテナのように鋭い指向性を持ったアンテナを測定する場合には、指向性の誤差が特に問題となる。
y軸方向の位相誤差の影響を軽減するために、特許文献2には、図18に示すようにプローブアンテナ312の掃引を行なう方法が示されている。同図中の第1の掃引は、図13と同様にx軸方向の掃引をy軸方向の間隔Δyで所定の回数繰返して測定平面Pを網羅するものである。図18において第2の掃引は、x=0においてy軸方向に掃引するものである。第2の掃引で得られたy軸方向の位相を用いて、第1の掃引で2次元の測定平面P上にて受信した信号の位相を補正する。第1の掃引におけるy軸方向の移動よりも、第2の掃引におけるy軸方向の移動の方が短時間で完了するため、y軸方向の位相誤差が小さくなり、図13の掃引方法と比べて高精度のアンテナ測定が可能となる。
なお、第1の掃引は2次元の測定平面P上を網羅するように掃引する必要があるのに対して、第2の掃引はy軸方向に1回掃引すればよいため、第1の掃引のみの場合と比較して測定時間の増加は僅かである。また、ここでは第1の掃引をx軸方向に行なう場合を示したが、x軸とy軸を逆にすることも可能であり、特許文献2では第1の掃引をy軸方向に行なう方法が示されている。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアンテナ測定装置1の構成図である。
本実施形態に係るアンテナ測定装置1は、被測定アンテナ2から出力されるRF信号の振幅と位相を近傍界においてプローブアンテナ12で測定し、遠方界での電界分布に変換して測定結果として出力するものである。アンテナ測定装置1は、プローブアンテナ12と、プローブ走査機構13と、走査制御部21と、振幅位相検出部22と、データ記憶部23と、位相補正部24と、遠方界算出部25と、表示部26とを備えている。
被測定アンテナ2は、アンテナ支持部11に支持され、信号発生器3から所定の周波数のCW信号又は既知の変調信号が供給されるようになっている。
本実施形態のアンテナ測定装置1は、信号発生器3から出力されるRF信号が被測定アンテナ2のみに供給される構成である。このため、アンテナ測定装置1は、被測定アンテナ2と信号発生器3が一体化したアクティブアンテナや、複数のアンテナに供給する信号の振幅と位相を制御することにより指向特性を電気的に制御可能なアレイアンテナ等のRF信号端子を持たないアンテナにも適用することができる。
プローブ走査機構13は、被測定アンテナ2の近傍の測定平面Pにおいてプローブアンテナ12を走査するための機構である。図1では、y軸方向の走査機構13bをx軸方向の走査機構13aで駆動する構成となっているが、逆にx軸方向の走査機構をy軸方向の走査機構で駆動する構成にしてもよい。
走査制御部21は、後述する掃引方法に従って所定の掃引速度でプローブアンテナ12を掃引(移動)させるようにプローブ走査機構13を制御するようになっている。また、走査制御部21は、プローブアンテナ12の位置情報をデータ記憶部23等に出力するようになっている。
振幅位相検出部22は、プローブアンテナ12で受信したRF信号の振幅と位相を測定するものである。具体的には、例えば、図16と同様に、局発信号発生器331とミキサ332を用いてプローブアンテナ12からのRF信号をIF信号に周波数変換し、フィルタ333で所望のIF信号のスペクトルを抽出し、IF信号をA/D変換器334でディジタル信号に変換し、CPUやDSP等で構成された振幅位相算出器335において該ディジタル信号の振幅と位相を算出するようになっている。振幅位相検出部22として汎用のRFシグナルアナライザを使用することもできる。信号発生器3と振幅位相検出部22(例えば局発信号発生器331とA/D変換器334のサンプリングクロック)は、共通の基準信号(10MHz基準信号など)に同期するようにしてもよい。
データ記憶部23は、振幅位相検出部22で検出した振幅及び位相のデータを、プローブアンテナ12の位置情報と関連付けて記憶するようになっている。
位相補正部24は、データ記憶部23に記憶されたデータ(位置情報に関連付けられた振幅及び位相)を用いて、振幅位相検出部22で測定された位相の補正を行ない、位置情報に関連付けられた振幅及び補正された位相の情報を遠方界算出部25に出力する。なお、位相補正部24は、データ記憶部23を含む構成であってもよい。
遠方界算出部25は、プローブアンテナ12が測定平面P上で受信したRF信号の振幅及び補正された位相の情報と、走査制御部21から取得したプローブアンテナ12の位置情報とを用いて、遠方界の電界分布を算出する。近傍界から遠方界への変換方法は従来技術と同じである。
表示部26は、被測定アンテナ2の遠方界の電界分布等を測定結果として表示する。
なお、遠方界は、被測定アンテナ2の最大径D(開口寸法)に対し、R>2D2/λを満たす距離R以上離れた位置として規定される。ここで、Rは被測定アンテナ2の開口からの距離、λは自由空間波長である。遠方界は被測定アンテナ2の開口からの距離によって指向性の変化がない領域である。被測定アンテナ2の開口面から放射される電磁界の領域のうち、被測定アンテナ2の開口に近接する領域は、放射に寄与しない電磁界成分が主となるリアクティブ近傍界領域(極近傍)である。近傍界は、リアクティブ近傍界領域と放射遠方界領域の間の領域であり、距離に応じて指向性が変化する領域である。
本実施形態の走査制御部21、振幅位相検出部22(周波数変換部、A/D変換部は除く)、データ記憶部23、位相補正部24、遠方界算出部25は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、入出力インタフェース、外部記憶装置等を有するコンピュータを用いる構成であってもよく、その機能の一部または全部(周波数変換、A/D変換を除く)は、ROM等に記憶された各種プログラムをCPUで実行することにより実現することができる。
図2は、第1の実施形態に係るプローブアンテナ12の掃引方法を示す図である。本実施形態のプローブアンテナ12の掃引は、プローブアンテナ12を測定平面P内で主掃引方向(x軸方向)に複数回掃引させて測定平面Pを網羅する第1の掃引と、プローブアンテナ12を測定平面P内で主掃引方向と直交する副掃引方向(y軸方向)に往復させる第2の掃引とからなる。この第1の掃引は、主掃引方向(x軸方向)の単方向掃引の繰返しからなる。
具体的には、図2に示すように、本実施形態のプローブアンテナ12の掃引は、第1の順方向掃引と第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。すなわち、第1の掃引は第1の順方向掃引であり、第2の掃引は第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。第1の順方向掃引は、x軸の正の方向の掃引をy軸方向の間隔Δyで所定の回数繰返し、測定平面P内を網羅するものである。第2の順方向掃引は、x=0においてy軸の正の方向に掃引し、第2の逆方向掃引は、x=0においてy軸の負の方向に掃引するものである。なお、第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引は、図示の都合上離れているが、実際は同一経路を往復する。ここでは、被測定アンテナ2の中心に対応する測定平面Pの中心をx=0,y=0としたが、最も電界強度が大きい位置をx=0,y=0としてもよい。
本実施形態では、第2の掃引(すなわち第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引)は、測定平面P上、x=0においてy軸の正方向及び負方向に掃引するものであるが、第2の掃引時のx座標は0に限定されるものではなく、被測定アンテナ2の無線信号送信特性に応じて任意の値に設定することができる。
図3は、図2の掃引方法における掃引順序の例を示す図である。図中、実線で示す経路は、測定平面P内でのアンテナ測定を伴うプローブアンテナ12の掃引を示し、破線で示す経路は、アンテナ測定を伴わないプローブアンテナ12の戻りの経路を示す。図3に示す掃引順序は、同図左下からスタートして第1の順方向掃引のx軸の正の方向の掃引を順次y軸の正の方向に繰返し、第1の順方向掃引の終了後に第2の逆方向掃引を行ない、その後第2の順方向掃引を行なうものである。但し、掃引順序はこれに限られるものではなく、任意に掃引順序を入れ替えることができる。
第1の順方向掃引によって得られた位相θ
1f(x,y
i)、第2の順方向掃引によって得られた位相θ
2f(0,y)、及び第2の逆方向掃引によって得られた位相θ
2b(0,y)は、それぞれ次式(10)、(11)、及び(12)により表される。
ここで、iは整数であり、yiは第1の順方向掃引のi番目のx軸方向掃引時のy軸値を表す。y軸方向の掃引ステップをΔyとすると、yi=y0+i・Δyで表される(y0は定数)。φ(x,y)は位置(x,y)における電界の真の位相、φn1f(x,yi)は第1の順方向掃引時の位相雑音、φn2f(0,y)は第2の順方向掃引時の位相雑音、φn2b(0,y)は第2の逆方向掃引時の位相雑音である。
本実施形態では、次式(13)に示すようにして位相補正を行い、補正後の位相θ(x,y
i)を求める。
上記式(13)に従い、位相補正部24は、第2の順方向掃引において第1の掃引と第2の掃引との交点にて振幅位相検出部22で検出した位相と第2の逆方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との平均値と、第1の順方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との差を用いて、第1の順方向掃引において振幅位相検出部22で検出した位相を補正するようになっている。
ここで、プローブアンテナ12のx軸方向の掃引速度をv
xとし、y軸方向の掃引速度をv
yとし、時刻tに対して直線的に変化する位相雑音φ
n(t)=a・t+bを考えると、各掃引時の位相雑音は次式(14)、(15)、(16)により表される。
ここで、a,b,b
2f,b
2bは定数である。
図3に示すように、第1の順方向掃引においてx軸の正の方向の掃引をy軸の正の方向に順次繰り返す場合、x軸方向の掃引幅をw
x,y軸方向の掃引幅をw
y,y軸方向の掃引ステップをΔyとし、x軸方向掃引後に戻る時間を無視すると、
となる。b
1f0は定数である。b
1f(y
i)の変動幅は(a/v
x)・(w
x・w
y/Δy)となるが、本実施形態はこれに限定されるものではないので、一般的なy
iの関数b
1f(y
i)で表している。
補正後の位相θ(x,y
i)は、上記式(10)〜(16)より、次式のようになる。
上記式(20)において、一定の位相オフセット(b2f+b2b)/2はアンテナ測定に影響を与えない。すなわち、y軸方向の位相雑音b1f(yi)の影響を受けない位相θ(x,yi)が得られる。x軸方向の位相雑音(a/vx)・xは残るものの、その変動幅は(a/vx)・wxであり、図18の従来の掃引方法の変動幅よりも小さい(wx/vx=wy/vyの場合、変動幅は1/2に半減)。このように、本実施形態は、時刻に対して直線的に変化する位相雑音が存在する場合、図18に示す従来の掃引方法よりも位相雑音の影響が低減されるので、アンテナの指向性を従来よりも高精度に測定することができる。
また、第1の順方向掃引は、2次元の測定平面P上を網羅するように掃引する必要があり、その掃引距離はwx×(wy/Δy)であるのに対して、第2の順方向掃引及び第2の逆方向掃引はy軸方向に1往復すればよく、その掃引距離はwy×2であるため、第1の順方向掃引のみの場合と比較して測定時間の増加は僅かである。
本実施形態では、第1の順方向掃引をx軸方向に行なう場合を示したが、x軸とy軸を逆にすることも可能であり、x軸及びy軸方向の掃引速度、掃引幅、掃引ステップに応じてより測定時間の短い方を選択することができる。
次に、本実施形態におけるアンテナ測定方法を説明する。
図4は、本実施形態に係るアンテナ測定方法のフローチャートである。
まず、被測定アンテナ2をアンテナ支持部11に設定する(S1)。被測定アンテナ2は、RF信号端子をもたず、信号発生器3と一体化したものであってもよい。
次いで、走査制御部21からプローブ走査機構13に指令を与えることにより、プローブ走査機構13を駆動し、プローブアンテナ12を所定の測定平面P内で所定の距離だけ移動させる(S2)。この移動を繰り返すことによりプローブアンテナ12の掃引を行う。プローブアンテナ12の掃引は、主掃引方向(x軸方向)の掃引を所定回数繰り返して測定平面Pを網羅する第1の掃引と、主掃引方向と直交する副掃引方向(y軸方向)に往復する第2の掃引とからなる。測定平面Pは被測定アンテナ2の近傍に設定されている。
被測定アンテナ2に、信号発生器3より所定の周波数のCW信号又は既知の変調信号を供給し、被測定アンテナ2から無線信号を送信させ、被測定アンテナ2から送信された無線信号をプローブアンテナ12で受信する(S3)。図4の方法では、掃引中のプローブアンテナ12の移動を一旦停止して無線信号を受信する。
次いで、振幅位相検出部22において、プローブアンテナ12で受信した信号の振幅及び位相を検出する(S7)。検出した振幅及び位相のデータは、プローブアンテナ12の位置情報と関連付けられてデータ記憶部23に記憶させる(S8)。
次いで、第1の掃引と第2の掃引のすべての測定点での測定が終了したか否か判断し(S9)、終了していなければ(Noの場合)、ステップS2に戻る。終了していれば(Yesの場合)、次のステップS12に進む。
ステップS12では、上述したように、位相補正部24において、第2の掃引の往路において検出した位相と、第2の掃引の復路において検出した位相との平均値を用いて、第1の掃引において検出した位相を補正する(S12)。
具体的には、上記式(13)に従い、位相補正部24は、第2の掃引の往路において第1の掃引と第2の掃引との交点にて振幅位相検出部22で検出した位相と第2の掃引の復路において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との平均値と、第1の掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との差を用いて、第1の掃引において振幅位相検出部22で検出した位相を補正するようになっている。
次いで、遠方界算出部25において、振幅位相検出部22により検出された振幅の情報と、位相補正部24により補正された位相の情報と、それらに関連付けられた位置情報を用いて、従来の方法により被測定アンテナ2の遠方界の電界強度分布を算出する(S13)。なお、プローブアンテナ12の位置情報は、走査制御部21から位相補正部24及び遠方界算出部25に送られ、位相の補正及び遠方界の電界強度分布の算出に用いられるようにしてもよい。
次いで、表示部26において、遠方界算出部25により算出された被測定アンテナ2の遠方界の電界強度分布等を、測定結果として表示する(S14)。
図5は、本実施形態に係るアンテナ測定方法の別のフローチャートである。
まず、被測定アンテナ2をアンテナ支持部11に設定する(S1)。被測定アンテナ2は、RF信号端子をもたず、信号発生器3と一体化したものであってもよい。被測定アンテナ2に、信号発生器3より所定の周波数のCW信号又は既知の変調信号を供給し、被測定アンテナ2からの無線信号の送信を開始する(S4)。
次いで、走査制御部21からプローブ走査機構13に指令を与えることにより、プローブ走査機構13を駆動し、所定の測定平面P内でのプローブアンテナ12の掃引を開始する(S5)。プローブアンテナ12の掃引は、主掃引方向(x軸方向)の掃引を所定回数繰り返して測定平面Pを網羅する第1の掃引と、主掃引方向と直交する副掃引方向(y軸方向)に往復する第2の掃引とからなる。測定平面Pは被測定アンテナ2の近傍に設定されている。
第1の掃引および第2の掃引の掃引中に(すなわちプローブアンテナ12を掃引しながら)、被測定アンテナ2から送信された無線信号をプローブアンテナ12で受信する(S6)。
次いで、振幅位相検出部22において、プローブアンテナ12で受信した信号の振幅及び位相を検出する(S7)。検出した振幅及び位相のデータは、プローブアンテナ12の位置情報と関連付けられてデータ記憶部23に記憶させる(S8)。
次いで、第1の掃引と第2の掃引のすべての測定点での測定が終了したか否か判断し(S9)、終了していなければ(Noの場合)、ステップS6に戻る。終了していれば(Yesの場合)、プローブアンテナ12の掃引を終了し(S10)、被測定アンテナ2からの無線信号の送信を終了し(S11)、次のステップS12に進む。
ステップS12以降は図4の場合と同じである。図5の方法では、上述したように、プローブアンテナ12を掃引しながら測定を行うため、プローブアンテナ12の移動を一旦停止して測定する図4の方法と比べて一般に短時間での測定が可能である。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、図面を参照して説明する。
第2の実施形態は、プローブアンテナの掃引方法及び位相の補正方法が第1の実施形態と異なっている。アンテナ測定装置の基本構成は、図1に示す第1の実施形態の構成と同一である。
図6は、第2の実施形態に係るプローブアンテナ12の掃引方法を示す図である。
第2の実施形態のプローブアンテナ12の掃引方法は、第1の掃引が主掃引方向(x軸方向)に同一経路を往復する往復掃引の繰返しからなる点で、第1の掃引が主掃引方向の単方向掃引の繰返しからなる第1の実施形態と異なっている。
具体的には、本実施形態のプローブアンテナ12の掃引は、図6に示すように、第1の順方向掃引と第1の逆方向掃引と第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。すなわち、第1の掃引は第1の順方向掃引と第1の逆方向掃引とからなり、第2の掃引は第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。第1の順方向掃引は、x軸の正の方向の掃引をy軸方向の間隔Δyで所定の回数繰返し、測定平面P内を網羅する。第1の逆方向掃引は、第1の順方向掃引のx軸の掃引方向を逆にしたものである。
第2の順方向掃引は、x=0においてy軸の正の方向に掃引し、第2の逆方向掃引は、x=0においてy軸の負の方向に掃引する。なお、第1の順方向掃引と第1の逆方向掃引、及び第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引は図示の都合上離れているが、実際はそれぞれ同一経路を往復する。また、ここでは被測定アンテナ2の中心に対応する測定平面Pの中心をx=0,y=0としたが、最も電界強度が大きい位置をx=0,y=0としてもよい。
図7は、図6の掃引方法における掃引順序の例を示す図である。図中、実線で示す経路は、測定平面P内でのアンテナ測定を伴うプローブアンテナ12の掃引を示し、破線で示す経路は、アンテナ測定を伴わないプローブアンテナ12の戻りの経路を示す。図7に示す掃引順序は、同図左下からスタートして第1の順方向掃引のx軸の正の方向の掃引と第1の逆方向掃引のx軸の負の方向の掃引とを交互に行ない(即ちx軸方向の往復掃引を行ない)ながら、順次y軸の正の方向にΔyずつ移動することを繰返し、第1の順方向及び逆方向掃引の終了後に第2の逆方向掃引を行ない、その後第2の順方向掃引を行なうものである。但し、掃引順序はこれに限られるものではなく、任意に掃引順序を入れ替えることができる。
第1の順方向掃引によって得られた位相θ
1f(x,y
i)、第1の逆方向掃引によって得られた位相θ
1b(x,y
i)、第2の順方向掃引によって得られた位相θ
2f(0,y)、及び第2の逆方向掃引によって得られた位相θ
2b(0,y)は、それぞれ次式(21)、(22)、(23)、及び(24)により表される。
ここで、iは整数であり、yiは第1の順方向掃引及び第1の逆方向掃引のi番目のx軸方向掃引時のy軸値を表す。y軸方向の掃引ステップをΔyとすると、yi=y0+i・Δyで表される(y0は定数)。φ(x,y)は位置(x,y)における電界の真の位相、φn1f(x,yi)は第1の順方向掃引時の位相雑音、φn1b(x,yi)は第1の逆方向掃引時の位相雑音、φn2f(0,y)は第2の順方向掃引時の位相雑音、φn2b(0,y)は第2の逆方向掃引時の位相雑音である。
本実施形態では、次式(25)に示すように位相補正を行い、補正後の位相θ(x,y
i)を求める。
上記式(25)に従い、位相補正部24は、第2の順方向掃引において第1の掃引と第2の掃引との交点にて振幅位相検出部22で検出した位相と第2の逆方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との平均値と、第1の順方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相と第1の逆方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との平均値との差を用いて、第1の順方向掃引において振幅位相検出部22で検出した位相と、第1の逆方向掃引において振幅位相検出部22で検出した位相との平均値の位相を補正するようになっている。
ここで、プローブアンテナ12のx軸方向の掃引速度をv
x,y軸方向の掃引速度をv
yとし、時刻tに対して直線的に変化する位相雑音φ
n(t)=a・t+bを考えると、各掃引時の位相雑音は
となる。ここで、a,b,b
2f,b
2bは定数である。
図7に示すように、第1の順方向掃引のx軸の正の方向の掃引と第1の逆方向掃引のx軸の負の方向の掃引とを交互に行ないつつ、y軸の正方向に順次移動する場合、x軸方向の掃引幅をw
x,y軸方向の掃引幅をw
y,y軸方向の掃引ステップをΔyとし、y軸方向にΔy移動する時間を無視すると、
となる。ここで、b
10は定数である。
b1f(yi)及びb1b(yi)の変動幅は(a/vx)×(2・wx・wy/Δy)となるが、本実施形態はこれに限定されるものではないので、一般的なyiの関数b1f(yi),b1b(yi)で表している。
補正後の位相θ(x,y
i)は、上記式(21)〜(29)より、次式のようになる。
上記式(34)において、一定の位相オフセット(b2f+b2b)/2はアンテナ測定に影響を与えない。すなわち、x軸方向の位相雑音(a/vx)・x及びy軸方向の位相雑音b1f(yi),b1b(yi)の影響を受けない位相θ(x,yi)が得られる。このように、本実施形態は、時刻に対して直線的に変化する位相雑音が存在する場合、x軸及びy軸方向の位相雑音の影響を受けないので、図18に示す従来の掃引方法よりも高精度に被測定アンテナ2の指向性を測定することができる。これは、第1の順方向掃引及び逆方向掃引で得られた位相の平均化によりx軸方向の位相雑音の影響を抑えると共に、第2の順方向掃引及び逆方向掃引で得られた位相の平均を用いた位相補正によりy軸方向の位相雑音の影響を抑えているためである。
本実施形態では、第1の掃引を順方向と逆方向の2回行なう必要があるため、第1の実施形態において第1の順方向掃引のx軸の正の方向の掃引後に戻る時間が十分短い場合と比較すると、約2倍の測定時間を要する。しかし、第1の実施形態において第1の順方向掃引のx軸の正の方向の掃引時間と戻る時間がほぼ等しい場合と比較すると、図7の順序で順方向と逆方向を交互に掃引することにより第1の実施形態と同程度の時間で測定することができる。
また、第1の順方向掃引及び第1の逆方向掃引は、2次元の測定平面P上を網羅するように掃引する必要があり、その掃引距離はwx×(2・wy/Δy)である。これに対し、第2の順方向掃引及び第2の逆方向掃引は、y軸方向に1往復すればよく、その掃引距離はwy×2である。このため、第1の順方向及び逆方向掃引のみの場合と比較して測定時間の増加は僅かである。
本実施形態では、第1の順方向掃引及び逆方向掃引をx軸方向に行なう場合を示したが、x軸とy軸を逆にすることも可能であり、x軸及びy軸方向の掃引速度、掃引幅、掃引ステップに応じてより測定時間の短い方を選択することができる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態について、図面を参照して説明する。
第3の実施形態は、プローブアンテナ12の掃引方法及び位相の補正方法が第1及び第2の実施形態と異なっている。アンテナ測定装置の基本構成は、図1に示す第1の実施形態の構成と同一である。
図8は、第3の実施形態に係るプローブアンテナ12の掃引方法を示す図である。
第3の実施形態のプローブアンテナ12の掃引方法は、第1の掃引が主掃引方向(x軸方向)の往路と復路とが副掃引方向(y軸方向)に交互に繰返し配置された双方向掃引からなる点で、第1の掃引が主掃引方向の単方向掃引の繰返しからなる第1の実施形態、及び第1の掃引が主掃引方向に同一経路を往復する往復掃引の繰返しからなる第2の実施形態と異なっている。
具体的には、図8に示すように、本実施形態のプローブアンテナ12の掃引は、第1の双方向掃引と第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。すなわち、第1の掃引は第1の双方向掃引であり、第2の掃引は第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。第1の双方向掃引は、x軸の正の方向の掃引とx軸の負の方向の掃引がy軸方向の間隔Δyで交互に配置され、測定平面P内を網羅する。第2の実施形態では第1の順方向掃引と第1の逆方向掃引は同一経路を往復するのに対して、第3の実施形態では第1の双方向掃引のx軸の正の方向の掃引とx軸の負の方向の掃引は互いにy軸方向にΔyだけ離れている点が異なっている。
第2の順方向掃引は、x=0においてy軸の正の方向に掃引し、第2の逆方向掃引は、x=0においてy軸の負の方向に掃引する。なお、第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引は図示の都合上離れているが、実際は同一経路を往復する。ここでは被測定アンテナ2の中心に対応する測定平面Pの中心をx=0,y=0としたが、最も電界強度が大きい位置をx=0,y=0としてもよい。
図9は、図8の掃引方法における掃引順序の例を示す図である。図中、実線で示す経路は、測定平面P内でのアンテナ測定を伴うプローブアンテナ12の掃引を示し、破線で示す経路は、アンテナ測定を伴わないプローブアンテナ12の戻りの経路を示す。図9に示す掃引順序は、同図左下から第1の双方向掃引をスタートしてx軸の正の方向に掃引してy軸の正の方向にΔyだけ移動した後、x軸の負の方向に掃引してy軸の正の方向にΔyだけ移動する動作を所定の回数繰返して測定平面P内を網羅した後、第2の逆方向掃引を行ない、その後第2の順方向掃引を行なうものである。但し、掃引順序はこれに限られるものではなく、任意に掃引順序を入れ替えることができる。
第1の双方向掃引によって得られた位相θ
1(x,y
i)、第2の順方向掃引によって得られた位相θ
2f(0,y)、及び第2の逆方向掃引によって得られた位相θ
2b(0,y)は、それぞれ次式(35)、(36)、及び(37)により表される。
ここで、iは整数であり、iが偶数の場合のyiは第1の双方向掃引のx軸の正方向の掃引時のy軸値、iが奇数の場合のyiは第1の双方向掃引のx軸の負方向の掃引時のy軸値を表す。y軸方向の掃引ステップをΔyとすると、yi=y0+i・Δyで表される(y0は定数)。φ(x,y)は位置(x,y)における電界の真の位相、φn1(x,yi)は第1の双方向掃引時の位相雑音、φn2f(0,y)は第2の順方向掃引時の位相雑音、φn2b(0,y)は第2の逆方向掃引時の位相雑音である。
本実施形態では、次式(38)に示すように位相補正を行い、補正後の位相θ(x,y
i)を求める。
上記式(38)に従い、位相補正部24は、第2の順方向掃引において第1の掃引と第2の掃引との交点にて振幅位相検出部22で検出した位相と第2の逆方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との平均値と、第1の双方向掃引において該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との差を用いて、第1の双方向掃引において振幅位相検出部22で検出した位相を補正するようになっている。
ここで、プローブアンテナ12のx軸方向の掃引速度をv
x,y軸方向の掃引速度をv
yとし、時刻tに対して直線的に変化する位相雑音φ
n(t)=a・t+bを考えると、各掃引時の位相雑音は
となる。ここで、a,b,b
2f,b
2bは定数である。
図9に示すように、第1の双方向掃引はx軸の正方向の掃引とx軸の負方向の掃引を掃引毎に切替えつつy軸方向に順次掃引する場合、x軸方向の掃引幅をw
x,y軸方向の掃引幅をw
yとし、y軸方向にΔy移動する時間を無視すると、
となる。ここでb
10は定数である。b
1(y
i)の変動幅は(a/v
x)・(w
x・w
y/Δy)となるが、本実施形態はこれに限定されるものではないので、一般的なyの関数b
1(y
i)で表している。
補正後の位相θ(x,y
i)は、上記式(35)〜(41)より、次式のようになる。
上記式(45)において、一定の位相オフセット(b2f+b2b)/2はアンテナ測定に影響を与えない。すなわち、y軸方向の位相雑音b1(yi)の影響を受けない位相θ(x,yi)が得られる。x軸方向の位相雑音±(a/vx)・xは残るものの、その変動幅は(a/vx)・wxであり、図18の従来の掃引方法の変動幅よりも小さい(wx/vx=wy/vyの場合、変動幅は1/2に減少)。このように、本実施形態は、時刻に対して直線的に変化する位相雑音が存在する場合、図18に示す従来の掃引方法よりも位相雑音の影響が低減されるので、被測定アンテナ2の指向性を従来よりも高精度に測定することができる。
また、上記式(45)において、iが偶数の場合と奇数の場合でx軸方向の位相雑音±(a/vx)・xの符号が反転するため、測定結果におけるアンテナの指向性がx軸方向にずれる問題が抑制される特長を持つ。
また、第3の実施形態は、第1の双方向掃引において、図9に示すようにx軸の正方向の掃引とx軸の負方向の掃引を交互に行なうことにより、x軸掃引の戻り時間を有効に活用することができるので、第2の実施形態と比較して、約1/2の測定時間となり、アンテナ測定時間を大幅に短縮できる。
第1の双方向掃引は、2次元の測定平面P上を網羅するように掃引する必要があり、その掃引距離はwx×(wy/Δy)であるのに対して、第2の順方向掃引及び第2の逆方向掃引は、y軸方向に1往復すればよく、その掃引距離はwy×2である。このため、第1の双方向掃引のみの場合と比較して測定時間の増加は僅かである。
本実施例では、第1の双方向掃引をx軸方向に行なう場合を示したが、x軸とy軸を逆にすることも可能であり、x軸及びy軸方向の掃引速度、掃引幅、掃引ステップに応じてより測定時間の短い方を選択することができる。
(第4の実施形態)
次に、本発明の第4の実施形態について、図面を参照して説明する。
第4の実施形態は、プローブアンテナの掃引方法及び位相の補正方法が第1〜3の実施形態と異なっている。アンテナ測定装置の基本構成は、図1に示す第1の実施形態の構成と同一である。
図10は、第4の実施形態に係るプローブアンテナ12の掃引方法を示す図である。
第4の実施形態のプローブアンテナ12の掃引方法は、第1の掃引が主掃引方向(x軸方向)の往路の掃引と復路の掃引とを交互にかつ副掃引方向(y軸方向)に一定間隔で順次行なう双方向掃引からなり、第1の掃引の開始および終了が第2の掃引と交わるように追加の掃引が含まれている点で、第1〜第3の実施形態と異なっている。
具体的には、図10に示すように、本実施形態のプローブアンテナ12の掃引は、第1の双方向掃引と第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。すなわち、第1の掃引は第1の双方向掃引であり、第2の掃引は第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引とからなる。第1の双方向掃引は、x軸の正の方向の掃引とx軸の負の方向の掃引がy軸方向の間隔Δyで交互に配置され、測定平面P内を網羅する。第3の実施形態では、第1の双方向掃引のx軸の正の方向の掃引とx軸の負の方向の掃引の順序は必ずしも交互に行なう必要は無い。これに対して、第4の実施形態では、図10に示すように第1の双方向掃引のx軸の正の方向の掃引とx軸の負の方向の掃引を交互に行なう必要がある。
また、本実施形態の第1の双方向掃引は、測定平面P内を網羅する掃引に加えて、x=0から開始してx=0で終了するよう追加の掃引が必要である。追加の掃引は、図10に示すように測定平面P内を網羅する掃引と同一経路を往復する場合と、図11に示すように測定平面P内を網羅する掃引の外側にそれぞれy軸方向にΔyだけ広げる場合がある。
第2の順方向掃引は、x=0においてy軸の正の方向に掃引し、第2の逆方向掃引は、x=0においてy軸の負の方向に掃引するものである。なお、第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引は図示の都合上離れているが、実際は同一経路を往復する。第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引において、第1の双方向掃引の追加掃引に対応する測定点を取得する必要があり、図10の場合は掃引の始点と終点においてそれぞれ2回測定を行ない、図11の場合は掃引範囲を上下にそれぞれy軸方向にΔyずつ広げて追加の測定を行なう必要がある。
ここでは被測定アンテナ2の中心に対応する測定平面Pの中心をx=0,y=0としたが、最も電界強度が大きい位置をx=0,y=0としてもよい。第1の双方向掃引全体と第2の順方向掃引と第2の逆方向掃引の順序は入れ替えることが可能であり、例えば、第2の逆方向掃引、第1の双方向掃引、第2の順方向掃引の順に行なうことも可能である。
第1の双方向掃引によって得られた位相θ
1(x,y
i)、第2の順方向掃引によって得られた位相θ
2f(0,y)、及び第2の逆方向掃引によって得られた位相θ
2b(0,y)は、それぞれ次式(46)、(47)、及び(48)により表される。
ここで、iは整数であり、iが偶数の場合のyiは第1の双方向掃引のx軸の正方向の掃引時のy軸値、iが奇数の場合のyiは第1の双方向掃引のx軸の負方向の掃引時のy軸値を表す。y軸方向の掃引ステップをΔyとすると、yi=y0+i・Δyで表される(図10の第1の双方向掃引の追加掃引時を除く。y0は定数)。φ(x,y)は位置(x,y)における電界の真の位相、φn1(x,yi)は第1の双方向掃引時の位相雑音、φn2f(0,y)は第2の順方向掃引時の位相雑音、φn2b(0,y)は第2の逆方向掃引時の位相雑音である。
本実施形態では、次式(49)、(50)により位相補正を行ない、補正後の位相θ(x,y
i)を求める。
ここで、w
xはx軸方向の掃引幅である。
上記式(49)は、離散的な位置(0,yi)における位相補正値θ21(0,yi)を、第1の双方向掃引の間中、例えば位置(0,yi−1)から位置(0,yi)への掃引や位置(0,yi)から位置(0,yi+1)への掃引の間で直線補間する式であり、プローブ走査機構13の加減速時間やy軸方向にΔy移動する時間を無視して簡単化している。プローブ走査機構13の加減速時間やy軸方向にΔy移動する時間が無視できない場合は、それらの時間を考慮して時間軸上で補間する必要がある。
直線補間以外にも3点以上の位相補正値θ21(0,yi)を用いて2次以上の高次多項式で補間したり、所定の点数の位相補正値θ21(0,yi)を用いて関数sin(x)/xで補間したりすることも可能である。一般に多数の測定点を用いて補間を行なうことにより補間精度が向上し位相補正の効果が大きくなるが、追加掃引を増やして補間に必要な測定点数を確保する必要がある。
位相補正部24は、位相補正の上記式(49)、(50)に従い、第1の掃引と第2の掃引との交点にて第2の順方向掃引で検出した位相と第2の逆方向掃引で検出した位相との平均値の位相と、第1の双方向掃引時に該交点にて振幅位相検出部22で検出した位相との差(θ21)を、第1の双方向掃引の該交点の間の掃引区間にて補間して得られた位相補正値を用いて、第1の双方向掃引において振幅位相検出部22で検出した位相を補正するようになっている。
ここで、プローブアンテナ12のx軸方向の掃引速度をv
x,y軸方向の掃引速度をv
yとし、時刻tに対して直線的に変化する位相雑音φ
n(t)=a・t+bを考えると、各掃引時の位相雑音は次式(51)、(52)、(53)により表される。
ここで、a,b,b
10,b
2f,b
2bは定数である。
位相補正値θ
21(0,y
i)及び補正後の位相θ(x,y
i)は、上記式(49)〜(53)より、次式のようになる。
上記式(59)において、一定の位相オフセット(b2f+b2b)/2はアンテナ測定に影響を与えない。すなわち、x軸方向の位相雑音±(a/vx)・x及びy軸方向の位相雑音(a/vx)・(wx/Δy)・yiの影響を受けない位相θ(x,yi)が得られる。このように、本実施形態は、時刻に対して直線的に変化する位相雑音が存在する場合、x軸及びy軸方向の位相雑音の影響を受けないので、図18に示す従来の掃引方法よりも高精度にアンテナの指向性を測定することができる。
また、第4の実施形態は、第1の双方向掃引においてx軸の正方向の掃引とx軸の負方向の掃引を交互に行なうことにより、第3の実施形態と同様に、x軸掃引の戻り時間を有効に活用することができるので、アンテナ測定時間を大幅に短縮することが可能となる。
要するに、本実施形態は、第2の実施形態のx軸方向の位相雑音及びy軸方向の位相雑音の影響を受けない位相が得られる利点と、第3の実施形態の第1の双方向掃引により短い測定時間で測定可能な利点とを兼ね備えた方法である。
また、第1の双方向掃引は、2次元の測定平面P上を網羅するように掃引する必要があり、その掃引距離はwx×(wy/Δy)である。これに対して、第2の順方向掃引及び第2の逆方向掃引は、y軸方向に1往復すればよく、その掃引距離はwy×2である。また、直線補間の場合の第1の双方向掃引における追加の掃引もx軸方向掃引の片道分でよく(追加掃引距離は(wx/2)×2)、第1の双方向掃引のみの場合と比較して、測定時間の増加は僅かである。
本実施形態では、第1の双方向掃引をx軸方向に行なう場合を示したが、x軸とy軸を逆にすることも可能であり、x軸及びy軸方向の掃引速度、掃引幅、掃引ステップに応じてより測定時間の短い方を選択することができる。
以上述べたように、本発明は、位相雑音の影響を低減してアンテナの指向性を高精度に測定することができるという効果を有し、位相測定を伴うアンテナ測定装置及びアンテナ測定方法の全般に有用である。