本明細書中、同一又は類似する部材については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。
本明細書中、「GaN系半導体」とは、窒化ガリウム(GaN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化インジウム(InN)及びそれらの中間組成を備える半導体の総称である。
本明細書中、部品等の位置関係を示すために、図面の上方向を「上」、図面の下方向を「下」と記述する。本明細書中、「上」、「下」の概念は、必ずしも重力の向きとの関係を示す用語ではない。
(第1の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の上の絶縁層と、窒化物半導体層内に位置する第1の領域と、窒化物半導体層内の第1の領域と絶縁層との間に位置し、第1の領域よりも電気抵抗率が大きく、炭素(C)を含む第2の領域と、を備える
また、本実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の上の絶縁層と、窒化物半導体層の結晶構造を構成する窒素原子以外の原子を原子Xとした場合に、窒化物半導体層内の絶縁層の側に位置し、炭素原子と結合するボンドとダングリングボンドとを有する原子Xを有する領域と、を備える。
本実施形態の半導体装置は、上記構成により、窒化物半導体層と絶縁層との界面の近傍に存在し、電子トラップとなる準位を低減できる。したがって、電子トラップに起因する電流コラプスの抑制が可能となる。
以下、窒化物半導体層の結晶構造を構成する窒素原子以外の原子を原子Xとした場合に、原子Xがガリウム(Ga)又は、原子Xがガリウム(Ga)及びアルミニウム(Al)である場合を例に説明する。すなわち、窒化物半導体層が窒化ガリウム、又は、窒化アルミニウムガリウムである場合を例に説明する。
図1は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。本実施形態の半導体装置は、GaN系半導体を用いたHEMT(High Electron Mobility Transistor)である。
図1に示すように、HEMT(半導体装置)100は、基板10、バッファ層12、チャネル層(第1の半導体領域)14、バリア層(第2の半導体領域)16、ソース電極(第1の電極)18、ドレイン電極(第2の電極)20、絶縁層22、p型層24、ゲート電極28を備える。
チャネル層(第1の半導体領域)14と、バリア層(第2の半導体領域)16とが、窒化物半導体層である。バリア層16は、低抵抗領域(第1の領域)16a、高抵抗領域(第2の領域、領域)16bを備える。
基板10は、例えば、シリコン(Si)で形成される。基板10には、シリコン以外にも、例えば、サファイア(Al2O3)や炭化珪素(SiC)を適用することも可能である。
基板10上に、バッファ層12が設けられる。バッファ層12は、基板10とチャネル層14との間の格子不整合を緩和する機能を備える。バッファ層12は、例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlWGa1−WN(0<W<1))の多層構造で形成される。
バッファ層12上に、チャネル層14が設けられる。チャネル層14は電子走行層とも称される。チャネル層14は、例えば、AlXGa1−XN(0≦X<1)である。より具体的には、例えば、GaNである。チャネル層14の厚さは、例えば、0.1μm以上10μm以下である。
チャネル層14上に、バリア層16が設けられる。バリア層16は電子供給層とも称される。バリア層16のバンドギャップは、チャネル層14のバンドギャップよりも大きい。バリア層16は、例えば、AlYGa1−YN(0<Y≦1、X<Y)である。より具体的には、例えば、Al0.25Ga0.75Nである。バリア層16の厚さは、例えば、10nm以上100nm以下である。
チャネル層14とバリア層16との間は、ヘテロ接合界面となる。HEMT100のヘテロ接合界面に2次元電子ガス(2DEG)が形成されキャリアとなる。
バリア層16は、低抵抗領域16aと高抵抗領域16bを備える。高抵抗領域16bは、バリア層16の絶縁層22側に位置する。高抵抗領域16bは、例えば、バリア層16に接する。
高抵抗領域16bの電気抵抗率は、低抵抗領域16aの電気抵抗率よりも大きい。電気抵抗率の大小関係は、例えば、拡がり抵抗測定(Spreading Resistance Analysis:SRA)、又は、走査型拡がり抵抗顕微鏡(Scanning Spreading Resistance Microscopy:SSRM)により判定することが可能である。
低抵抗領域16aの電気抵抗率の低下は、キャリア濃度が高抵抗領域16bよりも高いことに起因する。したがって、電気抵抗率の大小関係は、例えば、キャリア濃度の大小を判定できる走査型キャパシタンス顕微鏡(Scannning Capacitamce Microscopy:SCM)により判定することが可能である。
低抵抗領域16aには、例えば、窒化アルミニウムガリウム中の窒素欠陥(以下VNとも表記)が存在する。窒素欠陥はドナーとして機能する。したがって、窒素欠陥の存在により、窒化アルミニウムガリウムがn型化する。よって、低抵抗領域16aの電気抵抗率が小さくなる。
高抵抗領域16bは、窒素原子の格子位置に存在する1個の炭素原子を有する。例えば、窒化アルミニウムガリウム中の窒素原子の格子位置に1個の炭素原子が入っている。窒素原子の格子位置に入った1個の炭素原子はアクセプタとして機能する。
高抵抗領域16bでは、ドナーとして機能するVNと、アクセプタとして機能する炭素原子の相互作用により、低抵抗領域16aよりもキャリア濃度が低下する。したがって、高抵抗領域16bの電気抵抗率が、低抵抗領域16aよりも大きくなる。
高抵抗領域16bでは、VNと炭素原子とが近接して存在する。高抵抗領域16bでは、VNと炭素原子が、電気的に相互作用が生じる程度に近接する。
高抵抗領域16bでは、炭素原子の量とVNの量とが略同一であることが望ましい。ここで、炭素原子の量とVNの量とが略同一とは、例えば、VNの量が炭素原子の量の0.8倍以上1.2倍以下であることを意味する。
バリア層16を構成する窒素原子以外の原子を原子Xとする。この場合、HEMT100では、高抵抗領域16b中に、炭素原子と結合するボンドと、ダングリングボンドとを有する上記原子Xが存在する。原子Xが、炭素原子と結合するボンドとダングリングボンドとを有することにより、炭素原子とVNが最も近接した構造となる。言い換えれば、炭素原子、原子X、及び、VNが複合体を形成している。
高抵抗領域16b中の原子Xと炭素原子との結合の存在、原子Xのダングリングボンドの存在、炭素原子、原子X、及び、VNの複合体の存在は、例えば、X線電子分光(X−ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)、赤外分光法(Infrared Spectroscopy)、又は、ラマン分光法により測定することが可能である。
また、炭素原子とVNが複合体を形成している場合、炭素原子とVNとは空間分布が一致する。
高抵抗領域16b中の炭素の濃度は、例えば、1×1019cm−3以上である。高抵抗領域16b中の炭素の濃度は、例えば、二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Specroscopy:SIMS)により測定することが可能である。
例えば、原子Xがガリウム(Ga)原子である場合、1個のガリウム原子が1個の炭素原子と結合し、且つ、1個のガリウム原子がダングリングボンドを有する。また、原子Xがアルミニウム(Al)原子である場合、1個のアルミニウム原子が1個の炭素原子と結合し、且つ、1個のアルミニウム原子がダングリングボンドを有する。
高抵抗領域16bの厚さは、例えば、0.5nm以上10nm以下である。
高抵抗領域16b上に絶縁層22が設けられる。絶縁層22は、HEMT100のゲート絶縁層として機能する。
絶縁層22は、例えば、酸化シリコンである。絶縁層22は、例えば、窒化シリコン、酸窒化シリコンであっても構わない。また、絶縁層22は、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、及び、酸窒化シリコンから選ばれる材料の積層構造であっても構わない。
絶縁層22の厚さは、例えば、10nm以上100nm以下である。
バリア層16上には、ソース電極18とドレイン電極20が形成される。ソース電極18とドレイン電極20は、低抵抗領域16aに接する。
ソース電極18とドレイン電極20は、例えば、金属電極である。金属電極は、例えば、チタン(Ti)とアルミニウム(Al)の積層構造である。
ソース電極18及びドレイン電極20と、バリア層16との間は、オーミックコンタクトであることが望ましい。ソース電極18とドレイン電極20が、低抵抗領域16aに接することで、オーミックコンタクトが実現可能となる。
ソース電極18とドレイン電極20との距離は、例えば、5μm以上30μm以下である。
ソース電極18とドレイン電極20の間の絶縁層22上に、p型層24が設けられる。p型層24は、HEMT100の閾値を上昇させる機能を有する。p型層24を設けることにより、HEMT100をノーマリーオフトランジスタとすることが可能となる。
p型層24は、例えば、マグネシウム(Mg)がp型不純物として添加されたp型の窒化ガリウム(GaN)である。p型層24は、例えば、多結晶質である。
p型層24上には、ゲート電極28が設けられる。ゲート電極28は、例えば、金属電極である。ゲート電極28は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
次に、本実施形態の半導体装置の製造方法の一例について説明する。図2〜図8は、本実施形態の製造途中の半導体装置の模式断面図である。
まず、基板10、例えば、Si基板を準備する。次に、例えば、Si基板上にエピタキシャル成長により、バッファ層12を成長させる。
バッファ層12は、例えば、窒化アルミニウムガリウム(AlWGa1−WN(0<W<1))の多層構造である。例えば、有機金属気相成長(MOCVD)法によりバッファ層12を成長させる。
次に、バッファ層12上に、チャネル層14となる窒化ガリウム、バリア層16となる窒化アルミニウムガリウムをエピタキシャル成長により形成する(図2)。窒化アルミニウムガリウムは、例えば、Al0.25Ga0.75Nの組成を有する。例えば、MOCVD法により、チャネル層14、バリア層16を成長させる。
次に、バリア層16上に、絶縁層21を形成する(図3)。絶縁層21は、例えば、CVD法により形成される酸化シリコン、酸窒化シリコン、又は、窒化シリコンである。絶縁層21は、続く炭素のイオン注入に用いられるスルー膜である。
次に、バリア層16中に絶縁層21を通して炭素をイオン注入する(図4)。例えば、炭素イオンのプロジェクテッドレンジ(RP)が、バリア層16と絶縁層21との界面近傍の位置となるように加速エネルギーを設定する。絶縁層21中にも、炭素が含有される。
次に、非酸化性の雰囲気中で、熱処理を行う。熱処理の温度は、例えば、900℃以上1200℃以下である。熱処理の雰囲気は、例えば、窒素雰囲気、又は、アルゴン雰囲気である。
熱処理により、バリア層16の絶縁層21側に、高抵抗領域16bが形成される(図5)。高抵抗領域16bの下のバリア層16は、高抵抗領域16bよりも電気抵抗率の小さい低抵抗領域16aとなる。
高抵抗領域16bは、バリア層16の窒素原子の格子位置に1個の炭素原子を導入することにより形成される。例えば、バリア層16の窒素欠陥に1個の炭素原子を導入する。
絶縁層21内には、例えば、バリア層16中のガリウム又はアルミニウムが拡散する。また、熱処理中に、バリア層16にVNが生成されるが、その際発生する窒素も絶縁層21中に拡散する。
次に、絶縁層21をウェットエッチングにより剥離する(図6)。絶縁層21は、高抵抗領域16bが残存する条件で剥離する。絶縁層21中に含有される窒素、炭素、ガリウム、又は、アルミニウム等の不純物も絶縁層21と共に除去される。
次に、バリア層16上に、絶縁層22を形成する(図7)。絶縁層22は、例えば、CVD法により形成される酸化シリコンである。
次に、絶縁層22上に、p型層24及びゲート電極28を形成する(図8)。
次に、バリア層16上に、ソース電極18及びドレイン電極20を形成する。ソース電極18及びドレイン電極20を形成する際、高抵抗領域16bをエッチングにより除去する。
ソース電極18及びドレイン電極20は、低抵抗領域16aに接するよう形成する。ソース電極18及びドレイン電極20は、ゲート電極28を間に挟んで形成される。
以上の製造方法により、図1に示すHEMT100が形成される。
以下、本実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。図9〜図14は、本実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法の作用の説明図である。以下、窒化物半導体として、窒化ガリウムを例に説明する。
図9、図10は、窒素欠陥(VN)の説明図である。図9(a)は窒化ガリウム中のVNの模式図である。図9(b)は、第1原理計算により求めたVNにより形成される準位の説明図である。図10は、第1原理計算により求めたVNを含む窒化ガリウムのバンド図である。
窒化ガリウム中のVNは、図9(a)に示されるように、窒化ガリウムから窒素原子が離脱することにより形成される。VNに隣接するガリウム原子はダングリングボンドを有することになる。VNは窒化ガリウム中でドナーとして機能する。
第1原理計算によって、図9(b)、図10に示すようにVNは、窒化ガリウムのバンドギャップ中にドナー準位を形成することが明らかになった。図9(b)中、黒丸は準位に電子が埋まった状態、白丸は準位に電子が埋まっていない状態を示す。
HEMTにおいて電流コラプスが生じる一つの要因は、バンドギャップ中の準位に電子がトラップされることで、2DEGの密度が変化することにあると考えられる。一般に、窒化ガリウム内には、VNが存在する。VNの密度は、特に、バリア層16と絶縁層22の界面近傍で高いと考えられる。また、バリア層16と絶縁層22の界面には、ガリウム原子のダングリングボンドが存在する。
例えば、VNで形成された準位に電子がトラップされると、VNが負に帯電することになる。したがって、例えば、VN直下の2DEG密度が減少する。したがって、電流コラプスが生じる。
また、ゲート電極28の直下のVNに電子がトラップされると、HEMT100の閾値電圧が変動する。
なお、バリア層16と絶縁層22の界面に存在するガリウム原子のダングリングボンドはVNと同様の準位を形成する。したがって、バリア層16と絶縁層22の界面に存在するガリウム原子のダングリングボンドによっても、VNと同様の作用が生ずる。
図11、図12は、窒素原子の格子位置に存在する1個の炭素原子の説明図である。図11(a)は、窒化ガリウム中の窒素原子の格子位置に存在する1個の炭素原子の模式図である。図11(b)は、第1原理計算により求めた炭素原子により形成される準位の説明図である。図12は、第1原理計算により求めた炭素原子を含む窒化ガリウムのバンド図である。
窒化ガリウム中の窒素原子の格子位置に存在する1個の炭素原子は、図11(a)に示されるように、窒化ガリウム中のVNに1個の炭素原子が導入されることにより形成される。炭素原子は窒化ガリウム中でアクセプタとして機能する。
第1原理計算によれば、図11(b)、図12に示すようにVNに導入された炭素原子は、窒化ガリウムのバンドギャップ中にアクセプタ準位を形成することが明らかになった。図12(b)中、黒丸は準位が電子で埋まった状態、白丸は準位が電子で埋まっていない状態を示す。
図13、図14は、VNと窒素原子位置の炭素原子が共存する場合の説明図である。図13(a)は窒化ガリウム中のVNと窒素原子の模式図である。図13(b)は、第1原理計算により求めたVNと炭素原子が共存する場合の準位の説明図である。
図13(a)は、窒化ガリウム中にVNと炭素原子が共存する場合の、VNと炭素原子が最も近接した状態を示す。言い換えれば、1個のガリウム原子がダングリングボンドを有し、且つ、炭素原子と結合する状態を示す。炭素原子、原子X、及び、VNが複合体を形成している。
第1原理計算によれば、図13(b)に示すように、VNと炭素原子が共存する場合、VNのドナー準位から電子が炭素原子のアクセプタ準位に移動した構造が安定となることが明らかとなった。この際、VNにより形成されていた準位は伝導帯内に移動し、炭素原子により形成されていた準位は価電子帯内に移動する。したがって、図13(b)、図14に示すように、窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位が消滅する。
本実施形態では、窒化ガリウム中に窒素原子位置の炭素原子を設ける。窒素原子位置の炭素原子とVNとの相互作用、窒素原子位置の炭素原子とバリア層16と絶縁層22の界面のダングリングボンドとの相互作用により、窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位が消滅する。したがって、電子のトラップが抑制される。よって、電流コラプスの抑制が可能となる。
窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位の消滅は、例えば、DLTS(Deep Level Transient Spectroscopy)により判断することが可能である。
また、VNと窒素原子位置の炭素原子が共存する場合、ドナー準位とアクセプタ準位が消滅することで、キャリアが相殺され、キャリア濃度が低下する。したがって、窒化ガリウムの電気抵抗率が大きくなる。
また、ゲート電極28直下での電子のトラップが抑制されることにより、閾値電圧の変動が抑制される。
図15は、本実施形態の半導体装置の製造方法の作用を示す図である。
窒化ガリウム中に、図15(a)に示すようなVNが存在すると仮定する。図15(b)に示すように、炭素のイオン注入により窒化ガリウムに1個の炭素原子を導入する。
図15(c)に示すように、炭素原子はVNに導入され、窒素原子の格子位置に入る。
第1原理計算によれば、炭素原子とVNとが近接することで系のエネルギーが小さくなり、安定な構造となる。したがって、図15(d)に示すように、熱処理により窒素原子とVNが近接した構造が形成される。具体的には、例えば、1個のガリウム原子がダングリングボンドを有し、且つ、1個のガリウム原子が炭素原子と結合するボンドを有する構造が形成される。言い換えれば、炭素原子、ガリウム原子、及び、VNの複合体が形成される。
炭素原子、ガリウム原子、及び、VNの複合体を形成するには、炭素のイオン注入後、高温の熱処理を行うことが望ましい。熱処理は900℃以上1200℃以下であることが望ましく、1000℃以上であることがより望ましい。
窒化ガリウム中のVNは、エントロピーを増大させるために形成されている。例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、多い炭素を導入するとする。この場合、理論上、導入された炭素の量と同量のVNが複合体を形成するため単独で存在するVNはなくなる。更に、熱処理を長時間行うと、残った炭素と同量のVNが、複合体を形成するために、新たに生成される。新たなVNは、複合体の形成により系を安定化するために生成される。したがって、窒化ガリウム中に、複合体を形成せず、単独で残存する炭素原子又はVNは僅少になる。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、少ない炭素を導入するとする。この場合、理論上、導入された炭素の量と同量のVNが複合体を形成する。余剰のVNは、窒化ガリウム中に残存する。残存したVNによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
十分な量の炭素を導入した後に、十分な時間の高温の熱処理を加えることにより、高抵抗領域16bの形成が可能となる。言い換えれば、十分な量の炭素を導入した後に、十分なサーマルバジェットを加えれば、高抵抗領域16bの形成が可能となる。導入する炭素の量が十分でない場合、或いは、熱処理によって加えられる熱量が十分でない場合は、高抵抗領域16bの形成が困難である。
本実施形態の製造方法では、熱処理の後に、炭素イオン注入のスルー膜として用いた絶縁層21を剥離している。絶縁層21が酸化シリコンの場合、熱処理で窒素が絶縁層21中に拡散し、酸化シリコンが酸窒化シリコンとなる。
絶縁層21を剥離した後に、熱処理を行っても構わない。この場合、バリア層16から窒素が効率的に放出され、VNの形成が容易となる。
スルー膜である絶縁層21には、酸化シリコンの他にも、酸窒化シリコンや窒化シリコンを用いることも可能である。特に、密度の高い窒化シリコンを用いた場合、イオン注入時の炭素イオンの阻止能力が高くなる。このため、炭素イオンのプロジェクテッドレンジ(RP)を、バリア層16と絶縁層21との界面近傍の位置となるように加速エネルギーを設定することが容易となる。
窒化ガリウム中のVNの濃度は、1×1018cm−3以上1×1019cm−3以下程度であると考えられる。余剰のVNが生じないようにする観点から、高抵抗領域16b中の炭素の濃度は1×1019cm−3以上であることが望ましく、1×1020cm−3以上であることがより望ましく、1×1021cm−3以上であることが更に望ましい。
上記したように、初期段階で窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも多い炭素が存在することで、バンドギャップ中の準位の量を抑制できる。十分な量の炭素を導入した後に、十分な時間の高温の熱処理を経れば、炭素量とVN量とが、その分布も含めて一致することになり、高抵抗領域16bが形成されやすくなる。
本実施形態の製造方法の以下の(1)〜(3)の特徴を備える。(1)炭素の量を多くすることで、VNは熱処理により追加形成される。その際、十分な熱処理の時間と温度、言い換えれば熱量が加えられることが望ましい。(2)スルー膜として用いる絶縁層21を、高抵抗領域16b形成の熱処理の後、又は、熱処理の前に剥離する。前者の場合、バリア層16から放出され絶縁層21に取り込まれた窒素が除去される。後者の場合、バリア層16からの窒素の放出の効率が向上する。(3)絶縁層21を炭素のイオン注入時のスルー膜として用いることで、炭素イオンのプロジェクテッドレンジ(RP)を、バリア層16と絶縁層21との界面近傍の位置となるように加速エネルギーを設定することが容易となる。スルー膜が無い場合は、バリア層16の表面近傍、例えば、表面から数nm程度の領域に炭素を導入することは困難である。例えば、スルー膜中にRPを位置させることで、バリア層16の表面近傍にのみ炭素を導入することが可能である。例えば、密度の高い窒化シリコンを絶縁層21に用いた場合、バリア層16の表面近傍だけに急峻なプロファイルで炭素をイオン注入で導入することが可能となる。スルー膜は剥離されるので、イオン注入により導入された余分な炭素は、完成時には残らない。
また、本実施形態の製造方法では、炭素のイオン注入後に絶縁層21をウェットエッチングにより剥離する。したがって、絶縁層21中に含有される炭素、ガリウム、又は、アルミニウム等の不純物も絶縁層21と共に除去される。よって、絶縁層21中に含有される窒素、炭素、ガリウム、又は、アルミニウム等の不純物によって形成される準位への電荷のトラップが抑制される。よって、絶縁層21中への電荷のトラップに起因する電流コラプス、閾値電圧の変動、リーク電流の増大等の抑制が可能となる。
以上、図9〜図15では、窒化物半導体層を構成する窒素原子以外の原子である原子Xがガリウムである場合を例に説明した。すなわち、窒化物半導体層が窒化ガリウムである場合を例に説明した。しかし、窒化ガリウムのガリウム原子の一部或いは全部がアルミニウム又はインジウムで置換されたその他のGaN系半導体であっても、窒化ガリウムと同様の作用が生じる。すなわち、原子Xがアルミニウム又はインジウムであっても原子Xがガリウムである場合と同様の作用が生じる。
本実施形態において、窒素原子位置の炭素原子を形成する際の、熱処理は、900℃以上、より望ましくは1000℃以上で行われることが望ましい。高温で熱処理を行うことで、VNと炭素原子との間に相互作用が生じる距離まで近接させることが可能となる、
本実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、バンドギャップ中の準位を低減することにより、電流コラプスの抑制が可能となる。また、バンドギャップ中の準位を低減することにより、閾値電圧の変動の抑制が可能となる。よって、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。
(第2の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第2の領域に、酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)、及び、テルル(Te)から成る群の少なくとも一つの元素を有する点で、第1の実施形態と異なっている。
また、本実施形態の半導体装置は、炭素原子と結合するボンドと酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)、及び、テルル(Te)から成る群の少なくとも一つの元素の第1の原子と結合するボンドを有する原子Xを有する点で、第1の実施形態と異なっている。
本実施形態の半導体装置は、第1の実施形態のVNに代えて、窒素位置の第1の原子を有する点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
図1に示す高抵抗領域16bには、窒素原子の格子位置に存在する1個の炭素原子を有する。例えば、窒化アルミニウムガリウム中の窒素原子の格子位置に1個の炭素原子が入っている。窒素原子の格子位置に入った1個の炭素原子はアクセプタとして機能する。
また、高抵抗領域16bは、窒素原子の格子位置に存在する酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)、及び、テルル(Te)から成の群の少なくとも一つの元素の第1の原子を有する。第1の原子はドナーとして機能する。
高抵抗領域16bは、ドナーとして機能する第1の原子と、アクセプタとして機能する炭素原子の相互作用により、低抵抗領域16aよりもキャリア濃度が低下する。したがって、高抵抗領域16bの電気抵抗率が、低抵抗領域16aよりも大きくなる。
高抵抗領域16bでは、第1の原子と炭素原子とが近接して存在する。高抵抗領域16bでは、第1の原子と炭素原子が、電気的に相互作用が生じる程度に近接する。
バリア層16を構成する窒素原子以外の原子を原子Xとする。この場合、高抵抗領域16b中に、炭素原子と結合するボンドと、第1の原子と結合するボンドとを有する上記原子Xが存在する。原子Xが、炭素原子と結合するボンドと第1の原子と結合するボンドとを有することにより、炭素原子と第1の原子が最も近接した構造となる。言い換えれば、炭素原子、原子X、及び、第1の原子が複合体を形成している。
高抵抗領域16b中の原子Xと炭素原子との結合の存在、原子Xと第1の原子との結合の存在、炭素原子、原子X、及び、第1の原子の複合体の存在は、例えば、X線電子分光、赤外分光法、又は、ラマン分光法により測定することが可能である。
高抵抗領域16b中の炭素の濃度は、例えば、1×1019cm−3以上である。高抵抗領域16b中の第1の原子の濃度は、例えば、1×1019cm−3以上である。高抵抗領域16b中の炭素及び第1の原子の濃度は、例えば、二次イオン質量分析法により測定することが可能である。
本実施形態の半導体装置は、第1の実施形態の半導体装置の製造方法において、例えば、バリア層16中に炭素をイオン注入する際に、同時に、バリア層16中に第1の原子をイオン注入することで製造することが可能である。
例えば、原子Xがガリウム(Ga)原子、第1の原子が酸素(O)原子である場合、1個のガリウム原子が1個の炭素原子と結合し、且つ、同じガリウム原子が1個の酸素原子と結合する。また、原子Xがアルミニウム(Al)原子である場合、1個のアルミニウム原子が1個の炭素原子と結合し、且つ、同じアルミニウム原子が1個の酸素原子と結合する。
図16は、本実施形態の半導体装置の作用の説明図である。図16(a)は、窒化ガリウム中の酸素原子と炭素原子の模式図である。図16(b)は、第1原理計算により求めた酸素原子と炭素原子が共存する場合の準位の説明図である。
図16(a)に示すように、窒化ガリウム中の酸素原子は、窒化ガリウムの窒素原子の格子位置に存在する。窒化ガリウム中の炭素原子は、窒化ガリウムの窒素原子の格子位置に存在する。図16(a)は、窒化ガリウム中に酸素原子と炭素原子が共存する場合の、酸素原子と炭素原子が最も近接した状態を示す。言い換えれば、1個のガリウム原子が酸素原子と結合し、且つ、同じガリウム原子が炭素原子と結合する状態を示す。炭素原子、原子X、及び、酸素原子が複合体を形成している。
第1原理計算によれば、図16(b)に示すように、酸素原子と炭素原子が共存する場合、酸素原子のドナー準位から電子が炭素原子のアクセプタ準位に移動した構造が安定となることが明らかとなった。この際、酸素原子により形成されていた準位は伝導帯内に移動し、炭素原子により形成されていた準位は価電子帯内に移動する。したがって、図16(b)に示すように、窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位が消滅する。
本実施形態では、窒化ガリウム中に窒素原子位置の酸素原子と窒素原子位置の炭素原子を設ける。炭素原子と酸素原子との相互作用により、窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位が消滅する。したがって、電子のトラップが抑制される。よって、電流コラプスの抑制が可能となる。
窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位の消滅は、例えば、DLTSにより判断することが可能である。
また、酸素原子と炭素原子が共存する場合、ドナー準位とアクセプタ準位が消滅することで、キャリアが相殺され、キャリア濃度が低下する。したがって、窒化ガリウムの電気抵抗率が大きくなる。
また、ゲート電極28直下での電子のトラップが抑制されることにより、閾値電圧の変動が抑制される。
窒化ガリウム中には、エントロピーを増大させるためにVNが形成されている。炭素及び酸素のイオン注入と十分な熱処理により、炭素原子、ガリウム原子、及び、酸素原子の複合体が形成されるとエントロピーが増大する。このため、理論上、複合体の量が十分にあればVNが消滅する。VNが残存すると、残存したVNによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、多い炭素を導入するとする。この際、炭素の量より多い酸素をイオン注入により導入するとする。この場合、理論上、VNは消滅する。しかし、余剰の酸素が残存する。残存した酸素によるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、多い炭素を導入するとする。この際、炭素の量より少ない酸素をイオン注入により導入するとする。打ち込む炭素量が窒化ガリウム中に存在するVN量と打ち込む酸素量の和より多くなるように、十分な量の炭素を導入する。
この場合、酸素の量がVNより多ければ、VNは、酸素により埋められ、消滅する。そして、酸素との複合体を形成せず残存する炭素の量と同量のVNが、炭素との複合体を形成するため生成される。言い換えれば、余剰の炭素を補償するVNが新たに形成される。したがって、窒化ガリウム中に、単独で残存する炭素原子、酸素原子又はVNは僅少になる。
また、この場合、酸素の量がVNより少なければ、十分に多くの炭素が導入されているので、余剰のVNは炭素原子と複合体を形成し、単独で存在するVNは消滅する。そして、酸素との複合体を形成せず残存する炭素の量と同量のVNが、炭素との複合体を形成するため生成される。したがって、窒化ガリウム中に、単独で残存する炭素原子、酸素原子又はVNは僅少になる。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、少ない炭素を導入するとする。この際、炭素の量より多い酸素をイオン注入により導入するとする。この場合、理論上、炭素の不足分だけ、VNは単独で残存する。また、余剰の酸素も単独で残存する。単独で残存したVN及び酸素によるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、少ない炭素を導入するとする。この際、炭素の量より少ない酸素をイオン注入により導入するとする。この場合、単独で存在する酸素は残存しないように出来るが、炭素の不足分だけ、VNは単独で残存する。単独で残存したVNによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
したがって、電流コラプス及び閾値電圧の変動を抑制する観点から、窒化ガリウム中の炭素の濃度は、炭素又は酸素の導入前のVNの濃度よりも高いことが望ましい。また、窒化ガリウム中の炭素の濃度は、窒化ガリウム中の酸素の濃度より高いことが望ましい。
窒化ガリウム中のVNの濃度は、1×1018cm−3以上1×1019cm−3以下程度であると考えられる。余剰のVNが生じないようにする観点から、高抵抗領域16b中の炭素の濃度は1×1019cm−3以上であることが望ましく、1×1020cm−3以上であることがより望ましく、1×1021cm−3以上であることが更に望ましい。窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも多い炭素が存在することで、バンドギャップ中の準位の量を抑制できる。
なお、本実施形態において、第1の原子として、酸素原子に代えて、同じ第16族元素で2価の、イオウ(S)、セレン(Se)、又は、テルル(Te)の原子を用いても、酸素原子の場合と同様の効果が得られる。
炭素原子とVNが近接することによるエネルギー利得に比べ、炭素原子と第1の原子(O、S、Se、Te)が接近することによるエネルギー利得の方が大きく、安定性に優れる。これは、原子同士の方が電荷の局在性が確保でき、クーロン相互作用が明確に効くようになるためである。
更に、第1の原子の量や分布は、イオン注入時の打ち込み条件によって制御することが可能である。したがって、炭素の量と第1の原子の量とをおよそ等量とする制御や、炭素と第1の原子の分布を同等の分布となるようにする制御が容易である。第1の実施形態と同様、第1の原子に対して、炭素を大目に入れておき、第1の原子の足りない分は、高温の熱処理によって生じさせたVNにて補うことが可能である。
本実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、第1の実施形態同様、電流コラプスの抑制が可能となる。また、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。更に、第1の実施形態に比べ、安定性の高い半導体装置が実現できる。また、第1の実施形態に比べ、製造時の制御性が向上する。
(第3の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、第2の領域に、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、及び、鉄(Fe)、から成る群の少なくとも一つの元素を有する点で、第1の実施形態と異なっている。
また、本実施形態の半導体装置は、炭素原子と結合するボンドと、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)及び、鉄(Fe)、から成る群の一つの元素の第2の原子と結合するボンドを有する原子Xを有する点で、第1の実施形態と異なっている。
第1の実施形態のVNに代えて、原子Xの位置の第2の原子を有する点で、第1の実施形態と異なっている。以下、第1の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
図1に示す高抵抗領域16bには、窒素原子の格子位置に存在する1個の炭素原子を有する。例えば、窒化アルミニウムガリウム中の窒素原子の格子位置に1個の炭素原子が入っている。窒素原子の格子位置に入った1個の炭素原子はアクセプタとして機能する。
また、高抵抗領域16bでは、バリア層16を構成する窒素原子以外の原子を原子Xとした場合に、原子Xの格子位置に存在するハフニウム(Hf)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、及び、鉄(Fe)、から成る群の少なくとも一つの元素の第2の原子を有する。第2の原子はドナーとして機能する。
高抵抗領域16bは、ドナーとして機能する第2の原子と、アクセプタとして機能する炭素原子の相互作用により、低抵抗領域16aよりもキャリア濃度が低下する。したがって、高抵抗領域16bの電気抵抗率が、低抵抗領域16aよりも大きくなる。
高抵抗領域16bでは、第2の原子と炭素原子とが近接して存在する。高抵抗領域16bでは、第2の原子と炭素原子が、電気的に相互作用が生じる程度に近接する。
バリア層16を構成する窒素原子以外の原子を原子Xとする。第2の原子は原子Xを置換し、炭素は同じ原子Xに隣接する窒素を置換する。言い換えれば、炭素原子、及び第2に原子はペア構造の複合体を形成する。バックボンドとして、炭素原子は原子Xと3つのボンドを組む。また、バックボンドとして、第2の原子は窒素原子と3つのボンドを組む。
高抵抗領域16b中の原子Xと炭素原子との結合の存在、窒素と第2の原子との結合の存在、炭素原子と第2の原子とが形成するペア構造の複合体の存在は、例えば、X線電子分光、赤外分光法、又は、ラマン分光法により測定することが可能である。
高抵抗領域16b中の炭素の濃度は、例えば、1×1019cm−3以上である。高抵抗領域16b中の第2の原子の濃度は、例えば、1×1019cm−3以上である。高抵抗領域16b中の炭素及び第2の原子の濃度は、例えば、二次イオン質量分析法により測定することが可能である。
本実施形態の半導体装置は、例えば、第1の実施形態の半導体装置の製造方法において、例えば、バリア層16中に炭素をイオン注入する際に、同時に、バリア層16中に第2の原子をイオン注入することで製造することが可能である。
例えば、原子Xがガリウム(Ga)原子、第2の原子がシリコン(Si)原子である場合、3個のガリウム原子が1個の炭素原子と結合し、且つ、3個の窒素原子が1個のシリコン原子と結合する。そして、炭素原子とシリコン原子がペア構造の複合体を形成する。また、原子Xがアルミニウム(Al)原子である場合、3個のアルミニウム原子が1個の炭素原子と結合し、且つ、3個の窒素が1個のシリコン原子と結合する。そして、炭素原子とシリコン原子がペア構造の複合体を形成する。
図17は、本実施形態の半導体装置の作用の説明図である。図17(a)は、窒化ガリウム中のシリコン原子と炭素原子の模式図である。図17(b)は、第1原理計算により求めたシリコン原子と炭素原子が共存する場合の準位の説明図である。
図17(a)に示すように、窒化ガリウム中のシリコン原子は、窒化ガリウムのガリウム原子の格子位置に存在する。窒化ガリウム中の炭素原子は、窒化ガリウムの窒素原子の格子位置に存在する。図17(a)は、窒化ガリウム中にシリコン原子と炭素原子が共存する場合の、シリコン原子と炭素原子が最も近接した状態を示す。言い換えれば、シリコン原子と炭素原子とがペア構造の複合体を形成している。
第1原理計算によれば、図17(b)に示すように、シリコン原子と炭素原子が共存する場合、シリコン原子のドナー準位から電子が炭素原子のアクセプタ準位に移動した構造が安定となることが明らかとなった。この際、シリコン原子により形成されていた準位は伝導帯内に移動し、炭素原子により形成されていた準位は価電子帯内に移動する。したがって、図17(b)に示すように、窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位が消滅する。
本実施形態では、窒化ガリウム中にガリウム原子位置のシリコン原子と窒素原子位置の炭素原子を設ける。炭素原子とシリコン原子との相互作用により、窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位が消滅する。したがって、電子のトラップが抑制される。よって、電流コラプスの抑制が可能となる。
窒化ガリウムのバンドギャップ内の準位の消滅は、例えば、DLTSにより判断することが可能である。
また、シリコン原子と炭素原子が共存する場合、ドナー準位とアクセプタ準位が消滅することで、キャリアが相殺され、キャリア濃度が低下する。したがって、窒化ガリウムの電気抵抗率が大きくなる。
また、ゲート電極28直下での電子のトラップが抑制されることにより、閾値電圧の変動が抑制される。
窒化ガリウム中には、エントロピーを増大させるためにVNが形成されている。炭素及びシリコンのイオン注入と十分な熱処理により、炭素原子、及び、シリコン原子のペア構造の複合体が形成されるとエントロピーが増大する。このため、理論上、ペア構造の量が十分にあればVNが消滅する。VNが残存すると、残存したVNによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、多い炭素を導入するとする。この際、炭素の量より多いシリコンをイオン注入により導入するとする。この場合、理論上、VNは消滅する。しかし、余剰のシリコンが残存する。残存したシリコンによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、多い炭素を導入するとする。この際、炭素の量より少ないシリコンをイオン注入により導入するとする。
この場合、炭素の量がVNより多いので一旦はVNは消滅すると想定される。そして、シリコンとのペア構造を形成せず残存する炭素の量と同量のVNが、炭素との複合体を形成するため生成される。言い換えれば、シリコンとペア構造を形成していない余剰の炭素を補償するVNが新たに形成される。したがって、窒化ガリウム中に、単独で残存する炭素原子、シリコン原子又はVNは僅少になる。
また、この場合、シリコンの量がVNより少なければ、十分に多くの炭素が導入されているので、余剰のVNは炭素原子と複合体を形成し単独で存在するVNは消滅する。そして、シリコンとの複合体を形成せず残存する炭素の量と同量のVNが、炭素との複合体を形成するため新たに生成される。したがって、窒化ガリウム中に、単独で残存する炭素原子、シリコン原子又はVNは僅少になる。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、少ない炭素を導入するとする。この際、炭素の量より多いシリコンをイオン注入により導入するとする。この場合、理論上、炭素の不足分だけ、VNは単独で残存する。また、余剰のシリコンも単独で残存する。単独で残存したVN及びシリコンによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
例えば、炭素のイオン注入により、窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも、少ない炭素を導入するとする。この際、炭素の量より少ないシリコンをイオン注入により導入するとする。この場合、単独で存在するシリコンは残存しないが、炭素の不足分だけ、VNは単独で残存する。単独で残存したVNによるバンドギャップ中のドナー準位により、電流コラプス、閾値電圧の変動が生じる恐れがある。
したがって、電流コラプス及び閾値電圧の変動を抑制する観点から、窒化ガリウム中の炭素の濃度は、炭素又はシリコンの導入前のVNの濃度よりも高いことが望ましい。また、窒化ガリウム中の炭素の濃度は、窒化ガリウム中のシリコンの濃度より高いことが望ましい。
窒化ガリウム中のVNの濃度は、1×1018cm−3以上1×1019cm−3以下程度であると考えられる。余剰のVNが生じないようにする観点から、高抵抗領域16b中の炭素の濃度は1×1019cm−3以上であることが望ましく、1×1020cm−3以上であることがより望ましく、1×1021cm−3以上であることが更に望ましい。窒化ガリウム中に存在するVNの量よりも多い炭素が存在することで、バンドギャップ中の準位の量を抑制できる。
なお、本実施形態において、第2の原子として、シリコン原子に代えて、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、又は、鉄(Fe)、の原子を用いても、シリコン原子の場合と同様の効果が得られる。
炭素原子とVNが近接することによるエネルギー利得に比べ、炭素原子と第2の原子(Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Fe)が接近することによるエネルギー利得の方が大きく、安定性に優れる。これは原子同士の方が電荷の局在性が確保でき、クーロン相互作用が明確に効くようになるためである。また、第2の原子は、炭素原子と直接ボンドを組む位置に来ることが出来、VNや第1の原子に比べて、非常に近い位置に存在するため、余計にクーロン力による利得が大きくなる。
更に、第2の原子の量や分布は、イオン注入時の打ち込み条件によって制御することが可能である。したがって、炭素の量と第2の原子の量とをおよそ等量とする制御や、炭素と第1の原子の分布を同等の分布となるようにする制御が容易である。第1の実施形態と同様、第2の原子に対して、炭素を大目に入れておき、第2の原子の足りない分は、高温の熱処理によって生じさせたVNにて補うことが可能である。
本実施形態の半導体装置及び半導体装置の製造方法によれば、第1の実施形態同様、電流コラプスの抑制が可能となる。また、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。更に、第1及び第2の実施形態に比べ、安定性の高い半導体装置が実現できる。また、第1の実施形態に比べ、製造時の制御性が向上する。
(第4の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、窒化物半導体層と、窒化物半導体層の上の絶縁層と、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群の少なくとも一つの元素の原子を原子Yとした場合に、窒化物半導体層内の絶縁層の側に位置し、ダングリングボンドを有する原子Y、酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)、及び、テルル(Te)から成る群の少なくとも一つの元素の第1の原子と結合するボンドを有する原子Y、又は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、及び、鉄(Fe)から成る群の少なくとも一つの元素の第2の原子と結合するボンドを有する原子Y、を有する領域を備える点で、第1乃至第3の実施形態と異なっている。
原子YとVN(窒素欠陥)とがペア構造の複合体を形成している領域を備える点で、同じようにVNを用いている第1の実施形態と異なっている。
又は、本実施形態の半導体装置は、上記原子Yと酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)、及び、テルル(Te)から成る群の少なくとも一つの元素の第1の原子とがペア構造の複合体を形成している領域を備える点で、同じように第1の原子を用いている第2の実施形態と異なっている。
又は、本実施形態の半導体装置は、上記原子Yとシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、及び、鉄(Fe)から成る群の少なくとも一つの元素の第2の原子とがペア構造の複合体を形成している領域を備える点で、同じように第2の原子を用いている第3の実施形態と異なっている。
第1乃至第3の実施形態では、炭素原子は窒素原子と置換してアクセプタとなる。しかし、本実施形態の原子Yは、例えばガリウム原子と置換してアクセプタとなる。この点で、第1乃至第3の実施形態とは異なる。つまりアクセプタの形成機構が異なる。
本実施形態の半導体装置は、第1乃至第3の実施形態の炭素原子に代えて、窒化物半導体層の結晶構造を構成する窒素原子以外の原子である原子Xの位置の原子Yを有する点で、第1乃至第3の実施形態と異なっている。以下、第1乃至第3の実施形態と重複する内容については、記述を省略する。
本実施形態においても、第1乃至第3の実施形態と同様の作用・効果が得られる。すなわち、ドナーとして機能するVN、第1の原子、又は、第2の原子と、アクセプタとして機能する原子Yとがペア構造の複合体を形成する。これにより、炭化珪素層のバンドギャップ内の準位が消滅する。言い換えれば、ドナーとして機能するVN、第1の原子、又は、第2の原子と、アクセプタとして機能する原子Yとの相互作用により、炭化珪素層のバンドギャップ内の準位が消滅する。
図18は、本実施形態の半導体装置の説明図である。図18(a)は、第1の例の説明図、図18(b)は、第2の例の説明図、図18(c)は、第3の例の説明図である。
以下、第1の例について説明する。
図1に示す高抵抗領域(領域)16bには、原子Xの格子位置に存在するベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群の少なくとも一つの元素の原子である原子Yを有する。例えば、窒化アルミニウムガリウム中のガリウム原子の格子位置に1個の原子Yが入っている。ガリウム原子の格子位置に入った1個の原子Yはアクセプタとして機能する。
また、高抵抗領域16bには、窒素欠陥(VN)が存在する。窒素欠陥(VN)はドナーとして機能する。
図18(a)に示すように、例えば、原子Xがガリウム(Ga)原子、原子Yがマグネシウム(Mg)原子とする。マグネシウム原子はガリウム原子を置換し、VNとマグネシウム原子とが隣り合ってペア構造の複合体を形成している。言い換えれば、マグネシウム原子がダングリングボンドを有する。
第1の例によれば、第1の実施形態と同様の作用により、窒化物半導体のバンドギャップ中の準位が消滅する。したがって、電子のトラップが抑制される。よって、電流コラプスの抑制、閾値変動の抑制が可能となる。
なお、第1の例において、原子Yとして、マグネシウム原子に代えて、同じ第2族元素で2価の、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、又は、カドミウム(Cd)の原子を用いても、マグネシウム原子の場合と同様の効果が得られる。
以下、第2の例について説明する。
図1に示す高抵抗領域(領域)16bには、原子Xの格子位置に存在するベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群の少なくとも一つの元素の原子である原子Yを有する。例えば、窒化アルミニウムガリウム中のガリウム原子の格子位置に1個の原子Yが入っている。ガリウム原子の格子位置に入った1個の原子Yはアクセプタとして機能する。
また、高抵抗領域16bは、窒素原子の格子位置に存在する酸素(O)、イオウ(S)、セレン(Se)、及び、テルル(Te)から成の群の少なくとも一つの元素の第1の原子を有する。第1の原子はドナーとして機能する。
図18(b)に示すように、例えば、原子Xがガリウム(Ga)原子、原子Yがマグネシウム(Mg)原子、第1の原子が酸素(O)原子とする。マグネシウム原子はガリウム原子を置換し、隣接する窒素原子を酸素原子が置換している。こうして、マグネシウム原子と酸素原子とが結合しペア構造の複合体を形成している。
第2の例によれば、第2の実施形態と同様の作用により、窒化物半導体のバンドギャップ中の準位が消滅する。したがって、電子のトラップが抑制される。よって、電流コラプスの抑制、閾値変動の抑制が可能となる。
なお、第2の例において、原子Yとして、マグネシウム原子に代えて、同じ第2族元素で2価の、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、又は、カドミウム(Cd)の原子を用いても、マグネシウム原子の場合と同様の効果が得られる。
また、第2の例において、第1の原子として、酸素原子に代えて、同じ第16族元素で2価の、イオウ(S)、セレン(Se)、又は、テルル(Te)の原子を用いても、酸素原子の場合と同様の効果が得られる。
以下、第3の例について説明する。
図1に示す高抵抗領域(領域)16bには、原子Xの格子位置に存在するベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、及び、カドミウム(Cd)から成る群の少なくとも一つの元素の原子である原子Yを有する。例えば、窒化アルミニウムガリウム中のガリウム原子の格子位置に1個の原子Yが入っている。ガリウム原子の格子位置に入った1個の原子Yはアクセプタとして機能する。
また、高抵抗領域16bは、原子Xの格子位置に存在するシリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、及び、鉄(Fe)、から成る群の少なくとも一つの元素の第2の原子を有する。第2の原子はドナーとして機能する。
図18(c)に示すように、例えば、原子Xがガリウム(Ga)原子、原子Yがマグネシウム(Mg)原子、第2の原子がシリコン(Si)原子とする。マグネシウム原子とシリコン原子は、共にガリウム原子を置換している。マグネシウム原子とシリコン原子が結合しペア構造の複合体を形成している。
第3の例によれば、第3の実施形態と同様の作用により、窒化物半導体のバンドギャップ中の準位が消滅する。したがって、電子のトラップが抑制される。よって、電流コラプスの抑制、閾値変動の抑制が可能となる。
なお、第3の例において、原子Yとして、マグネシウム原子に代えて、同じ第2族元素で2価の、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、亜鉛(Zn)、又は、カドミウム(Cd)の原子を用いても、マグネシウム原子の場合と同様の効果が得られる。
また、第3の例において、第2の原子として、シリコン原子に代えて、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)又は、鉄(Fe)、の原子を用いても、シリコン原子の場合と同様の効果が得られる。
本実施形態の半導体装置によれば、第1乃至第3の実施形態同様、電流コラプスの抑制が可能となる。また、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。
(第5の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、p型層が窒化物半導体層に接すること以外は、第1の実施形態と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図19は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。本実施形態の半導体装置は、GaN系半導体を用いたHEMTである。
HEMT(半導体装置)200は、p型層24がバリア層16に接して設けられる。p型層24は、低抵抗領域16aに接する。p型層24は、例えば、単結晶の窒化ガリウム(GaN)である。
本実施形態の半導体装置によれば、第1の実施形態同様、バンドギャップ中の準位を低減することにより、電流コラプスの抑制が可能となる。また、バンドギャップ中の準位を低減することにより、閾値電圧の変動の抑制が可能となる。よって、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。
(第6の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、ゲート電極が窒化物半導体層に接すること以外は、第1の実施形態と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図20は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。本実施形態の半導体装置は、GaN系半導体を用いたHEMTである。
HEMT(半導体装置)300は、ゲート電極28がバリア層16に接して設けられる。ゲート電極28は、低抵抗領域16aに接する。
ゲート電極28は、例えば、金属電極である。ゲート電極28は、例えば、窒化チタン(TiN)である。
ゲート電極28とバリア層16との間の接合は、ショットキー接合である。HEMT300はノーマリーオントランジスタである。
本実施形態の半導体装置によれば、第1の実施形態同様、バンドギャップ中の準位を低減することにより、電流コラプスの抑制が可能となる。また、バンドギャップ中の準位を低減することにより、閾値電圧の変動の抑制が可能となる。よって、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。
(第7の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、バリア層に形成された溝(リセス)内にゲート電極が埋め込まれる、いわゆるゲート・リセス構造を備えること以外は、第1の実施形態と同様である。したがって、第1の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図21は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。
HEMT(半導体装置)400は、ソース電極18とドレイン電極20の間のバリア層16に設けられた溝(リセス)30の内面に、高抵抗領域14b、及び、絶縁層22とが形成される。また、高抵抗領域16bが、設けられる。
溝30の底部はチャネル層14内に位置する。溝30の底部の高抵抗領域14bはチャネル層14内に形成される。低抵抗領域14aと高抵抗領域14bがチャネル層14を形成する。
本実施形態の半導体装置によれば、第1の実施形態同様、バンドギャップ中の準位を低減することにより、電流コラプスの抑制が可能となる。また、バンドギャップ中の準位を低減することにより、閾値電圧の変動の抑制が可能となる。よって、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。更に、ゲート・リセス構造を備えることにより、ノーマリーオフトランジスタの実現が容易となる。
(第8の実施形態)
本実施形態の半導体装置は、溝(リセス)下にバリア層が存在する点で、第7の実施形態と異なっている。以下、第7の実施形態と重複する内容については記述を省略する。
図22は、本実施形態の半導体装置の模式断面図である。
HEMT(半導体装置)500は、溝30の底部にバリア層16が設けられる。バリア層16は、チャネル層14上に設けられる。溝30の両側には、窒化物半導体の保護層17が設けられる。保護層17は、例えば、バリア層16上に選択エピタキシャル成長により形成される。
チャネル層14は、例えば、GaNである。バリア層16は、例えば、膜厚が10nmのAl0.1Ga0.9Nである。保護層17は、例えば、膜厚が20nmのAl0.2Ga0.8Nである。
HEMT500は、溝(リセス)30の内面に、高抵抗領域16b、及び、絶縁層22が形成される。低抵抗領域16aと高抵抗領域16bがバリア層16を形成する。
ソース電極18とドレイン電極20の間にも、絶縁層22が形成される。また、バリア層16と絶縁層22との間に、低抵抗領域17aと高抵抗領域17bが設けられる。
HEMT500は、ノーマリーオフトランジスタである。HEMT500の閾値を上げるため、バッファ層12とチャネル層14との間の少なくとも一部に、チャネル層14よりもバンドギャップが大きいGaN系半導体のバックバリア層(図示せず)を設けることも可能である。バックバリア層は、例えば、Al0.1Ga0.9Nである。バックバリア層はMgなどをドープすることで、p型にしても良い。
また、HEMT500の閾値を上げるため、溝30の底部にp型のGaN系半導体のp型層(図示せず)を設けることも可能である。p型層は、例えば、p型のGaNである。
本実施形態の半導体装置によれば、第1の実施形態同様、バンドギャップ中の準位を低減することにより、電流コラプスの抑制が可能となる。また、バンドギャップ中の準位を低減することにより、閾値電圧の変動の抑制が可能となる。よって、信頼性の向上した半導体装置が実現できる。
(第9の実施形態)
本実施形態の電源回路及びコンピュータは、HEMTを有する。
図23は、本実施形態のコンピュータの模式図である。本実施形態のコンピュータは、サーバ600である。
サーバ600は筐体40内に電源回路42を有する。サーバ600は、サーバソフトウェアを稼働させるコンピュータである。
電源回路42は、第1の実施形態のHEMT100を有する。HEMT100に代えて、第5乃至第8の実施形態のHEMT200、HEMT300、HEMT400、HEMT500を適用しても構わない。
電源回路42は、電流コラプスが抑制されたHEMT100を有することにより、高い信頼性を備える。また、サーバ600は、電源回路42を有することにより、高い信頼性を備える。
本実施形態によれば、高い信頼性を備える電源回路及びコンピュータが実現できる。
実施形態では、GaN系半導体層の材料としてGaNやAlGaNを例に説明したが、例えば、インジウム(In)を含有するInGaN、InAlN、InAlGaNを適用することも可能である。また、GaN系半導体層の材料としてAlNを適用することも可能である。
また、実施形態では、HEMTへの適用を例に説明したが、本発明はHEMTに限らず、その他のトランジスタ又はダイオード等のデバイスに適用することも可能である。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、一実施形態の構成要素を他の実施形態の構成要素と置き換え又は変更してもよい。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。