JP2019199643A - 無方向性電磁鋼板、及びその製造方法 - Google Patents

無方向性電磁鋼板、及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】磁束密度が高く、かつ、打ち抜き性に優れた無方向性電磁鋼板、及びこの無方向性電磁鋼板を製造する製造方法を提供する。【解決手段】質量%で、Si:0.1%〜3.8%、Mn:0.1%〜2.5%、Al:0%〜2.5%、を含有し、板厚0.15mm以上0.65mm以下であって、表層の結晶粒の円相当直径の平均値が10μm以上80μm以下であり、中心層の結晶粒の円相当直径の平均値が50μm以上150μm以下であり、中心層の結晶粒径と表層の結晶粒径の差が20μm以上100μm以下であり、かつ、表層における、MnS、CuSおよびこれらの複合析出物からなる析出物のアスペクト比が1.1以上8.0以下であり、かつ、表層の析出物の長手方向と板面に垂直な方向とのなす角が35°以下0.2°以上で、かつ、そのなす角度の標準偏差が25°以下0.1°以上である無方向性電磁鋼板。【選択図】なし

Description

本発明は、無方向性電磁鋼板、及び無方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
電気機器等に使用される電磁鋼板は、省エネルギー化の観点等から、高効率化が求められている。
例えば、エアコンのコンプレッサー、家電製品に使用される各種モータ、自動車においては駆動モータ、電動ターボ、電動コンプレッサー用途で小型化及び高効率化のために高速回転及び高周波励磁が行われるようになり、高磁束密度かつ異方性の小さい無方向性電磁鋼板の要請が高まっている。
このような状況から、無方向性電磁鋼板における高い磁束密度を目指して、従来から様々な技術が採用されている。
具体的には、熱延板焼鈍を省略しつつ磁気特性を向上させるために、仕上熱延後のコイルの保有熱で熱延板焼鈍を代替する自己焼鈍が採用されている。例えば、特許文献1には、自己焼鈍の技術が記載されている。
また、特許文献2には、自己焼鈍中の熱延板の結晶粒成長をSn添加で均一に冷間圧延前結晶粒径を粗大化し、かつ、Sn添加による仕上焼鈍時の集合組織制御の相乗効果で磁束密度を高める技術が開示されている。
また、特許文献3には、仕上げ圧延中における平均冷却速度を50℃/秒以下及び仕上げ圧延終了後3秒間の平均冷却速度を20℃/秒以下にする技術が記載されている。
また、特許文献4には、冷延前の熱延工程で仕上圧延後の750℃以上の温度域からの冷却過程において450℃〜700℃の温度域での滞留時間を300秒以下とする技術が記載されている。
また、特許文献5には、仕上圧延の圧延速度を定め、該圧延速度で圧延するために必要な仕上圧延機における平均冷却速度の下限値を算出する技術が記載されている。
特公昭57−43132号公報 特開2002−294415号公報 特開2004−2954号公報 特開2008−261053号公報 特開2015−212403号公報
しかし、特許文献1及び特許文献2の技術は、ライン焼鈍に及ばず、磁束密度の向上に改善の余地がある。
特許文献3の技術では、仕上熱延の際に冷却速度を低くするため、生産性の改善の余地がある。さらに、磁束密度の向上への要請が高まっている。
特許文献4の技術では、仕上熱延の後に450℃から700℃の間の滞留時間を300秒以下とするため、その平均冷却速度は0.833℃/秒以上だが、この冷却速度が下限では生産性に改善の余地がある。さらに、磁束密度の向上への要請が高まっている。
特許文献5の技術では、仕上熱延条件の制御のみでは磁束密度の面内異方性に改善の余地があり、例えば通常の回転機、EIコア、額縁鉄心に使用する場合には磁束の流れの均一性をより向上させる余地がある。さらに、高磁束密度無方向性電磁鋼板の磁束密度の向上への要請が高まっている。
以上の様に、従来技術では、磁束密度の向上を図ることが求められていた。そして、回転機の鉄心に適用した場合に、高磁束密度化による最高回転数の向上などの達成が求められていた。
また、需要家においては、昨今のコスト低減に対する要求の高まりとともに、金型コストの削減のために、打ち抜き性の優れた無方向性電磁鋼板の需要が高まっていた。
本発明では、磁束密度が高く、かつ、打ち抜き性に優れた無方向性電磁鋼板、及びこの無方向性電磁鋼板を製造する製造方法を提供することを目的とする。
前記目的を達成するために、本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、
Si:0.1%〜3.8%、
Mn:0.1%〜2.5%、
Al:0%〜2.5%、を含有し、
板厚0.15mm以上0.65mm以下の無方向性電磁鋼板であって、
圧延方向と板面に垂直な方向とを含む観察断面において、
鋼板の両面それぞれから板面に垂直な方向に100μmの範囲である表層における結晶粒の円相当直径の平均値が10μm以上80μm以下であり、
板面に垂直な方向における中心から鋼板の両面それぞれに向かって50μmずつで合わせて100μmの範囲である中心層における結晶粒の円相当直径の平均値が50μm以上150μm以下であり、
前記中心層における結晶粒の円相当直径の平均値と、前記表層における結晶粒の円相当直径の平均値の差、(中心層円相当直径)−(表層円相当直径)が20μm以上100μm以下であり、
かつ、
前記表層における、MnS、CuSおよびこれらの複合析出物からなる析出物について、析出物外径の最も長い方向の長さをそれと直交するより短い方向の長さで除して算出されるアスペクト比が1.1以上8.0以下であり、
かつ、
前記表層の前記析出物を50個以上測定した場合の前記析出物の長手方向と前記板面に垂直な方向とのなす角が35°以下0.2°以上で、
かつ、
そのなす角度の標準偏差が25°以下0.1°以上であることを特徴とする。
また、本発明の前記構成において、圧延方向での磁界強度5000A/mにおける磁束密度B50(0°)と、圧延方向に対して垂直な方向での磁界強度5000A/mにおける磁束密度B50(90°)と、の算術平均である平均磁束密度B50(LC)が、1.64T以上であることが好ましい。
また、本発明の無方向性電磁鋼板の製造方法は、前記構成の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
鋳造により得られたスラブを、熱間圧延において900℃以上1200℃以下の温度で仕上げ、最終スタンドを通過した後、0.1秒以上5秒以内に、90℃/秒以上500℃/秒以下の冷却速度での冷却を開始し、鋼板を970℃以下750℃以上まで冷却して、コイルに巻き取り、
このコイルを3分以上2時間以下の時間保持し、その後、当該コイルを冷却し、冷間圧延の後、仕上焼鈍を施すことを特徴とする。
また、本発明の前記製造方法において、前記スラブは、質量%で、
Si:0.1%〜3.8%、
Mn:0.1%〜2.5%、
Al:0%〜2.5%、を含有し、
残部がFe及び不純物からなる組成であることが好ましい。
本発明によれば、磁気特性、すなわち高磁束密度と打ち抜き性に優れた無方向性電磁鋼、及びこの無方向性電磁鋼板の製造方法が提供される。
以下、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板、及びその製造方法について詳細に説明する。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、特に断りの無い限り、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
<無方向性電磁鋼板>
本発明では、仕上げ熱延において最終スタンド通過後速やかに急冷することにより表層で異方性を持つ析出物が得られ、該析出物での応力集中により打ち抜き性が改善される。これを一定範囲の高温で仕上げることにより、中心層の結晶組織を粗大化し、成品の磁束密度を向上させる。本発明では、無方向性電磁鋼板の形態を以下の様に定める。
打ち抜き性を改善するため、本発明では無方向性電磁鋼板の板厚を適切に制御することが好ましく、板厚は、0.15mm以上0.65mm以下に定める。板厚は、好ましくは0.17mm以上0.50mm以下、さらに好ましくは0.20mm以上0.35mm以下である。板厚の上限は、鉄損向上の観点から定められる。板厚の下限は、鉄心の占積率向上の観点から定められる。
本発明では、金属組織および析出物観察において、鋼板の表層と中心層の観察を行う。また、本発明では、圧延方向と板面に垂直な方向とを含む観察断面において金属組織および析出物観察を行う。本発明での表層とは、鋼板の両面(2つの表面)それぞれから板厚方向(板面に垂直な方向)に100μmの範囲を意味する。また、本発明での中心層とは、板厚方向(板面に垂直な方向)の鋼板中心面から鋼板の両面それぞれに向かって50μmずつで合わせて100μmの範囲を意味する。鋼板の板厚が薄く、表層と中心層の範囲が重なる場合は、それぞれを独立した範囲として扱う。すなわち、同一箇所を二重に観察する場合が生じる。
本発明では、圧延方向と板面に垂直な方向とを含む観察断面において、2つの表面それぞれから100μmの範囲である表層における結晶粒の円相当直径の平均値が10μm以上80μm以下であり、板面に垂直な方向における中心から鋼板の2つの表面それぞれに向かって50μmずつで合わせて100μmの範囲である中心層における結晶粒の円相当直径の平均値が50μm以上かつ150μm以下であり、前記中心層における結晶粒の円相当直径の平均値と、前記表層における結晶粒の円相当直径の平均値の差、(中心層円相当直径)−(表層円相当直径)が20μm以上100μm以下であることが必要である。
本発明の表層における結晶粒の円相当直径の平均値の好ましい範囲は、15μm以上70μm以下であり、より好ましくは20μm以上65μm以下であり、さらに好ましくは25μm以上50μm以下である。本発明の表層の円相当直径の下限は、鉄損を低減し磁気特性を向上させるために定まり、上限は、本発明の特徴である打ち抜き性改善効果を発現させるために必要な値として定まる。
本発明の中心層における結晶粒の円相当直径の平均値の好ましい範囲は、60μm以上140μm以下であり、より好ましくは60μm以上130μm以下であり、さらに好ましくは70μm以上120μm以下である。本発明の中心層の円相当直径の下限は、鉄損低減のために定まり、上限は、打ち抜き安定性確保のために定まる。
本発明の成品の中心層における結晶粒の円相当直径の平均値は、表層における結晶粒の円相当直径の平均値よりも大きい。その差の下限は、20μm以上であり、好ましくは30μm以上、より好ましくは35μm以上、さらに好ましくは40μm以上である。その差の上限は、100μm以下であり、好ましくは90μm以下、より好ましくは85μm以下、さらに好ましくは80μm以下である。下限は、打ち抜き性を改善するために定まり、上限は、圧延時の中心層と表層の間の粒径差に起因する剥離発生などの課題を防止し圧延安定性改善のために定まる。
断面観察は、試料を機械研磨後、化学研磨を行い鏡面化した後、ナイタールなどで腐食して結晶粒界を現出させて行う。または、試料を機械研磨、化学研磨し鏡面化した後、電子顕微鏡観察を行ってもよい。観察領域の圧延方向の長さについては特に限定しないが、結晶粒の円相当直径の平均値に関する規定の最大値が150μmであることを考慮し、測定領域の長さは500μm以上とする。
得られた写真をJIS−G0552(1998年)に定められた方法に従い結晶粒度を測定し、結晶粒の平均断面積を求め、これを円と仮定して円相当直径を求める。または、画像処理により計算機で円相当直径を求めてもよい。
なお、薄手材かつ結晶組織が粗大な場合は、観察領域の板厚方向を1つの結晶粒が貫通する場合がある。その際は、当該結晶粒は観察視野において1つの結晶粒として数えて観察視野内の結晶粒数を決定し、観察視野の面積を結晶粒数で除した値を1個の結晶粒の平均面積とし、この平均面積を円相当として円相当直径を求める。
本発明では、無方向性電磁鋼板の2つの表面それぞれから100μmの範囲において、MnS、CuSおよびその複合析出物からなる析出物について、析出物外径の最も長い方向の長さをそれと直交するより短い方向の長さで除して算出されるアスペクト比が1.1以上8.0以下であることが必要である。
アスペクト比の下限は、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上である。アスペクト比の上限は、好ましくは7.5以下、より好ましくは7.0以下、さらに好ましくは6.5以下である。下限は、打ち抜き性改善の観点から必要な値として定められる。上限は、鉄損の増大を防止するために定められる。
表層の析出物は、無方向性電磁鋼板の2つの表面それぞれから100μmの範囲において、板厚方向位置について偏りなく全般的に選択した少なくとも50個以上測定を行い、析出物長手方向と無方向性電磁鋼板の板面に垂直な方向とのなす平均の角度を測定する。その角度は、本発明では35°以下0.2°以上である。
当該角度の上限は、好ましくは30°以下、より好ましくは25°以下、さらに好ましくは20°以下である。上限は、本発明の無方向性電磁鋼板における打ち抜き性改善効果を得るため定まる。当該角度の下限は、仕上焼鈍ラインの通板性を安定させる観点から0.2°以上に定まる。下限は、好ましくは0.5°以上、より好ましくは1.0°以上である。
また、本発明では、当該角度の標準偏差が25°以下0.1°以上である。
当該標準偏差の上限は、本発明の打ち抜き性改善効果を得るために25°以下に定まる。上限は、好ましくは25°以下、より好ましくは23°以下、さらに好ましくは21°以下である。当該標準偏差の下限は、冷間圧延安定性確保のために0.1°以上に定まる。下限は好ましくは0.5°以上、さらに好ましくは1.0°以上である。
析出物観察は、試料を機械研磨、化学研磨後、電子顕微鏡で画像解析もしくは写真撮影を行い得られた写真をもとに測定もしくは計算機による画像解析を行う方法が一例としてあげられる。
析出物がMnS、CuSであることは電子顕微鏡で当該析出物を観察し、X線回折格子測定などによって同定する。本発明では、MnS、CuSの複合析出物である事は、その他の手段によって同定しても構わない。たとえば、抽出残さを化学分析することによって行ってもよい。
析出物の外径の最も長い方向の長さは、0.01μm以上10μm以下が好ましく、0.02μm以上9μm以下がより好ましく、0.05μm以上5μm以下がさらに好ましい。析出物の外径の最も長い方向の長さが、好ましい上限を超えると、通板安定性に課題が生じるのでこの範囲が好ましい。下限未満であると、鉄損を増大させるためこの範囲が好ましい。
発明者らは、仕上熱延を900℃以上1200℃以下で仕上げ、0.1秒から5秒以内に冷却を開始し、90℃/秒以上500℃/秒以下の冷却速度で鋼板に冷却を施し、鋼板を970℃以下750℃以上まで冷却することにより、鋼板表層において析出物が板厚方向に成長しやすくなり、鋼板の板面に垂直な方向に長辺の角度が近い析出物が多数生成されると推察している。
また、発明者らは、この析出物は、鋼板表層で多数微細に板厚方向に長辺を同じくして生成し、鋼板中心層では塊状のより粗大な析出物が生成すると推察している。
また、発明者らは、冷間圧延を経た場合、表層の析出物は剪断歪により傾きを生じると推察されるが、冷間圧延の摩擦係数は低いため、仕上熱延において形成された板厚方向と沿う形状の析出物の長辺方向への影響は小さく、成品においてもその長辺方向が板厚方向に維持されるのではないかと推察している。
この析出物の長辺方向を板厚方向に維持しながら冷間圧延を行う方策として、ロールと鋼板との摩擦係数を下げる方法がある。具体的な公知の方法としては、圧延ロール径を大径化する、動粘度係数の高い潤滑油を選択し冷間圧延時の摩擦係数を低下させるなどの方法がある。もちろん、これらの方法に限定されるものではない。
磁束密度の測定方法については、後述する。
・平均磁束密度B50(LC)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、圧延方向での磁界強度5000A/mにおける磁束密度BB50(0°)及び圧延方向に対して直角となる方向での磁界強度5000A/mにおける磁束密度BB50(90°)の算術平均である平均磁束密度B50(LC)は、高い方が好ましく、例えば1.64T以上が好ましい。平均磁束密度B50(LC)が1.64T以上であることにより、無方向性電磁鋼板の高い磁束密度が実現され、モータ等の回転機に適用した場合であれば高速回転や高周波励磁を実現でき、高効率化が図れる。
平均磁束密度B50(LC)は、より好ましくは1.66T以上であり、さらに好ましくは1.68T以上である。また、平均磁束密度B50(LC)の上限値は、特に限定されるものではないが、製造安定性の観点では、1.90T以下が好ましく、1.80T以下がより好ましい。
・鉄損
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、その鉄損(W10/400)は、低い方が好ましい。例えばその範囲としては、板厚0.20mm材においては、7.5W/kg以上11.0W/kg以下であることが好ましく、板厚0.25mm材においては、8.0W/kg以上12.5W/kg以下が好ましく、板厚0.30mm材においては、11.0W/kg以上15.0W/kg以下であることが好ましく、板厚0.35mm材においては、14.0W/kg以上20.0W/kg以下であることが好ましい。板厚がさらに増す場合はそれに応じて適切な鉄損の範囲が定まる。鉄損の下限は、冷間圧延安定性および安定した特性を得るなどの製造安定性の観点から定まる。鉄損の上限は、高効率鉄心に求められる板厚ごとに定まる特性から定められる。
鉄損としては、エプスタイン試料に切断し、インバータ励磁をエプスタイン法で測定した時に生じる鉄損を用いる。具体的には、磁束密度1.0T、周波数400Hzで磁化した際の鉄損W10/400(W/kg)を用いる。
無方向性電磁鋼板における平均磁束密度B50(LC)を1.64T以上の範囲に制御する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば以下に示す本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法によって作製する方法が挙げられる。
<無方向性電磁鋼板の製造方法>
以下、本実施形態に係る、無方向性電磁鋼板の製造方法について詳細に説明する。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、鋳造により得られたスラブに熱間圧延を施す工程と、熱間圧延後の熱延板を冷間圧延する工程と、冷間圧延後の冷延板に仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程と、を備える。
本実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法によれば、打ち抜き性に優れ、さらに磁束密度の高い無方向性電磁鋼板が得られる。
打ち抜き性および磁束密度が向上する機構については鋭意調査中であるが、以下のように推測している。
本発明では、熱間圧延において、圧延直後の鋼板を特定の条件で冷却し巻き取ることにより、析出物が表層から中心層に向かって板面方向に垂直に近い方向に微細かつ配向して成長することで、打ち抜きの応力を受けた際に、析出物端部に応力集中が発生し、打ち抜き性を改善すると発明者らは推察している。
同時に、表層付近の析出物が微細化することにより、冷延および仕上焼鈍後の鋼板表層の結晶組織が中心層よりも細粒となることも、表層の亀裂伝播を滑らかにし、打ち抜き性を改善すると発明者らは推察している。
また、磁束密度が向上する理由は、熱延の仕上温度を高温とし、急速に冷却して高温で巻き取ることにより、表層と内層の温度差が大きくなり、中心層の結晶組織が優先的に粗大化したことが原因ではないかと推察している。
これらの機構は、以下に説明する熱間圧延工程の条件の限定範囲の規定理由とも整合するものとなっている。
(熱間圧延工程)
本実施形態の製造方法では、まずスラブに熱間圧延(熱延)が施される。なお、本実施形態に用い得るスラブの化学組成等については、後に詳述する。
スラブは、公知の方法、例えば公知の連続鋳造により得られる。また、熱間圧延は、鋳造後の高温のスラブをそのまま圧延(鋳造後直接圧延)してもよいし、一旦低温まで冷却した後、再加熱したうえで圧延してもよい。直接圧延する場合の圧延開始温度、または再加熱する場合の加熱温度は限定しないが、本実施形態の製造方法のポイントの一つである仕上温度を確保できるよう設定すれば良い。直接圧延する場合の圧延開始温度、またはスラブを再加熱する場合の温度としては、例えば、1000℃以上1250℃以下の範囲が挙げられる。
熱間圧延工程は、粗圧延と仕上圧延から成る。
粗圧延の各種条件は特に限定されるものではなく、一般的な条件に従って施せばよい。粗圧延の温度は、特に限定されるものではないが、例えば900℃以上1250℃以下とすることが好ましく、950℃以上1200℃以下とすることがより好ましく、1000℃以上1150℃以下とすることがさらに好ましい。
粗圧延機としては、例えば複数のスタンドを備える多段式の圧延機が用いられる。例えば、1〜6スタンドの2段式又は4段式圧延機によって往復又は一方向の圧延を行う方法が挙げられる。
粗圧延の圧下率は、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、55%以上92%以下とすることが好ましく、70%以上90%以下とすることがより好ましく、75%以上88%以下とすることがさらに好ましい。粗圧延圧下率の下限は、シートバーの温度が低下し過ぎ、続く仕上圧延工程での圧延温度の確保が困難になることを防止する観点から定まり、上限は、粗圧延機の圧延反力の上昇を抑え、粗圧延機の負荷を軽減する観点から定まる。
次いで、粗圧延後の圧延板(粗バー)に、仕上圧延を施す。
なお、スラブが厚さ10〜50mm程度のいわゆる薄スラブとして鋳造された場合、上記の粗圧延が省略され、薄スラブに直接、以下の仕上圧延を施すことも可能である。
仕上圧延としては、例えば単数もしくは複数のスタンドを備える多段式の圧延機が用いられる。例えば、2段式、4段式又は6段式圧延機が1〜8スタンドつながったものが挙げられ、目的とする板厚まで連続圧延する。
仕上圧延後の圧延板の板厚としては、特に限定されるものではないが、例えば1mm以上3mm以下に設定することができる。仕上圧延における最終スタンドの圧延速度は、特に限定されるものではないが、例えば毎分500m以上1600m以下に設定することができる。
仕上圧延の圧下率は、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、70%以上99%以下とすることが好ましく、80%以上98%以下とすることがより好ましく、85%以上97%以下とすることがさらに好ましい。仕上圧延の圧下率の下限は、本発明に好ましい仕上温度を確保するために定まり、上限は仕上圧延機の圧延反力を軽減するために定まる。
仕上圧延の最終スタンドの出側温度(仕上温度)は、900℃以上1200℃以下とする。好ましくは920℃以上1170℃以下、より好ましくは940℃以上1150℃以下、さらに好ましくは950℃以上1120℃以下である。仕上温度の下限は、直後に実施する冷却による板厚方向の析出物制御および板厚方向の結晶組織制御を適切に行うために定まる。仕上温度の上限は、板厚制御性の観点から定まる。
仕上圧延の最終スタンドを通過した後、0.1秒以上5秒以内に、90℃/秒以上500℃/秒以下の冷却速度での冷却を開始し、鋼板を970℃以下750℃以上まで冷却する。この冷却は、例えばROT(ランアウトテーブル)上で実施される。
最終スタンド通過後の90℃/秒以上500℃/秒以下の冷却速度での冷却開始は、好ましくは0.2秒以上4.5秒以内、より好ましくは0.3秒以上4秒以内、さらに好ましくは0.5秒以上3.5秒以内である。冷却開始時間の下限は、90℃/秒以上の冷却を行う設備の設置制約から定まり、上限は本発明において鋼板の表層の析出物制御と結晶組織制御を発現させる限界から定まる。
ここでの冷却速度は、好ましくは100℃/秒以上450℃/秒以下、より好ましくは110℃/秒以上400℃/秒以下、さらに好ましくは130℃/秒以上350℃/秒以下である。冷却速度の下限は、本発明の意図する鋼板表層の析出物制御と板厚方向の結晶組織制御を適切に行うために定まる。上限は、本発明の意図する鋼板表層の析出物と板厚方向の結晶組織を安定的に実現し、冷却速度の制御性を向上させるために定められる。
上記の冷却は、鋼板温度が、好ましくは960℃以下770℃以上、より好ましくは950℃以下775℃以上、さらに好ましくは930℃以下780℃以上まで行う。この鋼板温度の上限は、制御冷却の効果を有効に発現させ、本発明の意図する鋼板表層の析出物と板厚方向の結晶組織を得るため、さらにコイルの巻き取りを安定化するために定められ、下限は、コイル巻き取り後の中心層の結晶組織を本発明の意図する範囲に制御するために定められる。
90℃/秒以上500℃/秒以下の冷却速度での冷却を完了した熱延板は、コイルに巻き取る。
上記の冷却終了から巻取りまでの温度は、極力一定に保つことが好ましい。上記冷却終了後からコイル巻取りまでの鋼板温度低下は、20℃以下、好ましくは15℃以下、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは5℃以下である。
巻き取り後のコイルは3分以上2時間以下、好ましくは5分以上90分以下、より好ましくは7分以上1時間以下、さらに好ましくは10分以上30分以下の時間、巻き取ったままの状態で保持を行う。その後、必要に応じて水槽に浸漬するなどの公知の方法で冷却を行う。
保定時間の上限は、コイル保定による中心層の結晶組織成長効果が飽和するとともに鋼板表面に酸化物が過度に形成されるのを防止する観点から定められる。保定時間の下限は、保定効果による鋼板の中心層の粒成長が得られる限度の時間として定められる。
コイル状に巻き取りを行うコイル巻取り装置は、一般的には仕上圧延機の最終スタンドから100mから200mの距離に設置される。
本実施形態の製造方法では、次いで、酸洗工程、冷間圧延工程、及び仕上焼鈍工程等を設けることで無方向性電磁鋼板が製造できる。
(冷間圧延工程)
仕上焼鈍工程の前に冷間圧延工程を設けてもよい。
冷間圧延工程としては、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではない。
なお、冷間圧延に先立って、熱間圧延工程後の圧延板に酸洗を施してもよい。
冷間圧延の仕上げ板厚は、本発明では圧延板の板厚を0.15mm以上0.65mm以下と定める。中でも0.16mm以上0.60mm以下とすることが好ましく、0.18mm以上0.50mm以下とすることがより好ましく、0.20mm以上0.35mm以下とすることがさらに好ましい。成品の板厚の上限は、鉄損増加防止の観点から定められる。下限は、鉄心を製造した際の占積率の低下を防止する観点から定められる。
冷間圧延の圧下率は、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではないが、50%以上97%以下とすることが好ましく、55%以上88%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは60%以上80%以下である。圧下率が50%以上であることで、仕上焼鈍後に適切な磁気特性を達成することが可能となる。また、圧下率が97%以下であることで、成品の集合組織を適切に制御でき、磁束密度の低下を抑制することが可能となる。
(仕上焼鈍工程)
仕上焼鈍工程においては、冷間圧延工程後の圧延板に仕上焼鈍を施す。
仕上焼鈍条件としては、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではない。ただし、焼鈍時の酸化を防止して鉄損増大を防ぐとともに結晶粒を制御して鉄損を低減する目的から、700℃以上1100℃以下の温度域に保持することが好ましく、中でも750℃以上1050℃以下の温度域に保持することがより好ましい。さらに770℃以上1020℃以下の温度域に保持することが好ましい。
また、その際の保持時間としては、0.1秒以上120秒以下保持することが好ましく、1秒以上90秒以下保持することがより好ましく、5秒以上60秒以下保持することがさらに好ましい。仕上焼鈍の保持時間の下限は、再結晶を進行させるために必要かつ、鉄損を低減させるために定まる。上限は、仕上焼鈍の効果が飽和するとともに鋼板表面に酸化物が生じ鉄損を増大させることを防止するために定まる。
なお、仕上焼鈍での温度域とは、仕上焼鈍時の圧延板の表面温度を表す。
(その他の工程)
本実施形態の無方向性電磁鋼板の製造方法は、上記仕上焼鈍工程後に、上記仕上焼鈍工程により得られた鋼板表面にコーティング液を塗布し、焼き付けることによって、絶縁被膜を形成する絶縁被膜形成工程を有していてもよい。絶縁被膜形成条件及びコーティング液は、通常用いられる材料により公知の方法によって行われる。
<スラブ及び成品の化学組成>
次いで、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板製造方法に用いられるスラブ、及び該製造方法によって得られる成品(無方向性電磁鋼板)、並びに本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成について説明する。
スラブの化学組成としては、本実施形態の作用効果を得ることができれば特に限定されるものではなく、例えば、一般的な無方向性電磁鋼板における母鋼板の化学組成を用いることができる。また、本実施形態に係る製造方法によって得られる成品や本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の化学組成についても、スラブと同様である
上記化学組成としては、質量%でSi:0.1%以上3.8%以下、Mn:0.1%以上2.5%以下、及びAl:0%以上2.5%以下、を含有し、残部がFe及び不純物からなるものが好ましい。
以下、各成分の好ましい含有量を説明する。以下において、各成分の含有量は質量%での値である。
a.Si
Si含有量は、0.1%以上3.8%以下とすることが好ましい。
Siは、比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減に寄与する。このため、鉄損低減の観点から、Si含有量は0.1%以上とすることが好ましく、中でも1.0%以上、特に2.0%以上とすることが好ましい。一方、磁気特性及び圧延製造性を改善し、仕上焼鈍温度の上昇を抑制する観点から、Si含有量は3.8%以下とすることが好ましく、中でも3.6%以下、特に3.4%以下とすることが好ましい。
b.Mn
Mn含有量は、0.1%以上2.5%以下とすることが好ましい。
Mnも、比抵抗を増加させる作用を有しているので、鉄損低減に寄与する。このため、鉄損低減の観点から、Mn含有量は0.1%以上とすることが好ましく、さらに0.2%以上、中でも0.5%以上とすることが好ましい。多過ぎると再結晶組織を微細化させ鉄損を増加させるため、2.5%以下とすることが好ましく、中でも1.3%以下、さらに1.0%以下とすることが好ましい。
c.Al
本実施形態におけるスラブ、及び本実施形態によって得られる成品は、Alを意図的に含有させていないものでもよいし、Alを意図的に含有させたものでもよい。Al含有量は、0%以上2.5%以下とすることが好ましい。
Alを含有する場合には、鉄損低減の観点から、Al含有量は0.1%以上2.5%以下とすることが好ましく、中でも0.3%以上2.3%以下、特に0.9%以上2.0%とすることが好ましい。
d.残部
残部は、Fe及び不純物である。
本実施形態の製造方法におけるスラブ、及び本実施形態によって得られる成品、並びに本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、本実施形態の作用効果を損なわない範囲で、混入し得る各種元素である不純物を含むものでもよい。不純物としては、C、N、Sのほか、Ti、Nb、As、Zr、P等が挙げられる。
C含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.003%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.002%以下、特に0%以上0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
N含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.003%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.002%以下、特に0%以上0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
S含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.003%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.002%以下、特に0%以上0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
Ti含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.004%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.003%以下とすることが好ましい。特に秀逸な磁気特性を得るためには、特に0%以上0.002%以下とすることが好ましい。
Nb含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.003%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.002%以下、特に0%以上0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
As含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.003%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.002%以下、特に0%以上0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
Zr含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.003%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.002%以下、特に0%以上0.001%以下とすることが好ましい。0.001%以下とすることにより、特に秀逸な磁気特性を得ることができる。
P含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.25%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.15%以下とすることが好ましい。特に秀逸な磁気特性を得るためには、0%以上0.10%以下とすることが好ましく、0%以上0.05%以下とすることがより好ましい。
不純物全体の含有量は、磁気特性を改善する点から、0%以上0.1%以下とすることが好ましく、中でも0%以上0.05%以下とすることが好ましい。
(化学組成の測定方法)
本実施形態の製造方法におけるスラブ、及び本実施形態によって得られる成品、並びに本実施形態に係る無方向性電磁鋼板における各元素の含有量は、元素の種類に応じて、一般的な方法を用いて、一般的な測定条件により測定することができる。
Si、Mn、Al、Ti、Nb、P、及びZrの含有量は、例えば、ICP−MS法(誘導結合プラズマ質量分析法)を用いて測定することができる。As含有量は、例えば、AA法(フレームレス原子吸光法)により測定することができる。C及びSの含有量は、例えば、燃焼赤外線吸収法により測定することができる。N含有量は、加熱融解−熱伝導法により測定することができる。
本実施形態の製造方法によって得られる成品、及び本実施形態に係る無方向性電磁鋼板に絶縁被膜その他の層が形成されていない場合には、成品の一部を切子状にして秤量し、測定用試料とする。成品に絶縁被膜その他の層が形成されている場合には、一般的な方法により予め絶縁被膜その他の層を除去した上で、成品の一部を切子状にして秤量し、測定用試料とする。
ICP−MS法を用いる場合には、上記測定用試料を酸に溶解し、必要に応じて加熱することにより酸溶解液とする。そして、当該酸に溶解した際の残渣を、濾紙回収して別途アルカリ等に融解し、融解物を酸で抽出して溶液化する。当該溶液と当該酸溶解液とを混合し、必要に応じて希釈することにより、ICP−MS法測定用溶液とすることができる。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様の作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、実施例及び比較例を例示して、本発明を具体的に説明する。なお、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一例であり、本発明は実施例の条件に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(評価方法)
ここで、実施例及び比較例において評価に用いる各種の特性について説明する。
・鉄損
無方向性電磁鋼板の鉄損としては、エプスタイン試料に切断し、インバータ励磁時に生じる鉄損を用いる。具体的には、磁束密度1.0T、周波数400Hzで磁化した際の鉄損W10/400(W/kg)を用いる。測定はJISのC2550−1に定められたエプスタイン法で行う。
・磁束密度
磁界強度5000A/mにおける磁束密度の測定は、以下の方法によって行う。エプスタイン試料を切断し、JISのC2550−1に定められたエプスタイン法に従って、その試料を用いて磁気測定を行う。
(実施例1)
表1に示した鋼種Aのスラブを、加熱温度を1150℃として粗熱延を行い、次いで仕上温度1030℃で仕上熱延を行い、2.0mmに仕上げ、最終スタンド通過後0.5秒後に平均冷却速度150℃/sで800℃までROT上で冷却し、コイラに巻き取った。
冷却は800℃に到達した時点で注水を停止し、温度低下を防止してコイルに巻き取った。
巻き取ったコイルは、15分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、900℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
また、比較例として、実施例と同一成分で同一粗熱延温度、同一仕上熱延条件で仕上げた圧延板をROT全長上で冷却し600℃で巻き取った。この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、900℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
打ち抜き性評価のため、成品を板幅100mmにスリットした鋼板から直径50mmの円盤をSKD−11金型でクリアランス10%とし、エマルジョン潤滑を施し、単列で分速100枚で打ち抜き、円盤の圧延方向2か所の打ち抜き端部のかえり高さの平均値が50μmとなるまでの打ち抜き回数を調べた。
また、成品の圧延方向と板面垂直方向を含む断面を電子顕微鏡により観察し、表層部及び中心層の結晶粒の円相当直径ならびにMnS、CuSおよびその複合析出物観察を行った。
実施例と比較例の観察結果(析出物及び金属組織観察結果と打ち抜き試験結果)を表2に示す。
また、得られた成品を圧延方向からエプスタイン試料に切り出し、歪取り焼鈍を施した後、エプスタイン測定を行った。
実施例と比較例の磁気測定結果を表3に示す。
Figure 2019199643
Figure 2019199643
Figure 2019199643
表2からわかるように、本実施例のような鋼板表層の析出物形態を有し、表層および中心層の結晶組織のサイズと両者のサイズの差を本発明の範囲に制御することにより、かえり高さが50μmとなるまでの打ち抜き回数が比較例よりも多く、打ち抜き性に優れていることがわかる。
表3からわかるように、本実施例は圧延方向における磁束密度B50(0°)及び圧延方向に対して直角方向における磁束密度B50(90°)の算術平均値である平均磁束密度B50(LC)が比較例よりも高く、高磁束密度である。これは、中心層の結晶組織が粗大化した効果によると考えられる。
以上の様に、本実施例によれば、高磁束密度無方向性電磁鋼板の製造が可能である。また、鉄損の値W10/400も9.53W/kgと低く優れている。
(実施例2)
表4に示した鋼種Bのスラブを、加熱温度を1150℃として粗熱延を行い、次いで仕上温度を変化させて仕上熱延を行い、圧延板を2.0mm厚で仕上温度を変化させ、最終スタンド通過後0.5秒後に平均冷却速度150℃/sでROT上で800℃まで冷却し、コイラに巻取った。
巻き取ったコイルは、10分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
冷却は各温度に到達した時点で注水を停止し、温度低下を防止してコイルに巻取った。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、970℃20秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
また、比較例として、実施例と同一成分で同一粗熱延温度、同一仕上熱延条件で仕上げた圧延板を最終スタンドで急冷せず、巻取温度を同一で巻取った。
巻き取ったコイルは、10分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、970℃20秒の仕上げ焼鈍を施し、以下同じ工程で成品とした。
得られた成品の圧延方向(L方向)と板幅方向(C方向)からエプスタイン試料に切り出し、歪取り焼鈍を施した後、エプスタイン測定を行った。
実施例と比較例の磁気測定結果を表5に示す。
打ち抜き性評価のため、鋼板No.B−3と鋼板No.B−8の成品を板幅100mmにスリットした鋼板から直径50mmの円盤をSKD−11金型でクリアランス10%とし、エマルジョン潤滑を施し、単列で分速100枚で打ち抜き、円盤の圧延方向2か所の打ち抜き端部のかえり高さの平均値が50μmとなるまでの打ち抜き回数を調べた。
また、成品の圧延方向と板面垂直方向を含む断面を電子顕微鏡により観察し、表層部及び中心層の結晶粒の円相当直径ならびにMnS、CuSおよびその複合析出物観察を行った。
実施例と比較例の観察結果(析出物及び金属組織観察結果と打ち抜き試験結果)を表6に示す。
Figure 2019199643
Figure 2019199643
Figure 2019199643
表5より、本実施例の仕上熱延温度によれば、比較例よりもB50(LC)が高い無方向性電磁鋼板を得ることができることがわかる。これは、中心層の結晶組織が粗大化した効果によると考えられる。
また、鉄損の値W10/400も9.67W/kg以下と低く優れている。
表6より、本発明の条件を満たす表層析出物と、表層と中心層の結晶組織が本発明の条件を満たす実施例は比較例よりも打ち抜き性に優れていることがわかる。
(実施例3)
表7に示した鋼種Cのスラブを、加熱温度を1150℃として粗熱延を行い、次いで仕上温度1040℃で仕上熱延を行い、圧延板を2.0mm厚に仕上げ、最終スタンド通過後の冷却開始時間を変更して平均冷却速度150℃/sでROT上で冷却し、815℃まで冷却してコイラに巻き取った。
冷却は各温度に到達した時点で注水を停止し、温度低下を防止してコイルに巻き取った。
巻き取ったコイルは、10分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、970℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
また、比較例として、実施例と同一成分で同一粗熱延温度、同一仕上熱延条件で仕上げた圧延板をROT上で急速冷却でない通常冷却を施し、815℃で巻き取った。
巻き取ったコイルは、10分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、970℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、以下同じ工程で成品とした。
得られた成品をエプスタイン試料に切り出し、歪取り焼鈍を施した後、エプスタイン測定を行った。
実施例と比較例の磁気測定結果を表8に示す。
打ち抜き性評価のため、鋼板No.C−2、鋼板No.C−5と鋼板No.C−6の成品を板幅100mmにスリットした鋼板から直径50mmの円盤をSKD−11金型でクリアランス10%とし、エマルジョン潤滑を施し、単列で分速100枚で打ち抜き、円盤の圧延方向2か所の打ち抜き端部のかえり高さの平均値が50μmとなるまでの打ち抜き回数を調べた。
また、成品の圧延方向と板面垂直方向を含む断面を電子顕微鏡により観察し、表層部及び中心層の結晶粒の円相当直径ならびにMnS、CuSおよびその複合析出物観察を行った。
実施例と比較例の観察結果(析出物及び金属組織観察結果と打ち抜き試験結果)を表9に示す。
Figure 2019199643
Figure 2019199643
Figure 2019199643
表8より、最終スタンド通過後、150℃/sの冷却開始時間が本発明の範囲であれば、比較例よりもB50(LC)が高い無方向性電磁鋼板を得ることができることがわかる。これは、中心層の結晶組織が粗大化した効果によると考えられる。
また、鉄損の値W10/400も9.52W/kg以下と低く優れている。
表9より、本発明の条件を満たす表層析出物と、表層と中心層の結晶組織が本発明の条件を満たす実施例は比較例よりも打ち抜き性に優れていることがわかる。
(実施例4)
表10に示した鋼種Dのスラブを、加熱温度を1160℃として粗熱延を行い、次いで仕上温度1080℃で仕上熱延を行い、圧延板を2.0mm厚に仕上げ、最終スタンド通過後、ROT上で1.5秒後から冷却速度を変化させて810℃まで冷却しコイラに巻き取った。
810℃に鋼板温度が到達した後は、注水を停止し、コイルの巻取温度が低下しないように巻き取った。
巻き取ったコイルは、15分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、970℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
また、比較例として、実施例と同一成分で同一粗熱延温度、仕上熱延の仕上温度を同一とし、ROT全長上で冷却し、810℃でコイラに巻き取った。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、970℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、以下同じ工程で成品とした。
得られた成品をエプスタイン試料に切り出し、歪取り焼鈍を施した後、エプスタイン測定を行った。
実施例と比較例の磁気測定結果を表11に示す。
打ち抜き性評価のため、鋼板No.D−1、鋼板No.D−2と鋼板No.D−7の成品を板幅100mmにスリットした鋼板から直径50mmの円盤をSKD−11金型でクリアランス10%とし、エマルジョン潤滑を施し、単列で分速100枚で打ち抜き、円盤の圧延方向2か所の打ち抜き端部のかえり高さの平均値が50μmとなるまでの打ち抜き回数を調べた。
また、成品の圧延方向と板面垂直方向を含む断面を電子顕微鏡により観察し、表層部及び中心層の結晶粒の円相当直径ならびにMnS、CuSおよびその複合析出物観察を行った。
実施例と比較例の観察結果(析出物及び金属組織観察結果と打ち抜き試験結果)を表12に示す。
Figure 2019199643
Figure 2019199643
Figure 2019199643
表11より、本実施例の仕上熱延後の冷却速度の範囲によれば、比較例よりもB50(LC)が高い無方向性電磁鋼板を得られることがわかる。これは、中心層の結晶組織が粗大化した効果によると考えられる。
また、鉄損の値W10/400も9.58W/kg以下と低く優れている。
表12より、本発明の条件を満たす表層析出物と、表層と中心層の結晶組織が本発明の条件を満たす実施例は比較例よりも打ち抜き性に優れていることがわかる。
(実施例5)
表13に示した鋼種Eのスラブを、加熱温度を1200℃として粗熱延を行い、次いで仕上温度1150℃で仕上熱延を行い、圧延板を2.0mm厚に仕上げ、最終スタンド通過後、ROT上で2.5秒後から冷却速度200℃/sで冷却停止温度を変化させてコイラに巻き取った。
冷却停止温度に鋼板温度が到達した後は、注水を停止し、コイルの巻取温度が低下しないように巻き取った。
巻き取ったコイルは、15分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、900℃30秒の仕上げ焼鈍を施し成品とした。
また、比較例として、実施例と同一成分で同一粗熱延温度、同一仕上熱延条件で仕上げた圧延板をROT全長で冷却し各冷却停止温度で巻き取った。
巻き取ったコイルは、15分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、900℃30秒の仕上げ焼鈍を施し、以下同じ工程で成品とした。
得られた成品をエプスタイン試料に切り出し、歪取り焼鈍を施した後、エプスタイン測定を行った。
実施例と比較例の磁気測定結果を表14に示す。
打ち抜き性評価のため、鋼板No.E−1、鋼板No.E−4、鋼板No.E−7と鋼板No.E−11の成品を板幅100mmにスリットした鋼板から直径50mmの円盤をSKD−11金型でクリアランス10%とし、エマルジョン潤滑を施し、単列で分速100枚で打ち抜き、円盤の圧延方向2か所の打ち抜き端部のかえり高さの平均値が50μmとなるまでの打ち抜き回数を調べた。
また、成品の圧延方向と板面垂直方向を含む断面を電子顕微鏡により観察し、表層部及び中心層の結晶粒の円相当直径ならびにMnS、CuSおよびその複合析出物観察を行った。
実施例と比較例の観察結果(析出物及び金属組織観察結果と打ち抜き試験結果)を表15に示す。
Figure 2019199643
Figure 2019199643
Figure 2019199643
表14より、本実施例の巻取温度によれば、比較例よりもB50(LC)が高い無方向性電磁鋼板を得られることがわかる。これは、中心層の結晶組織が粗大化した効果によると考えられる。
また、鉄損の値W10/400も9.76W/kg以下と低く優れている。
表15より、本発明の条件を満たす表層析出物と、表層と中心層の結晶組織が本発明の条件を満たす実施例は比較例よりも打ち抜き性に優れていることがわかる。
(実施例6)
表16に示した鋼種Fのスラブを、表面温度1300℃の厚み40mmの薄スラブに鋳造し、これを引き続き薄スラブの表面温度を1150℃まで冷却し、引き続き均熱化処理をコイルボックスに巻取り1150℃で3分施した後、均熱化処理温度1150℃で仕上熱延を開始し、次いで仕上温度1025℃で仕上熱延を行い、2.0mmに仕上げ、最終スタンド通過後0.6秒後に平均冷却速度160℃/sで810℃までROT上で冷却し、コイラに巻き取った。
冷却は810℃に到達した時点で注水を停止し、温度低下を防止してコイルに巻き取った。
巻き取ったコイルは、15分保持した後、水槽に浸漬して冷却した。
この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、925℃20秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
また、比較例として、実施例と同一成分で同一粗熱延温度、同一仕上熱延条件で仕上げた圧延板をROT全長上で冷却し640℃で巻き取った。この圧延板を酸洗後、冷間圧延を施し0.25mm厚とし、925℃20秒の仕上げ焼鈍を施し、成品とした。
打ち抜き性評価のため、成品を板幅100mmにスリットした鋼板から直径50mmの円盤をSKD−11金型でクリアランス10%とし、エマルジョン潤滑を施し、単列で分速100枚で打ち抜き、円盤の圧延方向2か所の打ち抜き端部のかえり高さの平均値が50μmとなるまでの打ち抜き回数を調べた。
また、成品の圧延方向と板面垂直方向を含む断面を電子顕微鏡により観察し、表層部及び中心層の結晶粒の円相当直径ならびにMnS、CuSおよびその複合析出物観察を行った。
実施例と比較例の観察結果(析出物及び金属組織観察結果と打抜き試験結果)を表17に示す。
また、得られた成品を圧延方向からエプスタイン試料に切り出し、歪取り焼鈍を施した後、エプスタイン測定を行った。
実施例と比較例の磁気測定結果を表18に示す。
Figure 2019199643
Figure 2019199643
Figure 2019199643
表17からわかるように、本実施例のような鋼板表層の析出物形態を有し、表層および中心層の結晶組織のサイズと両者のサイズの差を本発明の範囲に制御することにより、かえり高さが50μmとなるまでの打ち抜き回数が比較例よりも多く、打ち抜き性に優れていることがわかる。
表18からわかるように、本実施例は圧延方向における磁束密度B50(0°)及び圧延方向に対して直角方向における磁束密度B50(90°)の算術平均値である平均磁束密度B50(LC)が比較例よりも高く、高磁束密度である。これは、中心層の結晶組織が粗大化した効果によると考えられる。
以上の様に、本実施例によれば、高磁束密度無方向性電磁鋼板の製造が可能である。また、鉄損の値W10/400も9.46W/kgと低く優れている。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    Si:0.1%〜3.8%、
    Mn:0.1%〜2.5%、
    Al:0%〜2.5%、を含有し、
    板厚0.15mm以上0.65mm以下の無方向性電磁鋼板であって、
    圧延方向と板面に垂直な方向とを含む観察断面において、
    鋼板の両面それぞれから板面に垂直な方向に100μmの範囲である表層における結晶粒の円相当直径の平均値が10μm以上80μm以下であり、
    板面に垂直な方向における中心から鋼板の両面それぞれに向かって50μmずつで合わせて100μmの範囲である中心層における結晶粒の円相当直径の平均値が50μm以上150μm以下であり、
    前記中心層における結晶粒の円相当直径の平均値と、前記表層における結晶粒の円相当直径の平均値の差、(中心層円相当直径)−(表層円相当直径)が20μm以上100μm以下であり、
    かつ、
    前記表層における、MnS、CuSおよびこれらの複合析出物からなる析出物について、析出物外径の最も長い方向の長さをそれと直交するより短い方向の長さで除して算出されるアスペクト比が1.1以上8.0以下であり、
    かつ、
    前記表層の前記析出物を50個以上測定した場合の前記析出物の長手方向と前記板面に垂直な方向とのなす角が35°以下0.2°以上で、
    かつ、
    そのなす角度の標準偏差が25°以下0.1°以上であることを特徴とする無方向性電磁鋼板。
  2. 圧延方向での磁界強度5000A/mにおける磁束密度B50(0°)と、圧延方向に対して垂直な方向での磁界強度5000A/mにおける磁束密度B50(90°)と、の算術平均である平均磁束密度B50(LC)が、1.64T以上であることを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    鋳造により得られたスラブを、熱間圧延において900℃以上1200℃以下の温度で仕上げ、最終スタンドを通過した後、0.1秒以上5秒以内に、90℃/秒以上500℃/秒以下の冷却速度での冷却を開始し、鋼板を970℃以下750℃以上まで冷却して、コイルに巻き取り、
    このコイルを3分以上2時間以下の時間保持し、その後、当該コイルを冷却し、冷間圧延の後、仕上焼鈍を施すことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
  4. 前記スラブは、質量%で、
    Si:0.1%〜3.8%、
    Mn:0.1%〜2.5%、
    Al:0%〜2.5%、を含有し、
    残部がFe及び不純物からなる組成であることを特徴とする請求項3に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
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